説明

プレス機械、プレス機械の制御装置及び制御方法

【課題】プレス運転速度またはプレス負荷エネルギが変動した場合でも、最適な制御を可能にし、広い運転条件でモータ電力の低減を可能にする。
【解決手段】回転体7の回転角を検知する角度検知装置25と、該角度検知装置から入力される回転角の値に基づき、プレス機械の特性に応じた必要モータトルクを決定するトルク決定装置と、必要モータトルクが予め定められたモータトルク基準値よりも小さくなる回転体の回転角では、モータ1の回転指令速度を前記一定指令速度よりも増加させる速度調節装置と、を備える。さらに、速度調節装置が回転指令速度を増加させる量を、プレス運転速度またはプレス負荷エネルギの変動に応じて、補正する補正装置27を備える。速度調節装置が回転指令速度を増加させる量と、補正装置が当該増加させる量を補正する量との両方を、モータの最大消費電力を低減するように反映した回転指令速度で、モータを回転駆動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転運動を往復運動に変換する機構を有するプレス機械に関する。
【背景技術】
【0002】
プレス機械には、スライドを液圧によって駆動する液圧プレスと、スライドを機械式機構によって駆動する機械プレスとがある。
機械プレスには、クランク軸をモータにより回転駆動するクランクプレスがあり、クランクプレスでは、クランク軸の回転によりスライドを昇降させる。このように、クランク軸の回転運動をスライドの往復運動に変換する。
スライドの下降時に、スライドの下面に固定された上金型と、スライドの下方に配置された下金型との間に被加工物を挟み込んでプレスを行う。
【0003】
また、機械プレスには、回転エネルギが蓄積されるフライホイールを用いる機械プレスと、フライホールを用いずに、正転、逆転及び速度変化を自由に調節できるサーボモータを用いた機械プレスとがある。
【0004】
フライホイールを用いたプレス機械は、例えば、図11に示すように、モータ41の回転駆動力をプーリ43及び伝達ベルト45を介してフライホイール47に伝達する。クラッチ49は、ON状態でフライホイール47をメインギヤ51に連結し、OFF状態でフライホイール47をメインギヤ51から分離する。
メインギヤ51はクランク軸53の一端部に固定されており、クランク軸53はメインギヤ51と共に回転駆動される。
クランク軸53の偏心部には連結部材55の一端部が連結され、連結部材55の他端部にはスライド57が連結される。これにより、クランク軸53の回転運動がスライド57の往復直線運動に変換され、スライド57が昇降される。
【0005】
この構成では、フライホイール47に蓄積される回転エネルギは、被加工物をプレスするクランク軸53の回転角領域で放出され、その他の回転角領域で再びフライホイール47に蓄積される。
【0006】
フライホイールを用いたプレス機械の場合には、フライホイール、クラッチを用いるためその分だけ装置が大型化する。
その一方、フライホイールを用いずサーボモータを用いたプレス機械の場合には、フライホイールやクラッチを省略できる利点がある。
【0007】
しかし、サーボモータを用いたプレス機械の場合には、フライホイールに回転エネルギを蓄積することができないので、サーボモータとモータ駆動用の電源設備を大容量にしなければならない。
【0008】
この点を考慮して下記特許文献1では、電気エネルギ蓄積用のコンデンサを交流電源設備に接続し、被加工物をプレスするクランク軸の回転角領域において、コンデンサに蓄積された電気エネルギをサーボモータに供給している。
これにより、交流電源設備を小型化し、プレス時に必要なエネルギを確保している。
【0009】
しかし、特許文献1の場合には、交流電源設備を小型化できても、加工物をプレスするクランク軸の回転角領域において大電流をサーボモータに供給するので、サーボモータを直接駆動する駆動回路は、その分、大型化してしまう。
一方、フライホイールを用いたプレス機械においてもモータ及びモータの駆動回路をさらに小型化することが望まれる。
また、プレス機械において消費電力を低減することも望まれる。
【0010】
そこで、本出願人は、モータ及びモータの駆動回路を小型化でき、かつ、消費電力を低減できるプレス機械、プレス機械の制御装置及び制御方法を、既に下記特許文献2として出願している。
この特許文献2では、プレス機械の特性に応じた、回転体(クランク軸など)の回転角ごとに必要モータトルクを決定し、この必要モータトルクが予め定められたモータトルク基準値よりも小さくなる回転体の回転角では、モータの回転指令速度を一定指令速度よりも増加させ、モータトルク基準値よりも大きくなる回転体の回転角では、モータの回転指令速度を一定指令速度よりも減少させている。これにより、最大モータトルク値を効果的に低減している。その結果、モータ及びモータの駆動回路を小型化でき、かつ、消費電力を低減できる。
【特許文献1】特開2004−344946号公報 「プレス機械」
【特許文献2】特願2006−105575 「プレス機械、プレス機械の制御装置及び制御方法」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、特許文献2において、上述の必要モータトルクは、回転体の回転角だけでなく、プレス運転速度またはプレス負荷エネルギの変動によっても変化する。
プレス運転速度は、スライドが1往復運動する速さに相当し、例えば、プレスのためスライドが1往復する期間にわたるモータ41の平均回転速度により表わすことができる。
プレス負荷エネルギは、プレスのためスライドが1往復する期間に、プレス機械が行う仕事量またはプレス機械が消費するエネルギに相当し、例えば、プレス金型の種類やクッション設定圧などにより定まるものである。
【0012】
このように、プレス運転速度またはプレス負荷エネルギが変動する場合に、プレス運転速度またはプレス負荷エネルギの各値ごとに、上記必要モータトルクを予め求めておくことは非常に労力を要する。
【0013】
そこで、本発明の目的は、特許文献2の発明を改良し、プレス運転速度またはプレス負荷エネルギが変動する場合に、プレス運転速度またはプレス負荷エネルギの各値ごとに、必要モータトルクを予め求める労力を省くことができるとともに、プレス運転速度またはプレス負荷エネルギが変動した場合でも、最適な制御を可能にし、広い運転条件でモータ電力の低減を可能にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、本発明によると、モータと、該モータにより回転駆動される回転体を有しこの回転運動を往復運動に変換する変換機構と、該変換機構に連結されて往復運動するスライドと、を備え、前記モータを一定指令速度で回転させた場合に前記回転体の回転角に従ってモータ実績トルクが変動するプレス機械の制御装置であって、前記回転体の回転角を検知する角度検知装置と、該角度検知装置から入力される回転角の値に基づき、プレス機械の特性に応じた必要モータトルクを決定するトルク決定装置と、前記必要モータトルクが予め定められたモータトルク基準値よりも小さくなる前記回転体の回転角では、モータの回転指令速度を前記一定指令速度よりも増加させる速度調節装置と、を備え、さらに、前記速度調節装置が前記回転指令速度を増加させる量を、プレス運転速度またはプレス負荷エネルギの変動に応じて、補正する補正装置を備え、前記速度調節装置が回転指令速度を増加させる量と、前記補正装置が当該増加させる量を補正する量との両方を、前記モータの最大消費電力を低減するように反映した回転指令速度で、前記モータを回転駆動する、ことを特徴とするプレス機械の制御装置が提供される。
【0015】
上記プレス機械の制御装置では、特許文献2と同様に、速度調節装置が、必要モータトルクが予め定められたモータトルク基準値よりも小さくなる回転体の回転角では、モータの回転指令速度を前記一定指令速度よりも増加させるが、これに加え、補正装置が、この増加させる量を、プレス運転速度またはプレス負荷エネルギの変動に応じて補正する。さらに、速度調節装置が回転指令速度を増加させる量と、補正装置が当該増加させる量を補正する量との両方を、モータの最大消費電力を低減するように反映した回転指令速度で、モータを回転駆動する。
