説明

プラズマディスプレイパネルの製造方法

【課題】インクジェット装置を用いて中心粒径が1μm以上の蛍光体粒子を安定して吐出させることのできるプラズマディスプレイパネルの製造方法を提供する。
【解決手段】プラズマディスプレイパネルの製造方法は、隔壁(例えば隔壁9)を形成し、当該隔壁によって隔てられた複数の凹部(例えば、放電セル11)を形成する工程と、前記凹部に、インクジェット装置を用いて蛍光体インクを塗布する工程と、を有する。前記蛍光体インクは、中心粒径が1μm以上の蛍光体と、溶媒とを含む。前記インクジェット装置に設けられたノズル孔(302)から吐出される前記蛍光体インク(例えば、液滴303)の初速度が4m/s以上、10m/s以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像表示に用いられるプラズマディスプレイパネルの製造方法、特に、インクジェット装置を用いた製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大画面で薄型軽量を実現できるカラー表示デバイスとしてプラズマディスプレイパネル(以下、「PDP」と略記する)が注目されている。
【0003】
このようなPDPにおいて、蛍光体を塗布することができるインクジェット工法が提案されている(特許文献1参照)。特許文献1では、平均粒径が0.001μm以上1.0μm未満の蛍光体を有機溶剤中に分散させたインクを作製し、インクジェットのヘッド先端から吐出させる方法を示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−63246号公報
【特許文献2】特開2005−71954号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のような平均粒径が0.001μmから1μmの蛍光体は、蛍光体を粉砕して小さくしたり、蛍光体粉体をふるいにかけて選別する必要がある。蛍光体を粉砕した場合、輝度が低くなる可能性があり、プラズマディスプレイパネルの発光特性を満足することが出来ないことが考えられる。また、中心粒径が1.0μm未満の蛍光体をふるいで選別する場合は歩留が悪い。さらに粒径が小さいため凝集しやすくなり、インクの分散が難しくなるという課題があった。
【0006】
一方で、プラズマディスプレイパネルの高画素化による放電セルの配列の高精細化が進んだ場合に、各放電セルに蛍光体を塗布するのは困難である。インクジェット装置による蛍光体の塗布を用いれば、高精細化が進んだ各放電セルへの蛍光体の塗布が容易になる。しかし、蛍光体粒子は例えば図6に示すように中心粒径が1μm以上であるような粒度分布を持っている。特に粒径の大きい蛍光体粒子は粒径が約7μm以上である。このため、蛍光体インク中の蛍光体粒子を、インクジェットヘッド内部で蛍光体インクの動き(流れ)に合わせて動かす(流す)ことが非常に難しい。特に粒子径の大きな蛍光体粒子は、蛍光体インク中で沈殿し易い。そして、粒子径の小さい蛍光体粒子のみがノズル孔から吐出され、吐出された蛍光体インク中の蛍光体粒子の濃度(含有率)が一定に保たれずにばらついてしまう。その結果、蛍光体層の膜厚のばらつきが生じ、PDPの画像品質を低下させることになる。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑み、インクジェット装置を用いて中心粒径が1μm以上の蛍光体粒子を安定して吐出させることのできるプラズマディスプレイパネルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は、以下の製造方法によって実現できる。当該製造方法は、プラズマディスプレイパネルの製造方法であって、
隔壁を形成し、当該隔壁によって隔てられた複数の凹部を形成する工程と、
前記凹部に、インクジェット装置を用いて蛍光体インクを塗布する工程と、
を有し、
