説明

プリテンショナ

【課題】座席における乗員の着座位置に応じてバックルやウエビングベルトの先端側を好適な向きに移動させることができるプリテンショナを得る。
【解決手段】本プリテンショナ10では、アンカプレート30が通常着座状態の位置でプリテンショナ本体64が作動すると、ギヤ76の回転が直接アンカギヤ82の第1外歯84に伝わり、これにより、アンカプレート30の先端側が後方へ移動するようにアンカプレート30が回転する。これに対して、前ずり状態でアンカプレート30の先端側が通常着座状態よりも前方に位置すると、ギヤ76の回転がギヤ78を介してアンカギヤ82の第2外歯86に伝わり、通常着座状態での回転方向とは反対向きにアンカギヤ82が回転する。これにより、アンカプレート30の先端側が下方へ移動するようにアンカプレート30が回転する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、車両急減速状態等に、シートベルト装置のバックルやウエビングベルトの先端部を引っ張ってウエビングベルトの張力を増加させるプリテンショナに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1の第4の実施の形態に開示されているプリテンショナ(シートベルトプリローダ)は、ガイドプレートの他端部に形成された外歯と、ガイドプレートの下方に配置された外歯のギヤとが噛み合っている。さらに、このギヤに対して同軸的且つ一体的に形成されたプーリと、シートバックをリクライニングさせる際の回動中心軸に対して同軸的且つ一体的に設けられたプーリとがタイミングベルトで繋がっている。
【0003】
これにより、シートバックの回動に連動してガイドプレートがシートの幅方向を軸方向とする軸周りに回動し、プリテンショナが作動してプリローダシリンダ内のピストンがワイヤを介して可動片を引っ張った際の可動片の移動方向を、シートバックの傾斜状態に応じた向きにすることができ、乗員の身体を拘束するウエビングベルトのうち、特に、乗員の腰部を拘束するラップベルトの拘束力が乗員の腰部を押し付ける向きを変えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−40205号の公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、シートバックを回動させた場合以外にも、シートに着座した乗員の臀部が通常の着座位置よりも前方に位置している前ずり状態でも、車両急減速時にはラップベルトによっての乗員の腰部をシートクッション側(すなわち、下方)押し付けることが好ましい。
【0006】
本発明は、上記事実を考慮して、座席における乗員の着座位置に応じてバックルやウエビングベルトの先端側を好適な向きに移動させることができるプリテンショナを得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の本発明に係るプリテンショナは、特定の一方向に駆動力の出力が可能な駆動手段と、長尺帯状に形成されたウエビングベルトの先端側が直接又は間接的に係止されたアンカ部材及び前記ウエビングベルトの長手方向中間部に設けられたタングが装着されるバックルの何れかの一方に連結されて、前記何れかの一方が所定位置にある場合に前記駆動手段から駆動力が出力された場合には前記何れかの一方をシートの後方へ移動させると共に、前記所定位置よりも前記シートの前方側に前記何れかの一方が位置した状態で前記駆動手段から駆動力が出力された場合には前記何れかの一方を前記シートの下方へ移動させる駆動力伝達手段と、を備えている。
【0008】
請求項1に記載の本発明に係るプリテンショナでは、駆動手段から出力された特定の一方向の駆動力が駆動力伝達手段を介してアンカ部材及びバックルの何れかの一方に伝わる。
【0009】
ここで、例えば、通常の着座状態で乗員がシートに着座しており、これにより、アンカ部材及びバックルの何れかの一方が所定位置にある場合に駆動手段の駆動力が駆動力伝達手段に伝わると、駆動力伝達手段は駆動手段の駆動力でアンカ部材及びバックルの何れかの一方をシートの後方側へ移動させる。これにより、アンカ部材に係止されたウエビングベルトの先端又はウエビングベルトの長手方向中間部においてバックルに装着されたタングを通過する部分がシート後方へ移動させられる。このように移動させられたウエビングベルトによって、乗員の身体がシートを構成するシートバックに押し付けられ、これにより、例えば、車両が急減速することによる車両前方側への乗員の身体の慣性移動を防止又は抑制できる。
【0010】
一方、乗員の臀部が通常の着座位置よりも前方に位置する前ずり状態では、通常着座状態よりも乗員の身体によってウエビングベルトがシート前方へ引っ張られる。これにより、この状態ではバックルやアンカ部材が通常着座状態よりもシート前方に位置する。この状態で駆動手段の駆動力が駆動力伝達手段に伝わると、駆動力伝達手段は駆動手段の駆動力でアンカ部材及びバックルの何れかの一方をシートの下方側へ移動させる。これにより、アンカ部材に係止されたウエビングベルトの先端又はウエビングベルトの長手方向中間部においてバックルに装着されたタングを通過する部分は乗員の身体を下方へ押圧してシートクッションに押し付ける。これによって、乗員の身体がシートクッションとウエビングベルトとの間を潜るように移動することを防止又は抑制できる。
【0011】
また、本発明に係るプリテンショナでは、アンカ部材及びバックルの何れかの一方が所定位置にあれば駆動手段の駆動力でシート後方へ何れかの一方を移動させ、この何れかの一方が所定位置よりもシートの前側に位置すれば、駆動手段の駆動力でこの何れかの一方を下方に移動させる。このため、アンカ部材及びバックルの何れかの一方は駆動手段から駆動力が出力されれば、必ず、シートの後方又は下方へ移動させることができる。
【0012】
請求項2に記載の本発明に係るプリテンショナは、請求項1に記載の本発明において、前記アンカ部材及び前記バックルの何れかの一方に連結され、軸周りの一方へ回転することで前記何れかの一方を前記シートの後方へ変位させるように回転させ、軸周りの他方へ回転することで前記何れかの一方を前記シートの下方へ変位させるように回転させる回転体と、前記何れかの一方が前記所定位置に位置する状態で前記回転体に形成された第1入力ギヤ部に噛み合い、前記駆動手段の駆動力によって回転することで前記回転体を前記軸周りの一方へ回転させると共に、前記何れかの一方が前記所定位置よりも前記シートの前方に変位することで前記第1入力ギヤ部との噛み合いが解消される第1出力ギヤと、前記所定位置よりも前記シートの前方に前記何れかの一方が位置する状態で前記第1入力ギヤ部とは別に前記回転体に形成された第2入力ギヤ部に噛み合うと共に、前記駆動手段の駆動力によって前記第1出力ギヤとは反対向きに回転し、この回転を前記第2入力ギヤ部に伝えて前記回転体を前記軸周りの他方へ回転させると共に、前記何れかの一方が前記所定位置に変位することで前記第2入力ギヤ部との噛み合いが解消される第2出力ギヤと、を含めて前記駆動力伝達手段を構成している。
【0013】
