説明

プログラム可能遺伝子毒性薬剤およびその使用

【課題】不均質な細胞集団中の選択された細胞に対して遺伝子毒性であるヘテロ2機能性(heterobifunctional)化合物を提供すること。
【解決手段】本発明によって、不均質な細胞集団中の選択された細胞を破壊するために適切な細胞膜透過ヘテロ2機能性化合物であって、i)細胞DNAに結合して、ゲノム傷害を形成する第1の因子、およびii)第1の因子と連結した第2の因子であって、該第2の因子が、選択された細胞の集団に優先的に存在する細胞成分に結合し、複合体が該第2の因子と該細胞成分との間に形成し、該複合体が、細胞DNAに対する該第1の因子の結合によって形成されたゲノム傷害の修復を阻害するために効果的である、第2の因子を含有するヘテロ2機能性化合物、が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
政府の支援
本明細書に記載される研究は、米国国立衛生研究所により授けられた政府援助第5R35CA52127号により支援された。米国政府は、本発明に所定の権利を有する。
【0002】
発明の分野
本発明は、一般に不均質な細胞集団中の選択的な細胞の破壊のための化合物および方法に関する。化合物は、適切には細胞DNAを損傷する遺伝子毒性薬剤を特徴とする。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
頻繁に、生物学的調査および臨床的または獣医学的な実施において、不均質な細胞集団中の亜集団の細胞を選択的に死滅させる必要性が生じる。例えば、所望の特徴を有する細胞の株または培養物を獲得するために、利用可能なインビトロ技術が、所望の特徴を有する細胞を含有する不均質な細胞集団中の細胞の亜集団を選択的に死滅させることに適用され得る。この方法で、所望でない特徴を有する細胞は、集団から除去され得る。所望のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞株および異種クローン化遺伝子の産物を発現する安定な遺伝的トランスフェクタント細胞株は、この方法で慣習的に樹立される。一般的には、Sambrookら、Molecular Cloning: A Laboratory Manual(第2版、1989)を参照のこと。所望のハイブリドーマまたはトランスフェクタントを含有する細胞の混合集団は、1つ以上の遺伝子毒性薬物(例えば、アミノプテリンまたはメトトレキセート)の存在下で一定期間培養物中に維持される。所望の細胞は、使用される薬物の遺伝子毒性効果に対して耐性である。対照的に、集団中の他の細胞は、薬物に対して感受性であり、生存し得ない。これらの技術は、特定の予め選択された遺伝子毒性薬物に対して耐性を授ける規定された表現型を有する細胞の創出に依存する。従って、生物学およびバイオテクノロジーにおける顕著な進歩は、これらの技術の使用を通して達成されているが、それらの柔軟性には制限が残っている。
【0004】
臨床医が選択的に細胞を死滅させることを所望する他の一般的な状況は、生物の2つ以上の系統発生的に異なる種の細胞を含有する不均質な細胞集団を包含する。ここで、1つの種の細胞を選択的に破壊する一方で、他の細胞の生存性を維持することが所望され得る。この方法で、所望の種が集団中において富化され得るか、または感染性因子のような攻撃的な種(offensive species)が除去され得る。ここでも再び、所望される目的は、所望でない種が感受性である薬物(例えば、抗生物質、抗ウイルス剤、抗真菌剤、または駆虫剤)で細胞集団を処理することによりしばしば達成される。所望でない種の細胞は、薬物の効果に屈服し、死滅する。逆に、所望の種(例えば、ヒトまたは他の宿主動物)は、選択された薬物に抵抗する能力を有しなければならない。このような目的に有用な薬物の広範な選択は、歴史的に利用可能であったが、最近の報告は、所望でない種における薬剤耐性の出現を考証している。例えば、敗血性創傷感染、院内感染、結核、マラリア、赤痢、および他の感染性疾患の宿主などの原因となる生物の耐性株が、近年発生している。Harrison'sPrinciples of Internal Medicine, Part 5 Infectious Diseases, Ch. 78、79、および83-88(第12版、1991)。このような株の出現は、感染の処置を大いに複雑にし、臨床医に利用可能な選択を制限する。
【0005】
ガンを処置するか、または軽減する必要性は、臨床医が不均質な細胞集団中の細胞を選択的に死滅させる手段を必要とするさらに別の一般的な状況を提供する。ここで、集団は、個体の組織内の正常細胞および腫瘍性(悪性またはトランスフォーム)細胞を含有する。ガンは、正常細胞が腫瘍性トランスフォーメーションを受け、そして悪性細胞になると発生する。トランスフォーム(悪性)細胞は、細胞表現型を特定し、そして細胞増殖を拘束する正常な生理学的制御を逃れる。従って、個体の身体中のトランスフォーム細胞は、増殖し、腫瘍(新生物とも呼ばれる)を形成する。新生物が見出される場合、臨床的な目的は、悪性細胞を選択的に破壊する一方で、処置を受ける個体における正常細胞に対して引き起こされるいかなる危害をも軽減することである。現在、3つの主要な遺伝子毒性アプローチが、ヒトおよび他の動物におけるガンの臨床的な処置に用いられている。固形腫瘍、悪性小結節、および/または器官全体の外科切除は、新形成の所定のタイプに適切であり得る。他のタイプ(例えば、可溶性(腹水)の腫瘍として現れるタイプ、白血病のような造血性の悪性腫瘍、または身体中の他の部位への原発性の腫瘍の転移の疑いがある場合)については、放射線または化学療法が適切であり得る。これらの技術のいずれかがまた、外科手術の補助として一般に用いられる。Harrison'sPrinciples of Internal Medicine, Part 11 Hematology and Oncology, Ch. 296, 297および300-308(第12版、1989)。
【0006】
化学療法は、ガン細胞に選択的に毒性である薬物の使用に基づく。前出、Ch. 301。いくつかの一般的なクラスの化学療法剤が開発されており、これは核酸合成、タンパク質合成、および他の生体の代謝プロセスを妨害する薬物を包含する。これらは、一般に代謝拮抗薬と呼ばれる。処置レジメは、代表的に2つ以上の適切な代謝拮抗薬を同時投与することにより、ガン細胞代謝における特定経路の不活化を確実にすることを意図する。化学療法剤の他のクラスは、細胞DNAに損傷を与える。これらのクラスの薬物は、一般に遺伝子毒性と呼ばれる。細胞DNAに対する損傷の修復は、細胞の酵素的DNA修復機構により実行される重要な生物学的プロセスである。細胞のゲノム内の未修復の傷害は、DNA複製を妨害するか、または新たに合成されたDNAの複製忠実度を害し得る。従って、遺伝子毒性薬物は、一般に、静止状態の非分裂細胞に対してよりもDNA合成に従事する活発に分裂する細胞に対して毒性であると考えられている。多くの身体組織において、正常細胞は静止状態であり、そして稀にしか分裂しない。従って、細胞分裂のラウンド間のより多くの時間が、正常細胞における細胞性DNAへの損傷の修復に与えられる。この方法で、臨床医は、ガン細胞の傷害にある程度の選択性を達成し得る。多くの処置レジメは、化学療法剤の一般的なクラスの2つ以上に属する化学療法剤を同時投与することにより、ガン細胞に対する選択性を改善する意図を反映する。
【0007】
しかし、いくつかの組織において、正常細胞は、連続的に分裂する。従って、皮膚、毛包、口腔粘膜および腸の裏側の他の組織、精液ならびに骨髄の血液形成組織は、遺伝子毒性薬物の作用に脆弱なままである。これら、および他のクラスの化学療法剤はまた、薬剤感受性器官(例えば、肝臓および腎臓)に重篤な有害な副作用を引き起こし得る。これら、および他の有害な副作用は、ガンの化学療法を必要とする個体のために指示され得る処置レジメの投与レベルおよび長さを非常に抑圧する。前出、Ch. 301。LoehrerおよびEinhorn(1984)、100 Ann.Int.Med. 704-714およびJonesら、(1985)、52Lab.Invest. 363-374も参照のこと。このような抑圧は、臨床処置の効果を損ない得る。例えば、投与される薬物または薬物の組み合わせは、細胞生存を損なうために適切な時期にガン細胞と接触し、影響しなければならない。遺伝子毒性薬物は、化学療法処置が適用されるときに活発に分裂しているガン細胞を死滅させるために最も効果的である。逆に、このような薬物は、緩徐に成長する新生物の処置には、比較的効果がない。乳房、肺、および結腸直腸の組織のガン細胞は、例えば代表的には100日毎に一度ほど緩徐に倍加する。前出、表301-1。このような緩徐に成長する新生物は、化学療法の困難な標的を与える。
【0008】
さらに、病原生物の耐性株の出現と同様に、トランスフォーム細胞は、化学療法剤に対する耐性を増加するさらなる表現型の変化を受け得る。ガン細胞は、薬物代謝における取り込みの減少または他の変化(例えば、多剤耐性(MDR)の細胞遺伝子の薬物誘導遺伝子増幅または発現により生じる)を通して、遺伝子毒性薬物に対する耐性を獲得し得る。前出、Ch. 301。遺伝子毒性薬物に対する耐性はまた、ガン細胞の酵素的DNA修復機構における酵素の活性化または発現の増大により獲得され得る。薬物の組み合わせ、または薬物と放射線との組み合わせを用いる治療は、これらの制限を克服することを意図している。しかし、このような組み合わせレジメにおける、各々の化学療法剤の薬物動態学的プロファイルは異なる。特に、各々の薬物についての新生物組織の透過性は異なる。従って、標的組織において複数の化学療法剤の遺伝子毒性有効濃度を達成することは困難であり得る