前記蛍光体インクは、中心粒径が1μm以上の蛍光体と、溶媒と、を含み、
前記インクジェット装置に設けられたノズル孔からに吐出される前記蛍光体インクの初速度が4m/s以上、10m/s以下であることを特徴とする。
【0009】
なお、中心粒径とは、蛍光体インクの粒径の中央値(メジアン)のことである。中央値は、撹拌された蛍光体インクから一部を抜き取り、その中に含まれる蛍光体の粒度分布(粒径分布)を求め、当該分布から統計的に求めることが可能である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、インクジェット装置を用いて中心粒径が1μm以上の蛍光体粒子を安定して吐出させることのできるプラズマディスプレイパネルの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1実施形態におけるPDPの構造を示す分解斜視図
【図2】本発明の第1実施形態におけるPDPの放電セル部分を示す断面図
【図3】本発明の第1実施形態におけるPDPの電極配列を示す図
【図4】本発明の第1実施形態における液滴吐出の一例を示した要部断面図
【図5】本発明の第1実施形態における蛍光体インクを塗付した時の断面形状図
【図6】各蛍光体の粒度分布を示す図
【図7】ストークス数Sを0.1とした場合の粒子径の90パーセンタイルD90と初速度との関係を示す図
【図8】本発明の第3実施形態におけるPDP装置の構成を示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0012】
[第1実施形態]
(PDPの構成)
図1は本発明の第1実施形態におけるPDP100の構造を示す分解斜視図、図2は放電セル部分の要部を示す断面図である。
【0013】
図1に示すように、PDP100は、対向配置された前面板と背面板とを備える。前面板と背面板との間には、多数の放電セル11が形成されている。
【0014】
前面板は、前面基板1と、走査電極2と、維持電極3と、誘電体層4と、保護層5とを有する。前面基板1は、ガラス製である。前面基板1上に1対の走査電極2と維持電極3とからなる表示電極が互いに平行に複数対形成されている。この走査電極2および維持電極3は、走査電極2−維持電極3−維持電極3−走査電極2の配列で繰り返すパターンで形成されている。そして、それら表示電極を覆うように誘電体層4が形成されている。そして、誘電体層4を覆うようにMgOからなる保護層5が形成されている。走査電極2および維持電極3は、それぞれITO、SnO2、ZnO等の導電性金属酸化物からなり光透過性を有する透明電極2a、3a上に、Ag等の金属からなるバス電極2b、3bが形成されている。
【0015】
背面板は、背面基板6と、データ電極7と、誘電体層8と、隔壁9とを有する。背面基板6はガラス製である。背面基板6上に、複数の互いに平行なAgを主成分とする導電性材料からなるデータ電極7が形成されている。そのデータ電極7を覆うように誘電体層8が形成されている。さらに誘電体層8の上に井桁状の隔壁9が形成されている。隔壁9は、隣接する放電空間を分割している。そして誘電体層8の表面と隔壁9の側面とに、赤、緑、青各色の蛍光体層10が形成されている。
【0016】
そして、走査電極2および維持電極3とデータ電極7とが立体交差するように、前面板と背面板とが対向配置されている。前面板と背面板との接合面の周辺部は封止されている。前面板と背面板との間には、放電空間が形成されている。放電空間には、放電ガスが封入されている。
【0017】
ここで、図2に示すように、前面板と背面板とに挟まれた放電空間において、隔壁9により囲まれた部分に放電セル11が形成されている。放電セル11は、走査電極2および維持電極3とデータ電極7とに挟まれている。
【0018】
