説明

プラズマ活性化シリコンオキシカーバイドタイプのプライマー層を含む疎水性基材

本発明は、好ましくはガラス、セラミック、又はガラスセラミック材料からなる基材上に疎水性コーティングを得るための方法であって、以下のステップを含むことを特徴とする方法に関する:a)シリコンオキシカーバイドSiOxyから本質的になる第1のプライマー層を前記基材に適用することからなり、前記プライマーが、4nmを超えるRMS表面粗度を有する第1の成膜ステップ;b)Ar若しくはHe希ガス、N2、O2、若しくはH2Oの中から選択されるガスのプラズマにより、又は前記ガスの混合物のプラズマにより、前記プライマー層SiOxyを活性化するステップ;c)前記第1のプライマー層上に、少なくとも1つのフッ素化化合物、好ましくはフッ素化アルキルシランを含む疎水性コーティングを成膜する第2のステップ。本発明は、上記で定義されたような基材を含むか又はからなる疎水性窓ガラスにも関し、前記窓ガラスは、特に輸送車両又は建物用の窓ガラスとして使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材、特にガラス材料、セラミック、ガラスセラミック等からなる基材の疎水処理に関する。
【0002】
本発明による基材は、好ましくは窓ガラスである。それらは、特に、航空機分野、鉄道分野、又は自動車分野で使用される。それらは、建物分野又は室内装飾分野、例えば、装飾パネル、家具、家庭用電気器具(冷蔵庫ドア、オーブン扉、展示ケース)等に使用することもできる。
【背景技術】
【0003】
公知のように、このタイプの処理の目的は、基材に非湿潤性又は耐雨性特徴を付与することである。
【0004】
用語「湿潤性」は、それにより極性液体又は非極性液体が基材に付着して、望ましくない薄膜を形成する特性を指し、基材が、あらゆる種類の埃又は汚れ、指紋、昆虫等を保持する傾向も指す。
【0005】
汚れを含んでいることの多い水が存在することは、窓ガラスタイプの透明基材、特に輸送分野で使用されるものの場合、特に問題である。基材の非湿潤特性は、通常、疎水性と呼ばれ、親水性液体とこの基材との接触角が高いほど大きく、例えば水の場合は、少なくとも90°である。その後、液体は、基材を傾ける場合には単に重力により、又は動いている乗り物の場合には空気力学的な力の効果により、液滴の形態で基材から容易に流れ落ちる傾向がある。
【0006】
このタイプの製品の場合、本発明の疎水性コーティングを基材、特にガラス基材に組み込む有益性は、2つある。第1には、本発明の疎水性コーティングをガラス基材に組み込むことは、水液滴が、例えば動いている乗り物の場合には特に空気力学的な力の効果により、垂直表面又は傾斜表面から流れ落ちることを可能にする。第2には、基材から流れ落ちるこれら液滴は汚れを含んでおり、汚れを運び去る。窓ガラスを通した視界は、ある場合には、クリーニングデバイス(フロントガラス洗浄液、フロントガラスワイパー)を不要にすることが可能である程度に向上する。
【0007】
窓ガラス(基材)上のコーティング層の形態で使用することができる、この疎水特性を付与することが知られている作用剤は、例えば、欧州特許出願第0 492 417号明細書、欧州特許出願第0 492 545号明細書、及び欧州特許出願第0 672 779号明細書、又は国際公開第2007/012779号パンフレットに記述されたもの等のフルオロアルキルシランである。これら文献によると、この層は、水性又は非水性溶媒中にフルオロオルガノシランを含有する溶液を、基材の表面に適用することにより得ることができる。
【0008】
一般的に使用される疎水剤は、例えば、アルキルシラン、少なくとも1つのパーフルオロ化末端基、つまりnが正の整数又はゼロであるF3C−(CF2n-基からなるものを有するアルキル基である。
【0009】
本発明の分野で最も明らかに生じる問題の1つは、第1には、疎水性コーティングの摩耗の問題である。この摩耗は、特に透明基材を通して良好な視界を回復するために定期的に必要である基材クリーニング操作を行う間に、多かれ少なかれ生じる。従って、前述したタイプの疎水性コーティングが徐々に除去されること、これは、自動車フロントガラスの場合は、特にフロントガラスワイパーの作動下で生じるが、それを最小限に抑えることが長らく求められている。更に及びそれに加えて、そのような除去は、紫外線放射による分解により生じる場合がある。
【0010】
