説明

プラズマを用いて基材をコーティングする方法

フリーラジカル開始剤の存在下で1つ又は複数のフリーラジカル重合性基を有するフリーラジカル開始重合性モノマーを含む混合物をプラズマ処理することによる、基材表面上にポリマーコーティングを形成する方法であって、当該プラズマ処理は、ソフトイオン化プラズマプロセス(前駆体分子がプラズマプロセスの間に断片化されず、その結果、得られたポリマーコーティングが前駆体又はバルクポリマーの物理特性を有する、プロセス)であり、この得られたポリマーコーティング材料を基材表面上に堆積する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、プラズマ技術と触媒活性開始剤とを併用してフリーラジカル重合ポリマーコーティングで基材をコーティングする堆積方法を記載する。フリーラジカル重合性モノマーへの触媒剤の添加は、堆積率を上げる。驚くべきことに、開始剤は、重合に続くプラズマ重合コーティング内でモノマーの機能性を保持する度合いも増大する。
【背景技術】
【0002】
物質の第4の状態と呼ばれることがあるプラズマは、可視光線及び紫外線を放射する励起し且つ不安定なイオン化した原子及び分子から成る、少なくとも部分的にイオン化したガス状媒体である。物質に連続的にエネルギーを供給すると、その温度は上昇し、物質は通常固体から液体、さらには気体状態へと変化する。エネルギーを供給し続けると、物質は、気体の中性原子又は分子がエネルギー衝突により分解するさらなる状態変化を受け、負の電荷を帯びた電子、正又は負の電荷を帯びたイオンを生成する。プラズマにより発生する他の粒子種としては、励起状態の気体分子、準安定化合物、分子フラグメント及び/又はラジカル等の高エネルギー非荷電粒子が挙げられる。プラズマは電気的に中性であるため、それらの電荷の代数和がゼロであるような量で陽イオン、陰イオン及び電子を含有する。プラズマ相は、純粋な気体又は混合気体を外部励磁(excitation)に曝すことによって研究室内で得られる。最も一般的な外部励磁は電気的なものである。
【0003】
「プラズマ」という用語は、その密度及び温度が数桁の大きさで変動する広範な系を網羅する。熱平衡プラズマとして知られているいくつかのプラズマは、非常に高温で、その全ての微視的な粒子種(イオン及び電子等)が近似熱平衡状態にある。その系に投入されるエネルギーは原子/分子レベルの衝突を通して広範に分散され、この原子/分子レベルの衝突の例としてはフレーム系プラズマ(flame based plasmas)が挙げられる。フレーム系プラズマは高温の気体温度で動作し、本来酸化性である。このことは、フレーム系プラズマが堆積プロセスに適用される際に、かなりの制限を有することを意味する。このような高温気体において、堆積コーティング中の前駆体の化学構造及び/又は機能性を維持することは不可能である。さらに、関係する高いプロセス温度は、熱の影響を受けやすい基材と適合しない。
【0004】
しかしながら、他のプラズマ、詳細には衝突の頻度が比較的低い低圧(例えば100Pa)におけるプラズマは、広範な種々の温度でその成分である粒子種を有し、「非熱平衡」プラズマと呼ばれる。非熱平衡プラズマにおいて、自由電子は何千ケルビン(K)もの温度で非常に高熱であるのに対して、中性及びイオン性の粒子種は低温のままである。自由電子の質量はほとんど無視できるので、系全体の熱容量は小さく、プラズマは室温付近で動作するため、損傷を与えるような熱負荷をかけることなく、プラスチック又はポリマー等の温度の影響を受けやすい材料をプロセス処理することができる。ホットエレクトロンは、高エネルギーの衝突により、深在性の化学的及び物理的反応性を可能にする高い化学ポテンシャルエネルギーを有するラジカル、並びに励起された粒子種及び/又は不安定な粒子種の豊富な発生源を形成する。この低温動作と高反応性とのこのような組み合わせによって、非熱平行プラズマは、技術的に重要となり、製造及び材料処理のための非常に有力なツールになり、仮にプラズマを用いずに達成するには、非常に高い温度又は有毒で攻撃的な化学薬品を必要とするであろう。
【0005】
プラズマ重合の使用は十分に確立されている。一般に、コーティングされる基材は、容器内に置かれ、プラズマを形成する。その後、このプラズマ内にモノマーを導入すると、プラズマ重合反応が起き、ポリマーが基材上に堆積する。このような処理の多くの例は当該技術分野で既知である。例えば、米国特許第5,876,753号明細書は、ターゲット材料を固体表面に付着させる方法を開示しており、この方法は、低電圧の様々な動作周期のパルス化プラズマ堆積(duty cycle pulsed plasma deposition)で炭素質化合物を表面に固着することを含む。また、欧州特許第0,896,035号は、基材とコーティングとを有する素子(device)を開示しており、このコーティングは、少なくとも1種の有機化合物又はモノマーを含むガスのプラズマ重合によって基材に塗工される。同様に、国際公開第00/20130号パンフレットは、好適に置換されたアルキンを含有する基材をプラズマに曝すことにより、固体基材上に疎水性コーティングを設ける方法を記述している。欧州特許第0,095,974号は、真空下でのプラズマの塗工前に、基材表面上に塗工される予備調製した支持フィルムを重合する方法を記載している。ラジカル開始剤を、予備調製したフィルム中で増感剤(sensitizers)として使用してもよい。同様に、国際公開第2003/089479号パンフレットは、フリーラジカル重合性化合物と、フリーラジカル光開始剤を含んでいてもよい光潜在(photolatent)化合物との両方を含む組成物を液状形態で3次元基材表面に塗工し、その後、真空チャンバ内でプラズマ処理する方法を記載している。Charles W. Paul, Alexis T. Bell及びDavid S. Soong, Macromolecules 1985, 18, 2312-2318は、フリーラジカル開始剤によるメチルメタクリル化重合の開始を記載している。フリーラジカル開始剤は、真空グロー放電プロセスで製造される。
【0006】
Yasuda, H. Plasma Polymerisation; Academic Press: Orland, 1985は、ガス相ポリマー前駆体を連続薄膜(continuous film)へと重合するのに、どのように真空グロー放電を使用したかを記載している。例えば、プラズマ促進表面処理及び炭化フッ素の堆積は、1970年代から疎油性表面の調製に関して調査されている。当初、四フッ化炭素等の単純な炭化フッ素ガス前駆体が用いられていた。これは疎水性を改良したが、疎油性を有意に改良するものではなかった。その後、欧州特許第0,049,884号に記載されているように、ペルフルオロアルキル置換アクリレート等の高分子量のフッ素化前駆体が用いられた。
【0007】
