説明

プラズマ溶接トーチ

【課題】プラズマガスの流速を過度に高めることなくプラズマアークを緊縮させることが可能なプラズマ溶接トーチを提供すること。
【解決手段】棒状の非消耗電極1と、非消耗電極1を同軸状に囲む円筒状のプラズマノズル2と、プラズマノズル2を同軸状に囲む円筒状のシールドノズル3と、を備え、プラズマガス流路4からプラズマガスPGを噴出し、シールドガス流路5からシールドガスSGを噴出する、プラズマ溶接トーチAであって、プラズマノズル2には、プラズマガス流路4からシールドガス流路5へとプラズマガスPGの一部を導入するバイパス流路23が設けられている。バイパス流路23から分流されたプラズマガスPGがプラズマアークをさらに緊縮させるとともに、プラズマガスPGの流速が不当に速くなることを回避できる。これにより、比較的板厚が厚いAl合金の溶接母材に対して、適切なキーホールを伴った良好な溶接を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にAl合金の厚板どうしのI型突合せ溶接に適したプラズマ溶接トーチに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、アルミニウム板を突き合わせた溶接母材を対象としたプラズマ溶接に用いるプラズマ溶接トーチが提案されている(たとえば特許文献1〜3参照)。図6はそのようなプラズマ溶接トーチの一例を示している。同図に示されたプラズマ溶接トーチXは、非消耗電極91、プラズマノズル92、およびシールドノズル93を備えている。消耗電極91とプラズマノズル92との間には、プラズマガスPGが供給され、プラズマノズル92とシールドノズル93との間には、シールドガスSGが供給される。非消耗電極91および溶接母材Pは、プラズマ電源装置(図示略)に接続されており、プラズマ電圧が印加される。このプラズマ電圧によってプラズマガスPGがプラズマ状態となりプラズマアークPAが生じる。プラズマアークPAによってより厚い溶接母材Pを溶接するには、シールドガスSGによってプラズマアークPAを十分に緊縮させるとともに、プラズマガスPGの流速を高めることが望ましい。
【0003】
しかしながら、プラズマガスPGの流速を過度に高めると、プラズマアークPAによって溶かされた溶接母材Pの一部である溶融金属が吹き飛ばされてしまう。このようなことでは、図7に示すように突合せ線WLに沿った良好なビードが形成されず、溶接を適切に行うことができなかった。
【0004】
【特許文献1】特開平06−32825号公報
【特許文献2】特開平10−058147号公報
【特許文献3】特開2004−243374号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記した事情のもとで考え出されたものであって、プラズマガスの流速を過度に高めることなくプラズマアークを緊縮させることが可能なプラズマ溶接トーチを提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によって提供されるプラズマ溶接トーチは、棒状の非消耗電極と、上記非消耗電極を同軸状に囲む円筒状のプラズマノズルと、上記プラズマノズルを同軸状に囲む円筒状のシールドノズルと、を備え、上記電極および上記プラズマノズルの隙間であるプラズマガス流路からプラズマガスを噴出し、上記プラズマノズルおよび上記シールドノズルの隙間であるシールドガス流路からシールドガスを噴出する、プラズマ溶接トーチであって、上記プラズマノズルには、上記プラズマガス流路から上記シールドガス流路へと上記プラズマガスの一部を導入する1以上のバイパス流路が設けられていることを特徴としている。
【0007】
このような構成によれば、上記プラズマガスのうち上記バイパス流路から上記シールドガス流路へと分流したものは、上記プラズマアークが媒体となって発生するプラズマアークを拘束し、さらに緊縮するのに寄与する。また、上記プラズマガスの一部が上記バイパス流路から分流するため、上記プラズマガスのうち上記プラズマガス流路に残ったものの流速が過度に高くなることを回避できる。この結果、十分に緊縮させた上記プラズマアークを溶接母材へと向けることが可能であり、十分な溶け込み深さを得ることができる。さらに、上記プラズマガスの風圧が過度に高くなるおそれが少ないため、溶融金属を不当に吹き飛ばすことを抑制できる。これにより、適切なキーホールをともなった良好な溶接を行うことが可能である。このような溶接によれば、十分な幅および量を有する裏ビードを形成可能であり、溶接母材の溶接強度を高めるのに好ましい。
【0008】
本発明の好ましい実施の形態においては、複数の上記バイパス流路が、上記非消耗電極を中心とする同一円上に配置されている。このような構成によれば、上記プラズマアークを緊縮するのに好ましい。
【0009】
