説明

プラスチゾル及びテキスタイルインク

【課題】粘度が低く、耐熱性、貯蔵安定性に優れ、テキスタイルインク用として好適であり、加工時にVOCの発生量が少なく環境への負荷を低減することができるプラスチゾルを提供する。また、貯蔵時安定性に優れ、テキスタイル上に形成した塗膜において、強度と伸縮性のバランスが良好で、タックが抑制されるテキスタイルインクを提供する。
【解決手段】 重合体粒子と、式(1)で表されるトリメチロールプロパンエステルとを含み、該トリメチロールプロパンエステルの含有量が20質量%以上、80質量%以下であるプラスチゾル。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貯蔵安定性、耐熱性に優れるプラスチゾルや、これを用いて得られるテキスタイルインクに関し、より詳しくは、環境に対する負荷が少なく、テキスタイルインクを用いて形成した塗膜において、強度、伸縮性、柔軟性に優れ、タック(べたつき感)が抑制されるテキスタイルインクに関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性重合体の微粒子を可塑剤に分散させてなるペースト状の材料はプラスチゾルと総称され、特に塩化ビニル系重合体を用いたプラスチゾルは塩ビゾルとして種々の産業分野で長年に亘り広く利用されている。しかしながら、塩ビゾルは低温で焼却するとダイオキシンが発生する等の環境問題を生起させることから、環境負荷の低減を図るため、アクリル系重合体微粒子を用いたアクリル系プラスチゾルが提案されており(特許文献1等)、その実用化が進んでいる。
【0003】
近年では、可塑剤として用いられているフタル酸エステル系化合物に対しても、揮発性を有することから、更なる環境負荷の低減を図るため、一部の分野ではその使用を中止し、非フタル酸エステル系可塑剤を利用する動きがある。非フタル酸エステル系可塑剤は種々の種類のものが実用化され、また提案されており、例えば安息香酸エステル系化合物、クエン酸エステル系化合物、ポリエステル系化合物等がその例である。
【0004】
しかし、これらの可塑剤は、耐熱性や粘度等の物性面及びコスト面等の点で、フタル酸エステル系可塑剤に及ぶものではなく、用途によっては利用可能ではあるものの、汎用的にフタル酸エステル系可塑剤を代替するには至っていない。
【0005】
とりわけアクリル系プラスチゾルに関して、アクリル系重合体との相溶性や濡れ性等の最適化を図り、ゲル化性能や貯蔵安定性、粘度等実用上において満足できる可塑剤の開発が要請されている。具体的には、アクリル系重合体と安息香酸エステル系可塑剤を組み合わせてなるアクリル系プラスチゾルが提案されている(特許文献2等)。しかしながら安息香酸エステル系可塑剤はポリエーテル骨格を有するため耐熱性が極めて低く、これを用いたプラスチゾルは耐熱性の点で不充分である。耐熱性が不充分の場合、プラスチゾル加工時の揮発性有機化合物(VOC)の揮発や、成形品に臭気が残存する等、種々の問題がある。
【0006】
また、非フタル酸エステル系可塑剤として液状のポリエステル系化合物やアクリル系化合物が提案されている(特許文献3等)。これらの可塑剤は市販されているものでは質量平均分子量が1000以上であり、可塑剤としては非常に高粘度である。このため、得られるプラスチゾルも高粘度になり、工業的に容易に利用することができないという問題がある。また、粘度を低下するために希釈剤を多量に併用すると、希釈剤の気体が発生し、揮発性有機化合物(VOC)問題の解決に相反してしまう。
【0007】
また、トリメチロールプロパンエステルをポリ塩化ビニル樹脂の可塑剤として用いる(特許文献4)ことが報告されている。該可塑剤を用いることで、引張強伸度、伸度が高く、表面への可塑剤の滲み出しが抑制され(耐移行性)、シートの加熱時の減量が低減されたポリ塩ビニル樹脂製成形シートが得られているが、トリメチロールプロパンエステルを適用したプラスチゾルは知られていない。
【0008】
