説明

ブレーキディスク

【課題】制動時の摩擦熱による制動体の熱倒れを防止すべく制動体と取付部材との間に半径方向に非拘束的な連結構造を採用したブレーキディスクであって、制動体の後付け鋳造条件にばらつきがあっても確実に熱倒れ防止を図ることが可能なディスクを提供する。
【解決手段】ブレーキディスクは、環状の制動体10と、その中心の取付部材20と、両者間に介在する複数のスライドガイド30とを備える。取付部材20の外周部には、半径方向外向きに突出した複数のガイド突部27が設けられている。各スライドガイド30は、ガイド突部27を挿入可能な係合凹部33を有している。各ガイド突部27に対し係合凹部33を係合させることで、各スライドガイド30が半径方向に変位可能な状態で各ガイド突部27に対して装着されている。また、これら複数のスライドガイド30は、制動体10の内周部15に鋳ぐるまれて当該制動体10に一体化されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスクブレーキ用のブレーキディスクに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ディスクブレーキ装置の主要な構成要素であるブレーキディスクは一般に、環状の制動体(制動部材又は摺動部材ともいう)と、その制動体の中心域に設けられた車軸への取り付け用の取付部材とを備えている。かかるブレーキディスクにあっては、制動時の摩擦熱で制動体が熱膨張するときに、環状の制動体が取付部材に強固に拘束されていることに起因して制動体の回転軸線方向へのモーメントが生じ、制動体が軸方向に傾くように変形する現象(この現象を「熱倒れ」と呼ぶ)が知られている。熱倒れは、ブレーキディスクに偏摩耗を生じさせ、ひいては制動時における制動トルクの不安定化や不快なブレーキ振動の原因となる。このため、熱倒れを防止するための対策が種々提案されている。
【0003】
特許文献1のブレーキディスクは、円板リム3(環状の制動体に相当)と、内部ポット状部2(取付部材に相当)とを備えている。円板リム3は、二つの平行な摩耗リングが複数のウエブ12によって連結されてなるものであり、半径方向に延びるウエブ12の各々は半径方向内端部分11を有している。他方、内部ポット状部2は、フランジ状に形成された支持リング7を有し、この支持リング7の外周部には、溝として形成された半径方向の凹部10が複数設けられている。そして、内部ポット状部2の支持リング7の各凹部(溝)10に、円板リム3のウエブ12の各半径方向内端部分11を係合させることで、ディスクの回転方向における内部ポット状部2と円板リム3との間の結合を確立している。更に、前記支持リング7の各凹部(溝)10において、当該凹部(溝)10の底部と各ウエブ12の半径方向内端部分11の内端面との間にギャップ(半径方向のクリアランス)を確保することにより、各ウエブ12が前記凹部(溝)10内で半径方向に変位可能としている。このように、円板リム3と内部ポット状部2との間で、半径方向において非拘束的な連結構造を採用することにより、円板リム3と内部ポット状部2との相対的な熱膨張を補償して熱倒れを防止している。
【0004】
なお、上記の構造を有するブレーキディスクの製造方法に関して、特許文献1(特許公報)の第4頁左欄第12〜17行には、「内部ポット状部2は円板リム3のための鋳造型にはめこまれ、そしていわゆる鋳造結合方法において円板リム3の鋳造が行われ、それによって円板リムの材料は支持リング7の半径方向の凹部10に達し、それによって支持リング7と円板リム3のウエブ12が歯のように噛み合う。」と記されている。
【0005】
【特許文献1】特許第2791191号公報(請求項1及び実施例)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のブレーキディスクが所期の熱倒れ防止効果を奏するためには、内部ポット状部2の支持リング7に設けられた複数の凹部(溝)10の全てにおいて、各凹部(溝)10の底部と各ウエブ12の半径方向内端部分11の内端面との間にギャップ(半径方向のクリアランス)が確実に確保されると共に、各ギャップの長さについても、熱膨張補償に不足のない長さ(特許文献1の実施例では3mmと記載されている)を確保する必要があるであろう。
【0007】
