説明

プリント配線板用銅箔とその製造方法およびその製造に用いる3価クロム化成処理液

【課題】 Znおよびクロメート製膜量の制御性に優れたプリント配線板用銅箔とその製造方法およびその製造に用いる3価クロム化成処理液を提供する。
【解決手段】 銅箔1は、プリント配線板用基材との接着面上に、粗化めっき層2、ニッケル−コバルト合金めっき層3、亜鉛めっき層4、クロメート処理層5、シランカップリング処理層6を有しており、クロメート処理層5が3価クロムイオンを金属クロム換算で70mg/L以上500mg/L未満含有し、pHが3.0〜4.5である3価クロム化成処理液を用いて形成されたものであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント配線板用銅箔とその製造方法およびその製造に用いる3価クロム化成処理液に関し、特に、Znおよびクロメート製膜量の安定性に優れたプリント配線板用銅箔とその製造方法およびその製造に用いる3価クロム化成処理液に関する。
【背景技術】
【0002】
銅箔または銅合金箔(以下、単に「銅箔」という)は導電体用途としてよく用いられている。特にフレキシブルプリント配線板(FPC)の分野では、ポリイミドフィルムとラミネート(積層)したり、あるいはポリアミック酸を主成分とするワニスを塗布するという方法等でプリント配線板が製造される。以下、この時に用いるポリイミドフィルムやワニス、またはワニスを硬化させたもの等を「プリント配線板用基材」または単に「基材」と表す。
【0003】
銅箔とプリント配線板用基材との間には良好な接着性が要求される。そこで、プリント配線板用基材との接着性向上につながるアンカー効果を高めるために、銅箔の接着面側にはしばしば粗化処理が施される。
【0004】
銅箔はその製造方法によって電解銅箔と圧延銅箔に分けられるが、粗化処理方法についてはどちらも同様な手段で行われている。例えば、ヤケめっきによって銅箔表面に米粒状の銅を付着する(析出させる)方法、もしくは酸を用いた結晶粒界の選択エッチングを行う方法などが一般的である。
【0005】
ヤケめっきによる粗化処理については、一般的な銅めっきによる処理のほかに、銅−ニッケル合金めっきに代表される合金めっきによる粗化処理も開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
また、粗化処理後の表面処理としては、コバルトめっきやコバルト−ニッケル合金めっき等が挙げられる(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
一方、プリント配線板用基材との接着性を向上させる手段としては、粗化処理によるアンカー効果(物理的接合性向上)のほかに、銅箔表面に基材との親和性が高い金属層を設ける表面処理によって、プリント配線板用基材と銅箔の化学的接合性を向上させる方法が挙げられる。銅箔表面に対するクロメート処理と呼ばれる化成処理やシランカップリング処理などがその一例で、この場合、それらはプリント配線板用基材との接着性向上と同時に銅箔の防錆の役割も兼ねている(例えば、特許文献3、特許文献4参照)。なお、防錆(耐食、耐酸化)効果に関しては、基材との接着面でない側の銅箔表面(接着面の裏面側)においても期待(要求)される効果である。
【0008】
従来、クロメート処理は、例えば、特許文献2乃至特許文献4に示されるように6価クロムを含む処理液に浸漬、もしくは処理を施す銅箔をクロメート液中にて陽極または陰極にし、電解することで行われてきたが、近年の環境保護の活発化によって6価クロムを含まない化成処理が開発されるようになってきた。
【0009】
その一つとして、3価クロムを含む処理液を使用したクロメート処理が最も実績があり、市販もされるようになってきている。しかしながら、現在市販されている処理液は、いずれも自動車部品用途に開発されたものであり、クロメート処理の下地となるZn膜が厚く(2μm程度以上)、かつクロメート膜も厚く(50〜60nm)生成される。
【0010】
