説明

プラント状態量の予測方法およびこれを用いたプラント動特性シミュレータ、プラント状態監視装置ならびにプラント予測制御装置

【課題】放射基底関数ネットワークを使用したプラント状態量の予測方法および装置を提供する。
【解決手段】本実施例は、放射基底関数ネットワーク13を用いる予測演算部1を有する。予測演算部1の入力値は、(1) 被予測状態量の動特性に影響を及ぼす状態量または操作量の現時刻より所定のサンプル前までの過去時刻サンプル値、(2) 現時刻サンプル値、(3) 被予測状態量の現時刻より所定のサンプル前までの過去時刻サンプル値とする。予測演算部1の出力値は、(4) 被予測状態量の現時刻サンプル値とする。放射基底関数ネットワーク13は、前記入力値及び出力値に基づいて、逐次的にサンプル周期を進めて次のサンプル時刻の被予測状態量の動特性を予測計算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、放射基底関数ネットワーク(Radial Basis Function Network)を用いたプラント状態量の予測方法およびこれを用いたプラント動特性シミュレータ、プラント状態監視装置ならびにプラント予測制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プラント状態量の動特性をニューラルネットワークにより同定する従来技術が提案されている。これらの従来技術は、例えば、特許文献1〜特許文献4や非特許文献1に記載されている。これらの従来技術におけるニューラルネットワークの学習は、バックプロパゲーション法に代表される非線形最適化の繰り返し計算が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-265212号公報
【特許文献2】特開2006-048474号公報
【特許文献3】特開2002-157003号公報
【特許文献4】特開2000-181526号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】日本機械学会論文集(B編)73巻729号(論文No.06−1021)「リカレントニューラルネットワークによる多変数プログラム制御の管路系シミュレーションへの適用」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、少ない計算時間で学習できるニューラルネットワークによるプラント状態量の予測方法を提供し、実時間内での高速演算処理が要求されるプラント動特性シミュレータやプラント状態監視装置およびプラント予測制御装置へも適用が可能なプラント状態量の予測方法およびこれを用いたプラント動特性シミュレータ、プラント状態監視装置ならびにプラント予測制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の一つの実施形態に係るプラント状態量の予測方法は、動特性を有するプラント状態量に基づいて被予測状態量の動特性を予測計算する予測演算部を用いたプラント状態量の予測方法において、前記予測演算部として放射基底関数ネットワークを備え、この放射基底関数ネットワークの入力値は、(1) 被予測状態量の動特性に影響を及ぼす状態量または操作量の現時刻より所定のサンプル前までの過去時刻サンプル値、(2) 現時刻サンプル値、(3) 被予測状態量の現時刻より所定のサンプル前までの過去時刻サンプル値とし、前記予測演算部の出力値は、(4) 被予測状態量の現時刻サンプル値とし、前記放射基底関数ネットワークにおいては、前記入力値及び出力値に基づいて、逐次的にサンプル周期を進めて次のサンプル時刻の被予測状態量の動特性を予測計算することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】実施例1の全体構成を示す機能ブロック図。
【図2】実施例1における予測演算部の構成を示す機能ブロック図。
【図3】実施例2の全体構成を示す機能ブロック図。
【図4】実施例3の全体構成を示す機能ブロック図。
【図5】実施例4の全体構成を示す機能ブロック図。
【図6】放射基底関数ネットワークのネットワークモデルを示すネットワーク図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の一実施形態に係るプラント状態量の予測方法は、放射基底関数ネットワーク(Radial Basis Function Network)を用いた予測演算部を有することを特徴とする。この放射基底関数ネットワークについて図6を用いて以下に説明する。
【0009】
放射基底関数ネットワークとは、図6に示すように、入力層(素子数n個)、中間層(素子数m個)及び出力層(素子数l個)の3層構造からなっているニューラルネットワークの一種である。各層は入出力の制御を行う素子から構成されており、荷重係数と呼ばれる重み付きの結線によって、入力−中間層間、中間−出力層間が結ばれている。放射基底関数ネットワークのデータの流れは、入力層から出力層の一方通行であり、同じ層の素子同士は結合していない。そして、中間層素子の出力関数として、代表的な放射基底関数であるガウス関数
【数1】

を用いる。
【0010】
x=(x1,…,xnが入力層素子から伝わる入力値であり、rは基底関数の半径、cは基底の中心点である。出力層素子の出力値は、それぞれの中間層素子の出力と結合係数(重み)の線形和
【数2】