ところで、各種テキスタイルに図柄等をプリントしたり、各種機能を有する塗膜を形成するために、テキスタイルインクが使用されている。テキスタイルインクは塗膜形成成分としてプラスチゾルと、顔料等の機能性成分とを含有し、これを用いてテキスタイル上に形成される塗膜には、強度と、テキスタイルの変形に追従する柔軟性、伸縮性を有することが求められる。しかしながら、強度と、適度な伸縮性とは、相反する特性であり、強度と伸縮性とを兼備するより優れた塗膜を形成し得るテキスタイルインク用プラスチゾルが求められている。更に、テキスタイル上の塗膜にはタック(べたつき感)がないことの要請もあり、強度と伸縮性とを充足し、タックが抑制された塗膜を形成し得るプラスチゾルの要請がある。さらに、得られる塗膜の柔軟性とテキスタイルインクに含まれるプラスチゾルの貯蔵安定性も相反する特性であり、これらを充足するテキスタイルインクが要請されている。アクリル系プラスチゾルは貯蔵時にゾル状態が変化する等の貯蔵安定性に欠ける傾向があり、アクリル系プラスチゾルを用いたテキスタイルインクにおいて、得られる塗膜の柔軟性とテキスタイルインクの貯蔵安定性の調整には困難を極める。
【特許文献1】国際公開公報WO00/01748
【特許文献2】特開平11−124483号公報
【特許文献3】特開2001−247739
【特許文献4】特表2004−517184
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、粘度が低く、耐熱性、貯蔵安定性に優れ、テキスタイルインク用として好適であり、加工時にVOCの発生量が少なく環境への負荷を低減することができるプラスチゾルを提供することにある。また、貯蔵時安定性に優れ、テキスタイル上に形成した塗膜において、強度と伸縮性のバランスが良好で、タックが抑制されるテキスタイルインクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、重合体微粒子とトリメチロールプロパンエステル系可塑剤を含有するプラスチゾルは、極めて貯蔵安定性に優れ、これを用いてテキスタイル上に形成された塗膜は、強度と伸縮性が共に優れ、タックが抑制されることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、重合体粒子と、式(1)で表されるトリメチロールプロパンエステルとを含み、該トリメチロールプロパンエステルの含有量が20質量%以上、80質量%以下であるプラスチゾルに関する。
【0012】
【化1】

【0013】
(式中、R1からR3は、独立して炭化水素基を示す。)
また、本発明は、上記プラスチゾルを用いることを特徴とするテキスタイルインクに関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明のプラスチゾルは、粘度が低く、耐熱性、貯蔵安定性に優れ、テキスタイルインク用として好適であり、加工特にVOCの発生量が少なく環境への負荷を低減することができる。また、本発明のテキスタイルインクは、貯蔵安定性に優れ、テキスタイル上に形成した塗膜において、強度と伸縮性とのバランスが良好で、タックを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明のプラスチゾルは、重合体粒子と、式(1)で表されるトリメチロールプロパンエステルとを含み、該トリメチロールプロパンエステルの含有量が20質量%以上、80質量%以下であることを特徴とする。
【0016】
【化2】

【0017】
本発明のプラスチゾルに含まれる重合体粒子は、式(1)で表されるトリメチロールプロパンエステルと相溶性を有するものであれば、特に制限されず、ポリ塩化ビニル系重合体、アクリル系重合体、ポリスチレン系重合体等の粒子を挙げることができる。これらのうち、特に、アクリル系重合体の粒子が、焼却時の有害ガス排出量が少ない等、環境への負荷が小さく、また、式(1)で表されるトリメチロールプロパンエステルとの相溶性が良好であるため、好ましい。
【0018】