図3は実施の形態におけるPDPの電極配列図である。行方向に長いn本の走査電極Y1、Y2、Y3・・・Yn(図1の2)およびn本の維持電極X1、X2、X3 ・・・Xn(図1の3)が配列され、列方向に長いm本のデータ電極A1・・・Am(図1の7)が配列されている。そして、1対の走査電極Y1および維持電極X1と1つのデータ電極A1とが交差した部分に放電セルが形成されている。放電セルは放電空間内にm×n個形成されている。そしてこれらの電極のそれぞれは、前面板、背面板の画像表示領域外の周辺端部に設けられた接続端子にそれぞれに接続されている。
【0019】
(製造方法)
以下に、本実施の形態によるPDP100の製造方法について説明する。
【0020】
PDP100の製造方法は、前面板を形成する工程と、背面板を形成する工程と、前面板と背面板との封止工程、シール工程を有する。背面板を形成する工程は、蛍光体を塗布する工程を含む。蛍光体を塗布する工程以外は、従来の製造方法が適用できるため、その説明を省略する。
【0021】
蛍光体を塗布する工程について詳細に説明する。蛍光体の塗布には、インクジェット装置を用いる。具体的には、例えば、蛍光体を含む蛍光体インクを作成する。インクジェットヘッドを背面板の上を移動させ走査する。インクジェットヘッドは、1回の走査で各隔壁に囲まれた放電セル11に、所定の色の蛍光体を含む蛍光体インクを所定の量になるように吐出する。この際、背面基板6などの材料に対する蛍光体インクの濡れ性を考慮して、滴下するインク量を調整する。図4は、本実施形態における液滴吐出の一例を示した要部断面図である。図5は、隔壁9に蛍光体インク12を塗付した時の断面形状図である。
【0022】
青色蛍光体の材料としては、BaMgAl1217:Eu3+、BaMgAl1017:Eu2+、BaMgAl1423:Eu2+、Y2SiO5:Ce、(Ca,Sr,Ba)19(PO612:Eu2+、(Zn、Cd)S:Agなどを用いることができる。
【0023】
緑色蛍光体の材料としては、BaAl1219:Mn、Zn2SiO4:MnまたはYBO3:Tbなどを用いることができる。
【0024】
赤色蛍光体の材料としては、YBO3:Eu3+、(YxGd1-x)BO3:Eu3+ (0≦X≦1)、Y(P、V)O4:Eu3+などを用いることができる。もちろん、青色蛍光体、緑色蛍光体、および、赤色蛍光体は、上記材料に限定されるものではない。また、各蛍光体の中心粒径は、1μm以上である。中心粒径が1μm以上の各蛍光体は、高輝度である。なお、各蛍光体は中心粒径が1μm未満であってもよい。
【0025】
図6は、各蛍光体の粒度分布を示す図である。赤色蛍光体として、中心粒径(D50)が2.5μmのものを用いた。緑色蛍光体として、中心粒径(D50)が3.0μmのものを用いた。青色蛍光体として、中心粒径(D50)が3.5μmのものを用いた。緑色蛍光体と、青色蛍光体は、粒径が7μm以上の粒子を含んでいた。
【0026】
青色蛍光体インクは、青色蛍光体を含む。緑色蛍光体インクは、緑色蛍光体を含む。赤色蛍光体インクは、赤色蛍光体を含む。各蛍光体インクは、各蛍光体粒子がブチルカルビトールアセテート、ターピネオール、エチルセルロースを溶解させた溶媒に分散されている。各蛍光体インクには、分散剤が添加されている。このときの分散剤の量は、例えば蛍光体インクの重量に対して0.5〜2wt%の分量で添加した。分散剤としては、アクリル系共重合物、アルキルアンモニウム塩類などの材料を用いることができる。
【0027】
各蛍光体インクの25℃での粘度(以下、単に「粘度」と称する。)は、粘度が10mPa・s以上40mPa・s以下であるのが好ましい。本実施の形態では、エチルセルロースの分子量および含有量を調整し、粘度が10mPa・s以上40mPa・s以下となるように作製した。各蛍光体インクの粘度が10mPa・sより低いと、各蛍光体粒子の沈降が速くなり、インクジェット装置内で各蛍光体粒子が沈殿、凝集してしまう。そして、インクジェットヘッドのノズル孔から吐出される液滴中の各蛍光体粒子の濃度(含有率)が一定に保たれずにばらついてしまう。その結果、隔壁の側壁に均一な膜厚で蛍光体層10を形成できなくなる。逆に粘度が40mPa・sより高いと、インクジェットヘッドのノズル孔からのインクの吐出が困難になる。