本発明の好ましい実施の形態においては、上記プラズマノズルは、先端に向かうほど断面寸法が小となるコーン状部を有しており、上記複数のバイパス流路は、上記非消耗電極が延びる方向に上記コーン状部を貫通している。このような構成によれば、上記非消耗電極を良好に取り囲みつつ溶接母材へと向かうように、上記プラズマガスを噴出するのに有利である。また、プラズマアークに対して比較的近い位置に向けて、このプラズマアークに沿った方向に流れるように、上記プラズマガスの一部を上記バイパス流路を介して噴出させることができる。これは、プラズマアークを緊縮させるのに好適である。
【0010】
本発明の好ましい実施の形態においては、上記プラズマガスは、Arを含み、上記シールドガスは、ArおよびHeを含む。このような構成によれば、比較的板厚が厚いAl合金からなる溶接母材を溶接するのに適している。
【0011】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の好ましい実施の形態につき、図面を参照して具体的に説明する。
【0013】
図1〜図3は、本発明に係るプラズマ溶接トーチを示している。図示されたプラズマ溶接トーチAは、非消耗電極1、プラズマノズル2、およびシールドノズル3を備えており、たとえば多関節ロボット(図示略)によって保持されている。プラズマ溶接トーチAは、図外の溶接電源に接続されており、板厚が12mm以上(たとえば15mm)のAl−Mg合金の板が突き合わされた溶接母材Pに対して突き合わせ線WLに沿ってプラズマ溶接を行うのに用いられる。
【0014】
非消耗電極1は、たとえばタングステンからなる金属棒であり、溶接母材Pとの間に交流アーク電圧を印加するための電極である。
【0015】
プラズマノズル2は、たとえば銅などの金属からなる円筒状部材であり、適宜水冷構造を有する。プラズマノズル2は、非消耗電極1を同軸状に囲んでいる。プラズマノズル2と非消耗電極1との隙間は、プラズマガス流路4とされている。プラズマガス流路4には図外のたとえばガスボンベからプラズマガスPGが供給される。プラズマガスPGは、たとえばArであり、その流量が3L/分程度である。このプラズマガスPGは、非消耗電極1を取り囲むように流れた後に開口21から噴出する。非消耗電極1と溶接母材Pとの間に上記アーク電圧が印加されることにより、プラズマガスPGを媒体として非消耗電極1からプラズマアークPAが発生する。
【0016】
シールドノズル3は、たとえば銅などの金属からなる円筒状部材であり、適宜水冷構造を有する。シールドノズル3は、プラズマノズル2および非消耗電極1を同軸状に囲んでいる。シールドノズル3とプラズマガスノズル2との隙間は、シールドガス流路5とされている。シールドガス流路5には、図外のたとえばガスボンベからシールドガスSGが供給される。シールドガスSGは、たとえば30%Ar−70%Heの混合ガスであり、その流量が15L/分程度である。シールドガスSGは、シールドノズル3の開口31から噴出し、プラズマガスPGおよびプラズマアークPAを緊縮させる機能を果たす。
【0017】
プラズマノズル2は、コーン状部22を有している。コーン状部22は、先端に向かうほど直径が小となっている部分である。このコーン状部22には、3つのバイパス流路23が形成されている。バイパス流路23は、非消耗電極1の軸方向にコーン状部22を貫通しており、プラズマガス流路4とシールドガス流路5とを繋いでいる。このバイパス流路23が設けられていることにより、プラズマガスPGの一部がシールドガス流路5へと流入し、開口31から噴出する。図2に示すように、本実施形態においてはさらに、3つのバイパス流路23が非消耗電極1を中心とする同一円上に配置されている。
【0018】
図3は、プラズマ溶接トーチAを用いた溶接の一例を示している。本実施形態においては、鉛直線VLに対する角度θが15度程度となるようにプラズマ溶接トーチAおよび溶接母材Pを傾けた状態で斜め上方に向けて溶接を行っている。このときの溶接電流は300A程度であり、溶接速度は13cm/分程度である。プラズマアークPAによって溶融された溶融金属には、ごく小さな孔であるキーホールKHが形成される。この溶融金属が順次凝固することにより、溶接が行われる。
【0019】
次に、プラズマ溶接トーチAの作用について説明する。
【0020】
本実施形態によれば、プラズマガスPGのうちバイパス流路23からシールドガス流路5へと分流したものは、プラズマアークPAを拘束し、さらに緊縮するのに寄与する。また、プラズマガスPGの一部がバイパス流路23から分流するため、プラズマガスPGのうちプラズマガス流路4に残ったものの流速が過度に高くなることを回避できる。この結果、十分に緊縮させたプラズマアークPAを溶接母材Pへと向けることが可能であり、比較的板厚が厚いAl合金からなる溶接母材Pに対して十分な溶け込み深さを得ることができる。さらに、プラズマガスPGの風圧が過度に高くなるおそれが少ないため、溶融金属を不当に吹き飛ばすことを抑制できる。これにより、図4および図5に示すように、適切なキーホールKHを形成しつつ、突き合わせ線WLに沿った溶接を良好に行うことが可能である。このような溶接によれば、図5に示すように、十分な幅および量を有する裏ビードRBを形成可能であり、溶接母材Pの溶接強度を高めるのに好ましい。
