説明

プラズマ処理方法および電極構造ならびにプラズマ処理装置

【課題】電極の作製が容易で安価であり、処理むらが少なく、接着性改善効果が高いプラズマ処理を容易に行うことができるプラズマ処理方法および電極構造ならびにプラズマ処理装置を提供する。
【解決手段】円筒状電極4の内側には、円筒状電極4に相対する面が円筒状電極4の曲率半径以下の曲率半径を有する曲面で形成されている1または2以上のセグメント状の内部側電極22が、円筒状電極4の軸心の周りに配置されており、円筒状電極4と内部側電極22の少なくとも一方の電極を、円筒状電極4の軸心を中心として回転させながら、プラズマを発生させる圧力の所定のガス雰囲気中において両方の電極の間にプラズマを発生させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素樹脂等の親水性に乏しく、難接着性の基材の表面の親水性や接着性の向上を目的とする表面改質処理に関するものであって、フッ素樹脂等をプラズマで表面処理することによって、表面改質を行うプラズマ処理方法およびプラズマ処理装置に用いられる電極構造ならびにプラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、基材表面を処理して、表面に親水性、接着性等を与えるための表面改質法(表面処理方法)として、乾式でクリーンな処理方法であるグロープラズマ処理が知られている。
【0003】
そして、グロープラズマによる表面処理としては、従来、低圧グロープラズマ処理が一般的であったが、低圧グロープラズマ処理の場合は、通常1.3kPa以下の低圧において行うために、実施には大型の真空装置が必要となり、設備費や処理コストが大きくなるという欠点や処理中に熱が発生し易く低融点物質からなる被処理物には適用し難いという欠点があった。
【0004】
このような低圧グロープラズマ処理の欠点を解決する処理方法として、大気圧下においてプラズマ処理を行う大気圧グロープラズマ処理法による処理方法が開発され、中でも、一方の電極を円筒状電極とし、円筒状電極と対極をなす他方の電極(以下対極ともいう)を円筒状電極の軸心に配置する大気圧プラズマ処理方法が提案されている。かかる提案によれば、棒状、管状、繊維状などの軸対称の被処理物の表面を均一にしかも効率よく処理することができるとしている。(特許文献1)
【特許文献1】特開平5−131132号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、プラズマ処理においては、一般的に両方の電極の間に被処理物を配置して処理を行うため、例えば直径が大きな筒状の被処理物を処理するためには直径の大きな円筒状電極を必要とし、前記円筒状電極と、軸心に配置された他方の電極の間の距離が大きくなるため、放電に高電力を要するという欠点があった。
【0006】
上記問題点を解決するために、一方の電極を円筒状電極とし、かかる円筒状電極と対極をなす他方の電極も円筒状電極とする方法(二重円筒状電極方式)が考えられる。かかる考え方によれば、直径が大きい筒状の被処理物であっても、被処理物の内径に合わせて他方の円筒状電極の直径を大きくして両電極の間隔を小さくすることができるため、小さな印加電力が可能であり、かつプラズマをより安定させることができる。
【0007】
一方、プラズマ処理により被処理物の表面全体に亘って均一な表面処理を施すには、電極の表面を極めて平滑に仕上げる必要がある。特に、大気圧プラズマ処理方法においては、電極の表面をセラミックスやガラスなどの高い誘電率を有する固体誘電体からなる層で被覆する必要があるが、電極表面の平滑度が不十分な場合には電極の表面と固体誘電体層との間に空気層が発生し、この空気層の内部で放電が発生するため、電力ロスが発生したり、その発熱のために固体誘電体層が破壊されたりする恐れがある。このため、電極表面のより一層の平滑度が求められる。このため、内側に配置する対極も円筒状電極にしようとすると、加工面積が大きいため、その表面を滑らかに仕上げるには極めて高度な技術と長時間の加工時間を必要とし、電極が高価になる欠点があった。
【0008】
また、円筒状電極の真円度の不足によるグロー放電の不均一や、両方の円筒状電極の軸心がずれている場合には、電極の偏心により両方の電極の間隔が一定でないために全周に亘って均一なプラズマが得られず、処理むらが生じる恐れがあり、このような処理むらを防ぐには、円筒状電極の形状、および2つの円筒状電極の位置決めを極めて精密に行う必要があった。
