プラバスタチンの産生
本発明は、コンパクチン生合成(biosynthesis)遺伝子およびコンパクチンからプラバスタチンへの変換のための遺伝子を含有する微生物を提供する。好適な(preferred)実施例では、前記コンパクチン生合成遺伝子はmlcAおよび/またはmlcBおよび/またはmlcCおよび/またはmlcDおよび/またはmlcEおよび/またはmlcFおよび/またはmlcGおよび/またはmlcHおよび/またはmlcRであり、そしてコンパクチンからプラバスタチンへの変換のための前記遺伝子はヒドロキシラーゼ遺伝子である。さらに、本発明は、スタチンのような目的の化合物を産生させるための方法を提供する。好適な実施例では、前記スタチンはプラバスタチンである。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[発明の分野]
本発明は、プラバスタチンの産生のための1工程発酵プロセスに関する。
【0002】
[発明の背景]
コレステロールおよび他の脂質は、低密度リポタンパク質(LDL)および高密度リポタンパク質(HDL)によって体液に輸送される。LDLレベルは冠動脈疾患の危険性に正の相関を示すため、LDL−コレステロールを降下させるための機構を遂行する物質は、有効な抗高コレステロール血症剤としての役割を果たし得る。スタチンクラスのコレステロール降下剤は、HMG−CoAレダクターゼを阻害することによって血液中のコレステロール濃度を降下させるため、それらは医学的に極めて重要な薬物である。後者の酵素は、コレステロール生合成、即ち、(3S)−ヒドロキシ−3−メチルグルタリルコエンザイムA(HMG−CoA)からメバロン酸への変換における律速段階を触媒する。市場には、いくらかのタイプのスタチン系薬剤、中でも、アトルバスタチン、コンパクチン、ロバスタチン、シンバスタチンおよびプラバスタチンが存在する。アトルバスタチンは化学合成を介して作製される一方、上記の他のスタチン系薬剤は、直接発酵または前駆体発酵のいずれかを介して産生される。これらの(前駆体)発酵は、ペニシリウム(Penicillium)属、アスペルギルス(Aspergillus)属およびモナスカス(Monascus)属の真菌によって行われる。
【0003】
プラバスタチンは、2つの順次発酵を介して産生される。まず、ペニシリウム・シトリヌム(Penicillium citrinum)がコンパクチンを産生し、そのラクトン環を水酸化ナトリウムで化学的に加水分解し;続いて、それをプラバスタチンにヒドロキシル化するストレプトマイセス・カルボフィラス(Streptomyces carbophilus)の培養にこれを供給する。これらの代謝物の産生のための産業用の種およびプロセスは、異なる方法を使用して最適化される。これによって、ペニシリウム・シトリヌム(Penicillium citrinum)による産業的コンパクチン産生は、本来の40mg/Lから5g/Lに増加された。生体触媒変換のために、80%変換収率を伴う3g/Lのメバスタチンに対する耐性を伴うストレプトマイセス(Streptomyces)変異株がMetkinenにより得られた(Metkinen News、2000年3月、Metkinen Oy、フィンランド;マンゾーニ(Manzoni)およびロリーニ(Rollini)、2002年、Appl Microbiol Biotechnol 58:555−564により検討された)。これは実行可能な商業的プロセスであるが、コンパクチン力価が、例えば、産業的アミノ酸またはペニシリンG力価と比較して相対的に低いため、最適な状態からはかけ離れている。また、コンパクチンは希釈する必要があり、そうでなければ、それは、生体変換に使用されるストレプトマイセス(Streptomyces)株に毒性になり(ホソブチ(Hosobuchi)ら、1983年、J Antibiotics 36:887−891)、さらに、供給される20%のコンパクチンがストレプトマイセス(Streptomyces)株によって変換されない。
【0004】
上記の問題に対する解決として、いくらかの刊行物がプラバスタチンのための1工程発酵プロセスについて説明している(国際公開第99/10499号パンフレット、米国特許第6,274,360号明細書および欧州特許第1,266,967号明細書)。しかし、本発明の部分として、本発明者らは、問題を解決するためのこれらのすべての示唆が無効であり、さらなる問題、即ち、コンパクチンからプラバスタチンへの細胞内変換を解決する必要があることを実証する。国際公開第99/10499号明細書は、p450酵素をコードするストレプトマイセス・カルボフィラス(Streptomyces carbophilus)遺伝子を具備した組み換えペニシリウム・シトリヌム(Penicillium citrinum)株について説明している。ここでは、国際公開第99/10499号明細書に従って構築された株がプラバスタチンを産生せず、コンパクチンのみを産生することが実証されている。米国特許第6,274,360号明細書は、コンパクチンをプラバスタチンに変換することができるアクチノマデュラ(Actinomadura)種から単離することができる酵素系について説明し、そしてプラバスタチンを産生させるために異種の種においてこの酵素系を使用することを示唆している。しかし、タンパク質もまたDNA配列も提供されないため、そのような特許請求の範囲について立証することは不可能である。さらに、そのような酵素系は、異なるポリペプチドよりなり得、および/またはいくらかの宿主特異的酸化還元再生酵素もしくはシャペロンを必要とし、これは、この酵素系のすべての正規のメンバーの精製および単離を妨げる。さらに、上記で考察したように、プラバスタチン触媒酵素の既知のDNA配列(ストレプトマイセス・カルボフィラス(Streptomyces carbophilus)p450−sca2遺伝子)を、ペニシリウム・シトリヌム(Penicillium citrinum)、コンパクチン生産者に移し替えてもなお、プラバスタチン形成は生じない。欧州特許第1,266,967号明細書は、アスペルギルス・テレウス(Aspergillus terreus)およびモナスカス・ルバー(Monascus ruber)の変異株について説明している。野生型株はロバスタチンのみを産生する一方、これらの変異体は、ロバスタチンおよび/またはプラバスタチンを産生すると記載された。本発明の部分として、本発明者らは、欧州特許第1,266,967号明細書に従う変異株がプラバスタチンを産生せず、ロバスタチンのみを産生することを実証する。
【0005】
従って、プラバスタチンのための1工程発酵プロセスの問題を解決する経済的に可能な方法は、利用可能な状態ではなく、そして大いに所望されている。
【0006】
[発明の概要]
本発明は、コンパクチン生合成遺伝子およびコンパクチンからプラバスタチンへの変換のための遺伝子を含有する微生物を提供する。より具体的には、前記コンパクチン生合成遺伝子はmlcAおよび/またはmlcBおよび/またはmlcCおよび/またはmlcDおよび/またはmlcEおよび/またはmlcFおよび/またはmlcGおよび/またはmlcHおよび/またはmlcRであり、そしてコンパクチンからプラバスタチンへの変換のための前記遺伝子はヒドロキシラーゼ遺伝子である。さらに、本発明は、以下の工程を含んでなる目的の化合物を産生させるための方法を提供する:
(a)コンパクチン生合成のための最小限の要件をコードする目的の遺伝子を含んでなるポリヌクレオチドで宿主細胞を形質転換すること;
(b)コンパクチンヒドロキシラーゼをコードする目的の遺伝子を含んでなるポリヌクレオチドおよび/または目的の遺伝子の発現に影響を及ぼすDNA配列を含んでなるポリヌクレオチドで前記宿主細胞を形質転換すること;
(c)形質転換された細胞のクローンを選択すること;
(d)前記選択された細胞を培養すること;
(e)場合により、栄養供給源を前記培養細胞に供給すること、ならびに;
(f)場合により、前記培養から目的の化合物を単離すること。
【0007】
[発明の詳細な説明]
用語「発現」は、ポリペプチドの産生に関与する任意の工程を含み、そして転写、転写後修飾、翻訳、翻訳後修飾および分泌を含み得る。
【0008】
核酸構築物が、特定の宿主生物体におけるコード配列の発現のために要求されるすべての制御配列を含有する場合、用語「核酸構築物」は、用語「発現ベクター」または「カセット」と同義である。
【0009】
用語「制御配列」は、本明細書において、ポリペプチドの発現に必要または有利であるすべての成分を含むものと規定される。各制御配列は、ポリペプチドをコードする核酸配列に生来または外来性であってもよい。そのような制御配列として、プロモーター、リーダー、(コザック(Kozak)、1991年、J.Biol.Chem.266:19867−19870に記載のような)最適な翻訳開始配列、分泌シグナル配列、プロペプチド配列、ポリアデニル化配列、転写ターミネーターが挙げられ得るが、これらに限定されない。少なくとも、制御配列は、プロモーター、ならびに転写および翻訳停止シグナルを含む。制御配列は、転写制御配列を含有する適切なプロモーター配列であってもよい。プロモーターは、変異、短縮型、およびハイブリッドプロモーターを含む細胞において転写調節活性を示す任意の核酸配列であってもよく、そして細胞外もしくは細胞内ポリペプチドをコードする遺伝子から入手してもよい。プロモーターは、細胞もしくはポリペプチドに対して同種または異種のいずれであってもよい。プロモーターは、ドナー種または他の任意の供給源から誘導してもよい。真核生物における発現レベルを制御するための代替的方法は、イントロンの使用である。高等な真核生物は、エキソンおよびイントロンよりなる遺伝子を有する。用語「エキソン」は、本明細書において、タンパク質に翻訳されるオープンリーディングフレーム(ORF)のすべての成分を含むものと規定される。用語「イントロン」は、本明細書において、オープンリーディングフレーム内には含まれないすべての成分を含むものと規定される。用語「オープンリーディングフレーム」は、本明細書において、配列ATG、メチオニンに対するコドンで開始し、その後に、可能なすべてのアミノ酸をコードし、そして所定の数の後、終結コドンによって中断される連続的列のコドンが続くポリヌクレオチドとして規定される。このオープンリーディングフレームは、タンパク質に翻訳することができる。ゲノムから単離される遺伝子を含有するポリヌクレオチドは、すべてのエキソンおよびイントロンを含む遺伝子のいわゆるゲノムDNAまたはgDNA配列である。逆転写酵素反応を介してmRNAから単離される遺伝子を含有するポリヌクレオチドは、エキソンのみを含むその遺伝子のいわゆるコピーDNAまたはcDNA配列である一方、イントロンは、細胞機構を介してスプライシングにより切除される。この後者のタイプのDNAは、原核生物宿主において目的の真核生物遺伝子を発現させる場合、特に使用される。両方のタイプのDNAの変種もまた、合成的に作製することができ、イントロンの正確なヌクレオチド配列を変更するか、または目的の遺伝子におけるイントロンの数を変動するかのいずれかの可能性を広げる。これはまた、原核生物由来の目的の遺伝子にイントロンを付加して、真核生物宿主における発現を容易または改善する可能性を広げる。また、イントロンは、プロモーター、ポリアデニル化部位または転写ターミネーターのような上記で命名した制御配列に導入することもできる。イントロンの存在、非存在、変動または導入は、真核生物における遺伝子発現レベルを調節する手段である。
【0010】
用語「作動可能に連結」は、本明細書において、制御配列が、ポリペプチドの産生を指令するようなDNA配列のコード配列に対する位置に、制御配列が適切に配置される配置形態として規定される。
【0011】
用語「プラバスタチン」は、本明細書において、α−もしくはβ−配置、またはα−およびβ−配置の両方の混合物を伴うコンパクチンの6’−ヒドロキシル変種として規定され、そして(ラクトン環を伴う)閉じた構造および(ヒドロキシカルボン酸部分を伴う)開いた構造の両方を含む。
【0012】
本発明の目的は、プラバスタチンの1工程発酵プロセスのための方法を提供することである。
【0013】
本発明の第1の態様では、以下の特徴の少なくとも1つを有するプラバスタチン産生株が提供される:
・コンパクチン生合成に必要なすべての遺伝子を含有すること、
・コンパクチンからプラバスタチンへの変換に必要なすべての遺伝子を含有すること(即ち、コンパクチンヒドロキシラーゼ発現宿主細胞)、
・1回の発酵でプラバスタチンを産生することが可能であること。
【0014】
本発明に関して、「プラバスタチン産生細胞」は、上記の特徴の少なくとも1つ、好適には、上記の特徴の少なくとも2つおよび最も好適には、上記の特徴のすべてを示す細胞によって規定される。
【0015】
1つの実施態様では、産生株、ペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)由来のコンパクチン産生宿主細胞が提供される。この生物体は、いくらかの回数の古典的な株改善、ならびに以後のプロセス適応および改善を経て、現在の高力価のペニシリンG発酵プロセスに至った。生物体のDNAにおける多数の変化は、産物ペニシリンGに対するフラックスおよび収率の増加(図1を参照のこと)だけではなく、さらにまた、150,000リットル発酵容器における厳しい条件(即ち、酸素制限、せん断力、グルコース制限など)に対する形態学的変化および適応を生じた。β−ラクタム生合成機構を欠失することによって、任意のβ−ラクタム産生能を欠如するが、せん断力に対する耐性、大規模化に対する適合性、限定培地およびダウンストリームプロセシングに適応される代謝物に対する高い代謝フラックス、ならびに低粘度プロファイルのような産業規模に対する良好な性能を生じるすべての変異(即ち、形態学的、調節および代謝変異)をなお保持する株が得られる。本発明のペニシリン・クリソゲナム(Penicillin chrysogenum)株では、少なくとも、イソペニシリンNシンターゼをコードするβ−ラクタム生合成遺伝子、pcbCが不活化される。また、好ましくは、他のβ−ラクタム生合成遺伝子、L−(α−アミノアジピル)−L−システイニル−D−バリンシンテターゼをコードするpcbAB、および/またはアシル−コエンザイムA:イソペニシリンNアシルトランスフェラーゼをコードするpenDEが不活化される。より好ましくは、遺伝子は、遺伝子の部分の取り出しによって不活化される。遺伝子配列が完全に取り出されることが最も好適である。何故なら、これらの遺伝子の完全な取り出しは、任意のβ−ラクタム生合成能を欠如し、従って、すべての種類の産物を産生するのに極めて有用な株であるするペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)株をもたらすためである。産業用生物体は取り扱いが極めて煩雑であり得るにもかかわらず、驚くべきことに、このペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)株は、良好な形質転換が可能であり、そして天然の産生宿主細胞よりかなり高い力価でスタチン系薬剤を産生することが可能である。
【0016】
本発明に不可欠というわけではないが、好ましくは、ペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)変異体は、産業環境において産生することが可能な生物体から得られる。そのような生物体は、典型的に、高い産生性および/または炭素源の消費量に対する高い産生収率および/またはバイオマスの産生量に対する高い産生収率および/または高い産生速度および/または高い産物力価を有するものとして規定することができる。そのような生物体は、コンパクチンのための宿主細胞への変換に極めて有用である。ペニシリンG産生ペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)株では、例えば、そのような高力価は、1.5g/ Lより高い力価のペニシリンG、好ましくは、2g/Lより高い力価のペニシリンG、より好ましくは、3g/Lより高い力価のペニシリンG、最も好ましくは、4g/Lより高い力価のペニシリンGである。上記の力価は、(1リットルあたり:ラクトース、40g/L;コーンスティープ固体、20g/L;CaCO3、10g/L;KH2PO4、7g/L;フェニル酢酸、0.5g/L;pH6.0を含有する)複合的発酵培地における96時間後の発酵力価に該当する。適切な産業用株は、実験の部(一般的方法)に記載のような株である。
【0017】
ペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)のすべての産業用株系統は、3つの一般的なタイプの変異を生じる多数の回数の古典的な株改善を経た:
(i)ペニシリン代謝物経路の酵素の活性の増加を生じる生合成遺伝子の直接的増幅
(ii)究極的に様々に適応された代謝の再配列を生じる一次代謝遺伝子における改変であって、これらはすべて最終産物に対してより高いフラックスを生じる。例:アミノ酸ビルディングブロックの合成の増加、フェニル酢酸の消費の減少など。
(iii)形態、膜組成、オルガネラ形成の改変を生じ、従って、産業規模において高い代謝フラックスおよび発酵を容易にする細胞構造の改変。例:ペニシリン合成の「組立ライン」の1つであるペルオキシソームの数の増加。
【0018】
クラス(ii)および(iii)と比較してクラス(i)のタイプの変異におけるDNAレベルに有意な区別が認められる。後者の2つのクラスは、ほとんどが、塩基対レベルにおいて単離された変異、欠失、重複および/または異常である一方、クラス(i)における変異クラスは、ゲノムのいくらかの直接および逆方向反復を生じる60〜100kb領域の極めて異なる増幅である。これは、ときどき、顕著な遺伝的不安定性を生じ、不安定かつ変化する集団を生じる。事実、これは、所定のペニシリン産生株では、クラス(ii)および(iii)のすべての変異が固定されるが、クラス(i)の正確なコピー数の変異が変動し得ることを意味する。当業者に公知のこの原理および技術を使用して、1コピーのみのペニシリン生合成遺伝子がなお存在する安定な単離体を得ることができる。出発株のコピー数に依存して、1、2、3またはいくらかの回数のスクリーニングおよび選択で、この状況を得ることができる。次いで、この特定の特徴のため、単離体は、種、NRRL1951、および古典的な株改善後のその最初の子孫、ウィスコンシン(Wisconsin)54−1255までのタイプ株に匹敵し、それらのすべては、1コピーのペニシリン生合成遺伝子を含有する。主な差異は、高い産生性の株由来の1コピー単離体がなお、それを、NRRL1951からウィスコンシン(Wisconsin)54−1255までの株に比べて、産業的に高い産生性の株にするクラス(ii)および(iii)の他のすべての変異を含有することである。続いて、現存の組み換え技術を使用して、ペニシリン生合成遺伝子の最後の組を欠失することができる。これらの工程の詳細な全体像を実施例に示し、そして以下の工程において要約する:
(a)ペニシリウム(Penicillium)株からペニシリン遺伝子クラスターの単一のゲノムコピーを伴う単離体を単離すること
(b)工程(a)において得られる単離体から遺伝子pcbCを欠失すること
(c)場合により、工程(a)または(b)において得られる単離体から遺伝子pcbABおよび/またはpenDEを欠失すること
【0019】
遺伝子は、部分的に不活化することができる。より好ましくは、遺伝子配列は、完全に取り出される。というのも、これらの遺伝子の完全な取り出しが、任意のβ−ラクタム生合成能のない、従って、すべての種類の産物を産生するのに極めて有用な株であるペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)株をもたらすためである。適用することができる組み換え技術は、当業者に周知である(即ち、単一交差または二重相同組み換え)。
【0020】
欠失および置換のための好適なストラテジーは、欧州特許第357,127号明細書に記載の遺伝子置換である。遺伝子および/またはプロモーター配列の特異的欠失は、好ましくは、欧州特許第635,574号明細書に記載のように、amdS遺伝子を選択マーカー遺伝子として使用して実施される。フルオロアセトアミド培地(欧州特許第635,574号明細書)に対する対抗選択によって、得られる株は、選択マーカーを含まず、そしてさらなる遺伝子改変に使用することができる。あるいは、他の前述の技術との組み合わせで、大腸菌(Escherichia coli)におけるコスミドのインビボ組み合わせに基づく技術を、チャヴェロチェ(Chaveroche)ら(2000年、Nucl Acids Res,28,E97)によるように使用することができる。この技術は、例えば、ペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)のような他の糸状菌にも適用可能である。また、増幅されたゲノムフラグメントを取り出すための同じ原理を、古典的な株改善プログラムが遺伝子およびゲノム重複を誘導している他の産業用産生種に適用することができる。また、ここで、クラス(ii)および(iii)のさらなる変異は、固定され、そして株が産業的発酵プロセスにおいて良好に生育することができることを確実にする。
【0021】
そのようなペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)細胞は、コンパクチン生合成に必要なすべてのタンパク質および酵素をコードする遺伝子を具備することができる。ペニシリウム・シトリヌム(Penicillium citrinum)の9つの遺伝子、ポリケチドシンターゼをコードするmlcA;ポリケチドシンターゼをコードするmlcB;P450モノオキシゲナーゼをコードするmlcC;HMG−CoAレダクターゼをコードするmlcD;排出ポンプをコードするmlcE;オキシドレダクターゼをコードするmlcF;デヒドロゲナーゼをコードするmlcG;トランスエステラーゼをコードするmlcH;転写因子をコードするmlcRについては、コンパクチン生合成に関与することが記載されている(アベ(Abe)ら、2002年、Mol Genet Genomics 267:636−646;アベ(Abe)ら、2002年、Mol Genet Genomics 268:130−137)。
【0022】
コンパクチン産生宿主細胞を得るために、単離されたペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)株は、上記の遺伝子の少なくとも1つ、好適には、上記の遺伝子の2つ以上、より好適には、上記の遺伝子のすべてで形質転換される。
【0023】
別の実施態様でも、同じ原理を適用して:限定されないが、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・テレウス(Aspergillus terreus)、ペニシリウム・ブレビコンパクタム(Penicillium brevicompactum)、ペニシリウム・シトリヌム(Penicillium citrinum)、麹菌(Aspergillus oryzae)、トリコデルマ・リーセイ(Trichoderma reesei)、クリソスポリウム・ラクナウェンス(Chrysosporium lucknowense)、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、クリュイベロマイセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)、モナスカス・ルバー(Monascus ruber)、モナスカス・パキシー(Monascus paxii)、ムコール・ヒエマリス(Mucor hiemalis)、ピキア・シフェリイ(Pichia ciferrii)およびピキア・パストリス(Pichia pastoris)のような他の真核生物種の適切なコンパクチン産生宿主細胞ならびにそれらの産業的誘導体に至ることができる。これらの種の産業的誘導体は、様々な回数の古典的変異誘発、その後、それらを本発明の特定の用途に適合する改善された産業的産生特徴のためにスクリーニングおよび選択を経た。所望されない産物の部分または完全な経路を取り出す(即ち、欠失する)ことによって、株は、それらの所望される産業的発酵特徴および(酵素を含む)代謝物への高いフラックスを維持する。
【0024】
