説明

プレフィルドシリンジ用ガスケットの成型金型

【課題】優れた気密性、液密性を有するプレフィルドシリンジ用ガスケット、及び該ガスケットを製造できる成型金型を提供する。
【解決手段】不活性フィルムで積層されたプレフィルドシリンジ用ガスケットの成型金型であって、少なくとも、ガスケットの環状突起のシール摺動面を成型する金型表面は、算術平均粗さRaが0.03μm以下の鏡面仕上げがされているプレフィルドシリンジ用ガスケットの成型金型に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレフィルドシリンジ用ガスケットの成型金型、及びそれらを用いて製造されるプレフィルドシリンジ用ガスケットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、使用時の簡便性に優れ、かつ薬剤の取り違えなどの医療事故を防止できるという点から、予め薬液を注射器に充填したプレフィルドシリンジの使用が拡大している(特許文献1)。プレフィルドシリンジは、注射針が取り付けられる先端部分がノズルキャップで密閉されており、投与の際に先端部分のノズルキャップを外して注射針を取り付け、プランジャーロッドを先端側に向けて押し込んでガスケットを摺動させることにより、薬液が投与される。
【0003】
このようなプレフィルドシリンジにはシリコーン潤滑剤が広く使用されているが、バイオ製剤などはその影響により失活するため、使用できない。そのため、近年、製剤の安定性を確保するため、フッ素樹脂フィルムを積層したガスケットが多く使用されている。ガスケットの気密性や液密性は、製剤の品質や安定性に影響を及ぼす重要な要因となるため、優れた特性が要求される。しかし、フッ素樹脂フィルムを積層したガスケットは、従来の未積層ゴムのものに比べ、硝子製、樹脂製シリンジとの気密性、液密性が劣ることが問題となる。
【0004】
特に、従来の金型を用いてスカイビング法PTFEフィルムを積層成型して作製したガスケットは、蒸気滅菌後、液モレが発生してしまう。また、シール性改善のため、ガスケットの環状突起部のシール幅を大きくしても気密性や液密性の改善効果は無く、環状リブ径を大きくして圧縮率を大きくする手法では、シリンジにガスケットが打栓し難くなる、ガスケット環状シール部における積層フィルムにシワが入る、などの問題が生じる。加えて、ピストンの摺動抵抗値が高くなるという問題も発生し、有効な解決策とはならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−185747号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記課題を解決し、優れた気密性、液密性を有するプレフィルドシリンジ用ガスケット、及び該ガスケットを製造できる成型金型を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、不活性フィルムで積層されたプレフィルドシリンジ用ガスケットの成型金型であって、少なくともガスケットの環状突起のシール摺動面を成型する金型表面は、算術平均粗さRaが0.03μm以下の鏡面仕上げがされているプレフィルドシリンジ用ガスケットの成型金型に関する。
【0008】
上記プレフィルドシリンジ用ガスケットの成型金型において、上記鏡面仕上げは、アルミナ又はダイヤモンドの微細粒またはペースト状とした研磨剤を用いて鏡面研磨されることが好ましい。
【0009】
上記プレフィルドシリンジ用ガスケットの成型金型の材質は、ステンレス系金型材、又はステンレス系金型材に15μm以下のメッキを行ったものが好ましい。
【0010】
上記プレフィルドシリンジ用ガスケットの成型金型において、上記不活性フィルムは、スカイビング法、インフレーション法、又は押出し法で製造された厚さ20〜200μmのポリテトラフルオロエチレンフィルム、エチレンテトラフルオロエチレンフィルム、又は超高分子量ポリエチレンフィルムであることが好ましい。
【0011】
