説明

プラスチック製ロッドレンズ、その製造方法およびプラスチック製ロッドレンズアレイ

【課題】 高温環境下で使用しても共役長の変化が起こりにくい耐熱性を有し、解像度に優れるレンズアレイおよびそれに用いるロッドレンズを提供する。
【解決手段】 円柱形状を有し、中心から外周部に向かって屈折率が連続的に減少してなるプラスチック製ロッドレンズであって、昇温速度4℃/分で温度上昇させたときの熱収縮開始温度が80℃以上であるプラスチック製ロッドレンズ。
紡糸工程、延伸工程および緩和工程を経て製造された第1のプラスチック製ロッドレンズを、昇温速度4℃/分で温度上昇させたときの熱収縮開始温度以上100℃以下で1時間以上熱処理を行う第2のプラスチック製ロッドレンズの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スキャナ、イメージセンサ、プリンタ等の光伝送体として使用されるプラスチック製ロッドレンズアレイおよびそれに使用されるプラスチック製ロッドレンズに関するものである。
【背景技術】
【0002】
プラスチック製ロッドレンズ(以下、単に「ロッドレンズ」という。)は、中心から外周部に向かって屈折率が連続的に減少する屈折率分布を有する円柱状のレンズであり、多数本のロッドレンズを2枚の基板の間に各ロッドレンズの中心軸が互いに略平行になるように1列または2列以上に配列して接着固定し、プラスチック製ロッドレンズアレイ(以下、単に「レンズアレイ」という。)として、ハンドスキャナ等の各種スキャナや、複写機、ファクシミリ等におけるイメージセンサ用の部品、LEDプリンタ等の書き込みデバイス等に広く用いられている。
レンズアレイ製造時のロッドレンズの取り扱いを容易にするためロッドレンズの機械的強度を高くすることが要求されている。これを向上するために、特許文献1において、ロッドレンズを加熱延伸する方法が開示されている。
しかし、加熱延伸されたロッドレンズは熱収縮が大きく、高温環境下で使用した場合に熱によりロッドレンズが収縮し共役長が変化するため、解像度(MTF:モデレーション・トランスファー・ファンクション)が低下する。
【0003】
特に、このようなロッドレンズをレンズアレイとして600dpi以上の高解像度のイメージセンサやLEDプリンタに使用する場合は、この問題は深刻なものとなる。
【0004】
そこで、高温環境下で使用しても共役長の変化が起こりにくい耐熱性を有し、解像度に優れるロッドレンズアレイを提供する方法として、特許文献2において、ロッドレンズを加熱延伸後、緩和する方法が開示されている。しかしながら、この方法によっても、得られるロッドレンズの耐熱性は十分ではなかった。
【特許文献1】特開平8−211242号公報
【特許文献2】特開2001−337244号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、高温環境下で使用しても共役長の変化が起こりにくい耐熱性を有し、解像度に優れるレンズアレイおよびそれに用いるロッドレンズを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、昇温速度4℃/分で温度上昇させたときの熱収縮開始温度が80℃以上のロッドレンズを用いることにより、上記課題を解決できることを見出し本発明に到達した。
【0007】
すなわち、本発明の第1の要旨は、円柱形状を有し、中心から外周部に向かって屈折率が連続的に減少してなるプラスチック製ロッドレンズであって、昇温速度4℃/分で温度上昇させたときの熱収縮開始温度が80℃以上であるプラスチック製ロッドレンズである。
そのため、高温環境下で使用した場合であっても、熱によるロッドレンズの収縮や共役長の変化が小さいので解像度を高く保つことができる。
【0008】
熱収縮開始温度は、市販の熱機械測定(TMA)装置を用いて以下のように測定することができる。
まず、無荷重で試料をチャックし、昇温速度4℃/分で温度を上昇させ、各温度におけるロッドレンズの長さを測定する。
次に、横軸に温度、縦軸にロッドレンズの長さをとり測定結果をグラフにすると、昇温開始から、ある程度まで、長さは一定値を示すが、ある温度を超えると減少しはじめる。この長さが減少し始める温度を熱収縮開始温度とする。長さが減少する前にいったん増大してグラフが極大値を示す場合もあり、その場合は、その極大値を示す温度を収縮開始温度とする。
【0009】
