説明

プラスチックフィルム用インク組成物およびそれを用いたインクジェット記録方法

【課題】 被記録面がプラスチックフィルムである記録媒体に、密着性および耐水性に優れたプラスチック記録物を形成することができる、インクジェット記録用インク組成物の提供。
【解決手段】 本発明によるインク組成物は、被記録面がプラスチックフィルムであるインクジェット記録媒体用であって、式(I)[式中、Rは、直鎖状もしくは分岐鎖状の、C2〜12の飽和炭化水素鎖を表し、かつXは、−CH−または−O−を表す]の環状エステル化合物と、熱可塑性樹脂と、着色剤と、主溶媒とを少なくとも含んでなるものであり、ここで、熱可塑性樹脂はインク組成物中で分散されてなるものである。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
発明の分野
本発明は、プラスチックフィルム用インク組成物に関する。詳しくは、本発明は、被記録面がプラスチックフィルムであるインクジェット記録媒体用に好適に用いられるインク組成物に関する。本発明はまた、そのようなインク組成物を用いたインクジェット記録方法に関する。
【0002】
背景技術
インクジェット記録方法は、インク組成物の小滴を飛翔させ、記録媒体の被記録面に付着させて印刷を行う印刷方法である。この方法は、比較的安価な装置で高解像度、高品質な画像を高速で印刷可能であるという特徴を有する。記録媒体としては、一般的な紙等に加えて、プラスチックフィルムなどの素材への要求が高まっている。
【0003】
プラスチックフィルム等に印刷を行うことにより得られるプラスチック記録物は、紙を使うことができないような屋外で掲示する用途が想定される。このため、プラスチック記録物には、より高度な耐水性および耐光性が要求される。また、ラベルなどの手で触れたりする物の印刷も、紙の印刷物よりもプラスチック記録物が適している。この場合も、記録物には、耐擦性などの耐久性が求められる。
【0004】
記録媒体として、塩化ビニルなどのインクジェット印刷専用の表面処理を施していないプラスチックフィルムを使用して、インクジェット記録する場合、従来、溶剤系インク、UV硬化インク、または2液式硬化インクなどが使用されていた。しかしながら、溶剤系インクは、溶剤臭があり、また溶剤揮発成分中に有害成分を含むことがある。UV硬化インクや2液式硬化インクなどでも、使用する硬化性モノマーが有害成分を含むことがある。
【0005】
また、インクジェット記録専用の表面処理を施していないプラスチックフィルムに、従来の水系インクを用いてインクジェット記録すると、記録画像の密着性、耐傷性、および耐水性が充分とは言えなかった。
【0006】
インクジェット記録専用プラスチックフィルムを使用する場合については、水系インクを使用して、インク成分である着色剤または分散樹脂を凝集硬化させる方法(特開平9−286940号公報(特許文献1))が提案されている。
【0007】
一方、例えば特開2002−103785号公報(特許文献2)には、インクジェット記録用インク組成物において、キャリヤー媒体物質として、ラクタム、またはラクトンを使用できることが開示されている(例えば、同文献の請求項12等)。しかしながら、ここでは、ラクタムおよびラクトンはインク組成物の着色剤を溶解するための溶剤の一例としてあげられているに過ぎず、インク組成物を被記録面がプラスチックフィルムである記録媒体への印刷を行うことについては示唆されていない。
【0008】
このため、耐水性や耐擦性に優れたプラスチック記録物を得ることができる、水性顔料インクを用いたインクジェット記録方法が望まれている。
【0009】
【特許文献1】特開平9−286940号公報
【特許文献2】特開2002−103785号公報
【発明の概要】
【0010】
本発明者らは今般、被記録面がプラスチックフィルムである記録媒体に、インクジェット記録を行う場合に、特定の溶剤を含む特定組成のインク組成物を使用することによって、形成される記録物の耐水性と、記録媒体とインク組成物の密着性とを大幅に改善できることを見出した。使用する溶剤としては、揮発性の低い環状エステル化合物と、揮発性の高い環状エーテル化合物とを一緒に用いることが上記改善を図る上でより有効であった。本発明はこれらの知見に基づくものである。
【0011】
よって本発明は、被記録面がプラスチックフィルムである記録媒体に、密着性、および耐水性に優れたプラスチック記録物を形成することができる、インクジェット記録用インク組成物の提供をその目的とする。本発明はまた、そのようなインク組成物を用いたインクジェット記録方法の提供もその目的とする。
【0012】
本発明による被記録面がプラスチックフィルムであるインクジェット記録媒体用インク組成物は、下式(I)の環状エステル化合物と、熱可塑性樹脂と、着色剤と、主溶媒とを含んでなるものであって、熱可塑性樹脂がインク組成物中に分散されてなるものである:
【化1】

[式中、
Rは、直鎖状もしくは分岐鎖状の、C2〜12の飽和炭化水素鎖を表し、かつ
Xは、−CH−または−O−を表す]。
【0013】
本発明の好ましい態様によれば、本発明によるインク組成物は、下式(II)の環状エーテル化合物をさらに含んでなる:
【化2】

[式中、
R’は、直鎖状もしくは分岐鎖状のC2〜12の飽和炭化水素鎖、または直鎖状もしくは分岐鎖状のC2〜12の飽和エーテル鎖を表す]。
【0014】
本発明の好ましい態様によれば、インク組成物において、着色剤は、顔料であって、顔料はインク組成物中に分散されてなる。
また本発明の好ましい態様によれば、インク組成物の主溶媒は水である。
さらに本発明の好ましい態様によれば、インク組成物は、界面活性剤および/または低表面張力有機溶剤をさらに含んでなる。
【0015】
本発明によるインクジェット記録方法は、被記録面がプラスチックフィルムである記録媒体に、インク組成物の液滴を吐出させ、被記録面に付着させて印刷を行うものであって、インク組成物が、本発明によるインク組成物であることを特徴とするものである。
【発明の具体的説明】
【0016】
インク組成物
本発明によるインク組成物は、前記したように、式(I)の環状エステル化合物と、熱可塑性樹脂と、着色剤と、主溶媒とを含んでなるものであって、熱可塑性樹脂がインク組成物中に分散されてなるものである。換言すると、本発明によるインク組成物は、好ましくは、式(I)の環状エステル化合物と、主溶媒とを少なくとも含んでなる分散媒と、この分散媒に分散された熱可塑性樹脂(熱可塑性樹脂が顔料の分散剤としても機能する場合は、顔料とともに分散された熱可塑性樹脂)からなるものである。好ましくは、本発明によるインク組成物は、式(II)の環状エーテル化合物をさらに含んでなる。ここで、インク組成物中の着色剤は、好ましくは、顔料であり、このとき顔料はインク組成物中に分散されてなる。また、主溶媒は、後述するように好ましくは水である。また本発明によるインク組成物は、好ましくは、界面活性剤および/または低表面張力有機溶剤をさらに含んでなり、より好ましくは、界面活性剤をさらに含んでなるか、または、界面活性剤および低表面張力有機溶剤をさらに含んでなる。また本発明によるインク組成物は、湿潤剤をさらに含んでなることができる。
【0017】
