説明

プリント基板用硫酸銅めっき液

【課題】 硫酸銅めっき浴を基本組成としながら、優れた均一電着性を有するめっき浴を得ることのできる手段を提供すること。
【解決手段】 40〜100g/Lの硫酸銅および150〜250g/Lの硫酸を含有する硫酸銅めっき基本組成に、下記式(I)または(II)


【化1】


(式中、RおよびRは、同一または異なって水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を、Rは、水酸基およびハロゲンを有する炭素数2〜4のアルキル基を示し、Xはハロゲン原子を示す)
で表される構造単位を有するポリアミン系化合物を添加してなることを特徴とするプリント基板用硫酸銅めっき液並びにスルーホールを有する銅張プリント基板を、当該硫酸銅めっき液中でめっきすることを特徴とするスルーホールを有するプリント基板のめっき方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプリント基板用硫酸銅めっき液に関し、更に詳細には、プリント基板に設けられたスルーホール内での優れた均一電着性を得ることのできるプリント基板用硫酸銅めっきに関する。
【背景技術】
【0002】
プリント基板では、上面の銅箔と下面の銅箔を導通させ、立体的な回路を形成するために、スルーホールが多用されている。このプリント基板のスルーホールは、ドリル、レーザー等で形成した後、その内面にめっき等により銅を析出させ、上面銅箔と下面銅箔の導通を可能とするのであるが、スルーホールの内面は銅箔面に比べ、電流密度が低く、スルーホール内は銅箔面に比較してめっき厚が薄くなる傾向にあるため、均一電着性の良いものが求められていた。すなわち、スルーホール内面と銅箔面でのめっき析出量の差が小さいものを選ぶことにより、より短時間でスルーホール内のめっき厚が確保され、また、配線形成時の銅箔表面めっきのエッチング時間が短くなり、高精細配線を可能とする。
【0003】
従来、硫酸銅めっきは、装飾めっきのために広く使用されており、これをプリント基板に応用することも試みられたが、装飾めっきに利用される硫酸銅めっきは、基本的には均一電着性が悪く、その利用には困難が伴っていた。そこで、プリント基板めっきには、主にピロリン酸銅めっきが利用されていた。
【0004】
しかしながら、近年、排水処理の面から、ピロリン酸銅の使用が問題視されており、従来の装飾用の硫酸銅めっき液組成とは全く異なる、硫酸銅濃度が低く、硫酸濃度が高いハイスロー組成の硫酸銅めっき液が利用されるようになっている。しかしながら、このハイスロー組成の硫酸銅めっきで、均一電着性は改善されてはいるものの、スルーホールの小径化の著しい近年では満足の得られないケースが増加している。
【0005】
【特許文献1】特公昭53−20930号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、硫酸銅めっき浴を基本組成としながら、優れた均一電着性を有するめっき浴を得ることのできる手段の開発が求められており、このような手段の提供が本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行っていたところ、ハイスロー組成の硫酸銅めっき液に、特定のポリアミン系化合物を添加すれば、優れた均一電着性のものとすることができることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち本発明は、40〜100g/Lの硫酸銅および150〜250g/Lの硫酸を含有する硫酸銅めっき基本組成に、下記式(I)または(II)
【化3】