本発明の第2の要旨は、紡糸工程、延伸工程および緩和工程を経て製造された第1のプラスチック製ロッドレンズを、昇温速度4℃/分で温度上昇させたときの熱収縮開始温度(以下、単に熱収縮開始温度という)以上100℃以下で1時間以上熱処理を行う第2のプラスチック製ロッドレンズの製造方法である。
この方法によって、円柱形状を有し、中心から外周部に向かって屈折率が連続的に減少してなるプラスチック製ロッドレンズであって、昇温速度4℃/分で温度上昇させたときの熱収縮開始温度が80℃以上であるプラスチック製ロッドレンズを得ることができる。
なお、本発明において、熱処理を行う前のロッドレンズを第1の(プラスチック製)ロッドレンズといい、熱処理を行った後のロッドレンズを第2の(プラスチック製ロッドレンズ)という。
【0010】
本発明の第3の要旨は、前記プラスチック製ロッドレンズを二枚の基板間に各ロッドレンズの中心軸が互いに略平行となるように配列固定したロッドレンズアレイである。
【発明の効果】
【0011】
本発明のロッドレンズアレイは、高温環境下で使用する場合においても解像度等の光学特性の低下およびばらつきが抑制され、耐熱性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0013】
本発明のプラスチック製ロッドレンズは、中心から外周部に向かって屈折率が連続的に減少する屈折率分布を有する円柱状のレンズである。この屈折率分布としては、ロッドレンズの中心軸に垂直な断面において、ロッドレンズの半径rとしたとき、少なくとも中心軸から外周部に向かう0.3r〜0.7rの範囲における屈折率分布が、下記式(1)で規定される2次曲線分布に近似されることが好ましい。

n(L)=n{1−(g/2)L} (1)

(式中、n0はロッドレンズの中心軸における屈折率(中心屈折率)であり、Lはロッドレンズの中心軸からの距離(0≦L≦r)であり、gはロッドレンズの屈折率分布定数であり、n(L)はロッドレンズの中心軸からの距離Lの位置における屈折率である。)
【0014】
ロッドレンズの半径rは特に限定されないが、光学系のコンパクト化の観点から、半径rは小さいことが好ましく、ロッドレンズの加工時の取り扱いの観点からは、半径rが大きいことが好ましい。このため、ロッドレンズの半径rは、0.05〜1mmの範囲とすることが好ましく、より好ましくは0.1〜0.5mmの範囲である。
【0015】
また、ロッドレンズの中心軸の屈折率nは、1.4〜1.6であることが、ロッドレンズを構成する材料的な選択肢が広くなり、良好な屈折率分布を形成しやすくなる等の観点から好ましい。
さらに、ロッドレンズの屈折率分布定数gも特に限定されるものではないが、光学系のコンパクト化や光学系の作動距離の確保や取り扱い性の観点から、0.2〜3mm−1の範囲とすることが好ましく、より好ましくは0.5〜2mm−1の範囲である。
【0016】
また、ロッドレンズは、中心軸から0.6r以上の外周部に、ロッドレンズを伝送する光のうち少なくとも一部の光を吸収する光吸収剤を含有する光吸収層を設けることが好ましい。これは、一般に、ロッドレンズでは、中心軸から離れるにつれて、屈折率分布が理想分布から外れた不整な部分が形成されやすく、これに起因する光学特性の低下を、ロッドレンズの外周部に光吸収層を設けることにより抑止するためである。光吸収層の厚みは50μm以上100μm以下が好ましい。光吸収層の厚みをこの範囲にすることにより、フレア光やクロストーク光を十分に除去できると共に、十分な透過光量を確保できる。
【0017】
使用する光吸収剤としては、イメージセンサやLEDプリンタ等においては、一般に光源として400〜900nmの波長の光を出射する光源が用いられているので、400〜900nmのうち少なくとも一部の波長域の光を吸収するものを用いることが好ましい。このような光吸収剤としては、例えば、600nm〜近赤外線領域に吸収のある日本化薬製Kayasorb CY−10等、600〜700nmに吸収のある三菱化学製Diaresin Blue 4G等、550〜650nmに吸収のある日本化薬製Kayaset Blue ACR等、500〜600nmに吸収のある三井東圧染料MS Magenta HM−1450等、400〜500nmに吸収のある三井東圧染料MS Yellow HD−180等を例示することができる。また、400〜900nmのうち全波長域の光を吸収する光吸収剤としては、黒色染料等を挙げることができる。これら光吸収剤は、単独で使用してもいよいし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0018】
