説明

プレス制御装置

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、サーボモータの回転運動を直線運動に変換してラムを駆動するプレス制御装置に係り、特に極めて薄いものを加工するのに好適なものに関する。
【0002】
【従来の技術】従来、サーボモータの回転運動を直線運動に変換してラムを駆動するプレス制御装置にあっては、加工時、ラムが上死点から減速点位置に向かい高速で移動し、その後ラムが減速点位置から次第に減速し、下死点設定位置で加工物に突き当たって停止するように構成されている。
【0003】下死点設定位置は、実際の加工に際し、予めティーチングモード(JOG)に切り換え、その運転時にラムを移動させることによって設定している。この場合、ティーチング時には、オペレータがラムに装着された上金型を下降し、下死点の位置を目視により粗位置決めした後、被加工物に対する押圧力の状況を判断しながら微調整することにより、下死点位置を決定するようにしている。従って、下死点位置の決定には、被加工物に対する押圧力の状況を判断しながら行っているので、オペレータはラムを何回も微妙に上げ下げしているのが実情である。
【0004】なお、この種の装置として関連するものには例えば特開平6−182599号公報等が挙げられる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】従来のプレス制御装置は、オペレータからのティーチングによってラムの下死点位置を決定しているが、上述の如く、ティーチング時には、まずラムの粗位置決めを行い、次いで被加工物に対する押圧力の状況を判断しながら微調整しているので、下死点位置を決定するのにかなりの手間がかかる問題がある。
【0006】本発明の目的は、上記従来技術の問題点に鑑み、ラムの下死点位置を容易に決定することができ、しかも一回の下降動作で確実に実施することができるプレス制御装置を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明では、サーボモータと、該サーボモータの出力軸に動力変換機構を介して連結され、直線往復運動するラムと、このラムに装着される上金型,固定部に取付けられかつ上金型と対応する下金型からなる金型と、サーボモータを介しラムを制御する制御部とを有し、かつ該制御部は、自動加工モードとティーチングモードとに応じて処理を実行するプレス制御装置において、前記制御部は、ティーチングモードでラムを下降動作させたとき、サーボモータの検出器出力とサーボモータに対する指令値との偏差であるたまりパルスが特定量となった時点で、該たまりパルスの特定量の位置をラムの下死点位置として決定する下死点位置決定手段を有することを特徴とするものである。
【0008】
【発明の実施の形態】以下、本発明の一実施例を図1及び図2により説明する。実施例のプレス制御装置は、被加工物として、ICに設けられている極薄のリードを折曲加工するものであって、図1に示すように、下ベース1上に支持体2が搭載され、その支持体2の上部に上ベース3が取付けられ、該上ベース3に筒形のガイド4を介して取付プレート5が取付けられている。
【0009】取付プレート5の右側端部には出力軸7を上向きの状態にして配置されたサーボモータ6が設置され、サーボモータ6の出力軸7にプーリ8が装着されると共に、このプーリ8ともう一方のプーリ10間にはタイミングベルト9が掛け回されている。プーリ10はボールネジ11の上部に装着されている。ボールネジ11は、上部にプーリ10を装着する他、その途中位置が軸受等を介し取付プレート5に回転可能に挿通しており、しかもガイド4の内部に位置する下部においては外周にネジ部(符示せず)が形成され、該下部のネジ部がガイド4の内部に配置されたボールネジナット12と軸周りに回転可能に係合している。
【0010】ボールネジナット12の外周にはラム13が固定され、しかもラム13がガイド4の内周に対し軸方向に摺動可能に取付けられている。そのため、サーボモータ6を駆動すると、プーリ8,タイミングベルト9,プーリ10を介してボールネジ11が軸周りに回転し、ボールネジ11の回転によりボールネジナット12とラム13とが一体的に軸方向に直線移動する。従って、ラム13はサーボモータ6の出力軸7に、プーリ8・10,タイミングベルト9,ボールネジ11,ボールネジナット12からなる動力変換機構を介して連結されている。
【0011】そして、ラム13においてガイド4より外方に突出する下端部には廻り止め板14が嵌め込んで固定され、該廻り止め板14にガイドシャフト15が取付けられている。ガイドシャフト15は下部が上述の如き廻り止め板14に固定され、その途中位置が上ベース3及びガイド4の鍔部に設けた穴16を挿通している。従って、サーボモータ6の駆動によってラム13が軸方向に移動したとき、それに伴い廻り止め板14も移動するが、その際、ガイドシャフト15がガイド4及び上ベース3の穴16にガイドされることにより、ラム13が軸周りに回転することがないようにしている。
