説明

プレグラウトPC鋼材及びその製造方法

【課題】硬化剤や硬化促進剤のような硬化性組成物は室温での硬化期間が長く、適用できる箇所や対象が限定され、湿気硬化型の塗布組成物では、橋梁等における使用条件の発熱や、外気温等の外的要因、十分な付着応力度、施工後短期間で開始の際プレグラウト鋼材の使用不可等の種々の問題を、発熱体による加熱促進作用により一挙に解決し得るプレグラウトPC鋼材を得る事である。
【解決手段】この発明のプレグラウトPC鋼材Aは、複数のPC鋼線材1a、1bからなるPC鋼材1と、その外周に介在する樹脂組成物層2と、さらにその外側を囲む外皮層3とからなり、上記樹脂組成物層2中又は樹脂組成物層2の表面、あるいはその両方に通電により発熱する発熱体4を設けたプレグラウトPC鋼材の構成とし、発熱体4による加熱促進作用により上記外的要因や使用時期的な条件のいずれにも発熱体4への通電により樹脂組成物層2を硬化促進させることにより対応できるようにしたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、PC鋼材等の表面に防錆、防食、及びコンクリートとの一体化のため塗布組成物を塗布した緊張材として、プレストレストコンクリート(PC)を製造するポストテンション工法において用いられ、PC橋や各種建造物等に使用されるプレグラウトPC鋼材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プレストレストコンクリートは、PC鋼材と呼ばれるピアノ線などの高強度の鋼材を用い、このPC鋼材に張力を与えて緊張させた後にコンクリートを固定すると、引っ張られていたPC鋼材は元に戻ろうとし、コンクリートに圧縮力を与えて形成されるものであり、そのプレストレスの導入方法は、コンクリートを打設する前(プレ)に緊張するプレテンション方式と、打設した後(ポスト)に緊張するポストテンション方式とがある。後者の従来のポストテンション工法では、コンクリート打設前にコンクリート内に金属製シースを埋設しておき、このシース中にPC鋼材(PC鋼線,PC鋼撚線,PC鋼棒等)等の緊張材を挿入する。
【0003】
そして、コンクリートの硬化後に緊張材を緊張させ、最後に緊張材の防食並びに緊張材とコンクリートの一体化のために、セメントミルクなどのグラウト材をシースと緊張材との間に注入するグラウト作業を行っている。しかし、この方法では、セメントミルクなどを注入するグラウト作業が煩雑で、多くの労力と時間がかかり、コストアップの要因となり、しかも注入が不完全になり易く、緊張材が発錆することもある。このため、あらかじめグラウト材をPC鋼材に塗布し、現場でのグラウト作業を不要とするプレグラウトPC鋼材が注目されている。
【0004】
プレグラウトPC鋼材は、PC橋などの橋梁部材として国内各地の種々の橋や、建造物等に対して用いられており、コンクリートとの一体化の機能に優れ、かつ現場でのグラウト作業を省略することが出来るため、コスト削減に寄与する材料として注目されている。プレグラウトPC鋼材に用いられる塗布組成物の例として、特許文献1の「プレストレストコンクリート緊張材用塗布材料」が知られている。この塗布材料は、主成分となるエポキシ樹脂と、ジシアンジアミド等の常温で化学的硬化を進める潜在的硬化剤とを含む硬化性組成物をプレストレストコンクリート緊張材用塗布材料として提案されている。
【0005】
この硬化性組成物を用いれば、グラウト作業を行うことなく緊張材の完全防食が可能とされ、この方法では、緊張材を緊張するまでは硬化せず、コンクリートに緊張定着後、常温で硬化するように硬化剤の種類と量を調整したエポキシ樹脂(硬化性組成物)を塗布し、コンクリート硬化後、エポキシ樹脂が硬化する前に緊張する。このとき、エポキシ樹脂が液状であるため緊張が可能であり、緊張後には常温で徐々にエポキシ樹脂が硬化し、最終的に緊張材をコンクリートと一体化すると共に完全に防食する。緊張材にエポキシ樹脂を塗布した後、必要に応じて樹脂シースにより塗布面を被覆することが出来る。この場合、エポキシ樹脂が硬化すると、緊張材は樹脂シースを介してコンクリートと一体化する。
