説明

プラスチック光学部材の分子配向分析法

【課題】 2以上の層からなる光学部材の内側に位置する層の分子配向を、非破壊・非接触で分析する方法を提供する。
【解決手段】 2以上の層からなる光学部材4に、赤外領域の偏光波3を断続的に照射して、光音響効果に基づく音波5を発生させ、該音波を検出して吸収スペクトル7を得ることにより、最外層より内側に位置する層の分子配向を分析する方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2層以上からなる光学部材の最外層より内側に位置する層の分子配向を、非破壊・非接触で分析する方法に関する。本発明の分析方法は、例えば、コア部とそれを被覆するクラッド部とを有するプラスチック光ファイバのコア部の分子配向の分析に適する。
【背景技術】
【0002】
ポリマー等の有機材料からなる光学部材には、フィルム、ファイバ等の種々の形態があるが、複数の層から構成されているものが多い。例えば、プラスチック光ファイバは、一般的には、コア部と、これを被覆するクラッド部とを有し、プリフォームと呼ばれる母材を延伸することによって作製される。この様に、ファイバを製造する際は延伸を行なうことから、ファイバを構成しているポリマーには分子配向が生じていることが予想される。ポリマー材料の分子配向状態、特にコア部の分子配向状態は、機械的強度のみならず、光学特性にも影響を与える場合があるため、分子配向を分析することは、プラスチック光ファイバの開発において重要である。また、プラスチック光ファイバのみならず、光学フィルムなども延伸により作製する場合が多く、その分子配向状態を知ることは、同様に、光学フィルムの開発において重要である。
【0003】
ポリマー分子配向分析には、赤外分光法と二色比法を組み合わせた分析法が用いられることがある。この分析においては、透過法又はATR法が適用されることが多い。しかしながら、プラスチック光ファイバのコア部の分子配向の分析に、上記透過法を利用すると、プラスチック光ファイバの厚みが数百μm以上であるため、吸収が飽和してしまうという問題がある。また、上記ATR法を利用すると、プリズムとの接触面が小さいため、吸収が弱いという問題がある。さらに、ATR法による測定深さの限界は数μm以下であり、プラスチック光ファイバのコア部までは測定ができない。また、プラスチック光ファイバの断面を切り出しして、顕微赤外分光法と二色比法を組み合わせた分析法で測定することができるが、この場合、試料処理を行なうことで分子配向状態が変化することがわかっている。
【0004】
この様に、クラッド/コア構造を有するプラスチック光ファイバのコア部分子配向を分析するためには、以下の条件を満たす必要がある。
(1) 非破壊・非接触(圧力等で分子配向が変わる)で測定できること、
(2) プラスチック光ファイバ最外周から10μm以上の内部まで測定できること、
(3)吸収が飽和しないように測定深さを自由に変えられること。
これらの条件を満たす分析法として、光熱変換分光法であるPAS法(光音響法)と、赤外分光法と、二色比法とを組み合わせた分析方法が提案されている(非特許文献1)。しかしながら、非特許文献1では、一様な材料から形成された単層構造のプラスチック光ファイバの分子配向の分析を行っていて、表面からある程度の深さに位置するコア部の分子配向を分析することについては記載がない。
【非特許文献1】Macromol.Symp.205 105(2004),Klaus−Jochen Eichhorn,Gudrum Adams
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、2以上の層からなるプラスチック光学部材の内側に位置する層、例えば、コア/クラッド構造のプラスチック光ファイバのコア部、の分子配向を、非破壊・非接触で分析する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための手段は以下の通りである。
[1] 2以上の層からなるプラスチック光学部材に、赤外領域の偏光波を断続的に照射して、光音響効果に基づく音波を発生させ、該音波を検出して吸収スペクトルを得ることにより、最外層より内側に位置する層の分子配向を分析する方法。
[2] 最表面からd(μm)内側に位置する層の分子配向を、連続走査方式干渉計を備えた赤外分光光度計を用い、且つ下記式(1)を満足する干渉計駆動鏡速度V(cm/sec)で分析する[1]の分析方法:
【0007】
【数1】