で表される。
【0011】
ニューラルネットワークは、与えられたデータに対して最適な出力値を得るために学習を行う。出力値は、式(2)のように各中間層素子からの出力と重みとの積の総和から求まる。中間層素子からの出力は、入力値と入力パラメータによって決まるので、出力層で最適な出力を得るためには、最適な重みを決定する必要がある。つまり、放射基底関数ネットワークの学習とは、最適な重みを求めることと同等である。
【0012】
放射基底関数ネットワークにおける学習用入力値xiと対になる教師値をyi, i=1,…,p、中間層素子数をm個とするとき、ネットワークの出力値と教師値(理想的な出力値)との二乗誤差の和
【数3】

を考える。
【0013】
ネットワークの出力値と教師値の二乗誤差を表している上記の式(3)が最小になればいいが、さらに一部の素子だけが過剰反応するのを避けることにより、ノイズの影響をできる限り小さくするためと、以下に出てくる線形正規方程式の正則性を保つために、重みに対する抑制項を加えた式
【数4】

が最小となるような重みw=(w1,…,wmを求める。これが放射基底関数ネットワークの学習である。
【0014】
まず、式(4)の右辺をすべてのwj,j=1,…,mについて偏微分する。
【数5】

【0015】
また、
【数6】

より、これを上式(5)に代入して整理すると、
【数7】

である。
【0016】
これを行列で表すと、
【数8】

である。
【0017】
ただし、
【数9】

である。
【0018】
さらに、すべてのjに対して、行列でまとめて表すと、
【数10】

である。
【0019】
ただし、
【数11】

である。
【0020】
Hは中間層出力行列と呼び、
【数12】

である。
【0021】
ただし、
【数13】

である。
【0022】
ここで、ネットワークの出力値Oは、すべてのwとhの積の総和であるから、
【数14】

とすると、
【数15】

となり、
【数16】

である。
【0023】
これらを式(9)に代入すると、
【数17】

となる。
【0024】
よって求める解は、
【数18】

である。
【0025】
つまり、放射基底関数ネットワークにおける学習は、逆行列
【数19】

を求めることと同等であるといえる。
【0026】
上述のごとく、放射基底関数ネットワークの学習は、行列計算の線形連立方程式を解くことにより、簡単かつ少ない計算時間で行うことができる。一般的に、非線形関数の近似に用いられている放射基底関数ネットワークは、その入力値と出力値として時間変化に依存しない静特性データを取扱っているため、そのままではプラント状態量のように時間変化を伴う動特性データを取扱えない。
【0027】
本実施形態では、放射基底関数ネットワークを用いる予測演算部の入力値を被予測状態量の動特性に影響を及ぼす状態量または操作量の現時刻より所定のサンプル前までの過去時刻サンプル値と現時刻サンプル値および被予測状態量の現時刻より所定のサンプル前までの過去時刻サンプル値とし、前記予測演算部の出力値を被予測状態量の現時刻サンプル値とし、逐次的にサンプル周期を進めて次のサンプル時刻の被予測状態量の動特性を予測する。
【0028】
したがって、本実施形態では、ニューラルネットワークの学習にバックプロパゲーション法に代表される非線形最適化の繰り返し計算は不要となり、計算時間を短くすることができる。また、得られた解が局所解であるということもない。
【0029】
特に、広範囲なプラント運転状態における各種の状態量を精度よく予測するためには、長時間にわたる大規模データを用いてニューラルネットワークを学習する必要がある。本実施形態によれば、このような場合に大規模データを用いてニューラルネットワークを学習することも可能となる。このため、実時間内での高速演算処理が要求されるプラント動特性シミュレータやプラント状態監視装置およびプラント予測制御装置に対しても本願発明の各実施形態を適用することが可能となる。以下、本発明のより具体的な実施例を、各図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0030】
(1)実施例1の構成
以下、実施例1について、図1及び図2を参照して説明する。図1は本実施例によるプラント状態量の予測装置の全体構成を示す機能ブロック図、図2は本実施例における予測演算部の構成を示す機能ブロック図である。
【0031】
