説明

ブレーキ装置操作用クラッチユニット

【課題】外筒と保持器との駆動回転後の復帰回転を単一のばねで行なう。
【解決手段】中立位置からの駆動回転と復帰回転とが交互に行われる外筒18と、該外筒18の内周側に配置され該外筒18からの駆動回転のみが伝達される内筒19と、外筒18と内筒19との間に配置されたローラ20と、該ローラ20を保持する保持器21と、外筒18の内周面に形成され最大隙間位置から円周方向のいずれの方向へも内筒19との隙間が小さくなるように形成された楔面18dと、外筒18の駆動回転により蓄勢されてその後に放勢されることにより外筒18と保持器21との双方を中立位置へ復帰回転させるばね22と、該ばね22と、保持器21の回転に回転抵抗を付与する制動ばね23とを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートリフタに用いられているブレーキ装置を操作するためのブレーキ装置操作用クラッチユニットに関し、操作力を低減させたものである。
【背景技術】
【0002】
自動車のシートには、シートの全体を昇降させて高さ位置を調整するためのシートリフタを搭載したものがある。シートリフタを搭載したシートの基本的な構成を図10(a)に示す。シート1はシートクッション1aとシートバック1bとにより構成されており、シートクッション1aの下にはシートリフタ2が設けられている。即ち、車体の床面に結合されたロアレール3の上に前後方向へスライド可能にアッパレール4が設けられ、該アッパレール4にシートリフタ2を介して昇降可能にシートクッション1aが設けられている。
【0003】
前記シートリフタ2は、以下のように構成されている。駆動リンク5と従動リンク6との下端部がアッパレール4に軸5a,6aを介して回動自在に結合され、上端部が軸5b,6bを介してシートクッション1aの下部に回動自在に結合されている。図10(b)に示すように、駆動リンク5を前後方向へ駆動するため扇形のセクターギヤ8の中心部が軸8aを中心としてシートクッション1aに回動自在に設けられ、該セクターギヤ8の軸8aから離れた外周部に配置されたピン8bと前記駆動リンク5の中間部に配置されたピン5cとが連結リンク7を介して連結されている。セクターギヤ8の外周部に形成された歯8cにはブレーキ装置9の出力軸9aに設けたピニオンギヤ9bが噛み合っている。また、ブレーキ装置9の図示しない入力軸をいずれかの方向へ駆動するためのクラッチユニット10が連結されており、該クラッチユニット10の図示しない入力軸には往復回動させるための操作レバー10aが設けられている。
【0004】
前記ブレーキ装置9は、図示しない入力軸が停止しているときには出力軸9aがロックされ、図示しない入力軸をいずれかの方向へ回転させると、出力軸9aもいずれかの方向へ回転するように構成されている。一方、ブレーキ装置9に連結されたクラッチユニット10は、操作レバー10aを中立位置Sから正逆方向のいずれかの方向へ向って往復回転を繰り返すと、クラッチユニット10の出力軸が正逆方向のいずれか一方向へ少しずつ間欠的に回転される。このため、操作レバー10aを中立位置Sから正逆方向のいずれかの方向へ向って往復回転を繰り返すと、ブレーキ装置9の出力軸9aもいずれかの方向へ少しずつ間欠的に回転し、セクターギヤ8が正逆方向のいずれかの方向へ回動し、アッパレール4に対する駆動リンク5,従動リンク6の傾斜角度が増減することから、シート1が上昇あるいは下降する。
【0005】
前記のように操作レバーの往復回転運動を間欠的な回転運動に変換するためのブレーキ装置操作用クラッチユニットとしては、例えば特許文献1に記載のものが知られている。この特許文献1の図8において、第1クラッチ15は本願の図10(b)におけるクラッチユニット10と対応し、第2クラッチ部16はブレーキ装置9と対応する。特許文献1の第1クラッチ部15は、特許文献1の図4に示すように、外輪1のカム面1Aaのうちの内輪2との隙間が最大になる部分の位置がローラ3と対応する中立状態にあり、この状態から図1の操作レバー6の往復回転を繰り返して図5のように外輪1を反時計方向へ回転させると、カム面1Aaが反時計方向へ回転してローラ3に係合する。このため、外輪1・ローラ3・保持器4・内輪2の4者が一体となって反時計方向へ回転し、このとき図3に示す外輪1の係止部1aが第一の弾性部材5Aの端部5A1を押圧して第一の弾性部材5Aが蓄勢されると共に、ローラ3を保持する保持器4が第二の弾性部材5Bの端部5B1を押圧して第二の弾性部材5Bが蓄勢される。このあと操作レバー6を開放すると、図6に示すように外輪1・ローラ3・保持器4の3者が第一の弾性部材5A,第二の弾性部材5Bの放勢により時計方向へ一体となって回転し、中立状態に復帰する。一方、内輪2はそのままの位置を保持していることから、結果として内輪2のみが反時計方向へ回転したことになる。従って、操作レバー6の往復回転を繰り返し行うと、内輪2の少ない回転が蓄積されていずれかの方向の回転が、図8の第1クラッチ部15から第2クラッチ部16へと入力され、シート1が上昇または下降する。
【0006】
このほか、特許文献2に記載の発明においても、図17に示すように、円筒コロ16を保持する保持器17を復帰させるための第一の弾性部材18と、外輪14を復帰させるための第二の弾性部材19との2つの弾性部材が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−166555号公報