なお別の実施態様では、コンパクチンの産生は、改善された動態特徴を伴う相同タンパク質を使用することによって改善することができる。そのような「相同体」または「相同配列」は、ドナー種から単離される本来のDNA配列によってコードされるポリペプチドの少なくとも1つの活性を示し、そして特定されたDNA配列によってコードされるタンパク質のアミノ酸配列に対してある程度の同一性を所有するアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするDNA配列として規定される。コンパクチン生合成遺伝子に対して「実質的に相同」であるアミノ酸配列を有するポリペプチドは、特定されたアミノ酸配列に対して少なくとも25%、より好ましくは、少なくとも30%、より好ましくは、少なくとも40%、より好ましくは、少なくとも50%、なおより好ましくは、少なくとも60%、なおより好ましくは、少なくとも70%、なおより好ましくは、少なくとも80%、なおより好ましくは、少なくとも90%、なおより好ましくは、少なくとも98%、および最も好ましくは、少なくとも99%の程度の同一性を所有するアミノ酸配列を有するポリペプチドとして規定され、実質的に相同なペプチドは、コンパクチンおよび/またはコンパクチン−前駆体の合成に対する活性を示す。このアプローチを使用して、フィードバック阻害を克服すること、分泌の改善および副産物形成の減少のような様々な利点が得られる。相同配列は、異なる集団由来の細胞または天然の対立遺伝子または株内の変動による集団内に存在し得る多型を包含してもよい。相同体は、さらに、特定されたDNA配列を生じる種以外の種から誘導してもよく、または人工的に設計および合成してもよい。特定されたDNA配列に関連し、そして遺伝子暗号の縮重によって得られるDNA配列もまた、本発明の部分である。相同体はまた、全長配列の生物学的に活性なフラグメントを包含してもよい。
【0025】
合成手段によって単離される相同配列は、特に興味深い。この方法によって、コンパクチンを産生する宿主細胞に誘導しようとする遺伝子の可能なすべての変種を、インシリコで設計することができる。これは、遺伝子が、コンパクチン産生宿主細胞において至適に発現され;制限酵素および/または部位特異的リコンビナーゼに関連する配列を取り出し、および誘導し;異なる組み合わせの遺伝子を作製するなどのように、遺伝子のコドン使用頻度を適応する機会を広げる。
【0026】
本発明の目的のために、2つのアミノ酸配列間の同一の程度は、2つの配列間で同一であるアミノ酸の百分率を指す。同一の程度は、アルトシュル(Altschul)ら、J.Mol.Biol.215:403−410(1990年)において記載されているBLASTアルゴリズムを使用して決定される。BLAST解析を実施するためのソフトウェアは、National Center for Biotechnology Information(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)を介して公的に入手することができる。BLASTアルゴリズムパラメータW、TおよびXは、アラインメントの感度および速度を決定する。BLASTプラグラムは、デフォルトとして、11のワード長(W)、50のBLOSUM62スコアリングマトリックス(ヘニコフ(Henikoff)およびヘニコフ(Henikoff)、Proc.Natl.Acad.Sci.USA89:10915(1989年)を参照のこと)アラインメント(B)、10の期待値(E)、M=5、N=−4、および両鎖の比較を使用する。
【0027】
実質的に相同なポリペプチドは、単に、特定されたアミノ酸配列の1つ以上のアミノ酸の保存的置換または非必須アミノ酸の置換、挿入もしくは欠失を含有してもよい。従って、非必須アミノ酸は、生物学的機能を実質的に変更することなく、これらの配列の1つにおいて変更することができる残基である。例えば、表現型性サイレントアミノ酸置換の作製方法に関する指針は、ボウイ,J.U.(Bowie,J.U.)ら、Science 247:1306−1310(1990年)に提供されており、ここで、著者らは、アミノ酸配列の変更に対する忍容性を研究するための主な2つのアプローチが存在することを示している。第1の方法は、変異が天然の選択によって許容されるかまたは拒絶されるかのいずれかである進化のプロセスに依存する。第2のアプローチは、遺伝子操作を使用して、クローニングされた遺伝子の特定の位置におけるアミノ酸変化を誘導し、そして選択またはスクリーニングして、機能性を維持する配列を同定する。著者らが述べているように、これらの研究は、タンパク質がアミノ酸置換に対して驚くほど忍容性であることを示している。著者らは、どの変化が、タンパク質の所定の位置において許容されやすいかをさらに示している。例えば、ほとんどの埋没されるアミノ酸残基は非極性側鎖を必要とするが、表面側鎖の特徴は、一般的にほとんど保存されない。他のそのような表現型性サイレント置換については、ボウイ(Bowie)ら、および本明細書において引用した参考文献に記載されている。
【0028】
用語「保存的置換」は、アミノ酸残基が類似の側鎖を有するアミノ酸残基で置き換えられる置換を意味することが意図される。これらのファミリーは、当該技術分野において公知であり、そして塩基側鎖(例えば、リジン、アルギニンおよびヒスチジン)、酸性側鎖(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖(例えば、グリシン、アスパラギン類、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β−分岐側鎖(例えば、スレオニン、バリン、イソロイシン)ならびに芳香族側鎖(例えば、チロシン、フェニルアラニントリプトファン、ヒスチジン)を伴うアミノ酸を含む。
【0029】
さらに、相同ではないが、スタチン合成の同じ生合成ビルディング原理に従う生合成遺伝子クラスターを使用することができる。
【0030】
本発明の核酸構築物、例えば、発現構築物は、少なくとも1つの目的の遺伝子を含有するが、一般に、いくらかの目的の遺伝子を含有し;それぞれ、コンパクチン産生宿主細胞においてコードされるポリペプチドの発現を指令する1つ以上の制御配列に作動可能に連結される。核酸構築物は、1つのDNAフラグメント上にあってもまたは個別のフラグメント上にあってもよい。最も高い可能な産生性を得るために、目的のすべての遺伝子のバランスの取れた発現は、極めて重要である。従って、プロモーターの範囲は有用であり得る。ペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)のような糸状菌細胞の適用に好適なプロモーターは、当該技術分野において公知であり、そして例えば、ペニシリウム・シトリヌム(Penicillium citrinum)由来の遺伝子のプロモーター;グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼgpdAプロモーター;ペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)pcbAB、pcbCおよびpenDEプロモーター;pepA、pepB、pepCのようなプロテアーゼプロモーター;グルコアミラーゼglaAプロモーター;アミラーゼamyA、amyBプロモーター;カタラーゼcatRまたはcatAプロモーター;グルコースオキシダーゼgoxCプロモーター;β−ガラクトシダーゼlacAプロモーター;α−グルコシダーゼaglAプロモーター;翻訳伸長因子tefAプロモーター;xlnA、xlnB、xlnC、xlnDのようなキシラナーゼプロモーター;eglA、eglB、cbhAのようなセルラーゼプロモーター;areA、creA、xlnR、pacC、prtT、alcRのような転写調節因子のプロモーターなどであり得る。前記プロモーターは、当業者によって、特に、NCBIインターネットウェブサイト(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/)において容易に見出すことができる。糸状菌種以外から誘導されるコンパクチン産生宿主細胞の場合、プロモーターの選択は、宿主の選択によって決定される。
【0031】
好適な実施態様では、プロモーターは、高度に発現される(本明細書において、少なくとも0.5%(w/w)の全細胞mRNAを伴うmRNA濃度として規定される)遺伝子から誘導され得る。プロモーターは、中程度に発現される(本明細書において、少なくとも0.01%〜0.5%(w/w)の全細胞mRNAを伴うmRNA濃度として規定される)遺伝子から誘導され得る。好適な実施態様では、プロモーターは、低度で発現される(本明細書において、0.01%(w/w)未満の全細胞mRNAを伴うmRNA濃度として規定される)遺伝子から誘導され得る。
【0032】
なおより好適な実施態様では、遺伝子、およびそれ故、所定の転写レベルおよび調節を有するそれらの遺伝子のプロモーターを選択するために、マイクロアレイデータが使用される。この方法では、遺伝子発現カセットを、それが機能すべき条件に至適に適応することができる。これらのプロモーターフラグメントは、多くの供給源、即ち、異なる種から、PCR増幅、合成などによって誘導することができる。
【0033】
最も好適な実施態様では、すべてのコンパクチン産生宿主細胞における至適産生のために、本来のペニシリウム・シトリヌム(Penicillium citrinum)プロモーターが、遺伝子mlcRによってコードされる経路特異的転写調節因子による制御下にはないプロモーターによって置き換えられる。この遺伝子により、mlcRは、コンパクチン産生宿主細胞において含む必要はなく、そして代替的な制御機構を導入することができる。
【0034】
制御配列はまた、適切な転写終結配列、転写を終結するために真核細胞によって認識される配列を含んでもよい。ターミネーター配列は、ポリペプチドをコードする核酸配列の3’末端に作動可能に連結される。細胞において機能的であるいずれのターミネーターも本発明において使用することができる。糸状菌細胞のための好適なターミネーターは、以下をコードする遺伝子:麹菌(Aspergillus oryzae)TAKAアミラーゼ;ペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)pcbAB、pcbCおよびpenDEターミネーター;アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)グルコアミラーゼ;アスペルギルス・ニダランス(Aspergillus nidulans)アントラニル酸シンターゼ;アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)α−グルコシダーゼ;アスペルギルス・ニダランス(Aspergillus nidulans)trpC遺伝子;アスペルギルス・ニダランス(Aspergillus nidulans)amdS;アスペルギルス・ニダランス(Aspergillus nidulans)gpdA;フザリウム・オキシスポラム(Fusarium oxysporum)トリプシン様プロテアーゼから得られる。さらにより好適なターミネーターは、天然の生産者、ペニシリウム・シトリヌム(Penicillium citrinum)から誘導される遺伝子の1つである。糸状菌種以外から誘導されるコンパクチン産生宿主細胞の場合、終結配列の選択は、宿主の選択によって決定される。
【0035】
制御配列はまた、適切なリーダー配列、細胞による翻訳に重要であるmRNAの非翻訳領域であってもよい。リーダー配列は、ポリペプチドをコードする核酸配列の5’末端に作動可能に連結される。細胞において機能的であるいずれのリーダー配列も本発明において使用することができる。糸状菌細胞のための好適なリーダーは、麹菌(Aspergillus oryzae)TAKAアミラーゼおよびアスペルギルス・ニダランス(Aspergillus nidulans)トリオースリン酸イソメラーゼおよびアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)glaAをコードする遺伝子から得られる。
【0036】
制御配列はまた、核酸配列の3’末端に作動可能に連結され、転写される場合、転写されるmRNAにポリアデノシン残基を付加するためのシグナルとして糸状菌細胞に認識されるポリアデニル化配列であってもよい。細胞において機能的であるいずれのポリアデニル化配列も本発明において使用することができる。糸状菌細胞のための好適なポリアデニル化配列は、麹菌(Aspergillus oryzae)TAKAアミラーゼ、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)グルコアミラーゼ、アスペルギルス・ニダランス(Aspergillus nidulans)アントラニル酸シンターゼ、フザリウム・オキシスポラム(Fusarium oxysporum)トリプシン様プロテアーゼ、およびアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)α−グルコシダーゼをコードする遺伝子から得られる。
【0037】
分泌させようとするポリペプチドのための制御配列はまた、コードされるポリペプチドを細胞の分泌経路に向けることができる、ポリペプチドのアミノ末端に連結されたアミノ酸配列をコードするシグナルペプチドコード領域を含んでもよい。核酸コード配列の5’末端は、分泌されるポリペプチドをコードするコード領域のセグメントを伴う翻訳リーディングフレームにおいて天然に連結されるシグナルペプチドコード領域を本質的に含有してもよい。あるいは、コード配列の5’末端は、コード配列に対して外来性であるシグナルペプチドコード領域を含有してもよい。外来性のシグナルペプチドコード領域は、コード配列がシグナルペプチドコード領域を天然には含有しない場合に要求され得る。あるいは、外来性シグナルペプチドコード領域は、ポリペプチドの増強された分泌を得るために、天然のシグナルペプチドコード領域と単純に置き換わってもよい。
【0038】
真核生物のコンパクチン産生宿主細胞の場合、制御配列は、オルガネラターゲティングシグナルを含んでもよい。そのような配列は、細胞内の最終目的地(即ち、コンパートメントまたはオルガネラ)を指向することができるポリペプチドに連結されるアミノ酸配列によってコードされる。核酸配列のコード配列の5’または3’末端は、ポリペプチドをコードするコード領域のセグメントを伴う翻訳リーディングフレームにおいて天然に連結されるターゲティングシグナルコード領域を本質的に含有してもよい。様々な配列が当業者に周知であり、そしてミトコンドリア、ペルオキシソーム、小胞体、ゴルジ装置、液胞、核などのようなコンパートメントにタンパク質を標的化するために使用することができる。核酸構築物は、発現ベクターであってもよい。発現ベクターは、組換えDNA手順に簡便に供され得、ポリペプチドをコードする核酸配列の発現をもたらし得るいずれのベクター(例えば、プラスミドまたはウイルス)であってもよい。ベクターの選択は、典型的に、ベクターと、ベクターを導入しようとする細胞との適合性に依存する。ベクターは、線状であってもまたは閉環状プラスミドであってもよい。ベクターは、自律的複製型ベクター、即ち、その複製が染色体複製とは独立する細胞外染色体実体として存在するベクター、例えば、プラスミド、染色体外エレメント、ミニ染色体、または人工染色体であってもよい。糸状菌の自律的に維持されるクローニングベクターは、AMA1配列を含んでなり得る(例えば、アレクセンコ(Aleksenko)およびクラッターバック(Clutterbuck)(1997年)、Fungal Genet.Biol.21:373−397を参照のこと)。あるいは、ベクターは、細胞に導入される場合、ゲノムに組込まれ、それが組込まれている染色体と共に複製するものであってもよい。組込みクローニングベクターは、宿主細胞の染色体の無作為または予め決定された標的遺伝子座に組込み得る。本発明の好適な実施態様では、組込みクローニングベクターは、この予め決定された座位へのクローニングベクターの組込みを標的化するための宿主細胞のゲノムにおける予め決定された標的遺伝子座のDNA配列に相同であるDNAフラグメントを含んでなる。標的化組込みを促進するために、クローニングベクターは、好ましくは、宿主細胞の形質転換の前に線状化される。線状化は、好ましくは、少なくとも1つ、但し、好ましくは、クローニングベクターのいずれか一方の末端が標的遺伝子座に相同な配列によって隣接されるように、実施される。標的遺伝子座に隣接する相同配列の長さは、好ましくは、少なくとも0.1kb、なお好ましくは、さらに少なくとも0.2kb、より好ましくは、少なくとも0.5kb、さらにより好ましくは、少なくとも1kb、最も好ましくは少なくとも2kbである。
【0039】
相同組換えによる宿主細胞のゲノムへの核酸構築物の標的化された組込み、即ち、予め決定された遺伝子座における組込みの効率は、好ましくは、宿主細胞の増大した相同組換え能によって増加する。細胞のそのような表現型は、好ましくは、国際公開第05/095624号パンフレットに記載の欠損hdfAまたはhdfB遺伝子に関与する。国際公開第05/095624号パンフレットは、上昇した効率の標的化された組み込みを含んでなる糸状菌細胞を得るための好適な方法を開示する。
【0040】
ベクターシステムは、宿主細胞のゲノムに導入しようとする全DNAを共に含有する単一のベクターまたはプラスミドあるいは2つ以上のベクターまたはプラスミドであってもよい。しかし、本発明では、構築物は、好ましくは、宿主株のゲノムに組み入れられる。これは無作為なプロセスであるため、これはさらに、大量の酵素、およびそれに続いて、高い産生性を生じる遺伝子発現を駆動するのに高度に適するゲノム座位への組込みを生じ得る。
【0041】
真菌細胞は、プロトプラスト形成、プロトプラスト形質転換、および細胞壁の再生によって、形質転換してもよい。真菌宿主細胞の形質転換に適切な手順については、欧州特許第238,023号明細書およびエルトン(Yelton)ら(1984年、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81:1470−1474)に記載されている。アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)を使用する糸状菌宿主細胞の形質転換に適切な手順については、デ・グルートM.J.(de Groot M.J.)ら(1998年、Nat Biotechnol16:839−842;正誤表:1998年、Nat Biotechnol16:1074)によって記載されている。アカパンカビ(Neurospora crassa)について記載のエレクトロポレーションのような他の方法もまた、適用してよい。
【0042】
真菌細胞は、同時形質転換を使用して形質転換される(即ち、目的の遺伝子に伴って、選択マーカー遺伝子も形質転換される)。これは、目的の遺伝子(即ち、プラスミド上)または個別のフラグメント上のいずれかに物理的に連結することができる。トランスフェクション後、形質転換体を、この選択マーカー遺伝子の存在についてスクリーニングし、続いて、目的の遺伝子の存在について分析する。選択マーカーは、殺生物剤またはウイルスに対する耐性、重金属に対する耐性、栄養要求体に原栄養性などを提供する産物である。有用な選択マーカーとして、amdS(アセトアミダーゼ)、argB(オルニチンカルバモイルトランスフェラーゼ)、bar(ホスフィノトリシンアセチルトランスフェラーゼ)、hygB(ハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ)、niaD(硝酸レダクターゼ)、pyrG(オロチジン−5’−リン酸デカルボキシラーゼ)、sCもしくはsutB(硫酸アデニルトランスフェラーゼ)、trpC(アントラニル酸シンターゼ)、ble(フレオマイシン耐性タンパク質)、またはそれらの均等物が挙げられる。
【0043】
別の実施態様でも、同じ原理を適用して:限定されないが、ストレプトマイセス・クラブリゲルス(Streptomyces clavuligerus)、ストレプトマイセス・アバーミチリス(Streptomyces avermitilis)、ストレプトマイセス・ペウセティウス(Streptomyces peucetius)、ストレプトマイセス・コエリカラー(Streptomyces coelicolor)、ストレプトマイセス・リビダンス(Streptomyces lividans)、ストレプトマイセス・カルボフィラス(Streptomyces carbophilus)、アミコラトピス・オリエンタリス(Amycolatopis orientalis)、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)および大腸菌(Escherichia coli)のような原核生物種の適切なコンパクチン産生宿主細胞ならびにそれらの産業的誘導体に至ることができる。これらの種の産業的誘導体は、様々な回数の古典的変異誘発、その後、それらを本発明の特定の用途に適合する改善された産業的産生特徴のためにスクリーニングおよび選択を経た。所望されない産物の部分または完全な経路を取り出す(即ち、欠失する)ことによって、株は、それらの所望される産業的発酵特徴および(酵素を含む)代謝物への高いフラックスを維持する。ここでは、ペニシリウム・シトリヌム(Penicillium citrinum)コンパクチン遺伝子のリスト(mlcA、mlcB、mlcC、mlcD、mlcE、mlcF、mlcG、mlcHおよび/またはmlcR)から選択されるすべての遺伝子は、原核細胞において機能的に発現されるように、現存の方法によって改変する必要がある。当業者であれば、これが、制限されないが、以下を含む真核生物について上記の概説に匹敵する様々な工程に関与することを理解するであろう:
・(真核生物のイントロンを排除するために)cDNAまたは合成DNAを得ること
・場合により、コドン最適化を使用すること
・原核細胞において機能的なプロモーターを備え付けること
・原核細胞において機能的なターミネーターを備え付けること
・原核細胞において機能的なベクターを介して導入すること
【0044】
本発明の別の実施態様では、コンパクチンをプラバスタチンに変換するのに必要な遺伝子を含んでなる宿主微生物が提供される。実施例3のペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)コンパクチン産生宿主細胞のペニシリン産生親株は、驚くべきことに、コンパクチンをプラバスタチンに変換するのに特に有用である。p450酵素をコードするストレプトマイセス・カルボフィラス(Streptomyces carbophilus)遺伝子P−450sca−2は、ワタナベ(Watanabe)ら(1995年、Gene163:81−85)により、コンパクチンからプラバスタチンへの変換のための触媒であることが記載された。これまでのところ、この遺伝子は、ストレプトマイセス・カルボフィラス(Streptomyces carbophilus)およびストレプトマイセス・リビダンス(Streptomyces lividans)においてのみ発現が成功した(ワタナベ(Watanabe)、1995年)。p450酵素は、幾分特異的な補因子再生系を必要とすることが公知であり(ピリペンコ(Pylypenko)およびシュリチング(Schlichting)、2004年、Annu.Rev.Biochem.73:991−1018を検討のために参照のこと)、そのため、良好な異種発現のために、この再生系は、同時誘導する必要がある(例えば、クボタ(Kubota)ら、2005年、Biosci.Biotechnol.Biochem.69:2421−2430を参照のこと)。驚くべきことに、ストレプトマイセス・カルボフィラス(Streptomyces carbophilus)由来の構造P−450sca−2遺伝子のみを具備するコンパクチン産生ペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)宿主細胞は、コンパクチンをプラバスタチンに変換することが可能であり、従って、プラバスタチンの1工程発酵の最初の例である。プラバスタチンの産生レベルは、前記ペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)宿主細胞にフェレドキシン遺伝子を備え付けることによっても有意に改善することができる。好ましくは、前記フェレドキシン遺伝子は、米国特許出願公開第2006/0172383号明細書に記載のストレプトマイセス・ヘルバチカス(Streptomyces helvaticus)またはストレプトマイセス・カルボフィラス(Streptomyces carbophilus)由来である。本発明の範囲は、これらの具体例に制限されない。
【0045】
本発明の第2の態様では、以下の工程を含んでなる目的の化合物を産生させるための方法が開示される:
(a)コンパクチン生合成のための最小限の要件をコードする目的の遺伝子を含んでなるポリヌクレオチドで宿主細胞を形質転換すること;
(b)コンパクチンヒドロキシラーゼをコードする目的の遺伝子を含んでなるポリヌクレオチドおよび/または目的の遺伝子の発現に影響を及ぼすDNA配列を含んでなるポリヌクレオチドで前記宿主細胞を形質転換すること;
(c)形質転換された細胞のクローンを選択すること;
(d)前記選択された細胞を培養すること;
(e)栄養供給源を前記培養細胞に供給すること、ならびに;
(f)前記培養物から目的の化合物を単離すること。
【0046】
