説明

プレス成形方法及びプレス成形金型

【課題】 O曲げして成形された円筒形状の突合せ部の精度が確保されるプレス成形方法及びプレス成形金型を提供する。
【解決手段】 フローティングダイス6をダイス9の成形面11に対して成形部12側へ突出させて、パンチ5がストロークエンドに到達される直前のタイミングでフローティングダイス6をダイス9に対して後退させて、該フローティングダイス6の成形面11aをダイス9の成形面11に整合させた。したがって、予備成形品1がO曲げされて丸められる過程で、予備成形品1の一端部2がフローティングダイス6に突当てられて、予備成形品1の一端部2が、成形される円筒形状の軸心回りに位置決めされることにより、円筒形状の突合せ部の精度が確保される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス成形方法及びプレス成形金型に関するもので、特に、U字状に成形された予備成形品がO曲げされて円筒形状が成形されるプレス成形方法及びプレス成形金型に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、金属板材をプレス成形して円筒形状を成形する場合には、まず、金属板材を予めU曲げしてU字状に成形しておいて、次に、該U字状に成形された予備成形品をO曲げして円筒形状を成形する手法が採られる。この手法では、O曲げ工程において、予備成形品がプレス成形金型のパンチとダイスとの間で加圧されて丸められることにより、当該予備成形品の両端部の端面が突合されて所定外径寸法を有する円筒形状が成形される。しかしながら、この手法においては、予備成形品が丸められる過程で、予備成形品が軸心回りに回転する現象が起こる。このため、成形品(製品)における突合せ部の位置がばらついてしまい、特に、該突合せ部を溶接ロボットによって溶接する場合には、溶接ロボットの溶接位置(ティーチング等によってプログラムされた位置)に対して成形品の突合せ部がずれるといった問題がある。
【0003】
そこで、特許文献1には、O曲げを複数工程に分割して、各工程における金属板材の突合せ部の位置を変更することにより、成形品における突合せ部の精度が高められたUOE鋼管の製造方法が記載されている。しかしながら、このUOE鋼管の製造方法では、O曲げが複数工程に分割されるため、工程数が増大して生産性が著しく低下する。また、このUOE鋼管の製造方法では、例えば、二股形状のサスペンションアームの各アームがO曲げされる場合には、各アームのO曲げを同時に行うことが極めて困難であるため、分割された複数工程のO曲げを段取り替えを間にいれて2回に分けて行わなくてはならず、生産性の面で現実が難しい。また、従来、このようなサスペンションアームの各アームをO曲げする場合には、突合せ部に連続する開口部分に芯金を介在させて円筒形状を回り止めすることが行われる。
【0004】
この場合、成形時に芯金に掛かる負担が大きく、芯金が破損する虞がある。また、芯金と円筒形状との距離が比較的大きい場合には、各アームが丸められる過程で円筒形状に成形される部分が軸心回りに回ってしまうため、突合せ部の精度の確保が困難である。したがって、このようなサスペンションアームの各アームに成形された円筒形状の突合せ部を溶接する場合には、突合せ部の位置が円筒形状の軸心周りにばらついているため、ティーチングによってプログラムされた溶接位置と突合せ位置とがずれてしまい、溶接ロボットによる自動溶接が困難である。
【特許文献1】特開平11−285729号公報(段落番号0027〜0035、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、第1の目的は、O曲げして成形された円筒形状の突合せ部の精度が確保されるプレス成形方法を提供することにある。
また、第2の目的は、O曲げして成形された円筒形状の突合せ部の精度が確保されるプレス成形金型を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記第1の目的を達成するために、本発明のうち請求項1に記載の発明は、U字状に成形された予備成形品がO曲げされて該予備成形品の両端部が突合された円筒形状が成形されるプレス成形方法であって、プレス成形金型のダイスに、該ダイスの成形面に対して出没可能な入れ子を設けておいて、該入れ子がダイスの成形面に対して突出された状態でプレス成形金型のパンチのストロークが開始されて、予備成形品の一端部が入れ子に突当てられるステップと、入れ子が後退されて該入れ子に賦与された成形面がダイスの成形面に対して整合されることにより予備成形品の両端部が突合されるステップと、の各ステップがパンチのストロークの過程で順次実施されて、目的とする円筒形状が成形されることを特徴とする。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のプレス成形方法において、入れ子がパンチがストロークエンドに到達される直前のタイミングで後退されて予備成形品の両端部が突合されることを特徴とする。
