説明

プラズマ発生方法

【課題】電極の摩耗量に合わせた必要最小電圧でプラズマアークを発生させて電極寿命の向上を図る。
【解決手段】両電極間にプラズマアーク発生用電圧T、Kを印加させてプラズマアークを発生させるプラズマ発生方法。本発明方法では、プラズマアーク発生用電圧T、Kを初期電圧値T1、K1から徐々に増加させて行き、プラズマアークが発生した時点で、プラズマアーク発生用電圧T、Kの増加を停止する。プラズマアークが発生していないと検出された時には、前記プラズマアーク発生用電圧T、Kを更に増加させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、両電極間にプラズマアーク発生用電圧を印加させてプラズマアークを発生させるプラズマ発生方法に関し、詳細には、電極の摩耗で発生し難くなったプラズマアークの発生技術に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマ溶射装置は、陽極と陰極の電極間にプラズマアークを発生させ、そのプラズマアークで金属材やセラミック材を溶融させると同時に、溶融させた材料をプラズマジェット流によってワーク表面に吹き付ける構造になっている。
【0003】
このプラズマ溶射装置では、プラズマ発生部の陰極は使用回数により徐々に摩耗するため、摩耗が増大した場合、規定電圧を付加してもプラズマアークが発生しなくなる。そのため、陰極を適切な時期に交換する必要があり、陰極の工具費及び作業工数が発生する。
【0004】
特許文献1には、陰極の位置を記憶し、摩耗した量に応じて陰極の位置を移動させることで、規定電圧によりプラズマアークを発生させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平3−133099号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、陰極全体を送り出す構造となっているため、局部的に陰極が摩耗するような場合には本構造を採用することができない。また、特許文献1に記載の技術では、モータにより陰極全体を送り出す駆動機構とされているため、装置が大型化し且つ高コストになる。
【0007】
そこで、本発明は、装置の大型化及び高コスト化を招くことなく、電極の摩耗量に合わせた必要最小電圧でプラズマアークを発生させて電極寿命の向上を図ることのできるプラズマ発生方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のプラズマ発生方法では、両電極間に印加するプラズマアーク発生用電圧を初期電圧値から徐々に増加させて行き、プラズマアークが発生した時点で、プラズマアーク発生用電圧の増加を停止するようにする。
【発明の効果】
【0009】
本発明のプラズマ発生方法によれば、両電極間に印加するプラズマアーク発生用電圧を初期電圧値から徐々に増加させて行き、プラズマアークが発生した時点でプラズマアーク発生用電圧の増加を停止するようにしているので、局部的に電極が摩耗した場合でも、電極の摩耗量に合わせた必要最小電圧でプラズマアークを発生させることができる。
したがって、最初から過大な電圧を両電極間に印加する必要がないことから電極の摩耗量が少なく、電極寿命を向上させることができる。
更に、モータにより電極全体を送り出す駆動機構が必要とされないため、装置の大型化且つ高コスト化を招くことを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は第1実施形態を示し、本発明のプラズマ発生方法を適用した溶射皮膜形成装置の全体図である。
【図2】図2は第1実施形態を示し、図1の溶射皮膜形成装置における溶射ガンの要部拡大断面図である。
【図3】図3は第1実施形態を示し、プラズマアーク発生用電圧を電極間に印加する一制御例を示す図である。
【図4】図4は第1実施形態を示し、プラズマアーク発生用電圧を電極間に印加する一制御例を示すフローチャートである。