一方、電子部品、例えば、FPC用粗化銅箔に要求されている処理膜量は、一般にZn3〜5μg/cm、Cr0.3〜0.5μg/cm(誘導プラズマ発光分光分析装置(ICP-AES)による測定、クロメート膜はCr換算)程度であり、膜厚に換算するとZn膜+クロメート膜で数nm〜数十nm程度である。これらの膜量・膜厚は、自動車用部品用途と比べて2〜3桁も小さい(薄い)ことから、上述の自動車部品用クロメート処理液を電子部品用途に流用することは適当でない。(なお、プリント配線板用銅箔においては、各処理膜厚が十分薄いことから、エネルギー分散型エックス線装置や走査型電子顕微鏡による観察・評価が困難であり、しばしばICP-AES測定で膜厚評価が行われる。)
【0011】
このような要求に対し、電子部品用途を目的とした3価クロムを含む処理液として、例えば、特許文献5に記載されたものがある。特許文献5には、クロメート処理液として、6価クロムイオンを含まず、3価クロムイオン1.4mg/L以上70mg/L未満、フッ素イオン0.8mg/L以上40mg/L未満、硝酸2.5mg/L以上125mg/L未満含有する水溶液が開示されている。
【特許文献1】特開昭52−145769号公報
【特許文献2】特公平6−54829号公報
【特許文献3】特許第3142259号公報
【特許文献4】特開2005−8972号公報
【特許文献5】特開2005−42139号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、従来の市販されている3価クロムを含む処理液を使用したクロメート処理によれば、Znめっき層が多量に溶解(溶出)してしまうことから、要求製膜量に調整するためにはZn層を厚く製膜する必要があり、少ないZn製膜量(薄い膜厚)の制御性が悪い(制御が困難である)。また、Zn製膜量は、クロメート製膜量に影響することからクロメート製膜量(膜厚)の制御性も悪くなる。結果として過剰に製膜されるクロメート層は、ポリイミド等の基材との密着性、エッチング制御性、Snめっき液耐性などに悪影響を及ぼすことがある。
【0013】
また、特許文献5に記載の3価クロムを含む処理液を使用したクロメート処理によれば、Znめっき膜やクロメート処理膜をナノメーターオーダーの所定の膜厚に形成できるが、Zn製膜量やクロメート製膜量の制御性の向上に関する記載はない。
【0014】
従って、本発明の目的は、Znおよびクロメート製膜量の制御性に優れたフレキシブルプリント配線板用銅箔とその製造方法およびその製造に用いる3価クロム化成処理液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上記目的を達成するため、銅または銅合金からなり、プリント配線板用基材との接着面上に亜鉛(Zn)めっき層と3価クロム化成処理によるクロメート処理層とが接するように順に設けられたプリント配線板用銅箔において、前記クロメート処理層は、3価クロムイオンを金属クロム換算で70mg/L以上500mg/L未満含有し、pHが3.0〜4.5である3価クロム化成処理液を用いて形成されたものであることを特徴とするプリント配線板用銅箔を提供する。なお、本件明細書において、単に「3価クロムイオン濃度」と表記する場合も金属クロム換算したものとする。
【0016】
また、本発明は、上記目的を達成するため、プリント配線板用銅箔のプリント配線板用基材との接着面上に亜鉛めっき層を設ける亜鉛めっき工程と、前記亜鉛めっき層の直上に、3価クロムイオンを金属クロム換算で70mg/L以上500mg/L未満含有し、pHが3.0〜4.5である3価クロム化成処理液に銅箔を浸漬することによりクロメート処理層を設ける3価クロム化成処理工程とを含むことを特徴とするプリント配線板用銅箔の製造方法を提供する。
【0017】
また、本発明は、上記目的を達成するため、プリント配線板用銅箔上に設けられた亜鉛めっき層の直上にクロメート処理層を設けるための3価クロム化成処理液であって、3価クロムイオンを金属クロム換算で70mg/L以上500mg/L未満含有し、pHが3.0〜4.5であることを特徴とする3価クロム化成処理液を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、Znおよびクロメート製膜量の制御性に優れたフレキシブルプリント配線板用銅箔を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
(プリント配線板用銅箔の構造)
図1は、本発明の実施の形態に係る銅箔の構造を示す断面模式図である。
