説明

ブロック共重合ポリマー溶液組成物、そのブロック共重合ポリマー溶液組成物を用いた高分子固体電解質膜の製造方法及びその製造方法を用いて製造された高分子固体電解質膜

【課題】 セグメント化ブロック共重合ポリマーを用いたプロトン伝導性の高い高分子固体電解質膜の提供。
【解決手段】 少なくとも親水性ポリマーセグメントと疎水性ポリマーセグメントとを共有結合させた構造を有するブロック共重合ポリマーと、溶媒A(ブロック共重合ポリマーの疎水性セグメントを構成するオリゴマーと溶媒Aをそれぞれ1:24の比で混合した際、オリゴマーが全て溶解せずに残渣が残るもの)を含み、ブロック共重合ポリマーと、溶媒Aとの質量比が下式(式1)を満たすことを特徴とするブロック共重合ポリマー溶液組成物及びそのブロック共重合ポリマー溶液組成物を用いた高分子固体電解質膜の製造方法及びその製造方法を用いて製造された高分子固体電解質膜。
1.0≦ 溶媒A/ブロック共重合ポリマー ≦99・・・(式1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
親水性ポリマーセグメントと疎水性ポリマーセグメントとを有するブロック共重合ポリマーと、疎水性ポリマーセグメントに対する貧溶剤を用いることで製膜の際に親水性セグメントを海部、疎水性セグメントを島部としたミクロ相分離構造を形成させ、膜厚方向のプロトン伝導性を向上させるための溶液組成物、また該溶液組成物より製造された高分子固体電解質膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギー効率や環境性に優れた新しい発電技術が注目を集めている。中でも高分子固体電解質膜を使用した固体高分子形燃料電池はエネルギー密度が高く、また、他の方式の燃料電池に比べて運転温度が低いため起動、停止が容易であるなどの特徴を有するため、電気自動車や分散発電などの電源装置としての開発が進んできている。
【0003】
高分子膜をプロトン交換膜に用いた固体高分子形燃料電池(PEFC)や直接メタノール型燃料電池(DMFC)は、可搬性があり、小型化が可能であることから、自動車、家庭用分散発電システム、携帯機器用電源への応用が進められている。現在、プロトン交換膜としては、米国デュポン社製ナフィオン(登録商標)に代表されるようなパーフルオロカーボンスルホン酸ポリマー膜が広く用いられている。
【0004】
しかしながらこれらの膜は100℃以上で軟化するため、運転温度が80℃以下に制限されていた。運転温度をさらに上げると、エネルギー効率、装置の小型化、触媒活性の向上など、さまざまな利点があるため、より耐熱性の高いプロトン交換膜が求められている。
耐熱性プロトン交換膜として、ポリスルホンやポリエーテルケトンなどの耐熱性ポリマーを発煙硫酸などのスルホン化剤で処理して得られるスルホン化ポリマーはよく知られている(例えば非特許文献1を参照)。しかしながら、一般的にスルホン化剤によるスルホン化反応の制御は困難である。そのため、スルホン化度が多すぎたり少なかったりしたりすることや、ポリマーの分解、不均一なスルホン化などが起こりやすいという問題があった。
【0005】
そのため、スルホン酸基などの酸性基を有するモノマーから重合したポリマーをプロトン交換膜として用いることが検討されている。例えば、特許文献1にはプロトン伝導性ポリマーとして、4,4’−ジクロロジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸ソーダ、及び4,4’−ジクロロジフェニルスルホンと4,4’−ビフェノールの反応で得られる共重合ポリマーが示されている。このポリマーを構成成分とするプロトン交換膜は、前述のスルホン化剤を用いた場合のようなスルホン酸基の不均一性が少なく、スルホン酸基導入量及びポリマー分子量の制御が容易であった。しかしながら、燃料電池として実用化のためにはプロトン伝導性など様々な特性の改良が望まれており、試みとして、特許文献2、3に見られるようなスルホン酸基を有するセグメント化ブロック共重合ポリマーの検討が行われてきた。しかしながら、燃料電池に対する高プロトン伝導性の要望は強く、さらなるプロトン伝導性が求められている。
【0006】
セグメント化ブロック共重合ポリマーには、親水性セグメントが相分離によって親水性ドメインを形成することでプロトン伝導性を向上させることが期待されている。よって、その相分離状態はセグメント化ブロック共重合ポリマーにおいての非常に重要な要素であり、その制御に対して特許文献4〜11にみられるような種々の検討がなされてきた。
【0007】
例えば、特許文献4〜10にみられるような試みでは、共重合体を溶解するキャスト溶媒として、混合溶媒を使用することで、高プロトン伝導性を含めた種々の特性が向上したポリマー溶液あるいは高分子固体電解質膜が得られることが報告されている。しかし、これらの文献ではイオン伝導性ポリマーセグメントと有機溶剤との相互作用による相分離構造の変化についての明確な理由が提示できておらず、構造制御の方法としては不十分であった。
【0008】
また、特許文献11にみられるような試みでは、ポリマー溶液を塗工後水中または飽和水蒸気中等で脱溶剤することで膜表面に親水性成分を析出させることにより高プロトン伝導性を持つ膜を得られることが報告されている。しかし、本文献に示される方法は通常の乾燥工程に対し工程が複雑となるため、より簡便な方法が求められていた。
【0009】
さらに、特許文献12にみられるような試みでは、二種の繰り返しモノマー単位から成り、熱平衡状態でラメラ状ミクロ相分離構造を発現するブロック共重合体を、一方の繰り返しモノマー単位から成るブロックに対しては良溶媒であり、他方の繰り返しモノマー単位から成るブロックに対しては貧溶媒である溶媒に溶解する工程と、上記溶液を用いて上記ブロック共重合体の膜を形成する工程と、上記膜から溶媒を除去し、ラメラ状以外のミクロ相分離構造を発現させる工程と、溶媒を除去したブロック共重合体膜を、狭い領域毎に順次そのガラス転移温度以上に加熱する工程とを含むことで、垂直配向ラメラ構造を有するブロック共重合体膜の製造方法が報告されている。しかし、本方法は溶媒を除去したブロック共重合体膜をさらに過熱する後処理工程を含むため、より簡便な方法が求められていた。
【0010】
他に、特許文献13に見られるような試みとして、ミクロ相分離構造が膜表面に対して垂直方向に配向した構造を有するブロック共重合体膜の製造方法であって、沸点が140℃以上300℃以下である溶媒にブロック共重合体を溶解させた溶液をキャストする工程を含むブロック共重合体膜の製造方法が報告されている。この方法は簡便であり、特許文献13に示される、本方法のみで膜面に垂直なミクロ相分離構造をとるブロック共重合体膜には有効である。
しかし、本方法のみで膜面に垂直なミクロ相分離構造をとるブロック共重合体膜の種類は
ごく一部であり、より一般的なブロック共重合体膜にも応用できる技術が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許出願公開第2002/0091225号公報
【特許文献2】特開2001−278978号公報
【特許文献3】特開2003−31232号公報
【特許文献4】特開2005−194517号公報
【特許文献5】特開2003−142125号公報
【特許文献6】特開2003−249244号公報
【特許文献7】特開2008−66291号公報
【特許文献8】特開2002−12744号公報
【特許文献9】特開2005−194517号公報
【特許文献10】特開2005−248128号公報
【特許文献11】特開平9−199144号公報
【特許文献12】特開2005−60583号公報
【特許文献13】特開2010−77172号公報
【0012】
【非特許文献1】エフ ルフラノ(F. Lufrano)他3名著、「スルホネイテッド ポリスルホン アズ プロマイジング メンブランズ フォー ポリマー エレクトロライト フュエル セルズ」(Sulfonated Polysulfone as Promising Membranes for Polymer Electrolyte Fuel Cells)、ジャーナル オブ アプライド ポリマー サイエンス(Journal of AppLied Polymer Science)、(米国)、ジョン ワイリー アンド サンズ インク(John Wiley & Sons, Inc.)、2000年、77号、p.1250−1257