これらの早期のプロセスは一般に、重合フッ化炭素コーティングの形成よりも前駆体の断片化、及び表面へのフッ素の挿入をもたらした。Ryan, M., Hynes, A., Badyal, J., Chem. Mater. 1996, 8(1), 37-42及びChen, X.,Rajeshwar, K., Timmons, R., Chen, J., Chyan, O., Chem. Mater. 1996, 8(5), 1067-77に記載されているようなパルス化プラズマ重合(又は変調放電(modulated discharge))の発現は、モノマーの特性及び/又は機能性が実質的に維持され、前駆体モノマーの多数の特性を維持するポリマーコーティングの生成をもたらす重合コーティングを生成した。Coulson S. R., Woodward I. S., Badyal J. P. S., Brewer S. A., Willis C., Langmuir, 16, 6287-6293, (2000)は、長鎖ペルフルオロアクリレート又はペルフルオロアルケン前駆体を用いた高い疎油性表面の生成を記載している。
【0008】
国際公開第97/38801号パンフレットは、反応性官能基を有するコーティングを堆積するのに使用されるプラズマ堆積工程を伴う表面を分子加工(molecular tailoring)する方法を記載しており、この官能基は実質的に、パルス化プラズマ及び連続波プラズマを用いて固体基材の表面上でそれらの化学活性を維持する。Wu他は、それらの関連の刊行物であるMat. Res. soc. Symp. Proc, vol. 544 pages 77 to 87において、上記の用途のパルス化プラズマと連続波プラズマとの比較を記述している。
【0009】
2つの重大な欠点が、このようなパルス化真空プラズマ法について存在する。第1に、真空の必要性が、コーティングプロセスをバッチ形式で操作するために必要とされる。第2に、真空が維持され、又は活性物質が、従来の手段、さらに別個の工程において封入プラズマコーティングでコーティングされる場合には、モノマーを蒸気としてプラズマに導入する必要がある。
【0010】
プラズマの1つのタイプは一般的に、拡散誘電体バリヤ放電(diffuse dielectric barrier discharge)と呼ばれる(その一形態は、大気圧グロー放電と呼ぶことができる(Sherman, D. M.他、J. Phys. D.; Appl. Phys. 2005, 38 547-554))。この用語は包括的に、グロー放電及び誘電体バリヤ放電の両方を包含するように用いられる。プロセスガスの破壊がプラズマ隙間間で均一に起こり、プラズマチャンバの幅及び長さを通じて均質なプラズマをもたらす(Kogelschatz, U. 2002 "Filamentary, patterned, and diffuse barrier discharges" IEEE Trans. Plasma Sci. 30, 1400-8)。これらは、真空及び大気圧の両方で発生してもよい。大気圧拡散誘電体バリヤ放電の場合、ヘリウム、アルゴン又は窒素を含むガスは、プラズマを発生させるプロセスガスとして利用され、高周波数(例えば>1kHz)の電源を用いて、大気圧で電極間に均質又は均一なプラズマを発生させる。拡散DBDの正確な形成機構は未だに議論を呼ぶが、陰極表面からの二次的な電子放出と合わせてぺニングイオン化が重大な役割を担うという多くの証拠がある(例えば、Kanazawa他、J. Phys. D: Appl. Phys. 1988, 21, 838, Okazaki他、Proc. Jpn. Symp. Plasma Chem. 1989, 2, 95, Kanazawa他、Nuclear Instruments and Methods in Physical Research 1989, B37/38, 842及びYokoyama他、J. Phys. D: Appl. Phys. 1990, 23, 374を参照)。
【0011】
大気圧プラズマは、例えばウエブ状基材によりプラズマ領域から自由に出し入れすることができ、それゆえ、広域若しくは小域のウエブ、又はコンベヤー運搬される個別のワークピースをオンラインで連続してプロセス処理できるようにする、開口ポート(open port)又は周辺システムを産業界に提供する。処理能力は大きく、高圧動作により得られる大きい粒子種流量によって増強される。織物、梱包、紙、医療、自動車、航空宇宙等の多くの産業部門は、連続したオンライン処理にほぼ完全に頼っており、大気圧における開口ポート/周辺構成プラズマは新たな産業処理の可能性を提供するようになる。
【0012】
国際公開第02/28548号パンフレットは、真空及びいくつかのパルスタイプの利用に対する制限を克服するプロセスを記載している。拡散誘電体バリヤ放電等の大気圧プラズマ放電と、噴霧前駆体とを組み合わせることによって、前駆体の機能性を或る程度維持する一連のコーティングを設けることができる。この技法を用いることにより、制御されたフリーラジカル重合が行われ、モノマー構造は有意に保持される。
【0013】
後(post:ポスト)放電プラズマシステムは、速い流速で隣接し且つ/(又は同軸の)電極間にガスを通過させてプラズマを生成するように開発された。これらのガスは、電極の形状で規定されるプラズマ領域を通過し、大気圧付近で励起し且つ/又は不安定な混合ガスの形態でシステムを出る。これらの混合ガスは、実質的に荷電種を含まないことを特徴とし、プラズマ領域、すなわち、プラズマが発生する隣接する電極間の隙間から離れた下流における用途で利用され得る。この「大気圧後プラズマ放電」(APPPD)は、低圧グロー放電及びAPGDといういくらかの物理特徴(例えば、グロー、活性な発光種の存在、及び化学反応性)を有する。しかしながら、いくつかの明らかな固有の相違(例えば、APPPDがより大きい熱エネルギーを有するということ、境界壁がないこと、例えば電極なし、荷電種が実質的に存在しないこと、ガス及び混合ガスの広範な選択、ガスの速い流速)が存在する。このタイプのシステムは、米国特許第5,807,615号明細書、米国特許第6,262,523号明細書及び国際公開第2005/039753号パンフレットに記載されており、これらは本願の優先権主張日後に公開されている。
【0014】
ホットフィラメント化学蒸着(HFCVD)は、ポリマーコーティングを基材上に堆積する代替的な方法であり、プラズマ促進化学蒸着(PECVD)とは異なり、フリーラジカルに基づくCVDプロセスを開始するのにプラズマを使用しないが、熱CVD反応を開始するのに加熱フィラメントを使用する。HFCVDを使用する近年の研究は、フリーラジカル開始剤を蒸気モノマーに添加することにより、得られた重合コーティングにおけるモノマーの機能性の保持が向上し得ることを示している(Gleason他、Langmuir, 2002, 18, 6424及びGleason他、J. Electrochem. Soc., 2001, 148, F212)。
【0015】