上記アクリル系重合体としては、工業的に入手可能な(メタ)アクリル酸エステル重合体が好ましい。かかる(メタ)アクリル酸エステル重合体としては、具体的には、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート等の直鎖アルキルアルコールの(メタ)アクリレート類;シクロヘキシル(メタ)アクリレート等の環式アルキルアルコールの(メタ)アクリレート類;等を単量体とする重合体を挙げることができる。これらのうち、メチルアクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートを単量体とする重合体は、これらの単量体を容易に入手することができ、工業的実用化の点から好ましい。上記(メタ)アクリル酸エステル重合体はこれらの単量体を適宜組み合わせた共重合体であってもよい。ここで、(メタ)アクリレートは、アクリレートとメタクリレートの総称である。
【0019】
更に、上記(メタ)アクリル酸エステル重合体としては、上記(メタ)アクリル酸エステルの単量体と共重合可能な単量体との共重合体であってもよい。上記(メタ)アクリル酸エステルの単量体と共重合可能な単量体としては、メタクリル酸、アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、メタクリル酸2−サクシノロイルオキシエチル、メタクリル酸2−マレイノイルオキシエチル、メタクリル酸2−フタロイルオキシエチル、メタクリル酸2−ヘキサヒドロフタロイルオキシエチル等のカルボキシル基含有不飽和単量体;アリルスルホン酸等のスルホン酸基含有不飽和単量体;2−(メタ)アクリロイキシエチルアシッドフォスフェート等のリン酸基含有(メタ)アクリレート;アセトアセトキエチル(メタ)アクリレート等のカルボニル基含有(メタ)アクリレート;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のヒドロキシル基含有(メタ)アクリレート;グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有(メタ)アクリレート;N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノ基含有(メタ)アクリレート;アクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メトキシメチルアクリルアミド、N−エトキシメチルアクリルアミド、N−ブトキシメチルアクリルアミド等のアクリルアミドおよびその誘導体;ウレタン変性アクリレート;エポキシ変性アクリレート;シリコーン変性アクリレート;(ポリ)エジレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオール(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパン(メタ)アクリレート類等の多官能単量体、グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有化合物等を挙げることができる。
【0020】
上記(メタ)アクリル酸エステル重合体は、上記(メタ)アクリル酸エステル単位を50質量%以上含有する化合物であることが好ましい。
【0021】
上記アクリル系重合体の重量平均分子量(Mw)は、50万以上、300万以下であることが好ましい。アクリル系重合体の分子量が50万以上であれば、これを用いたテキスタイルインクにおいて優れた貯蔵安定性を有し、適度な強度を有する塗膜を形成することができ、300万以下であれば、プラスチゾルが高粘度となることを抑制することができる。
【0022】
上記重合体粒子は、粒子構造として全体に亘って均一な組成を有するものであってもよいが、多層構造を有するものが好ましい。多層構造としては、シード粒子上に、異なる組成のコア層とシェル層を有するコアシェル構造、更にシェル層が複数層からなる三層以上の構造、中心部から表面へと組成が連続して変化するグラディエント型構造を有するもの等が挙げられる。
【0023】
上記重合体粒子がアクリル系重合体粒子の場合、多層構造を有するものが好ましい。コア層を可塑剤と相溶性を有するアクリル系重合体成分で形成し、表面のシェル層を可塑剤と非相溶性のアクリル系重合体成分で形成することが好ましい。このような多層構造を有することにより、コア層が表面層により被覆されて可塑剤との接触が抑制され、プラスチゾル中でのアクリル系重合体粒子のゲル化が抑制され、プラスチゾルやこれを用いたインクの貯蔵安定性が向上する。更に、これを用いて得られる塗膜の強度や伸縮性の調整を容易に行うことができる。