次に、上記のようなロッドレンズの製造方法について説明する。
ロッドレンズの屈折率分布の形成方法には制限はなく、付加反応法、共重合法、ゲル重合法、単量体揮発法、相互拡散法等のいずれの方法でもよいが、精度および生産性の点で相互拡散法が好ましい。
相互拡散法について説明する。
まず、硬化後の屈折率nがn1>n2>・・・・>nN(N≧3)となるN個の未硬化状物を、中心から外周部に向かって順次屈折率が低くなるような配置で、同心円状に積層した未硬化状の積層体(以下、「糸状体」という。)に賦形し、この糸状体の各層間の屈折率分布が連続的になるように隣接層間の物質の相互拡散処理を行いながら、または相互拡散処理を行った後、糸状体を硬化処理し、ロッドレンズ原糸を得る(紡糸工程)。なお、相互拡散処理とは、糸状体に窒素雰囲気下、10〜60℃、より好ましくは20〜50℃で数秒〜数分間の熱履歴を与えることをいう。
【0019】
この未硬化状物を構成する物質としては、ラジカル重合性ビニル単量体、またはラジカル重合性ビニル単量体と該単量体に可溶な重合体とよりなる組成物などを用いることができる。
【0020】
ラジカル重合性ビニル単量体の具体例としてはメチルメタクリレート(n=1.49)、スチレン(n=1.59)、クロルスチレン(n=1.61)、酢酸ビニル(n=1.47)、2,2,3,3-テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,4,4,5,5-オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレート、2,2,3,4,4,4-ヘキサフルオロブチル(メタ)アクリレート、2,2,2-トリフルオロエチル(メタ)アクリレート等のフッ素化アルキル(メタ)アクリレート(n=1.37〜1.44)、屈折率1.43〜1.62の(メタ)アクリレート類たとえばエチル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、アルキレングリコール(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ又はトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ、トリ又はテトラ(メタ)アクリレート、ジグリセリンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の他のジエチレングリコールビスアリルカーボネート、フッ素化アルキレングリコールポリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0021】
これら未硬化状物から糸状体を形成する際の未硬化状物の粘度調整を容易にするため、及び糸状体の中心から外周へ向かい連続的な屈折率分布を持たせるため、前記の未硬化状物はビニル系単量体と前記重合体とで構成されていることが好ましい。
前記重合体としては、前記のラジカル重合性ビニル単量体から生成する重合体と相溶性が良いことが必要であり、例えばポリメチルメタクリレート(n=1.49)、ポリメチルメタクリレート系共重合体(n=1.47〜1.50)、ポリ4−メチルペンテン−1(n=1.46)、エチレン/酢酸ビニル共重合体(n=1.46〜1.50)、ポリカーボネート(n=1.50〜1.57)、ポリフッ化ビニリデン(n=1.42)、フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン共重合体(n=1.42〜1.46)、フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロペン共重合体(n=1.40〜1.46)、ポリフッ化アルキル(メタ)アクリレート重合体等が挙げられる。特に、ポリメチルメタクリレートは透明性に優れ及びそれ自体の屈折率も高いので本発明の屈折率分布型光伝送体を作成するに際して用いる重合体としては好適なものである。
【0022】
粘度を調整するため、前記重合体として各層に同一の屈折率を有する重合体を用いることが、中心から外周に向かって連続的な屈折率分布を有するプラスチック光伝送体が得られるので好ましい。
【0023】