【0009】
上記の問題点を解決するため、一方の電極を円筒状電極とするプラズマ処理において、電極の作製が容易で安価であり、プラズマ処理の効率を高め、処理むらが少なく接着性改善効果の高いプラズマ処理を容易に行うことができるプラズマ処理方法および電極構造ならびにプラズマ処理装置の開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、鋭意検討の結果、一方の電極を円筒状電極とし、その内側に対極を配置し、両電極の間でプラズマを発生させて被処理物をプラズマ処理するプラズマ処理において、内側に配置した対極を小面積とし、少なくとも一方の電極を前記円筒状電極の軸心を中心として回転させることにより前記問題点を解決できることを見出し本発明に至った。
【0011】
請求項1に記載の発明は、
円筒状電極の内側に配置された被処理物の表面をプラズマ処理するプラズマ処理方法であって、
前記円筒状電極の内側には、前記円筒状電極に相対する面が前記円筒状電極の曲率半径以下の曲率半径を有する曲面で形成されている1または2以上のセグメント状の内部側電極が、前記円筒状電極の軸心の周りに配置されており、
前記円筒状電極と前記内部側電極の少なくとも一方の電極を、前記円筒状電極の軸心を中心として回転させながら、
プラズマを発生させる圧力の所定のガス雰囲気中において両方の電極の間にプラズマを発生させて、被処理物の表面をプラズマ処理することを特徴とするプラズマ処理方法である。
【0012】
本請求項のプラズマ処理方法においては、内部側電極をセグメント状にして小面積にしているが、プラズマを発生させるための2つの電極のうち一方の電極を円筒状電極とし、さらに前記円筒状電極と前記内部側電極の少なくとも一方の電極を前記円筒状電極の軸心を中心として回転させているので、被処理物の全処理面を処理することができる。
ここにおいて、前記円筒状電極の方を回転させる場合には、被処理物も円筒状電極と共に回転させ、他方の内部側電極との間で被処理物のプラズマ処理を行う。
【0013】
また、内部側電極が、円筒状電極に相対する面が円筒状電極の曲率半径以下の曲率半径を有する曲面で形成されているため、プラズマを局所的に集中放電させることが可能となり、プラズマ処理の効率を高めることができる。なお、軸心側の面における形状は特に限定されない。
なお、内部側電極の円筒状電極に相対する面の形状は、1つの曲率半径を有する曲面だけに限定されるものではなく、2つ以上の曲率半径を有する曲面が連続した形状であってもよい。
【0014】
本請求項の発明においては、円筒状電極と対極をなす内部側電極を円筒状電極に比べて面積の小さいセグメント状の電極としているため、電極表面を滑らかにすることに、高度の技術と長時間の加工時間を必要としないため、電極の作製が容易で安価な電極となる。また、表面が平滑な電極を作製し易いため、電極表面に固体誘電体層を設ける過程において空気層の発生も防止し易い。
【0015】
また、前記円筒状電極と内部側電極の間に被処理物を配置し、プラズマを発生させている間、両電極のうち少なくとも一方の電極を回転させているので、被処理面全面に亘って処理条件が同じとなるため、プラズマ処理の効率を高めることができ、処理むらが少なく接着性改善効果の高いプラズマ処理を行うことができる。従って、電極の加工精度が高くなくてもよく、電極が安価であると共に、従来の円筒状電極を用いたプラズマ処理に比べて、プラズマ処理の効率を高め、容易に処理むらの少ないプラズマ処理を行うことができる。
【0016】
本請求項において、内部側電極の長さは、一方の電極が回転したときに被処理物の全処理面にプラズマ放電が生じるために必要な長さがあればよく、特に限定されるものではないが、円筒状電極と同じ長さであれば、円筒状電極の長さ方向の全領域に亘ってプラズマを発生させることができ、内部側電極を交換することなく円筒状電極の長さ方向に長い被処理物も処理できるため、装置の管理や作業時間の短縮などの面から好ましい。また内部側電極の幅および電極の回転数は、特に限定されるものではなく、被処理物の大きさ、プラズマ処理に要する所用時間を考慮して適宜決定することができる。
【0017】
なお、内部側電極の数は、1または2以上であればよく、特に限定されるものではないが、回転軸のぶれを防ぐ観点から、複数の内部側電極を、回転軸を中心として対象の位置に配置することが好ましい。