しかるに、上述のように特許文献1のブレーキディスクは、複数の凹部(溝)10を具備した支持リング7を有する内部ポット状部2を先に作っておき、その内部ポット状部2を円板リム3用の鋳造型にセットした後、その鋳型に材料(金属溶湯)を流し込み、鋳造結合方法により円板リム3を後付け鋳造するという手順で製造される。つまり、円板リム3における各ウエブ12の半径方向内端部分11については、材料(金属溶湯)が支持リング7の半径方向凹部10に流れ込み、そこで固まることによって噛合歯となることを期待するという手法で作られている。
【0008】
しかしながら、このような直接的な鋳造結合を前提としたディスク構造では、円板リム3の後付け鋳造段階での鋳造条件のばらつきにより、前記凹部10の底部とウエブ12の半径方向内端部分11の内端面との間のギャップ(半径方向のクリアランス)を正確に確保することが難しい。また、当該ギャップを実質的に確保できないような事態が頻発することも予想される。特許文献1では、内部ポット状部2の構成材料と円板リム3の構成材料とで引張強度を異ならせるなど種々工夫しているが、特許文献1に開示されているような直接的な鋳造結合法を採用する限り、各凹部10でギャップ又はクリアランスを安定確保することは本来的に不可能と言っても過言ではない。
【0009】
このように、特許文献1のブレーキディスクでは、内部ポット状部2の支持リング7の外周域が円板リム3の内周部に対し直接的に鋳ぐるまれる構造となっているため、特許文献1に示された着想通りに、所望のギャップ又はクリアランスを有するブレーキディスクを製造することが極めて難しい。そのため、実際に製品化されたブレーキディスクが所期の熱倒れ防止効果を発揮し得ないこともあり得る。
【0010】
本発明の目的は、制動時の摩擦熱による制動体の熱倒れを防止すべく制動体と取付部材との間に半径方向に非拘束的な連結構造を採用したブレーキディスクであって、制動体の後付け鋳造条件にばらつきがあったとしても、そのことによって熱倒れ防止効果が失われず、確実に熱倒れ防止を図ることができるブレーキディスクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、環状の制動体と、その制動体の中心に配置される略円筒状の取付部材と、前記制動体と前記取付部材とを連結すべく両者間に介在する複数のスライドガイドとを備えたブレーキディスクであって、前記取付部材の外周部には、半径方向外向きに突出した複数のガイド突部が設けられており、前記複数のスライドガイドの各々は、前記取付部材のガイド突部を挿入可能な係合凹部を有しており、前記取付部材のガイド突部に対し前記スライドガイドの係合凹部を係合させることで、前記複数のスライドガイドが半径方向に変位可能な状態で前記複数のガイド突部に対して装着されていると共に、これら複数のスライドガイドは前記制動体に鋳ぐるまれることで当該制動体に一体化されていることを特徴とするブレーキディスクである。
【0012】
この構成によれば、制動体に鋳ぐるまれて一体化された複数のスライドガイドを介して、環状の制動体がその中心に配置された取付部材に対し連結されている。即ち、取付部材の外周部において半径方向外向きに突設された各ガイド突部と、制動体に一体化された各スライドガイドの係合凹部との係合関係に基づいて、取付部材と制動体との間の相対回転が規制され、両者が一体となって回転するブレーキディスクが構成されている。そして、各スライドガイドは半径方向に変位可能な状態(即ち非拘束状態)で取付部材の各ガイド突部に装着されているので、ブレーキディスクの制動時に発生する摩擦熱によって制動体が熱膨張しても、熱膨張する制動体に追従して各スライドガイドが半径方向に変位するのみで、取付部材は制動体の熱変形を何ら拘束しない。従って、このブレーキディスクによれば、制動時においても、制動体はディスク半径方向に熱膨張することをごく自然に許容されるので、熱倒れを生じない。
【0013】
本発明のブレーキディスクにおいては、制動体と取付部材との間に介在されるスライドガイドが制動体に鋳ぐるまれているのであり、取付部材の外周部に設けられた各ガイド突部が制動体に直接鋳ぐるまれているわけではない。つまり、このブレーキディスクを鋳造結合法に準じた鋳造方法で製造する場合でも、取付部材外周部のガイド突部をスライドガイドで覆い隠した状態のところへ制動体を後付け的に鋳造して、スライドガイドだけを制動体内に鋳ぐるむことになる。それ故、スライドガイドの係合凹部の内壁面と取付部材のガイド突部の外面との間のクリアランスは、取付部材を形成した段階でのガイド突部の形状及び寸法の設定、並びに、スライドガイドを形成した段階での係合凹部の形状及び寸法の設定によって予め一義的に定められるのであって、従来例のように制動体を後付け鋳造する段階で取付部材のガイド突部に対応する凹部形状を同時成形されるときにクリアランスも付随的に決定されるというものではない。このように本発明のブレーキディスクによれば、制動体の後付け鋳造の段階で前記クリアランスが決定されることはないため、従来に比べてクリアランスを正確且つ確実に設定することができると共に、制動体の後付け鋳造条件にばらつきがあったとしても、そのことによって直ちに熱倒れ防止効果が失われることがない。