従って、プレス運転速度またはプレス負荷エネルギが変動する場合に、プレス運転速度またはプレス負荷エネルギの各値ごとに、必要モータトルクを予め求める労力を省くことができるとともに、プレス運転速度またはプレス負荷エネルギが変動した場合でも、最適な制御が可能になり、広い運転条件でモータ電力の低減できる。
【0016】
また、上記目的を達成するため、本発明によると、モータと、該モータにより回転駆動される回転体を有しこの回転運動を往復運動に変換する変換機構と、該変換機構に連結されて往復運動するスライドと、を備え、前記モータを一定指令速度で回転させた場合に前記回転体の回転角に従ってモータ実績トルクが変動するプレス機械の制御装置であって、前記回転体の回転角を検知する角度検知装置と、該角度検知装置から入力される回転角の値に基づき、プレス機械の特性に応じた必要モータトルクを決定するトルク決定装置と、前記必要モータトルクが予め定められたモータトルク基準値よりも大きくなる前記回転体の回転角では、モータの回転指令速度を前記一定指令速度よりも減少させる速度調節装置と、を備え、さらに、前記速度調節装置が前記回転指令速度を減少させる量を、プレス運転速度またはプレス負荷エネルギの変動に応じて、補正する補正装置を備え、前記速度調節装置が回転指令速度を減少させる量と、前記補正装置が当該減少させる量を補正する量との両方を、前記モータの最大消費電力を低減するように反映した回転指令速度で、前記モータを回転駆動する、ことを特徴とするプレス機械の制御装置が提供される。
【0017】
上記プレス機械の制御装置では、特許文献2と同様に、速度調節装置が、必要モータトルクが予め定められたモータトルク基準値よりも大きくなる回転体の回転角では、モータの回転指令速度を一定指令速度よりも減少させるが、これに加え、補正装置が、この減少させる量を、プレス運転速度またはプレス負荷エネルギの変動に応じて補正する。さらに、速度調節装置が回転指令速度を減少させる量と、補正装置が当該減少させる量を補正する量との両方を、モータの最大消費電力を低減するように反映した回転指令速度で、モータを回転駆動する。
従って、プレス運転速度またはプレス負荷エネルギが変動する場合に、プレス運転速度またはプレス負荷エネルギの各値ごとに、必要モータトルクを予め求める労力を省くことができるとともに、プレス運転速度またはプレス負荷エネルギが変動した場合でも、最適な制御が可能になり、広い運転条件でモータ電力の低減できる。
【0018】
また、上記目的を達成するため、本発明によると、モータと、該モータにより回転駆動される回転体を有しこの回転運動を往復運動に変換する変換機構と、該変換機構に連結されて往復運動するスライドと、を備え、前記モータを一定指令速度で回転させた場合に前記回転体の回転角に従ってモータ実績トルクが変動するプレス機械の制御装置であって、前記回転体の回転角を検知する角度検知装置と、該角度検知装置から入力される回転角の値に基づき、プレス機械の特性に応じた必要モータトルクを決定するトルク決定装置と、前記必要モータトルクが予め定められたモータトルク基準値よりも小さくなる前記回転体の回転角では、モータの回転指令速度を前記一定指令速度よりも増加させ、前記必要モータトルクが予め定められたモータトルク基準値よりも大きくなる前記回転体の回転角では、モータの回転指令速度を前記一定指令速度よりも減少させる速度調節装置と、を備え、さらに、前記速度調節装置が前記回転指令速度を増加または減少させる量を、プレス運転速度またはプレス負荷エネルギの変動に応じて、補正する補正装置を備え、前記速度調節装置が回転指令速度を増加または減少させる量と、前記補正装置が当該増加または減少させる量を補正する量との両方を、前記モータの最大消費電力を低減するように反映した回転指令速度で、前記モータを回転駆動する、ことを特徴とするプレス機械の制御装置が提供される。
【0019】
上記プレス機械の制御装置では、特許文献2と同様に、速度調節装置が、必要モータトルクが予め定められたモータトルク基準値よりも小さくなる回転体の回転角では、モータの回転指令速度を一定指令速度よりも増加させ、必要モータトルクが予め定められたモータトルク基準値よりも大きくなる回転体の回転角では、モータの回転指令速度を一定指令速度よりも減少させるが、これに加え、補正装置が、この増加または減少させる量を、プレス運転速度またはプレス負荷エネルギの変動に応じて補正する。さらに、速度調節装置が回転指令速度を増加または減少させる量と、補正装置が当該増加または減少させる量を補正する量との両方を、モータの最大消費電力を低減するように反映した回転指令速度で、モータを回転駆動する。
従って、プレス運転速度またはプレス負荷エネルギが変動する場合に、プレス運転速度またはプレス負荷エネルギの各値ごとに、必要モータトルクを予め求める労力を省くことができるとともに、プレス運転速度またはプレス負荷エネルギが変動した場合でも、最適な制御が可能になり、広い運転条件でモータ電力の低減できる。
【0020】
本発明の好ましい実施形態によると、前記補正装置は、プレス運転速度が小さいほど、又は、プレス負荷エネルギが大きいほど、速度調節装置が前記回転指令速度を増加または減少させる量を大きくする補正をする。
【0021】
プレス運転速度が小さいほど、又は、プレス負荷エネルギが大きいほど、回転体の角度に対する必要モータトルクの振幅は大きくなる。従って、プレス運転速度が小さいほど、又は、プレス負荷エネルギが大きいほど、回転指令速度を増加または減少させる量を大きくすることで、モータ電力を効果的に低減できる。
【0022】
また、本発明の好ましい実施形態によると、前記補正装置は、プレス運転速度またはプレス負荷エネルギの値が入力される入力部を有する。
【0023】
これにより、入力部から入力されたプレス運転速度またはプレス負荷エネルギの値に基づいて、補正装置は、速度調節装置が前記回転指令速度を増加または減少させる量の補正を行える。
【0024】
好ましくは、前記速度調節装置は、前記必要モータトルクと、前記モータトルク基準値との差に、一定のゲインを乗じた値の大きさだけ、モータの回転指令速度を前記一定指令速度から増減させる。このように、トルク変動量に比例する量だけモータの回転指令速度を増減するので、より効率的に回転エネルギを回転系に与えることができる。
また、前記速度調節装置がモータの回転指令速度を増加させる量と、モータの回転指令速度を減少させる量とは、所定時間にわたる時間積分値が等しくしてよい。このように、回転指令速度を増加させる量と、減少させる量とは、所定時間にわたる時間積分値が等しくすることで、所定時間にわたるプレス動作時間を、一定指令速度でモータを回転させた場合の所定時間にわたるプレス動作時間と合わせることができ、プレス生産速度を低下させずに済む。
【0025】
本発明の好ましい実施形態によると、上記制御装置は、前記プレス負荷エネルギを求める計測算出装置をさらに備え、該計測算出装置は、前記モータにより駆動されるプレス運動機構の運動エネルギーが、前記スライドの1往復期間において変化する量を計測する第1計測部と、前記1往復期間において前記モータがプレス運動機構に与えるエネルギ値を計測する第2計測部と、第1計測部が計測した、前記運動エネルギが変化する量と、第2計測部が計測した前記エネルギ値とに基づいて、前記プレス負荷エネルギを算出する算出部と、を備え、前記補正装置は、該プレス負荷エネルギを用いて、前記回転指令速度を増加または減少させる量を補正する。
【0026】
プレス運動機構の運動エネルギーが、スライドの1往復期間において変化する量(減少する量の大きさ)と、モータがプレス運動機構に与えるエネルギ値との和が、プレス負荷エネルギとなる。従って、第1計測部が計測した、運動エネルギが変化する量と、第2計測部が計測したエネルギ値とに基づいて、プレス負荷エネルギを算出することができる。
【0027】
本発明によると、上述した制御装置を有するプレス機械が提供される。
【0028】