図1において、1は放射基底関数ネットワークを用いる予測演算部、2は対象プラントである。予測演算部1は、入力信号ベクトル3を入力し、出力信号ベクトル4を出力する。また、この予測演算部1は、出力信号ベクトル4を入力信号ベクトル3の中に戻すフィードバック信号5を入力する。これらの各信号ベクトル3〜5を入出力するために、予測演算部1は図2示すような構成を有する。
【0032】
予測演算部1は、対象プラント2から得られるi個(iは、対象プラント2に設けられたセンサ数などによって決まる)の入力状態量の入力部10と、予測演算結果として得られるj個(jは放射基底関数ネットワークから出力される予測値の数)の出力状態量の出力部11を備えている。このうち、入力状態量の入力部10は、現在時刻サンプル取得部10Kと、現在時刻よりもNサンプル前までの過去時刻のそれぞれについて入力状態量を取得する過去時刻サンプル取得部10Nとを備えている。
【0033】
予測演算部1は、予測演算結果として得られた出力状態量を、フィードバック信号として再び予測演算部1に入力するための演算後出力状態量の入力部12とを備えている。この演算後出力状態量の入力部12は、各サンプル時刻について予測演算結果として得られた出力状態量を、現在時刻よりもNサンプル前までの過去時刻のそれぞれについてフィードバック信号として取得するものである。
【0034】
予測演算部1は、前記各入力部10,12から得られた入力状態量と演算後出力状態量に基づいて、現在時刻における出力状態量を予測し出力する放射基底関数ネットワーク13を備えている。
【0035】
(2)実施例1の作用
前記のような構成を有する本実施例の作用は、次の通りである。
予測演算部1の入力信号ベクトル3は、現時刻サンプルをkとすると、対象プラント2から入力されるi個の現時刻サンプルkにおける入力状態量と、この入力状態量のNサンプル前までの過去時刻サンプルにおける入力状態量と、Nサンプル前までの過去時刻サンプルにおける出力状態量である。この入力信号ベクトル3は、(i×(N+1)+j×N)個のベクトル信号となる。これらの信号ベクトルは、前記現在時刻サンプル取得部10K、過去時刻サンプル取得部10N及び演算後出力状態量の入力部12により、予測演算部1の放射基底関数ネットワーク13に入力される。
【0036】
前記出力信号ベクトル4は現時刻サンプルkにおける出力状態量で、この出力信号ベクトル4はj個のベクトル信号となる。この出力信号ベクトル4は、前記予測演算部1の放射基底関数ネットワーク13による演算結果として、出力状態量の出力部11から出力される。
【0037】
すなわち、放射基底関数ネットワーク13においては、まず、前記現在時刻サンプル取得部10Kにおいて取得した現時刻サンプルkにおけるi個の入力状態量1(k)〜i(k)に基づいて、j個の出力状態量1(k)〜j(k)を予測し、出力状態量の出力部11から出力する。
【0038】
次に、現時刻よりも予め定めた一定時間前のサンプル時刻(k-1)について、その入力状態量1(k-1)〜i(k-1)を過去時刻サンプル取得部10Nによって取得すると共に、放射基底関数ネットワーク13によって予測された現時刻サンプルkにおける出力状態量1(k)〜j(k)を、出力状態量1(k-1)〜j(k-1)として演算後出力状態量の入力部12によって取得する。放射基底関数ネットワーク13は、サンプル時刻(k-1)の入力状態量1(k-1)〜i(k-1)と予測値として得られた出力状態量1(k-1)〜j(k-1)に基づいて、新たな出力状態量1(k)〜j(k)の予測値を出力状態量の出力部11から出力する。
【0039】
以下同様にして、Nサンプル前までの過去時刻サンプルにおける入力状態量1(k-N)〜i(k-N)と、各過去時刻サンプルにおける入力状態量に基づいて予測された出力状態量1(k)〜j(k)のNサンプル前までの過去時刻サンプルにおける出力状態量1(k-N)〜j(k-N)とに基づいて、放射基底関数ネットワーク13は最終的な現在の出力状態量1(k)〜j(k)を得る。
【0040】
このようにして現時刻サンプルkにおける出力状態量を予測した後、サンプル時刻をk=k+1に進めて、フィードバック信号5により出力信号ベクトル4を入力信号ベクトル3の中に戻し、入力信号ベクトル3の中の入力状態量と出力状態量を図中の矢印の方向に1サンプル分シフトさせて、次の時刻サンプルにおける出力状態量を予測する。ここで、入力状態量は被予測状態量の動特性に影響を及ぼす状態量または操作量であり、出力状態量は被予測状態量である。
【0041】