請求項2に記載の本発明に係るプリテンショナでは、通常の着座状態で乗員がシートに着座しており、これにより、アンカ部材及びバックルの何れかの一方が所定位置にある場合には、回転体に形成された第1入力ギヤ部に第1出力ギヤが噛み合う。この状態で駆動手段から駆動力が出力されると、この駆動力で第1出力ギヤが回転して、この第1出力ギヤの回転が回転体の第1入力ギヤ部に伝わり、回転体をその軸周りの一方へ回転させる。これにより、この回転体に連結された前記アンカ部材及び前記バックルの何れかの一方が後方へ移動するように回転する。
【0014】
これに対して、前ずり状態でアンカ部材及びバックルの何れかの一方が所定位置よりもシート前方に変位すると、回転体の第1入力ギヤ部と第1出力ギヤとの噛み合いが解消されて、第1入力ギヤ部とは別に回転体に形成された第2入力ギヤ部に第2出力ギヤが噛み合う。この状態で駆動手段から駆動力が出力されると、この駆動力で第2出力ギヤが第1出力ギヤとは反対向きに回転して、この第2出力ギヤの回転が回転体の第2入力ギヤ部に伝わり、回転体をその軸周りの他方へ回転させる。これにより、この回転体に連結された前記アンカ部材及び前記バックルの何れかの一方が下方へ移動するように回転する。
【0015】
請求項3に記載の本発明に係るプリテンショナは、請求項1に記載の本発明において、前記アンカ部材及び前記バックルの何れかの一方に連結され、軸周りの一方へ回転することで前記何れかの一方を前記シートの後方へ変位させるように回転させ、軸周りの他方へ回転することで前記何れかの一方を前記シートの下方へ変位させるように回転させる従動側リンクと、先端側が前記従動側リンクに連結され、回転の軸心と前記従動側リンクの回転の軸心とを結ぶ仮想直線を介して一方の側に前記従動側リンクとの連結位置が位置する状態では前記駆動手段の駆動力で前記従動側リンクを前記軸周りの一方へ回転させ、前記仮想直線を介して他方の側に前記従動側リンクとの連結位置が位置する状態では前記駆動手段の駆動力で前記従動側リンクを前記軸周りの他方へ回転させる原動側リンクと、を含めて前記駆動力伝達手段を構成している。
【0016】
請求項3に記載の本発明に係るプリテンショナでは、通常の着座状態で乗員がシートに着座しており、これにより、アンカ部材及びバックルの何れかの一方が所定位置にある場合には、原動側リンクと従動側リンクとの連結位置が原動側リンクの回転軸心と従動側リンクの回転軸心とを結ぶ仮想直線を介して一方の側に位置する。この状態で駆動手段から出力された駆動力が原動側リンクに伝わって原動側リンクが回転し、更に、この原動側リンクの回転が従動側リンクに伝わると、従動側リンクがその軸周りの一方へ回転し、従動側リンクに連結されたアンカ部材及びバックルの何れかの一方をシートの後方へ変位させるように回転させる。
【0017】
これに対して、前ずり状態でアンカ部材及びバックルの何れかの一方が所定位置よりもシート前方に変位すると、原動側リンクと従動側リンクとの連結位置が原動側リンクの回転軸心と従動側リンクの回転軸心とを結ぶ仮想直線を介して他方の側に位置する。この状態で駆動手段から出力された駆動力が原動側リンクに伝わって原動側リンクが回転し、更に、この原動側リンクの回転が従動側リンクに伝わると、従動側リンクがその軸周りの他方へ回転し、従動側リンクに連結されたアンカ部材及びバックルの何れかの一方をシートの下方へ変位させるように回転させる。
【0018】
請求項4に記載の本発明に係るプリテンショナは、請求項1から請求項3の何れか1項に記載の本発明において、正転及び逆転の双方の駆動が可能に前記駆動手段を構成して、前記駆動手段の正転駆動によって前記特定の一方向の駆動力を出力して、前記駆動手段の逆転駆動によって前記特定の一方向とは反対向きの駆動力を出力すると共に、前記駆動力伝達手段に前記バックルを連結し、更に、前記正転駆動の駆動力によって前記バックルの移動方向側で前記シートに前記バックルを格納可能なバックル格納部を設けている。
【0019】
請求項4に記載の本発明に係るプリテンショナでは、駆動力伝達手段にバックルが連結され、駆動手段から駆動力(正転駆動力)が出力されると、通常着座状態ではバックルがシートの後方側へ移動させられ、前ずり状態ではバックルがシートの下方側へ移動させられる。
【0020】
ここで、本発明に係るプリテンショナでは、バックルをシート後方やシート下方へ移動させるための正転駆動力のみならず、この正転駆動力とは反対向きの逆転駆動力の出力が可能である。このため、バックルがシート後方やシート下方へ移動した状態で駆動手段が逆転駆動されて、特定の一方向とは反対向きの逆転駆動力が出力されると、シート後方やシート下方へ移動していたバックルが元の位置に戻る。
【0021】
さらに、本発明に係るプリテンショナでは、駆動手段が正転駆動した場合のバックルの移動方向側(すなわち、シート後方及びシート下方の少なくとも何れかの一方側)でシートにバックルの格納が可能なバックル格納部を設けられている。
【0022】
このため、車両が急減速した場合以外に、乗員が乗車する際や降車する際に駆動手段を正転駆動させてバックルをバックル格納部に格納すると、乗降の際にバックルが乗員の身体に干渉することを防止又は軽減できる。さらに、乗員が乗車してシートに着座した際に駆動手段を逆転駆動させて、バックル格納部からバックルが出ることで、ウエビングベルトに設けられたタングをバックルに装着しやすくなる。
【0023】
請求項5に記載の本発明に係るプリテンショナは、請求項4に記載の本発明において、前記乗員が前記シートに着座していない状態、前記車両が急減速した状態、前記車両の急減速が予知された状態の少なくとも何れか一方の状態で前記駆動手段が正転され、前記車両の急減速が回避された状態、前記車両の急減速の予知が解消された状態、前記ウエビングベルトを装着していない前記乗員が前記シートに着座した状態の少なくとも何れか一方の状態で前記駆動手段が逆転される。
【0024】
請求項5に記載の本発明に係るプリテンショナでは、乗員がシートに着座していない状態、車両が急減速した状態、車両の急減速が予知された状態の少なくとも何れか一方の状態で駆動手段が正転される。
【0025】
車両が急減速した状態や車両の急減速が予知された状態で駆動手段が正転されることで、乗員の身体をウエビングベルトによりシートバックやシートクッションに押し付けて車両が急減速することによる車両前方側への乗員の身体の慣性移動を防止又は抑制できる。
【0026】
また、乗員がシートに着座していない状態で駆動手段を正転させてバックルがバックル格納部に格納されると、乗員が乗車する際にバックルが乗員の身体に干渉することを防止又は軽減できる。
【0027】
さらに、本発明に係るプリテンショナでは、車両の急減速が回避された状態、車両の急減速の予知が解消された状態、ウエビングベルトを装着していない乗員がシートに着座した状態の少なくとも何れか一方の状態で駆動手段が逆転される。
【0028】
車両の急減速が回避された状態や車両の急減速の予知が解消された状態で駆動手段が逆転されることで、ウエビングベルトによるシートバックやシートクッションへの乗員の身体の押し付けが解消される。
【0029】
また、ウエビングベルトを装着していない乗員がシートに着座した状態で駆動手段が逆転され、これにより、バックルがバックル格納部から出ると、ウエビングベルトに設けられたタングをバックルに装着しやすくなる。
【0030】
