説明

プラズマディスプレイパネルの製造方法

【課題】保護層の電子放出特性を向上し、高精細で高画質な画像表示性能を備えるプラズマディスプレイパネルを提供する。
【解決手段】互いに平行な複数の表示電極対とこれを覆う誘電体層と保護層とを前面基板に形成する前面基板作製ステップを有するプラズマディスプレイパネルの製造方法であって、前面基板作製ステップの保護層を形成する保護層形成ステップ(S13)が、誘電体層に下地膜を形成する下地膜形成ステップ(S14)と、その後、下地膜の上に金属酸化物の結晶粒子が複数個凝集した凝集粒子を分散配置する凝集粒子配置ステップ(S15)とを含み、凝集粒子配置ステップ(S15)は、凝集粒子と溶媒との塗布液を下地膜に対向して開口したスリットノズルから吐出させて下地膜に塗布する塗布ステップと、待機時間において、スリットノズルの開口方向を180度変更する待機ステップをさらに含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表示デバイスなどに用いるプラズマディスプレイパネルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマディスプレイパネル(以下、PDPと呼ぶ)は、高精細化、大画面化の実現が可能であることから、100インチクラスのテレビなどが製品化されている。近年、PDPにおいては、従来のNTSC方式に比べて走査線数が2倍以上の高精細テレビへの適用が進められており、エネルギー問題に対応してさらなる消費電力低減への取り組みや、環境問題に配慮した鉛成分を含まないPDPへの要求なども高まっている。
【0003】
PDPは、基本的には、前面基板と背面基板とで構成されている。前面基板は、フロート法により製造された硼硅酸ナトリウム系ガラスの前面ガラス基板と、ガラス基板の一方の主面上に形成されたストライプ状の透明電極とバス電極とで構成される表示電極と、表示電極を覆ってコンデンサとしての働きをする誘電体層と、誘電体層上に形成された酸化マグネシウム(MgO)などからなる保護層とで構成されている。
【0004】
一方、背面基板は、背面ガラス基板と、その一方の主面上に形成されたストライプ状のアドレス電極と、アドレス電極を覆う下地誘電体層と、下地誘電体層上に形成された隔壁と、各隔壁間に形成された赤色、緑色および青色それぞれに発光する蛍光体層とで構成されている。
【0005】
前面基板と背面基板とはその電極形成面側を対向させて気密封着され、隔壁によって仕切られた放電空間にネオン(Ne)−キセノン(Xe)の放電ガスが40kPa〜60kPaの圧力で封入されている。PDPは、表示電極に映像信号電圧を選択的に印加することによって放電させ、その放電によって発生した紫外線が各色蛍光体層を励起して赤色、緑色、青色の発光をさせてカラー画像表示を実現している。
【0006】
また、このようなPDPの駆動方法としては、書き込みをしやすい状態に壁電荷を調整する初期化期間と、入力画像信号に応じて書き込み放電を行う書き込み期間と、書き込みが行われた放電空間で維持放電を生じさせることによって表示を行う維持期間を有する駆動方法が一般的に用いられている。これらの各期間を組み合わせた期間(サブフィールド)が、画像の1コマに相当する期間(1フィールド)内で複数回繰り返されることによってPDPの階調表示を行っている。
【0007】
このようなPDPにおいて、前面基板の誘電体層上に形成される保護層の役割としては、放電によるイオン衝撃から誘電体層を保護すること、アドレス放電を発生させるための初期電子を放出することなどがあげられる。イオン衝撃から誘電体層を保護することは、放電電圧の上昇を防ぐ重要な役割であり、またアドレス放電を発生させるための初期電子を放出することは、画像のちらつきの原因となるアドレス放電ミスを防ぐ重要な役割である。
【0008】
保護層からの初期電子の放出数を増加させて画像のちらつきを低減するために、例えば、酸化マグネシウム(MgO)保護層に不純物を添加する例や、酸化マグネシウム(MgO)粒子の金属酸化物を保護層上に形成した例が開示されている(例えば、特許文献1、2、3、4、5など参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−260535号公報