【0021】
非消耗電極1を中心とした同一円上に3つのバイパス流路23を配置することは、プラズマアークPAを緊縮させるのに好ましい。コーン状部22は、非消耗電極1を良好に取り囲みつつ溶接母材Pへと向かうように、プラズマガスPGを噴出するのに有利である。コーン状部22に非消耗電極1の軸方向に延びるバイパス流路23を設ければ、プラズマアークPAに対して比較的近い位置に向けて、プラズマアークPAに沿った方向に流れるように、プラズマガスPGの一部をバイパス流路23を介して噴出させることができる。これは、プラズマアークPAを緊縮させるのに好適である。鉛直線VLに対する角度θを15度程度となるようにプラズマ溶接トーチAおよび溶接母材Pを傾けた状態でプラズマ溶接を行えば、溶融金属が不当に落下することを防止することができる。これは、良好な裏ビードRBを形成するのに好ましい。
【0022】
本発明に係るプラズマ溶接トーチは、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明に係るプラズマ溶接トーチの各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。
【0023】
バイパス流路23の個数や配置は上述した実施形態に限定されず、プラズマアークPAを緊縮させるとともに、プラズマガスPGの不当な高速化を回避可能な構成であればよい。プラズマノズル2の形状は、コーン状部22を有するものに限定されず、プラズマガスPGを適切に噴出可能な形状であればよい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係るプラズマ溶接トーチの一例を示す要部断面図である。
【図2】本発明に係るプラズマ溶接トーチの一例を示す底面図である。
【図3】図1に示すプラズマ溶接トーチを用いたプラズマ溶接の一例を示す要部断面図である。
【図4】図3に示す溶接母材を裏面から見た要部平面図である。
【図5】図4のV−V線に沿う断面図である。
【図6】従来のプラズマ溶接トーチを用いたプラズマ溶接の一例を示す要部断面図である。
【図7】図6に示す溶接母材を裏面から見た要部平面図である。
【符号の説明】
【0025】
A プラズマ溶接トーチ
KH キーホール
P 溶接母材
PA プラズマアーク
PG プラズマガス
RB 裏ビード
SG シールドガス
VL 鉛直線
WL 突き合わせ線
1 電極
2 プラズマノズル
3 シールドノズル
4 プラズマガス流路
5 シールドガス流路
21 開口
22 コーン状部
23 バイパス流路
31 開口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
棒状の非消耗電極と、
上記非消耗電極を同軸状に囲む円筒状のプラズマノズルと、
上記プラズマノズルを同軸状に囲む円筒状のシールドノズルと、を備え、
上記非消耗電極および上記プラズマノズルの隙間であるプラズマガス流路からプラズマガスを噴出し、
上記プラズマノズルおよび上記シールドノズルの隙間であるシールドガス流路からシールドガスを噴出する、プラズマ溶接トーチであって、
上記プラズマノズルには、上記プラズマガス流路から上記シールドガス流路へと上記プラズマガスの一部を導入する1以上のバイパス流路が設けられていることを特徴とする、プラズマ溶接トーチ。
【請求項2】
複数の上記バイパス流路が、上記非消耗電極を中心とする同一円上に配置されている、請求項1に記載のプラズマ溶接トーチ。
【請求項3】
上記プラズマノズルは、先端に向かうほど断面寸法が小となるコーン状部を有しており、
上記複数のバイパス流路は、上記非消耗電極が延びる方向に上記コーン状部を貫通している、請求項2に記載のプラズマ溶接トーチ。
【請求項4】
上記プラズマガスは、Arを含み、上記シールドガスは、ArおよびHeを含む、請求項1ないし3のいずれかに記載のプラズマ溶接トーチ。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−120018(P2010−120018A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−293183(P2008−293183)
【出願日】平成20年11月17日(2008.11.17)
【出願人】(000000262)株式会社ダイヘン (990)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(591114847)赤星工業株式会社 (6)
【出願人】(302025992)財団法人 千葉県産業振興センター (3)
【Fターム(参考)】