説明

プラズマディスプレイパネルおよびその製造方法

【課題】耐電圧が高い誘電体層を備え、誘電体層やガラス基板の黄変を抑制するとともに絶縁破壊も抑制された信頼性の高いプラズマディスプレイパネルを提供する。
【解決手段】本発明のプラズマディスプレイパネルは、互いに交差する表示電極5とアドレス電極10とを有し、表示電極5およびアドレス電極10から選ばれる少なくとも1つの電極が第1のガラスを含む第1の誘電体層6で被覆されているプラズマディスプレイパネルである。前記第1のガラスは、MoO3を0.1〜4wt%含み、かつ、WO3を含まない。第1の誘電体層6で被覆されている前記電極は、銀および銅から選ばれる少なくとも1種を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマディスプレイパネルおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プラズマディスプレイパネル(以下、「PDP」という場合がある。)、FED、液晶ディスプレイ等のフラットパネルディスプレイは、薄型軽量化を実現できるディスプレイとして注目されている。
【0003】
これらのフラットパネルディスプレイは、ガラス基板とその上に配置された構成要素とを含む前面板と背面板とを備える。そして、前面板および背面板は互いに対向するように配置され、外周部が封止されている。
【0004】
上述のように、PDPは、前面板と背面板とを対向させてその外周を封着用のガラスによって封着した構成を有する。前面板は前面ガラス基板を含み、その表面上にストライプ状の表示電極が形成され、さらに、その上に誘電体層および保護層が形成されている。また、背面板は背面ガラス基板を含み、その表面上にストライプ状にアドレス電極が形成され、その上に誘電体層が形成され、さらに、隣り合うアドレス電極同士の間に隔壁が形成され、形成された隣り合う隔壁間に蛍光体層が形成されている。
【0005】
前面板と背面板とは、双方の電極が直交するように、かつ、互いに対向するように配置された状態で、外縁部が封着される。内部に形成される密閉空間には、放電ガスが充填されている。
【0006】
なお、表示電極は2本で一対を構成しており、その一対の表示電極と1本のアドレス電極とが、放電空間を挟んで立体的に交差する領域が、画像表示に寄与するセルとなる。
【0007】
以下、PDPの誘電体層について具体的に説明する。PDPの誘電体層は、電極上に形成されることから高い絶縁性を有すること、消費電力を抑えるために低い誘電率を有すること、剥れやクラックが入らないようにガラス基板との熱膨張係数がマッチングしていること、等が求められる。さらに前面ガラス基板に形成される誘電体層は、蛍光体から発生した光を効率よく表示光として利用するために、通常、可視光透過率の高い非晶質ガラスであることが要求される。
【0008】
誘電体層は、通常、ガラス粉末、樹脂、溶剤、場合によって無機充填剤や無機顔料を含むガラスペーストを、スクリーン印刷等でガラス基板上に塗布し、乾燥、焼成することによって形成される。一方、PDPに使用されるガラス基板としては、価格や入手容易性の観点等からフロート法で作製されたソーダライムガラスが一般的に使用されている。そのため、ガラスペーストの焼成は、ガラス基板の変形が生じない600℃以下で行われている。
【0009】
PDPに用いられている誘電体層は、ガラス基板が変形を起こさない温度で焼成しなければならないため、比較的低融点のガラスで形成する必要がある。そのため、現在は、PbOを主原料とするPbO−SiO2系ガラスが主に使用されている。
【0010】
このようなPDPの誘電体層は樹脂や溶剤を含むガラスペーストを焼成することによって形成されるため、炭素含有不純物の残留により誘電体層が着色して輝度が低下することがある。これを低減する目的で、PbOを含有するガラスにMoO3またはSb23を添加した透明電極被覆用ガラスが提案されている(例えば特開2001−151532号公報参照)。
【0011】
さらに、環境問題への配慮から、鉛を含まない誘電体層の開発が進められており、たとえば、Bi23−B23−ZnO−R2O系ガラス(R:Li,Na,K)を用いた誘電体層が提案されている(例えば特開2001−139345号公報参照)。また、アルカリ金属酸化物を含むガラスを使用する場合に、アルミニウム電極上での焼成により生じるピンホールを低減するため、CuO、CoO、MoO3またはNiOを添加したガラスが提案されている(例えば特開2002−362941号公報参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2001−151532号公報
【特許文献2】特開2001−139345号公報
【特許文献3】特開2002−362941号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述したように、鉛を含まないガラスを用いた誘電体層については従来から提案されているが、低軟化点を実現するために鉛に代えて使用される酸化ビスマスを含むことにより、誘電体層や前面ガラス基板が黄変してしまう場合がある。この黄変が発生するメカニズムは、次のように考えられる。
【0014】
前面ガラス基板に設けられる表示電極や背面ガラス基板に設けられるアドレス電極には、AgやCuが用いられており、誘電体層を形成する際に行われる焼成時において、AgやCuがイオン化して誘電体層やガラス基板の中に溶け出して拡散する場合がある。この拡散したAgイオンやCuイオンは、誘電体層中のアルカリ金属イオンやビスマス酸化物、前面ガラス基板に含まれるSnイオン(2価)によって還元されやすく、その場合にはコロイド化してしまう。このようにAgやCuがコロイド化した場合、誘電体層や前面ガラス基板において、黄色や褐色に変色される、いわゆる黄変が生じる(例えばJ.E. SHELBYand J.VITKO. Jr Journal of Non-Crystalline Solids vol50 (1982) 107−117)。このような黄変したガラスは波長400nmの光を吸収するため、PDPにおいては、青色の輝度が低下したり、色度の悪化が生じたりするので、前面板においては特に問題となる。また、AgやCuのコロイドは、導電性であるため誘電体層の絶縁耐圧を低下させたり、イオンよりもはるかに大きなコロイド粒子として折出するため誘電体層を透過する光を反射してPDPの輝度を低下させたりする原因となる。
【0015】
本発明は、上記課題に鑑み、耐電圧が高い誘電体層を備え、誘電体層やガラス基板の黄変を抑制するとともに絶縁破壊も抑制された信頼性の高いプラズマディスプレイパネルおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために、本発明のプラズマディスプレイは、互いに交差する表示電極とアドレス電極とを有し、前記表示電極およびアドレス電極から選ばれる少なくとも1つの電極が第1のガラスを含む第1の誘電体層で被覆されているプラズマディスプレイパネルであって、前記第1のガラスがBi23を含むガラスであり、かつ、前記第1の誘電体層で被覆されている前記電極が銀および銅から選ばれる少なくとも1種を含んでおり、前記第1のガラスが、さらに、MoO3を0〜4wt%、WO3を0〜4wt%含み、かつ、前記第1のガラスに含まれるMoO3とWO3の含有率の合計が、0.1〜8wt%の範囲である。
【0017】
また、本発明のプラズマディスプレイパネルでは、前記第1のガラスに含まれるBi23の含有率を2〜40wt%とできる。
【0018】
また、本発明のプラズマディスプレイパネルでは、前記第1のガラスが、組成成分として、少なくとも、
SiO2:0〜15wt%
23:10〜50wt%
ZnO:15〜50wt%
Al23:0〜10wt%
Bi23:2〜40wt%
MgO:0〜5wt%
CaO+SrO+BaO:5〜38wt%
MoO3:0〜4wt%
WO3:0〜4wt%
を含んでおり、かつ、前記第1のガラスに含まれるMoO3とWO3の含有率の合計が、0.1〜8wt%の範囲であることが好ましい。この場合、上記の組成に加え、前記第1のガラスが、組成成分として、Li2O、Na2OおよびK2Oから選ばれる少なくとも1種をさらに含んでいてもよく、前記第1のガラスに含まれるLi2O、Na2OおよびK2Oの含有率の合計は、例えば0.1〜10wt%の範囲とできる。
【0019】
また、本発明のプラズマディスプレイパネルでは、前記第1のガラスが、組成成分として、少なくとも、
SiO2:0〜15wt%
23:10〜50wt%
ZnO:15〜50wt%
Al23:0〜10wt%
Bi23:2〜40wt%
MgO:0〜5wt%
CaO+SrO+BaO:5〜38wt%
Li2O+Na2O+K2O:0.1wt%よりも大きく10wt%以下
MoO3:0〜4wt%
WO3:0〜4wt%
を含んでおり、かつ、前記第1のガラスに含まれるMoO3とWO3の含有率の合計が、0.1〜8wt%の範囲であることが、より好ましい。また、より好ましい組成の別の例として、前記第1のガラスが、組成成分として、少なくとも、
SiO2:2wt%よりも大きく15wt%以下
23:10〜50wt%
ZnO:15〜50wt%
Al23:0〜10wt%
Bi23:2〜40wt%
MgO:0〜5wt%