【特許文献2】特開平11−339665号公報
【特許文献3】特開2006−59779号公報
【特許文献4】特開平8−236028号公報
【特許文献5】特開平10−334809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
近年、テレビは高精細化が進んでおり、市場では低コスト・低消費電力・高輝度のフルHD(ハイ・ディフィニション)(1920×1080画素:プログレッシブ表示)PDPが要求されている。高精細化された画像を表示するためには、1フィールドの時間が一定にもかかわらず書き込みを行う画素の数が増える。そのため、サブフィールド中の書き込み期間において、アドレス電極へ印加するパルスの幅を狭くする必要が生じる。このような高精細化に対応するためには、保護層としての電子放出性能を高めることと、電荷保持性能を高めることが重要である。
【0011】
このような高い電子放出性能と、メモリー機能としての電荷の減衰率を小さくする、すなわち高い電荷保持性能との相反する特性を併せもつPDPを製造する上で、金属酸化物からなる複数個の結晶粒子が凝集した凝集粒子を表示面内に均等に分散配置することが重要である。
【0012】
一方、これらの凝集粒子を大面積基板の保護層上に分散配置させる方法として、ダイコータ方式を用い、スリットノズルから溶媒に分散させた凝集粒子を吐出させて塗布する方法が一般的である。しかしながら、このような塗布方法では、塗布の待機時間などにおいて凝集粒子が沈降しやすく、凝集粒子がスリットノズルを閉塞させて生産効率を低下させるなどの課題が発生する。
【0013】
本発明はこのような課題に鑑みなされたもので、保護層の電子放出特性を向上させ、高精細で高画質な画像表示性能を備えるPDPを、高い生産性で実現することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
このような目的を達成するために、本発明のPDPの製造方法は、互いに平行な複数の表示電極対とこれを覆う誘電体層と保護層とを前面基板に形成する前面基板作製ステップと、表示電極対と交差する互いに平行な複数のデータ電極とこれを覆う下地誘電体層と隔壁と蛍光体層とを背面基板に形成する背面基板作製ステップを有するPDPの製造方法であって、前面基板作製ステップの保護層を形成する保護層形成ステップが、誘電体層に下地膜を形成する下地膜形成ステップと、その後、下地膜の上に金属酸化物の結晶粒子が複数個凝集した凝集粒子を分散配置する凝集粒子配置ステップとを含み、凝集粒子配置ステップは、凝集粒子と溶媒との塗布液を下地膜に対向して開口したスリットノズルから吐出させて下地膜に塗布する塗布ステップを備えるとともに、塗布ステップ終了後の塗布待機時間において、スリットノズルの開口方向を180度変更する待機ステップをさらに含んでいる。
【0015】
このような方法によれば、塗布待機時間において、塗布液中の凝集粒子が沈降したとしてもスリットノズルを閉塞することがないため、次の塗布ステップにおいてスリットノズルから沈降した凝集粒子を排出する作業などをなくし、生産性を高めることができる。
【0016】
さらに、塗布ステップは、貯留タンクに貯留された塗布液を送出ポンプによってスリットノズルを設けたダイヘッドに送出するステップであり、待機ステップは貯留タンクからダイヘッドに送出された塗布液を、さらにダイヘッドから貯留タンクに帰還させる循環ステップであることが望ましい。このような方法によれば、スリットノズルを有するダイヘッド内や、貯留タンクからダイヘッドまでの経路での凝集粒子の沈降をも抑制することができ、次の塗布ステップで安定した塗布を実現することができる。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明のPDPの製造方法によれば、電子放出性能と電荷保持性能を高めた保護層を安定して形成することができ、高精細で高画質な画像表示性能を備えるPDPを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本実施の形態により製造されるPDPの分解斜視図
