説明

ブレーキブースタ制御装置

【課題】ブレーキブースタにおけるアシスト機構の作動の適正化を図り、ブレーキブースタの寿命を向上させる。
【解決手段】イグニッションスイッチがオンの状態での車両の停止中にブレーキペダル3が踏み込まれると、大気導入弁4が開弁され、変圧室13に大気が速やかに導入される。その結果、仮にブレーキペダル3の踏力が大きくても、入力ロッド22とパワーピストン21との相対変位が小さくなるため、ブレーキブースタ2のアシスト機構の作動が抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制動を補助するブレーキブースタの動作を制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用ブレーキ装置には一般に、運転者のブレーキ操作を補助するブレーキブースタが搭載されている。このブレーキブースタは、マスタシリンダとブレーキペダルとの間に配置されて圧力室を構成するハウジング、一端がマスタシリンダのピストンに連結されるプッシュロッド、プッシュロッドの他端に接続されて運転者によるブレーキペダルへの踏力を伝達するパワーピストン等を備える。
【0003】
ハウジングは、パワーピストンを支持するダイヤフラムによってマスタシリンダ側の定圧室とブレーキペダル側の変圧室とに仕切られている。定圧室は、内燃機関の吸気管に連通されており、その吸気管内で発生する負圧により真空状態に保持される。ブレーキペダルが踏み込まれていない状態においては、真空弁の開弁により定圧室と変圧室とが連通されるため、変圧室も真空状態に保持される。この状態から運転者によってブレーキペダルが踏み込まれると、その真空弁が閉弁するとともに大気弁が開弁し、変圧室側に大気が導入される。これにより、ダイヤフラムの前後に差圧が発生してパワーピストンが前方に押され、運転者によるブレーキ操作がアシストされる。
【0004】
このようなブレーキブースタには、さらにブレーキアシスト機構を備えたものがある(例えば特許文献1)。ブレーキアシスト機構は、例えば、運転者による緊急制動時において、ブレーキの操作速度は速いものの強く踏めず小さな制動力しか出せないような場合であっても、制動力を確保する。このようなブレーキアシスト機構においては、入力ロッドの動きによりロック部がはずれることで作動が行われる。
【特許文献1】特開2005−138612号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このようなブレーキアシスト機構は、ブレーキペダルの操作速度に反応して作動するが、緊急制動時以外であっても、運転者が停車時に強くブレーキペダルを踏んだ場合やブレーキ操作を何度か繰り返した場合等、ある値以上の入力が加わった場合にも作動してしまうことがある。このように緊急制動時以外にブレーキアシスト機構が作動する回数が多くなると、ブレーキアシスト機構の作動を規制しているロック部が摺動により摩耗し、ブレーキアシスト機構が緊急制動時以外の通常の制動時においても作動しやすくなってしまう。そのため、運転者に対して制動時に違和感を与えたり、ブレーキアシスト機構が作動する際の異音が発生したりする。
【0006】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、ブレーキブースタにおけるアシスト機構の作動の適正化を図り、ブレーキブースタの寿命を向上する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある態様のブレーキブースタ制御装置は、車両のブレーキペダルの操作を補助可能なものである。このブレーキブースタ制御装置は、ハウジング内を負圧が導入される定圧室と大気を導入可能な変圧室とに区画するとともに、ハウジング内にて変位可能な隔壁部材と、隔壁部材に支持される一方、変圧室と定圧室との差圧によって前後進可能であり、その前進時に制動装置の流体圧を高めるパワーピストンと、変圧室への大気の導入が可能となるように、パワーピストンに設けられた大気導入部と変圧室とを連通する通路を開放させる弁機構を作動させる入力ロッドと、入力ロッドとパワーピストンとの一定量の相対変位の発生で作動し、通路が開放するように弁機構の動きを補助するアシスト機構と、車両の停止中であり、かつブレーキペダルが踏み込まれていることを条件に、入力ロッドとパワーピストンとの相対変位を小さくさせるアシスト抑制手段と、を備える。
【0008】