【0014】
本発明のブレーキディスクにおいて、前記ガイド突部を含む前記取付部材は金属で形成されており、前記スライドガイドは、耐熱性樹脂、セラミック、又は、前記取付部材の構成金属とは異なる金属で形成されていること、は好ましい。
【0015】
この構成によれば、ガイド突部を含む取付部材が金属で形成されているのに対して、スライドガイドは前記取付部材の構成金属とは異なる材料(即ち、プラスチック、セラミック、又は、取付部材の構成金属とは異なる金属)で形成されている。このため、制動体にスライドガイドが鋳ぐるまれる際の熱によって、スライドガイドの係合凹部の内壁部とガイド突部との間で熱融着が起きる心配がなく、制動体の鋳造完了後においても、スライドガイドは取付部材に拘束されず、半径方向に変位可能な状態が保たれる。また、スライドガイドを取付部材と異材質にすることで、ブレーキディスク全体の強度や固有振動数を設計する際の設計自由度が高められる。
【0016】
本発明のブレーキディスクにおいて、前記制動体は、第1の環状円板部と第2の環状円板部とを両環状円板部間にあって半径方向に延びる複数の連結リブで連結してなるベンチレーテッドタイプの制動体であり、前記複数のスライドガイドは、前記制動体を構成する第1及び第2の環状円板部のうちのいずれか一方の内周部に鋳ぐるまれることで当該制動体に一体化されていること、は好ましい。
【0017】
この構成によれば、各スライドガイドが、制動体を構成する第1及び第2の環状円板部のうちのいずれか一方の内周部に鋳ぐるまれることで、スライドガイド及び取付部材のガイド突部の配設位置が、制動体の厚み方向中心位置からずれている。それ故、制動体の隣り合う連結リブ間に確保された通気路の各々の内端側開口がスライドガイド等により塞がれることが無く、従って、スライドガイド等によって制動体のベンチレート特性が損なわれる心配がない。
【0018】
[付記]本発明の更に好ましい態様や追加的構成要件を以下に列挙する。
・複数のガイド突部は、取付部材の中心軸線(O)を中心として等角度間隔となるように取付部材の外周部に設けられていること。
・取付部材は、鋼板をプレス成形して得た有底円筒状の取付部材であること。
【発明の効果】
【0019】
本発明のブレーキディスクによれば、環状の制動体に鋳ぐるまれて一体化された複数のスライドガイドを介して、制動体を取付部材に対して半径方向に非拘束的に連結しているので、制動体を後付け鋳造したときの鋳造条件にばらつきがあったとしても、それに影響されること無く、スライドガイドの係合凹部の内壁面と取付部材のガイド突部の外面との間の各種クリアランスを正確に定めることができる。それ故、制動体の後付け鋳造条件のばらつきにかかわらず、確実に熱倒れ防止を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明をベンチレーテッド型ブレーキディスクに具体化した一実施形態を図面(図1〜図5)を参照しながら説明する。
【0021】
図1に示すように、ブレーキディスクは、環状の制動体10と、その制動体10の中心に配置される取付部材20と、複数のスライドガイド30とを備えている。
【0022】
図1及び図2(A)に示すように、環状の制動体10は、第1の環状円板部11と第2の環状円板部12とを、両環状円板部11,12間にあって半径方向に放射状に延びる複数の連結リブ13で相互に連結したものであり、隣り合う連結リブ13間には放射状に延びる通気路14が確保されたベンチレート構造を有するものである。第1及び第2の環状円板部11,12のそれぞれの外側面が、ブレーキキャリパの制輪子と摩擦接触する制動面(摺動面)になる。また、第1の環状円板部11の内周部15は、第2の環状円板部12の内周端12aよりも内側に向けて(つまり制動体10の中心軸線Oに向けて)張り出すように設けられており、この内周部15によって前記スライドガイド30が鋳ぐるまれている。
【0023】