【特許文献2】特開2009−030635号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、特許文献1,2に記載のブレーキ装置操作用クラッチユニットは、いずれも外輪を中立状態に復帰させる第一弾性部材とローラを保持する保持器を中立状態に復帰させる第二弾性部材との2つの弾性部材を設けることから、外輪を中立状態から正逆方向のいずれかの方向へ回転させる際に、2つの弾性部材を蓄勢しながら回転操作を行なうことになり、大きな操作力が必要になる。
【0009】
そこで本発明は、上記の課題を解決したブレーキ装置操作用クラッチユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に係る発明は、中立位置から正逆のいずれかの方向へ向かう駆動回転と該駆動回転とは反対方向へ向かう復帰回転とが交互に行われる入力側回転部材と、該入力側回転部材の内周側または外周側に配置され該入力側回転部材からの前記駆動回転のみが伝達される出力側回転部材と、前記入力側回転部材と前記出力側回転部材との間に円周方向に沿って複数配置された係合子と、該係合子の円周方向の間隔を保持する保持部材と、前記入力側回転部材における前記出力側回転部材との対向面に形成され前記入力側回転部材が中立位置を占めるときに前記係合子の位置が最大隙間位置となって該最大隙間位置から円周方向のいずれの方向へも前記出力側回転部材との隙間が小さくなるように形成された対となる楔面と、前記入力側回転部材の駆動回転により蓄勢されてその後に放勢されることにより前記入力側回転部材を中立位置へ復帰回転させかつ前記入力側回転部材の駆動回転により中立位置から回転した前記保持部材を前記入力側回転部材の復帰と同期して中立位置へ復帰回転させる付勢手段と、前記保持部材の回転に回転抵抗を付与する回転抵抗付与手段とを備えていることを特徴とする。
【0011】
この発明によれば、入力側回転部材を中立位置からいずれかの方向へ駆動回転させると、少し回転したときに円周方向へ移動する入力側回転部材の対となる楔面の一方が係合子と係合し、該一方の楔面が係合子の転がりを規制することから、入力側回転部材・係合子・保持部材・出力側回転部材の4者が一体となって回転する。その後に入力側回転部材を開放すると、入力側回転部材の前記駆動回転により蓄勢されていた付勢手段が放勢され、入力側回転部材が中立位置へ向って復帰回転を開始し、入力側回転部材の最大隙間位置が係合子の位置まで復帰すると、付勢手段の放勢が保持部材にも作用し、その後は入力側回転部材と保持部材とが、入力側回転部材と係合子とが接触しない状態である「接触しない相対位置関係」を保持した状態で、入力側回転部材・係合子・保持部材の3者が同期して中立位置へ復帰する。つまり、出力側回転部材だけが復帰しないので、結果として出力側回転部材のみが駆動方向へ回転したことになる。従って、入力側回転部材の駆動方向への往復回転を繰り返すと、出力側回転部材の駆動方向への少ない回転のみが間欠的に行われ、駆動方向への少ない回転が蓄積されることになる。前記のように入力側回転部材のみが付勢手段の放勢により復帰回転を開始し、係合子と接触していた入力側回転部材が係合子から離れてから入力側回転部材の前記最大隙間位置が係合子と対応する位置へ復帰回転して入力側回転部材と係合子とが「接触しない相対位置関係」になるまでの間は、保持部材は回転抵抗付与手段により回転が抑制されてその位置を保持するので、駆動回転の際のように、入力側回転部材の楔面が係合子に係合して入力側回転部材・係合子・保持部材・出力側回転部材の4者が一体となって復帰回転するのが回避される。
【0012】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載のブレーキ装置操作用クラッチユニットにおいて、前記回転抵抗付与手段が、静止側部材の外周面または内周面に圧接されるリング部と、該リング部の両端部に設けられ前記保持部材に形成された係止部と係合することにより前記保持部材に対して前記リング部を回転方向に保持する端部とを有する制動ばねであることを特徴とする。
【0013】
この発明によれば、制動ばねの付勢力により制動ばねのリング部と静止側部材の外周面または内周面との間に摩擦抵抗が作用し、静止側部材に対して保持部材が回転するのが、抑制される。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係るブレーキ装置操作用クラッチユニットによれば、入力側回転部材の復帰回転だけでなく保持部材の復帰回転についても、単一の付勢手段の放勢によって行われるので、従来のように付勢手段を2つ設ける必要がない。このため、従来は入力側回転部材を駆動回転させる際に第1付勢手段の蓄勢と第2付勢手段の蓄勢との双方の蓄勢を同時に行って入力側回転部材の操作のために大きな操作力を必要としていたが、単一の付勢手段の蓄勢のための操作力と、保持部材の回転抵抗よりも大きな操作力とを加えた操作力があれば足りるので、駆動回転に要する操作力が小さくて済み、操作性が向上する。
【0015】
請求項2に係るブレーキ装置操作用クラッチユニットによれば、単一の付勢手段の蓄勢のための操作力に、制動ばねのリング部と静止側部材の外周面または内周面との摩擦抵抗による抵抗力を加えたものが、入力側回転部材を駆動回転させる操作力となり、入力側回転部材と共に回転する保持部材の抵抗力を一定にすることができる。また、制動ばねは拡径または縮径する必要がなく、拡径または縮径するためのスペースを確保する必要がないため、制動ばねの設置スペースは少なくて済み、クラッチユニットの小型化が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】ブレーキ装置とクラッチユニットとの構成図(実施の形態1)。
【図2】ブレーキ装置とクラッチユニットの分解斜視図(実施の形態1)。
【図3】ブレーキ装置とクラッチユニットとの斜視図(実施の形態1)。