【0024】
上記アクリル系重合体粒子は、上記アクリル系重合体を含有する一次粒子、一次粒子が弱い凝集力で凝集した粒子、強い凝集力で凝集した粒子、熱により相互に融着した粒子等の二次粒子、更に、これらの二次粒子の顆粒化等の処理により高次の構造を有する粒子であってもよい。アクリル系重合体粒子の高次構造化は、アクリル系重合体粒子の粉立ちの抑制や、流動性の向上等の作業性を改善する目的、プラスチゾルにおける可塑剤に対するゲル化の抑制等の物性を改善する目的等、用途と要求に応じて行うことができる。
【0025】
上記多層構造の重合体粒子の製造は、臨界ミセル濃度以下で単量体を重合してシード粒子を形成した後、該シード粒子の存在下で、開始剤及び連鎖移動剤の少なくとも一方を添加して、単量体を重合する工程を2回以上行なう方法によることができる。
【0026】
上記シード粒子を形成する工程において、メチルメタクリレート等上記(メタ)アクリレート類の他、必要に応じて酸基等の官能基を有する単量体を分散媒に、臨界ミセル濃度以下の濃度で分散し、必要に応じて重合開始剤等を添加して、重合し、シード粒子を得る。臨界ミセル濃度以下の濃度で重合することにより、比較的大きな粒子径のシード粒子を得ることができる。使用する分散媒としては、水等を挙げることができる。使用する重合開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウムの過硫酸塩;ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイドの有機過酸化物;酸化剤と還元剤との組み合わせによるレドックス重合開始剤等を挙げることができる。
【0027】
得られたシード粒子の存在下で、コアを形成する単量体を添加し重合反応を行い、その後、シェルを形成する単量体を添加し重合反応を、順次反復して行なうことにより、多層構造の粒子を形成することができる。コア、シェルを形成する単量体として、上記(メタ)アクリレートの他、架橋性単量体を、開始剤、連鎖移動剤等と共に用いることができる。これらの単量体は複数の重合工程を行なう場合は、それぞれ異なる組成で用いることができる。また、開始剤や連鎖移動剤の添加方法としては、単量体の重合前又は重合反応中に、開始剤、連鎖移動剤をそのまま、又は水溶液又は分散媒として一度に投入する方法、あるいは、複数回に分割して投入する方法、若しくは滴下する方法等いずれであってもよい。
【0028】
このような重合工程終了後、分散媒からの重合体の回収は、スプレードライ法(噴霧乾燥法)又は凝固法等の方法によることができる。これらの回収方法のうち、一次粒子が多数集合して凝集粒子(二次粒子、又はそれ以上の高次構造)中で、一次粒子同士が強固に結合せず、緩く凝集している状態を作り出すことが容易なスプレードライ法による回収方法が、分散性向上の観点から好ましい。
【0029】
上記重合体粒子の一次粒子の平均粒子径は、300nm以上であることが好ましく、500nm以上がより好ましい。一次粒子の平均粒子径が300nm以上であれば、プラスチゾルにおいて貯蔵安定性が良好になる傾向がある。
【0030】
ここで平均粒子径は、透過率が75〜95%の範囲内になるように調製した重合体粒子の水分散体中の、体積平均一次粒子径及び個数一次粒子径を、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(堀場製作所製LA−920)を用いて測定した値を採用することができる。
【0031】
上記重合体粒子のプラスチゾル中の含有量は、20質量%以上、80質量%以下であることが好ましい。重合体粒子の含有量が20質量%以上であれば、強度を有する塗膜の形成が可能なテキスタイルインクを与えることができ、80質量%以下であれば、伸縮性に優れる塗膜の形成が可能なテキスタイルインクを与えることができる。
【0032】
本発明のプラスチゾルに含まれるトリメチロールプロパンエステルは、式(1)で表される。
【0033】
【化3】

【0034】