【0006】
他の塗布組成物の例として、特許文献2の「プレストレストコンクリート緊張材用硬化性組成物及び緊張材」が知られている。この塗布材料は、湿気により硬化が開始する湿気硬化型硬化剤を用いることにより、常温で数ヶ月〜2年間で硬化し、なおかつ100℃近い高温でも反応せず、長時間未硬化状態を維持することが出来るというものである。しかし、上記特許文献1の塗布組成物は、コンクリート打設後コンクリートが硬化時に発熱するため、コンクリート構造体の大きさや形状によっては、100℃近くの高温になる場合がある。
【0007】
しかし、このような高温で硬化せず、なおかつ常温での硬化性を保持するように、エポキシ樹脂の配合処方を調整することは、きわめて困難であった。従来の硬化性組成物は、室温では長期間安定であるが、100℃近くの高温になると、急激に反応が進んでしまう。緊張材に塗布した硬化性組成物がコンクリート硬化時の発熱により早期硬化すると、コンクリート硬化後に緊張材を緊張させることが出来なくなる。一方、硬化剤や硬化促進剤の添加量を少なくすれば、硬化性組成物の高温での早期硬化を防ぐことが出来るものの、室温での硬化期間が極端に長くなってしまう。従って、従来の硬化性組成物を用いるプレストレストコンクリートのポストテンションは、適用できる箇所や対象が限定されるという問題がある。
【0008】
特許文献2の湿気硬化型の塗布組成物は、橋梁等において設置場所、施工時期、コンクリートサイズ、コンクリート種類等がさまざまであり、コンクリート打設後の発熱や、外気温等の硬化に影響する外的要因がケースバイケースであるため、湿気硬化型を用いた場合でも、コンクリートとPC鋼材との2N/mm2を超える十分な付着応力度を要求され、かつ施工後短期間(例えば半年後)で供用を開始する際には、プレグラウト鋼材を使用できない。
【特許文献1】特公平8−11791号公報
【特許文献2】特開2000−281967号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
この発明は、上記の問題に留意して、硬化剤や硬化促進剤のような硬化性組成物は室温での硬化期間が極端に長くなり、適用できる箇所や対象が限定される、あるいは湿気硬化型の塗布組成物では、橋梁等における使用条件の発熱や、外気温等の硬化に影響する外的要因がケースバイケースであり、コンクリートとPC鋼材との十分な付着応力度を要求され、かつ施工後短期間(例えば半年後)で供用を開始する際には、プレグラウト鋼材を使用できないという種々の問題を、発熱体による加熱促進作用により一挙に解決し得るプレグラウトPC鋼材及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明は、上記の課題を解決する手段として、複数のPC鋼線材からなるPC鋼材と、その外周に介在する樹脂組成物層と、さらにその外側を囲む外皮層とを有するプレグラウトPC鋼材において、上記樹脂組成物層中又は樹脂組成物層の表面、あるいはその両方に通電により発熱する発熱体を設けたプレグラウトPC鋼材の構成としたのである。
この場合、上記構成のプレグラウトPC鋼材では、上記樹脂組成物層中又はその表面に円周上の所定の間隔で複数の発熱体を配設するのが好ましい。又、前記発熱体はニクロム線による発熱線条材とするのがよい。
【0011】
上記構成のプレグラウトPC鋼材は、上記樹脂組成物層中又は樹脂組成物層の表面、あるいはその両方に通電により発熱する発熱体を設けたから、適用できる箇所や対象が限定される、硬化期間が極端に長くなるなどの種々の条件からプレグラウトPC鋼材を使用できない場合でも、発熱体を設けることにより、適用箇所の限定や硬化期間の条件からの制約がある場合であっても、急速な加熱硬化により自由にそれらの条件や制約に対応できる。このような通電による加熱作用を加えるのは、エポキシの硬化が発熱反応であることから、プレグラウトPC鋼材の断面内の一箇所で急速に硬化を開始すると、その周辺のある程度の範囲の硬化が加速されることを見出したからである。
