説明

プラスチック光学材料の製造方法

【課題】 作業途中での切断や変形または劣化を防止し、細径かつ所望の特性が付与されたプラスチック光ファイバコードを優れた生産性により製造する。
【解決手段】樹脂ポット42において、粘度が10〜200Pa・Sの熱硬化性である保護層形成用樹脂55aを、搬送されるPOF12の外周に塗布した後、温浴槽43へ送り込む。POF12を形成するポリマーのガラス転移温度をTgとするとき、(Tg−50)〜Tg(℃)に調整した温水61へPOF12を浸漬させることにより、保護層形成用樹脂55aを加熱硬化させて保護層を形成させる。POF12が切断したり、変形または劣化したりすることなく、難燃性などの保護層の特性が付与された細径のコード10を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック光学材料の製造方法に関するものであり、特に、光ファイバや光インターコネクション用導波路などの光導波路に利用することができるプラスチック光学材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光を伝播させる光学材料には、化学的に安定であり、優れた透明性や成形性および硬度などの特性からガラス材料が使用されており、その用途や形状の違いにより、光ファイバや光インターコネクション用導波路などの光導波路、あるいはレンズ、電子部品などが製造されている。ところが、最近では、透明性や加工性、および軽量化などに優れるなどの利点から、光学ガラスに代替してプラスチック材料が使用されている。例えば、光を伝播するコアと光を閉じ込めるクラッドとからなる芯線を有する光ファイバでは、従来品である石英系光ファイバ素線の代替として、プラスチック光ファイバ素線(Plastic Optical Fiber;POF)が注目されている。このPOFは、石英系光ファイバ素線に比べると、光の伝送損失は大きくなるものの、大口径化による接続容易性、端末加工容易性、高精度調芯機構が不要であるなどの利点のほかにも、コネクタ部分の低コスト化、あるいは人体への突き刺し災害による危険性の低さ、高い柔軟性により加工性や敷設性に優れており、耐振動性や低価格などの利点から、家庭や車載用途で注目されるだけでなく、高速データ処理装置の内部配線や、DVI(Digital Visual Interface)リンクなど極短距離、大容量ケーブルとしても利用が検討されている。また、HDMI(High Definition Multimedia Interface)規格に準拠した光HDMIリンク用ケーブルとしても利用が検討されている。
【0003】
一般的に、このようなPOFは、その外周に、樹脂により形成される保護層を1層以上設けてプラスチック光ファイバコード(以下、コードと称する)として使用される。このようにPOFの外周に保護層を設けると、POFの曲げ強度や引張り強度などの機械的特性および耐候性の向上、耐湿性向上により性能低下の抑制、難燃性の付与、薬品による損傷からの保護、外部光線によるノイズ防止、着色などによる商品価値の向上などを実現させることができる。
【0004】
一般的に、POFの外周に保護層を形成させる方法は、金属で形成された電線(以下、金属電線と称する)を塗布する方法に習い、熱可塑性樹脂などの保護層形成用樹脂を、搬送されるPOFの外周に溶融押出した後、硬化させる方法が使用されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、金属電線とは異なり、POFは熱に弱いため、塗布に使用する溶融樹脂の温度が高いと、変形したり、POFを構成する材料が劣化したりするなどの問題が生じる。したがって、POFの外周に樹脂などを塗布する場合には、保護層形成用樹脂の選択や塗布時の温度などに留意する必要がある。
【0005】
例えば、保護層形成用樹脂としてポリ塩化ビニル樹脂(PVC)を使用する場合、PVCは、180〜230℃程度の溶融押出温度が必要となる。しかし、この温度では、POFの一部が溶けて形状が乱れ、結果として、伝送損失の上昇を引き起こす。また、このように溶融温度が高温の樹脂は、高粘度である場合が多い。しかし、このように高粘度の樹脂を保護層形成用樹脂として使用すると、塗布時に高圧を要する場合が多く、その圧力によりPOFが切断したり、延伸するなどの変形が生じたりするために、伝送損失が上昇してしまうという問題が生じる。また、生産性の向上を目的として塗布速度を上げようとすると、樹脂の押出速度とPOFの搬送速度とに差が生じる。この差を低減させるためには、樹脂粘度の低下による押出速度の向上または、搬送速度向上が考えられるが、前者では、低粘度化を図るためにより高温にすると、上記のようにPOFの変形や劣化を招く。一方で、後者では、塗布した樹脂の冷却不足により保護層の硬化が不十分のまま巻き取られてしまい、結果として、得られるコードの伝送損失が上昇するなどの問題が連鎖的に起こり、悪循環を引き起こしてしまう。したがって、現在、例えば、PMMA系のPOFに保護層を設ける場合には、POFの変形や劣化を抑制するために、保護層形成用樹脂として、120℃程度で溶融し、この温度で優れた流動性を示す高流動性の低密度ポリエチレン(LDPE)やリニア低密度ポリエチレン(LLDPE)などが使用されている。しかし、これでは、保護層形成用樹脂が限定されてしまうなどの新たな問題が生じている。
【0006】
また、上記のようにPOFの外周に保護層を設けて、その諸特性を向上させたコードは、屋外や集合住宅の電気系配線などに敷設されるが、コードには、優れた機械的特性や難燃性などが要求される。しかしながら、上記したような保護層形成時における様々な問題を回避するために、現時点においては、一度、LDPEやLLPDEなどにより第1保護層を設けて、塗布時での加熱による変形や劣化を抑制してPOFの耐熱性を向上させてからから、PVCや塩素化したPVCなどにより第2保護層を設けて、所望の特性を確保する作業が行われている。そして、一般的には、第2保護層を形成させる樹脂に難燃剤を添加もしくは難燃性を示す樹脂により第2保護層を形成させる。なお、ポリエチレンの難燃化技術としては、ポリエチレンに水和金属化合物、リン酸エステルおよび赤燐を所定量ずつ配合するポリエチレン樹脂組成物(例えば、特許文献2参照)や、臭素化合物やアンチモン化合物を添加した保護層を設けた樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献3参照)。また、その他にも、所定の難燃剤を使用した難燃性樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献4参照)
【特許文献1】特開2001−174677号公報
【特許文献2】特開平5−093097号公報
【特許文献3】特開平6−329847号公報
【特許文献4】WO2003/046083「難燃性樹脂組成物」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非常に狭い空間の電子基板上や敷設管内にコードを敷設しなければならない場合、上記のように第1保護層の上に第2保護層を形成させる方法では、細径のコードを得ることが困難である。したがって、保護層を1層のみをPOFの外周に形成させて優れた難燃性などの特性を有するコードを作製することができる製造方法の確立が望まれている。また、特許文献3は、優れた難燃性効果を得ることができるが、使用している臭素化合物やアンチモン化合物は環境汚染などを招く危険性があり、使用するには問題がある。さらに、特許文献4では、優れた難燃性効果を得ることができるが、難燃性を付与する樹脂中にガラスの短繊維やガラスフレークが含まれているため、このような樹脂をPOFの外周に塗布すると、ガラスの短繊維やフレークが不均一にPOFに接触し、局部的な歪を生じさせて、伝送損失が上昇してしまう恐れがあるため好ましくない。
【0008】
本発明は、POFを含む光導波路の外周に、生産性の低下や、光導波路の変形または劣化を招くことなく保護層を設けることができ、かつ優れた難燃性や光学特性を有するプラスチック光学材料を製造することができる製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明のプラスチック光学材料の製造方法は、ポリマーよりなる光導波路に保護層を設けたプラスチック光学材料の製造方法において、粘度が10〜200(Pa・S)の保護層形成材料中に光導波路を通過させて、この光導波路の外周に保護層形成材料を塗布する塗布工程と、ポリマーのガラス転移温度をTgとするとき、塗布工程で塗布された保護層形成材料を、(Tg−50)〜Tg(℃)の温度で硬化させる保護層形成材料硬化工程とを有することを特徴とする。
【0010】
塗布工程では、保護層形成用樹脂を充填した容器を加圧し、この加圧により素線の外周に保護層形成材料を押し出すことが好ましい。また、保護層は、塩素化合物、臭素化合物、アンチモン化合物、カドミウム化合物、鉛化合物、クロム化合物、亜鉛化合物、錫化合物のいずれかを含まないことが好ましい。そして、光導波路が複数のガラス転移温度を有する領域からなる場合には、この複数の領域のガラス転移温度のうち、もっとも低いガラス転移温度を、上記のTgとすることが好ましい。
【0011】