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、かかる従来技術の課題を背景になされたものである。すなわち、本発明の目的は、親水性ポリマーセグメントと疎水性ポリマーセグメントとを有するブロック共重合ポリマーからなる高分子固体電解質膜において、溶媒の選定によりブロック共重合体ポリマーのミクロ相分離を制御し、プロトン伝導性を向上させるための溶液組成物、また該溶液組成物より製造された高分子固体電解質膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは鋭意検討した結果、以下に示す手段により、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、以下の構成からなる。
(1)少なくとも親水性ポリマーセグメントと疎水性ポリマーセグメントとを有するブロック共重合ポリマーが溶解した溶液組成物であり、溶媒A(ブロック共重合ポリマーの疎水性セグメントを構成するオリゴマーと溶媒Aをそれぞれ1:24の比で混合した際、オリゴマーが全て溶解せずに残渣が残るもの)を含み、ブロック共重合ポリマーと、溶媒Aとの質量比が下式(式1)を満たすことを特徴とするブロック共重合ポリマー溶液組成物。
1.0≦ 溶媒A/ブロック共重合ポリマー ≦99・・・(式1)
(2)ブロック共重合ポリマーと、溶媒Aとの質量比が下式(式2)を満たすことを特徴とする(1)に記載のブロック共重合ポリマー溶液組成物。
1.5≦ 溶媒A/ブロック共重合ポリマー ≦49・・・(式2)
(3)ブロック共重合ポリマーと、溶媒Aとの質量比が下式(式3)を満たすことを特徴とする(1)、(2)に記載のブロック共重合ポリマー溶液組成物。
2.0≦ 溶媒A/ブロック共重合ポリマー ≦39・・・(式3)
(4)少なくともブロック共重合ポリマーと、溶媒Aと、溶媒B(ブロック共重合ポリマーの疎水性セグメントを構成するオリゴマーと溶媒Bをそれぞれ1:24の比で混合した際、オリゴマーが全て溶解するもの)を含み、溶媒Aと溶媒Bとの質量比が下式(式4)を満たしかつブロック共重合ポリマーと、溶媒Aとの質量比が上式(式1)を満たすことを特徴とするブロック共重合ポリマー溶液組成物。
0.01≦ 溶媒A/溶媒B ≦99・・・(式4)
(5)少なくともブロック共重合ポリマーと、溶媒Aと、溶媒Bを含み、溶媒Aと溶媒Bとの質量比が下式(式5)を満たしかつブロック共重合ポリマーと、溶媒Aとの質量比が上式(式2)を満たすことを特徴とする(4)に記載のブロック共重合ポリマー溶液組成物。
0.02≦ 溶媒A/溶媒B ≦49・・・(式5)
(6)少なくともブロック共重合ポリマーと、溶媒Aと、溶媒Bを含み、溶媒Aと溶媒Bとの質量比が下式(式6)を満たしかつブロック共重合ポリマーと、溶媒Aとの質量比が上式(式3)を満たすことを特徴とする(4)、(5)に記載のブロック共重合ポリマー溶液組成物。
0.03≦ 溶媒A/溶媒B ≦33・・・(式6)
(7)該溶液組成物を倍率1000倍の偏光顕微鏡で観察した際に凝集構造が観察できることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載のブロック共重合ポリマー溶液組成物。
(8)(7)に記載のブロック共重合ポリマー溶液組成物を偏光顕微鏡で観察した際に観察できる構造の大きさに対して、塗工製膜を行う際の基材とアプリケーターのクリアランスを該構造の大きさの1.5倍以上とすることを特徴とするブロック共重合ポリマー溶液組成物を用いた製膜方法。
(9)(8)に記載のブロック共重合ポリマー溶液組成物を用いた製膜方法において、塗工製膜を行う際の基材とアプリケーターのクリアランスを前記構造の大きさの2倍以上とすることを特徴とするブロック共重合ポリマー溶液組成物を用いた製膜方法。
(10)該ブロック共重合ポリマーが高分子固体電解質であることを特徴とする(1)〜(7)のいずれかに記載のブロック共重合ポリマー溶液組成物。
(11)該ブロック共重合ポリマーがスルホン酸基またはその誘導体を含有することを特徴とする(10)に記載のブロック共重合ポリマー溶液組成物。
(12)(1)〜(7)、(10)〜(11)のいずれかに記載の溶液組成物より製造され、製造後の膜のモルフォロジーがミクロ相分離構造を有し、該製造後の膜を倍率10000倍の透過電子顕微鏡で観察した際に疎水部の凝集構造が観察できることを特徴とする高分子固体電解質膜。
【発明の効果】
【0015】
本発明の溶液組成物、および該溶液組成物より製造された高分子固体電解質膜は、構成するブロック共重合ポリマーの親水性、疎水性ポリマーセグメントの構造が制御され、親水性ドメインが連続することでプロトン伝導性が向上する。加えて通常の相分離の場合、体積比の多い層が海部になることが多いが、本発明の系では親水部の比率が少なくても親水部同士の接続が可能であるため、通常の親水部海部/疎水部島部とした高分子固体電解質膜に対し同程度のプロトン伝導性を持たせながら疎水部を多くすることによる水膨潤時の寸法変化抑制を図ることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例1の溶液組成物の偏光顕微鏡写真を図1に示す。溶液内での凝集析出構造が明確に認められる。
【図2】実施例1で製造した高分子電解質膜の透過電子顕微鏡写真を図2に示す。疎水性部分を示す白い部分と親水性部分を示す黒い部分が不均一になっており、疎水性部分が凝集している白い塊が認められる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の溶液組成物、および該溶液組成物より製造された高分子固体電解質膜の実施の形態を説明する。
【0018】
本発明に用いるポリマーは、親水性ポリマーセグメントと疎水性ポリマーセグメントとを有するブロック共重合ポリマーであり、該ポリマーで製造した膜のモルフォロジーがミクロ相分離構造を有する高分子固体電解質膜として働くものであればどのようなものでもよいが、一例としてイオン性基を有する芳香族炭化水素系ブロック共重合ポリマーがあり、以下のようなものがあげられる。
【0019】
イオン性基を有する芳香族炭化水素系ブロック共重合ポリマーとしては、ポリマー主鎖に芳香族あるいは芳香環とエーテル結合、スルホン結合、イミド結合、エステル結合、アミド結合、ウレタン結合、スルフィド結合、カーボネート結合及びケトン結合から選択される少なくとも1種以上の結合基を有する構造を持つ非フッ素系あるいは部分フッ素系のイオン伝導性ポリマーであり、例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリパラフェニレン、ポリアリーレン系ポリマー、ポリフェニルキノキサリン、ポリアリールケトン、ポリエーテルケトン、ポリベンズオキサゾール、ポリベンズチアゾール、ポリベンズイミダゾール、ポリイミド等の構成成分の少なくとも1種を含むポリマーに、イオン性基が導入されているポリマーを挙げることができる。イオン性基としては、酸性基に由来するものであり、例えば、スルホン酸基、ホスホン酸基、カルボキシル基、スルホンアミド基、スルホンイミド基、及びそれらの誘導体の少なくとも1種を挙げることができるが、スルホン酸基、あるいはホスホン酸基が好ましい。また、ここでいうポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン等は、その分子鎖にスルホン結合、エーテル結合、ケトン結合を有しているポリマーの総称であり、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトンケトン、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン、ポリエーテルケトンスルホンなどを含むとともに、特定のポリマー構造に限定されるものではなく、分子中にそれぞれ一つ以上の親水性セグメントと疎水性セグメントを有するブロック共重合ポリマーであればよい。
【0020】
なお、一例として以下、スルホン酸基含有セグメント化ブロック共重合ポリマーの合成法の一つについて説明するが、本発明の範囲はこれに限定されるものではない。
【0021】
本例のスルホン酸基含有セグメント化ブロック共重合ポリマーは、分子中にそれぞれ一つ以上の親水性セグメントと疎水性セグメントを有するブロック共重合ポリマーであって、下記化学式1で表される構造であり、N−メチル−2−ピロリドンを溶媒とした0.5g/dLの溶液について30℃で測定される対数粘度が、0.5〜5.0dL/gの範囲であることを特徴とするブロック共重合ポリマーである。
【0022】
【化1】