αs:最表面からd(μm)の深さまでに配置された層の熱拡散率(cm2/sec)
v:測定赤外波長(cm-1)。
【0008】
[3] 最表面からd(μm)内側に位置する層の分子配向分析する際に、測定波長における変調周波数f(1/sec)が下記式(2)を満足する[1]又は[2]の分析方法:
【0009】
【数2】

αs:最表面からd(μm)の深さまでに配置された層の熱拡散率(cm2/sec)。
【0010】
[4] 前記プラスチック光学部材が、厚みd(μm)のクラッド部とコア部とからなるプラスチック光ファイバであり、前記コア部の分子配向状態を分析する[1]〜[3]のいずれかの分析方法。
[5] dが 3〜 50μmである[1]〜[4]のいずれかの分析方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、2以上の層からなる光学部材の内側に位置する層、例えば、コア/クラッド構造のプラスチック光ファイバのコア部、の分子配向を、非破壊・非接触で分析する方法を提供することができる。また、本発明の分析方法を利用することにより、良好な性能を有するプラスチック光ファイバを安定的に製造することができる。
【発明の実施の形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
図1に本発明の分析方法の一実施形態の模式図を示す。本発明の分析方法の一実施形態は、光源1から発生する赤外領域の光を偏光子2によって互いに直交する偏光波3、P波およびS波に分割し、いずれか一方のみをプラスチック光ファイバ4に、断続的に照射する。プラスチック光ファイバ4は、クラッド部4bに被覆されたコア部4aを有する。プラスチック光ファイバ4のコア部4aによって吸収された光は熱に変換されて、内部から外周に向かって熱拡散をおこし、試料と接触する気体を振動させることによって音波5を発生する。即ち、光音響効果に基づいて音波5を発生する。この音波5をディテクタ6によって検出し、検出された値から吸収スペクトル7を得る。他方の偏光波についても同様にして吸収スペクトル7を得る。得られる吸収スペクトル7には、コア部4aを構成しているポリマーの、種々のセグメントの伸縮振動準位の遷移に帰属される吸収ピークが現われる。ポリマーが分子配向している場合は、S波及びP波を照射して得られるそれぞれの吸収スペクトルは異なり、特定のセグメントの振動準位の遷移に帰属される吸収ピークの強度が異なる。吸収ピークの強度Iの比(I‖(ファイバ延伸方向に対する平行波の照射によって得られた強度)/I⊥(ファイバ延伸方向に対する垂直波(⊥波)の照射によって得られた強度)、以下「二色比」という場合がある)を求めることによって、分子結合ベクトルの方向、即ち分子の配向を知ることができる。なお、無配向の状態では、I‖/I⊥は理論的には1になる。
【0013】
例えば、ポリ(メタ)アクリレート系のポリマー材料では、主鎖にCH結合が存在する。ポリ(メタ)アクリレート系のポリマー材料からなるコア部を有するプラスチック光ファイバを測定した場合は、CHの横揺れ振動の遷移に帰属される吸収ピークが約752cm-1付近に現われる。この吸収ピークの二色比を求めることによって、分子の配向の程度を知ることができる。二色比と、試料の光学特性又は機械特性の優劣との関連性、及び該二色比と延伸条件との関連性が見出されれば、最適な特性を示す光学部材を作製するための延伸条件を求めることができる。また、複数のセグメントの伸縮振動の遷移に帰属される吸収ピークの二色比を用いることによって、より詳細な分子配向状態を知ることもできる。
【0014】
吸収ピークの二色比によって、分子配向状態を知る具体的な解析方法については、例えば、Macromol.Symp.205 105(2004),Klaus−Jochen Eichhorn,Gudrum Adamsに詳細が記載されていて、これを参考にすることができる。
【0015】
本発明では、PAS法(光音響法:Photo Acoustic Spectrometry)を利用して、分子配向状態を知るための吸収スペクトルを得る。PAS法では、試料により吸収された光が、熱に変換され、試料内部から外周に向かい熱拡散をおこし、試料と接触する気体を振動させることで生じる音波を測定する。PAS法では、断続的に光を試料に入射する。即ち、ON・OFFが繰り返される変調光を試料に入射する。測定深さ(「熱拡散長」という場合もある)は、ON・OFFの周期によよってコントロールすることができる。本発明では、PAS法のこの特徴を利用して、2層以上からなるプラスチック光学部材の最外層より内側に配置された層(例えばコア部とクラッド部からなるプラスチック光ファイバのコア部)中の分子配向状態を分析している。本発明の製造方法では、外側から赤外領域の偏光波を断続的に試料に入射することによって、非破壊・非接触で最外層の内側に位置する層の分子配向状態を分析することができる。
【0016】
入射光のON・OFFの周期は、例えば、連続走査方式干渉計を備えた赤外分光光度計を用いた場合は、干渉計駆動鏡速度V(cm/sec)によって調整することができる。本発明者が鋭意検討した結果、最表面からd(μm)内側に位置する層の分子配向を分析する場合は、干渉計駆動鏡速度Vを以下の式(1)を満足する範囲に設定するのが好ましい。
【0017】
【数3】