銅箔1は、プリント配線板用基材と接着を行おうとする面に対し粗化めっき層2を形成し、さらに、ニッケル−コバルト合金めっき層3、亜鉛めっき層4、クロメート処理層(3価クロム化成処理層)5、シランカップリング処理層6の積層構造となっている。使用する銅箔1は、電解銅箔あるいは圧延銅箔のいずれでも良い。また、図示は省略したが、基材との接着面でない側(接着面の裏面側)の銅箔1の表面(銅粗化めっき処理を施さない非粗化面)においても、防錆(耐食、耐酸化)効果を付すために、ニッケル−コバルト合金めっき層、亜鉛めっき層、3価クロム化成処理層を形成することが望ましい。
【0020】
(粗化処理)
本発明においては、銅箔1に対して粗化処理を行っても行わなくても良いが、行うことが望ましい。粗化処理は一般的に銅箔中の結晶粒界の選択エッチングもしくは銅または銅合金めっきによるヤケめっき処理として為される。ヤケめっきによる粗化処理の方法には、例えば特許文献4に記載の方法が挙げられる。
【0021】
また、めっき粗化処理において銅以外の金属元素を微量添加することもできる。例えば、硫酸銅及び硫酸を主成分とする酸性銅めっき浴に、鉄、ニッケル、コバルト、モリブデン、タングステン、チタン、アルミニウムから選ばれる少なくとも一つの金属とゼラチン等の有機化合物とを添加しためっき浴を用い、銅箔の被接着面側に限界電流密度を超える電流密度の電流で電解処理を施して樹枝状銅電着層を形成し、樹枝状銅電着層を形成した銅箔上に、上記限界電流密度未満の電流密度で電解処理を施して該樹枝状銅をコブ状銅に変化させることによるプリント配線板用銅箔の表面粗化処理方法がある。係る方法における好適条件としては、例えば、鉄、ニッケル、コバルトの少なくとも一種の添加量が1〜10g/L、モリブデン、タングステンの少なくとも一種の添加量が0.1〜1g/L、チタン、アルミニウムの少なくとも一種の添加量が0.01〜5g/Lであり、ゼラチンの添加濃度が0.1〜1000ppmである。その一例を示すと、銅28g/L、硫酸125g/L、鉄4g/L、モリブデン0.3g/L、タングステン0.3ppmを添加しためっき浴を用い、液温40℃、樹枝状銅電着層形成の電流密度40〜50A/dm、樹枝状銅電着層形成の処理時間3秒〜5秒にて行う。なお、上述の粗化処理後に表面の凹凸形状を制御する(凹凸形状の型崩れや凸部の脱落を予防する)ために、粗化形状に沿って更に一様な厚さで銅めっきを行う場合もある。
【0022】
また、圧延銅箔を用いた場合、上述の粗化処理を行う前に、圧延銅箔表面の凹凸を消去し、表面を平滑化するための銅めっきを施す場合もある。銅めっき層の厚みは、1μm以上5μm未満とすることが好ましく、銅めっき浴での電解は、めっき浴組成を硫酸銅120〜200g/L、硫酸70〜150g/L、ゼラチン30〜150ppmとし、電流密度を1〜5A/dmの条件で行うことが好ましい。
【0023】
(3価クロム化成処理)
3価クロム化成処理に使用する3価クロム化成処理液としては、6価クロムイオンを実質的に含まず、3価クロムイオンが金属クロム換算で70mg/L以上500mg/L未満、好ましくは110mg/L以上400mg/L以下、より好ましくは150mg/L以上300mg/L以下を含有し、pHが3.0〜4.5、好ましくは3.5〜4.0、より好ましくは3.6〜3.8である水溶液を使用する。pH>4.5とすると、めっき液中におけるクロムイオンの安定性(溶解度)が低下して水酸化物等の形で析出・沈殿し易く、クロム皮膜形成の制御が困難となる。3価クロム化成処理液の3価クロムイオン濃度を70〜500mg/L程度に設定し、かつ、めっき液が不安定とならない(期待しない析出物が生成しない)範囲でpHをできる限り高めに設定することにより、Znおよびクロメート製膜量(膜厚)の制御性に優れたプリント配線板用銅箔を得る3価クロム化成処理液とすることができる。3価クロムイオン濃度150〜300mg/L、pH3.8(上限をpH3.8、管理範囲をpH3.6〜3.8)の3価クロム化成処理液が最も好適であり、Znおよびクロメート製膜量(膜厚)の制御性が大幅に改善される。なお、環境保護・低コスト化の観点から、フッ化物イオンを含まない水溶液とすることが望ましい。
【0024】
この3価クロムイオンは、硝酸クロム、硫酸クロム、塩化クロムのいずれから与えられても良い。化成処理液のpHを低くする(酸性度を強める)方向の調整は、硝酸水溶液を用いて行うことが望ましい。一方、pHを高くする(酸性度を弱める)方向の調整は、水酸化ナトリウム水溶液を用いて行うことが望ましい。化成処理は銅箔を処理液に浸漬することで行う。処理温度は、室温程度(15〜40℃程度)が望ましい。また、処理時間は特に限定されないが、製造ライン速度の観点から1〜20秒程度で調整することが望ましい。