(式中、XはH又は1価の陽イオンを、Yはスルホン基又はカルボニル基を、Z及びZ’はそれぞれ独立してO又はS原子のいずれかを、Wはベンゼン間同士の直接結合、スルホン基、カルボニル基からなる群より選ばれる1種以上の基を、Ar及びArは、それぞれ独立して2価の芳香族基を、n及びmは独立して、それぞれ2〜100の整数を、それぞれ表す。)
【0023】
プロトン交換膜として用いる場合にはXがHであるとプロトン伝導性が高くなるため好ましい。ポリマーを加工、成形する際には、XはNa、K、Liなど1価の金属イオンであると、ポリマーの安定性が高まり好ましい。またXはモノアミンなどの有機カチオンであってもよい。Yはスルホン基であるとポリマーの溶媒への溶解性が高まる傾向にあり好ましい。Ar及びArはそれぞれ独立して、主として芳香族性の基から構成される公知の任意の2価の基であればよいが、好ましい例として下記化学式3A〜3Nで表される群より選ばれる2価の芳香族基を挙げることができる。
【0024】
【化2】


(式中、Rはメチル基を、pは0〜2の整数を、それぞれ表す。)
【0025】
pが1又は2であるポリマーは高分子量のポリマーを得ることが困難な場合があるので、pは0が好ましい。Ar及びArは、それぞれ独立して、上記化学式3A〜3Nの中でも、化学式3A、3C、3E、3F、3K、3M、3Nで表される構造がより好ましく、以下に示す化学式3A’、3F’で表される構造がさらに好ましく、化学式3A’で表される構造が加えて好ましい。さらに、Ar及びArのいずれもが化学式3A’で表される構造であることが最も好ましい。また、Ar及びArはそれぞれ独立して、上記化学式3A〜3Nで表される構造より選ばれる2種以上の構造からなっていてもよい。その場合、より優れた特性を示すためには、少なくとも下記化学式3A’、3F’、3M’のいずれかの構造を有していることが好ましく、下記化学式3A’もしくは3M’であることがより好ましい。化学式3A’の構造であると耐膨潤性及び耐久性に優れることから好ましい。化学式3M’の構造であると耐久性に優れることから好ましい。
【0026】
【化3】

【0027】
Z及びZ'の少なくともいずれかが、O原子であることが、原料の入手や合成の容易さから好ましい。いずれもがO原子であることがより好ましい。ただし、S原子であると耐酸化性が向上する場合がある。
【0028】
Wがベンゼン環同士の直接結合であると、膜の特性や耐久性を向上できるため好ましい。Wがスルホン基の場合、合成時の副反応を低減できるという利点がある。
【0029】
nは10〜70の範囲であると、膜の機械的特性が向上するため好ましい。10未満であると、膨潤性が大きくなりすぎたり耐久性が低下したりする場合がある。70を超えると、分子量の制御が困難になり、設計した構造のポリマーの合成が困難になる場合がある。nが20〜60の範囲であるとより好ましい。
【0030】
mが3以上10未満の範囲であると、メタノールを燃料とするダイレクトメタノール型燃料電池のプロトン交換膜に適した膜を得ることができるため好ましい。mは3〜8の範囲にあることがより好ましい。mが3未満であると、ランダム共重合ポリマーからなる膜と同程度の特性しか得られないため好ましくない。mが10以上であると、メタノール透過性が大きくなりすぎる場合がある。ダイレクトメタノール型燃料電池のプロトン交換膜に適した膜を得るためのポリマーとしては、m/nが0.4〜1.0の範囲にあることが好ましい。0.4よりも小さいと、膜のプロトン伝導性が著しく低下する場合がある。1.0以上であるとメタノール透過性が大きくなりすぎる場合がある。より好ましくは0.5〜0.8の範囲である。
【0031】
mが10以上70未満の範囲であると、水素を燃料とする燃料電池のプロトン交換膜に適した膜を得ることができるため好ましい。mは15〜55の範囲にあることがより好ましい。mが10未満であっても、水素を燃料とする燃料電池用のプロトン交換膜に用いるポリマーは合成可能であるが特性の充分な改善が望めない場合がある。mが70以上であると、水素を燃料とする燃料電池用のプロトン交換膜に用いるポリマーを合成することが困難になる場合がある。ただし、合成が可能な場合ではmが70以上であっても支障はない。水素を燃料とする燃料電池用のプロトン交換膜に用いるポリマーとしては、m/nが0.4〜1.5の範囲にあることが好ましい。0.4よりも小さいと、燃料電池の出力が著しく低下する場合がある。1.5以上であると膜の膨潤が著しく大きくなる場合がある。より好ましくは0.6〜1.3の範囲である。
【0032】
本例のスルホン酸基含有セグメント化ブロック共重合ポリマーは、公知の任意の方法で合成することができる。予め合成しておいた、親水性及び疎水性のセグメントとなるオリゴマーを、カップリング剤で結合することによっても合成できる。その例として、ヒドロキシル基末端のオリゴマーを、デカフルオロビフェニルなどのパーフルオロ芳香族化合物でカップリングする方法を挙げることができる。予め合成しておいた、親水性及び疎水性のセグメントとなるオリゴマーのいずれかの末端基を反応性が高い基で修飾しておき、もう一方のオリゴマーを反応させることによっても合成することができる。また、上記の反応において、オリゴマーは合成後に精製・単離してから用いてもよいし、合成した溶液のままで用いてもよいし、精製・単離したオリゴマーを溶液として用いてもよい。中でも、予め合成しておいた、親水性及び疎水性のセグメントとなるオリゴマーのいずれかの末端基を反応性が高い基で修飾しておき、もう一方のオリゴマーを反応させる方法が好ましい。その場合、修飾したオリゴマーと、もう一方のオリゴマーは等モルで反応させることが好ましいが、反応中の副反応によるゲル化を防ぐためには、修飾したオリゴマーをわずかに過剰にしておくことがこのましい。過剰の度合いは、オリゴマー分子量や目的とするポリマーの分子量によっても異なるが、0.1〜50モル%の範囲であることが好ましく、0.5〜10モル%の範囲であることがより好ましい。また、反応性が高い基で末端を修飾するのは、疎水性セグメントのほうが好ましい。親水性セグメントの構造によっては修飾反応がうまく進行しない場合がある。
【0033】
以下、本例のスルホン酸基含有セグメント化ブロック共重合ポリマーの合成法の一つについて説明するが、本発明の範囲はこれに限定されるものではない。
【0034】
<親水性オリゴマーの合成>
本例のスルホン酸基含有セグメント化ブロック共重合ポリマーにおける親水性オリゴマーは、下記化学式4で表されるスルホン化モノマーを各種ビスフェノール類又は各種ビスチオフェノール類と反応させて合成することができる。
【0035】
【化4】