【0012】さらに、ラム13の下端にはシャンクホルダ17が取付けられ、該シャンクホルダ17にプレスの上金型20が装着されている。上金型20の下方には支持体2の下部に設置されたプレスの下金型21が配置され、ラム13の降下により、上金型20が下金型21に向かって移動することにより、被加工物を所望形状に成形する。
【0013】そのため、このプレス制御装置は、被加工物を所望形状に成形し得るようサーボモータ6を介しラム13の動作(移動速度,移動量,上死点,減速点位置,下死点位置等)を制御する制御部19と、それらの制御内容をプログラムするための操作盤18とを有している。制御部19は、図2に示すように、プログラムに必要なデータを格納するメモリ191と、該メモリに基づき処理を演算しかつ実行させる中央演算処理部(CPU)190とを具えている。このCPU190は、プログラムに従い装置を自動的に加工運転する自動加工モード192と、オペレータからの操作に従い装置を運転するティーチングモード193とに応じて処理を夫々実行する。
【0014】そして、実施例のプレス制御装置において、前記制御部19は、ティーチングモード193の運転時、下死点位置を自動的に決定する下死点位置決定手段194を有している。即ち、下死点位置決定手段194は、ティーチングモード193でラム13を下降動作させたとき、たまりパルス(位置偏差)が特定量となった時点で、そのたまりパルスの特定量の位置をラム13の下死点位置として決定するようにしている。
【0015】ここで、具体的に述べると、前記たまりパルス(位置偏差)とは、サーボモータ6の検出器22の出力とサーボモータ6に対する指令値との偏差であり、特に、ティーチングモードにおいてはオペレータの操作によってラム13が下降動作した場合、実際の加工の場合と微妙に異なり、一定の値をなすものである。しかも、このたまりパルスは、使用する金型に応じ、即ち、使用する上金型20と下金型21との相対的位置関係に応じほぼ定まっている。従って、下死点位置決定手段194は、ティーチングモード193でラム13が下降動作しているとき、上金型20の下金型21に対する係合圧が次第に大きくなることにより、たまりパルスが累積し、予め定められた特定量となると、それをたまりパルス検出部195が検出することにより、特定量となった位置をラム13の下死点位置として決定し、これにより下死点位置を自動的に決定するようにしている。
【0016】そのため、下死点位置決定手段194は本例では、サーボモータ6に対して出力される指令値と、サーボモータ用検出器22からの出力値とがCPU190を介して演算し、たまりパルスの特定量を検出するたまりパルス検出部195を有している。なお、たまりパルス検出部195の機能はCPU190にもたせてもよいのは勿論である。
【0017】実施例のプレス制御装置は、上記の如き構成よりなるので、次に下死点位置を決定する作用効果を説明する。まず、プレス制御装置のラム13にシャンクホルダ17を介し使用すべき金型の上金型20を、また支持体2の下部に下金型21をそれぞれセットしておくと共に、下金型21上に被加工物をセットしておき、そして、操作盤18により装置の運転をティーチングモード193に切り換える。かかるティーチングモード状態にあるとき、オペレータが操作盤18を操作し、CPU190からラム13を下降動作する指令を与えると、サーボモータ6が駆動されることによってラム13が下降動作する。
【0018】この場合、ラム13に装着されている上金型20が被加工物を介し下金型21側まで移動し、該上金型20の下金型21に対する係合圧が次第に大きくなって、かつサーボモータ6に対する指令値とサーボモータ検出器22の検出値との偏差である一定のたまりパルスが、予め定められた特定量となるところまで移動すると、これを下死点位置決定手段194のたまりパルス検出部195が検出し、その旨を下死点位置決定手段194に出力することにより、下死点位置決定手段194がラム13のその位置を下死点位置として決定する。このとき、下死点位置決定手段194によって下死点位置が決定されると、その旨がCPU190に出力されることにより、サーボモータ6の下降駆動が停止されることとなる。
【0019】従って、ティーチングモード193の運転によってラム13が下降動作したとき、たまりパルスが特定量となった時点で、下死点位置決定手段194によりラム13の下死点位置を決定するので、下死点位置を容易に決定することができる。しかも、ティーチングモードの運転中では、サーボモータ6に対する指令値とその検出器22の検出値との偏差であるたまりパルスが一定であることを利用するものであるから、下死点位置を確実にかつ正確に求めることができる。そのため、従来技術のようにオペレータによる粗位置決めや微調整を行うことが不要になり、ラム13の一回の下降動作のみで下死点位置を容易にかつ正確に決定することができる。