【0025】
図2は、銅箔とプリント配線板用基材の接合における界面の挙動モデルを示した図である。厳密には図示したような結合の反応のほかに、界面近傍に存在するイオンやプリント配線板用基材10に含まれる添加物等による影響がある可能性も考えられるが、ここでは省略する。
【0026】
化成処理によるクロムの皮膜は、金属クロム、クロム水酸化物、クロム酸化物の混合物で構成されると考えられており、基板との接着性や後述のシランカップリング処理にはクロム水酸化物に代表されるOH基が重要な役割を果たすと考えられている。
【0027】
銅箔11とプリント配線板用基材10との接着は、銅箔11表面のOH基とプリント配線板用基材10表面のOH基が十分に接近することで、まず水素結合が起こり、その後のプレス時の加熱や樹脂のキュア時に水素結合部で脱水し、共有結合となるために接着力(結合力)が強固になると考えられる。しかし、クロムの付着量が2.5μg/cmを越えるとクロム層自体が厚く脆弱となるために、クロム層内で剥離しやすく、結果として銅箔11との接着力は低下する。
【0028】
(3価クロム化成処理の前処理)
3価クロム化成処理を行う前には、ニッケル−コバルト合金めっきを施すのが良い。ニッケル−コバルト合金めっきは、ワット浴やスルファミン酸浴のニッケルめっき液に一定濃度のコバルト塩を溶解し、電気めっきによってニッケルとコバルトを同時に電析させる方法が一般的である。
【0029】
ニッケル−コバルト合金めっき層は、銅箔と後述の亜鉛めっき層が合金化することを抑制する役割を果たす。銅と亜鉛が拡散して合金(真鍮)層を形成すると、銅と真鍮の界面で剥離しやすくなると同時に防錆効果が減少する。ニッケルおよびコバルトはそれぞれ単体のめっきでも耐酸化変色、耐湿変色の効果を有するが、ニッケル−コバルト合金めっきとすることでその効果を高めることが出来る。
【0030】
コバルトは、特に、接着するプリント配線板用基材としてポリイミドを使用する際にポリイミドの反応を活発にする、いわゆる触媒的な役割も果たしていると考えられている。また、ニッケル−コバルト合金とすることで、単純なニッケルめっきと比較してアルカリエッチング性が向上することが分かっている。
【0031】
ニッケル−コバルトめっきの付着量としては、5μg/cm≦Ni+Co≦20μg/cm、かつ皮膜中のコバルト濃度が60質量%以上80質量%以下であることが望ましい。好ましくはコバルト濃度が65質量%以上75質量%以下、さらに好ましくは70質量%以上75質量%以下である方が良い。コバルト濃度60質量%未満では、プリント配線板用基材との接着性は低下する。逆に、80質量%より高い濃度のコバルトを添加してもプリント配線板用基材との接着性はさほど変化せず、ニッケルに比べてコバルトが非常に高価なためにコスト面で不利になる。
【0032】
ニッケル−コバルトめっきを行うための処理条件の一例を次に示す。
ニッケル:78g/L
コバルト:20g/L
液温:40℃
pH:4.3〜4.5
電流密度:1.0〜3.0A/dm
処理時間:2秒〜5秒
【0033】
ニッケル−コバルト合金めっきを施した後、3価クロム化成処理の下地処理として亜鉛めっきを施す。亜鉛めっき層は、クロム皮膜の形成を補助する役割と同時に、銅箔の防錆層としても機能する。
【0034】
亜鉛の付着量は、0.5μg/cm以上3μg/cm以下であることが望ましい。詳細は後述するが、亜鉛めっき層形成後の3価クロム化成処理条件が同じであれば、亜鉛めっきの付着量が多いほどクロム付着量も増加する傾向がある。しかし、クロム皮膜の形成は亜鉛めっき層(下地層)の溶解(溶出)とクロム皮膜の付着(析出)の競合関係にあると考えられる。すなわち、最適なクロム付着量を得るためには、上記競合関係の制御として3価クロム化成処理液のpHおよび濃度の制御とともに、亜鉛めっきの付着量も制御する必要がある。亜鉛めっき付着量は、0.5μg/cm未満では防錆層としての役割を果たさないと同時に、クロム付着量の制御が困難になる。一方、3μg/cmより大きいと、プリント配線板用基材と接着してプリント配線板としてエッチングにより回路を作製した際に、回路側面に露出した亜鉛がプリント配線板の製造工程中の塩酸や無電解スズめっき液によって溶出し易く、プリント配線板用基材との接着面積が減少して接着強度が低下するという別の問題が生じる。なお、無電解スズめっきを施す理由は、プリント配線板の製造工程において、銅箔にエッチングを施して回路を形成した後、コネクタとして他のプリント配線板や電子部材と接続する部分、またはハンダ接合する部分等に、防食性やハンダ濡れ性に優れるスズめっきを施すことがあるためである。