前記未硬化状物より形成した糸状体を硬化するには、未硬化物中に熱硬化触媒あるいは光硬化触媒を添加し、熱硬化処理および/または光硬化処理を行う。熱硬化触媒としてはパーオキサイド系又はアゾ系の触媒等が用いられる。光硬化触媒としてはベンゾフェノン、ベンゾインアルキルエーテル、4'-イソプロピル-2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンジルメチルケタール、2,2-ジエトキシアセトフェノン、クロロチオキサントン、チオキサントン系化合物、ベンゾフェノン系化合物、4-ジメチルアミノ安息香酸エチル、4-ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、N−メチルジエタノールアミン、トリエチルアミン等が挙げられる。
【0024】
光硬化処理としては、光硬化触媒を含有させた未硬化状物に周囲から紫外線を照射することにより行うことができる。光硬化処理に用いる光源としては、150〜600nmの波長の光を発生する炭素アーク灯、高圧水銀灯、中圧水銀灯、低圧水銀灯、超高圧水銀灯、ケミカルランプ、キセノンランプ、レーザー光等が挙げられる。また、重合率を上げるためにこれらの光源を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0025】
熱硬化処理としては、熱硬化触媒を含有させた未硬化状物を、一定の温度に制御された加熱炉等の硬化処理部で所定時間加熱することにより行うことが望ましい。
このようにして得られたロッドレンズ原糸は、延伸工程、緩和工程を経て、第1のプラスチック製ロッドレンズとなり、その後、ロッドレンズの熱収縮開始温度以上100℃以下、より好ましくは熱収縮開始温度以上80℃以下で熱処理することにより、熱収縮開始温度を高められる。
延伸は公知の方法により行うことができる。例えば、硬化して得られたロッドレンズ原糸を第1ニップローラーで加熱炉に供給し、加熱炉を通過したロッドレンズを第2ニップローラーで第1ニップローラーよりも速い速度で引き取って延伸する方法等があげられる。
延伸工程における雰囲気温度(延伸温度)はロッドレンズの材質等に応じて設定されるが、ロッドレンズ原糸のガラス転移温度(Tg)+20℃以上が好ましく、Tg+60℃以下が好ましい。なお、ロッドレンズが複数種類の材料で構成される場合それらのTgの最大値をロッドレンズのTgとする。
また、延伸倍率は所望のロッドレンズ径により、決定され、第1及び第2ニップローラーの速度比により調節することができるが、1.1〜10倍が好ましく、2〜6倍がより好ましい。
緩和は、公知の方法により行うことができる。例えば、延伸されたロッドレンズ原糸を第3ニップローラーで加熱炉に供給し、加熱炉を通過したロッドレンズを第4ニップローラーで第3ニップローラーよりも遅い速度で引き取って緩和する方法等があげられる。
緩和工程における雰囲気温度(緩和温度)は、ロッドレンズの材質等に応じて設定されるが、得られるロッドレンズを使用したロッドレンズアレイの光学特性を考慮すると、Tg以上、Tg+60℃以下が好ましく、Tg以上、延伸温度−5℃以下がより好ましい。
また、緩和倍率は所望のロッドレンズ径により、決定され、第3及び第4ニップローラーの速度比により調節することができるが、0.5以上1倍未満が好ましく、0.6〜0.9倍がより好ましい。
延伸工程はバッチ方式で行ってもよいし、連続的に行ってもよい。また、延伸工程と緩和工程は連続的に行ってもよいし、工程毎に分離して行ってもよい。生産性の観点からは連続的に行う方が好ましい。
【0026】
延伸、緩和工程を経て、所望の径となった第1のロッドレンズは、連続的に所望の長さに切断してもよく、ボビン等に巻き取った後、切断を行ってもよい。ここまでの工程で得られる第1のロッドレンズの熱収縮開始温度は、45〜75℃程度であり、未だ十分な耐熱性が得られない。
本発明のロッドレンズ(第2のロッドレンズ)の製造方法においては、上記のようにして得られた第1のロッドレンズを、さらに、熱収縮開始温度以上、100℃以下で熱処理を行うことにより、耐熱性を向上させる。
熱処理の温度は、耐熱性を上げる効果を奏するために熱収縮開始温度以上である必要があり、ロッドレンズの変形を避けるために100℃以下にする必要がある。
【0027】
このような温度で熱処理を行うことにより、(第1の)ロッドレンズの熱収縮開始温度を高めることができ、高温環境下でも(第2の)ロッドレンズの変形を抑制し、レンズアレイの耐熱性を向上させることができる。