【0007】
上記第2の目的を達成するために、本発明のうち請求項3に記載の発明は、U字状に成形された予備成形品がO曲げされて該予備成形品の両端部が突合された円筒形状が成形されるプレス成形金型であって、ダイスに設けられて該ダイスの成形面に対して出没可能な入れ子と、該入れ子がダイスの成形面に対して突出される方向へ付勢される入れ子付勢手段と、を具備して、パンチのストロークのストロークの過程で予備成形品の一端部が入れ子に突当てられると共に、入れ子が所定のタイミングで後退されることにより、該入れ子の成形面がダイスの成形面に対して整合されて予備成形品の両端部が突合されるように構成されることを特徴とする。
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載のプレス成形金型において、入れ子が、パンチがストロークエンドに到達される直前のタイミングで後退されるように構成されることを特徴とする。
【0008】
したがって、請求項1及び3に記載の発明では、パンチのストロークの過程で、予備成形品の一端部が入れ子に突当てられて、この予備成形品の一端部が入れ子に突当てられた状態が、予備成形品の両端部が突合されるまで維持される。
請求項2及び4に記載の発明では、予備成形品の一端部が入れ子に突当てられた状態が、パンチがストロークエンドに到達される直前のタイミングまで維持される。
【発明の効果】
【0009】
O曲げして成形された円筒形状の突合せ部の精度が確保されるプレス成形方法及びプレス成形金型を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の一実施の形態を図1〜図8に基づいて説明する。図1〜図3に示されるように、本プレス成形方法は、予めU字状に成形された予備成形品1(図1参照)がO曲げされることにより、該予備成形品1の両端部2,3が突合された円筒形状4が成形されるものであって、図6に示されるように、パンチ5のストロークの過程で上記予備成形品1の一端部2がフローティングダイス6(入れ子)に突当てられる。そして、図5に示されるように、当該パンチ5がストロークエンドに到達される直前のタイミングで上記フローティングダイス6が後退されることにより、予備成形品1の両端部2,3が突合されて、目的とする円筒形状4(図3参照)が成形される構造になっている。このように、本プレス成形方法では、成形時にパンチ5のストロークエンド直前まで、予備成形品1の一端部2がフローティングダイス6に突当てられて当該円筒形状4の軸心回りに位置決めされることにより、成形される円筒形状4の突合せ部7の精度が確保されるように構成される。なお、上記U字状に成形された予備成形品1とは、平坦な状態と比較して、両端部2,3の距離が相互に近接されるように湾曲された状態の予備成形品1をいう。
【0011】
図6に示されるように、本プレス成形金型8は、パンチ5とダイス9とに分割して構成されて、当該パンチ5とダイス9とが衝合されることにより、内部に、各成形面10,11によって囲繞される成形部12が形成される。上記ダイス9は、ダイスホルダを介してプレス成形装置の固定テーブルに固定される。また、上記ダイス9は、衝合部13が正面視(図6における紙面視)で略V字状に形成されて、該衝合部13の谷には、成形部12の下側部分を形成する上記成形面11が賦与される。また、上記ダイス9には、当該ダイス9に対してパンチストローク方向(図6における上下方向)へ移動可能な上記フローティングダイス6が組込まれる。該フローティングダイス6には、略V字状に形成された上記衝合部13及び上記成形面11の一側13a,11a(図6における左側)が形成される。また、上記ダイス9は、フローティングダイス9を上方(図6における上方向)へ付勢させるガススプリング14(入れ子付勢手段)を備える。
【0012】
そして、本プレス成形金型8は、フローティングダイス6が上記ガススプリング14によって上方へ付勢されて成形面11に対して成形部12側(図6における上側)へ突出された状態でパンチ5のストローク(下降)が開始されると共に、パンチ5がストロークエンド(下死点)に到達される直前のタイミング、即ちパンチ5とダイス9とが衝合される直前のタイミングで、フローティングダイス6がダイス9に対して後退されて成形面11aが成形面11に対して整合される構造になっている。そして、パンチ5がストロークエンドに到達、即ちパンチ5とダイス9とが衝合されて、当該金型8の内部に上記成形部12が形成される。なお、本プレス成形金型8では、フローティングダイス6は、パンチ5がストロークエンドに到達される直前に衝合部13aに衝突されたパンチ5によって、上記ガススプリング14の圧力に抗してダイス9に対して下方へ押し込まれて後退される構造になっている。
