説明

ブレーキ液圧制御装置用ポンプの組付け構造

【課題】ポンプから装置の外部へブレーキ液が漏れるのを防止するために必要なシール部材を廃止する。
【解決手段】吐出口9に対して吸引口8の反対側に位置するシリンダ10の外壁面に、シリンダ10の径方向に一周する三角溝21を備え、ポンプ1を吸引口8側からハウジング2内に挿入し、さらに挿入口側からハウジング2の一部を押し潰して三角溝21内に嵌入させ、三角溝21内がハウジング2の一部によって満たされるようにする。三角溝21内がハウジング2の一部によって満たされると、三角溝21に嵌入したハウジング2の一部は三角溝21から逃げる場所を失う。このため三角溝21におけるポンプ1とハウジング2との面圧を大きくすることができ、ポンプ1とハウジング2の間隙からブレーキ液が漏れるのを防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両におけるブレーキ液の液圧を制御する装置に用いられるポンプの組付け方法及び組付け構造に関し、特に、アンチロックブレーキシステム(以下、ABS装置という)やトラクションコントールシステム(以下、TRC装置という)等に用いられるポンプに適用して好適である。
【背景技術】
【0002】
図5に、従来におけるポンプをABS装置に組付けたときの断面図を示す。また、図6(a)、(b)にABS装置へポンプ30を固定する工程図を示す。以下、これら図5、図6に基づいてポンプの組付け構造について説明する。ポンプ30はABS装置のハウジング31に組付けられている。具体的に説明すると、まず図6(a)に示すように、ハウジング31に設けられた穴部(ポンプ30を挿入するスペース)にポンプ30を挿入し、この後図6(b)に示すように穴部の挿入口をパンチ32で押し潰し、これによりポンプ30がハウジング31を押し潰してできたかしめ部33によって固定される。
【0003】
また、このポンプ30は、ホイールシリンダ(図示しない)から逃がされてきたリザーバ内のブレーキ液を吸引口34を通じて吸引し、さらにこのブレーキ液を吐出口35を通じてアキュムレータに吐出するようになっている。このとき、ポンプ30とハウジング31との間に流れるブレーキ液の漏れを防止するためや、リザーバ側のブレーキ液圧とアキュムレータ側のブレーキ液圧の差圧を確保するためにシール部材36〜38がポンプに備えられている。アキュムレータ側においては、ABS装置外部へのブレーキ液漏れを防止するためのシール部材として、吐出口35とかしめ部33の間にOリング38を備えている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ポンプ30からABS装置外部へのブレーキ液漏れを防止するためにOリング38を用いる場合には、Oリング38が必要というだけではなく、Oリング38を配置するスペースの必要性からポンプ30の軸方向の長さが長くなってしまい、ABS装置が全体的に大きくなってしまうという問題がある。また、一方では、できる限りポンプ30の長さを短くするために吐出口35を斜め穴加工で形成していたが、このような工程が必要となる分コスト高になるという問題がある。
【0005】
本発明は上記点に鑑みて成されたもので、ポンプから装置の外部へブレーキ液が漏れるのを防止するために必要なシール部材を廃止することができるポンプの組付け構造及びポンプを組付ける方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記Oリング38を廃止し、上記かしめ部33のみによってシール性を確保できるを検討した。ここで、図6(a)、(b)に示すように、ポンプ30の固定は、パンチ32によってハウジング31が押し潰されてできたかしめ部33によって行われている。このとき、かしめ部33とポンプ30が接触しているため、シール性が有るように考えられる。
【0007】
しかしながら、上記固定方法によると、パンチ32とポンプ30の間隙に押しつぶされたハウジング31がパンチとポンプ30間に介在する空間に逃げられるため、かしめ部33とポンプとの接触が弱く、このような接触のみによってはシール性が確保できないということが明らかになった。上記観点に鑑みて、本発明においては以下に示す技術的手段を採用する。
【0008】
