説明

プレmRNAのスプライシングを修飾するための方法および組成物

本発明は、プレmRNA分子のスプライシング事象を抑制するためにプレmRNAおよび/またはスプライシング機構のエレメントを本明細書中に記載の方法によって同定した小分子化合物と接触させるステップを含む、プレmRNA分子中のスプライシング事象を抑制する方法を提供する。さらに、プレmRNA分子のスプライシング事象を誘導するためにプレmRNAおよび/またはスプライシング機構のエレメントを本明細書中に記載の方法によって同定した小分子化合物と接触させるステップを含む、プレmRNA分子中のスプライシング事象を誘導する方法を提供する。さらに、プレmRNA分子中の選択的スプライシングまたは異常なスプライシング事象を抑制するために治療有効量の本明細書中に記載の方法によって同定された化合物を患者に投与し、それにより患者を治療するステップを含む、プレmRNA分子の選択的または異常なスプライシング事象に関連する障害を有する患者の治療方法を本明細書中に提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願]
本願は、米国特許法119条(e)項の下、2002年9月27日提出の米国特許仮出願番号60/414,141号(参照することによりその内容全体が本明細書中に組み込まれる)の優先権を主張する。
【0002】
[発明の分野]
本発明は、プレmRNA分子のスプライシング事象の修飾方法および選択的スプライシング事象または異常なスプライシング事象に関連する障害の治療方法、ならびに本発明の方法の実施に有用な化合物および組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
Kole et al.に付与された米国特許第5,976,879号は、異常なスプライシングを阻害して正確なスプライシングに修復するか選択的スプライシングを改変するアンチセンスオリゴヌクレオチドを記載する。
【発明の開示】
【0004】
本発明は、a)化合物を、i)スプライシング事象の非調整下で遺伝子産物を作製するためにcDNAを発現できないようにするイントロンによって破壊されたcDNA、およびii)スプライシング機構のエレメントと接触させるステップと、b)遺伝子産物を産生するためにcDNAの発現を検出し、それによりプレmRNA分子におけるスプライシング事象を調整することができる化合物を同定するステップとを含む、プレmRNA分子のスプライシング事象を調整する(例えば、抑制するか誘導する)ことができる化合物の同定方法を提供する。
【0005】
治療有効量の本明細書中の方法によって同定された化合物を被験体に投与するステップを含む、プレmRNA分子の選択的スプライシング事象または異常なスプライシング事象に関連する障害を有する被験体の治療方法をさらに提供する。
【0006】
天然タンパク質をコードするDNAを含む細胞中において天然タンパク質の発現をアップレギュレートする方法であって、前記DNAはその異常なスプライシングにより天然タンパク質をダウンレギュレートさせる変異を含み、前記細胞に本明細書中の方法によって同定された化合物を導入し、それにより前記異常なスプライシングが阻害され、それにより前記天然タンパク質がアップレギュレートされるステップを含む方法をさらに提供する。
【0007】
さらに、本発明は、選択的スプライシングにより生じるタンパク質をコードするDNAを含む細胞中において選択的スプライシングにより生じる前記タンパク質の発現をアップレギュレートする方法であって、DNAが選択的スプライシングにより生じるタンパク質をダウンレギュレートさせる第1のスプライシング事象によって調節され、スプライシングを調整するために前記細胞に請求項1の方法によって同定された化合物を導入し、それにより前記第1のスプライシング事象が阻害され、第2のスプライシング事象が起こり、それにより前記別のタンパク質の発現がアップレギュレートされるステップを含む方法を提供する。
【0008】
さらなる実施形態では、本発明は、本発明の方法によって同定された化合物および薬学的に許容可能なキャリアを含む組成物を提供する。
【0009】
本発明はまた、1つの態様では、プレmRNA分子中のスプライシング事象を抑制または誘導するためにプレmRNAまたはスプライシング機構の他のエレメントを本明細書中に記載の方法によって同定された化合物と接触させるステップを含む、プレmRNA分子のスプライシング事象を抑制または誘導する方法を提供する。本発明は、正の(スプライシングの抑制または誘導)効果または負の(スプライシングを抑制も誘導もしない)効果が得られて検出される条件下で、化合物を本明細書中の実施例に記載の細胞および/または本明細書中に記載のスプライシング機構のエレメントと接触させるステップと、スプライシング事象を抑制または誘導することができる化合物として正の効果が得られる化合物を同定するステップと含む、プレmRNA分子のスプライシング事象を調整(すなわち、抑制または誘導)することができる化合物の同定方法も提供する。
【0010】
別の態様では、本発明は、プレmRNA分子の選択的または異常なスプライシング事象に関連する障害を有する患者を治療する方法であって、前記プレmRNA分子の選択的スプライシング事象または異常なスプライシング事象を抑制または誘導するために、薬学的に許容可能なキャリアおよび本明細書に記載の方法によって同定された治療有効量の化合物を患者に投与し、それにより前記患者を治療するステップを含む方法を提供する。
【0011】
本発明の上記ならびに他の目的および態様を、本明細書中で下記により詳細に説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
イントロンは、DNAのコード部分(すなわち、「エクソン」)の間に介在する真核生物DNAの一部である。イントロンおよびエクソンは、mRNAの前駆体(すなわち、「プレmRNA」)である「一次転写物」と呼ばれるRNAに転写される。エクソンによってコードされる天然タンパク質を産生することができるように、イントロンはプレmRNAから除去されなければならない(本明細書中で使用される、用語「天然タンパク質」は、天然に存在する野生型または機能的タンパク質をいう)。スプライシングプロセスにおいてプレmRNAからのイントロンの除去およびその後のエクソンの連結が行われる。
【0013】
スプライシングプロセスは、転写後且つ翻訳前にRNAで行われ、スプライシング因子によって媒介される一連の反応である。したがって、「プレmRNA」は、エクソンおよびイントロンの両方を含むRNAであり、「mRNA」はイントロンが除去されてエクソンが連続的に連結され、その結果リボゾームによってこれらからタンパク質が翻訳され得るRNAである。
【0014】