例えば、コーティングが適用される前に、基材にプライム処理を施すことにより、疎水性コーティングの付着を増加させることは、前述の欧州特許出願公開第0 492 545号A2明細書から公知である。この処理は、通常少なくとも2つの加水分解性官能基を有するシリコン化合物であるプライム剤又はプライマーと呼ばれるものを使用して、薄い中間層を形成することにある。周知の通り、1つの加水分解性官能基は、シリコン原子に結合された酸素原子により基材と化学結合することを可能にし、第2の加水分解性官能基は、疎水剤の結合を可能にする。従って、シリカ(SiO2)プライマー層を得るためには、公知のプライム剤前駆物質が最も多く使用される。プライム剤としては、欧州特許出願公開第0 492 545号A2明細書において、特に化合物SiCl4、SiHC13、SiH2Cl2、及びnが1〜4の整数であるCl(SiCl2O)nSiCl3が言及されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、そのような下地層は、大部分のUV仕様に適合する性能レベルを得ることが可能であるが、特に自動車メーカーが現在課している規格によると、機械強度、より詳しくは耐摩耗性の点で依然として不十分のままである。更に、一般的には、そのような下地層は、典型的には、特に屋外で使用するための加水分解耐性要求を満たすことを可能にする十分な化学的不活性を有していない。
【0012】
特に、出願人により実施された試験は、ほとんどの場合、そのようなコーティングが、例えば、耐摩耗性の場合は、Opel(登録商標)又はToyota(登録商標)試験により、及び加水分解耐性の場合は、標準的NF ISO 9227によるNSF(中性塩水噴霧)耐性試験により測定したところ、自動車メーカーが課す仕様を容易には満たすことができないことを実証した。
【0013】
例えば、欧州特許出願第944 687号明細書及び欧州特許出願第1 102 825号明細書に記述されたコーティングは、そのUV耐性及び機械強度性能は十分であると考えられるが、NSF試験により測定すると、わずかな塩耐食性を有するに過ぎない。この不十分性により、特にこの分野で規格が最も厳格であるアジア市場において、前記コーティングの開発が制限される場合がある。
【0014】
疎水性コーティングの機械強度特性を更に向上させるために、フッ素含有反応性プラズマ、例えば、SiO2層のエッチングを可能にする条件下で随意に酸素と混合されたSF6又はC26に基づくプラズマによりSiO2プライマー層を活性化することは、国際公開第2005/084943号パンフレットで既に提案されている。この応用では、特に、そのようなエッチングが、パーフルオロ末端化アルキルシランの成膜後に得られる疎水性基材の耐摩耗性を、その加水分解性能を悪化させずに、実質的に向上させることが述べられている。
【0015】
従って、本発明の主な目的は、疎水性コーティングでコーティングされた基材及びそれらを得るためのプロセスであり、それらの特性は向上されている。より詳しくは、本発明による疎水性基材は、現時点で知られているコーティングの性能に関してこれまで決して観察されていない、耐摩耗性性能を向上させたコーティングを備えている。更に、本発明の別の態様によると、本発明による疎水性基材は、特に高い加水分解耐性を有する。
【0016】
典型的には、そのような性能は、基材が、自動車産業又は航空機産業により現在課されている仕様を、耐摩耗性、UV耐性、及び塩耐食性の両方の点で満たすことを可能にする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
この目的のため、第1の態様によると、本発明の1つの目的は、好ましくはガラス材料、セラミック、又はガラスセラミックからなる基材上に疎水性コーティングを得るためのプロセスであり、前記プロセスは、以下のステップを含むことを特徴とする:
a)シリコンオキシカーバイドSiOxy(本明細書では、SiOCという形態に単純化されることが多い)タイプの、つまり本質的に又は排他的にSiOXyからなるプライマー第1の層を、前記基材に適用することにあり、前記プライマー層が4nmを超えるRMS表面粗度を有する第1の成膜ステップ、
b)前記SiOxyプライマー層が、Ar、Heタイプの希ガス、N2、O2、若しくはH2Oガスから選択されるガスのプラズマにより、又はこれらガスの少なくとも2つの混合物のプラズマにより、好ましくはその表面粗度を改変しないか又は実質的に改変しない条件下で活性化される活性化ステップ、及び
c)典型的には少なくとも1つのフルオロ化合物、好ましくはフルオロアルキルシランを含む疎水性コーティングが、前記第1の層上に成膜される第2の成膜ステップ。
【0018】