フリーラジカル重合反応を開始させるのに触媒を使用することは既知であり、通例使用される技法である。例えば、国際公開第00/34341号パンフレットは、オレフィン重合のための異種触媒を記載している。米国特許第5,064,802号明細書、同第5,198,401号明細書及び同第5,324,800号明細書も、オレフィン重合のための選択的な触媒を記載している。米国特許第2,961,245号明細書は、ペルフルオロアルカンスルホン酸等の同種開始剤、及び連鎖停止剤として用いられるトリオルガノシリル末端を有する直鎖オルガノシロキサンの存在下での、フッ素化炭化水素ラジカルを含有するシクロトリシロキサンの重合を記載している。したがって、脱揮後にフッ素化シリコーン油が得られ、その粘度は事実上M2/D3比で確定される。触媒は適宜、蒸留又は洗浄により除去される。欧州特許第0,822,240号は、アクリレート、オルガノシラン及び硬化触媒から成るコーティング樹脂組成物を開示している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、驚くべきことに、フリーラジカル重合ポリマーコーティングの機能性の保持の改良が、プラズマ堆積プロセス中のフリーラジカル重合モノマーへのフリーラジカル開始剤の添加によって達成し得ることを見出した。また、開始剤が使用されるとコーティングの堆積率が増大することが分かった。開始剤の使用は特に、液体前駆体及び国際公開第02/28548号パンフレットに記載のような大気圧プラズマ技法と合わせて適用可能である。開始剤の添加は、起こり得る代替的なプラズマにより促進される破壊断片化反応に優先してモノマー中の重合性基を介したフリーラジカル重合を促進する。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明によれば、
i.フリーラジカル開始剤の存在下で1つ又は複数のフリーラジカル重合性基を有するフリーラジカル開始重合性モノマーを含む混合物をプラズマ処理する工程であって、当該プラズマ処理が、ソフトイオン化プラズマプロセスである、該工程と、
ii.工程(i)中に製造される得られたポリマーコーティング材料を基材表面上に堆積する工程と
を含む、基材表面上にポリマーコーティングを形成する方法を提供する。
【0018】
ソフトイオン化プラズマ処理が、プラズマ処理中に前駆体分子を断片化せしめないため、得られたポリマーコーティングが前駆体又はバルクポリマーの物理特性を有するプロセスであることを理解されたい。
【0019】
混合物のプラズマ処理は、プラズマ内にあるか又はプラズマを通過させた結果発生するイオン化種及び/又は励起種の相互作用を含むことが理解されるであろう。
【0020】
利用されるプラズマ活性の形態は、「ソフト」イオン化プラズマプロセスをもたらすのであれば、任意の好適なタイプであってもよい。「ソフト」イオン化プラズマを発生させるのに好適な任意のプラズマ発生装置を利用することもできる。好ましくは、非熱平衡プラズマ装置を使用しうる。本発明に利用し得る好適な非熱平衡プラズマとしては、大気圧グロー放電及び誘電体バリヤ放電(DBD)等の拡散誘電体バリヤ放電、プラズマナイフ型装置と呼ばれる低圧グロー放電(国際公開第03/085693号パンフレットに記載される)、又は後放電プラズマが挙げられる。好ましくは、非熱平衡プラズマ装置は、連続モード又はパルスモードのいずれでも動作することができる。好ましいプロセスは、「低温」プラズマであり、「低温」という用語は200℃未満、好ましくは100℃未満を意味することを意図する。これらは、(フレーム系機構等の熱平衡プラズマと比べて)衝突の頻度が比較的低いプラズマであり、広範な種々の温度でそれらの構成種を有する(したがって、慣用名は「非熱平衡」プラズマである)。
【0021】
好適な代替的なプラズマ源には、例えば、マイクロ波プラズマ源、(適切な場合には)コロナ放電源、アークプラズマ源、DCマグネトロン放電源、ヘリコン放電源、容量結合高周波(rf)放電源、誘導結合RF放電源、低圧パルス化プラズマ源及び/又は共振マイクロ波放電源が含まれ得る。コロナ放電システムは、局在強力電場、すなわち、ポイント、エッジ及び/又はワイヤ源を用いて発生する不均一電場を発生させる。コロナシステムは、30年を超える期間、表面活性の経済的で頑強な手段を産業に提供している。それらは一般に、酸化堆積環境(oxidative deposition environment)をもたらず環境空気中で動作し、これにより堆積化学の制御が困難になる。コロナシステムの設計は、局在強力プラズマを発生させ、プラズマチャンバ中のプラズマエネルギー密度を変えるものである。高エネルギー密度領域において、基材はプラズマから損傷を受けやすいが、低エネルギー密度域では処理速度が制限される。低エネルギー密度域において処理速度を速めようとすると、高エネルギー領域において許容不可能な度合いの基材損傷又はコーティング損傷がもたらされる。このようなエネルギー密度の変動は、プラズマチャンバ中の不均一堆積化学特性及び/又は不均一堆積率をもたらす。
【0022】
プラズマ源の選択は一般的に基材の次元によって要求される。グロー放電型源は、薄膜又はプレートに使用され、他のより適切なシステムは3次元基材に使用される。
【0023】
大気圧プラズマ又は後放電を発生させる任意の従来手段を、本発明の方法で使用してもよく、従来手段とは例えば、大気圧プラズマジェット、大気圧マイクロ波グロー放電及び大気圧グロー放電等の大気圧拡散誘電体バリヤ放電技法である。一般に、大気圧拡散誘電体バリヤ放電(例えば、グロー放電プロセス)は、プロセスガスとしてヘリウムを使用し、且つ大気圧で、ペニングイオン化機構を介する(と考えられる)均質なプラズマを発生させる高周波数(例えば、>1kHz)の電源(例えば、均質なグロー放電)を使用する。
【0024】
低圧パルス化プラズマの場合、モノマーは好ましくは蒸気の形態でプラズマに導入され、重合がプラズマ単独、又は存在する場合にはフリーラジカル開始剤との組み合わせによって開始される。低圧パルス化プラズマを基材の加熱及び/又はプラズマ放電のパルス化と共に実施してもよい。本発明において、加熱は一般的に必要とされないが、基材を融点とほぼ同じ温度まで加熱してもよい。基材の加熱及びプラズマ処理は循環的なものであってもよく、すなわち、基材を加熱しないでプラズマ処理した後に、プラズマ処理せずに加熱する等か、又は同時に行われてもよく、すなわち、基材の加熱及びプラズマ処理を同時に行う。プラズマは、高周波、マイクロ波又は直流(DC)等の任意の好適な手段によって発生し得る。13.56MHzの高周波により発生するプラズマが好ましい。特に好ましいプラズマ処理プロセスは、室温において又は基材の一定の加熱と共に必要とされる場合、プラズマ放電のパルス化を伴う。プラズマ放電は、特定の「オン」タイム及び「オフ」タイムを有するようにパルス化されるため、非常に低い平均電力、例えば10W未満、好ましくは1W未満が印加される。オンタイムは一般に10〜10,000μs、好ましくは10〜1,000μsであり、オフタイムは一般に1,000〜10,000μs、好ましくは1,000〜5,000μsである。ガス状前駆体はさらなるガスを伴わずに真空中に導入されてもよいが、ヘリウム又はアルゴン等のさらなるプラズマガスを利用してもよい。
【0025】