また、本発明によると、モータと、該モータにより回転駆動される回転体を有しこの回転運動を往復運動に変換する変換機構と、前記変換機構に連結されて往復運動するスライドと、を備え、前記モータを一定指令速度で回転させた場合に前記回転体の回転角に従ってモータ実績トルクが変動するプレス機械の制御方法であって、前記回転体の回転角を検知する段階と、該検知した回転角の値に基づき、プレス機械の特性に応じた必要モータトルクを決定する段階と、前記必要モータトルクが予め定められたモータトルク基準値よりも小さくなる前記回転体の回転角では、モータの回転指令速度を前記一定指令速度よりも増加させる段階と、前記回転指令速度を増加させる量を、プレス運転速度またはプレス負荷エネルギの変動に応じて、補正する段階と、前記回転指令速度を増加させる量と、当該増加させる量を補正する量との両方を、前記モータの最大消費電力を低減するように反映した回転指令速度で、前記モータを回転駆動する段階と、を有する、ことを特徴とするプレス機械の制御方法が提供される。
【0029】
この制御方法でも、上述のプレス機械の制御装置と同様に、上記目的を達成できる。
【0030】
なお、この制御方法において、スライドの往復運動によるモータトルク変動要素と、回転体の回転運動によるモータトルク変動要素とに基づいて、前記必要モータトルクを決定してよい。これにより、スライドの往復運動と回転体の回転運動によるモータトルク変動要素を考慮したモータ回転速度の制御を行うことができる。
【0031】
さらに、本発明によると、モータと、該モータにより回転駆動される回転体を有しこの回転運動を往復運動に変換する変換機構と、該変換機構に連結されて往復運動するスライドと、を備え、前記モータを一定指令速度で回転させた場合に前記回転体の回転角に従ってモータ実績トルクが変動するプレス機械の制御方法であって、プレス機械の試運転を行うことにより、モータへ供給する電流から求められる、プレス機械の特性に応じた必要モータトルク値と、クランク軸の回転角の値との関係を作成する段階と、前記回転体の回転角を検知する段階と、該検知した回転角の値と前記関係に基づき、該回転角の値に対応する必要モータトルクを決定する段階と、前記必要モータトルクが予め定められたモータトルク基準値よりも小さくなる前記回転体の回転角では、モータの回転指令速度を前記一定指令速度よりも増加させる段階と、前記回転指令速度を増加させる量を、プレス運転速度またはプレス負荷エネルギの変動に応じて、補正する段階と、前記回転指令速度を増加させる量と、当該増加させる量を補正する量との両方を、前記モータの最大消費電力を低減するように反映した回転指令速度で、前記モータを回転駆動する段階と、を有することを特徴とするプレス機械の制御方法が提供される。
【0032】
この制御方法でも、上述のプレス機械の制御装置と同様に、上記目的を達成できる。
【0033】
なお、この制御方法では、試運転により得られた関係に、検知された回転角を当てはめるだけで、必要モータトルクを決定することができる。この場合、プレス運転速度またはプレス負荷エネルギが変動しても、この変動に対する補正が補正装置により行われるので、再度、試運転を行って必要モータトルクを決定する必要がなくなる。例えば、プレス機械では運転開始時は低速で運転し、パネルの生産品質をチェックしながら、次第に速度を増速していくという運転方法がとられる場合が多いが、このような場合にも、再度、試運転を行うことなく、プレス運転を継続しながら補正装置によりプレス運転速度の変動に対応できる。
【発明の効果】
【0034】
上述した本発明によると、プレス運転速度またはプレス負荷エネルギが変動する場合に、プレス運転速度またはプレス負荷エネルギの各値ごとに、必要モータトルクを予め求める労力を省くことができるとともに、プレス運転速度またはプレス負荷エネルギが変動した場合でも、最適な制御が可能になり、広い運転条件でモータ電力の低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
本発明の好ましい実施形態を図面を参照して説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0036】
[第1実施形態]
図1は、本発明のプレス機械10の構成を示す図である。図1に示すように、プレス機械10は、モータ1と、モータ1の回転駆動力により回転するプーリ3及び伝達ベルト5と、モータ1の駆動力がプーリ3及び伝達ベルト5を介して伝達され回転するフライホイール6と、フライホイール6から回転駆動力が伝達されるクランク軸7と、ON状態でフライホイール6とクランク軸7を連結しOFF状態でクランク軸7をフライホイール6から分離するクラッチ9と、クランク軸7の回転により昇降するスライド11と、一端部がクランク軸7の偏心部に連結され他端部がスライド11に連結されてスライド11を昇降させる連結部材12と、を備える。
スライド11の下面にはプレス用の上金型が固定されており、スライド11が下降すると、上金型とスライド11の下方に設けられている下金型との間で被加工物をプレスする。
【0037】
また、プレス機械10には、モータ1の回転速度を制御する制御装置15が組み込まれている。制御装置15は、例えば、外部から入力された被加工物のプレス条件などに応じてモータ1の回転指令速度値(以下、指令速度値という)を出力する速度指令部17と、速度指令部17からの指令速度値を指令調節部19を介して受け、これに応じた電流をモータ1に供給するモータ駆動部21(例えば、駆動回路)と、を有する。なお、図1の例では、速度指令部17からの指令速度値はリミッタを介して指令調節部19へ入力される。
【0038】
まず、速度指令部17から一定の指令速度値が指令調節部19を介さずにモータ駆動部21に入力される場合について説明する。
この場合、モータ駆動部21は入力される指令速度値に基づいてモータ1へ電流を供給する。
さらに、モータ駆動部21は、モータ1の回転速度を検出するタコジェネレータなどの角速度センサ23からの検出値を受け、モータ1の検出回転速度が指令速度値となっているか判断し、速度が異なっていれば、モータ1への電流を調節する。これにより、モータ1の検出回転速度が一定指令速度値になるように制御される。
【0039】
図2は、上述のように、モータ1を一定指令速度(即ち、定速度)で回転させてプレス機械10を運転した場合におけるモータ1の必要トルク変動を示すグラフである。なお、本明細書と特許請求の範囲において、必要モータトルクとは、プレス機械の特性、プレスの被加工物及びクランク軸7の所望の一定回転速度などによって定まるモータ1のトルクを言う。
図2(A)において、横軸は時間を示し、縦軸はクランク軸7の回転角を示している。クランク軸7の回転角は、プレスの1周期ごとに0〜360度まで変位するので、図2(A)では、プレスの1周期ごとに同じ波形が繰り返される。
図2(B)において、横軸は時間を示し、縦軸は速度指令部17が出力する指令速度値を示している。この場合、指令速度値は一定である。
図2(C)は、モータ1を一定指令速度で回転させてプレス機械10を運転した場合に、モータ1の必要トルク変動を示している。この図に示すように、モータ1によりクランク軸7を図2(B)の一定指令速度で回転させると、クランク軸7に結合されている様々な機械的要素によって、時間に従ってモータ1の必要トルクが変動する。即ち、プレス機械のモータ実績トルクは、クランク軸7の回転角に従って変動する。
【0040】
第1実施形態によるプレス機械10は、図1に示すように、クランク軸7の一端部に結合されているメインギヤ29の回転角を検出するロータリーエンコーダなどの角度センサ25をさらに備える。
制御装置15は、図2(B)に示すように一定指令速度でモータ1を回転させた場合にモータの必要トルクが、図2(C)に示すモータトルク基準値よりも小さくなるクランク軸7の回転角では、モータ1の回転指令速度を図2(B)の一定指令速度よりも増加させる制御を行う。これにより、回転系に回転エネルギを効率よく与えることができるので、最大モータトルク値を効果的に下げることができる。従って、最大モータトルク値を低減できるので、モータ1及びモータ駆動部21の電気容量を小さくすることができ、モータ1及びモータ駆動部21を小型化できる。また、回転系に回転エネルギを効率よく与えることができるので、消費電力を低減することもできる。
なお、本明細書、特許請求の範囲において、モータトルク基準値は、例えば、図2(C)の実線で示す変動する必要モータトルクの一周期にわたる平均値又は必要モータトルクの所定時間にわたる平均値であってもよいが、これに限定されず、図2(C)の実線で示す必要モータトルクの最小値よりも大きく、図2(C)の実線で示す必要モータトルクの最大値よりも小さい一定値である。