【0018】
本請求項の発明における所定のガス雰囲気とは、空気を除くガスであってプラズマの生成に適したガスであればよく、特に限定されないが、例えばHe、Ne、Ar、N等の不活性ガスやこれら不活性ガスを主成分とし、被処理物と反応して被処理物の表面に親水性の官能基や水酸基を付与する、COやハロゲンその他のガスを少量混合したガスである。
また、処理中に処理空間内に空気が侵入するのを防止するために、処理空間内を前記所定のガスで周囲の処理空間外(以下、単に「周囲」という)より高く、かつプラズマを発生させる圧力の雰囲気とすることが好ましい。
【0019】
円筒状電極および内部側電極は、金属製導体の表面を固体誘電体層で被覆して構成されている。固体誘電体層を設けることにより、プラズマを発生させる圧力下においてグロー放電を行い、グロープラズマを安定して生成させることができる。金属製導体の材質は特に限定されるものではなく、例えばアルミニウム、銅などが用いられる。固体誘電体層にはセラミックス、ガラス、プラスチックなどを用いることができるが、誘電率の高いセラミックスやガラスが好適である。
【0020】
請求項2に記載の発明は、前記プラズマ処理方法であって、
前記内部側電極が、前記円筒状電極の軸心を中心として回転することを特徴とするプラズマ処理方法である。
【0021】
本請求項の発明においては、内部側電極を回転させるため、回転軸を円筒状電極の内部の軸心に配置し、内部側電極を回転軸に取り付けることによって、内部側電極を最短の支持軸を介して固定することができ、簡単で軽量な構造にすることができる。
【0022】
請求項3に記載の発明は、前記プラズマ処理方法であって、
前記内部側電極は、前記円筒状電極の軸心から同一の距離に位置していることを特徴とするプラズマ処理方法である。
【0023】
本請求項の発明においては、前記内部側電極が、前記円筒状電極の軸心から同一の距離に位置しているため、プラズマの発生が均一となる。
【0024】
請求項4に記載の発明は、前記プラズマ処理方法であって、
前記被処理物が、フッ素樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂より選択された樹脂であることを特徴とするプラズマ処理方法である。
【0025】
本請求項の発明においては、従来被処理物を処理むらの発生防止が困難であったフッ素樹脂の表面改質処理において本発明の効果を顕著に発揮することができる。
本請求項の発明において被処理物であるフッ素樹脂は特に限定されないが、例えば、前記画像形成装置の画像の転写や定着用の多層エンドレスベルトやローラの表層として好適なポリテトラフルオロエチレン(PTFE)やテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)が挙げられる。
また、本請求項の発明におけるフッソ樹脂には、純粋なフッ素樹脂の他、フッ素樹脂に例えば可塑剤やフィラー等の他の物質が添加されたフッ素含有樹脂組成物を含む。
【0026】
また、本請求項の発明は、電子材料に用いられるポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂やポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂においても、その効果を顕著に発揮することができる。即ち、樹脂表面に加速されたプラズマ(イオン)がぶつかることで、印刷時のインキの密着性が向上して、印刷性がよくなる。
【0027】
請求項5に記載の発明は、
プラズマ処理装置に用いられる電極構造であって、
一方の電極が円筒状電極として形成され、
前記円筒状電極の内側には、前記円筒状電極に相対する面が前記円筒状電極の曲率半径以下の曲率半径を有する曲面で形成されている1または2以上のセグメント状の内部側電極が、前記円筒状電極の軸心の周りに配置されており、
前記円筒状電極と前記内部側電極の少なくとも一方の電極は、前記円筒状電極の軸心を中心として回転可能に形成されていることを特徴とする電極構造である。
【0028】
本請求項の発明は、方法の発明である請求項1の発明を、電極構造の面から捉えたものである。
【0029】