好適な実施態様では、目的の化合物はプラバスタチンである。
【0047】
別の実施態様では、コンパクチンヒドロキシラーゼ発現宿主細胞におけるプラバスタチンの産生は、改善された動態特徴を伴う相同タンパク質を使用することによって、改善することができる。そのような「相同体」または「相同配列」は、ドナー種から単離される本来のDNA配列によってコードされるポリペプチドの少なくとも1つの活性を示し、そして特定されたDNA配列によってコードされるタンパク質のアミノ酸配列に対してある程度の同一性を所有するアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするDNA配列として規定される。コンパクチンヒドロキシラーゼ遺伝子に対して「実質的に相同」であるアミノ酸配列を有するポリペプチドは、特定されたアミノ酸配列に対して少なくとも25%、より好ましくは、少なくとも30%、より好ましくは、少なくとも40%、より好ましくは、少なくとも50%、なおより好ましくは、少なくとも60%、なおより好ましくは、少なくとも70%、なおより好ましくは、少なくとも80%、なおより好ましくは、少なくとも90%、なおより好ましくは、少なくとも98%、および最も好ましくは、少なくとも99%の程度の同一性を所有するアミノ酸配列を有するポリペプチドとして規定され、実質的に相同なペプチドは、プラバスタチンの合成に対する活性を示す。このアプローチを使用して、フィードバック阻害を克服すること、分泌の改善および副産物形成の減少のような様々な利点が得られる。相同配列は、異なる集団由来の細胞または天然の対立遺伝子または株内の変動による集団内に存在し得る多型を包含してもよい。相同体は、さらに、特定されたDNA配列を生じる種以外の種から誘導してもよく、または人工的に設計および合成してもよい。特定されたDNA配列に関連し、そして遺伝子暗号の縮重によって得られるDNA配列もまた、本発明の部分である。合成で単離される相同配列は特に重要である。この方法によって、適切なp450酵素をコードする遺伝子の可能なすべての変種を、インシリコで設計することができる。これは、遺伝子が、コンパクチン産生宿主細胞および/またはコンパクチンヒドロキシラーゼ発現宿主細胞において至適に発現され;制限酵素および/または部位特異的リコンビナーゼに関連する配列を取り出し、および誘導し;異なる組み合わせの遺伝子を作製するなどのような方法で、遺伝子のコドン使用頻度を適応する機会を広げる。あるいは、改善された動態学的特性を伴う相同配列を得るための方法として、エラープローンPCR、ファミリーシャッフリングおよび/または定向進化のようなインビトロでの進化論的アプローチを使用することができる。相同体はまた、全長配列の生物学的に活性なフラグメントを包含してもよい。さらに、相同体ではないが、コンパクチンまたはいずれかのコンパクチン−前駆体由来のプラバスタチンからの形成を触媒する遺伝子を使用することができる。
【0048】
さらなる実施態様では、コンパクチンからプラバスタチンへの変換の効率は、p450酵素に必要な特異的酸化還元再生系を単離し、そしてこれをコンパクチンヒドロキシラーゼ発現宿主細胞に導入することによって改善してもよい。そのような系を宿主細胞に導入する方法は、コンパクチンヒドロキシラーゼの導入に関する説明と同じであり、上記で概説している。そのような酸化還元再生系は、コンパクチンヒドロキシラーゼ(即ち、p450)をコードするポリヌクレオチドが入手され得る種と同じ種から入手され得るか、または例えば、ペニシリウム(Penicillium)種(即ち、ペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)、ペニシリウム・シトリヌム(Penicillium citrinum))、アスペルギルス(Aspergillus)種(即ち、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・ニダランス(Aspergillus nidulans)、アスペルギルス・テレウス(Aspergillus terreus))、ムコール(Mucor)種(即ち、ムコール・ヒエマリス(Mucor hiemalis))、モナスカス(Monascus)種(即ち、モナスカス・ルバー(Monascus ruber)、モナスカス・パキシー(Monascus paxii))、ストレプトマイセス(Streptomyces)種(即ち、ストレプトマイセス・カルボフィラス(Streptomyces carbophilus)、ストレプトマイセス・フラビドビレンス(Streptomyces flavidovirens)、ストレプトマイセス・コエリカラー(Streptomyces coelicolor)、ストレプトマイセス・リビダンス(Streptomyces lividans)、ストレプトマイセス・エクスフォリエーテス(Streptomyces exfoliates)、ストレプトマイセス・アバーミチリス(Streptomyces avermitilis)、ストレプトマイセス・クラブリゲルス(Streptomyces clavuligerus))、アミコラトプシス(Amycolatopsis)種(即ち、アミコラトプシス・オリエンタリス(Amycolatopsis orientalis)NRRL18098、アミコラトプシス・オリエンタリス(Amycolatopsis orientalis)ATCC19795)、バチルス(Bacillus)種(即ち、バチルス・サブチルス(Bacillus subtilus)、バチルス・アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis))、コリネバクテリウム(Corynebacterium)種(即ち、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum))、もしくはエシェリキア(Escherichia)種(即ち、大腸菌(Escherichia coli))である種において異種発現され得るまた、代替的系を適用することもできる。代替的系の例には、本発明のコンパクチンヒドロキシラーゼをクラスIVp450系に組込み、それによって、それを酸化還元パートナーに融合すること(例えば、ロバーツ(Roberts)ら、2002年、J Bacteriol 184:3898−3908およびノダテ(Nodate)ら、2005年、Appl Microbiol Biotechnol 9月30日;:1−8[電子版]を参照のこと)、または亜リン酸デヒドロゲナーゼのようなNAD(P)H生成非p450連結酵素(ヨハネス(Johannes)ら、2005年、Appl Environ Microbiol.71:5728−5734)、または非酵素的手段(例えば、ホールマン(Hollmann)ら、2006年、Trends Biotechnol24:163−171を参照のこと)があるが、これらに限定されない。それ故、得られる宿主細胞は、プラバスタチンを産生させるために使用してもよい。
【0049】
別の実施態様では、コンパクチン産生宿主細胞とコンパクチンヒドロキシラーゼ発現宿主細胞とを混合し、続いて、混合培養物として両方の宿主細胞を培養することによって、プラバスタチンの1工程発酵が行われ、このことから、コンパクチンを産生する宿主細胞によって産生され、そして分泌されるコンパクチンが、インポートされ、そしてコンパクチンヒドロキシラーゼ発現宿主細胞によってプラバスタチンに変換されることが理解される。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の略図である。野生型(WT)株は、取り入れられる炭素を、増殖、産物(ペニシリンG)および維持に分配するための固定比率を有する。産業用株では、このバランスは、産物の方に偏る。コンパクチン産生宿主細胞では、ペニシリンG経路が取り出され、そのため、増殖と維持との間で、再度、炭素フラックスのバランスがとられる。新規産生株では、産業的炭素フラックスのバランスは、新規産生経路を導入することによって回復する。説明:I=野生型ペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)株;II=産業用ペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)株;III=ペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)β−ラクタムを含まない株;IV=新たな産物を産生するペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)β−ラクタムを含まない株;S=炭素源(即ち、糖);G=ペニシリンG;X=バイオマス;M=維持;P=コンパクチンおよび/またはプラバスタチン。
【図2】ペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)およびペニシリウム・シトリヌム(Penicillium citrinum)においてストレプトマイセス・カルボフィラス(Streptomyces carbophilus)p−450sca−2酵素を発現させるために使用されるp−450sca−2発現ベクターpANp450aを示す。
【図3】単一コピーのペニシリン生合成遺伝子クラスターを伴う産業用ペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)単離体のサザンブロット分析を示す。説明:#=単離体の番号;N=npe10;W=Wis54−1255;I=中間的親;N=niaA遺伝子フラグメント;P=pcbC遺伝子フラグメント。
【図4】フェノキシ酢酸を伴う無機培地上、振盪フラスコにおける様々な株の相対的ペニシリンV力価を示す。Y軸上に、ペニシリンVの百分率を示す(産業用親のレベルを100に設定する)。説明:C=産業用親;I=中間的親;W=Wis54−1255;N=npe10;#=単離体の番号。
【図5】産業用ペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)株の誘導体からペニシリン遺伝子クラスターの最終コピーを取り出すための欠失ストラテジーの概念図である。説明:A=pcbAB遺伝子;B=pcbC遺伝子;C=penDE遺伝子;M=amdS遺伝子カセット;3=3kbフランク長;5=5kbフランク長;7=7kbフランク長。ハッチングを施された領域は相同フランキング領域を示し;斜めのハッチングは左フランキングを示し、そして縦のハッチングは右フランキングを示す。
【図6】フェニル酢酸を伴う無機培地上、振盪フラスコにおける様々な株の相対的ペニシリンG力価を示す。Y軸上に、ペニシリンGの百分率を示し、産業用親株のレベルを100に設定する。説明:C=産業用親;I=中間的親;W=Wis54−1255;N=npe10;#=単離体の番号。
【図7】コンパクチン遺伝子クラスター(長さは38231bpである)の略図である。破線矢印は、遺伝子およびその場所での配向を示す。小さな実線矢印は、クローニングストラテジーにおいて使用されるPCRプライマーの位置を示す。上部のサイズは、PCRを介して増幅されるフラグメントの長さを示す(1つの18kbフラグメントに対するいくらかのクローニング工程を介して、10および8kbのフラグメントが組み合わされるが、詳細については実施例を参照のこと)。説明:A=mlcA遺伝子;B=mlcB遺伝子;C=mlcC遺伝子;D=mlcD遺伝子;E=mlcE遺伝子;F=mlcF遺伝子;G=mlcG遺伝子;H=mlcH遺伝子;R=mlcR遺伝子。
【図8】コンパクチン遺伝子クラスターの中間部分(14.3kb)および右側の部分(6kb)のPCR増幅を示す。
【図9】コンパクチンクラスターの18kbの左側部分のクローニングストラテジーの概略図である。パネルA:pCR2.1TOPOT/Aにおいてクローニングされた10kbおよび8kbのフラグメントのPCR増幅。パネルB:10および8kbのフラグメントの融合−クローニング。NotI−XbaI消化10kbプラスミドに連結される8kbのフラグメントのNotI−SpeI消化。mlcAオープンリーディングフレームを回復するための内部の6kbのフラグメントのPCR増幅。パネルC:最終的な18kbのフラグメント。pDONR41Zeoへのゲートウェイ反応を介して移し替えされる。説明:CGC=コンパクチン遺伝子クラスター;N=NotI;A=Acc65I;X=XbaI;S=SpeI。
【図10】発酵ブロスの上清のHPLC分析を示す。パネルA:すべてのペニシリン生合成遺伝子クラスターを取り出したペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)株。パネルB:組込まれたコンパクチン遺伝子クラスターを伴うペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)の形質転換体の1つ。ML−236Aに対応するピークが、2.6分において認められる。説明:X軸=分;Y軸=相対的ピーク強度を示す任意単位。
【図11】HPLCによって検出されるプラバスタチンの形成を示す。パネルAは、コンパクチン生合成遺伝子およびストレプトマイセス・カルボフィラス(Streptomyces carbophilus)由来のP−450sca−2遺伝子を具備するペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)株由来のブロスである。パネルBは、パネルAと同じであるが、但し、この化合物に対応するピークを示すために、純粋なプラバスタチンがスパイクされている。プラバスタチンに対応するピークが、9.7分において認められる。他の主要なピークは、ML−236A(8.7分)およびコンパクチン(11.5分)由来である。説明:X軸=分;Y軸=相対的ピーク強度を示す任意単位。
【図12】LC/MS/MSによって検出されるプラバスタチンの形成を示す。パネルAは、LCを介して分析したコンパクチン生合成遺伝子およびストレプトマイセス・カルボフィラス(Streptomyces carbophilus)由来のP−450sca−2遺伝子を具備するペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)株由来のブロスである。プラバスタチンに対応するピークが、8.7分において認められる。説明:X軸=分;Y軸=相対的ピーク強度を示す任意単位。パネルBは、パネルAのサンプルのMS/MS分析である。ピークパターンは、正確な質量(423)およびフラグメント化パターン(321、303および198)を伴うプラバスタチンに対応する。説明:X軸=質量;Y軸=相対的ピーク強度を示す任意単位。
【実施例】
【0051】
[一般的方法]
標準的なDNA手順は、その他(サンブルック(Sambrook)ら、1989年、Molecular cloning:a laboratory manual、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,New York)に記載のとおりに行った。特定のDNA方法を適用した場合は、これらについて具体的に説明する。DNAは、プルーフリーディング酵素Herculaseポリメラーゼ(Stratagene)を使用して、増幅した。制限酵素は、InvitrogenまたはNew England Biolabs製であった。
【0052】
[比較例1]
[欧州特許第1,266,967号明細書に記載の株によるスタチン産生]
マンゾーニ(Manzoni)らは、3つの異なる刊行物(1998年、Biotechnol Techn 12:529−532;1999,Biotechnol Lett21:253−257;欧州特許第1,266,967号明細書)において、様々なスタチン産生株の単離について記載している。前者の2つの刊行物の株は利用可能ではないが、欧州特許第1,266,967号明細書に記載の株は利用可能である。モナスカス・ルバー(Monascus ruber)GN/33およびアスペルギルス・テレウス(Aspergillus terreus)GN/2218は、それぞれ、コレクション番号DSM13554およびDSM13596の下でGerman National Resource Centre for Biological Materialで入手した。コントロール株として:ペニシリウム・シトリヌム(Penicillium citrinum)NRRL8082およびアスペルギルス・テレウス(Aspergillus terreus)ATCC20542を使用した。ポテトデキストロース寒天(PDA)スラント上、2〜7日間、25℃で株の胞子形成を誘導した。胞子を0.5%Tween80に回収し、そして欧州特許第1,266,967号明細書に記載のプレ培養培地(グルコース(25g/L);カゼイン加水分解物(10g/L);酵母抽出物(15g/L);NaNO3(2g/L);MgSO4.7H20(0.5g/L);NaCl(1g/L);1M NaOHでpH6.2に調整した)に播種するために使用し、そして培養を、欧州特許第1,266,967号明細書に記載のとおりにインキュベートした。2日後、プレ培養物由来のブロスを使用して、主培養物に播種した。これは、欧州特許第1,266,967号明細書に記載の培地(グリセロール(60g/L);グルコース(20g/L);ペプトン(10g/L);全ダイズ粉(30g/L);NaNO3(2g/L);MgSO4.7H20(0.5g/L);1M HClでpH5.8に調整した)における10%の最終容積で行い、そして培養を、欧州特許第1,266,967号明細書に記載のとおりに144についてインキュベートした。産生されたスタチン系薬剤の分析のために、ブロスサンプル(1mL)を採取した。この目的のために、CH3CN(0.5mL)をサンプルに添加し、そして混合物をボルテックスで激しく攪拌した。細胞破砕物を、30分間、14,000rpmでスピンした。上清を、LC/MS分析に使用した。プラバスタチン、ロバスタチンおよびコンパクチンを、いくらかの希釈(15、5、5、2.5、1、0.5および0.25μg/mL)でコントロールとして使用した。以下の条件を使用して、LC/MSを実施した。
【0053】
【表1】
【0054】
欧州特許第1,266,967号明細書に記載の条件下でプラバスタチンを産生する株は認められない(表1)。
【0055】
【表2】
【0056】
[比較例2]
[国際公開第99/10499号パンフレットに記載の株によるスタチン産生]
[P−450sca−2遺伝子の単離]
国際公開第99/10499号パンフレットに従って、野生型ペニシリウム・シトリヌム(Penicillium citrinum)細胞に、ストレプトマイセス・カルボフィラス(Streptomyces carbophilus)P−450sca−2遺伝子を備え付けた。それ故、株ストレプトマイセス・カルボフィラス(Streptomyces carbophilus)FERM−BP1145を、25ml液体培地(g/Lで:酵母抽出物、1;カザミノ酸、4;グリセロール、4;MgSO4、I;CaCI2、0.1;微量元素、2mI(0.1%ZnSO4.7H20、0.1%FeSO4.7H20、0.1%MnCI2.4H20);0.5%グリシン)に播種し、そして28℃、280rpmで、72時間、インキュベートした。菌糸体を遠心分離により回収し、0.7%NaClで1回洗浄し、続いて、ゲノムDNAを、ホップウッド(Hopwood)ら(1985年、Genetic manipulation of Streptomyces,a laboratory manual,John Innes Foundation,Norwich)に従って、単離した。遺伝子特異的順方向および逆方向プライマー(配列番号1および2)を使用して、単離された染色体DNAに対して実施されるPCRによって、コンパクチンヒドロキシラーゼ遺伝子P−450sca−2をクローニングした。PCR反応混合物を、50μlにおいて、テンプレートとしての125ngのゲノムDNA、250ngの両方のプライマー、2単位のPwoポリメラーゼ(Boehringer Mannheim)、1×Pwo緩衝液、0.2mM dNTPおよび4μl DMSOにより実施した。1.2kbの平滑PCR DNA−フラグメントを、ベクターpCR−blunt(Stratagene)にクローニングして、構築物pCRP450aを得た。pCRP450aにおいてヒドロキシラーゼ遺伝子を含有するPCR挿入物を、DNA配列解析によって確認した。NcoIによる部分消化およびEcoRVによる完全消化後、1.2kbのDNAフラグメントを、pCRP45Oaから単離し、そしてNcoIおよびSmaI消化された真菌発現ベクターpAN8−I(Punt & van den Hondel,1993年、Meth.Enzymology 216:447−457)にクローニングした。得られた組込み構築物pANP450aは、制限分析によって確認され、これは、アスペルギルス・ニダランス(Aspergillus nidulans)gpdAプロモーターの下流にストレプトマイセス・カルボフィラス(Streptomyces carbophilus)コンパクチンヒドロキシラーゼ遺伝子を含有する。得られたプラスミドを図2に示す。
【0057】
[P−450sca−2遺伝子によるペニシリウム・シトリヌム(Penicillium citrinum)形質転換体の入手]
プロトプラスト形質転換、糸状菌に使用される典型的な手順を介して、pANP450aをペニシリウム・シトリヌム(Penicillium citrinum)NRRL8082に導入した。方法の詳細については、国際公開第99/10499号パンフレットに記載されている。また、本発明者らは、pANP450aおよびpAN7−1(プント(Punt)およびファン・デン・ホンデル(Van den Hondel)、1993年)を同時導入し、そしてハイグロマイシンに対し形質転換体を選択した。ハイグロマイシンポジティブ形質転換体を入手し、そして新鮮ハイグロマイシンプレート上で再度、画線培養した。PCRを適用して、ハイグロマイシンポジティブコロニーがまた、pAN450aプラスミドも入手したことを立証した。この目的のために、コロニー材料の小片を50μlのTE緩衝液(サンブルック(Sambrook)ら、1989年)に再懸濁し、そして95℃で10分間、インキュベートした。細胞破砕物を、5分間、3000rpmでスピンした。5μlの上清を、P−450sca−2特異的順方向および逆方向プライマー(配列番号3および4)を使用するPCR反応に使用した。合計で、8つのハイグロマイシン耐性体、P−450sca−2ポジティブかつ安定な形質転換体を得た。
【0058】
[振盪フラスコはP−450sca−2遺伝子によるペニシリウム・シトリヌム(Penicillium citrinum)形質転換体を試験する]
ポテトデキストロース寒天(PDA)スラント上、2〜7日間、25℃で株の胞子形成を誘導した。胞子を0.5%Tween80に回収し、そして実施例1に記載のプレ培養培地に播種するために使用した。2日後、プレ培養物由来のブロスを使用して、主培養物に播種した。これは、実施例1に記載の培地における10%の最終容積で行った。産生されたスタチン系薬剤の分析のために、1mLのブロスサンプルを採取した。この目的のために、0.5mLのアセトニトリルをサンプルに添加し、そして混合物をボルテックスで激しく攪拌した。細胞破砕物を、30分間、14000rpmでスピンした。実施例1のように、上清をLC/MS分析に使用した。表2において見ることができるように、国際公開第99/10499号パンフレットに記載の条件下でプラバスタチンを産生する株は認められない。
【0059】
【表3】
【0060】
[実施例3]
[ペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)コンパクチン産生宿主細胞の単離]
