説明

プレキャストコンクリートパネルの製造方法

【課題】長尺のプレキャストコンクリートパネルにおいても精度よく製造することが可能なプレキャストコンクリートパネルの製造方法を提供する。
【解決手段】型枠3内に、型枠3のコンクリート1を打設する空間5、6を分割するとともに、打設したコンクリート1の流入を阻止して未充填空間9を形成するためのコンクリート止め部材7を設置し、型枠3のコンクリート止め部材7で分割した空間5、6にコンクリート1を打設し、打設したコンクリート1が所定強度に達した後に、コンクリート止め部材7で形成した未充填空間9に充填材2aを充填して、分割したコンクリート1を、充填材2aを介して一体形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばカーテンウォールなどに用いられるプレキャストコンクリートパネルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば中・高層ビルなどの非耐力壁(外壁)として、デザインの自由度が高いうえ、施工の効率化を図ることができるなどの多くの利点を有することからカーテンウォールが多用されている。この種のカーテンウォールは、その構成方式によって、PCパネル(プレキャストコンクリートパネル)を上下の床もしくは梁の間に掛け渡すマリオン方式や、PCパネルを並べて配置するパネル方式や、梁の前面と腰壁の部分にPCパネルを配置するスパンドレル方式や、構造躯体の柱や梁を包み込むようにPCパネルを形成、配置する柱・梁カバー方式などに分類される。
【0003】
一方、近年、さらなる施工の効率化を図るために、カーテンウォールに用いるPCパネルを長尺化(大型化)する傾向にある。また、例えば金属材、石材、陶磁器質タイルなどの化粧材を型枠内に配置した状態でコンクリートを打設し、化粧材とコンクリートを予め一体形成したPCパネルを用いることが多くなっている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、このように外壁面側のコンクリートの一面側に化粧材を一体形成したPCパネルにおいては、その製造時に、一面側が化粧材に被覆されて乾燥しにくくなり、他面側が徐々に乾燥する従って、断面方向に乾燥収縮ひずみの分布が生じてしまう。そして、このような乾燥収縮ひずみの発生によって、一面側が凸の反り変形が生じ、特にPCパネルを長尺で形成するほどに大きな反り変形が発生するという問題があった。
【0004】
このため、カーテンウォールに用いるPCパネルを製造する際には、一般に5mmと定められている反りの品質管理値を満たすために、打設するコンクリートに膨張剤を添加したり、所定強度に達して脱型したPCパネルを養生する際に、PCパネルの支持点を調整して、PCパネルの自重によるたわみで乾燥収縮による反り変形を相殺させるようにしたり、PCパネルに別途リブなどを取り付けて反り変形を拘束するなどの対策を講じている。
【特許文献1】特開平7−16812号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の膨張剤をコンクリートに添加したり、養生時のPCパネルの支持点を調整したり、リブを取り付ける対策では、特に長尺(大型)のPCパネルに生じる大きな反り変形を、品質管理値を満たすまで低減させることが困難であった。
【0006】
また、近年、さらなる施工の効率化を図るために、予め窓枠などのサッシ枠を組み込んでカーテンウォールに用いるPCパネルを形成する事例が増えている。このような場合には、PCパネルにさらに厳しい面外精度が要求されることになり、やはり上記の対策では十分にPCパネルの面外精度を確保できないという問題があった。
【0007】
本発明は、上記事情を鑑み、長尺のプレキャストコンクリートパネルにおいても精度よく製造することが可能なプレキャストコンクリートパネルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達するために、この発明は以下の手段を提供している。
【0009】
本発明のプレキャストコンクリートパネルの製造方法は、型枠内に、該型枠のコンクリートを打設する空間を分割するとともに、打設したコンクリートの流入を阻止して未充填空間を形成するためのコンクリート止め部材を設置し、前記型枠の前記コンクリート止め部材で分割した空間にコンクリートを打設し、打設したコンクリートが所定強度に達した後に、前記コンクリート止め部材で形成した前記未充填空間に充填材を充填して、分割したコンクリートを、前記充填材を介して一体形成することを特徴とする。