イントロンは、スプライシング機構の一部であり、且つスプライシングに必要である「スプライスエレメント」組によって定義され、スプライシング反応を行う種々のスプライシング因子に結合する比較的短い保存RNAセグメントである。したがって、各イントロンは、5’スプライス部位、3’スプライス部位、およびこれらの間に存在する分岐点によって定義される。スプライスエレメントはまた、スプライス部位および分岐点からある距離をおいてエクソン中に存在するエクソンスプライシングエンハンサーおよびサイレンサーならびにイントロン中に存在するイントロンスプライシングエンハンサーおよびサイレンサーを含む。スプライス部位および分岐点に加えて、これらのエレメントは、選択的な異常スプライシングおよび構成性スプライシングを調節する。
【0015】
本発明は、一定の小化学分子が特定のプレmRNA分子の特定のスプライシング事象を改変することができるという予想外の発見を提供する。これらの小分子は、スプライシング事象を改変する種々の機構によって操作することができる。例えば、本発明の小分子は、1)スプライシング複合体(スプライセオソーム)およびその成分(hnRNP、snRNP、SR−タンパク質、および他のスプライシング因子またはエレメントなど)の形成および/または機能および/または他の性質を妨害し、それによりプレmRNA分子のスプライシング事象を抑制または誘導することができる。別の例として、2)本発明の小分子は、その後特定のスプライセオソームの形成および/または機能に関与する遺伝子産物(例えば、hnRNP、snRNP、SR−タンパク質、および他のスプライシング因子が含まれ得るが、これらに限定されない)の転写を抑制および/または改変することができる。3)本発明の小分子はまた、その後特定のスプライセオソームの形成および/または機能に関与する遺伝子産物(例えば、hnRNP、snRNP、SR−タンパク質、および他のスプライシング因子が含まれるが、これらに限定されない)のリン酸化、グリコシル化、および/または他の変異を抑制および/または改変することができる。4)さらに、本発明の小分子は、特定のスプライシング事象が配列特異的様式でのRNAとの塩基対合に関与しない機構を介して抑制または誘導されるように特定のプレmRNAに結合し、そして/または影響を与えることができる。したがって、本発明の小分子は、アンチセンスまたはアンチジーンオリゴヌクレオチドと異なり、且つ関連しない。
【0016】
本発明の化合物によるスプライシング事象の改変には、天然に存在する選択的(alternativeまたはalternate)スプライシングの調整が含まれ、正確または所望のスプライシング事象への修復が含まれ、遺伝病を発症し得るかこれに関連する変異によって引き起こされる異常なスプライシング事象の抑制も含まれ得る。
【0017】
異常なスプライシングの抑制が望ましい実施形態では、天然のDNAおよびプレmRNAの変異は、新規の異常なスプライスエレメントを作製する置換変異または欠失変異のいずれかであり得る。したがって、異常なスプライスエレメントは、異常なイントロンを定義する異常なスプライスエレメント組の1つのメンバーである。異常なスライスエレメント組の残りのメンバーもまた天然のイントロンを定義するスプライスエレメント組のメンバーであり得る。例えば、変異によって天然の3’スプライス部位の上流(すなわち、5’)および天然の分岐点の下流(すなわち、3’)の両方に新規の異常な3’スプライス部位が作製される場合、天然の5’スプライス部位および天然の分岐点は天然のスプライスエレメント組および異常なスプライスエレメント組の両方のメンバーとして作用し得る。他の状況では、変異により通常優性であるかスプライシングエレメントとして役割を果たさない天然のRNA領域が活性化されてスプライシングエレメントとして作用し得る。このようなエレメントを、「潜在性」エレメントという。
【0018】
例えば、変異により天然の3’スプライス部位と天然の分岐点との間に存在する新規の異常な変異3’スプライス部位が作製される場合、変異は、異常な変異3’スプライス部位と天然の分岐点との間の潜在性分岐点を活性化することができる。他の状況では、変異により、天然の分岐点と天然の5’スプライス部位との間にさらなる異常な5’スプライス部位が作製され、潜在性3’スプライス部位および異常な変異5’スプライス部位の連続した上流の潜在性分岐点をさらに活性化し得る。この状況では、天然のイントロンが2つの異常なイントロンで分割されるようになり、その間に新規のエクソンが位置付けられる。
【0019】
さらに、天然のスプライスエレメント(特に、分岐点)もまた異常なスプライスエレメント組のメンバーであるいくつかの状況では、天然のエレメントを遮断して潜在性エレメント(すなわち、潜在性分岐点)を活性化し、天然のスプライスエレメント組の残りのメンバーを集めて正確なスプライシングに不正確なスプライシングを強制することが可能である。潜在性スプライスエレメントが活性化される場合、これはイントロン中または隣接エクソン中の1つのいずれかに存在し得ることもさらに留意のこと。したがって、特定の変異によって作製された異常なスプライスエレメント組に依存して、本発明の化合物は、本発明を実施するために種々の異なるスプライスエレメントを遮断することができる。本発明の化合物は、変異エレメント、潜在性エレメント、または天然のエレメントを遮断することができ、5’スプライス部位、3’スプライス部位、または分岐点を遮断することができる。勿論、上記で考察するように、天然のスプライスエレメントの遮断により潜在性エレメントが活性化され、その後天然のスプライスエレメント組の代理メンバーとして作用し、正確なスプライシングに関与する状況を考慮すると、一般に、天然のイントロンも定義するスプライスエレメントは遮断しない。
【0020】
他の実施形態では、本発明の化合物の使用によって選択的スプライシング事象を調整することができる。例えば、本発明の化合物を、選択的スプライス部位を含む遺伝子が存在する細胞に移入することができる。化合物の非存在下では、特定の機能を有する遺伝子産物を産生するために第1のスプライシング事象が起こる。本発明の化合物の存在下では、第1のスプライシング事象は阻害され、第2または選択的スプライシング事象が起こり、結果として同一の遺伝子が発現して異なる機能を有する遺伝子産物が産生される。本発明の方法によって選択的スプライシング事象を調整する能力を有する化合物が同定される。
【0021】
したがって、特定の実施形態では、本発明は、プレmRNA分子のスプライシング事象を抑制または誘導するためにプレmRNA分子および/または他のスプライシング機構の他のエレメント(例えば、細胞内)を本明細書中に記載の方法によって同定された化合物と接触させるステップを含む、プレmRNA分子のスプライシング事象を抑制または誘導する方法を提供する。抑制または誘導されるスプライシング事象は、異常なスプライシング事象または選択的スプライシング事象のいずれかであり得る。
【0022】
さらに、正の(スプライシングの抑制または誘導)効果または負の(スプライシングを抑制も誘導もしない)効果が得られて検出される条件下で、化合物を本明細書中の実施例1に記載の選択的な異常および/または構成性スプライシングに関与するスプライシングエレメントおよび/または因子と接触させるステップ(例えば、細胞内で)と、スプライシング事象を抑制または誘導することができる化合物として正の効果が得られる化合物を同定するステップと含む、プレmRNA分子のスプライシング事象を抑制または誘導することができる化合物の同定方法を本明細書中に提供する。