【図2】同PDPの前面基板の詳細な構成を示す断面図
【図3】同PDPの製造ステップを示すフローチャート
【図4】同製造ステップにおける前面基板作製ステップの保護層形成ステップの詳細を示すフローチャート
【図5】本実施の形態の凝集粒子配置ステップに用いる塗布装置を示す図
【図6A】同塗布装置におけるダイヘッドの詳細を示す斜視図
【図6B】同ダイヘッドの下面図
【図6C】図6AにおけるA−A線断面図
【図7A】同塗布装置での塗布ステップにおける前面基板とダイヘッドとの配置を示す図
【図7B】同塗布ステップ終了後の待機期間におけるダイヘッドの配置を示す図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施の形態におけるPDPの製造方法について、図面を用いて説明する。
【0020】
(実施の形態)
図1は本実施の形態により製造されるPDPの分解斜視図である。PDPの基本構造は、一般的な交流面放電型PDPと同様である。
【0021】
図1に示すように、PDP1は、前面基板2と背面基板10とが対向して配置され、前面基板2と背面基板10の周辺部をガラスフリットなどからなる封着部材によって気密封着して構成している。封着されたPDP1内部の放電空間16には、キセノン(Xe)とネオン(Ne)などの放電ガスが40kPa〜60kPaの圧力で封入されている。
【0022】
前面ガラス基板3上には、走査電極4および維持電極5よりなる一対の帯状の表示電極対6とブラックストライプ(遮光層)7が互いに平行にそれぞれ複数列配置されている。さらに、表示電極対6と遮光層7とを覆うように電荷を保持してコンデンサとしての働きをする誘電体層8が形成され、さらにその上に保護層9が形成されている。
【0023】
また、背面ガラス基板11上には、表示電極対6と直交する方向に、複数の帯状のアドレス電極12が互いに平行に配置され、これを下地誘電体層13が被覆している。さらに、アドレス電極12間の下地誘電体層13上には放電空間16を区切る所定の高さの隔壁14が形成されている。隔壁14間の溝毎に、紫外線によって赤色、緑色および青色にそれぞれ発光する蛍光体層15が順次塗布して形成されている。表示電極対6とアドレス電極12とが交差する位置に放電セルが形成され、表示電極対6方向に並んだ赤色、緑色、青色の蛍光体層15を有する放電セルがカラー表示のための画素になる。
【0024】
図2は、本実施の形態におけるPDP1の前面基板2の詳細な構成を示す断面図であり、図2は図1と上下反転させて示している。図2に示すように、フロート法などにより製造されたガラス製の前面ガラス基板3に、走査電極4と維持電極5よりなる表示電極対6と遮光層7がパターン形成されている。走査電極4と維持電極5はそれぞれインジウムスズ酸化物(ITO)や酸化スズ(SnO2)などからなる透明電極4a、5aと、透明電極4a、5a上に形成された金属バス電極4b、5bとにより構成されている。金属バス電極4b、5bは透明電極4a、5aの長手方向に導電性を付与する目的として用いられ、銀(Ag)材料を主成分とする導電性材料によって形成されている。
【0025】
誘電体層8は、これらの透明電極4a、5aと金属バス電極4b、5bと遮光層7を覆って設けた第1誘電体層81と、第1誘電体層81上に形成された第2誘電体層82の少なくとも2層構成としている。さらに第2誘電体層82上に保護層9が形成されている。
【0026】
保護層9は、誘電体層8上に形成した下地膜91と、下地膜91上に酸化マグネシウム(MgO)の結晶粒子92aを複数個凝集させた凝集粒子92とにより構成されている。また、保護層9において、下地膜91は、酸化マグネシウム(MgO)、酸化カルシウム(CaO)、酸化ストロンチウム(SrO)、および酸化バリウム(BaO)の群から選ばれる単一金属酸化物、もしくは少なくとも2つ以上のこれら単一金属酸化物からなる複合金属酸化物により形成されている。
【0027】