【0028】
また、1つの放電セルの中に塗布することが出来る蛍光体インクの量は決まっているため、蛍光体インクの塗布、乾燥、焼成からなる1回のサイクルで形成される蛍光体層の最大厚みは、当該蛍光体インクの量と、蛍光体インクに含まれる蛍光体の含有量によって決まる。所定の厚みの蛍光体層を乾燥、焼成後に形成するためには、蛍光体インクの塗布、乾燥からなるサイクルを複数回行う必要があることがある。しかし、当該サイクルを数多く行うことは、生産性の悪化になる。このため、各蛍光体インク中の蛍光体の含有量は、40wt%以上70wt%以下が好ましい。こうすることで、所定の厚みの蛍光体層を形成するための蛍光体インクの塗布、乾燥からなるサイクルをなるべく少なくすることができる。例えば、1回のサイクルで所定の厚みの蛍光体層を形成することができる。蛍光体インクの蛍光体の重量比が40wt%未満の場合、1回に塗布するインク中に含まれる蛍光体の含有量が少ないため、隔壁の内容積に対して十分な量の蛍光体インクを注入するためには、塗布および乾燥のサイクルを多くする必要があり、生産性が悪くなる。逆に70wt%を超えると、溶媒量が少なくなるため、インクの流動性が悪くなり、インクの吐出が困難になる。なお、1回の蛍光体の塗布で、インクジェットヘッドからの蛍光体インクの吐出を複数回行ってもよい。
【0029】
本実施の形態の各蛍光体インクは、例えば蛍光体の含有量が50wt%、分散剤は蛍光体の重量に対して0.5wt%含有したものを用いた。さらに、各蛍光体インクの溶液には、ブチルカルビトールアセテート、ターピネオールを用い、さらに例えばエチルセルロースなどのバインダーを添加した。このとき25℃で各蛍光体インクの粘度を測定すると20mPa・sであった。
【0030】
インクジェット装置に設けられたノズル孔302から1回に吐出される蛍光体インクの初速度が4m/s以上、10m/s以下であるのが好ましい。
【0031】
青色蛍光体インク、緑色蛍光体インク、および、赤色蛍光体インクのいずれかをそれぞれ各放電セル11に滴下した後、各蛍光体インクを例えば80℃以上に加熱し、各蛍光体インクを乾燥させる乾燥工程を行う。この際、分散剤などの成分が分解しない程度の温度で加熱する。ここで、加熱温度は、各蛍光体インクに用いた溶媒の成分、雰囲気、排気速度などに大きく依存して決定される。
【0032】
次に、各蛍光体インクを100℃以上に加熱する焼成工程を行う。これにより、PDPの背面板が完成する。この焼成工程を行うことにより、拡散した分散剤成分を十分に分解できるため、PDPの特性(例えば、発光輝度)への分散剤材料による影響は軽減できる。焼成工程の際の加熱温度は、各蛍光体インクに用いた溶媒の成分、雰囲気、排気速度、添加剤、分散剤などの分解温度などに大きく依存して決定される。焼成工程は、添加剤、分散剤などの残留成分がPDPの特性に影響を与えない範囲まで分解できる温度で実施すればよい。
【0033】
(液滴303の吐出速度の検討)
インクジェット装置に設けられたノズル孔302から1回に吐出される蛍光体インクの初速度が4m/s以上、10m/s以下であるのが好ましいとの結果は、以下のような実験によって見出された。
【0034】
インクジェット装置は、連続的に液滴303の吐出を繰り返した際に、安定的に液滴303を吐出していなければ、PDPの製造に用いることはできない。このため、蛍光体粒子を含有する蛍光体インクをインクジェット装置より吐出させた際の液滴303の初速度と、吐出の安定性の関係を調べた実験結果を表1に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