本発明によるインク組成物は、被記録面がプラスチックフィルムであるインクジェット記録媒体用である。すなわち、本発明によるインク組成物は、被記録面がプラスチックフィルムであるインクジェット記録媒体への印刷に好適に使用されるものである。本発明によるインク組成物は、より好ましくは、インクジェット記録方法により記録媒体に塗布される。
【0018】
ここで、被記録面がプラスチックフィルムである記録媒体には、記録媒体自体がプラスチックフィルムであるものの他に、紙等の慣用の記録媒体基材上にプラスチックコーティングされてなるものや、該基材上にプラスチックフィルムが接着されてなるもの等も包含される。また、ここで、プラスチックとしては、式(I)の環状エステル化合物によって溶解するかまたは湿潤状態にすることができるものであれば特に限定されないが、例えば、塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリウレタン等が挙げられる。本発明においては、プラスチックは、好ましくは塩化ビニルである。また、本発明によるインク組成物は、インクジェット印刷用の表面処理を施していないプラスチックフィルム、およびインクジェット印刷用の表面処理を施しているプラスチックフィルムのいずれへの印刷にも使用することができる。
【0019】
本発明によるインク組成物を、被記録面がプラスチックフィルムである記録媒体に塗布すると、プラスチックフィルムとの密着性に優れ、かつ耐水性に優れたプラスチック記録物を形成することができるが、このような記録物を形成できる理由を説明すれば下記の通りである。なおこれら説明は仮定であってこれによって本発明を限定的に解釈するものではない。
【0020】
本発明によるインク組成物は、記録媒体の被記録面のプラスチックを溶解し得る溶剤と、硬化して被膜を形成しうる樹脂とを含んでなるので、プラスチックフィルム上に付着すると、プラスチックフィルム表面を溶解すると同時に、水分蒸発によりインク組成物中の樹脂成分を硬化して被膜化し、インク樹脂層を形成できる。そして、プラスチックフィルム表面と、インクが乾燥して形成された樹脂被膜とが強固に結合できるため、プラスチックフィルムとの密着性に優れ、かつ耐水性に優れたプラスチック記録物を形成することができると考えられる。
【0021】
より詳しく説明すると、以下のとおりである。本発明によるインク組成物を、記録媒体であるプラスチックフィルム表面に塗布すると、インク組成物に含まれるプラスチックを溶解する溶剤の作用により、プラスチックフィルム表面は溶解状態になる。このとき、プラスチックを溶解する溶剤の含有量がインク全体に対して少ないと、プラスチック表面の溶解が不十分となり、インクが乾燥により形成される樹脂膜と、プラスチック表面とが密着しないことがある。また、プラスチックを溶解する溶剤の含有量が多いと、プラスチック全体を溶解または軟化してしまうことがある。このため、本発明においては、プラスチックを溶解する溶剤として、好ましくは、揮発性の低い環状エステル化合物と、揮発性の高い環状エーテル化合物とを使用する。これら2種類の化合物を併用することで、インクが印刷された直後は、インク中の両化合物によって、プラスチックを溶解する溶剤全体の濃度が、プラスチック表面の表層部を溶解するのに充分な濃度となっているため、プラスチックの内部に比べて溶解させ難い、プラスチックの表層部を溶解させることができる。その後、インク中の水分が蒸発すると、それと同時に揮発性の高い環状エーテル化合物も蒸発する。一方、半乾燥状態のインク中では揮発性の低い環状エステル化合物が残って引き続きプラスチックの表面を溶解する。このように、プラスチックフィルムを溶解させる場合に、最初の表層部を溶解させる時点では、それに充分な程度まで溶剤の濃度を濃くでき、表層部を溶解させた後は、揮発性の高い環状エーテル化合物が蒸発するため、プラスチックの表層内のプラスチックを溶解させるのに適当な溶剤の濃度に低下させることができる。これにより、プラスチック表面上でのプラスチックを溶解する溶剤の濃度が必要以上に高くなることを防止できるので、プラスチックの過剰溶解を防止して、プラスチック表面の極浅い部分だけについて溶解した状態に維持することができる。
【0022】
プラスチック表面の極浅い部分が溶解される一方で、プラスチック上のインク組成物は、その水分の蒸発に伴い、含まれる熱可塑性樹脂により樹脂被膜を形成する。このとき、プラスチック表面が過不足無く溶解されていれば、被膜化する樹脂はプラスチック表面と混合層を形成できる。そして、さらにインク組成物の乾燥が進むと、全てのプラスチックを溶解させる溶剤が揮発すると共に、インク組成物は完全に被膜化する。この様にして形成された記録物は、「(プラスチックフィルム表面)〜(プラスチックとインク樹脂の混合層)〜(インク組成物による樹脂層)」のような構造になっていると考えられる。このうち混合層ではプラスチックと、インクに含まれる樹脂が硬化した被膜とが一体化した状態となっているため、インク樹脂層とプラスチック層が直に接する場合よりも、プラスチックフィルムとインク組成物被膜との密着性が大幅に向上すると考えられる。このように密着性が高まることにより、擦りなどの外力や界面への水の浸入による印刷の剥れがほとんど無くなり、耐擦性、および耐水性に優れたプラスチック記録物を形成することができる。したがって、プラスチックフィルム自体の耐久性を生かした強靭な印刷物を作成することが可能となる。
【0023】
本発明によるインク組成物においては、プラスチックを溶解しうる成分である環状エステル化合物と、好ましくはさらに環状エーテル化合物とが水によって希釈されているため、プリンタを構成する接液部材を破壊もしくは損傷させることがほとんど無い。また、本発明によるインク組成物は典型的には水溶液であるため、インク組成物自体および発生する蒸気についても、安全性に優れている。また本発明のインク組成物は、着色剤として顔料を用いた顔料系の水性インク組成物であることができるので、プラスチックフィルムに耐光性に優れた記録物を形成することができる。
【0024】
環状エステル化合物
本発明によるインク組成物は、式(I)の環状エステル化合物を必須の成分として含んでなる。
式(I)中、前記したように、Rは、直鎖状もしくは分岐鎖状の、C2〜12の飽和炭化水素鎖を表し、Xは、−CH−または−O−を表す。Rは、好ましくはC2〜8、より好ましくはC2〜5、さらに好ましくはC2〜4の飽和炭化水素鎖を表す。なおここで、例えば「C2〜12の飽和炭化水素鎖」という場合の「C2〜12」とは、該飽和炭化水素鎖の炭素数が2〜12個であることを意味する。
【0025】
また直鎖状C2〜12の飽和炭化水素鎖とは、−(CH)m−で示される鎖(ここでmは2〜12の整数を表す)のことを意味する。分岐鎖状のC2〜12の飽和炭化水素鎖とは、−(CH)n−で示される鎖であって、その炭素上の水素を炭素数の合計がp個となるような1以上のアルキル基で置換した側鎖を有する鎖(ここでn+p(pは全ての側鎖の炭素の合計数)は2〜12の整数を表す)を意味する。このようなアルキル置換基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基等が挙げられる。また、直鎖状もしくは分岐鎖上の飽和炭化水素鎖は必要に応じて、水酸基、ヒドロキシメチレン等によりさらに置換されていてもよい。