【図4】ブレーキ装置の原理図であり、(a)は拘束状態の説明図、(b)は回転方向の拘束を解除した状態の説明図、(c)は回転方向へ一体に回転している状態の説明図(実施の形態1)。
【図5】(a)は図1のA−A矢視図と対応し外筒とローラとが中立位置を占める状態を示す説明図、(b)はばねの蓄勢状態を示す説明図(実施の形態1)。
【図6】(a)は外筒をローラと係合するまで反時計方向へ駆動回動させた状態を示す説明図、(b)はばねの蓄勢状態を示す説明図(実施の形態1)。
【図7】(a)は外筒・ローラ・保持部材・内筒の4者が一体となって駆動回転した状態を示す説明図、(b)はばねの蓄勢状態を示す説明図(実施の形態1)。
【図8】(a)は外筒のみがその最大隙間位置がローラと対応する位置まで復帰回転した状態を示す説明図、(b)はばねの蓄勢状態を示す説明図(実施の形態1)。
【図9】(a)は外筒・ローラ・保持部材の3者が中立位置まで復帰回転した状態を示す説明図、(b)はばねの蓄勢状態を示す説明図(実施の形態1)。
【図10】(a)はシートリフタを搭載した車両用シートの構成図、(b)はシートリフタの拡大図。
【図11】ブレーキ装置とクラッチユニットとの構成図(実施の形態2)。
【図12】図11のB−B矢視図(実施の形態2)。
【図13】図11のC−C矢視図(実施の形態2)。
【図14】図11のD−D矢視図(実施の形態2)。
【図15】ブレーキ装置とクラッチユニットとの斜視図(実施の形態2)。
【図16】ブレーキ装置とクラッチユニットとの平面図(実施の形態2)。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明によるブレーキ装置操作用クラッチユニットの実施の形態を、実施の形態1,2として、以下に説明する。
(a)実施の形態1
まず、実施の形態1について説明する。
(構成)
図1にシートリフタをロックするブレーキ装置とクラッチユニットとを示す。シートリフタはシートが自重により降下しようとするが、ブレーキ装置によりロックされており、該ブレーキ装置をいずれかの方向へ駆動してシートを昇降させるためにクラッチユニットが設けられている。図1において、11は図10の符号9と対応するブレーキ装置であり、12は図10の符号10と対応するクラッチユニットである。
【0018】
まず、シートリフタをロックするブレーキ装置11の構成を簡単に説明する。前記のように、ブレーキ装置11は、入力軸(クラッチユニット12の出力側回転部材である後述の内筒19)が停止しているときには出力軸14aがロックされており、入力軸をいずれかの方向へ回転させると、出力軸14aもいずれかの方向へ回転するように構成されている。そして、ブレーキ装置11の出力軸14aにはピニオンギヤ14bが設けられている。なお、14cは出力軸14aとは反対側へ突出して出力軸14aと一体に形成された出力軸の軸部である。
【0019】
このブレーキ装置11の原理を図4に基づいて簡単に説明する。ブレーキ装置11の入力軸には図示しないフランジ部が一体に形成され、該フランジ部の外周部を軸方向へ曲げるようにして対となる爪部13aが円周方向へ並べて複数形成され、内周側にはエンボス状の突起13bが円周方向へ並べて複数形成されている。一方、出力軸14aと一体にフランジ部14dが形成され、該フランジ部14dの外周面が多角形状(この実施の形態では略6角形状)に形成されてカム面14eを構成している。このフランジ部14dには前記突起13bの外径寸法よりも大きい内径寸法を有する孔14fが前記突起13bの数と対応させて複数形成され、該孔14fに前記突起13bが、円周方向の両側に所定の隙間を有する状態で挿入されている。フランジ部14dの外周には外輪15が設けられ、該外輪15の内周面とフランジ部14dのカム面14eとの間には前記対となる爪部13aの間に一対のローラ16とばね17とが設けられている。この外輪15は、図10(a)におけるシートクッション1aのフレームに固定されている。
【0020】
ブレーキ装置11の入力軸(後述する内筒19)が停止しているときは、図4(a)に示すように爪部13a,突起13bが停止しているので、ばね17の付勢力により一対のローラ16が互いに離間する方向へ付勢され、カム面14eと外輪15の内周面との間で隙間の小さくなる左右方向へ互いに押圧されて食い込むことにより、フランジ部14dの回転が拘束されている。このため、外輪15に対する出力軸14aの回転がロックされており、シートの上下動が阻止されている。次に、入力軸を回転させて図4(b)に示すように爪部13a,突起13bが時計方向へ回動すると、爪部13aが左のローラ16を右方へ押すためフランジ部14dは時計方向へ回動し得る状態になり、左のローラ16が右方へ押されて食い込みが解除された後に、突起13bが孔14fの内壁を押圧することにより、図4(c)に示すように回動し得る状態のフランジ部14dが時計方向へ入力軸と一体に回転駆動される。このため、出力軸14aが時計方向へ回転駆動される。逆に、反時計方向へ爪部13a,突起13bが回動する場合も同様にして、出力軸14aが反時計方向へ回転駆動される。
【0021】