【0010】
この発明においては、プレキャストコンクリートパネルが、分割したコンクリートの間に充填材が介装されて一体に形成されるため、分割した個々のコンクリートに乾燥収縮ひずみが生じる場合においてもこの充填材部分で乾燥収縮ひずみを吸収することができる。これにより、プレキャストコンクリートパネルを長尺で形成する場合においても乾燥収縮による反り変形を確実に低減することができる。
【0011】
また、本発明のプレキャストコンクリートパネルの製造方法においては、前記打設したコンクリートが所定強度に達した後に、前記コンクリート止め部材を除去して形成した前記未充填空間に前記充填材を充填することが望ましい。
【0012】
この発明においては、分割したコンクリートが確実に充填材を介して一体形成されるため、確実に充填材部分で乾燥収縮ひずみを吸収することができる。
【0013】
さらに、本発明のプレキャストコンクリートパネルの製造方法においては、前記未充填空間が開口するコンクリートの一面側と他面側の少なくとも一方の側に、前記未充填空間が残るように前記充填材を充填し、該未充填空間の残空間にシール材を充填して止水処理を施すことがより望ましい。
【0014】
この発明においては、シール材の充填によって止水処理が施されているため、未充填空間の形成に伴う止水性の低下を防止することができ、例えばカーテンウォールなど止水性を要求される場合にも十分適用可能なプレキャストコンクリートパネルを製造することができる。
【0015】
本発明のプレキャストコンクリートパネルの製造方法は、型枠内に、コンクリート止め本体と該コンクリート止め本体の上端側及び/又は下端側に分離可能に設けられた目地空間形成用部材とからなるコンクリート止め部材を、前記型枠のコンクリートを打設する空間を分割するように設置し、前記型枠の前記コンクリート止め部材で分割した空間にコンクリートを打設し、打設したコンクリートが所定強度に達した後に、前記目地空間形成用部材を前記コンクリート止め本体から分離して除去し、分割したコンクリートを前記コンクリート止め本体を介して一体形成するとともに、前記目地空間形成用部材を除去してコンクリートの一面側と他面側の少なくとも一方の側に形成した目地空間にシール材を充填して止水処理を施すことを特徴とする。
【0016】
この発明においては、プレキャストコンクリートパネルが、分割したコンクリートの間にコンクリート止め部材のコンクリート止め本体をそのまま残し、このコンクリート止め本体を介して一体に形成されるため、分割した個々のコンクリートに乾燥収縮ひずみが生じる場合においてもこのコンクリート止め本体部分で乾燥収縮ひずみを吸収することができる。これにより、プレキャストコンクリートパネルを長尺で形成する場合においても乾燥収縮による反り変形を確実に低減することができる。
【0017】
また、コンクリート止め部材の目地空間形成用部材を除去して形成した目地空間にシール材を充填して止水処理を施すことによって、コンクリート止め本体部分の止水性を確保することができ、例えばカーテンウォールなど止水性を要求される場合にも十分適用可能なプレキャストコンクリートパネルを製造することができる。
【0018】
本発明のプレキャストコンクリートパネルの製造方法は、型枠内に、ひび割れ誘発目地材を設置し、前記型枠内にコンクリートを打設し、打設したコンクリートが所定強度に達した後に、前記ひび割れ誘発目地材を除去してひび割れ誘発目地を形成するとともに、該ひび割れ誘発目地にシール材を充填して止水処理を施すことを特徴とする。
【0019】
この発明においては、プレキャストコンクリートパネルにひび割れ誘発目地が設けられているため、コンクリートに乾燥収縮ひずみが生じた場合においても、このひび割れ誘発目地でコンクリートにひび割れを誘発させて乾燥収縮ひずみを吸収することができる。これにより、プレキャストコンクリートパネルを長尺で形成する場合においても乾燥収縮による反り変形を確実に低減することができる。また、シール材を充填して止水処理を施すことで、ひび割れ誘発目地の形成に伴う止水性の低下を防止でき、例えばカーテンウォールなど止水性を要求される場合にも確実に用いることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明のプレキャストコンクリートパネルの製造方法によれば、プレキャストコンクリートパネルの反り変形を低減させて製造することができるため、面外精度の向上と長尺化を同時に図ることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図1及び図2を参照し、本発明の第1実施形態に係るプレキャストコンクリートパネルの製造方法について説明する。本実施形態は、例えば中・高層ビルなどの非耐力壁のカーテンウォールに用いられるプレキャストコンクリートパネルに関するものである。また、本実施形態においては、プレキャストコンクリートパネルが、例えばビルの3フロア分に相当する長尺であるものとする。