【0041】
また、制御装置15は、上記一定指令速度でモータ1を回転させた場合に必要モータトルクが上記モータトルク基準値よりも大きくなるクランク軸7の回転角では、モータ1の回転指令速度を上記一定指令速度よりも減少させる。これにより、最大モータトルク値をさらに低減することができる。
【0042】
以下において、このような制御を行うプレス機械10を詳細に説明する。
【0043】
図1に示すように、第1実施形態によるプレス機械10の制御装置15は、角度センサ25からの出力値に応じてモータ1の速度調節値を出力する演算部26と、演算部26からの入力された速度調節値の分だけ、速度指令部17から入力された指令速度値を増減させる指令調節部19と、をさらに備える。指令調節部19は、このように増減調節された指令速度値をモータ駆動部21に出力する。なお、図1の例では、演算部26からの速度調節値はリミッターを介して指令調節部19へ入力される。
【0044】
制御装置15は、さらに後述の補正装置を有する。補正装置は、補正部27a(図1参照)と補正部27bとを有する。
以下においては、便宜上、まず、補正装置を用いない場合について説明し、その後、補正装置を制御装置15に組み込んだ場合について説明する。
【0045】
角度センサ25は、クランク軸7に結合されたメインギヤ29の回転角を検出することで、クランク軸7の回転角を検出して、連続的に検出値を出力する。
【0046】
演算部26は、入力されるクランク軸7の回転角の値に応じてモータ1の回転指令速度を増減するための速度調節値を算出する速度調節関数として機能する。
【0047】
図3は、この関数への入力からその出力までの流れを示す図である。
演算部26、即ち、速度調節関数へ角度センサ25から回転角の値が入力されると、まず、この入力に基づいて、スライドの往復運動による必要モータトルクの変動要素と、クランク軸の回転運動による必要モータトルクの変動要素の計算が行われる。
【0048】
1.スライドの往復運動による必要モータトルク変動要素の計算
スライドの往復運動による必要モータトルク変動要素の計算(図3のS1で示す)のために、回転角の値が入力されると、この回転角をスライド11の位置に変換する。
そして、このスライド位置の情報に基づいて、スライドの往復運動による必要モータトルク変動要素が計算される。
このトルク変動要素計算は、次の各要素(1)〜(6)について行われる。
【0049】
(1)スライド摩擦
スライドの動摩擦係数とスライドの速度との積として求める。この場合、スライドの速度はクランク軸の回転角に従って変化するので、スライドの摩擦力もクランク軸の回転角に従って変化する。
(2)スライドの慣性
スライドの重量と、スライドの加速度の積として求める。この場合、スライドの加速度はクランク軸の回転角に従って変化するので、スライドの慣性もクランク軸の回転角に従って変化する。
(3)クッション
ダイクッションがプレス時に動作している間のみ、設定されたクッション力から、ダイクッションがスライドに作用する力を求める。この場合も、ダイクッションがスライドに作用する力は、クランク軸の回転角に従って変化する。
(4)プレス加圧力
プレスをバネとしてモデル化し、このバネが縮んでいる間のみ(即ち、上金型と下金型が接触している間のみ)、発生するプレス加圧力をバネ定数と縮み量の積として求める。この場合も、プレス加圧力は、クランク軸の回転角に従って変化する。
(5)カウンタバランサ
スライド11の自重やスライド11に連結されている機械要素の自重からスライド11に作用する力との釣り合いをとるため、スライド11を上方又は下方に付勢するカウンタバランサがプレス機械10に設けられる場合がある。
このカウンタバランサは空圧シリンダなどにより構成され、カウンタバランサがスライド11に作用させる力の大きさは、スライド11の位置、即ち、クランク軸7の回転角によって変動する。
(6)その他の要素
上記以外に、往復運動するスライド11に力を及ぼすその他の要素がある場合には、これについても考慮する。
【0050】
上記(1)〜(6)について、スライド11に作用する各力をクランク軸の回転角の関数として予め求めておく。
【0051】
上記(1)〜(6)について、入力された回転角に応じてスライド11に作用する直線的な力を求めたら、図3に示すように、これらの直線的な力を加算する。続いて、加算された直線的な力をモータの必要トルク要素に変換する。なお、図3において、符号a〜fが示す補正ゲインが(1)〜(6)からの出力に乗算されているが、これら補正ゲインは、補正部27bによるものなので、後述する。
【0052】
2.クランク軸の回転運動による必要モータトルクの変動要素の計算
一方、クランク軸の回転運動による必要モータトルクの変動要素の計算(図3のS2で示す)も行う。この計算は、回転運動をスライドの往復運動に変換することにより発生する必要モータトルク要素をクランク軸の回転角の関数として求める。本実施形態の場合には、クランク軸の偏心により発生する必要モータトルク変動要素を、クランク軸の回転角の関数として求める。
この必要モータトルク変動要素も、クランク軸の回転角の関数として予め求めておき、この関数により入力された回転角に応じて必要モータトルク要素の値が算出される。
【0053】
このように、入力された回転角に応じて、スライド11の往復運動による必要モータトルク要素と、クランク軸の回転運動による必要モータトルク変動要素とが算出されたら、図3に示すように、これらを加算して必要モータトルクを算出する。
図4(A)は、この必要モータトルクの例を示している。なお、この図において、横軸はクランク軸の回転角を示し、縦軸は単位を持たせずにトルク変動割合を示している。
【0054】
続いて、スライド11の往復運動による必要モータトルク要素と、クランク軸の回転運動による必要モータトルク変動要素との総和である必要モータトルクと、モータトルク基準値との差をトルク変動値として算出する。
図4(B)は、このようにして取り出したトルク変動値を表している。なお、この図において、横軸はクランク軸の回転角を示し、縦軸は単位を持たせずにトルク変動割合を示している。
【0055】
好ましくは、図4(A)に示す関数で表された必要モータトルクをクランク軸7の回転角の1周期(0〜360度)にわたって回転角で積分した値がゼロとなるように、横軸の位置(即ち、モータトルク基準値)が図4(B)のように定められている。従って、この場合には、クランク軸7の回転1周期にわたる必要モータトルクの平均値がゼロになるように、横軸の位置を定める。
【0056】
次に、必要モータトルクとモータトルク基準値との差であるトルク変動値に、一定のゲイン(倍率)を乗算し、これを速度調節値として出力する。
【0057】
図3に示すように、上述の手順に従って、演算部26にクランク軸7の回転角が入力されると、演算部26から速度調節値が出力される。
【0058】
上述のように、本発明では、プレス機械10の特性に応じた必要モータトルクを算出し、この必要モータトルクに応じて速度調節値が算出される。
本実施形態では、上記一定指令速度でモータ1を回転させた場合に必要モータトルクが上記モータトルク基準値よりも小さくなるクランク軸7の回転角では、モータ1の回転指令速度を上記一定指令速度よりも増加させるように、速度調節値が算出される。
また、上記一定指令速度でモータ1を回転させた場合に必要モータトルクが上記モータトルク基準値よりも大きくなるクランク軸7の回転角では、モータ1の回転指令速度を上記一定指令速度よりも減少させるように速度調節値が算出される。
【0059】
図3の例では、クランク軸7の回転角が入力されると、図4(B)に示す、入力された回転角でのトルク変動値に一定のゲインを乗じた値の大きさとなる速度調節値が出力されるように演算部26の速度調節関数を作成する。なお、上記一定指令速度でモータ1を回転させた場合に必要モータトルクが上記モータトルク基準値よりも小さくなる回転角に対する速度調節関数の出力値は正である。一方、上記一定指令速度でモータ1を回転させた場合に必要モータトルクが上記モータトルク基準値よりも大きくなる回転角に対する速度調節関数の出力値は負である。また、ゲインを一定の正値にすることで、図2(C)又は図4に示す必要モータトルクがモータトルク基準値よりも小さいほど、又は、大きいほど、その回転角での速度調節関数の出力値の絶対値は大きくなる。