ペニシリウム・シトリヌム(Penicillium citrinum)は、天然のコンパクチン生産者である(Y.アベ(Y.Abe)ら、2002年、Mol.Genet.Genomics 267,636−646)。代謝経路をコードする遺伝子は、ゲノム上で1つのフラグメントにクラスター形成する。これらの遺伝子のいくつかの機能的役割については、文献ならびに全クラスターまたは特異的調節因子の過剰発現によりコンパクチン力価が増加するという事実から説明される(アベ(Abe)ら、2002年、Mol.Genet.Genomics 268:130−137;アベ(Abe)ら、2002年、Mol.Genet.Genomics,268:352−361)。しかし、野生型株および組み換え株の力価は極めて低く、そのためより良好な産生宿主が有望である。コンパクチン産生宿主細胞のための出発株として、その株の性能を改善するためのいくらかの回数の株改善を経た任意の産業用ペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)株を使用することができる。これらの株の例には:CBS455.95(ゴウカ(Gouka)ら、1991年、J.Biotechnol.20:189−200)、Panlabs P2(ライン(Lein)、1986年、The Panlabs Penicillium strain improvement program,in‘Overproduction of microbial metabolites’、ヴァネク(Vanek)およびホスタレック(Hostalek)(編)、105−140;Butterworths,Stoneham、マサチューセッツ州)、E1およびAS−P−78(フィエロ(Fierro)ら、1995年、Proc.Natl.Acad.Sci.92:6200−6204)、BW1890およびBW1901(ニューバート(Newbert)ら、1997年、J.Ind.Microbiol.19:18−27)がある。コンパクチン産生宿主細胞として使用することができるβ−ラクタムを含まない誘導体を単離するためには、産業用ペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)株のβ−ラクタム生合成タンパク質をコードする遺伝子のすべてのコピーを欠失しなければならない。これらの遺伝子は、産業用ペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)株系統において複数のコピーに増幅されるため、単一遺伝子の欠失を介してこれを行うことは実行可能ではない。最良のアプローチは、まず、生合成遺伝子の組の僅か1コピーを伴う産業用株の誘導体を単離することである。すべての遺伝子増幅は、同じ染色体上の直接反復であるため(フィエロ(Fierro)ら、1995年、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 92:6200−6204)、コピーの消失を生じる異なる反復の間に組み換えが存在し得る(ニューバート(Newbert)ら、1997年、J.Ind.Microbiol.19:18−27)。これは、無作為なプロセスであり、そして変異誘発処置を介して誘導することができる。誘導体は、ペニシリン産生の減少およびペニシリン生合成遺伝子のコピー数の減少についてスクリーニングすべきである。十分な誘導体がスクリーニングされるならば、これらの単一コピー単離体を見出すことが可能である。次いで、それらの単離体は、相同組み換えを介する標的化された遺伝子ノックアウトに使用される。
【0061】
[単一コピー単離体の単離]
ペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)プロトプラストの調製は、カントラル(Cantoral)ら、1987年、Bio/Technol.5:494−497に記載のように行ったが、但し、溶解酵素としてノボザイム(novozyme)の代わりにグルカネックス(glucanex)を使用した。プロトプラストを菌糸体から分離し、洗浄し、そしてフェニル酢酸を伴わないが、15g/L寒天および1Mサッカロースで補充された無機培地寒天(米国特許出願公開第2002/0039758号明細書)上でプレート化した。再生コロニーを、サッカロースを伴わないプレートに移し、胞子形成を誘導した。胞子を回収し、0.9mM NaClで洗浄し、希釈し、そしてYEPD寒天プレート(10g/L酵母抽出物、10g/Lペプトン、20g/Lグルコースおよび15g/L寒天)上でプレート化した。単離されたコロニーを、ストック培養プレートとしての役割を果たす無機培地寒天プレートに移した。27個の無作為な単離体を、サザンブロット分析のために選択して、相対的な遺伝子−コピー数を決定した。このため、細胞を、液体無機培地において48時間、25℃および280rpmで増殖させた。細胞を回収し、0.9mM NaClで洗浄し、そしてペレットを液体N2中で凍結した。乳棒および乳鉢を使用して凍結細胞を破砕し、プラスチックチューブに移し、そして等容積のフェノール:CHCl3:イソアミルアルコール(25:24:1)を添加した。この混合物をボルテックスで激しく撹拌し、遠心分離し、そして水相を新鮮なチューブに移した。これを2回繰り返したが、各操作で所定容積の新鮮なフェノール:CHCl3:イソアミルアルコール(25:24:1)を使用した。最後に、エタノール沈殿(サンブルック(Sambrook)ら、1989年)によって、水相からDNAを単離した。DNA(3μg)をEcoRIで消化し、0.6%アガロース上で分離し、そしてサザンブロッティングによってナイロン膜に移した。プローブとして、pcbCおよびniaAを適用した。前者はペニシリン生合成遺伝子のコピー数を表し、そして後者はペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)株における単一コピーとして存在する内部コントロール(遺伝子は亜硝酸レダクターゼをコードする)である。プローブ配列を、遺伝子特異的プライマー(表3を参照のこと)を使用して増幅し、そして供給者の指示に従って、ECL非放射性ハイブリダイゼーションキット(Amersham)で標識した。両方のシグナルの強度の間の比率(pcbC:niaA)を使用して、ペニシリン遺伝子クラスターの相対的な遺伝子コピー数を見積もった。親株および単一コピー研究用株Wisconsin54−1255をコントロールとして適用した。
【0062】
【表4】
【0063】
最も低い比率を伴う株を、フェノキシ酢酸を伴う液体無機培地におけるペニシリン産生について試験した。ペニシリンV産生を、NMRにより決定した。pcbC:niaA比の減少を伴う株はまた、ペニシリンV力価の減少を示した。上記と全く同様に、2回のプロトプラスト化、スクリーニングおよび分析を経た1つの株を選択した。さらに、27個の無作為な単離体を選択し、そして詳細に分析した。いくらかの推定的な「単一コピーの」ペニシリン生合成遺伝子クラスター候補(矢印で示す)が、研究用株Wisconsin54−1255に匹敵するpcbC:niaA比を示したため、サザンブロット(図3を参照のこと)から、これらを同定した。これらのうち3つを選択し、そして振盪フラスコにおいて、ペニシリンV産生について試験した。コントロールとして、本来の産業用ペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)親、中間的親、研究用株Wisconsin54−1255およびこの研究用株を含まない性誘導体、npe10(カントラル(Cantoral)ら、1993年,J.Biol.Chem.268:737−744)を使用した。3個のすべての単離体は、劇的に減少したペニシリンV力価を示し、単一コピーの研究用株Wisconsin54−1255に匹敵し、従って、これらの3つの単離体は、僅か1コピーのペニシリン遺伝子クラスターを保持するが、古典的な株改善を介して誘導されるすべての変異も保持する産業用単一コピー単離体であると結論付けられた(図4)。
【0064】
[欠失最終コピーペニシリン生合成遺伝子]
保持された最終コピーのペニシリン遺伝子クラスターの3つの生合成遺伝子を不活化するために、二重相同組み換えストラテジーを適用した。生合成遺伝子の隣の配列を、この遺伝子座に対するamdS選択マーカーを標的化するためのフランキングとして使用した。二重相同的交差が生じる場合、形質転換体は、(amdS遺伝子の存在のため)アセトアミドを唯一の炭素源として使用し、ペニシリン系薬剤を産生すべきではなく、そしてpcbCプローブにハイブリダイズすべきではない。二重相同的交差は、ペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)において稀な事象であるため、次の3つの構築物が産生された:amdS遺伝子のいずれか一方の側に3kbフランクを伴うもの、5kbを伴うものおよび7kbフランクを伴うもの(図5を参照のこと)。適応したオリゴヌクレオチドを表4に列挙する。
【0065】
【表5】
【0066】
PCR増幅後、TOPO T/Aクローニング(Invitrogen)を介して、フラグメントをpCRXLにクローニングした。続いて、3つのすべてのフランキング(3、5および7kb)を、Acc651およびNotIで消化し、その後、Acc651およびNotIで予め消化したpBluescript II SK+(Invitrogen)に連結した。得られたフランキングプラスミドを、NotIで消化して、NotIおよびEco521で予め消化した右側フランクのクローニングを容易にした。得られた3、5および7kbフランキングプラスミドは、すべて、左側フランクと右側フランクとの間に独特なNotI部位を有し、選択マーカーとしてのamdS遺伝子をクローニングするのに使用した。これは、pHELY−A1(国際公開第04/106347号パンフレットに記載されている)をNotIで消化し、そして3.1kbのPgpdA−AnamdS発現カセットを単離することによって、入手した。KpnIによる消化後に、このようにして得られた欠失フラグメントを単離し、そして、ペニシリン遺伝子クラスター単一コピー単離体に形質転換した。形質転換体を、アセトアミド選択プレート上で増殖するそれらの能力に対して選択し、以後、コロニーを無機培地にレプリカプレーティングし、そして4日間の増殖後、それらに、β−ラクタム感受性生物インジケーター、大腸菌(Escherichia coli)株ESSを重層することによって、抗生物質産生についてスクリーニングした。コロニーがなおβ−ラクタム系薬剤を産生する場合、これは、大腸菌(Escherichia coli)の増殖を阻害する。試験した27,076個の形質転換体のうちの22個(0.08%)は阻害ゾーンを示さず、そしてさらなる分析のために選択した。これらの22個の単離体を、次の3つのプライマーの組によるコロニーPCRを介して分析した:単一コロニー遺伝子の内部コントロールとしてのniaA;選択マーカーのためのamdS;ペニシリン生合成遺伝子の有無のインジケーターとしてのpenDE。
【0067】
【表6】
【0068】
【表7】
【0069】
すべての22個の推定変異体は、ペニシリン生合成の最後の工程を触媒するアシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子penDEのシグナルを示さなかった。2個の変異体がamdSのシグナルを示さなかったことから、選択マーカー遺伝子の自然消失が示唆される。すべての22個の単離体は、β−ラクタム生合成遺伝子を伴う産業用ペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)株誘導体であり、そしてコンパクチン産生の可能な宿主として適任であることが結論付けられた。
【0070】
[振盪フラスコ試験]
すべての22個の変異体を、振盪フラスコにおいて試験して、前駆体としてフェニル酢酸を伴う液体無機培地に変異体を播種することによって、ペニシリンネガティブ表現型を確認した。サンプルをNMRで分析し、ペニシリンGを産生することが可能な変異体が存在しないことを確認し(図6)、従って、すべてが、正確にペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)β−ラクタムを含まない単離体であることが結論付けられた。
【0071】
[コンパクチン遺伝子の組の単離]
ペニシリウム・シトリヌム(Penicillium citrinum)NRRL8082から染色体DNAを単離した。全遺伝子クラスターは、そのサイズ(38kb;図7)のためPCRを介して増幅することが困難であるため、それを、3つのフラグメント:18kb、14kbおよび6kbに分割した。14および6kbのフラグメントを容易にPCR増幅し(図8)、そしてGateway(Invitrogen)を使用し、いわゆるLRゲートウェイ反応により、供給者の指示に従って、エントリーベクターpDONRP4−P1RおよびpDONR221にクローニングした。18kbのフラグメントを、2段階の手順でクローニングした。まず、10および8kbのフラグメントを増幅した。両方のフラグメントを、個別に、pCR2.1TOPO T/A(Invitrogen)にクローニングし、続いて、制限酵素クローニングおよび連結を介して共に融合した(図9を参照のこと)。最終的に、Gateway工学を使用して、フラグメントを、pDONR41Zeoベクターに移し替えた。増幅したフラグメントを、配列決定によって立証した。いわゆるMulti−site Gateway Reaction(マニュアルInvitrogenを参照のこと)使用して、コンパクチン生合成遺伝子クラスターのすべての遺伝子を含有するこれらの3つの遺伝子フラグメントを、全領域に及ぶ1つのフラグメントに再結合することができた。
【0072】
【表8】
【0073】
[ペニシリウム(Penicillium)形質転換]
3つのコンパクチン遺伝子クラスターフラグメントを、フレオマイシン耐性を仲介するタンパク質をコードするble発現カセットと共にペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)プラットフォーム株に同時形質転換した。このカセットは、pAMPF7から1.4kbのSalIフラグメントとして単離することができた(フィエロ(Fierro)ら、1996年、Curr.Genet.29:482−489)。50μg/mLフレオマイシンおよび1Mサッカロースを伴う無機培地寒天プレート上で、形質転換体の選択を行った。これらのプロトプラスト再生プレート上に出現するフレオマイシン耐性コロニーを、サッカロースを伴わない新鮮フレオマイシン寒天プレート上で再度、画線培養し、そして胞子形成まで増殖させた。フレオマイシン耐性形質転換体を、コロニーPCRを介して、1つ以上のコンパクチン遺伝子フラグメントの存在についてスクリーニングした。これのために、コロニー材料の小片を50μlのTE緩衝液(サンブルック(Sambrook)ら、1989年)に懸濁し、そして95℃で10分間、インキュベートした。細胞破砕物を廃棄するために、混合物を、5分間、3000rpmで遠心分離した。上清(5μl)を、HT Biotechnology Ltd製SUPER TAQによるPCR反応のためのテンプレートとして使用した。Invitrogen製E−gel96システム上でPCR反応を分析した。
【0074】
【表9】
【0075】
まず、18kbのフラグメントの存在を確認した。480個のコロニーのうち112個(約23%)について、18kbのフラグメントが安定に組入れられていることが確認された。続いて、他の2つのフラグメント(14および6kb)の存在を立証した。45個の18kbポジティブ形質転換体はまた、コンパクチン遺伝子クラスターの両方の他の部分を有し、それによって推定コンパクチン産生株として適任であった。
【0076】
コンパクチン振盪フラスコ試験
全コンパクチン遺伝子クラスターを伴うペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)プラットフォーム株形質転換体を、(加水分解された)コンパクチンおよびML−236A(6−(2−(1,2,6,7,8,8a−ヘキサヒドロ−8−ヒドロキシ−2−メチル−1−ナフタレニル)エチル)テトラヒドロ−4−ヒドロキシ−2H−ピラン−2−オン)の存在について、(フェニル酢酸を伴わない)液体無機培地において評価した。25℃、25mlにおいて168時間の培養後、上清を、以下の装置および条件を使用するHPLCで分析した:
【0077】
【表10】
【0078】
2つの異なる勾配を使用した:
【0079】
【表11】
【0080】
【表12】
【0081】
野生型ペニシリウム・シトリヌム(Penicillium citrinum)株は、いずれのスタチン系薬剤を十分には産生しない一方、ペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)形質転換体は、有意な量を産生する(表9)。HPLCクロマトグラムの例を図10に示す。これらのデータから、ペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)産業用産生株の誘導体をコンパクチンの産生のための宿主細胞として使用する高い可能性が確認される。
【0082】
【表13】
【0083】
[実施例4]
[ペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)プラバスタチン産生宿主細胞の単離]
[株の構築]
実施例2に記載のプラスミドpAN450aを使用して、実施例3に記載のようにペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)β−ラクタムを含まない株を形質転換した。この目的のために、すべての3つのコンパクチン遺伝子フラグメント、pAN450aおよびフレオマイシン遺伝子カセットを、実施例3に記載のようにペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)宿主細胞に同時形質転換した。フレオマイシン選択プレートに対する最初の選択後、コロニーを選択プレート上で再度、画線培養し、そしてコロニーPCRに使用した。第1に、表8に示されるプライマーを使用して、実施例3に記載のコンパクチン遺伝子の存在を確認した。第2に、配列番号3および4のプライマーを使用して、実施例2に記載のP−450sca−2遺伝子の存在を確認した。2つの形質転換体、T1.48およびT1.37は、すべての遺伝子を含有することが示され、続いて、振盪フラスコ分析に使用した。
【0084】
[プラバスタチン振盪フラスコ培養およびHPLC分析]
両方の形質転換体を、以下を(g/Lで)含有する尿素を含まない真菌用無機培地において培養した:グルコース(5);ラクトース(80);(NH4)2SO4(2.5);Na2SO4(2.9);KH2PO4(5.2);K2HPO4(4.8)およびクエン酸を含有する10ml/lの溶液(150);FeSO4.7H2O(15);MgSO4.7H2O(150);H3BO3、0.0075;CuSO4.5H2O、0.24;CoSO4.7H2O、0.375;ZnSO4.7H2O(0.5);MnSO4.H2O(2.28)およびCaCl2.2H2O(0.99);滅菌前のpH6.5。培養物を25℃、オービタルシェーカー中、280rpmで120時間、インキュベートした。HPLC分析は、実施例3と同じであった。勾配2を使用して、保持時間は:加水分解されたコンパクチン、11.5分;プラバスタチン、9.7分およびML−236A、8.6分であった。
【0085】
親のペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)株、ペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)コンパクチン形質転換体、野生型ペニシリウム・シトリヌム(Penicillium citrinum)株、または実施例2のペニシリウム・シトリヌム(Penicillium citrinum)形質転換体は、いずれも何らプラバスタチンを産生しない一方、コンパクチンおよびP−450sca−2遺伝子の両方を具備するペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)形質転換体は、プラバスタチンを産生する。形質転換体T1.47のHPLCクロマトグラムの例を図11に示す。
【0086】
[形質転換体T1.48ブロスのLC/MS/MS分析]
HPLCを介して同定されるピークが実際にプラバスタチンであったことを立証するために、LC/MS/MS分析を実施した。この目的のために、サンプルを水で1:1に希釈し、そして以下のとおりにLC/MS/MSシステムに注入した:
【0087】
【表14】
【0088】
プラバスタチンは、LC方法を使用して、8.7分に溶出する。プラバスタチンは、ESI/ネガティブモードで、m/z423における脱プロトン化分子[M−H]−によって特徴付けられる。MS/MSモードでは、102(メチル酪酸)および120(102−H2O)の特徴的な消失が観察され(図12)、コンパクチンおよびP−450sca−2遺伝子を具備するこのペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)形質転換体は、単純および限定された栄養素から出発する単一の発酵培養においてプラバスタチンを産生することが可能であることが確認される。
【発明の詳細な説明】
【0001】
[発明の分野]
本発明は、プラバスタチンの産生のための1工程発酵プロセスに関する。
【0002】
[発明の背景]
コレステロールおよび他の脂質は、低密度リポタンパク質(LDL)および高密度リポタンパク質(HDL)によって体液に輸送される。LDLレベルは冠動脈疾患の危険性に正の相関を示すため、LDL−コレステロールを降下させるための機構を遂行する物質は、有効な抗高コレステロール血症剤としての役割を果たし得る。スタチンクラスのコレステロール降下剤は、HMG−CoAレダクターゼを阻害することによって血液中のコレステロール濃度を降下させるため、それらは医学的に極めて重要な薬物である。後者の酵素は、コレステロール生合成、即ち、(3S)−ヒドロキシ−3−メチルグルタリルコエンザイムA(HMG−CoA)からメバロン酸への変換における律速段階を触媒する。市場には、いくらかのタイプのスタチン系薬剤、中でも、アトルバスタチン、コンパクチン、ロバスタチン、シンバスタチンおよびプラバスタチンが存在する。アトルバスタチンは化学合成を介して作製される一方、上記の他のスタチン系薬剤は、直接発酵または前駆体発酵のいずれかを介して産生される。これらの(前駆体)発酵は、ペニシリウム(Penicillium)属、アスペルギルス(Aspergillus)属およびモナスカス(Monascus)属の真菌によって行われる。
【0003】
プラバスタチンは、2つの順次発酵を介して産生される。まず、ペニシリウム・シトリヌム(Penicillium citrinum)がコンパクチンを産生し、そのラクトン環を水酸化ナトリウムで化学的に加水分解し;続いて、それをプラバスタチンにヒドロキシル化するストレプトマイセス・カルボフィラス(Streptomyces carbophilus)の培養にこれを供給する。これらの代謝物の産生のための産業用の種およびプロセスは、異なる方法を使用して最適化される。これによって、ペニシリウム・シトリヌム(Penicillium citrinum)による産業的コンパクチン産生は、本来の40mg/Lから5g/Lに増加された。生体触媒変換のために、80%変換収率を伴う3g/Lのメバスタチンに対する耐性を伴うストレプトマイセス(Streptomyces)変異株がMetkinenにより得られた(Metkinen News、2000年3月、Metkinen Oy、フィンランド;マンゾーニ(Manzoni)およびロリーニ(Rollini)、2002年、Appl Microbiol Biotechnol 58:555−564により検討された)。これは実行可能な商業的プロセスであるが、コンパクチン力価が、例えば、産業的アミノ酸またはペニシリンG力価と比較して相対的に低いため、最適な状態からはかけ離れている。また、コンパクチンは希釈する必要があり、そうでなければ、それは、生体変換に使用されるストレプトマイセス(Streptomyces)株に毒性になり(ホソブチ(Hosobuchi)ら、1983年、J Antibiotics 36:887−891)、さらに、供給される20%のコンパクチンがストレプトマイセス(Streptomyces)株によって変換されない。
【0004】
上記の問題に対する解決として、いくらかの刊行物がプラバスタチンのための1工程発酵プロセスについて説明している(国際公開第99/10499号パンフレット、米国特許第6,274,360号明細書および欧州特許第1,266,967号明細書)。しかし、本発明の部分として、本発明者らは、問題を解決するためのこれらのすべての示唆が無効であり、さらなる問題、即ち、コンパクチンからプラバスタチンへの細胞内変換を解決する必要があることを実証する。国際公開第99/10499号明細書は、p450酵素をコードするストレプトマイセス・カルボフィラス(Streptomyces carbophilus)遺伝子を具備した組み換えペニシリウム・シトリヌム(Penicillium citrinum)株について説明している。ここでは、国際公開第99/10499号明細書に従って構築された株がプラバスタチンを産生せず、コンパクチンのみを産生することが実証されている。米国特許第6,274,360号明細書は、コンパクチンをプラバスタチンに変換することができるアクチノマデュラ(Actinomadura)種から単離することができる酵素系について説明し、そしてプラバスタチンを産生させるために異種の種においてこの酵素系を使用することを示唆している。しかし、タンパク質もまたDNA配列も提供されないため、そのような特許請求の範囲について立証することは不可能である。さらに、そのような酵素系は、異なるポリペプチドよりなり得、および/またはいくらかの宿主特異的酸化還元再生酵素もしくはシャペロンを必要とし、これは、この酵素系のすべての正規のメンバーの精製および単離を妨げる。さらに、上記で考察したように、プラバスタチン触媒酵素の既知のDNA配列(ストレプトマイセス・カルボフィラス(Streptomyces carbophilus)p450−sca2遺伝子)を、ペニシリウム・シトリヌム(Penicillium citrinum)、コンパクチン生産者に移し替えてもなお、プラバスタチン形成は生じない。欧州特許第1,266,967号明細書は、アスペルギルス・テレウス(Aspergillus terreus)およびモナスカス・ルバー(Monascus ruber)の変異株について説明している。野生型株はロバスタチンのみを産生する一方、これらの変異体は、ロバスタチンおよび/またはプラバスタチンを産生すると記載された。本発明の部分として、本発明者らは、欧州特許第1,266,967号明細書に従う変異株がプラバスタチンを産生せず、ロバスタチンのみを産生することを実証する。
