説明

プラスチック刃物用シート、プラスチック刃物、及び、フィルム状物収納用カートン

【課題】加工性、取り扱い性が良好で、刃物としたときに刃こぼれがなく、良好な切れ味が得られる安価なプラスチック刃物用シートを提供する。
【解決手段】無機質フィラーが配合されてなるフィラー配合層と、前記フィラー配合層の無機質フィラー配合量よりも少ない無機質フィラー配合量であるベース層とが、積層されてなるプラスチック刃物用シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製やセラミックス製の刃物に代替可能なプラスチック刃物、及び、そのようなプラスチック刃物を可能とするプラスチック刃物用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
家庭用、あるいは、業務用ラップフィルム、アルミホイル(フォイル)等は一般に、紙筒に巻かれた状態で、直方体の紙製の箱(フィルム状物収納用カートン)に収納されて供給される。
【0003】
使用者は、このような紙製の箱の蓋部を開けて、フィルムやホイルを所望の長さだけ引き出した後に蓋部を閉め、次いで、紙製の箱本体あるいは蓋部に設けられた金属製の刃によってフィルムやホイルを切断する。
【0004】
このような収納容器に関して、様々な問題があった。
1.使用中に金属製の刃により、けがをする場合がある。
2.金属製の刃は不燃物であるため、廃棄の際には分別のために紙製の箱から取り外す必要があったが、この場合、手間と危険性が問題となる。
3.上記2の作業を行わず廃棄した場合には、不燃ゴミの量が増加する、あるいは、可燃ゴミに金属部材が混入してしまう。
4.金属製の刃は原料が高価である。
【0005】
ここで、刃の部分を、硬い紙で構成する、あるいは、硬質なプラスチックで構成する等の対策が採られているが、水分による劣化や折れの発生(以上、紙の場合)、”切れ”が悪い、充分な耐久性が得られない等の問題がある。
【0006】
このため、特開平11−99498号公報(特許文献1)記載の技術では無機質フィラー(無機質充填材)を添加する技術が記載されているが、設備的にコストのかかる2軸延伸が必要であること、無機質フィラーの添加量が26重量%未満であることが必要であり、この添加量を超えて、充分な”切れ味”を得ようとすると極端に脆くなり、取り扱い性が大きく低下するとともに、鋸歯状に加工できても”刃こぼれ”が発生してしまうと云った大きな問題があることが判った。
【特許文献1】特開平11−99498号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、これらの問題点を改善する、すなわち、加工性、取り扱い性が良好で、刃物としたときに刃こぼれがなく、良好な切れ味が得られる安価なプラスチック刃物用シート、切れ味がよく、刃こぼれせず、原料樹脂をハロゲン化物を含まないものから選んだときには焼却処理が可能であり、人体を傷つけにくく安全性が高く、価格が安い刃物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のプラスチック刃物用シートは上記課題を解決するため、請求項1に記載の通り、無機質フィラーが配合されてなるフィラー配合層と、前記フィラー配合層の無機質フィラー配合量よりも少ない無機質フィラー配合量であるベース層とが、積層されてなることを特徴とするプラスチック刃物用シートである。
【0009】
さらに、本発明のプラスチック刃物用シートは請求項2に記載のとおり、請求項1に記載のプラスチック刃物用シートにおいて、前記ベース層の両側面のそれぞれに、少なくとも1層の前記フィラー配合層が、積層されていることを特徴とする。
【0010】
また、本発明のプラスチック刃物用シートは請求項3に記載のとおり、請求項1または請求項2に記載のプラスチック刃物用シートにおいて、上記フィラー配合層中の無機質フィラーの配合量が30重量%以上であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明のプラスチック刃物用シートは請求項4に記載のとおり、請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のプラスチック刃物用シートにおいて、上記無機質フィラーが、タルク、酸化チタン、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、及び、シリカから選ばれる1種以上であることを特徴とする。
【0012】
本発明のプラスチック刃物は請求項5に記載のとおり、上記請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のプラスチック刃物用シートからなることを特徴とするプラスチック刃物。
【0013】
本発明のフィルム状物収納用カートンは、請求項6に記載のとおり、上記請求項5に記載のプラスチック刃物を、内容するフィルム状物切断用に備えたことを特徴とするフィルム状物収納用カートンである。
【発明の効果】
【0014】
本発明のプラスチック刃物は、形状の自由性が高く、切れ味がよく、刃こぼれせず、使用樹脂をハロゲン化物を含まないものから選んだときには有害なハロゲン系ガスの発生なしに焼却処理が可能であり、人体を傷つけにくく、軽量で、安全性が高く、価格が安いものとなる。このため、一般家庭用刃物代替は勿論、玩具などの分野にも応用可能である。
【0015】
さらに、成形自由度が高いので、平面状の刃物のみならず、異形切断用(例えばピンキング鋏と同様の切断形状を得る)の刃部としても応用することができる。