【0035】
次に、亜鉛めっきを行うための処理条件の一例を示す。
亜鉛:20g/L
液温:17℃〜22℃
pH:2.8〜3.0
電流密度:0.3〜1.5A/dm
処理時間:2秒〜5秒
【0036】
(シランカップリング処理)
銅箔のプリント配線板用基材との接着面に上記のような処理を行った後、さらに接着力を向上させるためにシランカップリング処理を行う。シランカップリング処理剤は様々な種類のものが市販されているが、それぞれに特徴があり、接着させるプリント配線板用基材に適したものを選択する必要がある。特に、プリント配線板用基材としてポリイミドを使用する場合は、アミノシラン、望ましくはアミノプロピルトリメトキシシランが有効である。
【0037】
シランカップリング処理は、銅箔をシランカップリング処理剤の水溶液に浸漬させることで行う。この処理において、水溶液中のシラノールは主に銅箔に形成した3価クロム化成処理皮膜上あるいは下地の金属表面上に存在するOH基に吸着し、水素結合すると考えられる。
【0038】
シランカップリング処理後、ただちに乾燥処理を行うが、このとき、水素結合状態のシラノールと3価クロム化成処理皮膜上に存在する水素結合部分から脱水し、該水素結合部分が共有結合となるのに必要な加熱(熱エネルギー)を付与する。これは、水素結合のままでは結合のエネルギーが低く、シランカップリング処理の効果が得られないためである。一方、加熱しすぎると結合したシラノールが熱によって分解し、そこが脆弱な界面となってプリント配線板用基材との接着性に悪影響を及ぼすので好ましくない。
【0039】
乾燥温度と乾燥時間は、装置の構成や製造工程の処理速度(ワークタイム)にも依存するが、好適な範囲としては、乾燥温度が150〜300℃、乾燥時間が15〜35秒である。
【0040】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はそれらによって限定されるものではない。
【実施例】
【0041】
(試料の作製)
厚さ18μmの圧延銅箔を、水酸化ナトリウム40g/L、炭酸ナトリウム20g/Lの水溶液において温度40℃、電流密度5A/dm、処理時間10秒で陰極電解にて電解脱脂処理を行った後、硫酸50g/Lの水溶液において温度25℃、処理時間10秒で浸漬することにより酸洗処理を施した。
【0042】
この銅箔に対して表1に示す条件にて銅粗化めっき処理、ニッケル−コバルトめっき処理を順に施した後、表1に示すように電流密度を変化させて亜鉛めっき処理を行い、その後、3価クロムタイプの反応型クロメート液(硝酸クロムや硫酸クロムや塩化クロムを3価クロムイオンの供給源とし、主に硝酸を用いてpH調整を行った水溶液)における3価クロムイオン(Cr3+)濃度およびpHを表1に示すように変化させて3価クロメート処理を行った。3価クロム化成処理液への浸漬時間は10秒とした。pHの調整は硝酸もしくは水酸化ナトリウムで行った。なお、前述したように、基材との接着面でない側の銅箔表面(接着面の裏面側)においても防錆(耐食、耐酸化)効果が要求されることから、銅粗化めっき処理を施さない非粗化面に対してもニッケル−コバルトめっき処理、亜鉛めっき処理、3価クロメート処理を行った。
【0043】
【表1】

【0044】
(金属付着量の測定方法)
ここで、各金属付着量の測定方法について説明する。測定は皮膜を酸溶解させた後、誘導プラズマ発光分光分析装置(ICP-AES)による測定を行った。まず、銅箔を40mm×100mmの大きさに切り出し、測定面と逆の面に粘着テープをよく密着させる。これは後述の酸溶解時に測定面のみを溶解させるためである。酸溶解には、体積比として硝酸1(濃度60〜61質量%、比重1.38)に対して純水9を混合させた硝酸水溶液(以後、(1+9)硝酸と表す)を用いる。(1+9)硝酸30mLを用いて銅箔表面の処理皮膜を溶解し、銅箔を取り出す。次に、該溶解液に純水を加えて100mLとする。この溶解液の金属濃度をICP-AESにより測定する。