なお、式中、αsは最表面から分析対象の層が位置するd(μm)の深さまでに配置された層の熱拡散率(cm2/sec)であり、例えば、試料が、コア部と厚さd(μm)のクラッド部とを有するプラスチック光ファイバの場合は、クラッド部の熱拡散率になる。また、最表面から分析対象の層にいたるまでに2以上の層が配置されている場合は、それらの層の熱拡散率の平均値が用いられる。式中、νは測定赤外波長(cm-1)であり、通常、4000〜400cm-1である。
【0018】
勿論、干渉計駆動鏡速度V以外で入射光のON・OFFの周期、即ち、測定波数の変調周波数f(1/sec)、をコントロールしてもよい。いずれで制御する場合も、最表面からd(μm)内側に位置する層の分子配向を分析する場合は、測定波長の変調周波数fが、下記式(2)を満足するのが好ましい。
【0019】
【数4】

式中、αsは前述した通りである。
【0020】
本発明の分析方法は、2層以上からなり、分子配向を発現する工程、例えば延伸工程、を経て製造されたプラスチック光学部材の分子配向の分析方法として有用である。特に、より内側に位置する層の分子配向状態が光学特性や機械的特性に大きく影響を与えるプラスチック光学部材の分子配向の分析方法として非常に有効である。より具体的には、コア/クラッド構造のプラスチック光ファイバのコア部の分子配向状態の分析、コア/クラッド構造の光導波路のコア部の分子配向解析等に有効である。本発明の分析方法は、偏光波が入射する最表面から3μm〜50μmに位置する層の分子配向を分析するのに適し、5μm〜30μmに位置する層の分子配向を分析するのにより適している。また、分析対象となる内側に位置する層の厚みについては特に制限はないが、通常、100〜1000μmであるのが好ましい。
【0021】
また、本発明の分析方法は、プラスチック光学部材の製造方法に利用することができる。延伸工程を経て作製される光ファイバ、光学フィルム等のプラスチック光学部材は、延伸条件によって分子配向状態が変化し、機械的特性のみならず、光学特性の優劣を作用する場合がある。延伸工程を実施する前に、同一材料からなるサンプルについて本発明の分析方法を実施して、少なくとも一つの吸収ピークの二色比を求め、この二色比と該サンプルの機械的特性又は光学特性との関係から、延伸条件を最適化し、この最適化された延伸条件によって延伸を実施すると、良好な性能の光ファイバを安定的に作製することができる。上記した様に、本発明の分析方法によって得られる二色比は、分子配向状態の指標になり、延伸条件との相関性が高い。従って、特定のポリマー材料からなる光学部材について、所望の光学特性や機械的特性を示す場合の二色比を事前に求めておけば、この二色比が得られる様に延伸条件、例えば、延伸時の張力、温度など、を最適化することは容易である。その結果、信頼性高く、安定的に良好な性能のプラスチック光学部材を作製することができる。
【0022】
また、例えば、クラッド部とコア部とからなるプラスチック光ファイバの製造に適用する場合は、クラッド部の厚さd(μm)に応じて、分析時の干渉計駆動鏡速度Vが前記式(1)を満足するように、又は変調周波数fが前記式(2)を満足する様に設定すれば、コア部の分子配向状態の指標となる二色比が得られるので、より光学特性や機械的特性との相関が明確になり、より高い信頼性で製造することができる。
【0023】