【図5】図5は初期時から過大なプラズマアーク発生用電圧を印加してプラズマアークを発生させる比較のための制御例を示す図である。
【図6】図6は第2実施形態を示し、プラズマアーク発生用電圧を電極間に印加する一制御例を示す図である。
【図7】図7は第3実施形態を示し、プラズマアーク発生用電圧を電極間に印加する一制御例を示す図である。
【図8】図8は第3実施形態を示し、プラズマアーク発生用電圧を電極間に印加する一制御例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を適用した具体的な実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0012】
「第1実施形態」
最初に、本発明のプラズマ発生方法を適用した溶射皮膜形成装置について説明する。図1は溶射皮膜形成装置の全体図、図2は溶射ガンの要部拡大断面図である。
溶射皮膜形成装置1は、溶融金属を被溶射物に向けて噴射する溶射ガン2と、この溶射ガン2にワイヤ3を供給するワイヤ供給手段と、溶射ガン2にガス(プラズマガス)を供給するガス供給手段と、溶射ガン2にアトマイズエアーを供給するエアー供給手段と、プラズマを発生させるプラズマ発生手段と、を備えている。
【0013】
溶射ガン2は、この溶射ガン2を旋回(回転)させるための主軸4の先端に取り付けられている。主軸4は、ハウジング5内に設けられたモータ6からの回転力をタイミングベルト7を介して伝達されることで、その先端に取り付けた溶射ガン2を回転させる。図1では、モータ6は、矢印Xで示す方向に溶射ガン2を回転させる。この溶射ガン2の中心には、前記した主軸4を軸方向に貫通して形成されたワーク送り孔8を通して溶射材料となるワイヤ3が送給されるようになっている。ワーク送り孔8は、ワイヤ3をガイドして送給するために、該ワイヤ3の直径よりも多少大きな直径を有した貫通孔として形成されている。
【0014】
ワイヤ供給手段は、図示を省略したワイヤ収容部からローラ対などを備えるワイヤ送給装置によって、前記主軸4を通して溶射ガン2へと送給される。このワイヤ供給手段では、溶射の進行(溶射量の増減に応じて)に合わせて、前記ワイヤ3の送り速度を可変して前記溶射ガン2へワイヤ3を送給するようになっている。
【0015】
ガス供給手段及びエアー供給手段は、プラズマガス(ガス)を供給するガス供給部9と、アトマイズエアーを供給するエアー供給部10と、ガスエアーの経路であるロータリージョイント11と、を有している。ガス供給部9から供給されたプラズマガスとエアー供給部10から供給されたアトマイズエアーは、前記主軸4に形成されたそれぞれの供給路(図示は省略する)を介して前記溶射ガン2に供給されるようになっている。
【0016】
プラズマ発生手段は、電源部12と、この電源部12のプラス極と接続される一方の電極(陽極)と、電源部12のマイナス極と接続される他方の電極(陰極)13と、を有している。他方の電極13は、前記溶射ガン2に形成されたガス噴出孔14の近傍に固定されている。一方の電極は、ワイヤ3と接触するコンタクトチップ15からなる。
【0017】
溶射ガン2には、前記主軸4に形成されたワーク送り孔8と連通するワイヤ供給孔16が形成されている。前記ワイヤ3は、この溶射ガン2に形成されたワイヤ供給孔16からガス噴出孔14の前方へと供給されるようになっている。また、溶射ガン2には、ガス供給部9からガス噴出孔14へとプラズマガスを供給するためのガス供給路17が形成されている。また、溶射ガン2には、エアー供給部10からエアー噴出孔18へとアトマイズエアーを供給するためのエアー供給路19が形成されている。エアー噴出孔18は、ガス噴出孔14を中心としてその周囲を取り囲むように複数形成されている。
【0018】