直鎖状もしくは分岐鎖状の、C2〜12の飽和炭化水素鎖の具体例としては、エチレン、プロピレンなどが挙げられる。
【0026】
環状エステル化合物の具体例としては、γ−ブチロラクトン、ε−カプロラクトン、δ−ヘキサノラクトン、炭酸プロピレン、炭酸エチレン、1,3−ジオキサン−2−オン等が挙げられ、好ましくは、γ−ブチロラクトン、ε−カプロラクトン、炭酸プロピレン、および炭酸エチレンからなる群より選択されるものが挙げられる。より好ましくは、環状エステル化合物は、γ−ブチロラクトン、炭酸プロピレンである。
これら環状エステル化合物は、2種以上を混合して使用してもよい。
【0027】
本発明において使用される環状エステル化合物は、必要に応じて合成してもよいが、市販品を使用してもよい。
【0028】
環状エステル化合物の含有量が、インク組成物全体に対して少なすぎると、プラスチック表面の溶解が不充分となり、インク組成物による被膜とプラスチックとが密着しないことがある。また、環状エステル化合物の含有量が多すぎると、インク中の樹脂成分の分散安定性が悪化することがある。したがって、環状エステル化合物の含有量は、上記の点を考慮した上で、記録媒体に均一に塗布できて、所定の表面張力とすることができ、かつ、プリンタを構成する接液部材を破壊もしくは損傷させることがほとんど無いように、選択することが望ましい。また、併用する環状エーテル化合物の量も考慮する必要がある。環状エステル化合物の含有量は、例えば、インク組成物全量に対して0.1〜10.0重量%、好ましくは、1.0〜8.0重量%である。
【0029】
環状エーテル化合物
本発明によるインク組成物は、好ましくは、式(II)の環状エーテル化合物をさらに含んでなる。
式(II)中、前記したように、R’は、直鎖状もしくは分岐鎖状のC2〜12の飽和炭化水素鎖、または直鎖状もしくは分岐鎖状のC2〜12の飽和エーテル鎖を表す。なおここで、例えば「C2〜12の飽和炭化水素鎖」という場合の「C2〜12」とは、該飽和炭化水素鎖の炭素数が2〜12個であることを意味する。このことは飽和エーテル鎖についても同様である。
【0030】
R’が飽和炭化水素鎖である場合、炭素数は、好ましくはC2〜8、より好ましくはC2〜6、さらに好ましくはC2〜5、さらにより好ましくはC3〜5である。直鎖状もしくは分岐鎖状の飽和炭化水素鎖の定義については、上記環状エステル化合物における定義と同様である。R’における飽和炭化水素鎖の具体例としては、直鎖状のC4飽和炭化水素鎖などが挙げられる。
【0031】
ここで、直鎖状もしくは分岐鎖状のC2〜12の飽和エーテル鎖とは、前記した直鎖状もしくは分岐鎖状のC2〜12の飽和炭化水素鎖中のいずれかの炭素−炭素結合間にエーテル結合を1以上挿入されているものをいう。好ましくは、飽和エーテル鎖に含まれるエーテル結合の数は1つであり、例えば、直鎖状の飽和エーテル鎖は、好ましくは−(CH)q−O−(CH)r−(ここでq+rは2〜12の整数を表す)と表すことができる。また、直鎖状もしくは分岐鎖状の飽和エーテル鎖は、必要に応じて、水酸基、ヒドロキシメチレン等によりさらに置換されていてもよい。
【0032】
環状エーテル化合物の具体例としては、オキシラン、オキサシクロブタン(オキセタン)、テトラヒドロフラン(オキソラン)、3−メチル−オキソラン、オキサン、1,3−ジオキソラン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,3,5−トリオキサン等が挙げられ、好ましくは、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、および、2−メチルテトラヒドロフランからなる群より選択されるものが挙げられる。より好ましくは、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンである。
これら環状エーテル化合物は、2種以上を混合して使用してもよい。
【0033】
本発明において使用される環状エーテル化合物は、必要に応じて合成してもよいが、市販品を使用してもよい。
【0034】
環状エーテル化合物の含有量が、インク組成物全体に対して少なすぎると、プラスチック表面の溶解が不充分となり、インク組成物による被膜とプラスチックとが密着しないことがある。また、環状エーテル化合物の含有量が多すぎると、インク中の樹脂成分の分散安定性が悪化することがある。したがって、環状エーテル化合物の含有量は、上記の点を考慮した上で、プリンタを構成する接液部材を破壊もしくは損傷させることがほとんど無いように、選択することが望ましい。また、環状エーテル化合物の含有量を決定するにあたっては、併用する環状エステル化合物の量も考慮することが望ましい。環状エーテル化合物の含有量は、例えば、インク組成物全量に対して0.1〜10.0重量%、好ましくは、0.5〜5.0重量%である。
【0035】
本発明の好ましい態様によれば、環状エステル化合物と環状エーテル化合物との好ましい組合せは下記の通りのものが挙げられる:
γ−ブチロラクトンと テトラヒドロフランの組合せ;
γ−ブチロラクトンと1,4−ジオキサンの組合せ;
γ−ブチロラクトンと2−メチルテトラヒドロフランの組合せ;
炭酸プロピレンとテトラヒドロフランの組合せ;
炭酸プロピレンと1,4−ジオキサンの組合せ;および
炭酸プロピレンと2−メチルテトラヒドロフランの組合せ。
【0036】
熱可塑性樹脂
本発明によるインク組成物は、熱可塑性樹脂を含んでなる。この熱可塑性樹脂は、インク組成物中に分散されてなる。熱可塑性樹脂として、水性インク媒体に可溶の樹脂、または不溶の樹脂を使用することができる。水性インク媒体に可溶の樹脂は、前述の顔料を分散するのに使用する樹脂分散剤を好適に使用することができる。また、水性インク媒体に不溶の樹脂は、樹脂粒子を樹脂エマルジョンの形態でインク組成物に添加することが好ましい。ここで樹脂エマルジョンは、連続相である水と分散相である樹脂成分(熱可塑性樹脂成分)とからなる。
【0037】
本発明の好ましい態様によれば、熱可塑性樹脂は、親水性部分と、疎水性部分とを合わせもつ重合体であるのが好ましい。熱可塑性樹脂として樹脂エマルジョンを使用する場合、その粒子径はエマルジョンを形成する限り特に限定されないが、好ましくは150nm程度以下、より好ましくは5〜100nm程度である。
【0038】