例えば、本発明の分析方法は、プリフォームを延伸してプラスチック光ファイバを製造する場合に、製造条件を最適化するのに好ましく用いられる。具体的には、延伸条件を固定して連続的にファイバを製造する前に、延伸条件を最適化するために、所定の延伸条件(例えば、プリフォームを下流に押出す速度と延伸ロ−ルの回転速度等によって決定される延伸張力や、プリフォームを加熱する加熱炉の温度によって決定される延伸温度)を任意の範囲で変化させてプリフォームを延伸して、種々のファイバを作製する。異なる延伸条件で作製された複数のファイバについて、本発明の分析方法により、吸収スペクトルを得、少なくとも1つの吸収ピークの二色比を求める。二色比は分子配向状態の指標となるので、延伸条件との相関性が高く、特定の二色比を得るための延伸条件を容易に決定することができる。さらに、種々の延伸条件で作製された複数のファイバについて、光伝送損失等の光学特性や、外力を受けた際の破断性等の機械的特性を評価し、二色比との相関を求め、所望の特性を示すプラスチック光ファイバの二色比を決定する。上記で求めた二色比と延伸条件との相関性から、所望の特性を示すプラスチック光ファイバの延伸条件を求めることができる。
なお、プリフォームの製造方法については特に制限されない。例えば、特許3332922号公報に記載の界面ゲル重合を利用した方法、特開2001−215345号公報等に記載の回転重合を利用した方法、等、いずれの方法で作製してもよい。
【実施例】
【0024】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
[実施例1]
(ファイバの作製)
図2に示すコア(ポリメチルメタクリレート(PMMA))/クラッド(ポリフッ化ビニリデン(PVDF))構造のプラスチック光ファイバに、表1に示した種々の温度でアニール処理を施し、分子配向を緩和させた試料を数種類作製した。これらの試料に、同一条件で、赤外領域の偏光波を断続的に照射し、発生した音波に基づいて吸収スペクトルを得た。なお、分析には、以下の機器を用いた。分光器としては、連続走査方式干渉計を用いた下記の赤外分光器を用い、測定波数4000〜400cm-1において干渉計駆動鏡速度Vを0.08cm/sec及び0.16cm/secに設定してそれぞれ測定した。
分光器:FTS60A/896 (デジラボ製)
偏光子:KRS5基板にアルミをワイヤーグリッド蒸着 PL81(日本分光製)
PAS検出器:Model200 (MTEC製)
なお、PAS検出器試料フォルダーの下段に、過塩素酸マグネシウムを乾燥剤として設置し、上段に試料1本(1cm)設置した後、Heガス(流量5ml/sec)で5分間パージし、密閉した後に測定を開始した。
【0025】
PMMAの赤外吸収スペクトルは、2995cm-1(νCH)、1741cm-1(νC=O)、1485cm-1(δCH)及び752cm-1(γCH)に吸収ピークを示す。互いに直交する偏光波をそれぞれ照射した場合のこれらの各ピークの強度の比(二色比)を算出した。結果を表1に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
駆動鏡速度Vを0.08cm/secに設定した分析例1〜8では、いずれも2995cm-1、1741cm-1、1485cm-1及び752cm-1に吸収ピークが現われた。また、各ピークの二色比は、試料のアニール処理温度が高くなるに従い、即ち、試料中のPMMAの分子の配向が緩和するに従い、約0.92〜0.95に収束することがわかった(理論的には二色比は1に収束するが、ファイバは円筒形状であるので、前記範囲に収束したものと推測される)。したがって、本発明の分析方法によって、コア部の分子配向の程度を知ることができた。
なお、駆動鏡速度Vを0.16cm/secで測定した分析例では、クラッド部までしか熱拡散長が届かず、コア部のPMMAの赤外吸収スペクトルが検出できなかった。
【0028】
[実施例2]
クラッドの厚みを8、16、40μmに変えて、クラッド(PVDF)/コア(PMMA−d8)構成のファイバを各々作製した。
実施例1と同様に赤外吸収スペクトルを測定したが、本実施例では、駆動鏡速度Vとクラッド厚みとの関係を調べることを目的としたため、偏光子を用いず、偏光波に分割していない光を試料に入射した。測定波数2249cm-1(νCD)または675cm-1(γCD)において駆動鏡速度Vを以下の表2の様に設定し、コア部PMMA−d8の赤外吸収スペクトルの検出の有無を調べた。
【0029】
【表2】