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
不均質な細胞集団中の細胞を選択的に破壊し得る薬物が依然として必要とされている。宿主または所望の生物の細胞の生存性を比較的損なわないまま、病原性生物または所望でない生物の細胞を選択的に破壊し得る薬物(遺伝子毒性薬物を含む)が特に必要とされている。新生物またはウイルス感染細胞を選択的に破壊し得るが、ガンまたはウイルス疾患に罹った個体の身体中の正常な健康細胞の生存性を顕著に損なわない化学療法剤(遺伝子毒性薬物を含む)がさらにより強く必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明の要旨
本発明の目的は、不均質な細胞集団中の選択された細胞に対して遺伝子毒性であるヘテロ2機能性(heterobifunctional)化合物を提供することである。本発明の目的は、不均質な細胞集団中の選択された細胞にゲノム傷害を与えるヘテロ2機能性化合物を提供することである。本発明の目的は、不均質な細胞集団中の選択された細胞においてゲノム傷害を与え、そしてこの傷害の細胞性修復を損なうヘテロ2機能性化合物を提供することである。本発明の目的は、不均質な細胞集団中の非選択細胞と表現型で区別可能な選択された細胞を破壊するように「プログラム」され得る遺伝子毒性薬剤または薬物を提供することである。本発明の別の目的は、感染症および新生物疾患の処置に利用し得る化学療法剤の範囲を拡大することである。本発明のさらに別の目的は、化学療法に感受性である感染症および新生物疾患の範囲を拡大することである。本明細書中に開示される本発明の利点および特徴とともに、これらおよび他の目的は、以下の記載、図面、および請求項の範囲から明らかである。
【0011】
1つの局面において、本発明は、不均質な細胞集団中の選択された細胞を破壊するために適切な細胞膜透過ヘテロ2機能性化合物を特徴とする。選択された細胞は、不均質な細胞集団の他の非選択細胞において存在しないか、または有意に減少したレベルで存在するタンパク質のような細胞成分を保有する。好ましくは、細胞成分は、細胞内成分である。最も好ましくは、細胞成分は細胞核内に位置するか、または自然に他の細胞内部位から核に転移する。好ましい実施態様において、細胞成分は、少なくとも約25kDa、より好ましくは少なくとも約40kDa、そしてさらに好ましくは約80kDaの分子量を有する拡散し得る高分子である。本発明のヘテロ2機能性化合物は、能動的または受動的に細胞膜を横切って輸送されるか、または細胞膜を通って拡散する。従って、この化合物は、細胞内にインターナライズし得る。この化合物は、細胞DNAに結合し、ゲノム傷害を形成する第1の因子を含有する。ゲノム傷害は、細胞DNAのランダムなまたは部位特異的な位置に形成され得る。特定の実施態様では、第1の因子は、ヌクレオチド塩基、糖-リン酸DNA骨格、または両方と1つ以上の共有結合を形成することにより細胞DNAを損傷する。他の実施態様では、ゲノム傷害は、細胞DNAへの第1の因子のインターカレーションにより形成される。任意に、第1の因子は、DNA反応性中間体に自然に、または生理的条件、細胞の酵素または分泌された酵素、細胞代謝の産物または副産物、イオン化放射線または非イオン化放射線、光エネルギーなどに曝されることにより変換される前駆体である。このように細胞DNAとの第1の因子の相互作用により形成されたゲノム傷害は、細胞の酵素的DNA修復機構により潜在的に修復可能である。
【0012】
第1の因子は、集団の選択された細胞に優先的に存在する細胞成分に結合する第2の因子に連結される。いくつかの実施態様では、第1および第2の因子は、共有結合により連結される。他の実施態様では、第1および第2の因子は、共有結合により有機リンカーに間接的に連結される。さらに他の実施態様では、第1および第2の因子は、非共有性相互作用(静電気的相互作用または疎水性相互作用など)により連結される。従って、特定の実施態様では、第1および第2の因子は、細胞DNAへの第1の因子の結合と同時またはそれに続いて連結されるようになる。第2の因子は、細胞成分と安定な複合体を形成する。すなわち、第2の因子は、細胞成分と特異的に相互作用する。相互作用は、非共有結合性または共有結合性であり得、そして細胞内(例えば、核)条件下でエネルギー的に好ましい。記載されるように、細胞成分は、好ましくはタンパク質のような拡散性の高分子である。あるいは、細胞成分は、細胞内に存在するタンパク質または他の拡散性の高分子により特異的に結合される代謝産物、リガンド、またはコファクターであり得る。いずれの状況でも、複合体は、選択された細胞内に優先的に見出される高分子細胞成分を含む。第2の因子は、このようにしてゲノム傷害のすぐ近傍に立体的に大きな細胞成分を局在化する。好ましくは、細胞成分は、少なくとも5'および3'の両方向に約5塩基対、より好ましくは少なくとも約8塩基対、さらに好ましくは少なくとも約12塩基対、傷害部位から伸展する隣接するヌクレオシドのセグメントを立体的に覆うに十分な大きさである。結果として、細胞成分と第2の因子との間の複合体は、細胞DNAへの第1の因子の結合により形成されるゲノム傷害の修復をシールドまたは阻害するに効果的である。傷害部位における立体的に大きな複合体の形成は、細胞の酵素的DNA修復機構による接近を妨げる。結果として、シールドされた傷害は、ゲノムに存続し、そしてDNA複製、細胞生存に関係した遺伝子の発現などを害する。従って、本発明のヘテロ2機能性化合物は、不均質な細胞集団の選択された細胞に対して致命的である。
【0013】
特定の実施例では、第2の因子は、選択された細胞の生存または増殖に関係する細胞成分と特異的に相互作用する。例えば、第2の因子は、細胞増殖の調節に関与する制御タンパク質または酵素と相互作用し得る。これらは、オンコジーン産物(例えば、myc、ras、ablなど)、腫瘍抑制遺伝子産物(例えば、核リンタンパク質 p53)、および細胞周期の開始および進行を調節するタンパク質(例えば、サイクリンおよびサイクリン依存性キナーゼ)を包含するが、これらに限定されない。あるいは、第2の因子は、選択された細胞により行われる代謝または分泌のプロセスに関係する1つ以上の遺伝子の発現を調節または調整する転写因子と相互作用し得る。このような転写因子の1つは、上流結合因子(UBF)であり、これはリボソームRNA遺伝子の発現を制御し、それゆえ細胞のタンパク質合成機構の機能の中枢である。転写因子と特異的に相互作用する第2の因子は、好ましくは特定の転写因子に対する天然のゲノムの結合部位を模倣または類似する。すなわち、転写因子は、天然のゲノムの結合部位に対するその親和性に近い親和性(例えば、約100倍以内)で、または好ましくはそれを超過して第2の因子に結合する。このような第2の因子は、本明細書中では「転写因子デコイ」と呼ばれる。特定の転写因子は、内因性のゲノムの結合部位への結合に加えて、可溶性リガンドにも結合する。これらの転写因子の同族リガンドへ結合は、内因性のゲノムの結合部位への転写因子の結合を調整する。すなわち、リガンド結合は、その同族ゲノム部位に結合する転写因子の能力を与えるか、または無効にするか、あるいはそのような能力を増強するか、または抑制する。従ってこのような転写因子は、本明細書中ではリガンド応答性転写因子と呼ばれる。これらは、時には、可溶性リガンドに対する細胞内または核レセプターと当該分野で呼ばれている。これらの転写因子を認識し、結合する第2の因子は、活性化リガンドまたは抑制リガンド(例えば、エストロゲンまたはエストロゲンアナログまたは誘導体)を模倣し得る。従って、転写因子デコイまたはリガンド模倣物を含有するヘテロ2機能性化合物は、選択された細胞に二重に致命的である。
【0014】
別の局面では、本発明は、不均質な細胞集団中の選択された細胞の破壊のための方法を提供する。不均質な細胞集団は、単一の系統発生学的種の表現型的に区別可能な細胞または2つ以上の異なる系統発生学的種の細胞を含有し得る。系統発生学的種は、単細胞または多細胞であり得る。集団は、培養物中の細胞、多細胞生物から取り出された細胞(例えば、血液サンプルまたは組織バイオプシー)、あるいは多細胞生物の組織または器官に存在する細胞を含有し得る。用語「多細胞生物」は、ヒトを含む哺乳動物を包含することが理解されるべきである。不均質な細胞集団は、正常な表現型およびトランスフォームされた表現型の両方の細胞を含有し得る。従って、集団は、新生物または悪性細胞を含有し得る。本発明の方法において、不均質な集団の選択された細胞は傷害される。「選択された細胞」は、不均質な集団において他の非選択細胞と表現型的に区別可能である。これは非選択細胞中に存在しないか、または有意に減少したレベルで存在する細胞成分を保有することによる。例えば、細胞成分は、非選択細胞中の同一または類似の細胞成分のレベルの約5倍過剰であるレベルまで選択された細胞中に産生されるか、または蓄積される。好ましくは、選択された細胞は、約10倍過剰の細胞成分を保有する。より好ましくは、選択された細胞は、約100倍またはそれ以上過剰の細胞成分を保有する。特定の実施態様では、細胞成分は、細胞またはウイルスのガン遺伝子の発現産物である。他の特定の実施態様では、細胞成分は変異腫瘍抑制遺伝子の発現産物である。さらに他の実施態様では、細胞成分は、細胞周期の開始または進行を制御する核タンパク質複合体の調節エレメントまたは酵素エレメントである。
【0015】