実験には、図6で示した粒度分布を持つ緑色蛍光体を含む蛍光体インクをサンプルの1つとして用いた。蛍光体インクは、緑色蛍光体の含有量が20wt%以上、分散剤は蛍光体の重量に対して0.5wt%以上含有していた。さらに、蛍光体インクの溶液には、ブチルカルビトールアセテートを主成分として用い、さらにエチルセルロースをバインダーとして添加した。このとき25℃で蛍光体インクの粘度を測定すると7mPa・s以上であった。
【0037】
インクジェットヘッド301の吐出力を徐々に上げていき、各条件につき、1時間の連続的な吐出を実施した。その際、カメラにて液滴303が安定的に吐出しているか否かを確認した。液滴の分離状態の発生、不吐出状態、および、不安定状態の発生について不安定と表記している。この際のインクジェットヘッド031のノズル孔302の直径は20μmとした。
【0038】
検討の結果、インクジェットヘッド301の吐出力を徐々に上げていき、液滴303の初速度が4m/sになるまでの間、蛍光体インクはノズル孔302から吐出されなかったり(不吐出状態)、吐出されたとしても連続的に安定した吐出は確認されなかった(不安定状態)。
【0039】
液滴303の初速度が4m/s以上、且つ、10m/s以下のとき、安定的に吐出していた。具体的には、液滴303の初速度が4m/s、6m/s、8m/s、10m/sの各条件につき、1時間の連続的な吐出が安定して行われた。
【0040】
液滴303の初速度を10m/sよりも大きくすると、1時間の連続的な吐出の際、蛍光体インクが噴霧状に噴出することがあった(分離状態)。具体的には、液滴303の初速度が11m/sの条件で、1時間の連続的な吐出を行うと、分離状態が観察された。そして、蛍光体インクは、所定の放電セルに滴下せず、隣の放電セルに入ってしまうという印刷不良が発生した。
【0041】
(蛍光体インクの粘度の検討)
PDPの生産時に、濃度が均一に保持された蛍光体インクが吐出されなければ、PDPの画像品質が低下してしまう。このため、図6に示すように異なる粒度分布を持つ赤色蛍光体の蛍光体インク(I)と青色蛍光体の蛍光体インク(II)とを用いて、吐出されたインクの濃度について調べた実験結果を表2に示す。この際、各蛍光体インクの吐出時の初速度は、6m/sとした。また、インク粘度は約7mPa・sとした。また、実験に用いた蛍光体インク(I)、蛍光体インク(II)のどちらにおいても、中心粒径は1μm以上である。また、各蛍光体インクの比重は1.1g/cmとした。また、実験時のインクジェットヘッド301のノズル孔302の直径は20μmとした。
【0042】
【表2】

【0043】
検討の結果、蛍光体インク(I)においては、供給した蛍光体インクの濃度に対する、ノズル孔302より吐出した蛍光体インクの濃度の比は、100%となった。つまり、供給した蛍光体インクの濃度とインクジェットノズル孔より吐出した蛍光体インクの濃度は同じであった。しかし、蛍光体インク(II)においては、供給した蛍光体インクの濃度に対する、吐出した蛍光体インクの濃度の比は、約62%となった。つまり、供給した蛍光体インクの濃度よりも吐出した蛍光体インクの濃度が低下している結果となった。
【0044】
これらの結果から、粒子径と吐出濃度の関係を確認するためのシミュレーションを実施した。数式(1)はストークス数Sを蛍光体インクをインクジェット装置によって吐出す場合に求める式である。ここで、ρは蛍光体インクの比重(kg/m)、D90は蛍光体インク中の蛍光体の粒子径の90パーセンタイル(90百分位数)の値(m)、uは蛍光体インクの吐出時の初速度(m/s)、μは蛍光体インクの粘度(Pa・s)、Lはノズル孔302の直径(m)を示す。一般的なストークス数の式における粒子径に蛍光体インク中の蛍光体の粒子径の90パーセンタイルを適用し、直径にノズル孔302の直径を適用し、代表速度に蛍光体インクの吐出時の初速度を適用した点が発明者らによる新たな試みである。
【0045】
【数1】

【0046】