好適な大気圧拡散誘電体バリヤ放電装置(例えばグロー放電)の例としては、本出願人の同時係属出願である国際公開第02/35576号パンフレット、国際公開第03/086031号パンフレット及び国際公開第2004/068916号パンフレットに記載される装置が挙げられる。国際公開第02/35576号パンフレット及び国際公開第03/086031号パンフレットにおいて、プラズマは電極ユニットの対を用いて形成される。任意の好適な電極ユニットを使用してもよく、例えば、各電極ユニットは、電極、隣接する誘電体プレート、及び冷却導電性液を電極の外部上に誘導して、電極の平面を被覆する冷却水分配システムを備えていてもよい。各電極ユニットは、ボックスの内部で結合する誘電体プレートで形成される側面を有する耐水ボックスを備えていてもよく、平面電極は液注入口及び液排出口とを両方有する。液体分配システムは、冷却器と、再循環ポンプ及び/又は噴霧ノズルを実装する散布管とを備えていてもよい。国際公開第2004/068916号パンフレットは、多数の非金属系電極システムを記載している。大気圧プラズマアセンブリは、鉛直方向に配列され平行に離間した平面電極の第1の対及び第2の対を備えてもよく、第1の対の間の少なくとも1つの誘電体プレートと、隣接する1つの電極と、1つの電極に隣接した第2の対の間の少なくとも1つの誘電体プレートとを有し、この誘電体プレートと、他の誘電体プレート、又は電極の第1の対及び第2の対のそれぞれの電極との間の間隔は、第1のプラズマ領域及び第2のプラズマ領域を形成し、このアセンブリは、基材を上記第1のプラズマ領域及び第2のプラズマ領域を介して連続的に移行する手段をさらに備え、上記基材に対し各プラズマ領域で異なるプラズマ処理を施すようになっている。
【0026】
鉛直という用語は実質的な鉛直を含むことを意図し、水平に対して90度に位置する電極にのみ限定されるものではないことを理解されたい。
【0027】
一般的な大気圧拡散誘電体バリヤ放電発生装置(例えば、グロー放電プラズマ発生装置)では、プラズマが、3〜50mm、例えば5〜25mmの隙間内で発生する。したがって、本発明による方法は、大気圧グロー放電装置を用いるときに、コーティングフィルム、繊維及び粉末に特殊な有用性を有する。大気圧における定常状態のグロー放電プラズマの発生は好ましくは隣接する電極間に得られ、この電極は、使用されるプロセスガスに応じて5cmまで離間されていてもよい。電極は、1〜100kV、好ましくは4〜30kVの2乗平均平方根(rms)電位で作動する1〜100kHz、好ましくは15〜40kHzの高周波数である。プラズマを形成するのに使用される電圧は一般に、2.5〜30kV、最も好ましくは2.5〜10kVであるが、実際の値は、化学特性/ガスの選択及び電極間のプラズマ領域のサイズに左右される。各電極は任意の好適な幾何学形状及び構成を有し得る。金属電極を使用してもよい。金属電極は、接着剤によって、又は誘電体材料に対し何らかの電極の金属の加熱及び融解を適用することによって、誘電体材料と接着するプレート又はウエブの形態であってもよい。同様に、電極を誘電体材料内に封入してもよい。
【0028】
大気圧拡散誘電体バリヤ放電(例えば、グロー放電)アセンブリは任意の好適な温度で動作することができ、好ましくは、室温(20℃)〜70℃の温度で動作し、一般に30〜50℃の範囲の温度で利用される。
【0029】
大気圧グロー放電システム等の大気圧拡散誘電体バリヤ放電アセンブリを使用する場合、重合性モノマー及び開始剤は、従来手段により蒸気として、又は噴霧液として大気圧グロー放電プラズマ内に誘導され得る。モノマーは好ましくは、噴霧された後、関連するプラズマ領域に供給される。液体形態の場合、コーティング形成材料は任意の適切な噴霧器を用いて噴霧され得る。好ましい噴霧器としては例えば、超音波ノズル、すなわち、空気噴霧器又は振動噴霧器が挙げられ、この噴霧器内でエネルギーは高周波で液体に与えられる。振動噴霧器は、高周波振動を、開口を通って放出する液流に伝播する電磁変換器又は圧電変換器を使用してもよい。これらは、大きさが振動周波数の関数である実質的に均一な液滴を作る傾向がある。噴霧される材料は好ましくは、液体、固体又は液体/固体スラリーの形態である。噴霧器は好ましくは、10〜100μm、より好ましくは10〜50μmのコーティング形成材料の液滴サイズを生成する。使用され得る好適な超音波ノズルとしては、Sono-Tek Corporation(米国ニューヨーク州ミルトン)又はLechler GmbH(ドイツ、メッツィンゲン)による超音波ノズルが挙げられる。利用し得る他の好適な噴霧器としては、ガス噴霧ノズル、空気噴霧器及び圧力噴霧器等が挙げられる。例えば、2つの異なるコーティング形成材料から、コポリマーコーティングを基材上に形成するのに用いられる装置の場合、モノマーが不混和性であるか又は異なる相である、例えば1つ目は固体であり2つ目が気体又は液体である場合、本発明の装置は特殊な有用性を有し得る複数の噴霧器を備え得る。さらなる実施形態では、フリーラジカル開始剤及びモノマーを別々にプラズマ処理してもよい(すなわち、混合及び基材上への塗工前に別々のプラズマ領域を通すように誘導する)。この場合、開始剤及びモノマーは別々の噴霧器を必要とする。
【0030】
従来技術と比べて本発明のプラズマ処理工程において、大気圧拡散誘電体バリヤ放電アセンブリ(例えば大気圧グロー放電アセンブリ)を使用する利点は、大気圧の条件下で行う本発明の方法によって、液体及び固体で噴霧される重合性モノマーの両方を使用して基材コーティングを形成することができることである。さらに、重合性モノマーをプラズマ放電又はキャリアガスの非存在下で得られる流れ中に導入することができる、すなわち、例えば直接噴射(それによりモノマーをプラズマ内に直接噴射する)によって直接導入することができる。
【0031】
好ましくは、基材がプラズマ活性領域内に存在する間にコーティングの堆積が起こる。
【0032】
本発明による方法のいずれかの好ましいプラズマ処理に使用されるプロセスガスは、任意の好適なガスであってもよいが、好ましくは、例えばヘリウム、ヘリウムとアルゴンとの混合物、及びケトン及び/又は関連化合物をさらに含有するアルゴン系混合物等の不活性ガス又は不活性ガス系混合物である。これらのプロセスガスは、単独で、又は例えば窒素、アンモニア、O、HO、NO、空気又は水素等の潜在的に反応性のガスと組み合わせて利用してもよい。最も好ましくは、プロセスガスは、ヘリウム単独か、又は酸化ガス若しくは還元ガスと組み合わせたヘリウムである。ガスの選択は、行われるプラズマプロセスに応じて決定される。酸化プロセスガス又は還元プロセスガスを必要とする場合、それは好ましくは90〜99%の不活性ガス又は希ガスと、1〜10%の酸化ガス又は還元ガスとを含む混合物中で利用されるであろう。
【0033】
プラズマ処理の継続時間は、特定の基材及び対象となる用途に応じて決定される。
【0034】