熱処理を行う時間に特に制限はないが、耐熱性をより向上させる点と生産性のバランスを考慮すると、0.5〜48時間行うことが好ましく、5〜30時間がより好ましく、18〜30時間が特に好ましい。
熱処理は(第1の)ロッドレンズに張力がかからない状態で実施することが特に好ましい。例えば、所定の長さに切断した状態であれば、天板の上にロッドレンズ同士が重ならないように平らに広げた状態にしてもよいし、コの字型の容器や、U字型の容器にロッドレンズを入れ、振動を加えることによりロッドレンズ同士が平行になるように整列させてもよい。また、ドラム等に巻き取った状態であれば、一定のピッチでトラバースすることによりロッドレンズを平行に巻き取る等の方法がある。
また、熱処理時の湿度は特に限定されないが、ロッドレンズにダメージを与えるような条件で無ければ良く、相対湿度で0〜90%程度が好ましい。相対湿度が90%を超えると、恒温恒湿機等からロッドレンズを取り出した時に(冷却による)結露が発生する場合がある。
熱処理の方法は、ロッドレンズを均一に熱処理できる方法であれば特に制限されるものではなく、加熱オーブンや熱風乾燥機等の中で行ってもよく、また、相対湿度がコントロールされた恒温恒湿機中で行っても良い。また、ロッドレンズにダメージを与えない流動パラフィン等の液体の中で行ってもよい。また、温水に浸漬させてもよいし、超臨界二酸化炭素で処理してもよい。
【0028】
本発明のレンズアレイは、前記のようにして得られた複数本の(第2の)ロッドレンズが各ロッドレンズの光軸方向が互いに平行になるように2枚の基板の間に1列以上に配列されて構成される。ロッドレンズと基板との固定には接着剤が用いられる。隣接するロッドレンズは互いに密着していてもよいし、一定の隙間をおいて配列していてもよい。また、同種のロッドレンズを2段以上に積み重ねて配列されてなるレンズアレイの場合は、ロッドレンズ間の隙間が最小になるように俵積み状に配列されていることが好ましい。
【0029】
本発明のレンズアレイを構成する基板は平板状でもよいし、ロッドレンズを一定の間隔で配置収納するU字状あるいはV字状等の溝を設けたものであってもよい。基板の材質は特に限定されないが、レンズアレイを作製する工程での加工が容易な材料であることが好ましい。基板の材料としては、各種熱可塑性樹脂、各種熱硬化性樹脂などが好ましく、アクリル系樹脂、ABS樹脂、ポリイミド系樹脂、液晶ポリマー、エポキシ系樹脂などが特に好ましい。また、基板の基材、補強材として、繊維や紙を用いてもよいし、基板に離型剤、染料、顔料等を添加してもよい。
【0030】
接着剤は、レンズアレイと基板あるいはレンズアレイ同士を貼着できる程度の粘着力を有するものであれば特に制限されるものではなく、薄膜状に塗布可能な接着剤や、スプレー式粘着剤、ホットメルト型粘着剤等を用いることができる。また、基板やレンズアレイへの接着剤の塗布方法としては、接着剤の種類に応じて、スクリーン印刷法、スプレーコーティング法等の公知のコーティング法を用いることができる
【実施例】
【0031】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
<屈折率分布>
カールツァイス社製インターファコ干渉顕微鏡を用いて測定した。
<熱収縮開始温度>
セイコーインスツルメント(株)製TMA/SS6100を用いた。試料長は5mmで無荷重の条件で昇温速度4℃/分で温度上昇させたときの熱収縮開始温度を測定した。
<共役長および解像度(平均MTF、MTF標準偏差)>
空間周波数12(ラインペア/mm、Lp/mm)を有する格子パターンを用い、光軸に垂直な両端面を研磨したロッドレンズアレイに光源からの光を格子パターンを通して入射させ、結像面に設置したCCDラインセンサにより格子画像を読み取り、その測定光量の最大値(imax)と最小値(imin)を測定し、次式によりMTF(モデレーション・トランスファー・ファンクション)を求めた。
MTF(%)={(imax−imin)/(imax+imin)}×100
その際、格子パターンとロッドレンズアレイの入射端との距離と、ロッドレンズアレイの出射端とCCDラインセンサとの距離を等しくした。そして、格子パターンとCCDラインセンサをロッドレンズアレイに対し対称的に動かしてMTFを測定し、MTFが最良になるときの、格子パターンとCCDラインセンサとの距離を共役長とした。