(式中、RおよびRは、同一または異なって水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を、Rは、水酸基およびハロゲンを有する炭素数2〜4のアルキル基を示し、Xはハロゲン原子を示す)
で表される構造単位を有するポリアミン系化合物を添加してなることを特徴とするプリント基板用硫酸銅めっき液である。
【0009】
また本発明は、スルーホールを有する銅張プリント基板を、上記硫酸銅めっき液中でめっきすることを特徴とするスルーホールを有するプリント基板のめっき方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の硫酸銅めっき液は、硫酸銅めっき液でありながら高い均一電着性を有するものであり、プリント基板に設けられたスルーホール内にも均一電着性良く銅皮膜を形成することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のプリント基板用硫酸銅めっき液において、添加剤として使用されるポリアミン系化合物は、上記式(I)または(II)で表される構造単位を有するものである。このうち、式(I)で表される構造単位を有するものは、ポリンアミンスルホンとも呼ばれる化合物である。このポリンアミンスルホン(I)において、基RおよびRは、水素原子またはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基等の、炭素数1ないし4のアルキル基である。また、基Xは、塩素、臭素等のハロゲン原子である。
【0012】
また、式(II)で表される構造単位を有するポリアミン系化合物において、基R、基Rおよび基Xは、ポリアミンスルホン(I)と同様であり、基Rは、3−ハロゲノ−2−ヒドロキシプロピル基のような、水酸基およびハロゲンを有する炭素数2〜4のアルキル基である。
【0013】
上記ポリアミン系化合物は、その分子量が、1,000ないし100,000であるものが好ましく、特に、4,000ないし40,000のものが好ましい。
【0014】
本発明で使用するポリアミン系化合物は、いずれも既に公知の化合物である。式(I)の構造単位のポリアミンスルホンのうち、RおよびRが共にメチル基であるものとしては、PAS−A−1、PAS−A−5、PAS−A−120LおよびPAS−A−120Lが、また、RおよびRが共に水素原子であるものとして、PAS−92がそれぞれ日東紡株式会社から市販されている。更に、式(II)の構造単位のポリアミン系化合物のうち、RおよびRが共にメチル基で、Rが3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル基であるものも、PAS−880として日東紡株式会社から市販されている。
【0015】
なお、ポリアミンスルホンを硫酸銅めっき液中に添加することは、既に特許文献1に開示されているが、これは分子量1,900程度のものが単に開示されているに過ぎず、しかも、本文献中では、これを硫酸銅めっき液に添加した場合の効果については、何一つ教示していない。
【0016】
一方、本発明のプリント基板用硫酸銅めっき液(以下、「本発明硫酸銅めっき液」という)の基本組成は、40〜100g/Lの硫酸銅および150〜250g/Lの硫酸を含有する組成である。この液組成は、一般にはハイスロー組成と呼ばれるものであり、好ましくは、硫酸銅が60〜90g/L、硫酸が170〜230g/Lである。また、この浴には、塩素が20〜100mg/L程度含有されていても良い。
【0017】
本発明硫酸銅めっき液は、上記した基本組成に、前記のポリアミン系化合物を、1ないし500mg/L程度、好ましくは、5ないし200mg/L添加することにより調製される。
【0018】
また、本発明硫酸銅めっき液には、本発明の効果を妨げない範囲において、各種の公知の添加剤を加えることも可能である。この添加剤は特に制約されるものではないが、ポリエチレングリコール(PEG)、プルロニック型界面活性剤、グリセリンPEG付加物等の湿潤成分や、ビススルホプロパンスルホン酸ナトリウム(SPS)等の光沢化剤成分が例示される。
【0019】
以上説明した本発明硫酸銅めっき液を用いて、スルーホールを有する銅張プリント基板(以下、単に「プリント基板」という)のスルーホール内壁に銅めっきを析出させ、所望の電気配線を有するプリント基板を得るには、次のようにすればよい。
【0020】
すなわち、まず、常法に従って、スルーホール内や、プリント基板上を清浄化した後、例えば、ホルマリンを還元剤とする無電解銅めっき等の手段により、スルーホール内に導電化皮膜を形成する。次いで、銅電極または不溶解性電極を設置しためっき槽中に本発明硫酸銅めっき液を入れ、プリント基板上の銅皮膜を陰極とし、電気めっきを行う。所定時間めっきを行った後、周知のレジスト法およびエッチング法を使用することにより、所望の電気配線を有するプリント基板を調製することができる。
【0021】
上記方法において、硫酸銅めっきは、スルーホールの径や、深さによっても異なるが、一般には、0.5ないし5A/dm程度、好ましくは、1.5ないし3.0A/dm程度の電流密度で、30ないし300分間、好ましくは、50ないし100分間行えば良い。また、その際のめっき液の温度は、20ないし30℃程度とすれば良く、撹拌も、エアー攪拌、噴流攪拌等を利用することができる。
【0022】
上述の本発明方法は、従来の硫酸銅めっき液を使用する方法に比べ、均一電着性が極めて良いため、プリント基板上に設けられた、孔径0.15ないし0.3nm程度、アスペクト比(板厚/孔径)5ないし10程度のスルーホールでも十分に膜厚分布の優れためっきが可能である。
【実施例】
【0023】
以下、実施例および試験例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例等に何ら制約されるものではない。
【0024】
実 施 例 1
プリント基板用硫酸銅めっき液(1):
硫酸銅を75g/L、硫酸を180g/Lおよび塩素を60mg/L含有する硫酸銅めっき浴基本組成(以下、「基本組成」という)に、下記組成となるよう添加剤を加え、本発明硫酸銅めっき浴(1)を得た。
【0025】
( 添加剤組成 )
ポリエチレングリコール4000 200mg/L
SPS 5mg/L
PAS−A−1(M.W=5,000) 50mg/L
*式(I)中、R、R=メチル、X=塩素/日東紡株式会社製
【0026】
実 施 例 2
プリント基板用硫酸銅めっき液(2):
実施例と同じ基本組成に、下記組成となるよう添加剤を加え、本発明硫酸銅めっき浴(2)を得た。
【0027】
( 添加剤組成 )
ポリエチレングリコール4000 200mg/L
SPS 5mg/L
PAS−A−5(M.W=4,000) 100mg/L
*式(I)中、R、R=メチル、X=塩素/日東紡株式会社製
【0028】
実 施 例 3
プリント基板用硫酸銅めっき液(3):
実施例と同じ基本組成に、下記組成となるよう添加剤を加え、本発明硫酸銅めっき浴(3)を得た。
【0029】
( 添加剤組成 )
ポリエチレングリコール10000 500mg/L
SPS 2mg/L
PAS−880(M.W=40,000) 100mg/L
*式(I)中、R、R=メチル、R=3−クロロ−2−ヒドロキシ
プロピル基、X=塩素/日東紡株式会社製
【0030】
実 施 例 4
プリント基板用硫酸銅めっき液(4):
実施例と同じ基本組成に、下記組成となるよう添加剤を加え、本発明硫酸銅めっき浴(4)を得た。
【0031】
( 添加剤組成 )
ポリオキシエチレンポリオキシプロ 30mg/L
ピレン縮合物 *
SPS 15mg/L
PAS−92**(M.W=5,000) 100mg/L
*プルロニック L34/旭電化株式会社製
**式(I)中、R、R=メチル、X=塩素/日東紡株式会社製
【0032】
比 較 例 1
比較プリント基板用硫酸銅めっき液:
実施例と同じ基本組成に、下記組成となるよう添加剤を加え、比較硫酸銅めっき浴を得た。なお、ここで用いたポリエチレンイミン等は、プリント配線板めっき浴として従来から実績のある添加剤であるので、これを比較標準とした。
【0033】
( 添加剤組成 )
ポリエチレングリコール4000 200mg/L
SPS 1mg/L
ポリエチレンイミン(M.W=2,000) 2mg/L
【0034】
試 験 例 1
均一電着性試験(1):
めっき試料としては、下記に示す孔径、深さ(素材厚さ)のスルーホールをドリルで形成したガラスエポキシプリント基板(松下FR4)を用い、標準的な無電解銅めっきプロセス(ライザトロンプロセス;荏原ユージライト株式会社製)により、スルーホールの無電解銅めっきを予め行なった。次いで、実施例1のプリント基板用硫酸銅めっき浴および比較例1の硫酸銅めっき浴を用い、陰極電流密度(Dk)2.0A/dmの条件および陰極電流密度1.0A/dmの条件にて、それぞれ20μmの膜厚となるまでめっきを行った。その後、以下の方法に従い均一電着性を調べた。この結果を表1に示す。
【0035】
<均一電着性の算出方法>
めっき後のスルーホールを断面カットし、図1に示す位置(a〜f)における膜厚を測定し、以下の式により均一電着性を算出した。
【数1】

