説明

プラズマトーチスペクトロメータ

スペクトロメータはプラズマトーチ(12)と、トーチ内部に正常なプラズマ(P)を発生するための誘導コイル(40)とを有している。トーチ(12)は外管(20)及び内管(22)を有している。プラズマ(50)が正常プラズマ状態からトロイダル状又は不完全なプラズマ形状(52)にくずれると、フォトダイオード(70)が形状の変化を検出するので、プラズマトーチは、プラズマ形状(52)がトーチの外管(20)を溶融することを防止するべく停止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時間の飛行質量分析計(time of flight mass spectrometer)四極子UESスペクトロメータ、あるいは他のスペクトロメータのような誘導結合プラズマトーチスペクトロメータに関するものであって、分析用サンプルを作るために誘導結合プラズマトーチを使用しているものである。
【背景技術】
【0002】
種々のタイプのスペクトロメータにより分析する必要のあるサンプルは誘導結合プラズマトーチにより提供されている。そのようなトーチは冷却又はプラズマガス、補助ガス、サンプル搬送ガスを共に受け入れている。ガスは通常アルゴンであって、周囲にRF誘導コイルを備えた石英ガラス製外管(以下「管」という)を備えている。スペクトロメータにおいて、ガスがトーチに供給され、コイル及び点火装置が作動されると、プラズマが発生されそして搬送ガス中のサンプル材料は分析のためにイオン化される。
【0003】
プラズマがトーチにより作り出される場合、プラズマに二つの安定状態があることが判明している。第一安定状態は、いわゆる正常プラズマであって、ガラス管内に抑制されガラス管から離間している。
【0004】
第二安定状態は、プラズマがいわゆるトロイダル又は不安定プラズマ(toroidal or faulty plasma)にくずれることにより作り出されるものである。この特殊な形状はドーナツ形プラズマと呼ばれている。ドーナツ形プラズマは広がってガラス管に接触する傾向があって、その結果ガラス管が溶融してトーチが破損する。
【0005】
プラズマの形状が正常プラズマ形状からトロイダル状又は不完全なプラズマ形状に変化する主な理由は、事故による不十分な冷却ガス流れによるものである。スペクトロメータの制御装置が追従できないような急激な負荷変動もトロイダル状又は不完全なプラズマ形状をもたらしている。
【0006】
プラズマトーチは、比較的高価なものであり、従ってトロイダル状又は不完全なプラズマ形状による溶融にもとずくプラズマトーチの取り替えは高価なものとなっている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、プラズマがトロイダル状又は不完全なプラズマ形状にくずれた場合でもプラズマトーチを溶融から保護するスペクトロメータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下のスペクトロメータにより達成されていて、スペクトロメータは、誘導結合プラズマトーチにより作られたサンプルを分析するためのスペクトロメータであり、前記プラズマトーチにおいて、正常なプラズマは、ガスを前記プラズマトーチに使用することにより、かつ前記ガスを加熱して正常なプラズマを作るべく誘導コイルを励起することにより作り出されていて、そして前記正常なプラズマはトロイダル状又は不完全なプラズマ形状にくずれかねないスペクトロメータであって:
正常なプラズマからトロイダル状又は不完全なプラズマへのプラズマの変化を検出するための検出器と;
正常なプラズマを形状からトロイダル状又は不完全なプラズマ形状へのプラズマの変化を断定するために、前記検出器から信号を受け取るためのコントロール区画と;を具備しているスペクトロメータにおいて、
前記コントロール区画は、プラズマが前記正常なプラズマ形状からトロイダル状又は不完全なプラズマ形状に変化したことを断定した場合、前記プラズマトーチを停止するようになっている。
【0009】
従って、コントロール区画は、プラズマの形状が変化したことを認識し、従ってプラズマトーチは、管へのトロイダル状又は不完全なプラズマ形状の接触により溶融することを防止するために、即刻停止されるようになっている。従ってプラズマトーチは保護され、プラズマトーチの交換の必要性はない。トロイダル状又は不完全なプラズマ形状に変化したことを検出した場合、必要とされるいずれの是正措置もスペクトロメータが再起動された場合正常なプラズマが確立できることを保証するべく行なうことができる。