【0005】
従って、プラバスタチンのための1工程発酵プロセスの問題を解決する経済的に可能な方法は、利用可能な状態ではなく、そして大いに所望されている。
【0006】
[発明の概要]
本発明は、コンパクチン生合成遺伝子およびコンパクチンからプラバスタチンへの変換のための遺伝子を含有する微生物を提供する。より具体的には、前記コンパクチン生合成遺伝子はmlcAおよび/またはmlcBおよび/またはmlcCおよび/またはmlcDおよび/またはmlcEおよび/またはmlcFおよび/またはmlcGおよび/またはmlcHおよび/またはmlcRであり、そしてコンパクチンからプラバスタチンへの変換のための前記遺伝子はヒドロキシラーゼ遺伝子である。さらに、本発明は、以下の工程を含んでなる目的の化合物を産生させるための方法を提供する:
(a)コンパクチン生合成のための最小限の要件をコードする目的の遺伝子を含んでなるポリヌクレオチドで宿主細胞を形質転換すること;
(b)コンパクチンヒドロキシラーゼをコードする目的の遺伝子を含んでなるポリヌクレオチドおよび/または目的の遺伝子の発現に影響を及ぼすDNA配列を含んでなるポリヌクレオチドで前記宿主細胞を形質転換すること;
(c)形質転換された細胞のクローンを選択すること;
(d)前記選択された細胞を培養すること;
(e)場合により、栄養供給源を前記培養細胞に供給すること、ならびに;
(f)場合により、前記培養から目的の化合物を単離すること。
【0007】
[発明の詳細な説明]
用語「発現」は、ポリペプチドの産生に関与する任意の工程を含み、そして転写、転写後修飾、翻訳、翻訳後修飾および分泌を含み得る。
【0008】
核酸構築物が、特定の宿主生物体におけるコード配列の発現のために要求されるすべての制御配列を含有する場合、用語「核酸構築物」は、用語「発現ベクター」または「カセット」と同義である。
【0009】
用語「制御配列」は、本明細書において、ポリペプチドの発現に必要または有利であるすべての成分を含むものと規定される。各制御配列は、ポリペプチドをコードする核酸配列に生来または外来性であってもよい。そのような制御配列として、プロモーター、リーダー、(コザック(Kozak)、1991年、J.Biol.Chem.266:19867−19870に記載のような)最適な翻訳開始配列、分泌シグナル配列、プロペプチド配列、ポリアデニル化配列、転写ターミネーターが挙げられ得るが、これらに限定されない。少なくとも、制御配列は、プロモーター、ならびに転写および翻訳停止シグナルを含む。制御配列は、転写制御配列を含有する適切なプロモーター配列であってもよい。プロモーターは、変異、短縮型、およびハイブリッドプロモーターを含む細胞において転写調節活性を示す任意の核酸配列であってもよく、そして細胞外もしくは細胞内ポリペプチドをコードする遺伝子から入手してもよい。プロモーターは、細胞もしくはポリペプチドに対して同種または異種のいずれであってもよい。プロモーターは、ドナー種または他の任意の供給源から誘導してもよい。真核生物における発現レベルを制御するための代替的方法は、イントロンの使用である。高等な真核生物は、エキソンおよびイントロンよりなる遺伝子を有する。用語「エキソン」は、本明細書において、タンパク質に翻訳されるオープンリーディングフレーム(ORF)のすべての成分を含むものと規定される。用語「イントロン」は、本明細書において、オープンリーディングフレーム内には含まれないすべての成分を含むものと規定される。用語「オープンリーディングフレーム」は、本明細書において、配列ATG、メチオニンに対するコドンで開始し、その後に、可能なすべてのアミノ酸をコードし、そして所定の数の後、終結コドンによって中断される連続的列のコドンが続くポリヌクレオチドとして規定される。このオープンリーディングフレームは、タンパク質に翻訳することができる。ゲノムから単離される遺伝子を含有するポリヌクレオチドは、すべてのエキソンおよびイントロンを含む遺伝子のいわゆるゲノムDNAまたはgDNA配列である。逆転写酵素反応を介してmRNAから単離される遺伝子を含有するポリヌクレオチドは、エキソンのみを含むその遺伝子のいわゆるコピーDNAまたはcDNA配列である一方、イントロンは、細胞機構を介してスプライシングにより切除される。この後者のタイプのDNAは、原核生物宿主において目的の真核生物遺伝子を発現させる場合、特に使用される。両方のタイプのDNAの変種もまた、合成的に作製することができ、イントロンの正確なヌクレオチド配列を変更するか、または目的の遺伝子におけるイントロンの数を変動するかのいずれかの可能性を広げる。これはまた、原核生物由来の目的の遺伝子にイントロンを付加して、真核生物宿主における発現を容易または改善する可能性を広げる。また、イントロンは、プロモーター、ポリアデニル化部位または転写ターミネーターのような上記で命名した制御配列に導入することもできる。イントロンの存在、非存在、変動または導入は、真核生物における遺伝子発現レベルを調節する手段である。
【0010】
用語「作動可能に連結」は、本明細書において、制御配列が、ポリペプチドの産生を指令するようなDNA配列のコード配列に対する位置に、制御配列が適切に配置される配置形態として規定される。
【0011】
用語「プラバスタチン」は、本明細書において、α−もしくはβ−配置、またはα−およびβ−配置の両方の混合物を伴うコンパクチンの6’−ヒドロキシル変種として規定され、そして(ラクトン環を伴う)閉じた構造および(ヒドロキシカルボン酸部分を伴う)開いた構造の両方を含む。
【0012】
本発明の目的は、プラバスタチンの1工程発酵プロセスのための方法を提供することである。
【0013】
本発明の第1の態様では、以下の特徴の少なくとも1つを有するプラバスタチン産生株が提供される:
・コンパクチン生合成に必要なすべての遺伝子を含有すること、
・コンパクチンからプラバスタチンへの変換に必要なすべての遺伝子を含有すること(即ち、コンパクチンヒドロキシラーゼ発現宿主細胞)、
・1回の発酵でプラバスタチンを産生することが可能であること。
【0014】
本発明に関して、「プラバスタチン産生細胞」は、上記の特徴の少なくとも1つ、好適には、上記の特徴の少なくとも2つおよび最も好適には、上記の特徴のすべてを示す細胞によって規定される。
【0015】
1つの実施態様では、産生株、ペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)由来のコンパクチン産生宿主細胞が提供される。この生物体は、いくらかの回数の古典的な株改善、ならびに以後のプロセス適応および改善を経て、現在の高力価のペニシリンG発酵プロセスに至った。生物体のDNAにおける多数の変化は、産物ペニシリンGに対するフラックスおよび収率の増加(図1を参照のこと)だけではなく、さらにまた、150,000リットル発酵容器における厳しい条件(即ち、酸素制限、せん断力、グルコース制限など)に対する形態学的変化および適応を生じた。β−ラクタム生合成機構を欠失することによって、任意のβ−ラクタム産生能を欠如するが、せん断力に対する耐性、大規模化に対する適合性、限定培地およびダウンストリームプロセシングに適応される代謝物に対する高い代謝フラックス、ならびに低粘度プロファイルのような産業規模に対する良好な性能を生じるすべての変異(即ち、形態学的、調節および代謝変異)をなお保持する株が得られる。本発明のペニシリン・クリソゲナム(Penicillin chrysogenum)株では、少なくとも、イソペニシリンNシンターゼをコードするβ−ラクタム生合成遺伝子、pcbCが不活化される。また、好ましくは、他のβ−ラクタム生合成遺伝子、L−(α−アミノアジピル)−L−システイニル−D−バリンシンテターゼをコードするpcbAB、および/またはアシル−コエンザイムA:イソペニシリンNアシルトランスフェラーゼをコードするpenDEが不活化される。より好ましくは、遺伝子は、遺伝子の部分の取り出しによって不活化される。遺伝子配列が完全に取り出されることが最も好適である。何故なら、これらの遺伝子の完全な取り出しは、任意のβ−ラクタム生合成能を欠如し、従って、すべての種類の産物を産生するのに極めて有用な株であるするペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)株をもたらすためである。産業用生物体は取り扱いが極めて煩雑であり得るにもかかわらず、驚くべきことに、このペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)株は、良好な形質転換が可能であり、そして天然の産生宿主細胞よりかなり高い力価でスタチン系薬剤を産生することが可能である。
【0016】
本発明に不可欠というわけではないが、好ましくは、ペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)変異体は、産業環境において産生することが可能な生物体から得られる。そのような生物体は、典型的に、高い産生性および/または炭素源の消費量に対する高い産生収率および/またはバイオマスの産生量に対する高い産生収率および/または高い産生速度および/または高い産物力価を有するものとして規定することができる。そのような生物体は、コンパクチンのための宿主細胞への変換に極めて有用である。ペニシリンG産生ペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)株では、例えば、そのような高力価は、1.5g/ Lより高い力価のペニシリンG、好ましくは、2g/Lより高い力価のペニシリンG、より好ましくは、3g/Lより高い力価のペニシリンG、最も好ましくは、4g/Lより高い力価のペニシリンGである。上記の力価は、(1リットルあたり:ラクトース、40g/L;コーンスティープ固体、20g/L;CaCO3、10g/L;KH2PO4、7g/L;フェニル酢酸、0.5g/L;pH6.0を含有する)複合的発酵培地における96時間後の発酵力価に該当する。適切な産業用株は、実験の部(一般的方法)に記載のような株である。
【0017】
ペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)のすべての産業用株系統は、3つの一般的なタイプの変異を生じる多数の回数の古典的な株改善を経た:
(i)ペニシリン代謝物経路の酵素の活性の増加を生じる生合成遺伝子の直接的増幅
(ii)究極的に様々に適応された代謝の再配列を生じる一次代謝遺伝子における改変であって、これらはすべて最終産物に対してより高いフラックスを生じる。例:アミノ酸ビルディングブロックの合成の増加、フェニル酢酸の消費の減少など。
(iii)形態、膜組成、オルガネラ形成の改変を生じ、従って、産業規模において高い代謝フラックスおよび発酵を容易にする細胞構造の改変。例:ペニシリン合成の「組立ライン」の1つであるペルオキシソームの数の増加。
【0018】
クラス(ii)および(iii)と比較してクラス(i)のタイプの変異におけるDNAレベルに有意な区別が認められる。後者の2つのクラスは、ほとんどが、塩基対レベルにおいて単離された変異、欠失、重複および/または異常である一方、クラス(i)における変異クラスは、ゲノムのいくらかの直接および逆方向反復を生じる60〜100kb領域の極めて異なる増幅である。これは、ときどき、顕著な遺伝的不安定性を生じ、不安定かつ変化する集団を生じる。事実、これは、所定のペニシリン産生株では、クラス(ii)および(iii)のすべての変異が固定されるが、クラス(i)の正確なコピー数の変異が変動し得ることを意味する。当業者に公知のこの原理および技術を使用して、1コピーのみのペニシリン生合成遺伝子がなお存在する安定な単離体を得ることができる。出発株のコピー数に依存して、1、2、3またはいくらかの回数のスクリーニングおよび選択で、この状況を得ることができる。次いで、この特定の特徴のため、単離体は、種、NRRL1951、および古典的な株改善後のその最初の子孫、ウィスコンシン(Wisconsin)54−1255までのタイプ株に匹敵し、それらのすべては、1コピーのペニシリン生合成遺伝子を含有する。主な差異は、高い産生性の株由来の1コピー単離体がなお、それを、NRRL1951からウィスコンシン(Wisconsin)54−1255までの株に比べて、産業的に高い産生性の株にするクラス(ii)および(iii)の他のすべての変異を含有することである。続いて、現存の組み換え技術を使用して、ペニシリン生合成遺伝子の最後の組を欠失することができる。これらの工程の詳細な全体像を実施例に示し、そして以下の工程において要約する:
(a)ペニシリウム(Penicillium)株からペニシリン遺伝子クラスターの単一のゲノムコピーを伴う単離体を単離すること
(b)工程(a)において得られる単離体から遺伝子pcbCを欠失すること
(c)場合により、工程(a)または(b)において得られる単離体から遺伝子pcbABおよび/またはpenDEを欠失すること
【0019】
遺伝子は、部分的に不活化することができる。より好ましくは、遺伝子配列は、完全に取り出される。というのも、これらの遺伝子の完全な取り出しが、任意のβ−ラクタム生合成能のない、従って、すべての種類の産物を産生するのに極めて有用な株であるペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)株をもたらすためである。適用することができる組み換え技術は、当業者に周知である(即ち、単一交差または二重相同組み換え)。
【0020】
欠失および置換のための好適なストラテジーは、欧州特許第357,127号明細書に記載の遺伝子置換である。遺伝子および/またはプロモーター配列の特異的欠失は、好ましくは、欧州特許第635,574号明細書に記載のように、amdS遺伝子を選択マーカー遺伝子として使用して実施される。フルオロアセトアミド培地(欧州特許第635,574号明細書)に対する対抗選択によって、得られる株は、選択マーカーを含まず、そしてさらなる遺伝子改変に使用することができる。あるいは、他の前述の技術との組み合わせで、大腸菌(Escherichia coli)におけるコスミドのインビボ組み合わせに基づく技術を、チャヴェロチェ(Chaveroche)ら(2000年、Nucl Acids Res,28,E97)によるように使用することができる。この技術は、例えば、ペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)のような他の糸状菌にも適用可能である。また、増幅されたゲノムフラグメントを取り出すための同じ原理を、古典的な株改善プログラムが遺伝子およびゲノム重複を誘導している他の産業用産生種に適用することができる。また、ここで、クラス(ii)および(iii)のさらなる変異は、固定され、そして株が産業的発酵プロセスにおいて良好に生育することができることを確実にする。
【0021】
そのようなペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)細胞は、コンパクチン生合成に必要なすべてのタンパク質および酵素をコードする遺伝子を具備することができる。ペニシリウム・シトリヌム(Penicillium citrinum)の9つの遺伝子、ポリケチドシンターゼをコードするmlcA;ポリケチドシンターゼをコードするmlcB;P450モノオキシゲナーゼをコードするmlcC;HMG−CoAレダクターゼをコードするmlcD;排出ポンプをコードするmlcE;オキシドレダクターゼをコードするmlcF;デヒドロゲナーゼをコードするmlcG;トランスエステラーゼをコードするmlcH;転写因子をコードするmlcRについては、コンパクチン生合成に関与することが記載されている(アベ(Abe)ら、2002年、Mol Genet Genomics 267:636−646;アベ(Abe)ら、2002年、Mol Genet Genomics 268:130−137)。
【0022】
コンパクチン産生宿主細胞を得るために、単離されたペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)株は、上記の遺伝子の少なくとも1つ、好適には、上記の遺伝子の2つ以上、より好適には、上記の遺伝子のすべてで形質転換される。
【0023】
別の実施態様でも、同じ原理を適用して:限定されないが、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・テレウス(Aspergillus terreus)、ペニシリウム・ブレビコンパクタム(Penicillium brevicompactum)、ペニシリウム・シトリヌム(Penicillium citrinum)、麹菌(Aspergillus oryzae)、トリコデルマ・リーセイ(Trichoderma reesei)、クリソスポリウム・ラクナウェンス(Chrysosporium lucknowense)、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、クリュイベロマイセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)、モナスカス・ルバー(Monascus ruber)、モナスカス・パキシー(Monascus paxii)、ムコール・ヒエマリス(Mucor hiemalis)、ピキア・シフェリイ(Pichia ciferrii)およびピキア・パストリス(Pichia pastoris)のような他の真核生物種の適切なコンパクチン産生宿主細胞ならびにそれらの産業的誘導体に至ることができる。これらの種の産業的誘導体は、様々な回数の古典的変異誘発、その後、それらを本発明の特定の用途に適合する改善された産業的産生特徴のためにスクリーニングおよび選択を経た。所望されない産物の部分または完全な経路を取り出す(即ち、欠失する)ことによって、株は、それらの所望される産業的発酵特徴および(酵素を含む)代謝物への高いフラックスを維持する。
【0024】
なお別の実施態様では、コンパクチンの産生は、改善された動態特徴を伴う相同タンパク質を使用することによって改善することができる。そのような「相同体」または「相同配列」は、ドナー種から単離される本来のDNA配列によってコードされるポリペプチドの少なくとも1つの活性を示し、そして特定されたDNA配列によってコードされるタンパク質のアミノ酸配列に対してある程度の同一性を所有するアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするDNA配列として規定される。コンパクチン生合成遺伝子に対して「実質的に相同」であるアミノ酸配列を有するポリペプチドは、特定されたアミノ酸配列に対して少なくとも25%、より好ましくは、少なくとも30%、より好ましくは、少なくとも40%、より好ましくは、少なくとも50%、なおより好ましくは、少なくとも60%、なおより好ましくは、少なくとも70%、なおより好ましくは、少なくとも80%、なおより好ましくは、少なくとも90%、なおより好ましくは、少なくとも98%、および最も好ましくは、少なくとも99%の程度の同一性を所有するアミノ酸配列を有するポリペプチドとして規定され、実質的に相同なペプチドは、コンパクチンおよび/またはコンパクチン−前駆体の合成に対する活性を示す。このアプローチを使用して、フィードバック阻害を克服すること、分泌の改善および副産物形成の減少のような様々な利点が得られる。相同配列は、異なる集団由来の細胞または天然の対立遺伝子または株内の変動による集団内に存在し得る多型を包含してもよい。相同体は、さらに、特定されたDNA配列を生じる種以外の種から誘導してもよく、または人工的に設計および合成してもよい。特定されたDNA配列に関連し、そして遺伝子暗号の縮重によって得られるDNA配列もまた、本発明の部分である。相同体はまた、全長配列の生物学的に活性なフラグメントを包含してもよい。
【0025】
合成手段によって単離される相同配列は、特に興味深い。この方法によって、コンパクチンを産生する宿主細胞に誘導しようとする遺伝子の可能なすべての変種を、インシリコで設計することができる。これは、遺伝子が、コンパクチン産生宿主細胞において至適に発現され;制限酵素および/または部位特異的リコンビナーゼに関連する配列を取り出し、および誘導し;異なる組み合わせの遺伝子を作製するなどのように、遺伝子のコドン使用頻度を適応する機会を広げる。
【0026】
本発明の目的のために、2つのアミノ酸配列間の同一の程度は、2つの配列間で同一であるアミノ酸の百分率を指す。同一の程度は、アルトシュル(Altschul)ら、J.Mol.Biol.215:403−410(1990年)において記載されているBLASTアルゴリズムを使用して決定される。BLAST解析を実施するためのソフトウェアは、National Center for Biotechnology Information(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)を介して公的に入手することができる。BLASTアルゴリズムパラメータW、TおよびXは、アラインメントの感度および速度を決定する。BLASTプラグラムは、デフォルトとして、11のワード長(W)、50のBLOSUM62スコアリングマトリックス(ヘニコフ(Henikoff)およびヘニコフ(Henikoff)、Proc.Natl.Acad.Sci.USA89:10915(1989年)を参照のこと)アラインメント(B)、10の期待値(E)、M=5、N=−4、および両鎖の比較を使用する。
【0027】
実質的に相同なポリペプチドは、単に、特定されたアミノ酸配列の1つ以上のアミノ酸の保存的置換または非必須アミノ酸の置換、挿入もしくは欠失を含有してもよい。従って、非必須アミノ酸は、生物学的機能を実質的に変更することなく、これらの配列の1つにおいて変更することができる残基である。例えば、表現型性サイレントアミノ酸置換の作製方法に関する指針は、ボウイ,J.U.(Bowie,J.U.)ら、Science 247:1306−1310(1990年)に提供されており、ここで、著者らは、アミノ酸配列の変更に対する忍容性を研究するための主な2つのアプローチが存在することを示している。第1の方法は、変異が天然の選択によって許容されるかまたは拒絶されるかのいずれかである進化のプロセスに依存する。第2のアプローチは、遺伝子操作を使用して、クローニングされた遺伝子の特定の位置におけるアミノ酸変化を誘導し、そして選択またはスクリーニングして、機能性を維持する配列を同定する。著者らが述べているように、これらの研究は、タンパク質がアミノ酸置換に対して驚くほど忍容性であることを示している。著者らは、どの変化が、タンパク質の所定の位置において許容されやすいかをさらに示している。例えば、ほとんどの埋没されるアミノ酸残基は非極性側鎖を必要とするが、表面側鎖の特徴は、一般的にほとんど保存されない。他のそのような表現型性サイレント置換については、ボウイ(Bowie)ら、および本明細書において引用した参考文献に記載されている。
【0028】
用語「保存的置換」は、アミノ酸残基が類似の側鎖を有するアミノ酸残基で置き換えられる置換を意味することが意図される。これらのファミリーは、当該技術分野において公知であり、そして塩基側鎖(例えば、リジン、アルギニンおよびヒスチジン)、酸性側鎖(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖(例えば、グリシン、アスパラギン類、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β−分岐側鎖(例えば、スレオニン、バリン、イソロイシン)ならびに芳香族側鎖(例えば、チロシン、フェニルアラニントリプトファン、ヒスチジン)を伴うアミノ酸を含む。
【0029】
さらに、相同ではないが、スタチン合成の同じ生合成ビルディング原理に従う生合成遺伝子クラスターを使用することができる。
【0030】