本請求項の発明においては、二重円筒状電極式の2つの電極の対向面積に比べて、内部側電極が小さく、円筒状電極と内部側電極の対向面積が小さいために、プラズマを生成させるために必要な印加電力(対向面積と高周波電流密度との関係から導かれる)を小さくでき、処理面積の大きい被処理物のプラズマ処理を行うに際しても、出力の小さい電源装置で対応することができる。
【0030】
請求項6に記載の発明は、前記電極構造であって、
前記内部側電極が、前記円筒状電極の軸心に配置された回転軸から伸びる伸縮自在に構成された内部側電極支持軸で保持されることを特徴とする電極構造である。
【0031】
前記二重円筒式電極を用いたプラズマ処理の場合、例えば外径、内径が様々な大きさの筒状の被処理物を処理しようとする場合、被処理物の外径、内径にあわせて直径の異なる円筒状電極を幾つも用意する必要があったが、本請求項の発明においては、内部側電極の回転軸からの距離が自由に設定できるので、直径の異なる種々の被処理物のプラズマ処理を行うに際して、一組の内部側電極で対応することができる。
【0032】
本請求項の発明において、内部側電極支持軸の長さを伸縮自在にする手段は特に限定されず、例えば内部側電極支持軸を先端側と根元側の2つの部分に分け、根本側を管状にして先端側を根本側の管の中に納まるようにし、内部側電極支持軸の長さが所定の長さになるように、先端側を根本側の管から引き出し後、先端側を根本側に固定する方法が適用できる。
【0033】
請求項7に記載の発明は、前記電極構造であって、
前記内部側電極が、前記円筒状電極の軸心から同一の距離に位置していることを特徴とする電極構造である。
【0034】
本請求項の発明は、方法の発明である請求項3の発明を、電極構造の面から捉えたものである。
【0035】
請求項8に記載の発明は、
請求項5ないし請求項7のいずれかに記載の電極構造、所定のガスを導入、排出する手段および前記電極構造の電極に印加する高周波電源を有していることを特徴とするプラズマ処理装置である。
【0036】
本請求項の発明は、方法の発明である請求項1の発明を、装置の面から捉えたものである。
【0037】
本請求項の発明に係るプラズマ処理装置においては、処理面積の大きい被処理物の処理に際しても出力の小さい電源が適用でき、さらに様々な直径を有する被処理物の処理に際しても、必要な電極の数が少なくて済む。
【発明の効果】
【0038】
本発明により、一方の電極を円筒状電極とするプラズマ処理において、電極の作製が容易で安価であり、プラズマ処理の効率を高め、処理むらが少なく接着性改善効果の高いプラズマ処理を容易に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下、画像形成装置用の転写ベルトを例にとり、本発明を最良の実施の形態に基づいて説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、以下の実施の形態に対して種々の変更を加えることが可能である。
【0040】
(イ)表層の形成
第1に、本実施の形態においてプラズマ処理を施す対象物である画像形成装置用転写ベルトの表層の形成について説明する。
図1は、本実施の形態に係る転写ベルトの表層3の形成方法を概念的に示す図である。
図1において、4は円筒状電極である。円筒状電極4は、内径は169.2mmであり、長さが500mmであって、所定の厚さのステンレス製の電極である。円筒状電極4の内周面に三井デュポンフロロケミカル社製のPFAディスパージョン(PFAグレード950HP)を所定量塗布した後、400℃で焼成し円筒状電極4の内面上に、長さ470mm、厚さ8μmの表層3を形成する。
【0041】
(ロ)表層のプラズマ処理
第2に、前記表層のプラズマ処理について説明する。
本発明においては、円筒状電極の内側にセグメント状の内部側電極を配置し、内部側電極を前記円筒状電極の軸心を中心にして回転させながら両電極の間の空間にグロープラズマを発生させ、円筒状空間の内周面に形成した表層のプラズマ処理を行う。本発明によれば、処理むらを低減し、接着性改善効果を高めることができる。以下に、本発明におけるプラズマ処理装置とその電極構造およびプラズマ処理方法について説明する。
【0042】
(ハ)実施の形態
a.プラズマ処理装置
図に基づいて、本実施の形態におけるプラズマを発生させるためのプラズマ処理装置について説明する。
図2と図3は、本実施の形態に係る表層3のプラズマ処理を行う様子を概念的に示す図である。図2は、正面から見た図である。図3は、A−A’で示す箇所を矢視したときの形状を概念的に示す図である。