【0013】
また、本プレス成形金型8では、上記フローティングダイス6のダイス9の成形面11に対する突出量、及びフローティングダイス6をダイス9に対して後退させるタイミングが、必要に応じて適宜設定される。さらに、上記パンチ5は、パンチホルダを介してプレス成形装置のラムに固定される。
【0014】
次に、本実施の形態の作用を説明する。なお、本実施の形態では、図7に示される二股形状の自動車用サスペンションアーム15の各アーム16,17に円筒形状が成形される場合を説明する。上記サスペンションアーム15は、ブランキング工程、U曲げ工程、O曲げ工程を含んで構成される製造工程によって、各アーム16,17の先端部に、突合せ部7を有する円筒形状4が成形される。まず、上記ブランキング工程では、鋼板が打抜かれて所定形状(サスペンションアーム15が展開された形状)のブランク材(金属板材)が形成される。次に、該ブランク材は、次のU曲げ工程においてプレス成形されることにより、最終的に当該ブランク材におけるサスペンションアーム15の各アーム16,17に成形される部分が、U字状に成形される。そして、次のO曲げ工程では、上記U曲げ工程によって得られた予備成形品1のU字状に成形された部分がO曲げされて、サスペンションアーム15の各アーム16,17に円筒形状4が成形される。
【0015】
上記O曲げ工程では、予備成形品1が図8及び図9に示されるプレス成形金型8のダイス9にセットされた後、プレス成形装置のラムが下降されてパンチ5のストロークが開始される。なお、パンチ5のストロークが開始される時点では、フローティングダイス6(入れ子)がガススプリング14(入れ子付勢手段)によって上方(図6における上方向)へ付勢されて、当該フローティングダイス6が成形面11に対して成形部12側(図6における上側)へ突出された状態にある。そして、図1に示されるように、パンチ5のストローク前半では、予備成形品1のU字状に形成された各アーム16,17に成形される部分(以下、予備成形品1の各アーム16,17と称する。)が、両端部2,3が近接されるようにして丸められる。この時、図6に示されるように、U字状に形成された予備成形品1の各アーム16,17の一端部2がフローティングダイス6の側面に突当てられて、予備成形品1の各アーム16,17が各アーム16,17の軸心回りに位置決めされる。
【0016】
そして、図2及び図4に示されるパンチ5がストロークエンド(下死点)に到達される直前のタイミング(パンチ5がストロークエンドの数mm手前に到達されるタイミング)でガススプリング14が圧縮されてフローティングダイス6がダイス9に対して後退されることにより、図5に示されるように、フローティングダイス6の成形面11aがダイス9の成形面11に整合される。これにより、予備成形品1の各アーム16,17の両端部2,3の端面が、フローティングダイス6とダイス9との境界18で突合される。そして、図3に示されるように、パンチ5がストロークエンドに到達された時点、即ちパンチ5とダイス9とが衝合された時点で、プレス成形金型8の内部に成形部12が形成されて、各アーム16,17の先端部に、目的とする円筒形状4が成形される。
【0017】
この実施の形態では以下の効果を奏する。
本プレス成形方法では、予めU字状に成形された予備成形品1をO曲げして円筒形状4を成形するに際して、フローティングダイス6(入れ子)がダイス9の成形面11に対して成形部12側へ突出されて、パンチ5がストロークエンド(下死点)に到達される直前のタイミングでフローティングダイス6がダイス9に対して後退されて、該フローティングダイス6の成形面11aがダイス9の成形面11に整合される。
したがって、本プレス成形方法では、U字状に成形された予備成形品1がO曲げされて丸められる過程で、当該予備成形品1の一端部2が、ダイス9の成形面11に対して成形部12側へ突出されたフローティングダイス6に突当てられる。そして、予備成形品1の一端部2がフローティングダイス6に突当てられた状態が、パンチ5がストロークエンドに到達される直前のタイミングまで継続される。
【0018】
