説明

プラスチックレンズの製造方法

【課題】 プライマーコート層を有する中心部の厚みが薄いレンズの該プライマーコート層上に、光硬化性コーティング剤よりなるコート層を有するレンズを製造するに際し、コート層の密着性がよく、外観に優れたレンズを製造する方法を提供する。
【解決手段】 プライマーコート層上に光硬化性コーティング剤が被覆された中心部の厚みが薄いレンズにおいて、光照射によりコート層を形成するに際し、最初に光照射を行う直前のレンズ表面温度を30℃以下とし、光照射時のレンズ表面温度を70℃以下とするレンズの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の形状であって、かつコート層を有するプラスチックレンズの製造方法に関する。詳しくは、中心部分の厚みが薄い特定の形状であるプラスチックレンズ上に、光硬化性コーティング剤を被覆した後、光照射してコート層を形成することにより得られるプラスチックレンズの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックレンズは、通常、様々な機能を持たせるために、表面にコーティングが施されている(コート層が形成されている)。例えば、プラスチックレンズの表面に、光硬化性コーティング剤を被覆し、光照射してコート層を形成することにより、表面硬度の向上や、ハードコート層、又は反射防止層との密着性を高めることができる。また、フォトクロミック化合物を含む光硬化性コーティング剤を使用した場合には、プラスチックレンズにフォトクロミック特性を付与することができる。
【0003】
このフォトクロミック特性とは、ある化合物、例えば、フルギド化合物、スピロオキサジン化合物、又はクロメン化合物に、太陽光あるいは水銀灯の光のような紫外線を含む光を照射すると速やかに色が変わり、光の照射をやめて暗所におくと元の色に戻る可逆作用のことであり、様々な用途に応用されている。この特性を利用した具体的な用途として、フォトクロミック眼鏡があり、太陽光のような紫外線を含む光が照射される屋外ではレンズが速やかに着色してサングラスとして機能し、そのような光の照射がない屋内においては退色して透明な通常の眼鏡として機能する眼鏡となる。
【0004】
上記のように、フォトクロミック化合物を光硬化性コーティング剤に含有させ、該光硬化性コーティング剤によりプラスチックレンズにコート層を形成する方法は、コート層が十分にプラスチック基材に密着すれば、プラスチック基材の材質に影響されないため、多くの開発がなされている。その中でも、中心部分の厚さ(C)が2mm未満であり、中心部分の厚さ(C)と周縁部分の厚さ(E)との比(C/E)が1以下であるプラスチックレンズ(以下、単にこのプラスチックレンズを「中心部の厚みが薄いレンズ」とする場合もある)は、近眼矯正用レンズとして使用されており、このレンズの凸面の表面に、光硬化性コーティング剤よりなるコート層を形成する方法も検討されている。この中心部の厚みが薄いレンズは、熱により変形し易いため、様々な工夫を凝らしてコート層が形成されている。
【0005】
具体的には、上記のような中心部の厚みが薄いレンズに光硬化性コーティング剤を被覆し、コート層を形成するに際し、光照射を断続的に行ったり、徐々に光の強度を弱くして、レンズ表面の温度を100℃以下とすることにより、レンズが熱変形することなく、コート層を有するレンズを製造する方法が提案されている(特許文献1参照)。また、中心部の厚みが薄いレンズの形状に合わせたレンズ保持台を使用することにより、比較的高い温度、例えば100℃以上のレンズ表面温度でも、レンズが熱変形することなく、コート層の密着性のよいレンズを製造する方法が提案されている(特許文献2参照)。これらの方法によれば、上記のような中心部の厚みが薄いレンズにおいても、レンズが熱変形することなく、コート層の密着性がよいレンズを製造することができる。特に、レンズ保持台を使用する方法では、レンズの表面温度が比較的高い温度で処理できるため、コート層の密着性をより高めることができる。
【0006】
一方、コート層を有するプラスチックレンズをより高性能なレンズとするため、プラスチックレンズ基材と上記光硬化性コーティング剤よりなるコート層との間に、ウレタン系樹脂のような樹脂を含むプライマーコート層を設ける試みも行われている。プライマーコート層を設けることにより、プラスチックレンズの衝撃性をより向上できたり、プラスチックレンズ基材と光硬化性コーティング剤よりなるコート層との密着性をより改善することができる。
【0007】
上記特許文献1に記載された方法では、アミン化合物を含む光硬化性コーティング剤を使用しており、プライマーコート層を有するプラスチックレンズに、さらに光硬化性コーティング剤よりなるコート層を形成することについては示されていない。また、上記特許文献2に記載された方法では、レンズ保持台を使用して、プライマーコート層を有するプラスチックレンズにコート層を形成することが示唆されているが、このような態様とする具体的な例は示されていない。つまり、従来技術においては、プライマーコート層が積層された、中心部の厚みの薄いレンズにおいて、さらに、光硬化性コーティング剤よりなるコート層を形成する具体的な方法は示されていなかった。
【0008】
通常、プライマーコート層は、硬化してウレタン系樹脂となるような反応物、及び溶媒等を含むプライマー組成物をプラスチックレンズ表面に塗布し、次いで、溶媒を除去、及び反応物を硬化させることにより形成できる。そのため、プライマーコート層を短時間で形成するには、加熱処理を行うのが一般的である。中心部の厚みが薄いレンズにおいては、レンズ保持台を使用しなければ、特許文献1の記載に従い、熱変形が生じない100℃以下の温度で加熱することにより、短時間でプライマーコート層を形成できるものと考えられる。そして、上記方法によりプライマーコート層を形成した後、該プライマーコート層上に、光硬化性コーティング剤を被覆し、次いで、光照射を行い、コート層を形成する場合、短時間でコート層を形成するためには、プライマーコート層を形成した直後に、光硬化性コーティング剤を被覆することが好ましいと考えられる。さらに、プラスチックレンズの表面温度が高い方が光硬化性コーティング剤の重合(硬化)が進むため、プライマーコート層を形成した直後であって、プラスチックレンズの表面温度が高いものは、短時間で密着性の良好なコート層を形成できるものと考えられる。特に、光硬化性コーティング剤の重合活性が高い初期の光照射を行う段階において、プラスチックレンズの表面温度が高いと重合(硬化)がより進むため、コート層の密着性がより高くなるものと推定される。
【0009】
【特許文献1】特開2004−12857号公報
【特許文献2】国際公開第06/132200号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、プライマーコート層を有する中心部の厚みが薄いレンズにおいて、光硬化性コーティング剤よりなるコート層の密着性を高め、かつ生産効率を高める(短時間で製造を行う)ため、例えば、プライマーコート層を積層した直後の表面温度が比較的高いプラスチックレンズを使用した場合、以下の問題が生じることが分かった。つまり、上記プライマーコート層を有するものを使用した場合には、プラスチックレンズの表面温度が比較的高いと、最終的に得られるコート層を有するプラスチックレンズにおいて、予想とは反対に、コート層の密着性が低下したり、外観不良のものが生じ、製品の歩留まりが低下することが分かった。
【0011】
したがって、本発明の目的は、プライマーコート層を有する中心部分の厚みが薄いレンズにおいても、該プライマーコート層上に、光硬化性コーティング剤よりなるコート層の密着性がよく、かつ外観不良の発生が少ない、コート層を有するプラスチックレンズの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行なった。その結果、プライマーコート層を積層した中心部の厚みが薄いレンズを使用した場合、光硬化性コーティング剤よりなるコート層の密着性が低下する原因、及び外観不良の発生原因が、光照射時のプラスチックレンズの表面温度だけでなく、光照射前のプラスチックレンズの表面温度にも関係することをつきとめた。そして、プライマーコート層を積層した中心部の厚みが薄いレンズを使用する場合には、他のプラスチックレンズや従来方法とは異なり、光照射直前のプラスチックレンズの表面温度を低くし、さらに、光照射時の温度も一定の温度以下とすることにより、上記課題を解決できることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、本発明は、中心部分の厚さ(C)が2mm未満であり、中心部分の厚さ(C)と周縁部分の厚さ(E)との比(C/E)が1以下であるプラスチックレンズの凸面の表面に、ウレタン系樹脂よりなるプライマーコート層を積層し、次いで、該プライマーコート層上に、光硬化性コーティング剤を被覆した後、該凸面が上面となるようにプラスチックレンズを保持して光照射を行うことによって、コート層を有するプラスチックレンズを製造する方法であって、
最初に光照射を行う直前のプラスチックレンズの表面温度を30℃以下とし、光照射時のプラスチックレンズの表面温度を70℃以下とすることを特徴とするプラスチックレンズの製造方法である。
【0014】
また、本発明においては、装置の簡略化、制御の簡略化を行うためには、光照射を断続的に行うことが好ましい。
【0015】
さらに、光照射を断続的に行う場合には、最初に光照射を行ってから、一旦、光照射を停止するまでの第一光照射工程において、光照射強度と光照射時間との積で表す積算光量が、全積算光量の10%以上40%以下となるように光照射を行うことが好ましい。こうすることにより、第一光照射工程後に、他の装置を用いて光照射を行うこともできるし、第一光照射工程で処理した後のレンズを保存しておくことができる。
【0016】
この第一照射工程においては、レンズを回転させながら光照射を行うことにより、外観が良好な高品質のプラスチックレンズを製造することができる。
【0017】
また、本発明は、前記プライマーコート層の厚みが0.1〜10μmであるプラスチックレンズを使用する場合に、特に好適に採用することができる。さらに、本発明は、光照射によりその物性に影響が出るフォトクロミック化合物を含む光硬化性コーティング剤を使用する場合に、特に好適に採用することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、プライマーコート層を有する中心部の厚みが薄いレンズであっても、光硬化性コーティング剤よりなるコート層を有するレンズを、短時間で歩留まりよく製造できる。また、光硬化性コーティング剤がフォトクロミック化合物を含むものである場合には、優れたフォトクロミック特性を有する、外観の良好なレンズを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明は、中心部分の厚さ(C)が2mm未満であり、中心部分の厚さ(C)と周縁部分の厚さ(E)との比(C/E)が1以下であるプラスチックレンズの凸面の表面に、ウレタン系樹脂よりなるプライマーコート層が積層されたレンズにおいて、さらに、該プライマーコート層上に、光硬化性コーティング剤を被覆した後、該凸面が上面となるようにプラスチックレンズを保持して光照射を行い、コート層を有するレンズを製造する方法であって、
最初に光照射を行う直前のレンズ表面温度を30℃以下とし、光照射時のレンズ表面温度を70℃以下とするレンズの製造方法である。