好ましくは、本発明の方法が大気プラズマグロー放電プラズマアセンブリを利用する場合、基材を搬送する手段はリール式(reel-to-reel)プロセスである。好ましくは、このような場合、基材を連続的に、リール式プロセスを用いて大気プラズマグロー放電へ通すように搬送することによってコーティングしてもよく、このプロセスでは、基材は、第1のリールから、プラズマ領域を通過して、第2のリール上に、全ての基材がそれぞれのプラズマ領域内において所定の滞留時間を有することを保証する一定速度で移動する。プラズマ領域内の滞留時間はコーティング前に予め決めていてもよく、基材の速度を変える代わりにプラズマ領域の長さを変えてもよい。アセンブリは、第1のプラズマ帯域内の電極対の前後いずれかに位置する、一般的な鉛直方向に平行な電極の1つ又は複数の対をさらに備えていてもよい。
【0035】
適宜必要な場合には、基材をコーティングの前後いずれかで、ヘリウム、窒素、酸素、アルゴン又は空気等の好適なガスから発生するプラズマを用いて洗浄及び/又は活性化してもよい。好ましくは、上記の洗浄工程及び/又は活性化工程は、プラズマ帯域の前後いずれかに位置する平行な電極対を用いたプラズマ処理に基材を曝すことによって実行される。このプラズマ帯域内で、コーティングは基材に塗工される。好ましくは、洗浄工程及び/又は活性工程を基材をコーティングする前に行う。さらに、付加的な電極対によって生成される付加的なプラズマ領域内において適用される処理は、上記のプラズマ領域で行われるものと同じであっても異なっていてもよい。予備処理又は後処理のために付加的なプラズマ領域が設けられる場合、アセンブリ内の基材の通過を確保するために、必要な数のガイド及び/又はローラが設けられる。同様に好ましくは、基材は、アセンブリ内の隣接するプラズマ領域全てを通って上方や下方に搬送されるであろう。
【0036】
さらなるプラズマ領域が第1のプラズマ領域及び第2のプラズマ領域の後に設けられる場合、この付加的なプラズマ領域は、表面をさらに活性化してもよく、コーティングを塗工してもよく、また、基材が意図する用途に応じて、コーティングされた表面を活性化した後に、表面を再コーティングして、1つ又は複数のさらなるコーティング等を塗工するのに利用されてもよい。
【0037】
プラズマ処理の任意の好適な組み合わせを使用してもよい。例えば、初めに、ヘリウムガスプラズマを用いて、基材をプラズマ洗浄及び/又は活性化してもよく、その後で例えば本出願人の同時係属出願である国際公開第02/28548号パンフレットに記載の噴霧器又はネブライザーを用いた液体噴霧又は固体噴霧の塗工により、コーティングを塗工する。
【0038】
代替的には、初めに、基材をコーティング前に(例えば、酸素/ヘリウムプロセスガス中で)酸化してもよい。
【0039】
任意の好適な重合性基(複数可)は、本発明の方法で使用されるフリーラジカル開始重合性モノマー中に含まれ得る。好ましくは、各モノマーは、直鎖又は分岐鎖アルケニル基(例えばビニル、プロペニル、ヘキセニル)又はアルキニル基等の少なくとも1つの不飽和基を含む。最も好ましくは、当該モノマーはまた、フリーラジカル重合プロセスを介して重合していない少なくとも1つの他のタイプの官能基を含む。このような基としては、アルコール基;カルボン酸基;アルデヒド及びケトン等のカルボン酸誘導体基;エステル;酸無水物;マレイン酸塩;並びにアミド等;第1級、第2級又は第3級アミノ基;ハロゲン化アルキル基;カルバメート基;ウレタン基;グリシジル基及びエポキシ基;グリコール基及びポリグリコール基;有機塩;ホウ素原子を含有する有機基;ホスホン酸塩等のリン含有基;メルカプト基、スルフィド基、スルホン基及びスルホン酸基等のイオウ含有基;アミノ酸及び/又はそれらの誘導体等のグラフト化又は共有結合した生化学基;タンパク質、酵素及びDNA等のグラフト化又は共有結合した生化学種が挙げられ得る。行われるプラズマプロセスが「ソフトイオン化」タイプであるということに鑑みて、後者の基は破壊されないため、基材表面上に得られるポリマーコーティングに機能性を与える。
【0040】
それゆえ、本発明に利用され得るモノマーとしては、メタクリル酸、アクリル酸、アルキルアクリル酸、フマル酸及びエステル、マレイン酸、無水マレイン酸、シトラコン酸、桂皮酸、イタコン酸(及びエステル)、ビニルホスホン酸、ソルビン酸、メサコン酸、並びに、クエン酸、コハク酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)及びアスコルビン酸、並びにそれらの誘導体;並びに/又は、例えばアリルアミン等の不飽和第1級又は第2級アミン;2−アミノエチレン;3−アミノプロピレン;4−アミノブチレン及び5−アミノペンチレン;アクリロニトリル;メタクリロニトリル;N−イソプロピルアクリルアミド、及びメタクリルアミド等のアクリルアミド;エポキシ化合物、例えばアリルグリシジルエーテル、一酸化ブタジエン、2−プロペン−1−オール、3−アリルオキシ−1,2−プロパンジオール、酸化ビニルシクロヘキセン;並びにリン含有化合物、例えばビニルホスホン酸ジメチル、アリルリン酸ジエチル及びアリルホスホン酸ジエチル;ビニルスルホン酸、ビニルスルホン酸フェニル、ビニルスルホンが挙げられ得る。
【0041】
使用し得る他のモノマーとしては、メタクリル酸塩、アクリル酸塩、ジアクリル酸塩、ジメタクリル酸塩、スチレン、メタクリロニトリル、アルケン及びジエン、例えばメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、及び他のメタクリル酸アルキル、並びに対応するアクリル酸塩、例えば、有機官能性メタクリル酸塩及びアクリル酸塩(例えばメタクリル酸グリシジル、メタクリル酸トリメトキシシリルプロピル、メタクリル酸アリル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸ジアルキルアミノアルキル、及び(メタ)アクリル酸フルオロアルキル)、並びにスチレン、α−メチルスチレン、ハロゲン化アルケン、例えばハロゲン化ビニリデン、ハロゲン化ビニル(塩化ビニル及びフッ化ビニル等)、並びにフッ素化アルケン、例えばペルフルオロアルケンが挙げられ得る。
【0042】
任意の好適な開始剤を利用してもよい。例としては、過酸化水素及び以下のような過酸化物のファミリーが挙げられる:
i)ジアシル、例えばベンゾイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド、デカノイルペルオキシド及び3,3,5−トリメチルヘキサノイルペルオキシド;
ii)ペルオキシジカーボネート、例えばジ−(2−エチルヘキシル)ペルオキシジカーボネート;
iii)モノペルオキシカーボネート、例えばポリ(tert−ブチルペルオキシカーボネート)、及び00−tert−ブチル−0−(2−エチルヘキシル)モノペルオキシカーボネート;
iv)ペルオキシケタール、例えばエチル3,3−ジ(tert−ブチルペルオキシ)ブチレート;n−ブチル4,4−ジ−tert−(tert−ブチルペルオキシ)バレレート;2,2−ジ(tert−ブチルペルオキシ)ブタン;1,1−ジ(tert−ブチルペルオキシ)シクロヘキサン及び1,1−ジ(tert−アミルペルオキシ)シクロヘキサン;