なお、本発明で言う車両の急減速が予知された状態とは、車両が急減速する可能性が高い状態を言う。さらに詳細には、例えば、車両前方の障害物や前方で走行している他の車両までの距離が一定値未満になったことを、レーダ等の前方監視手段が検知した場合等が車両の急減速が予知された状態に含まれる。
【発明の効果】
【0031】
以上説明したように、本発明に係るプリテンショナは、座席における乗員の着座位置に応じてバックルやウエビングベルトの先端側を好適な向きに移動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るプリテンショナを適用したシートベルト装置の全体構成を概略的に示す車両幅方向内方からの側面図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係るプリテンショナの構成を概略的に示す側面図で、(A)は通常着座位置に対応した状態を示し、(B)は通常着座位置での作動状態を示す。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係るプリテンショナの構成を概略的に示す側面図で、(A)は前ずり位置に対応した状態を示し、(B)は前ずり位置での作動状態を示す。
【図4】本発明の第2の実施の形態に係るプリテンショナの構成を概略的に示す側面図で、(A)は通常着座位置に対応した状態を示し、(B)は通常着座位置での作動状態を示す。
【図5】本発明の第2の実施の形態に係るプリテンショナの構成を概略的に示す側面図で、(A)は前ずり位置に対応した状態を示し、(B)は前ずり位置での作動状態を示す。
【図6】本発明の第3の実施の形態に係るプリテンショナの構成を概略的に示す側面図で、(A)は通常着座位置に対応した状態を示し、(B)は通常着座位置での作動状態を示す。
【図7】本発明の第3の実施の形態に係るプリテンショナの構成を概略的に示す側面図で、(A)は前ずり位置に対応した状態を示し、(B)は前ずり位置での作動状態を示す。
【図8】シートのシートクッションにバックル格納部を設けた態様を示す車両幅方向内方からの側面図である。
【図9】シートのシートバックにバックル格納部を設けた態様を示す車両幅方向内方からの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
<第1の実施の形態の構成>
図1には本発明の第1の実施の形態に係るプリテンショナ10を適用したシートベルト装置12の構成の概略が車両幅方向内方からの側面図により示されている。プリテンショナ10の構成の説明に先立ちシートベルト装置12の全体構成の概略を説明する。
【0034】
(シートベルト装置12の概略)
図1に示されるように、シートベルト装置12は、例えば、車両のセンターピラー14の近傍で車体に固定されたウエビング巻取装置16を備えている。ウエビング巻取装置16は軸方向が概ね車両の前後方向に沿ったスプール18を備えている。スプール18には可撓性を有する長尺帯状に形成されたウエビングベルト20の長手方向基端側が係止され、ウエビングベルト20の長手方向中間部よりも基端側がスプール18の外周部に巻き取られている。
【0035】
このため、ウエビングベルト20をその長手方向先端側へ引っ張ると、スプール18に巻き取られているウエビングベルト20がスプール18から引き出されると共に、スプール18がその軸周りの一方である引出方向に回転し、スプール18を引出方向とは反対の巻取方向に回転させるとウエビングベルト20がその長手方向基端側からスプール18に巻き取られて格納される。また、ウエビング巻取装置16は渦巻きばね等により形成された図示しないスプール付勢手段を備えている。スプール付勢手段はスプール18が引出方向へ回転することで付勢力が増し、スプール18を巻取方向へ付勢する。これにより、スプール18からウエビングベルト20を引き出した後に、スプール付勢手段の付勢力でスプール18にウエビングベルト20を巻き取らせて格納できる。
【0036】
スプール18から引き出されたウエビングベルト20は、上述したセンターピラー14に沿って車両の上方に延ばされ、センターピラー14の上端部近傍に設けられたスリップジョイント22に形成されたスリット孔を通過して略車両下方へ折り返されている。このようにスリップジョイント22のスリット孔を通過したウエビングベルト20の先端部に対応してシート26の幅方向側方で且つシート26の後端部近傍にはアンカ部材としてのアンカプレート30が設けられている。アンカプレート30は厚さ方向が概ね車両の幅方向とされた板状に形成されている。
【0037】
このアンカプレート30にはベルト係止部32が形成されている。このベルト係止部32にはベルト係止部32の厚さ方向に貫通したベルト通過孔34が形成されている。ベルト通過孔34は内幅が細く、しかも、長手方向が車両の下方側へ向けて開口するように湾曲している。ウエビングベルト20の先端側はこのベルト通過孔34を通過して上方へ折り返されている。さらに、ベルト通過孔34を通過したウエビングベルト20の先端側はウエビングベルト20におけるベルト通過孔34より基端側の部分と厚さ方向に互いに重ね合わされて縫合されている。これにより、ウエビングベルト20の先端側がアンカプレート30に係止されている。
【0038】
このアンカプレート30に係止されたウエビングベルト20の先端部と、スリップジョイント22におけるウエビングベルト20の折り返し部分との間にはウエビングベルト20にタング40が設けられている。タング40は、シート26を介してウエビング巻取装置16やアンカプレート30とは反対側で、シートクッション28のクッション材を支持するシートクッションフレーム42や車体である車両の床部44(本実施の形態では、シートクッションフレーム42)に取り付けられたバックル46に装着可能とされている。
【0039】
シート26に乗員が着席した状態でタング40をバックル46の側へ引っ張ってバックル46にタング40を装着すると、乗員の身体に対するウエビングベルト20の装着状態となる。この装着状態で、ウエビングベルト20のタング40とスリップジョイント22との間の部分はショルダベルトとされ、乗員の肩部から胸部を介して腰部近傍を拘束する。これに対して、ウエビングベルト20のタング40とアンカプレート30との間の部分はラップベルトとされ、乗員の腰部を拘束する。
【0040】
(プリテンショナ10の構成)
次に、本プリテンショナ10の構成に関して説明する。
【0041】
図1及び図2に示されるように、本プリテンショナ10はフレーム62を備えている。フレーム62は例えば箱状に形成されており、シート26のバックル46が設けられた側とは反対側(ウエビング巻取装置16が設けられた側)のシート26の後方で、上記の床部44やシートクッションフレーム42(本実施の形態では床部44)に固定されている。
【0042】
図2の(A)に示されるように、このフレーム62には駆動手段としてのプリテンショナ本体64が設けられている。プリテンショナ本体64は軸方向がシート26の前後方向に沿った筒状のシリンダ66を備えている。シリンダ66はその軸方向に沿った中間部よりも先端側(すなわち、シリンダ66におけるシート26の前後方向に沿った中間部よりも前方側)がフレーム62の内側に入り込んでいる。このシリンダ66の内側にはピストン68がシリンダ66の軸方向に沿って摺動可能に配置されている。
【0043】