【0016】
また、本発明のプラスチック刃物用シートによれば、上記の優れたプラスチック刃物を可能とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明のプラスチック刃物用シートは、無機質フィラーが配合されてなるフィラー配合層と、前記フィラー配合層の無機質フィラー配合量よりも少ない無機質フィラー配合量であるベース層とが、積層されてなることが必要である。
【0018】
無機質フィラーが配合されてなるフィラー配合層を構成するマトリックス樹脂成分としては一般な樹脂を用いることができるが、通常、コスト、焼却時の安全性、成形性等を勘案して、ハロゲン化物を含まないものから、刃物としての硬度、耐摩耗性を勘案し、選択するが、このような点から、ホモポリプロピレン、ブロックポリプロピレン、ランダムポリプロピレン、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン等であることが望ましい。
【0019】
無機質フィラーが配合されてなるフィラー配合層に配合される無機質フィラーとしては、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化チタン、酸化亜鉛、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、アルミナ、水酸化アルミニウム、シリカ、タルク、カオリン、ガラス粉等が挙げられる。これらの内、特にタルク、酸化チタン、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、シリカ等が好ましい。
【0020】
上記無機質フィラーのうち、酸化チタンについては、その結晶系からアナタース型、ルチル型、ブルカイト型に分類され、いずれの結晶系も通常は使用することができるが、有機物分解性を有する触媒能を有しないものから選択することが耐久性の点で望ましい。
【0021】
炭酸カルシウムは、結晶形としてカルサイト、アルゴナイト、バテライトが存在するが、いずれの結晶形も使用できる。シリカは天然または、合成で得られるケイ酸であり、カオリンは、天然に産出する含水ケイ酸アルミニウムで、結晶水を除去した焼成タイプも使用できる。一方、タルクは、天然に産出する含水ケイ酸マグネシウムである。
【0022】
上記無機質フィラーの大きさは平均粒径が5μm以上30μm以下のものを使うことが、均一分散性、成形性、強度(物性強度)の点で好ましい。
【0023】
また、これら無機質フィラーはマトリックス樹脂への分散性を向上させるために、表面をアルミナ、シリカ、酸化亜鉛等の酸化物で被覆したり、脂肪族ポリオール等で表面処理を施したものを用いても良い。
【0024】
上記フィラー配合層中の無機質フィラーの配合量は充分に良好な切れ味が得られるよう一般に20重量%以上、好ましくは30重量%以上とする。上限は樹脂、フィラーの種類、及び、層の厚さにもよるが、通常70重量%以下である。
【0025】
本発明のプラスチック刃物はこれら無機質フィラーの配合により燃焼カロリーの低減効果が得られるため、燃焼させても高温とならず、そのために紙などと一緒に焼却処分することも可能となる。
【0026】
マトリックス樹脂と無機質フィラーは一般的な手段、例えば、ロールミル、バンバリーミキサー、ニーダー、ヘンシェルミキサーなどによって混合し、均一分散させる。
【0027】
ベース層は上記フィラー配合層を支持し、強化するための層であるため、無機質フィラーは全く配合しないか、配合する場合であっても上記フィラー配合層での配合量よりも少ない無機質フィラー配合量とする。この結果、シートとしての無機質フィラー必要量が減少するので、シートに適度な弾性を付与することができ、割れや折れを防止することができる。
【0028】
ベース層を形成する樹脂としては、フィラー配合層を形成するマトリックス樹脂と同様に適宜選択できるが、リサイクル性、及び、フィラー配合層との層間剥離が防止される点(溶融押出ラミネートによる積層による場合)などを考慮すると、特殊な場合を除き、マトリックス樹脂と同じものを用いることが望ましい。
【0029】
これらフィラー配合層及びベース層には、本発明の効果を損なわない限りにおいて、顔料、染料などの着色剤、金属粉や強化材料(ガラス繊維、炭素繊維等)等の添加剤や添加材を添加しても良い。これらは層ごとに配合物、配合比をかえることができ、例えば配合する着色剤を層ごとに変更することにより、特殊なデザイン効果を得ることもできる。ただし、いずれの原料においても食品加工・包装用などの食品分野や医療分野、玩具等へ応用するときにはその安全性を確認して、適宜選択する必要がある。
【0030】
ベース層は上述のようにシートや刃物の強度を向上させ、割れ、折れを防止するため、通常、フィラー配合層よりも厚く形成する。用いる樹脂にもよるが、通常は充分な強度が得られるように0.2mm以上とする。
【0031】
一方、フィラー配合層は刃物としての耐久性が得られる厚さであれば充分であるため、ベース層より薄くすることができ、このとき、シートとしての無機質フィラーの必要量が少なくて済む。フィラー配合層の厚さとしては、通常、耐久性を勘案すると30μm以上であることが好ましい。
【0032】
本発明のプラスチック刃物用シートにおいて、フィラー配合層は、ベース層の片面に、あるいは、両面に形成することができる。ここで図1(a)にベース層1の片面にフィラー配合層2を配した本発明に係るプラスチック刃物用シートAのモデル断面図、図1(b)にはベース層1の両面にフィラー配合層2を配した本発明に係るプラスチック刃物用シートBのモデル断面図を示した。