本発明はまた、上記成型金型を使用し、155〜200℃で成型して製造された不活性フィルム積層プレフィルドシリンジ用ガスケットに関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、不活性フィルムで積層されたプレフィルドシリンジ用ガスケットの成型金型において、少なくとも、ガスケットの環状突起のシール摺動面を成型する金型表面が、算術平均粗さ(Ra)0.03μm以下の鏡面仕上げが施されているので、該成型金型を用いることで、積層不活性フィルムの表面粗さが小さく調整された成型品を製造できる。従って、優れた気密性、液密性を有するガスケットを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】ガスケットの製造工程の断面模式図、および得られたガスケットの全体図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の不活性フィルムで積層されたプレフィルドシリンジ用ガスケットの成型金型では、少なくとも、ガスケットの環状突起のシール摺動面を成型する金型表面が、算術平均粗さ(Ra)0.03μm以下の鏡面仕上げが施されている。ここで、算術平均粗さ(Ra)の算出のためのカットオフ値は、0.08mmで測定する。
【0015】
不活性フィルム積層ガスケットやノズルキャップにおいて、従来から望ましいと言われている算術表面粗さRa0.05μm以下のPTFEフィルムを、PTFEの融点330℃未満の温度(170℃など)で積層成型しても、積層フィルムの表面に金型表面の微細な凹凸痕が転写されてシール性に悪影響を及ぼし、液モレの問題が生じることがある。ここで、成型金型の微細な切削痕発生の原因は、金型切削加工の際に、設備工具と金型の間で生じる振動、切削バイトの切れ味、金型材料の性質、切削条件によって、加工物の表面に円周状の加工目、ゆず肌等、部分的に凹凸が発生することにより表面粗さが悪化し、平滑性を害することにあると考えられる。
【0016】
通常は、切削加工後に研磨、磨き加工がなされているが、従来の金型表面には、ミクロ的に微細な凹凸の加工目は残っており、このような金型で成型した積層ゴム部材は、積層前のフィルムがRa0.05μm以下のような平滑なものでも、金型表面の粗さがシール性に悪影響を及ぼす。これに対し、本発明では、金型表面のRaを調整する鏡面仕上げが施されているため、Raが0.05μmを超えるスカイビングフィルムで積層しても、シール性に優れた積層ガスケットを製造できる。
【0017】
以下に実施形態を掲げ、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施形態のみに限定されるものではない。
【0018】
図1(A)〜(C)は、本発明のプレフィルドシリンジ用ガスケットの成型金型1を用いた積層ガスケットの製造工程の断面模式図、および得られたガスケットの全体図を示す。
成型金型1は、メス型(下型)11とオス型(上型)12とを備えており、オス型12は、メス型11に対し、図1の上下方向に移動可能に設置されている。メス型11及びオス型12には、各々加熱可能なように、ヒーター(図示せず)が接続されている。ヒーターの熱源としては、たとえば電気ヒーター、蒸気、オイル等が使用できる。
【0019】
メス型11及びオス型12からなる成型金型1に使用する材料としては特に限定されず、公知の金型材料を使用できるが、炭素鋼、析出系ステンレス鋼が好ましい。成型金型1は、超硬工具、コーテッド超硬合金、cBN焼結体等により切削加工した後、研磨、鏡面磨き加工を行う方法、などの切削加工方法を用いて製造できる。
【0020】
メス型11には、内側に凹没するように凹部111が形成されている。凹部111は、ガスケットの形状に対応して形成されている。
【0021】
メス型11の凹部111には、ガスケットの環状突起の形状に対応する環状突起形成部113が形成されている。環状突起形成部113において、環状突起のシール摺動面を成型する金型表面(褶動面形成部)は、カットオフ値0.08mmで測定した算術平均粗さRaが0.03μm以下となる鏡面仕上げが施されている。
【0022】
凹部111は、例えば、ガスケットのキャビティーを超硬工具の総形バイトで切削加工し、各環状突起のアンダーカット加工を行う方法で作製できる。他の方法として、放電加工も挙げられる。
【0023】
なお、切削加工において、これらの超硬工具、コーテッド超硬合金、cBN焼結体の切削刃物を通常より速い速度(10万rpmを超える速度など)の高速回転で切削する高速切削法を採用することで、切削刃物の切り込みを浅くして、切削加工後の鏡面研磨工数を削減できる。
【0024】
他に、電鋳法という方法もある。電鋳法は、通常の切削加工ではアンダー部となり、目視できない部分を磨き加工する方法である。電鋳法では、キャビティー駒のマスター作製時に磨きを行うため、ガスケット製品と同じシール部に当たる凸形状の部分が外側の磨き作業になるので、磨き加工の状態を確認しやすく、作業効率に優れている。