また、シリンダ66の基端部(すなわち、シリンダ66におけるシート26の後方側の端部)にはガスジェネレータ70が取り付けられている。ガスジェネレータ70は図示しない制御手段としてのECUに電気的に接続されており、ECUから出力された起動信号がガスジェネレータ70内の着火装置に入力されると、ガスジェネレータ70内に設けられたガス発生剤が燃焼されて、瞬時にガスを発生させ、このガスをシリンダ66内に供給する。このようにガスジェネレータ70から供給されたガスによりシリンダ66の内圧が上昇すると、図2の(B)や図3の(B)に示されるように上記のピストン68がシリンダ66の先端側へ摺動する。
【0044】
また、図2の(A)に示されるように、ピストン68のガスジェネレータ70とは反対側の端部には駆動力伝達手段としての駆動力伝達機構72を構成するラックバー74が設けられている。このラックバー74は長手方向がシリンダ66の軸方向に沿っており、ピストン68と一体とされている。このラックバー74の幅方向一方の側にはラック歯が形成されており、このラック歯に対応してシリンダ66の先端側の側方にはラックバー74と共に駆動力伝達機構72を構成する第1出力ギヤとしての外歯で平歯のギヤ76が設けられている。
【0045】
ギヤ76は回転の軸方向がシート26の幅方向に沿っており、本実施の形態ではギヤ76の軸方向両端がフレーム62に回転自在に支持されている。このギヤ76は上記のラックバー74のラック歯に噛み合っており、ピストン68がシリンダ66の先端側へ摺動してラックバー74がシリンダ66の先端から更に突出すると、ラックバー74のラック歯がギヤ76に噛み合い、ギヤ76をその軸周り一方へ回転させる。
【0046】
このギヤ76の回転半径方向側方には、ラックバー74やギヤ76と共に駆動力伝達機構72を構成する第2出力ギヤとしての外歯で平歯のギヤ78が設けられている。ギヤ78は回転の軸方向がギヤ76と同じ向きとされており、本実施の形態ではギヤ78の軸方向両端がフレーム62に回転自在に支持されている。このギヤ78はギヤ76に噛み合っていると共に歯数がギヤ76と同じ数に設定されており、ギヤ76が回転するとギヤ76と同じ速さでギヤ76とは逆向きに回転する。
【0047】
一方、上述したアンカプレート30の長手方向基端側はフレーム62の上方からフレーム62の内側に入り込んでいる。このフレーム62の内側に入り込んだアンカプレート30の長手方向基端部は、ギヤ78やギヤ78は回転軸方向を同じ向きを軸方向とする軸周りに回転可能とされており、本実施の形態ではアンカプレート30の長手方向基端部がフレーム62に回転自在に支持されている。
【0048】
このアンカプレート30の長手方向基端部にはラックバー74やギヤ76、78と共に駆動力伝達機構72を構成する回転体としてのアンカギヤ82が形成されている。アンカギヤ82はアンカプレート30の回転中心を中心とする略円板形状に形成されている。このアンカギヤ82の外周部には第1入力ギヤとしての第1外歯84と第2入力ギヤとしての第2外歯86とが形成されている。第1外歯84はギヤ76に噛み合い可能とされており、シリンダ66の先端から更に突出したラックバー74がギヤ76を回転させると、第1外歯84に噛み合ったギヤ76がアンカギヤ82、ひいては、アンカプレート30の先端側をシート26の後方へ移動させるようにアンカプレート30をその回転中心周りに回転させる。
【0049】
一方、第2外歯86はギヤ78に噛み合い可能とされており、シリンダ66の先端から更に突出したラックバー74がギヤ76を介してギヤ78を回転させると、第2外歯86に噛み合ったギヤ78がアンカギヤ82、ひいては、アンカプレート30の先端側をギヤ76の回転力が第1外歯84に伝わった場合とは反対向きに回転させて、シート26の下方へ移動させる。
【0050】
ここで、本プリテンショナ10では、上記のように第1外歯84はギヤ76に噛み合い可能とされており、第2外歯86はギヤ78に噛み合い可能とされているが、第1外歯84と第2外歯86とはアンカギヤ82の周方向に離間して形成されており、アンカギヤ82の外周部における第1外歯84と第2外歯86との間にはギヤ76やギヤ78に噛み合い可能な歯が形成されていない。
【0051】
しかも、図2の(A)に示されるように、第1外歯84の第2外歯86側の歯にギヤ76が噛み合い始めるまでアンカプレート30が回転した状態では、ギヤ78と第2外歯86との噛み合いが解消されており、この状態でギヤ78が回転しても第2外歯86に回転を伝えることができない。また、図3の(A)に示されるように、第2外歯86の第1外歯84側の歯にギヤ78が噛み合い始めるまでアンカプレート30が回転した状態では、ギヤ76と第1外歯84との噛み合いが解消されており、この状態でギヤ76が回転しても第1外歯84に回転を伝えることができない。
【0052】
<第1の実施の形態の作用、効果>
次に、本実施の形態の作用並びに効果について説明する。
【0053】
(通常着座状態でのプリテンショナ10の動作)
乗員の背中が充分にシート26のシートバック88に接し、しかも、乗員の臀部が充分にシートクッション28の後方に位置するシート26に対する通常着座状態で乗員がウエビングベルト20を身体に掛け回し、タング40をバックル46に装着した状態では、図2(A)に示されるように、第1外歯84の第2外歯86側の歯にギヤ76が噛み合い始めるまでアンカプレート30が回転する。
【0054】
車両が急減速状態になり、ECUから起動信号が出力されるとガスジェネレータ70内の着火装置が作動してガスジェネレータ70内のガス発生剤が燃焼される。これにより、ガスジェネレータ70に内にて瞬時に発生したガスがシリンダ66内に供給されてシリンダ66の内圧が上昇すると、図2の(B)に示されるように、シリンダ66内のピストン68がシリンダ66の先端側へ摺動する。ピストン68と共にラックバー74がシリンダ66の先端から更に突出するようにラックバー74がスライドすると、ラックバー74のラック歯がギヤ76に噛み合い、ギヤ76を図2の(B)における矢印A方向へ回転させる。
【0055】
このギヤ76の回転はギヤ76に噛み合う第1外歯84に伝わり、第1外歯84を有するアンカギヤ82に伝えられ、アンカギヤ82を図2の(B)における矢印B方向に回転させる。これにより、アンカプレート30の先端側がシート26の後方へ移動するようにアンカプレート30が回転すると、ウエビングベルト20の先端がアンカプレート30と共にシート26の後方へ移動し、乗員の身体をシート26のシートバック88に押し付ける。これにより、車両が急減速することで乗員の身体が車両前方側へ慣性移動することを防止又は抑制できる。
【0056】
ところで、シリンダ66の先端から更に突出するようにスライドしたラックバー74によってギヤ76が回転させられると、ギヤ76の回転はギヤ76に噛み合うギヤ78に伝わり、ギヤ78がギヤ76の回転方向とは逆向きに回転する。ここで、上記のように通常着座状態におけるアンカプレート30の回転位置は第1外歯84の第2外歯86側の歯にギヤ76が噛み合い始める位置であるため、この状態では、ギヤ78と第2外歯86との噛み合いが解消されている。したがって、この状態でギヤ76の回転がギヤ78に伝わってギヤ78が回転しても第2外歯86に回転が伝わることがない。
【0057】
(前ずり状態でのプリテンショナ10の動作)