【0036】
化学式4において、XはH又は1価の陽イオンを、Yはスルホン基又はカルボニル基を、Aはハロゲン元素をそれぞれ表す。XはNa又はKであることが、AはF又はClであることがそれぞれ好ましい。また、各種ビスフェノール類又は各種ビスチオフェノール類が過剰になるようにして、オリゴマーの末端基がOH基又はSH基となるようにすることが好ましい。オリゴマーの重合度は、化学式4のモノマーと、各種ビスフェノール類又は各種ビスチオフェノール類とのモル比で調整することができる。
【0037】
化学式4のモノマーと、各種ビスフェノール類又は各種ビスチオフェノール類とは、公知の任意の方法で反応させることができるが、塩基性化合物の存在下で芳香族求核置換反応によって反応させることが好ましい。反応は、0〜350℃の範囲で行うことができるが、50〜250℃の範囲で行うことが好ましい。0℃より低い場合には、十分に反応が進まない傾向にあり、350℃より高い場合には、ポリマーの分解も起こり始める傾向がある。反応は、無溶媒下で行うこともできるが、溶媒中で行うことが好ましい。使用できる溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジフェニルスルホン、スルホランなどを挙げることができるが、これらに限定されることはなく、芳香族求核置換反応において安定な溶媒として使用できるものであればよい。これらの有機溶媒は、単独でも2種以上の混合物として使用されても良い。塩基性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等があげられるが、芳香族ビスフェノール類や芳香族ビスチオフェノール類を活性なフェノキシド構造やチオフェノキシド構造になしうるものであれば、これらに限定されず使用することができる。ただし、Xがカリウムの場合には炭酸カリウムなどのカリウム塩を、Xがナトリウムの場合には炭酸ナトリウムなどのナトリウム塩をそれぞれ用いるようにすると、オリゴマー分子量の算出が容易になるためより好ましい。副生物として生成する水は、トルエンなどの共沸溶媒と溜去して系外に除去したり、モレキュラーシーブなどの吸水材を使用したり、重合溶媒と共に溜去したりすることで除去することができる。芳香族求核置換反応を溶媒中で行う場合、得られるポリマー濃度として5〜50重量%となるようにモノマーを仕込むことが好ましく、20〜40重量%の範囲であることがより好ましい。5重量%よりも少ない場合は、重合度が上がりにくい傾向がある。一方、50重量%よりも多い場合には、反応系の粘性が高くなりすぎ、反応物の後処理が困難になる傾向がある。重合溶液は、そのままブロックポリマーの合成に用いてもよいし、無機塩などの副生成物を除去して溶液として用いてもよいし、ポリマーを単離・精製して用いてもよいが、好ましいのはポリマーを単離・精製する方法である。
【0038】
親水性オリゴマーの溶液から、副生成物である無機塩を除く方法は、濾過や、遠心沈降後のデカンテーション、水に溶解しての透析、水に溶解しての塩析など、公知の任意の方法を用いることができ、濾過が製造効率、収率の面から好ましい。濾過や遠心沈降で塩を除去した場合は、親水性セグメントの非溶媒に溶液を滴下することでポリマーを回収することができる。また、透析の場合は蒸発乾固によって、塩析の場合は濾過によって、それぞれポリマーを回収することができる。単離した親水性オリゴマーは、非溶媒による洗浄や、再沈、透析などによって精製することが好ましく、洗浄が作業効率と精製効率の面から好ましい。合成や精製の際に用いた有機溶媒は、できるだけ除去しておくことが好ましい。有機溶媒の除去は、乾燥によって行うことが好ましく、10〜150℃の範囲の温度で減圧乾燥することがより好ましい。
【0039】
親水性オリゴマーの非溶媒は、任意の有機溶媒から選択することができるが、反応に用いた非プロトン性極性溶媒と混和するものであることが好ましい。具体的には、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジブチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソプロピルケトン、シクロヘキサノノなどのケトン系溶媒や、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノールなどのアルコール系溶媒などを例としてあげることができるが、これらに限定されるものではなく、他にも適したものを用いることができる。
【0040】
<疎水性オリゴマーの合成>
本例のスルホン酸基含有セグメント化ブロック共重合ポリマーにおける疎水性オリゴマーは、下記化学式5A又は5Bで表されるモノマーを各種ビスフェノール類又は各種ビスチオフェノール類と反応させた後、化学式6A、6B、6Cで表される化合物を反応させることによって合成することができる。
【0041】
【化5】

【0042】
各種ビスフェノール類又は各種ビスチオフェノール類が過剰になるようにして、オリゴマーの末端基がOH基又はSH基となるようにすることが好ましい。オリゴマーの重合度は、化学式5A又は5Bのモノマーと、各種ビスフェノール類又は各種ビスチオフェノール類とのモル比で調整することができる。
【0043】
化学式5A又は5Bのモノマーと、各種ビスフェノール類又は各種ビスチオフェノール類とは、公知の任意の方法で反応させることができるが、塩基性化合物の存在下で芳香族求核置換反応によって反応させることが好ましい。反応は、0〜350℃の範囲で行うことができるが、50〜250℃の範囲で行うことが好ましい。0℃より低い場合には、十分に反応が進まない傾向にあり、350℃より高い場合には、ポリマーの分解も起こり始める傾向がある。反応は、無溶媒下で行うこともできるが、溶媒中で行うことが好ましい。使用できる溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジフェニルスルホン、スルホランなどの非プロトン性極性溶媒を挙げることができるが、これらに限定されることはなく、芳香族求核置換反応において安定な溶媒として使用できるものであればよい。これらの有機溶媒は、単独でも2種以上の混合物として使用されても良い。塩基性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等があげられるが、芳香族ビスフェノール類や芳香族ビスチオフェノール類を活性なフェノキシド構造やチオフェノキシド構造になしうるものであれば、これらに限定されず使用することができる。副生物として生成する水は、トルエンなどの共沸溶媒と溜去して系外に除去したり、モレキュラーシーブなどの吸水材を使用したり、重合溶媒と共に溜去したりすることで除去することができる。芳香族求核置換反応を溶媒中で行う場合、得られるポリマー濃度として1〜20重量%となるようにモノマーを仕込むことが好ましく、5〜15重量%の範囲であることがより好ましい。1重量%よりも少ない場合は、重合度が上がりにくい傾向がある。一方、20重量%よりも多い場合には、ポリマー構造によって析出して反応が停止する場合がある。
【0044】
化学式5A又は5Bのモノマーと、各種ビスフェノール類又は各種ビスチオフェノール類とを反応させた後で、各種ビスフェノール類又は各種ビスチオフェノール類由来の末端基に、上記化学式6A又は6Bの化合物を反応させる。反応は、化学式5A又は5Bのモノマーと、各種ビスフェノール類又は各種ビスチオフェノール類との反応物を一旦単離してから行ってもよいし、反応溶液をそのまま用いてもよいが、簡便性の面から反応溶液をそのまま用いることが好ましい。その際に、反応で副生した無機塩などは、デカンテーションや濾過によって除いておいてもよい。
【0045】
各種ビスフェノール類又は各種ビスチオフェノール類由来の末端基に、上記化学式6A又は6Bの化合物を反応させる場合には、上記化学式6A又は6Bの化合物を過剰にして反応させることが好ましい。さらに好ましくは、過剰の上記化学式6A又は6Bの化合物を含む溶液中に、化学式5A又は5Bのモノマーと、各種ビスフェノール類又は各種ビスチオフェノール類との反応物を少量ずつ加え反応させていくことが好ましい。一度に大量に加えたり、上記化学式6A又は6Bが不足していたりすると、反応溶液がゲル化する場合がある。反応に用いる溶媒は、各成分が溶解する溶媒であればよいが、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジフェニルスルホン、スルホランなどの非プロトン性極性溶媒などを好ましい例として挙げることができるがこれらに限定されるものではない。各種ビスフェノール類又は各種ビスチオフェノール類との反応物は、空気中の二酸化炭素と接触すると、末端基がフェノキシド構造又はチオフェノキシド構造から、フェノール構造又はチオフェノール構造に変換され、反応性が低下してしまうので、空気との接触を避けることが好ましい。単離する場合には、フェノール又はチオフェノール末端の1〜5モル倍量の炭酸カリウム、炭酸ナトリウムなどを加えることが好ましい。反応温度は50〜150℃の範囲が好ましく、70〜130℃の範囲がより好ましい。
【0046】
疎水性オリゴマーの溶液から、副生成物である無機塩や過剰の化学式6A又は6Bの化合物を除く方法は、オリゴマーの非溶媒への滴下と洗浄など、公知の任意の方法を用いることができる。オリゴマーの非溶媒としては、水や、任意の有機溶媒を選択することができる。無機塩の除去には水が好ましい。化学式6A又は6Bの化合物の除去には有機溶媒が好ましい。水と有機溶媒の両方で洗浄することが好ましいが、最初に滴下する対象としては水と有機溶媒のいずれでもよい。合成や精製の際に用いた有機溶媒は、できるだけ除去しておくことが好ましい。有機溶媒の除去は、乾燥によって行うことが好ましく、10〜150℃の範囲の温度で減圧乾燥することがより好ましい。
【0047】
非溶媒の有機溶媒は、任意の有機溶媒から選択することができるが、反応に用いた非プロトン性極性溶媒と混和するものであることが好ましい。具体的には、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジブチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソプロピルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒や、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノールなどのアルコール系溶媒などを例としてあげることができるが、これらに限定されるものではなく、他にも適したものを用いることができる。
【0048】
<セグメント化ブロック共重合ポリマーの合成>
セグメント化ブロック共重合ポリマーは、上記のようにして合成した、疎水性オリゴマーと親水性オリゴマーを反応させることにより得ることができる。疎水性オリゴマー及び親水性オリゴマーは、それぞれ独立して構造、分子量、分子量分布、及び末端基の異なるオリゴマーからなる群より選ばれる1種以上のオリゴマーを用いることができる。各オリゴマーの分子量は公知の任意の方法で求めることができるが、末端基を定量して数平均分子量を求めることが好ましい。末端基の定量は、滴定法、比色法、ラベル法、NMR法、元素分析など公知の任意の方法を用いることが可能であるが、NMR法が簡便で正確性に優れるため好ましく、H−NMR法がより好ましい。本発明のおける疎水性オリゴマーは、ベンゾニトリル構造を有することを特徴とするが、その構造ゆえに溶媒への溶解性が乏しい。よって、NMR測定の際に、適当な重水素化溶媒に溶解しない場合には、N−メチル−2−ピロリドンなど、疎水性オリゴマーが溶解する通常の溶媒に溶解した溶液に、重水素化ジメチルスルホキシドなどの重水素化溶媒を加えて測定することが好ましい。
【0049】
親水性オリゴマー中のスルホン酸基はアルカリ金属塩であることが好ましく、NaかKであるとより好ましい。スルホン酸基と塩を形成するイオンが複数の種類からなる場合は、前もって、元素分析で組成を分析しておくと、正確な分子量を求めることができる。いったん過剰の酸で処理した後、金属塩やアルカリ金属水酸化物で処理してもよい。親水性オリゴマーは、ブロックポリマー合成の直前に乾燥して吸着した水分を除去しておくことが好ましい。乾燥は100℃以上に加熱すればよいが、減圧乾燥するとなお好ましい。
【0050】
親水性オリゴマーと疎水性オリゴマーのモル比は0.9〜1.1の範囲であることが好ましく、0.95〜1.05の範囲であることがより好ましい。等モルにすると重合度が増大するが、大きくなりすぎるとその後の取扱いに支障をきたす場合があるので、適宜モル比によって調整することが好ましい。また、パーフルオロフェニル基を末端に有するオリゴマーは過剰にしておくことが好ましい。パーフルオロフェニル基を末端に有するオリゴマーのモル数が極端に少ないとゲル化反応が生じる場合があり、好ましくない。
【0051】
親水性オリゴマーと疎水性オリゴマーとの反応は、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジフェニルスルホン、スルホランなどの非プロトン性極性溶媒中で、オリゴマーのフェノール又はチオフェノール末端の1〜5モル倍量の炭酸カリウム、炭酸ナトリウムなどの塩基性化合物の存在下、50〜150℃の範囲で反応させることによって行うことが好ましく、70〜130℃の範囲がより好ましい。重合度は、前記のようにオリゴマーのモル比で調整してもよいし、反応溶液の粘度などから終点を判断して、冷却や末端停止などによって重合を停止させてもよい。反応は窒素などの不活性ガス気流下で行うことが好ましい。反応溶液中の固形分濃度は、5〜50重量%の範囲にあればよいが、疎水性オリゴマーが溶解していないと反応性不良の原因となるため、5〜20重量%の範囲であることが好ましい。疎水性オリゴマーが溶解しているかどうかは、目視により透明であるかどうか、濁っているかいないかで判断することができる。
【0052】
反応溶液からのポリマーの単離と精製は公知の任意の方法で行うことができる。例えば、反応溶液を、水、アセトン、メタノールなどのポリマーの非溶媒に滴下することによってポリマーを固化させることができる。なかでも水が取扱いやすく、無機塩を除去できるため好ましい。また、オリゴマー成分や、親水性の高い成分を除去するために、60℃〜100℃の熱水や、水と有機溶媒(アセトンなどのケトン系溶媒、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール系溶媒)の混合溶媒などで洗浄することが好ましい。
【0053】
本例のセグメント化ブロック共重合ポリマーの好ましい構造の例を以下に示すが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。下記式中、XはH又は1価の陽イオンを、n及びmは独立して、それぞれ2〜100の整数を、それぞれ表す。
【0054】
【化6】