請求項1に記載の発明においては、ポンプ本体(1)におけるシリンダ(10)の外周壁のうち、吐出口(9)と前記ハウジング(2)の外部との間に、シリンダ(10)の径方向に一周する溝部(21)を備え、ポンプ本体(1)をハウジング(2)内にかしめ固定することにより、ハウジング(2)の一部を溝部(21)内に嵌入させ、ハウジング(2)の一部により前記溝部(21)内を完全に満たしていることを特徴とする。
【0009】
このように、シリンダ(10)に備えられたシリンダ(10)の径方向に一周する溝部(21)内にハウジング(2)の一部をかしめているため、溝部(21)内以外にハウジング(2)の一部が逃げるスペースがなく、ハウジング(2)の一部により前記溝部(21)内を完全に満たすことができ、溝部(21)におけるポンプ本体(1)とハウジング(2)の面圧を大きくすることができる。これにより、ポンプ本体(1)とハウジング(2)の間からブレーキ液が漏れることを防止することができる。
【0010】
請求項2に記載の発明においては、シリンダ(10)は筒形状をしており、このシリンダ(10)とハウジング(2)の間であって、吸入口(8)と吐出口(9)の間に設けられたシール部材(20)の径よりも溝部(21)の径の方を大きくすることを特徴とする。このように、ポンプ本体(1)を収納するスペースの挿入口に近い側に位置する溝部(21)の径の方を、前記挿入口の遠い側に位置するシール部材(20)の径よりも大きくすることにより吐出口(9)側が高圧になった場合において、径の大きな溝部(21)側に荷重をかけることができる。この荷重によって溝部(21)にポンプ本体(1)とハウジング(2)の面圧を高くすることができる。これにより、ブレーキ液漏れ防止をより効果的に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を図に示す実施形態について説明する。図1にABS装置100にポンプ(ポンプ本体)1を組付けた時の実施形態を示す。また、図2に、図1の左側面図を示す。図1、図2に示すように、ポンプ1は、アルミ製のハウジング2の側面に設けられた穴部(ポンプ1を収納するスペース)に挿入固定されるように組付けられている。 ABS装置100には、図示しないが、ホイールシリンダにおけるブレーキ液圧を逃がすことによりホイールシリンダ圧の減圧を制御する減圧制御弁と、この減圧制御弁の弁位置を可変するソレノイドが備えられている。
【0012】
また、減圧制御弁によって逃がされたブレーキ液を貯留するリザーバ3が備えられており、ポンプ1はこのリザーバ3に逃がされたブレーキ液を吸引・吐出するようになっている。そして、ポンプ1が吐出したブレーキ液は脈動緩和のためのアキュムレータ4を通じてマスタシリンダに連通する管路に戻されるようになっている。さらに、ABS装置100にはモータ5が備えられており、このモータ5によるカム6の回転によってポンプ1駆動が成されるようになっている。
【0013】
なお、減圧制御弁、ソレノイド、リザーバ3、ポンプ1及びアキュームレータ4はハウジング2に設けられた各部屋に分けられて内蔵されており、モータ5はこのハウジング2にネジ締め固定されている。また、ABS装置100はマウント7によって車両に固定されている。次に、本実施形態におけるポンプ1についての詳細を説明する。図1ポンプ1近傍の拡大図を図3に示す。
【0014】
このポンプ1は、プランジャー型ポンプであり、リザーバ3とアキュムレータ4とを結ぶ連通通路を形成するシリンダ10と、このシリンダ10内の連通通路の連通・遮断を制御する2つの弁11、12とを備えている。シリンダ10に形成された連通通路は、2つの弁11、12を内蔵する通路と、この通路とリザーバ3とを連通する吸入口8及びこの通路とアキュムレータ4とを連通する吐出口9によって構成されている。そして、これら2つの弁11、12によって連通通路が3つの背室13、14、15に分けられている。
【0015】
上記2つの弁11、12は共にボール弁11a、12aと弁座11b、12bから構成されており、一方はモータ駆動によるカム6の回転によってピストン運動を行うプランジャーを成すと共にブレーキ液吐出時における逆止弁を成し、他方はシリンダ10に固定されておりブレーキ液吸引時における逆止弁を成している。そして、バネ16はボール弁11aを弁体11b側に押し付けるものであり、バネ17はボール弁12aを弁体12bに押し付けるものであり、バネ18は弁12(プランジャー)をカム6方向に押し付けるものである。なお、弁12には、弁12とシリンダ10との間隙にXリング50が備えられておりブレーキ液が漏れるのを防止している。