この態様では、ブレーキペダルの踏み込みによって入力ロッドが動作し、それにより弁機構が通路を開放すると、変圧室に大気が導入される。その結果、定圧室と変圧室との間に差圧が発生し、それによりパワーピストンが隔壁部材とともに前進して制動力を発揮させる。このとき、例えばブレーキペダルの踏力が大きくて入力ロッドとパワーピストンとの相対変位が一定量を超えると、アシスト機構によりブレーキペダルの操作がさらにアシストされる。
【0009】
この態様によれば、ブレーキペダルが踏み込まれていても、車両が停止中であれば入力ロッドとパワーピストンとの相対変位が小さくなるようにされ、アシスト機構の作動が抑制される。その結果、アシスト機構を含むブレーキブースタの寿命を向上させることができる。
【0010】
アシスト抑制手段は、パワーピストンを入力ロッドの動作方向と同方向に変位させることにより、入力ロッドとパワーピストンとの相対変位を小さくさせてもよい。例えば、パワーピストンを入力ロッドの動作方向に直接変位させるようにしてもよいし、隔壁部材を入力ロッドの動作方向に変位させることにより、結果的にパワーピストンを同方向に変位させるようにしてもよい。
【0011】
具体的には、アシスト抑制手段は、弁機構とは別にハウジングに設けられ、電磁駆動により開弁して変圧室へ大気を導入可能な大気導入弁と、大気導入弁を開閉制御する制御部と、車両の停止状態を検出する停止状態検出手段と、ブレーキペダルの踏み込み状態を検出するペダル状態検出手段とを含んでもよい。そして、制御部は、停止状態検出手段により車両の停止状態が検出され、かつペダル状態検出手段によりブレーキペダルの踏み込み状態が検出された場合に、大気導入弁を開弁させるようにしてもよい。
【0012】
この態様によれば、大気導入弁を開弁させることにより、ハウジングの変圧室へ直接大気を導入することができる。このため、パワーピストンに設けられた大気導入部から大気を導入するよりも速やかに変圧室の圧力が高まり、パワーピストンを入力ロッドの動作方向に速やかに変位させることができる。すなわち、大気導入部に導入された大気は弁機構等を経由して変圧室に流入するため、入力ロッドの動作に対して時間的な遅れがあり、アシスト機構が作動してしまう可能性があるが、この態様によれば、大気が変圧室に速やかに導入されるため、アシスト機構の作動を阻止することができる。
【0013】
より具体的には、パワーピストン内においてその軸線方向に変位可能に支持され、定圧室と変圧室とを連通又は遮断する第1弁部を構成する第1弁座と、変圧室へ大気を導入又は遮断する第2弁部を構成する第2弁座とがそれぞれ形成された弁座形成部材と、パワーピストンと入力ロッドとの間に、パワーピストンに同軸状かつ軸線方向に変位可能に配設され、第1弁座に着脱可能なスライドバルブと、入力ロッドとともにパワーピストンに同軸状かつ軸線方向に変位可能に配設され、第2弁座に着脱可能なエアバルブと、入力ロッドのパワーピストンに対する前進量が所定値以下の場合にはスライドバルブを所定位置に保持する一方、入力ロッドのパワーピストンに対する前進量が所定値より大きい場合にはスライドバルブを開放して所定位置よりも後方に変位させるロック機構と、を備えていてもよい。
【0014】
この態様では、エアバルブと第2弁座とによって変圧室へ大気を導入又は遮断する第2弁部が構成される。エアバルブは入力ロッドとともに変位するが、スライドバルブはこれらと独立に変位可能である。ロック機構は、入力ロッドのパワーピストンに対する前進量が所定値より大きい場合にはスライドバルブを開放して所定位置よりも後方に変位させる。その結果、このスライドバルブによって第1弁部の閉弁状態が保持されたまま、弁座形成部材が後方に押されてエアバルブと第2弁座との隙間、つまり第2弁部の開度を大きくする。このため、第2弁部を介した大気の導入量が増えて変圧室の圧力を速やかに高める。つまり、ロック機構の解除によるスライドバルブの開放がアシスト機構を動作させる。
【0015】
この態様によれば、車両の停止中においては入力ロッドとパワーピストンとの相対変位が小さくされるため、ロック機構の解除が阻止され、アシスト機構の作動が抑制される。その結果、ロック機構を構成する部材の摺動による摩耗を抑えることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ブレーキブースタにおけるアシスト機構の作動の適正化を図り、ブレーキブースタの寿命を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