式中、R1、R2、R3は、独立して炭化水素基を示す。R1、R2、R3が示す炭化水素基として、フェニル基、又はアルキル基から選択されることが好ましく、アルキル基としては炭素数3〜10であることが、特にアクリル系重合体との相溶性に優れ、低粘度であり、耐熱性に優れ、加工時のVOCの発生量を低減し環境への負荷を低減することができ、貯蔵安定性に優れ、また、成形品の臭気を抑制することが可能なプラスチゾルを与えることができる。
【0035】
また、式(1)で表されるトリメチロールプロパンエステル(trimethylolpropane ester、TMP)は、具体的には、トリメチロールプロパントリ2−ヘキサン酸エチル(trimethylolpropane−tri−(2−ethyl hexanoate))、安息香酸2,2ビス(2−エチルヘキサノイルオキシメチル)ブチルエステル(benzoic acid 2,2−bis−(2−ethyl−hexanoyloxymethyl)−butyl ester)、2−ヘキサン酸エチル2,2ビス(ベンゾイルオキシメチル)ブチルエステル(2−ethylhexanoic acid 2,2−bis−(benzoyloxymethyl)−butyl ester)、トリメチロールプロパントリ安息香酸塩(trimethylolpropane−tri−benzoate)等を挙げることができる。式(1)で表されるトリメチロールプロパンエステルとしては、上記例示の2種類以上の混合物であることが好ましく、4種類以上の混合物であることが更に好ましい。混合物として用いることにより、物性バランスをより良好にすることができ、成形体表面から可塑剤の滲み出しを抑制する耐移行性に優れる。
【0036】
式(1)で表されるトリメチロールプロパンエステルを混合物として用いる場合、トリメチロールプロパントリ2−ヘキサン酸エチルが5質量%以上60質量%以下、安息香酸2,2ビス(2−エチルヘキサノイルオキシメチル)ブチルエステルが20質量%以上70質量%以下、2−ヘキサン酸エチル2,2ビス(ベンゾイルオキシメチル)ブチルエステルが5質量%以上50質量%以下、トリメチロールプロパントリ安息香酸塩が1質量%以上30質量%以下であることが好ましく、より好ましくはトリメチロールプロパントリ2−ヘキサン酸エチルが15質量%以上40質量%以下、安息香酸2,2ビス(2−エチルヘキサノイルオキシメチル)ブチルエステルが40質量%以上50質量%以下、2−ヘキサン酸エチル2,2ビス(ベンゾイルオキシメチル)ブチルエステルが15質量%以上35質量%以下、及びトリメチロールプロパントリ安息香酸塩が1質量%以上10質量%以下(前記総ての化合物の合計量が100質量%とする。)である。
【0037】
上記トリメチロールプロパンエステルの混合物は、トリメチロールプロパンに脂肪族酸である2−ヘキサン酸エチルと芳香族酸である安息香酸を原料として製造することができるが、トリメチロールプロパンエステル混合物として「BET」(LG化学社製)を適用することができる。
【0038】
上記トリメチロールプロパンエステルのプラスチゾル中の含有量は、20質量%以上80質量%以下である。ここで、トリメチロールプロパンエステルの含有割合は、重合体粒子と式(1)で表されるトリメチロールプロパンエステルとの合計の質量に対する割合である。上記トリメトリールプロパンエステルの含有割合が20質量%以上であれば、得られる塗膜が柔軟性を有し、また、80質量%以下であれば、塗膜においてブリードアウトが抑制される。上記トリメチロールプロパンエステルの含有割合は35質量%以上であることがより好ましい。
【0039】
本発明のプラスチゾルには、トリメチロールプロパンエステルの機能を阻害しない範囲で必要に応じて、他の可塑剤を含有させることができる。他の可塑剤としては、具体的には、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジヘプチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ジ−n−オクチルフタレート、ジイソノニルフタレート、ジイソデシルフタレート、ブチルベンジルフタレート等のフタル酸エステル系可塑剤;ジメチルアジペート、ジブチルアジペート、ジイソブチルアジペート、ジヘキシルアジペート、ジー2−エチルヘキシルアジペート、ジイソノニルアジペート、ジブチルジグリコールアジペート等のアジピン酸エステル系可塑剤;トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリ−2−エチルヘキシルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルフェニルホスフェート等のリン酸エステル系可塑剤;トリ−2−エチルヘキシルトリメリテート等のトリメリット酸エステル系可塑剤;ジメチルセバケート、ジブチルセバケート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート等のセバチン酸エステル系可塑剤;ポリ−1,3−ブタンジオールアジペート等の脂肪族系ポリエステル可塑剤;エポキシ化大豆油等のエポキシ化エステル系可塑剤;アルキルスルホン酸フェニルエステル等のアルキルスルホン酸フェニルエステル系可塑剤;脂環式二塩基酸エステル系可塑剤;ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール等のポリエーテル系可塑剤;クエン酸アセチルトリエチル、クエン酸アセチルトリブチル等のクエン酸エステル類等を挙げることができる。これらの可塑剤は1種又は2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0040】
これらの可塑剤は上記トリメチロールプロパンエステル100質量部に対し、100質量部以下の範囲で用いることが好ましい。
【0041】
本発明のプラスチゾルには、上記重合体粒子と上記トリメチロールプロパンエステルの機能を阻害しない範囲で、後述するテキスタイルインクに添加する各種添加剤を含有させることもできる。
【0042】
上記プラスチゾルの製造方法としては、重合体粒子と可塑剤を所定の割合で混合、攪拌する方法を挙げることができる。
【0043】
本発明のテキスタイルインクは、上記プラスチゾルを用いることを特徴とする。本発明のテキスタイルインクは上記プラスチゾルと共に、機能性成分を含有し、着色性、隠蔽性、軽量化や意匠性等の機能性を付与された塗膜を形成することができる。かかる機能性成分としては、例えば、クレー、バライト、雲母、黄土等の天然無機顔料、酸化チタン、亜鉛黄、硫酸バリウム、酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、カーボンブラック等の合成無機顔料、アルミニウム粉、亜鉛粉等の金属粉、マダーレーキ等の天然染料系顔料、ニトロソ系、アゾ系、フタロシアニン系、塩基性染料系、有機蛍光系等の合成有機顔料等の顔料、鉱物性充填材 、合成充填材 又は植物性充填材等の充填剤を挙げることができる。充填剤としては、例えば、繊維ガラス、木粉、フライアッシュ、セルロース繊維、もみ殻、堅果の殻、中空球、プラスチック球、ヒュームドシリカ、ガラス球を挙げることができる。隠蔽性を高めるために酸化チタンを含有することが好ましい。
【0044】
上記機能性成分の含有割合としては、着色等の効果を得るために重合体粒子100質量部に対し0.01質量部以上であることが好ましく、0.1質量部以上であることがより好ましい。また、良好な塗膜強度を得るため、重合体粒子100質量部に対し400質量部以下であることが好ましく、300質量部以下であることがより好ましい。
【0045】
上記テキスタイルインクは、上記プラスチゾル、機能性成分の機能を損なわない範囲において、酸化防止剤、非ハロゲン系難燃剤、粘度調整剤、希釈剤、消泡剤、防黴剤、抗菌剤、界面活性剤、滑剤、紫外線吸収剤、香料、レベリング剤、接着剤等の添加剤を配合することができる。
【0046】
上記テキスタイルインクの調製は、上記重合体粒子、可塑剤、機能性成分、必要に応じて上記添加剤を混合、攪拌する方法によることができ、ディゾルバー、ニーダー、プラネタリーミキサー、3本ロールミル等の攪拌機を使用することができる。
【0047】
上記テキスタイルインクを用いて塗膜を形成するテキスタイルとしては、織物、編物等の布地やフェルト、不織布等いずれのものであってもよい。具体的には、シャツ、トレーナー、エプロン、靴下、手袋等の衣類、靴、鞄等の雑貨、カーテン、テーブルクロス、タペストリー等の室内装飾品、椅子、ソファー等の家具、車両用のシート、ヘッドレスト、トノカバー、サンバイザー等、その他帆布等を挙げることができる。