【0022】
本実施形態のプレキャストコンクリートパネルの製造方法を用いて製造されるプレキャストコンクリートパネル(以下、PCパネルという)Aは、例えば矩形平板状に形成され、図1に示すように、断面視で長手方向T1中央部を間に分割(二分割)して対称配置された一対のコンクリート部(コンクリート)1と、分割した一対のコンクリート部1の間に介装されて両コンクリート部1を一体形成する収縮帯部2とを備えて構成されている。
【0023】
一対のコンクリート部1は、それぞれの一面1a同士と他面1b同士が同一水平面上に配されるように設けられ、これら一対のコンクリート部1の一面1aと他面1bが、それぞれPCパネルAの一面と他面を形成している。また、一対のコンクリート部1の内部には、それぞれ鉄筋が埋設されている。
【0024】
一方、収縮帯部2は、グラウト材などの充填材2aと、収縮帯部2の止水性を確保するためのシール材2b、2cとで構成されている。充填材2aは、コンクリート部1の一面1aから他面1bに向かうPCパネルAの厚さ方向T2中央側に設けられている。シール材2b、2cは、充填材2aを挟み込むように設けられており、一方のシール材2bがコンクリート部1の一面1a側に、他方のシール材2cがコンクリート部1の他面1b側に設けられている。このとき、一方のシール材2bは、一対のコンクリート部1の一面1a同士を滑らかに繋ぐように設けられ、一対のコンクリート部1の一面1aとともにPCパネルAの一面を形成している。また、他方のシール材2cは、一対のコンクリート部1の他面1b同士を滑らかに繋ぐように設けられ、一対のコンクリート部1の他面1bとともにPCパネルAの他面を形成している。
【0025】
ついで、上記構成からなるPCパネルAを製造する方法について説明し、本実施形態のPCパネルAとPCパネルAの製造方法の作用及び効果について説明する。
【0026】
本実施形態のPCパネルAを製造する際には、図2(a)に示すように、はじめに、PCパネルAの寸法に応じた型枠3を組み立てる。ついで、PCパネルAの一面を形成する型枠面3a上に例えば金属材、石材、陶磁器質タイルなどの図示せぬ化粧材を配置する。さらに、型枠3内に、鉄筋4を配筋するとともに、型枠3のコンクリート1を打設する空間5、6を二つに分割するように、長手方向T1中央部にコンクリート止め部材7を設置する。ここで、本実施形態のコンクリート止め部材7は、例えば打設したコンクリート1が通過することがない細目のステンレス製メッシュシートなどで形成されている。そして、本実施形態では、このようなコンクリート止め部材7が、型枠3内の長手方向T1中央部に例えば20〜50mm程度の長手方向T1の隙間8を形成し、この隙間8を形成する長手方向T1に対向配置された部分7a、7bには、一対のコンクリート部1の内部に連設される鉄筋4が貫通している。
【0027】
ついで、図2(b)に示すように、コンクリート止め部材7で分割した空間5、6にそれぞれコンクリート1を打設する。このとき、それぞれの空間5、6に打設したコンクリート1は、コンクリート止め部材7によって中央側、すなわちコンクリート止め部材7が形成する隙間8への流入が阻止される。
【0028】
そして、打設したコンクリート1が所定強度に達した後に、図2(c)に示すように、型枠3を脱型するとともにコンクリート止め部材7を除去する。これにより、長手方向T1中央部には、帯状の未充填空間9が形成され、この未充填空間9を挟んで長手方向T1両側に鉄筋4が連設された一対のコンクリート部1が形成される。また、このとき、未充填空間9は、一対のコンクリート部1を分割するようにコンクリート部1の一面1a側と他面1b側に開口して形成されている。
【0029】