一方、上記の通常着座状態よりも乗員の臀部がシートクッション28の前方に位置し、通常着座状態よりも乗員の身体が寝た前ずり状態でウエビングベルト20を身体に掛け回し、タング40をバックル46に装着した状態では、通常着座状態よりもウエビングベルト20が前方へ引っ張られる。このため、この前ずり状態では、図3(A)に示されるように、通常着座状態よりもシート26の前方へ引っ張られたウエビングベルト20によってアンカプレート30の先端側がシート26の前方へ変位するようにアンカプレート30が回転し、これにより、第2外歯86の第1外歯84側の歯にギヤ78が噛み合い始める。
【0058】
この状態で、ラックバー74がシリンダ66の先端から更に突出するようにラックバー74がスライドし、ギヤ76の回転がギヤ78に伝わり、ギヤ78がギヤ76とは逆向き(図3の(B)の矢印C方向)に回転すると、このギヤ78の回転が第2外歯86に伝わり、図3の(B)に示されるように、ギヤ76の回転が第1外歯84に伝わった際のアンカギヤ82の回転方向(図2の(B)の矢印B方向)とは逆向き(図3の(B)の矢印D方向)にアンカギヤ82が回転する。
【0059】
これにより、アンカプレート30の先端側がシート26の下方へ移動するようにアンカプレート30が回転すると、ウエビングベルト20の先端がアンカプレート30と共にシート26の下方へ移動し、乗員の腰部をシート26のシートクッション28に押し付ける。これにより、車両が急減速した際の慣性で、乗員の身体がシートクッション28とウエビングベルト20との間を乗員の身体が潜るように移動することを防止又は抑制できる。
【0060】
ここで、上記のように前ずり状態におけるアンカプレート30の回転位置は第2外歯86の第1外歯84側の歯にギヤ78が噛み合い始める位置であるため、この状態では、ギヤ76と第1外歯84との噛み合いが解消されている。したがって、この状態でギヤ76のアンカギヤ82の第1外歯84に伝わることがない。
【0061】
このように、本プリテンショナ10では、ラックバー74のスライド方向や、このラックバー74のスライドに伴うギヤ76の回転方向を変えることなく、シート26における乗員の着座姿勢に応じて適切な向きウエビングベルト20を引っ張って、乗員の身体を適切に拘束できる。しかも、ギヤ78と第2外歯86との噛み合いが解消されると第1外歯84の第2外歯86側の歯にギヤ76が噛み合い始め、ギヤ76と第1外歯84との噛み合いが解消されると第2外歯86の第1外歯84側の歯にギヤ78が噛み合い始めるようにギヤ76、ギヤ78、アンカギヤ82の相対的な位置関係やアンカギヤ82における第1外歯84や第2外歯86の形成位置が設定される。このため、ガスジェネレータ70を作動させた場合にウエビングベルト20をシート26の後方又は下方へ必ず引っ張ることができる。
【0062】
また、上記のように、本プリテンショナ10では、ガスジェネレータ70が作動するとアンカプレート30が回転する。ここで、ウエビングベルト20の先端側が通過するベルト通過孔34は上記のように湾曲しているため、アンカプレート30が回転した際にアンカプレート30の先端に対してウエビングベルト20の先端が相対回転するようにベルト通過孔34内を移動する。このため、アンカプレート30を円滑に回転させることができる。
【0063】
<第2の実施の形態の構成>
次に、本発明のその他の実施の形態について説明する。なお、以下の各実施の形態を説明するにあたり、前記第1の実施の形態を含めて説明している実施の形態よりも前出の実施の形態と基本的に同一の部位に関しては、同一の符号を付与してその詳細な説明を省略する。
【0064】
(プリテンショナ110の構成)
図4には本発明の第2の実施の形態に係るプリテンショナ110の構成の概略が前記第1の実施の形態を説明した図2と同じ向きからの側面図により示されている。
【0065】
図4に示されるように、本プリテンショナ110はプリテンショナ本体64に代わり駆動手段としてのモータアクチュエータ112を備えている。モータアクチュエータ112は、フレーム62の内側でフレーム62に取り付けられている。このモータアクチュエータ112はモータと、モータの出力を減速する減速機構と、減速機構によって減速されたモータの駆動力を出力する出力軸114とにより構成されている。
【0066】
また、プリテンショナ110は駆動力伝達機構72に代わり駆動力伝達手段としての駆動力伝達機構116を備えている。駆動力伝達機構116はピニオンギヤ118を備えている。ピニオンギヤ118は出力軸114の先端側で出力軸114に同軸的且つ一体的に取り付けられている。このピニオンギヤ118の回転半径方向側方には、ピニオンギヤ118と共に駆動力伝達機構116を構成するラックバー120が設けられている。ラックバー120は長手方向がシート26の前後方向に沿っており、シート26の長手方向にスライド可能にモータアクチュエータ112やフレーム62に支持されている。このラックバー120にはピニオンギヤ118に噛み合うラック歯が形成されており、ピニオンギヤ118が出力軸114周りの一方へ回転すると、ラックバー120がシート26の前方側へスライドする。
【0067】
このラックバー120の前端部近傍では、ピニオンギヤ118やラックバー120と共に駆動力伝達機構116を構成する原動側リンク122が設けられている。原動側リンク122は長手方向が概ねシート26の前後方向に沿い、厚さ方向が出力軸114の軸方向に沿った細幅板状に形成されている。この原動側リンク122の長手方向基端側には連結軸124が設けられている。連結軸124は軸方向が出力軸114の軸方向と同方向とされており、ラックバー120に対して原動側リンク122を連結軸124周りに回転可能にラックバー120の長手方向先端側と原動側リンク122の長手方向基端側とを連結している。
【0068】
この原動側リンク122の長手方向先端側の近傍には、ピニオンギヤ118やラックバー120、原動側リンク122と共に駆動力伝達機構116を構成する従動側リンク126が設けられている。原動側リンク122は長手方向が概ねシート26の前後方向に沿い、厚さ方向が出力軸114の軸方向に沿った細幅板状に形成されている。この従動側リンク126の長手方向先端には連結部128が形成されている。この連結部128には連結軸130が設けられている。連結軸130は軸方向が出力軸114の軸方向と同方向とされており、少なくとも長手方向一端はフレーム62に支持されている。この連結軸130に連結部128(すなわち、従動側リンク126)が回転自在に支持されていると共に、アンカプレート30の長手方向基端部が連結部128の外周部で連結部128に対して一体的に繋がっている。
【0069】
この従動側リンク126の長手方向基端側には連結軸132が設けられている。連結軸132は軸方向が出力軸114の軸方向と同方向とされており、その先端側は原動側リンク122の先端側に形成された長孔134に入り込んでいる。長孔134は内幅寸法が連結軸132の直径寸法よりも僅かに小さく設定されており、連結軸132は長孔134の長手方向両端間で移動できる。これにより、原動側リンク122が連結軸124周りに回転すると、長孔134の内周部が連結軸132を押圧し、従動側リンク126、ひいては、アンカプレート30が連結軸130周りに回転する。
【0070】