【0023】
さらなる実施形態では、本発明は、薬学的に許容可能なキャリア中にプレmRNA分子の選択的スプライシングまたは異常なスプライシングを抑制または誘導するための本明細書中に記載の方法によって同定された化合物を含む組成物を提供する。上記のように、本発明の化合物は、アンチセンスやアンチジーンオリゴヌクレオチドではない。表5は、本発明の化合物の例として本発明のいくつかの化合物の化学構造を示すが、全てを含むことは意図しない。さらなる化合物は、本明細書中に記載のプロトコールによって本明細書中に記載の特徴を有することが同定されているか同定することができる本発明の一部であることが意図される。
【0024】
別の実施形態では、本発明は、その異常なおよび/または選択的スプライシングによって天然タンパク質がダウンレギュレートされる変異を有する、天然タンパク質をコードするDNAを含む細胞中の天然タンパク質の発現をアップレギュレートする方法を提供する。より詳細には、DNAは、本明細書中に記載の特徴を有するプレmRNAをコードする。本方法は、異常なスプライシング事象を抑制する化合物として本明細書中に記載のように同定された本発明の小分子を細胞に導入するステップと、それにより正確なスプライシングによって天然のイントロンが除去され、細胞によって天然タンパク質が産生されることとを含む。さらなる実施形態では、本発明は、選択的スプライシング事象を調整することが同定されている本発明の小分子を細胞に導入して選択的スプライシングを調整せずに産生されるタンパク質と異なる機能を有するタンパク質が産生されるステップを含む方法を提供する。
【0025】
本発明はまた、コードされるプレmRNAの異常なスプライシングによって変異を含むDNAの発現をアップレギュレートするか遺伝子をダウンレギュレートするための本発明の化合物の使用手段を提供する。したがって、1つの実施形態では、本発明は、変異を含むプレmRNA分子の異常なスプライシングの抑制方法および/または選択的スプライシング事象の抑制方法を提供する。プレmRNA中に存在する場合、変異によりプレmRNAが不正確にスプライシングされて通常プレmRNAに起因するmRNAと異なる異常なmRNAまたはmRNAフラグメントが産生される。より詳細には、プレmRNA分子は、(i)変異が存在しない場合にスプライシングによって除去されて天然のタンパク質をコードする第1のmRNA分子が産生される天然のイントロンを定義する第1のスプライスエレメント組、および(ii)変異が存在する場合にスプライシングによって除去されて第1のmRNA分子と異なる異常な第2のmRNA分子が産生される、天然のイントロンと異なる異常なイントロンを定義する変異によって誘導された第2のスプライスエレメント組を含む。本方法は、本明細書中に記載のプレmRNA分子および/またはスプライシング機構の他の因子および/またはエレメントを(例えば、細胞内)、プレmRNA分子の異常なスプライシング事象を抑制するための本明細書中に記載の方法によって同定された化合物に接触させ、それにより天然のイントロンが正確なスプライシングによって除去されて、細胞によって天然タンパク質が産生されるステップを含む。
【0026】
DNAの選択的スプライシング事象の調整によってDNA発現をアップレギュレートするかダウンレギュレートする方法をさらに提供する。本方法は、本明細書中に記載のプレmRNA分子ならびに/またはスプライシング機構の他のエレメントおよび/もしくは因子を(例えば、細胞内)選択的スプライシング事象を調整することが同定された本発明の化合物と接触させるステップと、それにより通常のスプライシング事象が阻害されて、通常のスプライシング事象の調節下でDNA発現をアップレギュレートさせるかダウンレギュレートさせる選択的スプライシング事象が生じることを含む。
【0027】
本発明の方法、化合物、および組成物は、種々の用途を有する。例えば、これらは、一定期間まで発現される遺伝子発現をダウンレギュレートし、その後遺伝子発現をアップレギュレートすることが望ましい手段を有することが望ましい任意のプロセス(例えば、発酵の増殖期にダウンレギュレートし、且つ発酵の産生期にアップレギュレートする)で有用である。このような用途のために、発現すべき遺伝子は、遺伝子が天然のイントロンを含む限り、産生されるべきタンパク質をコードする任意の遺伝子であり得る。次いで、遺伝子を、その後遺伝子発現をダウンレギュレートする異常なイントロンを定義する異常な第2のスプライスエレメント組を意図的に作製するための部位特異変異誘発(T.Kunkelに付与された米国特許第4,873,192号を参照のこと)などの任意の適切な手段によって変異することができる。次いで、標準的な組換え技術によって、遺伝子を適切な発現ベクターに挿入し、発現ベクターを宿主細胞(例えば、酵母、昆虫、または哺乳動物細胞(例えば、ヒト、ラット)などの真核細胞)に挿入することができる。次いで、標準的な技術によって、宿主細胞を培地中で成長させる。変異遺伝子発現のアップレギュレートが望ましい場合、遺伝子発現がアップレギュレートされるように適切な処方物中の本発明の適切な化合物を培養培地に添加することができる。
【0028】
本発明の方法、化合物、および処方物はまた、ヒトまたは動物の遺伝子および/または発展的には調整された組織のスプライシング事象(例えば、選択的スプライシング事象)の試験および調整のためのインビトロまたはインビボツールとして有用である。下記の手順または当業者に自明のその修正形態によってこのような実験を行うことができる。
【0029】
本発明の化合物および処方物はまた、プレmRNAの異常なスプライシングを誘導する変異が同定された異常および/または選択的スプライシングに関与する疾患(β−サラセミア(オリゴヌクレオチドがβ−グロビン(特に、ヒト)プレmRNAに結合する)、αサラセミア(オリゴヌクレオチドがα−グロビンのプレmRNAに結合する)、テイ・サックス症候群(オリゴヌクレオチドがβ−ヘキソースアミニダーゼαサブユニットのプレmRNAに結合する)、フェニルケトン尿症(オリゴヌクレオチドがフェニルアラニンヒドロキシラーゼのプレmRNAに結合する)、および一定の嚢胞性線維症形態(オリゴヌクレオチドが嚢胞性線維症遺伝子のプレmRNAに結合する)など)の治療における治療薬として有用である(例えば、S.Akli et al.,J.Biol.Chem.265,7324(1990);B.Dworniczak et al.,Genonnics 11,242(1991);L−C.Tsui,Trends in Genet.8,392(1992)を参照のこと)。
【0030】
本発明によって治療することができるβ−サラセミアの例には、β110、IVS15、IVS16、IVS2654、IVS2705、およびIVS2745変異クラスのもの(すなわち、β−グロビンプレmRNAが上記変異を保有する)が含まれるが、これらに限定されない。