図3(A)及び(B)に示すように、取付部材20は、薄い一枚板の圧延鋼板をプレス機でプレス成形することにより、略円筒状(より具体的には有底円筒状)に形成されたものである。取付部材20は、ほぼ円板状の車軸取付用フランジ21と、その車軸取付用フランジ21の外周縁から取付部材20の中心軸線Oと平行に後方(図3(B)の右方)に向かって延設された短円筒状の円筒壁22と、その円筒壁22の端部において鍔状に設けられた外周フランジ部23とを有している。別の見方をすれば、取付部材20の径方向断面形状は、概してハット形状をしている。取付部材20は一枚板の圧延鋼板をプレス成形して得たものであるため、車軸取付用フランジ21、円筒壁22及び外周フランジ部23のそれぞれの肉厚は、材料鋼板の板厚に準じており、いずれも等しい。
【0024】
車軸取付用フランジ21は、この取付部材20及び制動体10に共通の中心軸線Oに対して直交する方向(即ち半径方向)に展開している。この車軸取付用フランジ21には、その中心位置において車軸を通すための大きな中央孔24が形成されると共に、その中央孔24を取り囲む位置において複数のボルト挿通孔25(本例では5つ)が等角度間隔(即ち中心軸線Oを中心として72°間隔)で配列・形成されている。
【0025】
取付部材20の外周フランジ部23は、円筒壁22の後端縁においてその全周にわたって半径方向外向きに突設されている。この外周フランジ部23に対して複数の切り欠き部26を周方向に沿って所定間隔で切り欠き形成することにより、当該外周フランジ部23には、複数のガイド突部27(本例では8つ)が等角度間隔(即ち中心軸線Oを中心として45°間隔)で設けられている。これらのガイド突部27も圧延鋼板のプレス成形時に取付部材20の本体部分と同時成形されたものであり、ガイド突部27の肉厚は材料鋼板の板厚に準じている。このように、各ガイド突部27は、外周フランジ部23の根元又は基端部から半径方向(即ち中心軸線Oと直交する方向)の外向きに突出している。なお、本実施形態では、各ガイド突部27は正面視が長方形状に近い矩形状をなすと共に、各ガイド突部27の先端外周縁は中心軸線Oを中心とする仮想円に沿った円弧形状をなしている。
【0026】
図4及び図5に示すように、スライドガイド30は、緩やかに湾曲した横長なブロック体として形成されており、このブロック体状のスライドガイド30の外端側側壁31及び内端側側壁32は共に緩やかに円弧状に湾曲している。スライドガイド30には、その内端側側壁32に開口した係合凹部33が設けられている。図5に示すように、スライドガイド30の係合凹部33は、前記取付部材のガイド突部27の少なくとも先端寄り部分を受容可能な形状及び寸法に形成されており、その結果、取付部材のガイド突部27を緊密な状態で挿入可能な凹部となっている。このため、係合凹部33の最奥に位置する奥壁33eは、ガイド突部27の先端外周縁の円弧形状に対応するように、周方向に沿って円弧状に湾曲している。
【0027】
本実施形態のスライドガイド30は、耐熱性樹脂を成形用金型を用いて一体形成したものである。耐熱性樹脂としては、ポリアセタール、ポリアミド、ポリカーボネート又は熱可塑性ポリエステルなどのいわゆるエンジニアリングプラスチックを例示することができる。なお、耐熱性樹脂に代えて、セラミック又は取付部材20の構成金属とは異なる金属を用いて、スライドガイド30を形成してもよい。
【0028】
スライドガイド30は、制動体10と取付部材20との間に介在して両者を間接的に連結するための連結部材であり、取付部材20のガイド突部27に対しスライドガイド30の係合凹部33を係合させて用いられる。ちなみに本実施形態では、取付部材20の各ガイド突部27に対してスライドガイド30を装着したときに、スライドガイド30の係合凹部33とガイド突部27との間にできる三種類のクリアランス(周方向クリアランスC1、軸方向クリアランスC2及び半径方向クリアランスC3)については、次のように設定されている。
【0029】
周方向クリアランスC1とは、図5に示唆するように、係合凹部33の周方向両端に位置する二つの内壁33a,33bと、ガイド突部27の二つの周方向両端(図5に二点鎖線で示す)との間にできる二つの隙間C1a,C1bの和をいい、この周方向クリアランスC1=C1a+C1bは、0.2mm以下(但しゼロではない)に設定されている。
【0030】
軸方向クリアランスC2とは、図2(B)に示すように、係合凹部33の軸方向両端に位置する二つの内壁33c,33dと、ガイド突部27の二つの軸方向両端との間にできる二つの隙間C2c,C2dの和をいい、この軸方向クリアランスC2=C2c+C2dは、0.2mm以下(但しゼロではない)に設定されている。