図2において13は、円筒状の容器および蓋からなる第2の耐圧容器12によって囲まれたプラズマ処理室である。
【0043】
第2の耐圧容器12の蓋には、所定のガスをプラズマ処理室13に供給するための給気管14とプラズマ処理室13のガスを排除して真空にするための真空排気管18が取り付けられ、給気管14と真空排気管18には、それぞれ弁15、弁19が取り付けられている。また、第2の耐圧容器12の壁には、プラズマ処理室13内のガスを外へ放出するための排気管16が取り付けられ、排気管16には、弁17が取り付けられている。給気管14は、所定のガス(Heガス)用の高圧ボンベ(図示せず)に接続され、真空排気管18は、第2の真空ポンプ21に接続されている。
プラズマ処理室13の内部には、グロープラズマ発生用の円筒状電極4と内部側電極22が配置されている。
さらに、プラズマ処理室の外には、円筒状電極4と内部側電極22の間に高周波電力を印加するための高周波電力電源20および、内部側電極22を円筒状電極4の軸心を中心として回転させるための変速機付モーター25が配置されている。
【0044】
b.電極構造
次に、本実施の形態に係るプラズマ処理装置の電極を、図に基づいて説明する。図2、図3において、22はセグメント状の内部側電極であり、内部側電極22は、図2に示すように、円筒状電極4と同じ長さを有し、金属製の回転軸24に接合された金属製の内部側電極支持軸23に保持され、内部側電極22と回転軸24は導通状態にある。
図3に示すように、上から見ると、内部側電極22は、円筒状電極4と相対する面の曲率半径が80mmの円弧をなした4個のセグメント状の電極で構成されている。回転軸24は、円筒状電極4の軸心に配置され、内部側電極支持軸23の方向Aと方向Bのなす角度は90°である。
【0045】
内部側電極支持軸23は、長さが伸縮自在であり、内部側電極22と回転軸24との間の距離が方向Aと方向Bともに等しい長さに調整され、4個のセグメント状の内部側電極22は、円筒状電極4の軸心から等距離の位置に配置されている。なお、円筒状電極4と内部側電極22との距離dは、5mmに設定されている。
図4は、セグメント状の内部側電極22の拡大図である。内部側電極22は、厚さ3mmのアルミニウム製の円弧状電極221およびその表面を厚さ3mmのガラスで被覆した固体誘電体222で構成されている。なお、内部側電極22の回転軸24は変速機付のモーター25に接続され、さらに高周波電力電源20の一方の電極に接続されている。
【0046】
c.プラズマ処理
内部側電極22を円筒状電極4の軸心に配置した回転軸を中心として回転させながら、プラズマを発生させる圧力の所定のガス(Heガス)雰囲気下で両電極間に高周波電力を印加して、両電極の間の空間p(以下プラズマ発生領域ともいう)にグロープラズマを発生させ、同空間に配置した表層3のプラズマ処理を行う。本実施の形態によれば、前記内部側電極を、円筒状電極の軸心の回りを回転させるため、小面積の内部側電極でも筒状の被処理物の処理面の全体を処理することができる。以下に具体的に本実施の形態を説明する。
【0047】
前記弁15、弁17を閉とし、弁19を開にして第2の真空ポンプ21を作動させ、プラズマ処理室13内の空気を、第一計器製作所製のHNT−221A型圧力ゲージ(圧力レンジ:大気圧を中心にして、−0.1MPa〜0.1MPa)(図示せず)が−0.1MPaを指すまで排除する。次いで、弁19を閉とし、弁15を開にして給気管14からプラズマ処理室13に所定のガス(Heガス)を10l/分の流量で、プラズマ処理室の圧力がプラズマを発生させる所定の圧力(大気圧)になるまで供給する。プラズマ処理室13の圧力が周プラズマを発生させる所定の圧力(大気圧)に達したことを確認した後は、弁15より所定のガス(Heガス)を供給しながら、弁17をわずかに開にし、プラズマ処理室13内のガスを外に排出できるようにする。即ち、プラズマ処理室の圧力がプラズマを発生させる所定の圧力(大気圧)を維持するように、弁17の開き具合を調整する。
【0048】
次いで、内部側電極22を、回転軸24の周囲を10rpmの速さで回転させながら円筒状電極4と内部側電極22の間に出力500W、電圧35kV、周波数30kHzの高周波電力を30秒間印加し、両電極間の空間にグロープラズマを発生させて表層3のプラズマ処理を行う。