CaO+SrO+BaO:5〜38wt%
Li2O+Na2O+K2O:0.1〜10wt%
MoO3:0〜4wt%
WO3:0〜4wt%
を含んでおり、かつ、前記第1のガラスに含まれるMoO3とWO3の含有率の合計が、0.1〜8wt%の範囲であるガラスも挙げられる。
【0020】
また、本発明のプラズマディスプレイパネルでは、前記第1のガラスが、組成成分として、少なくとも、
SiO2:2wt%よりも大きく15wt%以下
23:10〜50wt%
ZnO:15〜50wt%
Al23:0〜10wt%
Bi23:2〜40wt%
MgO:0〜5wt%
CaO+SrO+BaO:5〜38wt%
Li2O+Na2O+K2O:0.1wt%よりも大きく10wt%以下
MoO3:0〜4wt%
WO3:0〜4wt%
を含んでおり、かつ、前記第1のガラスに含まれるMoO3とWO3の含有率の合計が、0.1〜8wt%の範囲であるガラスも、より好ましい組成として挙げられる。
【0021】
上記のより好ましい組成範囲を有する第1のガラスにおいて、Li2O、Na2OおよびK2Oの含有率が、
Li2O:0.17wt%以下
Na2O:0.36wt%以下
2O:0.55wt%以下
であり、かつ、
Li2O+Na2O+K2O:0.55wt%以下
であってもよい。
【0022】
本発明は、さらに、電極が形成された基板上に第1のガラスを含む第1のガラス材料を配置し、前記第1のガラス材料を焼成することによって、前記電極を被覆する第1の誘電体層を形成する工程を含むプラズマディスプレイパネルの製造方法であって、前記第1のガラスがBi23を含むガラスであり、かつ、前記第1の誘電体層で被覆されている前記電極が銀および銅から選ばれる少なくとも1種を含んでおり、前記第1のガラスが、さらに、MoO3を0〜4wt%、WO3を0〜4wt%含み、かつ、前記第1のガラスに含まれるMoO3とWO3の含有率の合計が、0.1〜8wt%の範囲であるプラズマディスプレイパネルの製造方法も提供する。
【発明の効果】
【0023】
本発明のプラズマディスプレイパネルおよび本発明のプラズマディスプレイパネルの製造方法によって得られるプラズマディスプレイパネル(以下、本発明によって得られるプラズマディスプレイパネルと記載する。)では、前記第1のガラスが、低軟化点化を実現する成分としてBi23を含んでいるので、鉛(PbO)を実質的に含有しない誘電体層を形成することが可能である。なお、本明細書において、「実質的に含有しない」とは、特性に影響を及ぼさないごく微量の当該成分を許容する趣旨であり、具体的には、含有率が0.1wt%以下、好ましくは0.05wt%以下である。従って、本発明のプラズマディスプレイパネルでは、第1のガラスに含まれる鉛を0.1wt%以下、好ましくは0.05wt%以下とすることができる。
【0024】
本発明によって得られるプラズマディスプレイパネルは、第1の誘電体層に含まれる第1のガラスにMoO3およびWO3から選ばれる少なくとも1種が含まれている。従って、電極材料として一般的に使用されるAgやCuがイオン化して誘電体層に拡散したとしても、MoO3やWO3と安定な化合物を生成するため、AgやCuが凝集してコロイド化することを抑制できる。これにより、AgやCuのコロイド化に起因する誘電体層の黄変が抑制される。また、電極がガラス基板上に形成されている場合も、同様に、ガラス基板に拡散したAgやCuがMoO3やWO3と安定な化合物を生成するため、AgやCuのコロイド化に起因するガラス基板の黄変も抑制できる。さらに、本発明のプラズマディスプレイパネルによれば、黄変の抑制にとどまらず、AgやCuのコロイドの生成に伴う他の弊害、例えば誘電体層の絶縁耐圧の低下やPDPの輝度の低下の抑制も可能となる。
【0025】
また、本発明によって得られるプラズマディスプレイパネルは、第1のガラスがBi23を含んでいる(例えば含有率2〜40wt%)。このため、電極を被覆する誘電体層に含まれる低軟化点ガラスとして、鉛を含むガラスに代わるガラスを使用したプラズマディスプレイパネルが実現できる。
【0026】
また、本発明によって得られるプラズマディスプレイパネルでは、第1のガラスが上記に示した好適な組成成分を含むことができ、さらに、Li2O、Na2OおよびK2Oから選ばれる少なくとも1種をさらに含むことができる。これにより、AgやCuのコロイド化に起因する誘電体層やガラス基板の黄変や絶縁破壊を抑制することができるとともに、Li2O、Na2OおよびK2Oから選ばれる少なくとも1種によってガラスの軟化点を低下させたり、調整したりすることができる。また、軟化点を低下させる役割を担うこれらの組成(Li2O、Na2OおよびK2O)を加えることで、同じ役割を担うとともに比誘電率を高くする要素であるBi23の含有率を低減できるので、誘電体の比誘電率を低下させたり、調整したりすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明のPDPの一実施形態を示す断面図である。
【図2】本発明のPDPの別の実施形態を示す断面図である。
【図3】図1のPDPの構成を示す部分切り取り斜視図である。
【図4】MoO3およびWO3の含有率とb*値の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下の説明は本発明の一例であり、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0029】
<プラズマディスプレイパネル>
図3は、本実施形態にかかるPDPの主要構成を示す部分的な断面斜視図である。図1は、図3に示すPDPの断面図である。
【0030】
このPDPは、AC面放電型であって、誘電体層(第1の誘電体層)が後述する第1のガラスで形成されている以外は従来例のPDPと同様の構成を有している。
【0031】
このPDPは、前面板1と背面板8とが貼り合わせられて構成されている。前面板1は、前面ガラス基板2と、その内側面(放電空間14側の面)に形成された透明導電膜3およびバス電極4からなるストライプ状の表示電極5と、表示電極5を覆う誘電体層(第1の誘電体層)6と、酸化マグネシウムからなる誘電体保護層7とを備えている。この誘電体層6に、後述する第1のガラスが使用されている。
【0032】
また、背面板8は、背面ガラス基板9と、その内側面(放電空間14側の面)に形成されたストライプ状のアドレス電極10と、アドレス電極10を覆う誘電体層11と、誘電体層11上に設けられ、互いに隣接するアドレス電極10間に配置された帯状の隔壁12と、互いに隣接する隔壁12の間に形成された蛍光体層13とから構成されている。隔壁12は、各アドレス電極10を互いに隔離して、放電空間14を形成している。蛍光体層13は、カラー表示を可能とするために、赤色蛍光体層13(R)、緑色蛍光体層13(G)および青色蛍光体層13(B)が隔壁12を挟んで順番に配列されることによって形成されている。
【0033】
蛍光体層13を構成する蛍光体としては、例えば、下記に示すような材料を用いることができる。
青色蛍光体 BaMgAl1017:Eu
緑色蛍光体 Zn2SiO4:Mn
赤色蛍光体 Y23:Eu
【0034】
前面板1および背面板8は、表示電極5とアドレス電極10の各々の長手方向が互いに直交し、かつ、表示電極5とアドレス電極10とが互いに対向するように配置され、封着部材(図示せず)を用いて接合される。表示電極5およびアドレス電極10は、銀(Ag)および銅(Cu)から選ばれる少なくとも一方を含む材料にて形成されている。
【0035】
放電空間14には、He、Xe、Ne等の希ガス成分からなる放電ガス(封入ガス)が53.3kPa〜79.8kPa(400〜600Torr)程度の圧力で封入されている。表示電極5は、ITO(インジウム錫酸化物)または酸化錫からなる透明導電膜3に、良好な導電性を確保するためAg膜またはCr/Cu/Crの積層膜からなるバス電極4が積層されて形成されている。
【0036】
表示電極5とアドレス電極10は、それぞれ外部の駆動回路(図示せず)と接続され、駆動回路から印加される電圧によって放電空間14で放電を発生させる。この放電に伴って発生する短波長(波長147nm)の紫外線で蛍光体層13に含まれる蛍光体が励起されて、可視光が発光する。
【0037】
誘電体層6は、第1のガラスを含むガラスペーストを塗布および焼成することによって形成することができる。
【0038】
より具体的には、例えば、ガラスペーストを、スクリーン法、バーコーター、ロールコーター、ダイコーター、ドクターブレード等によって塗布し、焼成する方法が代表的である。ただし、それに限定されることなく、例えば第1のガラスを含むシートを貼り付けて焼成する方法でも形成できる。
【0039】
誘電体層6の膜厚は、光透過性を確保するために50μm以下とすることが好ましく、絶縁性の確保のために1μm以上とすることが好ましい。誘電体層6の膜厚は、例えば3μm〜50μmとすることが好ましい。
【0040】
誘電体層6に含まれる第1のガラスの詳細については後述するが、本実施の形態では誘電体層6にMoO3およびWO3の少なくとも一方が含まれているため、バス電極4に含まれる金属(AgまたはCu)がイオン化して誘電体層6中に拡散しても、金属コロイドとなることが抑制される。このため、誘電体層6の黄変や、耐電圧の低下が抑制される。