v)ペルオキシエステル、例えばtert−ブチルペルオキシベンゾエート;tert−ブチルペルオキシアセテート;tert−ブチルペルオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート;tert−アミルペルオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート;tert−ブチルペルオキシイソブチレート;tert−ブチルペルオキシ2−エチルヘキサノエート;tert−ブチルペルオキシピバレート;tert−アミルペルオキシピバレート;tert−ブチルペルオキシネオデカノエート;tert−アミルペルオキシネオデカノエート;クミルペルオキシネオデカノエート;3−ヒドロキシ−1,1−ジ−メチルブチルペルオキシネオデカノエート;
vi)ジアルキル、例えば2,5−ジメチル2,5−ジ(tert−ブチルペルオキシ)ヘキシン;ジ−tert−ブチルペルオキシド;ジ−tert−アミルペルオキシド;2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルペルオキシ)ヘキサン;ジクミルペルオキシド;及び
vii)ヒドロペルオキシド、例えばtert−ブチルヒドロペルオキシド;tert−アミルヒドロペルオキシド;クメンヒドロペルオキシド;2,5−ジメチル(dimthyl)−2,5−ジ(ヒドロペルオキシド)ヘキサン;ジイソプロピルベンゼンモノヒドロペルオキシド;パラメンタンヒドロペルオキシド。
【0043】
他の開始剤としては、ヒドラジン、ポリスルフィド、アゾ化合物、例えば、アゾビスイソブチロニトリル;金属ヨウ化物及びアルキル金属;ベンゾイン;ベンゾインアルキルエーテル及びベンゾインアリールエーテル等のベンゾインエーテル;アセトフェノン;ベンジル;ベンジルジアルキルケタール等のベンジルケタール;2−アルキルアントラキノン、1−クロロアントラキノン及び2−アミルアントラキノン等のアントラキノン;トリフェニルホスフィン;ベンゾイルホスフィン酸化物;ベンゾフェノン;チオキサノン;キサントン;アクリジン誘導体;フェンジン誘導体;キノキサリン誘導体;1−アミノフェニルケトン等のフェニルケトン、及び1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン等の1−ヒドロキシフェニルケトン;並びにトリアジン化合物が挙げられる。
【0044】
モノマー及び開始剤は、予備混合して、プラズマ内に、好ましくはモノマー及び開始剤の混合ガスの形態で、又は好ましくは混合噴霧液の形態で導入され得る。代替的には、モノマー及び開始剤は、プラズマチャンバ内に、別々に適切な速度で導入され得る。好ましくはモノマー及び開始剤を予備混合する。
【0045】
コーティングされる基材は、任意の材料、例えば金属、セラミック、プラスチック、シロキサン、織繊維又は不織繊維、天然繊維、合成繊維、セルロース材料及び粉末を含んでいてもよい。最も好ましくは、本発明の場合、好ましい基材はプラスチック材料、例えば熱可塑性材料である。この例としては、ポリオレフィン(例えばポリエチレン及びポリプロピレン)、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル(例えばポリアルキレンテレフタレート、特にポリエチレンテレフタレート)、ポリメタクリレート(例えばポリメチルメタクリレート、及びヒドロキシエチルメタクリレートのポリマー)、ポリエポキシド、ポリスルホン、ポリフェニレン、ポリエーテルケトン、ポリイミド、ポリアミド、ポリスチレン、フェノール樹脂、エポキシ樹脂及びメラミン−ホルムアルデヒド樹脂、並びにこれらのブレンド及びコポリマーが挙げられる。
【0046】
本発明の堆積方法によってコーティングされる基材は、様々な特性及び/又は用途、例えば、バリヤ特性;親水性、生体適合性、防汚性等の親水性コーティング及び疎水性コーティングの改良;及び基材の制御された表面pHの用途を有する。制御された表面pHの用途には、濾過(気体及び液体の両方)並びに分離媒体が含まれる。また、基材を利用して、活性材料を捕獲又は封入してもよい。代替的な用途としては、付加的な材料の基材表面への接着能力の改良;基材の疎水性、疎油性、耐燃料油性、防汚性及び/又は剥離特性の改良;耐水性の改良及び織物の柔らかさの向上;さらにコーティング中へのコロイド金属種の組込みが挙げられ、基材に表面導電性を付与し、その光学特性を高めることができる。
【0047】
図面を参照しながら以下の実施例を参照することによって、本発明はより明瞭に理解されるであろう。
【実施例】
【0048】
(実施例1)
ジクロロベンゾイルペルオキシド開始剤を用いたポリプロピレンフィルム上へのポリアクリル酸堆積における酸官能性の保持
アクリル酸(AA)並びに、Akzo Nobel Chemicals Inc.によりPerkadox(登録商標)PD50S−ps−aとして販売される、0、0.6及び3重量%の2,4ジクロロベンゾイルペルオキシドの50%ペースト(ポリジメチルシロキサン液(DCBP)中)を含む3つの液体コーティング形成材料組成物を調製した。
【0049】
【化1】

ジクロロベンゾイルペルオキシド
【0050】
組成物を用いて、本出願人の同時係属特許出願である国際公開第03/086031号パンフレットに記載され且つ本明細書の図1に示される型の大気圧グロー放電プラズマユニットを通過させてポリプロピレンフィルム上にポリアクリル酸コーティングを形成した。
【0051】
図1を参照すると、柔軟性ポリプロピレン構造基材及び柔軟性ポリエステル構造基材を、ガイドローラ70、71及び72を用いてプラズマアセンブリを通過させて搬送した。ヘリウムプロセスガス注入口75、アセンブリの蓋76、及び噴霧液体コーティング形成材料組成物をプラズマ領域60に導入する超音波ノズル74等の噴霧器を備えている。両プラズマ領域に印加される総プラズマ電力は0.6kWであった。
【0052】
使用にあたり、100mm幅のウエブである柔軟性基材を、プラズマアセンブリを通過させて4m/分の速度で搬送した。初めに、基材を、電極20aと電極26との間のプラズマ領域25内をガイドローラ70方向へ送り、ガイドローラ70上に誘導した。プラズマ領域25で電極20aと電極26との間に発生したプラズマを洗浄用ヘリウムプラズマとして利用した、すなわち、液体コーティング形成材料組成物をプラズマ領域25内に誘導しなかった。ヘリウムを注入口75を用いてシステム内に導入した。蓋76をシステムの上部に設けて、ヘリウムが空気よりも軽いため、ヘリウムが流出するのを防いだ。プラズマ領域25を出ると、プラズマ洗浄された基材はガイド71上を通過して、電極26と電極20bとの間のプラズマ領域60内を下方へ送られローラ72上に誘導される。しかしながら、プラズマ領域60は、基材をポリアクリル酸コーティングでコーティングするのに利用される。このポリアクリル酸コーティングは、上記の噴霧液体コーティング形成材料組成物から得られ、これは超音波ノズル74を通して50μL/分の速度でプラズマ領域60内に導入される。
【0053】
プラズマ領域60を通過する際に、各噴霧液体コーティング形成材料組成物はプラズマ処理され、(存在する場合)DCBP開始剤とプラズマとの両方から一連のフリーラジカル種を発生する。これらのフリーラジカルは重合反応を経て、基材上に堆積して、プラズマ領域60を通過する際に基材上にコーティングを形成する。その後、得られたコーティング基材をローラ72上に搬送し、回収するか又は追加のプラズマ処理でさらに処理する。ローラ70及び72はローラではなくリールであってもよい。