【0049】
本実施の形態においては、セグメント状の内部側電極を用い、内部電極の軸心を中心にして回転させることにより、表層の被処理面の前面に亘って同一の条件でプラズマ処理を行うことができるために、面内バラツキを低減することができ、それに伴って接着性改善効果も高めることができる。
【0050】
上記実施の形態においては、安価に電極を作製することができる。
さらに、小さな電力でプラズマ処理を実施できる。
【0051】
(ニ)転写ベルトの作製
次に、前記実施の形態において作製される表層を適用して転写ベルトを作製する。
a.転写ベルトの構成
先ず、本実施の形態に係る転写ベルトの構成について説明する。
転写ベルトは、主に機械的強度を担うベース層、ベルトに弾性を付与するための中間層、転写機能を担う表層の3層で構成される。
図5は、本実施の形態に係る画像形成装置用の転写ベルトの構成を概念的に示す図であって、転写ベルトの断面の一部を拡大した図である。図5において、1はポリイミド樹脂を基材とするベース層であり、2は水性ウレタンを基材とするエラストマーからなる中間層であり、3は離トナー性に優れたフッ素樹脂からなる表層であり、隣り合う層と層は接着されている。本発明に係る転写ベルトにおいては、表層3と中間層2とが接着層を介さずに、直に接着されている。
なお、各層の厚さは、ベース層が60μm、中間層が200μm、表層が8μmである。
【0052】
b.転写ベルトの作製手順
次に、本実施の形態に係る転写ベルトの作製手順について説明する。
本実施の形態においては、前記ベース層1と中間層2を積層させた積層体を形成し、内周面にプラズマ処理を施した表層3に嵌合させて両者を押圧することにより中間層2と表層3を接着させて転写ベルトとする。
【0053】
以下に、転写ベルトを構成する各層の形成について説明する。
c.ベース層と中間層を積層させた積層体の形成
ドラム状金型を回転させながら、その外側に所定量のポリイミドワニスを塗布し、その後金型を加熱してイミド化反応を行い、ドラム状金型の周囲に、厚みが60μmのポリイミド樹脂からなる筒状のベース層1を形成する。
次に、ベース層1を一旦ドラム状金型から外し、別のドラム状金型の外周面に嵌合させる。
別途、水性ウレタンに増粘剤を加え約10Pa・sの粘度とし、さらに脱泡を行ったウレタン溶液を用意し、前記ベース層1の表面上に所定量塗布する。塗布後、常温にて水分を乾燥させ、さらに160℃でアニールを行い、ベース層1の表面上に厚み200μmのポリウレタンからなる中間層2を形成し、筒状の積層体とする。
図6は、ドラム状金型5の外周面にベース層1、中間層2からなる積層体を形成した様子を概念的に示す図である。
【0054】
次いで、積層体と表層の接着について説明する。
d.積層体と表層の接着
ここでは、前記積層体を表層3に嵌合させて両者を押圧することにより積層体の中間層2と表層3を接着する具体的な方法について説明する。
図7は、前記積層体と表層3を押圧することにより中間層2と表層3を接着する接着工程を概念的に示す図である。
図7において、6は一種の流体容器であって、シリコンゴム製の膜からなる、両端部が閉じられた中空円筒状の容器(以下、「ウォーターバック」という)である。前記筒状の積層体をドラム状金型5からとり外し、ウォーターバック6の外周に嵌め込む。
【0055】
積層体を嵌め込んだウォーターバック6を、内周面に表層3が形成された円筒状電極4の内側に挿入し、ウォーターバック6および円筒状電極4を第1の耐圧容器8によって囲まれた真空室7の内部に設置する。次いで、ポンプ9を作動させてウォーターバック6の内部に流体を圧入してウォーターバックの圧力を0.5MPaにまで上昇させると同時に第1の真空ポンプ10を作動させて真空室7を真空にする。
【0056】
内圧で膨らんだウォーターバック6の胴部と円筒状電極4の内面により、ウォーターバック6の外周にある積層体と、円筒状電極4の内周にある表層3とは、相互に押圧されている。ウォーターバック6は、シリコンゴム製の膜であるため、全体が均一に樹脂層を円筒状電極4の内側面に押圧することとなる。また、この際真空室7の内部が真空になっているため、一層効果的に押圧されることとなる。その結果、中間層2と表層3とが強固に接着される。ただし、前記のように、本実施の形態においては、押圧に先だって表層3の内周面にプラズマ処理を施す。
このようにして、ベース層1、中間層2、表面層3の3層からなる転写ベルトを得る。