【0031】
本発明の方法によって治療することができるプレmRNA分子の選択的または異常なスプライシング事象に関連する他の障害には、ウイルスおよびレトロウイルス感染、がん、心血管疾患、代謝疾患(糖尿病が含まれるが、これに限定されない)、炎症性疾患(関節炎が含まれるが、これに限定されない)、肥満症が含まれるが、これらに限定されない。
【0032】
したがって、さらなる実施形態では、本発明は、選択的スプライシング事象を調整するか異常なスプライシング事象を抑制してプレmRNA分子の正確なスプライシング事象に修復するための本明細書中に記載の方法によって同定された治療有効量の化合物を含む薬学的に許容可能なキャリアを患者に投与し、それにより患者を治療するステップを含む、プレmRNA分子の選択的または異常なスプライシング事象に関連する障害を有する患者の治療方法を提供する。
【0033】
本発明の処方物は、水性キャリアなどの生理学的または薬学的に許容可能なキャリア中の本発明の小分子を含む。したがって、本発明で使用するための処方物には、経口投与、非経口投与(皮下、皮内、筋肉内、静脈内、および動脈内投与が含まれる)、および局所投与(例えば、嚢胞性線維症もしくは肺癌に罹患した患者の肺への呼吸に適する粒子のエアゾール化処方物の投与、または乾癬患者の経皮投与のためのクリームもしくはローション処方物)に適切なものが含まれるが、これらに限定されない。処方物は、都合よく単位投与形態中に存在することができるか、当分野で周知の任意の方法によって調製することができる。任意の所与の場合の最も適切な投与形態は、当業者によって容易に決定される、被験体、治療される病態の性質および重症度、ならびに使用される特定の活性化合物に依存し得る。
【0034】
本発明はまた、上記で考察するように、プレmRNA分子の異常または選択的スプライシングに関連する障害を有する患者の遺伝子発現のアップレギュレートのための薬物の調製のための上記特徴を有する本発明の化合物の使用を提供する。本発明の薬物の製造では、化合物を、典型的には、特に、薬学的に許容可能なキャリアと混合する。キャリアは、勿論、処方物中の任意の他の成分と適合するという意味で許容可能であり、患者に有毒であってはならない。キャリアは、固体または液体であり得る。1つまたは複数の化合物を、本発明の処方物中に任意の組み合わせで組み込むことができ、本質的に選択的に1つまたは複数の治療副成分を含む組成物の混合からなる任意の周知の薬学的技術によって調製することができる。
【0035】
本発明の処方物は、活性化合物の滅菌水性および非水性注射溶液を含むことができ、調製物は、好ましくは、意図するレシピエントの血液と等張であり、本質的に発熱物質を含まない。これらの調製物は、抗酸化剤、緩衝液、静菌薬、および処方物を意図するレシピエントの血液と等張にする溶質を含み得る。水性および非水性滅菌懸濁系はまた、懸濁化剤および増粘剤を含み得る。処方物は単位用量または多用量コンテナ中に存在することができ(例えば、密封アンプルおよびバイアル)、滅菌液体キャリア(例えば、使用直前に使用する注射用生理食塩水または水)の添加のみが必要なフリーズドライ(凍結乾燥)条件で保存することができる。
【0036】
1つの処方物では、本発明の化合物を、非経口投与に適切であり得るリポソームまたは微結晶などの脂質の粒子または小胞内に含めることができる。化合物が粒子中に含まれる限り、粒子は単層または多層などの任意の適切な構造であってよい。このような粒子および小胞には、N−[1−(2,3−ジオレオイルオキシ)プロピル]−N,N,N−トリメチル−アンモニウムメチルスルフェート(すなわち、「DOTAP」)などの正電荷の脂質が特に好ましい。このような脂質粒子の調製は周知である。例えば、Janoff et al.に付与された米国特許第4,880,635号;Kurono et al.に付与された米国特許第4,906,477号;Wallachに付与された米国特許第4,911,928号;Wallachに付与された米国特許第4,917,951号;Allen et al.に付与された米国特許第4,920,016号;Wheatley et al.に付与された米国特許第4,921,757号などを参照のこと。
【0037】
化合物の投薬量は、実施される特定の方法、被験体に投与される場合、被験体の疾患、病態、特定の処方物、投与経路などに依存する。ヒトなどの被験体に投与するために、約0.001、0.01、0.1、または1.0mg/Kgから約50、100、または150mg/Kgまでの投薬量を使用する。
【0038】
本発明を例示するために以下の例を記載するが、本発明を制限すると解釈されない。
【実施例1】
【0039】
<ライブラリースクリーニング>
10,000個の薬物様小分子の市販のライブラリーを、β−グロビン遺伝子を正確なスプライシングパターンに修復する能力についてスクリーニングした。200から500kDまでの分子量範囲の分子は構造が多様であり、薬理作用団(pharmacophore)特性を有するものを予め選択した。
【0040】
EGFP(増強(enhanced)緑色蛍光タンパク質)構築物で安定にトランスフェクトしたHeLa細胞株を使用してスクリーニングを行った。この構築物は、サラセミア変異を含むβ−グロビン遺伝子のイントロン2によって破壊されたEGFPcDNAを含み(図1)、CMVプロモーターの調節下にあった。この構築物を使用して、2つの異なる細胞株(一方は、654位の変異(IVS2−654 EGFP)であり、他方は705位の変異(IVS2−705U EGFP)である)を作製した。
【0041】
IVS2−654またはIVS2−705のいずれかにサラセミア変異を保有するヒトβ−グロビン遺伝子でのHeLa細胞の安定なトランスフェクションによってβ−グロビン細胞株を得た。クローン化遺伝子は、即時型サイトメガロウイルスプロモーターの調節下にあった(Sierakowska,et al.,(1996)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 93:12840−12844)。IVS2−654 EGFP細胞株は当分野で周知である(Sazani(2001)Nucl Acids Res.29:3965−3974)。IVS2−705U EGFP細胞株を、同一の様式で異なるプラスミドを使用して作製した。HeLa細胞を、5%ウマ血清、5%ウシ胎児血清、1%L−グルタミン、および1%ゲンタマイシン/カナマイシンを含むSMEM中で成長させた。
【0042】
両構築物のために、変異イントロン2でのEGFPの破壊により、機能的EGFPタンパク質の産生が欠失する。細胞を正確なスプライシングに修復する場合、イントロン2を切り出し、機能的EGFPタンパク質を作製する(Sazani(2001)Nucl.Acids Res.29:3965−3974)。これにより、蛍光顕微鏡で容易に検出可能な蛍光シグナルが得られる。
【0043】