【0010】
好ましくは、前記検出器が、前記正常なプラズマの頂部がある位置に向けられた光学式検出器を備えていて、従って、もし前記正常なプラズマがトロイダル状又は不完全なプラズマにくずれると、前記正常なプラズマの前記位置が急速に変化し、そして前記光学式検出器に注がれる光強度が減少し、従って前記光学式検出器により発生される信号が変化するので、コントロール区画は形状の変化が発生したことを認識することができるようになっている。
【0011】
好ましくは、前記光学式検出器は、トロイダル状又は不安定なプラズマが存在する場合に前記光強度と比較される、正常なプラズマが存在している場合の前記光学式検出器により受け取られる光の割合を増加するためのコリメータ及び/又はレンズを備えている。
【0012】
好適な実施形態において、光を前記光学式検出器に伝えるために光ファイバ、又は固体の導波管が使用されている。
【0013】
好適な実施形態において、前記光学式検出器がフォトダイオードである。
【0014】
好適な実施形態において、前記検出器は、プラズマのイメージを分析しそしてその形状及び位置を測定するために、従ってプラズマがトロイダル状又は不完全なプラズマ形状にくずれたかどうかを断定するために、適切なソフトウェアを備えた電子カメラである。
【0015】
好適な実施形態において、前記検出器はピクセルアレーである。
【0016】
前記ピクセルアレーがリニアフォトダイオードアレーであって、前記リニアフォトダイオードアレーはレンズを備えていてもよい。
【0017】
好ましくは、前記誘導コイルは、コイルを作動するために前記コイルに供給される電力を発電するためのジェネレータを含んでいて、前記コントロール区画は、正常プラズマ形状からトロイダル状又は不完全なプラズマ形状への形状変化を断定した場合、前記プラズマトーチを停止するために前記ジェネレータのスイッチを切るようになっている。
【0018】
好適な実施形態において、前記検出器は、正常プラズマからトロイダルプラズマへの変化を測定するために、プラズマのインピーダンス値を測定するようになっている。
【0019】
好ましくは、前記インピーダンス値が、ジェネレータに供給されている高電圧DC供給源の電圧及び電流を測定することにより提供されている。
【0020】
添付図を参照して、本発明の好適な実施形態を例を用いて説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1において、スペクトロメータ10は、概略的に図示されていて、スペクトロメータ10において分析用のサンプルを発生するために誘導結合プラズマトーチ12を使用している。スペクトロメータ10は従来型のものであって詳述しないが、結果を表示するディスプレー14とプロセス区画16とを含んでいて、プロセス区画16はスペクトロメータを制御していて、かつ分析を行なうものであって、結果は光学式検出器14に表示されるか又は操作員に提供される。
【0022】
プラズマトーチ12は外管20と内管22とを有している。冷却又はプラズマガスは、概略的に符号30で図示された弁及び流量制御装置を介して、冷却又はプラズマガスライン26からライン26aに供給されていて、ライン26aは冷却又はプラズマガスを外管20と内管22との間のスペースに供給する。補助ガスは弁及び流量制御装置30を介してライン27からライン27aに続いて内管22に供給されており、そしてサンプル搬送ガスは弁及び流量制御装置30を介してライン28からライン28aへそしてパイプ31に供給されていて、そのパイプ31は内管22内部に設置されている。RF誘導コイル40が外管20周囲に備えられており、電流はコントロール区画44により制御されたRFジェネレータ42からコイル40に供給されている。
【0023】
図1において、コントロール区画44はプロセス区画16とは独立して図示されているけれども、プロセス区画16の一部を形成していてもよい。すなわちコントロール区画44は、独立したコントロール区画というよりは、むしろスペクトロメータ10を制御するプロセス区画の一部と見なされてもよい。
冷却又はプラズマガス、補助ガス及びサンプル搬送ガスは通常アルゴンである。ガスがトーチ12に供給され、そしてRFジェネレータ42が作動されると、コイル40が熱を発生し、ガスが加熱され従ってプラズマが発生され、プラズマ内でサンプル材料がイオン化され、原子吸収スペクトロメータにおける光の相対吸収方法により若しくはマススペクトロメータの中におけるような時間の飛行キャビテーを従断するイオンを発生させることにより分析、又は適切なタイプのいずれかの分析方法により分析される。