本発明の方法は、不均質な細胞集団と本明細書に記載の細胞膜透過ヘテロ2機能性化合物とを接触させる工程を包含する。集団は、化合物が細胞膜を通過し、そして細胞(選択された細胞を含む)内にインターナライズするに十分な期間化合物とインキュベートされる。化合物の第1の因子は、細胞DNAに結合し、ゲノム傷害を与える。上述されたように、ゲノム傷害は、潜在的に修復可能である。選択された細胞では、化合物の第2の因子は、細胞成分に結合し、ゲノム傷害部位で複合体を形成し、これは細胞のDNA修復機構による傷害への接近を立体的に妨げる。それによって、傷害を修復または「シールド」することを阻害する。結果として、ゲノム傷害は、選択された細胞中に存続し、そしてそれらの傷害に寄与する。すなわち、本発明の化合物は、選択された細胞に対して優先的に遺伝子毒性である。対照的に、非選択細胞中の傷害は、ゲノム傷害の部位で複合体を形成しないか、または選択された細胞よりも非常に低い頻度で複合体を形成する。それ故、非選択細胞中の傷害は、主としてシールドされておらず、そして細胞DNA修復機構が接近可能なままである。結果として、非選択細胞中のゲノム傷害は修復される。傷害修復は、非選択細胞の生存に寄与する。すなわち、本発明の化合物は、非選択細胞に対して比較的低く遺伝子毒性である。細胞内複合体がゲノム傷害部位に実際に形成されるか否かに関わりなく、本発明の化合物はまた、選択された細胞により選択的にインターナライズされ得ることが本明細書中で理解される。選択的インターナリゼーションは、本発明の遺伝子毒性化合物の細胞外レベルと細胞内レベルとの間の化学平衡力学における選択された細胞中の細胞内複合体形成の影響から生じると予測される。従って、本発明の化合物は、不均質な細胞集団中の選択された細胞によるDNAを損傷する第1の因子の取り込みを選択的に増強するために用いられ得る。このプロセスはさらに、選択された細胞の傷害に寄与する。
【0016】
本発明の方法の結果として、不均質な細胞集団は、選択された細胞が激減した集団になる。傷害部位に隔離される選択された細胞成分が転写因子である場合の本発明の方法の実施態様は、「転写因子ハイジャック」と呼ばれる。このような実施態様では、転写因子の天然のゲノム結合部位以外の部位での第2の因子による転写因子のハイジャックまたは隔離はさらに、1つ以上の細胞の代謝機能または分泌機能における混乱を誘導することにより、選択された細胞の傷害に寄与する。
【0017】
本明細書に記載される本発明の利点は、ヘテロ2機能性化合物が、表現型的および系統発生学的に非常に多様な選択された細胞に選択的に致命的(遺伝子毒性)であるように加工され得ることである。従って、用語「プログラム可能遺伝子毒性薬物」は、本明細書に開示される本発明の概念の柔軟性および適応性を適切に要約する。
【0018】
したがって、本発明は、以下の項目を提供する:
(項目1)不均質な細胞集団中の選択された細胞を破壊するために適切な細胞膜透過ヘテロ2機能性化合物であって、
i)細胞DNAに結合して、ゲノム傷害を形成する第1の因子、および
ii)細胞内の条件下で安定な結合を介して第1の因子と連結した第2の因子であって、この第2の因子は細胞内の拡散し得る高分子のこの化合物への結合を媒介し、複合体が、選択された細胞の細胞DNA、この化合物、およびこの高分子間で形成されるようにこの高分子がこの集団の選択された細胞に優先的に存在し、この複合体が、この化合物の細胞性DNAへの結合により選択された細胞において形成されたゲノム傷害の修復を阻害するために効果的である、第2の因子
を含有するヘテロ2機能性化合物。
(項目2)上記第1の因子が、DNAに共有結合する、項目1に記載の化合物。
(項目3)上記第1の因子が、DNAにインタカレートする、項目1に記載の化合物。
(項目4)上記第1の因子が光活性化される、項目1、2、または3に記載の化合物。
(項目5)上記第1の因子が、ソラレンあるいはそのアナログまたは誘導体である、項目4に記載の化合物。
(項目6)上記第1の因子が、ダカルバジンあるいはそのアナログまたは誘導体である、項目4に記載の化合物。
(項目7)上記第1の因子が、合成された抗生物質または天然に供給される抗生物質である、項目1、2、または3に記載の化合物。
(項目8)上記抗生物質が、抗新生物抗生物質である、項目7に記載の化合物。
(項目9)上記抗新生物抗生物質が、アムサクリン、アクチノマイシンA、C、D、またはF、カルミノマイシン、ダウノマイシン、14-ヒドロキシダウノマイシン、マイトマイシンA、B、またはC、マイトキサントロン、プリカマイシン、あるいはそれらのいずれかのアナログまたは誘導体である、項目8に記載の化合物。
(項目10)上記第1の因子が、クロロエチルニトロソウレアまたはナイトロジェンマスタードである、項目1または2に記載の化合物。
(項目11)上記クロロエチルニトロソウレアが、カルムスチン、クロロゾトシン、ロムスチン、ニムスチン、ラニムスチン、またはストレプトゾトシン、あるいはそれらのいずれかのアナログまたは誘導体である、項目10に記載の化合物。
(項目12)上記ナイトロジェンマスタードが、クロラムブシル、シクロホスホアミド、イホスファミド、メルファラン、メクロロエタミンオキシド、あるいはそれらのいずれかのアナログまたは誘導体である、項目10に記載の化合物。
(項目13)上記第1の因子が、重金属配位化合物である、項目1または2に記載の化合物。
(項目14)上記化合物が、カルボプラチン、シスプラチン、Pt{1,2-ジアンミノシクロヘキサン}Cl2、Pt{エチレンジアンミン}Cl2、トランスプラチン、あるいはそれらのいずれかのアナログまたは誘導体である、項目13に記載の化合物。
(項目15)上記第1の因子が、ブスルファン、ヘプスルファン、あるいはそれらのいずれかのアナログまたは誘導体である、項目1または2に記載の化合物。
(項目16)上記第1の因子が、ミトグアゾンあるいはそのアナログまたは誘導体である、項目1または2に記載の化合物。
(項目17)上記第1の因子が、プロカルバジンあるいはそのアナログまたは誘導体である、項目1または2に記載の化合物。
(項目18)上記第1の因子が、ヘキサメチルメラミン、トリエチレンメラミン、あるいはそのアナログまたは誘導体である、項目1または2に記載の化合物。
(項目19)上記第1の因子が、トリエチレンホスホルアミド、トリエチレンチオホスホルアミド、あるいはそのアナログまたは誘導体である、項目1または2に記載の化合物。
(項目20)上記細胞内の条件下で安定な結合が、共有結合である、項目1に記載の化合物。
(項目21)上記細胞内の条件下で安定な結合が、約20個までの炭素原子を含有する有機リンカーである、項目1に記載の化合物。
(項目22)上記有機リンカーが、約10個までの炭素原子を含有する、項目21に記載の化合物。
(項目23)上記有機リンカーが、約5個までの炭素原子を含有する、項目22に記載の化合物。
(項目24)上記細胞内の拡散し得る高分子が、タンパク質であり、そして上記第2の因子が、レセプターリガンド、ペプチドリガンド、転写因子デコイ、核酸アプタマー、あるいはそれらのいずれかのアナログまたは誘導体である、項目1に記載の化合物。
(項目25)上記タンパク質が、内因性の細胞起源である、項目24に記載の化合物。
(項目26)上記タンパク質がウイルス起源である、項目24に記載の化合物。
(項目27)上記選択された細胞が分裂細胞である、項目25または26に記載の化合物。
(項目28)上記分裂細胞がトランスフォーム細胞である、項目27に記載の化合物。
(項目29)上記タンパク質が、サイクリンまたはサイクリン依存性キナーゼである、項目27に記載の化合物。
(項目30)上記タンパク質が、オンコジーン産物または変異腫瘍抑制遺伝子産物である、項目28に記載の化合物。
(項目31)上記タンパク質が変異p53であり、上記第2の因子が、天然のp53よりもこの変異p53に対して強い結合優先性を有するペプチドリガンドまたは核酸アプタマーである、項目30に記載の化合物。
(項目32)上記第2の因子が、変異p53エピトープ、NH2-Arg-His-Ser-Val-Val-COOHに対する核酸アプタマーである、項目31に記載の化合物。
(項目34)上記タンパク質が、転写因子である、項目25または26に記載の化合物。
(項目35)上記第2の因子が、転写因子デコイである、項目34に記載の化合物。
(項目36)上記第2の因子が、核酸アプタマーである、項目34に記載の化合物。
(項目37)上記第2の因子が、リボソームDNAプロモーターから上流結合因子を滴定するデコイである、項目35に記載の化合物。
(項目38)上記転写因子が、リガンド応答性である、項目34に記載の化合物。
(項目39)上記第2の因子が、核酸アプタマーあるいは活性化または抑圧リガンドである、項目38に記載の化合物。
(項目40)上記転写因子が、グルココルチコイドレセプター、アンドロゲンレセプター、エストロゲンレセプター、またはプロゲステロンレセプターである、項目39に記載の化合物。
(項目41)上記転写因子が、エストロゲンレセプターであり、上記第2の因子が、2-フェニルインドール部分である、項目40に記載の化合物。
(項目42)上記第1の因子が、ナイトロジェンマスタードである、項目41に記載の化合物。
(項目43)化合物1-[6-(N-2-エトキシ-(O-(3-(4-(N,N-ビス(2-クロロエチル)アミノ)-フェニル)プロピルアミン)カルバモイル)アミン)ヘキシル]-5-ヒドロキシ-3-メチル-2-(4-ヒドロキシフェニル)インドール。
(項目44)上記転写因子が、アンドロゲンレセプターであり、上記第2の因子が、アリールチオヒダントイン部分である、項目40に記載の化合物。
(項目45)上記第1の因子が、ナイトロジェンマスタードである、項目44に記載の化合物。
(項目46)化合物4-[4,4-ジメチル-3-(2-O-エチル-(2-N-メチル)-2-N-ヘキシル-(6-O(3-(4-(N,N-ビス(2-クロロエチル)アミノ)フェニル)プロピルアミン)カルバモイル)エチル)5-オキソ-2-チオキソ-1-イミダゾリニル]-2-トリフルオロメチル-ベンゾニトリル。
(項目47)上記細胞内の拡散し得る高分子が、第1の系統発生学的種の選択された細胞と会合し、上記不均質な細胞集団が、少なくとも2つの系統発生学的種の細胞を含有する、項目1に記載の化合物。