ブラックウェルの透明な底の96ウェルプレートに13×104細胞/mlの細胞を100μl/ウェルでプレートした。プレートの末端の列(列1〜12)はコントロール列であり、残りの列を化合物で処理した。コントロール列では、ポジティブコントロールEGFP細胞を、ネガティブコントロールとして使用する未処理細胞と交互に並べた。アンチセンスオリゴヌクレオチドまたは小化合物を使用せずに正確なスプライシングに修復する代償性変異を有するIVS2−654 EGFP構築物を含む細胞株をポジティブコントロールとして使用した。未処理IVS2−705U EGFP細胞またはIVS2−654 EGFP細胞をネガティブコントロールとして使用した。
【0044】
化合物は、10,000個の小分子の無作為化ライブラリーおよび全ライブラリーの化合物の説明書からなるPrime Collection(Chembridge Corporation,SanDiego,CA)であり、その生成物全体が本明細書中で参照することにより組み込まれる。化合物を、20μlのDMSOで約500g/molの分子量に希釈し、それにより濃度は約10mMであった。化合物を、1%L−グルタミンおよび1%ゲンタマイシン/カナマイシンのみを含む無血清SMEM培地で100μMの濃度までさらに100倍希釈した。
【0045】
プレーティングから24時間後、細胞からHeLa培地を除去し、2×血清を含む75μl(10%ウシ胎児血清、10%ウマ血清、1%L−グルタミン、および1%ゲンタマイシン/カナマイシンを含むSMEM)の培地を添加した。その後、75μlの希釈化合物を各ウェルに添加し、各ウェルに一定量の化合物を添加して最終濃度を50μMとし、培地中の血清量を1倍にした。
【0046】
処理から24時間後、培地を除去し、細胞を150μlの1×PBSで2回洗浄した。次いで、細胞を、100μlの2%パラホルムアルデヒド(PFA)を使用して固定した。PFAを5〜10分間細胞上に残したままにし、細胞を、1×PBSで2回洗浄し、最後の洗浄後にウェル中の150μlのPBSを除去した。次いで、細胞を、FITCフィルターを使用したOlympus倒立蛍光顕微鏡で10倍または20倍の倍率で試験した。目視によって蛍光を検出した。プレートリーダーは予想される低レベルのEGFP蛍光の検出には感度が不十分であるので、蛍光プレートリーダーを使用する試みは失敗した。化合物が細胞に蛍光を発生させるかどうかを決定するために(化合物は正確なスプライシングであることを示す)、処理細胞を未処理細胞と比較した。
【0047】
化合物を陽性と示すために使用した基準は以下であった。細胞は処理後に健常なままでなければならなかった(化合物が比較的高い試験濃度であっても有毒でないことを示す)。さらに、蛍光は、全ての細胞全体でほとんど均一でなければならなかった。この基準は、多数の化合物が種々の自己蛍光レベルを有し、それにより細胞蛍光を生じさせる化合物との区別が困難であるという事実によって複雑になった。ストランド、小片、またはクランプ中に大量の自己蛍光化合物を含むウェルも潜在的な陽性と見なした。
【0048】
最初のスクリーニングにより、IVS2−654またはIVS2−705U EGFP細胞のいずれかに対して試験した10,000種の化合物から全部で132種が正であった(緑色蛍光を発する化合物)。陽性の化合物の存在下での細胞蛍光の例を、図2に示す。僅かに輝く細胞蛍光を示す化合物(図2、パネルA)、細胞蛍光が低レベルの自己蛍光を示す化合物(図2、パネルB)、低レベルの細胞蛍光しか示さない化合物(図2、パネルC)が検出可能であった。
【0049】
132種の陽性の化合物のうち、13種によりIVS2−654 EGFP細胞のみが蛍光を発し、16種はIVS2−705U EGFP細胞に特異的であった。他の103種の陽性の化合物は、両細胞株に蛍光を発した。132種の陽性の化合物のうち、約15%しか均一に分布した中程度または高レベルの光を発すると記録されなかった。別の20%は低レベルの蛍光を発し、30%は非常にわずかであった。残りの35%は斑点であるか、化合物自己蛍光の小粒がいくらか存在していた。
【0050】
IVS2−705UおよびIVS2−654 EGFP細胞株を、132種の陽性の化合物で2回処理し、蛍光顕微鏡で分析した。最初に陽性と同定されたいくつかの化合物が第2の試験で検出可能な蛍光シグナルを発しないことに留意した。従って、いくつかの処理したウェルに自己蛍光化合物の小粒を満たした。
【実施例2】
【0051】
<EGFPに陽性の化合物のRT−PCR分析>
EGFP細胞で認められた蛍光がスプライシングをシフトする化合物の結果であるかどうかを決定するために、RT−PCRベースのアッセイを行った。このアッセイは、異常にスプライシングした産物がイントロン2の一部を含むので正確にスプライシングされた産物よりも僅かに長いことを証明する。したがって、エクソン2および3中に存在するプライマーを使用して、産物をPCR増幅し、アクリルアミドゲルでの産物の泳動によってサイズの相違を検出する。
【0052】
IVS2−705UおよびIVS2−654 EGFP細胞を陽性の化合物で再処理して顕微鏡で試験した後、TRI−REAGENT(登録商標)(Molecular Research Center,Inc.,Cincinnati,OH)を使用して総RNAを単離した。全部で200ngのRNAを、製造者の説明書に従って、rTth DNAポリメラーゼ(Perkin−Elmer,Boston,MA)を使用した逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)によって分析した。70℃で15分間逆転写ステップを行った。PCRステップは、95℃で3分間を1サイクル、95℃で1分間および65℃で1分間を18サイクルでインキュベートした。β−グロビンmRNA増幅のために、逆方向プライマーはヒトβ−グロビン遺伝子のエクソン3の6〜28位にわたり、正方向プライマーはエクソン2の21〜43にわたっていた。EGFP mRNA増幅のために、逆方向プライマーは、5’−GTGGTGCAGATGAACTTCAGGGTC−3’(配列番号1)であり、正方向プライマーは5’−CGTAAACGGCCACAAGTTCAGCG−3’(配列番号2)であった。RT−PCR産物を、8%未変性ポリアクリルアミドゲルで分離し、オートラジオグラフィで視覚化した。
【0053】
図3は、いくつかの陽性の化合物で処理したEGFP細胞由来のRT−PCR産物を使用したポリアクリルアミドゲルの例を示す。異常なバンドと正確なバンドとの比の比較によって、修正量を決定した。図3中の異常なバンドは全て類似の強度であり、正確なバンドを容易に同定可能である。
【0054】
RT−PCRによってIVS2−705U EGFP細胞を修正する化合物を、表1で+サインによって示す。IVS2−654 EGFP細胞を修正する化合物を表2に示す。RT−PCRによって全部で11種の化合物がIVS2−705U EGFP細胞を修正し、11種の化合物がIVS2−654 EGFP細胞を修正した。これらの修正させる化合物のうち、2種のみが両EGFP細胞株を修正した。
【0055】
【表1A】