コンタクトチップ15は、前記エアー噴出孔18へアトマイズエアーを供給する溶射ガン2に形成されたエアー供給路19の途中から分岐して前記ワイヤ3の送給方向(図2矢印Zで示す方向)と略直交する方向に形成された分岐流路20の中にスライド自在とされている。分岐流路20は、前記したワイヤ供給孔16とエアー供給路19とを連結させている。この分岐流路20の中をスライド自在とされるコンタクトチップ15は、導電性を有した金属部材からなり、電源部12のプラス極と接続されている。このため、コンタクトチップ15がワイヤ3に接触することで、前記ワイヤ3がプラス極(陽極)になる。
【0019】
次に、上述のように構成された溶射皮膜形成装置を使用して被溶射物に溶射皮膜を形成する方法について説明する。
【0020】
先ず、ガス供給部9からプラズマガスを主軸4を介して溶射ガン2のガス供給路17へ供給する。同じく、エアー供給部10からアトマイズエアーを主軸4を介して溶射ガン2のエアー供給路19へ供給する。さらに、ワイヤ供給手段によってワイヤ3を送給し、主軸4のワーク送り孔8を介して溶射ガン2のワイヤ供給孔16へと送給する。
【0021】
すると、前記プラズマガスは、ガス噴出孔14から外部へと噴射される。一方、アトマイズエアーは、前記ガス噴出孔14より噴射されたプラズマガスを取り囲むようにして各エアー噴出孔18から外部へと噴射される。アトマイズエアーの一部は、エアー供給路19の途中から分岐した分岐流路20へ流れ込む。この分岐流路20に設けられたコンタクトチップ15は、分岐流路20内に流れ込んだアトマイズエアーの圧力を受けて前方へ移動され、前記ワイヤ供給孔16に送給されるワイヤ3に対して接触し押圧付勢される。アトマイズエアーが供給されている間は、常にコンタクトチップ15は、ワイヤ3に対する接触状態を維持する。
【0022】
そして、コンタクトチップ15とワイヤ3との接触状態が維持された状態で、一方の電極(陽極)となるコンタクトチップ15とガス噴出孔14近傍に設けた他方の電極(陰極)13間にプラズマアーク発生用電圧を印加する。すると、これら両電極間には、プラズマアークが発生する。ガス噴出孔14から噴射されるプラズマガスは、前記プラズマアークにより燃焼されて燃焼炎となる。
【0023】
前記ワイヤ3は、この燃焼炎によって溶融されて溶融金属となる。溶融金属は、エアー噴出孔18から噴射されるアトマイズエアーにより溶射フレームとなって被溶射物に向けて噴射され、被溶射物表面に溶射皮膜として形成される。前記被溶射物への溶射時には、モータ6を駆動して主軸4を回転させ、この主軸4の先端に取り付けた溶射ガン2を旋回させる。この溶射ガン2の旋回によって、溶射皮膜を被溶射物表面に均一に形成することができる。
【0024】
次に、本発明に係るプラズマ発生方法について説明する。図3はプラズマアーク発生用電圧を電極間に印加する一制御例を示し、図4はその電圧印加時の一制御例を示すフローチャート、図5は初期時から過大なプラズマアーク発生用電圧を印加してプラズマアークを発生させる比較のための制御例を示す図である。
【0025】
なお、図3及び図5の波形Kはプラズマアーク発生用電圧(高周波電圧)、波形Tはプラズマアーク発生用電圧(通常電圧)、波形Sは定常電流を表している。
【0026】
例えば、前記した溶射皮膜形成装置は、内燃機関用エンジンのシリンダボアの内壁に溶射皮膜を形成するのに使用することができる。このシリンダボア内への溶射では、1つのシリンダボアを溶射する毎にプラズマアークを発生させ、溶射が終了した時点でプラズマアークを消し、次のシリンダボアを溶射する時に再びプラズマアークを発生させる。例えば、6気筒エンジンの場合は、6つのシリンダボアを持つため、プラズマアークを6回発生させる。
【0027】
このように、内燃機関用エンジンのシリンダボアの内壁に溶射皮膜を形成する場合は、何度もプラズマアークの着火と消火を繰り返すことになる。電極13の摩耗は、プラズマアーク発生用電圧を両電極間に印加する印加時(つまりプラズマアーク発生時)と、溶射フレームの溶射時における定常電圧を電極間に印加する時(溶射フレーム吹き付け時)の両方で起こる。