【0020】
以下、プラスチックレンズ、及び光照射を行う工程について説明する。
【0021】
(プラスチックレンズ)
本発明において、基材となるプラスチックレンズは、中心部分の厚さ(C)が2mm未満であり、中心部分の厚さ(C)と周縁部分の厚さ(E)との比(C/E)が1以下となるものである。このような中心部の厚みが薄いレンズは、汎用の眼鏡用プラスチックレンズにおける近眼矯正用のレンズとして使用されており、この近眼矯正用のレンズは、マイナスの度数が大きくなるにつれて中心部分の厚さ(C)と周縁部分の厚さ(E)との比(C/E)が1以下で徐々に小さくなる。したがって、本発明は、マイナス度数が大きなプラスチックレンズを使用する場合に、特に顕著な効果を発揮する。なお、中心部分の厚さ(C)の下限は、特に制限されるものではないが、汎用的なものを考慮すると0.1mmである。また、中心部分の厚さ(C)と周縁部分の厚さ(E)との比(C/E)の下限値は、特に制限されるものではないが、0.01である。
【0022】
本発明において、上記プラスチックレンズの材質は、特に制限されるものではなく、具体的には、(メタ)アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アリル系樹脂、チオウレタン系樹脂、ウレタン系樹脂、及びチオエポキシ系樹脂等の公知の樹脂であればよい。本発明は、上記材質のような樹脂製のレンズ、特に、チオウレタン系樹脂よりなるレンズであって、中心部の厚みの薄いレンズにコート層を形成する場合の問題を解決できるものである。
【0023】
(プライマーコート層を有するプラスチックレンズ)
本発明においては、中心部分の厚さ(C)が2mm未満であり、中心部分の厚さ(C)と周縁部分の厚さ(E)との比(C/E)が1以下である上記プラスチックレンズの凸面の表面に、ウレタン系樹脂よりなるプライマーコート層を積層し、次いで、該プライマーコート層上に、光硬化性コーティング剤よりなるコート層を積層する場合に適用されるものである。つまり、本発明は、ウレタン系樹脂よりなるプライマーコート層が積層された特定の厚みのプラスチックレンズに、コート層を形成する場合に適用されるものである。以下、中心部分の厚さ(C)が2mm未満であり、中心部分の厚さ(C)と周縁部分の厚さ(E)との比(C/E)が1以下である上記プラスチックレンズの凸面の表面に、ウレタン系樹脂よりなるプライマーコート層が積層されたプラスチックレンズを、単に「プライマーコート層を有するプラスチックレンズ」とする場合もある。
【0024】
本発明者の検討によれば、ウレタン系樹脂よりなるプライマーコート層を有する中心部の厚みが薄いレンズに、さらに、光硬化性コーティング剤よりなるコート層を設ける場合、従来の技術を単に適用しただけでは、製造時間が長くなったり、コート層の密着性の低下、及び外観不良が生じ歩留まりが低下することが分かった。この問題は、プライマーコート層を有するプラスチックレンズを取り扱う場合に発生する問題である。本発明者の検討によれば、上記のようなプライマーコート層を有するプラスチックレンズに、コート層を設ける場合には、光照射前のレンズ表面の温度までも制御しなければならないことが分かった。
【0025】
光硬化性コーティング剤よりなるコート層の密着性を高めるには、通常、光硬化性コーティング剤の重合(硬化)が進むため、プラスチックレンズの表面温度が高い方が好ましい。しかしながら、ウレタン系樹脂よりなるプライマーコート層が積層された中心部の厚みが薄いプラスチックレンズでは、光照射前のプラスチックレンズの表面温度は低くした方が好ましいため、本発明の方法は、従来技術とは全く発想が異なるものである。
【0026】
(プライマーコート層を有するプラスチックレンズの製造方法)
(ウレタン系樹脂よりなるプライマーコート層 (プライマーコート組成物))
本発明において、上記中心部の厚みが薄いレンズの凸面の表面に形成されるプライマーコート層は、ウレタン系樹脂よりなるものである。このプライマーコート層は、硬化してウレタン系樹脂となる化合物、及び有機溶媒等を含むプライマー組成物をプラスチックレンズの表面に被覆した後、該化合物を硬化させることにより形成される。なお、本発明において、ウレタン系樹脂とは、イソシアネート基を有する化合物が反応して樹脂となったものを指す。
【0027】
本発明において、ウレタン系樹脂よりなるプライマーコート層は、特に制限されるものではなく、プラスチックレンズ用の公知のプライマー組成物を使用することにより形成できる。中でも、下記に詳述する光硬化性コーティング剤がフォトクロミック化合物を含む場合には、以下に例示するウレタン系樹脂であることが好ましい。
【0028】
具体的には、湿気硬化型ウレタン系プライマー組成物よりなる湿気硬化型ウレタン系樹脂であることが好ましい。上記、湿気硬化型ウレタン系プライマー組成物とは、分子中に複数存在するイソシアネート基の一部が、例えば、大気中の水分と反応してカルバミン酸を生じた後に脱炭酸してアミンを生成し、該アミンと残存イソシアネート基が反応して尿素結合を生じることにより架橋硬化するイソシアネート基含有化合物、又はこのような化合物の前駆体を含むものである(当然のことながら、上記イソシアネート基含有化合物、及びこのような化合物の前駆体の混合物であってもよい。)。より好ましい上記イソシアネート基含有化合物、又はこの化合物の前駆体としては、例えば、好適には数平均分子量が300〜5000、特に500〜3000であり、1分子中、末端に存在するイソシアネート基の平均含有量を0.001モル%〜50モル%、好ましくは0.1モル%〜10モル%、最も好ましくは0.5モル%〜5モル%に調整されたものであることが好ましい。なお、ここでいうイソシアネート基の平均含有量(モル%)とは、以下のようにして算出した値である。先ず、特定量の化合物中に存在するイソシアネート基のモル数を化学的に定量して求める。次に、得られたイソシアネート基のモル数を当該特定量の中に含まれる化合物のモル数(特定量の質量を数平均分子量で除した値)で除することによって、化合物1分子中に存在するイソシアネート基のモル数を求める。さらに、該モル数を化合物の分子量(数平均分子量)で除した値を%表記したものである。上記のような数平均分子量、及びイソシアネート基の平均含有量を満足する化合物を含む湿気硬化型ウレタン系プライマーは、例えば建築用途用のプライマー、光学用途用のプライマーとして市販されており、工業的に或いは試薬として入手可能である。
【0029】
上記湿気硬化型ウレタン系樹脂を形成する上記イソシアネート基含有化合物、又はこのような化合物の前駆体を具体的に例示すれば、
(1)トリレンジイソシアネート、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、トリス(イソシアネートフェニール)チオホスフェート、テトラメチルキシレンジイソシアネート等の芳香族イソシアネート化合物;トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジエソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水添4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート、水添キシレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、リジンエステルトリイソシアネート、1,6,11−ウンデカントリイソシアネート、1,8−ジイソシアネート−4−イソシナネートメチルオクタン、1,3,6−ヘキサメチレントリイソシアネート、ビシクロヘプタントリイソシアネート等の脂肪族イソシアネート化合物など、
(2)上記イソシアネート化合物と活性水素を有する化合物とをイソシアネート基が残るような仕込み比で結合させたポリイソシアネート化合物、或いはポリイソシアネートオリゴマー化合物など、
(3)イオウ若しくはハロゲン基を1種または2種以上含むポリイソシアネート、およびその変性体、具体的には、ビュウレット、イソシアヌレート、アロファネート、カルボジイミドなど
が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせてもよい。
【0030】
これらの中でも、比較的低温で優れた密着性を発現できる観点から、脂肪族イソシアネート化合物、又は該脂肪族イソシアネート化合物と活性水素を有するような化合物とをイソシアネート基が残るような仕込み比で結合させたポリイソシアネート化合物(オリゴマーを含む)であることが好ましく、これら化合物の混合物であってもよい。さらに、塗膜性を考慮すると、環状の脂肪族イソシアネート化合物、又は環状の該脂肪族イソシアネート化合物と活性水素を有する化合物とをイソシアネート基が残るような仕込み比で結合させたポリイソシアネート化合物(オリゴマーを含む)であることが好ましく、これら化合物の混合物であってもよい。
【0031】
また、ポリイソシアネート化合物(オリゴマーを含む)が空気中の水分などと反応して硬化する速度が速いという観点から、芳香族イソシアネート化合物、又は該芳香族イソシアネート化合物と活性水素を有するような化合物とをイソシアネート基が残るような仕込み比で結合させたポリイソシアネート化合物(オリゴマーを含む)も好適に使用でき、これら化合物の混合物であってもよい。この場合、水分とイソシアネート基との反応の結果、ウレア結合が生成するが、本発明におけるウレタン系樹脂よりなるプライマーコート層には、このようなウレア結合が含まれていてもよい。
【0032】
また、上記活性水素を有する化合物を具体的に例示すれば、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジプロピレングリコール、ジエチレングリコールなどのアルキレングリコール類;ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのポリアルキレングリコール類;ポリ(ジエチレンアジペート)、ポリ(テトラメチレンアジペート)、ポリ(ヘキサメチレンアジペート)、ポリ(ネオペンチレンアジペート)などのポリ(アルキレンアジペート)類;ポリ−ε−カプロラクトン、ポリカプロラクトンジオール、ポリカプロラクトントリールなどのポリカプロラクトン類;ポリ(1,4−ブタンジエン)グリコール、ポリ(1,2−ブタンジエン)グリコールなどのポリブタジエングリコール類;ポリ(ヘキサメチレンカーボネート)などのポリ(アルキレンカーボネート)類;ポリエステルポリオール類;1,2,4−ブタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオールなどの3個以上のヒドロキシ基を含有するポリオール類;シリコーンポリオール等が挙げられるが、その他の公知の活性水素含有化合物の使用も可能である。これらの中でも、ポリアルキレングリコール類、3個以上のヒドロキシ基を含有するポリオール類、ポリアルキレンアジペート類、ポリアルキレンカーボネート類、ポリカプロラクトン類、ポリエステルポリオール類を用いた場合には、硬化させる際の加熱温度をより低くすることができ、基材の熱変形や変色をより確実に防止することができる。
【0033】
なお、上記した活性水素を有する化合物は、単独で用いても、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。特に、イソシアネート基含有化合物、又はこのような化合物の前駆体としてトリレンジイソシアネート、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネートのような芳香族イソシアネート化合物を用いる場合には、得られるポリイソシアネート化合物(オリゴマーを含む)の結晶性が高くなる場合もあり、2種類以上の活性水素を有する化合物を用いることが好ましい。