熱可塑性樹脂としては、インクジェット記録用インク組成物において従来から使用されている分散剤樹脂または樹脂エマルジョンと同様の樹脂成分を使用することができる。熱可塑性樹脂として、具体的には、アクリル系重合体、例えば、ポリアクリル酸エステル若しくはその共重合体、ポリメタクリル酸エステル若しくはその共重合体、ポリアクリロニトリル若しくはその共重合体、ポリシアノアクリレート、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、またはポリメタクリル酸;ポリオレフィン系重合体、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリイソブチレン、ポリスチレン若しくはそれらの共重合体、石油樹脂、クマロン・インデン樹脂、またはテルペン樹脂;酢酸ビニル・ビニルアルコール系重合体、例えば、ポリ酢酸ビニル若しくはその共重合体、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、またはポリビニルエーテル;含ハロゲン系重合体、例えば、ポリ塩化ビニル若しくはその共重合体、ポリ塩化ビニリデン、フッ素樹脂、またはフッ素ゴム;含窒素ビニル系重合体、例えば、ポリビニルカルバゾール、ポリビニルピロリドン若しくはその共重合体、ポリビニルピリジン、またはポリビニルイミダゾール;ジエン系重合体、例えば、ポリブタジエン若しくはその共重合体、ポリクロロプレン、またはポリイソプレン(ブチルゴム);あるいはその他の開環重合型樹脂、縮合重合型樹脂、または天然高分子樹脂等を用いることができる。
【0039】
熱可塑性樹脂をエマルジョンの状態で得る場合には、樹脂粒子を場合により界面活性剤と共に水に混合することによって調製することができる。例えば、アクリル系樹脂またはスチレン−アクリル酸共重合体系樹脂のエマルジョンは、(メタ)アクリル酸エステルの樹脂又はスチレン−(メタ)アクリル酸エステルの樹脂と、場合により(メタ)アクリル酸樹脂と、界面活性剤とを水に混合することによって得ることができる。樹脂成分と界面活性剤との混合の割合は、通常50:1〜5:1程度とするのが好ましい。界面活性剤の使用量が前記範囲に満たない場合には、エマルジョンが形成されにくく、また前記範囲を越える場合には、インクの耐水性が低下したり、密着性が悪化する傾向があるので好ましくない。
【0040】
ここで使用する界面活性剤は特に限定されないが、好ましい例としては、アニオン系界面活性剤(例えば、ドデシルベンザンスルホン酸ナトリウム、ラウルリル酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェートのアンモニウム塩など)、ノニオン系界面活性剤(例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミドなど)を挙げることができ、これらは二種以上を混合して用いることができる。
【0041】
また熱可塑性樹脂のエマルジョンは、上記した樹脂成分の単量体を、重合触媒および乳化剤を存在させた水中において乳化重合させることによっても得ることができる。乳化重合の際に使用される重合開始剤、乳化剤、分子量調整剤は常法に準じて使用できる。
【0042】
重合開始剤としては、通常のラジカル重合に用いられるものと同様のものが用いられ、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素、アゾビスイソブチロニトリル、過酸化ベンゾイル、過酸化ジブチル、過酢酸、クメンヒドロパーオキシド、t−ブチルヒドロキシパーオキシド、パラメンタンヒドロキシパーオキシド等が挙げられる。重合反応を水中で行う場合には、水溶性の重合開始剤が好ましい。乳化剤としては、例えば、ラウリル硫酸ナトリウムの他、一般にアニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤または両性界面活性剤として用いられているもの、およびこれらの混合物が挙げられる。これらは2種以上混合して使用することができる。
【0043】
分散相成分としての樹脂と水との割合は、樹脂100重量部に対して水を好ましくは60〜400重量部、より好ましくは100〜200重量部の範囲が適当である。
【0044】
熱可塑性樹脂として、樹脂エマルジョンを使用する場合、公知の樹脂エマルジョンを用いることも可能である。例えば特公昭62−1426号、特開平3−56573号、特開平3−79678号、特開平3−160068号、または特開平4−18462号各公報などに記載の樹脂エマルジョンをそのまま用いることができる。また、市販の樹脂エマルジョンを利用することも可能であり、例えばマイクロジェルE−1002、E−5002(スチレン−アクリル系樹脂エマルジョン;日本ペイント株式会社製)、ボンコート4001(アクリル系樹脂エマルジョン;大日本インキ化学工業株式会社製)、ボンコート5454(スチレン−アクリル系樹脂エマルジョン;大日本インキ化学工業株式会社製)、SAE1014(スチレン−アクリル系樹脂エマルジョン;日本ゼオン株式会社製)、またはサイビノールSK−200(アクリル系樹脂エマルジョン;サイデン化学株式会社製)などを挙げることができる。
【0045】
本発明において、熱可塑性樹脂は、微粒子粉末として水性インク組成物中の他の成分と混合されても良いが、樹脂微粒子を水媒体に分散させて、樹脂エマルジョンの形態とした後、水性インク組成物の他の成分と混合することが好ましい。
【0046】
インク組成物の長期保存安定性、吐出安定性の観点から、本発明に好ましい樹脂微粒子の粒径は5〜400nmの範囲であり、より好ましくは50〜200nmの範囲である。
【0047】
熱可塑性樹脂は、インク組成物全量に対して、固形分換算で0.1〜15.0重量%の範囲で含まれることが好ましく、0.5〜10.0重量%の範囲で含まれることがより好ましい。インク組成物において、樹脂成分が少なすぎると、プラスチック表面に形成されるインク被膜が薄くなり、プラスチック表面との密着性が不充分になることがある。樹脂成分が多すぎると、インク組成物の保存中に樹脂の分散が不安定になったり、わずかな水分の蒸発で樹脂成分が凝集固化して均一な被膜が形成できなくなることがある。
【0048】
着色剤
本発明によるインク組成物は着色剤を含んでなる。ここで着色剤としては、染料、または、顔料が挙げられる。本発明においては、着色剤は顔料が好ましい。
染料としては、特にその種類を限定することなく、酸性染料、直接染料、反応性染料、塩基性染料が使用できる。
【0049】
着色剤として顔料を使用する場合、本発明におけるインク組成物は、水系インクジェット記録用インク組成物において従来から使用されている任意の顔料を含むことができる。顔料としては、例えば、インクジェット記録用インク組成物において従来から使用されている有機顔料または無機顔料を用いることができる。顔料は、水溶性樹脂や界面活性剤等の分散剤とともに分散した樹脂分散顔料、または顔料表面に親水性基を導入し分散剤の使用なしで水系媒体に分散もしくは溶解可能とした表面処理顔料として、インク組成物に添加することができる。なお、顔料を樹脂分散剤で分散する場合、後述する熱可塑性樹脂を分散剤として使用してもよい。また、顔料は2種以上を組合せて用いてもよい。
【0050】
無機顔料としては、酸化チタンおよび酸化鉄や、コンタクト法、ファーネスト法、またはサーマル法などの公知の方法によって製造されたカーボンブラックを利用することができる。
【0051】
有機顔料としては、アゾ顔料(例えば、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、またはキレートアゾ顔料)、多環式顔料(例えば、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ベリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、またはキノフタロン顔料)、染料キレート(例えば、塩基性染料型キレート、または酸性染料型キレート)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、またはアニリンブラックなどを利用することができる。これらの顔料のうち、水との親和性が良好な顔料を用いるのが好ましい。