【0055】
【化7】

【0056】
本例のセグメント化ブロック共重合ポリマーのイオン交換容量は、0.5〜2.7meq/gにあることが好ましい。0.5meq/g以下ではプロトン伝導性が低くなりすぎるため好ましくない。2.7meq/g以上であると、膨潤が大きくなり耐久性が低下するため好ましくない。0.7〜2.0meq/gの範囲であると、プロトン伝導性や耐膨潤性などでより好ましい特性を有する。さらに0.7〜1.6meq/gの範囲であると、メタノール透過性が小さいので、ダイレクトメタノール型燃料電池用プロトン交換膜に特に適する。本例のスルホン酸基含有ブロック共重合ポリマー分子量を、0.5g/dLのN−メチル−2−ピロリドン溶液を30℃で測定したときの対数粘度で表すと、0.5以上であることが物理特性の面から好ましく、0.9以上であることがより好ましく、1.2以上であることがさらに好ましい。0.5未満であると物理特性が著しく低下するため好ましくない。対数粘度が5.0を超えるとポリマーを溶解した溶液の粘度が著しく高くなりすぎて取り扱いが困難になる恐れがある。
【0057】
本例のスルホン酸基含有ブロック共重合ポリマーは他の物質や化合物を混合して組成物として用いることもできる。混合するものの例としては、繊維状物質、リンタングステン酸、リンモリブデン酸などのヘテロポリ酸や、低分子のスルホン酸やホスホン酸、リン酸誘導体などの酸性化合物、ケイ酸化合物、ジルコニウムリン酸などを挙げることができる。混合物の含有量は50質量%未満あることが好ましい。50質量%以上であると成形性の物理特性が損なわれるため好ましくない。混合する物質としては、繊維状物質が、膨潤性を抑制する上で好ましく、チタン酸カリウム繊維など無機の繊維状物質がより好ましい。
【0058】
さらに、他のポリマーと混合した組成物として使用することもできる。これらのポリマーとしては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル類、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン6,10、ナイロン12などのポリアミド類、ポリメチルメタクリレート、ポリメタクリル酸エステル類、ポリメチルアクリレート、ポリアクリル酸エステル類などのアクリレート系樹脂、ポリアクリル酸系樹脂、ポリメタクリル酸系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンやジエン系ポリマーを含む各種ポリオレフィン、ポリウレタン系樹脂、酢酸セルロース、エチルセルロースなどのセルロース系樹脂、ポリアリレート、アラミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンオキシド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリベンズイミダゾール、ポリベンズオキサゾール、ポリベンズチアゾールなどの芳香族系ポリマー、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ノボラック樹脂、ベンゾオキサジン樹脂などの熱硬化性樹脂等を用いることができる。
【0059】
これら組成物として使用する場合には、本発明のブロック共重合ポリマーは、組成物全体の50質量%以上100質量%未満含まれていることが好ましい。より好ましくは70質量%以上100質量%未満である。本発明のブロック共重合体の含有量が組成物全体の50質量%未満の場合には、この組成物を含むプロトン交換膜のスルホン酸基濃度が低くなり良好なプロトン伝導性が得られない傾向にあり、また、スルホン酸基を含有するユニットが非連続相となり伝導するイオンの移動度が低下する傾向にある。なお、本発明の組成物は、必要に応じて、例えば酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、粘着付与剤、可塑剤、架橋剤、粘度調整剤、静電気防止剤、抗菌剤、消泡剤、分散剤、重合禁止剤、などの各種添加剤を含んでいても良い。
【0060】
本発明の溶液組成物において、ブロック共重合ポリマーを溶解し、溶液組成物を形成する溶媒種の選定及びブロック共重合ポリマーとの質量比選定は非常に重要な因子である。具体的には、少なくとも親水性ポリマーセグメントと疎水性ポリマーセグメントとを有するブロック共重合ポリマーを溶解することができ、かつ溶媒A(ブロック共重合ポリマーの疎水性セグメントを構成するオリゴマーと溶媒Aをそれぞれ1:24の比で混合した際、オリゴマーが全て溶解せずに残渣が残るもの)を含み、ブロック共重合ポリマーと、溶媒Aとの質量比が下式(式1)を満たすことが必須であり、下式(式2)を満たすことが好ましく、下式(式3)を満たすことがさらに好ましい。
1.0≦ 溶媒A/ブロック共重合ポリマー ≦99・・・(式1)
1.5≦ 溶媒A/ブロック共重合ポリマー ≦49・・・(式2)
2.0≦ 溶媒A/ブロック共重合ポリマー ≦39・・・(式3)
【0061】
ここで示す溶媒Aは単独溶媒でも良く、また混合溶媒でも良い。結果的に上記式1〜式3を満たすものであればいかなる溶媒及び組み合わせも選定可能である。
【0062】
本発明の溶液組成物において、上記式1〜式3を満たす範囲であればさらに溶媒Aと異なる溶媒B(ブロック共重合ポリマーの疎水性セグメントを構成するオリゴマーと溶媒Bをそれぞれ1:24の比で混合した際、オリゴマーが全て溶解するもの)を混合しても良い。溶媒Aと溶媒Bの質量比は下式(式4)を満たすことが必須であり、下式(式5)を満たすことが好ましく、下式(式6)を満たすことがさらに好ましい。
0.01≦ 溶媒A/溶媒B ≦99・・・(式4)
0.02≦ 溶媒A/溶媒B ≦49・・・(式5)
0.03≦ 溶媒A/溶媒B ≦33・・・(式6)
【0063】
ここで示す溶媒Bも溶媒Aと同様、単独溶媒でも良く、また混合溶媒でも良い。結果的に上記式1〜式3のいずれか及び式4〜式6のいずれかを共に満たすものであればいかなる溶媒及び組み合わせも選定可能である。
【0064】
これら溶媒の例として、例えば、エタノール、メタノール、2−プロパノール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール等のアルコール類、フェノール,m−クレゾール等のフェノール類、ジブチルエーテル、ジペンチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン等のエーテル類、メチルエチルケトン、3−ペンタノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸イソブチル、乳酸エチル、乳酸ブチル、γ―ブチロラクトン等のエステル、ラクトン類等の他、2−メトキシエタノール、2−(メトキシメトキシ)エタノール、ジメチルジエチレングリコール、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、トルエン、キシレン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等、本発明の要件を満たすものであればいかなる溶媒及びその組み合わせが使用できる。
例えば溶媒Aの好ましい例としてテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、γ―ブチロラクトン等その混合溶媒、溶媒Bの好ましい例としてジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等及びその混合溶媒があるがこれらに限定されるものではなく、それぞれの要件を満たせばいかなるものでも使用可能である。
【0065】
上記溶液組成物中において、ブロック共重合ポリマーに対し好ましい相分離状態をまず溶液組成物中に形成させておき、その状態をベースに溶液のキャスト、乾燥を行うことで相分離状態を膜中に固定することができる。
【0066】
本発明において溶液中組成物中のブロック共重合ポリマーの好ましい相分離状態とは、ブロック共重合ポリマー全体としては溶解できるが疎水性セグメントに対しては溶解性の低い溶媒あるいは混合溶媒を用いることにより、より溶解性の高い親水性セグメントを外側、溶解性の低い疎水性セグメントを外側としたミセル様の状態である。本状態の溶液組成物をキャスト、乾燥した際には、まずミセル様の構造同士が寄り集まった後融合して膜を形成するため、構造の外側にある親水部ドメイン同士を優先して連続させ、仮に海島構造を形成した場合に優先的に海部を形成させることで高いプロトン伝導性を持たせることが可能になる。
【0067】
加えて通常の相分離の場合、体積比の多い層が海部になることが多いが、本発明の系では親水部の比率が少なくても親水部同士の接続が可能であるため、通常の親水部海部/
疎水部島部とした高分子固体電解質膜に対し同程度のプロトン伝導性を持たせながら疎水部を多くすることによる水膨潤時の寸法変化抑制を図ることもできる。
【0068】
ブロック共重合ポリマーの溶液組成物中での構造については、疎水性セグメントに対する溶媒の溶解性を小さくするに従って下表の4ステージに分かれる。
【0069】
【表1】