【0034】
また、硬化速度が速いという観点から、上記湿気硬化型ウレタン系プライマー組成物に含まれるイソシアネート基含有化合物、又はこのような化合物の前駆体の分子量は、比較的高いほうが好ましい。分子量を高くする手法としては、前述のイソシアネート化合物と活性水素を有する化合物とをイソシアネート基が残るような仕込み比で結合させる際に、イソシアネート基の残る量を少なくするように調整する方法がある。あるいは、イソシアネート基含有化合物、又はこのような化合物の前駆体の分子中に複数存在するイソシアネート基を鎖延長剤などにより結合する方法もある。ここで、鎖延長剤としては、先述したような活性水素を有する化合物やエチレンジアミン等のジアミン化合物が挙げられるが、これらの中でも、鎖延長反応の制御のし易さという観点から、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、プロピレングリコール、1,6−ヘキサンジオール等のアルキレングリコール類や、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類が好適に用いられる。
【0035】
本発明において、湿気硬化型ウレタン系プライマー組成物を使用する場合、該プライマー組成物は、上記イソシアネート基含有化合物、又はこのような化合物の前駆体の他、沸点(常圧)が70℃以上で且つ溶解度パラメーターが8以上である溶媒を含むことが好ましい。
【0036】
沸点が70℃以上で且つ溶解度パラメーターが8以上である溶媒は、希釈溶媒として使用するものであり、具体的に例示すると、酢酸ブチル、アセチルアセトン、メチルイソブチルケトン、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、キシレン、メチルエチルケトン、アセト酢酸メチル、トルエン、酢酸エチル等を挙げることができる。本発明の製造方法においてはこれらから選ばれる少なくとも1種の溶媒を使用するのが好適である。
【0037】
これら溶媒中のイソシアネート基含有化合物、又はこのような化合物の前駆体の含有量としては、イソシアネート基含有化合物、又はこのような化合物の前駆体、及び上記希釈溶媒の合計質量を基準として5〜80質量%が好ましく、密着性を確保しながら、炭酸ガスの痕跡を低減するには、10〜50質量%の範囲がさらに好ましい。
【0038】
さらに、湿気硬化型ウレタン系プライマー組成物を使用する場合、該プライマー組成物は塗膜の平滑性を向上させるという理由から、レベリング剤を含有することが好ましい。レベリング剤としては、公知のものが何ら制限なく使用できるが、好適なものを例示すれば、シリコーン系、フッ素系、アクリル系、ビニル系等を挙げることができる。該レベリング剤の使用量は、イソシアネート基含有化合物、又はこのような化合物の前駆体合計質量(樹脂成分の質量)を基準として、0.05〜15質量%、特に0.1〜10質量%であるのが好適である。
【0039】
さらに、上記湿気硬化型ウレタン系プライマー組成物は、微粒子状無機物を含むこともできる(当然のことながら、微粒子状無機物を含まないものであってもよい。)。ここで、微粒子状無機物とは、平均粒子形が約1〜300nmのものが好ましく、さらに好ましくは約1〜200nmのものが用いられる。このような微粒子状無機物を含むことにより、表面硬度を向上することができる。微粒子状無機物の具体例としては、二酸化ケイ素などの酸化ケイ素化合物、三酸化アルミニウムなどのアルミニウム化合物、二酸化チタンなどの酸化チタン化合物、二酸化ジルコニウムなどの酸化ジルコニウム化合物、二酸化スズなどの酸化スズ化合物、三酸化アンチモン、五酸化アンチモンなどの酸化アンチモン化合物等が挙げられる。
【0040】
該微粒子状無機物の含有量は、特に限定されないが、イソシアネート基含有化合物、又はこのような化合物の前駆体合計質量(樹脂成分の質量)を基準として、30質量%以下、特に10質量%以下であるのが好適である。
【0041】
さらに、湿気硬化型ウレタン系プライマー組成物を使用する場合、該プライマー組成物は、プライマーコート層を形成(積層)するに際して、硬化促進、低温硬化等を可能とする目的で各種の硬化剤が含まれていても何ら問題はない。好適に使用される硬化剤としては、各種エポキシ樹脂硬化剤、あるいは、各種有機ケイ素樹脂硬化剤等が知られている。これらの硬化剤の具体例としては、各種の有機酸及びそれらの酸無水物、三級アミン化合物などの窒素含有有機化合物、有機錫化合物、有機亜鉛化合物などの各種金属錯化合物あるいは金属アルコキシド、さらにアルカリ金属の有機カルボン酸塩、炭酸塩等の各種塩が挙げられる。その際の添加量としては、イソシアネート基含有化合物、又はこのような化合物の前駆体合計質量(樹脂成分の質量)を基準として、0.1〜5質量%、特に0.5〜2質量%であるのが好適である。
【0042】
(プライマーコート層の形成方法)
中心部の厚みが薄いレンズの凸面の表面に、ウレタン系樹脂よりなるプライマーコート層を形成する方法は、特に制限されるものではなく、公知の方法を採用することができる。具体的には、上記のような湿気硬化型ウレタン系プライマー組成物を該凸面の表面に塗布した後、該プライマー組成物を硬化させることによりプライマーコート層を積層することができる。
【0043】
なお、本発明において、プライマーコート層を積層する場合には、密着性を向上させる目的で、プライマー組成物を塗布する前に、中心部の厚みが薄いレンズを前処理することが好ましい。前処理としては、有機溶剤による脱脂処理、塩基性水溶液又は酸性水溶液による化学的処理、研磨剤を用いた研磨処理、大気圧プラズマ或いは低圧プラズマ等を用いたプラズマ処理、コロナ放電処理、火炎処理またはUVオゾン処理等を挙げることができる。中でも、プラスチックレンズとプライマーコート層の密着性の観点から、有機溶剤による脱脂処理、アルカリ処理、プラズマ処理、又はコロナ放電処理、或いはこれらを組合わせた処理を行なうのが好適である。
【0044】
本発明において、プライマー組成物を中心部の厚みが薄いレンズの凸面の表面に塗布する方法は、特に限定されず、ディッピング、スピンコーティング、ディップスピンコーティングなどの方法が挙げられる。中でも、上記のような湿気硬化型ウレタン系プライマー組成物を使用する場合には、該プライマー組成物を、水分を含む大気と接触するような状態(該プライマーの硬化が始まってしまうような状態)で保存することを避けることができるという理由から、スピンコートによる塗布法を採用するのが好ましい。即ち、該プライマー組成物を密封できる容器に入れておき、必要時に必要量を取り出して、プラスチックレンズの表面に塗布すれば上記のような硬化をさけることが可能であるが、それにはスピンコートによる塗布方法が最も適している。この際、塗膜の膜厚を薄膜化することにより、生成する炭酸ガスを速やかに系外に放出することができるため、塗膜上に光学的に問題となる炭酸ガスの抜けた跡を低減することが可能となる。塗膜の膜厚は、具体的には、形成されるプライマーコート層の膜厚が好ましくは0.1〜10μm、さらに好ましくは1〜10μm、特に好ましくは4〜8μmとなるように調整することが好ましい。こうすることにより、炭酸ガスの抜けた跡を低減することができるだけでなく、光硬化性コーティング剤よりなるコート層の密着性を向上することができ、さらに光学特性も改善することができる。
【0045】
本発明において、中心部の厚みが薄いレンズの凸面の表面に、ウレタン系樹脂よりなるプライマーコート層を積層するには、例えば、上記のようにして湿気硬化型ウレタン系プライマー組成物を塗布した後に、前記希釈溶媒を除去し、該プライマー組成物を硬化すればよい。上記したような厚さで塗布された該プライマー組成物は、大気中の水分との接触によって速やかに硬化が可能な状態(即ち、脱炭酸前の状態)となっていると考えられるため、塗布終了後、直ちに、中心部の厚みが薄いレンズが熱変形しない範囲で加熱して溶媒を除去するとともに、脱炭酸反応および尿素結合形成を行うことにより、硬化させることができる。このときの加熱温度は特に限定されないが、湿気硬化型ウレタン系プライマー組成物を使用した場合、加熱による中心部の厚みが薄いレンズの変形や変色を防止するという観点から、湿度10%〜80%、温度20〜80℃であるのが好適である。湿気硬化型ウレタン系プライマー組成物を使用することにより、このような比較的低温でも十分に硬化させることができる。また、硬化時間は特に限定されないが、通常、10分〜3時間の範囲である。
【0046】
このような方法により形成されたプライマーコート層の膜厚は、特に制限されるものではないが、光硬化性コーティング剤よりなるコート層との密着性、特に、フォトクロミック化合物を含む光硬化性コーティング剤よりなるコート層との密着性を考慮すると、好ましくは0.1〜10μm、さらに好ましくは1〜10μm、特に好ましくは4〜8μmである。このような膜厚のプライマーコート層を形成するには、上記湿気硬化型ウレタン系プライマー組成物を使用することが好ましい。本発明の方法は、このような厚みのプライマーコート層を表面に有する中心部の厚みが薄いレンズを使用した場合に、特に、好適に採用することができる。
【0047】
(光硬化性コーティング剤)
本発明においては、上記方法により得られたプライマーコート層を有するプラスチックレンズの該プライマーコート層上に、光硬化性コーティング剤よりなるコート層を形成する。この光硬化性コーティング剤は、光照射により硬化(重合)する重合性基を有するラジカル重合性単量体(モノマー)を含むものである。
【0048】
本発明において、光硬化性コーティング剤は、表面硬度の向上、フォトクロミック性の付与、耐衝撃性の向上、ハードコート層または反射防止層などとの密着性の向上などの目的に応じて、組成を決定することができる。例えば、表面硬度の向上を目的とする場合、3個以上のラジカル重合性基を有するモノマー、または有機−無機ハイブリッドモノマーなどを含む組成とすることが好ましい。また、フォトクロミック性の付与を目的とする場合は、高硬度モノマー(主に3個以上のラジカル重合性基を有するモノマー)と低硬度モノマー(主に2個のラジカル重合性基を有するモノマーで、重合基間の構造が長鎖の炭化水素鎖、ポリエチレンオキサイド鎖などのモノマー)などを組み合わせた組成とすることが好ましい。この場合、ラジカル重合性単量体を配合することが、硬化後の耐溶剤性や硬度、耐熱性等の硬化体特性の点から好ましい。
【0049】
このような光硬化性コーティング剤は、上記特許文献1に記載にもの、即ち、特開2004−12857号公報に記載のものを使用することができる。ただし、特開2004−12857号に記載されているアミン化合物については、光硬化性コーティング剤中に含まれていてもよいが、上記の通り、プライマーコート層上に該光硬化性コーティング剤を被覆するため、特に含有されていなくともよい。
【0050】
具体的には、光硬化性コーティング剤に含まれる重合モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、ビニル基、アリル基、スチリル基等のラジカル重合性基を有すラジカル重合性単量体を用いることができる。これらの中でも、入手のし易さ、硬化性の良さから(メタ)アクリロイル基又は(メタ)アクリロイルオキシ基を有するラジカル重合性単量体が好ましい。
【0051】