上述の速度調節関数は、例えば、演算部26に組み込まれる電子回路によって構成することができる。
【0060】
速度調節関数として機能する演算部26は、角度センサ25が検出したクランク軸7の回転角が入力されると、この回転角を速度調節関数に適用して、この回転角に対応する速度調節値を算出する。演算部26により算出された速度調節値は、指令調節部19に出力される。
【0061】
指令調節部19は、速度指令部17からの一定の指令速度値に、演算部26からの速度調節値を加算して増減調節した指令速度値を出力する。
この指令速度値はモータ駆動部21に入力され、モータ駆動部21は、モータ1の回転速度が入力された指令速度値になるようにモータ1へ供給する電流を調節する。この調節は、上述したように速度センサ23を用いて行うことができる。
【0062】
上述の制御により、図2(C)において必要モータトルクがモータトルク基準値よりも小さいクランク軸7の回転角では、モータ1の回転指令速度が増加させられ、図2(C)において必要モータトルクがモータトルク基準値よりも大きいクランク軸7の回転角では、モータ1の回転指令速度が減少させられる。
図5(B)は、このように調節された指令速度値の時間変化を示している。また、図5(C)は、この場合のモータトルク変動を示している。図5(B)の破線は、比較のため、図2(B)の一定の指令速度値を示しており、図5(C)の破線は、比較のため、図2(C)の必要モータトルク変動を示している。なお、図5(A)は、図2(A)に対応するクランク軸7の回転角の時間変化を示している。
図5(B)のように速度調節することにより、回転エネルギを回転系に効率よく与えることができ、図5(C)に示すように、最大モータトルク値を下げることができ、モータトルクの変動も低減することができる。
このように、最大モータトルク値を低減できるので、モータ及びモータ駆動部の電気容量を小さくでき、モータ及びモータ駆動部を小型化できる。
また、回転系に回転エネルギを効率よく与えることができるので、消費電力を低減することもできる。
【0063】
また、好ましくは、上記速度調節関数によって、モータの回転指令速度を上記一定指令速度から増加させる量と、モータの回転指令速度を上記一定指令速度から減少させる量とは、クランク軸7の回転角の1周期(0〜360度)にわたる時間積分値が等しい。従って、回転指令速度を増加させる量と、減少させる量とは、回転角の1周期にわたる時間積分値が等しいので、回転角の1周期にわたるプレス動作時間を、一定指令速度でモータを回転させた場合の回転角の1周期にわたるプレス動作時間と合わせることができ、プレス生産速度を低下させずに済む。
【0064】
第1実施形態では、さらに、補正部27aと補正部27bとを有する補正装置が制御装置15に組み込まれる。以下において、補正部27aを説明した後、補正部27bを説明する。
【0065】
補正部27aは、プレス運転速度が小さくなるほど、又は、プレス負荷エネルギが大きくなるほど、演算部26から出力させる速度調節値の絶対値を大きくする補正をする。
これにより、プレス運転速度またはプレス負荷エネルギが変動する場合に、プレス運転速度またはプレス負荷エネルギの各値ごとに、必要モータトルクを予め求める労力を省くことができるとともに、プレス運転速度またはプレス負荷エネルギが変動した場合でも、最適な制御が可能になり、広い運転条件でモータ電力の低減できる。
なお、図1では、補正部27aと制御装置15とが別個のブロックとなっているが、補正部27aと制御装置15を統合して1つのブロックとしてもよい。
【0066】
補正部27aについて、詳細に説明する。
【0067】
補正部27aには、プレス運転速度またはプレス負荷エネルギの様々な値に対する補正ゲインが設定されている。
【0068】
この補正ゲインは、図6のように、プレス運転速度またはプレス負荷エネルギに対して定められる。
図6において、原点は、演算部26を設定したときのプレス運転速度およびプレス負荷エネルギの値に相当する。すなわち、図6において、プレス運転速度およびプレス負荷エネルギは、演算部26を設定したときのプレス運転速度およびプレス負荷エネルギの値に対する相対的な値を示している。
【0069】
図6のように、プレス運転速度が小さくなった場合、プレス負荷エネルギが大きくなった場合に、値が大きくなるように補正ゲインが定められる。
このように、プレス運転速度とプレス負荷エネルギの2次元変数に対して補正ゲインを出力する関数として、ゲインテーブルが補正部27aに設定される。
【0070】
クランク軸7の回転角に基づき演算部26から出力される速度調節値に、図6の補正ゲインを乗じて速度調節値を補正することで、プレス運転速度またはプレス負荷エネルギが変動した場合にも、モータトルク変動を小さく抑えることが可能で、モータの消費電力を低く抑えることができる。
また、プレス機械では運転開始時は低速で運転し、パネルの生産品質をチェックしながら、次第に速度を増速していくという運転方法がとられる場合が多いが、このような場合にも、補正部27aにより、プレス設備の消費電力を低く抑えることができる。
【0071】
プレスの負荷エネルギEについては、金型やクッション設定圧に依存する部分が大きく、基本的に金型ごとに設定する必要があるが、以下のように決定することが可能である。
【0072】
(1)クッション設定値から近似
クッションの設定圧力からクッション力をF[N]を求め、クッションの押し込み量をL[m]とすると、プレスがクッションに対して行う仕事Wは、
W [J] = F × L
で求まる。このWをプレス負荷エネルギEとほぼ等しいとして、近似値として扱う。
E ≒ W
【0073】
(2)ダイトライ時に1サイクル運転を行って計測
ダイトライとは、プレス機械の据付け後や金型交換後の試験運転のことである。ダイトライにより、主に、被加工物(パネル)と加工物(金型)を投入して試し成型し、成型性を操作員が判定しながらプレス機械の微調整を行う。このようなダイトライ時に1サイクル運転を行ってプレス負荷エネルギを求めることができる。具体的には、ダイトライ時に、モータ1に駆動されるプレス運動機構の運動エネルギーが、スライドの1往復期間において変化する量(減少する量の大きさ)と、スライドの1往復期間にモータ1がプレス運動機構に与えるエネルギ値との和を、プレス負荷エネルギとして求める。なお、プレス運動機構は、図1の例では、(モータ1から駆動力が伝達される順に)プーリ3、伝達ベルト5、フライホイール6、ギヤ、メインギア29、クランク軸7、連結部材12、スライド11を含む。
【0074】
その1つの例について具体的に説明する。連続生産を行う前のダイトライ時に、モータ回転数とモータトルクを計測することによって、プレス負荷エネルギを求める。ここでは、プレス運動機構をフライホイールであるとして近似しプレス負荷エネルギを求める。
【0075】
スライドの上死点でクラッチをつないだ時から、1サイクル運転して、スライドが下死点に至り、次の上死点に至るまでのモータ回転数n[rad/s]とモータトルクτ[Nm]を時系列で計測する。クラッチをつないだ直後のモータ回転数をn、次の上死点に至る(クラッチを切る)直前のモータ回転数をn、モータ軸換算のフライホイール6のイナーシャをIとすると、プレス負荷エネルギEは次の[数1]で求まる。
【0076】
【数1】

【0077】
ただし、積分区間[t、t]はクラッチを接続した直後から、クラッチを切り離す直前までの時間である。
上式は、第1項が運転開始直後のフライホイール6の運動エネルギと、運転終了直後のフライホイール6の運動エネルギの差であり、第2項はモータが1サイクルの間にフライホイール6に供給したエネルギーである。つまり、1サイクル終了時の運動エネルギの減少量と、供給エネルギの合計値が1サイクルで消費されるプレス負荷エネルギということになる。
クラッチ接続時のエネルギーロスの影響を除外するためには、tはクラッチ接続後、0.5秒程度経過してから計測を開始する必要がある。
また、[数1]において、イナーシャIを、フライホイール6のイナーシャとして近似したが、プレス運動機構全体を考慮したイナーシャを[数1]のイナーシャIとしてもよい。例えば、プレス運動機構に含まれる、プーリ3、伝達ベルト5、フライホイール6、ギヤ、メインギア29、クランク軸7、連結部材12、スライド11を考慮したイナーシャを[数1]のイナーシャIとしてもよい。