【0012】
この現象を利用するために所定径の円周上に所定間隔に配置された複数の発熱体をプレグラウトPC鋼材の断面内に配置し、それぞれの発熱体の周辺で急速な加熱による硬化を生じさせ、この硬化反応で生じた反応熱がさらに周囲に伝熱され、連鎖的に反応を加速させるためである。この連鎖反応は、あまり広い範囲にまで伝わることはないが、上記特開2000−281967号公報、特開2002―60465号公報の「プレストレスト緊張材用硬化性組成物」等の硬化性組成物を用いた場合、円周上で数十mm間隔程度に1本配置すれば十分な硬化加速効果が得られる。従って、これにより断面全体で加熱硬化の促進を行うようにしたのである。
【0013】
又、上記課題を解決する他の手段として、複数のPC鋼線材の外周に樹脂組成物層を介在させ、上記樹脂組成物層中又は樹脂組成物層の表面、あるいはその両方に通電により発熱する発熱体を設け、さらにその外側を外皮層で囲み、発熱体へ通電することにより樹脂組成物層を硬化させ、通電後6ヶ月以内に樹脂組成物層のショアD硬度が20D以上と成るように樹脂組成物層の硬化剤の混合割合を設定するようにしたプレグラウトPC鋼材の製造方法を採用することが出来る。
【0014】
上記のプレグラウトPC鋼材の製造方法を採用することにより、所望の機能を有するプレグラウトPC鋼材を得ることが出来る。そして、通電後6ヶ月以内に樹脂組成物層のショアD硬度が20D以上とすると、コンクリートと鋼材との間に十分な付着強度を生じせしめるに必要十分な樹脂の硬さとなり、このような樹脂硬度となるように樹脂組成物層の硬化剤の混合割合を予め設定することにより国内の殆どの橋梁に関しては、使用開始前にコンクリートと鋼材を一体化させることが出来る。
【発明の効果】
【0015】
この発明のプレグラウトPC鋼材は、複数のPC鋼線材からなるPC鋼材、その外周に介在する樹脂組成物層、さらにその外側を囲む外皮層を有し、上記樹脂組成物層中又は樹脂組成物層の表面、あるいはその両方に通電により発熱する発熱体を設けた構成としたから、硬化性組成物は硬化期間が極端に長くなり、適用できる箇所や対象が限定される、湿気硬化型の塗布組成物では、橋梁等における使用条件の発熱や、外気温等の硬化に影響する外的要因、十分な付着応力度、施工後短期間で供用を開始する際には、プレグラウト鋼材を使用できないという種々の問題を、発熱体による加熱促進作用により上記外的要因や使用時期的な条件のいずれにも発熱体の通電により樹脂組成物層を硬化促進させることにより対応できるという効果が得られる。
【0016】
又、プレグラウトPC鋼材の製造方法の発明では、複数のPC鋼線材の外周に樹脂組成物層を介在させ、上記樹脂組成物層中又は樹脂組成物層の表面、あるいはその両方に通電により発熱する発熱体を設け、その外側を外皮層で囲み、発熱体へ通電することにより樹脂組成物層を硬化させ、通電後6ヶ月以内に樹脂組成物層のショアD硬度が20D以上と成るように樹脂組成物層の硬化剤の混合割合を設定するようにしたから、発熱体による加熱促進作用により上記外的要因や使用時期的な条件のいずれにも発熱体の通電により樹脂組成物層を硬化促進させることにより対応できるプレグラウトPC鋼材が得られるという効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、この発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1は実施形態のプレグラウトPC鋼材の(a)外観斜視図、(b)断面図である。図示のように、この実施形態のプレグラウトPC鋼材Aは、断面視では複数(図示の例では7本)のPC鋼撚り線材を用いたPC鋼材1を中心とし、このPC鋼材1の外周に樹脂組成物層2を介在させ、さらにその周りを外皮層3で囲んで形成されている。そして、PC鋼撚り線材は、中心のPC鋼線材1aの周りを複数のPC鋼撚り線材1bで囲み、かつ長さ方向に撚り合わせてPC鋼材1を形成し、PC鋼材1と外皮層3との間の樹脂組成物層2内又はこの樹脂組成物層2の外周付近に複数本の発熱体4が配設されている。