【0041】
また、黄変の問題は、実質的に鉛を含まないガラスを用いるために、その代替成分としてBi23やアルカリ金属酸化物を含むガラスを用いることによって、特に顕著に見られる傾向がある。しかし、本実施の形態では、MoO3およびWO3の少なくとも一方が含まれたガラスによって誘電体層6が形成されているので、黄変の発生を抑制でき、特に、Bi23を含むガラスにおいてその効果が大きい。したがって、本実施の形態によれば、鉛を含まず、かつ黄変の発生が抑制された誘電体層6を実現することができる。
【0042】
さらに、上述のようにMoO3およびWO3の少なくとも一方が含まれるガラスを用いて誘電体層6を形成することにより、前面ガラス基板2の黄変も抑制することができる。一般に、PDPに用いられるガラス基板はフロート法で製造される。フロート法で製造されたガラス基板は、その表面にSnが混入してしまう。このSnは、AgイオンやCuイオンを還元してAgおよびCuのコロイドを生じさせるため、従来は、フロート法で製造したガラス基板の表面を研磨してSnを除去する必要があった。これに対し、本実施の形態では、誘電体層6に含まれるMoO3およびWO3の少なくとも一方によってAgおよびCuのコロイド化が抑制されるため、表面にSnが残留しているガラス基板であっても使用することができる。これにより、ガラス基板を研磨する必要がなくなり、製造工程数を減らすことができるという効果が得られる。なお、ガラス基板に含まれる(残留する)Snの含有率は、例えば0.001〜5wt%である。
【0043】
次に、図2に示すような、表示電極5を被覆する誘電体層が2層構造になっているPDPの一例について説明する。
【0044】
図2に示すPDPは、誘電体層6のかわりに、表示電極5を被覆する第1の誘電体層15と、第1の誘電体層15上に配置された第2の誘電体層16とが設けられた構造となっている以外は、図1および図3に示したPDPと同様の構成である。なお、図1および図3に示したPDPと同じ部材には同じ符号を付し、その説明を省略する。
【0045】
図2に示すように、第1の誘電体層15は透明導電膜3およびバス電極4を被覆し、第2の誘電体層16は、第1の誘電体層15を被覆するように配設されている。
【0046】
このように誘電体層が2層構造の場合、少なくとも第1の誘電体層15は、図1および図3に示されたPDPの誘電体層6と同様に、MoO3およびWO3の少なくとも一方を含み、その含有率の合計が0.1〜8wt%である第1のガラスを含んでいる。これによって、少なくとも第1の誘電体層15については、AgやCuのコロイド析出による黄変および耐電圧低下が抑制される。また、第1の誘電体層15でAgやCuのイオンの拡散を抑制しているので、仮に第2の誘電体層16に黄変が生じやすい組成のガラスが含まれていたとしても、第2の誘電体層16の変色(黄変)や、耐電圧の低下を抑制できる。
【0047】
従って、第2の誘電体層16には、黄変の問題を懸念することなく、PDPの要求仕様に応じたガラス組成物を選択することができる。第2の誘電体層16に含まれる第2のガラスについては後述するが、例えば、第2の誘電体層16に、鉛ガラスやビスマス系ガラスより比誘電率が低いSiO2−B23−ZnO系ガラス組成物を用いることもできる(室温、1MHzでの比誘電率は、概して、鉛ガラス:10〜15、ビスマス系ガラス:8〜13、SiO2−B23−ZnO系ガラス:5〜9である)。第2誘電体層16にSiO2−B23−ZnO系ガラス組成物を用いることによって、誘電体層全体(第1の誘電体層15と第2の誘電体層16とを含む誘電体層)の比誘電率を低下させ、PDPの消費電力を低減できる。
【0048】
このような2層構造の誘電体層は、第1の誘電体層15を形成した後に、この上に第2の誘電体層16用のガラス組成物(第2のガラス)を含むガラス材料を塗布し焼成することによって形成できる。この場合、第1の誘電体層15に用いるガラスは、第2の誘電体層に含まれるガラスの軟化点よりも高い軟化点を有することが好ましい。
【0049】
また、電極3、4と第2の誘電体層16との絶縁および界面反応防止を確保するため、第1の誘電体層15の膜厚は1μm以上とすることが好ましい。
【0050】
また、透過光の損失を抑制するために、第1の誘電体層15と第2の誘電体層16とを合わせた膜厚は50μm以下であることが好ましく、絶縁性の確保のために3μm以上とすることが好ましい。
【0051】
以上のように、本実施の形態のPDPは、第1の誘電体層15上に設けられた第2の誘電体層16をさらに含むこともできる。このように、第1の誘電体層15とは異なる所望の特性を有する第2の誘電体層16を形成することで、より高性能なPDPを実現することができる。例えば、第2の誘電体層16として第1の誘電体層15より比誘電率の小さい誘電体を使用すれば、第1の誘電体層15のみで誘電体層を形成するよりも消費電力を低下することができる。また、第2の誘電体層16として第1の誘電体層15より透過率の高い誘電体を使用すれば、第1の誘電体層15のみで誘電体層を形成するよりも透過率を向上させることができる。
【0052】
第2の誘電体層16を含むPDPでは、第2の誘電体層16が第2のガラスを含み、前記第2のガラスが、組成成分として、Li2O、Na2OおよびK2Oから選ばれる少なくとも1種を含んでいてもよい。これにより、第2のガラスの軟化点を低下させたり、調整したりすることができる。また、軟化点を低下させる役割を担うこれら(Li2O、Na2OおよびK2Oから選ばれる少なくとも1種)を加えることで、同じ役割を担うとともに比誘電率が高くなる要素であるBi23の含有率を低減できるので、誘電体層の比誘電率を低下させたり、調整したりすることができる。誘電体層の比誘電率を小さくすることによって、消費電力の低いPDPの実現が可能となる。
【0053】
なお、本実施の形態では誘電体層が2層構造の場合について説明したが、誘電体層が3層以上の多層構造であっても、表示電極5を被覆する第1の誘電体層15がMoO3およびWO3の少なくとも一方を含み、その含有率の合計が0.1〜8wt%である第1のガラスを含んでいれば、黄変の発生や耐電圧の低下を抑制できる。
【0054】
また、本実施の形態では、前面板1の表示電極5を被覆する誘電体層6および第1の誘電体層15について詳細に説明したが、背面板8のアドレス電極10を被覆する誘電体層11について、上記で説明した誘電体層6と同様にすることによって、誘電体層11や背面ガラス基板9での着色(黄変)の発生や耐電圧の低下を抑制できる。すなわち、誘電体層11に含まれるガラスがBi23を含むガラスであり、かつ、アドレス電極10が銀および銅から選ばれる少なくとも1種を含んでおり、前記ガラスが、さらに、MoO3を0〜4wt%、WO3を0〜4wt%含み、かつ、MoO3とWO3の含有率の合計が、0.1〜8wt%の範囲とすることによって、黄変抑制等の上記の効果を得ることができる。
【0055】
以上説明したように、本実施の形態のPDPは、上記の第1のガラスを用いることによって、実質的に鉛を含まない誘電体層を形成でき、かつ誘電体層の変色(黄変)による表示特性の低下や耐電圧の低下を抑えることができる。
【0056】
なお、本発明を適用するPDPとしては、本実施の形態で説明したような面放電型のものが代表的であるが、これに限定されるものではなく、対向放電型にも適用できる。
【0057】
また、AC型に限定されるものではなく、DC型のPDPであっても誘電体層を備えたものに対して適用することができる。
【0058】
<第1のガラス>
本発明においては、ガラス基板および誘電体層の黄変を抑制することができる誘電体層のガラス組成を見いだした点に特徴を有している。以下、本発明のPDPにおいて、電極を被覆する誘電体層(第1の誘電体層)に使用する第1のガラスについて説明する。
【0059】
本実施の形態において、電極を被覆する誘電体層に含まれるガラスは、Bi23を含むガラスであり、さらに、MoO3を0〜4wt%、WO3を0〜4wt%含み、かつ、前記第1のガラスに含まれるMoO3とWO3の含有率の合計が、0.1〜8wt%の範囲である。これにより、電極に使用するAgやCuのコロイド化に起因する誘電体層およびガラス基板の黄変と、絶縁破壊の発生を抑制できる。
【0060】
電極にAgが含まれる場合、これらの効果が見られる理由は次のとおりである。AgとMoO3とは、Ag2MoO4、Ag2Mo27、Ag2Mo413といった化合物を580℃以下の低温で生成し易いことが知られている。誘電体の焼成温度は550℃〜600℃であることから、焼成時に電極から誘電体層中に拡散したAg+は誘電体層中のMoO3と反応し、化合物を生成して安定化すると考えられる。すなわち、Ag+は還元されることなく安定化されるため、凝集してコロイドとなることが抑制される。同様にAgとWO3も、Ag2WO4、Ag227、Ag2413といった化合物を生成して安定化しやすい。
【0061】
また、MoO3、WO3を含むガラス組成においては、ガラス中にMoO42-、WO42-が存在し、焼成時に電極から拡散したAg+はこれらに捕捉され、安定化する。つまり、Ag+はコロイド化しないだけでなく、誘電体層中への拡散も抑制されると考えられる。同様に、電極にCuが含まれる場合についてもCu+の拡散が抑制されるため、結果的にコロイドとなるCuが減少し、黄変の発生と耐電圧の低下が抑制されると考えられる。