【0025】
まず、製品部となる金型駒形状のマスターを真鍮又はアルミニウム合金等で作製し、この時点でマスター磨きを実施する。次に硬質クロムメッキをマスターに付着させ、さらにその上にニッケルコバルト合金で肉付けを行う。マスター部で中心を取り、肉付けした部分の寸法を切削加工して駒外部寸法を仕上げる。マスター部分を溶かして除き、キャビティー駒を作製する。
【0026】
環状突起形成部113の鏡面仕上げにおいて、研磨剤を使用しない研磨方法としては、高出力超音波研磨機による研磨、金型表面の微細な凸部を優先的に溶解する電解研磨、処理液で凹凸部を溶解して平滑化する化学研磨などがある。
【0027】
電解研磨としては、例えば、「アルミニウムハンドブック」,第6版,(社)日本アルミニウム協会編,2001年,p.164−165に記載されている各種の方法;米国特許第2708655号明細書に記載されている方法;「実務表面技術」,vol.33,No.3,1986年,p.32−38に記載されている方法;等が好適に挙げられる。
【0028】
化学研磨としては、例えば、「アルミニウムハンドブック」,第6版,(社)日本アルミニウム協会編,2001年,p.164−165に記載されている各種の方法等が挙げられる。また、リン酸−硝酸法、Alupol I法、Alupol V法、Alcoa R5法、HPO−CHCOOH−Cu法、HPO−HNO−CHCOOH法も好適である。
【0029】
一方、研磨剤を使用する研磨方法としては、金型材質の違い、焼入れ程度によって適宜変更されるが、手作業研磨、機械研磨が挙げられ、湿式又は乾式バフ研磨後、鏡面研磨を行う。バイト切削の加工目を除去する鏡面磨き、超鏡面磨きは、回転するバフに加工物又は砥石を回転させて磨き加工を行うか、又は手加工で行う。
【0030】
研磨工具として、柔らかい木材及びフェルト、合成繊維、アクリル繊維等のバフを用い、これに研磨砥粒を付けて、順に硬いものから柔らかい研磨工具に、粗いペーストから細かい等級のペーストに変えていき、鏡面磨きを行う。
【0031】
金型の研磨、鏡面仕上げに使用する研磨剤としては、ダイヤモンド、アルミナ、炭化珪素、立法晶チッ化ホウ素、炭化ホウ素、酸化ジルコニウム、酸化マンガン、コロイダルシリカ等の砥粒が挙げられる。アルミナとしては、白色電融アルミナ、褐色電融アルミナ、アルミナージルコニア、解砕型アルミナ、焼結アルミナ等のコランダム質研磨剤が挙げられる。砥粒としては、粒度♯600〜♯15000のものが好適で(より好ましくは♯8000以上)、微粒子又はペースト状として使用できる。具体的には、ダイヤモンド、アルミナ、炭化珪素等の研磨剤を植物油で砥粒ペーストとし、柔らかい柳、バルサ等の木材や、バフに砥粒を目の粗いものから順に細かくして磨きを行う。
【0032】
また、切削加工した金型表面をダイヤモンドバニシングバイトにより、通常のバイト加工と同じ操作で金型表面に押し付けることにより切削粉を出さずに凸部を平滑化し面粗度を向上させ、寸法変化を直径で0.01mm以下に加工する方法もある。
【0033】
成型金型には、成型時の金型汚れを改善し、金型洗浄回数を減らすためにメッキを行う場合がある。メッキの厚さは、15μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましい。15μmを超えると、環状突起径、谷径、ネジ部の径において、寸法精度に問題を生じる恐れがある。
【0034】
褶動面形成部の鏡面仕上げにより、該当部のカットオフ値0.08mmで測定した算術平均粗さRaが0.03μm以下の平滑な金型表面が得られ、上記Raは、好ましくは0.02μm以下、より好ましくは0.015μm以下である。本発明では、少なくとも褶動面形成部が鏡面仕上げによりRaが特定値以下に調整されているが、凹部111の他の金型表面も同様に調整されてもよく、全面に鏡面仕上げが施されてRaが調整されてもよい。成型後、金型から離型する時に、縮径されているキャビティーの谷部から無理に離型されるため、環状突起部の表面にキズが発生しやすくなることもあるため、摺動部側面全体が鏡面仕上げされていることが好ましい。
なお、本発明において、算術平均粗さ(Ra)は、JIS B0601−2001に準拠して測定される。
【0035】
一方、オス型12の下面には、ガスケットの嵌合穴を形成するための凸部114が形成されている。図では省略しているが、プランジャーロッドを取り付けるためのネジがきられている。