本発明を実施する好ましい方法によると、前記SiOxyプライマー層を活性化するステップは、H2Oと、Ar、He、及びN2から選択される少なくとも1つのガスとを含有するガス混合物のプラズマにより実施され、該混合物中のH2Oの容量パーセントは、好ましくは約3%以下である。
【0019】
典型的には、SiOxyプライマー層は、4〜15nm、特に6〜15nmのRMS表面粗度を得ることが可能な条件下で、熱CVD(化学蒸着法)により成膜される。
【0020】
1つのとり得る実施方法によると、疎水性コーティングを成膜するステップは、下記式のパーフルオロアルキルシランから得られる溶液を使用して実施される:
3C−(CF2m−(CH2n−Si(X)3-P(R)P
式中、
・m=0〜15、好ましくは5〜9であり、
・n=1〜5、好ましくはn=2であり、
・p=0、1、又は2、好ましくは0又は1、非常に好ましくは0であり、
・Rは、アルキル基又は水素原子であり、
・Xは、ハロゲン化物基又はアルコキシ基等の加水分解性基である。
【0021】
別のとり得る実施方法によると、疎水性コーティングを成膜するステップは、パーフルオロポリエーテルシランタイプのパーフルオロアルキルシランから得られる溶液を使用して実施される。本発明のある好ましい実施形態は、上述したプロセスの3つの主なステップに関して、下記でより詳しく記述される:
【発明を実施するための形態】
【0022】
1)CVD蒸着条件、及びSiOC層、特にその粗度の特徴付け:
本発明によるプライマー層は、式SiOxyを満たす(本明細書では便宜的に、実際の酸素及び炭素含量に予断をはさまず、式SiOCとも称する)。従って、プライマー層は、有利には、Si、O、C、及び随意に少量の窒素を含む。また、プライマー層は、シリコンより少量の元素、例えばAl、Zn、又はZr等の金属を含んでいてもよい。このコーティングは、特に熱分解により、特に気相熱分解(つまり、CVD)により成膜することができる。後者の技術は、ガラス基材の場合、特にフロートガラスリボン上に直接成膜させるか又はその後に成膜させるかのいずれかにより、薄いSiOC薄膜を非常に容易に得ることを可能にする。使用されるシリコン前駆物質は、SiH4タイプのシラン又はRSiX3タイプのオルガノシランの形態をとっていてもよく、式中Xは塩素タイプのハロゲン化物であり、Rはアルキルである(直鎖又は分岐のいずれでもよい)。使用されるシリコン前駆物質は、R及びXについて同じ規則を有するRySiX4-yタイプのオルガノシラン、又はエトキシシランのファミリーに属する化合物であってもよい。他のガス/前駆物質には、エチレン及び酸化剤(O2、H2O、H22、CO2等)等のシリコン前駆物質(複数可)を加えることができる。
【0023】
本発明によるSiOCプライマー層は、好ましくは、少なくとも10nm、特に10〜200nm、例えば30〜120nmの厚さを有する。
【0024】
本発明によると、蒸着、特にCVDの条件は、SiOCプライマー層が、特定の粗度を有するように調整される。特に、前記粗度は、ナノスケールの突起及び/又は窪み等の、特にバンプ形状での、プライマー層の表面上の不規則形状をとっていてもよい。
【0025】
より詳しくは、それらは、少なくとも部分的に不連続な不規則性であってもよく、SiOCプライマー層の外部面は、本発明によると、比較的滑らかなプロファイルを有し、そこから突起が、特にバンプ形状で出現し、該突起は重複又は連続してもよいが、少なくともその幾つかは隔てられていることが有利である。本発明によると、そのような表面構造化は、熱分解CVDプロセス中に、特にSiOC層蒸着パラメーターを変えることにより、特に酸化ガス/SiH4比率及びエチレン/SiH4比率を変えることにより達成することができる。本発明によると、酸化ガス/SiH4比率は、好ましくは約3〜約70であり、エチレン/SiH4比率は、約0.9〜約6である。
【0026】
本発明によると、これらの不規則性は大きさが異なっており、例えば直径分布は5〜300nm、特に50〜100nmである。用語「直径」は、本明細書では広い意味で理解されており、これらの不規則性は、中実半球(突起)又は中空半球(窪み)に喩えられる。言うまでもないが、これは平均サイズであり、より無作為な形状、例えばより細長い形状の突起/窪みを含む。また、これらの不規則性は、5〜100nm、特に40〜60nm、又は更に10〜50nmの高さ(突起の場合)又は深さ(窪みの場合)を有していてもよい。これらは、評価される各突起/窪みのサイズの最大値を示す。これら寸法を測定する1つの方法は、例えば、基材の1単位面積当たりのこれらの不規則性の分布を明らかにすることによるSEM(走査型電子顕微鏡)画像に基づく測定からなる場合がある。従って、この第1のコーティングは、コーティングされた基材の1μm2当たり少なくとも10個の、特にコーティングされた基材の1μm2当たり少なくとも20個の突起/窪みを有していてもよい。