本発明の核酸構築物、例えば、発現構築物は、少なくとも1つの目的の遺伝子を含有するが、一般に、いくらかの目的の遺伝子を含有し;それぞれ、コンパクチン産生宿主細胞においてコードされるポリペプチドの発現を指令する1つ以上の制御配列に作動可能に連結される。核酸構築物は、1つのDNAフラグメント上にあってもまたは個別のフラグメント上にあってもよい。最も高い可能な産生性を得るために、目的のすべての遺伝子のバランスの取れた発現は、極めて重要である。従って、プロモーターの範囲は有用であり得る。ペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)のような糸状菌細胞の適用に好適なプロモーターは、当該技術分野において公知であり、そして例えば、ペニシリウム・シトリヌム(Penicillium citrinum)由来の遺伝子のプロモーター;グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼgpdAプロモーター;ペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)pcbAB、pcbCおよびpenDEプロモーター;pepA、pepB、pepCのようなプロテアーゼプロモーター;グルコアミラーゼglaAプロモーター;アミラーゼamyA、amyBプロモーター;カタラーゼcatRまたはcatAプロモーター;グルコースオキシダーゼgoxCプロモーター;β−ガラクトシダーゼlacAプロモーター;α−グルコシダーゼaglAプロモーター;翻訳伸長因子tefAプロモーター;xlnA、xlnB、xlnC、xlnDのようなキシラナーゼプロモーター;eglA、eglB、cbhAのようなセルラーゼプロモーター;areA、creA、xlnR、pacC、prtT、alcRのような転写調節因子のプロモーターなどであり得る。前記プロモーターは、当業者によって、特に、NCBIインターネットウェブサイト(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/)において容易に見出すことができる。糸状菌種以外から誘導されるコンパクチン産生宿主細胞の場合、プロモーターの選択は、宿主の選択によって決定される。
【0031】
好適な実施態様では、プロモーターは、高度に発現される(本明細書において、少なくとも0.5%(w/w)の全細胞mRNAを伴うmRNA濃度として規定される)遺伝子から誘導され得る。プロモーターは、中程度に発現される(本明細書において、少なくとも0.01%〜0.5%(w/w)の全細胞mRNAを伴うmRNA濃度として規定される)遺伝子から誘導され得る。好適な実施態様では、プロモーターは、低度で発現される(本明細書において、0.01%(w/w)未満の全細胞mRNAを伴うmRNA濃度として規定される)遺伝子から誘導され得る。
【0032】
なおより好適な実施態様では、遺伝子、およびそれ故、所定の転写レベルおよび調節を有するそれらの遺伝子のプロモーターを選択するために、マイクロアレイデータが使用される。この方法では、遺伝子発現カセットを、それが機能すべき条件に至適に適応することができる。これらのプロモーターフラグメントは、多くの供給源、即ち、異なる種から、PCR増幅、合成などによって誘導することができる。
【0033】
最も好適な実施態様では、すべてのコンパクチン産生宿主細胞における至適産生のために、本来のペニシリウム・シトリヌム(Penicillium citrinum)プロモーターが、遺伝子mlcRによってコードされる経路特異的転写調節因子による制御下にはないプロモーターによって置き換えられる。この遺伝子により、mlcRは、コンパクチン産生宿主細胞において含む必要はなく、そして代替的な制御機構を導入することができる。
【0034】
制御配列はまた、適切な転写終結配列、転写を終結するために真核細胞によって認識される配列を含んでもよい。ターミネーター配列は、ポリペプチドをコードする核酸配列の3’末端に作動可能に連結される。細胞において機能的であるいずれのターミネーターも本発明において使用することができる。糸状菌細胞のための好適なターミネーターは、以下をコードする遺伝子:麹菌(Aspergillus oryzae)TAKAアミラーゼ;ペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)pcbAB、pcbCおよびpenDEターミネーター;アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)グルコアミラーゼ;アスペルギルス・ニダランス(Aspergillus nidulans)アントラニル酸シンターゼ;アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)α−グルコシダーゼ;アスペルギルス・ニダランス(Aspergillus nidulans)trpC遺伝子;アスペルギルス・ニダランス(Aspergillus nidulans)amdS;アスペルギルス・ニダランス(Aspergillus nidulans)gpdA;フザリウム・オキシスポラム(Fusarium oxysporum)トリプシン様プロテアーゼから得られる。さらにより好適なターミネーターは、天然の生産者、ペニシリウム・シトリヌム(Penicillium citrinum)から誘導される遺伝子の1つである。糸状菌種以外から誘導されるコンパクチン産生宿主細胞の場合、終結配列の選択は、宿主の選択によって決定される。
【0035】
制御配列はまた、適切なリーダー配列、細胞による翻訳に重要であるmRNAの非翻訳領域であってもよい。リーダー配列は、ポリペプチドをコードする核酸配列の5’末端に作動可能に連結される。細胞において機能的であるいずれのリーダー配列も本発明において使用することができる。糸状菌細胞のための好適なリーダーは、麹菌(Aspergillus oryzae)TAKAアミラーゼおよびアスペルギルス・ニダランス(Aspergillus nidulans)トリオースリン酸イソメラーゼおよびアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)glaAをコードする遺伝子から得られる。
【0036】
制御配列はまた、核酸配列の3’末端に作動可能に連結され、転写される場合、転写されるmRNAにポリアデノシン残基を付加するためのシグナルとして糸状菌細胞に認識されるポリアデニル化配列であってもよい。細胞において機能的であるいずれのポリアデニル化配列も本発明において使用することができる。糸状菌細胞のための好適なポリアデニル化配列は、麹菌(Aspergillus oryzae)TAKAアミラーゼ、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)グルコアミラーゼ、アスペルギルス・ニダランス(Aspergillus nidulans)アントラニル酸シンターゼ、フザリウム・オキシスポラム(Fusarium oxysporum)トリプシン様プロテアーゼ、およびアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)α−グルコシダーゼをコードする遺伝子から得られる。
【0037】
分泌させようとするポリペプチドのための制御配列はまた、コードされるポリペプチドを細胞の分泌経路に向けることができる、ポリペプチドのアミノ末端に連結されたアミノ酸配列をコードするシグナルペプチドコード領域を含んでもよい。核酸コード配列の5’末端は、分泌されるポリペプチドをコードするコード領域のセグメントを伴う翻訳リーディングフレームにおいて天然に連結されるシグナルペプチドコード領域を本質的に含有してもよい。あるいは、コード配列の5’末端は、コード配列に対して外来性であるシグナルペプチドコード領域を含有してもよい。外来性のシグナルペプチドコード領域は、コード配列がシグナルペプチドコード領域を天然には含有しない場合に要求され得る。あるいは、外来性シグナルペプチドコード領域は、ポリペプチドの増強された分泌を得るために、天然のシグナルペプチドコード領域と単純に置き換わってもよい。
【0038】
真核生物のコンパクチン産生宿主細胞の場合、制御配列は、オルガネラターゲティングシグナルを含んでもよい。そのような配列は、細胞内の最終目的地(即ち、コンパートメントまたはオルガネラ)を指向することができるポリペプチドに連結されるアミノ酸配列によってコードされる。核酸配列のコード配列の5’または3’末端は、ポリペプチドをコードするコード領域のセグメントを伴う翻訳リーディングフレームにおいて天然に連結されるターゲティングシグナルコード領域を本質的に含有してもよい。様々な配列が当業者に周知であり、そしてミトコンドリア、ペルオキシソーム、小胞体、ゴルジ装置、液胞、核などのようなコンパートメントにタンパク質を標的化するために使用することができる。核酸構築物は、発現ベクターであってもよい。発現ベクターは、組換えDNA手順に簡便に供され得、ポリペプチドをコードする核酸配列の発現をもたらし得るいずれのベクター(例えば、プラスミドまたはウイルス)であってもよい。ベクターの選択は、典型的に、ベクターと、ベクターを導入しようとする細胞との適合性に依存する。ベクターは、線状であってもまたは閉環状プラスミドであってもよい。ベクターは、自律的複製型ベクター、即ち、その複製が染色体複製とは独立する細胞外染色体実体として存在するベクター、例えば、プラスミド、染色体外エレメント、ミニ染色体、または人工染色体であってもよい。糸状菌の自律的に維持されるクローニングベクターは、AMA1配列を含んでなり得る(例えば、アレクセンコ(Aleksenko)およびクラッターバック(Clutterbuck)(1997年)、Fungal Genet.Biol.21:373−397を参照のこと)。あるいは、ベクターは、細胞に導入される場合、ゲノムに組込まれ、それが組込まれている染色体と共に複製するものであってもよい。組込みクローニングベクターは、宿主細胞の染色体の無作為または予め決定された標的遺伝子座に組込み得る。本発明の好適な実施態様では、組込みクローニングベクターは、この予め決定された座位へのクローニングベクターの組込みを標的化するための宿主細胞のゲノムにおける予め決定された標的遺伝子座のDNA配列に相同であるDNAフラグメントを含んでなる。標的化組込みを促進するために、クローニングベクターは、好ましくは、宿主細胞の形質転換の前に線状化される。線状化は、好ましくは、少なくとも1つ、但し、好ましくは、クローニングベクターのいずれか一方の末端が標的遺伝子座に相同な配列によって隣接されるように、実施される。標的遺伝子座に隣接する相同配列の長さは、好ましくは、少なくとも0.1kb、なお好ましくは、さらに少なくとも0.2kb、より好ましくは、少なくとも0.5kb、さらにより好ましくは、少なくとも1kb、最も好ましくは少なくとも2kbである。
【0039】
相同組換えによる宿主細胞のゲノムへの核酸構築物の標的化された組込み、即ち、予め決定された遺伝子座における組込みの効率は、好ましくは、宿主細胞の増大した相同組換え能によって増加する。細胞のそのような表現型は、好ましくは、国際公開第05/095624号パンフレットに記載の欠損hdfAまたはhdfB遺伝子に関与する。国際公開第05/095624号パンフレットは、上昇した効率の標的化された組み込みを含んでなる糸状菌細胞を得るための好適な方法を開示する。
【0040】
ベクターシステムは、宿主細胞のゲノムに導入しようとする全DNAを共に含有する単一のベクターまたはプラスミドあるいは2つ以上のベクターまたはプラスミドであってもよい。しかし、本発明では、構築物は、好ましくは、宿主株のゲノムに組み入れられる。これは無作為なプロセスであるため、これはさらに、大量の酵素、およびそれに続いて、高い産生性を生じる遺伝子発現を駆動するのに高度に適するゲノム座位への組込みを生じ得る。
【0041】
真菌細胞は、プロトプラスト形成、プロトプラスト形質転換、および細胞壁の再生によって、形質転換してもよい。真菌宿主細胞の形質転換に適切な手順については、欧州特許第238,023号明細書およびエルトン(Yelton)ら(1984年、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81:1470−1474)に記載されている。アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)を使用する糸状菌宿主細胞の形質転換に適切な手順については、デ・グルートM.J.(de Groot M.J.)ら(1998年、Nat Biotechnol16:839−842;正誤表:1998年、Nat Biotechnol16:1074)によって記載されている。アカパンカビ(Neurospora crassa)について記載のエレクトロポレーションのような他の方法もまた、適用してよい。
【0042】
真菌細胞は、同時形質転換を使用して形質転換される(即ち、目的の遺伝子に伴って、選択マーカー遺伝子も形質転換される)。これは、目的の遺伝子(即ち、プラスミド上)または個別のフラグメント上のいずれかに物理的に連結することができる。トランスフェクション後、形質転換体を、この選択マーカー遺伝子の存在についてスクリーニングし、続いて、目的の遺伝子の存在について分析する。選択マーカーは、殺生物剤またはウイルスに対する耐性、重金属に対する耐性、栄養要求体に原栄養性などを提供する産物である。有用な選択マーカーとして、amdS(アセトアミダーゼ)、argB(オルニチンカルバモイルトランスフェラーゼ)、bar(ホスフィノトリシンアセチルトランスフェラーゼ)、hygB(ハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ)、niaD(硝酸レダクターゼ)、pyrG(オロチジン−5’−リン酸デカルボキシラーゼ)、sCもしくはsutB(硫酸アデニルトランスフェラーゼ)、trpC(アントラニル酸シンターゼ)、ble(フレオマイシン耐性タンパク質)、またはそれらの均等物が挙げられる。
【0043】
別の実施態様でも、同じ原理を適用して:限定されないが、ストレプトマイセス・クラブリゲルス(Streptomyces clavuligerus)、ストレプトマイセス・アバーミチリス(Streptomyces avermitilis)、ストレプトマイセス・ペウセティウス(Streptomyces peucetius)、ストレプトマイセス・コエリカラー(Streptomyces coelicolor)、ストレプトマイセス・リビダンス(Streptomyces lividans)、ストレプトマイセス・カルボフィラス(Streptomyces carbophilus)、アミコラトピス・オリエンタリス(Amycolatopis orientalis)、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)および大腸菌(Escherichia coli)のような原核生物種の適切なコンパクチン産生宿主細胞ならびにそれらの産業的誘導体に至ることができる。これらの種の産業的誘導体は、様々な回数の古典的変異誘発、その後、それらを本発明の特定の用途に適合する改善された産業的産生特徴のためにスクリーニングおよび選択を経た。所望されない産物の部分または完全な経路を取り出す(即ち、欠失する)ことによって、株は、それらの所望される産業的発酵特徴および(酵素を含む)代謝物への高いフラックスを維持する。ここでは、ペニシリウム・シトリヌム(Penicillium citrinum)コンパクチン遺伝子のリスト(mlcA、mlcB、mlcC、mlcD、mlcE、mlcF、mlcG、mlcHおよび/またはmlcR)から選択されるすべての遺伝子は、原核細胞において機能的に発現されるように、現存の方法によって改変する必要がある。当業者であれば、これが、制限されないが、以下を含む真核生物について上記の概説に匹敵する様々な工程に関与することを理解するであろう:
・(真核生物のイントロンを排除するために)cDNAまたは合成DNAを得ること
・場合により、コドン最適化を使用すること
・原核細胞において機能的なプロモーターを備え付けること
・原核細胞において機能的なターミネーターを備え付けること
・原核細胞において機能的なベクターを介して導入すること
【0044】
本発明の別の実施態様では、コンパクチンをプラバスタチンに変換するのに必要な遺伝子を含んでなる宿主微生物が提供される。実施例3のペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)コンパクチン産生宿主細胞のペニシリン産生親株は、驚くべきことに、コンパクチンをプラバスタチンに変換するのに特に有用である。p450酵素をコードするストレプトマイセス・カルボフィラス(Streptomyces carbophilus)遺伝子P−450sca−2は、ワタナベ(Watanabe)ら(1995年、Gene163:81−85)により、コンパクチンからプラバスタチンへの変換のための触媒であることが記載された。これまでのところ、この遺伝子は、ストレプトマイセス・カルボフィラス(Streptomyces carbophilus)およびストレプトマイセス・リビダンス(Streptomyces lividans)においてのみ発現が成功した(ワタナベ(Watanabe)、1995年)。p450酵素は、幾分特異的な補因子再生系を必要とすることが公知であり(ピリペンコ(Pylypenko)およびシュリチング(Schlichting)、2004年、Annu.Rev.Biochem.73:991−1018を検討のために参照のこと)、そのため、良好な異種発現のために、この再生系は、同時誘導する必要がある(例えば、クボタ(Kubota)ら、2005年、Biosci.Biotechnol.Biochem.69:2421−2430を参照のこと)。驚くべきことに、ストレプトマイセス・カルボフィラス(Streptomyces carbophilus)由来の構造P−450sca−2遺伝子のみを具備するコンパクチン産生ペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)宿主細胞は、コンパクチンをプラバスタチンに変換することが可能であり、従って、プラバスタチンの1工程発酵の最初の例である。プラバスタチンの産生レベルは、前記ペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)宿主細胞にフェレドキシン遺伝子を備え付けることによっても有意に改善することができる。好ましくは、前記フェレドキシン遺伝子は、米国特許出願公開第2006/0172383号明細書に記載のストレプトマイセス・ヘルバチカス(Streptomyces helvaticus)またはストレプトマイセス・カルボフィラス(Streptomyces carbophilus)由来である。本発明の範囲は、これらの具体例に制限されない。
【0045】
本発明の第2の態様では、以下の工程を含んでなる目的の化合物を産生させるための方法が開示される:
(a)コンパクチン生合成のための最小限の要件をコードする目的の遺伝子を含んでなるポリヌクレオチドで宿主細胞を形質転換すること;
(b)コンパクチンヒドロキシラーゼをコードする目的の遺伝子を含んでなるポリヌクレオチドおよび/または目的の遺伝子の発現に影響を及ぼすDNA配列を含んでなるポリヌクレオチドで前記宿主細胞を形質転換すること;
(c)形質転換された細胞のクローンを選択すること;
(d)前記選択された細胞を培養すること;
(e)栄養供給源を前記培養細胞に供給すること、ならびに;
(f)前記培養物から目的の化合物を単離すること。
【0046】
好適な実施態様では、目的の化合物はプラバスタチンである。
【0047】
別の実施態様では、コンパクチンヒドロキシラーゼ発現宿主細胞におけるプラバスタチンの産生は、改善された動態特徴を伴う相同タンパク質を使用することによって、改善することができる。そのような「相同体」または「相同配列」は、ドナー種から単離される本来のDNA配列によってコードされるポリペプチドの少なくとも1つの活性を示し、そして特定されたDNA配列によってコードされるタンパク質のアミノ酸配列に対してある程度の同一性を所有するアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするDNA配列として規定される。コンパクチンヒドロキシラーゼ遺伝子に対して「実質的に相同」であるアミノ酸配列を有するポリペプチドは、特定されたアミノ酸配列に対して少なくとも25%、より好ましくは、少なくとも30%、より好ましくは、少なくとも40%、より好ましくは、少なくとも50%、なおより好ましくは、少なくとも60%、なおより好ましくは、少なくとも70%、なおより好ましくは、少なくとも80%、なおより好ましくは、少なくとも90%、なおより好ましくは、少なくとも98%、および最も好ましくは、少なくとも99%の程度の同一性を所有するアミノ酸配列を有するポリペプチドとして規定され、実質的に相同なペプチドは、プラバスタチンの合成に対する活性を示す。このアプローチを使用して、フィードバック阻害を克服すること、分泌の改善および副産物形成の減少のような様々な利点が得られる。相同配列は、異なる集団由来の細胞または天然の対立遺伝子または株内の変動による集団内に存在し得る多型を包含してもよい。相同体は、さらに、特定されたDNA配列を生じる種以外の種から誘導してもよく、または人工的に設計および合成してもよい。特定されたDNA配列に関連し、そして遺伝子暗号の縮重によって得られるDNA配列もまた、本発明の部分である。合成で単離される相同配列は特に重要である。この方法によって、適切なp450酵素をコードする遺伝子の可能なすべての変種を、インシリコで設計することができる。これは、遺伝子が、コンパクチン産生宿主細胞および/またはコンパクチンヒドロキシラーゼ発現宿主細胞において至適に発現され;制限酵素および/または部位特異的リコンビナーゼに関連する配列を取り出し、および誘導し;異なる組み合わせの遺伝子を作製するなどのような方法で、遺伝子のコドン使用頻度を適応する機会を広げる。あるいは、改善された動態学的特性を伴う相同配列を得るための方法として、エラープローンPCR、ファミリーシャッフリングおよび/または定向進化のようなインビトロでの進化論的アプローチを使用することができる。相同体はまた、全長配列の生物学的に活性なフラグメントを包含してもよい。さらに、相同体ではないが、コンパクチンまたはいずれかのコンパクチン−前駆体由来のプラバスタチンからの形成を触媒する遺伝子を使用することができる。
【0048】
さらなる実施態様では、コンパクチンからプラバスタチンへの変換の効率は、p450酵素に必要な特異的酸化還元再生系を単離し、そしてこれをコンパクチンヒドロキシラーゼ発現宿主細胞に導入することによって改善してもよい。そのような系を宿主細胞に導入する方法は、コンパクチンヒドロキシラーゼの導入に関する説明と同じであり、上記で概説している。そのような酸化還元再生系は、コンパクチンヒドロキシラーゼ(即ち、p450)をコードするポリヌクレオチドが入手され得る種と同じ種から入手され得るか、または例えば、ペニシリウム(Penicillium)種(即ち、ペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)、ペニシリウム・シトリヌム(Penicillium citrinum))、アスペルギルス(Aspergillus)種(即ち、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・ニダランス(Aspergillus nidulans)、アスペルギルス・テレウス(Aspergillus terreus))、ムコール(Mucor)種(即ち、ムコール・ヒエマリス(Mucor hiemalis))、モナスカス(Monascus)種(即ち、モナスカス・ルバー(Monascus ruber)、モナスカス・パキシー(Monascus paxii))、ストレプトマイセス(Streptomyces)種(即ち、ストレプトマイセス・カルボフィラス(Streptomyces carbophilus)、ストレプトマイセス・フラビドビレンス(Streptomyces flavidovirens)、ストレプトマイセス・コエリカラー(Streptomyces coelicolor)、ストレプトマイセス・リビダンス(Streptomyces lividans)、ストレプトマイセス・エクスフォリエーテス(Streptomyces exfoliates)、ストレプトマイセス・アバーミチリス(Streptomyces avermitilis)、ストレプトマイセス・クラブリゲルス(Streptomyces clavuligerus))、アミコラトプシス(Amycolatopsis)種(即ち、アミコラトプシス・オリエンタリス(Amycolatopsis orientalis)NRRL18098、アミコラトプシス・オリエンタリス(Amycolatopsis orientalis)ATCC19795)、バチルス(Bacillus)種(即ち、バチルス・サブチルス(Bacillus subtilus)、バチルス・アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis))、コリネバクテリウム(Corynebacterium)種(即ち、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum))、もしくはエシェリキア(Escherichia)種(即ち、大腸菌(Escherichia coli))である種において異種発現され得るまた、代替的系を適用することもできる。代替的系の例には、本発明のコンパクチンヒドロキシラーゼをクラスIVp450系に組込み、それによって、それを酸化還元パートナーに融合すること(例えば、ロバーツ(Roberts)ら、2002年、J Bacteriol 184:3898−3908およびノダテ(Nodate)ら、2005年、Appl Microbiol Biotechnol 9月30日;:1−8[電子版]を参照のこと)、または亜リン酸デヒドロゲナーゼのようなNAD(P)H生成非p450連結酵素(ヨハネス(Johannes)ら、2005年、Appl Environ Microbiol.71:5728−5734)、または非酵素的手段(例えば、ホールマン(Hollmann)ら、2006年、Trends Biotechnol24:163−171を参照のこと)があるが、これらに限定されない。それ故、得られる宿主細胞は、プラバスタチンを産生させるために使用してもよい。