【0036】
成型工程では、ガスケットの成型前に、成型金型1を予め加熱しておく。予熱温度は、155〜200℃程度が好ましい。
【0037】
次に、メス型11の上面に、不活性フィルム115と、ガスケット本体材料からなる混練シート116(未加硫ゴムシート)を重ねたものを設置する。この場合、オス型(コア)が下に、メス型(キャビティー)が上でも良く、オス型(コア)のうえに積層フィルムを上に重ねた未加硫ゴムシートを置いても良い。
【0038】
不活性フィルム115を構成する樹脂としては特に限定されないが、良好な耐薬品性が得られるという点から、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリクロロテトラフルオロエチレン(PCTFE)からなる群より選択される少なくとも1種のフッ素樹脂、及び/又はオレフィン系樹脂が好ましい。また、医療用容器の滅菌法として、蒸気滅菌、エチレンオキサイドガス滅菌、ガンマ線滅菌が行われるが、PTFEはガンマ線に対する耐性が低い。よって、ガンマ線滅菌に対する耐性が高いETFE、変性ETFE、PCTFEが特に好ましい。
【0039】
ここで、ETFEとは、エチレンとテトラフルオロエチレンを30/70〜70/30のモル比で共重合したものであり、改質目的でさらに他の成分を共重合した変性ETFEがある。他の成分としては、フッ素含有オレフィンや炭化水素系オレフィンが挙げられる。具体的には、プロピレン、ブテンなどのα−オレフィン、ヘキサフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン、パーフルオロブチルエチレン、トリフルオロクロロエチレンなどの含フッ素オレフィン、エチレンビニルエーテル、パーフルオロメチルビニルエーテル、パーフルオロプロピルビニルエーテルなどのビニルエーテル類、含フッ素アクリレート類などがあり、2〜10モル%程度共重合されて、ETFEを改質する。
【0040】
変性ETFEとしては、接着性を付与する官能基を有するETFEを好適に使用することができ、該官能基としては、カルボキシル基、無水カルボキシル基、エポキシ基、水酸基、イソシアネート基、エステル基、アミド基、アルデヒド基、アミノ基、シアノ基、炭素−炭素二重結合、スルホン酸基、エーテル基などが挙げられる。また、変性ETFEの市販品としては、旭硝子(株)製のフルオンAH−2000などが挙げられる。
【0041】
オレフィン系樹脂としては、ポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−非共役ジエン共重合体、エチレン−ブテン共重合体、エチレン−ヘキセン共重合体、エチレン−オクテン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、塩素化ポリエチレン等のポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン、プロピレン−エチレンランダム共重合体、プロピレン−エチレンブロック共重合体、塩素化ポリプロピレン等のポリプロピレン系樹脂、ポリブテン、ポリイソブチレン、ポリメチルペンテン、環状オレフィンの共重合体等が挙げられ、ポリエチレン(特に超高分子量ポリエチレン(UHMWPE))が好ましい。また、オレフィン系樹脂は、フッ素を含んでいてもよい。
【0042】
不活性フィルム115の厚みはガスケットの形状やサイズに合わせて適宜調整すればよいが、50〜200μmであることが好ましい。
【0043】
また、不活性フィルム115の算術平均粗さRaは、キャスティング法フィルムや、押出しフィルムの0.01〜0.03μmのものから、スカイビングフィルムの0.10μmのものでも、金型の表面粗さを0.03μm以下にすることで、液密着性、気密性に優れた積層ガスケットが得られる。不活性フィルムのRaの下限は特に限定されない。
【0044】
不活性フィルム115は、ゴム等との接着性を高める処理を行うことが好ましい。接着性を高める処理としては、化学処理法、フィルムの表面を粗面化する処理や、これらを組み合わせたものが挙げられ、具体例としては、ナトリウム処理、グロー放電処理、大気圧下又は真空下でのプラズマ処理(放電処理)、エキシマレーザー処理(放電処理)、イオンビーム処理が挙げられる。
【0045】
混練シート116は、ガスケット本体(ガスケットの芯部)を形成し、弾性材料で構成されている。