【0027】
典型的には、nmで表された表面不規則性のRMS粗度は、4mmを超える。好ましくは、この粗度は、30nm未満、又は25未満、又は20nm未満でさえある。好ましくは、この粗度は、5nmを超えるか、又は6nmをさえ超える。特に、この第1の層は、4〜15nmのRMS粗度を有していてもよい。
【0028】
2)活性化プラズマ条件:
本発明によると、プライマー層は、プラズマ形態の活性化ガスにより処理される。このステップは、種々の真空チャンバー又は大気圧チャンバーで実施することができる。例えば、平行板RF反応器を使用することが可能である。この処理は、この層の化学的改変をもたらすが、この層の形態構造は、ほとんど又は全く変更を受けない。使用されるガスは、N2、O2、若しくはH2O、又はこれらガスの混合物から選択され、特に室温で脱イオン水を含有する通気器を通った窒素流で通気することにより得られるN2/H2O混合物である。使用されるN2/H2O混合物は、3容積%までの水を含有しており、使用圧力は75〜300mtorrに制御され、出力は150〜5000Wであり、活性化時間は、好ましくは約1分〜約15分間、典型的には5〜10分間である。
【0029】
3)疎水性層成膜条件:
本発明によると、フルオロアルキルシランを含む疎水性層は、現時点で公知である任意の技術により成膜することができ、選択した成膜技術を本発明の目的において好ましい技術であるとはみなさない。
【0030】
特に、疎水性層は、これらに限定されないが、前述の文献に記述されているような、当分野で周知のワイプオン技術により、又はそうでなければ大気圧若しくは真空プラズマ成膜技術により成膜することができる。
【0031】
本発明はまた、上記の実施形態の1つによるプロセスを実施することにより得ることができる疎水性コーティングを備えるガラス、セラミック、又はガラスセラミック基材であって、
・SiOxyタイプのプライマー層、すなわち、本質的に又は排他的にシリコンオキシカーバイドからなり、その表面が、4nmを超えるRMS表面粗度を有し、Ar、Heタイプの希ガス、N2、O2、若しくはH2Oガスから選択されるガスのプラズマで、又はこれらガスの少なくとも2つの混合物のプラズマにより、好ましくは表面粗度を改変しないか又は実質的には改変しない条件下で、処理されることにより活性化されている、SiOxyタイプのプライマー層、及び
・フルオロ化合物、好ましくはフルオロアルキルシラン、特に疎水性のパーフルオロ末端化アルキルシランを含む、前記プライマー層上の疎水性コーティング層、
を含む、疎水性コーティングを備えるガラス、セラミック、又はガラスセラミック基材に関する。
【0032】
好ましくは、基材は、前記SiOxyプライマー層が、H2Oと、Ar、He、又はN2から選択される少なくとも1つのガスとを含有するガス混合物のプラズマにより活性化され、混合物中のH2Oの容量パーセントが好ましくは3%未満である活性化ステップを実施することにより得られる。
【0033】
例えば、SiOxyプライマー層の厚さは、10〜200nmである。
【0034】
典型的には、SiOxyプライマー層のRMS粗度は、30nm未満、又は25、又はさらには20nm未満である。好ましくは、この粗度は、5nmを超えるか、又はさらには6nmを超える。典型的には、この粗度は、4〜15nm、特に6〜15nmである。一般的に、SiOxyプライマー層のRMS粗度は、突起及び/又は窪み等の、特にバンプ形状での、プライマー層の表面の不規則性により形成され、その高さは5〜100nmであり、その数は、コーティングされた基材の1μm2当たり少なくとも10個である。
【0035】
本発明によるガラス基材では、前記パーフルオロ末端化アルキルシランは、下記一般式により表されるタイプの基を含んでいてもよい:
3C−(CF2m−(CH2n−Si
式中、
・m=0〜15、好ましくは5〜9であり、
・n=1〜5、好ましくはn=2である。
【0036】
代替的な実施形態によると、前記パーフルオロ末端化アルキルシランは、下記一般式により表されるタイプであってもよく:
【化1】

又は下記一般式:
【化2】

により表されるタイプであってもよいパーフルオロポリエーテルタイプの基を含み、