【0052】
より具体的には、黒色インク用顔料として、例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、若しくはチャンネルブラック等のカーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)類、または銅酸化物、鉄酸化物(C.I.ピグメントブラック11)、若しくは酸化チタン等の金属類、アニリンブラック(C.I.ピグメントブラック1)等の有機顔料を挙げることができる。
【0053】
好適なカーボンブラックの具体例としては、三菱化学株式会社製のカーボンブラックとして、No.2300、900、MCF88、No.20B、No.33、No.40、No.45、No.52、MA7、MA8、MA100、No2200B等が挙げられる。デグサ社製のカーボンブラックとして、カラーブラックFW1、FW2、FW2V、FW18、FW200、S150、S160、S170、プリテックス35、U、V、140U、スペシャルブラック6、5、4A、4、250等が挙げられる。コロンビアカーボン社製のカーボンブラックとして、コンダクテックスSC、ラーベン1255、5750、5250、5000、3500、1255、700等が挙げられる。キャボット社製のカーボンブラックとして、キャボット社製のリガール400R、330R、660R、モグルL、モナーク700、800、880、900、1000、1100、1300、1400、エルフテックス12等が挙げられる。
【0054】
カラーインク用顔料としてはC.I.ピグメントイエロー1(ファストイエローG)、3、12(ジスアゾイエローAAA)、13、14、17、23、24、34、35、37、42(黄色酸化鉄)、53、55、74、81、83(ジスアゾイエローHR)、95、97、98、100、101、104、108、109、110、117、120、138、153、154;C.I.ピグメントレッド1、2、3、5、17、22(ブリリアントファーストスカーレット)、23、31、38、48:2(パーマネントレッド2B(Ba))、48:2(パーマネントレッド2B(Ca))、48:3(パーマネントレッド2B(Sr))、48:4(パーマネントレッド2B(Mn))、49:1、52:2、53:1、57:1(ブリリアントカーミン6B)、60:1、63:1、63:2、64:1、81(ローダミン6Gレーキ)、83、88、92、101(べんがら)、104、105、106、108(カドミウムレッド)、112、114、122(キナクリドンマゼンタ)、123、146、149、166、168、170、172、177、178、179、185、190、193、209、219;またはC.I.ピグメントブルー1、2、15(フタロシアニンブルーR)、15:1、15:2、15:3(フタロシアニンブルーG)、15:4、15:6(フタロシアニンブルーE)、16、17:1、56、60、63;等を使用することができる。
【0055】
顔料の粒径は、特に限定されるものではないが、平均粒径として、好ましくは25μm以下、より好ましくは1μm以下である。平均粒径が25μm以下の顔料を用いることにより、目詰まりの発生を抑制することができ、一層充分な吐出安定性を実現することができる。
【0056】
顔料の含有量は、インク組成物全体に対して、好ましくは0.5〜15重量%、より好ましくは1.0〜10.0重量%である。
【0057】
界面活性剤
本発明によるインク組成物は、界面活性剤および/または低表面張力有機溶剤を含んでなることが好ましい。水溶液は通常プラスチックにはじかれるが、界面活性剤および/または低表面張力有機溶剤を添加すると、プラスチック面に均一に水溶液、すなわちインク組成物を塗布することができる。均一に塗布されたインク組成物から水分を蒸発させることで、環状エステル化合物等をプラスチック表面に過不足無く定着させ、所望の領域のプラスチック表面だけを溶解することができる。また、インク組成物が均一に塗布されることにより、含まれる樹脂もプラスチックフィルム表面で均一に膜化することができる。
【0058】
本発明において、界面活性剤としては、陰イオン性、陽イオン性、両性、および/または非イオン性のいずれをも用いることが可能である。
【0059】
陰イオン性界面活性剤としては、例えば、アルキルスルホカルボン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、N−アシルアミノ酸およびその塩、N−アシルメチルタウリン塩、アルキル硫酸塩ポリオキシアルキルエーテル硫酸塩、アルキル硫酸塩ポリオキシエチレンアルキルエーテル燐酸塩、ロジン酸石鹸、ヒマシ油硫酸エステル塩、ラウリルアルコール硫酸エステル塩、アルキルフェノール型燐酸エステル、アルキル型燐酸エステル、アルキルアリールスルホン酸塩、ジエチルスルホ琥珀酸塩、ジエチルヘキシルスルホ琥珀酸塩、ジオクチルスルホ琥珀酸塩、および、2−ビニルピリジン誘導体、ポリ−4−ビニルピリジン誘導体などを挙げることができる。
【0060】
両性界面活性剤としては、例えば、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ポリオクチルポリアミノエチルグリシンその他イミダゾリン誘導体などを挙げることができる。
【0061】
非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルなどのエーテル系、ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステル、ソルビタンラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ポリオキシエチレンステアレートなどのエステル系、または下式(i):
【化3】

(ここで、R11、R12、R13、およびR14はそれぞれ独立して炭素数1〜6のアルキル基を表し、nおよびmはそれらの和が0〜30となる整数である)で表されるアセチレングリコール系界面活性剤、例えば、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール(例えば、Air Products and Chemicals. Inc.社製のサーフィノール104)、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール(例えば、Air Products and Chemicals. Inc.社製のサーフィノール82)、これらアセチレングリコール類の誘導体(例えば、Air Products and Chemicals. Inc.社製のサーフィノール465、485など)などがある。
【0062】
中でも、泡立ち、またはノズル吐出の信頼性の良好な非イオン系界面活性剤が好ましく、アセチレングリコール系界面活性剤がより好ましい。