本発明で見出した領域は上記ステージ2、3の領域であり、つまり溶液中の構造については10000倍の透過電顕による製造後膜の観察で疎水部の凝集構造が確認できることが必須であり、溶液の1000倍 偏光顕微鏡観察において凝集構造が観察できることが好ましい。
【0070】
一方、加工性の観点より、ブロック共重合ポリマーの溶液を偏光顕微鏡で観察した際に観察できる構造の大きさに対して、塗工製膜を行う際の基材とアプリケーターのクリアランスは該構造の大きさに対して1.5倍以上であることが必須であり、2倍以上であればより好ましく、3倍以上であればさらに好ましい。
【実施例】
【0071】
以下本発明を、実施例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、各種測定は次のように行った。
【0072】
<偏光顕微鏡による1000倍での観察>
ポリマー溶液 0.3mlをスライドガラス上に乗せ、上からカバーグラスをかけた後
スライドガラスとカバーグラスの間の空気を押し出し、観察用検体を作成する。
ついでこの検体をオリンパス株式会社製 偏光顕微鏡BX51−Pを使用し、偏光下 1000倍にて観察し、粒子状の物体が観察できた場合は視野内で最も大きなものの長径を測定し、凝集構造の最大大きさとする。
【0073】
<透過電子顕微鏡による10000倍での観察>
高分子固体電解質膜を重金属塩を含んだ溶液中で電子染色し、エポキシ樹脂に包埋後、ミクロトームで超薄切片を切り出し、日本電子製JEM2100透過電子顕微鏡を用いて、10,000倍で観察を行った。
【0074】
<膜厚方向プロトン伝導度>
(プロトン伝導度の評価)
高分子固体電解質膜を23℃、相対湿度50%下で5時間調温調湿した後直径15mmの円形に切り抜き、その後80℃、相対湿度80%で3時間以上調温調湿してから白金電極に挟み、密閉セルに封入し、ソーラトロン社製 インピーダンス測定器 FRA1260型を用いて、周波数10〜20MHz、印加電圧11mV、温度80℃にてセルのインピーダンスの絶対値と位相角を測定した。得られたデータより、コンピュータを用いて発振レベル12mVの複素インピーダンス解析を行い、80℃、80%RHのプロトン伝導率度を算出した。
【0075】
<疎水性ポリマーセグメントの溶解度>
使用する溶剤に対し、該ブロック共重合体を構成する疎水性オリゴマー単体を3重量%となるように溶解し、溶け残り発生の有無で判断した。
【0076】
親水性、疎水性オリゴマー及びブロックポリマーの合成に関して以下に示す。
【0077】
<オリゴマー合成例1:親水性オリゴマーA>
4,4’−ジクロロジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸ソーダ(略号:S−DCDPS)250.0g(508.9mmol)、BP105.72g(567.8mmol)、炭酸ナトリウム72.2g(681.4mmol)、NMP650mL、トルエン150mLを、窒素導入管、攪拌翼、ディーンスタークトラップ、温度計を取り付けた2000mL枝付きフラスコに入れ、オイルバス中で攪拌しつつ窒素気流下で加熱した。トルエンとの共沸による脱水を140℃で行なった後、トルエンをすべて留去した。その後、200℃に昇温し、16時間加熱した。続いて、NMP500mLを投入し、攪拌しながら室温まで冷却した。得られた溶液を、25G2ガラスフィルターで吸引濾過したところ、黄色の透明な溶液が得られた。得られた溶液を3Lのアセトンに滴下してオリゴマーを固化させた。オリゴマーはさらにアセトンで3回洗浄した後、濾別して減圧乾燥し親水性オリゴマーAを得た。H−NMR測定による数平均分子量は5960であった。親水性オリゴマーAの化学構造を以下に示す。
【0078】
【化8】

【0079】
<オリゴマー合成例2:親水性オリゴマーB>
S−DCDPS250.0g(508.9mmol)、BP113.7g(610.7mmol)、炭酸ナトリウム77.67g(732.8mmol)、NMP650mL、トルエン150mLを、窒素導入管、攪拌翼、ディーンスタークトラップ、温度計を取り付けた2000mL枝付きフラスコに入れ、合成例1と同様にして親水性オリゴマーBを得た。H−NMR測定による数平均分子量は3020であった。親水性オリゴマーBの化学構造を以下に示す。
【0080】
【化9】

【0081】
<オリゴマー合成例3:親水性オリゴマーC>
S−DCDPS250.0g(508.9mmol)、BP99.50g(534.3mmol)、炭酸ナトリウム67.96g(641.2mmol)、NMP650mL、トルエン150mLを、窒素導入管、攪拌翼、ディーンスタークトラップ、温度計を取り付けた2000mL枝付きフラスコに入れ、合成例1と同様にして親水性オリゴマーCを得た。H−NMR測定による数平均分子量は11800であった。親水性オリゴマーCの化学構造を以下に示す。
【0082】
【化10】