また、保護層形成材料の硬化に要する時間T1が、1秒以上60分以下であることが好ましい。なお、光導波路はプラスチック光ファイバ素線であり、このプラスチック光ファイバ素線の保護層を含む外径が、1.5mm以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明をPOFからコードを製造する場合などに利用すると、生産性の低下やPOFの変形または劣化を招くことなくPOFの外周に保護層を設けて、難燃性や光学特性に優れるコードを製造することができる。そして本発明は、常温常圧下において所定の粘度の保護層形成用樹脂を使用するため、樹脂の温度管理が容易であるなどの利点を有する。その他にも、保護層形成用樹脂として比較的低粘度である樹脂を使用するので、塗布時に樹脂の移送を行う際、高圧力を必要としない。また、塗布時では液状の樹脂を使用するため、圧縮空気による移送が可能となり、このような移送機能を使用した保護層形成設備を用いると、低エネルギー化による消費電力の低減を実現させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明を適用させた実施形態について図を引用しながら説明する。なお、本実施形態は、光学材料としてプラスチック光ファイバコード(以下、コードと称する)を製造する。ただし、本発明は、本実施形態に限定されるものではなく、例えば、光インターコネクション用導波路を製造する際にも適用することができる。図1は、コードの製造工程図である。ここでは工程の流れについてのみ説明する。
【0014】
本発明のコード10は、プリフォーム11を線引して得られるPOF12の外周に保護層を設けることにより得られる。したがって、コード10の製造工程は、プリフォーム形成工程15と線引工程16と保護層形成工程17とを有する。
【0015】
プリフォーム形成工程15において、プリフォーム11を作製する。本発明のプリフォーム11は、コア部とクラッド部とを有する。なお、プリフォーム11の製造方法は、特に限定はされず、プリフォーム11の製造方法として公知であるいずれの方法も適用することができる。例えば、特許3332922号公報に記載されている方法が挙げられ、本実施形態はこれを使用している。まず、市販の溶融押出成形により、外殻部をなす円筒状のクラッド部を所望の樹脂組成物(本実施形態では、PVDFを使用)により形成させる。そして、このクラッド部の内側にコア部を形成させる樹脂組成物(本実施形態では、主成分としてPMMA−d8を使用)を注入した後、界面ゲル重合法により、この樹脂組成物を重合させてコア部を形成させる。プリフォーム11の製造方法は、上記の他に、クラッド部の内側に重合後の屈折率が異なる重合性組成物を逐次注入し、重合させる工程を繰り返し行うことによりコア部を形成させるものも挙げられ、これも本発明に適用することができる。
【0016】
次に、線引工程16においてプリフォーム11を線引してPOF12を製造する。線引工程16とは、プリフォーム11を加熱溶融した状態で、その長手方向に延伸させることにより細径とする工程である。この線引工程16でのプリフォーム11の延伸率を制御することにより、所望の径のPOF12を製造することができる。
【0017】
なお、線引工程16での、プリフォーム11の加熱温度は、プリフォーム11の材質などに応じて適宜決定される。この加熱温度を、180〜280℃とすると、プリフォーム11の変形や劣化を抑制しながら、容易に延伸させることができるので好ましい。加熱温度や延伸率、線引張力などの延伸条件は、プリフォーム11の直径や、材質ならびに目的とするPOF12の径などを考慮して適宜決定すればよく、特に限定はされない。例えば、線引張力については、特開平7−234322号公報に記載されているように、溶融したプラスチックを配向させるために0.1N以上としたり、特開平7−234324号公報に記載されているように、溶融延伸後に歪を残さないようにするため1N以下としたりすることが好ましい。また、特開平8−106015号公報に記載されているように、延伸時において、あらかじめプリフォーム11を予備加熱する方法なども適用することができる。以上のようにして得られるPOF12は、特開平7−244220号公報に規定されているような破断伸びや硬度を有し、機械特性に優れている。
【0018】
そして、保護層形成工程17において、POF12の外周に保護層を設けてコード10を製造する。保護層形成工程17は、保護層形成用樹脂を塗布する塗布工程18と、この樹脂を硬化させて保護層を形成させる硬化工程19とからなる。
【0019】
塗布工程18では、POF12の外周に保護層形成用樹脂を塗布する。次に、硬化工程19で、この樹脂を加熱し硬化させることにより保護層20を形成させてコード10を製造する。なお、本実施形態では、POF12の外周に1層の保護層20を設けたが、POF12の外径が所定の範囲内であれば、2層以上の保護層を設けることもできる。この場合には、所望の層数の保護層が得られるまで保護層形成工程17を繰り返し行えばよい。保護層形成工程17の詳細は、後で説明する。
【0020】
製造したコード10を、組合せ工程21において1本あるいは複数本束ねてから、被覆工程22において、その外周を被覆材により被覆すると、プラスチック光ファイバケーブル(以下、ケーブルと称する)23を得ることができる。なお、組合せ工程21においてコード10と抗張力線とを一緒に束ねると、強靭性を有するケーブル23を得ることができる。ケーブル23の詳細は、後で説明する。
【0021】
図2に、本発明により得られるコード10の径方向での断面図を示す。コード10は、コア部30とクラッド部31とを含むPOF12と、その外周に設けられた保護層20とを有する。また、クラッド部31は、インナークラッド31aとアウタークラッド31bとを含む。
【0022】
POF12は、コード10の芯線となる部分であり、コア部30の内部に入射させた光を、屈折率の異なるクラッド部31との界面で反射させることにより光を伝播させる。保護層20の厚みをt1(mm)とすると、t1は0.2〜3mmであることが好ましい。より好ましくは、t1が1〜2mmである。なお、保護層20が2層以上設けられている場合には、複数の保護層20のうち、最外層となる保護層の外径をt1とする。これにより、保護層20を構成する材料の特性(例えば、強靭性や難燃性など)を、POF12に対して十分に反映させることができるので、所望の特性が付与されたコード10を得ることができる。ただし、保護層20の厚みt1が0.2mm未満であると、保護層20を形成させる効果が得られない場合があるので好ましくない。一方で、t1が3mmよりも厚い場合には、保護層20を形成させる樹脂の硬化の進行が遅かったり、未反応部分が発生したりするなどの問題が生じるおそれがある。
【0023】
POF12の外径をD1(mm)とするとき、D1が0.2〜1.0mmを満たすようにすると、微細配線を行うことができるコード10を得ることができるので好ましい。ただし、D1は、特に限定されるものではなく、用途などに応じて適宜決定されればよい。なお、コア部30の直径をD2(mm)とするとき、D2は0.1〜1mmであることが好ましい。
【0024】
なお、本発明では、コード10の外径をD3(mm)とするとき、D3は1.5mm以下となるように各部材の厚みや大きさを調整する。これにより、所望の層数または厚みの保護層20を形成させたコード10であっても、非常に狭い空間の電子基板上や敷設管内に敷設することができる。
【0025】
また、本実施形態のコア部30は、クラッド部31よりも屈折率が高く、かつ境界から中心に向けて屈折率が連続的に高くなっており、GI型POFとされる。このような複層構造のPOF12は、溶融押出方法により一度に各部材を形成させる材料を溶融後、押し出すことにより作製してもよいし、あらかじめ溶融押出方法により円筒状のクラッド部31を形成後、この内側にコア部30を形成させる材料を注入してから重合させることにより形成させてもよい。ただし、前者のように溶融押出方法により、各部材を形成させる材料を一度に押し出す場合には、各材料に屈折率の違いを発現させる屈折率調整剤(ドーパント)の濃度が異なる複数の溶融樹脂を同心円状に配して押し出す。そして、断面円形の径方向において、屈折率の最大値と最小値との差が0.001以上0.3以下であることが好ましい。後者のようにコア部30を形成させる材料を重合させる際には、回転重合法を用いると、優れた材料の重合度を実現させながら作業を行うことができるので好ましい。なお、POF12は、径の中心方向に向かって屈折率が高くなる分布を有していればよく、その形態は特に限定されるものではない。このようなPOF12は、GI型POFとしての機能を発現する。
【0026】
なお、コア部30およびクラッド部31の形態は、図2に限定されるものではない。例えば、コア部30は、図2で示す構造以外に、3層以上の複層構造からなるマルチステップインデックス型とする形態や、コア部30に境界が存在せずに、クラッド部31の内周からコア部30の中央に向かって屈折率が連続的もしくは段階的に高くなる構造を挙げることができる。一方で、クラッド部31は、例えば、必要に応じて1層の単層構造としてもよい。上記のように、本発明のPOF12は、SI型、GI型のいずれのタイプであっても適用することができるが、本実施形態のようなGI型POFとすることで、SI型よりも光伝送特性に優れたコード10を得ることができる。
【0027】
図3に、本実施形態において使用する保護層形成設備の概略図を示す。本実施形態では、あらかじめ作製したPOF12の外周に1層の保護層を設けてコード10を作製する。したがって、保護層形成設備40は、POF送出し装置41と、塗布装置42と、温浴槽43と、一対の引取りローラ44と、巻取り装置45とを有する。なお、本発明は、ここに示す実施形態に限定されるものではない。