【0018】
PC鋼材1は、PC鋼線材1a、PC鋼撚り線材1bの鋼線材としてPC鋼材用素線を用い、例えば素線径5mmφ、強度レベル2200N/mm2の高強度鋼撚り線の4本(芯線を含む)と、素線径5mmφ、強度レベル600N/mm2の低強度鋼撚り線の3本を用い、6本のPC鋼撚り線材1bは上記高強度鋼撚り線と低強度鋼撚り線が互いに隣り合うように配置された異種混合PC鋼撚り線の配置構成とすることができる。ただし、異種混合PC鋼撚り線以外のPC鋼線を採用してもよい。
【0019】
樹脂組成物層2は、一般に現場で注入されるセメントミルクなどのグラウト材に相当するものであり、上記外皮層3の内側に予め工場内で充填されるため、現場でのグラウト作業を不要とするものである。この樹脂組成物層2は、主成分としてエポキシ樹脂を用いた樹脂層であり、例えば特開2000−281967号公報や特開2002―60465号公報の「エポキシ樹脂と湿気硬化型硬化剤とを含むプレストレスト緊張材用硬化性組成物」、あるいは特公平8−11791号公報に記載された「少なくとも主成分となるエポキシ樹脂と、常温で化学的硬化を進める潜在性硬化剤とを含むプレストレストコンクリート緊張材用塗布材料」等各種のエポキシを主成分とする樹脂組成物を用いることが出来る。その詳細については後で説明する。
【0020】
外皮層3は、被覆層として設けられ、一般に用いられているポリエチレンを含む各種樹脂材を用いることが出来るが、ポリエチレン以外にもポリプロピレン、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート等があり、そのいずれの樹脂材を用いてもよい。又、この外皮層3は、発熱体4への通電時に絶縁、保温効果を有するほか、樹脂組成物層2の漏出防止効果の機能もあり、一般にはポリエチレンシースと呼ばれ、その外周は凹凸形状に形成されているため、コンクリートとの高い付着強度が得られる。
【0021】
発熱体4は、樹脂組成物層2中にPC鋼材1の長さ方向に沿ってPC鋼材1とは平行にかつ非接触状に配置される。但し、樹脂組成物層2の表面、あるいはその表面と層内の両方の位置に配置してもよい。この発熱体4は、通電することにより発熱する線状の電熱式発熱体が用いられる。電熱式発熱体は、例えば周知のニッケル、クロム、マンガン、鉄の合金からなるニクロム線や、炭化珪素発熱体(非金属発熱体)等の線材が用いられる。発熱体4は、PC鋼材1に対して非接触状と成るように、図示の例では周方向に約20mmのピッチpで複数本(6本)が樹脂組成物層2中に配置されている。
【0022】
上記発熱体4は、PC鋼材1と平行に配置されるが、この場合PC鋼材1の中心線と平行に配置するか、あるいは各PC鋼撚り線材1bの撚りと平行、即ち撚りに沿って捻るように配置してもよい。そして、図示の例では発熱体4は、線条材を採用しているが、メッシュ状又は、ラダー状等使用上の利便性に応じて線条材以外の材料、形状の電熱式発熱体を使用してもよい。又、この発熱体4は通電時の発熱がその表面を少なくとも100℃以上、好ましくは120℃乃至180℃に加熱し得る大きさの抵抗を有するものとする(但し、プレグラウトPC鋼材Aの外径約35〜40mm)。なお、180℃を上限としたのは、200℃以上に加熱した場合、揮発成分からのガス発生や鋼材の強度低下、樹脂の炭化、被覆外皮層3のシース材の変形を招く虞があり、好ましくないからである。又、これらの通電により発熱する発熱体は、絶縁被覆がなされていることが好ましい。
【0023】
上記樹脂組成物層2の一例として採用し得る特開2000−281967号公報のプレストレスト緊張材用硬化性組成物は、その要点を記すと次の通りである。即ち、エポキシ樹脂と湿気硬化型硬化剤とを含み、かつ硬化性組成物の90℃の粘度増加係数k及び常温での硬化所要日数Mが、
k≦0.2
M≦730