次に、クラッチユニット12の構成について説明する。クラッチユニット12は図2に示すように入力側回転部材としての外筒18と、出力側回転部材(ブレーキ装置11の入力軸)としての内筒19と、係合子としてのローラ20と、該ローラ20を保持する保持部材としての保持器21等により構成されている。前記外筒18は、筒形状に形成された筒部18aと、該筒部18aの一方側に径方向外側へ向かって一体に突出形成されたフランジ部18bと、該筒部18aの他方側に径方向内側へ向かって一体に突出形成された軸方向規制部18cとにより構成されている。該軸方向規制部18cの中央部に前記ブレーキ装置11の出力軸14cが挿入され、突出した出力軸14cの端部に図示しないストッパを取り付けることで、外筒18の軸方向移動が規制されている。外筒18は、フランジ部18bに結合された図示しない操作レバーを介して操作され、中立位置Sから正逆のいずれかの方向へ向かう駆動回転と該駆動回転とは反対方向へ向かう復帰回転とが交互に行われる。前記内筒19は、円筒形であって内部にブレーキ装置11の前記出力軸14cが挿入された状態になっている。内筒19は外筒18の内周側に配置され前記外筒18からの前記駆動回転のみが伝達される。この内筒19の一端側には、前記ブレーキ装置11の入力軸として図示しない前記フランジ部が一体に形成されている。前記ローラ20は、前記外筒18と前記内筒19との間に円周方向に沿って複数配置されている。前記保持器21は、図2に示すように略円筒形の部材に、その内部から外部へ貫通する収容部を、ローラ20の数だけ形成したものである。
【0022】
前記内筒19と対向する前記外筒18の対向面である内周面には、楔面18dが形成されている。即ち、該楔面18dは、図5に示すように外筒18が中立位置を占めるときに前記ローラ20と対応する位置が外筒18の最大隙間位置(図5の黒丸印で示す)18eとなり、該最大隙間位置18から円周方向のいずれの方向へも前記内筒19との隙間が小さくなるように、ローラ20毎に1対の楔面18dが形成されている。つまり、本実施の形態ではローラ20の数が12なので、楔面18dの数も12だけ形成され、これにより外筒18は正12角形の筒形状になっている。
【0023】
前記外筒18の中立位置からの駆動回転により蓄勢されてその後に放勢されることにより外筒18を中立位置へ復帰回転させかつ外筒18の駆動回転によりローラ20を介して連れ回りした保持器21を外筒18と同期して中立位置へ復帰回転させる付勢手段としてのばね22が設けられている。該ばね22は内筒19を囲繞するリング部22aと、該リング部22aから径方向外側へ向かって屈曲された端部22bとにより構成されている。図2に示すように前記ブレーキ装置11を構成する外輪15の外部の端面15aには切り起しにより固定ばね掛け部15bが形成され、図3に示すように該固定ばね掛け部15bを挟むようにして、ばね22の端部22bが位置決めされている。前記外筒18を駆動回転させたときにばね22を蓄勢させるため、図2に示すように外筒18のフランジ部18bの外周部には、軸方向下方へ突出する可動ばね掛け部18fが形成されている。この可動ばね掛け部18fは、図1,図5(b)に示すようにばね22の一対の端部22bどうしの間であって、径方向における固定ばね掛け部15bの外側に位置している。
【0024】
保持器21を中立位置へ復帰回転させるために前記ばね22を兼用するが、前記ばね22の放勢が開始されて前記ばね22の放勢が保持器21に及ぶまでの間に、保持器21が回転してローラ20が楔面18dに係合することがないようにその場に保留する必要がある。このため、保持器21の自由な回転を抑制するために、保持器21に回転抵抗を付与する回転抵抗付与手段として制動ばね23が設けられている。以下、詳細に説明する。
【0025】
回転が拘束された静止側部材として、本実施の形態では図2に示す前記出力軸14cが利用されており、該出力軸14cの外周面に圧接されるリング部23aと、該リング部23aから径方向外側へ向かって屈曲する一対の端部23bとにより、制動ばね23が構成されている。図1に示すように、リング部23aは前記出力軸14cを囲繞した状態で内筒19の端面に隣接して設けられ、その端部23bは図3に示すように保持器21の端面から軸方向の上方へ突出形成されたばね係止部21aに係止されている。この実施の形態では静止側部材として出力軸14cを用いているが、これは、出力軸14cは本来は回転するものであるが、外筒18が復帰回転している最中には出力軸14cはブレーキ装置11によって外輪15に回転することなく保持されており、静止側部材としての機能を果たすことができるからである。そして、前記ばね22を用いて前記保持器21を中立位置へ復帰させるため、図2に示すように保持器21のばね係止部21aとは反対側の端面から軸方向の下方へ突出させて可動ばね掛け部21bが形成されている。この可動ばね掛け部21bは、図1,図3に示すようにばね22の一対の端部22bどうしの間であって、径方向での前記固定ばね掛け部15bの内側に位置している。このため、ばね22の放勢により、外筒18が復帰を開始して図8(a)に示す最大隙間位置18eがローラ20の位置まで移動すると、ばね22の端部22が、可動ばね掛け部18f,21bを同時に押して保持器21と外筒18を回転させて同期して中立位置に復帰するように設定されている。
(作用)
次に、ブレーキ装置操作用クラッチユニットの作用を図5〜図9に基づいて説明する。
【0026】
まず、図10に示すように、操作レバーが中立位置Sを占めている時に、クラッチユニット12は、図5(a)に示すように、ローラ20と外筒18の最大隙間位置(黒丸印の位置)18eが夫々中立位置Sを占めている。なお、説明の便宜上から、図中にはこのときに内筒19の中立位置Sを占める部分にも、黒丸印を記入している。また、説明に用いるローラ20のひとつには斜線が施され、中立位置Sにおける、最大隙間位置18eとローラ20と内筒19の黒丸印との関係が視覚的に表示されている。
【0027】