【0028】
POF送出し装置41には、POF送出しリール50と先端にプーリ51が備えられたダンサーアーム51aとが備えられている。POF送出しリール50にはPOFロールが設置されており、これを回転させるとともに、プーリ51によりPOF12のアライメントを調整ししながら、POF12をPOF送出し装置41から塗布装置42に連続的に送り出す。
【0029】
塗布装置42は、樹脂ポット55とダイス56とを有している。樹脂ポット55は、所定の粘度範囲を満たす保護層形成用樹脂55aが充填されている容器であり、この保護層形成用樹脂55aは樹脂ポット55に接続された樹脂供給装置(図示しない)から適宜所望量が供給される。なお、樹脂ポット55にガス供給装置(図示しない)を接続させて、樹脂ポット55の上部に清浄かつ乾燥した不活性ガスを供給すると、樹脂ポット55の内部に貯蔵される樹脂55aの液面が増粘したり、液面に粉塵が付着したりするのを抑制することができるので好ましい。
【0030】
そして、POF12は、この樹脂ポット55の内部を搬送される間に、その外周に保護層形成用樹脂55aが塗布される。塗布後、ダイス56において、余分に塗布された保護層形成用樹脂55aが除去される。これにより、ダイス出口56aから搬出されたPOF12は、所望量の保護層形成用樹脂55aが塗布された塗布済みPOF85となり、硬化工程19へと搬送される。
【0031】
塗布装置42の内部を搬送される際にPOF12に付与される張力は、変形や断裂が生じないようにするために、700N/cm2 以下であることが好ましい。なお、搬送張力は、所定の範囲内においてできる限り小さくすることがより好ましいが、特に限定されるものではない。また、POF12の搬送速度V(cm/分)は、10〜10000cm/分であることが好ましい。より好ましくは、Vが50〜6000cm/分であり、特に好ましくは、Vが100〜5000cm/分である。これにより、POF12の外周に保護層形成用樹脂55aを略均一に塗布することができ、かつコード10の製造速度としては満足のいく値であるため、製造時間などを招くことなく優れた生産性によりコード10を製造することができる。
【0032】
ただし、本発明で使用する保護層形成用樹脂55aは、粘度P(Pa・S)が、10〜200Pa・Sを満たすものとする。より好ましくは、粘度Pが50〜200Pa・Sであり、特に好ましくは100〜200Pa・Sである。このような粘度範囲を満たす保護層形成用樹脂55aを使用すると、温度管理を高温で行う必要がない。すなわち、その管理温度は比較的低温でよいため、管理が容易であるとともに、高温化不要によるエネルギーコストの削減を行うことができる。また、比較的低温で塗布作業を行うことができるので、一度に所望の特性を有する保護層20を形成させることができることから、結果として細径のコード10を得ることができる。ところが、保護層形成用樹脂55aの粘度が10Pa・S未満であると、流動性が高すぎるために、POF12の外周に塗布した際には液ダレが生じるなどして、所望の厚みの塗布層を形成させることが困難である。一方で、粘度が200Pa・Sを超えると、流動性が低すぎるために、塗布ムラが生じる恐れがあるので好ましくない。なお、本実施形態では、保護層形成用樹脂55aとして、粘度が160Pa・Sである1液低温熱硬化ウレタンエラストマー(サンスター技研(株)製、自在成型エラストマー「PENGUIN FOAM」RD10336C)を使用している。
【0033】
なお、保護層形成用樹脂55aの粘度Pが上記の範囲を満たすようにすると、空気圧力調整器からの圧縮空気により、保護層形成用樹脂55aの移送を行うことが可能となる。また、常温領域でも液体であり、樹脂を熱溶融させたり、移送流路に保温機構を設けたりする必要がないため、エネルギーコストの低減かつ設備の簡素化などを図ることができるので好ましい。
【0034】
塗布済みPOF60は、温水61が満たされている温浴槽43に送り込まれる。温浴槽43には温度調整装置63が接続されており、この温度調整装置63により温水61は循環されて、所望の温度となるように温度制御される。本実施形態では、80℃に温度制御されている。このように温浴槽43内の温水61を循環させると、温水61の温度を略均一に保持することができるので好ましい。そして、温浴槽43の内部に配されるプーリ62により塗布済みPOF60が支持されながら温浴槽43の内部を搬送される。これにより、保護層形成用樹脂55aは流動性が消失する程度まで硬化され保護層が形成されるため、POF12の外周に保護層20が形成されたコード10が得られる。なお、温浴槽43の内部で塗布済みPOF60を搬送する際には、プーリ62に替えて、ローラなどの搬送手段を使用することもできる。
【0035】
なお、本実施形態では、温水61に浸漬させることにより保護層形成用樹脂55aを硬化させているが、所定の粘度範囲を満たす保護層形成用樹脂55aを使用しているので、比較的低温の温水61中で作業を行っても、保護層形成用樹脂55aの硬化を十分に促進させることができる。また、温水61を使用した温浴槽43を硬化装置として使用すると、保護層形成用樹脂55aを均一に加温して硬化させることができるので、硬化ムラが生じにくく、さらには、温水61の昇温・保温・調整の管理が容易であるため好ましい。
【0036】
ただし、保護層形成用樹脂55aを硬化させる際には、POF12を構成するポリマーのガラス転移温度をTg(℃)とするとき、塗布済みPOF60の周囲の温度を(Tg−50)〜Tg℃の範囲を満たすようにする。より好ましくは、(Tg−40)〜Tg℃であり、特に好ましくは(Tg−30)〜Tg℃である。すなわち、本実施形態では、温浴槽43内の温水61の温度が上記範囲を満たすように調整される。したがって、本実施形態では、中心部分のTgが約90℃であるPOF12を形成させているため、温水61の温度を80℃となるように調整している。これにより、短時間のうちに保護層形成用樹脂55aの硬化を促進させることができるため、保護層形成用樹脂55aの未硬化や不均一による規格外製品の低減および作業時間の短縮を実現させることができる。
【0037】
ただし、硬化温度を(Tg−50)℃未満とすると、硬化温度が低い材料はポットライフが短く、ポットの中で硬化が始まってしまうため好ましくない。なお、本実施形態では、硬化装置として温浴槽43を1つ設置した形態を示したが、2つ以上配置させてもよい。このように複数個の硬化装置を用いる場合には、それぞれ異なる温度となるように調整してもよいし、同一温度となるように調整してもよい。
【0038】
また、POF12が複数のポリマーからなり、ガラス転移温度を有する領域が複数存在する場合には、この複数の領域のガラス転移温度のうち、もっとも低いガラス転移温度をTgとし、硬化工程19において温度設定する際に用いるものとする。なお、POF12を構成するポリマーが、ガラス転移温度を持たない場合には、相転移温度(例えば、融点など)の最も低いものをTg(℃)とする。
【0039】
また、保護層形成用樹脂55aが硬化に要する時間、すなわち、塗布済みPOF60が温浴槽43の入口43aから温水61に浸漬された後、出口43bから搬出されるまでの間に要する時間T1は、1秒以上10分以下とする。より好ましくは、T1が1秒以上3分以下である。なお、T1は、保護層形成用樹脂55aの種類や保護層20の厚みを考慮し、所定の範囲内において適宜選択すればよい。保護層形成用樹脂55aの硬化時間が上記の範囲を満たすようにすると、保護層20の厚みを制御しやすい。ただし、硬化時間が1秒未満だと、保護層20を厚くする場合、硬化ムラが生じる恐れがある。一方で、硬化時間が600秒を越えるような材料を使用すると、POF12を加温条件下に長時間曝すことになるため、材料が劣化する恐れがあり好ましくない。
【0040】
なお、本実施形態では、保護層形成用樹脂55aを硬化させるために温水61を用いたが、これに限定されるものではなく、例えば、塗布済みPOF60の外周に所望の温度範囲に調整した温風を吹き付けることにより、保護層形成用樹脂55aを硬化させる送風装置や、所望の温度に加熱することができる温度制御装置などを用いればよい。
【0041】
以下に、保護層形成用樹脂55aとして用いることができる材料を具体的に例示する。なお、保護層形成用樹脂55aとして、ポリマーの一形態であり高弾性率を有するゴムを用いると、優れた機械的特性(例えば、曲げ強度など)を付与することができるので好ましい。
【0042】
保護層形成用樹脂55aは、室温において優れた流動性を示し、加熱することによりその流動性が消失して硬化するような性質を有する液状ゴムを使用することができる。液状ゴムとしては、例えば、基本構造がポリイソプレンやポリブタジエン、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体およびポリクロロプレンなどのポリジエン系、例えば基本構造がポリ(オキシプロピレン)などのポリオレフィン系、例えば、基本構造がポリ(オキシルアルキレンジスフィド)などのポリスルフィド系、例えば、基本構造がポリ(ジメチルシロキサン)などのポリシロキサン系などを挙げることができる。
【0043】
ポリマーの前駆体となる材料と反応材などとを混合した液を熱硬化させるものも、保護層形成用樹脂55aとして用いることができる。例えば、特開平10−158353号公報に記載のNCOブロックプレポリマーと微粉体コーティングアミンとから製造される1液型熱硬化性ウレタン組成物を挙げることができる。また、WO95/26374に記載のNCO基含有ウレタンプレポリマーと20μm以下の固形アミンとからなる1液型熱硬化性ウレタン組成物なども用いることができる。