【0018】
図1は、本発明の実施の形態に係るブレーキブースタ制御装置の概略を示す全体構成図である。図2は、図1のコントロールバルブ部を示す部分拡大断面図である。
図1に示すように、ブレーキブースタ制御装置1は、エンジンの負圧を利用する真空式のブレーキブースタ2を制御するものである。ブレーキブースタ制御装置1は、制動装置のマスタシリンダ(図示略)とブレーキペダル3との間に配設されるブレーキブースタ2、ブレーキブースタ2に設置された大気導入弁4、および大気導入弁4を通電制御する制御部としての電子制御装置(以下「ECU」という)5とを備える。
【0019】
ブレーキブースタ2は、圧力室を構成するハウジング10と、ハウジング10内の圧力を調整するコントロールバルブ部20とを備える。
ハウジング10は、その内部が隔壁部材としての可撓性のあるダイヤフラム11により定圧室12と変圧室13とに仕切られている。定圧室12はチェック弁14を介して図示しないエンジンの吸気管につながる配管に連通している。このため、エンジンが始動されると、その配管を通じて定圧室12内に負圧が導入される。定圧室12内には、また、ブレーキペダル3の踏み込み前の状態に復帰させるためのスプリング15が配設されている。一方、変圧室13には、上述した大気導入弁4が設けられている。大気導入弁4は常閉型の電磁弁であり、その開弁により変圧室13に大気が導入される。
【0020】
コントロールバルブ部20は、ダイヤフラム11に支持されたパワーピストン21、ブレーキペダル3に接続された入力ロッド22、およびマスタシリンダのピストンに連結されるプッシュロッド23等を含む。運転者によるブレーキペダル3の踏力は、入力ロッド22、パワーピストン21、プッシュロッド23等を介してマスタシリンダのピストンに伝達され、制動装置の流体圧が高められる。
【0021】
図2に示すように、パワーピストン21は、段付円筒状の本体を有し、ハウジング10の後端部に気密的かつ前後方向へ移動可能に組み付けられており、上記スプリング15によって後方、つまりブレーキペダル3側(図の右側)に付勢されている。パワーピストン21は、その前端部の外周面がダイヤフラム11の中央部に組み付けられて支持されている。ハウジング10の後端部内周面にはゴムからなるシール部材25が固定され、このシール部材25によりパワーピストン21が気密かつ摺動可能に支持されている。
【0022】
このパワーピストン21は、その前半部に2重管構造を備えており、その前端部には、上述したプッシュロッド23が取り付けられている。パワーピストン21の内部には、前方からリアクションディスク31、ガイド部材32、ロック部材33、エアバルブ34、スライドバルブ35、弁座形成部材36、ばね受け部材37、フィルタ38等が配設されている。パワーピストン21の前半部の2重管構造の部分には、そのパワーピストン21の内部と定圧室12とを連通させる連通孔55が形成されており、その2重管構造の後端に第1弁部を構成する弁形成部57が形成されている。また、パワーピストン21の側部の数カ所には、その内部と変圧室13とを連通させるための連通孔56が形成されている。さらに、パワーピストン21には、位置決め部材43が挿通されている。この位置決め部材43は、パワーピストン21が軸線方向に変位するときの限界位置を規制するものである。位置決め部材43は、ハウジング10の後端部のシール部材25に突き当たって係止されると、その位置でパワーピストン21の後方への変位を規制する。
【0023】
また、ハウジング10の後端には、パワーピストン21の摺動部を外側から覆うようにして保護するベローズ39が設けられている。このベローズ39は、可撓性部材からなり、その前端がハウジング10の後端に装着され、後端が入力ロッド22の外周面の所定位置に嵌合するように装着されている。ベローズ39の後端面の複数箇所には通気孔40が形成されており、パワーピストン21の後端開口部(「大気導入部」に該当する)から内部への大気の導入を可能にしている。
【0024】
リアクションディスク31は、ゴムからなる円板状の部材であり、プッシュロッド23の後端部に設けられた円筒状の収容部に収容された状態でパワーピストン21の前端面に当接している。このリアクションディスク31と入力ロッド22との間には、当接部材41およびエアバルブ34が軸線方向に支持されつつ介装されている。ガイド部材32は、段付円筒状をなし、パワーピストン21の先端開口部とリアクションディスク31との間に挟まれるように配設されている。ガイド部材32は、その後端部にてエアバルブ34の先端部を軸支している。