(項目48)上記第1の系統発生学的種が、細菌、酵母、真菌、または寄生体から選択される感染生物である、項目47に記載の化合物。
(項目49)不均質な細胞集団中の選択された細胞の破壊のための方法であって以下の工程:
a)この不均質な集団と細胞膜透過ヘテロ2機能性化合物を接触させる工程であって、この細胞膜透過ヘテロ2機能性化合物は、
i)細胞DNAに結合して、ゲノム傷害を形成する第1の因子、および
ii)細胞内の条件下で安定な結合を介して第1の因子と連結した第2の因子であって、この第2の因子は細胞内の拡散し得る高分子のこの化合物への結合を媒介し、この高分子がこの集団の選択された細胞に優先的に存在する、第2の因子
を含有する細胞膜透過ヘテロ2機能性化合物である、工程;および
b)この集団とこの化合物とを一定期間インキュベートする工程であって、この一定期間がこの化合物がこの選択された細胞内にインターナライズし、細胞DNAと結合し、そして細胞内の拡散し得る高分子と結合して、それらの間に、選択された細胞の細胞DNAにおけるゲノム傷害の修復を阻害するために有効な複合体を形成し、それによりこの不均質な集団において他の細胞に対して優先的にこの選択された細胞を破壊するに十分である、工程
を包含する方法。
(項目50)上記細胞内の拡散し得る高分子が、サイクリンまたはサイクリン依存性キナーゼである、項目49に記載の方法。
(項目51)上記細胞内の拡散し得る高分子が、トランスフォーム細胞により発現されるタンパク質である、項目49に記載の方法。
(項目52)上記細胞内の拡散し得る高分子が、オンコジーン産物または変異腫瘍抑制遺伝子産物である、項目51に記載の方法。
(項目53)上記変異腫瘍抑制遺伝子産物が、変異p53である、項目52に記載の方法。
(項目54)上記細胞内の拡散し得る高分子が、転写因子である、項目49に記載の方法。
(項目55)上記転写因子が、上流結合因子である、項目54に記載の方法。
(項目56)上記転写因子が、リガンド応答性である、項目54に記載の方法。
(項目57)上記転写因子リガンドが、グルココルチコイド、アンドロゲン、エストロゲン、またはプロゲステロンのレセプターである、項目56に記載の方法。
(項目58)上記選択された細胞が、結腸直腸、生殖路、肝臓、リンパ系、乳房、骨髄系、神経系または気道起源の新生物細胞である、項目49、50、51、52、53、54、55、56、または57に記載の方法。
(項目59)上記新生物細胞が、卵巣、子宮、子宮内膜、頚部、膣、前立腺、または精巣起源である、項目58に記載の方法。
(項目60)上記新生物細胞が、乳房起源である、項目58に記載の方法。
(項目61)上記新生物細胞が、結腸直腸起源である、項目58に記載の方法。
(項目62)上記選択された細胞が、第1の系統発生学的種の細胞であり、上記不均質な細胞集団が、少なくとも2つの系統発生学的種の細胞を含有する、項目49に記載の方法。
(項目63)上記第1の種が、細菌、酵母、真菌、または寄生体から選択される感染性生物である、項目62に記載の方法。
【0019】
本発明の、前述のおよび他の目的、特徴、および利点、ならびに本発明自身は、添付の図面とともに読まれると、以下の好ましい実施態様の記載からより完全に理解される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
好ましい実施態様の詳細な説明
一般に、本明細書に開示の選択的に遺伝子毒性の化合物は、細胞DNAにゲノム傷害を与える第1の因子を有し、それは、好ましくはゲノム傷害部位で、不均質な細胞集団の選択細胞に優先的に存在する立体的に大きな細胞成分を誘引あるいは隔離する第2の因子に連結されている。その細胞成分は、細胞の酵素DNA修復機構の要素によって傷害部位への接近を有効に妨げるのに十分立体的に大きく、それによって、傷害部位の修復をシールドする。好ましい実施態様では、その細胞成分は、細胞周期制御因子、転写因子、オンコジーン産物、あるいは変異腫瘍サプレッサー遺伝子産物のようなタンパク質であって、それは、通常、細胞増殖あるいは生存、または選択細胞によってなされる分泌プロセスに関連した1つ以上の遺伝子の制御に従事する。図1は、本発明のヘテロ2機能性「プログラム可能な遺伝子毒性」化合物による、修復シールドの基本原理を例示する。本発明のヘテロ2機能性化合物3が、非選択細胞1あるいは選択細胞2の細胞DNAへ結合されているのを示す。各細胞では、細胞DNAへの化合物の結合は、潜在的に修復可能なゲノム傷害に至る。化合物3は、選択細胞および非選択細胞を含む不均質な細胞集団の選択細胞に優先的に存在する細胞成分12に結合する第2の因子9に(必要に応じてリンカー7によって)連結された、細胞DNAに結合する第1の因子5を含む。修復されないときは、ゲノム傷害は、細胞破壊に寄与する。傷害修復は、細胞の酵素DNA修復機構によってなされる。この機構は、1つ以上の立体的に大きな修復酵素10を含む。細胞成分12の非存在下で、修復酵素10は傷害に接近して修復する。しかし、選択細胞では、細胞成分12は、第2の因子9に結合し、修復酵素10の接近に対して立体障害を提示することによって、傷害を修復から有効にシールドする。
【0021】
第1の因子として有用な遺伝子毒性因子
本発明の化合物は、好ましくは当該分野で公知であり、公開技術に従って容易に調製され得るか、あるいは商業的に入手可能である遺伝子毒性薬物を、第1の因子5として用いる。これらの遺伝子毒性薬物の多くは、現在、哺乳動物(例えば、ヒト)における感染症および新生物疾患を治療するために使用されている。本発明のヘテロ2機能性遺伝子毒性化合物3を得るために、第2の因子9に結合する細胞成分への連結に適した、これらの薬物のアナログあるいは誘導体が、容易に調製され得る。本明細書における第1の因子としての使用に適した、新規な遺伝子毒性薬物もまた開発され得ることが、予測される。このような新規な第1の因子を含む化合物は、本発明に包含されるべきであると考えられる。
【0022】
第1の因子5としての使用に適した化合物の2つの一般的なクラスは、DNAアルキル化剤およびDNAインターカレート剤である。必要に応じて、第1の因子は、自発的、あるいは細胞酵素または分泌酵素、細胞代謝物または代謝副産物、イオン化または非イオン化放射、光エネルギーなどのような活性化刺激にさらされた後に、細胞DNAと反応性になる前駆体であり得る。例えば、第1の因子は光活性化され得る。光活性化可能な第1の因子の1つのクラスは、薬物ソラレン(psoralen)、すなわち、ピリミジン塩基アダクトを生成し、細胞DNA内で架橋をする三環式フロコウマリン(furocoumarin)によって代表される。ソラレンの三環式フロコウマリンアナログおよび誘導体もまた、第1の因子として使用され得る。従って、例えば、トリメチルソラレン(TMP)は、本明細書において使用され得る。ソラレンは、乾癬、白斑、真菌感染症、および皮膚T細胞リンパ腫のような、皮膚疾患の光化学療法に有用であることは公知である。Harrison'sPrinciples of Internal Medicine, Part 2 Cardinal Manifestations of Disease,Ch.60(第12版 1991)。光活性化可能な第1の因子のその他のクラスは、ダカルバジンに代表され、そしてそれらのアナログおよび誘導体を包含する。
【0023】
第1の因子のその他の一般的なクラス(そのメンバーは、DNAをアルキル化あるいはDNAにインターカレートし得る)は、合成供給源由来あるいは天然供給源由来の抗生物質を包含する。本明細書中で特に興味深いのは抗新生物抗生物質であり、それは、以下により表される化合物のクラスを包含するが、これらに限定されない:アムサクリン;アクチノマイシンA、C、D(あるいは、ダクチノマイシンとして公知である)またはF(あるいは、KS4である);アザセリン;ブレオマイシン;カルミノマイシン(carminomycin)(カルビシン)、ダウノマイシン(ダウノルビシン)、または、14-ヒドロキシダウノマイシン(アドリアマイシン(adriamycin)またはドキソルビシン);マイトマイシンA、B、あるいはC;ミトキサントロン;プリカマイシン(ミトラマイシン)など。抗新生物抗生物質の各クラスは、上記代表化合物のアナログおよび誘導体を包含する。抗新生物抗生物質は、種々の新生物およびウイルス疾患の治療に有用であると知られている。一般に上記のものによって処理可能な新形成は、白血病、リンパ腫、骨髄腫、神経芽細胞腫、膀胱、睾丸、子宮内膜、胃、または肺起源の新形成、およびHarrison'sPrinciples of Internal Medicine, Part II Hematology and Oncology(第12版 1991)の表301-6および301-7に記載の他のものを包含する。所定の新生物は、薬物のみ、あるいは罹患個体に対して臨床的に認められる利点を与える別の薬物と組み合わせて処置する場合、所定の薬物によって「処理可能である」。最善には、部分的あるいは全体的な小康状態が達成される。しかし、個体の臨床状態の安定化に寄与するまたは疾患の進行を遅くする薬物もまた有益であると考えられ、そして新形成の操作において使用され得る。
【0024】
第1の因子のその他の一般的なクラス(そのメンバーは、DNAをアルキル化する)は、ハロエチルニトロソ尿素、特にクロロエチルニトロソ尿素を包含する。この広範囲のクラスの代表メンバーは、カルムスチン、クロゾトシン、フォテムスチン、ロムスチン、ニムスチン、ラニムスチン、およびストレプトゾトシンを包含する。ハロエチルニトロソ尿素第1の因子は、上記の代表化合物のいずれものアナログあるいは誘導体であり得る。上記のものにより現在処理可能な新形成は、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、およびバーキットリンパ腫、骨髄腫、膠芽細胞腫、および髄芽細胞腫、膵小島細胞ガン、小細胞肺ガンなどを包含する。同書。