【0016】
また、シリンダ10の外壁面には、リザーバ3から背室15に送られるブレーキ液がシリンダ10とハウジング2の間隙からカム6の方向へ漏れるのを防止するためにOリング19が備えられており、またリザーバ3側のブレーキ液圧とアキュムレータ4側のブレーキ液圧の差圧を確保するためにOリング20が備えられている。
【0017】
そして、吐出口9を通じてアキュムレータ4に送られるブレーキ液がシリンダ10とハウジング2との間隙から漏れないようにシリンダ10の外壁面に、このシリンダ10を一周するように形成された三角溝(溝部)21にハウジング2の一部がかしめられている。この三角溝21におけるかしめによる面圧によって、ブレーキ液漏れ防止が成されている。
【0018】
ここで、ポンプ1を固定する工程を図4(a)、(b)に基づき説明する。ハウジング2には、ポンプ1の形状に相当する穴部が形成されており、この穴部にポンプ1を挿入する。この穴部の挿入口の径と、シリンダ10のうちの最も穴部の入口側径を略同等にしており、ポンプ1を穴部に挿入した時には穴部がシリンダ10によってほぼ塞がれた状態になる。
【0019】
この後、穴部の挿入口と略同等の径の凹み部22aを有するパンチ22にて、穴部の挿入口部分を押し潰し、シリンダ10に形成された三角溝21にかしめられ、これによりポンプ1がハウジング2に固定される。このとき、三角溝21ないが完全にハウジング2の一部によって満たされると、三角溝21に嵌入したハウジング2の一部は三角溝21から逃げる場所を失う。このため三角溝21におけるポンプ1とハウジング2との面圧が大きくなる。これにより、ハウジング2とシリンダ10の間隙からブレーキ液が漏れるのを防止することができる。
【0020】
さらに、シリンダ10のうちの最も穴部の挿入口側の径を穴部の挿入口の径と略同等にし、さらにパンチ22に形成している凹み部22aを穴部の挿入口と略同等の径にしているため、パンチ22で穴部の挿入口を押し潰すときに、押し潰された部分が三角溝21以外に逃げる場所がない。このため、三角溝に嵌入したハウジング2の一部とシリンダ10はより大きな面圧をもって固定され、ブレーキ液漏れがより効果的に行える。
【0021】
そして、本実施形態ではさらに、溝部21によるブレーキ液漏れをより効果的に行うために、シリンダ10のうち、三角溝の形成されている部分の径LをOリング20の形成されている部分の径Mに比して大きくなるようにしている。すなわち、アキュムレータ4側(背室16)のブレーキ液圧が高圧になった場合、径Lを径Mよりも大きくしているため、径が大きい側、つまり溝部21側に大きな荷重がかかる。この荷重によって、ポンプ1とハウジング2における面圧が上昇し、より効果的にブレーキ液漏れを防止できる。
【0022】
次に、ポンプ1の具体的な作動について説明する。ABS装置100が作動しない、いわゆるノーマルブレーキ時にはポンプ4はピストン運動しない。この場合、ボール弁11aが弁座11bに着座しているため弁11は逆止弁として働き、背室16にアキュムレータ4を介してブレーキ液圧がかかり、高圧になる。この様な場合にも、溝部21におけるポンプ1とハウジング2の面圧によってブレーキ液漏れを防止することができる。また、このような場合においては、上述したように、径Lを径Mより大きくしているため、溝部21におけるポンプ1とハウジング2の面圧を上昇させることができ、効果的にブレーキ液漏れを防止することができる。
【0023】
ABS装置100が作動する際には、カム6の回転によって弁12がピストン運動を行う。まず、弁12が紙面右方向に動くときにはリザーバ3におけるブレーキ液の吸引を行う。このときには、バネ16の弾性力によってボール弁11aが弁座11bに着座し、弁11は逆止弁としての働きをする。そして、背室15に介在するブレーキ液の液圧によってボール弁12aが弁座12bから離れる。これにより背室15におけるブレーキ液が背室15に流れ込み、リザーバ3におけるブレーキ液の吸引が成される。
【0024】
そして、弁12が紙面左方向に動くときにはアキュムレータ4へのブレーキ液の吐出を行う。このときには、バネ14の弾性力及び背室14に介在するブレーキ液の液圧によってボール弁12aが弁座12bに着座した状態になって逆止弁として働く。そして、弁12の紙面右方向への摺動によって背室14内のブレーキ液圧が上昇し、ボール弁11aが弁座11bから離れる。これにより背室14におけるブレーキ液が吐出口9を通じてアキュムレータ4に吐出される。