(ただし、kはlogρ=kT(ρ:粘度(ps)、T:時間(hrs))で表され、上記関係を満足する硬化性組成物である。
【0024】
この硬化性組成物は、エポキシ樹脂を主成分とし、エポキシ樹脂は、例えばビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、ノボラックグリシジルエーテル、テトラグリシジルアミノジフェニルメタン等である。これらの中でも低コストのビスフェノールAジグリシジルエーテルや低粘度で緊張が容易となるビスフェノールFジグリシジルエーテルが好適とされている。又、湿気硬化型硬化剤とは、大気中等に存在する水分と反応して、反応性生物として硬化剤を生成し、これによりエポキシ樹脂の硬化反応が開始する機能を持つものである。
【0025】
このような機能を持つものとして、ケチミン化合物があり、ケチミン化合物とはカルボニル化合物でブロックされた第1級アミノ基を1分子中に少なくとも1個有するアミン化合物である。ケチミン化合物は、アミン化合物とカルボニル化合物との脱水縮合反応により得られ、この反応はアミンとアルデヒド又はケトンとの脱水縮合反応と同様の条件下で行うことができ、脱水縮合反応は例えばアミン化合物と、その論理反応量以上のケトン又はアルデヒドとを混合し、反応生成水を除去しながら反応させることにより行われる。
【0026】
上記硬化性組成物は、90℃での粘度増加係数k及び硬化所要日数Mが上記関係を満足するものとし、上記特性は湿気硬化型硬化剤の配合量を調整することにより得ることが出来る。上記粘度増加係数k及び硬化所要日数Mの具体的な調整例として、油化シェルエポキシ(株)社製の“エピコート828”のエポキシ樹脂に湿気硬化型硬化剤“エピキュアH3”を配合する割合を変化させたときに上記数式kの変化曲線で表されるような調整を行うこととなる。なお、この調整では日本アエロジル(株)社製のアエロジルRY200S、炭酸カルシウム、ベンジルアルコールが所定量添加されている。
【0027】
樹脂組成物層2に採用し得る他の例として特開2002―60465号公報の「プレストレスト緊張材用硬化性組成物」が知られている。この硬化性組成物は、エポキシ樹脂を主成分とし、エポキシ樹脂と湿気硬化型硬化剤を含む点では基本的に特開2000−281967号公報の硬化性組成物と同じであるが、この硬化性組成物は、エポキシ樹脂と湿気硬化型硬化剤とを含み、かつ硬化性組成物の90℃での緊張可能時間L並びに常温での硬化所要日数Mが、
L(時間)≧20
M(日)≦1095
(ただし、Lは硬化性組成物の粘度が1万psに達する時間)で表わされる関係を満足する硬化性組成物である。
【0028】
しかし、この硬化性組成物は、上記に規定される緊張可能時間Lと常温での硬化所要日数Mとなるように、その組成物の具体的な素材の配合割合において、エポキシ樹脂に対して湿気硬化型硬化剤“エピキュアH3”の配合割合を少なくしたものであり、これにより特開2002―60465号公報の「プレストレスト緊張材用硬化性組成物」より緊張可能時間L、硬化所要日数Mを大きく伸ばしたものである。
【0029】
さらに樹脂組成物層2の他の例として、特公平8−11791号公報の「プレストレストコンクリート緊張材用塗布材料」の硬化性組成物を使用してもよい。この塗布材料は、所定の雰囲気下でコンクリート硬化後3日以上経過して硬化するように硬化時間が調整された硬化性組成物からなり、少なくとも主成分となるエポキシ樹脂と、常温で化学的硬化を進める潜在性硬化剤とを含むものとされている。そして、この硬化性組成物は、潜在性硬化剤としてジヒドラジド類、ジフェニルジアミノスルホン、ジシアンジアミド、イミダゾール及びその誘導体、及びBF3・アミン錯体からなる群より選ばれた少なくとも一種を用いるとしている。
【0030】