このように未充填空間9を形成した段階で、図2(d)に示すように、未充填空間9内に充填材2aを充填する。本実施形態においては、例えば未充填空間9内の一面1a側と他面1b側の双方側に、それぞれ未充填空間9の一部(残空間9a)が残るように充填材2aを充填する。これにより、分割した一対のコンクリート部1が充填材2aを介して一体形成される。そして、未充填空間9の残空間9aにシール材2b、2cを充填して止水処理を施すことにより収縮帯部2の形成が完了し、図1に示した本実施形態のPCパネルAが形成される。
【0030】
このように形成したPCパネルAは、コンクリート1を十分に強度発現させるために養生される。このとき、本実施形態のPCパネルAには、一面1a側に図示せぬ化粧材が一体形成され、各コンクリート部1の一面1a側がこの化粧材によって被覆されている。このため、PCパネルAの養生時には、一面1a側が乾燥しにくく、他面1b側が一面1a側よりも早期に乾燥し、PCパネルAには、断面方向に乾燥収縮ひずみの分布が生じる。そして、このような乾燥収縮ひずみの発生によって、一面1a側が凸の反り変形が生じ、特に本実施形態のようにPCパネルAが長尺であるほどに大きな反り変形が発生するおそれがある。
【0031】
しかしながら、本実施形態のPCパネルAにおいては、長手方向T1中央に収縮帯部2が設けられて、コンクリート部1が二分割されている。このため、各コンクリート部1の他面1b側に生じる乾燥収縮ひずみが収縮帯部2によって吸収される。よって、乾燥収縮に伴う各コンクリート部1ひいてはPCパネルAの反り変形が低減され、コンクリート1が完全硬化した段階で、好適に面外精度が確保されたPCパネルAが形成されることになる。
【0032】
したがって、本実施形態のPCパネルAの製造方法においては、PCパネルAが、分割したコンクリート部1の間に充填材2aが介装されて一体に形成されるため、分割した個々のコンクリート部1に乾燥収縮ひずみが生じる場合においても収縮帯部2で乾燥収縮ひずみを吸収することができる。これにより、PCパネルAを長尺で形成する場合においても乾燥収縮による反り変形を確実に低減することができ、精度よくPCパネルAを製造することができる。よって、本実施形態のPCパネルAの製造方法によれば、面外精度の向上と長尺化を同時に図ることが可能になる。
【0033】
また、シール材2b、2cの充填によって止水処理が施されているため、未充填空間9の形成に伴う止水性の低下を防止することができ、止水性を要求されるカーテンウォールに好適に用いることができる。
【0034】
以上、本発明に係るプレキャストコンクリートパネルの製造方法の第1実施形態について説明したが、本発明は上記の第1実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、本実施形態では、収縮帯部2がPCパネルAの長手方向T1中央に1つ設けられているものとしたが、収縮帯部2の位置は特に限定する必要はなく、また、複数の収縮帯部2を設けてPCパネルAを構成してもよい。
【0035】
ここで、表1は、本実施形態の製造方法で製造したPCパネルAの反り変形の低減効果を検証した結果を示している。この検証において、PCパネルAは、厚さを200mm、長さを例えばビルの3フロアまたは3スパンに相当する12mとし、長尺で形成されている。また、表1において、Case1は収縮帯部2を具備せぬ従来のPCパネル、Case2は二分割するように1つの収縮帯部2を備えたPCパネル(すなわち本実施形態に示したPCパネルA)、Case3は三分割するように2つの収縮帯部2を備えたPCパネル(すなわち3つのコンクリート部1を備えるPCパネル)を示し、各収縮帯部2は、長手方向T1の幅を20mmとして形成している。
【0036】
【表1】

【0037】
そして、Case1〜3の各PCパネルの反り変形量をシミュレーションした結果、従来のPCパネルを示すCase1では約30mmの反り変形が生じるのに対し、1つの収縮帯部2を備えたCase2では7.9mm、2つの収縮帯部2を備えたCase3では3.5mmまで反り変形量が低減することが確認された。これにより、12mの長尺のPCパネルを形成する際に、2つの収縮帯部2を備えて三分割して形成することによって、何ら他の反り変形防止対策を講じることなく一般に5mmと定められている反りの品質管理値を満たすことが実証された。また、本実施形態のように1つの収縮帯部2を備えて二分割してPCパネルAにおいても、従来、PCパネルの製造時に行なわれているコンクリート1に膨張剤を添加するなど他の軽微な反り変形防止対策を併用すれば、容易に品質管理値を確保することが可能である。さらに、PCパネルの長さを短く形成した場合や収縮帯部2を例えば20〜50mm程度の範囲で幅を大きく形成した場合には、1つの収縮帯部2を備えることで、何ら他の反り変形防止対策を講じることなく品質管理値を満たすことができる。