これにより、本プレス成形方法では、予備成形品1の一端部2がフローティングダイス6によって成形部12の軸心回り(成形される円筒形状4の軸心回り)に位置決めされて、パンチ5がストロークエンドに到達される直前のタイミングで予備成形品1の両端部2,3の端面が突合されて円筒形状4が成形されるので、円筒形状4の突合せ部7の位置(円筒形状4の軸心回りの角度位相)の制御が可能になり、当該円筒形状4の突合せ部7の精度が確保される。このようにして成形された円筒形状4は、成形品(本実施の形態では、サスペンションアーム15。)間における突合せ部7の位置にばらつきが極めて小さいため、当該突合せ部7を溶接ロボットで接合するに向けて好適である。
【0019】
なお、実施の形態は上記に限定されるものではなく、例えば次のように構成してもよい。
本実施の形態では、フローティングダイス6(入れ子)がガススプリング14(入れ子付勢手段)によって上方へ付勢されてダイス9の成形面11に対して成形部12側へ突出されるが、ガススプリング14の代わりに、圧縮コイルばね、皿ばね、ゴム等の弾性材料を用いて構成してもよい。
また、ガススプリング14の代わりに油圧シリンダを用いて、プレス成形装置のラムの位置に応じてダイス9に対するフローティングダイス6の位置(突出の度合)を制御するように構成してもよい。これにより、必要に応じてダイス9の成形面11に対するフローティングダイス6の突出量をより精密に制御することが可能になる。
また、本実施の形態では、ラムが下死点に到達されることでパンチ5とダイス9とが衝合されるが、ラムが上死点に到達されることでパンチ5とダイス9とが衝合されるタイプのプレス成形装置に本プレス成形金型8を装着してもよい。この場合、ダイス9がパンチ5の上方に配置される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本実施の形態の説明図であって、U字状に成形された予備成形品が丸められる過程を示す図である。
【図2】本実施の形態の説明図であって、パンチがストロークエンドに到達される直前の状態を示す図である。
【図3】本実施の形態の説明図であって、パンチとダイスとが衝合された状態を示す図である。
【図4】図2におけるA部詳細図である。
【図5】図3におけるB部詳細図である。
【図6】本実施の形態の説明図であって、特に、予備成形品の一端部がフローティングダイスに突当てられた状態を示す図である。
【図7】本プレス成形金型によって成形されるサスペンションアームの平面図である。
【図8】本実施の形態の説明図であって、図7に示されるサスペンションアームを成形するためのプレス成形金型のダイスを示す図である。
【図9】図8に示されるダイスの要部詳細図である。
【符号の説明】
【0021】
1 予備成形品、2 一端部、4 円筒形状、5 パンチ、6フローティングダイス(入れ子)、8 プレス成形金型、9 ダイス、11 成形面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
U字状に成形された予備成形品がO曲げされて該予備成形品の両端部が突合された円筒形状が成形されるプレス成形方法であって、
プレス成形金型のダイスに、該ダイスの成形面に対して出没可能な入れ子を設けておいて、該入れ子が前記ダイスの成形面に対して突出された状態で前記プレス成形金型のパンチのストロークが開始されて、前記予備成形品の一端部が前記入れ子に突当てられるステップと、
前記入れ子が後退されて該入れ子に賦与された成形面が前記ダイスの成形面に対して整合されることにより前記予備成形品の両端部が突合されるステップと、
の各ステップが前記パンチのストロークの過程で順次実施されて、目的とする円筒形状が成形されることを特徴とするプレス成形方法。
【請求項2】
前記入れ子が、前記パンチがストロークエンドに到達される直前のタイミングで後退されて前記予備成形品の両端部が突合されることを特徴とする請求項1に記載のプレス成形方法。
【請求項3】
U字状に成形された予備成形品がO曲げされて該予備成形品の両端部が突合された円筒形状が成形されるプレス成形金型であって、
ダイスに設けられて該ダイスの成形面に対して出没可能な入れ子と、該入れ子が前記ダイスの成形面に対して突出される方向へ付勢される入れ子付勢手段と、を具備して、
パンチのストロークの過程で前記予備成形品の一端部が前記入れ子に突当てられると共に、前記入れ子が所定のタイミングで後退されることにより、該入れ子の成形面が前記ダイスの成形面に対して整合されて前記予備成形品の両端部が突合されるように構成されることを特徴とするプレス成形金型。
【請求項4】
前記入れ子が、前記パンチがストロークエンドに到達される直前のタイミングで後退されるように構成されることを特徴とする請求項3に記載のプレス成形金型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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