【0062】
上記のような効果を得るために、ガラス中に含まれるMoO3およびWO3の含有率の合計を0.1wt%以上とする。
【0063】
また、ガラス中のMoO3およびWO3の含有率が多くなると、MoO3およびWO3それぞれに起因するガラスの着色が顕著になる。従って、誘電体層の透過率を低下させないために、MoO3、WO3それぞれの含有率を4wt%以下とする。また、MoO3およびWO3の両方を含むガラスは、MoO3およびWO3のいずれか一方のみを含む場合に比べて、透過率の損失を抑制し、黄変の低減する効果をより確実に得ることができる。従って、MoO3およびWO3の両方を含むガラスを用いることがより好ましい。MoO3およびWO3の両方を含むガラスの場合、各成分をそれぞれの上限値(4wt%)まで含むことができるため、MoO3およびWO3の含有率の合計は8wt%以下である。
【0064】
なお、上記はMoO3、WO3をガラス組成に配合する場合を記しているが、ガラス粉末にMoO3、WO3粉末を混合した混合粉末を使用してもよい。混合粉末を電極上に配して焼成すると、ガラス組成に配合する場合に比べ均質度が低下し、誘電体層の透過率が低下したりする場合もあるが、一定の黄変低減の効果を有する。
【0065】
さらに、MoO3およびWO3による黄変低減の効果は、従来から使用されているPbOを組成として含有するガラスを用いて形成される誘電体層においても有効であるが、実質的に鉛を含まない、鉛の含有率が0.1wt%以下であるガラスを用いて形成される誘電体層においてより有効である。
【0066】
これは、従来から低軟化点の実現に必要であったPbOを含有しないガラスを実現するには、代替成分としてアルカリ金属酸化物や酸化ビスマスを含有する必要があり、これらの成分がAgやCuの拡散を促進したり、イオンを還元し易くしたりするため、黄変を増大させるからである。特に、Bi23を含むガラスにおいては、MoO3およびWO3による黄変低減の効果がより顕著である。
【0067】
本実施の形態において、電極を被覆する誘電体層に含まれるガラスは、組成成分として、少なくとも、
SiO2:0〜15wt%
23:10〜50wt%
ZnO:15〜50wt%
Al23:0〜10wt%
Bi23:2〜40wt%
MgO:0〜5wt%
CaO+SrO+BaO:5〜38wt%
MoO3:0〜4wt%
WO3:0〜4wt%
を含んでおり、かつ、前記第1のガラスに含まれるMoO3とWO3の含有率の合計が、0.1〜8wt%の範囲であることが好ましい。以下、上記に示した組成を、本実施の形態の(誘電体層用)ガラスということがある。
【0068】
また、本実施の形態のガラスは、組成成分として、Li2O、Na2OおよびK2Oから選ばれる少なくとも1種をさらに含んでいてもよく、前記ガラスに含まれるLi2O、Na2OおよびK2Oの含有率の合計は、例えば0.1〜10wt%とできる。
【0069】
本実施の形態の誘電体層用ガラスの組成の一例として、例えば、
SiO2:0〜15wt%
23:10〜50wt%
ZnO:15〜50wt%
Al23:0〜10wt%
Bi23:2〜40wt%
MgO:0〜5wt%
CaO+SrO+BaO:5〜38wt%
Li2O+Na2O+K2O:0.1wt%よりも大きく10wt%以下
MoO3:0〜4wt%
WO3:0〜4wt%
を含んでおり、かつ、前記第1のガラスに含まれるMoO3とWO3の含有率の合計が、0.1〜8wt%の範囲であるものが挙げられる。
【0070】
また、本実施の形態の誘電体層用ガラスの組成の別の例として、例えば、
SiO2:2wt%よりも大きく15wt%以下
23:10〜50wt%
ZnO:15〜50wt%
Al23:0〜10wt%
Bi23:2〜40wt%
MgO:0〜5wt%
CaO+SrO+BaO:5〜38wt%
Li2O+Na2O+K2O:0.1〜10wt%
MoO3:0〜4wt%
WO3:0〜4wt%
を含んでおり、かつ、前記第1のガラスに含まれるMoO3とWO3の含有率の合計が、0.1〜8wt%の範囲であるものも挙げられる。
【0071】
本実施の形態の誘電体層用ガラスの組成のさらに別の例として、例えば、
SiO2:2wt%よりも大きく15wt%以下
23:10〜50wt%
ZnO:15〜50wt%
Al23:0〜10wt%
Bi23:2〜40wt%
MgO:0〜5wt%
CaO+SrO+BaO:5〜38wt%
Li2O+Na2O+K2O:0.1wt%よりも大きく10wt%以下
MoO3:0〜4wt%
WO3:0〜4wt%
を含んでおり、かつ、前記第1のガラスに含まれるMoO3とWO3の含有率の合計が、0.1〜8wt%の範囲であるものも挙げられる。
【0072】
詳細については後述するが、高精細のPDPにおいて黄変をより効果的に抑制するための組成の一例として、例えば、本実施の形態の誘電体層用ガラスにおけるLi2O、Na2OおよびK2Oの含有率が、
Li2O:0.17wt%以下
Na2O:0.36wt%以下
2O:0.55wt%以下
であり、かつ、
Li2O+Na2O+K2O:0.55wt%以下
であるものも挙げられる。
【0073】
次に、これらの組成(本実施の形態のガラスにおける組成)の限定理由を説明する。
【0074】
SiO2は必須成分ではないが、ガラスの安定化に効果があり、その含有率は15wt%以下が好ましい。SiO2の含有率が15wt%を超えると軟化点が高くなって所定の温度での焼成が困難となる場合がある。SiO2の含有率は、より好ましくは10wt%以下である。さらに、焼成後の気泡残留を低減するためには焼成時のガラス粘度を低くすることが好ましく、そのためには、SiO2の含有率を1wt%以下とすることが好ましい。PDPの製造においては、誘電体層形成後も熱処理工程を経る。このため、その際に誘電体層を形成しているガラスが結晶化すると、誘電体層の透過率低下やクラックが生じる場合がある。そこで、後工程で複数の高温での熱処理を含む場合、ガラスの結晶化を抑制するために、SiO2の含有率は2wt%より大きいことが好ましく、2.1wt%以上であることがより好ましい。また、SiO2をこのような範囲とすることによってガラスの耐水性が向上するという効果も得られるので、ガラス粉末製造時、特に粉末での吸湿による変質を防ぐことができる。また、焼成膜への水分の吸着を低減し、パネル表示性能への悪影響を抑制できる。
【0075】
23は、本実施の形態のPDPにおける誘電体層用のガラスの必須成分であり、その含有率は10〜50wt%である。B23の含有率が50wt%を超えるとガラスの耐久性が低下し、また熱膨張係数が小さくなると共に軟化点が高くなって所定の温度での焼成が困難となる。また、その含有率が10wt%未満ではガラスが不安定になって失透し易くなる。B23のより好ましい範囲は15〜50wt%である。
【0076】
ZnOは、本実施の形態のPDPにおける誘電体層用ガラスの主要成分の1つであり、ガラスを安定化させるのに効果がある。本実施の形態のガラスにおけるZnOの含有率は15〜50wt%である。ZnOの含有率が50wt%を超えると、結晶化し易くなって安定したガラスが得られなくなる場合がある。また、その含有率が15wt%未満だと、軟化点が高くなって所定の温度での焼成が困難になる。また、ZnOの含有率が少ないと焼成後にガラスが失透しやすくなるため、安定なガラスを得るにはその含有率は26wt%以上であることがより好ましい。また、誘電体層の上に形成する保護層の特性である放電遅れを向上するためにもZnOの含有率は26wt%以上であることが好ましく、さらに32wt%以上であることがより好ましい。
【0077】
Al23は、必須成分ではないが、ガラスの安定化に効果があり、その含有率は10wt%以下である。10wt%を超えると失透する恐れがあり、また軟化点が高くなって所定の温度での焼成が困難となる。Al23の含有率は、8wt%以下であることが好ましく、また、0.01wt%以上であることが好ましい。Al23の含有率を0.01wt%以上とすることによって、より安定なガラスが得られる。
【0078】
Bi23は、本実施の形態のPDPにおける誘電体層用ガラスの主要成分の1つであり、軟化点を下げ、熱膨張係数を上げる効果がある。その含有率は2〜40wt%である。Bi23の含有率が40wt%を超えるとガラスが結晶化しやすくなる。また、30wt%を超えると熱膨張係数が大きくなり、また誘電率が大きくなりすぎて消費電力を上昇させてしまう。また、その含有率が2wt%未満だと、軟化点が高くなって所定の温度での焼成が困難となる。Bi23の含有率のより好ましい範囲は2〜30wt%である。
【0079】
MgOは必須ではないが、ガラスの安定化のために効果があり、その含有率は5wt%以下である。5wt%を超えると、ガラス作製時に失透する恐れがあるからである。
【0080】
CaO、SrO、BaOのアルカリ土類金属酸化物は、耐水性の向上、ガラスの分相の抑制、熱膨張係数の相対的な向上、といった効果を有する。それらの含有率の合計は、5〜38wt%である。CaO、SrO、BaOの含有率の合計が38wt%を超えると失透する恐れがあり、また熱膨張係数が大きくなりすぎる。また、それらの合計が5wt%未満の場合は、上記効果が得られにくくなる。
【0081】