図3はPDP1の製造ステップを示すフローチャートである。図3に示すように、前面基板作製ステップ(S1)と、背面基板作製ステップ(S2)と、フリット塗布ステップ(S3)と、封着ステップ(S4)と、排気ステップ(S5)と、放電ガス供給ステップ(S6)とを経て製造される。
【0028】
図4は、前面基板作製ステップ(S1)の詳細を示すフローチャートである。以下、フローチャートに従って前面基板作製ステップ(S1)について説明する。まず、前面ガラス基板3上に、表示電極対6と遮光層7とを形成する(S11)。走査電極4と維持電極5とを構成する透明電極4a、5aと金属バス電極4b、5bは、フォトリソグラフィ法などを用いてパターニングして形成される。透明電極4a、5aは薄膜プロセスなどを用いて形成され、金属バス電極4b、5bは銀(Ag)材料を含むペーストを所定の温度で焼成して固化している。また、遮光層7も同様に、黒色顔料を含むペーストをスクリーン印刷する方法や黒色顔料を前面ガラス基板3の全面に形成した後、フォトリソグラフィ法を用いてパターニングし、焼成することにより形成される。
【0029】
次に、表示電極対6および遮光層7を覆うように前面ガラス基板3上に誘電体ペーストをダイコート法などにより塗布して誘電体ペースト(誘電体材料)層を形成する。誘電体ペーストを塗布し、所定の時間放置すると誘電体ペースト表面がレベリングされて平坦な表面になる。誘電体ペーストの材料や塗布厚みを変えて、第1誘電体層81と第2誘電体層82との誘電体ペースト層を形成する。その後、誘電体ペースト層を焼成固化することにより、表示電極対6および遮光層7を覆う第1誘電体層81と第2誘電体層82とよりなる、誘電体層8が形成される(S12)。なお、誘電体ペーストはガラス粉末などの誘電体材料、バインダおよび溶剤を含む塗料である。
【0030】
次に、保護層形成ステップ(S13)において、第2誘電体層82上に保護層9を形成する。保護層形成ステップ(S13)は、下地膜91を形成する下地膜形成ステップ(S14)と、この下地膜91上に金属酸化物の凝集粒子92を分散配置する凝集粒子配置ステップ(S15)とにより構成されている。
【0031】
下地膜形成ステップ(S14)では、下地膜91が、酸化マグネシウム(MgO)、酸化カルシウム(CaO)、酸化ストロンチウム(SrO)、および酸化バリウム(BaO)の群から選ばれる単一金属酸化物、もしくは少なくとも2つ以上のこれら単一金属酸化物からなる複合金属酸化物により形成される。この下地膜91は、酸化マグネシウム(MgO)、酸化カルシウム(CaO)、酸化ストロンチウム(SrO)、および酸化バリウム(BaO)の単独材料のペレットや、それらの材料を混合したペレットを用いて薄膜成膜方法によって形成される。薄膜成膜方法としては、電子ビーム蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などの公知の方法が適用できる。
【0032】
また、下地膜91の成膜時の雰囲気としては、水分付着や不純物の吸着を防止するために外部と遮断された密閉状態で、成膜時の雰囲気を調整している。このようにして、所定の電子放出特性を有する金属酸化物よりなる下地膜91を形成することができる。
【0033】
次に、凝集粒子配置ステップ(S15)では、下地膜91上に酸化マグネシウム(MgO)の結晶粒子92aの凝集粒子92を分散させて付着形成する。これらの結晶粒子92aは、以下に示す気相合成法または前駆体焼成法のいずれかで製造することができる。
【0034】
気相合成法では、不活性ガスが満たされた雰囲気下で純度が99.9%以上のマグネシウム金属材料を加熱し、さらに、雰囲気に酸素を少量導入することによって、マグネシウムを直接酸化させ、酸化マグネシウム(MgO)の結晶粒子92aを作製することができる。
【0035】