格子パターンとCCDラインセンサとの距離を共役長で固定して、ロッドレンズアレイ全幅について走査してMTFを50点測定し、平均値および標準偏差を求めて、解像度およびそのばらつきの指標とした。
ここで空間周波数とは、白ラインと黒ラインとの組み合わせを1ラインとし、このラインの組み合わせが1mmの幅の中に何組設けてあるかを示すものである。
<耐熱試験>
60℃に設定した乾燥機中(相対湿度30%以下)にロッドレンズアレイをおき1000時間保持した。試験前後での共役長、MTF平均値および標準偏差を求めた。
試験後の共役長[mm]が9.6mm以上の場合を◎、9.4〜9.5mmの場合を○、9.3mm以下の場合を×と評価した。
試験後の平均MTF[%]が60%以上の場合を◎、50〜60%の場合を○、50%以下の場合を×と評価した。
試験後のMTF標準偏差[%]が4%以下の場合を◎、5〜6%の場合を○、7%以上の場合を×と評価した。
【0032】
<実施例1>
ポリメチルメタクリレート(PMMA、〔η〕=0.40、MEK中、25℃にて測定、以下の実施例および比較例においてポリメチルメタクリレートとしてはこれと同じものを用いた。)47質量部、下記式で表されるトリシクロ[5.2.1.02,6]デカニル−8−メタクリレート(TCDMA)30質量部、
【化1】

メチルメタクリレート(MMA)23質量部、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン0.25質量部及びハイドロキノン(HQ)0.1質量部を70℃に加熱混練して第1層形成用原液とした。
PMMA50質量部、TCDMA10質量部、MMA40質量部、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン0.25質量部及びHQ0.1質量部を70℃に加熱混練して第2層形成用原液とした。
PMMA50質量部、2,2,3,3,4,4,5,5-オクタフルオロペンチルメタクリレート(8FM)10質量部、MMA40質量部、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン0.25質量部、HQ0.1質量部を70℃に加熱混練して第3層形成用原液とした。
PMMA50質量部、8FM10質量部、MMA40質量部、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン0.25質量部、HQ0.1質量部を70℃に加熱混練して第4層形成用原液とした。
PMMA42質量部、MMA18質量部、8FM40質量部、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン0.25質量部、HQ0.1質量部を70℃に加熱混練して第5層形成用原液とした。
【0033】
なお、クロストーク光やフレア光を抑制する目的で、加熱混練前の第4層及び第5層用の各原液中に原液全体に対して染料Blue ACR(日本化薬(株)製)0.57質量%、染料MS Yellow HD−180(三井東圧染料(株)製)およびMS Magenta HM−1450(三井東圧染料(株)製)をそれぞれ0.14質量%、染料Diaresin Blue 4G(三菱化学(株)製)およびKayasorb CY−10(日本化薬(株)製)をそれぞれ0.02質量%を添加した。
【0034】
この5種類の原液を、中心から順次、硬化後の屈折率が低くなるように配列して同心円状5層複合紡糸ノズルから同時に押し出した。複合紡糸ノズルの温度は54℃であった。各層の吐出比は、レンズの直径方向の各層の厚さ(1層目においては半径)の比に換算して、1層目/2層目/3層目/4層目/5層目=18/50/29/2/1とした。
【0035】
次いで、複合紡糸ノズルから押し出された糸状体を、ニップローラーで引き取り(200cm/分)、長さ30cmの相互拡散処理部を通し、続いて長さ120cm、40Wのケミカルランプ18本が中心軸の周囲に等間隔に配設された第1硬化処理部(光照射部)および2KWの高圧水銀灯3本が中心軸の周囲に等間隔に配設された第2硬化処理部(光照射部)の中心上に糸状体を通過させて硬化させた。相互拡散処理部における窒素流量は72L/分であった。得られたレンズ原糸の半径は0.30mmであり、Tgは110℃であった。