【0056】
【表1B】

【0057】
【表1C】

【0058】
*化合物自体が自己蛍光を発せず高レベルの蛍光を緩和する化合物を(+)サインで示した。A(+/−)は、僅かなレベルの蛍光を発する化合物または細胞に蛍光を発生させることに加えていくらか自己蛍光を発する化合物を示す。A(−)は、化合物が検出可能なレベルの蛍光を発生させないことを示す。
#RT−PCRによって修正させる化合物を、(+)サインで示す。
【0059】
【表2A】

【0060】
【表2B】

【0061】
【表2C】

【0062】
*化合物自体が自己蛍光を発せず高レベルの蛍光を緩和する化合物を(+)サインで示した。A(+/−)は、僅かなレベルの蛍光を発する化合物または細胞に蛍光を発生させることに加えていくらか自己蛍光を発する化合物を示す。A(−)は、化合物が検出可能なレベルの蛍光を発生させないことを示す。
#RT−PCRによって修正させる化合物を、(+)サインで示す。
【0063】
これらの結果は、化合物は配列特異的様式で正確なスプライシングに修復することができることを示す。RT−PCRによって決定した蛍光の存在とスプライシングの修正との間の相関関係を得ることは困難である。しかし、一般に、RT−PCRアッセイにおいて修正させる化合物は、蛍光顕微鏡で分析した場合にかならずしも検出可能な蛍光を発しない。
【実施例3】
【0064】
<陽性の化合物でのβ−グロビン細胞株の処理>
治療的に有意な細胞株には、IVS2−705およびIVS2−654 β−グロビン細胞株が含まれる。これらのβ−グロビン細胞は、EGFPと異なるエクソン配列を有し、本明細書中に提供した化合物の配列特異性をさらに調査することが可能である。β−グロビン細胞を上記で提供した132種全ての陽性の化合物で処理し、その後蛍光顕微鏡で試験した。β−グロブリン細胞はEGFP構築物を含まないので、スプライシングの修正により蛍光シグナルを発しない。したがって、検出された任意の蛍光は、化合物の自己蛍光に起因する可能性が高かった。しかし、ほとんどのβ−グロビン細胞は、同一の化合物で処理したEGFP細胞に等しい蛍光レベルを示した。これは、EGFP細胞で認められた蛍光のほとんどがスプライシングを修正する化合物よりもむしろ化合物の自己蛍光の結果であることを示した。しかし、上記のように、化合物の自己蛍光は、この修正によって生じた蛍光をマスキングし得るとしても、正確なスプライシングの修復を妨げない。したがって、RT−PCRの実施により化合物がスプライシングを修正することが解明された。
【0065】
陽性の化合物で処理したIVS2−705およびIVS2−654 β−グロブリン細胞から単離された総RNAについてRT−PCRアッセイを行った。IVS2−705およびIVS2−654 β−グロブリン細胞についてのRT−PCRの結果を表1および表2にそれぞれ示す。13種の化合物がIVS2−705β−グロブリン細胞を修正し、たった1種の化合物がIVS2−654 β−グロブリン細胞を修正した。この化合物(化合物CC8)は、4つ全ての試験細胞株を修正する唯一の化合物であった。
【0066】
蛍光データおよびRT−PCRの結果は、蛍光レベルと修正量との間に明らかな相関関係はないことを示す(すなわち、蛍光が強ければ必ずしも修正量が多いというわけではない)。化合物による修正量は少なすぎて蛍光顕微鏡で検出することができなかった。たった1つの化合物が、RT−PCRによって有意に高いレベルで修正した。さらに、自己蛍光を発する多数の化合物は、あたかも高レベルで修正するかのようである。これらの同一の化合物がRT−PCRアッセイにおいて任意の修正が認められる場合、正確なバンドは、偽って認められた高レベルの蛍光よりも弱い。さらに、RT−PCRアッセイにおいてスプライシングの修正が示された化合物の大部分は、EGFPおよびβ−グロビン細胞の両方で蛍光を発した。
【実施例4】
【0067】
<蛍光を生じない化合物の分析>
蛍光量は修正量と十分に相関しないので、実際にスプライシングをシフトさせるいくつかの化合物は、検出可能な蛍光が存在しないことにより最初のスクリーニングで見逃されていたかもしれない。コントロールとして、EGFP細胞で蛍光を発しなかった20種の化合物のパネルを無作為に選択した。IVS2−705U EGFPおよびIVS2−705 β−グロブリン細胞を、陰性の化合物で処理し、蛍光顕微鏡で試験した。最初のスクリーングの場合、これらの化合物によりIVS2−705U EGFP細胞は蛍光を発しなかった。さらに、IVS2−705 β−グロブリン細胞で蛍光は検出されなかった。したがって、EGFP細胞での蛍光について陰性の化合物もβ−グロビン細胞で負である。