【0024】
図1は、いわゆる正常で安定したプラズマ形状を有しているプラズマ50を図示している、そのプラズマ形状において、プラズマは外管20内部に閉じ込められ外管20から離間している。
【0025】
場合によっては、プラズマ50がいわゆるトロイダル状又は不完全なプラズマ形状52(図2参照)となることもある。その理由は多数あるが、典型的なものは、冷却ガス流れが十分でないこと又は負荷の急変によるものである。トロイダル状又は不完全なプラズマ形状52は、基本的には広がって外管20の内表面に接触したものである。トーチの内管22及び外管20は、一般に石英ガラスで作られていて、もしプラズマトーチが作動したままでプラズマ52がトロイダル状又は不完全な形状のままであると、外管20へのプラズマ52の接触は、外管20を数秒で溶解してしまう。
【0026】
外管20の溶融従ってプラズマトーチの破損を防止するために、本発明における好適な実施形態において、プラズマの正常な形状50(図1)からトロイダル状又は不完全な形状52へのプラズマの形状変化が検出され、そして外管20が溶融することを防止し、従ってプラズマトーチが破損することを防止するためにトーチが停止されるようになっている。
【0027】
本発明の好適な実施形態においてフォトダイオード70が備えられていて、そのフォトダイオード70は、トーチ12が正しく作動している場合に正常なプラズマ形状50の上部分が位置する領域(図1における点Pのような)に焦点を合わせられている。フォトダイオード70はプラズマにより発生された光を検出している。従って、プラズマが図1に図示されるような正常なプラズマ形状50の場合に、フォトダイオード70は発生された光の強度を監視できるようになっていて、プラズマが正常な形状の場合光の強度を表示する信号が、フォトダイオード70からライン76を介してコントロール区画44に提供される。
【0028】
プラズマが図2に図示するようなトロイダル状又は不完全なプラズマ形状52になると、即時的にフォトダイオード70への光の強度が、オーダが異なる程度に減少する。というのは、プラズマはもはやフォトダイオード70が焦点を合わせている位置Pにないからである。従って、フォトダイオード70からの出力が著しく変化し、この変化は、コントロール区画44によりプラズマがトロイダル状又は不完全なプラズマ形状52になった表示として認識される。コントロール区画44はコイル40を介しての電流を停止するためにRFジェネレータ42を即刻停止し、従ってプラズマは消され石英の外管20を溶解しないようになっている。必要に応じて、正常なプラズマ形状50を保証するためにスペクトロメータを再起動する前に、スペクトロメータを補正するべくいずれの是正措置がとられてもよい。
【0029】
従って、もしトロイダル状又は不完全なプラズマ形状52が維持され、石英チューブ20が溶融するような場合であっても、プラズマトーチ12は保護され、従って再三にわたって交換する必要はない。
【0030】
別の実施形態において(図示せず)、フォトダイオード70は、リニアーフォトダイオードアレー、又はプラズマのイメージを分析しそして形状変化を決定するようにプログラムされた電子カメラと置き代えてもよい。さらなる実施形態において、正常な形状50からトロイダル状又は不完全なプラズマ形状52へのプラズマの変化は、プラズマのインピーダンスを検出することにより測定してもよい。
【0031】
ある実施形態においてこのことは、高電圧DC供給源41からジェネレータ42に供給される電圧及び電流を測定することにより行なわれている。もしプラズマがトロイダル状又は不完全なプラズマ形状に変化すると、インピーダンス変化がもたらされ、供給源41からRFジェネレータ42に供給される電圧及び電流を測定することにより特定できる。
【0032】
当業者においては、本発明の精神及び範囲を逸脱することなく修正が可能であって、本発明は例を用いて前述した特定の実施形態に限定されるものではないことが理解されるべきである。
【0033】
特許請求の範囲及び前述の説明において、用語“具備する(comprise)”、又は“備えている(comprises)”又は“具備している(comprising)”のような変形は、包括的に使われているものであって、すなわち説明している形態を表現するべく特定するものであり、本発明における種々の実施形態におけるさらなる形態を除外するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】図1は、本発明の実施形態を図示するスペクトロメータである。