【0036】
【表1】

【0037】
上記の結果から明らかなように、本発明のプリント基板用硫酸銅めっき浴の均一電着性は、従来の比較標準のプリント基板用硫酸銅めっき浴に比べ優れていた。
【0038】
試 験 例 2
均一電着性試験(2):
試験例1に準じて、実施例2ないし4で調製したプリント基板用硫酸銅めっき浴についても、それらの均一電着性を調べた。この試験においては、試験するスルーホールの孔径、深さは2点とし、めっきは、陰極電流密度2.0A/dmで、20μmの膜厚となるまで行った。この結果を表2に示す。
【0039】
【表2】

【0040】
この結果から明らかなように、実施例2ないし4で調製したプリント基板用硫酸銅めっき浴も優れた均一電着性を有していた。
【0041】
試 験 例 3
基本組成濃度の影響:
硫酸銅、硫酸の基本組成濃度が均一電着性に及ぼす影響を調べた。この試験で使用した硫酸銅めっき添加剤の組成は、実施例1のものと同じであり、めっきは陰極電流密度2.0A/dmで行った。なお、均一電着性は、1.6mmt、0.3mmΦのスルーホールと、3.2mmt、0.3mmΦのスルーホールで測定した。この結果を表3に示す。
【0042】
【表3】