【0025】
ロック部材33は、ガータスプリング42を介してガイド部材32の外周面に回動可能に取り付けられている。本実施の形態において、このロック部材33は、径方向に対向配置された一対の係止部材からなり、それぞれが、ガイド部材32の外周面に突設された回動支点を中心に回動可能となっている。このロック部材33の後端部には、半径方向内向きに突出したフック部61が形成されている。このフック部61は、後述するロック機構を構成する。
【0026】
エアバルブ34は、その後半部が筒状に形成されており、入力ロッド22の先端部が挿通されて加締め接合されている。入力ロッド22に伝達された力は、その球状の先端部を介してエアバルブ34に伝達されてその前方への推進力となり、さらに当接部材41およびリアクションディスク31を介してプッシュロッド23に伝達される。エアバルブ34の後端は、後述する弁座形成部材36の弁座46に着脱可能となっており、変圧室13へ大気を導入又は遮断する弁部を構成する。
【0027】
スライドバルブ35は、パワーピストン21と入力ロッド22との間に同軸状かつ前後進可能に配設されている。スライドバルブ35の後端部にはシールリング50が嵌着されており、パワーピストン21に対して気密に摺動可能に構成されている。また、スライドバルブ35は、パワーピストン21との間に介装されたスプリング51により後方に付勢されている。スライドバルブ35の後端は、後述する弁座形成部材36の弁座45に着脱可能となっており、弁形成部57よりも後方に変位することで弁座形成部材36を押圧してより後方に変位させることができる。スライドバルブ35の前端部には、半径方向外向きに突出したフック部62が形成されている。このフック部62は、上述したロック部材33のフック部61とともに後述するロック機構を構成する。なお、スライドバルブ35の後方への移動限界も位置決め部材43によって規制されている。
【0028】
弁座形成部材36は、円筒状の本体の前端部に内方に延出したフランジ部65を有し、後端部にリング状の支持部材66が一体的に形成されている。フランジ部65の前面にはゴムからなるリング状の弁座45(第1弁座)が貼着され、支持部材66の前面には同じくゴムからなるリング状の弁座46(第2弁座)が貼着されている。つまり、弁座45、46は、その前後に所定の間隔をあけて配置されており、それぞれ弁形成部57またはスライドバルブ35の後端が着脱する第1弁部、エアバルブ34の後端が着脱する第2弁部を構成する。これら第1弁部および第2弁部により、弁機構が構成されている。
【0029】
ばね受け部材37は、パワーピストン21の後端部近傍の内周に圧入されたリング状の部材からなる。ばね受け部材37と弁座形成部材36との間には、弁座形成部材36を前方に付勢するスプリング52が介装されている。また、ばね受け部材37と弁座形成部材36との間には、前後方向に伸縮可能なゴムからなるシール部材48が配置されており、パワーピストン21の後端から導入された大気が連通孔55を介して定圧室12へ漏洩するのを防止している。
【0030】
フィルタ38は、パワーピストン21の後端開口部に配設されて外部からのゴミ等の流入を防止している。ベローズ39の通気孔40から導入された大気は、このフィルタ38を通ってパワーピストン21の内部に流入する。フィルタ38の中央には入力ロッド22が内挿されており、その前面側には板状のばね座49が配設されている。ばね座49とばね受け部材37との間には、ばね座49を介して入力ロッド22およびフィルタ38を後方に付勢するスプリング53が介装されている。
【0031】
図3は、アシスト機構を構成するロック機構の構成および動作を表す部分拡大断面図である。
上述のように、ロック部材33の後端部にはフック部61が形成され、スライドバルブ35の前端部にはフック部62が形成されている。また、ロック部材33の内面には、フック部61と同方向に延出するとともに軸線方向に対して傾斜した受圧面71が形成されている。一方、この受圧面71に対向するエアバルブ34の位置にも軸線方向に対して傾斜した押圧面72が形成されている。スライドバルブ35のフック部62は、ロック部材33のフック部61に対して係合離脱可能であり、エアバルブ34の押圧面72は、ロック部材33の受圧面71に係合離脱可能である。
【0032】