【0048】
これらのテキスタイルに塗膜を形成する方法としては、スクリーン印刷等の直接印刷や熱転写印刷等を適用することができる。熱転写印刷は、離型紙等の上にテキスタイルインク組成物を塗布した後、加熱して得られたゲル化膜をテキスタイルに加熱圧着して塗膜を形成する方法である。テキスタイル上に形成された塗膜は、加熱されることによって固化する。加熱条件は、塗布された膜の厚さや配合組成により適宜選択することができ、例えば、100℃〜200℃、30秒〜5分等を挙げることができる。
【0049】
これらのテキスタイルに塗膜を形成する方法としては、スクリーン印刷等の直接印刷や熱転写印刷等を適用することができる。熱転写印刷は、離型紙等の上にテキスタイルインクを塗布した後、加熱して得られたゲル化膜をテキスタイルに加熱圧着して塗膜を形成する方法である。テキスタイル上に形成された塗膜は、加熱されることによって固化する。加熱条件は、塗布された膜の厚さや配合組成により適宜選択することができ、例えば、100℃〜200℃、30秒〜5分等を挙げることができる。
【実施例】
【0050】
以下、本発明について実施例を用いて詳述する。
【0051】
[実施例1]アクリル系重合体粒子A1の合成
温度計、窒素ガス導入管、攪拌棒、滴下漏斗及び冷却管を装備した5リットルの4つ口フラスコに、純水952gを入れ、60分間十分に窒素ガスを通気し、純水中の溶存酸素を置換した。窒素ガス通気を停止した後、メチルメタクリレート45.6g及びn−ブチルメタクリレート34.9gを入れ、180rpmで攪拌しながら80℃に昇温した。内温が80℃に達した時点で、35gの純水に溶解した過硫酸カリウム0.70gを一度に添加し、ソープフリー重合を開始した。そのまま80℃にて攪拌を60分継続し、シード粒子分散液を得た。
【0052】
引き続きこのシード粒子分散液に対して、モノマー乳化液(メチルメタクリレート637.0g、n−ブチルメタクリレート343.0g、グリシジルメタクリレート7.0g、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム(花王(株)製、商品名:ペレックスO−TP)9.80g及び純水350.0gを混合攪拌して乳化したもの)を3.5時間かけて滴下し、引き続き80℃にて1時間攪拌を継続して、第一滴下重合体分散液を得た。
【0053】
引き続きこの第一滴下重合体分散液に対して、過硫酸カリウム0.84gを加え、さらにモノマー乳化液(メチルメタクリレート392.6g、メタクリル酸27.4g、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム(花王(株)製、商品名:ペレックスO−TP)8.2g及び純水350.0gを混合攪拌して乳化したもの)を1.5時間かけて滴下し、引き続き80℃にて1時間攪拌を継続して、第ニ滴下重合体分散液を得た。
【0054】
得られた第二滴下重合体分散液を室温まで冷却した後、スプレードライヤー(大川原化工機(株)製、L−8型)を用いて、入口温度170℃、出口温度75℃、アトマイザ回転数25000rpmにて噴霧乾燥し、アクリル系重合体微粒子A1を得た。
【0055】
[実施例1]プラスチゾル組成物の調製
可塑剤としてBET(LG化学(株)製)100質量部とアクリル系重合体粒子A1 100質量部をプラスチック製容器に投入し、真空ミキサー((株)シンキー製ARV−200)にて10秒間大気圧で混合攪拌した後、20mmHgに減圧して更に90秒間混合攪拌し脱泡し、均一なプラスチゾルを得た。得られたプラスチゾルについて以下の方法により貯蔵安定性を評価した。更に、これを用いて塗膜を形成し、強度、伸度を測定した。
【0056】
[混合後粘度]
プラスチゾルの調製後3時間以内にBrookfield型粘度計(東機産業(株)製、BH型粘度計、7号ローター)を用いて、測定温度25℃、回転数10rpmにて粘度を測定し、これを混合後粘度とした。
◎:10000mPa・s以下
○:10000mPa・s以上30000mPa・s未満
×:30000mPa・s以上
[貯蔵安定性]