【0025】
第1の因子のその他の一般的なクラス(そのメンバーは、DNAをアルキル化する)は、サルファーマスタードおよびナイトロジェンマスタードを包含する。これらの化合物は、主にグアニンのN7原子で共有結合アダクトを形成することによりDNAに損傷を与える。この広範囲のクラスの代表メンバーは、クロラムブシル(chlorambucil)、シクロホスファミド、イホスファミド、メルファラン、メクロロエタミン(mechloroethamine)、ノベンバイシン、トロホスファミドなどを包含する。ナイトロジェンマスタードあるいはサルファーマスタード第1の因子は、上記の代表化合物のいずれものアナログあるいは誘導体であり得る。ナイトロジェンマスタードは、一般に、N(CHCHX)部分(ここで、Xがハロゲンであり、好ましくは塩素である)を含むことが理解される。メクロロエタミンオキシドでは、Xは塩素であり、そしてこの部分は、メチル(CH)基に共有結合されている。典型的には、クロラムブシルおよびメファレン(mephalen)のようなナイトロジェンマスタードは、グアニン残基のN7原子と共有結合を形成し得る2つの反応性基を有する。従って、これらの薬剤は、DNA鎖内部あるいは鎖間の架橋を形成し得、DNAをタンパク質中の求核原子に架橋し得る。各型のゲノム傷害は、ナイトロジェンマスタードの致死効果に寄与すると考えられる。一般に、上記のものにより処理可能な新形成は、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、バーキットリンパ腫およびその他のリンパ腫、白血病、骨髄腫、膠芽腫、神経芽細胞腫、小細胞肺ガン、骨形成肉腫、乳房、子宮内膜および睾丸組織の新形成などを包含する。同書。米国特許第3,299,104号(1967年1月17日発行)およびNiculescu-Duvazら、(1967),J. Med. Chem. 172-174は、エスロトゲン、プロゲステロン、アンドロゲン、およびメクロロエタミンのステロイド結合体を開示する。MuntzingおよびNilsson(1972),77 J. Krebsforch. 166-170は、このような結合体化メトクロロエタミン化合物を与えた患者の細胞で実施した組織学的研究を報告している。
【0026】
第1の因子のさらなるクラス(そのメンバーは、共有結合DNAアダクトを形成する)は、重金属配位化合物(白金化合物を包含する)を包含する。一般に、これらの重金属化合物は、DNAに共有結合して、適切な部分で、シス-1,2-鎖内部ジヌクレオチドアダクトを形成する。一般に、このクラスは、シス-ジアンミンジクロロ白金(II)(シスプラチン)に代表され、シス-ジアンミン-(1,1−シクロブタン-ジカルボキシラート)白金(II)(カルボプラチン)、シス-ジアンミノ-(1,2-シクロヘキシル)-ジクロロ白金(II)、およびシス-(1,2-エチレン-ジアンミン)ジクロロ白金(II)を包含する。白金第1の因子は、上記代表化合物のいずれものアナログあるいは誘導体を包含する。白金配位化合物により現在処理可能な新形成は、睾丸、子宮内膜、頸部、胃、鱗細胞、副腎皮質および小細胞肺ガン、ならびに髄芽細胞腫および神経芽細胞腫を包含する。トランス-ジアンミンジクロロ白金(II)(トランス-DDP)は、おそらくそのDNAアダクトの迅速な修復に起因して、臨床的に有用ではない。本明細書でのトランス-DDPの第1の因子としての使用は、おそらく非選択細胞では低毒性であり、選択細胞では比較的高毒性である化合物を提供する。
【0027】
第1の因子のその他のクラス(そのメンバーは、DNAをアルキル化する)は、エチレンイミンおよびメチルメラミンを包含する。これらのクラスは、アルトレタミン(ヘキサメチルメラミン)、トリエチレンホスホルアミド(TEPA)、トリエチレンチオホスホルアミド(ThioTEPA)、およびトリエチレンメラミンを包含する。DNAアルキル化第1の因子のさらなるクラスは、アルキルスルホネート(ブスルファンにより代表される);アジニジン(azinidines)(ベンゾデパに代表される);およびその他(ミトグアゾン、ミトキサントロン、およびプロカルバジンなどに代表される)を包含する。これらのクラスの各々は、それぞれの代表化合物のアナログおよび誘導体を包含する。
【0028】
ゲノム傷害の座として1つ以上の予め定めたゲノム標的を選択することが望まれるときは、選択細胞のゲノム中の特異的配列と共有結合あるいは非共有結合的に相互作用するオリゴヌクレオチドあるいはそれらのアナログ(例えば、ホスホロチオエートオリゴヌクレオチド、O-メチルグアニンおよび/またはO-メチルグアニンを取り込んだオリゴヌクレオチドなど)もまた、第1の因子として使用され得る。従来とは異なるように(nonclassically)細胞DNAにインターカレートして三重ヘリックスあるいはその他の複合体構造を形成する適切なオリゴヌクレオチドが、RiordanおよびMartin(1991),350Nature 442-443(これは、本明細書に参考として援用されている)に開示されている。これらの化合物は、その増殖特性が、サイクリン遺伝子、オンコジーン、および変異腫瘍サプレッサー遺伝子のような特定遺伝子の異常活性化に起因する、新形成の処理に有用であることが期待される。
【0029】
適切な第1の因子の上記クラスの各々は、本明細書に記載の代表化合物のアナログおよび誘導体を包含する。代表化合物のアナログは、構造的に関連する化合物、必要に応じて、代表化合物の前駆体、あるいは前駆体の誘導体であり得る。例えば、トリメチルソラレン(TMP)は、代表化合物ソラレンのアナログである。アナログはまた、代表化合物の構造的および/あるいは機能的に類似する置換基を有する、既知あるいは新規化合物であり得る。例えば、代表化合物が塩素置換基を有するときは、アナログは、別のハロゲン置換基(例えば、臭素またはフッ素)を有し得る。代表化合物の既知あるいは新規誘導体は、代表化合物から化学的、物理化学的、または代謝的に合成され、そしてその代表化合物より多いまたは少ない数および複雑度の置換基を含み得る。各クラスの代表化合物の基礎構造に対する適切な置換基は、公知であるか、あるいは単に規定通りの実験または特定のクラスの2つ以上の代表メンバーの構造の比較調査により決定され得る。従って、上記第1の因子の種々のクラスにおける使用に適した置換基は、直鎖状、分枝状、あるいは環状のアルキル、アリール、またはアルキルとアリールとの混合基;有機あるいは無機の酸、塩基あるいは中性部分を有する。代表化合物のアナログおよび誘導体に存在する置換基は、DNA結合活性(例えば、活性を増強あるいは減退する)を調節し得るが、このような活性を無効にはしない。
【0030】
第2の因子9に結合される細胞成分の好ましいクラス
ヘテロ2機能性化合物3の第2の因子9に関しては、全ての好ましい実施態様において、その第2の因子は、好ましくは、第1の因子5の細胞DNAへの結合により引き起こされるゲノム傷害部位へ、細胞性高分子が付着するのを仲介するように作用することに留意すべきである。従って、結合された細胞性高分子は、好ましくは、傷害を修復から立体的にシールドする。第2の因子は、細胞性高分子に直接結合するか、あるいは細胞性高分子が順に高親和性で結合するリガンド、補因子、または代謝物に結合する。いずれの場合でも、第2の因子は、細胞性高分子とヘテロ2機能性化合物との間の安定な複合体の形成を仲介する。複合体は、細胞内(例えば、核)条件下で安定であるので、それは、好ましくは、持続的な立体シールドとして作用し、損傷が選択細胞の死に寄与するのに十分に長い期間、ゲノム傷害の修復を阻む。
【0031】
好ましい実施態様では、第2の因子は、不均質な細胞集団中の選択細胞と優先的に会合される高分子(例えば、タンパク質)である細胞成分に直接結合する。このタンパク質は、その集団の選択細胞と非選択細胞との間の表現型の差異を提供する。それは、内因性細胞起源(細胞ゲノムから発現)またはウイルス起源(選択細胞に感染するウイルスのゲノムから発現)のタンパク質であり得る。選択細胞は、第2の因子に認識されるタンパク質の質的会合または量的会合によって、非選択細胞から表現型によって識別される。従って、非選択細胞は、そのタンパク質を有さないか、あるいは減少した量のタンパク質と会合する。認識されるタンパク質は、非選択細胞と会合した対応タンパク質の系統発生種または組織型変異体であり得る。それは、その発現が、非選択細胞における調節とは異なる様式で、選択細胞において発生上調節されるか、または異常調節される(dysregulated)タンパク質であり得る。それはまた、通常非選択細胞と会合したタンパク質の変異体であり得る。従って、認識されるタンパク質の例は、細菌、カビ、寄生生物、およびウイルスの細胞内タンパク質を包含する発生段階特異的タンパク質を包含する。その他の例は、非選択細胞の選択細胞への悪性分化または悪性トランスフォーメーション時に発現されるタンパク質を包含する。さらなるその他の例は、分裂細胞によって優先的に発現されるタンパク質、または細胞分裂の過程(細胞周期)に関連するタンパク質を包含する。その他の例は、放射あるいは選択細胞が応答する他の刺激によって、選択細胞において誘導され得るタンパク質を包含する。
【0032】