式中、
・m=2〜30であり、
・n=1〜3、好ましくはn=1である。
【0037】
典型的には、プライマー層上の疎水性コーティング層の厚さは、1〜10nm、好ましくは1〜5nmである。
【0038】
本発明は、上述されているガラス基材により形成されているか又はそれが組み込まれている強化ガラス、合わせガラス、又は複層ガラス、及び輸送車両又は建物用の窓ガラスとしての前記ガラス基材の使用にも関する。
【0039】
以下の点が指摘されるべきである:
・用語「強化ガラス」は、単一のガラスシートからなる窓ガラスを意味すると理解され、
・用語「合わせガラス」は、共に結合された幾つかのシート、例えば、ポリビニルブチラール、ポリウレタン等で作られた接着層により共に固定化されたガラス又はプラスチックシートの積み重ねを意味すると理解され、
・用語「複層ガラス」は、別々のシート、すなわち、特に空気層により互いに隔てられたシートの組立体を意味すると理解される。
【0040】
本発明による疎水性基材の場合、以下の用途を特に言及することができるが、以下の一覧は網羅的ではない:
・輸送車両用(自動車サイドウインドウ、航空機又は自動車のフロントガラス)又は建物用の窓ガラス用、
・ガラスセラミックホブ又はオーブン扉用、
・自治体用建具部材用、特に屋根付バス待合所用部材用、及び
・家具用部材用、特に鏡、保管棚、冷蔵庫等の家庭用電化製品用の棚、シャワー戸棚用部材、又は衝立用、及び
・画面、特にテレビ画面、タッチセンサー式画面、プラズマス画面用。
【0041】
以下の実施例は、本発明を例示する役割を果たすが、本発明の範囲は、記述されている態様のいずれによっても限定されない。これらの実施例では、特に断りがない限り、パーセントは全て重量で示されている。
【実施例】
【0042】
以下の実施例において報告されているように、幾つかは本発明によるものであり、他は純粋に比較用である種々の試験片を、本発明の実施により得られる技術的な効果及び利点を特徴付けるために準備した。
【0043】
全ての実施例では、下述されている同じ実験手順に従った(下記の表1及び2の星印によりに示されているものを除く):
【0044】
a)SiOCプライマー層を備えるガラス基材の調製:
まず、シリコンオキシカーバイド(SiOC)プライマー層を、基準SGG Planilux(登録商標)の名称でSaint−Gobain Glass France社から販売されている厚さが4mmのガラス基材に、熱CVDにより成膜した。
【0045】
SiH4、エチレン、及びCO2の混合物を窒素キャリアガスで希釈した形態の前駆物質であって、容積%でそれぞれ以下の割合:0.41/2.74/6.85/90.1の前駆物質を使用し、事前に約600℃の温度に加熱されていたガラスの上方で横方向に設置されたノズルを用いて、CVDにより、シリコンオキシカーバイドを第1の一連の試験片上に成膜した。
【0046】
得られたSiOC層は、約60nmの厚さを有しており、中実半球形状のバンプ形状を含む構造を有していることを、SEM分析により明らかした。これら突起は、最大高さが約40nmであり、表面密度が1μm2当たり180個であった。このSiOC層のAFM(原子間力顕微鏡法)により特徴付けられたRMS粗度は、約9nmだった。
【0047】
SiO2下地層を、同じCVD技術によるか、国際公開第2005/084943号パンフレットの実施例2−IVに記述されている実験手順によるマグネトロン成膜技術によるか、又はそうでなければ欧州特許第799 873号B1明細書の教示によるゾルゲル成膜法によるいずれかの方法で、第2の一連の試験片上に成膜した。
【0048】
次いで、ステップa)の後で得られた下地層の幾つかを、PECVD反応器中、室温、真空下で種々のプラズマにより活性化した(下記の表1を参照)。
【0049】
b)プラズマ活性化:
次いで、シリコンオキシカーバイド層(第1の一連の試験片)又はシリカ層(第2の一連の試験片)を備えた、ステップa)で調製された基材の幾つかを、種々のプラズマにより活性化した。
【0050】
そのために、プライマー層を備える基材を、低圧PECVD(プラズマ強化化学蒸着)反応器のチャンバーに配置した。活性化ガスを導入する前に、まず、少なくとも5mPa(5.10-5mbar)の残余真空をチャンバー中に作り出した。シリコンオキシカーバイド又はシリカの表面処理に使用されるガス又はガス混合を、反応器中の総圧力が9.99〜26.66Pa(75〜200mTorr)に設定されるまで、20sccm〜200sccmの間で変動する流速でチャンバーに導入した。
【0051】