ガスケット本体の弾性材料としては特に限定されず、例えば、天然ゴム、ブチルゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、シリコーンゴム、エピクロルヒドリンゴム、エチレンプロピレンゴム、二トリルゴムのような各種ゴム材料や、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、オレフィン系、スチレン系等の各種熱可塑性エラストマーなどが挙げられる。これらの弾性材料は、単独でも複数の成分をブレンドして使用することもできる。なかでも、加硫により、弾性が得られる材料が好ましい。加硫材料の場合、硫黄などの加硫剤、加硫促進剤など、ゴム工業の公知の配合剤を適宜添加できる。
【0046】
混練シート116は、密封式混練機、オープンロール混練機などを用いて、所定配合比で配合材料を混練した混練物を、カレンダーまたはシート成型機で未加硫ゴムシートを作製する。次に、一定重量、サイズの未加硫ゴムシートと不活性フィルムを重ねて金型に置き、真空プレスで成型することにより、積層ガスケットの成型シートを得ることができる。
【0047】
成型条件は特に限定されず、適宜設定すればよいが、成型温度は、好ましくは155〜200℃、より好ましくは165〜180℃であり、成型時間は、好ましくは1〜20分間、より好ましくは3〜15分間、さらに好ましくは5〜10分間である。
【0048】
この後、ガスケットの成型品から不要部分を、切断・除去した後、洗浄、滅菌、乾燥および外観検査を行ってガスケットの完成品を得る。
【0049】
前記により製造された不活性フィルム積層プレフィルドシリンジ用ガスケットは、略円柱状の部材で構成され、該ガスケットの円柱状側面及び接液部(先端部)が不活性フィルム115により被覆されている。該円柱状側面は、シリンジの外筒の内周面に向かって突出するリング状の凸部(環状突起)が長手方向に所定間隔をおいて形成され、該凸部(環状シール部)は摺動時にシリンジ内壁と圧縮されて密接する。環状突起の数は特に限定されない。接液部は、シリンジ内で薬液に接触し、シリンジ内壁に接触しない部位である。ガスケットは、更にプランジャーロッドが嵌合されるネジ部を有する。
【実施例】
【0050】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0051】
実施例で使用したフッ素樹脂フィルムの内容を以下に示す。
ホモPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)スカイビング法フィルム:日本バルカー工業(株)製のバルフロン
変性PTFE(テトラフルオロエチレンとパーフルオロアルコキシドモノマーの共重合体)スカイビング法フィルム:日本バルカー工業(株)製のニューバルフロン
ホモPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)キャスティング法フィルム:(株)GSIクレオス製のキャストフィルム
ETFE(エチレンとテトラフルオロエチレンの共重合体)押出し法フィルム:旭硝子(株)製のアフレックス
変性ETFE(ETFEと第三モノマーの共重合体)押出し法フィルム:旭硝子(株)製のアフレックス
【0052】
(表面粗さ測定)
フィルムの表面粗さ測定は、以下の方法で行った。
測定法:JIS B0601 2001年に準拠
測定器:株式会社キーエンス製レーザー顕微鏡VK−9710、レンズ倍率50倍
フィルムの表面粗さは、フィルムを約5cm角にカットし、ゴムと加硫接着する処理面の反対側を測定した。
【0053】
表1に、実施例、比較例で使用した不活性フィルムの詳細を示す。
【表1】

【0054】
(実施例及び比較例)
ガスケットの2つの環状突起シール部は、シリンジ内径(バレル径)12.45mmに対し、圧縮率3.0%で金型を作製した。
塩素化ブチルゴム(JIS−A硬度58)を含む未加硫のゴムシートと厚み100μmの不活性フィルムとを重ねて成型金型上に置き、真空プレスで175℃、10分間加硫接着し、不活性フィルム積層ガスケットを作製した。成型シートは積層した接液面、摺動面を除く成型シート片面(ネジ側)に硬化型シリコーンスプレーコートした。変性ETFEフィルムについては、全面硬化型シリコーンスプレーコートを行った。バリ部を打ち抜き(切断部1.0mm)、洗浄滅菌乾燥処理を行い、積層ガスケットを作製した。
得られたガスケットを用いてプレフィルドシリンジ(公称容量:5ml、シリンジ内径:12.45mm)を作製し、以下の試験を行った。
【0055】