ここで、本プリテンショナ110において上記の通常着座状態では連結軸124の軸心と連結軸130の軸心との双方をシート26の前後方向に通過する仮想直線よりも連結軸132が下方に位置し、上記の前ずり状態では連結軸124の軸心と連結軸130の軸心との双方をシート26の前後方向に通過する仮想直線よりも連結軸132が上方に位置するように連結軸130周りの従動側リンク126とアンカプレート30との相対的な位置関係が設定されている。
【0071】
また、上記の従動側リンク126の長手方向中間部における幅方向一端からは、ばね係止部140が延出されている。このばね係止部140には付勢手段としての捩じりコイルばね142の一端が係止されている。ねじりコイルばね142のコイル部分はフレーム62の壁部等に形成された支持シャフト144に取り付けられ、更に、ねじりコイルばね142の他端はフレーム62の壁部等に形成された係止ピン146に係止されている。この捩じりコイルばね142は、図4に示される状態で連結軸130周りにアンカプレート30の先端側が下方へ回転する向きにアンカプレート30を付勢している。
【0072】
<第2の実施の形態の作用、効果>
次に、本実施の形態の作用並びに効果について説明する。
【0073】
(通常着座状態でのプリテンショナ110の動作)
本プリテンショナ110では、通常着座状態で車両が急減速状態になり、ECUから起動信号が出力されるとモータアクチュエータ112のモータが作動してモータアクチュエータ112の出力軸114が図4の(B)における矢印E方向に回転する。これにより、ピニオンギヤ118が出力軸114と共に回転すると、ピニオンギヤ118に噛み合うラックバー120がシート26の前方へ向けてスライドする。
【0074】
上述したように、本プリテンショナ110において上記の通常着座状態では連結軸124の軸心と連結軸130の軸心との双方をシート26の前後方向に通過する仮想直線よりも連結軸132が下方に位置しているので、この状態でシート26の前方へ向けてスライドすると、原動側リンク122は長孔134の内周部が連結軸132から受ける反力によりその先端側をシート26の下方へ回転させる。
【0075】
これにより、長孔134の内周部が連結軸132を押し下げると、従動側リンク126の長手方向基端側が連結軸130を中心にシート26の下方へ回転し、これにより、アンカプレート30の先端側がシート26の後方へ移動するようにアンカプレート30が回転する。このようにアンカプレート30が回転することで、ウエビングベルト20の先端がアンカプレート30と共にシート26の後方へ移動し、乗員の身体をシート26のシートバック88に押し付ける。これにより、車両が急減速することで乗員の身体が車両前方側へ慣性移動することを防止又は抑制できる。
【0076】
(前ずり状態でのプリテンショナ110の動作)
一方、前ずり状態では、乗員の身体によって通常着座状態よりもウエビングベルト20が前方へ引っ張られる。このため、この前ずり状態では、図5(A)に示されるように、通常着座状態よりもシート26の前方へ引っ張られたウエビングベルト20によってアンカプレート30の先端側がシート26の前方へ変位するようにアンカプレート30が回転し、これにより、連結軸124の軸心と連結軸130の軸心との双方をシート26の前後方向に通過する仮想直線よりも連結軸132が上方に位置する。
【0077】
本プリテンショナ110では、このような前ずり状態であっても車両が急減速状態になってECUから起動信号でモータアクチュエータ112のモータが作動した場合の出力軸114の回転方向は通常着座状態の場合と同じ向きである。したがって、前ずり状態であってもピニオンギヤ118に噛み合うラックバー120がシート26の前方へ向けてスライドする。
【0078】
ここで、上記のように前ずり状態では、連結軸124の軸心と連結軸130の軸心との双方をシート26の前後方向に通過する仮想直線よりも連結軸132が上方に位置するため、シート26の前方へ向けてスライドすると、原動側リンク122は長孔134の内周部が連結軸132から受ける反力によりその先端側をシート26の上方へ回転させる。これにより、長孔134の内周部が連結軸132を押し上げると、図5の(B)に示されるように、従動側リンク126の長手方向基端側が連結軸130を中心にシート26の上方へ回転し、これにより、アンカプレート30の先端側がシート26の下方へ移動するようにアンカプレート30が回転する。
【0079】
このようにアンカプレート30が回転することで、ウエビングベルト20の先端がアンカプレート30と共にシート26の下方へ移動し、乗員の腰部をシート26のシートクッション28に押し付ける。これにより、車両が急減速した際の慣性で、乗員の身体がシートクッション28とウエビングベルト20との間を乗員の身体が潜るように移動することを防止又は抑制できる。
【0080】
このように、本プリテンショナ110では、出力軸114の回転方向やラックバー120のスライド方向を変えることなく、シート26における乗員の着座姿勢に応じて適切な向きウエビングベルト20を引っ張って、乗員の身体を適切に拘束できる。
【0081】
ところで、乗員の身体にウエビングベルト20が装着された状態で連結軸124の軸心と連結軸130の軸心と連結軸132の軸心とが同一直線上に並ぶ場合がある。ここで、本プリテンショナ110では、連結軸130周りにアンカプレート30の先端側が下方へ回転する向きに捩じりコイルばね142がアンカプレート30を付勢している。このため、連結軸124、連結軸130、及び連結軸132の各軸心が同一直線上に並んだ場合には、捩じりコイルばね142の付勢力が従動側リンク126の先端側を上方へ持ち上げようとし、これにより、連結軸132が長孔134の内周部を上方へ押圧する。
【0082】
このため、このような場合には前ずり状態と同様にアンカプレート30が回転してウエビングベルト20が乗員の腰部をシート26のシートクッション28に押し付ける。このように、本プリテンショナ110では、モータアクチュエータ112を作動させた場合にウエビングベルト20をシート26の後方又は下方へ必ず引っ張ることができる。
【0083】
なお、上記の各実施の形態の説明では、駆動手段としてのプリテンショナ本体64や駆動手段としてのモータアクチュエータ112の作動タイミングに関して特に詳細に言及していないが、この作動タイミングには、例えば、車両が急減速した場合や車両の急減速が予知された場合がある。ここで言う車両の急減速が予知された場合とは、車両が急減速する可能性が高い場合を言い、例えば、車両前方の障害物や前方で走行する他の車両までの距離をレーダ波等で検出する前方監視手段が車両前方の障害物や前方で走行する他の車両までの距離が一定値未満になったことを検出した場合である。
【0084】
また、ガスジェネレータ70にて発生したガスの圧力を利用した前記第1の実施の形態の駆動手段としてのプリテンショナ本体64とは異なり、本第2の実施の形態における駆動手段としてのモータアクチュエータ112は、正転駆動させたモータを一旦停止させた後に再び正転駆動させることができる。
【0085】