このようなラジカル重合性単量体を具体的に例示すると、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタントリメタクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、テトラメチロールメタンテトラメタアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、トリメチロールプロパントリエチレングリコールトリメタクリレート、トリメチロールプロパントリエチレングリコールトリアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ウレタンオリゴマーテトラアクリレート、ウレタンオリゴマーヘキサメタクリレート、ウレタンオリゴマーヘキサアクリレート、ポリエステルオリゴマーヘキサアクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、分子量2500〜3500の4官能ポリエステルオリゴマー(ダイセルユーシービー社、EB80等)、分子量6000〜8000の4官能ポリエステルオリゴマー(ダイセルユーシービー社、EB450等)、分子量45000〜55000の6官能ポリエステルオリゴマー(ダイセルユーシービー社、EB1830等)、分子量10000の4官能ポリエステルオリゴマー(第一工業製薬社、GX8488B等)、ビスフェノールAジメタクリレート、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−メタクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブチレングリコールジメタクリレート、1,9−ノニレングリコールジメタクリレート、ネオペンチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、トリプロピレングリコールジメタクリレート、テトラプロピレングリコールジメタクリレート、ビスフェノールAジグリシジルメタクリレート、エチレングリコールビスグリシジルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、トリアルキレングリコールジアクリレート、テトラアルキレングリコールジアクリレート、ノニルアルキレングリコールジアクリレート、ノニルアルキレングリコールジメタクリレート等のアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート類、平均分子量776(分子量640〜910の範囲が主成分)の2,2−ビス(4−アクリロイルオキシポリエチレングリコールフェニル)プロパン、平均分子量526(分子量435〜615の範囲が主成分)のポリエチレングリコールメタアクリレート、平均分子量360(分子量260〜440の範囲が主成分)のポリエチレングリコールメタアクリレート、平均分子量475(分子量400〜585の範囲が主成分)のメチルエーテルポリエチレングリコールメタアクリレート、平均分子量1000(分子量890〜1160の範囲が主成分)のメチルエーテルポリエチレングリコールメタアクリレート、平均分子量375(分子量280〜470の範囲が主成分)のポリプロピレングリコールメタアクリレート、平均分子量430(分子量340〜525の範囲が主成分)のポリプロピレングリコールメタアクリレート、平均分子量622(分子量520〜600の範囲が主成分)のポリプロピレングリコールメタアクリレート、平均分子量620(分子量490〜760の範囲が主成分)のメチルエーテルポリプロピレングリコールメタアクリレート、平均分子量566(分子量500〜680の範囲が主成分)のポリテトラメチレングリコールメタアクリレート、平均分子量2034(分子量1850〜2210の範囲が主成分)のオクチルフェニルエーテルポリエチレングリコールメタクリレート、平均分子量610(分子量470〜745の範囲が主成分)のノニルエーテルポリエチレングリコールメタクリレート、平均分子量640(分子量550〜730の範囲が主成分)のメチルエーテルポリエチレンチオグリコールメタクリレート等のポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、ステアリルメタクリレート、ラウリルメタアクリレート、エチルヘキシルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、ラウリルアクリレート、パーフルオロヘプチルエチレングリコールメタクリレート、平均分子量650(分子量560〜740の範囲が主成分)のポリテトラメチレングリコールジメタアクリレート、平均分子量1400(分子量1240〜1520の範囲が主成分)のポリテトラメチレングリコールジメタアクリレート、ビス(2−メタクリロイルオキシエチルチオエチル)スルフィド等の2官能(メタ)アクリレート;ジアリルフタレート、ジアリルイソフタレート、酒石酸ジアリル、エポキシこはく酸ジアリル、ジアリルフマレート、クロレンド酸ジアリル、ヘキサフタル酸ジアリル、アリルジグリコールカーボネート等の多価アリル化合物;1,2−ビス(メタクリロイルチオ)エタン、ビス(2−アクリロイルチオエチル)エーテル、1,4−ビス(メタクリロイルチオメチル)ベンゼン等の多価チオアクリル酸及び多価チオメタクリル酸エステル化合物;アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸等の不飽和カルボン酸;メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸フェニル、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、メタクリル酸ビフェニル等のアクリル酸及びメタクリル酸エステル化合物;フマル酸ジエチル、フマル酸ジフェニル等のフマル酸エステル化合物;メチルチオアクリレート、ベンジルチオアクリレート、ベンジルチオメタクリレート等のチオアクリル酸及びチオメタクリル酸エステル化合物;スチレン、クロロスチレン、メチルスチレン、ビニルナフタレン、α−メチルスチレンダイマー、ブロモスチレン、ジビニルベンゼン、ビニルピロリドン等のビニル化合物;オレイルメタクリレート、ネロールメタクリレート、ゲラニオールメタクリレート、リナロールメタクリレート、ファルネソールメタクリレート等の分子中に不飽和結合を有する炭化水素鎖の炭素数が6〜25の(メタ)アクリレートなどを挙げることができる。
【0052】
上記ラジカル重合性単量体は、光硬化性コーティング剤の硬化後の耐溶剤性や硬度、耐熱性等の硬化体特性等を考慮して、2種類以上を適宜混合して用いることもできる。
【0053】
また、本発明において使用される光硬化性コーティング剤には、上記ラジカル重合性単量体とは別に、分子中に少なくとも一つのエポキシ基と少なくとも一つのラジカル重合性基を有するラジカル重合性単量体(以下、単にエポキシ系モノマーと称す場合がある)が配合されていることが好ましい。このようなエポキシ系モノマーを使用することにより、コーティング層とプラスチックレンズとの密着性を向上させることができる。
【0054】
上記のエポキシ系モノマーは、分子中に少なくとも一つのエポキシ基と少なくとも一つのラジカル重合性基を有する化合物であれば、公知の化合物をなんら制限なく使用できる。中でもラジカル重合性基として(メタ)アクリロイルオキシ基を有す化合物が好ましい。
【0055】
上記のエポキシ系モノマーを具体的に例示すると、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、β−メチルグリシジルメタクリレート、ビスフェノールA−モノグリシジルエーテル−メタクリレート、4−グリシジルオキシメタクリレート、3−(グリシジル−2−オキシエトキシ)−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−(グリシジルオキシ−1−イソプロピルオキシ)−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、3−グリシジルオキシ−2−ヒドロキシプロピルオキシ)−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、平均分子量540(分子量390〜660の範囲が主成分)のグリシジルオキシポリエチレングリコールメタアクリレート等が挙げられる。これらの中でもグリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレートおよび平均分子量540(分子量390〜660の範囲が主成分)のグリシジルオキシポリエチレングリコールメタアクリレートが特に好ましい。
【0056】
これらエポキシ系モノマーの配合割合は、全ラジカル重合性単量体中、0.01〜30質量%、特に0.1〜20質量%であるのが好適である。
【0057】
さらに、本発明において使用される光硬化性コーティング剤には、上記ラジカル重合性単量体とは別に、シラノール基または加水分解によりシラノール基を生じる基を有するラジカル重合性単量体(以下、シリルモノマーと称す場合がある)、あるいはイソシアネート基を有するラジカル重合性単量体(以下、イソシアネートモノマーと称す場合がある)のいずれかが配合されていることが好ましい。
【0058】
シリルモノマーとしては、シラノール基(≡Si−OH)又は加水分解によりシラノール基を生成する基と、ラジカル重合性基を有する化合物であれば、公知の化合物をなんら制限することなく使用できる。上記の加水分解によりシラノール基を生成する基を具体的に例示すると、アルコキシシリル基(≡Si−O−R;Rはアルキル基)、アリールオキシシリル基(≡Si−O−Ar;Arは置換されていても良いアリール基)、ハロゲン化シリル基(≡Si−X;Xはハロゲン原子)、シリルオキシシリル基(ジシロキサン結合;≡Si−O−Si≡)等が挙げられる。
【0059】
シラノール基の生成のしやすさ、合成や保存の容易さ、反応によりケイ素原子から脱離した基が硬化体の物性に与える影響の少なさ等から、これら加水分解によりシラノール基を生成する基のなかでもアルコキシシリル基又はシリルオキシシリル基が好ましく、炭素数1〜4のアルコキシル基を含むアルコキシシリル基がより好ましく、メトキシシリル基またはエトキシシリル基が最も好ましい。
【0060】
ラジカル重合性基としては、(メタ)アクリロイル基及び(メタ)アクリロイルオキシ基、(メタ)アクリロイルアミノ基、(メタ)アクリロイルチオ基等の(メタ)アクリロイル基の誘導体基、ビニル基、アリル基、スチリル基等の公知のラジカル重合性基がなんら制限なく例示される。これらラジカル重合性基のなかでも、入手の容易さや重合性の良さから(メタ)アクリロイル基又は(メタ)アクリロイルオキシ基であることが好ましく、(メタ)アクリロイルオキシ基であることがより好ましい。
【0061】