従って、第2の因子に認識されるタンパク質が関連する選択細胞は、分裂細胞、例えば、トランスフォーム細胞であり得る。好ましくは、選択細胞は、認識されるタンパク質を、非選択細胞における認識されるタンパク質または対応タンパク質の量よりも、少なくとも約5倍過剰で有する。より好ましくは、過剰は少なくとも約10倍である。さらに好ましくは過剰は約100倍を超える。さらに好ましくは、認識されるタンパク質は、非選択細胞中では検出不能である。多くの好ましい実施態様では、認識タンパク質は細胞内に存在する。例えば、認識されるタンパク質は、核タンパク質であるか、または、例えば、輸送タンパク質あるいは活性化または抑制化リガンドに結合されるときに、通常核に移動するタンパク質である。従って、第2の因子に認識される細胞内タンパク質の好ましいクラスは、サイクリン(cyclin)、サイクリン依存性キナーゼ、オンコジーン(ocogene)産物、変異腫瘍サプレッサー遺伝子産物、および転写因子を包含するが、これらに限定されない。
【0033】
オンコジーンは、正常細胞の悪性(ガン性)細胞への悪性トランスフォーメーションのプロセスに関連するタンパク質をコードする遺伝子である。従って、オンコジーンは、細胞の増殖および分裂期に関連するタンパク質をコードする。Molecular Cell Biology, Ch.24 Cancer, 967および984-994(第2版 1990)。オンコジーンは、細胞ゲノムにおいて見いだされ得るか、または細胞に感染するウイルスのゲノムにおいて見いだされ得る。特定の腫瘍発生ウイルスによる感染により、感染細胞は悪性トランスフォーメーションを受ける。このようなウイルスの例は、アデノウイルスおよびパポーバウイルス(例えば、SV40およびポリオーマ)、レトロウイルス(例えば、ラウス肉腫ウイルス、マウス乳ガンウイルス、ヒトT細胞白血病ウイルス-1、エプスタインバーウイルス、およびパピローマウイルス)を包含する。同書、Ch.24Cancer, 967-980。細胞内タンパク質をコードするオンコジーン(例えば、src、yes、fps、abl、met、mos、およびcrk)、特に核タンパク質をコードするタンパク質(例えば、erbB、abl、jun、fos、myc、N-myc、myb、ski、およびrel)は、本明細書において特に興味深い。同書、表24-1。すなわち、特定の好ましい第2の因子9が核オンコジーン産物に結合する。ウイルスおよび細胞両起源のオンコジーンは、多数の新形成病因に関連している。Harrison'sPrinciples of Internal Medicine, Part 1 Biological Basis of Disease, Ch.10 (第12版1991)。これらは、バーキットリンパ腫(エプスタインバーウイルス;内因性mycの活性化)、慢性骨髄性白血病(ablの活性化)、肛門性器ガン(パピローマウイルス)、および膵ガン(ras)を包含するが、これらに限定されない。同書、表10-3。
【0034】
腫瘍サプレッサー遺伝子はまた、それらが、細胞を適切な分化期に肯定的に維持し、かつ/または細胞が抑制を受けない増殖繰り返しを開始するのを抑制するタンパク質(遺伝子産物)をコードするので、「抗オンコジーン」または「抑制オンコジーン」として公知である。これらの望ましい特性は、腫瘍サプレッサー遺伝子の変異に際して失われ得、細胞を正常増殖制御から解き放つ。腫瘍サプレッサー遺伝子産物は、細胞DNA(そして、このためそれ自身が転写因子であり得る)またはその他のタンパク質(例えば、オンコジーン産物)のいずれかに結合すると考えられる。腫瘍サプレッサー遺伝子の2つの例は、Rb、すなわち網膜芽腫遺伝子(MolecularCell Biology, Ch.24 Cancer, 996(第2版 1990);Harrison's Principles of InternalMedicine, Part 1 Biological Basis of Disease, Ch. 10,68-69)および核リンタンパク質p53(Hollsteinら、(1991),253 Science 49-53)である。p53は、p53の体細胞変異が、乳房、結腸、肺、食道、肝臓、脳、血液形成(骨髄およびリンパ)、細網内皮、ならびにその他の組織の散発性および遺伝性の新生物において報告されてきたので、本明細書で特に有用である(同書)。実際に、p53の体細胞変異は、英国および米国で毎年立証される全ての新たな悪性の半分までにおいて、ある役割をなしていると考えられ、このタンパク質を、ヒトのガンの変異に対する最も頻繁な標的とする(Vogelstein(1990),348 Nature 681-682; Marx (1990), 250 Science 1209)。家族性リー−フラウメニ症候群におけるp53の生殖細胞系変異、すなわち、p53変異に関連したガンに対する遺伝的感受性を調査する研究は、タンパク質の保存領域に影響するわずかな欠損、転位、および点変異が、p53を抑制増殖調節タンパク質からトランス優性オンコジーン(これは、野生型p53に結合して不活性化し得る)に転換することを示している(Gannonら、(1990),9EMBO J.1595-1602;Malkinら、(1990), 250 Science 1233-1238;およびSrivastavaら、(1990),348 Nature 747-749)。従って、変異体に結合するが野生型すなわちp53に結合しない第2の因子9は、本発明の特定の実施態様において好ましい。p53のトランスフォーメーション変異の明確な性質および位置は研究の主題であり、Hollsteinら(1991),253Science 49-53にまとめられ、その教示は本明細書に参考として援用されている。変異体を認識するが野生型p53を認識しない、少なくとも1つのモノクローナル抗体PAb240が単離され、認識エピトープが特徴づけられた(Gannonら、(1990),9 EMBO J. 1595-1603; StephenおよびLane(1992), J. Mol. Biol. 577-580; 両教示は、本明細書に参考として援用されている)。PAb240により認識されるエピトープに結合する第2の因子9は、本発明の特定の実施態様において特に好ましい。
【0035】
サイクリン、サイクリン依存性キナーゼ、およびサイクリン会合タンパク質は共に、細胞周期を通して開始および進行を制御する核複合体を形成する。KeyopmarsiおよびPardee(1993), 90 Proc. Natl. Acad. Sci. USA 1112-1116,およびXiongら、(1993),7 Genes and Dev. 1572-1583、各教示は、本明細書に参考として援用されている。サイクリンおよびサイクリン依存性キナーゼは、細胞増殖を決定および調節する進化上保存された多重遺伝子ファミリーのメンバーとして、その中の保存アミノ酸配列モチーフの存在に従って分類される。核細胞周期制御複合体に会合する特定のサイクリンおよびサイクリン依存性キナーゼは、細胞周期の異なる期で微妙に変化する(例えば、G1期からS期への移行、またはG2からMへの移行に際して)。Xiongらは、サイクリンおよび関連タンパク質の発現および関連様式が、トランスフォーム細胞において混乱させられることを報告した。従って、腫瘍サプレッサー遺伝子産物については、悪性トランスフォーメーションは、1つ以上のサイクリン、サイクリン依存性キナーゼ、あるいはサイクリン会合タンパク質における隠されたエピトープの不適切な呈示と関連し得る。このような隠されたエプトープは、サイクリンおよびサイクリン依存性キナーゼ間の正常な会合を阻むか、あるいは、不適切な会合を促進する。特定の実施態様では、本発明のヘテロ2機能性化合物の第2の因子9は、このような隠されたサイクリン関連エピトープに選択的に結合する。KeyomarsiおよびPardeeは、1つのサイクリンであるサイクリンEが、正常乳房組織での発現レベルに比較して、乳ガン細胞で有意に過剰発現されることを報告している。従って、サイクリンEの蓄積は、乳房組織での選択(トランスフォーム)細胞および非選択(正常)細胞間の発現型差異を提供する。従って、特定の実施態様では、サイクリンEに結合する本発明の第2の因子9は、乳ガン細胞を選択的に破壊する能力を提供する。
【0036】
転写因子は、細胞DNAの特異的部位(例えば、特異的配列、構造、またはそれらの組み合わせ)に結合し、それによって1つ以上の遺伝子の発現を調節するタンパク質である。細胞DNA中のこのような部位は、本明細書では内因性ゲノム結合部位と呼ばれる。転写因子は、同系内因性ゲノム結合部位に結合することにより、遺伝子発現を促進、増強、あるいは抑制し得る。MolecularCell Biology, Ch.11 Gene Control and Developmennt in Eukaryotes, 400-412(第2版1990)。転写因子は、DNAと相互作用することが考えられる領域におけるタンパク質構造の類似性に基づいて、以下のクラスに分類され得る:ヘリックス-ターン-ヘリックスまたはホメオボックスタンパク質;亜鉛フィンガータンパク質;およびロイシンジッパータンパク質のような両親媒性ヘリックスタンパク質。従って、第2の因子は、1つ以上の構造的に類似の転写因子に結合するように、本明細書に記載の基本原理に従って設計され得る。ある実施態様では、第2の因子は、エストロゲンレセプターのようなリガンド応答性転写因子の、因子の内因性ゲノム結合部位への結合に影響する、可溶性調節リガンドを模倣する。その他の実施態様では、第2の因子は、内因性ゲノム結合部位を模倣する。このような結合部位模倣体は、本明細書では転写因子デコイ(decoy)またはリガンドデコイと呼ばれる。デコイに対する所定の転写因子の結合親和性は、好ましくは、その内因性ゲノム結合部位または調節リガンドに対する因子の親和性に近い。すなわち、デコイに対する因子の結合親和性は、その同系部位あるいはリガンドに対する親和性の約100倍以内である(例えば、同系部位に対するKd(app)が1 nMであれば、デコイに対するKd(app)はせいぜい約100 nMである)。好ましくは、デコイの親和性は、同系部位あるいはリガンドの約10倍以内である。より好ましくは、デコイの親和性は、同系部位あるいはリガンドの親和性を超える。特定の転写因子の内因性ゲノム結合部位の配列を模倣する特定の転写因子デコイは、Bielinskaら(1990),250Science 997-1000、およびChuおよびOrgel(1992),20 Nucl. Acids Res. 5857-5858に開示され、各教示は、本明細書に参考として援用されている。本発明は、配列非依存性である構造を含む、転写因子の内因性ゲノム結合部位の構造を模倣する転写因子デコイを包含するように、これらの教示を拡張する。