【0078】
制御装置15は、ダイトライ時に1サイクル運転が行われることで、プレス負荷エネルギを求める計測算出装置を備える。この計測算出装置30は、図7に示すように、プレス機械10のプレス運動機構の運動エネルギーが、スライド11の1往復期間において変化する量を計測する第1計測部31と、1往復期間においてモータ1がプレス運動機構に与えるエネルギ値を計測する第2計測部32と、第1計測部31が計測した、上記運動エネルギが変化する量と、第2計測部32が計測した上記エネルギ値とに基づいて、プレス負荷エネルギを算出する算出部33と、を備える。
【0079】
第1計測部31は、角速度センサ23と、データラッチ31a,31bと、演算器31cとを有する。データラッチ31aは、クラッチ制御部から出力されるクラッチ接続指令信号を受けると作動して角速度センサ23からの上記速度値nを受け、この速度値nを出力する。なお、安定した速度値nを得るために、データラッチ31aは、クラッチ接続指令信号を受けた後、クラッチ9の接続が完了した直後に作動するように構成されてよい。データラッチ31bは、クラッチ制御部からのクラッチ切断指令信号(この信号がスライド11の上記1往復運動の終了を示す)をインバータを介して受けると作動して、角速度センサ23からの上記速度値nを受け、この速度値n出力する。なお、安定した速度値nを得るために、データラッチ31bは、クラッチ9の切断が開始される直前の、角速度センサ23からの速度値nを受けて、この速度値nを出力できるように、クラッチ切断指令信号を受ける直前に角速度センサ23から受けて記憶した速度値nを、出力してもよい。演算器31cは、これらデータラッチ31a,31bから速度値nと速度値nを受け、これらを2乗し、nからnを引いた値に、上記イナーシャIと1/2を乗算して、[数1]の第1項目の値を出力する。
第2計測部32は、モータ駆動部21に組み込まれているトルク検知器(図示せず)と、角速度センサ23と、乗算器32aと、積分器32bとを有する。トルク検知器は、モータ1のトルク値τを計測して出力する。角速度センサ23は、上記速度値nを計測して出力する。乗算器32aは、トルク検知器からのトルク値τと、角速度センサ23からの速度値nを受け、これらを乗算して値n・τを出力する。積分器32bは、乗算器32aから値n・τを受け、入力値n・τに基づいて[数1]の第2項目の値を算出して出力する。
算出部33は、演算器31cから入力される値と、積分器32bから入力される値とを加算して、上記[数1]の値をプレス負荷エネルギ値として出力する。
【0080】
また、上述のように、補正部27aによる補正ゲインの値は、補正部27aへの入力値であるプレス速度とプレス負荷エネルギにより定まる。
図6に示すプレス運転速度とプレス負荷エネルギの、補正部27aへの入力は、自動入力、又は、オペレータによる入力であってよい。
自動入力の場合には、角速度センサ23又は指令調節部19からの回転速度値をスライドの1往復運動期間にわたって平均し、この平均値をプレス運転速度として、補正部27aへ入力する平均値算出部を設けてよい。この場合、平均値算出部から上記平均値を受ける入力部が、補正部27aに設けられていてよい。また、上述したプレス負荷エネルギの計測装置の出力が補正部27aへ入力されるようになっていてよい。この場合、図7の計測装置から出力されるプレス負荷エネルギを受ける入力部が、補正部27aに設けられていてよい。このようにして、プレス運転速度とプレス負荷エネルギが自動的に補正部27aへ入力されてよい。なお、他の適切な手段で算出または計測されたプレス運転速度またはプレス負荷エネルギを受ける入力部を、他の適切な手段で構成してもよい。
オペレータによる入力の場合には、オペレータが所定の操作ボタンを操作することで、プレス運転速度とプレス負荷エネルギが補正部27aに入力されてよい。この場合、この操作ボタンは補正部27aへの入力部を構成するが、他の適切なもので、オペレータに操作されることでプレス運転速度またはプレス負荷エネルギを補正部27aへ入力する入力部を構成してもよい。
【0081】
一方、補正部27bは、図3の符号a〜fが示すように、「(1)スライド摩擦」から出力される直線的な力の値に補正ゲインを乗じるゲイン乗算部と、「(2)スライド慣性」から出力される直線的な力の値に補正ゲインを乗じるゲイン乗算部と、「(3)クッション」から出力される直線的な力の値に補正ゲインを乗じるゲイン乗算部と、「(4)プレス加圧」力から出力される直線的な力の値に補正ゲインを乗じるゲイン乗算部と、「(5)カウンタバランサ」から出力される直線的な力の値に補正ゲインを乗じるゲイン乗算部と、「(6)その他の要素」から出力される直線的な力の値に補正ゲインを乗じるゲイン乗算部と、を有する。これらゲイン乗算部による補正ゲインは互いに独立して設定可能である。各ゲイン乗算部の補正ゲインの設定方法は、補正部27aの補正ゲインと同様であってよい。即ち、演算部26を設定したときのプレス運転速度およびプレス負荷エネルギの値から、プレス運転速度が小さくなるにつれ、プレス負荷エネルギが大きくなるにつれ、その値が大きくなるように各ゲイン乗算部の補正ゲインを定める。なお、各ゲイン乗算部には、プレス運転速度およびプレス負荷エネルギが入力される入力部が設けられる。この入力部は、上記補正部27aの入力部と同様の構成であってよい。
補正部27bを設けることで、図3の各要素(1)〜(6)ごとに補正ゲインを設定できるので、より最適な消費電力の低減を実現することが可能となる。
【0082】
[第2実施形態]
図8は、本発明の第2実施形態によるプレス機械10’の構成図である。第2実施形態のプレス機械10’では、モータ駆動部21から演算部26へ指令トルクの値が入力されるように構成されており、演算部26の構成が第1実施形態の場合と異なる。第2実施形態のプレス機械10’の他の構成は、第1実施形態の場合と同じである。
【0083】
上述と同様に、モータ駆動部21は、速度指令部17から直接又は指令調節部19を介して指令速度値を受け、これに応じた値の電流をモータ1へ供給する。この時、速度センサ23からモータ駆動部21へモータ1の実際の速度の値が入力され、これに応じて、モータ1の実際の速度が指令速度値となるように、モータ1への電流値がフィードバック制御される。
【0084】
図9は、第2実施形態による演算部26の構成を示している。
第2実施形態によると、速度指令部17から指令調節部19を介さずに、一定の指令速度値をモータ駆動部21へ入力して、プレス機械10’の試運転を行う。この試運転では、実際に被加工物をプレスする。試運転は、プレス生産運転の始めの1周期又は数周期にわたって実施してよい。
この試運転の時に、演算部26へ、モータ駆動部21からは指令トルク値が入力され、角度センサ25からはクランク軸7の回転角が入力される。
モータ駆動部21から演算部26へ入力される指令トルク値は、モータ駆動部21が、モータ1へ供給する電流の値に応じた必要モータトルクの値であり、この電流の値に比例する値であってよく、モータ1へ供給される電流の値から算出される。
プレス機械10’の試運転により、クランク軸7の回転角と指令トルク値との関係を得てこれをテーブルとして作成しておく。これにより、作成されたテーブルを参照することで、クランク軸7の各回転角に対する指令トルク値を得ることができる。
【0085】
プレスを毎回上死点で停止させて運転を行う操業方法の場合のテーブル作成について説明する。
この操業方法では、スライド11が上死点で停止している状態から運転を開始し再び上死点に戻って停止するまでを1周期とし、この動作を繰り返す。この場合、1周期ごとにクラッチ9を入/切するので、各周期ごとのクラッチ9の影響が同じであり、周期ごとの指令トルク値が等しい。
従って、任意の1周期にわたってクランク軸7の回転角と指令トルク値との関係を得て、これをテーブルとして作成してもよいし、数周期にわたって得られた上記関係に関するデータを各角度ごとに平均して1周期分のデータとし、これをテーブルとして作成してもよい。
【0086】
プレスを上死点で停止させずに連続して運転を行う操業方法の場合のテーブル作成について説明する。