ここで、入力ロッド22のパワーピストン21に対する前進量が所定値以下の場合には、押圧面72が受圧面71に係合しないため、図示のように、フック部62がフック部61との係合状態を保持する。その結果、スライドバルブ35が図2に示した所定の前方位置に保持される。一方、入力ロッド22のパワーピストン21に対する前進量が所定値より大きい場合には、図中矢印にて示すように押圧面72が受圧面71の方向に相対変位し、その受圧面71に係合してこれを押圧する。その結果、ロック部材33がガータスプリング42の付勢力に抗してその前端部を支点に回動して外側に開き、フック部62とフック部61との係合状態が解除される。これにより、スライドバルブ35がロック部材33から開放され、スプリング51の付勢力によって後方に変位させられる(図4参照)。その結果、スライドバルブ35が閉弁状態となるとともに、エアバルブ34の開度が拡大される。この詳細については後述する。
【0033】
次に、ブレーキブースタの動作について説明する。図4は、アシスト機構が作動したときのブレーキブースタの作動状態を示す断面図である。なお、既に説明した図2は、アシスト機構が作動していない通常のブレーキ時のブレーキブースタの作動状態を示している。
【0034】
ブレーキ操作が行われていない状態(図示せず)では、定圧室12と変圧室13とは互いに連通した状態で負圧を維持している。この状態で、操作者がブレーキペダル3を踏むと、図2に示すように、ブレーキペダル3に連結された入力ロッド22が矢印方向(図中左方向)に向かって移動する。
【0035】
通常のブレーキ時においては、図2に示すように、入力ロッド22とパワーピストン21との相対変位、つまりパワーピストン21に対する入力ロッド22の前方への移動量が小さい。このため、エアバルブ34の押圧面72はロック部材33の受圧面71に係合せず、スライドバルブ35はロック部材33によって軸線方向の動きが規制され、図示の所定位置に保持される。したがって、アシスト機構が作動しない一般的なブレーキ作動が得られる。つまり、弁形成部57が弁座45に着座し、第1弁部が閉弁状態となって定圧室12と変圧室13との連通を遮断する一方、エアバルブ34が開弁状態となるため、変圧室13に大気が導入される。その結果、定圧室12と変圧室13との差圧が発生し、それによりパワーピストン21がブレーキペダル3の踏み込みを補助する方向に動作する。その結果、運転者によるブレーキペダル3の操作がある程度アシストされる。
【0036】
一方、緊急ブレーキ時には、図4に示すように、入力ロッド22とパワーピストン21との相対変位、つまりパワーピストン21に対する入力ロッド22の前方への移動量が所定値より大きくなる。このときには、エアバルブ34の押圧面72がロック部材33の受圧面71に係合し、ロック部材33がガータスプリング42の付勢力に抗して半径方向外方に押し広げられる。これにより、スライドバルブ35のフック部62とロック部材33のフック部61との係合状態が解除され、スライドバルブ35がスプリング51の付勢力によって所定量後方に移動させられる。
【0037】
このとき、スライドバルブ35の後端が弁座45に着座して定圧室12と変圧室13との連通を遮断する。また、エアバルブ34が入力ロッド22とともに前方へ移動する一方、スライドバルブ35が弁座形成部材36を後方へ押圧するため、エアバルブ34の後端と弁座46とが急速に離間して大きく開弁する。その結果、通常のブレーキ時より大きな推進力を得ることができ、ブレーキペダル3の操作がさらにアシストされる。
【0038】
この状態からブレーキペダル3が戻されると、エアバルブ34は、位置決め部材43とともに後方に移動する。位置決め部材43がシール部材25に当接すると、スライドバルブ35の後方への移動が規制される。そして、スプリング15(図1参照)の付勢力によりパワーピストン21が所定位置に戻ると、ロック部材33がガータスプリング42の付勢力により内方に押されてロック部材33のフック部61がスライドバルブ35のフック部62に再び係合する。
【0039】
ECU5は、各種演算処理を実行するCPU、各種制御プログラムを格納するROM、データ格納やプログラム実行のためのワークエリアとして利用されるRAM、所定のデータの記憶を保持しておくための不揮発性のバックアップRAM、入出力インターフェース等を備える。図1にも示されるように、ECU5には、上述した大気導入弁4等の各種アクチュエータが所定の通信ラインを介して接続されている。また、ECU5には、ブレーキペダル3の踏み込み状態を検出するブレーキペダルスイッチ(ペダルSW)6や、車速を検出する車輪速センサ等の各種センサ・スイッチ類が所定の通信ラインを介して接続されている。ECU5は、各種センサ・スイッチ類から取得した情報に基づいて所定の演算処理を行い、各アクチュエータを駆動制御する。