【0028】
プラズマアーク発生用電圧には、高周波電圧と通常電圧の両方が用いられる。高周波電圧は、プラズマアークを発生させるための着火時にのみ使用される。例えば、絶縁破壊で陽極と陰極間に数千ボルトにて高周波電圧を印可させる。通常電圧は、着火時から定常電圧になるまで両電極間に印加される。かかる通常電圧は、高周波電圧で陽極と陰極を絶縁破壊させた後、継続的に放電を続けさせるために使用される。
【0029】
例えば、本発明方法の比較例である図5に示すように、プラズマアークの着火と消火を繰り返すことで電極13が摩耗した場合でもプラズマアークを発生させることができるように初期時から過大なプラズマアーク発生用電圧(高周波電圧Kと通常電圧T)を両電極間に印加した場合は、電極13の摩耗量が多くなり寿命が短くなる。また、図5では、プラズマアーク発生用電圧には一定電圧値を設定しているため、一定電圧値を超えた電圧値を付加すれば摩耗した電極13でも電極交換することなく使用できるが、電極交換せざるをえない。
【0030】
そこで、第1実施形態では、図3に示すように、プラズマアーク発生用電圧(高周波電圧Kと通常電圧T)を初期電圧値(K1、T1)から徐々に増加(K2〜K5、T2〜T6)させて行き、プラズマアークが発生した時点で、プラズマアーク発生用電圧の増加を停止するようにする。具体的には、図4のフローチャートに示すように、最初のステップS1の処理でプラズマ発生手段にプラズマアーク発生開始信号を送る。
【0031】
次に、ステップS2の処理でプラズマアーク発生用電圧を両電極間に印加する。このステップS2では、プラズマアーク発生用電圧のうち通常電圧Tを初期電圧値T1から徐々に増加させる。増加電圧をa、カウンタ数をnとしたときに、通常電圧T=T1+n×aとして、徐々に通常電圧Tを増加させる。また、プラズマアーク発生用電圧のうち高周波電圧Kを初期電圧値K1から徐々に増加させる。増加電圧をb、カウンタ数をnとしたときに、高周波電圧K=K1+n×bとして、徐々に高周波電圧Kを増加させる。ここで定義する徐々に増加とは、小から大へと段階的に電圧を増加させる意味である。つまり、T1<T2<T3<T4<T5<T6及びK1<K2<K3<K4<K5としている。
【0032】
ステップS3の処理では、プラズマアーク発生用電圧(通常電圧Tとび高周波電圧Kの両方)が両電極間に印加されてプラズマアークが発生したか否かを検出する。プラズマアークの検出は、両電極間に通電される電流を検知して判断する。プラズマアークが発生すると、両電極間で放電が起こり電流が流れるため、この両電極間を流れた電流を検知する。
【0033】
ステップS3の処理においてプラズマアークが発生しなかった場合(NOの場合)は、ステップS4の処理でカウンタ数を増やして(n=n+1)通常電圧Tと高周波電圧Kを増加させる。なお、電極13を交換する場合は、カウンタ数nを零にリセットする。このステップS2の処理、ステップS3の処理及びステップS4の処理を、プラズマアークが発生するまで繰り返す。例えば、シリンダボアへの溶射フレームの回数が増えることでプラズマアークが発生する回数が増えて電極13が摩耗すると、プラズマアーク発生用電圧の初期電圧値T1、K1ではプラズマアークが発生しなくなる。そこで、初期電圧値T1、K1よりも高いプラズマアーク発生用電圧を両電極間に印加してプラズマアークを発生させる。
【0034】
図3は、初期電圧値T1、K1の印加でプラズマアークが発生しなかったため、この初期電圧値T1、K1よりも高いプラズマアーク発生用電圧T2、K2を印加してプラズマアークを発生させた例としている。例えば、プラズマアークは1回目から100回目までは初期電圧値T1、K1で着火できたが、101回目ではプラズマアークが発生しなかったとすると、初期電圧値T1、K1よりも電圧を増加したプラズマアーク発生用電圧T2、K2でプラズマアークを発生させる。プラズマアーク発生用電圧T3、K3では201回目から300回目までプラズマアークを着火できるとし、同様に、T4、K4では301回目から400回目まで、T5、K5では401回目から500回目までプラズマアークを着火できるとする。ここで記載したプラズマアークの着火回数は、あくまで一例である。