【0054】
XPS分析
Al Kα X線源を備えるKratos Axis Ultra電子分光計、すなわち同心半球型アナライザーを得られたコーティング基材のXPS分析に用いた。発光電子を基材表面から90°の射出角で集束させた。XPSスペクトルをインターフェースPCコンピュータで蓄積し、シンプレックス(simplex)最小化アルゴリズムを用いて最適化させた。このシンプレックス最小化アルゴリズムは、可変性の半値全幅(FWHM)を有するガウス:ローレンツピークと制御される結合エネルギー値とを組み合わせている。Kratosライブラリを用いた装置感度因子はC(1s):O(1s)として得られ、0.278:0.78であった。
【0055】
XPS分析を用いると、期待にたがわず、基材表面上の酸素の相対濃度がポリアクリル酸コーティングの存在下で増大し、驚くべきことに、アクリル酸とDCBPとを含む液体コーティング形成材料組成物から得られるコーティング中で観測された酸素濃度はさらに増大することが分かった。高濃度の開始剤を使用すると、表1に示されるように酸素濃度はさらに増大する。表1は、異なる液体コーティング形成材料組成物から得られるポリアクリル酸コーティングに対する酸素の相対濃度を比較している。
【0056】
【表1】

【0057】
炭素(C 1s)内殻準位のXPS曲線近似は、従来方法による重合アクリル酸の曲線近似と比較することで堆積の化学特性に関する情報を示した。
【0058】
開始剤を添加せずに0.6kWの堆積電力を用いて調製したプラズマ重合ポリアクリル酸(ppPAAc)堆積について、炭素(C 1s)内殻準位形状は、従来方法による重合アクリル酸(PAAc)の内殻準位形状と類似していたが、COXに関するピークは予想したものよりも低い強度であった。PAAcに関するピーク域をCOXピークの強度に限定することによって、基材に関する3つのさらなるピーク、すなわちC−C(sub)、C−OX及びC=Oが要求されることは明らかであろう。アクリル酸系前駆体のいくらかの僅かな酸化は、プラズマ処理されたポリプロピレン(5%)の強度と比べて、C−OXピークの強度が増大したことで確認された。
【0059】
0.6%量(10gアクリル酸/0.062gDCBP)の開始剤の添加は、カルボン酸ピークサイズを増大させた。
【0060】
COXピーク強度のさらなる増大は、3重量%(11.5gアクリル酸/0.358gDCBP)であるより高濃度の開始剤を添加すると観測された。
【0061】
ppAAc堆積層を作製する官能基の相対濃度を表2に示す。ペルオキシド開始剤の濃度を増大させると、カルボン酸官能基の濃度が増大することがはっきりと分かる。これは、堆積の厚みが増大すること、すなわち開始剤の添加により堆積率が改良することを指摘している。COXピークの強度をC−C(sub)に関する合成ピークの強度と比較することによるヒル方程式(JM Hill他、Chem. Phys. Lett., 1976, 44, 225)を用いて、堆積の厚みを評価することができた。
【0062】
【表2】

【0063】
(実施例2)
ジフェニルエタンジオン開始剤を用いたポリプロピレンフィルム上へのポリアクリル酸堆積の酸官能性の保持
実施例1に記載のプロセスを、Sigma-Aldrich company Ltd(イギリス、ドルセット(Dorset))によりベンジルという名称で販売されている代替的な開始剤であるジフェニルエタンジオン(DPE)を用いて繰り返した。
【0064】
【化2】

ジフェニルエタンジオン
【0065】
また、DPE開始剤を添加することにより、表3に示されるプラズマ重合アクリル酸の堆積における顕著な改良がもたらされる。ここで、0.5、1.0及び2.5%の濃度を、開始剤を含まない堆積と比較した。
【0066】
【表3】

【0067】
実施例2の場合、本発明により調製される結果として生成されるポリアクリル酸フィルムの親水性の変化を評価するために、接触角分析をさらに行った。
【0068】
接触角分析
可動ステージと、自動シリンジと、液滴の画像を記録する光学機器とを備えるCAM 20 Optical Contact Angle Meter装置(KSV Instruments LTD)を用いて、接触角分析を行った。HPLC用の水2μl液滴を、各試験品上に堆積させ、液滴の画像を堆積の30秒後に記録した。液滴の両側の接触角を測定した。以下の表4に示される結果において、水接触角が小さければ、堆積コーティングの親水性は大きくなることを理解されたい。
【0069】
【表4】

【0070】
水接触角は、未処理基材に対して99°から、開始剤が含まれないアクリル酸組成物から得られるポリアクリル酸コーティングを含む基材に対して46°まで減少したが、極めて有意な変化がDPE開始剤の存在下で確認され、親水性の有意な改良を示す各濃度では角度は約18°まで下がる。後者の値が、従来方法による重合ポリアクリル酸の15°の水接触角の値とほぼ同じであることに留意されたい。
【0071】
気相誘導体化(Derivatisation)(GPD)
得られるコーティングのさらなる分析は、Chilkoti, A.; Ratner, B. D.; Briggs, D., Chem. Mater., 3, 1991, 51-61に記載のGPDを用いて行われ、Alexander他、Alexander, M. R. ; Wright, P. V.; Ratner, B. D., Surf. Interface Anal., 24, 1996, 217-220及びAlexander, M. R.; Duc, T. M., J. Mater. Chem., 8(4), 1998, 937-943でさらに展開した。GPDを頻繁に用いて、変性ポリマー表面の化学環境についてのあいまいな情報を得る。この場合には、トリフルオロエタノール誘導体化を、ポリマーコーティング中のカルボン酸官能基の保持率を測定する手段として利用した。その後、本発明による方法によって塗工されたコーティングをトリフルオロエタノールで誘導体化し、以下のスキーム1の機構によってカルボン酸官能性とカルボン酸エステル官能性とを識別した。
【0072】
スキーム1:カルボン酸官能基(functionalities)とのトリフルオロエタノールの反応
【化3】

【0073】
GPDに引き続き、得られた誘導体化コーティングをXPSによって分析し、プラズマ重合ポリアクリル酸コーティング中のカルボン酸官能基の保持率を測定した。COOH:COOC比の比較を表5に示す。
【0074】
【表5】

【0075】
期待にたがわず、従来方法による重合ポリアクリル酸は、コーティング中に保持されるCOOHの最大濃度(88%)を有する。ベンジルコーティングを含まないプラズマ重合アクリル酸は、64%の保持率を有することが分かった。これは、36%の酸基が架橋して、カルボン酸エステルを形成したことを示す。カルボン酸の保持は、開始剤の使用によって77%まで増大した。
【0076】