この操業方法では、運転開始後は、上死点でスライド11を停止させずに連続して運転を行い、1周期ごとにスライド11を上死点で停止させることはしない。この場合、運転開始時に、クラッチ9をつないだ後は、クラッチ9を切らないため、最初の1周期とそれ以降の周期とで指令トルク値が異なる。
従って、指令トルク値が安定するまでの数周期(例えば、n周期分)のデータを試運転により得て、これら数周期にわたる指令トルク変動を表わす上記テーブルを作成しておく。このテーブルの各周期のデータは、実際の運転時における対応する周期に適用される。そして、このテーブルの最後の周期(n周期目)のデータは、実際の運転時においてn周期目以降の周期に反復して適用される。
また、代わりに、指令トルク値が安定するまでプレスを試運転し、指令トルク値が安定した後に、1周期分のデータを得てテーブルを作成してもよい。安定時における上記関係を表わすこのテーブルのデータは、実際の運転において始動時からの各周期に反復して適用されてよい。
【0087】
上述のように、プレス機械10’の試運転によりテーブルを作成したら、これを演算部26に記憶しておき、プレス機械10’の実際の運転を次のようにして行う。
運転時に、演算部26に角度センサ25からクランク軸7の回転角が入力されると、演算部26は、入力された回転角をテーブルに適用して、入力された回転角に対応する必要モータトルク値を算出する。
続いて、第1実施形態の場合と同様に、演算部26は、この必要モータトルクと、モータトルク基準値との差を算出し、その後、この差に一定のゲインを乗算し、この乗算された値を速度調節値として出力する。その後の動作は、第1実施形態と同じなので、説明を省略する。なお、プレス機械10’の実際の運転時には、モータ駆動部21から演算部26へ指令トルク値は入力されなくてよい。
【0088】
第2実施形態では、試運転により得られた上記テーブルに、検知された回転角を当てはめるだけで、必要モータトルクを決定することができ、簡単な構成及び処理で、モータの回転指令速度を調節することができる。
【0089】
また、第2実施形態の場合、プレス運転速度またはプレス負荷エネルギが変動しても、この変動に対する補正が上述の補正部27により行われるので、再度、試運転を行って必要モータトルクを決定する必要がなくなる。例えば、プレス機械では運転開始時は低速で運転し、パネルの生産品質をチェックしながら、次第に速度を増速していくという運転方法がとられる場合が多いが、このような場合にも、再度、試運転を行うことなく、プレス運転を継続しながら補正部27によりプレス運転速度の変動に対応できる。
【0090】
[第3実施形態]
図10は、本発明の第3実施形態によるプレス機械10’’の構成図である。第3実施形態では、第1実施形態又は第2実施形態で説明した図1の角度センサ25の代わりに積分器34を用いたものである。その他の構成は、第1実施形態のプレス機械10と同じであり、図10には第1実施形態に対応する構成が記載されているが、第2実施形態に対応する構成とする場合には、試運転時にモータ駆動部21から演算部26へ指令トルクが入力されるように構成される。
【0091】
図10に示すように、積分器34には指令調節部19からの調節された指令速度値が入力され、積分器34は入力されてくる指令速度値を時間で積分する。
モータ駆動開始時から指令速度値を時間で積分していくと、現時点のモータ1の回転角を得ることができる。
【0092】
このように積分器34で得られた現時点のモータ1の回転角の値は、演算部26に入力される。演算部26は、第1実施形態と同様に、積分器34から入力されてくる回転角の値に基づいて、速度調節値を出力する。その他の構成及び動作は第1実施形態の場合と同様である。
【0093】
第3実施形態によると、第1実施形態のようにメインギヤ29の回転角を検出する角度センサ25を設けなくとも、積分器34で指令速度値を時間積分することで、モータ1の回転角を検知することができる。
従って、角度センサ25を省略できるので、構成が簡単になる。
【0094】
[第4実施形態]
第1実施形態又は第2実施形態では、演算部26は、速度指令部17からの指令速度値に加算される速度調節値を出力していたが、第4実施形態では、演算部26は、速度指令部19からの指令速度値に乗算される調節ゲイン値(倍率)を出力する。
【0095】
指令調節部19は、速度指令部17から入力された指令速度値に、演算部26から補正部27を介して入力される調節ゲインを乗じて調節された指令速度値を出力する。
【0096】
演算部26が算出する調節ゲインは、これを速度指令部17からの指令速度値に乗算すると、図5(B)に示す第1実施形態又は第2実施形態の場合と同じ調節された指令速度値が得られるように定めることができる。
すなわち、演算部26が算出する調節ゲインは、演算部26に入力される回転角に値によって変化するものであり、入力回転角での図2(C)に示す必要モータトルクの値が、基準モータトルク値よりも大きいほど、小さい値をとり、入力回転角度での図2(C)に示す必要モータトルクの値が基準モータトルク値よりも小さいほど、大きい値をとる。
【0097】
[その他の実施形態]
上述のメインギヤ29の回転速度を検出する角度センサ25や、モータ駆動部21へ入力される指令速度値を時間積分する積分器34により角度検知装置が構成されるが、他の適切な手段により構成することもできる。例えば、角度検知装置を、角速度検出装置やスライド11の位置又は速度を検出する装置により構成してもよい。
【0098】
第1実施形態や第2実施形態の演算部26において、入力されたクランク軸7の回転角に基づいて必要モータトルクを算出する部分は、トルク決定装置を構成する。また、第1実施形態や第2実施形態の演算部26と指令調節部19において、算出された必要モータトルクに基づいて、調節された指令速度値を算出する部分は、速度調節装置を構成する。
しかし、トルク決定装置は、上述の実施形態の構成に限定されず、入力される回転角の値に基づき、プレス機械の特性に応じた必要モータトルクを決定するものであればよく、この機能を実現できるように電子回路などの適切な手段で構成されていればよい。
また、速度調節装置は、上述の実施形態の構成に限定されず、必要モータトルクが予め定められたモータトルク基準値よりも小さくなる回転体(例えば、クランク軸7)の回転角では、モータの回転指令速度を一定指令速度よりも増加させるか、又は、必要モータトルクが予め定められたモータトルク基準値よりも大きくなる回転体の回転角では、モータの回転指令速度を一定指令速度よりも減少させるものであればよく、この機能を実現できるように電子回路などの適切な手段で構成されていればよい。
【0099】
上記実施形態では、補正部27aは補正ゲインを演算部26からの出力に乗算したが、補正部27aの構成を、上記実施形態の補正部27aと同様の効果が得られるような補正値を演算部26からの出力に加算するように、変更してもよい。同様に、補正部27bの構成を、上記実施形態の補正部27bと同様の効果が得られるように、図3の(1)〜(6)からの出力値に補正値を加算するように変更してもよい。なお、補正部27aと補正部27bのいずれか一方により補正装置を構成してもよい。
【0100】
また、上述では、クランク軸回転の1周期当たりの動作時間を合わせるため、モータの回転指令速度を上記一定指令速度から増加させる量と、モータの回転指令速度を上記一定指令速度から減少させる量とは、クランク軸7の回転角の1周期(0〜360度)にわたる時間積分値が等しくなるようにした。しかし、種々の条件、状況に応じて、適切な所定時間(例えば、1分間)にわたるこれらの時間積分が等しくなるように指令速度値を調節してもよい。
【0101】
上述のクランク軸7は、回転体であり、クランク軸7と、これに連結された連結部材12などは、モータ1の回転運動をスライド11の往復運動に変換する変換機構を構成するが、モータ1により回転駆動されるカムや他の適切な部材などにより変換機構を構成してもよい。
【0102】
また、上述の実施形態ではフライホイールを用いたプレス機械10、10’、10’’について説明したが、本発明は、フライホイールを用いずにサーボモータにより運転を行うプレス機械にも適用できる。
【0103】
このように、本発明は上述した実施の形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】本発明の第1実施形態によるプレス機械の構成を示す図である。