上記のシリルモノマーを具体的に例示すると、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、(3−アクリロキシプロピル)ジメチルメトキシシラン、(3−アクリロキシプロピル)メチルジメトキシシラン、(3−アクリロキシプロピル)トリメトキシシラン、3−(N−アリルアミノ)プロピルトリメトキシシラン、アリルジメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、3−アミノフェノキシジメチルビニルシラン、4−アミノフェノキシジメチルビニルシラン、3−(3−アミノプロポキシ)−3,3−ジメチル−1−プロペニルトリメトキシシラン、ブテニルトリエトキシシラン、2−(クロロメチル)アリルトリメトキシシラン、ジエトキシビニルシラン、1,3−ジビニルテトラエトキシジシロキサン、ドコセニルトリエトキシシラン、O−(メタクリロキシエチル)−N−(トリエトキシシリルプロピル)ウレタン、N−(3−メタクリロキシ−2−ヒドロキシプロピル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、メタクリロキシエトキシトリメチルシラン、(メタクリロキシメチル)ジメチルエトキシシラン、メタクリロキシメチルトリエトキシシラン、メタクリロキシメチルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルジメチルエトキシシラン、メタクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリス(メトキシエトキシ)シラン、7−オクテニルトリメトキシシラン、1,3―ビス(メタクリロキシ)−2−トリメチルシロキシプロパン、テトラキス(2−メタクリロキシエトキシ)シラン、トリビニルエトキシシラン、トリビニルメトキシシラン、ビニルジメチルエトキシシラン、ビニルジフェニルエトキシシラン、ビニルメチルジアセトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、O−(ビニロキシエチル)−N−(トリエトキシシリルプロピル)ウレタン、ビニロキシトリメチルシラン、ビニルフェニルジエトキシシラン、ビニルフェニルメチルメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリ−t−ブトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリイソプロペノキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリメトキシシランビニルトリフェノキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン等を挙げることができる。これらの中でも、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、(3−アクリロキシプロピル)ジメチルメトキシシラン、(3−アクリロキシプロピル)メチルジメトキシシラン、(3−アクリロキシプロピル)トリメトキシシラン、(メタクリロキシメチル)ジメチルエトキシシラン、メタクリロキシメチルトリエトキシシラン、メタクリロキシメチルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルジメチルエトキシシラン、メタクリロキシプロピルジメチルメトキシシランが特に好適に使用できる。 また上記シリルモノマーに替えて、イソシアネートモノマーを配合しても、プラスチックレンズとの密着性をより高くすることが可能である。イソシアネートモノマーとしては、イソシアネート基(−NCO)と前記したラジカル重合性基を有する化合物であれば公知のものがなんら制限なく使用できる。
【0062】
好適に使用できるイソシアネートモノマーを具体的に例示すると、2−イソシアナトエトキシメタアクリレート、4−(2−イソシアナトイソプロピル)スチレンが挙げられる。
【0063】
上記シリルモノマー又はイソシアネートモノマーの配合量は特に制限されるものではないが、プラスチックレンズや更にはハードコート層との密着性を特に良好なものとするために、該シリルモノマー又はイソシアネートモノマーの配合量は、本発明において使用される光硬化性コーティング剤に配合される全ラジカル重合性単量体中、0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましい。また、さらにハードコート層を設けた場合、耐擦傷性を良好なものとするためには、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。より好ましい配合量は全ラジカル重合性単量体に対して0.5〜20質量%であり、最も好ましくは1〜10質量%である。
【0064】
また、これらシリルモノマー又はイソシアネートモノマーは単独あるいは数種混合して使用することができ、シリルモノマーとイソシアネートモノマーとを混合して使用することも可能である。
【0065】
本発明において、上記光硬化性コーティング剤には、該光硬化性コーティング剤を光で硬化させるために、光重合開始剤が配合される。
【0066】
光重合性開始剤を具体的に例示すれば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインブチルエーテル、ベンゾフェノール、アセトフェノン、4,4’−ジクロロベンゾフェノン、ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、ベンジルメチルケタール、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−イソプロピルチオキサントン、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル−2,4,4−トリメチル−ペンチルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6―トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニル−フォスフィンオキサイド、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノン−1等を挙げることができる。
【0067】
これら光重合開始剤は、全ラジカル重合性単量体100質量部に対して0.001〜5質量部の範囲で用いるのが一般的である。
【0068】
また、本発明における製造方法において、光重合に熱重合を併用する場合には、光重合開始剤の他に熱重合開始剤を添加することも可能である。
【0069】
熱重合開始剤としては、特に限定されず、公知のものが使用できるが、代表的なものを例示すると、ベンゾイルパーオキサイド、p−クロロベンゾイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド;t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシジカーボネート、クミルパーオキシネオデカネート、t−ブチルパーオキシベンゾエート等のパーオキシエステル;ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジ−sec−ブチルオキシカーボネート等のパーカーボネート類;2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カーボニトリル)等のアゾ化合物等が挙げられる。
【0070】
これら熱重合開始剤の使用量は、重合条件や開始剤の種類、ラジカル重合性単量体の種類や組成によって異なり、一概に限定できないが、一般には、全ラジカル重合性単量体100質量部に対して0.01〜10質量部の範囲で用いるのが好適である。上記の熱重合開始剤は単独で用いても良いし、複数を混合して用いても良い。
【0071】
(フォトクロミック化合物、及びその他の成分)
本発明において、光硬化性コーティング剤は、フォトクロミック化合物を含むことができる。
【0072】
上記フォトクロミック化合物は、公知のフォトクロミック化合物を何ら制限なく使用することができる。例えば、フルギミド化合物、スピロオキサジン化合物、クロメン化合物等のフォトクロミック化合物がよく知られており、本発明においては、これらのフォトクロミック化合物を制限なく使用することができ、例えば前記国際公開第03/011967号に開示されているフォトクロミックコーティング剤で好適に使用できるとされているフォトクロミック化合物と同じものが好適に使用できる。
【0073】
本発明で好適に使用できるフォトクロミック化合物を具体的に例示すれば、次のような化合物を挙げることができる。
【0074】
【化1】

【0075】
【化2】

【0076】
【化3】

【0077】
【化4】

【0078】
【化5】

【0079】
【化6】

【0080】
【化7】

【0081】
上記フォトクロミック化合物は好ましい発色色調を得るために異なる種類のフォトクロミック化合物を適宜混合して使用するのが好適である。
【0082】
本発明で使用する光硬化性コーティング剤において、フォトクロミック化合物が配合される場合、フォトクロミック化合物の配合量は、該光硬化性コーティング剤中の全ラジカル重合性単量体100質量部に対して、0.01〜20質量部、好ましくは0.05〜15質量部、さらに好ましくは0.1〜10質量部である。フォトクロミック化合物の配合量が0.01質量部以下では発色濃度が低くなることがあり、一方、20質量部以上では重合性単量体に十分に溶解しないため不均一となり、発色濃度のむらが生じることがある。
【0083】
フォトクロミック化合物の配合量を上記範囲とすることにより十分な発色濃度を得つつ、かつフォトクロミック化合物をラジカル重合性単量体に均一に溶解させることが容易となり、よって発色濃度も十分かつ均一なものとすることが容易となる。
【0084】
本発明で使用される光硬化性コーティング剤には、コート層の黄変防止や成形性の向上、さらにはフォトクロミック化合物を添加時のフォトクロミック化合物の耐久性の向上、発色速度の向上、退色速度の向上等のために、界面活性剤、酸化防止剤、ラジカル補足剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤、離型剤、着色防止剤、帯電防止剤、蛍光染料、染料、顔料、香料、可塑剤等の添加剤を添加してもよい。
【0085】
例えば、界面活性剤としては、ノニオン系、アニオン系、カチオン系の何れも使用できるが、ラジカル重合性単量体への溶解性からノニオン系界面活性剤を用いるのが好ましい。好適に使用できるノニオン系界面活性剤を具体的に挙げると、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、デカグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール・ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンフィトステロール・フィトスタノール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンヒマシ油・硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンラノリン・ラノリンアルコール・ミツロウ誘導体、ポリオキシエチレンアルキルアミン・脂肪酸アミド、ポリオキシエチレンアルキルフェニルホルムアルデヒド縮合物、単一鎖ポリオキシエチレンアルキルエーテル等を挙げることができる。界面活性剤の使用に当たっては、2種以上を混合して使用しても良い。界面活性剤の添加量は、全ラジカル重合性単量体100質量部に対し、0.1〜20質量部の範囲が好ましい。
【0086】