この発明によれば、図5(a)の中立位置Sから、図示しない操作レバーを操作して外筒18を駆動回転させ、外筒18の最大隙間位置18eを例えば反時計方向へ駆動回転をさせると、図6(a)に示すように中立位置Sからαだけ回転したときに、円周方向へ移動する外筒18の内面の対となる楔面18のうちのローラ20に対して時計方向側の一方がローラ20と係合する。このため、反時計方向への駆動回転を継続すると、該一方の楔面18dがローラ20の転がりを規制し、外筒18・ローラ20・保持器21・内筒19の4者が一体となって反時計方向へ回転し、図7(a)に示すように外筒18の最大隙間位置18eは中立位置Sからθ2の位置まで回転する。このとき、ローラ20および内筒19の黒丸印は中立位置Sからの角度がθ1の位置にある。この状態では、外筒18の前記駆動回転により図7(b)に示すように可動ばね掛け部18fがばね22の一方の端部22bを反時計方向へ押圧してばね22を蓄勢しており、その後に外筒18を開放すると、中立位置Sからの角度がθ2の位置で開放された外筒18のみがばね22の放勢により中立位置Sへ向って復帰回転を開始する。そして、外筒18が角度βだけ復帰回転し、図8(a)に示すように外筒18の最大隙間位置18eがローラ20の位置(中立位置Sからの角度がθ1の位置)まで復帰し、外筒18とローラ20とが接触しない「接触しない相対位置関係」になると、図8(b)に示すように、放勢されるばね22の一方の端部22bの内周側の部分が保持器21の可動ばね掛け部21bを円周方向へ押圧することになるため、その後はばね22の放勢が保持器21にも作用し、外筒18とローラ20とが「接触しない相対位置関係」を保持した状態で、外筒18・ローラ20・保持器21の3者が同期して復帰回転し、図9(a)に示すように外筒18の最大隙間位置18eおよびローラ20が中立位置Sへ復帰する。つまり、内筒19だけが復帰しないので、結果として内筒19のみが駆動方向へ角度θ1だけ回転したことになる。従って、外筒18の駆動方向への往復回転を繰り返すと、内筒19の駆動方向への角度θ1の回転のみが間欠的に蓄積されることになる。
【0028】
図7(a)に示す状態から外筒18が開放され、ばね22の放勢により外筒18のみが復帰回転を開始し、ローラ20と接触していた外筒18の内面の対となる楔面18のうちのローラ20に対して時計方向側の一方がローラ20から離れてから、図8(a)に示すように外筒18の前記最大隙間位置18eがローラ20と対応する状態まで復帰回転して外筒18とローラ20とが「接触しない相対位置関係」になるまでの間は、保持器21は制動ばね23により回転が抑制されてその位置を保持する。このため、図7(a)から図8(a)に戻るまでの間に、ローラ20が反時計方向へ移動することにより、外筒18の内面の対となる楔面18のうちのローラ20に対して反時計方向側の他方がローラ20に係合して外筒18・ローラ20・保持器21・内筒19の4者が一体となって復帰回転し、内筒19が復帰回転してしまう事態が回避される。なお、外筒18の最大隙間位置18eが中立位置Sにある状態から、外筒18をいずれかの方向へ回動させて対となる楔面18のうちのいずれかがローラ20に係合するまでの外筒18の前記回転角度α,βは言うまでもなく等しく、α=βである。
【0029】
このブレーキ装置操作用クラッチユニットによれば、外筒18の復帰回転と、保持器21の復帰回転が、単一のばね22の放勢によって行われるので、従来のように付勢手段を2つ設ける必要がない。このため、従来は外筒18を駆動回転させる際に2つのばねの蓄勢を同時に行って外筒18の操作のために大きな操作力を必要としていたが、単一のばね22の蓄勢のための操作力と、制動ばね22の回転抵抗よりも大きな操作力とを加えた操作力があれば足りるので、駆動回転に要する操作力が小さくて済み、操作性が向上する。
【0030】
この発明によれば、制動ばね23の付勢力により制動ばね23のリング部23aと出力軸14cの外周面との間に摩擦抵抗作用し、出力軸14cに対して保持器21が回転するのが抑制され、静止側部材として出力軸14cを用いることで、制動ばね23とばね22を保持器21の軸方向両側に挟むように配置でき、クラッチユニット12の小型化を図ることができる。
【0031】
このブレーキ装置操作用クラッチユニットによれば、ばね22の蓄勢のための操作力に、制動ばね23のリング部23aと出力軸14cの外周面との摩擦抵抗による抵抗力を加えたものが、外筒18を駆動回転させる操作力となり、外筒18と共に回転する保持器21の抵抗力を一定にすることができる。また、制動ばね23は拡径または縮径をする必要がなく、拡径または縮径のためのスペースを確保する必要がないため、制動ばね23の設置スペースは少なくて済み、クラッチユニット12の小型化が図れる。
(b)実施の形態2
次に、実施の形態2について説明する。実施の形態1は外周側に入力側回転部材を配置し、内周側に出力側回転部材を配置したものであるが、この実施の形態は、実施の形態1とは逆であって内周側に入力側回転部材を配置し、外周側に出力側回転部材を配置したものである。
(構成)
この実施の形態2は、図11のように一端面側が閉じた略円筒形状のケース27の内部に、ブレーキ装置25とクラッチユニット26とを一体に組み込み、軸方向の開口部である下面を蓋体27aにより閉じたものである。図15に示すように、ケース27の開口側に設けたフランジ部には孔27eが形成され、該孔27eに蓋体27aに形成されたバーリング部27fを嵌合して該バーリング部27fを外側へ折り曲げるように開いてカシメ固定することにより、ケース27に蓋体27aが結合されている。このケース27は、バーリング部27fの内部に挿入したねじ等の固定手段により、図10(a)におけるシートクッション1aのフレームに固定される。
【0032】
まず、ブレーキ装置25について説明する。図11に示すように前記蓋体27aにはブレーキ装置25の出力軸29が回転自在に支持されており、図15に示すように該出力軸29にはピニオンギヤ29aとオススプライン29bとが設けられている。そして、該ピニオンギヤ29aの反対側には支持軸部29cが一体に形成されている。