【0063】
界面活性剤の含有量は、プラスチック面に均一にインク組成物を塗布することができるものであれば特に制限はなく、使用する界面活性剤の種類やインク組成物を構成する他の成分の種類およびその量にしたがって適宜選択することができる。界面活性剤の含有量は、例えば、インク組成物全量に対して0.01〜5.0重量%、好ましくは、1.0〜2.0重量%である。
低表面張力有機溶剤
プラスチック面に均一に環状エステル化合物および環状エーテル化合物を塗布するために、本発明のインク組成物は、界面活性剤の代わりに、または界面活性剤に加えて、低表面張力有機溶剤を含んでなることができる。
【0064】
低表面張力有機溶剤の例としては、1価アルコール、または多価アルコール誘導体が挙げられる。
【0065】
1価アルコールとしては、特に炭素数1〜4の1価アルコール、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、またはn−ブタノールなどを用いることができる。
【0066】
多価アルコール誘導体としては、特には、炭素数2〜6の2価〜5価アルコールと炭素数1〜4の低級アルコールとの完全または部分エーテルを用いることができる。ここで多価アルコール誘導体とは、少なくとも1個のヒドロキシル基がエーテル化されたアルコール誘導体であり、エーテル化されたヒドロキシル基を含まない多価アルコールそれ自体を意味するものではない。前記のエーテルとして好ましい多価アルコール低級アルキルエーテルは、一般式(ii):
21O−〔CH−CH(R23)−O〕t−R22 (ii)
[式中、R21およびR22は、それぞれ独立に、水素原子、または炭素数3〜6のアルキル基(好ましくはブチル基)であり、R23は水素原子または炭素数1〜4の低級アルキル基、好ましくは水素原子、メチル基またはエチル基であり、tは1〜8、好ましくは1〜4の整数であるが、但し、R21およびR22の少なくとも一方は炭素数3〜6のアルキル基(好ましくはブチル基)である]で表される化合物である。
【0067】
これらの多価アルコール低級アルキルエーテルの具体例としては、例えば、モノ、ジ若しくはトリエチレングリコール−モノ若しくはジ−アルキルエーテル、モノ、ジ若しくはトリプロピレングリコール−モノ若しくはジ−アルキルエーテルが挙げられ、好ましくはトリエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノペンチルエーテル、またはプロピレングリコールモノブチルエーテルなどを挙げることができる。
【0068】
本発明の好ましい態様によれば、低表面張力有機溶剤は、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、、トリエチレングリコールモノブチルエーテルである。
【0069】
本発明のインク組成物における低表面張力有機溶剤の含有量は、プラスチック面に均一に環状エステル化合物等を塗布することができるものであれば特に制限はなく、使用する環状エステル化合物、環状エーテル化合物および界面活性剤の種類および量にしたがって適宜選択することができる。低表面張力有機溶剤の含有量は、例えば、インク組成物全量に対して0 〜10.0重量%、好ましくは、2.0〜8.0重量%である。
【0070】
本発明によるインク組成物の諸物性は適宜制御することができるが、本発明の好ましい態様によれば、インク組成物の粘度は、好ましくは25mPa・秒以下、より好ましくは10mPa・秒以下(25℃)である。粘度がこの範囲内にあると、インク組成物をインク吐出ヘッドから安定に吐出させることができる。また、本発明によるインク組成物は適宜制御することができ、好ましくは表面張力は、20.0〜40.0mN/m(25℃)範囲程度であり、より好ましくは25.0〜35.0mN/m範囲程度である。
【0071】
湿潤剤
インク組成物の保管および塗布時の扱い易さを考慮して、本発明によるインク組成物には、公知の湿潤剤(水溶性有機溶剤)をさらに加えることができる。湿潤剤を含むことによって、水分蒸発による樹脂成分の凝集固化を防止でき、インクジェット塗布時にインクジェットヘッドのノズルの目詰まりを防止し、吐出安定性を確保することができる。
【0072】
湿潤剤としては、例えば、水溶性多価アルコール類、特には、炭素数2〜10の2価〜5価アルコール類;含窒素炭化水素溶媒、例えば、ホルムアミド類、イミダゾリジノン類、ピロリドン類、あるいはアミン類;含硫黄炭化水素溶媒を挙げることができる。これらは、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0073】
水溶性多価アルコールとしては、例えば、炭素数3〜10の2価〜3価アルコール、例えば、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ヘキシレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオールの1種またはそれ以上を組合せて用いることができる。
【0074】
湿潤剤の含有量は、例えば、インク組成物全量に対して0〜20.0重量%、好ましくは、1.0〜10.0重量%である。このような範囲とすることによって、目詰まり防止性、または吐出安定性を確保することができる。含有量が多すぎると乾燥不良となることがある。
【0075】
主溶媒
本発明によるインク組成物は、主溶媒を含んでなる。環状エステル化合物および場合により環状エーテル化合物を含む水溶性有機溶剤を薄く均一にプラスチック表面に塗布するために、本発明においては、環状エステル化合物等を主溶媒で希釈して塗布する。このような主溶媒としては、水または水溶性有機溶媒などが使用可能であるが、本発明においては、安全性などの観点から、水が好ましい。
したがって、本発明におけるインク組成物において、好ましくは、主溶媒は水である。ここで使用される水としては、イオン性の不純物を極力低減することを目的として、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水、または超純水を用いることができる。また、紫外線照射、または過酸化水素添加等により滅菌した水を用いると、インク組成物を長期保存する場合にカビやバクテリアの発生を防止することができるので好適である。
【0076】
他の成分
本発明のインク組成物は、上記した各成分を含むことにより、所望の効果を実現できるものであるが、必要に応じて、防腐剤・防かび剤、pH調整剤、溶解助剤、酸化防止剤、ノズルの目詰まり防止剤などをさらに含むことができる。
【0077】