また、酸化防止剤、ラジカル補足剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤としては、ヒンダードアミン光安定剤、ヒンダードフェーノール酸化防止剤、フェノール系ラジカル補足剤、イオウ系酸化防止剤、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物等を好適に使用できる。これら酸化防止剤、ラジカル補足剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤は、2種以上を混合して使用しても良い。さらにこれらの非重合性化合物の使用に当たっては、界面活性剤と酸化防止剤、ラジカル補足剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤を併用して使用しても良い。これら酸化防止剤、ラジカル補足剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤の添加量は、全重合性単量体100質量部に対しそれぞれ0.001〜20質量部の範囲が好ましい。
【0087】
(光硬化性コーティング剤の粘度)
本発明において、上記成分を含む光硬化性コーティング剤は、目的とする用途に応じて組成を決定すればよいが、フォトクロミック化合物を含む場合には、該光硬化性コーティング剤の粘度が、好ましくは25〜1000センチポアズ(25℃における粘度)、より好ましくは100〜500センチポアズ、さらに好ましくは110〜400センチポアズ、特に好ましくは120〜300センチポアズである。光硬化性コーティング剤がフォトクロミック化合物を含む場合、特に、上記粘度範囲を満足することにより、比較的コート層の厚みを厚くすることができるため、良好なフォトクロミック特性を発揮するプラスチックレンズとすることができる。
【0088】
(光硬化性コーティング剤を被覆する方法)
本発明においては、上記プライマーコート層を有するプラスチックレンズの該プライマーコート層上に、上記光硬化性コーティング剤を被覆する。該被覆方法は特に限定されず公知の被覆(コーティング)方法がなんら制限なく適用できる。具体的には、コーティング剤をスピンコーティング、スプレーコーティング、ディップコーティング、ディップ−スピンコーティング等の方法で塗布する方法が例示される。以下、このレンズを単に「光硬化性コーティング剤を被覆したプラスチックレンズ」とする場合もある。
【0089】
なお、下記に詳述するが、最終的に得られるコート層を有するプラスチックレンズにおいて、該光硬化性コーティング剤よりなるコート層の厚みは、特にフォトクロミック化合物を含む光硬化性コーティング剤を使用した場合、優れたフォトクロミック特性を発揮するためには、好ましくは10〜100μm、より好ましくは20〜50μmである。そのため、該光硬化性コーティング剤は、上記範囲を満足するようにプライマーコート層上に被覆することが好ましい。本発明の方法は、プライマーコート層を有するプラスチックレンズの該プライマーコート層上に、このような比較的厚みの厚いコート層を形成する場合に、特に、好適に採用される。
【0090】
(光照射を行い、コート層を有するレンズを製造する方法)
次いで、本発明においては、上記方法により得られた光硬化性コーティング剤を被覆したプラスチックレンズを、凸面(光硬化性コーティング剤を被覆した面)が上面となるように保持して光照射を行い、コート層を有するプラスチックレンズを製造する。
【0091】
本発明の最大の特徴は、この光照射を行う条件にある。即ち、本発明においては、最初に光照射を行う直前のプラスチックレンズ(光硬化性コーティング剤を被覆したプラスチックレンズ)の表面温度を30℃以下とし、光照射時のプラスチックレンズの表面温度を70℃以下とすることを特徴とする。
【0092】
従来の方法においても、中心部の厚みが薄いレンズに光硬化性コーティング剤を被覆した後、プラスチックレンズの表面温度が100℃以下となるように光照射を行うことは知られていたが、ウレタン系樹脂よりなるプライマーコート層を積層したプラスチックレンズにおいて、さらに、該プライマーコート層上に光硬化性コーティング剤よりなるコート層を形成する方法は具体的に示されていなかった。一般的に、光硬化性コーティング剤は、光重合モノマー(光により重合するラジカル重合性単量体)を重合させてコート層を形成するため、温度が高い(プラスチックレンズの表面温度が高い)方が、該モノマーの重合がより進み、コート層の密着性がより高くなる。特に、重合活性が高い、重合初期の段階(最初に光照射を行う段階(以下、第一照射工程とする場合もある))に、プラスチックレンズの表面温度が比較的高いと、コート層の密着性はより高まるものと考えられる。しかも、プライマーコート層を積層した直後のプラスチックレンズの表面温度が比較的高いものを使用すれば、製造時間を短くすることも可能である。
【0093】
しかしながら、本発明者の検討によれば、ウレタン系樹脂よりなるプライマーコート層を積層した中心部の厚みが薄いレンズにおいて、該プライマーコート層上に光硬化性コーティング剤よりなるコート層を形成する場合には、上記のような推定とは反対に、最初に光照射を行う際のプラスチックレンズ(光硬化性コーティング剤を被覆したプラスチックレンズ)の表面温度は、30℃以下と低い温度としなければならないことが判明した。
【0094】
つまり、本発明においては、光硬化性コーティング剤を被覆したプラスチックレンズにおいて、該光硬化性コーティング剤を硬化させてコート層を形成するに際し、最初に光照射を行う直前のプラスチックレンズの表面温度を30℃以下としなければならない。最初に光照射をする直前のプラスチックレンズの表面温度が30℃を超える場合、最終的に得られるプラスチックレンズにおいて、コート層の密着性が低下したり、外観不良のものが発生するため好ましくない。そのため、光硬化性コーティング剤を被覆したプラスチックレンズの表面温度は30℃以下としなければならず、プライマーコート層を積層した後、十分にプラスチックレンズを冷却したり、夏場などは、30℃を超えないような雰囲気下で処理を行う必要がある。コート層の密着性をより高め、外観不良をより少なくするためには、光硬化性コーティング剤を被覆したプラスチックレンズにおいて、最初に光照射を行う直前のプラスチックレンズの表面温度は、より好ましくは28℃以下、さらに好ましくは25℃以下である。
【0095】
なお、最初に光照射を行う直前のプラスチックレンズの表面温度の下限は、特に制限されるものではないが、装置を簡易的にしたり、制御を容易にするためには、10℃以上、より好ましくは15℃以上、さらに好ましくは20℃以上である。
【0096】
本発明においては、光硬化性コーティング剤を被覆した、表面温度が30℃以下であるプラスチックレンズに、光を照射してコート層を形成する。光照射に使用される光源は、公知のものを何ら制限なく用いることができる。例えば、メタルハライドランプ、超高圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、中圧水銀ランプ、殺菌ランプ、キセノンランプ、カーボンアーク、タングステンランプ等の有電極ランプ、または無電極ランプ等を用いることができる。光照射強度は、特に制限されるものではないが、365nmの波長で20mw/cm〜300mw/cmの範囲であることが好ましい。また、光照射時の雰囲気は、光硬化性コーティング剤の重合(硬化)を阻害することなく、該光硬化性コーティング剤を十分に硬化させるため、できるだけ酸素が低濃度の状況下で光照射を行うことが好ましい。酸素濃度の好適な範囲を示せば、好ましくは10000ppm以下であり、より好ましくは1000ppm以下である。また、光照射時間は、光照射強度、使用する光硬化性コーティング剤等に応じて適宜決定してやればよいが、5秒から60分間の範囲で十分である。
【0097】
本発明においては、最初に光照射を行う際、直前の上記レンズの表面温度を30℃以下とし、さらに、光照射時のプラスチックレンズの表面温度を70℃以下、より好ましくは65℃以下、さらに好ましくは60℃以下としなければならない。この2つの条件を満足しなければ、中心部の厚みが薄いレンズの凸面の表面にプライマーコート層が積層されたレンズ(プライマーコート層を有するプラスチックレンズ)において、さらに光硬化性コーティング剤よりなるコート層を形成した場合、高品質なプラスチックレンズを歩留まりよく製造することができない。光照射時のプラスチックレンズの表面温度が70℃を超える場合には、コート層の密着性が低下したり、外観不良が生じ製品の歩留まりが低下するため好ましくない。
【0098】
なお、光照射時、光硬化性コーティング剤が被覆されたレンズの表面温度の下限は、特に制限されるものではなく、冷却等の操作を容易にするためには、光照射直前のプラスチックレンズの表面温度以上とすることが好ましい。
【0099】
本発明において、プラスチックレンズの表面温度の調整が必要な理由は明らかではないが、本発明者は、上記理由はウレタン系樹脂よりなるプライマーコート層が積層された中心部の厚みが薄いレンズ(プライマーコート層を有するプラスチックレンズ)を使用することに起因していると推定している。つまり、ウレタン系樹脂よりなるプライマーコート層上において、光照射により光硬化性コーティング剤が十分に硬化する前に、プラスチックレンズの表面温度が高い場合には、プライマーコート層へ光硬化性コーティング剤が溶解し、プライマーコート層と光硬化性コーティング剤とが混合した層ができるものと考えられる。この層が増加すると、プライマーコート層がすべて光硬化性コーティング剤に溶解した部分が生じるのではないかと考えられる。そして、プライマーコート層と光硬化性コーティング剤が混合した層の増加が、光硬化性コーティング剤の硬化(重合)に悪影響を与え、これが原因で最終的に得られるプラスチックレンズにおいて、外観不良が発生するのではないかと考えられる。プライマーコート層がすべて光硬化性コーティング剤に溶解した部分は、プライマーコート層が残存している部分とはコート層の密着性が異なるため、密着性についても悪影響を与えるものと考えられる。
【0100】
次に、上記条件を満足する光照射の方法について説明する。
【0101】
(プラスチックレンズ表面の温度調整方法)
本発明において、光硬化性コーティング剤を被覆したプラスチックレンズの表面温度は、光照射する前のものは、光硬化性コーティング剤を被覆した後、該レンズ表面の温度が30℃以下となるように、30℃以下の室で放置しておくこともできるし、窒素等のガスを噴きつけ、強制的にレンズの表面温度を30℃以下とすることもできる。
【0102】
また、光照射時に、光硬化性コーティング剤が被覆されたプラスチックレンズの表面温度を70℃以下とする方法は、特に制限されるものではなく、光照射を断続的行う方法、光照射の強度を徐々に低下させる方法、強度の低い光を照射する方法、光照射時に強制的に外部から冷却する方法等が挙げられ、これら方法を組み合わせた方法を採用することもできる。
【0103】
強制的に外部から冷却する方法を具体的に示せば、以下の1)〜2)の方法を採用することができる。下記1)〜2)の方法は2種類の方法を同時に採用することもできる。
【0104】
1)プラスチックレンズを直接冷却する方法
プラスチックレンズ表面に照射される光を遮らずにプラスチックレンズを冷却するために、該プラスチックレンズの裏面、さらには側面に、冷水等の媒体を循環させたチューブなどを接触させて、該プラスチックレンズを冷却する方法が挙げられる。
【0105】
2)光重合装置中の雰囲気を冷却する方法