【0033】
出力軸29には、該出力軸29と一体に回転するカムフランジ30が装着されている。図15に示すように該カムフランジ30は円板部30aと円筒部30bとからなり、円板部30aの内周面にメススプライン30cが形成されている。該メススプライン30cが出力軸29の前記オススプライン29bに圧入されて結合されている。前記円筒部30bの外周面には実施の形態1の図4カム面14eと同様のカム面30dが形成されている。夫々のカム面30dの円周方向の中間位置には、径方向外側へ向かって突出するばね保持部30eが形成されている。そして、該ばね保持部30eを囲繞するようにして略U字形のばね32が設けられ、該ばね32を円周方向から挟む位置であってカム面30dと前記ケース27の内周面との間には、一対のローラ31が設けられている。
【0034】
図11におけるカムフランジ30の軸方向の上側に隣接して、クラッチユニット26の出力側回転部材とブレーキ装置25の入力側回転部材とを兼用する入出力部材33が設けられている。該入出力部材33は、図15にも示すように径方向中心側のフランジ部33aと、該フランジ部33aから軸方向上方へ突出する円筒形の出力部33bと、該出力部33bの端部から径方向外側へのびるリング部33cと、該リング部33cから軸方向下方へ戻るように突出する複数対の爪部33dとにより構成されている。そして、入出力部材33の出力部33bと爪部33dとの間に、図11の下から前記カムフランジ30の円筒部30bが入り込み、図11のカムフランジ30の円筒部30bの上部端面と入出力部材33のリング部33cの下面(内面)との間には、軸方向の離間する方向へ付勢するリング状の板ばね34が介装されている。円周方向の隣り合う爪部33dどうしの間であって、内周側のカムフランジ30の円筒部30bと外周側のケース27の内周面との間には、前記一対のローラ31と前記ばね32と前記ばね保持部30eとが挟まれた状態になっている。
【0035】
次に、クラッチユニット26について説明する。中立位置から正逆のいずれかの方向へ向かう駆動回転と、該駆動回転とは反対方向へ向かう復帰回転とが交互に行われる入力側回転部材として、略筒形状の内筒35が、前記支持軸部29cに回転支持されている。該内筒35の外周側に配置され該内筒35からの前記駆動回転のみが伝達される出力側回転部材として、前記の円筒形の出力部33b(入出力部材33)が設けられている。前記内筒35と前記出力部33bとの間には、係合子としてのローラ36が円周方向に沿って複数配置されている。該ローラ36は、保持部材としての略筒形状の保持器37により円周方向の間隔が一定に保持されている。入出力部材33はフランジ部33aの中心孔の内周面が内筒35の反突出部35b側の端面に形成した軸部35cに回転自在に支持されている。
【0036】
内筒35の外周面であって、前記円筒形の出力部33bの内周面と対向する面には、対となる楔面35aが形成されている。実施の形態1では内周面に楔面が形成されていたが、実施の形態2では外周面に楔面が形成されており、この点が異なる。図14に示すように内筒35の外周面には対となる2つの楔面35aが略V字形に形成され、この対となる2つの楔面35aが内筒35の外周面にローラ36の数に対応させて複数組形成されている。対となる2つの楔面35aと出力部33bの内周面との隙間が最大になるのは、図14に黒丸印で示すように対となる2つの楔面35aの中間部であり、この位置を最大隙間位置35cとする。この最大隙間位置35cを含むスペース内に前記ローラ36が配置されている。そして、内筒35の最大隙間位置35cおよびローラ36が占める基準の位置を中立位置Sとし、この中立位置Sではローラ36は楔面35aに当接することはなく、最大隙間位置35cから円周方向のいずれの方向へも、楔面35aと出力部33bの内周面との隙間が小さくなる。
【0037】
前記内筒35の駆動回転により蓄勢されてその後に放勢されることにより内筒35を中立位置へ復帰回転させ、かつ内筒35の駆動回転により中立位置から回転した前記保持器37を、内筒35の復帰と同期して中立位置へ復帰回転させる付勢手段として、板ばね38が設けられている。
【0038】
即ち、以下のように構成されている。図11に示すように、ケース27の底面に樹脂製のばねケース39が装着されている。該ばねケース39は、内筒部39aと外筒部39bとを有する円環形状であり、軸方向でケース27の底面側の面が開口している。そして、内筒部39aの開口部側の端部には、径方向中心側へ向かってばね規制部39fが形成されている。図15に示すように、ばね規制部39fの外側面には、軸方向へ突出する突出部39cが90度間隔で円周方向の3箇所に形成され、該突出部39cをケース27の底面に形成された3つの装着孔27bに挿入させながら、ケース27の内周面に外筒部39bの外周部を軽圧入することにより、ばねケース39がケース27の内面に結合されている。ばねケース39の内筒部39aと外筒部39bとの間には、付勢手段としての板ばね38が収容されている。図15に示すように、該板ばね38はリング部38aと、該リング部38aの両端部から径方向内側へ向かって屈曲された端部38bとにより構成されている。前記内筒部39aは円周方向の1箇所に切り欠き部39dが形成され、該切り欠き部39dと対応する外筒部39bの内側には固定ばね掛け部39eが一体に形成されている。図12に示すように、該固定ばね掛け部39eにより、板ばね38の双方の端部38bの回転が規制されている。
【0039】