さらに、ZnOとBi23の含有率の合計(ZnO+Bi23)は、35〜65wt%であることがより好ましい。軟化点が低く、600℃以下の所望の温度において電極と反応せず、透過率の優れた誘電体を作製するためには、(ZnO+Bi23)を35wt%以上とすることが好ましい。ただし、それらの合計が65wt%を超えるとガラスが結晶化しやすくなるという問題が生じる。
【0082】
さらにBi23の含有率と、B23とZnOの含有率の合計(B23+ZnO)との比である[Bi23/(B23+ZnO)]の値は、0.5以下であることが好ましい。Bi23は、B23およびZnOに比べて誘電率の増大をもたらすため、上記範囲とすることによって、誘電率が低い誘電体層を形成でき、消費電力の低減が可能となる。
【0083】
誘電体層の黄変を防止するために、ガラスはアルカリ金属酸化物(Li2O、Na2OおよびK2O)を含有しないことが好ましいが、本実施の形態では黄変を抑制するMoO3、WO3を含有しているため、以上の組成にさらに、Li2O、Na2OおよびK2Oから選ばれる少なくとも1種を0.1〜10wt%含有してもよい。ガラスに含まれるアルカリ金属酸化物を0.1wt%以上とすることで、軟化点を低下させたり、諸物性を調整したりすることができる。例えば、軟化点を低下させることができるので、同じ働きを有するBi23の含有率を低減できる。これによって比誘電率を低下させることができる。ただしアルカリ金属酸化物の含有率が10wt%を超えると熱膨張係数が大きくなり過ぎるため好ましくない。
【0084】
また、誘電体層の表面が粗いと透過光が散乱するため、透過率が低下したり、PDPの表示性能が低下したりする問題が生じる場合がある。このため、焼成後の誘電体層のレベリング性が良いことが望ましい。良好なレベリング性を得るためには、Li2O、Na2OおよびK2Oの含有率の合計(Li2O+Na2O+K2O)が0.1wt%より大きいことが好ましく、0.11wt%以上であることがより好ましい。
【0085】
一方で、より高精細のパネルでは、単位面積当たりの電極の本数が多くなることにより、黄変が増大する傾向がある。高精細のパネルで黄変を抑制するためには、アルカリ金属酸化物の含有率がさらに少ないことが好ましく、Li2Oを含む場合のLi2Oの含有率は0.17wt%以下、Na2Oを含む場合のNa2Oの含有率は0.36wt%以下、K2Oを含む場合のK2O含有率は0.55wt%以下であることが好ましい。また、高精細のパネルで効果的に黄変を抑制するために、Li2O、Na2OおよびK2Oの含有率の合計は0.55wt%以下であることが好ましく、0.36wt%以下であることがより好ましく、0.17wt%以下であることがさらに好ましい。また、Li2O、Na2OおよびK2Oの含有率をこのような範囲とすることによって、ガラスの耐水性が向上するという効果も得られるので、ガラス粉末製造時、特に粉末での吸湿による変質を防ぐことができる。また、焼成膜への水分の吸着を低減し、パネル表示性能への悪影響を抑制できる。
【0086】
本実施の形態における誘電体層用ガラスは上記成分を含み、典型的には上記成分のみからなるが、本発明の効果が得られる限り、他の成分を含有してもよい。他の成分の含有率の合計は、好ましくは10wt%以下、より好ましくは5wt%以下である。他の成分としては、たとえば、軟化点および熱膨張係数の調整、ガラスの安定化および化学的耐久性の向上等のために添加する成分が挙げられ、具体的には、Rb2O、Cs2O、TiO2、ZrO2、La23、Nb25、TeO2、Ag2O、SnO、CeO2およびCuO等が挙げられる。
【0087】
本実施の形態における誘電体層用ガラスは、PDPのガラス基板に対して好適な誘電体層の材料として使用できる。PDPに使用される一般的なガラス基板としては、フロート法で作製され、一般に入手が容易な窓板ガラスであるソーダライムガラスやPDP用に開発された高歪点ガラスがある。それらのガラスは通常、600℃までの耐熱性、75×10-7〜85×10-7/℃の熱膨脹係数(線熱膨張係数)を持っている。
【0088】
PDPの誘電体層は、ガラス基板にガラスペーストを塗布した後、焼成することによって形成される。そのため、焼成は、ガラス基板の軟化変形が起こらない600℃以下で行う必要がある。また、ガラス基板の反り、誘電体層の剥がれおよびクラックを防止するためには、誘電体層を構成するガラス組成物の熱膨脹係数を、ガラス基板よりも0〜25×10-7/℃程度小さくしておく必要がある。さらに誘電体層の誘電率が高いと電極に流れる電流が大きくなってPDPの消費電力が大きくなるため、好ましくない。
【0089】
このため、実質的に鉛を含まない無鉛ガラスでPDPの誘電体層を形成する場合、前述した範囲の組成で、軟化点が600℃以下、熱膨脹係数が60〜85×10-7/℃、比誘電率が12以下となる無鉛ガラス組成物を用いるのが好ましい。さらに、歪等による剥がれやクラックを抑制し、90%以上の歩留まりの達成を考慮すると、より好ましい熱膨張係数は65×10-7〜85×10-7/℃である。また、消費電力をさらに低減するためには比誘電率が11以下であることがより好ましい。
【0090】
なお、誘電体層に含まれるガラスの量は、本発明の効果が得られる限り特に限定はないが、通常、50wt%以上(たとえば80wt%以上や90wt%以上)であることが好ましい。一例として、誘電体層が、実質的にガラスのみから形成されていてもよい。本実施の形態において誘電体層を構成するガラス成分は、典型的には上記に示した組成を有するガラスであり、誘電体層に含有されるガラス成分には鉛が含まれていない。
【0091】
本実施の形態のPDPにおいて、上記ガラスを用いてPDPの前面板の誘電体層を形成する場合、光学特性を損ねることなくガラス強度の向上や熱膨張係数の調整を行うために無機充填剤や無機顔料を添加してもよい。無機充填剤や無機顔料としては、たとえば、アルミナ、酸化チタン、ジルコニア、ジルコン、コーディエライト、石英等が挙げられる。
【0092】
また、上記のガラスを用いて、PDPの背面板上に形成した電極を被覆してもよい。この場合においても、反射特性等の光学特性を向上させると共にガラス強度の向上や熱膨張係数の調整を目的として、無機充填剤や無機顔料を添加してもよい。無機充填剤や無機顔料としては、たとえば、アルミナ、酸化チタン、ジルコニア、ジルコン、コーディエライト、石英等が挙げられる。
【0093】
<第2のガラス>
図2に示すように誘電体層が2層構造の場合、電極に接触しない層である第2の誘電体層に含まれるガラス(第2のガラス)について、具体的に説明する。この第2のガラスは、軟化点を低下させ、かつ、比誘電率を低下させる目的で、Li2O、Na2OおよびK2Oから選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。このように低い比誘電率を実現できるガラスで第2の誘電体層を形成すればPDPの消費電力を低減することができる。以下に第2のガラスの二つの例を説明する。
【0094】
本実施の形態において、第2の誘電体層の形成に用いられる第2のガラスの第1の例であるガラスは、組成成分として、少なくとも、
SiO2:0〜15wt%
23:10〜50wt%
ZnO:15〜50wt%
Al23:0〜10wt%
Bi23:2〜40wt%
Li2O+Na2O+K2O:0.1〜10wt%
MgO:0〜5wt%
CaO+SrO+BaO:5〜38wt%
を含んでいる。
【0095】
本実施の形態において、第2の誘電体層の形成に用いられる第2のガラスの第2の例であるガラスは、組成成分として、少なくとも、
SiO2:0〜30wt%
23:25〜80wt%
ZnO:0〜50wt%
Al23:0〜10wt%
Li2O+Na2O+K2O:5〜20wt%
MgO:0〜5wt%
CaO+SrO+BaO:0〜15wt%
を含んでいる。
【0096】
上記の第1および第2の例のガラスは、ともに低い軟化点を実現でき、かつ、低い比誘電率も実現できる。特に、第2の例のガラスは、比誘電率を高くする成分であるBi23を実質的に含まないので、より低い比誘電率を実現できる。従って、第2のガラスの第1および第2の例を用いて第2の誘電体層を形成する場合、誘電体層の誘電率を低くできるので、PDPの消費電力を低減することができる。
【0097】
<ガラスペースト>
本実施の形態のPDPにおける誘電体層に使用するガラスは、通常は、粉末の状態で使用される。上記した本実施の形態におけるガラス粉末に、印刷性を付与するためのバインダーや溶剤等を添加することによってガラスペーストが得られる。このガラスペーストを、ガラス基板上に形成された電極上に塗布、焼成することによって、電極を覆う誘電体層を形成できる。この誘電体層の上には、電子ビーム蒸着法等を用いて所定の厚さの保護層が形成される。なお、保護層の形成は、電子ビーム蒸着法に限らず、スパッタ法やイオンプレーティング法で行ってもよい。
【0098】
ガラスペーストは、ガラス粉末と、溶剤と、樹脂(バインダー)とを含む。ガラス粉末は、上記本発明のPDPにおける誘電体層用のガラス組成物の粉末である。ガラスペーストは、これらの成分以外の成分を含んでもよく、例えば、界面活性剤、現像促進剤、接着助剤、ハレーション防止剤、保存安定剤、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、顔料、染料等、種々の目的に応じた添加剤を含んでもよい。