【図2】モータを定速回転させた場合の、時間に対するクランク軸の回転角、指令速度値及び必要モータトルク変動を示す図である。
【図3】本発明の第1実施形態による演算部の処理の流れを示す図である。
【図4】クランク軸回転の1周期にわたる必要モータトルク変動を示す図である。
【図5】クランク軸の回転角と、速度調節をした場合の、調節した指令速度値及びトルク変動を示す図である。
【図6】プレス運転速度とプレス負荷エネルギの2変数に対する補正ゲインを表わしている。
【図7】プレス負荷エネルギを計測する構成例を示す図である。
【図8】本発明の第2実施形態によるプレス機械の構成を示す図である。
【図9】本発明の第2実施形態による演算部の処理の流れを示す図である。
【図10】本発明の第3実施形態によるプレス機械の構成を示す図である。
【図11】フライホイールを用いた従来のプレス機械の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0105】
1 モータ
3 プーリ
5 伝達ベルト
6 フライホイール
7 クランク軸(偏心回転体)
9 クラッチ
10,10’ プレス機械
11 スライド
12 連結部材
15 制御装置
17 速度指令部
19 指令調節部
21 モータ駆動部
23 角速度センサ
25 角度センサ(角度検知装置)
26 演算部
27a 補正部(補正装置)
27b 補正部(補正装置)
29 メインギヤ
30 計測算出装置
31 第1計測部
31a,31b データラッチ
31c 演算器
32 第2計測部
32a 乗算器
32b 積分器
33 算出部
34 積分器(角度検知装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと、該モータにより回転駆動される回転体を有しこの回転運動を往復運動に変換する変換機構と、該変換機構に連結されて往復運動するスライドと、を備え、前記モータを一定指令速度で回転させた場合に前記回転体の回転角に従ってモータ実績トルクが変動するプレス機械の制御装置であって、
前記回転体の回転角を検知する角度検知装置と、
該角度検知装置から入力される回転角の値に基づき、プレス機械の特性に応じた必要モータトルクを決定するトルク決定装置と、
前記必要モータトルクが予め定められたモータトルク基準値よりも小さくなる前記回転体の回転角では、モータの回転指令速度を前記一定指令速度よりも増加させる速度調節装置と、を備え、
さらに、前記速度調節装置が前記回転指令速度を増加させる量を、プレス運転速度またはプレス負荷エネルギの変動に応じて、補正する補正装置を備え、
前記速度調節装置が回転指令速度を増加させる量と、前記補正装置が当該増加させる量を補正する量との両方を、前記モータの最大消費電力を低減するように反映した回転指令速度で、前記モータを回転駆動する、ことを特徴とするプレス機械の制御装置。
【請求項2】
モータと、該モータにより回転駆動される回転体を有しこの回転運動を往復運動に変換する変換機構と、該変換機構に連結されて往復運動するスライドと、を備え、前記モータを一定指令速度で回転させた場合に前記回転体の回転角に従ってモータ実績トルクが変動するプレス機械の制御装置であって、
前記回転体の回転角を検知する角度検知装置と、
該角度検知装置から入力される回転角の値に基づき、プレス機械の特性に応じた必要モータトルクを決定するトルク決定装置と、
前記必要モータトルクが予め定められたモータトルク基準値よりも大きくなる前記回転体の回転角では、モータの回転指令速度を前記一定指令速度よりも減少させる速度調節装置と、を備え、
さらに、前記速度調節装置が前記回転指令速度を減少させる量を、プレス運転速度またはプレス負荷エネルギの変動に応じて、補正する補正装置を備え、
前記速度調節装置が回転指令速度を減少させる量と、前記補正装置が当該減少させる量を補正する量との両方を、前記モータの最大消費電力を低減するように反映した回転指令速度で、前記モータを回転駆動する、ことを特徴とするプレス機械の制御装置。
【請求項3】
前記補正装置は、プレス運転速度が小さいほど、又は、プレス負荷エネルギが大きいほど、速度調節装置が前記回転指令速度を増加または減少させる量を大きくする補正をする、ことを特徴とする請求項1又は2に記載のプレス機械の制御装置。
【請求項4】
前記補正装置は、プレス運転速度またはプレス負荷エネルギの値が入力される入力部を有する、ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のプレス機械の制御装置。
【請求項5】
前記プレス負荷エネルギを求める計測算出装置をさらに備え、
該計測算出装置は、
前記モータにより駆動されるプレス運動機構の運動エネルギーが、前記スライドの1往復期間において変化する量を計測する第1計測部と、
前記1往復期間において前記モータがプレス運動機構に与えるエネルギ値を計測する第2計測部と、
第1計測部が計測した、前記運動エネルギが変化する量と、第2計測部が計測した前記エネルギ値とに基づいて、前記プレス負荷エネルギを算出する算出部と、を備え、
前記補正装置は、該プレス負荷エネルギを用いて、前記回転指令速度を増加または減少させる量を補正する、ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のプレス機械の制御装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の制御装置を有するプレス機械。
【請求項7】
モータと、該モータにより回転駆動される回転体を有しこの回転運動を往復運動に変換する変換機構と、前記変換機構に連結されて往復運動するスライドと、を備え、前記モータを一定指令速度で回転させた場合に前記回転体の回転角に従ってモータ実績トルクが変動するプレス機械の制御方法であって、
前記回転体の回転角を検知する段階と、
該検知した回転角の値に基づき、プレス機械の特性に応じた必要モータトルクを決定する段階と、
前記必要モータトルクが予め定められたモータトルク基準値よりも小さくなる前記回転体の回転角では、モータの回転指令速度を前記一定指令速度よりも増加させる段階と、
前記回転指令速度を増加させる量を、プレス運転速度またはプレス負荷エネルギの変動に応じて、補正する段階と、
前記回転指令速度を増加させる量と、当該増加させる量を補正する量との両方を、前記モータの最大消費電力を低減するように反映した回転指令速度で、前記モータを回転駆動する段階と、を有する、ことを特徴とするプレス機械の制御方法。
【請求項8】
モータと、該モータにより回転駆動される回転体を有しこの回転運動を往復運動に変換する変換機構と、該変換機構に連結されて往復運動するスライドと、を備え、前記モータを一定指令速度で回転させた場合に前記回転体の回転角に従ってモータ実績トルクが変動するプレス機械の制御方法であって、
プレス機械の試運転を行うことにより、モータへ供給する電流から求められる、プレス機械の特性に応じた必要モータトルク値と、クランク軸の回転角の値との関係を作成する段階と、
前記回転体の回転角を検知する段階と、
該検知した回転角の値と前記関係に基づき、該回転角の値に対応する必要モータトルクを決定する段階と、
前記必要モータトルクが予め定められたモータトルク基準値よりも小さくなる前記回転体の回転角では、モータの回転指令速度を前記一定指令速度よりも増加させる段階と、
前記回転指令速度を増加させる量を、プレス運転速度またはプレス負荷エネルギの変動に応じて、補正する段階と、
前記回転指令速度を増加させる量と、当該増加させる量を補正する量との両方を、前記モータの最大消費電力を低減するように反映した回転指令速度で、前記モータを回転駆動する段階と、を有する、ことを特徴とするプレス機械の制御方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−149336(P2008−149336A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−338150(P2006−338150)
【出願日】平成18年12月15日(2006.12.15)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】