【0044】
なお、保護層形成用樹脂55aとして使用することができる上記の材料に、性能の改善などを目的として難燃剤や酸化防止剤、ラジカル捕獲剤、潤滑剤などの添加剤や、無機化合物や有機化合物などを含むフィラを適宜添加することができる。例えば、上記の保護層形成用樹脂55aに難燃剤を添加すると、POF12に難燃性を付与することができ、結果として、優れた難燃性を示すコード10を製造することができる。
【0045】
ただし、保護層形成用樹脂55aは、塩素化合物、臭素化合物、アンチモン化合物、カドミウム化合物、鉛化合物、クロム化合物、亜鉛化化合物、錫化合物のいずれかを含まないことを特徴とする。これらの化合物は環境汚染物質となりうるため、保護層20に含まれていると、外部へ染み出すなどして外環境を汚染するおそれがあり好ましくない。
【0046】
保護層20が形成されたコード10は、支持ローラ65により支持されながら一対の引取りローラ44により温浴槽43から引き取られる。また、支持ローラ65と引取りローラ44の間には、第1水分除去装置70と第2水分除去装置71とを設けられている。この第1水分除去装置70の内部には、送風機能が備えられており、温浴槽43から搬出されたコード10に風を吹きつけられてコード10の表面に存在する水分が払拭される。また、第2水分除去装置71には、吸引機能が備えられており、送風により水分が払拭されたコード10の外周を吸引することにより、コード10の水分除去をより効果的に促進させる。
【0047】
なお、第2水分除去装置の下流側に、外観検査装置および外径測定機(ともに図示しない)を配して、コード10の表面での保護層形成用樹脂55aの凝集による瘤などの有無および、コード10の外径測定により所望の値が得られているか否かを判断すると、規格外製品であるか否かの判定を、コード10の製造中に効率的に行うことができるので好ましい。
【0048】
一対の引取りローラ44には、その一方にモータ44aが取り付けられている。そして、このモータ44aを調整することにより、コード10を引き取る際の張力が制御される。また、もう一方の引取りローラ44には、押圧部材44bが備えられている。これにより、コード10の搬送安定性を向上させて作業を行うことができる。なお、本実施形態では押圧部材44bとしてバネを使用している形態を示しているが、引取りローラ44を押圧することができる部材であればよく、特に限定されるものではない。
【0049】
巻取装置45の内部には、支持ローラ75と巻取ロール76とが備えられている。そして、支持ローラ75により支持して搬送安定性を向上させたコード10を、逐次巻取ロール76により巻き取ってコード製品とする。なお、本実施形態では、巻取ロール76に巻き取る形態を示したが、巻き取らずに、そのまま所望の形状および寸法に切断して製品として使用することもできる。
【0050】
なお、保護層20が形成されたコード10を適宜束ねることによりプラスチック光ファイバケーブル(Plastic Optical Cable)23を得ることができる。本発明においては、1本のコード10を使用し、必要に応じて、さらにその外周に被覆材が被覆されたものを、シングルファイバケーブルと称する。また、コード10がテンションメンバなどとともに複数本組合された後、さらに、その外周に被覆材が被されたものをマルチファイバケーブルと称する。なお、プラスチック光ファイバケーブル23は、これらのシングルファイバケーブルとマルチファイバケーブルとの両方を含む。
【0051】
POF12を形成させる材料について説明する。本発明に好ましく用いることができるPOF12形成材料のうち、コア部30を形成させる材料は、光透過性が高い有機材料であり、この有機材料を溶融樹脂として用いることが好ましい。光伝送の機能を損なわない限り、材料は特に限定されるものではないが、この溶融樹脂として、(メタ)アクリル酸エステルよりなる重合体を主成分として用いることが好ましい。これらの材料の詳細については、後ほど説明する。また、クラッド部31は、コア部30よりも屈折率が低い材料を用いる限り問題はないが、クラッド部31にフッ素系樹脂を用いると、低屈折率で光学的に問題のないものを容易に製造することができる。
【0052】
なお、クラッド部31の形成材料としては、コア部30を伝送する光が、コア部30とクラッド部31との界面で全反射するように、上記したようにコア部30よりも屈折率の低いポリマーとすることが好ましい。コア部30およびクラッド部31を形成させる材料は、光散乱を生じないように、非晶性のポリマーとすることが好ましく、さらには、互いに密着性に優れるポリマーであるとともに、タフネスなどに示される機械的特性に優れ、耐湿熱性にも優れていることがより好ましい。
【0053】
さらに、水分がコア部30に侵入することをできるだけ防ぐことを目的として、アウタークラッド31aを形成させる材料は、低吸水率の材料を用いることが好ましい。例えば、アウタークラッド31aには、飽和吸水率が1.8%未満のポリマーを主たる成分とすることが好ましい。より好ましくは、アウタークラッド31aが1.5%未満の飽和吸水率、特に好ましくは、1.0%未満の飽和吸水率であるポリマーにより形成されることである。なお、ここでの飽和吸水率は、ASTMによるD570により基づく値であり、具体的には、23℃の水中にサンプルを1週間浸漬したときの吸水率を測定した値である。
【0054】
コア部30を形成させる材料としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステル類(フッ素不含(メタ)アクリル酸エステル(a),含フッ素(メタ)アクリル酸エステル(b)),スチレン系化合物(c),ビニルエステル類(d)、主鎖環状含フッ素ポリマー形成モノマー類(e)、ポリカーボネート類の原料であるビスフェノールAなどを重合性化合物として用いて重合させたものとすることができる。
【0055】
また、上記の材料のうち2種以上を組み合わせて重合させた共重合体、および上記のホモポリマーや共重合体の各種組み合わせによる混合物も例として挙げることができる。また、混合物を原料として得られた共重合体およびブレンドポリマーの場合には、各共重合体またはブレンドポリマーのガラス転移点を上記Tgとして定義する。そして、これらのうち、(メタ)アクリル酸エステル類または含フッ素ポリマーを成分として含むものが光伝送体を構成する上でより好ましい。次に、上記の例について、より詳細に示す。
【0056】
上記の(a)フッ素不含メタクリル酸エステルおよびフッ素不含アクリル酸エステルとしては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸−tert−ブチル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ジフェニルメチル、トリシクロ[5・2・1・02,6]デカニルメタクリレート、アダマンチルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、ノルボニルメタクリレートなどが挙げられ、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸−tert−ブチル、アクリル酸フェニルなどが挙げられる。
【0057】
(b)含フッ素アクリル酸エステルおよび含フッ素メタクリル酸エステルとしては、2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート、2,2,3,3−テトラフルオロプロピルメタクリレート、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピルメタクリレート、1−トリフルオロメチル−2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート、2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロペンチルメタクリレート、2,2,3,3,4,4−ヘキサフルオロブチルメタクリレートなどが挙げられる。
【0058】
(c)スチレン系化合物としては、スチレン、α−メチルスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレンなど、(d)ビニルエステル類としては、ビニルアセテート、ビニルベンゾエート、ビニルフェニルアセテート、ビニルクロロアセテートなどが挙げられる。また、(e)主鎖環状含フッ素ポリマー形成モノマー類としては、モノマーとして環状構造を有するもの、または環化重合することによって、非晶質の主鎖に環状構造を有する含フッ素重合体を形成するポリマーを形成するものであり、ポリパーフルオロブタニルビニルエーテルや特開平8−334634号などに例示される主鎖に脂肪環もしくは複素環を有するようなポリマーを形成するモノマー、および特願2004−186199号に例示されるものなどが挙げられる。ただし、コア部30に用いることができる材料は、これらに限定されるものではない。重合性化合物の単独あるいは共重合体からなるポリマーの屈折率が、光伝送体に成形されたときに所定の屈折率分布を複層樹脂の中で有するように、種類や組成比を決定することが好ましい。
【0059】