【0037】
適切な実施態様では、第2の因子9は、選択細胞の増殖または生存、あるいは選択細胞によって行われる代謝あるいは分泌プロセスに関連する遺伝子の発現を制御する転写因子に対するデコイに使用される。選択細胞のこのような化合物への暴露は、転写因子のハイジャック(hijack)に至る。すなわち、デコイに結合された転写因子は、その天然ゲノム結合部位から離され、ゲノム傷害部位で隔離されるようになる。予備研究では、ウイルス転写因子がこの様式で「ハイジャック」され、ゲノム傷害に結合させられ得ることが確認された。これらの予備研究は、HMGボックス転写因子、すなわち上流結合因子(UBF)が、同等の親和性でシスプラチン1,2-d(GpG)鎖間架橋(G^G)およびその天然ゲノム結合部位に結合することを実証した。これらの研究のために、ヒト上流結合因子(hUBF)が使用された。hUBFは、上流制御エレメントまたはヒトリボソームRNA(rRNA)プロモーターのUCEに結合し、そしてrRNA転写の重要な正のレギュレーターである(Jantzenら(1990),344 Nature 830-836)。rRNAは、細胞タンパク質合成機構の必須エレメントである。従って、hUBF/プロモーター結合は、細胞のタンパク質合成機構の適切な機能化に関連する。
【0038】
予備研究でhUBFデコイとして使用される特定の核酸は、hUBFに対して内因性ゲノム結合部位の配列に対し配列類似性を有さなかったことに注目されるべきである;従って、転写因子ハイジャックは、配列特異的ではなく構造的認識によって達成された。サウスウエスタンブロット分析およびウエスタンブロット分析により、図2に示す結果が得られ、それは、インビトロ翻訳hUBFが、シスプラチンによって全体的に修飾されたDNAに結合するが、非修飾DNAまたは遺伝子毒性不活性異性体であるトランス-DDPのアダクトを含有するDNAを認識しなかったことを示す。hUBF種の既知の大きさに相関する分子量を有する、粗HeLa細胞抽出物中のタンパク質は、同様の結合優先性を示した。シスプラチン修飾核酸デコイのDNaseIフットプリント分析(図3)は、hUBFが、定められたシスプラチンG^Gアダクト部位に対称的に隣接する14bpのDNA領域を保護することを示した(パネルA、レーン1)。これらの結果は、hUBF結合が、立体的に大きなDNAプロセッシング酵素によって、シスプラチン傷害部位への接近を阻むことを直接に実証する。競合的研究(図5に示す結果)は、シスプラチンデコイが、[hUBF-プロモーター]複合体の形成を有効に阻害することを確認した。すなわち、構造的デコイは、hUBFのその同系の配列特異的ゲノム結合部位(UCE)への適当な結合の有効な競合阻害剤であることが示された。hUBFのG^Gに対する親和性は相当であった(Kd(app)=60 pM;図3のパネルBを参照のこと)。比較のために、別のHMGボックスタンパク質であるHMG1のシスプラチンG^Gアダクトに対するKd(app)は、370 nMであることが示された(PilおよびLippard(1992),256 Science 234-237)。図5はまた、hUBFのそのプロモーターに対する有意な非特異結合成分を示す。これはまた、リンパ系エンハンサー因子-1(LEF-1)を含む、その他のHMGボックスタンパク質についても観察される。このLEF-1は、推定ゲノム認識配列へ、名目上の(nominal)特異性(20-40倍)で結合する(Gieseら(1991),5Gene & Dev. 2567-2578)。フットプリント調査(図5に示す結果)はまた、同系ゲノム結合配列(UCE)のhUBF保護領域とシスプラチンデコイと間の類似性を確立した。これらの結果から、シスプラチン化学療法レジメによるガン患者の治療に際し、インビボでの細胞DNA中に蓄積するシスプラチンのレベルは、hUBFをリボソームRNAプロモーターから離すのに十分であることが推測され得る。
【0039】
上記にまとめられた予備研究は、hUBF-シスプラチンデコイ複合体の構造特性への洞察に導く。シスプラチンアダクトは、14bpの保護領域内にほぼ集中され(図3)、そのことは、DNA結合ドメインがアダクトに対して対称的に配置されることを示唆する。上記に考察されているように、シスプラチンアダクトは、二重鎖DNAの構造的ねじれをつくる。1,2-ジヌクレオチドアダクトは曲げられ、そして白金配位複合体と直に会合された領域では部分的に巻かれていない。従って、得られた角張った構造は、傷害部位に「L字形(elbow)」を有する。このL字形は、傷害が、結合hUBFによってシールドされているときでさえ、溶媒に曝された状態にあるようである:傷害のすぐ5'側に結合されたホスホジエステルは、DNaseIに対する感受性をとどめていた。この結果は、hUBFが、DNA屈曲部の凸側で、二重鎖DNAの小溝に結合することと一致する。他に、小溝の相互作用を介した、その他のHMGボックス転写因子、特に、LEF-1およびSRY(睾丸決定因子)の同系ゲノム結合部位への結合に関する同様の所見が報告されている(Gieseら(1991),5 Genes & Dev. 2567-2578; van de WeteringおよびClevers (1992), 11 EMBO J.3039-3044; KingおよびWeiss (1993), 90 Proc. Natl. Acad. Sci. USA 11990-11994)。
【0040】
SRYのようなhUBFは、DNA認識の配列特異的および構造特異的な両方の型を示す。フットプリントデータは、構造特異的[hUBF-G^Gデコイ]複合体および配列特異的[hUBF-UCE]複合体が構造特性を分担することを示唆する。各々の場合に、保護領域は、ヌクレアーゼ感受性部位に対称的に隣接する。DNA屈曲部は、これらの複合体の有効な共通特性である。事実、HMGドメインの特徴は、屈曲DNAと相互作用し、そしてまた直鎖状配列に屈曲を誘導するその傾向である。1つの例に、SRYは、鋭角で四方のDNA接続を効率よく認識する(Ferrariら(1992),11EMBO J. 4497-4506)。さらに、SRYは、結合に際して特異的DNA配列において鋭角屈曲(85°)を誘導する(Gieseら(1992),69Cell 185-195)。HMGドメインの屈曲DNAとの特異的相互作用は、最近報告されたように(Weirら(1993), 12 EMBO J.1311-1319)、その「L」型の裂け目に起因し得る。詳細な構造研究はまだされていないが、hUBFも、おそらくDNAを屈曲させる。hUBF結合に際してUCEにおいて誘導されたDNaseI超感受性部位は、DNase I活性がDNAの構造特性(小溝の幅を包含する)に感受性であるので、DNA屈曲を示し得る(DrewおよびTravers(1984), 37 Cell 491-502)。推定屈曲部位は、DNase Iから保護されるUCE内に集中され;興味深いことに、G^G誘導DNA屈曲もまた、DNaseI耐性領域に集中される。従って、G^Gによって誘導された屈曲およびねじれDNA構造は、安定な[hUBF-rDNAプロモーター]複合体の形成の間に生じる好都合なDNAコンホメーションを模倣するようである。最近、同様のモデルが、SRYによる構造特異的認識を説明するために提案された(KingおよびWeiss(1993),90 Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 11990-11994)。
【0041】
インビトロにおける競合アッセイの結果(図5に示す)はさらに、rDNAプロモーターで転写因子の内因性ゲノム結合部位(UCE)を置換することにより、シスプラチンデコイがhUBFと相互作用することを確立した。理論的な予測によると、シスプラチンデコイの細胞環境への導入は、hUBFをハイジャックし、通常は適切な[hUBF−プロモーター]複合体化に依存する細胞過程の混乱を誘導することが予期される。特に、高親和性[hUBF-デコイ]複合体の形成は、プロモーター結合に利用できるhUBF量を減少させるはずである。プロモーター占有と核hUBF濃度との間の極端な関連性(図4)は、シスプラチン傷害によるhUBFのわずかな程度の隔離さえ、rRNAをコードする核小体遺伝子の発現を有意に損ない得ることを示す。従って、rRNA転写、そして従って細胞タンパク質合成が妥協される(compromised)。さらに、hUBFのような立体的に大きなタンパク質のシスプラチン傷害への結合は、DNA修復を妨害あるいは阻害する。実際に、G^Gアダクトはヒト細胞で細胞DNAから切り出される(Fichtinger-Schepmanら(1987),47 Cancer Res. 3000-3004)が、この修復プロセスは非効率的である(Szymkowskiら(1992), 89 Proc. Natl.Acad. Sci. U.S.A. 10772-10776)ことが研究により示されている。ここに示されている結果は、シスプラチンデコイ中のG^G傷害に対称的に隣接する14bpの領域が、ヌクレアーゼ分解から強く保護されることを示した。このことから、この領域もまた、酵素的DNA修復機構の成分からシールドされることを推定することは理にかなう。この推定のさらなる支持では、損傷DNAを認識し、ヒトヌクレオチド切除修復に必須であるXPACタンパク質は、G^Gシスプラチン傷害に対して比較的低い親和性を有する(Kd(app)>600 nM)(JonesおよびWood(1993),32 Biochemistry 12096-12104)。従って、XPACは、hUBFを置換しない。このhUBFは、シスプラチン傷害に、より強く結合する。従って、hUBFは、シスプラチンゲノム傷害を修復から保護する有効なシールドとして作用する。