一方、前駆体焼成法では、酸化マグネシウム(MgO)の前駆体を700℃以上の高温で均一に焼成し、これを徐冷して酸化マグネシウム(MgO)の結晶粒子92aを得ることができる。前駆体としては、例えば、マグネシウムアルコキシド(Mg(OR)2)、マグネシウムアセチルアセトン(Mg(acac)2)、水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)、炭酸マグネシウム(MgCO2)、塩化マグネシウム(MgCl2)、硫酸マグネシウム(MgSO4)、硝酸マグネシウム(Mg(NO32)、シュウ酸マグネシウム(MgC24)の内のいずれか1種以上の化合物を選ぶことができる。なお選択した化合物によっては、通常、水和物の形態をとることもあるがこのような水和物を用いてもよい。これらの化合物は、焼成後に得られる酸化マグネシウム(MgO)の純度が99.95%以上、望ましくは99.98%以上になるように調整する。これらの化合物中に、各種アルカリ金属や、金属元素などの不純物元素が一定量以上混じっていると、熱処理時に不要な粒子間癒着や焼結を生じ、高結晶性の酸化マグネシウム(MgO)の結晶粒子92aを得にくいためである。このため、不純物元素を除去するなどにより予め前駆体を調整することが必要となる。
【0036】
上記、いずれかの方法で得られた酸化マグネシウム(MgO)の結晶粒子92aを溶媒に分散させた塗布液を、下地膜91に塗布することによって下地膜91の表面に凝集粒子92を分散配置することができる。なお、凝集粒子92は、溶媒に結晶粒子92aを分散させる過程で得ることができる。
【0037】
一方、凝集粒子92が分散した塗布液は、これらの塗布液を下地膜91に塗布した後の焼成プロセスなどを省くことなどから、樹脂バインダを含まない構成としている。そのため、塗布液の粘度は低粘度であり、塗布液が流動しない静止状態においては凝集粒子92が沈降しやすくなっている。
【0038】
具体的には、溶媒としては、下地膜91や凝集粒子92との親和性が高く、かつ次の工程において蒸発除去を容易にするため、蒸気圧が常温で数十Pa程度と比較的高いものが適している。より具体的には、メチルメトキシブタノール、テルピネオール、プロピレングリコール、ベンジルアルコールなどの有機溶剤単体もしくはそれらの混合溶媒が用いられる。これらの溶媒を用いたインクの粘度は数mPaS〜数十mPaSである。
【0039】
また、凝集粒子92は、静電気やファンデルワールス力などの比較的弱い力によって複数の結晶粒子92aが集合体をなしているものであり、塗布液として分散させる過程で超音波分散の条件などを制御することにより、平均粒径が0.9μm〜2μmの範囲に揃えることが可能である。
【0040】
このように非常に低粘度である塗布液を下地膜91上に一定の膜厚に塗布する手段として、例えばスリットコート法が用いられる。スリットコート法は所定幅を有するスリットノズルから塗布液を吐出させる方法であり、平均膜厚8μm〜20μmの塗布膜を所定のエリア内に均質に形成することができる。
【0041】
塗布膜が形成された前面基板2は、例えば、真空乾燥などによって乾燥される。塗布膜は真空チャンバ内において数十秒以内で急速に乾燥されるため、下地膜91での凝集粒子92の偏りなどがなく下地膜91上に均等に分散されて付着する。
【0042】
このようにして、下地膜91に樹脂バインダを含まない低粘度の塗布液をスリットコート塗布し、真空乾燥を行うことで、凝集粒子92を均等に付着させた前面基板2を完成させることができる。
【0043】
一方、前述のように、凝集粒子92を含む塗布液の粘度は低粘度であり、塗布液が流動しない静止状態においては凝集粒子92が沈降しやすくなっている。
【0044】
次に、本実施の形態においてスリットコート法に用いた塗布装置について説明する。図5は凝集粒子配置ステップに用いる塗布装置50を示す図である。
【0045】
塗布装置50は、塗布液51を吐出するダイヘッド52と、塗布液51を貯留する貯留タンク53と、塗布液51を循環送出させる送出ポンプ54とを備えている。また、貯留タンク53には撹拌翼55が設けられ、貯留タンク53内の塗布液51を撹拌している。
【0046】
一方、これらの間は配管部材によって配管接続され、貯留タンク53、送出ポンプ54、ダイヘッド52間を配管接続する往還経路56と、ダイヘッド52から貯留タンク53に帰還するように配管接続された帰還経路57とを備えている。また、ダイヘッド52と帰還経路57とは、閉止バルブ58a、58bを介して帰還経路57a、57bで接続されている。