【0038】
一方、本実施形態では、PCパネルAをカーテンウォールに用いられるものとし、一面1a側に化粧材が一体形成されているものとしたが、本発明のPCパネルAの製造方法は、カーテンウォールに用いるPCパネルAの製造に限定する必要はなく、PCパネルAは化粧材を具備せずに構成されてもよい。
【0039】
また、本実施形態では、型枠3を脱型するとともにコンクリート止め部材7を除去して、この後に充填材2aやシール材2b、2cを未充填空間9に充填するものとしたが、コンクリート止め部材7のみを除去した状態で、すなわち型枠3を脱型していない状態で、充填材2aやシール材2b、2cを未充填空間9に充填してもよい。
【0040】
さらに、必ずしもシール材2b、2cを充填しなくてもよく、未充填空間9を充填材2aのみで充填するようにしてもよい。また、充填材2aは、収縮帯部2の両側のコンクリート部1の収縮を拘束しない材料であればよく、グラウト材に限定する必要はない。
【0041】
さらに、シール材2b、2cは、PCパネルA同士を並設して用いる場合など、PCパネルA同士のジョイント部と外観を統一するような材料を選定することが望ましく、このようにした場合には、収縮帯部2を擬似目地として仕上げることができる。
【0042】
また、コンクリート止め部材7は、未充填空間9を形成することが可能であれば、特にその材質や形状を限定する必要はない。
【0043】
さらに、本実施形態では、打設したコンクリート1が所定強度に達した後に、型枠3を脱型するとともにコンクリート止め部材7を除去するものとしたが、例えば図3に示すように、コンクリート止め部材7をそのまま残すようにしてプレキャストコンクリートパネル(PCパネル)Bを形成してもよい。すなわち、図4(a)に示すように、一対のコンクリート止め部材7(7a、7b)を長手方向T1に対向して配設し、図4(b)に示すように、この一対のコンクリート止め部材7で形成した隙間8(未充填空間9)に充填材2aを充填して、分離したコンクリート部1をそのまま残したコンクリート部材7と充填材2aを介して一体形成するようにしてもよい。また、このとき、図4(c)に示すように、未充填空間9のコンクリート部1の一面1a側と他面1b側の少なくとも一方の側に残空間9aを残した状態で充填材2aを充填し、図4(d)に示すように、この残空間9aにシール材2b、2cを充填してPCパネルBを形成することが望ましい。そして、このように製造したPCパネルBは、本実施形態と同様に、分割したコンクリート部1の間に充填材2aが介装されて一体に形成されることで、分割した個々のコンクリート部1に乾燥収縮ひずみが生じる場合においてもこの充填材2a部分で乾燥収縮ひずみを吸収することができ、PCパネルBを長尺で形成する場合においても乾燥収縮による反り変形を確実に低減することができる。また、シール材2b、2cの充填によって好適な止水性を確保することができる。
【0044】
ついで、図5及び図6を参照し、本発明の第2実施形態に係るプレキャストコンクリートパネルの製造方法について説明する。本実施形態は、第1実施形態と同様、カーテンウォールのプレキャストコンクリートパネル(PCパネル)に関し、例えばビルの3フロア分に相当する長尺のPCパネルに関するものである。よって、ここでは、第1実施形態に共通する構成に対して同一符号を付し、その詳細についての説明を省略する。
【0045】
本実施形態のPCパネルCは、図5に示すように、分割した一対のコンクリート部1が、これらコンクリート部1の間に介装したコンクリート止め本体7c(コンクリート止め部材7)によって一体形成されている。また、コンクリート止め本体7cの上端側及び下端側に形成された目地空間9bにシール材2b、2cが充填されて収縮帯部2に止水処理が施されている。
【0046】