【0043】
一般的にプリント基板のスルーホール内での均一電着性は少なくとも70%以上は要望されるが、硫酸銅濃度と硫酸濃度は重要な条件であることがわかる。いかに優れた添加剤を用いても、硫酸銅濃度が高く硫酸濃度が低い従来の装飾硫酸銅めっき用の基本組成では、性能を発揮することができないことが上記試験結果から明らかである。
【0044】
試 験 例 4
サーマルショック試験:
実施例1ないし4で調製したプリント基板用硫酸銅めっき浴について、その銅皮膜の物性を調べるため、サーマルショック試験を行った。サーマルショック試験は、めっき条件2A/dmで25μmとなるまで硫酸銅めっきを行った各プリント基板について、260℃のグリセリンに10秒浸漬後、25℃のトリクレンに10秒浸漬する工程を所定回数繰り返し、その後、スルホール(1.6mmt、0.3mmΦ)内を断面カットし、クラックの有無を観察することにより行った。スルホール10穴を観察し、各コーナー計40箇所および各穴中心部計20箇所に計60箇所に生じたクラックの数を数え、評価した。この結果を表4に示す。
【0045】
【表4】

【0046】
以上の結果より、本発明の硫酸銅めっき浴は、皮膜物性としても従来から使用されている添加剤を用いたものと遜色ない性質であり、実用的に全く問題ないものであることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の硫酸銅めっき液は、他の硫酸銅めっき液に比べ、均一電着性が高く、しかも、優れた物性の銅皮膜を得ることができるものである。
【0048】
従って、本発明の硫酸銅めっき液は、特にスルーホールや、ビアを有するプリント基板用の銅めっき液として、広く使用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】図1は均一電着性を算出するのに用いた膜厚の測定位置を示す図面である。
【符号の説明】
【0050】
1 …… 絶縁部(ガラスエポキシ部分等)
2 …… 銅箔
3 …… 硫酸銅めっき
4 …… スルーホール
a〜f …… 膜厚測定位置

以 上


【特許請求の範囲】
【請求項1】
40〜100g/Lの硫酸銅および150〜250g/Lの硫酸を含有する硫酸銅めっき基本組成に、下記式(I)または(II)
【化1】

(式中、RおよびRは、同一または異なって水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を、Rは水酸基およびハロゲンを有する炭素数2〜4のアルキル基を示し、Xはハロゲン原子を示す)
で表される構造単位を有するポリアミン系化合物を添加してなることを特徴とするプリント基板用硫酸銅めっき液。
【請求項2】
ポリアミン系化合物の添加量が、1ないし500mg/Lである請求項1記載の硫酸銅めっき液。
【請求項3】
ポリアミン系化合物の構造単位が式(I)で表されるものであり、RおよびRが共に水素原子またはメチル基である請求項1または2記載の硫酸銅めっき液。
【請求項4】
ポリアミン系化合物の構造単位が式(II)で表されるものであり、RおよびRが共にメチル基で、Rが3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル基である請求項1または2記載の硫酸銅めっき液。
【請求項5】
ポリアミン系化合物の分子量が、1,000ないし100,000である請求項1ないし4の何れかに記載の硫酸銅めっき液。
【請求項6】
更に塩素を20〜100mg/L含有する請求項1ないし5の何れかに記載の硫酸銅めっき液。
【請求項7】
スルーホールを有する銅張プリント基板を、40〜100g/Lの硫酸銅、150〜250g/Lの硫酸および下記式(I)または(II)
【化2】

(式中、RおよびRは、同一または異なって水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を、Rは水酸基およびハロゲンを有する炭素数2〜4のアルキル基を示し、Xはハロゲン原子を示す)
で表される構造単位を有するポリアミン系化合物を含有する硫酸銅めっき液中でめっきすることを特徴とするスルーホールを有するプリント基板のめっき方法。
【請求項8】
硫酸銅めっき液中のポリアミン系化合物の添加量が、1ないし500mg/Lである請求項7記載のめっき方法。
【請求項9】
硫酸銅めっき液中のポリアミン系化合物の分子量が、1,000ないし100,000である請求項7または8記載のめっき方法。
【請求項10】
めっきを、電流密度0.5ないし5.0A/dmで行う請求項7ないし9の何れかの項記載のめっき方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−88524(P2008−88524A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−272492(P2006−272492)
【出願日】平成18年10月4日(2006.10.4)
【出願人】(000120386)荏原ユージライト株式会社 (48)
【Fターム(参考)】