これを利用して、例えば、車両の急減速が予知された場合にモータアクチュエータ112のモータを正転駆動させて乗員の身体を予めシート26のシートバック88に押し付けたり、乗員の腰部を予めシート26のシートクッション28に押し付けたりしてモータアクチュエータ112のモータを一旦停止させ、更に、車両が急減速した場合にモータアクチュエータ112のモータを再び正転駆動させると、車両が急減速した際に早期に強い力で乗員の身体をシートバック88に押し付けたり、乗員の腰部をシート26のシートクッション28に押し付けたりすることができる。
【0086】
また、駆動手段にモータアクチュエータ112を適用した本第2の実施の形態は、上記のように、モータアクチュエータ112は、モータを逆転駆動させることでラックバー120を後方へ引き戻し、従動側リンク126、ひいては、アンカプレート30を元の位置に戻すことができる。このため、例えば、上述した車両の急減速が回避されたり、車両急減速の予知が解消されたりした場合には、モータアクチュエータ112のモータを逆転駆動させてアンカプレート30を元の位置に戻すことで、シートバック88への乗員の身体の押し付けや、シートクッション28への乗員の腰部の押し付けを解消できる。
【0087】
さらに、上記の各実施の形態は、ウエビングベルト20の先端が係止されるアンカプレート30をガスジェネレータ70やモータアクチュエータ112の駆動力でシート26の後方又は下方へ回転させる構成であったが、タング40が装着されるバックル46をガスジェネレータ70やモータアクチュエータ112の駆動力でシート26の後方又は下方へ回転させる構成としてもよい。以下、このようにバックル46をガスジェネレータ70やモータアクチュエータ112の駆動力でシート26の後方又は下方へ回転させる構成を本発明の第3の実施の形態として説明する。
【0088】
<第3の実施の形態の構成>
次に、本発明の第3の実施の形態について説明する。
【0089】
図6には本実施の形態に係るプリテンショナ160の構成の概略が前記第2の実施の形態を説明した図4と同じ向きからの側面図により示されている。
【0090】
この図に示されるように、本プリテンショナ160を構成する駆動力伝達機構116の連結部128にはアンカプレート30に代わり支持プレート162が一体的に繋がっている。支持プレート162は厚さ方向が従動側リンク126の厚さ方向と同方向の板状に形成されている。この支持プレート162の厚さ方向一方の側(図6における紙面手前側)にはバックルアンカ164が設けられている。
【0091】
バックルアンカ164は厚さ方向が支持プレート162の厚さ方向と同方向の板状に形成されており、支持プレート162とバックルアンカ164とは互いの厚さ方向に重なっている。このバックルアンカ164の長手方向中間部には連結軸166が設けられている。この連結軸166は軸方向が支持プレート162及びバックルアンカ164の厚さ方向に沿っており、支持プレート162の先端側とバックルアンカ164の中間部とを連結軸166周りに相対回転可能に連結している。また、バックルアンカ164の長手方向先端側はフレーム62の外方へ延びており、更に、連結軸166の先端にはバックル46が一体的に連結されている。
【0092】
一方、上記の連結軸166には保持手段としての保持ばね172が設けられている。保持ばね172は連結軸166に掛け回されるように設けられたリング部174を備えている。このリング部174の一端からは第1保持部176が延出されている。この第1保持部176はその長手方向中間部にて支持プレート162及びバックルアンカ164の厚さ方向に屈曲されており、支持プレート162及びバックルアンカ164の双方の幅方向に支持プレート162の幅方向一端部及びバックルアンカ164の幅方向一端部の双方に対向している。
【0093】
これに対して、リング部174の他端からは第2保持部178が延出されている。この第2保持部178はその長手方向中間部にて支持プレート162及びバックルアンカ164の厚さ方向に屈曲されており、支持プレート162及びバックルアンカ164の双方の幅方向に支持プレート162の幅方向他端部及びバックルアンカ164の幅方向他端部の双方に対向している。
【0094】
<第3の実施の形態の作用、効果>
本プリテンショナ160においても、モータアクチュエータ112や駆動力伝達機構116が前記第2の実施の形態に係るプリテンショナ110と同様に作動する。このため、図6の(A)に示される通常着座状態では、モータアクチュエータ112が作動することで図6の(B)に示されるように支持プレート162の先端側がシート26の後方へ移動するように支持プレート162が回転し、図7の(A)に示される前ずり状態では、モータアクチュエータ112が作動することで図7の(B)に示されるように支持プレート162の先端側がシート26の下方へ移動するように支持プレート162が回転する。
【0095】
これにより、通常着座状態ではバックル46及びバックル46に装着されたタング40を介してウエビングベルト20におけるタング40での折り返し部分をシート26の後方へ移動させて、乗員の身体をシート26のシートバック88に押し付けることができ、前ずり状態ではウエビングベルト20におけるタング40での折り返し部分をシート26の下方へ移動させて、乗員の腰部をシート26のシートクッション28に押し付けることができる。
【0096】
ここで、本プリテンショナ160では、支持プレート162に対してバックルアンカ164が連結軸166周りに相対回転可能である。このため、通常状態で連結軸130周りに支持プレート162が回転してバックルアンカ164を引っ張ると、タング40及びバックル46を介してバックルアンカ164に付与されるウエビングベルト20の張力がバックルアンカ164の先端側を前方へ傾斜させるように引っ張る。この引っ張り力が保持ばね172の付勢力に抗すると、図6の(B)に示されるように、連結軸166周りにバックルアンカ164が支持プレート162に対して回転し、その先端側を前方へ傾斜させる。
【0097】
一方、前ずり状態で連結軸130周りに支持プレート162が回転してバックルアンカ164を引っ張ると、タング40及びバックル46を介してバックルアンカ164に付与されるウエビングベルト20の張力がバックルアンカ164の先端側を上方へ傾斜させるように引っ張る。この引っ張り力が保持ばね172の付勢力に抗すると、図7の(B)に示されるように、連結軸166周りにバックルアンカ164が支持プレート162に対して回転し、その先端側を上方へ傾斜させる。
【0098】
このように、本プリテンショナ160では、モータアクチュエータ112が作動することで支持プレート162が連結軸130周りに回転しても、バックルアンカ164が支持プレート162に対して相対回転することで、バックル46の向き(更に言えば、バックル46におけるタング40の挿込口の開口方向)をウエビングベルト20の張力の向きに応じた方向へ向けることができる。
【0099】
しかも、保持ばね172の付勢力に抗してバックルアンカ164が支持プレート162に対して相対回転しなければ、バックルアンカ164の基端側から先端側への向きを支持プレート162の基端側から先端側への向きに沿わせ、支持プレート162とバックルアンカ164とを擬似的に一体とし連結軸130周りにバックル46を回動操作することができる。
【0100】
なお、駆動手段にモータアクチュエータ112を適用した本実施の形態は、上記のように、モータアクチュエータ112は、モータを逆転駆動させることでラックバー120を後方へ引き戻し、従動側リンク126、ひいては、アンカプレート30を元の位置に戻すことができる。