【0068】
上記の陰性の化合物パネルで処理したIVS2−705U EGFPおよびIVS2−705 β−グロブリン細胞についてRT−PCR分析を行った。これらの化合物では、いずれの細胞株も蛍光を発しなかったが、いくつかの化合物はRT−PCRによってこれらの細胞株を修正した。試験した20種の化合物のうちの2種は、IVS2−705β−グロビン細胞を修正し、20種のうちの5種がIVS2−705U EGFP細胞を修正した。これらの結果は、本明細書中で使用したEGFPスクリーニングでは正確なスプライシングに修復することができる化合物の全てが同定されないことを示す。
【実施例5】
【0069】
<化合物の特異性>
表3でまとめるように、表1に示した結果は、いくつかの化合物はIVS2−705U EGFPおよびIVS2−705 β−グロブリン細胞の両方でスプライシングを修正し、いくつかの化合物は一方または他方のみのスプライシングを修正することを示す。いくつかの化合物は、IVS2−705U EGFP細胞におけるAからUに変化する711位での変異を除いて、イントロン配列が実質的に同一であるので、両方の細胞株でスプライシングをシフトすることができる。しかし、711位の塩基およびエクソン配列は細胞株で異なる。したがって、これらのエレメントがスプライシングのシフトのために特定の化合物を使用するいかなる機構においても重要な役割を果たす場合、2つの細胞株間で修正が異なる。
【0070】
【表3】

【0071】
陽性の化合物で処理したIVS2−654 EGFPおよびIVS2−654 β−グロビン細胞から単離したRNAのRT−PCR分析の結果を、表4にまとめる。IVS2−654 EGFP細胞を修正する化合物数は、IVS2−705 β−グロビンまたはIVS2−705U EGFP細胞を修正する化合物数と類似している。対照的に、たった1つの化合物しかIVS2−654 β−グロビン細胞を修正しないようである。これら2つのIVS2−654細胞株は、同一のβ−グロビンイントロン2配列を有する。
【0072】
【表4】

【0073】
全体的に見れば、IVS2−654 EGFPおよびIVS2−705U EGFPを修正させる化合物数は同一であった。
【実施例6】
【0074】
<化合物DD2>
1つの化合物が実質的に完全にスプライシングを修正した。この化合物をDD2と命名し、このリード化合物と同程度の修正レベルの他の化合物は無かった。前にRT−PCRによってIVS2−705 β−グロビン細胞を修正すると同定されたいくつかの化合物を、DD2を使用した第2のRT−PCRで試験した(図4)。
【0075】
結果は、化合物DD2により高い効率でIVS2−705 β−グロビン細胞を修正することを示す。DD2によるIVS2−705U EGFP細胞の修正ははるかに低い(図5)。IVS2−705U RGFP細胞で認められた修正量の減少は、EGFP細胞をDD2で処理した場合に低レベルの蛍光が認められるという事実の説明となり得る。DD2によりIVS2−705 β−グロビン細胞のスプライシングの修正と同一の効率でIVS2−705U EGFP細胞のスプライシングが修正される場合、強い蛍光が予想される。しかし、IVS2−705U EGFP細胞に対する修正レベルは、潜在的に低すぎて有意な蛍光を発しない(図6)。化合物DD2によりIVS2−705β−グロビン細胞に対して低レベルの蛍光も発し、この化合物がいくらか自己蛍光を発し得ることを示す。
【実施例7】
【0076】
DD2は用量依存性様式でスプライシングを修正する
IVS2−705 β−グロビン細胞を、一定範囲の濃度のDD2で処理した。試験濃度は、0.1μMから50μMまでであった。化合物は、用量依存性のスプライシング修正を示した(図7)。スプライシングを修正する濃度範囲は比較的狭く、最も低い修正濃度は10μMであり、約20%の修正を示した。30μMの濃度で約60%が修正され、50μMでの処理で約85%のスプライシングが修正された(50μMは、最初のスクリーニングでの細胞処理に使用した濃度であった)。これらの結果は、IVS2−705 β−グロブリン処理に使用した化合物DD2濃度の増加によって得られるβ−グロビンmRNAの修正量が増加することを示す。
【0077】
上記実施例は、本発明の例示であり、本発明を制限すると解釈されない。本発明を、以下の特許請求の範囲によって説明し、特許請求の範囲の等価物も含まれる。
【0078】
【表5A】

【表5B】

【表5C】

【表5D】

【表5E】

【表5F】

【表5G】

【表5H】

【表5I】

【表5J】

【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】β−グロブリン遺伝子のイントロン2で妨害されたEGFPcDNAを含むEGFP構築物を示す図である。イントロン2内の654位または705位の2つの点変異により異常な5’スプライス部位および活性な同一の潜在性3’スプライス部位が得られる。正確なスプライス部位が依然として存在していてもこれらのスプライス部位を優先的に使用する。異常なスプライシングパターン(右側に示す)の結果として、スプライシングされたEGFPmRNA中にイントロン2の一部が保持される。これにより、機能的EGFPタンパク質産生が抑制され、緑色蛍光を発生しない。しかし、アンチセンスオリゴヌクレオチドの使用または小分子の使用によって正確なスプライシング(左側に示す)に修復することができる場合、イントロンは完全にスプライシングされて機能的EGFPタンパク質を産生することができる。下のパネルの小さな矢印は、RT−PCRで使用したプライマーを示す。
【図2】陽性の化合物で処理した細胞の例を示す図である。パネルA:化合物BB2で処理したIVS2−705U EGFP細胞の強い蛍光。パネルB:化合物H4で処理したIVS2−705U EGFP細胞の非常に低レベルの蛍光を有する自己蛍光化合物。パネルC:化合物F8で処理したIVS2−654U EGFP細胞の低レベルの蛍光。パネルD:化合物C11で処理したIVS2−654U EGFP細胞の蛍光を有する自己蛍光化合物のスポット。パネルE:ポジティブコントロール細胞株は、アンチセンスオリゴヌクレオチドまたは小化合物を使用せずに正確なスプライシングに修復する代償性(compensatory)変異を有するEGFP654構築物を有する。これらの細胞は構成性にGFPを発現する。パネルF:未処理のIVS2−705U EGFP細胞。Olympus倒立蛍光顕微鏡を使用して蛍光を検出した。
【図3】いくつかの陽性の化合物で処理したIVS2−654 EGFP細胞またはIVS2−705U EGFP細胞から単離したRNAのRT−PCR分析を示す図である。修正を容易に同定可能なゲルの例を示す。ネガティブコントロールレーンは、未処理IVS2−654 EGFP細胞である。
【図4】他の陽性の化合物と比較して修正レベルが高い化合物DD2で処理したIVS2−705β−グロブリン細胞から単離したRNAのRT−PCR分析を示す図である。レーン1および2は、未処理ISV2−705β−グロブリン細胞である。
【図5】他の陽性の化合物と比較してIVS2−705 EGFP細胞の修正レベルが低いDD2で処理したIVS2−705 EGFP細胞から単離したRNAのRT−PCR分析を示す図である。レーン1および2は、未処理IVS2−705U EGFP細胞である。
【図6】化合物DD2によりIVS2−705 EGFP細胞およびβ−グロブリンHeLa細胞が蛍光を発することを証明する図である。パネルA:ポジティブコントロール細胞株は、アンチセンスオリゴヌクレオチドまたは小化合物を使用せずに正確なスプライシングに修復する代償性変異を有するEGFP654構築物を有する。これらの細胞はGFPを構成性に発現する。パネルB:ネガティブコントロールは未処理IVS2−705U EGFP細胞である。パネルC:50μM DD2で処理したIVS2−705U EGFP細胞。パネルD:50μM DD2で処理したIVS2−705 β−グロブリン細胞。Olympus倒立蛍光顕微鏡を使用して蛍光を検出した。
【図7】化合物DD2によりIVS2−705 β−グロブリン細胞のスプライシングが用量依存的に修正されることを示す図である。細胞を化合物で処理し、24時間インキュベートした。RNAを単離し、RT−PCRアッセイを行った。PNA−2アンチセンスオリゴヌクレオチドの自由な取り込みによるIVS2−705 β−グロブリン細胞の修正をコントロールとして使用した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)化合物を、
i)スプライシング事象の非調整下で遺伝子産物を作製するためにcDNAを発現できないようにするイントロンによって破壊されたcDNA、および
ii)スプライシング機構のエレメント、
と接触させるステップと、
b)遺伝子産物を産生するためにcDNAの発現を検出し、それによりプレmRNA分子におけるスプライシング事象を調整することができる化合物を同定するステップと
を含む、プレmRNA分子のスプライシング事象を調整することができる化合物の同定方法。
【請求項2】
請求項1の方法によって同定された化合物に、細胞を接触させるステップを含む、細胞中のプレmRNA分子のスプライシング事象を抑制する方法。
【請求項3】
請求項1の方法によって同定された化合物に、細胞を接触させるステップを含む、細胞中のプレmRNA分子のスプライシング事象を誘導する方法。
【請求項4】
治療有効量の請求項1の方法によって同定された化合物を被験体に投与するステップを含む、プレmRNA分子の選択的スプライシングまたは異常なスプライシング事象に関連する障害を有する被験体の治療方法。
【請求項5】
天然タンパク質をコードするDNAを含む細胞中の天然タンパク質の発現をアップレギュレートする方法であって、DNAはその異常なスプライシングにより天然タンパク質をダウンレギュレートさせる変異を含み、請求項1の方法によって同定された化合物を細胞に導入し、それにより前記異常なスプライシングが阻害され、それにより前記天然タンパク質がアップレギュレートされるステップを含む、方法。
【請求項6】
選択的スプライシングにより生じる(alternative)タンパク質をコードするDNAを含む細胞中における選択的スプライシングにより生じる前記タンパク質の発現をアップレギュレートする方法であって、DNAが選択的スプライシングにより生じる前記タンパク質をダウンレギュレートさせる第1のスプライシング事象によって調節され、スプライシングを調整するために細胞に請求項1の方法によって同定された化合物を導入し、それにより前記第1のスプライシング事象が阻害され、第2のスプライシング事象が起こり、それにより選択的スプライシングにより生じる前記タンパク質の発現がアップレギュレートされるステップを含む、方法。
【請求項7】
請求項1の方法によって同定された化合物および薬学的に許容可能なキャリアを含む、組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2006−500933(P2006−500933A)
【公表日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−539981(P2004−539981)
【出願日】平成15年9月26日(2003.9.26)
【国際出願番号】PCT/US2003/030423
【国際公開番号】WO2004/028464
【国際公開日】平成16年4月8日(2004.4.8)
【出願人】(500282209)ユニヴァーシティ・オヴ・ノース・キャロライナ・アト・チャペル・ヒル (14)
【Fターム(参考)】