【0083】
<オリゴマー合成例4:親水性オリゴマーD>
S−DCDPS250.0g(508.9mmol)、BFP192.50g(572.51mmol)、炭酸ナトリウム72.82g(687.0mmol)、NMP800mL、トルエン150mLを、窒素導入管、攪拌翼、ディーンスタークトラップ、温度計を取り付けた2000mL枝付きフラスコに入れ、合成例1と同様にして親水性オリゴマーDを得た。H−NMR測定による数平均分子量は6040であった。親水性オリゴマーDの化学構造を以下に示す。
【0084】
【化11】

【0085】
<オリゴマー合成例5:疎水性オリゴマーa>
2,6−ジクロロベンゾニトリル(略号:DCBN)49.97g(290.5mmol)、4,4’−ビフェノール(略号:BP)56.44g(303.1mmol)、炭酸カリウム48.18g(348.6mmol)、NMP750mL、トルエン150mLを、窒素導入管、攪拌翼、ディーンスタークトラップ、温度計を取り付けた1000mL枝付きフラスコに入れ、オイルバス中で攪拌しつつ窒素気流下で加熱した。トルエンとの共沸による脱水を140℃で行なった後、トルエンをすべて留去した。その後、200℃に昇温し、15時間加熱した。窒素導入管、攪拌翼、冷却還流管、温度計を取り付けた別の1000mL枝付きフラスコに、NMP200mLとパーフルオロビフェニル12.62g(37.8mmol)を入れ、窒素気流下、攪拌しながら、オイルバス中で110℃に加熱した。そこに、DCBNとBPの反応溶液を、滴下漏斗を用いて2時間かけて攪拌しながら投入し、投入完了後、さらに2時間攪拌した。反応溶液を室温まで冷却した後、3000mLの純水に注ぎオリゴマーを固化させ、さらに純水で3回洗浄して、NMP及び無機塩を除去した。水洗したオリゴマーは、濾別した後、100℃で2時間乾燥させた後、室温まで冷却し、3000mLのアセトンで2回洗浄し、過剰のパーフルオロビフェニルを除去した。再びオリゴマーを濾別し、120℃で16時間減圧乾燥して疎水性オリゴマーaを得た。H−NMR測定による数平均分子量は6120だった。疎水性オリゴマーaの化学構造を以下に示す。
【0086】
【化12】

【0087】
<オリゴマー合成例6:疎水性オリゴマーb>
使用したモノマーを、DCBN49.97g(290.5mmol)、BP59.17g(317.8mmol)、炭酸カリウム50.50g(365.4mmol)、パーフルオロビフェニル27.36g(81.9mmol)とした以外はオリゴマー合成例5と同様にして疎水性オリゴマーbを得た。H−NMR測定による数平均分子量は3150だった。疎水性オリゴマーbの化学構造を以下に示す。
【0088】
【化13】

【0089】
<オリゴマー合成例7:疎水性オリゴマーc>
使用したモノマーを、DCBN49.97g(290.5mmol)、BP55.14g(296.1mmol)、炭酸カリウム47.07g(340.5mmol)、パーフルオロビフェニル5.61g(16.8mmol)とした以外はオリゴマー合成例5と同様にして疎水性オリゴマーcを得た。H−NMR測定による数平均分子量は12100だった。疎水性オリゴマーcの化学構造を以下に示す。
【0090】
【化14】

【0091】
<合成例8:疎水性オリゴマーd>
パーフルオロビフェニル12.62g(37.8mmol)の代わりに、パーフルオロジフェニルスルホン15.05g(37.8mmol)を用いた他はオリゴマー合成例5と同様にして疎水性オリゴマーdを合成した。H−NMR測定による数平均分子量は6240であった。疎水性オリゴマーdの化学構造を以下に示す。
【0092】
【化15】

【0093】
<ブロックポリマー合成例1>
親水性オリゴマーA 45.00g、疎水性オリゴマーa 23.85g、炭酸ナトリウム1.20g、NMP400mLを、窒素導入管、攪拌翼、ディーンスタークトラップ、温度計を取り付けた1000mL枝付きフラスコに入れ、窒素気流下50℃のオイルバス中で攪拌し溶解させた。その後、110℃まで加熱し、10時間反応させた。その後、室温まで冷却し、3Lの純水中に滴下してポリマーを固化させた。純水で3回洗浄した後、純水に浸漬したまま80℃で16時間処理し、その後で純水を除いて熱水洗浄を行った。その後、熱水洗浄をもう一度繰り返した。さらに水を除去したポリマーを、1000mLのイソプロパノールと500mLの水との混合溶媒に室温で16時間浸漬し、ポリマーを取り出し洗浄を行った。同じ操作をもう一度行った。その後、濾過でポリマーを濾別し、120℃で12時間減圧乾燥してスルホン酸基含有セグメント化ブロックポリマーAを得た。ブロックポリマーAの対数粘度は、2.0dL/gだった。ブロックポリマーAの化学構造を以下に示す。
【0094】
【化16】

【0095】
<ブロックポリマー合成例2>
親水性オリゴマーB 43.50g、疎水性オリゴマーb 26.00g、炭酸ナトリウム0.37g、NMP350mLを用い、実施例1と同様にして、スルホン酸基含有セグメント化ブロックポリマーBを得た。ブロックポリマーBの対数粘度は、2.5dL/gだった。ブロックポリマーBの化学構造を以下に示す。
【0096】
【化17】

【0097】
<ブロックポリマー合成例3>
親水性オリゴマーC 44.50g、疎水性オリゴマーc 18.62g、炭酸ナトリウム0.46g、NMP350mLを用い、実施例1と同様にして、スルホン酸基含有セグメント化ブロックポリマーCを得た。ポリマーCの対数粘度は、3.1dL/gだった。ブロックポリマーCの化学構造を以下に示す。
【0098】
【化18】

【0099】
<ブロックポリマー合成例4>
親水性オリゴマーD 45.00g、疎水性オリゴマーd 19.94g、炭酸ナトリウム1.18g、NMP380mLを用い、実施例1と同様にして、スルホン酸基含有セグメント化ブロックポリマーDを得た。ポリマーDの対数粘度は、2.0dL/gだった。ポリマーDの化学構造を以下に示す。
【0100】
【化19】