このレンズ原糸を、紡糸工程から連続的に、140℃の雰囲気下で3.8倍に延伸(延伸ローラーの速度750cm/分)し、115℃の雰囲気下で緩和率が12/15になるように緩和処理(緩和ローラーの速度600cm/分)を行い、切断工程において166mmの長さに切断して、166mmの長さのロッドレンズ(第1のロッドレンズ)を多数得た。
【0036】
得られた第1のロッドレンズの半径は0.17mm、中心屈折率は1.497、中心軸から外周部に向かう0.2r〜0.8rの範囲において屈折率分布が式(1)に近似され、525nmの波長において屈折率分布定数gは0.84mm-1であった。また、第1のロッドレンズの外周面から中心部に向かって約5μmの厚さの、染料がほぼ均一に混在する層が形成されていた。熱収縮開始温度は61℃と低かった。
得られた第1のロッドレンズを70℃に設定した乾燥機中(相対湿度30%以下)で無張力下で24時間熱処理した。処理後に得られた第2のロッドレンズの熱収縮開始温度は85℃であった。
この第2のロッドレンズを多数本使用して、配列ピッチが0.36mm(隣接レンズ間の隙間20μm)の1列のロッドレンズアレイを作製した(レンズ長が4.4mm)。作製したロッドレンズアレイの525nmにおける共役長、MTF平均値および標準偏差を耐熱試験前後で測定し、表1にまとめた。
<比較例1>
熱処理を行わなかったロッドレンズ(第1のロッドレンズ)を使う以外は、実施例1と同様にレンズアレイを作成した。作製したロッドレンズアレイの525nmにおける共役長、MTF平均値および標準偏差を耐熱試験前後で測定し、表1にまとめた。
【0037】
<実施例2>
140℃雰囲気下で緩和処理した以外は実施例1と同様の方法で得たロッドレンズを使い、実施例1と同様のレンズアレイを作成した。熱処理前のロッドレンズの熱収縮開始温度は48℃、熱処理後の熱収縮開始温度は84℃であった。作製したロッドレンズアレイの525nmにおける共役長、MTF平均値および標準偏差を耐熱試験前後で測定し、表1にまとめた。
<比較例2>
熱処理を行わなかった第1のロッドレンズを使う以外は、実施例2と同様にレンズアレイを作成した。作製したロッドレンズアレイの525nmにおける共役長、MTF平均値および標準偏差を耐熱試験前後で測定し、表1にまとめた。
【0038】
<実施例3>
160℃雰囲気下で緩和処理した以外は実施例1と同様の方法で得た第2のロッドレンズを使い、実施例1と同様のレンズアレイを作成した。熱処理前の第1のロッドレンズの熱収縮開始温度は65℃、熱処理後の熱収縮開始温度は87℃であった。作製したロッドレンズアレイの525nmにおける共役長、MTF平均値および標準偏差を耐熱試験前後で測定し、表1にまとめた。
<比較例3>
熱処理を行わなかった第1のロッドレンズを使う以外は、実施例3と同様のレンズアレイを作成した。作製したロッドレンズアレイの525nmにおける共役長、MTF平均値および標準偏差を耐熱試験前後で測定し、表1にまとめた。
【0039】
<実施例4>
PMMA47質量部、TCDMA30質量部、MMA23質量部、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン0.25質量部及びHQ0.1質量部を70℃に加熱混練して第1層形成用原液とした。
PMMA46質量部、TCDMA15質量部、MMA29質量部、ベンジルメタクリレート(BzMA)5質量部、2,2,3,3,4,4,5,5-オクタフルオロペンチルメタクリレート(8FM)5質量部、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン0.25質量部及びHQ0.1質量部を70℃に加熱混練して第2層形成用原液とした。
PMMA49質量部、BzMA6質量部、8FM8質量部、MMA37質量部、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン0.25質量部、HQ0.1質量部を70℃に加熱混練して第3層形成用原液とした。
PMMA46質量部、BzMA10質量部、8FM20質量部、MMA24質量部、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン0.25質量部、HQ0.1質量部を70℃に加熱混練して第4層形成用原液とした。
PMMA39質量部、BzMA17質量部、8FM41質量部、MMA3質量部、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン0.25質量部、HQ0.1質量部を70℃に加熱混練して第5層形成用原液とした。