以上説明した本実施例によれば、放射基底関数ネットワーク13を用いる予測演算部1の入力値を、過去時刻サンプル値と現時刻サンプル値、及びこれらによって得られた前記予測演算部の出力値を被予測状態量の現時刻サンプル値としている。そのため、逐次的にサンプル周期を進めて次のサンプル時刻の被予測状態量の動特性を予測計算することができ、個々のサンプル時刻で見れば、その入力値と出力値として時間変化に依存しない静特性データを取扱っていることになる。
【0042】
その結果、プラント状態量のように時間変化を伴う動特性データを放射基底関数ネットワーク13によって取扱うことが可能になる。これにより、本実施例においては、少ない計算時間で学習できるニューラルネットワークによるプラント状態量の予測方法を提供でき、実時間内での高速演算処理が要求されるプラント動特性シミュレータやプラント状態監視装置およびプラント予測制御装置への放射基底関数ネットワークの適用を容易にすることが可能になる。
【実施例2】
【0043】
以下、実施例2について、図3を参照して説明する。図3は本実施例によるプラント状態量の予測方法を示す構成図である。
【0044】
図3において、1は放射基底関数ネットワークを用いる予測演算部、2は対象プラントである。予測演算部1は、入力信号ベクトル3を入力し、出力信号ベクトル4を出力する。さらに、出力信号ベクトル4を入力信号ベクトル3の中に戻すフィードバック信号5を有する。
【0045】
予測演算部1の入力信号ベクトル3は、現時刻サンプルをkとすると、対象プラント2から入力されるi個の現時刻サンプルkにおける入力状態量と、この入力状態量のNサンプル前までの過去時刻サンプルにおけるi×N個の入力状態量i(k-N)と、対象プラント2から入力されるr個の現時刻サンプルkにおけるr個の静特性の入力状態量r(k)と、Nサンプル前までの過去時刻サンプルにおけるj×N個の出力状態量j(k-N)である。
【0046】
ここで、入力状態量i(k)は被予測状態量の動特性に影響を及ぼす状態量または操作量であり、静特性の入力状態量r(k)は被予測状態量の静特性に影響を及ぼす状態量または操作量であり、出力状態量j(k)は被予測状態量である。
【0047】
このような構成を有する本実施例では、入力信号ベクトル3は、(i×(N+1)+r+j×N)個のベクトル信号となる。出力信号ベクトル4は、現時刻サンプルkにおける出力状態量である。すなわち、出力信号ベクトル4は、j個のベクトル信号となる。
【0048】
このようにして現時刻サンプルkにおける出力状態量を予測した後、サンプル時刻をk=k+1に進めて、フィードバック信号5により出力信号ベクトル4を入力信号ベクトル3の中に戻し、入力信号ベクトル3の中の入力状態量と出力状態量を図中の矢印の方向に1サンプル分シフトさせて、次の時刻サンプルにおける出力状態量を予測する。
【0049】
以上説明した本実施例によれば、放射基底関数ネットワーク13を用いる予測演算部1の入力値は、
(1) 被予測状態量の動特性に影響を及ぼす状態量または操作量の現時刻より所定のサンプル前までの過去時刻サンプル値、
(2) 現時刻サンプル値、
(3) 被予測状態量の静特性に影響を及ぼす状態量または操作量の現時刻サンプル値、
(4) 被予測状態量の現時刻より所定のサンプル前までの過去時刻サンプル値とする。
【0050】
一方、前記予測演算部1の出力値は、
(5) 被予測状態量の現時刻サンプル値、
とする。そして、放射基底関数ネットワーク13においては、前記入力値及び出力値に基づいて、逐次的にサンプル周期を進めて次のサンプル時刻の被予測状態量の動特性を予測計算する。
【0051】
これにより、本実施例では、前記実施例1と同様に、少ない計算時間で学習できるニューラルネットワークによるプラント状態量の予測方法を提供でき、実時間内での高速演算処理が要求されるプラント動特性シミュレータやプラント状態監視装置およびプラント予測制御装置への適用を容易にすることが可能になる。さらに、本実施例では、被予測状態量の静特性に影響を及ぼす状態量または操作量を付加しているため、環境変化などの外乱があった場合において、実施例1よりも予測精度が向上する効果がある。
【実施例3】
【0052】
以下、実施例3について、図4を参照して説明する。図4は本実施例によるプラント状態量の予測方法を示す構成図である。本実施例は、予測演算部1として、被予測状態量の線形成分の予測を行う線形モデル6と、前記実施例に記載した放射基底関数ネットワーク7とを備えたものである。この場合、放射基底関数ネットワーク13は、前記実施例1,2のように被予測状態量全体の予測を行うのではなく、非線形成分に対する補正量を予測し、線形モデル6による線形成分と放射基底関数ネットワーク13が予測した非線形成分に対する補正量を加算することで、全予測量を算出する。