【0099】
ガラスペーストに含まれる樹脂(バインダー)は、低融点のガラス粉末との反応性が低いものであればよい。たとえば、化学的安定性、コスト、安全性等の観点から、ニトロセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリエチレンfグリコール、カーボネート系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、メラミン系樹脂等が望ましい。
【0100】
ガラスペースト中の溶剤は、ガラス粉末との反応性が低いものであればよい。たとえば、化学的安定性、コスト、安全性等の観点、および、バインダー樹脂との相溶性の観点から、酢酸ブチル、3−エトキシプロピオン酸エチル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等のエチレングリコールモノアルキルエーテル類;エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のエチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類;ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジプロピルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル等のジエチレングリコールジアルキルエーテル類;プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル等のプロピレングリコールモノアルキルエーテル類;プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジプロピルエーテル、プロピレングリコールジブチルエーテル等のプロピレングリコールジアルキルエーテル類;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のプロピレングリコールアルキルエーテルアセテート類;乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル等の乳酸のエステル類、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸アミル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸イソブチル、酢酸アミル、酢酸イソアミル、酢酸ヘキシル、酢酸2−エチルヘキシル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル、ブタン酸メチル(酪酸メチル)、ブタン酸エチル(酪酸エチル)、ブタン酸プロピル(酪酸プロピル)、ブタン酸イソプロピル(酪酸イソプロピル)等の脂肪族カルボン酸のエステル類;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート類;ターピネオール、ベンジルアルコール等のアルコール類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;メチルエチルケトン、2−ヘプタノン、3−ヘプタノン、4−ヘプタノン、シクロヘキサノン等のケトン類;2−ヒドロキシプロピオン酸エチル、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオン酸エチル、エトキシ酢酸エチル、ヒドロキシ酢酸エチル、2−ヒドロキシ−3−メチル酪酸メチル、3−メトキシプロピオン酸メチル、3−メトキシプロピオン酸エチル、3−メトキシブチルアセテート、3−メチル−3−メトキシブチルアセテート、ブチルカルビトールアセテート、3−メチル−3−メトキシブチルプロピオネート、3−メチル−3−メトキシブチルブチレート、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレートアセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、安息香酸エチル、酢酸ベンジル等のエステル類;N−メチルピロリドン、NN−ジメチルホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド系溶剤等が挙げられる。これらの溶剤は、単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0101】
ガラスペーストにおける溶剤の含有率は、ペーストの可塑性又は流動性(粘度)が、成形処理又は塗布処理に適したものとなる範囲で調整される。
なお、このガラスペーストは、PDP背面板上に形成した電極を覆う誘電体層の形成にも適用できる。
【0102】
<PDPの製造方法>
以下に、PDPの製造方法の一例について説明する。まず、前面板の作製方法について説明する。
【0103】
本実施の形態のPDPの製造方法は、電極が形成された基板上に第1のガラスを含むガラス材料(第1のガラス材料)を配置し、このガラス材料を焼成することによって、前記電極を被覆する誘電体層(第1の誘電体層)を形成する工程を含んでいる。ここで用いられる第1のガラスには上記に説明した組成を有するガラスを用いることができる。ここでは、前面板に形成される表示電極を被覆する誘電体層を形成する際に上記工程を用いた例について説明する。
【0104】
まず、前面板の作製方法について説明する。
【0105】
平坦な前面ガラス基板の一主面に、複数の透明電極をストライプ状に形成する。次に、透明電極上に銀ペーストを塗布した後、前面ガラス基板全体を加熱することによって、銀ペーストを焼成し、バス電極を形成する。このようにしてして表示電極を形成する。
【0106】
次に、表示電極を覆うように、前面ガラス基板の上記主面に本実施の形態のPDPにおける誘電体層用ガラス組成物を含むガラスペーストをブレードコーター法によって塗布する。その後、前面ガラス基板全体を90℃で30分間保持してガラスペーストを乾燥させ、次いで、560〜590℃の範囲の温度で10分間焼成を行う。このようにして誘電体層を形成する。
【0107】
ここで使用する誘電体層用ガラスは、上記に説明したガラスである。
【0108】
次に、誘電体層上に酸化マグネシウム(MgO)を電子ビーム蒸着法によって成膜し、焼成を行い、保護層を形成する。
【0109】
このようにして、前面板を作製する。
【0110】
図2に示すように、誘電体層が2層構造になっているPDPの製造方法については、上記と同様に、表示電極を覆うように第1誘電体層用のガラス(第1のガラス)を含むガラスペーストを塗布、乾燥、焼成した後、形成した第1の誘電体層を覆うように第2の誘電体層用のガラス(第2のガラス)を含むガラスペーストを塗布、乾燥、焼成して第2の誘電体層を形成する。
【0111】
次に、背面板の作製方法について説明する。
【0112】
平坦な背面ガラス基板の一主面に、銀ペーストをストライプ状に複数本塗布した後、背面ガラス基板全体を加熱して銀ペーストを焼成することによって、アドレス電極を形成する。
【0113】
次に、アドレス電極を覆うように、背面ガラス基板の上記主面にガラスペーストをブレードコーター法によって塗布する。その後、前面ガラス基板全体を90℃で30分間保持してガラスペーストを乾燥させ、次いで、560〜590℃の範囲の温度で10分間焼成を行う。このようにして誘電体層を形成する。
【0114】
ここで、誘電体層用ガラスとして本実施の形態のPDPにおける上記のガラスを使用することができる。この場合、上記のガラスを含むガラスペーストを塗布し、乾燥、焼成を行うことにより誘電体層を形成する。
【0115】
次に、隣り合うアドレス電極の間にガラスペーストを塗布し、背面ガラス基板全体を加熱してガラスペーストを焼成し、隔壁を形成する。
【0116】
次に、隣り合う隔壁同士の間に、R、G、B各色の蛍光体インクを塗布し、背面ガラス基板を約500℃に加熱して上記蛍光体インクを焼成することによって、蛍光体インク内の樹脂成分(バインダー)等を除去して蛍光体層を形成する。
【0117】
次に、前面板と背面板とを封着ガラスを用いて貼り合わせる。その後、封止された内部を高真空排気したのち、希ガスを封入する。
【0118】
このようにして、PDPが得られる。なお、上述したPDPおよびその製造方法は一例であり、本発明はこれに限定されない。
【実施例】
【0119】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明する。
【0120】
<ガラスの作製および評価>
本発明のPDPの誘電体層に用いられるガラスのサンプルを作製した。表1〜7に本発明のPDPの誘電体層に用いられるガラスのサンプルの組成を示す。また、表8〜11に、本発明におけるMoO3およびWO3の添加による黄変低減効果を調べるために作製したガラスのサンプルの組成を示す。表12および表13に示されたガラスのサンプルは、本発明のPDPに用いられるガラスについて、各組成の好ましい含有率を説明する際に用いることが可能なサンプルである。なお、表中では、SiO2等をSiO2といったように表記する。
【0121】
【表1】