【0101】
このため、例えば、図8に示されるように、シートクッション28における連結軸130(図8では図示省略)を中心としたバックル46の回転軌跡上にバックル46を格納可能なバックル格納部186を形成し、乗員がシート26に着座していない状態では、このバックル格納部186にバックル46が格納されるまでモータアクチュエータ112のモータの駆動力でバックル46を回転させておき、シートクッション28等に設けられた着座センサ等の乗員着座検出手段がシート26に乗員が着座したことを検出した場合にモータアクチュエータ112のモータの駆動力でバックル46を回動させて乗員の身体の側方(図8の二点鎖線状態や図7の(A)の状態)までバックル46を回転させ、更に、バックル46からタング40が抜き取られた場合にバックル格納部186にバックル46が格納するようにモータアクチュエータ112のモータを駆動させる構成としてもよい。
【0102】
このような構成とすることで、これまでに説明した車両急減速時における作用、効果の他に、乗員がシート26に着座するまでバックル格納部186にバックル46を格納しておくことで乗員が乗車する際にバックル46が乗員の身体に干渉することを防止又は軽減できる。また、乗員が降車する際にバックル格納部186にバックル46を格納することで乗員が降車する際にバックル46が乗員の身体に干渉することを防止又は軽減できる。
【0103】
また、本実施の形態では、付勢手段としての捩じりコイルばね142が連結軸130周りに支持プレート162の先端側が下方へ回転する向きに従動側リンク126を付勢している。このため、捩じりコイルばね142の付勢力以外に連結軸130周りの荷重が従動側リンク126に作用していなければ、モータアクチュエータ112のモータの駆動力でバックル46は下方へ移動する。
【0104】
ここで、上記の捩じりコイルばね142の付勢力による従動側リンク126の回転方向を逆向きにした場合には、捩じりコイルばね142の付勢力以外に連結軸130周りの荷重が従動側リンク126に作用していなければ、モータアクチュエータ112のモータの駆動力でバックル46は後方へ移動する。このため、このような構成では、図9に示されるように、バックル格納部186をシート26のシートバック88に形成すればよい。
【符号の説明】
【0105】
10 プリテンショナ
20 ウエビングベルト
26 シート
30 アンカプレート(アンカ部材)
40 タング
46 バックル
64 プリテンショナ本体(駆動手段)
72 駆動力伝達機構(駆動力伝達手段)
76 ギヤ(第1出力ギヤ)
78 ギヤ(第2出力ギヤ)
82 アンカギヤ(回転体)
84 第1外歯(第1入力ギヤ)
86 第2外歯(第2入力ギヤ)
110 プリテンショナ
112 モータアクチュエータ(駆動手段)
122 原動側リンク
126 従動側リンク
160 プリテンショナ
186 バックル格納部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定の一方向に駆動力の出力が可能な駆動手段と、
長尺帯状に形成されたウエビングベルトの先端側が直接又は間接的に係止されたアンカ部材及び前記ウエビングベルトの長手方向中間部に設けられたタングが装着されるバックルの何れかの一方に連結されて、前記何れかの一方が所定位置にある場合に前記駆動手段から駆動力が出力された場合には前記何れかの一方をシートの後方へ移動させると共に、前記所定位置よりも前記シートの前方側に前記何れかの一方が位置した状態で前記駆動手段から駆動力が出力された場合には前記何れかの一方を前記シートの下方へ移動させる駆動力伝達手段と、
を備えるプリテンショナ。
【請求項2】
前記アンカ部材及び前記バックルの何れかの一方に連結され、軸周りの一方へ回転することで前記何れかの一方を前記シートの後方へ変位させるように回転させ、軸周りの他方へ回転することで前記何れかの一方を前記シートの下方へ変位させるように回転させる回転体と、
前記何れかの一方が前記所定位置に位置する状態で前記回転体に形成された第1入力ギヤ部に噛み合い、前記駆動手段の駆動力によって回転することで前記回転体を前記軸周りの一方へ回転させると共に、前記何れかの一方が前記所定位置よりも前記シートの前方に変位することで前記第1入力ギヤ部との噛み合いが解消される第1出力ギヤと、
前記所定位置よりも前記シートの前方に前記何れかの一方が位置する状態で前記第1入力ギヤ部とは別に前記回転体に形成された第2入力ギヤ部に噛み合うと共に、前記駆動手段の駆動力によって前記第1出力ギヤとは反対向きに回転し、この回転を前記第2入力ギヤ部に伝えて前記回転体を前記軸周りの他方へ回転させると共に、前記何れかの一方が前記所定位置に変位することで前記第2入力ギヤ部との噛み合いが解消される第2出力ギヤと、
を含めて前記駆動力伝達手段を構成した請求項1に記載のプリテンショナ。
【請求項3】
前記アンカ部材及び前記バックルの何れかの一方に連結され、軸周りの一方へ回転することで前記何れかの一方を前記シートの後方へ変位させるように回転させ、軸周りの他方へ回転することで前記何れかの一方を前記シートの下方へ変位させるように回転させる従動側リンクと、
先端側が前記従動側リンクに連結され、回転の軸心と前記従動側リンクの回転の軸心とを結ぶ仮想直線を介して一方の側に前記従動側リンクとの連結位置が位置する状態では前記駆動手段の駆動力で前記従動側リンクを前記軸周りの一方へ回転させ、前記仮想直線を介して他方の側に前記従動側リンクとの連結位置が位置する状態では前記駆動手段の駆動力で前記従動側リンクを前記軸周りの他方へ回転させる原動側リンクと、
を含めて前記駆動力伝達手段を構成した請求項1に記載のプリテンショナ。
【請求項4】
正転及び逆転の双方の駆動が可能に前記駆動手段を構成して、前記駆動手段の正転駆動によって前記特定の一方向の駆動力を出力して、前記駆動手段の逆転駆動によって前記特定の一方向とは反対向きの駆動力を出力すると共に、前記駆動力伝達手段に前記バックルを連結し、更に、前記正転駆動の駆動力によって前記バックルの移動方向側で前記シートに前記バックルを格納可能なバックル格納部を設けた請求項1から請求項3の何れか1項に記載のプリテンショナ。
【請求項5】
前記乗員が前記シートに着座していない状態、前記車両が急減速した状態、前記車両の急減速が予知された状態の少なくとも何れか一方の状態で前記駆動手段が正転され、前記車両の急減速が回避された状態、前記車両の急減速の予知が解消された状態、前記ウエビングベルトを装着していない前記乗員が前記シートに着座した状態の少なくとも何れか一方の状態で前記駆動手段が逆転される請求項4に記載のプリテンショナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−173554(P2011−173554A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−40491(P2010−40491)
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(000003551)株式会社東海理化電機製作所 (3,198)
【Fターム(参考)】