平衡状態で、導入されたガスのプラズマを、室温で1〜5分間の範囲の時間、200Wの平均高周波(13.56MHz)出力を用いてガス拡散器にバイアスをかけることにより電気的に点火した。
【0052】
c)フルオロシランの適用:
次いで、ステップb)の後(又はステップaの後で活性化せずに)、パーフルオロデシルトリエトキシシラン溶液を、プライマーでコーティングした基材上に、布で基材をワイプすることにより成膜した。この実施例では、種々の層を、物質又はその前駆物質が、それで浸漬した布により成膜されるこの周知の技術により成膜した。しかしながら、無論、当分野においてこの目的のために公知である任意の他の技術により、特に層の厚さのより良好な制御を可能にする噴霧により、スピンコーティングにより、ディップコーティングにより、又はさらにフローコーティングによって成膜を実施しても、それは本発明の範囲外ではない。
【0053】
より正確には、以下の様式で(パーセントは重量による)、それらを適用する2時間前に生成された組成物を、試験片に塗布した:90%の2−プロパノール及び10%の0.3N HClの水中混合物を得た。前述の2つの成分に対して2%の割合の、式C817(CH22Si(OEt)3(式中、E=エチルである)を有する化合物を添加した。室温で15分間静置した後、過剰なフルオロシランをイソプロパノールで洗浄することにより除去した。得られた層の厚さは、約4nmだった。
【0054】
生成された実施例は全て、生成された実施例の各々に特有の種々の実験条件と共に、下記表1に示されている:
【0055】
【表1】

【0056】
表1に記述されている試験片E2、E3、及びE4は本発明によるものだった。SiOC下地層の粗度をAFM分析することにより、プライマー層表面の形態構造が、N2/H2O、N2、又はO2プラズマを使用した活性化処理により影響を受けず、測定された残存RMS粗度は、3つの試験片全てで約9nmであったことが示された。試験片El及びE5〜E10は比較のために示されている:
・試験片El上に成膜されたプライマー層は、プラズマ活性化しなかった;
・試験片E5上に成膜されたプライマー層は、国際公開第2005/084943号パンフレットの教示によるフッ素含有プラズマにより活性化した;
・試験片E6〜E10は、本発明によるものではなく、現行のシリカに基づくプライマー層を得るための従来構成を例示する。
【0057】
上述のように調製した試験片を、以下の基準により評価した:
1)初期水接触角の測定。これはグラフト基材の疎水性に関する基準指標を提供する;
2)耐摩耗性。これは、グラフト疎水性コーティングを、以下の2つの異なる試験により磨耗した後、試験片の水の残存接触角を測定することにより得た:
a)Opel(登録商標)摩擦試験。これは、試験片に対してH1硬度のフェルトディスクを用い、1.5cm2の測定面積に0.4kg/cm2の負荷をかけて、50サイクル/分の移動速度、6rpmの回転速度で実施した。試験片は、接触角が15000サイクル後で依然として80°より大きい場合、この試験において良好であるとみなされる;
b)Toyota(登録商標)摩擦試験。これは、Daiei Kagaku Seiki社により製造されたデバイスを使用して、TSR7503G規格に従って実施し、4cm2の測定面積に0.3kg/cm2負荷をかけ、40サイクル/分の移動速度で実施した。試験片は、接触角が9000サイクル後で依然として80°より大きい場合、この試験において良好であるとみなされる;
3)UV−A放射耐性、これは、UV放射を放射するキセノンランプで、試験片を連続的に照射する試験で測定し、ランプの照度は、300nm〜400nmで積分すると、60W/m2である。試験片は、接触角が2000時間の曝露後で依然として80°より大きい場合、この試験において良好であるとみなされる;
【0058】
試験片El〜E10により調製された試験片について得られた結果は、表2に示されている。
【0059】
【表2】

【0060】
表2に示されているデータを比較することにより、本発明によるN2+H2O、N2、又はO2プラズマにより活性化されたSiOCプライマー下地層の存在は、従来技術の最も良好なプライマーで得られたものによる初期耐雨性特性と実質的に同等の特性を有する処理表面をもたらすことが示される。
【0061】
本発明による疎水性基材のUV耐性特性は、現行の規格に沿ったものである。
【0062】