【0045】
(Znめっき電流密度とZn製膜量との関係)
後述するZn製膜量とクロメート製膜量との関係、およびZn膜溶解量を評価するために、基準試料としてZnめっき処理のみの(3価クロメート処理を行わない)試料を用意した。表1に示すように0.2〜1.4A/dmの範囲で電流密度を変化させて(時間は一定)、粗化面(M面)および非粗化面(S面)に亜鉛めっき処理を施し、Zn製膜量を上記のICP-AESを用いて測定した。なお、Znめっき処理時の電流密度条件は、M面が0.2,0.3,0.6,0.9(A/dm)であり、S面が0.3,0.5,0.9,1.4(A/dm)である。
【0046】
図3にZnめっき時の電流密度とZn製膜量との関係を示す。図3から判るように、M面およびS面の何れにおいても電流密度とZn製膜量はほぼ比例関係にあるが、傾きが異なることから電流の利用効率に差異があると思われる。
【0047】
(Zn製膜量とクロメート製膜量との関係)
(実験1)
上述の基準試料と同様に(表1に示したM面およびS面の電流密度条件で)亜鉛めっき処理を施し、その後、各試料に対してpHを2.6,3.0,3.4,3.8に調整したクロメート液(3価クロムイオン濃度900mg/L)を用いてそれぞれ3価クロメート処理を行った。得られた試料に対し、ZnおよびCrの製膜量を上記のICP-AESを用いて測定した。
【0048】
(実験2)
別途用意した銅箔を用い、クロメート液の3価クロムイオン濃度を300mg/Lに換えた条件で、その他は上記実験1と同様の処理(Znめっき処理、pH調整した3価クロメート処理)を行い、得られた各試料のZnおよびCrの製膜量を測定した(ICP-AES)。
【0049】
(実験3)
別途用意した銅箔を用い、クロメート液の3価クロムイオン濃度を150mg/Lに換えた条件で、その他は上記実験1と同様の処理(Znめっき処理、pH調整した3価クロメート処理)を行い、得られた各試料のZnおよびCrの製膜量を測定した(ICP-AES)。
【0050】
(実験4)
上記実験の比較試料として別途用意した銅箔を用い、Znめっき処理を行わないで3価クロムイオン濃度900mg/Lのクロメート液によりに3価クロメート処理(上記実験1と同様にクロメート液のpH調整は行った)を行い、得られた各試料のCrの製膜量を測定した(ICP-AES)。
【0051】
実験4の結果、いずれの試料においてもクロメート膜が形成されなかった。言い換えると、本発明による3価クロメート膜の形成には、Zn下地層の存在が必須であると考えられる。
【0052】
上記実験1〜3の測定結果を整理して、Zn製膜量とクロメート製膜量との関係として、図4〜図6に示す。
【0053】
図4は、3価クロムイオン濃度900mg/Lのクロメート液を用いた場合(実験1)におけるZn製膜量とクロメート製膜量との関係を示す図であり、(a)はM面における関係、(b)はS面における関係を示す。
【0054】
図5は、3価クロムイオン濃度300mg/Lのクロメート液を用いた場合(実験2)におけるZn製膜量とクロメート製膜量との関係を示す図であり、(a)はM面における関係、(b)はS面における関係を示す。
【0055】
図6は、3価クロムイオン濃度150mg/Lのクロメート液を用いた場合(実験3)におけるZn製膜量とクロメート製膜量との関係を示す図であり、(a)はM面における関係、(b)はS面における関係を示す。
【0056】
図4〜6より、M面およびS面のいずれにおいてもZn製膜量の増大とともにクロメート製膜量も増加していることが分かる。このことから前述したように、クロメート製膜量を制御するためには、Znめっき製膜量の制御が必要であることが分かる。
【0057】
上記の結果は、次のようなモデルにより説明可能と考えられる。図7は、Zn製膜量とクロメート製膜量との関係を示すモデル模式図であり、(a)はZn製膜量が多い場合、(b)はZn製膜量が少ない場合を示す。FPC用銅箔に要求されている処理皮膜量は、膜厚に換算するとZn膜+クロメート膜で数nm〜数十nm程度と非常に薄いことから、Zn膜は下地全面を均一に被覆できず島状に形成されると考えられる。この場合、Zn製膜量の大小は下地被覆率の増減に対応するものと見なせる。一方、実験4に示したように、Zn下地層が存在しない場合にはクロメート膜が形成されないという結果から、形成されたクロメート膜は前記島状Zn膜の上のみに存在すると考えられる。したがって、銅箔21上にZn膜22Aのように製膜量が多く形成されている場合には、クロメート膜23Aの製膜量が多くなり、Zn膜22Bのように製膜量が少なく形成されている場合には、クロメート膜23Bの製膜量が少なくなると考えられる。