前記内筒35の先端部には軸方向へ突出する突出部35bが形成されており、該突出部35bの外周面には一対の平行面が形成され、断面が略小判形状に形成されている。内筒35を駆動方向へ回動させたときに該内筒35の回動によって板ばね38を蓄勢するため、図11に示すように内筒35の突出部35bがケース27の中心孔27cからケース27の外部に突出している。そして、該突出部35bが、図16に示すように操作部材40の中心位置に形成された略小判形状の係合孔40aに嵌合されて一体的に結合され、該操作部材40の外周部には軸方向へ屈曲させて可動ばね掛け部40bが形成されている。該可動ばね掛け部40bは、ケース27の底面に形成された円周方向の長孔27dを介してケース27の内部へ導入され、図12に示すようにその先端部がばねケース39に収容された板ばね38の一対の端部38bの間に入り込んでいる。
【0040】
図11に示すように前記保持器37の上下方向の幅寸法は、前記ローラ36を保持する部分よりも上方へ向って延長して長く形成されており、延長された部分から径方向外側へ突出させて可動ばね掛け部37aが形成され、該可動ばね掛け部37aは、図13に示すようにばねケース39の内筒部39aの前記切り欠き部39dの位置から、板ばね38の一対の端部38bの間に内側から入り込んでいる。板ばね38のリング部38aは、内筒部39aの外周面に巻回されており、これにより図13における板ばね38の左右方向への移動が規制され、板ばね38のリング部38aの外周面と外筒部39bの内周面との間には、リング部38aの拡径のための隙間が設けられている。保持器37をばねケース39の内部に組み付ける際に、該ばねケース39の反開口部側から挿入できるようにするため、図11に示すように、可動ばね掛け部37aよりも少しだけ大きな切欠部39gがばねケース39に形成されている。
【0041】
保持器37の回転に回転抵抗を付与する回転抵抗付与手段として、制動ばね41が設けられている。該制動ばね41は、静止側部材としてのばねケース39の内筒部39aの内周面に圧接されるリング部41aと、該リング部41aの端部41bとを有し、外径寸法が小さくなるように径方向へ圧縮した状態で内筒部39aの内側へ嵌め込まれている。該制動ばね41は、図11の下方が保持器37により規制され、上方がばねケース39の内筒部39aに形成された前記ばね規制部39fにより規制されている。図12,図15に示すように、保持器37には円周方向の1箇所に軸方向へ突出させて係止部37bが形成され、該係止部37bを制動ばね41の端部41bどうしの間に入り込ませることにより、保持器37が制動ばね41のリング部41aの摩擦抵抗により回転方向に保持されている。
(作用)
この発明によれば、操作部材40を回転操作することにより、内筒35を中立位置Sからいずれかの方向へ駆動回転させると、内筒35が少し回転したときに図14において円周方向へ移動する内筒35の対となる楔面35aの一方がローラ36と係合し、該一方の楔面35aと出力部材33bとの間にローラ36が食い込んで回転を規制することから、内筒35・ローラ36・保持器37・出力部33b(入出力部材33)の4者が一体となって回転する。その後に操作部材40を開放することにより内筒35を開放すると、内筒35の前記駆動回転により図12の可動ばね掛け部40bが板ばね38の一方の端部38bを円周方向へ押圧することで蓄勢されていた板ばね38が放勢され、この放勢が可動ばね掛け部40bを介して操作部材40と一体の内筒35へと伝わり、内筒35が中立位置Sへ向って復帰回転を開始する。このとき、制動ばね41の制動力が作用していることから、保持器37は回転しない。そして、図14における内筒35の最大隙間位置35cがローラ36の位置まで復帰すると、板ばね38の放勢による端部38bの復帰移動の際に、図12において端部38bが可動ばね掛け部40bを押圧するだけでなく、図13において端部38bが保持器37の可動ばね掛け部37aも押圧し、その後は図14において内筒35と保持器37とが、内筒35とローラ36とが接触しない状態である「接触しない相対位置関係(ローラ36が内筒35の最大隙間位置35cを占める状態)」を保持した状態で、内筒35・ローラ36・保持器37の3者が同期して中立位置Sへ復帰する。つまり、出力部33b(入出力部材33)だけが復帰しないので、結果として出力部33b(入出力部材33)のみが駆動方向へ回転したことになる。従って、内筒35の駆動方向への往復回転を繰り返すと、出力部33b(入出力部材33)の駆動方向への少ない回転のみが間欠的に行われ、駆動方向への少ない回転が蓄積されることになる。前記のように内筒35のみが板ばね38の放勢により復帰回転を開始し、ローラ36と接触していた内筒35の一方の楔面35aがローラ36から離れてから内筒35の前記最大隙間位置35cがローラ36と対応する位置へ復帰回転して内筒35とローラ36とが「接触しない相対位置関係」になるまでの間は、保持器37は制動ばね41により回転が抑制されてその位置を保持するので、駆動回転の際のように、内筒35の楔面35aがローラ36に係合して内筒35・ローラ36・保持器37・出力部33b(入出力部材33)の4者が一体となって復帰回転するのが回避される。
【0042】