表2に収集されているデータを比較することにより、本発明による試験片E2〜E4の耐性特性が、今までにまだ決して観察されたことのない耐摩耗性を示すことも示される。従って、試験片E2〜E4について得られた結果は、Opel(商標登録)試験の場合でも又はToyota(商標登録)試験の場合でも、全ての比較例の結果より著しく良好である。
【0063】
追加ステップの目的は、本発明による疎水性コーティングを備える基材の加水分解耐性特性を測定することだった。
【0064】
本発明による疎水性基材の加水分解耐性特性は、当分野において、NF ISO9227規格に記述されているNSF(中性塩水噴霧)試験と呼ばれることが多い、塩耐食性試験により従来通りに測定した。この試験は、35℃の温度で、塩水(pH7の50g/l NaCl溶液)の微細な液滴を、測定する試験片上に噴霧することにある。試験片は、垂直に対して20°傾けられている。自動車のサイドウインドウへの応用に関して現在課されている最も厳格な規格は、300時間の試験後に70°より大きな水接触角を要求している。
【0065】
本発明による疎水性コーティングを備える試験片E3(N2プラズマ活性化)は、NSF試験により測定したところ、所望の用途において完全に良好である塩耐食性を示す。824時間のNSF試験後に測定した接触角は、依然として94°であった。同じことは、実施例E4に当てはまる。
【0066】
そのシリコンオキシカーバイド下地層が、今回はN2及びH2Oガスの混合物のプラズマにより活性化された、本発明による疎水性コーティングを備える試験片E2は、NSF試験により測定したところ、特に高い塩耐食性を示す。従って、824時間のNSF試験後に測定した接触角は、100°より更に大きく、これは非常に優秀である。
【0067】
また、得られたコーティングの特性を、SiOC下地層のRMS粗度により評価した。
【0068】
特に、シリコンオキシカーバイドSiOCをガラス基材上にCVD蒸着している間、種々の前駆物質、SiH4、エチレン、CO2、及び窒素キャリアガスの初期混合物における容量パーセントを、以下の割合で変化させた:混合物における容積%で、0.1〜1%SiH4;0.5〜4.0%エチレン;2〜30%CO2;70〜95%N2
【0069】
様々なSiOC層をこのようにして基材上に生成し、これらは、0.4nm〜15.8nmの間で変化するRMS粗度を有していた。その後、このようにして得られた層は全て、上記のステップb)に記述されている条件下で、特に3%の水を有するN2及びH2Oガス混合物を含むプラズマにより、試験片E2を得るために使用したのと同じ手順を使用して活性化した。その後、フルオロシランを、ステップc)に記述されている手順に従って、種々の基材に適用した。
【0070】
このようにして得られた疎水性基材の耐摩耗性を、Opel試験(15000サイクル)により測定した。結果は、下記の表3に示されている:
【0071】
【表3】

【0072】
表3に収集されているデータを比較することにより、そのRMS粗度が本発明の目的において低すぎる試験片E11及びE12の耐摩耗性特性は、不十分であることが理解できる。そのRMS粗度が6〜15nmである試験片E2及びE13〜E15は、より良好な耐摩耗性特性を示す。
【0073】
上記の例は、以下の特徴を選択することによって、疎水性基材の耐摩耗性特性の非常に著しい向上を、本発明により得ることができることを示す:
・下地層(SiOC)の性質、
・その粗度、
・活性化プラズマ処理の前記下地層への適用、及び
・前記プラズマ処理の性質。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に疎水性コーティングを得るためのプロセスであって、
前記基材が好ましくはガラス材料、セラミック、又はガラスセラミックからなり、
a)シリコンオキシカーバイドSiOxyタイプのプライマー第1の層を前記基材に適用する第1の成膜ステップであって、前記プライマー層が4nmを超えるRMS表面粗度を有する、第1の成膜ステップと、
b)前記SiOxyプライマー層が、Ar、Heタイプの希ガス、N2、O2、若しくはH2Oガスから選択されるガスのプラズマにより、又はこれらのガスの少なくとも2つの混合物のプラズマにより、好ましくはその表面粗度を改変しない又は実質的に改変しない条件下で、活性化される活性化ステップと、
c)少なくとも1つのフルオロ化合物、好ましくはフルオロアルキルシランを含む疎水性コーティングが、前記第1の層上に成膜される第2の成膜ステップと、
を含むことを特徴とするプロセス。
【請求項2】