【0058】
(クロメート液のpHおよび3価クロムイオン濃度とZn膜溶解量との関係)
しかしながら、Zn膜はpHに代表される溶液環境によって溶解することが考えられる。そこで、図3〜図6に示す測定結果を整理して、3価クロメート処理を行わないZnめっき処理のみのZn製膜量と、3価クロメート処理を行った場合のZn製膜量の差分をZn膜溶解量と見なし、クロメート液のpHおよび3価クロムイオン濃度とZn膜溶解量との関係として図8に示す。図8(a)はM面における関係、(b)はS面における関係を示す。図8には、代表としてZnめっき時の電流密度がM面:0.9A/dm,S面:1.4A/dmの場合を示した。
【0059】
図8より、M面およびS面ともにクロメート液のpHが高いほど、また3価クロムイオン濃度が低いほど、Zn溶解量が少なくなることが分かる。前述したように、Zn溶解量はクロメート液のpHに依存することが分かったが、これに加えて、同じpH環境でもクロメート液の3価クロムイオン濃度により変動することが明らかになった。
【0060】
以上のことより、クロメート処理において高めのpH環境(酸性度を弱く抑える)条件、かつ3価クロムイオン濃度を比較的低濃度とする条件では、Zn溶解の絶対量ならびにそれぞれの変動に対するZn溶解量変化が小さいことから、Zn製膜量の制御性に優れることが明らかになった。
【0061】
(クロメート液のpHおよび3価クロムイオン濃度とクロメート製膜量との関係)
次に、図4〜6に示す測定結果を整理して、クロメート液のpHおよび3価クロムイオン濃度とクロメート製膜量との関係として図9に示す。図9(a)はM面における関係、(b)はS面における関係を示す。図8と同様にZnめっき時の電流密度がM面:0.9A/dm,S面:1.4A/dmの場合を代表として示した。
【0062】
図9の結果から、M面およびS面ともにクロメート液のpHが高いほど、クロメート製膜量が増大することが分かる。また、3価クロムイオン濃度が高いほど、クロメート製膜量が増大することが分かる。
【0063】
ここで、クロメート膜の生成過程を考える。クロメート液への浸漬により、溶液のpH(液中のH濃度)等に応じて、下地Zn層が局所的に溶解することが考えられるが、このZn溶解に伴うHの消費により、溶液中で局所的なpH上昇(OH濃度の上昇)が生じると考えられる。OH濃度の上昇により、Cr3+の配位水の一部がOHに変わりヒドロキソ錯体(例えば、[Cr(H2O)3(OH)3]など)となる。さらに、このOHで架橋(オール化)し、半ゲル状皮膜がZn表面に沈着する。半ゲル状皮膜は、続く乾燥工程でオール化が進行し、3次元構造が完成してクロメート膜が形成されると考えられる。
【0064】
また、上記のような生成過程(反応機構)と考えられることから、前述したように溶液のpHを4.5以下とすることが望ましい(溶液のpHを4.5より大きくすると、めっき液中で析出・沈殿し易く、クロム皮膜形成の制御が困難となる)。言い換えると、クロメート液中におけるクロムイオンの安定性(溶解度)が確保できる範囲でpHが高いほど、少ないZn溶解量でクロメート製膜反応が進行するpH(OH濃度)に到達し、効率よくクロメート製膜可能と考えられる。
【0065】
なお、クロメート液の3価クロムイオン濃度が高いほど、クロメート製膜量が増大するが、Zn溶解量の増大(図8参照)と溶液中での溶解度を考慮することで説明可能と考えられる。
【0066】
また、クロメート膜製膜に伴う3価クロムイオン濃度の変動や溶液pHの変動に対するクロメート製膜量の安定性(制御性)の観点で図9を見ると、特にM面において、3価クロムイオン濃度900mg/Lのクロメート液に比べ、150〜300mg/Lの溶液を用いた方がクロメート製膜量の変動が小さいことが分かる。言い換えると、3価クロムイオン濃度の比較的低いクロメート溶液を用いた方が、クロメート製膜量の制御性に優れると言える。
【0067】