これらの結果は、フィルムの厚みの測定結果によって示されるような水接触角測定結果及び堆積率による前述の観測と良く一致している。
【0077】
(図1) 本明細書中の実施例で使用されるプラズマ発生装置の全体図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
i.フリーラジカル開始剤の存在下で1つ又は複数のフリーラジカル重合性基を有するフリーラジカル開始重合性モノマーを含む混合物をプラズマ処理する工程であって、該プラズマ処理がソフトイオン化プラズマプロセスである、該工程と、
ii.工程(i)中に生成する得られるポリマーコーティング材料を基材表面上に堆積する工程と
を含む、基材表面上にポリマーコーティングを形成する方法。
【請求項2】
各モノマーが少なくとも1つの不飽和基を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記モノマーが、アルコール基;カルボン酸基;カルボン酸誘導体基;アクリル酸基;アルキルアクリル酸基;並びに第1級、第2級又は第3級アミノ基;ハロゲン化アルキル基;カルバメート基;ウレタン基;グリシジル基及びエポキシ基;グリコール基及びポリグリコール基;有機塩;ホウ素原子、リン原子及びイオウ原子を含有する有機基;アミノ酸及び/又はそれらの誘導体等のグラフト化又は共有結合した生化学基;タンパク質、酵素及びDNA等のグラフト化又は共有結合した生化学種から選択される1つ又は複数の官能基を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記モノマーが、アクリル酸、アルキルアクリル酸、フマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、シトラコン酸、桂皮酸、イタコン酸、ビニルホスホン酸、ソルビン酸、メサコン酸、クエン酸、コハク酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)及びアスコルビン酸、並びにそれらの誘導体;アリルアミン、2−アミノエチレン、3−アミノプロピレン、4−アミノブチレン及び5−アミノペンチレン;アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、アルキルアクリルアミド、エポキシ化合物、一酸化ブタジエン、2−プロペン−1−オール、3−アリルオキシ−1,2−プロパンジオール、酸化ビニルシクロヘキセン、ビニルホスホン酸ジメチル、アリルリン酸ジエチル、及びアリルホスホン酸ジエチル、ビニルスルホン酸、ビニルスルホン酸フェニル、ビニルスルホン、メタクリル酸アルキル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸トリメトキシシリルプロピル、メタクリル酸アリル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸ジアルキルアミノアルキル、メタクリル酸フルオロアルキル、及び対応するアクリル酸塩、スチレン、α−メチルスチレン、ハロゲン化アルケン、例えば、ハロゲン化ビニリデン、ハロゲン化ビニル、フッ素化アルケン、及びペルフルオロアルケンの1つ又は複数から選択される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記基材が、金属、セラミック、プラスチック、シロキサン、織布又は不織布、天然繊維、合成繊維、セルロース材料及び粉末から選択される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記開始剤が、ジアシルペルオキシド、ペルオキシジカーボネート、モノペルオキシカーボネート、ペルオキシケタール、ペルオキシエステル、ジアルキルペルオキシド、ヒドロペルオキシド、ヒドラジン、ポリスルフィド、アゾ化合物、金属ヨウ化物、及びアルキル金属の群から選択される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記開始剤が、ベンゾイン、ベンゾインエーテル、アセトフェノン、ベンジル、ベンジルケタール、アントラキノン、1−クロロアントラキノン及び2−アミルアントラキノン、トリフェニルホスフィン、ベンゾイルホスフィン酸化物、ベンゾフェノン、チオキサノン、キサントン、アクリジン誘導体、フェンジン誘導体、キノキサリン誘導体、フェニルケトン、1−アミノフェニルケトン及び1−ヒドロキシフェニルケトン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン及びトリアジン化合物の群から選択される、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記プラズマ源が、非熱平衡プラズマ源、マイクロ波プラズマ源、コロナ放電源、アークプラズマ源、DCマグネトロン放電源、ヘリコン放電源、容量結合高周波(rf)放電源、誘導結合rf放電源、低圧パルス化プラズマ源及び/又は共振マイクロ波放電源である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記プラズマが、大気圧グロー放電、誘電体バリヤ放電(DBD)、低圧放電グロー放電、プラズマジェット、プラズマナイフ及び後放電プラズマの群から選択される非熱平衡プラズマにより発生する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記モノマー及び前記開始剤が、予備混合されて、1つの混合物として前記プラズマに導入されることができる、請求項1〜9のいずれか1項に記載の基材表面上にポリマーコーティングを形成する方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法によって製造される、コーティング基材。
【請求項12】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法で得られる、堆積コーティングを有する基材。
【請求項13】
親水性で生体適合性且つ防汚性のバリヤコーティングとしての用途における、又は濾過及び分離媒体等の制御された表面pHの利用における、請求項10又は11に記載の基材の使用。

【公表番号】特表2008−518105(P2008−518105A)
【公表日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−538489(P2007−538489)
【出願日】平成17年10月12日(2005.10.12)
【国際出願番号】PCT/GB2005/003929
【国際公開番号】WO2006/046003
【国際公開日】平成18年5月4日(2006.5.4)
【出願人】(502286568)ダウ・コーニング・アイルランド・リミテッド (11)
【氏名又は名称原語表記】Dow Corning Ireland Limited
【住所又は居所原語表記】Unit 12, Owenacurra Business Park, Midleton, Co. Cork, Ireland
【Fターム(参考)】