上記のように構成した本実施形態のPCパネルCを製造する際には、図6(a)に示すように、型枠3内に、コンクリート止め本体7cとこのコンクリート止め本体7cの上端側及び下端側にそれぞれ分離可能に設けられた目地空間形成用部材7dとからなるコンクリート止め部材7を、型枠3のコンクリート1を打設する空間5、6を分割するように設置する。ついで、図6(b)に示すように、コンクリート止め部材7で分割した空間5、6にコンクリート1を打設し、この打設したコンクリート1が所定強度に達した段階で、図6(c)に示すように、目地空間形成用部材7dをコンクリート止め本体7cから分離して除去する。これにより、分割したコンクリート部1がコンクリート止め本体7cを介して一体形成されるとともに、目地空間形成用部材7dを除去してコンクリート部1の一面1a側と他面1b側の双方側に目地空間9bが形成される。ついで、これら目地空間9bにシール材2b、2cを充填して止水処理を施し、図5に示す本実施形態のPCパネルCの製造が完了する。
【0047】
そして、上記のように製造したPCパネルCにおいては、分割したコンクリート部1の間にコンクリート止め部材7のコンクリート止め本体7cがそのまま残され、このコンクリート止め本体7cを介してコンクリート部1が一体形成されるため、分割した個々のコンクリート部1に乾燥収縮ひずみが生じる場合においてもこのコンクリート止め本体7c部分で乾燥収縮ひずみが吸収される。また、コンクリート止め部材7の目地空間形成用部材7dを除去して形成した目地空間9bにシール材2b、2cを充填して止水処理が施されていることによって、コンクリート止め本体7c部分(収縮帯部2)の止水性が確保される。
【0048】
したがって、本実施形態のPCパネルCの製造方法においては、分割したコンクリート部1の間にコンクリート止め本体7cが介装されて一体に形成されるため、分割した個々のコンクリート部1に乾燥収縮ひずみが生じる場合においても収縮帯部2で乾燥収縮ひずみを吸収することができるとともに、確実にPCパネルCの反り変形を低減することができ、精度よくPCパネルCを製造することができる。よって、本実施形態のPCパネルCの製造方法によれば、面外精度の向上と長尺化を同時に図ることが可能になる。
【0049】
また、目地空間9bにシール材2b、2cを充填することによって収縮帯部2に止水処理を施すことができ、止水性を確保することでカーテンウォールに好適に用いることができる。
【0050】
なお、本発明に係るプレキャストコンクリートパネルの製造方法は、上記の第2実施形態に限定されるものではなく、第1実施形態の変形例を含め、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、本実施形態では、コンクリート止め本体7cの上端側と下端側に目地空間形成用部材7dが分離可能に設けられてコンクリート止め部材7が構成されているものとしたが、コンクリート止め本体7cの上端側と下端側のどちらか一方に目地空間形成用部材7dが設けられてコンクリート止め部材7を構成してもよい。すなわち、コンクリート部1の一面1a側と他面1b側のどちらか一方の側に目地空間9bを形成して止水処理を施すようにしてもよい。
【0051】
ついで、図7から図9を参照し、本発明の第3実施形態に係るプレキャストコンクリートパネルの製造方法について説明する。本実施形態は、第1及び第2実施形態と同様、カーテンウォールのプレキャストコンクリートパネル(PCパネル)に関し、例えばビルの3フロア分に相当する長尺のPCパネルに関するものである。よって、ここでは、第1及び第2実施形態に共通する構成に対して同一符号を付し、その詳細についての説明を省略する。
【0052】
本実施形態のPCパネルEは、例えば矩形平板状に形成され、図7に示すように、長手方向T1の一側端から他側端まで連続したコンクリート部(コンクリート)1を備えて構成されている。また、コンクリート部1には、長手方向T1中央部に、一面1aから他面1b側に向けて凹む凹部10aと、他面1bから一面1a側に向けて凹む凹部10bとからなるひび割れ誘発目地10が設けられている。さらに、このひび割れ誘発目地10には、シール材11が充填されている。また、ひび割れ誘発目地10は、コンクリート部1に対し、断面欠損率((d1+d2)/D、図9参照)が30%以上を確保するように形成されている。
【0053】
ついで、上記構成からなるPCパネルEを製造する方法について説明し、本実施形態のPCパネルE及びPCパネルEの製造方法の作用及び効果について説明する。
【0054】
本実施形態のPCパネルEは、図8(a)に示すように、PCパネルEの寸法に応じた型枠3を組み立て、PCパネルEの一面を形成する型枠面3a上に図9に示す化粧材12を配置する。さらに、型枠3内に、鉄筋4を配筋するとともに、長手方向T1中央のPCパネルEの一面側と他面側に応じた位置に、それぞれ例えば目地棒などのひび割れ誘発目地材13を設置する。