なお、樹脂組成物層2は、上記以外にもこれらと同等又はそれ以上の機能を有する硬化性樹脂配合組成物であれば種々のものを採用することが出来る。又、上記プレグラウトPC鋼材Aには、使用時の必要長さに切断した状態の発熱体4に対して図示しない通電装置の電力線を接続し、この通電装置から必要な電力を送電できるように通電装置が使用される。この通電装置は、上述したように、通電時の発熱がその表面を少なくとも100℃以上、好ましくは120℃乃至180℃に加熱し得るに十分な電力を送電できるものとする。この場合、複数の発熱体4の両端部には通電装置の接続線の接続プラグがそれぞれ接続される。
【0031】
上記の構成としたこの実施形態のプレグラウトPC鋼材Aは、上記図示しない通電装置から発熱体4に必要な電力を送電して加熱し、硬化反応を促進させて樹脂組成物層2を硬化させ、プレグラウトPC鋼材として使用される。このような通電による加熱作用を加えるのは、エポキシの硬化が発熱反応であることから、プレグラウトPC鋼材の断面内の一箇所で急速に硬化を開始すると、その周辺のある程度の範囲の硬化が加速されることを見出したからである。
【0032】
そこで、この現象を利用するために所定径の円周上に所定間隔に配置された複数の発熱体4をプレグラウトPC鋼材Aの断面内に配置し、それぞれの発熱体4の周辺で急速な加熱による硬化を生じさせ、この硬化反応で生じた反応熱がさらに周囲に伝熱され、連鎖的に反応を加速させる。この連鎖反応は、あまり広い範囲にまで伝わることはないが、上記特開2000−281967号公報、特開2002―60465号公報の「プレストレスト緊張材用硬化性組成物」等の硬化性組成物を用いた場合、円周上で約20mm間隔程度に1本配置すれば十分な硬化加速効果が得られる。従って、これにより断面全体で加熱硬化の促進を行うようにしたのである。
【0033】
特公平8−11791号公報の「プレストレストコンクリート緊張材用塗布材料」の硬化性組成物は、所定の雰囲気下でコンクリート硬化後3日以上経過して硬化するように硬化時間が調整された硬化性組成物からなり、少なくとも主成分となるエポキシ樹脂と、常温で化学的硬化を進める潜在性硬化剤とを含むものとされているが、緊張材を緊張した後は出来るだけ速やかに硬化してコンクリートと緊張材とが一体化されるように調整されていることが望ましいとされ、従ってこの硬化性組成物を樹脂組成物層として使用する場合もほぼ同様な効果が得られる。なお、上記以外の種々な樹脂組成物層を使用することが出来ることは勿論である。
【0034】
上記のプレグラウトPC鋼材Aは、それぞれの硬化性組成物、潜在性硬化剤の組成割合を所定の条件に設定すると共に、所定の硬化硬度を得るように水分の含有割合を適宜に調整する。また、それぞれの樹脂組成物層2に対しては、必要に応じて希釈剤、充填剤、増粘剤等を配合することが出来る。そして、このようなプレグラウトPC鋼材Aを製造する場合、複数のPC鋼材1の外周に樹脂組成物層2を介在させ、上記樹脂組成物層2中又は樹脂組成物層2の表面、あるいはその両方に通電により発熱する発熱体4を設ける。
【0035】
そして、その外側を外皮層3で囲み、発熱体4へ通電することにより樹脂組成物層2を硬化させ、通電後6ヶ月以内に樹脂組成物層のショアD硬度が20D以上と成るように樹脂組成物層2の硬化剤の混合割合を予め設定しておく。なお、ショアD硬度(デュロメータD硬度)の測定は、JIS K−7215の測定方法の規定に準拠する。
【0036】
このようなプレグラウトPC鋼材の製造方法を採用することにより、所望の機能を有するプレグラウトPC鋼材を得ることが出来る。そして、通電後6ヶ月以内に樹脂組成物層のショアD硬度が20D以上とすると、コンクリートと鋼材との間に十分な付着強度を生じせしめるに必要十分な樹脂の硬さとなり、樹脂硬度が所望硬度となるように樹脂組成物層の硬化剤の混合割合を予め設定することにより国内の殆どの橋梁に関しては、使用開始前にコンクリートと鋼材を一体化させることが出来る。
【実施例】
【0037】
上記樹脂組成物層のショアD硬度が所定以上の硬度となるプレグラウトPC鋼材の製造方法に用いられる、例えば“エピコート828”と“エピキュアH3”の混合割合、及び加熱時間の組み合わせの例を下記の表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