【0122】
【表2】

【0123】
【表3】

【0124】
【表4】

【0125】
【表5】

【0126】
【表6】

【0127】
【表7】

【0128】
【表8】

【0129】
【表9】

【0130】
【表10】

【0131】
【表11】

【0132】
【表12】

【0133】
【表13】

【0134】
各表に示す組成の割合は、重量百分率(wt%)である。表1〜13に示す組成となるように原料を混合し、1100〜1200℃の電気炉中で白金ルツボを用いて1時間溶融した。そして、得られた溶融ガラスを、真鍮板にてプレスすることにより急冷し、ガラスカレットを作製した。
【0135】
(ガラスの評価)
ガラスの軟化点は、マクロ型示差熱分析計を用いて測定し、第2吸熱ピークの値を採用した。ガラス転移点および熱膨張係数は、ガラスカレットを再溶融して4mm×4mm×20mmのロッドを形成し、熱機械分析計を用いて測定した。比誘電率は、カレットを再溶融して20mm×20mm×厚さ3mmの板を形成し、その表面に電極を蒸着してLCRメータを用いて周波数1MHzにて測定した。ガラス安定性は、示差熱分析計による変化の測定および光学顕微鏡による結晶の有無の観察によって評価した。
【0136】
評価結果、および総合評価を表1〜13に示す。なお、ガラス安定性に関する評価におけるA、B、C、Dの定義は、以下の通りである。
A:ガラス化し、示差熱分析で結晶化に伴う変化が確認されず、また光学顕微鏡でも結晶は確認されなかったもの。
B:ガラス化し、示差熱分析で結晶化に伴う変化が確認され、光学顕微鏡では結晶は確認されなかったもの。
C:ガラス化したものの、軟化点より高温の温度域でエンタルピー変化が確認され、X線回折法では結晶に基づく回折ピークは観測されないものの、光学顕微鏡により結晶が確認されたもの。
D:ガラス作製時にガラス化しなかったもの。
【0137】
また、表1〜13において、総合評価は、軟化点が600℃未満、より好ましくは595℃未満であること、比誘電率は12以下、より好ましくは11以下であること、熱膨張係数は60×10-7〜85×10-7/℃、より好ましくは65×10-7〜85×10-7/℃の範囲にあること、を目標基準とし、更にガラスとしての安定性を考慮して総合的に評価した。
【0138】
なお、総合的な評価についてのA、B、C、Dの定義は、以下の通りである。
A:ガラスとして安定であり、かつ各物性値がより好ましい目標物性範囲内であり、各物性のバランスも取れている。
B:ガラスとして安定であり、各物性値は目標物性範囲内であるが、各物性値の少なくとも一つはより好ましい目標物性の範囲外である。
C:ガラスとしては安定であるが、各物性値の少なくとも一つは目標物性の範囲外である。
D:ガラス化せず、ガラス材料として無効である。
【0139】
表1〜11から明らかなように、本発明のPDPに用いられるガラスにおいて好ましい組成範囲を満たすサンプルの各試料は、いずれも30〜300℃の温度範囲において60〜85×10-7/℃の熱膨張係数を有し、軟化点が600℃以下であり、比誘電率は12以下であり、ガラスとしての安定性も良好であった。
【0140】
表12および表13に示すサンプルは、本発明のPDPに用いられるガラスの好ましい組成範囲から外れる組成が存在するため、表1〜7に示すサンプルよりも一部の物性が低い等の結果が得られた。
【0141】
<PDPの作製および評価>
以下では、本発明におけるMoO3およびWO3の添加による黄変低減効果を調べるため、表1〜11に示した組成を有するガラスのサンプルを用いてPDPを作製し、評価した結果を示す。
【0142】
(ガラス粉末の作製)
それぞれ表に示した組成となるように原料を調合して混合し、1100〜1200℃の電気炉中で白金ルツボを用いて1時間溶融した。その後、ツインローラー法によってガラスカレットを作製し、ボールミルによってガラスカレットを粉砕して粉末を作製した。
【0143】
作製した実施例、比較例のガラス粉末の平均粒径は、1.5〜3.5μmであった。
【0144】
(ガラスペーストの調製)
樹脂であるエチルセルロースと溶剤であるα−ターピネオールとを、その重量比が5:30となるように混合して攪拌し、有機成分を含む溶液を調製した。ついで、この溶液とそれぞれ表に示す実施例と比較例のガラス粉末とを、重量比65:35で混合し、3本ロールで混合および分散させてガラスペーストを調製した。
【0145】
(PDPの作製)
厚さ約2.8mmの平坦なソーダライムガラスからなる前面ガラス基板の面上に、ITO(透明電極)の材料を所定のパターンで塗布し、乾燥した。次いで、銀粉末と有機ビヒクルとの混合物である銀ペーストをライン状に複数本塗布した後、上記前面ガラス基板を加熱することにより、上記銀ペーストを焼成して表示電極を形成した。
【0146】
表示電極を作製したフロントパネルに、上述したガラスペーストをブレードコーター法を用いて塗布した。その後、上記前面ガラス基板を90℃で30分間保持してガラスペーストを乾燥させ、570℃の温度で10分間焼成することによって誘電体層を形成した。
【0147】
上記誘電体層上に酸化マグネシウム(MgO)を電子ビーム蒸着法によって蒸着したのち、焼成することによって保護層を形成した。
【0148】
一方、以下の方法で背面板を作製した。まず、ソーダライムガラスからなる背面ガラス基板上にスクリーン印刷によって銀を主体とするアドレス電極をストライプ状に形成した。続いて、誘電体層を形成した。次に、誘電体層上に、隣り合うアドレス電極の間に、隔壁を形成した。隔壁は、スクリーン印刷および焼成を繰り返すことによって形成した。
【0149】
次に、隔壁の壁面と隔壁間で露出している誘電体層の表面に、赤(R)、緑(G)、青(B)の蛍光体ペーストを塗布し、乾燥・焼成して蛍光体層を作製した。
【0150】
作製した前面板、背面板を封着ガラスを用いて貼り合わせた。そして、放電空間の内部を高真空(1×10-4Pa)程度に排気したのち、所定の圧力となるようにNe−Xe系放電ガスを封入した。このようにして、PDPを作製した。
【0151】
(PDPの評価)
作製したパネルの表示面側において、その着色具合を、色彩色差計を用いて測定した。それぞれのガラスを誘電体として用いたPDPでの測定結果を表1〜4および表7、表8に示す。なお、表におけるa*およびb*は、L***表色系に基づく。a*値は、プラス方向に大きくなると赤色が強まり、マイナス方向に大きくなると緑色が強まることを示す。b*値は、プラス方向に大きくなると黄色が強まり、マイナス方向に大きくなると青色が強まることを示す。一般に、a*値が−5〜+5の範囲であり、かつb*値が−5〜+5の範囲であれば、前面パネルの着色は観察されない。特に、黄変については、b*値の大きさが影響するため、PDPとしてはb*値が−5〜+5の範囲であることが好ましい。
【0152】
表1〜7に示されているように、誘電体層に用いる材料として良好な物性を備えたサンプルについては、黄変の問題は発生しないことが確認された。
【0153】
また、表8〜11の結果からわかるように、MoO3およびWO3の両方が含まれていないサンプル(サンプル71,88)、MoO3およびWO3のいずれか一方が含まれているが含有率が0.05wt%であるサンプル(サンプル72,79,89,96)は、b*値が5を超えており黄変の発生が見られた。また、MoO3およびWO3のいずれか一方が含まれているが含有率が5wt%であるサンプル(サンプル78,85,95,102)は、ガラスが白濁してしまったため、着色測定を行えなかった。これに対し、MoO3およびWO3のいずれか一方が含まれており、その含有率が0.1wt%〜4wt%の他のサンプルは、b*値が5以下であり、黄変の発生が抑制されていることが確認された。さらに、MoO3およびWO3の両方を含むサンプル(サンプル86,87,103,104)は、他のサンプルよりもb*値が小さく、いずれか一方のみを含む場合よりも黄変抑制の効果が高いことが確認された。
【0154】
MoO3、WO3の含有率とb*の測定結果との関係を図4に示す。結果からわかるように、MoO3、WO3の含有率が0.1wt%以上において、b*値はMoO3、WO3の含有率の増加とともに減少し、かつ+5以下の値となり、黄変の問題が改善していることが確認された。
【0155】
また、MoO3、WO3の含有率が0.1wt%以上のb*値が低いパネルは、PDPを動作させても誘電体の絶縁破壊は起こらなかった。
【0156】
上記に説明したPDPの実施例は誘電体層が1層からなる例であるが、上記に説明した誘電体層を第1の誘電体層とし、さらにその上に第2の誘電体層を形成して2層構造とした場合であっても、同様の評価結果が得られた。なお、この場合に第2の誘電体層に用いられるガラスの組成の一例は、表14に示すとおりである。
【0157】
【表14】