前記SiOxyプライマー層を活性化するステップが、H2Oと、Ar、He、及びN2から選択される少なくとも1つのガスとを含有するガス混合物のプラズマにより実施され、前記混合物中のH2Oの容量パーセントが、好ましくは約3%以下である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記SiOxyプライマー層が、4〜15nm、特に6〜15nmのRMS表面粗度の取得を可能にする条件下で、熱CVDにより成膜される、請求項1または2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記疎水性コーティングを成膜するステップが、下記式:
3C−(CF2m−(CH2n−Si(X)3-p(R)p
(式中、
・mは0〜15、好ましくは5〜9であり、
・nは1〜5、好ましくはn=2であり、
・pは0、1、又は2、好ましくは0又は1、非常に好ましくは0であり、
・Rは、アルキル基又は水素原子であり、
・Xは、ハロゲン化物基又はアルコキシ基等の加水分解性基である。)
のパーフルオロアルキルシランから得られる溶液を使用して実施されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項5】
前記疎水性コーティングを成膜するステップが、パーフルオロポリエーテルシランタイプのパーフルオロアルキルシランから得られる溶液を使用して実施されることを特徴とする、請求項1〜3の一項に記載のプロセス。
【請求項6】
表面が4nmを超えるRMS表面粗度を有し、Ar、Heタイプの希ガス、N2、O2、若しくはH2Oガスから選択されるガスのプラズマか、又はこれらのガスの少なくとも2つの混合物のプラズマで処理することにより活性化されたSiOxyプライマー層と、
フルオロ化合物、好ましくはフルオロアルキルシラン、特にパーフルオロ末端化アルキルシランを含む前記プライマー層上の疎水性コーティング層と、
を含み、
請求項1〜5のいずれか一項に記載のプロセスを実施することにより得ることができる、疎水性コーティングを備えたガラス、セラミック、又はガラスセラミック基材。
【請求項7】
前記SiOxyプライマー層の厚さが、10〜200nmである、請求項6に記載のガラス基材。
【請求項8】
前記SiOxyプライマー層のRMS粗度が、4〜15nm、特に6〜15nmである、請求項6または7に記載のガラス基材。
【請求項9】
前記SiOxyプライマー層のRMS粗度が、突起及び/又は窪み等の、特にバンプ形状での、前記プライマー層の表面の不規則性によって形成され、前記突起及び/又は窪みの高さが5〜100nmであり、その数が、コーティングされた基材の1μm2当たり少なくとも10個である、請求項7または8に記載のガラス基材。
【請求項10】
前記フルオロ化合物が、下記一般式:
3C−(CF2m−(CH2n−Si
(式中、
・mは0〜15、好ましくは5〜9であり、
・nは1〜5、好ましくは2である。)
により表されるタイプの基を含むパーフルオロ末端化アルキルシランである、請求項6〜9のいずれか一項に記載のガラス基材。
【請求項11】
前記フルオロ化合物が、パーフルオロポリエーテルタイプの基を含むパーフルオロ末端化アルキルシランである、請求項6〜9のいずれか一項に記載のガラス基材。
【請求項12】
前記アルキルシランが、下記一般式:
【化1】

又は下記一般式:
【化2】

(式中、
・mは2〜30であり、
・nは1〜3、好ましくは1である)、
により表されるタイプの基を含む、請求項11に記載のガラス基材。
【請求項13】
前記プライマー層上の前記疎水性コーティング層の厚さが、1〜10nm、好ましくは1〜5nmである、請求項6〜12のいずれか一項に記載のガラス基材。
【請求項14】
請求項6〜13のいずれか一項に記載のガラス基材で形成されているか又はそれが組み込まれている強化ガラス、合わせガラス、又は複層ガラス。
【請求項15】
輸送車両又は建物用の窓ガラスとしての、請求項6〜13のいずれか一項に記載のガラス基材の使用。

【公表番号】特表2012−514572(P2012−514572A)
【公表日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−544903(P2011−544903)
【出願日】平成22年1月6日(2010.1.6)
【国際出願番号】PCT/FR2010/050012
【国際公開番号】WO2010/079299
【国際公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【出願人】(500374146)サン−ゴバン グラス フランス (388)
【Fターム(参考)】