【0035】
ステップ3の処理で両電極間に電流が検知されてプラズマアークが発生したら、ステップ5の処理でプラズマアーク発生用電圧T、Kの増加を停止する。プラズマアーク発生用電圧T、Kのうち高周波電圧Kは、プラズマアークが発生したら両電極間への通電は完全に停止する。
【0036】
次に、ステップ6の処理で、プラズマアーク発生用電圧T、Kのうち通常電圧Tを初期電圧T1よりも低い電圧である定常電圧に保つ。定常電圧は、発生したプラズマアークを発生させ続けるために印加する電圧である。また、このステップS6の処理では、両電極間に一定の電流値である定常電流Sを通電させる。シリンダボアに溶射フレームを吹き付けている加工中では、定常電流Sを90A(アンペア)、定常電圧を120Vに保つ。これら電流値及び電圧値は、一例であり、これに限定されるものではない。前記ステップS6の処理を行うことで、図4のフローチャートを終了する。
【0037】
以上のように第1実施形態では、両電極間に印加するプラズマアーク発生用電圧T、Kを初期電圧値T1、K1から徐々に増加させて行き、プラズマアークが発生した時点でプラズマアーク発生用電圧T、Kの増加を停止するようにしているので、電極13が摩耗した場合でも、電極13の摩耗量に合わせた必要最小電圧でプラズマアークを発生させることができる。したがって、最初から過大な電圧を両電極間に印加する必要がないことから電極13の摩耗量が少なく、電極寿命を向上させることができる。
また、第1実施形態では、図5に示したようにプラズマアーク発生用電圧を一定電圧値とした場合に比べて高電圧まで使用することができるので、電圧値を上げることで未だ使用可能な電極13に対する使用限界値を伸ばすことができ、電極寿命の向上を図ることができる。
【0038】
また、第1実施形態では、電極13が摩耗してもプラズマアーク発生用電圧T、Kを初期電圧値から徐々に増加させるため、装置を大型化しなくとも電圧値を増加させるだけので局部的に摩耗するような電極形態でも使用することができる。
【0039】
また、第1実施形態では、プラズマアークが発生していないと検出した時に、プラズマアーク発生用電圧を更に増加させるので、電極13の摩耗によってプラズマアークが発生しない状態でも、電圧増加によりプラズマアークを発生させることができる。
【0040】
また、第1実施形態では、プラズマアーク発生用電圧のうち高周波電圧と通常電圧の両方を段階的に増加させているので、その段階的な電圧増加により必要最小限の電圧でプラズマアークを発生させることができる。
【0041】
また、第1実施形態では、プラズマアークが発生する回数が増えて電極13が摩耗した場合に、プラズマ発生用電圧の増加を行うことで、摩耗した電極13でもプラズマアークを発生させることができる。
【0042】
「第2実施形態」
図6は第2実施形態を示し、プラズマアーク発生用電圧を電極間に印加する一制御例を示す図である。第2実施形態は、プラズマアーク発生用電圧のうち通常電圧Tは増加させずに高周波電圧Kのみを初期電圧値K1から徐々に増加(段階的に増加)させて行く例である。
【0043】
第1実施形態では、高周波電圧Kと通常電圧Tの両方を徐々に増加(段階的に増加)させたが、第2実施形態では高周波電圧Kのみを増加させる。このように、高周波電圧Kのみを段階的に増加させるだけも、第1実施形態と同様、電極の摩耗量に合わせた必要最小電圧でプラズマアークを発生させることができる。
【0044】
なお、高周波電圧Kは一定で通常電圧Tのみを徐々に増加(段階的に増加)させるようにしてもよい。
【0045】
「第3実施形態」
図7はプラズマアーク発生用電圧を電極間に印加する一制御例を示す図、図8はプラズマアーク発生用電圧を電極間に印加する一制御例を示すフローチャートである。