【産業上の利用可能性】
【0158】
本発明のプラズマディスプレイパネルは、表示電極やアドレス電極を被覆するための誘電体層が鉛を含まないガラスによって形成されるプラズマディスプレイパネルに好適に適用でき、黄変および絶縁破壊が抑制された信頼性の高いプラズマディスプレイパネルを提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに交差する表示電極とアドレス電極とを有し、前記表示電極およびアドレス電極から選ばれる少なくとも1つの電極が第1のガラスを含む第1の誘電体層で被覆されているプラズマディスプレイパネルであって、
前記第1のガラスが、MoO3を0.1〜4wt%含み、かつ、WO3を含まず、
前記第1の誘電体層で被覆されている前記電極が銀および銅から選ばれる少なくとも1種を含む、プラズマディスプレイパネル。
【請求項2】
前記第1のガラスに含まれるBi23の含有率が2〜40wt%である、請求項1に記載のプラズマディスプレイパネル。
【請求項3】
前記第1のガラスが、Li2O、Na2OおよびK2Oから選ばれる少なくとも1種をさらに含み、かつ、前記第1のガラスにおけるLi2O、Na2OおよびK2Oの含有率の合計が0.1wt%よりも大きく10wt%以下である、請求項1又は2に記載のプラズマディスプレイパネル。
【請求項4】
前記第1のガラスが、組成成分として、少なくとも、
SiO2:2wt%よりも大きく15wt%以下
23:10〜50wt%
ZnO:15〜50wt%
Al23:0〜10wt%
Bi23:2〜40wt%
MgO:0〜5wt%
CaO+SrO+BaO:5〜38wt%
Li2O+Na2O+K2O:0.1wt%よりも大きく10wt%以下
MoO3:0.1〜4wt%
を含んでいる、請求項1〜3の何れか1項に記載のプラズマディスプレイパネル。
【請求項5】
前記第1のガラスにおけるLi2O、Na2OおよびK2Oの含有率が、
Li2O:0.17wt%以下
Na2O:0.36wt%以下
2O:0.55wt%以下
であり、かつ、
Li2O+Na2O+K2O:0.55wt%以下
である請求項3又は4に記載のプラズマディスプレイパネル。
【請求項6】
前記第1のガラスに含まれる鉛の含有率が0.1wt%以下である請求項1〜5の何れか1項に記載のプラズマディスプレイパネル。
【請求項7】
前記第1の誘電体層上に設けられた第2の誘電体層をさらに含む請求項1〜6の何れか1項に記載のプラズマディスプレイパネル。
【請求項8】
前記第2の誘電体層が第2のガラスを含み、前記第2のガラスが、組成成分として、Li2O、Na2OおよびK2Oから選ばれる少なくとも1種を含む請求項7に記載のプラズマディスプレイパネル。
【請求項9】
前記第2のガラスが、組成成分として、少なくとも、
SiO2:0〜15wt%
23:10〜50wt%
ZnO:15〜50wt%
Al23:0〜10wt%
Bi23:2〜40wt%
Li2O+Na2O+K2O:0.1〜10wt%
MgO:0〜5wt%
CaO+SrO+BaO:5〜38wt%
を含む請求項8に記載のプラズマディスプレイパネル。
【請求項10】
前記第2のガラスが、組成成分として、少なくとも、
SiO2:0〜30wt%
23:25〜80wt%
ZnO:0〜50wt%
Al23:0〜10wt%
Li2O+Na2O+K2O:5〜20wt%
MgO:0〜5wt%
CaO+SrO+BaO:0〜15wt%
を含む請求項8に記載のプラズマディスプレイパネル。
【請求項11】
前記第1の誘電体層に被覆される前記電極はガラス基板上に形成されており、前記ガラス基板がSnを含有する請求項1〜10の何れか1項に記載のプラズマディスプレイパネル。
【請求項12】
電極が形成された基板上に第1のガラスを含む第1のガラス材料を配置し、前記第1のガラス材料を焼成することによって、前記電極を被覆する第1の誘電体層を形成する工程を含むプラズマディスプレイパネルの製造方法であって、
前記第1のガラスが、MoO3を0.1〜4wt%含み、かつ、WO3を含まず、
前記第1の誘電体層で被覆されている前記電極が銀および銅から選ばれる少なくとも1種を含む、プラズマディスプレイパネルの製造方法。
【請求項13】
前記第1のガラスに含まれるBi23の含有率が2〜40wt%である請求項12に記載のプラズマディスプレイパネルの製造方法。
【請求項14】
前記第1のガラスが、Li2O、Na2OおよびK2Oから選ばれる少なくとも1種をさらに含み、かつ、前記第1のガラスにおけるLi2O、Na2OおよびK2Oの含有率の合計が0.1wt%よりも大きく10wt%以下である、請求項12又は13に記載のプラズマディスプレイパネルの製造方法。
【請求項15】
前記第1のガラスが、組成成分として、少なくとも、
SiO2:2wt%よりも大きく15wt%以下
23:10〜50wt%
ZnO:15〜50wt%
Al23:0〜10wt%
Bi23:2〜40wt%
MgO:0〜5wt%
CaO+SrO+BaO:5〜38wt%
Li2O+Na2O+K2O:0.1wt%よりも大きく10wt%以下
MoO3:0.1〜4wt%
を含んでいる、請求項12〜14の何れか1項に記載のプラズマディスプレイパネルの製造方法。
【請求項16】
前記第1のガラスにおけるLi2O、Na2OおよびK2Oの含有率が、
Li2O:0.17wt%以下
Na2O:0.36wt%以下
2O:0.55wt%以下
であり、かつ、
Li2O+Na2O+K2O:0.55wt%以下
である請求項14又は15の何れか1項に記載のプラズマディスプレイパネルの製造方法。
【請求項17】
前記第1のガラスに含まれる鉛の含有率が0.1wt%以下である請求項12〜16の何れか1項に記載のプラズマディスプレイパネルの製造方法。
【請求項18】
前記第1の誘電体層上に第2のガラスを含む第2のガラス材料を配置して、前記第2のガラス材料を焼成することによって第2の誘電体層を形成する工程をさらに含む請求項12〜17の何れか1項に記載のプラズマディスプレイパネルの製造方法。
【請求項19】
前記第2のガラスが、組成成分として、Li2O、Na2OおよびK2Oから選ばれる少なくとも1種を含む請求項18に記載のプラズマディスプレイパネルの製造方法。
【請求項20】
前記第2のガラスが、組成成分として、少なくとも、
SiO2:0〜15wt%
23:10〜50wt%
ZnO:15〜50wt%
Al23:0〜10wt%
Bi23:2〜40wt%
Li2O+Na2O+K2O:0.1〜10wt%
MgO:0〜5wt%
CaO+SrO+BaO:5〜38wt%
を含む請求項19に記載のプラズマディスプレイパネルの製造方法。
【請求項21】
前記第2のガラスが、組成成分として、少なくとも、
SiO2:0〜30wt%
23:25〜80wt%
ZnO:0〜50wt%
Al23:0〜10wt%
Li2O+Na2O+K2O:5〜20wt%
MgO:0〜5wt%
CaO+SrO+BaO:0〜15wt%
を含む請求項19に記載のプラズマディスプレイパネルの製造方法。
【請求項22】
前記基板はガラス基板であり、前記ガラス基板がSnを含有する請求項12〜21の何れか1項に記載のプラズマディスプレイパネルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−6322(P2011−6322A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−214739(P2010−214739)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【分割の表示】特願2008−522433(P2008−522433)の分割
【原出願日】平成19年6月15日(2007.6.15)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】