【0055】
ついで、図8(b)に示すように、型枠3内にコンクリート1を打設し、この打設したコンクリート1が所定強度に達した後に、図8(c)に示すように、型枠3を脱型するとともにひび割れ誘発目地材13を除去する。これにより、長手方向T1中央部には、一面1a側と他面1b側にそれぞれ凹部10a、10bが形成され、ひび割れ誘発目地10が形成される。そして、ひび割れ誘発目地10にシール材11(11a、11b)を充填して止水処理を施すことによって、図7に示した本実施形態のPCパネルEが形成される。
【0056】
そして、このように形成したPCパネルEは、コンクリート1を十分に強度発現させるために養生され、断面方向に乾燥収縮ひずみの分布が生じた場合には、ひび割れ誘発目地10によって、コンクリート部1に一方の凹部10aから他方の凹部10bに向けて延びるひび割れが誘発され、このひび割れの発生によって乾燥収縮ひずみが吸収される。よって、本実施形態においては、乾燥収縮に伴うコンクリート部1ひいてはPCパネルEの反り変形量が低減され、コンクリート1が完全硬化した段階で、好適に面外精度が確保されたPCパネルEが形成されることになる。
【0057】
したがって、本実施形態のPCパネルEの製造方法においては、PCパネルEにひび割れ誘発目地10を設けることによって、コンクリート部1に乾燥収縮が生じた場合においても、このひび割れ誘発目地10でひび割れを誘発することができ、このようにひび割れを発生させることで、乾燥収縮ひずみを吸収することができる。これにより、PCパネルEを長尺で形成する場合においても乾燥収縮による反り変形を確実に低減することができ、精度よくPCパネルEを製造することができる。よって、本実施形態のPCパネルEの製造方法によれば、面外精度の向上と長尺化を同時に図ることが可能になる。
【0058】
また、シール材11を充填して止水処理を施すことで、ひび割れ誘発目地10の形成に伴う止水性の低下を防止でき、ひび割れ誘発目地10の形成に伴う止水性の低下を防止することができるため、止水性を要求されるカーテンウォールに好適に用いることができる。
【0059】
なお、本発明に係るプレキャストコンクリートパネルの製造方法の第3実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、本実施形態では、ひび割れ誘発目地10を断面欠損率が30%以上となるように形成するものとしたが、有効な欠損厚さが確保できない場合には、例えば図9に示すように、一方の凹部10aと他方の凹部10bを結ぶ直線上に、FRP板、各種パイプ類、未加硫ブチルやゴム成形部材などの断面欠損部材14を配置して、確実にひび割れを誘発させるようにすればよい。
【0060】
また、本実施形態のようにひび割れ誘発目地10を設けた場合に、一方の凹部10aと他方の凹部10bを結ぶようにひび割れが発生しないおそれもある。このため、図8(a)に示したひび割れ誘発目地材13を設置した段階で、例えば図9に示すようにこのひび割れ誘発目地材13の周囲に先付けシール材11cを塗布してPCパネルEを形成してもよい。そして、この場合には、ひび割れ誘発目地10の断面欠損幅を広げることができるため、ひび割れが屈曲して生じるような場合においても、確実に一方の凹部10aと他方の凹部10bを結ぶようにひび割れを発生させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の第1実施形態に係るプレキャストコンクリートパネルの製造方法によって製造したプレキャストコンクリートパネルを示す断面図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係るプレキャストコンクリートパネルの製造方法の各工程を示す断面図である。
【図3】第1実施形態のプレキャストコンクリートパネルの変形例を示す断面図である。
【図4】図3に示したプレキャストコンクリートパネルの製造方法の各工程を示す断面図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係るプレキャストコンクリートパネルの製造方法によって製造したプレキャストコンクリートパネルを示す断面図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係るプレキャストコンクリートパネルの製造方法の各工程を示す断面図である。