【0049】
別の実施態様では、コンパクチン産生宿主細胞とコンパクチンヒドロキシラーゼ発現宿主細胞とを混合し、続いて、混合培養物として両方の宿主細胞を培養することによって、プラバスタチンの1工程発酵が行われ、このことから、コンパクチンを産生する宿主細胞によって産生され、そして分泌されるコンパクチンが、インポートされ、そしてコンパクチンヒドロキシラーゼ発現宿主細胞によってプラバスタチンに変換されることが理解される。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の略図である。野生型(WT)株は、取り入れられる炭素を、増殖、産物(ペニシリンG)および維持に分配するための固定比率を有する。産業用株では、このバランスは、産物の方に偏る。コンパクチン産生宿主細胞では、ペニシリンG経路が取り出され、そのため、増殖と維持との間で、再度、炭素フラックスのバランスがとられる。新規産生株では、産業的炭素フラックスのバランスは、新規産生経路を導入することによって回復する。説明:I=野生型ペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)株;II=産業用ペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)株;III=ペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)β−ラクタムを含まない株;IV=新たな産物を産生するペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)β−ラクタムを含まない株;S=炭素源(即ち、糖);G=ペニシリンG;X=バイオマス;M=維持;P=コンパクチンおよび/またはプラバスタチン。
【図2】ペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)およびペニシリウム・シトリヌム(Penicillium citrinum)においてストレプトマイセス・カルボフィラス(Streptomyces carbophilus)p−450sca−2酵素を発現させるために使用されるp−450sca−2発現ベクターpANp450aを示す。
【図3】単一コピーのペニシリン生合成遺伝子クラスターを伴う産業用ペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)単離体のサザンブロット分析を示す。説明:#=単離体の番号;N=npe10;W=Wis54−1255;I=中間的親;N=niaA遺伝子フラグメント;P=pcbC遺伝子フラグメント。
【図4】フェノキシ酢酸を伴う無機培地上、振盪フラスコにおける様々な株の相対的ペニシリンV力価を示す。Y軸上に、ペニシリンVの百分率を示す(産業用親のレベルを100に設定する)。説明:C=産業用親;I=中間的親;W=Wis54−1255;N=npe10;#=単離体の番号。
【図5】産業用ペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)株の誘導体からペニシリン遺伝子クラスターの最終コピーを取り出すための欠失ストラテジーの概念図である。説明:A=pcbAB遺伝子;B=pcbC遺伝子;C=penDE遺伝子;M=amdS遺伝子カセット;3=3kbフランク長;5=5kbフランク長;7=7kbフランク長。ハッチングを施された領域は相同フランキング領域を示し;斜めのハッチングは左フランキングを示し、そして縦のハッチングは右フランキングを示す。
【図6】フェニル酢酸を伴う無機培地上、振盪フラスコにおける様々な株の相対的ペニシリンG力価を示す。Y軸上に、ペニシリンGの百分率を示し、産業用親株のレベルを100に設定する。説明:C=産業用親;I=中間的親;W=Wis54−1255;N=npe10;#=単離体の番号。
【図7】コンパクチン遺伝子クラスター(長さは38231bpである)の略図である。破線矢印は、遺伝子およびその場所での配向を示す。小さな実線矢印は、クローニングストラテジーにおいて使用されるPCRプライマーの位置を示す。上部のサイズは、PCRを介して増幅されるフラグメントの長さを示す(1つの18kbフラグメントに対するいくらかのクローニング工程を介して、10および8kbのフラグメントが組み合わされるが、詳細については実施例を参照のこと)。説明:A=mlcA遺伝子;B=mlcB遺伝子;C=mlcC遺伝子;D=mlcD遺伝子;E=mlcE遺伝子;F=mlcF遺伝子;G=mlcG遺伝子;H=mlcH遺伝子;R=mlcR遺伝子。
【図8】コンパクチン遺伝子クラスターの中間部分(14.3kb)および右側の部分(6kb)のPCR増幅を示す。
【図9】コンパクチンクラスターの18kbの左側部分のクローニングストラテジーの概略図である。パネルA:pCR2.1TOPOT/Aにおいてクローニングされた10kbおよび8kbのフラグメントのPCR増幅。パネルB:10および8kbのフラグメントの融合−クローニング。NotI−XbaI消化10kbプラスミドに連結される8kbのフラグメントのNotI−SpeI消化。mlcAオープンリーディングフレームを回復するための内部の6kbのフラグメントのPCR増幅。パネルC:最終的な18kbのフラグメント。pDONR41Zeoへのゲートウェイ反応を介して移し替えされる。説明:CGC=コンパクチン遺伝子クラスター;N=NotI;A=Acc65I;X=XbaI;S=SpeI。
【図10】発酵ブロスの上清のHPLC分析を示す。パネルA:すべてのペニシリン生合成遺伝子クラスターを取り出したペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)株。パネルB:組込まれたコンパクチン遺伝子クラスターを伴うペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)の形質転換体の1つ。ML−236Aに対応するピークが、2.6分において認められる。説明:X軸=分;Y軸=相対的ピーク強度を示す任意単位。
【図11】HPLCによって検出されるプラバスタチンの形成を示す。パネルAは、コンパクチン生合成遺伝子およびストレプトマイセス・カルボフィラス(Streptomyces carbophilus)由来のP−450sca−2遺伝子を具備するペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)株由来のブロスである。パネルBは、パネルAと同じであるが、但し、この化合物に対応するピークを示すために、純粋なプラバスタチンがスパイクされている。プラバスタチンに対応するピークが、9.7分において認められる。他の主要なピークは、ML−236A(8.7分)およびコンパクチン(11.5分)由来である。説明:X軸=分;Y軸=相対的ピーク強度を示す任意単位。
【図12】LC/MS/MSによって検出されるプラバスタチンの形成を示す。パネルAは、LCを介して分析したコンパクチン生合成遺伝子およびストレプトマイセス・カルボフィラス(Streptomyces carbophilus)由来のP−450sca−2遺伝子を具備するペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)株由来のブロスである。プラバスタチンに対応するピークが、8.7分において認められる。説明:X軸=分;Y軸=相対的ピーク強度を示す任意単位。パネルBは、パネルAのサンプルのMS/MS分析である。ピークパターンは、正確な質量(423)およびフラグメント化パターン(321、303および198)を伴うプラバスタチンに対応する。説明:X軸=質量;Y軸=相対的ピーク強度を示す任意単位。
【実施例】
【0051】
[一般的方法]
標準的なDNA手順は、その他(サンブルック(Sambrook)ら、1989年、Molecular cloning:a laboratory manual、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,New York)に記載のとおりに行った。特定のDNA方法を適用した場合は、これらについて具体的に説明する。DNAは、プルーフリーディング酵素Herculaseポリメラーゼ(Stratagene)を使用して、増幅した。制限酵素は、InvitrogenまたはNew England Biolabs製であった。
【0052】
[比較例1]
[欧州特許第1,266,967号明細書に記載の株によるスタチン産生]
マンゾーニ(Manzoni)らは、3つの異なる刊行物(1998年、Biotechnol Techn 12:529−532;1999,Biotechnol Lett21:253−257;欧州特許第1,266,967号明細書)において、様々なスタチン産生株の単離について記載している。前者の2つの刊行物の株は利用可能ではないが、欧州特許第1,266,967号明細書に記載の株は利用可能である。モナスカス・ルバー(Monascus ruber)GN/33およびアスペルギルス・テレウス(Aspergillus terreus)GN/2218は、それぞれ、コレクション番号DSM13554およびDSM13596の下でGerman National Resource Centre for Biological Materialで入手した。コントロール株として:ペニシリウム・シトリヌム(Penicillium citrinum)NRRL8082およびアスペルギルス・テレウス(Aspergillus terreus)ATCC20542を使用した。ポテトデキストロース寒天(PDA)スラント上、2〜7日間、25℃で株の胞子形成を誘導した。胞子を0.5%Tween80に回収し、そして欧州特許第1,266,967号明細書に記載のプレ培養培地(グルコース(25g/L);カゼイン加水分解物(10g/L);酵母抽出物(15g/L);NaNO3(2g/L);MgSO4.7H20(0.5g/L);NaCl(1g/L);1M NaOHでpH6.2に調整した)に播種するために使用し、そして培養を、欧州特許第1,266,967号明細書に記載のとおりにインキュベートした。2日後、プレ培養物由来のブロスを使用して、主培養物に播種した。これは、欧州特許第1,266,967号明細書に記載の培地(グリセロール(60g/L);グルコース(20g/L);ペプトン(10g/L);全ダイズ粉(30g/L);NaNO3(2g/L);MgSO4.7H20(0.5g/L);1M HClでpH5.8に調整した)における10%の最終容積で行い、そして培養を、欧州特許第1,266,967号明細書に記載のとおりに144についてインキュベートした。産生されたスタチン系薬剤の分析のために、ブロスサンプル(1mL)を採取した。この目的のために、CH3CN(0.5mL)をサンプルに添加し、そして混合物をボルテックスで激しく攪拌した。細胞破砕物を、30分間、14,000rpmでスピンした。上清を、LC/MS分析に使用した。プラバスタチン、ロバスタチンおよびコンパクチンを、いくらかの希釈(15、5、5、2.5、1、0.5および0.25μg/mL)でコントロールとして使用した。以下の条件を使用して、LC/MSを実施した。
【0053】
【表1】
【0054】
欧州特許第1,266,967号明細書に記載の条件下でプラバスタチンを産生する株は認められない(表1)。
【0055】
【表2】
【0056】
[比較例2]
[国際公開第99/10499号パンフレットに記載の株によるスタチン産生]
[P−450sca−2遺伝子の単離]
国際公開第99/10499号パンフレットに従って、野生型ペニシリウム・シトリヌム(Penicillium citrinum)細胞に、ストレプトマイセス・カルボフィラス(Streptomyces carbophilus)P−450sca−2遺伝子を備え付けた。それ故、株ストレプトマイセス・カルボフィラス(Streptomyces carbophilus)FERM−BP1145を、25ml液体培地(g/Lで:酵母抽出物、1;カザミノ酸、4;グリセロール、4;MgSO4、I;CaCI2、0.1;微量元素、2mI(0.1%ZnSO4.7H20、0.1%FeSO4.7H20、0.1%MnCI2.4H20);0.5%グリシン)に播種し、そして28℃、280rpmで、72時間、インキュベートした。菌糸体を遠心分離により回収し、0.7%NaClで1回洗浄し、続いて、ゲノムDNAを、ホップウッド(Hopwood)ら(1985年、Genetic manipulation of Streptomyces,a laboratory manual,John Innes Foundation,Norwich)に従って、単離した。遺伝子特異的順方向および逆方向プライマー(配列番号1および2)を使用して、単離された染色体DNAに対して実施されるPCRによって、コンパクチンヒドロキシラーゼ遺伝子P−450sca−2をクローニングした。PCR反応混合物を、50μlにおいて、テンプレートとしての125ngのゲノムDNA、250ngの両方のプライマー、2単位のPwoポリメラーゼ(Boehringer Mannheim)、1×Pwo緩衝液、0.2mM dNTPおよび4μl DMSOにより実施した。1.2kbの平滑PCR DNA−フラグメントを、ベクターpCR−blunt(Stratagene)にクローニングして、構築物pCRP450aを得た。pCRP450aにおいてヒドロキシラーゼ遺伝子を含有するPCR挿入物を、DNA配列解析によって確認した。NcoIによる部分消化およびEcoRVによる完全消化後、1.2kbのDNAフラグメントを、pCRP45Oaから単離し、そしてNcoIおよびSmaI消化された真菌発現ベクターpAN8−I(Punt & van den Hondel,1993年、Meth.Enzymology 216:447−457)にクローニングした。得られた組込み構築物pANP450aは、制限分析によって確認され、これは、アスペルギルス・ニダランス(Aspergillus nidulans)gpdAプロモーターの下流にストレプトマイセス・カルボフィラス(Streptomyces carbophilus)コンパクチンヒドロキシラーゼ遺伝子を含有する。得られたプラスミドを図2に示す。
【0057】
[P−450sca−2遺伝子によるペニシリウム・シトリヌム(Penicillium citrinum)形質転換体の入手]
プロトプラスト形質転換、糸状菌に使用される典型的な手順を介して、pANP450aをペニシリウム・シトリヌム(Penicillium citrinum)NRRL8082に導入した。方法の詳細については、国際公開第99/10499号パンフレットに記載されている。また、本発明者らは、pANP450aおよびpAN7−1(プント(Punt)およびファン・デン・ホンデル(Van den Hondel)、1993年)を同時導入し、そしてハイグロマイシンに対し形質転換体を選択した。ハイグロマイシンポジティブ形質転換体を入手し、そして新鮮ハイグロマイシンプレート上で再度、画線培養した。PCRを適用して、ハイグロマイシンポジティブコロニーがまた、pAN450aプラスミドも入手したことを立証した。この目的のために、コロニー材料の小片を50μlのTE緩衝液(サンブルック(Sambrook)ら、1989年)に再懸濁し、そして95℃で10分間、インキュベートした。細胞破砕物を、5分間、3000rpmでスピンした。5μlの上清を、P−450sca−2特異的順方向および逆方向プライマー(配列番号3および4)を使用するPCR反応に使用した。合計で、8つのハイグロマイシン耐性体、P−450sca−2ポジティブかつ安定な形質転換体を得た。
【0058】
[振盪フラスコはP−450sca−2遺伝子によるペニシリウム・シトリヌム(Penicillium citrinum)形質転換体を試験する]
ポテトデキストロース寒天(PDA)スラント上、2〜7日間、25℃で株の胞子形成を誘導した。胞子を0.5%Tween80に回収し、そして実施例1に記載のプレ培養培地に播種するために使用した。2日後、プレ培養物由来のブロスを使用して、主培養物に播種した。これは、実施例1に記載の培地における10%の最終容積で行った。産生されたスタチン系薬剤の分析のために、1mLのブロスサンプルを採取した。この目的のために、0.5mLのアセトニトリルをサンプルに添加し、そして混合物をボルテックスで激しく攪拌した。細胞破砕物を、30分間、14000rpmでスピンした。実施例1のように、上清をLC/MS分析に使用した。表2において見ることができるように、国際公開第99/10499号パンフレットに記載の条件下でプラバスタチンを産生する株は認められない。
【0059】
【表3】
【0060】
[実施例3]
[ペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)コンパクチン産生宿主細胞の単離]
ペニシリウム・シトリヌム(Penicillium citrinum)は、天然のコンパクチン生産者である(Y.アベ(Y.Abe)ら、2002年、Mol.Genet.Genomics 267,636−646)。代謝経路をコードする遺伝子は、ゲノム上で1つのフラグメントにクラスター形成する。これらの遺伝子のいくつかの機能的役割については、文献ならびに全クラスターまたは特異的調節因子の過剰発現によりコンパクチン力価が増加するという事実から説明される(アベ(Abe)ら、2002年、Mol.Genet.Genomics 268:130−137;アベ(Abe)ら、2002年、Mol.Genet.Genomics,268:352−361)。しかし、野生型株および組み換え株の力価は極めて低く、そのためより良好な産生宿主が有望である。コンパクチン産生宿主細胞のための出発株として、その株の性能を改善するためのいくらかの回数の株改善を経た任意の産業用ペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)株を使用することができる。これらの株の例には:CBS455.95(ゴウカ(Gouka)ら、1991年、J.Biotechnol.20:189−200)、Panlabs P2(ライン(Lein)、1986年、The Panlabs Penicillium strain improvement program,in‘Overproduction of microbial metabolites’、ヴァネク(Vanek)およびホスタレック(Hostalek)(編)、105−140;Butterworths,Stoneham、マサチューセッツ州)、E1およびAS−P−78(フィエロ(Fierro)ら、1995年、Proc.Natl.Acad.Sci.92:6200−6204)、BW1890およびBW1901(ニューバート(Newbert)ら、1997年、J.Ind.Microbiol.19:18−27)がある。コンパクチン産生宿主細胞として使用することができるβ−ラクタムを含まない誘導体を単離するためには、産業用ペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)株のβ−ラクタム生合成タンパク質をコードする遺伝子のすべてのコピーを欠失しなければならない。これらの遺伝子は、産業用ペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)株系統において複数のコピーに増幅されるため、単一遺伝子の欠失を介してこれを行うことは実行可能ではない。最良のアプローチは、まず、生合成遺伝子の組の僅か1コピーを伴う産業用株の誘導体を単離することである。すべての遺伝子増幅は、同じ染色体上の直接反復であるため(フィエロ(Fierro)ら、1995年、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 92:6200−6204)、コピーの消失を生じる異なる反復の間に組み換えが存在し得る(ニューバート(Newbert)ら、1997年、J.Ind.Microbiol.19:18−27)。これは、無作為なプロセスであり、そして変異誘発処置を介して誘導することができる。誘導体は、ペニシリン産生の減少およびペニシリン生合成遺伝子のコピー数の減少についてスクリーニングすべきである。十分な誘導体がスクリーニングされるならば、これらの単一コピー単離体を見出すことが可能である。次いで、それらの単離体は、相同組み換えを介する標的化された遺伝子ノックアウトに使用される。
【0061】
[単一コピー単離体の単離]
ペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)プロトプラストの調製は、カントラル(Cantoral)ら、1987年、Bio/Technol.5:494−497に記載のように行ったが、但し、溶解酵素としてノボザイム(novozyme)の代わりにグルカネックス(glucanex)を使用した。プロトプラストを菌糸体から分離し、洗浄し、そしてフェニル酢酸を伴わないが、15g/L寒天および1Mサッカロースで補充された無機培地寒天(米国特許出願公開第2002/0039758号明細書)上でプレート化した。再生コロニーを、サッカロースを伴わないプレートに移し、胞子形成を誘導した。胞子を回収し、0.9mM NaClで洗浄し、希釈し、そしてYEPD寒天プレート(10g/L酵母抽出物、10g/Lペプトン、20g/Lグルコースおよび15g/L寒天)上でプレート化した。単離されたコロニーを、ストック培養プレートとしての役割を果たす無機培地寒天プレートに移した。27個の無作為な単離体を、サザンブロット分析のために選択して、相対的な遺伝子−コピー数を決定した。このため、細胞を、液体無機培地において48時間、25℃および280rpmで増殖させた。細胞を回収し、0.9mM NaClで洗浄し、そしてペレットを液体N2中で凍結した。乳棒および乳鉢を使用して凍結細胞を破砕し、プラスチックチューブに移し、そして等容積のフェノール:CHCl3:イソアミルアルコール(25:24:1)を添加した。この混合物をボルテックスで激しく撹拌し、遠心分離し、そして水相を新鮮なチューブに移した。これを2回繰り返したが、各操作で所定容積の新鮮なフェノール:CHCl3:イソアミルアルコール(25:24:1)を使用した。最後に、エタノール沈殿(サンブルック(Sambrook)ら、1989年)によって、水相からDNAを単離した。DNA(3μg)をEcoRIで消化し、0.6%アガロース上で分離し、そしてサザンブロッティングによってナイロン膜に移した。プローブとして、pcbCおよびniaAを適用した。前者はペニシリン生合成遺伝子のコピー数を表し、そして後者はペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)株における単一コピーとして存在する内部コントロール(遺伝子は亜硝酸レダクターゼをコードする)である。プローブ配列を、遺伝子特異的プライマー(表3を参照のこと)を使用して増幅し、そして供給者の指示に従って、ECL非放射性ハイブリダイゼーションキット(Amersham)で標識した。両方のシグナルの強度の間の比率(pcbC:niaA)を使用して、ペニシリン遺伝子クラスターの相対的な遺伝子コピー数を見積もった。親株および単一コピー研究用株Wisconsin54−1255をコントロールとして適用した。
【0062】
【表4】
【0063】