(表面粗さ測定)
金型の表面粗さ、積層ゴム部品成型品の表面粗さ測定は、以下の方法で行った。
測定法:JIS B0601 2001年に準拠
測定器:株式会社キーエンス製レーザー顕微鏡VK−9710、レンズ倍率50倍
金型及び積層ゴム部品の表面粗さは、レーザー顕微鏡で各環状突起部及び各谷部を測定した。ここで、金型の切削加工及び磨き加工は周方向で行い、切削痕は円周方向に発生するため、表面粗さの測定は円周方向に対して縦方向に測定した。金型の環状突起シール部及び谷部の表面粗さ測定をレーザー方式で行う方法は、ガスケットのサイズによらず、キャビティー埋駒をワイヤー放電でカットして測定した。接触式では、ガスケット環状突起の測定部位の径が13mm以上ではキャビティー駒そのままで測定可能であるが、径13mm以下のサイズでは、キャビティー駒をワイヤー放電でカットして測定することが可能である。
【0056】
(圧力試験)
十分水をふき取った注射筒に、公称容量目盛りの3/4、公称容量目盛りの1/2の位置まで水(インジゴブルーで着色した水)を吸い入れ、これを水平に固定して水が筒口から出ないようにした後、筒口に343kPa(3.5Kgf)の圧力を10秒間加え、はめ合わせ部から水滴が漏れないことを確認する。評価結果は、「漏れた本数/試験本数」で表記した。
【0057】
(吸引試験)
注射筒の公称容量目盛りの1/4の位置まで水を吸い入れ、筒口を密封した後、押し子を公称容量目盛りの位置まで引いとき、はめ合わせ部から連続した気泡が発生しないことを確認する。評価結果は、「連続して気泡が発生した本数/試験本数」で表記した。
【0058】
(ガスケット/蒸気滅菌後の漏れ)
水5mlを充填したプレフィルドシリンジを125℃/30分間滅菌し、冷却後、ガスケット環状突起間の谷部(凹部)への漏れを目視で確認した。評価結果は、「谷部(凹部)への漏れが発生した本数/試験本数」で表記した。
【0059】
評価結果を表2に示す。なお、表2には、使用した不活性フィルムの詳細も合わせて示す。金型の鏡面仕上げは、金型の全面に施され、Raは環状突起シール部と谷部の値である。
【表2】

【0060】
金型表面のRaを特定値以下に調整した実施例では、液モレなどが発生しておらず、液密性、気密性が良好であった。一方、金型表面のRaを特定値以下に調整していない比較例では、液漏れ等が発生し、液密性、気密性が劣っていた。
【符号の説明】
【0061】
1 成型金型
11 メス型
12 オス型
111 凹部
112 谷部形成部
113 環状突起形成部
114 凸部
115 不活性フィルム
116 混練シート(未加硫ゴムシート)
117 環状突起(凸部)
118 谷部(凹部)
119 積層部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不活性フィルムで積層されたプレフィルドシリンジ用ガスケットの成型金型であって、
少なくともガスケットの環状突起のシール摺動面を成型する金型表面は、算術平均粗さRaが0.03μm以下の鏡面仕上げがされているプレフィルドシリンジ用ガスケットの成型金型。
【請求項2】
鏡面仕上げは、アルミナ又はダイヤモンドの研磨剤を用いて鏡面研磨される請求項1記載のプレフィルドシリンジ用ガスケットの成型金型。
【請求項3】
金型の材質が、ステンレス系金型材、又はステンレス系金型材に15μm以下のメッキを行ったものである請求項1又は2に記載のプレフィルドシリンジ用ガスケットの成型金型。
【請求項4】
不活性フィルムは、スカイビング法、インフレーション法、又は押出し法で製造された厚さ20〜200μmのポリテトラフルオロエチレンフィルム、エチレンテトラフルオロエチレンフィルム、又は超高分子量ポリエチレンフィルムである請求項1〜3のいずれかに記載のプレフィルドシリンジ用ガスケットの成型金型。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の成型金型を使用し、155〜200℃で成型して製造された不活性フィルム積層プレフィルドシリンジ用ガスケット。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2013−49236(P2013−49236A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−189522(P2011−189522)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】