【図7】本発明の第3実施形態に係るプレキャストコンクリートパネルの製造方法によって製造したプレキャストコンクリートパネルを示す断面図である。
【図8】本発明の第3実施形態に係るプレキャストコンクリートパネルの製造方法の各工程を示す断面図である。
【図9】第3実施形態のプレキャストコンクリートパネルの変形例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0062】
1 コンクリート部(コンクリート)
1a 一面
1b 他面
2 収縮帯部
2a 充填材
2b シール材
2c シール材
3 型枠
3a 型枠面
4 鉄筋
5 コンクリートを打設する空間
6 コンクリートを打設する空間
7 コンクリート止め部材
7c コンクリート止め本体
7d 目地形成用部材
8 隙間
9 未充填空間
9a 残空間
9b 目地空間
10 ひび割れ誘発目地
10a 一方の凹部
10b 他方の凹部
11 シール材
11a 一方のシール材
11b 他方のシール材
12 化粧材
13 ひび割れ誘発目地材
14 断面欠損部材
A PCパネル(プレキャストコンクリートパネル)
B PCパネル(プレキャストコンクリートパネル)
C PCパネル(プレキャストコンクリートパネル)
E PCパネル(プレキャストコンクリートパネル)
T1 長手方向
T2 厚さ方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
型枠内に、該型枠のコンクリートを打設する空間を分割するとともに、打設したコンクリートの流入を阻止して未充填空間を形成するためのコンクリート止め部材を設置し、
前記型枠の前記コンクリート止め部材で分割した空間にコンクリートを打設し、
打設したコンクリートが所定強度に達した後に、前記コンクリート止め部材で形成した前記未充填空間に充填材を充填して、分割したコンクリートを、前記充填材を介して一体形成することを特徴とするプレキャストコンクリートパネルの製造方法。
【請求項2】
請求項1記載のプレキャストコンクリートパネルの製造方法において、
前記打設したコンクリートが所定強度に達した後に、前記コンクリート止め部材を除去して形成した前記未充填空間に前記充填材を充填することを特徴とするプレキャストコンクリートパネルの製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のプレキャストコンクリートパネルの製造方法において、
前記未充填空間が開口するコンクリートの一面側と他面側の少なくとも一方の側に、前記未充填空間が残るように前記充填材を充填し、該未充填空間の残空間にシール材を充填して止水処理を施すことを特徴とするプレキャストコンクリートパネルの製造方法。
【請求項4】
型枠内に、コンクリート止め本体と該コンクリート止め本体の上端側及び/又は下端側に分離可能に設けられた目地空間形成用部材とからなるコンクリート止め部材を、前記型枠のコンクリートを打設する空間を分割するように設置し、
前記型枠の前記コンクリート止め部材で分割した空間にコンクリートを打設し、
打設したコンクリートが所定強度に達した後に、前記目地空間形成用部材を前記コンクリート止め本体から分離して除去し、分割したコンクリートを前記コンクリート止め本体を介して一体形成するとともに、前記目地空間形成用部材を除去してコンクリートの一面側と他面側の少なくとも一方の側に形成した目地空間にシール材を充填して止水処理を施すことを特徴とするプレキャストコンクリートパネルの製造方法。
【請求項5】
型枠内に、ひび割れ誘発目地材を設置し、
前記型枠内にコンクリートを打設し、
打設したコンクリートが所定強度に達した後に、前記ひび割れ誘発目地材を除去してひび割れ誘発目地を形成するとともに、該ひび割れ誘発目地にシール材を充填して止水処理を施すことを特徴とするプレキャストコンクリートパネルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−6644(P2009−6644A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−171918(P2007−171918)
【出願日】平成19年6月29日(2007.6.29)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【出願人】(500227978)株式会社エスシー・プレコン (4)
【Fターム(参考)】