なお、これらのポリマーが水素原子(H)を含んでいる場合には、その水素原子が重水素原子(D)に置換されていることが好ましく、これにより伝送損失の低減、特に近赤外領域の波長における伝送損失の低減を図ることができる。
【0060】
さらに、POF12を近赤外光用途に用いるためには、ポリマーを構成するC−H結合に起因した吸収損失が起こるために、特許3332922号公報や特開2003−192708号公報などに記載されているような、C−H結合の水素原子を重水素原子やフッ素などで置換したポリマーを用いることで、この伝送損失を生じる波長域を長波長化することができ、伝送信号光の損失を軽減することができる。このようなポリマーとしては、例えば、重水素化ポリメチルメタクリレート(PMMA−d8)、ポリトリフルオロエチルメタクリレート(P3FMA)、ポリヘキサフルオロイソプロピル2−フルオロアクリレート(HFIP 2−FA)などを例示することができる。なお、原料となる化合物は、重合後の透明性を損なわないためにも、不純物や散乱源となる異物は重合前に充分に除去されることが望ましい。
【0061】
コア部30とクラッド部31とを形成するポリマーは、後述のように、糸状に押出成形後に好適に延伸できるという観点から、重量平均分子量が1〜100万であることが好ましく、より好ましくは3〜50万である。また、延伸に対する適性は、分子量分布(MWD:重量平均分子量/数平均分子量)にも関係しており、MWDが大きすぎる場合には、極端に分子量の大きい成分が混在しているときに延伸性が悪くなり、延伸が不可能となることもある。したがって、好ましいMWDの範囲は4以下であり、より好ましい範囲は、3以下である。
【0062】
重合性化合物を重合させてポリマーとする場合においては、重合開始剤を使用する場合がある。重合開始剤としては、例えば、ラジカルを生成するものが各種ある。例えばラジカルを生成するものとして、過酸化ベンゾイル(BPO)、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサネート(PBO)、ジ−tert−ブチルパーオキシド(PBD)、tert−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート(PBI)、n−ブチル−4,4−ビス(tert−ブチルパーオキシ)バラレート(PHV)などのパーオキサイド系化合物が挙げられる。また、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロパン)、2,2’−アゾビス(2−メチルブタン)、2,2’−アゾビス(2−メチルペンタン)、2,2’−アゾビス(2,3−ジメチルブタン)、2,2’−アゾビス(2−メチルヘキサン)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルペンタン)、2,2’−アゾビス(2,3,3−トリメチルブタン)、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、3,3’−アゾビス(3−メチルペンタン)、3,3’−アゾビス(3−メチルヘキサン)、3,3’−アゾビス(3,4−ジメチルペンタン)、3,3’−アゾビス(3−エチルペンタン)、ジメチル−2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、ジエチル−2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、ジ−tert−ブチル−2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)などのアゾ系化合物が挙げられる。なお、重合開始剤は、これらに限定されるものではなく、また、2種類以上を併用してもよい。
【0063】
ポリマーとしたときの機械特性や熱物性などの各種物性値を全体にわたって均一に保つために、重合度の調整を行うことが好ましい。重合度の調整のためには、連鎖移動剤を使うことができる。連鎖移動剤については、併用する重合性モノマーの種類に応じて、種類および添加量を適宜選択できる。各モノマーに対する連鎖移動剤の連鎖移動定数は、例えば、ポリマーハンドブック第3版(J.BRANDRUPおよびE.H.IMMERGUT編、JOHN WILEY&SON発行)を参照することができる。また、該連鎖移動定数は大津隆行、木下雅悦共著「高分子合成の実験法」化学同人、昭和47年刊を参考にして、実験によっても求めることができる。
【0064】
連鎖移動剤としては、アルキルメルカプタン類(例えば、n−ブチルメルカプタン、n−ペンチルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ラウリルメルカプタン、tert−ドデシルメルカプタンなど)、チオフェノール類(チオフェノール、m−ブロモチオフェノール、p−ブロモチオフェノール、m−トルエンチオール、p−トルエンチオールなど)などを用いることが好ましい。特に、n−オクチルメルカプタン、n−ラウリルメルカプタン、tert−ドデシルメルカプタンのアルキルメルカプタンを用いるのが好ましい。また、C−H結合の水素原子が重水素原子やフッ素原子で置換された連鎖移動剤を用いることもできる。なお、連鎖移動剤は勿論これらに限定されるものではなく、これら連鎖移動剤は2種類以上を併用してもよい。
【0065】
その他、コア部30やクラッド部31、もしくはそれらの一部には、光伝送性能を低下させない範囲で、その他の添加剤を添加することができる。例えば、コア部30もしくはその一部に耐候性や耐久性などを向上させる目的で、安定剤を添加することができる。また、光伝送性能の向上を目的として、光信号増幅用の誘導放出機能化合物を添加することもできる。該化合物を添加することにより、減衰した信号光を励起光により増幅することができ、伝送距離が向上するので、例えば、光伝送リンクの一部にファイバ増幅器として使用することができる。これらの添加剤も、前記原料となる各種重合性化合物に添加した後、重合することによって、コア部30、クラッド部31もしくはそれらの一部に含有させることができる。
【0066】
上記のように、POF12を、コア部30に径の中心から外側に向かって屈折率の高低分布が次第に変化するGI型POFとすると、伝送損失の増加を抑制することができるとともに、より広帯域での光通信を行うことができ、高性能通信用途のPOF12を得ることができるので好ましい。このような所望の屈折率の高低分布を発現させるには、屈折率の異なる複数の重合体を用いて、これらを組合せることにより共重合体としたコア部30を形成させてもよいし、コア部30を形成させる材料にドーパントを添加する方法が挙げられる。
【0067】
ドーパントは、上記のようなコア部30を形成させる重合性モノマーとは非重合性であり、屈折率が異なる化合物である。また、特許3332922号公報や特開平5−173026号公報などに記載されているような、モノマーの合成によって生成される重合体との比較において、溶解性パラメータとの差が、7(cal/cm3 1/2 以内であるとともに、屈折率の差が0.001以上であり、これを含有する重合体が無添加の重合体と比較して屈折率が変化する性質を有し、重合体と安定して共存可能であり、かつ上記の各部材を形成させる重合性モノマーの重合条件(加熱および加圧など)下において安定であるものであれば、特に限定することなく使用することができる。
【0068】
なお、コア部30のみにドーパントを添加する場合には、コア部30の主成分となるポリマーに対して、その添加率を0.01〜25重量%とすることが好ましく、1〜20重量%とすることがより好ましい。これにより、断面円形の径方向における屈折率分布係数を上記のような好ましい範囲により制御しやすくなる。また、このドーパント濃度は、径方向の中心へ向かうにしたがい次第に高くなるようにする。
【0069】
また、ドーパントは、高屈折率で分子体積が大きく、かつ重合に関与せずに溶融樹脂中で所定の拡散速度を有する低分子化合物を用いることが好ましい。本実施形態では、このようなドーパントを、コア部30を形成させる材料に添加した後、界面ゲル重合方法により重合の進行方向を制御するとともに、ドーパントの濃度に傾斜を持たせることにより、ドーパントの濃度分布に基づいてコア部30の径方向での屈折率を変化させている。ドーパントは重合性化合物であってもよいが、重合性化合物のドーパントを用いた場合には、これを共重合成分として含む共重合体が、これを含まない重合体と比較して屈折率が上昇する性質を有するものを用いることが好ましい。なお、ドーパントは、モノマーに限定されず、オリゴマー(ダイマー、トリマーなどを含む)であってもよい。
【0070】
ドーパントとしては、例えば、安息香酸ベンジル(BEN)、硫化ジフェニル(DPS)、リン酸トリフェニル(TPP)、フタル酸ベンジル−n−ブチル(BBP)、フタル酸ジフェニル(DPP)、ジフェニル(DP)、ジフェニルメタン(DPM)、リン酸トリクレジル(TCP)、ジフェニルスルホキシド(DPSO)などが挙げられ、中でも、BEN、DPS、TPP、DPSOが好ましい。なお、ドーパントは、例えば、トリブロモフェニルメタクリレートのように重合性化合物でもよい。この場合、ドーパントを分散させる母材を形成させる際に、重合性モノマーと重合性のドーパントとを共重合させるので、光学特性などの制御が困難となるが、耐熱性を向上させることができるなどの効果が得られる。
【0071】
なお、コア部30に屈折率の高低分布を付与する方法としては、本実施形態に限定されるものではなく、例えば、POF12の前駆体であるプリフォーム11を形成した後に、ドーパントを拡散させる方法も挙げられ、本発明に適用することができる。