【0033】
本発明のプラスチック刃物用シートではさらに必要に応じて、他の層を設けても良いが、刃物としての機能性から通常はフィラー配合層が最外層に配されることが望ましい。
【0034】
フィラー配合層とベース層とは通常の積層方法で積層することができる。すなわち、接着ラミネート、溶融押出ラミネート、プレスラミネート等が挙げられるが、溶融押出ラミネート法によることが、工程も少なく、接着剤も不要となり、層間の剥離も生じにくいので耐久性が高いプラスチック刃物が得られる。
【0035】
本発明のプラスチック刃物用シートを用いて、プレスなどによって所望の形状に、例えば鋸刃形状(図2(a)に本発明に係る鋸刃形状のプラスチック刃物3のモデル図を示した)やナイフ形状(図2(b)に本発明に係るナイフ形状のプラスチック刃物4のモデル図を示した)等に、切断してプラスチック刃物とする。
【実施例】
【0036】
以下に本発明のプラスチック刃物用シートの実施例について具体的に説明する。
<フィラー配合層用樹脂組成物>
フィラー配合層に配合するフィラーとしては富士タルク工業社製PKP−53Sを用い、これを60重量%となるようにマトリックス樹脂であるブロックポリプロピレン(日本ポリプロピレン社製EC9。非ハロゲン系樹脂)に配合し、ヘンシェルミキサーによって混練、造粒後、押出成形によってフィラー配合層用樹脂組成物とした。
【0037】
<ベース層用樹脂組成物>
ベース層用樹脂組成物としては上記フィラー配合層のマトリックス樹脂とおなじブロックポリプロピレンをそのまま用いた。
【0038】
<シート化>
上記フィラー配合層用樹脂組成物及びベース層用樹脂組成物を用いて、溶融押出ラミネート法によって、厚さ250μmのベース層の片面に厚さ50μmのフィラー配合層を本発明に係るプラスチック刃物用シートαを得た。
【0039】
<刃物化、及び、評価>
上記プラスチック刃物用シートαを用いてプレス切断して、図2(a)にモデル的に示した鋸歯状刃物β(長さ30cm)を得た。この鋸歯状刃物βを市販の食品包装用のポリ塩化ビニリデンフィルム(幅30cm、長さ20m)の、収納用カートンの蓋部にその金属製の刃と交換して取り付けた。カートンへの取り付けの際、市販の一般事務用ホッチキス(マックス社製10号ホッチキス)を用いたが、ホッチキスのステープルによる割れやかけは一切発生しなかった。
【0040】
このようなカートン入りフィルムの取り扱いは、金属製の刃が付いた市販のものと全く同じであり、約30cmごとに切断してフィルムがなくなるまで評価したが、金属製の刃のままのカートンでの切れ味との間に差異はなく、刃に割れやかけの発生はなかった。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明のプラスチック刃物用シートの構成を示すモデル断面図である。(a)ベース層1の片面にフィラー配合層2を配した本発明に係るプラスチック刃物用シートAのモデル断面図である。(b)ベース層1の両面にフィラー配合層2を配した本発明に係るプラスチック刃物用シートBのモデル断面図である。
【図2】本発明に係るプラスチック刃物用シートを用いてなる刃物の例を示すモデル図である。(a)本発明に係る鋸刃形状のプラスチック刃物3のモデル図である。(b)本発明に係るナイフ形状のプラスチック刃物4のモデル図である。
【符号の説明】
【0042】
1 ベース層
2 フィラー配合層
3 本発明に係る鋸刃形状のプラスチック刃物
4 本発明に係るナイフ形状のプラスチック刃物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機質フィラーが配合されてなるフィラー配合層と、前記フィラー配合層の無機質フィラー配合量よりも少ない無機質フィラー配合量であるベース層とが、積層されてなることを特徴とするプラスチック刃物用シート。
【請求項2】
前記ベース層の両側面のそれぞれに、少なくとも1層の前記フィラー配合層が、積層されていることを特徴とする請求項1に記載のプラスチック刃物用シート。
【請求項3】
上記フィラー配合層中の無機質フィラーの配合量が30重量%以上であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のプラスチック刃物用シート。
【請求項4】
上記無機質フィラーが、タルク、酸化チタン、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、及び、シリカから選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のプラスチック刃物用シート。
【請求項5】
上記請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のプラスチック刃物用シートからなることを特徴とするプラスチック刃物。
【請求項6】
上記請求項5に記載のプラスチック刃物を、内容するフィルム状物切断用に備えたことを特徴とするフィルム状物収納用カートン。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−284274(P2008−284274A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−134049(P2007−134049)
【出願日】平成19年5月21日(2007.5.21)
【出願人】(505244394)日本ウェーブロック株式会社 (19)
【Fターム(参考)】