【0040】
加熱混練前の第4層の各原液中に原液全体に対して染料Blue ACR、MS Magenta HM−1450、Diaresin Blue 4G、Kayasorb CY−10をそれぞれ0.003質量%、および染料MS Yellow HD−180 0.006質量%を添加した。
また、第5層用の各原液中に原液全体に対してはBlue ACR0.57質量%、MS Yellow HD−180およびMS Magenta HM−1450をそれぞれ0.14質量%、Diaresin Blue 4GおよびKayasorb CY−10をそれぞれ0.01質量%添加した。
【0041】
この5種類の原液を、70℃に加熱混練し、中心から順次、硬化後の屈折率が低くなるように配列して同心円状5層複合紡糸ノズルから同時に押し出した。複合紡糸ノズルの温度は50℃であった。各層の吐出比は、プラスチックロッドレンズの半径方向の各層の厚さ(1層目においては半径)の比に換算して、1層目/2層目/3層目/4層目/5層目=21/25/33/19/2とした。
【0042】
次いで、複合紡糸ノズルから押し出された糸状体を、ニップローラーで引き取り(200cm/分)、長さ30cmの相互拡散処理部を通し、続いて長さ60cm、20Wのケミカルランプ18本が中心軸の周囲に等間隔に配設された第1硬化処理部(光照射部)および2KWの高圧水銀灯3本が中心軸の周囲に等間隔に配設された第2硬化処理部(光照射部)の中心上に糸状体を通過させて硬化させた。相互拡散処理部における窒素流量は80L/分であった。得られたレンズ原糸の半径は0.295mmであり、Tgは105℃であった。
このレンズ原糸を、紡糸工程から連続的に、135℃の雰囲気下で3.50倍に延伸(延伸ローラーの速度700cm/分)し、115℃の雰囲気下で緩和率が500/700になるように緩和処理(緩和ローラーの速度500cm/分)を行い、切断工程において166mmの長さに切断して、166mmの長さのロッドレンズ(第1のロッドレンズ)を多数得た。
【0043】
得られた第1のロッドレンズの半径は0.187mm、中心屈折率は1.497、中心軸から外周部に向かう0.2r〜0.8rの範囲において屈折率分布が式(1)に近似され、525nmの波長において屈折率分布定数gは0.84mm-1であった。また、第1のロッドレンズの外周面から中心部に向かって約40μmの厚さの、染料がほぼ均一に混在する層が形成されていた。熱収縮開始温度は65℃と低かった。
得られた第1のロッドレンズを70℃に設定した乾燥機中(相対湿度30%以下)で無張力下で24時間熱処理した。処理後に得られた第2のロッドレンズの熱収縮開始温度は81℃であった。
この第2のロッドレンズを多数本使用して、配列ピッチが0.39mm(隣接レンズ間の隙間20μm)の1列のロッドレンズアレイを作製した(レンズ長が4.4mm)。作製したロッドレンズアレイの525nmにおける共役長、MTF平均値および標準偏差を耐熱試験前後で測定し、表1にまとめた。
【0044】
<比較例4>
熱処理を行わなかった第1のロッドレンズを使う以外は、実施例4と同様のレンズアレイを作成した。作製したロッドレンズアレイの525nmにおける共役長、MTF平均値および標準偏差を耐熱試験前後で測定し、表1にまとめた。
【表1】

実施例1〜4のロッドレンズアレイはいずれも耐熱試験後においても共役長、平均MTF値、MTF標準偏差が良好であった。
これに対し、比較例1〜4のロッドレンズアレイは耐熱試験後における上記の性質がよくなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円柱形状を有し、中心から外周部に向かって屈折率が連続的に減少してなるプラスチック製ロッドレンズであって、昇温速度4℃/分で温度上昇させたときの熱収縮開始温度が80℃以上であるプラスチック製ロッドレンズ
【請求項2】
紡糸工程、延伸工程および緩和工程を経て製造された第1のプラスチック製ロッドレンズを、昇温速度4℃/分で温度上昇させたときの熱収縮開始温度以上100℃以下で1時間以上熱処理を行う第2のプラスチック製ロッドレンズの製造方法。
【請求項3】
請求項1記載のプラスチック製ロッドレンズを二枚の基板間に各ロッドレンズの中心軸が互いに略平行となるように配列固定したロッドレンズアレイ。