【0031】
半径方向クリアランスC3とは、図2(B)に示すように、係合凹部33の奥壁33eとガイド突部27の先端外周縁との間にできる隙間C3をいい、この半径方向クリアランスC3は、0.5mm以下(但しゼロではない)に設定されている。
【0032】
本実施形態のブレーキディスクの製造に際しては、先ず、上述した図3のような取付部材20と、図4及び図5のようなスライドガイド30(合計8個)を準備する。そして、取付部材20の各ガイド突部27に各スライドガイド30の係合凹部33を係合させることで、8つのガイド突部27に対して8個のスライドガイド30をそれぞれ装着する。続いて、制動体鋳造用の鋳型(図示略)にスライドガイド30付きの取付部材10をセットした後、当該鋳型に鋳鉄の溶湯を注いで、取付部材20の周囲に制動体10を後付け鋳造する。そして図1並びに図2(A)及び(B)に示すように、8個のスライドガイド30を制動体10の第1の環状円板部11の内周部15に鋳ぐるむ。但し、各スライドガイド30の全面を制動体10内に埋めてしまうわけではなく、スライドガイド30の内端側側壁32は露出させる。従って、内端側側壁32に開口した係合凹部33内に各ガイド突部27が挿入配置されることで、環状制動体10の内周部15に鋳ぐるまれたスライドガイド30を介して、制動体10と取付部材20とが間接的に連結される。
【0033】
本実施形態によれば、取付部材20の外周部の各ガイド突部27と、制動体10に一体化された各スライドガイド30の係合凹部33との係合関係に基づいて、取付部材20と制動体10との間の相対回転が規制され、両者が一体となって回転するブレーキディスクが構成される。そして、ガイド突部27と係合凹部33との相互ガイド関係に基づき、各スライドガイド30は半径方向に変位可能な状態で取付部材20の各ガイド突部27に装着されている。このため、ブレーキディスクの制動時に発生する摩擦熱によって制動体10が熱膨張しても、熱膨張する制動体10に追従して各スライドガイド30が半径方向に変位するのみで、取付部材20は制動体10の熱変形を何ら拘束しない。従って、このブレーキディスクによれば、制動時においても、制動体10はディスク半径方向に熱膨張することをごく自然に許容されるので、熱倒れを生じない。
【0034】
本実施形態によれば、スライドガイド30の係合凹部33の内壁面と取付部材20のガイド突部27の外面との間のクリアランスC1,C2及びC3は、取付部材20を形成した段階でのガイド突部27の形状及び寸法の設定、並びに、スライドガイド30を形成した段階での係合凹部33の形状及び寸法の設定によって予め一義的に定められる。つまり本実施形態では、制動体10の後付け鋳造の段階でクリアランスC1,C2及びC3が決まることはないので、クリアランス設定を従来よりも正確なものとすることができる。従って、制動体10の後付け鋳造条件に多少のばらつきがあったとしても、そのことによって上記熱倒れ防止効果が失われることはない。
【0035】
本実施形態では、取付部材20が鋼板のプレス成形品であるため、一般的な鋳物製の取付部材を使用した場合に比べて、ブレーキディスクを軽量化することができる。
【0036】
本実施形態では、取付部材20を金属製としたのに対しスライドガイド30を異材質の耐熱性樹脂製としたので、制動体10にスライドガイド30が鋳ぐるまれる際の熱によって、スライドガイド30の係合凹部33の内壁部とガイド突部27との間で熱融着が起きる心配がない。従って、制動体10の鋳造完了後においても、スライドガイド30は取付部材20に拘束されず、半径方向に変位可能な状態が保たれる。また、スライドガイド30を耐熱性樹脂で形成しているため、スライドガイド30と鋼板製の取付部材20との間で電食(電位発生による腐食)を生じることがない。更に、スライドガイド30を制動体10及び取付部材20と別材質にすることで強度や比重を変えられるため、ブレーキディスク全体の強度や固有振動数を設計する際の設計自由度が高まるという利点がある。
【0037】
本実施形態では、全てのスライドガイド30が、制動体10の第1の環状円板部11の内周部15に鋳ぐるまれており、その結果、スライドガイド30及び取付部材のガイド突部27の配設位置が、制動体10の厚み方向中心位置から横にずれている(図2参照)。それ故、制動体10の各通気路14の内端側開口がスライドガイド30等により塞がれることが無く、スライドガイド30等によって制動体10のベンチレート特性が損なわれる心配がない。
【0038】
[変更例]