【0046】
第3実施形態では、プラズマアーク発生用電圧のうち高周波電圧Kを徐々に増加(段階的に増加)させると共に通常電圧Tを徐々に増加(一定量で増加)させる。具体的には、定常電圧Tは時間tの経過に応じて一定量で電圧を徐々に増加させて行き、波形形状が右肩上がりでスロープをなすように(右肩上がりの傾斜をなすように)電圧増加させる。
【0047】
第3実施形態では、基本的には第1実施形態の図4で示したフローチャートと同じであるため、図4のフローチャートとは異なる処理についてのみ説明するものとする。第3実施形態のフローチャートにおけるステップS2の処理は、プラズマアーク発生用電圧のうち通常電圧Tを初期電圧値T1から最終電圧値TXまで一定量で電圧を増加させる。初期電圧をT1、増加電圧をa、時間をtとしたときに、通常電圧T=T1+t×aとして、徐々に通常電圧Tを増加させる。一方、高周波電圧Kは、初期電圧値K1から徐々に増加させる。増加電圧をb、カウンタ数をnとしたときに、高周波電圧K=K1+n×bとする。高周波電圧Kの増加に関しては、第1実施形態と同じである。
【0048】
通常電圧Tを初期電圧値T1から時間tに応じて一定量づつ増加させていった場合は、図3で示した通常電圧Tを段階的に増加させた場合と同様、電極13の摩耗量に合わせた必要最小電圧でプラズマアークを発生させることができる。したがって、第3実施形態では、第1実施形態と同様に、装置を大型化することなく電圧値を一定量として上げることで局部的に摩耗するような電極形態でもプラズマアークを発生させることができ、電極寿命を向上させることができる。
【0049】
なお、通常電圧Tだけでなく高周波電圧Kも一定量で増加させるようにすることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、両電極間にプラズマアーク発生用電圧を印加させてプラズマアークを発生させる装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0051】
1…溶射皮膜形成装置
2…溶射ガン
3…ワイヤ
4…主軸
9…ガス供給部
10…エアー供給部
13…電極(陰極)
14…ガス噴出孔
15…コンタクトチップ(陽極)
16…ワイヤ供給孔
17…ガス供給路
18…エアー噴出孔
19…エアー供給路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両電極間にプラズマアーク発生用電圧を印加させてプラズマアークを発生させるプラズマ発生方法において、
前記両電極間に印加するプラズマアーク発生用電圧を初期電圧値から徐々に増加させて行き、プラズマアークが発生した時点で、プラズマアーク発生用電圧の増加を停止する
ことを特徴とするプラズマ発生方法。
【請求項2】
請求項1に記載のプラズマ発生方法であって、
前記両電極間にプラズマアークが発生したか否かを検出し、プラズマアークが発生していないと検出された時には、前記プラズマアーク発生用電圧を更に増加させる
ことを特徴とするプラズマ発生方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のプラズマ発生方法であって、
前記プラズマアーク発生用電圧は、高周波電圧と通常電圧をそれぞれ両電極間に印加し、それら高周波電圧及び通常電圧の両方または一方を、段階的又は一定量で増加させる
ことを特徴とするプラズマ発生方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のうち何れか1項に記載のプラズマ発生方法であって、
前記プラズマアークが発生する回数が増えて前記電極が摩耗した場合に、前記プラズマ発生用電圧の増加を行う
ことを特徴とするプラズマ発生方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate