説明

プレポリマー

【課題】眼用レンズ分野で眼用レンズ表面改質用ポリマーとして、特に有効に用いられるプレポリマーを提供する。
【解決手段】(a)2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、20〜30モル%
(b)3−[トリス(トリメチルシロキシ)シリル]プロピルメタクリレート、50〜70モル%
(c)アリルメタクリレート、5〜30モル%
を含み、(a)+(b)+(c)=100モル%であって、(b)÷(a)>2.0であり、(a)成分、(b)成分、(c)成分を重合してなる分子量が10,000〜50,000であるプレポリマー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、ホスホリルコリン類似基を含有し、医療機器の製造に使用されるプレポリマーを含む組成物に関する。さらに詳しくは、少なくとも1つの反応性官能基を有する残基により提供される反応性官能基を有するホスホリルコリン類似基含有プレポリマーに関する。このプレポリマーは眼用レンズのような医療機器の表面改質の手段に有用である。
【背景技術】
【0002】
シリコーン含有物質から作成される眼用レンズのような医療機器は、古くから研究されているが、特にヒドロゲル系の眼用レンズは一般に水分含量が約15〜約80質量%であるにも関わらず、表面が疎水性であり、脂質やたんぱく質が吸着しやすい問題点を有することが多い。そこで表面をプラズマ処理により親水化する、または水溶性ポリマーを含浸することで親水化する手法が知られている。
【0003】
眼用レンズを含む生体医療機器を作成するのに使用される高酸素透過性のヒドロゲルを製造するために、ホスホリルコリン類似基含有モノマーとシロキサン含有モノマーと親水性単量体とを含む組成物が開発されている(特許文献1、特許文献2)。通常、ホスホリルコリン類似基含有モノマーと3−[トリス(トリメチルシロキシ)シリル]プロピルメタクリレート(TRIS)のような疎水性のシロキサン基含有モノマーは、それらだけでは相溶性が乏しく均一に混合しない。それらのアルコール溶液組成物は重合により硬化することができるが、得られる重合体は白濁状であるために眼用レンズとして不適である。特許文献2によればSiGMAのような水酸基を有する特殊なシリコーンモノマーを相溶化剤として用いることで、ホスホリルコリン類似基含有モノマーとTRISとを含む透明な重合物が得られている。
【0004】
【化1】

【0005】
【化2】

したがって特殊な設計を有するシリコーンモノマーを用いることでホスホリルコリン類似基をヒドロゲル中に導入することができる。
またホスホリルコリン類似基含有重合体を表面偏析させることでレンズ表面を改質し表面を親水化することが提案されている(特許文献3)。本系もSiGMAやヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)が使用されており、特殊な系における例であるといえる。
【0006】
これまでTRISを用いたシリコーンヒドロゲルに対してプラズマ処理のような表面処理を用いた製造工程は適当な親水性を有するレンズを提供するが、この工程により製造コストが増加する問題があった。また、特許文献2に記載の技術によるホスホリルコリン類似基含有モノマーとTRISとを溶解させる手法は、特殊なモノマーを必要としてもそれらの相溶範囲が狭い。このため有利な親水性が得られない問題があった
【0007】
レンズ表面をホスホリルコリン類似基含有モノマーを用いて親水化させる手法として、A)レンズ表面にホスホリルコリン類似基含有モノマーをグラフト重合することにより、レンズ表面を親水化するする方法(特許文献4)やB)反応性基とホスホリルコリン類似基モノマーを共に含有するポリマーをコーティングした鋳型を用いて重合することによりレンズ表面を親水化する方法(特許文献5)が知られている。しかしながらこれらの製造方法では、工程が増加することにより製造コストが増加することが問題であった。
【0008】
表面処理を行なわずにホスホリルコリン類似基を有する反応性親水性ポリマーを用いて実用的な透明性と機械的強度を有しつつ表面を親水化する手段についてはこれまで提案されていない。
【0009】
ここでポリマーを添加するにあたり、1)ホスホリルコリン類似基含有モノマーとアリルメタクリレート、2)ホスホリルコリン類似基含有モノマーとTRIS、3)TRISとアリルメタクリレートを構成成分とするポリマーについては先んじて開発されている。しかしながら1)ホスホリルコリン類似基含有モノマーとアリルメタクリレートからなるポリマー(特許文献5)は硬化性組成物にコーティングすることで表面改質をさせることができるが、シリコーン成分に溶解することはできない。
【0010】
即ち親水性のレンズ処方に溶解する検討は行われていない。また、2)ホスホリルコリン類似基含有モノマーとTRISからなるポリマー(特許文献6)がある。これは反応性官能基を有しないために溶出する欠点があり、安全性の観点から用いることはできない。また、3)TRISとアリルメタクリレートとを構成成分とするポリマーがある(特許文献7)。これは固体またはゲル状物質を得ることを目的として使用されており、モノマー溶液中へ溶解させるプレポリマーとしては検討されていない。
【0011】
さらに、これまでにホスホリルコリン類似基含有モノマーとTRISとアリルメタクリレートとでなる3成分から構成されるポリマーは検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2007−197513号公報
【特許文献2】特開2007−9060号公報
【特許文献3】特開2007−314723号公報
【特許文献4】特開2001−117054号公報
【特許文献5】特表2002−520463号公報
【特許文献6】特開2007−056220号公報
【特許文献7】特開1996―334732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の課題は、眼用レンズ表面改質用プレポリマーとそれを含む透明溶液組成物を提供することにある。また、反応性官能基を有し、さらにホスホリルコリン類似基を含有する眼用レンズ表面改質用プレポリマーを含んでなる眼用レンズを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らはこれらの問題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、本発明をするに至った。即ち、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、TRIS、アリルメタクリレートを共重合して得られるプレポリマーが、シロキサニル含有化合物に良好に溶解し、なおかつ親水性単量体とともに硬化することで透明なレンズ素材が得られることを見出し本発明を完成するに至った。
【0015】
本発明は、次の[1]〜[4]である。
[1]、(a)2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、20〜30モル%
(b)3−[トリス(トリメチルシロキシ)シリル]プロピルメタクリレート、50〜70モル%
(c)アリルメタクリレート、5〜30モル%
を含み、(a)+(b)+(c)=100モル%であって、(b)÷(a)>2.0であり、(a)成分、(b)成分、(c)成分を重合してなる分子量が10,000〜50,000であるプレポリマー。
【0016】
[2]、前記[1]項に記載のプレポリマー0.1〜5.0重量部を式(1)で示されるシロキサニル基含有単量体95〜99.9重量部と混合して得た透明溶液組成物。
【0017】
【化3】

[式(1)中、Xは−(CH−または、−(CH−O−CO−(CH−CO−O−(CH−を示す。]
[3]、前記[2]項に記載の透明溶液組成物25.0〜80.0重量部と、式(2a)、式(2b)、または式(3)のいずれかで表される親水性単量体20.0〜75.0重量部を配合させてなる重合性透明溶液組成物。
【0018】
【化4】

[式(2a)中、Rは水素原子又はメチル基である。R、Rは水素原子または鎖長1〜8の1価の有機基または、R、Rと結合する鎖長3から7の2価の有機基を示す。]
【0019】
【化5】

[式(2b)中、Rは水素原子又はメチル基である。R、Rは水素原子または鎖長1〜8の1価の有機基または、R、Rと結合する鎖長3から7の2価の有機基を示す。]
【0020】
【化6】

[式(3)中、Rは水素原子又はメチル基である。Xはカルボニル基を含んでいて良い炭素数1〜4の2価の有機基を示す。]
【0021】
[4]、前記[3]項に記載の重合性透明溶液組成物を重合させてなる眼用レンズ。
【発明の効果】
【0022】
2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンは、シロキサニル含有化合物との相溶性が良くないが、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、TRIS、アリルメタクリレートを共重合して得られる本発明のプレポリマーは、シロキサニル含有化合物に良好に溶解し、なおかつ、その他の親水性単量体とともに硬化して透明なレンズ素材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施例1−1で合成した共重合体の1H−NMRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明のプレポリマーは、(a)2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、20〜30モル%、(b)3−[トリス(トリメチルシロキシ)シリル]プロピルメタクリレート(TRISと略称することもある)、50〜70モル%、(c)アリルメタクリレート、5〜30モル%を含み、(a)+(b)+(c)=100モル%であって、(b)÷(a)>2.0であり、(a)成分、(b)成分、(c)成分を重合してなる分子量が10,000〜50,000であるプレポリマーである。
2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンとTRISは、通常、そのもの同士では相溶性が乏しく均一に透明な重合物を得ることはできない。これはホスホリルコリン類似基が両性イオンを有する構造であるため、疎水性の高いTRISとは混合できないためである。
【0025】
本発明のプレポリマーは、(a)2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、(b)3−[トリス(トリメチルシロキシ)シリル]プロピルメタクリレート、(c)アリルメタクリレートの各モノマーにより構成され、TRISに均一に溶解する共重合組成比を持つ。また、ヒドロゲルを作成するに必要な親水性単量体に均一に溶解することができる。
このような本発明のプレポリマーとしては、具体的には次の式(4)の構造を示すことができる。
【0026】
【化7】

(式中、l、m、nはモル比を表し、l=0.1〜0.3、m=0.5〜0.65、n=0.1〜0.3である数である)。
【0027】
本発明のプレポリマーは、TRIS、および親水性単量体とを含む組成物と共に、これを重合させれば、ホスホリルコリン類似基に起因する親水性を有し、かつシリコーンヒドロゲル特有の高酸素透過性を有し、透明で実用的に十分機械的強度のある性状の眼用レンズを提供できる。このため本発明のプレポリマーを用いれば、プラズマ処理のような特別な表面処理操作を必要とせずに表面親水性を付与することができ、眼用レンズを作製するのに有用である。
【0028】
本発明のプレポリマーは、眼用レンズ、特にソフトコンタクトレンズに使用される共重合性ポリマー系で使用するための、眼用レンズ表面改質用プレポリマーとして利用できる。眼用レンズ表面改質用プレポリマーは眼用レンズを製造する際に利用でき、「ソフト」または「ハード」のコンタクトレンズいずれでも、好ましくは「ソフト」のヒドロゲルコンタクトレンズに用いるための眼用レンズ表面改質用プレポリマーとして有用である。
【0029】
本発明のプレポリマーは、「ハード」および「ソフト」の眼用レンズの両方に用いられるが、ソフトヒドロゲル眼用レンズ用の眼用レンズ表面改質用プレポリマーとして特に有用である。本発明のプレポリマーは、眼用レンズの表面改質を行うことができる。
【0030】
本発明のプレポリマーは、(a)2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、(b)3−[トリス(トリメチルシロキシ)シリル]プロピルメタクリレート、(c)アリルメタクリレートの各モノマーからなるため、
a)ホスホリルコリン類似基、
b)シロキサニル基、
c)アリル基、
を有することを特徴とするプレポリマーである。a)〜c)は、それぞれの極性が著しく異なるため、プレポリマーは溶液重合により調製される。プレポリマーの重合は、アリル基が付加重合に顕著に関与することのない条件で行うのがよい。このときの重合条件は、例えば欧州特許第0207640号明細書、米国特許第4544572号明細書に開示されている。
【0031】
本発明のプレポリマーの重合に用いる溶媒としては、極性の高いホスホリルコリン類似基と極性の低いシロキサニル基を同時に溶解させることができるアルコール系を使用することが好ましい。さらに好ましくはメタノール、エタノール1−プロパノール、2−プロパノールを用いると良い。(a)〜(c)の各モノマーを合計した濃度は5%〜40%に調製することが好ましい。5%以下では釜効率が悪化し、40%以上では粘度上昇によるハンドリング性の低下が問題となるためである。重合温度は、反応が進行しやすい40℃以上で、かつ溶媒の蒸散を防止するために80℃以下であることが好ましい。より好ましくは反応を数時間のうちに終了させることができる55〜65℃の範囲であることがよい。重合開始剤には、重合時にアリル基が反応して失活するのを防ぐために過酸化物系の重合開始剤を選択して用いることが望ましい。
【0032】
上記プレポリマーは、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンを10〜30モル%と3−[トリス(トリメチルシロキシ)シリル]プロピルメタクリレート50〜65モル%、アリルメタクリレート10〜30モル%を重合して合成され、重量平均分子量2,000〜50,000のプレポリマーとして得られる。
【0033】
本発明のプレポリマーは、他のモノマーと混合し混合物としても良い。その際は、硬化目的の熱開始剤または光開始剤の両方を含んでよい。このようなモノマー混合物はさらに、少なくとも1つの追加のシロキサニル基含有モノマーを含んでよい。さらにモノマー混合物は、少なくとも1つの親水性基含有モノマーを含んでよい。さらには少なくとも1種の架橋性基含有モノマーを含んでよい。このようなモノマー混合物を得る際、本発明のプレポリマーとシロキサニル基含有モノマーとの混合物は、溶解又は分散しなければモノマー混合物を鋳型に流し込むことができず、均一なレンズを得ることが難しい。総モノマー混合物質量%に対するプレポリマーの相対的質量%は、約0.1%〜20%、さらに好ましくは約0.2%〜10%、最も好ましくは0.5%〜5%である。
本発明のプレポリマーは、シロキサニル基含有モノマーである式(1)のシロキサニル基含有単量体に溶解または分散することが望ましく、とくに溶解することが望ましい。
【0034】
【化8】

[式(1)中、Xは−(CH−または、−(CH−O−CO−(CH−CO−O−(CH−を示す。]
本発明のプレポリマー0.1〜5.0重量部を式(1)で示されるシロキサニル基含有単量体95〜99.9重量部と混合して透明溶液組成物とすることができる。さらに、このような透明溶液組成物25.0〜80.0重量部と、式(2a)、式(2b)、または式(3)のいずれかで表される親水性単量体20.0〜75.0重量部を配合させてなる重合性透明溶液組成物とするのがよい。
【0035】
【化9】

[式(2a)中、Rは水素原子又はメチル基である。R、Rは水素原子または鎖長1〜8の1価の有機基または、R、Rと結合する鎖長3から7の2価の有機基を示す。]
【0036】
【化10】

[式(2b)中、Rは水素原子又はメチル基である。R、Rは水素原子または鎖長1〜8の1価の有機基または、R、Rと結合する鎖長3から7の2価の有機基を示す。]
【0037】
【化11】

[式(3)中、Rは水素原子又はメチル基である。Xはカルボニル基を含んでいて良い炭素数1〜4の2価の有機基を示す。]
【0038】
このような式(2a)、式(2b)、または式(3)のいずれかで表される親水性単量体の具体例としては、(メタ)アクリル酸、コハク酸[2−(2−メチル−1−オキソ−2−プロペニルオキシ)エチル]から選ばれるカルボン酸含有単量体;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2,3−ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、グリセロールメタクリレートから選ばれる水酸基含有単量体;(メタ)アクリルアミド、N−ビニル−2−ピロリドン(VP)、N,N−ジメチルアクリルアミド(DMA)、イソプロピル(メタ)アクリルアミド、モルフォリル(メタ)アクリルアミド、カルバミン酸ビニルモノマーから選ばれるアミド基含有単量体;が挙げられる。
としては、が挙げられる。
【0039】
これらのうち、親水性を付与し、入手性の容易さの理由からは、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートが好ましい。また入手性の容易さ、更には得られるソフトコンタクトレンズに親水性を付与すると共に柔軟性、機械的強度を付与する点の理由からは、N−ビニル−2−ピロリドンやN,N−ジメチルアクリルアミドが好ましい。
【0040】
本発明の重合性透明溶液組成物には、さらに架橋剤モノマーを加えてよい。架橋剤モノマーとしては、例えばエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートなどの多官能性(メタ)アクリレートを挙げることができる。
【0041】
本発明の重合性透明溶液組成物は共重合させることができ、UV重合、フリーラジカル熱開始剤と熱の使用、またはこれらの組合せなどの方法により容易に硬化、成形される。用いてよいフリーラジカル熱重合開始剤としては有機過酸化物、例えば例えば過酸化アセチル、過酸化ラウロイル、過酸化デカノイル、過酸化ステアロイル、過酸化ベンゾイル、過酸化ピバル酸三級ブチル、ペルオキシジカーボネート、および市販の熱開始剤、例えばルペルソル(LUPERSOL)(登録商標)256、225(アトフィナケミカルズ(Atofina Chemicals)、フィラデルフィア、ペンシルバニア州)があり、総モノマー混合物の約0.01〜2質量%の濃度で使用することができる。用いてよいUV開始剤は当該分野で公知であり、例えばベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ダロクール(DAROCUR)(登録商標)-1173、1164、2273、1116、2959、3331、イグラキュア(IGRACURE)(登録商標)651と184(チバスペシャルティケミカルズ(Ciba Specialty Chemicals)、アーズレイ(Ardsley)、ニューヨーク)である。
【0042】
上記重合開始剤以外に、本発明の重合性透明溶液組成物はまた、当業者に公知の他の成分を含有してもよい。例えば眼用レンズ分野で公知の追加の着色剤、またはUV吸収剤、および強化剤を含有してもよい。
【0043】
本発明の重合性透明溶液組成物の重合は、例えば所望の眼用レンズの形に一致させるようにして遠心成形法またはモールド成型法により行うことができる。こうして得られた眼用レンズは、必要に応じてさらに機械的仕上げを受けることができる。またボタン、プレートまたは棒の形のレンズ材料を与えるように適切な型または容器中で重合を行うことができ、これは次に処理(例えば旋盤またはレーザーで切断)されて、目的の眼用レンズを得ることができる。
【0044】
本発明の重合性透明溶液組成物は、場合により光学的眼用レンズまたはフィルムとして有用に使用できるが、眼用レンズに好ましく用いられる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
合成したプレポリマーは以下の方法にて評価を行った。
・TRISへの溶解性試験
TRISを95重量部とプレポリマー5重量部を混合し、25℃にて激しく攪拌を行った。攪拌の後、静置し目視にて混合物を観察した。以下の指標にて判定を行った。
均一に溶解する → ○
不溶固形分がある → ×
・ 1H−NMR測定法
測定装置:日本電子社製JNM−AL400
溶媒:CDCl(TMS基準)
【0046】
実施例1−1:(MPC0.3-トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルメタクリレート0.6-アリルメタクリレート0.1)共重合体の合成
MPC;9.98g、トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルメタクリレート;28.60g、アリルメタクリレート;1.42gをエタノール;280gに溶解し4つ口フラスコに入れ、30分間窒素を吹込んだ後、60℃でt-ブチルパーオキシネオデカノエート;3.91gを加えて12時間重合反応させた。得られた重合液を50倍量の水中に滴下し、析出した沈殿を濾過し、真空乾燥を行って、題記のポリマー粉末32.5gを得た。
メタノール/クロロホルム(4/6;重量比)を溶離液としたGPCにより分子量を評価したところ、ポリエチレングリコール標準で重量平均分子量37,000であった。
評価結果を表1に示す。また1H−NMRスペクトル(400MHz)から構造確認を行った。結果を図1に示す。5.24−5.34ppm、5.89ppmにアリルメタクリレートのアリル部位に由来するプロトンのシグナルを観測した。また、2.82ppm、3.38ppm、3.86−4.45ppmにMPC由来のシグナルを、0.10-0.15ppm、0.43ppm、0.86−1.14ppmにTRISに由来するシグナルを観測した。シグナル面積比からポリマーの共重合組成を求めたところ、MPC30モル%、トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルメタクリレート50モル%、アリルメタクリレート20モル%であり、仕込みのモノマー比率で重合した構造であることを確認した。
【0047】
実施例1−2、比較例1−1〜1−6は、上記実施例1−1と同様にして得た。
【0048】
【表1】

【0049】
実施例2−1:ヒドロゲルフィルムの調製−実施例1−1に記載のプレポリマーから得られる(熱硬化)。
質量比1.0/40/20/38.8/0.1/0.1のように、プレポリマー、TRIS、HEMA、VP、EDMA、およびバゾ(Vazo)(登録商標)52開始剤(デュポン(DuPont))を混合し、モノマー混合物溶液を調製した。調製した混合物溶液を0.5μmフィルターでろ過し、100μmのスペーサーを持つポリプロピレンシート間に注入した。100℃で4時間重合硬化し、ヒドロゲルフィルムに加工した。
【0050】
実施例2−1と同様の方法で実施例2−2〜4−6、比較例2−1〜4−8を行った。
【0051】
評価
調製したヒドロゲルフィルムは以下の方法にて1)透明性、2)接触角、3)ヤング率を測定し評価を行った。
1)透明性の評価
ヒドロゲルフィルムの透明性はその外観を目視により以下の指標で判定した。
・透明である →○
・微濁である →△
・白濁である →×
2)接触角の測定
ヒドロゲルフィルムの表面濡れ性を調べるために、協和界面科学社製接触角計(DropMaster500)を用いて気泡法により接触角を測定した。ガラスシリンジにより押し出された純水1.0μLの液滴がヒドロゲルフィルムに着液したときの界面接触角を、
3)ヤング率の測定
含水したシートから長さ15mm 、幅2mmの短冊20枚を切り出し、引っ張り試験機
(山電株式会社製、レオナーRe-3 3 0 5 )を用いて含水した短冊の弾性率を測定した。表中の弾性率の単位はMPaである。結果を表2、表3に示した。
【0052】
【表2】

【0053】
【表3】

【0054】
本発明のプレポリマーを使用して製造した眼用レンズは、プラズマ処理またはコロナ放電処理などの表面処理の必要なく親水性を発現することが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明のプレポリマーは、眼用レンズ分野で眼用レンズ表面改質用ポリマーとして、特に有効に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、20〜30モル%
(b)3−[トリス(トリメチルシロキシ)シリル]プロピルメタクリレート、50〜70モル%
(c)アリルメタクリレート、5〜30モル%
を含み、(a)+(b)+(c)=100モル%であって、(b)÷(a)>2.0であり、(a)成分、(b)成分、(c)成分を重合してなる分子量が10,000〜50,000であるプレポリマー。
【請求項2】
請求項1に記載のプレポリマー0.1〜5.0重量部を式(1)で示されるシロキサニル基含有単量体95〜99.9重量部と混合して得た透明溶液組成物。
【化1】

[式(1)中、Xは−(CH−または、−(CH−O−CO−(CH−CO−O−(CH−を示す。]
【請求項3】
請求項2に記載の透明溶液組成物25.0〜80.0重量部と、式(2a)、式(2b)、または式(3)のいずれかで表される親水性単量体20.0〜75.0重量部を配合させてなる重合性透明溶液組成物。
【化2】

[式(2a)中、Rは水素原子又はメチル基である。R、Rは水素原子または鎖長1〜8の1価の有機基または、R、Rと結合する鎖長3から7の2価の有機基を示す。]
【化3】

[式(2b)中、Rは水素原子又はメチル基である。R、Rは水素原子または鎖長1〜8の1価の有機基または、R、Rと結合する鎖長3から7の2価の有機基を示す。]
【化4】

[式(3)中、Rは水素原子又はメチル基である。Xはカルボニル基を含んでいて良い炭素数1〜4の2価の有機基を示す。]
【請求項4】
請求項3に記載の重合性透明溶液組成物を重合させてなる眼用レンズ。

【図1】
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【公開番号】特開2011−52055(P2011−52055A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−200049(P2009−200049)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【出願人】(000004341)日油株式会社 (896)
【Fターム(参考)】