光照射を行う装置内に冷却したガスを導入する方法、または該装置を水冷などによって冷却することで、該装置内のガスを冷却する方法などが挙げられる。この冷却方法においては、公知のガスを何ら制限なく用いることができるが、酸素を含まない窒素、アルゴン、ヘリウムなどが挙げられるが、製造コストの観点から窒素が最も好ましい。また、この場合、ガスを直接レンズに吹き付けるようにすれば、さらにレンズの冷却を促進することが出来る。
【0106】
本発明において、プラスチックレンズの表面温度を70℃以下とする方法は、上記方法の中でも、光照射の制御を容易にし、レンズの生産効率を高めるためには、光照射を断続的に行う方法、及び必要に応じて強制的に冷却する方法とを組み合わせた方法を採用することが好ましい。
【0107】
以下、光照射を断続的に行う方法について説明する。光照射を断続的に行う場合、最初に光照射を行ってから、一旦、光照射を停止するまでの工程を第一光照射工程とし、第一光照射工程で処理したプラスチックレンズに、さらに光照射する工程を第二光照射工程とする。
【0108】
(第一光照射工程)
本発明において、光照射を断続的に行う場合、最初に光照射を行ってから、一旦、光照射を停止するまでの第一光照射工程では、当然ことながら、プラスチックレンズの表面温度が70℃以下とならなければならず、好ましくは65℃以下、さらに好ましくは60℃以下とする。なお、第一光照射工程において、プラスチックレンズの表面温度の下限値は、特に制限されるものではなく、光照射を行う直前のプラスチックレンズの表面温度以上であればよい。
【0109】
上記第一光照射工程において、光照射強度は、使用するプラスチックレンズ、プラマーコート層、及び光硬化性コーティング剤(まとめて使用する材料とする場合もある)等に応じて、適宜決定してやればよいが、低すぎると製造時間が長くなり、高すぎるとプラスチックレンズの表面温度を70℃以下にすることが難しくなる。そのため、好ましくは20mw/cm〜300mw/cmであり、より好ましくは50mw/cm〜300mw/cmである。
【0110】
上記第一光照射工程においては、光硬化性コーティング剤を被覆したプラスチックレンズを回転させながら光を照射することが好ましい。こうすることにより、重合の初期の段階でプラスチックレンズの表面に均一に光が当たり、より外観の優れたプラスチックレンズを得ることができる。この際、プラスチックレンズを回転させる速度は、表面の膜厚の不均一化を防ぐため10rpm〜400rpmの範囲であることが好ましい。このようにレンズを回転させる際には、プラスチックレンズの凸面が上面となるようにして、回転可能な治具によりプラスチックレンズを保持してやればよい。
【0111】
また、光照射時の雰囲気は、上記の通り、光硬化性コーティング剤の重合を阻害することなく、該光硬化性コーティング剤を十分に硬化させるため、酸素濃度が10000ppm以下であり、より好ましくは1000ppm以下であることが好ましい。そのため、光照射時の雰囲気は、酸素を含まないガスで満たしてやることが好ましい。このようなガスとしては、窒素、アルゴン、ヘリウムなどが挙げられるが、製造コストの観点から窒素が最も好ましい。
【0112】
上記第一光照射工程において、光照射強度の調整だけで光硬化性コーティング剤が被覆されたレンズの表面温度が70℃以下とならない場合には、レンズ表面温度を強制的に冷却する方法を併せて採用することが好ましい。強制的に冷却する方法は、上記の 1)プラスチックレンズを直接冷却する方法、又は2)光重合装置中の雰囲気を冷却する方法を採用すればよく、両者の方法を採用することもできる。
【0113】
また、上記第一光照射工程において、光照射を行う時間は、使用する材料、及び光照射強度等に応じて決定してやればよいが、より安定して高品質な製品を製造するためには、以下の条件を満足する時間とすることが好ましい。即ち、光照射強度(F)と光照射時間(t)との積で表される積算光量(F×t)が、全積算光量の10〜40%となる範囲を満足する時間、光を照射することが好ましい。全積算光量とは、当然のことながら、光照射している間の全時間と、その照射した光照射強度との積で求められる。光照射強度を変化させた場合には、変化させる前の光照射強度(F1)とその強度で光照射した時間(t1)との積(F1×t1)、及び、変化させた後の光照射強度(F2)とその強度で光照射した時間(t2)との積(F2×t2)を求め、それらの和(F1×t1+F2×t2)で求めることができる。
【0114】
上記第一光照射工程において、積算光量が全積算光量の10〜40%を満足する照射時間とすることにより、光硬化性コーティング剤がある程度硬化され、次の工程における処理を容易にでき、短時間で製品を得ることができる。さらに、この範囲で硬化させることにより、光硬化性コーティング剤が液としてプラスチックレンズ表面から垂れることがなくなるため、連続してコート層を形成する場合には、次の光照射を、第一光照射工程を行った装置とは異なる装置で行っても、コート層の膜厚等が変化することもなく、外観不良が発生することない。そのため、第一光照射工程で処理されたレンズを一旦、光が当たらない場所で保存することも可能となる。製造時間の短縮と高品質な製品を得るためには、第一光照射工程において、光照射時間は、積算光量が全積算光量の10〜35%であることがより好ましい。具体的な光照射時間としては、光照射強度に応じて決定すればよいが、5秒から10分間であれば十分であり、より具体的には、365nmの光照射強度が125mw/cmの場合では、10秒から30秒の間であれば十分である。
【0115】
次に、第一照射工程後に、さらに、光照射を行う場合(第二照射工程)について説明する。
【0116】
(第二光照射工程)
本発明においては、光照射を断続的に行うことでプラスチックレンズ表面の冷却を容易にすることができる。そのため、上記第一光照射工程で処理されたレンズを、さらに、レンズの表面温度が70℃以下となる範囲で光照射を行い、十分に光硬化性コーティング剤を硬化させる(第二光照射工程)。第一光照射工程で処理されたプラスチックレンズは、上記の通り、光が当たらない場所で保存することも可能であるが、生産性を考慮すると、第一光照射工程を行った後、保存することなく、第二光照射工程を実施することが好ましい。
【0117】
上記第二光照射工程においても、光照射は、当然のことながら、プラスチックレンズの表面温度が70℃以下の温度範囲で実施する。70℃を超える温度となると、第一光照射工程を実施していたとしても、外観不良のものが発生し、歩留まりが低下するため好ましくない。生産性と歩留まり等を考慮すると、好ましくは65℃以下、さらに好ましくは60℃以下である。第二光照射工程において、プラスチックレンズの表面温度の下限値は、特に制限されるものではなく、光照射を行う直前のプラスチックレンズの表面温度以上であればよい。
【0118】
上記第二光照射工程において、プラスチックレンズの表面温度を70℃以下とすることにより、効率よく歩留まりを向上できる理由は明らかではないが、以下の通り、推定される。つまり、第一光照射工程において、ある程度、光硬化性コーティング剤を硬化させておけば、プラスチックレンズの表面温度を70℃以下とすることにより、プライマーコート層、及び光硬化性コーティング剤よりなるコート層の両者に何ら悪影響を与えないため、外観不良が発生することがないものと考えられる。
【0119】
上記第二光照射工程において、プラスチックレンズの表面温度を上記範囲にする方法は、光照射強度を徐々に弱くする方法、光照射を断続的に行う方法、これら方法と必要に応じて強制的に冷却する方法等を組み合わせることもできる。強制的に冷却する方法は、第一光照射工程で説明した方法と同様の方法を採用することができる。
【0120】
なお、第二光照射工程を行う直前のプラスチックレンズの表面温度は、特に制限されるものではないが、制御を容易にするために光照射時の強度を変えない場合、光照射時の冷却をより簡略化するためには、好ましくは10℃〜30℃、より好ましくは15℃〜28℃、特に好ましくは20℃〜25℃とすることが好ましい。プラスチックレンズの表面温度をこの範囲にするためには、第一光照射工程後、レンズを強制的に冷却するか、例えば、室温(23℃)に放置しておけばよい。
【0121】
また、上記第二光照射工程において、光照射強度は、レンズ表面の温度が上記範囲を満足すれば特に制限されるものではないが、365nmの波長で50mw/cm〜250mw/cmであることが好ましく、特に生産性を高めるためには、上記範囲の中で第一照射強度よりも高い光照射強度とすることが好ましい。
【0122】
上記第二照射工程においては、光硬化性コーティング剤を被覆したレンズを回転させながら光を照射することもできるし、回転させずに光を照射することもできる。また、光照射時の雰囲気は、第一光照射工程と同じく、光照射時の雰囲気は、酸素濃度が好ましくは10000ppm以下、より好ましくは1000ppm以下である。
【0123】
また、この第二光照射工程においては、光硬化性コーティング剤が十分に硬化し、コート層を形成するに十分な時間を実施してやればよい。この光照射時間は、光照射強度、第一光照射工程の積算光量等に応じて決定してやればよい。通常、5秒から50分間の範囲であれば十分である。
【0124】
(後処理工程)
本発明おいては、上記のような光照射を行うことにより、生産性よく、外観が良好なコート層を有するレンズを製造することができる。第二光照射工程後のコート層を有するプラスチックレンズにおいても十分、コート層は密着しているが、より品質の安定したプラスチックレンズとするためには、以下の処理を行うことが好ましい。つまり、上記光照射が終了(光照射を断続的に行う場合には第二光照射工程が終了)して得られたコート層を有するプラスチックレンズを、凸面が下面となるように保持し、70℃以上120℃以下の温度でアニール処理することが好ましい。
【0125】
(光硬化性コーティング剤よりなるコート層を有するプラスチックレンズ)
以上の方法により、光硬化性コーティング剤よりなるコート層を有する高品質なプラスチックレンズを製造することができる。特に、フォトクロミック化合物を含む光硬化性コーティング剤を使用する場合、良好なフォトクロミック特性を発揮させるためには、コート層の厚みは厚い方が好ましい。本発明は、このようにコート層の厚みが比較的厚いものを製造する際に、特に好適に採用できる。具体的に、フォトクロミック化合物を含む光硬化性コーティング剤を使用した場合のコート層の厚みは、フォトクロミック化合物の濃度が低くても充分な発色濃度が得られ、またフォトクロミック特性の耐久性を向上させるためには、10μm以上であることが好ましい。一方、コーティング層の厚さが厚すぎると初期の黄色さも増加するため、該コート層の厚さは10〜100μmであるのが好ましく、20〜50μmであるのがより好ましい。本発明は、このような厚いコート層を形成する場合に特に好適に採用することができる。
【実施例】
【0126】
以下、本発明を実施例に基づき説明する。ただし本発明は本実例に限定されるものではない。以下に使用した化合物の略号と名称を示す。
【0127】
(ラジカル重合性単量体)
TMPT:トリメチロールプロパントリメタクリレート。
EB6A:ポリエステルオリゴマーヘキサアクリレート(ダイセル・ユーシービー社:EB1830)。
GMA:グリシジルメタアクリレート。
9GA:平均分子量532のポリエチレングリコールジアクリレート。
BPEオリゴマー:平均分子量776の2,2−ビス(4−アクリロイルオキシポリエチレングリコールフェニル)プロパン。
【0128】
(フォトクロミック化合物)
化合物1
【0129】
【化8】

【0130】
化合物2
【0131】
【化9】

【0132】
化合物3
【0133】
【化10】