pH調整剤としては、例えばリン酸二水素カリウムまたはリン酸水素二ナトリウム等が挙げられる。防腐剤・防かび剤の例としては、安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム、2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、1,2−ジベンジソチアゾリン−3−オン(ICI社のプロキセルCRL、プロキセルBDN、プロキセルGXL、プロキセルXL−2、プロキセルTN)などが挙げられる。さらに、溶解助剤、または酸化防止剤の例としては、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、プロパノールアミン、モルホリンなどのアミン類およびそれらの変成物、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウムなどの無機塩類、水酸化アンモニウム、四級アンモニウム水酸化物(テトラメチルアンモニウムなど)、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウムなどの炭酸塩類その他燐酸塩など、あるいはN−メチル−2−ピロリドン、尿素、チオ尿素、テトラメチル尿素などの尿素類、アロハネート、メチルアロハネートなどのアロハネート類、ビウレット、ジメチルビウレット、テトラメチルビウレットなどのビウレット類など、L−アスコルビン酸およびその塩を挙げることができる。更にノズル乾燥防止の目的で、尿素、チオ尿素、またはエチレン尿素等を添加することができる。
【0078】
インク組成物の製造
本発明のインク組成物は、前記の各配合成分を個別に、または顔料分散剤や樹脂エマルジョンの形態を経て、任意の順序で適宜混合し、溶解(または分散)させた後、必要に応じて不純物などを濾過して除去することにより、調製することができる。
【0079】
本発明によるインク組成物においては、環状エステル化合物および環状エーテル化合物がプラスチック表面を溶解できる程度の量であること; インクジェット記録ヘッドによって吐出可能な粘度および表面張力であること; 保存容器中またはインクジェットヘッドのノズルでインク組成物が凝集したり、固化したりしないこと; さらには、インクジェットプリンタの接液部材が溶解もしくは破壊されないこと、等の点を考慮して、前記の各成分の配合量を適宜設定することができる。このようなインク組成物の典型的な組成としては、例えば、下記の通りのものが挙げられる:
環状エステル化合物 0.1〜10.0重量%;
環状エーテル化合物 0.1〜10.0重量%;
熱可塑性樹脂 0.1〜15.0重量%(固形分);
顔料 0.5〜15.0重量%;
界面活性剤 0.01〜5.0重量%;
低表面張力有機溶剤 0〜10.0重量%;
湿潤剤 0〜20.0重量%;および
水 残り。
【0080】
よって、本発明の一つの好ましい態様によれば、インク組成物において、環状エステル化合物の含有量は0.1〜10.0重量%であり、環状エーテル化合物の含有量が固形分換算で0.1〜10.0重量%であり、かつ、熱可塑性樹脂の含有量が固形分換算で0.1〜15.0重量%である。
【0081】
記録方法
本発明によるインクジェット記録方法は、前記したように、被記録面がプラスチックフィルムである記録媒体に、インク組成物の液滴を吐出させ、被記録面に付着させて印刷を行うものである。
本発明のインク組成物は記録媒体であるプラスチックフィルムの状態および素材の種類に応じて、また、インクの乾燥条件に応じてプラスチックフィルムを溶解する成分の量を調整するので、インクの塗布量は画像の再現性に応じて適宜変更することができる。
【0082】
本発明の好ましい態様によれば、本発明のインクジェット記録方法は、被記録面に付着させたインク組成物を加熱して樹脂被膜を形成させる加熱工程をさらに含んでなる。この操作の過程で、インク組成物に含まれる環状エステル化合物および環状エーテル化合物を蒸発させることができるので、プラスチックと、形成される樹脂被膜との密着性もより強固にできると考えられる。ここで加熱手段は、慣用の加熱手段、例えば、赤外線式加熱装置や熱風加熱装置などの公知の加熱装置を用いて、常法にしたがって行うことができる。本発明においては、加熱工程の加熱処理は、好ましくは、ヒーター加熱または温風乾燥により実施することができる。また、加熱条件は、インク組成物に含まれる樹脂が、加熱によって硬化して樹脂被膜を形成することができるような条件であればいずれであってもよく、樹脂粒子の種類などを考慮して適宜設定することができる。例えば、ヒーター加熱または温風乾燥による場合には、加熱は、25〜90℃(好ましくは40〜70℃)で1分間〜1日間(好ましくは3分間〜18時間)の条件で行うことができる。
【0083】
本発明の別の態様によれば、本発明によるインクジェット記録方法によって印刷された、記録物が提供される。
【実施例】
【0084】
以下本発明を以下の実施例によって詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0085】
インク組成物の調製
インク組成物1〜7を下記の組成にしたがってそれぞれ調製した。
【0086】
インク組成物1:
γ−ブチロラクトン 2.0 重量%
テトラヒドロフラン 3.0 重量%
C.I.ピグメントイエロー 2.0 重量%
スチレン−アクリル酸共重合体(熱可塑性樹脂) 1.0 重量%(固形分)
ジエチレングリコール 4.0 重量%
ジエチレングリコールモノブチルエーテル 3.0 重量%
サーフィノール465 1.0 重量%
純水 残り
【0087】
インク組成物2:
γ−ブチロラクトン 2.0 重量%
1,4−ジオキサン 3.0 重量%
C.I.ピグメントイエロー 2.0 重量%
スチレン−アクリル酸共重合体(熱可塑性樹脂) 1.0 重量%(固形分)
ジエチレングリコール 4.0 重量%
ジエチレングリコールモノブチルエーテル 3.0 重量%
サーフィノール465 1.0 重量%
純水 残り
【0088】
インク組成物3:
炭酸プロピレン 2.0 重量%
テトラヒドロフラン 3.0 重量%
C.I.ピグメントイエロー74 2.0 重量%
スチレン−アクリル酸共重合体 (熱可塑性樹脂) 1.0 重量%(固形分)
ジエチレングリコール 4.0 重量%
ジエチレングリコールモノブチルエーテル 3.0 重量%
サーフィノール465 1.0 重量%
純水 残り
【0089】
インク組成物4:
炭酸プロピレン 2.0 重量%
1,4−ジオキサン 3.0 重量%
C.I.ピグメントイエロー74 2.0 重量%
スチレン−アクリル酸共重合体(熱可塑性樹脂) 1.0 重量%(固形分)
ジエチレングリコール 4.0 重量%
ジエチレングリコールモノブチルエーテル 3.0 重量%
サーフィノール465 1.0 重量%
純水 残り
【0090】
インク組成物5(比較例):
γ−ブチロラクトン 2.0 重量%
C.I.ピグメントイエロー74 2.0 重量%
スチレン−アクリル酸共重合体(熱可塑性樹脂) 1.0 重量%(固形分)
ジエチレングリコール 4.0 重量%
ジエチレングリコールモノブチルエーテル 3.0 重量%
サーフィノール465 1.0 重量%
純水 残り
【0091】
インク組成物6(比較例):
テトラヒドロフラン 3.0 重量%
C.I.ピグメントイエロー74 2.0 重量%
スチレン−アクリル酸共重合体(熱可塑性樹脂) 1.0 重量%(固形分)
ジエチレングリコール 4.0 重量%
ジエチレングリコールモノブチルエーテル 3.0 重量%
サーフィノール465 1.0 重量%
純水 残り
【0092】
インク組成物7(比較例):
C.I.ピグメントイエロー74 2.0 重量%
スチレン−アクリル酸共重合体(熱可塑性樹脂) 1.0 重量%(固形分)