【0072】
また、コア部30およびクラッド部31には、光伝送性能を低下させない範囲で、その他の添加剤を添加することができる。例えば、コア部30もしくはその一部に耐候性や耐久性などを向上させる目的で、安定剤を添加することができる。また、光伝送性能の向上を目的として、光信号増幅用の誘導放出機能化合物を添加することもできる。このような化合物を添加することにより、減衰した信号光を励起光により増幅することができ、伝送距離が向上するので、例えば、光伝送リンクの一部にファイバ増幅器として使用することができる。
【0073】
前述した重合開始剤や連鎖移動剤、ドーパントの各添加量については、使用するコア用形成材料の種類などに応じて、好ましい範囲を適宜決定することができる。本実施形態においては、重合開始剤は、コア用の重合性化合物に対して、0.005〜0.050質量%となるように添加しており、この添加率を0.010〜0.020質量%とすることがより好ましい。また、前記連鎖移動剤は、コア用の重合性化合物に対して、0.10〜0.40質量%となるように添加しており、この添加率を0.15〜0.30質量%とすることがより好ましい。
【0074】
本発明では、POF12の製造方法に関しては、特に限定されるものではなく、POF製造方法として公知の方法を適用することができる。本実施形態では、あらかじめ溶融押出成形により形成させた円筒状のアウタークラッド31aの内部に、インナークラッド31bおよびコア部30を形成させる材料を順次注入し、回転ゲル重合させて3層構造のプリフォーム11を作製後、これを加熱溶融させながら延伸させて所望の径のPOF12を形成させた。なお、本実施形態のように、いったんPOF12の前駆体であるプリフォーム11を形成後、POF12とする方法としては、例えば、コア部30とクラッド部31とを別々に形成後、これらの部材を組合せることによりプリフォーム11を形成させる方法や、各部材を形成させる材料を同心円状に一度に溶融押し出ししてプリフォーム11を形成後、これを延伸させてPOF12とする方法なども挙げられる。また、この他にも、プリフォーム11を形成させずに、各材料を溶融押し出しにより押し出してから、加熱するなどのエネルギーを加えることにより各材料を重合させてPOF12とする方法も挙げられる。
【0075】
なお、本発明によりPOFの外周に保護層を形成させて連続的かつ安定してコードを製造するために、保護層形成設備において塗布装置の前後や温浴槽など保護層形成用樹脂の硬化に使用する装置の前後などに、POFやコードの張力を測定するための張力測定装置を設け、測定により得られる張力を参考にしながら、搬送張力や速度を制御することが好ましい。これにより、POFやコードが途中で切断したり変形したりすることなくスムーズに搬送しながら作業を行うことができる。また、POFの外周に保護層を形成させる前に、POFの外周に送風するなどして粉塵などの異物を払拭させると、異物混入のない保護層を形成させることができる。
【0076】
また、本発明により得られるコード10を用いて、その外周を被覆することによりプラスチック光ファイバケーブル23(以下、ケーブルと称する)を製造する場合、その被覆形態は特に限定されるものではなく、様々な形態を用いることができる。この被覆形態としては、1本のコード10と被覆材との界面あるいは複数本束ねた状態のコード10の外周と被覆材との界面が、すべて接するように被覆される密着型被覆と、被覆材とコード10との界面に空隙を形成させるルース型被覆とがあり、これらを適宜選択して用いることができる。ただし、ルース型被覆は、例えば、コネクタとの接続部において被覆層が剥離した場合、その端面の空隙から水分が浸入して長手方向に拡散するおそれがあるため、通常は密着型被覆を行うことが好ましい。しかし、ルース型の場合は、被覆材とコード10とが密着していないので、ケーブル23にかかる応力や熱などのダメージの多くを被覆層により緩和させることができるという利点を有するため、使用目的によっては好ましく用いることができる。
【0077】
ただし、ルース型被覆でのコネクタ接続部からの水分の伝播は、流動性を有するゲル状の半固体や粉粒体を、コード10と被覆材との界面の空隙部に充填することにより防止することができる。さらに、これらの半固体や粉粒体に対して、耐熱や機械的機能の向上などの他の異なる機能を付与させると、多機能な被覆層を形成したケーブル23を製造することができる。また、ルース型被覆を行う場合、クロスヘッドダイの押出し口ニップルの位置を調整し減圧装置による減圧度を加減することにより、空隙を有する層を形成させることができる。この空隙層の厚みは、前述のニップル厚みと空隙層とを加圧/減圧することにより調整すればよい。なお、密着型およびルース型に関わらずコード10の外周に被覆材を被覆する場合には、この被覆材の中に、難燃剤や紫外線吸収剤,酸化防止剤,昇光剤,滑材などを光伝送特性に影響を及ぼさない条件範囲で添加してもよい。
【0078】
また、ケーブル23に複数の機能を付与させるために、さらに、適宜機能性層となる被覆層を積層させてもよい。難燃化層以外の機能層としては、例えば、POF12の吸湿を抑制するためのバリア層や、POF12に含有された水分を除去するための吸湿材料層などが挙げられる。なお、この吸湿材料層の付与方法としては、例えば、吸湿テープや吸湿ジェルを所定の被覆層内や被覆層間に設ける方法がある。
【0079】
さらに、その他の機能性層としては、可撓時の応力緩和のための柔軟性素材層や外部からの応力を緩衝するための緩衝材として機能する発泡材料層、剛性を向上させるための強化層などが挙げられる。また、ケーブル23の構造材(被覆材)としては、樹脂以外にも、例えば、高い弾性率を有する繊維(いわゆる抗張力繊維)および/または剛性の高い金属線などの線材を熱可塑性樹脂に含有させたものが挙げられる。このような材料を用いると、ケーブル23の力学的強度を補強することができるために好ましい。
【0080】
なお、抗張力繊維としては、例えば、アラミド繊維,ポリエステル繊維,ポリアミド繊維が挙げられる。また、金属線としては、ステンレス線,亜鉛合金線,銅線などが挙げられる。ただし、本発明に適用することができる抗張力繊維および金属線は、これらに限定されるものではない。その他にも、ケーブル23を保護するための金属管の外装や架空用の支持線、配線時の作業性を向上させるための機構などをケーブル23の外周部に組み込むこともできる。そして、ケーブル23の形状は使用形態によって、コード10を同心円上にまとめた集合型のものや一列に並べたテープ型のもの、さらに、それらを押え巻やラップシースなどでまとめたものなどが挙げられる。なお、これらの使用形態は、用途に応じて適宜選択すればよい。
【0081】
なお、本発明において、難燃剤を付与した保護層を設けたコード10は優れた難燃性を発現する。この難燃性の評価は、UL(Underwriters Laboratory)で決められている難燃性の規格のうち、燃焼試験を行うことにより評価される。この燃焼試験としては、サンプルの形態によって異なる場合もあるが、概ね燃焼性能の低い順に、CMX(燃焼試験、通常VW−1試験と称される)、CM(垂直トレイ燃焼試験)、CMR(ライザー試験)、CMP(プレナム試験)などのグレードが設定されている。POFの場合、芯材の多くが可燃性材料で形成されているため、火災時の延焼を防ぐために、VW−1以上の規格を有したコード10またはケーブル23であることが好ましい。
【0082】
本発明のコード10から得られたケーブル23は、従来品と比べて軸ずれに対する許容度が高いために、簡単な冶具による突き合せにより接合しても用いることができる。ただし、より好ましくは、光ケーブルの端部に接続用光コネクタを備えて、互いの接続部を確実に固定することである。また、コネクタは、一般に知られているPN型,SMA型,SMI型などの市販の各種コネクタを利用することが可能である。そのため、本発明のケーブル23は、種々の発光素子や受光素子や光スイッチ,光アイソレータ,光集積回路,光送受信モジュールなどの光部品を含む光信号処理装置などが組み合わされて好適に用いられる。この際、必要に応じて他の光ファイバなどと組合せてもよい。それらに関連する技術としてはいかなる公知の技術も適用することができる。例えば、プラスティックオプティカルファイバの基礎と実際(エヌ・ティー・エス社発行)、日経エレクトロニクス2001.12.3号110頁〜127頁「プリント配線基板に光部品が載る,今度こそ」などを参考にすることができる。
【0083】
また、これらの文献に記載の種々の技術と組み合わせることによって、コンピュータや各種デジタル機器内の装置内配線,車両や船舶などの内部配線,光端末とデジタル機器,デジタル機器同士の光リンクや一般家庭や集合住宅・工場・オフィス・病院・学校などの屋内や域内の光LANなどをはじめとする高速大容量のデータ通信や電磁波の影響を受けない制御用途などの短距離に適した光伝送システムに好適に用いることができる。
【0084】