【図2】図2は、プラズマを備えたトーチを図示しているもので、プラズマはトロイダル状又は不完全な状態のものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘導結合プラズマトーチにより作られたサンプルを分析するためのスペクトロメータであり、前記プラズマトーチにおいて、正常なプラズマは、ガスを前記プラズマトーチに使用することにより、かつ前記ガスを加熱して正常なプラズマを作るべく誘導コイルを励起することにより作り出されていて、そして前記正常なプラズマはトロイダル状又は不完全なプラズマ形状にくずれかねないスペクトロメータであって:
正常なプラズマからトロイダル状又は不完全なプラズマへのプラズマの変化を検出するための検出器と;
正常なプラズマ形状からトロイダル状又は不完全なプラズマ形状へのプラズマの変化を断定するために、前記検出器から信号を受け取るためのコントロール区画と;を具備しているスペクトロメータにおいて、
前記コントロール区画は、プラズマが前記正常なプラズマ形状からトロイダル状又は不完全なプラズマ形状に変化したことを断定した場合、前記プラズマトーチを停止するようになっている;
スペクトロメータ。
【請求項2】
前記検出器が、前記正常なプラズマの頂部がある位置に向けられた光学式検出器を備えていて、従って、もし前記正常なプラズマがトロイダル状又は不完全なプラズマにくずれると、前記正常なプラズマの前記位置が急速に変化し、そして前記光学式検出器に注がれる光強度が減少し、従って前記光学式検出器により発生される信号が変化するので、コントロール区画は形状の変化が発生したことを認識することができるようになっている、請求項1に記載のスペクトロメータ。
【請求項3】
前記光学式検出器は、トロイダル状又は不安定なプラズマが存在する場合に前記光強度と比較される、正常なプラズマが存在している場合の前記光学式検出器により受け取られる光の割合を増加するためのコリメータ及び/又はレンズを備えている、請求項1に記載のスペクトロメータ。
【請求項4】
光を前記光学式検出器に伝えるために光ファイバ、又は固体の導波管が使用されている、請求項1に記載のスペクトロメータ。
【請求項5】
前記光学式検出器がフォトダイオードである、請求項3に記載のスペクトロメータ。
【請求項6】
前記検出器は、プラズマのイメージを分析しそしてその形状及び位置を測定するために、従ってプラズマがトロイダル状又は不完全なプラズマ形状にくずれたかどうかを断定するために、適切なソフトウェアを備えた電子カメラである、請求項1に記載のスペクトロメータ。
【請求項7】
前記検出器はピクセルアレーである、請求項1に記載のスペクトロメータ。
【請求項8】
前記ピクセルアレーがリニアフォトダイオードアレーであって、前記リニアフォトダイオードアレーはレンズを備えている、請求項7に記載のスペクトロメータ。
【請求項9】
前記誘導コイルは、コイルを作動するために前記コイルに供給される電力を発電するためのジェネレータを含んでいて、前記コントロール区画は、正常プラズマ形状からトロイダル状又は不完全なプラズマ形状への形状変化を断定した場合、前記プラズマトーチを停止するために前記ジェネレータのスイッチを切るようになっている、請求項1に記載のスペクトロメータ。
【請求項10】
前記検出器は、正常プラズマからトロイダルプラズマへの変化を測定するために、プラズマのインピーダンス値を測定するようになっている、請求項1に記載のスペクトロメータ。
【請求項11】
前記インピーダンス値が、ジェネレータに供給されている高電圧DC供給源の電圧及び電流を測定することにより提供されている、請求項10に記載のスペクトロメータ。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2007−530955(P2007−530955A)
【公表日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−505323(P2007−505323)
【出願日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【国際出願番号】PCT/AU2005/000388
【国際公開番号】WO2005/096681
【国際公開日】平成17年10月13日(2005.10.13)
【出願人】(505055653)ジービーシー サイエンティフィック イクイップメント プロプライアタリー リミティド (2)
【Fターム(参考)】