【0101】
<実施例1>
ポリマーA10.0gを2000mlビーカーに取り、次に濃度20%の硫酸水溶液を1000ml入れて5時間待った後、硫酸を取り除くことを3回繰り返した後、1000mlの純水で10回洗うことでポリマー状態での酸変換を実施した。
次に酸変換後のポリマー 8.0gをγ−ブチロラクトン/1,3−ジオキソランの重量比50:50の混合溶媒に重量濃度3%となるように溶解し、ポリマー溶液を得た。
得られた溶液は白濁しており、偏光顕微鏡で観察した凝集構造の最大大きさは25μmであった。この溶液を700μmのクリアランス(凝集構造の最大大きさはクリアランス
の3.6%)を持つ塗工幅200mmのアプリケーターで188μmのPETフィルム上に塗工し、120℃で20分間乾燥した後、支持体からポリマー膜を剥がすことなく30℃の純水に25分間浸漬した後、純水を取り除くことを3回繰り返した後、さらに、支持体からポリマー膜を剥がすことなく25℃で30分間風乾させ、最後にポリエチレンテレフタレートフィルムから剥離して厚さ10μmの高分子固体電解質膜を得た。得られた高分子固体電解質膜の膜厚方向プロトン伝導度は0.067S/cmであり、高いプロトン伝導性を示した。
また得られた高分子固体電解質膜を透過電子顕微鏡で観察した所、3〜4μm程度の疎水部の凝集構造が観察された。
なお、本溶媒に対する疎水性ポリマーセグメントの溶解度を、疎水性オリゴマーAに対し上記溶媒で3重量%になるよう溶解を試みた所溶解しなかった。これらの結果を表2、表3に示す。
【0102】
<実施例2>
ポリマーA10.0gを重量濃度6%となるようNMPに溶解し、次に該溶液が濃度3%となるようγ−ブチロラクトンを添加した。この時のNMP/γ−ブチロラクトンの比は 48.5/51.5となる。本溶液はNMP単独溶解の際には透明であったが、γ−ブチロラクトン添加後の状態では白濁しており、偏光顕微鏡で観察した凝集構造の最大大きさは20μmであった。この溶液を700μmのクリアランス(凝集構造の最大大きさはクリアランスの2.9%)を持つ塗工幅100mmのアプリケーターで188μmのPETフィルム上に塗工し、120℃で20分間乾燥した後、支持体からポリマー膜を剥がすことなく、30℃、20質量%硫酸水溶液に15分間浸漬し、引き続き30℃の純水に25分間浸漬した後、純水を取り除くことを3回繰り返した後、支持体からポリマー膜を剥がすことなく25℃で30分間風乾させ、最後にポリエチレンテレフタレートフィルムから剥離して、厚さ10μmの高分子固体電解質膜を得た。得られた高分子固体電解質膜の膜厚方向プロトン伝導度は0.063S/cmであり、高いプロトン伝導性を示した。
また得られた高分子固体電解質膜を透過電子顕微鏡で観察した所、2〜3μm程度の疎水部の凝集構造が観察された。
なお、本溶媒に対する疎水性ポリマーセグメントの溶解度を、疎水性オリゴマーAに対し上記溶媒でまずNMPで6重量%になるよう溶解を試みた所溶解したが、次いで3重量%になるようγ−ブチロラクトンを加えた所オリゴマーが析出した。これらの結果を表2、表3に示す。
【0103】
<実施例3〜9>
ポリマー種、溶媒組成等種々の条件を変更して検討した結果を表2、表3に示す。いずれも良好な膜厚プロトン伝導性を示した。
【0104】
<比較例1>
溶媒をNMP単独とした以外は実施例1と同様にして高分子固体電解質膜を得た。
得られた高分子固体電解質膜の膜厚方向プロトン伝導度は0.030S/cmであり、プロトン伝導性に劣る結果であった。
また溶液は透明であり、溶液の偏光顕微鏡観察、高分子固体電解質膜の透過電子顕微鏡観察共、凝集構造は観察されなかった。
なお、本溶媒に対する疎水性ポリマーセグメントの溶解度を確認した所、疎水性オリゴマーは溶解した。これらの結果を表2、表3に示す。
【0105】
<比較例2>
溶媒をNMP単独とした以外は実施例2と同様にして高分子固体電解質膜を得た。
得られた高分子固体電解質膜の膜厚方向プロトン伝導度は0.029S/cmであり、プロトン伝導性に劣る結果であった。
また溶液は透明であり、溶液の偏光顕微鏡観察、高分子固体電解質膜の透過電子顕微鏡観察共、凝集構造は観察されなかった。
なお、本溶媒に対する疎水性ポリマーセグメントの溶解度は比較例1同様、疎水性オリゴマーは溶解する結果であった。これらの結果を表2、表3に示す。
【0106】
<比較例3>
溶媒をγ−ブチロラクトン単独とした以外は実施例1と同様にして実験を行ったが、ブロック共重合体が本溶媒に溶解せず、高分子固体電解質膜を得ることができなかった。結果を表2、表3に示す。
【0107】
<比較例4>
溶媒を1,3−ジオキソラン単独とした以外は実施例1と同様にして実験を行ったが、ブロック共重合体が本溶媒に溶解せず、高分子固体電解質膜を得ることができなかった。結果を表2、表3に示す。
【0108】
<比較例5〜10>
ポリマー種、溶媒組成等種々の条件を変更して検討した結果を表2、表3に示す。いずれも膜厚プロトン伝導性に劣るか、満足な高分子固体電解質膜を得ることができなかった。
【0109】
【表2】

【0110】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明の高分子固体電解質膜は、構成するブロック共重合体の親水性、疎水性ポリマーセグメントの構造が制御され、親水性ドメインが連続することによりプロトン伝導性が向上している。加えて通常の相分離の場合、体積比の多い層が海部になることが多いが、本発明の系では親水部の比率が少なくても親水部同士の接続が可能であるため、通常の親水部海部/疎水部島部とした高分子固体電解質膜に対し同程度のプロトン伝導性を持たせながら疎水部を多くすることによる水膨潤時の寸法変化抑制を図ることもでき、固体高分子形燃料電池の発展に大いに寄与するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも親水性ポリマーセグメントと疎水性ポリマーセグメントとを有するブロック共重合ポリマーが溶解した溶液組成物であり、溶媒A(ブロック共重合ポリマーの疎水性セグメントを構成するオリゴマーと溶媒Aをそれぞれ1:24の比で混合した際、オリゴマーが全て溶解せずに残渣が残るもの)を含み、ブロック共重合ポリマーと、溶媒Aとの質量比が下式(式1)を満たすことを特徴とするブロック共重合ポリマー溶液組成物。
1.0≦ 溶媒A/ブロック共重合ポリマー ≦99・・・(式1)
【請求項2】
ブロック共重合ポリマーと、溶媒Aとの質量比が下式(式2)を満たすことを特徴とする請求項1に記載のブロック共重合ポリマー溶液組成物。
1.5≦ 溶媒A/ブロック共重合ポリマー ≦49・・・(式2)
【請求項3】
ブロック共重合ポリマーと、溶媒Aとの質量比が下式(式3)を満たすことを特徴とする請求項1、2に記載のブロック共重合ポリマー溶液組成物。
2.0≦ 溶媒A/ブロック共重合ポリマー ≦39・・・(式3)
【請求項4】
少なくともブロック共重合ポリマーと、溶媒Aと、溶媒B(ブロック共重合ポリマーの疎水性セグメントを構成するオリゴマーと溶媒Bをそれぞれ1:24の比で混合した際、オリゴマーが全て溶解するもの)を含み、溶媒Aと溶媒Bとの質量比が下式(式4)を満たしかつブロック共重合ポリマーと、溶媒Aとの質量比が上式(式1)を満たすことを特徴とするブロック共重合ポリマー溶液組成物。
0.01≦ 溶媒A/溶媒B ≦99・・・(式4)
【請求項5】
少なくともブロック共重合ポリマーと、溶媒Aと、溶媒Bを含み、溶媒Aと溶媒Bとの質量比が下式(式5)を満たしかつブロック共重合ポリマーと、溶媒Aとの質量比が上式(式2)を満たすことを特徴とする請求項4に記載のブロック共重合ポリマー溶液組成物。
0.02≦ 溶媒A/溶媒B ≦49・・・(式5)
【請求項6】
少なくともブロック共重合ポリマーと、溶媒Aと、溶媒Bを含み、溶媒Aと溶媒Bとの質量比が下式(式6)を満たしかつブロック共重合ポリマーと、溶媒Aとの質量比が上式(式3)を満たすことを特徴とする請求項4、5に記載のブロック共重合ポリマー溶液組成物。
0.03≦ 溶媒A/溶媒B ≦33・・・(式6)
【請求項7】
該溶液組成物を倍率1000倍の偏光顕微鏡で観察した際に凝集構造が観察できることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のブロック共重合ポリマー溶液組成物。
【請求項8】
請求項7に記載のブロック共重合ポリマー溶液組成物を偏光顕微鏡で観察した際に観察できる構造の大きさに対して、塗工製膜を行う際の基材とアプリケーターのクリアランスを該構造の大きさの1.5倍以上とすることを特徴とするブロック共重合ポリマー溶液組成物を用いた製膜方法。
【請求項9】
請求項8に記載のブロック共重合ポリマー溶液組成物を用いた製膜方法において、塗工製膜を行う際の基材とアプリケーターのクリアランスを前記構造の大きさの2倍以上とすることを特徴とするブロック共重合ポリマー溶液組成物を用いた製膜方法。
【請求項10】
該ブロック共重合ポリマーが高分子固体電解質であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のブロック共重合ポリマー溶液組成物。
【請求項11】
該ブロック共重合ポリマーがスルホン酸基またはその誘導体を含有することを特徴とする請求項10に記載のブロック共重合ポリマー溶液組成物。
【請求項12】
請求項1〜7、請求項10〜11のいずれかに記載の溶液組成物より製造され、製造後の膜のモルフォロジーがミクロ相分離構造を有し、該製造後の膜を倍率10000倍の透過電子顕微鏡で観察した際に疎水部の凝集構造が観察できることを特徴とする高分子固体電解質膜。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−17351(P2012−17351A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−153702(P2010−153702)
【出願日】平成22年7月6日(2010.7.6)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】