【0030】
厚み8〜40μmのクラッド部を有するファイバでは、前記式(1)を満足する駆動鏡速度Vに設定すれば、クラッド部の内側に位置するコア部のPMMAの分子配向の状態を分析することができることがわかった。
【0031】
[実施例3]
クラッドの厚みを8、16、40μmに変えて、クラッド(PVDF)/コア(PMMA−d8)構成のファイバを各々作製した。
実施例1と同様に赤外吸収スペクトルを測定したが、本実施例では、測定波数の変調周波数fとクラッド厚みとの関係を調べることを目的としたため、偏光子を用いず、偏光波に分割していない光を試料に入射した。表3に示す変調周波数fに設定し、コア部PMMA−d8の赤外吸収スペクトルの検出の有無を調べた。
【0032】
【表3】

【0033】
厚み8〜40μmのクラッド部を有するファイバでは、測定波長における変調周波数fが前記式(2)を満足すれば、その内側に位置するコア部のPMMAの分子配向の状態を分析することができることがわかった。
【0034】
[実施例4]
厚み8μmのPVDFからなるクラッドとPMMAからなるコアファイバを、表4に示した様に、延伸張力を変えて種々作製した。
駆動鏡速度Vを0.0256cm/secとした以外は、実施例1の分子配向分析と同様に測定した。いずれの試料についても、2995cm-1、1741cm-1、1485cm-1及び752cm-1に吸収ピークが現われた。1485cm-1及び752cm-1の吸収ピークの二色比を算出した(分析例36〜42)。表4に結果を示す。
[比較例]
分析例36に用いた試料と同一の試料について、赤外吸収スペクトルを透過法及びATR法により測定した(分析例43及び44)。
【0035】
【表4】

【0036】
本発明の分析法による分析例36〜42では、比較的小さい張力で延伸した試料は、無配向状態を示す二色比0.92〜0.95の値に近似した二色比を示し、より大きい張力で延伸した試料は、大きい二色比を示した。本発明に従って分析することにより、延伸条件とコア部の分子配向状態の程度との関連性を知ることができた。さらに、これらの試料の光学特性として、波長650nmの光伝送損失を測定したところ、表4中に示す様に、二色比が大きい試料ほど光伝送損失が大きくなることがわかった。従って、本発明の分析方法により、光伝送損失の小さい光ファイバを作製するには、延伸時の張力が小さいほうが好ましいことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明によれば、非破壊・比接触で、プラスチック光学部材の表面からある程度の深さに位置する層の分子配向状態を分析することができる。本発明の分析方法は、プラスチック光ファイバ等のプラスチック光学部材の設計、製造条件の確立等に利用できると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の分析方法の一実施形態の模式図である。
【図2】実施例で作製した光ファイバの概略斜視図である。
【符号の説明】
【0039】
1 光源
2 偏光子
3 偏光波
4 光ファイバ
5 音波
6 ディテクタ
7 吸収スペクトル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2以上の層からなるプラスチック光学部材に、赤外領域の偏光波を断続的に照射して、光音響効果に基づく音波を発生させ、該音波を検出して吸収スペクトルを得ることにより、最外層より内側に位置する層の分子配向を分析する方法。
【請求項2】
最表面からd(μm)内側に位置する層の分子配向を、連続走査方式干渉計を備えた赤外分光光度計を用い、且つ下記式(1)を満足する干渉計駆動鏡速度V(cm/sec)で分析する請求項1に記載の分析方法。
【数1】

αs:最表面からd(μm)の深さまでに配置された層の熱拡散率(cm2/sec)
v:測定赤外波長(cm-1
【請求項3】
最表面からd(μm)内側に位置する層の分子配向を分析する場合に、測定波長における変調周波数f(1/sec)が下記式(2)を満足する請求項1又は2に記載の分析方法。
【数2】

αs:最表面からd(μm)の深さまでに配置された層の熱拡散率(cm2/sec)

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−71553(P2006−71553A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−257394(P2004−257394)
【出願日】平成16年9月3日(2004.9.3)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】