【0025】
このようにして、ポンプ1によるブレーキ液の吸引・吐出が行われ、このような場合においても溝部21におけるポンプ1とハウジング2の面圧によってブレーキ液漏れを防止することができる。このように、溝部21におけるポンプ1とハウジング2のの面圧を大きくすることにより吐出口9とかしめとなる溝部21の間にシール部材を備えなくてもポンプ1とハウジング2の間隙からABS装置100の外部へブレーキ液が漏れることを防止することができる。これにより、シール部材を配置するスペースが必要なくなるため、ポンプ1の軸方向の長さを短くすることができ、ABS装置の小型化が図れると共に、吐出口9を斜め加工で形成する必要がなくなるため斜め加工に必要な工程をなくすことができる。
【0026】
なお、径Mが径Lよりも小さくなっており、Oリング20が管路25の開口部に接触しないため、開口部近傍を丸め処理してOリング20が破損しないようするいわゆるリセス処理を行う必要がない。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本実施形態にかかわるポンプのシール構造を適用したABS装置の模式図である。
【図2】図1に示すABS装置の左側面図である。
【図3】図1におけるポンプ近傍の拡大図である。
【図4】図1に示すポンプを固定する工程を示す説明図である。
【図5】従来におけるポンプのシール構造を示す図である。
【図6】図5に示すポンプを固定する工程を示す説明図である。
【符号の説明】
【0028】
1…ポンプ、2…ハウジング、3…リザーバ、4…アキュムレータ、5…モータ、6…カム、8…吸入口、9…吐出口、10…シリンダ、11、12…弁、13、14、15…背室、19、20…Oリング、21…かしめ部、22…パンチ、22a…凹み部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ(10)と、
このシリンダ(10)内に設けられピストン運動を行うプランジャー(12)と、
前記ピストン運動によってブレーキ液を吸引口(8)から吸引すると共に、吐出口(9)からブレーキ液の吐出を行うポンプ本体(1)と、
前記ポンプ本体(1)を挿入口から挿入するスペースを備えたハウジング(2)とを有し、
前記ポンプ本体(1)を前記ハウジング(2)内に収納してなるブレーキ液圧制御装置において、
前記ポンプ本体(1)のうち前記シリンダ(10)の外周壁には、前記吐出口(9)と前記ハウジング(2)の外部との間において、前記シリンダ(10)の径方向に一周する溝部(21)が備えられており、
前記ポンプ本体(1)を前記ハウジング(2)内にかしめ固定することにより、前記ハウジング(2)の一部を前記溝部(21)内に嵌入させ、前記ハウジング(2)の一部により前記溝部(21)内が完全に満たされていることを特徴とするブレーキ液圧制御装置の組付け構造。
【請求項2】
前記シリンダ(10)は筒形状をしており、前記シリンダ(10)と前記ハウジング(2)の間であって、前記吸引口(8)と前記吐出口(9)の間には、このシリンダ(10)の径方向に一周するシール部材(20)が備えられており、このシール部材(20)の径よりも前記溝部(21)の径を大きくすることを特徴とする請求項1に記載のブレーキ液圧制御装置用ポンプの組付け構造。
【請求項3】
前記ハウジング(2)の前記かしめ固定された部分が前記ポンプ本体(1)の周囲全域において該ポンプ本体(1)の外周面と接する凹みになっていることを特徴とする請求項1または2に記載のブレーキ液圧制御装置の組付け構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−276776(P2007−276776A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−122412(P2007−122412)
【出願日】平成19年5月7日(2007.5.7)
【分割の表示】特願平9−148131の分割
【原出願日】平成9年6月5日(1997.6.5)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】