【0020】また、ティーチングモードであっても、下死点位置を自動的に決まることができ、しかも上述の如くティーチングモードでのたまりパルスが一定であることを利用するので、種々の金型に対しても下死点位置を容易に決定することができ、それだけ汎用性を持たせることができるばかりでなく、制御の簡素化を図ることもできる。
【0021】さらに、ティーチングモード193でラム13を一回下降動作させて下死点位置を決定するので、種々の金型を用いても、ラム13のストロークを自動的に設定することが可能となり、ストロークの自動設定機能を果たすことも実現し得る。
【0022】なお、下死点位置決定手段194が下死点位置を決定した後、オペレータは自動加工モード193に切り換えることによって自動加工すると、その加工時には、決定された下死点位置に基づいて加工されることなる。
【0023】そして図示実施例では、下死点位置の決定に際し、下金型21上に被加工物をセットした状態で実行した例を示したが、たまりパルスは、上金型20と下金型21との相対的位置関係に基づいて発生するものであるから、被加工物が特殊な形状であったり極端に厚いものでない限り、被加工物をセットしなくとも決定することができる。また図示実施例では、オペレータがティーチングモード193に切り換え、下降動作ボタンを押し続けることによってラム13を下降させたとき、下死点位置決定手段194が下死点位置を決定するようにした例を示したが、例えば、ティーチングモード若しくは下死点位置決定モードにすれば、自動的にラム13が下降動作し、下死点位置を決定するようにすることもできるので、下死点位置決定に要するオペレータの作業性をよりいっそう改善することもできる。
【0024】さらに図示実施例では、被加工物として、ICに設けられている極薄のリードを折曲加工する例を示したが、これに限らず、被加工物を打ち抜き加工するものにも同様に適用できるのは勿論である。
【0025】
【発明の効果】以上述べたように、本発明によれば、ティーチングモードの運転によってラムが下降動作したとき、たまりパルスが特定量となった時点で、下死点位置決定手段によりラムの下死点位置を決定するように構成したので、従来技術のようにオペレータによる粗位置決めや微調整を行うことが不要になり、ラムの一回の下降動作のみで容易にかつ正確に決定することができ、また種々の金型に対しても、汎用性を持たせることができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のプレス制御装置の概略構成を示す全体図。
【図2】プレス制御装置の制御部を示すブロック図。
【符号の説明】
6…サーボモータ、22…サーボモータの検出器、13…ラム、19…制御部、194…下死点位置決定手段、195…たまりパルス検出部、20…上金型、21…下金型。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 サーボモータと、該サーボモータの出力軸に動力変換機構を介して連結され、直線往復運動するラムと、このラムに装着される上金型,固定部に取付けられかつ上金型と対応する下金型からなる金型と、サーボモータを介しラムを制御する制御部とを有し、かつ該制御部は、自動加工モードとティーチングモードとに応じて処理を切り換え実行するプレス制御装置において、前記制御部は、ティーチングモードでラムを下降動作させたとき、サーボモータの検出器出力とサーボモータに対する指令値との偏差であるたまりパルスが特定量となった時点で、該たまりパルスの特定量の位置をラムの下死点位置として決定する下死点位置決定手段を有することを特徴とするプレス制御装置。

【図2】
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【図1】
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【特許番号】特許第3315038号(P3315038)
【登録日】平成14年6月7日(2002.6.7)
【発行日】平成14年8月19日(2002.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平8−239301
【出願日】平成8年9月10日(1996.9.10)
【公開番号】特開平10−85999
【公開日】平成10年4月7日(1998.4.7)
【審査請求日】平成12年4月3日(2000.4.3)
【出願人】(000233295)日立湘南電子株式会社 (195)
【参考文献】
【文献】特開 平7−290299(JP,A)
【文献】特開 平8−24985(JP,A)
【文献】特開 平8−162587(JP,A)