【0053】
すなわち、図4において、1は放射基底関数ネットワークを用いる予測演算部、2は対象プラントである。予測演算部1は、入力信号ベクトル3を入力し、出力信号ベクトル4を出力する。さらに、予測演算部1は、出力信号ベクトル4を入力信号ベクトル3の中に戻すフィードバック信号5を有する。
【0054】
そのため、本実施例においても、前記実施例1の図2に示したように、予測演算部1は、対象プラント2から得られるi個(iは、対象プラント2に設けられたセンサ数などによって決まる)の入力状態量の入力部10と、予測演算結果として得られるj個(jは放射基底関数ネットワークから出力される予測値の数)の出力状態量の出力部11と、予測演算結果として得られた出力状態量を、フィードバック信号として再び予測演算部1に入力するための演算後出力状態量の入力部12とを備えている。
【0055】
但し、前記入力状態量の入力部10及び演算後出力状態量の入力部12は、入力された各状態量について、その直線成分と被直線成分を分離して、それぞれ線形モデル6と放射基底関数ネットワーク13に出力するフィルタを備えている。
【0056】
予測演算部1は、入力信号ベクトル3を入力する線形モデル6と、入力信号ベクトル3を入力する放射基底関数ネットワーク7と、線形モデル6と放射基底関数ネットワーク7の出力を加算し、出力信号ベクトル4を出力する加算器8を有する。ここで、線形モデル6は出力状態量の線形成分を予測し、放射基底関数ネットワーク7は出力状態量の非線形成分に対する補正量を予測する。
【0057】
このような構成を有する本実施例では、演算部1の入力信号ベクトル3は、現時刻サンプルをkとすると、対象プラント2から入力されるi個の現時刻サンプルkにおける入力状態量と、この入力状態量のNサンプル前までの過去時刻サンプルにおける入力状態量と、Nサンプル前までの過去時刻サンプルにおける出力状態量である。ここで、入力状態量は被予測状態量の動特性に影響を及ぼす状態量または操作量であり、出力状態量は被予測状態量である。
【0058】
すなわち、本実施例において、入力信号ベクトル3は、(i×(N+1)+j×N)個のベクトル信号となる。出力信号ベクトル4は、現時刻サンプルkにおける出力状態量である。すなわち、出力信号ベクトル4は、j個のベクトル信号となる。
【0059】
このようにして現時刻サンプルkにおける出力状態量を予測した後、サンプル時刻をk=k+1に進めて、フィードバック信号5により出力信号ベクトル4を入力信号ベクトル3の中に戻し、入力信号ベクトル3の中の入力状態量と出力状態量を図中の矢印の方向に1サンプル分シフトさせて、次の時刻サンプルにおける出力状態量を予測する。
【0060】
以上説明した本実施例によれば、放射基底関数ネットワークを用いる予測演算部の入力値を、
(1) 被予測状態量の動特性に影響を及ぼす状態量または操作量の現時刻より所定のサンプル前までの過去時刻サンプル値、
(2) 現時刻サンプル値、
(3) 被予測状態量の現時刻より所定のサンプル前までの過去時刻サンプル値、
とする。
また、前記予測演算部の出力値を、
(4) 被予測状態量の現時刻サンプル値、
とする。
【0061】
この場合、本実施例では、前記入力状態量の入力部10及び演算後出力状態量の入力部12において、前記各入力値を線形成分と非線型成分とに分離する。そして、被予測状態量の線形成分を線形モデル6で予測計算すると共に、非線形成分に対する補正量を放射基底関数ネットワーク7で予測計算し、両者を加算器8で加算する。以下、逐次的にサンプル周期を進めることで、次のサンプル時刻の被予測状態量の動特性を予測計算することができる。
【0062】
このような構成を有する本実施例では、前記実施例1の作用効果に加えて、被予測状態量の線形成分を線形モデルで予測し、非線形成分に対する補正量のみを放射基底関数ネットワークで予測計算するため、プラント状態量の非線形性が強い場合などにおいて、実施例1よりも予測精度が向上する効果がある。
【実施例4】
【0063】
以下、実施例4について、図5を参照して説明する。図5は本実施例によるプラント状態量の予測方法を示す構成図である。本実施例は、前記実施例2の「被予測状態量の静特性に影響を及ぼす状態量または操作量を入力値とする」構成と、実施例3の「予測演算部1として、被予測状態量の線形成分の予測を行う線形モデル6と、前記実施例に記載した放射基底関数ネットワーク7とを備えた」構成を組み合わせたものである。なお、その作用については、前記実施例2,3と重複するので、省略する。