ジエチレングリコール 4.0 重量%
ジエチレングリコールモノブチルエーテル 3.0 重量%
サーフィノール465 1.0 重量%
純水 残り
【0093】
評価試験
印刷サンプルの作成:
前記で実施例および比較例として調製した各インク組成物を用いて印刷サンプルを作成した。具体的には、インク組成物を充填したインクジェットプリンタ(TM−J8000;セイコーエプソン株式会社製)を用いて、インクジェット印刷専用の表面処理を施していない軟質塩化ビニルフィルム(スコッチカルフィルム;住友スリーエム株式会社製)に100%dutyパターンを印刷した。印刷サンプルは60℃、相対湿度20%の恒温槽で1時間、さらに室温で1日乾燥した後、下記評価試験を行った。
【0094】
サンプルの評価:
評価1: 密着性
粘着テープ(セロテープNo.252;積水化学工業株式会社製)を印刷サンプルの印刷部に貼り、指で2ないし3回擦った後に粘着テープを引き剥がした。その部分の印刷部の状態を目視で観察した。その結果を次の基準で評価した。
A: 塩化ビニルフィルムからのインク(着色剤)の剥離が全く無い。
B: 塩化ビニルフィルムからインク(着色剤)の一部が剥離する。
C: 塩化ビニルフィルムからインク(着色剤)が完全に剥離している。
【0095】
評価2: 耐水性
印刷サンプルの印刷部に水道水を1滴付着させて1分間放置し、その後ガーゼで水滴を拭き取った。拭き取った後の印刷部およびガーゼの状態を目視で観察した。その結果を次の基準で評価した。
A: 塩化ビニルフィルムからのインク(着色剤)の剥離が全く無く、ガーゼも着色しない。
B: 塩化ビニルフィルムからインク(着色剤)の一部が剥離し、ガーゼが着色している。
C: 塩化ビニルフィルムからインク(着色剤)が完全に剥離し、ガーゼが着色している。
【0096】
結果は下記表1に示されるとおりであった。
【0097】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式(I)の環状エステル化合物と、熱可塑性樹脂と、着色剤と、主溶媒とを含んでなる、被記録面がプラスチックフィルムであるインクジェット記録媒体用インク組成物であって、熱可塑性樹脂がインク組成物中に分散されてなる、インク組成物:
【化1】

[式中、
Rは、直鎖状もしくは分岐鎖状の、C2〜12の飽和炭化水素鎖を表し、かつ
Xは、−CH−または−O−を表す]。
【請求項2】
下式(II)の環状エーテル化合物をさらに含んでなる、請求項1に記載のインク組成物:
【化2】

[式中、
R’は、直鎖状もしくは分岐鎖状のC2〜12の飽和炭化水素鎖、または直鎖状もしくは分岐鎖状のC2〜12の飽和エーテル鎖を表す]。
【請求項3】
着色剤が、顔料であって、顔料がインク組成物中に分散されてなる、請求項1または2に記載のインク組成物。
【請求項4】
主溶媒が水である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項5】
式(I)中、Rが、直鎖状もしくは分岐鎖状のC2〜5の飽和炭化水素基を表す、請求項1〜4のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項6】
環状エステル化合物が、γ−ブチロラクトン、ε−カプロラクトン、炭酸プロピレン、および炭酸エチレンからなる群より選択される、請求項1〜5のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項7】
式(II)中、R’が、直鎖状もしくは分岐鎖状のC2〜5の飽和炭化水素基、または、直鎖状もしくは分岐鎖状のC2〜5の飽和エーテル鎖を表す、請求項2〜6のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項8】
環状エーテル化合物が、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、および、2−メチルテトラヒドロフランからなる群より選択される、請求項2〜7のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項9】
界面活性剤および/または低表面張力有機溶剤をさらに含んでなる、請求項1〜8のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項10】
界面活性剤をさらに含んでなるか、または、界面活性剤および低表面張力有機溶剤をさらに含んでなる、請求項9に記載のインク組成物。
【請求項11】
界面活性剤が、アセチレングリコール系界面活性剤である、請求項9または10に記載のインク組成物。
【請求項12】
低表面張力有機溶剤が、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、または、トリエチレングリコールモノブチルエーテルである、請求項9〜11のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項13】
湿潤剤をさらに含んでなる、請求項1〜12のいずれか一項に記載に記載のインク組成物。
【請求項14】
環状エステル化合物の含有量が0.1〜10.0重量%であり、
環状エーテル化合物の含有量が0.1〜10.0重量%であり、かつ
熱可塑性樹脂の含有量が固形分換算で0.1〜15.0重量%である、請求項2〜13のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項15】
インクジェット記録方法により記録媒体に塗布される、請求項1〜14のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項16】
被記録面がプラスチックフィルムである記録媒体に、インク組成物の液滴を吐出させ、被記録面に付着させて印刷を行うインクジェット記録方法であって、
インク組成物が、請求項1〜14のいずれか一項に記載のインク組成物であることを特徴とする、インクジェット記録方法。
【請求項17】
被記録面に付着させたインク組成物を加熱して樹脂被膜を形成させる加熱工程をさらに含んでなる、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
加熱工程の加熱処理を、ヒーター加熱または温風乾燥により行う、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
請求項16〜18のいずれか一項に記載の方法によって印刷された、記録物。

【公開番号】特開2012−52112(P2012−52112A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−186315(P2011−186315)
【出願日】平成23年8月29日(2011.8.29)
【分割の表示】特願2005−103806(P2005−103806)の分割
【原出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.セロテープ
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】