前記クラッチユニット26における入出力部材33の出力部33bの前記回転は、そのままブレーキ装置25の入出力部材33の爪部33dへの入力回転となる。ブレーキ装置25は、入出力部材33が停止しているときは、爪部33dも停止していることから、図15のばね32の付勢力により一対のローラ31が互いに離間する方向へ付勢され、一対のローラ31はカムフランジ30のカム面30dとフレーム27の内周面との間であって隙間の小さくなる円周方向へ互いに押圧されて食い込み、これによりばね保持部30eはいずれの方向へも回転することができず、カムフランジ30および出力軸29の回転が拘束されている。このため、シートの上下動が阻止されている。次に、クラッチユニット26により入出力部材33の出力部33bがいずれか一方の方向へ回転駆動されると、ブレーキ装置25の入出力部材33の爪部33dがいずれか一方の方向へ回転し、該爪部33dが一対のローラ31のいずれか一方を他方へ向って押すため、一方のローラ31のカム面30dへの食い込みが外れ、そのまま該爪部33dが一方のローラ31を介してばね保持部30eを円周方向の一方へ押圧することになり、ばね保持部30eを有するカムフランジ30が一方の方向へ回転し、出力軸29が一方の方向へ回転する。これにより、シートが上昇する。入出力部材33が他方の方向へ回転する場合は、同様にして出力軸29が他方の方向へ回転し、シートが下降する。
【0043】
このブレーキ装置操作用クラッチユニットによれば、内筒35の復帰回転と、保持器37の復帰回転が、単一の板ばね38の放勢によって行われるので、従来のように付勢手段を2つ設ける必要がない。このため、従来は内筒35を駆動回転させる際に2つのばねの蓄勢を同時に行って内筒35の操作のために大きな操作力を必要としていたが、単一の板ばね38の蓄勢のための操作力と、制動ばね41の回転抵抗よりも大きな操作力とを加えた操作力があれば足りるので、駆動回転に要する操作力が小さくて済み、操作性が向上する。
【0044】
この発明によれば、制動ばね41の付勢力により制動ばね41のリング部41aとばねケース39の内筒部39aの内周面との間に摩擦抵抗が作用し、ばねケース39に対して相対的に回転する保持器37の回転が、抑制される。
【0045】
このブレーキ装置操作用クラッチユニットによれば、板ばね38の蓄勢のための操作力に、制動ばね41のリング部41aとばねケース39の内筒部39aの内周面との摩擦抵抗による抵抗力を加えたものが、内筒35を駆動回転させる操作力となり、内筒35と共に回転する保持器37の抵抗力を一定にすることができる。また、制動ばね41は拡径または縮径をする必要がなく、拡径または縮径のためのスペースを確保する必要がないため、制動ばね41の設置スペースは少なくて済み、クラッチユニット26の小型化が図れる。
【0046】
この発明では2つの可動ばね掛け部37a,40bが円周方向の同じ位置で軸方向に並べて配置されているため、この2つの可動ばね掛け部37a,40bを板ばね38の端部38bが同時に押圧することができ同期性の確保が容易になると同時に端部38bを小さくすることができ、クラッチユニット26の小形化が図れる。
【0047】
なお、本実施の形態では回転抵抗付与手段として制動ばね23,41を用いたが、ばねに限定されるものではなく、保持器21,37の回転に抵抗を与えて所定の保持力を付与できるものであればよい。また、本実施の形態では板ばね38を用いたが、コイルばねや渦巻きばね等を用いることもできる。更に、本実施の形態では、制動ばね23,41の両端部23b,41bにより保持器21,37のばね係止部21a,37bを挟む構成を採用したが、リング部23a,41aの略中央部に保持器21,37のばね係止部21a,37bを係止させ、リング部23a,41aの略中央部から端部23b,41bにかけての円弧部分が静止側部材としての出力軸14cの外周面やばねケース39の内筒部39aの内周面に圧接される構成にしてもよい。
【符号の説明】
【0048】
14c…出力軸(静止側部材)
18…外筒(入力側回転部材)
18d,35a…楔面
19…内筒(出力側回転部材)
20,36…ローラ(係合子)
21,37…保持器(保持部材)
21a,37b…ばね係止部
21b,37a…可動ばね掛け部
22…ばね(付勢手段)
23,41…制動ばね(回転抵抗付与手段)
23a,41a…リング部
23b,41b…端部
33…入出力部材(出力側回転部材)
35…内筒(入力側回転部材)
38…板ばね(付勢手段)
39…ばねケース(静止側部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中立位置から正逆のいずれかの方向へ向かう駆動回転と該駆動回転とは反対方向へ向かう復帰回転とが交互に行われる入力側回転部材と、該入力側回転部材の内周側または外周側に配置され該入力側回転部材からの前記駆動回転のみが伝達される出力側回転部材と、前記入力側回転部材と前記出力側回転部材との間に円周方向に沿って複数配置された係合子と、該係合子の円周方向の間隔を保持する保持部材と、前記入力側回転部材における前記出力側回転部材との対向面に形成され前記入力側回転部材が中立位置を占めるときに前記係合子の位置が最大隙間位置となって該最大隙間位置から円周方向のいずれの方向へも前記出力側回転部材との隙間が小さくなるように形成された対となる楔面と、前記入力側回転部材の駆動回転により蓄勢されてその後に放勢されることにより前記入力側回転部材を中立位置へ復帰回転させかつ前記入力側回転部材の駆動回転により中立位置から回転した前記保持部材を前記入力側回転部材の復帰と同期して中立位置へ復帰回転させる付勢手段と、前記保持部材の回転に回転抵抗を付与する回転抵抗付与手段とを備えていることを特徴とするブレーキ装置操作用クラッチユニット。
【請求項2】
請求項1に記載のブレーキ装置操作用クラッチユニットにおいて、
前記回転抵抗付与手段が、静止側部材の外周面または内周面に圧接されるリング部と、該リング部の両端部に設けられ前記保持部材に形成された係止部と係合することにより前記保持部材に対して前記リング部を回転方向に保持する端部とを有する制動ばねであることを特徴とするブレーキ装置操作用クラッチユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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