さらに、IEICE TRANS. ELECTRON.,VOL.E84−C,No.3,MARCH 2001,p.339−344 「High−Uniformity Star Coupler Using Diffused Light Transmission」,エレクトロニクス実装学会誌 Vol.3,No.6,2000 476頁〜480頁「光シートバス技術によるインタコネクション」の記載されているものや、特開2003−152284号公報に記載の導波路面に対する発光素子の配置;特開平10−123350号、特開2002−90571号、特開2001−290055号などの各公報に記載の光バス;特開2001−74971号、特開2000−329962号、特開2001−74966号、特開2001−74968号、特開2001−318263号、特開2001−311840号などの各公報に記載の光分岐結合装置;特開2000−241655号などの公報に記載の光スターカプラ;特開2002−62457号、特開2002−101044号、特開2001−305395号などの各公報に記載の光信号伝達装置や光データバスシステム;特開2002−23011号などに記載の光信号処理装置;特開2001−86537号などに記載の光信号クロスコネクトシステム;特開2002−26815号などに記載の光伝送システム;特開2001−339554号、特開2001−339555号などの各公報に記載のマルチファンクションシステム;や各種の光導波路、光分岐器、光結合器、光合波器、光分波器などと組み合わせることで、多重化した送受信などを使用したより高度な光伝送システムを構築することができる。
【0085】
以上の光伝送用途以外にも、照明(導光)やエネルギー伝送,イルミネーション、レンズ、センサ分野にも用いることができる。レンズとしては、例えば、径の中心から外側に向かって次第に屈折率が低くなる凸レンズや、逆に、径の中心から外側に向かって次第に屈折率が高くなる凹レンズにも本発明を適用させることができる。
【0086】
以下、実施例を示し、本発明の効果を具体的に説明する。ただし、本発明に関する実施例は、ここに示す形態に限定されるものではない。また、プリフォームやPOFの製造条件および製造方法などに関しては、実施例1において詳細に説明し、実施例2において、実施例1と同じ場合には説明を省略する。なお、実施例2は、実施例1に対する比較例である。
【実施例1】
【0087】
実施例1では、あらかじめ作製したPOF12の外周に、図3に示す保護層形成設備40に代えて図4に示す塗布装置を使用した。図4に、実施例1で使用した塗布装置の概略図を示す。塗布装置80は、図3における樹脂ポットとして機能するダイヘッド81と攪拌機としてスクリュー式定量供給装置82と加圧容器83とを備えている。
【0088】
加圧容器83には、あらかじめ保護層形成用樹脂85が充填されたカートリッジ86が所定の位置に設置されている。また、加圧容器83には、空気圧力調整器87が接続されている。そして、保護層形成用樹脂85をダイヘッド81に送出す要求に応じて、空気圧力調整器87から圧縮空気が加圧容器54に送られる。これにより、加圧容器83が加圧され、カートリッジ式のスライド式底ブタ89が下方に移動させられて、カートリッジ86内の保護層形成用樹脂85がスクリュー式定量供給装置82に送り込まれる。なお、空気圧力調整器87による加圧の程度は、使用する保護層形成用樹脂85の粘度、または所望の押出量が得られる値となるように適宜調整されればよく、特に限定はされない。
【0089】
スクリュー式定量供給装置82の内部には、モータ88により動きが制御されるスクリュー82aが備えられている。そして、このスクリュー82aを回転させることにより、保護層形成用樹脂85は安定的に、適宜ダイヘッド81に送り込まれる。このように、ダイヘッド81に送り込む前の保護層形成用樹脂85をスクリュー式定量供給装置82で押し出すと、保護層形成用樹脂85が安定的に供給でき、保護層の厚みの制御が容易になるので好ましい。
【0090】
また、ダイヘッド81の内部で、スクリュー式定量供給装置82から供給される保護層形成用樹脂85が、搬送されるPOF12の外周に押し出される。以上より、POF12の外周に保護層形成用樹脂85が塗布されて塗布済みPOF60となる。なお、ダイヘッド81の形状は、POF12などの塗布対象物の外周に保護層形成用樹脂85を略均一に塗布することができるものであればよく、特に限定されない。
【0091】
POF12の作製方法について説明する。アウタークラッド31aは、PVDFを用いて、市販の溶融押出成形により内径18.7mm、長さ90cmの円筒管を作製した。そして、この円筒管の中に、インナークラッド31b用の原料として、蒸留によって水分を100ppm以下に除去したラジカル重合性化合物である重水素化メタクリル酸メチル(MMA−d8)を204.1gと、重合開始剤としてジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)(商品名;V−601、和光純薬(株)製)と、連鎖移動剤としてn−ラウリルメルカプタンとの混合物を、所定温度に調整してから注入した。なお、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)とn−ラウリルメルカプタンとのMMAに対する添加率は、それぞれ0.012モル%と0.2モル%である。
【0092】
インナークラッド用原料が注入された円筒管を、その長手方向が水平となるように回転重合装置(図示しない)内部の重合容器にセットし、これを3000rpmで回転させながら70℃の雰囲気下で22時間加熱させて回転重合を行った。このとき、回転する重合容器の近傍、具体的には1〜2cm離れたところに非接地型熱電対を設け、この熱電対による測定温度を重合反応による反応温度とみなして測定した。そして、この方法により反応温度を測定し、重合反応の発熱による温度ピークを求めたところ、実施例1では、重合開始から約15時間経過後に、60.8℃の発熱ピークが認められた。このようにして、アウタークラッド31aの内側にPMMA−d8からなる円筒状の層を形成させて、この層をインナークラッド31bとした。
【0093】
常温常圧下において、インナークラッド31bの中空部に、コア部30を形成させる材料を注入した。コア部形成材料は、水分を100ppm以下に除去したMMA−d8を81.7gと、重合開始剤としてジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)と、連鎖移動剤としてn−ラウリルメルカプタンと、ドーパントとして非重合性化合物であるジフェニルスルフィド(DPS)との混合物である。なお、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)と、n−ラウリルメルカプタンと、DPSとのMMAに対する添加率は、それぞれ0.04モル%、0.2モル%、7モル%とした。
【0094】
次に、コア部形成材料が注入されたクラッド部31を、先ほど使用した回転重合装置内の重合容器に、その長手方向が水平となるようにセットした後、回転速度を3000rpmとして回転させながら、70℃の雰囲気下で5時間加熱重合させた。その後、90℃に雰囲気温度を上げて5時間加熱重合させてから、さらに、回転速度を500rpmとして回転を継続し、120℃で24時間、熱処理を行うことによりコア部30を形成させた。なお、コア部30形成後、回転させながら自然冷却を行い、径の外側から中心に向かうにしたがい次第に屈折率が高くなるGI型のプリフォーム11を得た。このプリフォーム11のTgは90℃であった。
【0095】
プリフォーム11を、内部の温度と湿度とを調整することができる乾燥装置内に保管した。実施例1では、内部環境を23℃/5%以下の雰囲気としたデシケータ(図示しない)の内部にプリフォーム11を入れて、1週間静置させた。そして、加熱延伸装置(図示しない)により、このプリフォーム11を加熱しながら延伸させて、外径が320μmのPOF12を製造した。このとき、POF12は、巻取ロールに巻き取ってロール状とした。なお、得られたPOF12の伝送損失は、測定波長650nmにおいて76dB/kmであり、伝送帯域は2.2Gb/s・100mであった。
【0096】
このプリフォーム11を加熱延伸させて得られるPOF12の外周に保護層を形成させてコード10を製造した。まず、POF送出しリール50にセットしたPOFロールから、連続的にPOF12を送出して、支持ローラ52で支持しながらダイヘッド81に送り込んだ。そして、ダイヘッド81の内部に、保護層形成用樹脂85として、粘度が160Pa・Sである1液低温熱硬化ウレタンエラストマー(サンスター技研(株)製、自在成型エラストマー「PENGUIN FOAM」RD10336C)を送り込んで、塗布外径が1.2mmとなるように塗布した。この塗布時には、あらかじめ、上記エラストマーを充填させたカートリッジ86を加圧容器83にセットし、空気圧力調整器87により2気圧に加圧し、常時一定となるように圧力を調整しながら、送出し温度を常温として保護層形成用樹脂85をダイヘッド81に送り込んだ。なお、スクリュー式定量供給装置82の内部のスクリュー82aの回転数は、保護層形成用樹脂85が硬化した後のコード10の外径をレーザー式外径測定機(図示しない)により測定した値が一定となるように制御した。
【0097】
保護層形成用樹脂85が塗布された塗布済みPOF60を温浴槽43に送り込み、プーリ62により巻き掛けながら搬送する間に、樹脂を硬化させて保護層20を形成させた。このとき、塗布済みPOF60を温水60に5〜10秒間浸漬するように搬送速度を調整するとともに、温度調整装置63により温水60を循環させながら80℃となるように調整した。そして、支持ローラ65で支持されながら、第1水分除去装置70および第2水分除去装置71に送り込まれて十分にコード10の外周に付着している水分が除去された後、コード10を巻取りロール76で巻き取った。なお、温浴槽43から下流へコード10を搬送する際の張力は、コード10の断裂や変形が生じないように引取りローラ44により調整し、引取りローラ44によるコード10の引取り速度は20m/分とした。製造したコード10の難燃性を、ULにより規格されている試験のうち、UL−1581準拠での燃焼性試験を行ったところ、優れた難燃性を示すVW−1を達成した。また、保護層形成設備40の消費電力を測定したところ、1.8kWhであった。