プラスチゾルの調製後3時間以内にBrookfield型粘度計(東機産業(株)製、BH型粘度計、7号ローター)を用いて、測定温度25℃、回転数5rpmにて粘度を測定し、これを初期の粘度とした。40℃の恒温槽にて保温し、10日後に取り出して再び粘度を同条件下において測定した。プラスチゾルの増粘率Sを以下の式から算出し(単位:%)、算出値により、以下の基準により貯蔵安定性の評価を行なった。結果を表3に示す。
【0057】
S=[(貯蔵後の粘度/初期の粘度)−1]×100(%)
◎:150未満
○:150以上250未満
×:250以上からゲル化。
【0058】
[塗膜の強度]
剥離紙を敷いたガラス板の上に得られたプラスチゾルを2mm厚に塗布し、130℃×20分加熱してゲル化させ、均一な塗膜を得た。剥離紙から剥離したプラスチゾルの塗膜を、ダンベル2号型(JIS K6251)に打ち抜き試験片とした。この試験片について、試験温度25℃、試験速度200mm/min.の条件下、テンシロン万能試験機にて引っ張り試験を行い、最大点応力の値から、塗膜の強度を以下の基準により評価した。結果を表3に示す。
強度(単位:MPa)
◎:3.5以上
○:4.0未満3.0以上
△:3.5未満2.5以上
×:2.5未満。
【0059】
[塗膜の伸度]
上記引っ張り試験において、破断点伸度の値から、塗膜の伸度を以下の基準により評価した。結果を表3に示す。
伸度(単位:%)
◎:400以上
○:400未満300以上
×:300以下。
【0060】
[塗膜の弾性率]
上記引っ張り試験において、最大点応力の値から、塗膜の弾性率を以下の基準により評価した。結果を表3に示す。
◎:3MPa以下
○:3MPa以上5MPa未満
×:5MPa以上
[塗膜のタック]
得られた塗膜について、目視観察を行い、以下の基準によりタックを評価した。結果を表3に示す。
【0061】
試料を長さ150mm×幅150mmに切り取り、これを試験片とする。試験片2枚を重ね合わせた後、ガラス板ではさみこみ、一番上のガラス板に5kgの重りを片寄りがないように載せ、25℃で3時間放置する。規定時間経過後、ガラス板から試験片を取り出し、試験片の剥がれ具合を評価した。
◎:容易に剥離可能
○:剥離が可能
×:剥離が困難、不能
[実施例2〜4、比較例1〜4]プラスチゾルの調製
表1に示す、可塑剤を用いた外は実施例1と同様にしてプラスチゾルを調製し、その貯蔵安定性の評価を行い、塗膜を形成し、塗膜の強度、伸度、弾性率、タックについて評価を行なった。プラスチゾル中の式(1)に示される化合物の含有量を表1に、評価結果を表2に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
(注)1.表中の数字は質量部を示す。
「ATBC」:大日本インキ化学工業株式会社製クエン酸エステル系可塑剤(商品名「モノサイザーATBC」)
「W−23S」:大日本インキ化学工業株式会社製ポリエステル系可塑剤(商品名「ポリサイザーW−23S」)
「TXIB」:イーストマンケミカル株式会社製脂肪族エステル系可塑剤(商品名TXIB)
「UP1021」:東亞合成株式会社製アクリルオリゴマー系可塑剤(商品名「ARUFON UP−1021」)
【0064】
【表2】

【0065】
結果より、本発明のプラスチゾルにおいては、強度、伸度、弾性と共に優れ、タック性に優れたものであることは明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合体粒子と、式(1)で表されるトリメチロールプロパンエステルとを含み、該トリメチロールプロパンエステルの含有量が20質量%以上、80質量%以下であるプラスチゾル。
【化1】

(式中、R1からR3は、独立して炭化水素基を示す。)
【請求項2】
重合体粒子が、アクリル系重合体粒子であることを特徴とする請求項1記載のプラスチゾル。
【請求項3】
請求項2記載のプラスチゾルを用いることを特徴とするテキスタイルインク。

【公開番号】特開2009−167229(P2009−167229A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−3554(P2008−3554)
【出願日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】