この例では、表1に示す樹脂をそれぞれの配合割合で用い、28.6mmφ鋼材の周囲に塗布した後、ニクロム線を巻き付け、その後外層にポリエチレン樹脂でシースを被覆してプレグラウトPC鋼材を製作した。温度調整機能を有する通電装置にて発熱体4の表面に設置した熱電対の測定値に基づき通電量を自動コントロールして、発熱体4の表面温度を70〜110℃に設定した。その後加熱時間をそれぞれ変化させて加熱を施し、それぞれの実施例、比較例の樹脂が0.5年後に硬化しているかどうかを確認した。各配合についての発熱体4の温度及び通電時間と0.5年後の硬化確認結果を表1に表示している。
【0040】
但し、上記各樹脂の配合量の割合を変化させ、或いは樹脂種類を変えた場合でも、発熱体温度、加熱時間を変えることにより適切な硬化時間で硬化させることができるため、表1の配合量割合、加熱時間以外の処理により所望の硬化結果を得ることができることを確認している。従って、配合量割合、加熱時間は、表1の範囲に限られるわけではなく他の配合割合、異なる樹脂種類のものであっても所定の加熱処理を施すことによって所望の期間後に硬化結果が得られる。その一例を表2に示す。
【0041】
【表2】

【0042】
上記の主ケーブル用湿気硬化型樹脂、床版用湿気硬化型樹脂の組成の詳細は特に示していないが、上述した特許公報に記載したもの以外にも各種のものを使用できることが表2の結果から理解される。
【産業上の利用可能性】
【0043】
この発明のプレグラウトPC鋼材とプレグラウトPC鋼材の製造方法は発熱体による加熱促進作用により上記外的要因や使用時期的な条件のいずれにも発熱体の通電により樹脂組成物層を硬化促進させることにより対応できるようにしたものであるから、PC橋や各種建造物等に広く利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】実施形態のプレグラウトPC鋼材Aの(a)部分破断した外観斜視図、(b)(a)の矢視B−Bからの断面図
【符号の説明】
【0045】
1 PC鋼材
1a PC鋼線材
1b PC鋼撚り線材
2 樹脂組成物層
3 外皮層
4 発熱体
A プレグラウトPC鋼材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のPC鋼線材からなるPC鋼材1と、その外周に介在する樹脂組成物層2と、さらにその外側を囲む外皮層3とを有するプレグラウトPC鋼材Aにおいて、上記樹脂組成物層2中又は樹脂組成物層2の表面、あるいはその両方に通電により発熱する発熱体4を設けたことを特徴とするプレグラウトPC鋼材。
【請求項2】
前記樹脂組成物層2中又はその表面に円周上の所定の間隔で複数の発熱体4を配設したことを特徴とする請求項1に記載のプレグラウトPC鋼材。
【請求項3】
前記発熱体4をニクロム線による発熱線条材としたことを特徴とする請求項1又は2に記載のプレグラウトPC鋼材。
【請求項4】
複数のPC鋼線材の外周に樹脂組成物層2を介在させ、上記樹脂組成物層2中又は樹脂組成物層2の表面、あるいはその両方に通電により発熱する発熱体を設け、さらにその外側を外皮層3で囲み、発熱体4へ通電することにより樹脂組成物層2を硬化させ、通電後6ヶ月以内に樹脂組成物層2のショアD硬度が20D以上と成るように樹脂組成物層2の硬化剤の混合割合、及び加熱時間を設定するようにしたプレグラウトPC鋼材の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−211486(P2007−211486A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−32616(P2006−32616)
【出願日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【出願人】(302061613)住友電工スチールワイヤー株式会社 (163)
【Fターム(参考)】