【実施例2】
【0098】
実施例1で作製したPOFの外周に、図5に示す保護層形成設備90により保護層形成用樹脂を塗布してコード110を作製した。保護層形成設備90は、一般的に電線や石英系光ファイバ素線などの被覆時に使用されている代表的な設備であり、この設備も本発明に適用することができる。この保護層形成設備90は、送出装置91と粉塵除去装置92と塗布装置93と第1冷却装置94と第2冷却装置95と水分除去装置96と引取装置97と巻取装置98とを有する。
【0099】
送出装置91には、張力制御手段が備えられており、所定の位置に取り付けられたPOFロール91aから張力を調整しながらPOF100を粉塵除去装置92へと送り出す。そして、POF100は粉塵除去装置92の内部を搬送される間に、風が吹き付けられることにより外周に付着していた粉塵などが除去される。
【0100】
塗布装置93の内部には、保護層形成用樹脂が貯蔵されている送出装置101とダイヘッド102とが配されている。そして、所望の張力が付与されてPOF100が搬送される間に、ダイヘッド102において送出装置101から供給された保護層形成用樹脂がその外周に塗布される。このとき、POF100に付与される張力は、断裂や変形を生じさせないようにするために、できる限り小さい値であることが好ましく、700N/cm2 以下であることが好ましいが、この値に限定されるものではない。
【0101】
塗布済みPOF105は、第1冷却水槽94に送られた後、第2冷却水槽95に送られる。第1冷却水槽94および第2冷却水槽95は、ともに、所望の水温に調整された水槽を有しており、これらの水槽の内部に塗布済みPOF105が搬送時に浸漬されることにより、保護層形成用樹脂が硬化されて保護層が形成される。なお、冷却する装置として水槽を使用した形態を示したが、特に限定されるものではなく、例えば、送風機により塗布済みコード105に直接冷却風を吹き付けてもよい。
【0102】
冷却後、コード110は水分除去装置96の内部を搬送される間に、送風されることによりその外周に付着している水分が払拭される。そして、引取装置97の内部に配されている引取ローラ97aで搬送された後に、巻取装置98内の巻取ロール98aで巻き取られる。また、引取装置97と巻取装置98との間には、外観検査装置120と外径測定装置121と張力計122とが備えられている。そして、外観検査装置120により、コード110の表面に付着している異物(例えば、保護層形成用樹脂の凝集による瘤)などの有無を観察するとともに、外径測定装置121により、コード10の径が所望の値となっているかどうかを判断することにより、規格外製品であるか否かの判断を行うことができる。なお、張力計122により逐次張力を観察し、調整しながら作業を行うと、POF100やコード110の切断や変形を抑制しながら保護層形成に関わる作業を行うことができるので好ましい。
【0103】
実施例2では、まず、送出装置91内部の所定の位置にセットしたPOFロール91aからPOF100を粉塵除去装置92へと逐次送出し、POF100の外周に付着している粉塵などの異物を除去した。そして、塗布装置93に送り込み、POF100が所定の位置に搬送された時点で、送出装置101からダイヘッド102に所望の量のPVCを送り込み、POF100の外周に塗布した。このとき、PVCを送出す際の温度を170℃とし、搬送速度を20m/分となるように調整しながら塗布処理を行った。
【0104】
次に、塗布済みPOF105を冷却水の温度がともに10℃となるように調整した第1冷却装置94と第2冷却装置95とを用いて、この内部を搬送する間にPVCを冷却させて保護層を設けたコード110を作製した。実施例2では、保護層形成用樹脂の塗布処理を行うことはできたが、得られたコード110の伝送損失は1000dB/km以上であり、コード110を径方向に切断し、その断面を観察したところ、POF100とPVC保護層との間で融着が見られた。また、実施例1と同じ方法により製造したコード110の難燃性試験を行った結果、V−0を達成した。なお、実施例2での保護層形成設備90の消費電力は、20.7kWhであった。
【0105】
実施例1,2の結果から、本発明を適用した実施例1は、実施例2と比較して、所定の粘度範囲であり、所望の特性を付与する難燃剤などの添加剤を添加した保護層形成用樹脂を使用して保護層を形成させたので、比較的低温で塗布工程を行うことができ、かつ(Tg−50)〜Tg(℃)と比較的低温領域で硬化反応を促進させることができることが分かる。そのため、塗布工程などの途中でPOH12が切断したり、高熱に晒されることで変形や劣化が生じたりすることなしにコード10を製造することができるので、結果として、優れた生産性を図りながら、その外周に優れた難燃性などの所望の特性を有するコード10を製造することができることが分かる。なお、上記のように低温での塗布作業が可能となると、所望の特性を有する保護層を一度で形成させることができるので、細径のコード10を得ることが可能となる。
【0106】
また、消費電力に関しては、実施例1の値は、実施例2に対して約1/11と非常に低い。この原因として、実施例1では、保護層形成用樹脂55aとして所定の粘度範囲の樹脂を使用したので、塗布時での押出圧力、および圧縮空気の使用により、一般的な被覆樹脂を加熱、溶融および冷却するためにエネルギーが大幅に低減することができるとともに、被覆樹脂の低温化を図ることができるため、塗布時におけるPOF12への圧力付加の低減、かつ加熱によるPOF12の劣化を抑制することができると考えられる。なお、実施例1では、保護層形成用樹脂の硬化工程では温浴槽43を使用したが、これにより、低エネルギー化が図れることも低消費電力の一因と考えられる。なお、上記の効果意外にも、実施例1では、装置の簡略化による装置製作費用の低減や装置の小型化が期待できる。
【0107】
以上より、本発明をPOFの製造方法に適用すると、作業の途中でPOFが切断したり、変形または劣化したりすることなく、かつ低エネルギーで、難燃性などの特性を有する保護層をPOFの外周に形成させることができる。このようにしてPOFの外周に保護層が設けられたコードは、保護層による機能性を示し、かつ優れた光学特性を有する。したがって、本発明は、優れた生産性および低消費電力を実現することができるプラスチック光学材料の製造方法であることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】本発明を利用したプラスチック光ファイバコードの製造工程図である。
【図2】本発明のプラスチック光ファイバコードの径方向での断面図である。
【図3】本発明で使用する保護層形成設備の概略図である。
【図4】塗布装置の別形態の概略図である。
【図5】保護層形成用設備の別形態の概略図である。
【符号の説明】
【0109】
10 プラスチック光ファイバコード
11 プリフォーム
12 プラスチック光ファイバ素線(POF)
17 保護層形成工程
18 塗布工程
19 硬化工程
20 保護層
30 コア部
31 クラッド部
55a 保護層形成用樹脂


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーよりなる光導波路に保護層を設けたプラスチック光学材料の製造方法において、
粘度が10〜200(Pa・S)の保護層形成材料中に前記光導波路を通過させて、前記光導波路の外周に保護層形成材料を塗布する塗布工程と、
前記ポリマーのガラス転移温度をTgとするとき、
前記塗布工程で塗布された前記保護層形成材料を、(Tg−50)〜Tg(℃)の温度で硬化させる保護層形成材料硬化工程とを有することを特徴とするプラスチック光学材料の製造方法。
【請求項2】
前記塗布工程では、前記保護層形成用樹脂を充填した容器を加圧し、この加圧により前記光導波路の外周に前記保護層形成材料を押し出すことを特徴とする請求項1記載のプラスチック光学材料の製造方法。
【請求項3】
前記保護層は、塩素化合物、臭素化合物、アンチモン化合物、カドミウム化合物、鉛化合物、クロム化合物、亜鉛化合物、錫化合物のいずれかを含まないことを特徴とする請求項1または2記載のプラスチック光学材料の製造方法。
【請求項4】
前記光導波路が複数のガラス転移温度を有する領域からなる場合には、この複数の領域のガラス転移温度のうち、もっとも低いガラス転移温度を、前記Tgとすることを特徴とする請求項1ないし3いずれかひとつ記載のプラスチック光学材料の製造方法。
【請求項5】
前記保護層形成材料の硬化に要する時間T1が、1秒以上10分以下であることを特徴とする請求項1ないし4いずれかひとつ記載のプラスチック光学材料の製造方法。
【請求項6】
前記光導波路はプラスチック光ファイバ素線であり、前記プラスチック光ファイバ素線の前記保護層を含む外径が、1.5mm以下であることを特徴とする請求項1ないし5いずれかひとつ記載のプラスチック光学材料の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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