蛍光体インク(I)の赤色蛍光体の粒子径の90パーセンタイルD90は約3μmであった。蛍光体インク(II)の青色蛍光体の粒子径の90パーセンタイルD90は約8μmであった。結果、蛍光体インク(I)のストークス数Sは0.02であった。また、蛍光体インク(II)のストークス数Sは0.17であった。つまり、ストークス数Sが1より十分小さい値、具体的には0.1以下となる蛍光体インクは、インクジェットヘッド301のノズル孔302より吐出した前後で濃度の変化が小さいことが分かった。
【0047】
前述した実験結果、及び、シミュレーション結果から、蛍光体インクを安定的な濃度で吐出させるためにさらにシミュレーションした結果を図7に示す。図7は、ストークス数Sを0.1とした場合の粒子径の90パーセンタイルD90と初速度との関係をシミュレーションした結果である。言い換えると、図7は、安定的な濃度で吐出させる蛍光体インクの蛍光体の粒子径の90パーセンタイルD90と初速度との関係をシミュレーションした結果である。蛍光体インクの比重ρを1.5(g/cm)、蛍光体インクの粘度μを10,15,20(mPa・s)の3通り、ノズル孔302の直径Lを20(μm)とした。
【0048】
シミュレーションの結果、蛍光体の粒子径の90パーセンタイルD90が5μm以上で、蛍光体インクを安定的な濃度で吐出させるためには、粘度10mPa・s以上である必要がある。
【0049】
すなわち、中心粒径が1μm以上で、且つ、粒子径の90パーセンタイルD90が5μm以上となる粒度分布を持った蛍光体インクを、インクジェット装置で初速度が4m/s以上、10m/s以下の範囲で吐出する際、ストークス数が0.1以下となるためには、粘度は10mPa・s以上でなければならない。そうすれば、ストークス数が0.1以下となり、吐出される液滴中の蛍光体微粒子の濃度を安定に保つことができる。これにより、PDPの画像品質を低下させることなく製造することが可能となる。
【0050】
[第2実施形態]
次に、本願発明の第2実施形態について説明する。
【0051】
図8は、PDP100を用いたPDP装置200の構成を示す概略図である。PDP100は駆動装置150と接続されることでPDP装置を構成している。PDP100には表示ドライバ回路153、表示スキャンドライバ回路154、アドレスドライバ回路155が接続されている。コントローラ152はこれらの電圧印加を制御する。点灯させる放電セルに対応する走査電極2とデータ電極7へ所定電圧を印加することでアドレス放電を行う。コントローラ152はこの電圧印加を制御する。その後、維持電極3と走査電極2との間にパルス電圧を印加して維持放電を行う。この維持放電によって、アドレス放電が行われた放電セルにおいて紫外線が発生する。この紫外線で励起された蛍光体層が発光することで放電セルが点灯する。各色セルの点灯、非点灯の組み合わせによって画像が表示される。
【0052】
[他の実施形態]
以上により、実施形態を説明した。しかし、本発明は、これらには限定されない。そこで、本発明の他の実施形態を本欄にまとめて説明する。
【0053】
(1)
各蛍光体インクは、蛍光体の平均粒径や粒度分布、溶媒、添加剤、成分の重量比がそれぞれ異なるものでもよい。
【0054】
(2)
各色に用いる蛍光体材料は、1種類だけではなく、2種類以上混ぜたものを用いても良い。
【0055】
[実施形態の特徴]
上記実施形態において特徴的な部分を以下に列記する。なお、上記実施形態に含まれる発明は以下に限定されるものではない。
【0056】
[C1]
プラズマディスプレイパネルの製造方法は、
隔壁(例えば隔壁9)を形成し、当該隔壁によって隔てられた複数の凹部(例えば、放電セル11)を形成する工程と、
前記凹部に、インクジェット装置を用いて蛍光体インクを塗布する工程と、
を有し、
前記蛍光体インクは、中心粒径が1μm以上の蛍光体と、溶媒とを含み、
前記インクジェット装置に設けられたノズル孔から吐出される前記蛍光体インク(例えば、液滴303)の初速度が4m/s以上、10m/s以下である。
【0057】
これにより、インクジェット装置を用いて中心粒径が1μm以上の蛍光体インクを安定して吐出させることができる。