【0040】
次に、本実施の形態のブレーキブースタの制御方法について説明する。
本実施の形態では、上述したブレーキブースタ2のアシスト機構(ロック機構)が頻繁に作動してフック部61、62が摩耗し、緊急制動時以外の通常の制動時においてもアシスト機構が作動して運転者に違和感を与えるのを防止する。すなわち、本実施の形態では、車両の停止時における不必要なアシスト機構の作動を防止する制御を行う。
【0041】
ECU5は、車両の停止状態においてブレーキペダル3が踏み込まれると、大気導入弁4を開弁させ、ブレーキブースタ2の変圧室13へ直接大気を導入させる。これにより、パワーピストン21の後端開口部から大気を導入するよりも速やかに変圧室13の圧力が高まり、パワーピストン21を入力ロッド22の動作方向と同方向に速やかに変位させることができる。すなわち、大気を変圧室13に速やかに導入して入力ロッド22とパワーピストン21との相対変位を小さく保持できるため、アシスト機構の作動頻度を抑制することができる。
【0042】
次に、本実施の形態のブレーキブースタ制御処理の流れについて説明する。
図5は、ECUが実行するブレーキブースタ制御処理の主要部の流れを表すフローチャートである。この処理は、車両の図示しないイグニッションスイッチ(IGSW)がオンにされた後に、ECU5が所定の周期で繰り返し実行する。
【0043】
ECU5は、イグニッションスイッチがオンであれば(S10のY)、続いて、車輪速センサの出力信号に基づき、車両が停止中か否かを判定する(S12)。車両が停止中であれば(S12のY)、続いて、ブレーキペダルスイッチ6の出力信号に基づき、ブレーキペダル3が踏み込まれているか否かを判定する(S14)。このとき、ブレーキペダル3が踏み込まれていれば(S14のY)、大気導入弁4を通電制御して開弁させる(S16)。これにより、仮に停車中にブレーキペダル3が強く踏み込まれても、入力ロッド22とパワーピストン21との相対変位を小さくできる。
【0044】
一方、イグニッションスイッチがオフ(S10のN)、車両が停止中でない(S12のN)、あるいはブレーキペダル3が踏み込まれていなければ(S14のN)、一連の処理を終了する。
【0045】
以上に説明したように、本実施の形態においては、ブレーキペダル3が踏み込まれていても、車両が停止中であれば大気導入弁4を開弁され、変圧室13に速やかに大気が導入される。その結果、入力ロッド22とパワーピストン21との相対変位が小さくなり、ブレーキブースタ2のアシスト機構の作動が抑制される。その結果、アシスト機構を構成する部材の摺動による摩耗を抑えることができ、ブレーキブースタの寿命を向上させることができる。
【0046】
本発明は上述の実施の形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を実施の形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうる。
【0047】
例えば、上記実施の形態では、ハウジング10に大気導入弁4を直接設置して大気を導入し、ダイヤフラム11ひいてはパワーピストン21を入力ロッド22と同方向に速やかに変位させてその相対変位が小さくなるようにした。変形例においては、たとえばパワーピストン21を直接駆動して入力ロッド22との相対変位が小さくなるようにしてもよい。
【0048】
また、上記実施の形態では、ブレーキペダル3の踏み込み状態を、その踏み込みの有無を検出するブレーキペダルスイッチ6の出力信号に基づいて判定する例を示したが、たとえばブレーキペダルの踏み込み量を検出するブレーキストロークセンサの出力信号に基づいて判定するようにしてもよい。また、車両の停止状態を車輪速センサの出力信号に基づいて判定した例を示したが、例えば車輪に設置した遠心力スイッチ(加速度センサ)等その他の検出手段に基づいて判定するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の実施の形態に係るブレーキブースタ制御装置の概略を示す全体構成図である。
【図2】図1のコントロールバルブ部を示す部分拡大断面図である。
【図3】アシスト機構を構成するロック機構の構成および動作を表す部分拡大断面図である。