上記実施形態では、取付部材20におけるガイド突部27の正面視形状を図3(A)のようにすると共に、スライドガイド30における係合凹部33の内部形状を図5のようにしたが、ガイド突部27及びそれに対応する係合凹部33の形状を図6、図7又は図8のように変更してもよい。
【0039】
図6は取付部材20及びスライドガイド30の変更例1を示す。図6(A)のガイド突部27は正面視が長方形状をなすと共に、各ガイド突部27の先端外周縁は半径方向と直交するストレートな直線形状をなしている。図6(B)の係合凹部33は、図6(A)のガイド突部27の先端外周縁に対応するストレートな奥壁33eを有している。
【0040】
図7は取付部材20及びスライドガイド30の変更例2を示す。図7(A)のガイド突部27は正面視が略半円形状をなすと共に、各ガイド突部27の先端外周縁は弓形の湾曲形状をなしている。図7(B)の係合凹部33は、図7(A)のガイド突部27の先端外周縁に対応する弓形に湾曲した奥壁33eを有している。
【0041】
図8は取付部材20及びスライドガイド30の変更例3を示す。図8(A)のガイド突部27は正面視が二等辺三角形状をなすと共に、各ガイド突部27の先端外周縁は三角形の山形形状をなしている。図8(B)の係合凹部33は、図8(A)のガイド突部27の先端外周縁に対応する三角山形に後退した奥壁33eを有している。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】ブレーキディスクの正面図。
【図2】(A)は図1のA−O−A’線での断面図、(B)は(A)の丸破線で囲んだ部位の拡大断面図。
【図3】(A)は取付部材の正面図、(B)は(A)のB−O−B’線での断面図。
【図4】スライドガイドの斜視図。
【図5】図4のスライドガイドをD−D線に沿って上下分割したときの下側半分を示す斜視図。
【図6】(A)は取付部材の変更例1を示す正面図、(B)はその取付部材に対応するスライドガイドの変更例1を示す図5相当の斜視図。
【図7】(A)は取付部材の変更例2を示す正面図、(B)はその取付部材に対応するスライドガイドの変更例2を示す図5相当の斜視図。
【図8】(A)は取付部材の変更例3を示す正面図、(B)はその取付部材に対応するスライドガイドの変更例3を示す図5相当の斜視図。
【符号の説明】
【0043】
10…環状の制動体、11…第1の環状円板部、12…第2の環状円板部、13…連結リブ、14…通気路、15…第1の環状円板部の内周部(制動体の内周部)、20…取付部材、21…車軸取付用フランジ、22…円筒壁、23…外周フランジ部、27…外周フランジ部のガイド突部、30…スライドガイド、33…係合凹部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状の制動体と、その制動体の中心に配置される略円筒状の取付部材と、前記制動体と前記取付部材とを連結すべく両者間に介在する複数のスライドガイドとを備えたブレーキディスクであって、
前記取付部材の外周部には、半径方向外向きに突出した複数のガイド突部が設けられており、
前記複数のスライドガイドの各々は、前記取付部材のガイド突部を挿入可能な係合凹部を有しており、
前記取付部材のガイド突部に対し前記スライドガイドの係合凹部を係合させることで、前記複数のスライドガイドが半径方向に変位可能な状態で前記複数のガイド突部に対して装着されていると共に、これら複数のスライドガイドは前記制動体に鋳ぐるまれることで当該制動体に一体化されていることを特徴とするブレーキディスク。
【請求項2】
前記ガイド突部を含む前記取付部材は金属で形成されており、
前記スライドガイドは、耐熱性樹脂、セラミック、又は、前記取付部材の構成金属とは異なる金属で形成されていることを特徴とする請求項1に記載のブレーキディスク。
【請求項3】
前記制動体は、第1の環状円板部と第2の環状円板部とを両環状円板部間にあって半径方向に延びる複数の連結リブで連結してなるベンチレーテッドタイプの制動体であり、
前記複数のスライドガイドは、前記制動体を構成する第1及び第2の環状円板部のうちのいずれか一方の内周部に鋳ぐるまれることで当該制動体に一体化されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のブレーキディスク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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