【0058】
[C2]
C1に記載のプラズマディスプレイパネルの製造方法であって、
前記インクジェット装置に設けられたノズル穴の直径が30μm以下であることを特徴とする。
【0059】
これにより、ノズル孔から吐出される前記蛍光体インク(例えば、液滴303)の初速度を4m/s以上、10m/s以下とする制御が容易となる。
【0060】
[C3]
C1またはC2に記載のプラズマディスプレイパネルの製造方法であって、
前記蛍光体インク中の前記蛍光体の重量比が40%以上70%以下である。
【0061】
これにより、インクジェット装置を用いて効率よく製造することができる。
【0062】
[C4]
C1からC3のいずれかに記載のプラズマディスプレイパネルの製造方法であって、前 前記蛍光体インクの比重が1.1g/cm3以上である。
【0063】
これにより、1回のスキャンで塗布することが出来る蛍光体の厚みが厚くなり、例えば、1回のスキャンで所定の厚さの蛍光体を塗布することが可能となる。なお、スキャンとは、ノズル孔から液滴を1滴または複数滴吐出し、その後、蛍光体インクを乾燥する一連の工程をいう。
【0064】
[C5]
C1からC4のいずれかに記載のプラズマディスプレイパネルの製造方法であって、前記蛍光体インクの25℃における粘度は、10mPa・s以上40mPa・s以下である。これにより、インクジェット装置内で各蛍光体粒子が沈殿、凝集してしまうことを抑制でき、かつ、インクジェットヘッドのノズル孔からのインクの吐出が容易になる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
以上のように本発明は、高精細のPDPを容易に実現する上で有用な発明である。
【符号の説明】
【0066】
1 前面基板
2 走査電極
3 維持電極
4、8 誘電体層
5 保護層
6 背面基板
7 データ電極
9 隔壁
10 蛍光体層
11 放電セル
12 蛍光体インク
100 PDP
150 駆動装置
152 コントローラ
153 表示ドライバ回路
154 表示スキャンドライバ回路
155 アドレスドライバ回路
200 PDP装置
301 インクジェットヘッド
302 ノズル孔
303 液滴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
隔壁を形成し、当該隔壁によって隔てられた複数の凹部を形成する工程と、
前記凹部に、インクジェット装置を用いて蛍光体インクを塗布する工程と、
を有し、
前記蛍光体インクは、中心粒径が1μm以上の蛍光体と、溶媒と、を含み、
前記インクジェット装置に設けられたノズル孔から吐出される前記蛍光体インクの初速度が4m/s以上、10m/s以下である、
プラズマディスプレイパネルの製造方法。
【請求項2】
前記インクジェット装置に設けられたノズル穴の直径が30μm以下であることを特徴とする請求項1に記載のプラズマディスプレイパネルの製造方法。
【請求項3】
前記蛍光体インク中の前記蛍光体の重量比が40%以上70%以下である、
請求項1または2に記載のプラズマディスプレイパネルの製造方法。
【請求項4】
前記蛍光体インクの比重が1.1g/cm3以上である、
請求項1から3のいずれかに記載のプラズマディスプレイパネルの製造方法。
【請求項5】
前記蛍光体インクの25℃における粘度は、10mPa・s以上40mPa・s以下である、
請求項1から4のいずれかに記載のプラズマディスプレイパネルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−9030(P2011−9030A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−150624(P2009−150624)
【出願日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】