【0047】
次に、ダイヘッド52の詳細について説明する。図6Aは、塗布装置50におけるダイヘッド52の詳細を示す斜視図であり、図6Bはダイヘッド52の下面図、図6Cは図6AにおけるA−A線断面図である。図6Aから図6Cに示すように、ダイヘッド52はダイヘッド本体60の内部に空洞部61を有し、空洞部61から所定幅のスリットノズル62が外部に向けて形成されている。また、スリットノズル62はダイヘッド本体60の長手方向に、例えば、塗布幅と同等の所定幅を有している。また、ダイヘッド本体60には空洞部61に連通して、図5の塗布装置50の往還経路56に接続される接続配管部63と、帰還経路57a、57bに接続される接続配管部64a、64bとが設けられている。
【0048】
さらに、ダイヘッド本体60の長手方向の両端部65a、65bには、ダイヘッド本体60を回動させて、スリットノズル62の開口方向を180度変更可能なように、回動装置(図示せず)に連結する回動軸66a、66bが設けられている。
【0049】
次に、図5、図6Aに示す塗布装置50とダイヘッド52により、下地膜91までが形成された前面基板2の下地膜91上に、凝集粒子92を含む塗布液51を塗布する例について図7Aを用いて説明する。図7Aは、塗布装置50で前面基板2に塗布液51を塗布する塗布ステップでの前面基板2とダイヘッド52との配置を示す図である。また、図7Bは、前面基板2への塗布が終了し、次の基板への塗布までの間の待機期間におけるダイヘッド52の配置を示す図である。
【0050】
すなわち、図7Aに示すように、下地膜91が形成された前面基板2が下地膜91を上面として基板載置台70に配置され、その下地膜91に対向して、開口したスリットノズル62を有するダイヘッド52が配置されている。このとき、下地膜91の面とスリットノズル62の端面とは所定の間隙を有して配置されている。
【0051】
この状態において、図5に示す、送出ポンプ54などを動作させ、ダイヘッド52のスリットノズル62から塗布液51をカーテン状に吐出させ、下地膜91の表面に塗布液51の塗布膜を形成する。なお、このとき、基板載置台70とダイヘッド52とを矢印Aのように相対移動させ、前面基板2の所定領域に塗布膜を形成する。また、この状態では、図5に示す帰還経路57に接続される閉止バルブ58a、58bを閉止状態としている。
【0052】
このようにして、前面基板2の下地膜91の表面に、凝集粒子92を含む塗布液51の塗布膜を安定して形成することができ、次のステップにおいて、塗布膜を真空乾燥させることで下地膜91の表面に凝集粒子92を分散して配置させることができる。
【0053】
一方、前面基板2への塗布が終了し、次の前面基板2への塗布に入るまでの待機期間の状態を説明する。図7Bは、待機ステップでのダイヘッド52と基板載置台70との位置関係を示す図であり、この待機ステップでは、基板載置台70には前面基板2は配置されていない。このとき、基板載置台70の上方のダイヘッド52は、回動軸66a、66bに連結する回動軸66a、66bを介して、塗布ステップでのスリットノズル62の開口方向が180度方向を変更されている。すなわち、スリットノズル62の開口が上方を向くように配置されている。
【0054】
また、このとき、帰還経路57には接続配管部64a、64bが接続され、これらの接続配管部64a、64bにおける流路抵抗を、スリットノズル62における流路抵抗よりも小さくなるようにすることにより、スリットノズル62からの塗布液51の噴出を防止することができる。
【0055】
すなわち、このようにダイヘッド52の向きを変えることにより、沈降しやすい凝集粒子92をダイヘッド52の空洞部61側に沈降させることができる。その結果、待機期間においてスリットノズル62に凝集粒子92が堆積して閉塞され、次の塗布ステップでスリットノズル62からの吐出が不安定になるなどの現象を防止することができる。また、堆積や閉塞によるスリットノズル62の再生なども必要がなくなり、塗布プロセスの生産性を高めることができる。