【0134】
化合物4
【0135】
【化11】

【0136】
(重合開始剤)
CGI1870:1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンとビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチル−ペンチルフォスフィンオキサイドの3対7の比の混合物。
【0137】
(安定剤)
LS765:ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート。
【0138】
(プライマー組成物)
竹林化学工業株式会社製湿気硬化型プライマー『タケシールPFR402TP−4』及び酢酸エチルをそれぞれ50質量部となるように調合し、更にこの混合液に対して東レ・ダウコーニング株式会社製レベリング剤『FZ−2104』を0.03質量部添加し、窒素雰囲気下で均一になるまで充分に撹拌し、プライマー組成物を得た。
【0139】
(光硬化性コーティング剤)
(光硬化性コーティング剤1)
ラジカル重合性単量体である、上記BPEオリゴマー/9GA/TMPT/EB6A/GMAをそれぞれ40質量部/15質量部/25質量部/10質量部/1質量部の配合割合で配合した。次いでこのようにして得たラジカル重合性単量体の混合物100質量部に対して、上記フォトクロミック化合物として、化合物1を1.7質量部、化合物2を1.1質量部、化合物3を0.2質量部、及び化合物4を0.1質量部加え、十分に混合した後に、重合開始剤であるCGI1870を0.35質量部、安定剤であるLS765を5質量部、シランカップリング剤であるγ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランを7質量部、及び東レ・ダウコーニング株式会社製レベリング剤(シリコーン系界面活性剤)『L−7001』を0.1質量部添加し、十分に混合することにより調製した。この光硬化性コーティング剤の25℃の粘度は、180cP(センチポアズ)であった。
【0140】
(光硬化性コーティング剤2)
光硬化性コーティング剤1において、ラジカル重合性単量体の配合割合を変えた以外は同様に調製し、25℃の粘度が130cPの光硬化性コーティング剤2を製造した。
【0141】
(プラスチックレンズの材質)
CR39(アリル樹脂プラスチックレンズ;屈折率=1.50)。
【0142】
MR(チオウレタン系樹脂プラスチックレンズ;屈折率=1.60)。
【0143】
実施例1
(光硬化性コーティング剤で被覆されたレンズの製造)
中心厚1mm、周縁厚7mmのチオウレタン系樹脂プラスチックレンズ(MR)をアセトンで十分に脱脂し、該レンズの凸面の表面にプライマー組成物をスピンコートした後、室温(23℃)、湿度50%で15分間硬化させることにより、プライマーコート層を有するプラスチックレンズを作製した。なお、プライマーコート層の厚みは7μmであった。このようにして表面にプライマーコート層が積層されたレンズを、プライマーコート層が積層された面(凸面側)を上面にしてレンズを保持し、スピンコートにより光硬化性コーティング剤1を被覆した。この光硬化性コーティング剤1で被覆されたレンズ表面の温度を確認したところ、23℃であった
(第一光照射工程)
次いで、光硬化性コーティング剤1で被覆された凸面が上面となるように、回転可能な治具によりプラスチックレンズを保持し、コールドリフレクターを装備したメタルハライドランプを用いて、窒素ガス雰囲気中で光照射強度が365nmで125mW/cmの光を15秒間照射した。この間、レンズは回転速度300rpmで回転させていた。光照射終了時のレンズ表面の温度は45℃であった(光照射時のプラスチックレンズの表面温度は45℃を超えていなかった。)。
【0144】
(第二光照射工程)
第一光照射工程で処理したプラスチックレンズを、該レンズの表面温度が25℃となるまで冷却した。次いで、光照射強度が125mW/cmの光を75秒照射し、光硬化性コーティング剤を硬化させた(コート層を有するレンズを製造した。コート層の厚み40μm)。光照射終了時のレンズ表面温度は、58℃であった(光照射時の温度は58℃を超えていなかった。)。
【0145】
(後処理工程)
その後、レンズの凸面を下面にして保持し、さらに110℃で1時間加熱した。これらの方法を行い、10枚のコート層を有するプラスチックレンズ(コート層の厚みは40μm)を製造した。これらのプラスチックレンズは、以下の方法により、密着性、外観を評価した。その結果を表1に示した。
【0146】
(プラスチックレンズの熱変形の評価)
光重合後に、平行に並んだ2本の屋内蛍光灯の反射光を用いて、プラスチックレンズの変形を目視で確認した。評価基準としては、プラスチックレンズの凸面もしくは凹面に屋内蛍光灯を映し、重合前の2本の蛍光灯間の距離を1とした時に、重合後の蛍光灯間の距離が0.98以上1.02未満の範囲で蛍光灯が2本平行に並んでいるもの(熱変形していないもの)を◎、重合後の蛍光灯間の距離が0.95以上0.98未満又は1.02以上1.05未満であり2本の蛍光灯の中央部が重合前に比べてほとんど歪んでいないもの(重合前後でほとんど熱変形していないもの)を○、重合後の蛍光灯間の距離が0.90以上0.95未満又は1.05以上1.10未満であり2本の蛍光灯の中央部がわずかに歪んでいるもの(わずかに熱変形しているもの)を△、重合後の蛍光灯間の距離が0.90未満又は1.10以上でありひどく歪んでいるもの(熱変形しているもの)を×とし、4段階評価とした。◎、○は、評価においては差が生じているが、問題なく両者とも製品として使用できる。
【0147】
(プラスチックレンズの外観評価)
コート層を有するプラスチックレンズに投影機を照射して、その投影面を観察評価した。評価基準は、A:平坦であり凹凸は全く見られない、B:ごくわずかに微細な凹凸が見られる、C:部分的に凹凸が見える、D:均一に凹凸が見える、または基材に影響が見えるとし、4段階で評価した。A、Bは、評価においては差が生じているが、問題なく両者とも製品として使用できる。
【0148】
(プラスチックレンズとコーティング層との密着性)
光硬化性コーティング剤よりなるコート層を有するプラスチックレンズのコート層側の表面に、先端が鋭利なカッターナイフで1mm×1mmのマス目を100個つけた。続いて、市販のセロハンテープを貼り付けて、次いで、そのセロハンテープを素早く剥がした時のコーティング層の剥がれ状態を目視により確認した。評価(評価後の残存マス目/評価前のマス目で示す。)は、100/100を◎、100/100未満95/100以上を○、95/100未満80/100以上を△、80/100未満50/100以上を▲、50/100未満を×とする5段階評価とした。◎、○は、評価においては差が生じているが、製品として使用するに対して、なんら問題はない。
【0149】
実施例2〜4
実施例1において、表1に示す光照射方法を用いたこと以外は実施例1と同様にしてプラスチックレンズを作製し、評価した。評価結果を表1に示した。
【0150】
実施例5、6
実施例1において、表1に示すレンズの厚みが異なるものを用いたこと以外は実施例1と同様にしてプラスチックレンズを作製し、評価した。評価結果を表1に示した。
【0151】
実施例7
実施例1において、表1に示すレンズの種類が異なるものを用いたこと以外は実施例1と同様にしてプラスチックレンズを作製し、評価した。評価結果を表1に示した。
【0152】
実施例8
実施例1において、光硬化性コーティング剤2を使用した以外は実施例1と同様にして試プラスチックレンズを作製し、評価した。評価結果を表1に示した。
【0153】
【表1】

【0154】
比較例1
表2に示した光照射方法(2工程に分けずに、連続して光を照射)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、試料を作成、評価した。評価結果を表2に示した。
【0155】
比較例2
実施例1において、プライマー組成物をスピンコートした後、40℃の温度、湿度50%の条件下で15分間、加熱処理を行い、プライマーコート層(厚み7μm)を積層した。次いで、実施例1と同じく、光硬化性コーティング剤1をスピンコートにより該プライマーコート層上に被覆した。光硬化性コーティング剤が被覆されたレンズの表面温度は35℃であった。このレンズを実施例1と同様の方法で第一光照射工程、第二光照射工程で処理することにより、コート層(厚み40μm)のプラスチックレンズを製造した。実施例1と同様にして、評価し、評価結果を表2に示した。
【0156】
比較例3〜4
実施例1において、表2に示す光照射方法を用いたこと以外は実施例1と同様にしてプラスチックレンズを作製し、評価した。評価結果を表1に示した。
【0157】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0158】
【図1】本発明の方法により得られる代表的なコート層を有するプラスチックレンズの断面図である。
【符号の説明】
【0159】
1 プラスチックレンズ
2 プライマーコート層
3 コート層(光硬化性コーティング剤よりなるコート層)
4 プラスチックレンズの中心部分の厚み(C)
5 プラスチックレンズの周縁部分の厚み(E)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心部分の厚さ(C)が2mm未満であり、中心部分の厚さ(C)と周縁部分の厚さ(E)との比(C/E)が1以下であるプラスチックレンズの凸面の表面に、ウレタン系樹脂よりなるプライマーコート層を積層し、次いで、該プライマーコート層上に、光硬化性コーティング剤を被覆した後、該凸面が上面となるようにプラスチックレンズを保持して光照射を行うことによって、コート層を有するプラスチックレンズを製造する方法であって、
最初に光照射を行う直前のプラスチックレンズの表面温度を30℃以下とし、光照射時のプラスチックレンズの表面温度を70℃以下とすることを特徴とするプラスチックレンズの製造方法。
【請求項2】
光照射を断続的に行うことを特徴とする請求項1に記載のプラスチックレンズの製造方法。
【請求項3】
最初に光照射を行ってから、一旦、光照射を停止するまでの第一光照射工程において、光照射強度と光照射時間との積で表す積算光量が、全積算光量の10%以上40%以下となるように光照射を行うことを特徴とする請求項2に記載のプラスチックレンズの製造方法。
【請求項4】
前記第一照射工程において、レンズを回転させながら光照射を行うことを特徴とする請求項3に記載のプラスチックレンズの製造方法。
【請求項5】
前記プライマーコート層の厚みが0.1〜10μmであるプラスチックレンズを使用することを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のプラスチックレンズの製造方法。
【請求項6】
フォトクロミック化合物を含む光硬化性コーティング剤を使用することを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載のプラスチックレンズの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−237003(P2009−237003A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−79770(P2008−79770)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【Fターム(参考)】