最も低い比率を伴う株を、フェノキシ酢酸を伴う液体無機培地におけるペニシリン産生について試験した。ペニシリンV産生を、NMRにより決定した。pcbC:niaA比の減少を伴う株はまた、ペニシリンV力価の減少を示した。上記と全く同様に、2回のプロトプラスト化、スクリーニングおよび分析を経た1つの株を選択した。さらに、27個の無作為な単離体を選択し、そして詳細に分析した。いくらかの推定的な「単一コピーの」ペニシリン生合成遺伝子クラスター候補(矢印で示す)が、研究用株Wisconsin54−1255に匹敵するpcbC:niaA比を示したため、サザンブロット(図3を参照のこと)から、これらを同定した。これらのうち3つを選択し、そして振盪フラスコにおいて、ペニシリンV産生について試験した。コントロールとして、本来の産業用ペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)親、中間的親、研究用株Wisconsin54−1255およびこの研究用株を含まない性誘導体、npe10(カントラル(Cantoral)ら、1993年,J.Biol.Chem.268:737−744)を使用した。3個のすべての単離体は、劇的に減少したペニシリンV力価を示し、単一コピーの研究用株Wisconsin54−1255に匹敵し、従って、これらの3つの単離体は、僅か1コピーのペニシリン遺伝子クラスターを保持するが、古典的な株改善を介して誘導されるすべての変異も保持する産業用単一コピー単離体であると結論付けられた(図4)。
【0064】
[欠失最終コピーペニシリン生合成遺伝子]
保持された最終コピーのペニシリン遺伝子クラスターの3つの生合成遺伝子を不活化するために、二重相同組み換えストラテジーを適用した。生合成遺伝子の隣の配列を、この遺伝子座に対するamdS選択マーカーを標的化するためのフランキングとして使用した。二重相同的交差が生じる場合、形質転換体は、(amdS遺伝子の存在のため)アセトアミドを唯一の炭素源として使用し、ペニシリン系薬剤を産生すべきではなく、そしてpcbCプローブにハイブリダイズすべきではない。二重相同的交差は、ペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)において稀な事象であるため、次の3つの構築物が産生された:amdS遺伝子のいずれか一方の側に3kbフランクを伴うもの、5kbを伴うものおよび7kbフランクを伴うもの(図5を参照のこと)。適応したオリゴヌクレオチドを表4に列挙する。
【0065】
【表5】
【0066】
PCR増幅後、TOPO T/Aクローニング(Invitrogen)を介して、フラグメントをpCRXLにクローニングした。続いて、3つのすべてのフランキング(3、5および7kb)を、Acc651およびNotIで消化し、その後、Acc651およびNotIで予め消化したpBluescript II SK+(Invitrogen)に連結した。得られたフランキングプラスミドを、NotIで消化して、NotIおよびEco521で予め消化した右側フランクのクローニングを容易にした。得られた3、5および7kbフランキングプラスミドは、すべて、左側フランクと右側フランクとの間に独特なNotI部位を有し、選択マーカーとしてのamdS遺伝子をクローニングするのに使用した。これは、pHELY−A1(国際公開第04/106347号パンフレットに記載されている)をNotIで消化し、そして3.1kbのPgpdA−AnamdS発現カセットを単離することによって、入手した。KpnIによる消化後に、このようにして得られた欠失フラグメントを単離し、そして、ペニシリン遺伝子クラスター単一コピー単離体に形質転換した。形質転換体を、アセトアミド選択プレート上で増殖するそれらの能力に対して選択し、以後、コロニーを無機培地にレプリカプレーティングし、そして4日間の増殖後、それらに、β−ラクタム感受性生物インジケーター、大腸菌(Escherichia coli)株ESSを重層することによって、抗生物質産生についてスクリーニングした。コロニーがなおβ−ラクタム系薬剤を産生する場合、これは、大腸菌(Escherichia coli)の増殖を阻害する。試験した27,076個の形質転換体のうちの22個(0.08%)は阻害ゾーンを示さず、そしてさらなる分析のために選択した。これらの22個の単離体を、次の3つのプライマーの組によるコロニーPCRを介して分析した:単一コロニー遺伝子の内部コントロールとしてのniaA;選択マーカーのためのamdS;ペニシリン生合成遺伝子の有無のインジケーターとしてのpenDE。
【0067】
【表6】
【0068】
【表7】
【0069】
すべての22個の推定変異体は、ペニシリン生合成の最後の工程を触媒するアシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子penDEのシグナルを示さなかった。2個の変異体がamdSのシグナルを示さなかったことから、選択マーカー遺伝子の自然消失が示唆される。すべての22個の単離体は、β−ラクタム生合成遺伝子を伴う産業用ペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)株誘導体であり、そしてコンパクチン産生の可能な宿主として適任であることが結論付けられた。
【0070】
[振盪フラスコ試験]
すべての22個の変異体を、振盪フラスコにおいて試験して、前駆体としてフェニル酢酸を伴う液体無機培地に変異体を播種することによって、ペニシリンネガティブ表現型を確認した。サンプルをNMRで分析し、ペニシリンGを産生することが可能な変異体が存在しないことを確認し(図6)、従って、すべてが、正確にペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)β−ラクタムを含まない単離体であることが結論付けられた。
【0071】
[コンパクチン遺伝子の組の単離]
ペニシリウム・シトリヌム(Penicillium citrinum)NRRL8082から染色体DNAを単離した。全遺伝子クラスターは、そのサイズ(38kb;図7)のためPCRを介して増幅することが困難であるため、それを、3つのフラグメント:18kb、14kbおよび6kbに分割した。14および6kbのフラグメントを容易にPCR増幅し(図8)、そしてGateway(Invitrogen)を使用し、いわゆるLRゲートウェイ反応により、供給者の指示に従って、エントリーベクターpDONRP4−P1RおよびpDONR221にクローニングした。18kbのフラグメントを、2段階の手順でクローニングした。まず、10および8kbのフラグメントを増幅した。両方のフラグメントを、個別に、pCR2.1TOPO T/A(Invitrogen)にクローニングし、続いて、制限酵素クローニングおよび連結を介して共に融合した(図9を参照のこと)。最終的に、Gateway工学を使用して、フラグメントを、pDONR41Zeoベクターに移し替えた。増幅したフラグメントを、配列決定によって立証した。いわゆるMulti−site Gateway Reaction(マニュアルInvitrogenを参照のこと)使用して、コンパクチン生合成遺伝子クラスターのすべての遺伝子を含有するこれらの3つの遺伝子フラグメントを、全領域に及ぶ1つのフラグメントに再結合することができた。
【0072】
【表8】
【0073】
[ペニシリウム(Penicillium)形質転換]
3つのコンパクチン遺伝子クラスターフラグメントを、フレオマイシン耐性を仲介するタンパク質をコードするble発現カセットと共にペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)プラットフォーム株に同時形質転換した。このカセットは、pAMPF7から1.4kbのSalIフラグメントとして単離することができた(フィエロ(Fierro)ら、1996年、Curr.Genet.29:482−489)。50μg/mLフレオマイシンおよび1Mサッカロースを伴う無機培地寒天プレート上で、形質転換体の選択を行った。これらのプロトプラスト再生プレート上に出現するフレオマイシン耐性コロニーを、サッカロースを伴わない新鮮フレオマイシン寒天プレート上で再度、画線培養し、そして胞子形成まで増殖させた。フレオマイシン耐性形質転換体を、コロニーPCRを介して、1つ以上のコンパクチン遺伝子フラグメントの存在についてスクリーニングした。これのために、コロニー材料の小片を50μlのTE緩衝液(サンブルック(Sambrook)ら、1989年)に懸濁し、そして95℃で10分間、インキュベートした。細胞破砕物を廃棄するために、混合物を、5分間、3000rpmで遠心分離した。上清(5μl)を、HT Biotechnology Ltd製SUPER TAQによるPCR反応のためのテンプレートとして使用した。Invitrogen製E−gel96システム上でPCR反応を分析した。
【0074】
【表9】
【0075】
まず、18kbのフラグメントの存在を確認した。480個のコロニーのうち112個(約23%)について、18kbのフラグメントが安定に組入れられていることが確認された。続いて、他の2つのフラグメント(14および6kb)の存在を立証した。45個の18kbポジティブ形質転換体はまた、コンパクチン遺伝子クラスターの両方の他の部分を有し、それによって推定コンパクチン産生株として適任であった。
【0076】
コンパクチン振盪フラスコ試験
全コンパクチン遺伝子クラスターを伴うペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)プラットフォーム株形質転換体を、(加水分解された)コンパクチンおよびML−236A(6−(2−(1,2,6,7,8,8a−ヘキサヒドロ−8−ヒドロキシ−2−メチル−1−ナフタレニル)エチル)テトラヒドロ−4−ヒドロキシ−2H−ピラン−2−オン)の存在について、(フェニル酢酸を伴わない)液体無機培地において評価した。25℃、25mlにおいて168時間の培養後、上清を、以下の装置および条件を使用するHPLCで分析した:
【0077】
【表10】
【0078】
2つの異なる勾配を使用した:
【0079】
【表11】
【0080】
【表12】
【0081】
野生型ペニシリウム・シトリヌム(Penicillium citrinum)株は、いずれのスタチン系薬剤を十分には産生しない一方、ペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)形質転換体は、有意な量を産生する(表9)。HPLCクロマトグラムの例を図10に示す。これらのデータから、ペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)産業用産生株の誘導体をコンパクチンの産生のための宿主細胞として使用する高い可能性が確認される。
【0082】
【表13】
【0083】
[実施例4]
[ペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)プラバスタチン産生宿主細胞の単離]
[株の構築]
実施例2に記載のプラスミドpAN450aを使用して、実施例3に記載のようにペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)β−ラクタムを含まない株を形質転換した。この目的のために、すべての3つのコンパクチン遺伝子フラグメント、pAN450aおよびフレオマイシン遺伝子カセットを、実施例3に記載のようにペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)宿主細胞に同時形質転換した。フレオマイシン選択プレートに対する最初の選択後、コロニーを選択プレート上で再度、画線培養し、そしてコロニーPCRに使用した。第1に、表8に示されるプライマーを使用して、実施例3に記載のコンパクチン遺伝子の存在を確認した。第2に、配列番号3および4のプライマーを使用して、実施例2に記載のP−450sca−2遺伝子の存在を確認した。2つの形質転換体、T1.48およびT1.37は、すべての遺伝子を含有することが示され、続いて、振盪フラスコ分析に使用した。
【0084】
[プラバスタチン振盪フラスコ培養およびHPLC分析]
両方の形質転換体を、以下を(g/Lで)含有する尿素を含まない真菌用無機培地において培養した:グルコース(5);ラクトース(80);(NH4)2SO4(2.5);Na2SO4(2.9);KH2PO4(5.2);K2HPO4(4.8)およびクエン酸を含有する10ml/lの溶液(150);FeSO4.7H2O(15);MgSO4.7H2O(150);H3BO3、0.0075;CuSO4.5H2O、0.24;CoSO4.7H2O、0.375;ZnSO4.7H2O(0.5);MnSO4.H2O(2.28)およびCaCl2.2H2O(0.99);滅菌前のpH6.5。培養物を25℃、オービタルシェーカー中、280rpmで120時間、インキュベートした。HPLC分析は、実施例3と同じであった。勾配2を使用して、保持時間は:加水分解されたコンパクチン、11.5分;プラバスタチン、9.7分およびML−236A、8.6分であった。
【0085】
親のペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)株、ペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)コンパクチン形質転換体、野生型ペニシリウム・シトリヌム(Penicillium citrinum)株、または実施例2のペニシリウム・シトリヌム(Penicillium citrinum)形質転換体は、いずれも何らプラバスタチンを産生しない一方、コンパクチンおよびP−450sca−2遺伝子の両方を具備するペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)形質転換体は、プラバスタチンを産生する。形質転換体T1.47のHPLCクロマトグラムの例を図11に示す。
【0086】
[形質転換体T1.48ブロスのLC/MS/MS分析]
HPLCを介して同定されるピークが実際にプラバスタチンであったことを立証するために、LC/MS/MS分析を実施した。この目的のために、サンプルを水で1:1に希釈し、そして以下のとおりにLC/MS/MSシステムに注入した:
【0087】
【表14】
【0088】
プラバスタチンは、LC方法を使用して、8.7分に溶出する。プラバスタチンは、ESI/ネガティブモードで、m/z423における脱プロトン化分子[M−H]−によって特徴付けられる。MS/MSモードでは、102(メチル酪酸)および120(102−H2O)の特徴的な消失が観察され(図12)、コンパクチンおよびP−450sca−2遺伝子を具備するこのペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)形質転換体は、単純および限定された栄養素から出発する単一の発酵培養においてプラバスタチンを産生することが可能であることが確認される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンパクチン生合成遺伝子およびコンパクチンからプラバスタチンへの変換のための遺伝子を含有する微生物。
【請求項2】
真菌である、請求項1に記載の微生物。
【請求項3】
ペニシリウム(Penicillium)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、モナスカス(Monascus)属、ケカビ(Mucor)属またはサッカロマイセス(Saccharomyces)属由来である、請求項2に記載の微生物。
【請求項4】
ペニシリウム・シトリヌム(Penicillium citrinum)、ペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・テレウス(Aspergillus terreus)、アスペルギルス・ニダランス(Aspergillus nidulans)、モナスカス・ルバー(Monascus ruber)、モナスカス・パクチー(Monascus paxi)、ムコール・ヒエマリス(Mucor hiemalis)またはサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)である、請求項3に記載の微生物。
【請求項5】
前記コンパクチン生合成遺伝子は、mlcAおよび/またはmlcBおよび/またはmlcCおよび/またはmlcDおよび/またはmlcEおよび/またはmlcFおよび/またはmlcGおよび/またはmlcHおよび/またはmlcRである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の微生物。
【請求項6】
前記コンパクチン生合成遺伝子はmlcRではなく、かつ本来の宿主プロモーターは、遺伝子mlcRによってコードされる経路特異的転写調節因子による制御下にはないプロモーターによって置き換えられる、請求項1〜5のいずれか一項に記載の微生物。
【請求項7】
コンパクチンからプラバスタチンへの変換のための前記遺伝子はヒドロキシラーゼ遺伝子である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の微生物。
【請求項8】
前記ヒドロキシラーゼ遺伝子はP−450遺伝子またはその相同体である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の微生物。
【請求項9】
前記P−450遺伝子は、ストレプトマイセス・カルボフィラス(Streptomyces carbophilus)由来のP−450sca−2またはその相同体である、請求項8に記載の微生物。
【請求項10】
フェレドキシン遺伝子をさらに含んでなる、請求項1〜9のいずれか一項に記載の微生物。
【請求項11】
目的の化合物を産生させるための方法であって、以下の工程:
(a)コンパクチン生合成のための最小限の要件をコードする目的の遺伝子を含んでなるポリヌクレオチドで宿主細胞を形質転換すること;
(b)コンパクチンヒドロキシラーゼをコードする目的の遺伝子を含んでなるポリヌクレオチドおよび/または目的の遺伝子の発現に影響を及ぼすDNA配列を含んでなるポリヌクレオチドで前記宿主細胞を形質転換すること;
(c)形質転換された細胞のクローンを選択すること;
(d)前記選択された細胞を培養すること;
(e)場合により、栄養供給源を前記培養細胞に供給すること、ならびに;
(f)場合により、前記培養から目的の化合物を単離すること、
を含んでなる、方法。
【請求項12】
前記宿主細胞は、請求項1〜10のいずれか一項に記載の微生物である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記目的の化合物はプラバスタチンである、請求項11〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記宿主細胞は、改善された動態特徴を伴う相同タンパク質を含んでなる、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記宿主細胞は酸化還元再生系を含んでなる、請求項13〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
プラバスタチンを産生させるための方法であって、以下の工程:
(a)コンパクチン産生宿主細胞とコンパクチンヒドロキシラーゼ発現宿主細胞とを混合すること;
(b)混合培養物として両方の宿主細胞を培養すること、および;
(c)場合により、前記混合培養物からプラバスタチンを単離すること、
を含んでなる、方法。
【請求項17】
コンパクチンもまた産生する宿主細胞において産生されるプラバスタチン。
【請求項1】
コンパクチン生合成遺伝子およびコンパクチンからプラバスタチンへの変換のための遺伝子を含有する微生物。
【請求項2】
真菌である、請求項1に記載の微生物。
【請求項3】
ペニシリウム(Penicillium)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、モナスカス(Monascus)属、ケカビ(Mucor)属またはサッカロマイセス(Saccharomyces)属由来である、請求項2に記載の微生物。
【請求項4】
ペニシリウム・シトリヌム(Penicillium citrinum)、ペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・テレウス(Aspergillus terreus)、アスペルギルス・ニダランス(Aspergillus nidulans)、モナスカス・ルバー(Monascus ruber)、モナスカス・パクチー(Monascus paxi)、ムコール・ヒエマリス(Mucor hiemalis)またはサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)である、請求項3に記載の微生物。
【請求項5】
前記コンパクチン生合成遺伝子は、mlcAおよび/またはmlcBおよび/またはmlcCおよび/またはmlcDおよび/またはmlcEおよび/またはmlcFおよび/またはmlcGおよび/またはmlcHおよび/またはmlcRである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の微生物。
【請求項6】
前記コンパクチン生合成遺伝子はmlcRではなく、かつ本来の宿主プロモーターは、遺伝子mlcRによってコードされる経路特異的転写調節因子による制御下にはないプロモーターによって置き換えられる、請求項1〜5のいずれか一項に記載の微生物。
【請求項7】
コンパクチンからプラバスタチンへの変換のための前記遺伝子はヒドロキシラーゼ遺伝子である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の微生物。
【請求項8】
前記ヒドロキシラーゼ遺伝子はP−450遺伝子またはその相同体である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の微生物。
【請求項9】
前記P−450遺伝子は、ストレプトマイセス・カルボフィラス(Streptomyces carbophilus)由来のP−450sca−2またはその相同体である、請求項8に記載の微生物。
【請求項10】
フェレドキシン遺伝子をさらに含んでなる、請求項1〜9のいずれか一項に記載の微生物。
【請求項11】
目的の化合物を産生させるための方法であって、以下の工程:
(a)コンパクチン生合成のための最小限の要件をコードする目的の遺伝子を含んでなるポリヌクレオチドで宿主細胞を形質転換すること;
(b)コンパクチンヒドロキシラーゼをコードする目的の遺伝子を含んでなるポリヌクレオチドおよび/または目的の遺伝子の発現に影響を及ぼすDNA配列を含んでなるポリヌクレオチドで前記宿主細胞を形質転換すること;
(c)形質転換された細胞のクローンを選択すること;
(d)前記選択された細胞を培養すること;
(e)場合により、栄養供給源を前記培養細胞に供給すること、ならびに;
(f)場合により、前記培養から目的の化合物を単離すること、
を含んでなる、方法。
【請求項12】
前記宿主細胞は、請求項1〜10のいずれか一項に記載の微生物である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記目的の化合物はプラバスタチンである、請求項11〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記宿主細胞は、改善された動態特徴を伴う相同タンパク質を含んでなる、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記宿主細胞は酸化還元再生系を含んでなる、請求項13〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
プラバスタチンを産生させるための方法であって、以下の工程:
(a)コンパクチン産生宿主細胞とコンパクチンヒドロキシラーゼ発現宿主細胞とを混合すること;
(b)混合培養物として両方の宿主細胞を培養すること、および;
(c)場合により、前記混合培養物からプラバスタチンを単離すること、
を含んでなる、方法。
【請求項17】
コンパクチンもまた産生する宿主細胞において産生されるプラバスタチン。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公表番号】特表2009−540811(P2009−540811A)
【公表日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−515862(P2009−515862)
【出願日】平成19年6月19日(2007.6.19)
【国際出願番号】PCT/EP2007/056096
【国際公開番号】WO2007/147827
【国際公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年6月19日(2007.6.19)
【国際出願番号】PCT/EP2007/056096
【国際公開番号】WO2007/147827
【国際公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】
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