【0057】
本実施の形態に基づくことにより、転写機能に優れ、かつ耐久性も優れた転写ベルトが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】転写用ベルトの表層の形成工程を概念的に示す図である。
【図2】本発明の実施の形態に係るプラズマ処理を正面から見た概念図である。
【図3】本発明の実施の形態に係るプラズマ処理を上側から見た概念図である。
【図4】実施の形態に係るプラズマ処理に用いる内部側電極を上側から見た概念図である。
【図5】転写用ベルトの一部拡大断面図である。
【図6】転写用ベルトの積層体の形成工程を概念的に示す図である。
【図7】転写用ベルトの表層と積層体の接着工程を概念的に示す図である。
【符号の説明】
【0059】
1 ベース層
2 中間層
3 表層
4 円筒状電極
5 ドラム状金型
6 ウォーターバック
7 真空室
8 第1の耐圧容器
10 第1の真空ポンプ
11 第2の円筒状電極
12 第2の耐圧容器
13 プラズマ処理室
14 給気管
16 排気管
18 真空排気管
20 高周波電力電源
21 第2の真空ポンプ
22 内部側電極
23 内部側電極支持軸
24 回転軸
25 モーター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状電極の内側に配置された被処理物の表面をプラズマ処理するプラズマ処理方法であって、
前記円筒状電極の内側には、前記円筒状電極に相対する面が前記円筒状電極の曲率半径以下の曲率半径を有する曲面で形成されている1または2以上のセグメント状の内部側電極が、前記円筒状電極の軸心の周りに配置されており、
前記円筒状電極と前記内部側電極の少なくとも一方の電極を、前記円筒状電極の軸心を中心として回転させながら、
プラズマを発生させる圧力の所定のガス雰囲気中において両方の電極の間にプラズマを発生させて、被処理物の表面をプラズマ処理することを特徴とするプラズマ処理方法。
【請求項2】
前記内部側電極が、前記円筒状電極の軸心を中心として回転することを特徴とする請求項1に記載のプラズマ処理方法。
【請求項3】
前記内部側電極は、前記円筒状電極の軸心から同一の距離に位置していることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のプラズマ処理方法。
【請求項4】
前記被処理物が、フッ素樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂より選択された樹脂であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のプラズマ処理方法。
【請求項5】
プラズマ処理装置に用いられる電極構造であって、
一方の電極が円筒状電極として形成され、
前記円筒状電極の内側には、前記円筒状電極に相対する面が前記円筒状電極の曲率半径以下の曲率半径を有する曲面で形成されている1または2以上のセグメント状の内部側電極が、前記円筒状電極の軸心の周りに配置されており、
前記円筒状電極と前記内部側電極の少なくとも一方の電極は、前記円筒状電極の軸心を中心として回転可能に形成されていることを特徴とする電極構造。
【請求項6】
前記内部側電極が、前記円筒状電極の軸心に配置された回転軸から伸びる伸縮自在に構成された内部側電極支持軸で保持されることを特徴とする請求項5に記載の電極構造。
【請求項7】
前記内部側電極が、前記円筒状電極の軸心から同一の距離に位置していることを特徴とする請求項5または請求項6に記載の電極構造。
【請求項8】
請求項5ないし請求項7のいずれかに記載の電極構造、所定のガスを導入、排出する手段および前記電極構造の電極に印加する高周波電源を有していることを特徴とするプラズマ処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−204798(P2008−204798A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−39443(P2007−39443)
【出願日】平成19年2月20日(2007.2.20)
【出願人】(599109906)住友電工ファインポリマー株式会社 (203)
【出願人】(502303164)株式会社イー・スクエア (10)
【Fターム(参考)】