以上のことより、3価クロムイオン濃度150〜300mg/L、pH3.0〜4.5のクロメート液を用いることにより、クロメート処理時の下地Zn層の溶解が少なく、かつクロメート製膜量に対する変動因子の影響が小さくなることから、Zn下地層およびクロメート膜の製膜制御性が向上することが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の実施の形態に係る銅箔の表面構造を示す断面模式図である。
【図2】銅箔とプリント配線板用基材との接着における界面の挙動を示した図である。
【図3】Znめっき時の電流密度とZn製膜量との関係を示す図である。
【図4】3価クロムイオン濃度900mg/Lのクロメート液を用いた場合におけるZn製膜量とクロメート製膜量との関係を示す図であり、(a)はM面における関係、(b)はS面における関係を示す。
【図5】3価クロムイオン濃度300mg/Lのクロメート液を用いた場合におけるZn製膜量とクロメート製膜量との関係を示す図であり、(a)はM面における関係、(b)はS面における関係を示す。
【図6】3価クロムイオン濃度150mg/Lのクロメート液を用いた場合におけるZn製膜量とクロメート製膜量との関係を示す図であり、(a)はM面における関係、(b)はS面における関係を示す。
【図7】Zn製膜量とクロメート製膜量との関係を示すモデル模式図であり、(a)はZn製膜量が多い場合、(b)はZn製膜量が少ない場合を示す。
【図8】クロメート液のpHおよび3価クロムイオン濃度とZn膜溶解量との関係を示す図であり、(a)はM面における関係、(b)はS面における関係を示す。
【図9】クロメート液のpHおよび3価クロムイオン濃度とクロメート製膜量との関係を示す図であり、(a)はM面における関係、(b)はS面における関係を示す。
【符号の説明】
【0069】
1,11,21 銅箔
2 粗化めっき層
3 ニッケル−コバルト合金めっき層
4 亜鉛めっき層
5 クロメート処理層
6 シランカップリング処理層
10 プリント配線板用基材
22A,22B Zn膜
23A,23B クロメート膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅または銅合金からなり、プリント配線板用基材との接着面上に亜鉛めっき層と3価クロム化成処理によるクロメート処理層とが接するように順に設けられたプリント配線板用銅箔において、
前記クロメート処理層は、3価クロムイオンを金属クロム換算で70mg/L以上500mg/L未満含有し、pHが3.0〜4.5である3価クロム化成処理液を用いて形成されたものであることを特徴とするプリント配線板用銅箔。
【請求項2】
前記プリント配線板用銅箔は、前記亜鉛めっきの下にニッケルおよびコバルトからなる合金めっき層が設けられており、その付着量がニッケルとコバルトの合計として5〜20μg/cmであり、かつ前記合金めっき層におけるコバルト濃度が60〜80質量%であることを特徴とする請求項1記載のプリント配線板用銅箔。
【請求項3】
前記亜鉛めっき層は、その亜鉛付着量が0.5〜3μg/cmであることを特徴とする請求項1記載のプリント配線板用銅箔。
【請求項4】
プリント配線板用銅箔のプリント配線板用基材との接着面上に亜鉛めっき層を設ける亜鉛めっき工程と、
前記亜鉛めっき層の直上に、3価クロムイオンを金属クロム換算で70mg/L以上500mg/L未満含有し、pHが3.0〜4.5である3価クロム化成処理液に銅箔を浸漬することによりクロメート処理層を設ける3価クロム化成処理工程とを含むことを特徴とするプリント配線板用銅箔の製造方法。
【請求項5】
プリント配線板用銅箔上に設けられた亜鉛めっき層の直上にクロメート処理層を設けるための3価クロム化成処理液であって、3価クロムイオンを金属クロム換算で70mg/L以上500mg/L未満含有し、pHが3.0〜4.5であることを特徴とする3価クロム化成処理液。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−319287(P2006−319287A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−143274(P2005−143274)
【出願日】平成17年5月16日(2005.5.16)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】