【0064】
本実施例によれば、被予測状態量の静特性に影響を及ぼす状態量または操作量を入力値とすると共に、被予測状態量の線形成分(一般に静特性に影響を及ぼす状態量や操作量にこの傾向が強い)を線形モデルで予測し、非線形成分に対する補正量のみを放射基底関数ネットワークで予測計算するため、プラント状態量の非線形性が強い場合などにおいて、予測精度が向上する効果がある。
【0065】
本発明は、前記の実施例に限定されるものではなく、次のような実施例も包含する。
(1) プラント動特性シミュレータにおいて、プラント状態量を予測する動特性モデルの一部あるいは全部に前記実施例1〜4のいずれかのプラント状態量の予測方法を用いる。
【0066】
(2) プラント状態監視装置において、監視するプラント状態量の予測値を前記実施例1〜4のいずれかのプラント状態量の予測方法を用いて求める。
【0067】
(3) プラント予測制御装置において、被制御量の予測値を前記実施例1〜4のいずれかのプラント状態量の予測方法を用いて求める。
【符号の説明】
【0068】
1…予測演算部
2…対象プラント
3…入力信号ベクトル
4…出力信号ベクトル
5…フィードバック信号
6…線形モデル
7…放射基底関数ネットワーク
8…加算器
10…入力状態量の入力部
10K…現在時刻サンプル取得部
10N…過去時刻サンプル取得部
11…予測した出力状態量の出力部
12…演算後出力状態量の入力部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動特性を有するプラント状態量に基づいて被予測状態量の動特性を予測計算する予測演算部を用いたプラント状態量の予測方法において、
前記予測演算部として放射基底関数ネットワークを備え、この放射基底関数ネットワークの入力値は、
(1) 被予測状態量の動特性に影響を及ぼす状態量または操作量の現時刻より所定のサンプル前までの過去時刻サンプル値、
(2) 現時刻サンプル値、
(3) 被予測状態量の現時刻より所定のサンプル前までの過去時刻サンプル値とし、
前記予測演算部の出力値は、
(4) 被予測状態量の現時刻サンプル値とし、
前記放射基底関数ネットワークにおいては、前記入力値及び出力値に基づいて、逐次的にサンプル周期を進めて次のサンプル時刻の被予測状態量の動特性を予測計算することを特徴とするプラント状態量の予測方法。
【請求項2】
前記予測演算部の入力値として、被予測状態量の静特性に影響を及ぼす状態量または操作量の現時刻サンプル値を付加することを特徴とする請求項1に記載のプラント状態量の予測方法。
【請求項3】
前記予測演算部は、プラント状態量の線形成分を予測する線形モデルと、プラント状態量の非線形成分に対する補正量を予測する放射基底関数ネットワークとを有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のプラント状態量の予測方法。
【請求項4】
プラント動特性シミュレータにおいて、プラント状態量を予測する動特性モデルの一部あるいは全部に請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載のプラント状態量の予測方法を用いることを特徴とするプラント動特性シミュレータ。
【請求項5】
プラント状態監視装置において、監視するプラント状態量の予測値を請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載のプラント状態量の予測方法を用いて求めることを特徴とするプラント状態監視装置。
【請求項6】
プラント予測制御装置において、被制御量の予測値を請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載のプラント状態量の予測方法を用いて求めることを特徴とするプラント予測制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−248835(P2011−248835A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−124214(P2010−124214)
【出願日】平成22年5月31日(2010.5.31)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】