【0056】
また、この待機ステップにおいては、往還経路56と帰還経路57とで循環経路を構成し、塗布液51が循環する循環ステップとしている。したがって、この循環ステップでは、沈降しやすい塗布液51を常に流動させている。そのため、往還経路56や帰還経路57内、ダイヘッド52内、送出ポンプ54内などで塗布液51が滞留せずに、凝集粒子92が沈降することもない。
【0057】
以上のように、本実施の形態のPDPの製造方法によれば、下地膜91上に凝集粒子92を安定して分散配置することができる。その結果、電子放出特性と電荷保持特性とを両立する保護層9を実現でき、高精細で高画質な画像表示性能を備えるPDPを実現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明によるPDPの製造方法は、高精細で高画質な画像表示性能を備えるPDPを実現する上で有用な発明である。
【符号の説明】
【0059】
1 PDP
2 前面基板
3 前面ガラス基板
4 走査電極
4a,5a 透明電極
4b,5b 金属バス電極
5 維持電極
6 表示電極対
7 ブラックストライプ(遮光層)
8 誘電体層
9 保護層
10 背面基板
11 背面ガラス基板
12 アドレス電極
13 下地誘電体層
14 隔壁
15 蛍光体層
16 放電空間
50 塗布装置
51 塗布液
52 ダイヘッド
53 貯留タンク
54 送出ポンプ
55 撹拌翼
56 往還経路
57,57a,57b 帰還経路
58a,58b 閉止バルブ
60 ダイヘッド本体
61 空洞部
62 スリットノズル
63,64a,64b 接続配管部
65a,65b 両端部
66a,66b 回動軸
70 基板載置台
81 第1誘電体層
82 第2誘電体層
91 下地膜
92 凝集粒子
92a 結晶粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに平行な複数の表示電極対とこれを覆う誘電体層と保護層とを前面基板に形成する前面基板作製ステップと、前記表示電極対と交差する互いに平行な複数のデータ電極とこれを覆う下地誘電体層と隔壁と蛍光体層とを背面基板に形成する背面基板作製ステップを有するプラズマディスプレイパネルの製造方法であって、
前記前面基板作製ステップの前記保護層を形成する保護層形成ステップが、前記誘電体層に下地膜を形成する下地膜形成ステップと、その後、前記下地膜の上に金属酸化物の結晶粒子が複数個凝集した凝集粒子を分散配置する凝集粒子配置ステップとを含み、
前記凝集粒子配置ステップは、前記凝集粒子と溶媒との塗布液を前記下地膜に対向して開口したスリットノズルから吐出させて前記下地膜に塗布する塗布ステップを備え、前記塗布ステップが終了後の塗布待機時間において、前記スリットノズルの開口方向を180度変更する待機ステップをさらに含むことを特徴とするプラズマディスプレイパネルの製造方法。
【請求項2】
前記塗布ステップは、貯留タンクに貯留された前記塗布液を送出ポンプによって前記スリットノズルを設けたダイヘッドに送出するステップであり、前記待機ステップは前記貯留タンクから前記ダイヘッドに送出された前記塗布液を、さらに前記ダイヘッドから前記貯留タンクに帰還させる循環ステップであることを特徴とする請求項1に記載のプラズマディスプレイパネルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図7A】
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【図7B】
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【公開番号】特開2011−258405(P2011−258405A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−131708(P2010−131708)
【出願日】平成22年6月9日(2010.6.9)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】