【図4】アシスト機構が作動したときのブレーキブースタの作動状態を示す断面図である。
【図5】ECUが実行するブレーキブースタ制御処理の主要部の流れを表すフローチャートである。
【符号の説明】
【0050】
1 ブレーキブースタ制御装置、 2 ブレーキブースタ、 3 ブレーキペダル、 4 大気導入弁、 5 ECU、 6 ブレーキペダルスイッチ、 10 ハウジング、 11 ダイヤフラム、 12 定圧室、 13 変圧室、 20 コントロールバルブ部、 21 パワーピストン、 22 入力ロッド、 23 プッシュロッド、 33 ロック部材、 34 エアバルブ、 35 スライドバルブ、 36 弁座形成部材、 39 ベローズ、 40 通気孔、 42 ガータスプリング、 45 弁座、 46 弁座、 55 連通孔、 56 連通孔、 61 フック部、 62 フック部、 66 支持部材、 71 受圧面、 72 押圧面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のブレーキペダルの操作を補助可能なブレーキブースタ制御装置であって、
ハウジング内を負圧が導入される定圧室と大気を導入可能な変圧室とに区画するとともに、前記ハウジング内にて変位可能な隔壁部材と、
前記隔壁部材に支持される一方、前記変圧室と前記定圧室との差圧によって前後進可能であり、その前進時に制動装置の流体圧を高めるパワーピストンと、
前記変圧室への大気の導入が可能となるように、前記パワーピストンに設けられた大気導入部と前記変圧室とを連通する通路を開放させる弁機構を作動させる入力ロッドと、
前記入力ロッドと前記パワーピストンとの一定量の相対変位の発生で作動し、前記通路が開放するように前記弁機構の動きを補助するアシスト機構と、
前記車両の停止中であり、かつ前記ブレーキペダルが踏み込まれていることを条件に、前記入力ロッドと前記パワーピストンとの相対変位を小さくさせるアシスト抑制手段と、
を備えることを特徴とするブレーキブースタ制御装置。
【請求項2】
前記アシスト抑制手段は、前記パワーピストンを前記入力ロッドの動作方向と同方向に変位させることにより、前記入力ロッドと前記パワーピストンとの相対変位を小さくさせることを特徴とする請求項1に記載のブレーキブースタ制御装置。
【請求項3】
前記アシスト抑制手段は、
前記弁機構とは別に前記ハウジングに設けられ、電磁駆動により開弁して前記変圧室へ大気を導入可能な大気導入弁と、
前記大気導入弁を開閉制御する制御部と、
前記車両の停止状態を検出する停止状態検出手段と、
前記ブレーキペダルの踏み込み状態を検出するペダル状態検出手段と、
を含み、
前記制御部は、停止状態検出手段により車両の停止状態が検出され、かつ前記ペダル状態検出手段により前記ブレーキペダルの踏み込み状態が検出された場合に、前記大気導入弁を開弁させること、
を特徴とする請求項2に記載のブレーキブースタ制御装置。
【請求項4】
前記パワーピストン内においてその軸線方向に変位可能に支持され、前記定圧室と前記変圧室とを連通又は遮断する第1弁部を構成する第1弁座と、前記変圧室へ大気を導入又は遮断する第2弁部を構成する第2弁座とがそれぞれ形成された弁座形成部材と、
前記パワーピストンと前記入力ロッドとの間に、前記パワーピストンに同軸状かつ軸線方向に変位可能に配設され、前記第1弁座に着脱可能なスライドバルブと、
前記入力ロッドとともに前記パワーピストンに同軸状かつ軸線方向に変位可能に配設され、前記第2弁座に着脱可能なエアバルブと、
前記入力ロッドの前記パワーピストンに対する前進量が所定値以下の場合には前記スライドバルブを所定位置に保持する一方、前記入力ロッドの前記パワーピストンに対する前進量が所定値より大きい場合には前記スライドバルブを開放して前記所定位置よりも後方に変位させるロック機構と、
を備えていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のブレーキブースタ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−168724(P2008−168724A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−2448(P2007−2448)
【出願日】平成19年1月10日(2007.1.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】