【0042】
DNA修復およびタンパク質合成は両方とも、腫瘍の細胞のような増殖細胞にとって、正常分化組織の細胞のような静止細胞に対してよりも、より必須的であるようである(MauckおよびGreen(1973),70 Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 2819-2822; FravalおよびRoberts(1979), 39 CancerRes. 1793-1797)。細胞内hUBF分子数および典型的な化学療法の繰り返しにおいて形成されるシスプラチンゲノム傷害数が、計算されている。両方とも、約5×10/細胞の範囲にある(Bellら(1988),241 Science 1192-1197; Reedら(1993),52 Cancer Res. 3694-3699)。従って、選択細胞の生存度にとって生物学的に有意かつ相乗作用的な攻撃は、シスプラチン遺伝子毒性のハイジャックモデルおよびシールドモデルの両方によって推定されるシスプラチン-hUBF相互作用から理解される。
【0043】
本発明の第2の因子9が設計され得る他のクラスのタンパク質は、メッセンジャーRNA(mRNA)を生成するためのスプライシングRNA遺伝子転写物に関与するタンパク質を含む、核酸プロセッシングタンパク質(例えば、リボ核酸(RNA)プロセッシングタンパク質)を包含する。さらに、その他の細胞性高分子(例えば、選択細胞では活発に発現されるが非選択細胞では発現されない遺伝子のRNA転写物あるいはそれらの部分)に結合する第2の因子が、設計され得る。
【0044】
第2の因子9として有用な細胞成分結合化合物
第2の因子9の構造特性について、第2の因子が、優先的に選択細胞に会合された上記考察されたタンパク質によって結合される、リガンドあるいはそのアナログまたは誘導体であり得ることは、上記に開示されている。このようなリガンドは、エストロゲン、プロゲステロン、アンドロゲン、グルココルチコイド、およびその他の可溶性ホルモン、毒素、細胞内および細胞外起源で現在既知であるか新規な臨床的に有用なアナログおよびその代謝物を包含する。ヘテロ2機能性リガンド-遺伝子毒性因子化合物は、調製されて、そして上記の第一モデルに従ってシスプラチンベースの傷害シールド概念の拡張を支持する予備研究に供された。このような化合物の1つにおいて、リガンドビオチンが、標準的な技術の使用により、遺伝子毒性第1の因子に連結された。選択された特定の第1の因子は、光活性化可能な薬物トリメチルソラレン(TMP)であったが、本明細書に開示されている第1の因子のいずれもが使用され得たことは理解されるべきである。ソラレン化合物は、d(TpA)ジクレオチドで二本鎖DNAにインターカレートし、菌紫外光照射の被爆の後にモノアダクトおよびジアダクトを形成する(Ciminoら(1985),54 Ann. Rev. Biochem. 1151-1193)。ビオチンは、タンパク質アビジンおよびストレプトアビジンに対する非常に強い親和性で結合し(Kd(app) 10-15M,Green(1975), 25 Adv. Protein Chem. 85-133)、従って、酵素連結イムノソルベントアッセイ(ELISA)のような、目的とするタンパク質を検出または定量するために特異的なタンパク質相互作用を利用する研究および臨床アッセイで広く使用される。この研究において、ビオチン-TMP化合物は、TMP傷害部位のごく近隣(3塩基対以内)に位置するさらなる定められたゲノム傷害(デオキシウリジン、シトシンの脱アミノ反応産物)を含む二重鎖DNAと混合された。実施例においてより十分に記載されるように、ビオチン-TMP化合物は、両方の結合親和性は、ヘテロ2機能性化合物においては、第1および第2の因子の非複合体化前駆体におけるよりも低いが、二重鎖DNAおよびストレプトアビジンに同時に有効に結合した。定量ゲルシフトアッセイは、ストレプトアビジンと固定化ビオチン間に約1.5nMのKを示した。このK値は、ストレプトアビジンまたはアビジンに対する遊離ビオチンの値と有意に異なる(ストレプトアビジンまたはアビジンを伴う遊離ビオチンのKは、約10−6nMである)。TMP-ビオチン複合体中のビオチンドメインは、遊離ビオチンと同様に挙動すると仮定すると、K値の有意な増加(言い替えると、ビオチンとストレプトアビジン間の結合親和性の減少)は、おそらくTMP-ビオチン複合体のDNAへの共有結合により引き起こされた。この影響は、おそらく連結技術および使用されるリンカーの特性をさらに最適化することによって最小化され得るようである。本明細書に記載されているような技術は、この目的を達成するために、単なる規定通りの実験を通して適用あるいは採用され得る。記載されているように、第2の因子リガンドとDNAヘリックスと間の最適距離は、リガンドと細胞成分と間で堅い結合をなし、しかもアダクト部位(すなわち、ゲノム傷害)近隣のDNA領域を適切にシールドすべきである。ストレプトアビジンは、ゲノム傷害部位で損傷DNAに結合されるときは、近接のデオキシウリジン傷害を、適切なDNA修復酵素であるウラシルグリコラーゼによる修復からシールドした。これらの結果は、実施例において以下に示されている。シールドされる領域の大きさは、少なくとも20近接ヌクレオチドで、DNA切除修復酵素により典型的に放出されるDNAパッチの大きさと同等であった。
【0045】
別のヘテロ2機能性リガンド-遺伝子毒性因子化合物(この場合はエストラジオール-クロラムブシル結合体である)が、調製された。このプログロムされた遺伝子毒性化合物は、クロラムブシルにより与えられる細胞内エストロゲンレセプター(ER)のゲノム傷害への付着を仲介する。再度、適切な標準的な技術により、エストロゲンリガンドは、本明細書に開示の遺伝子毒性第1の因子のいずれかに連結され得たことが理解されるべきである。エストロゲンレセプターもまた、細胞酵素DNA修復機構による修復から有効にゲノム傷害をシールドし、またはエストロゲンレセプターポジティブ細胞による遺伝子毒性化合物の取り込みを増強し、それにより、エストロゲンレセプターを発現する選択細胞の死に寄与するために使用され得ることを確認するために、手引が本明細書に示されている。本発明の基本原理に従って、ゲノム傷害のシールドとするためにエストロゲンレセプターを補充するようにプログラムされたヘテロ2機能性化合物は、遺伝子毒性第1の因子、必要に応じたリンカー、およびレセプタータンパク質を、遺伝子毒性因子により引き起こされる細胞DNA中の傷害部位へ固着する第2の因子を有する。好ましくは、遺伝子毒性第1の因子は、それ自身2機能性であり、従って、細胞DNAにおいて鎖内および鎖間の架橋を形成する能力を提供する。長さおよび分子組成を変える連結基により、当業者は、エストロゲンレセプターおよびDNAの同時結合のために、本発明の化合物を最適化し得る。例えば、リンカーの分子組成は、生理学的条件下での化合物の溶解度を増大するか、あるいはその細胞膜透過性を増大するように調整され得る。同様にリンカーの長さは、遺伝子毒性第1の因子が細胞DNAに結合されている間、リガンド第2の因子のエストロゲンレセプターの疎水性リガンド結合ポケットへの接近性を適応させるように調整され得る。
【0046】
大きなキャリア分子あるいはアガロースのような固体支持体に固着されたエストロゲンリガンドはなお、溶液からエストロゲンレセプターを誘引して結合し得るということが、既に指摘されている。エストロゲン前駆体エストラジオールは、アガロースへ7α位あるいは17α位のいずれかで連結され、アフィニティークロマトグラフィーによって細胞抽出物からエストロゲンレセプターを単離する手段を作出する(Sicaら(1973),248 J. Biol. Chem. 6543-6558; Bucortら(1978), 253 J. Biol. Chem. 8221-8228;Redeuilhら(1980), 106 Eur. J. Biochem. 481-493)。DNAおよびアガロースは両方とも多糖類特性を有する。しかし、アガロースとは異なり、デオキシリボースのDNAモノマー単位は、帯電ホスホジエステル基によって連結され、そしてまた窒素および酸素の両原子を含有する複素環式プリンあるいはピリミジンに結合される。窒素および酸素に結合された水素原子は、ヘリックスDNA分子内に水素結合を形成し、そしてタンパク質およびその他のジスルフィド分子ともこのような結合を形成し得る。このような会合は、DNA構造を決定して遺伝子発現を調節する細胞DNAと核タンパク質との間の相互作用との類推により、細胞成分、ヘテロ2機能性化合物、および細胞DNAの間の傷害-シールド複合体の形成を援助し得る。しかし、水素結合が、エストロゲンリガンドがそのレセプターに結合する能力に対し、不都合に影響することもまた考えられる。しかし、エストロゲンリガンドおよび遺伝子毒性因子間に配置されるリンカーの最適化は、そのリガンドをDNA分子から十分に離して突き出し、結合されるシールドタンパク質との高親和性相互作用を促進する。
【0047】
適切な前駆体は容易に入手可能であるので、エストラジオールの17α連結誘導体の調製は、合成化学の観点から最も容易である。例えば、エストロン(3-ヒドロキシ-1,3,5[10]-エストリエン-17-オン)から開始し、エストラジオールの17αで短鎖アミノアルコールの置換が、グリニヤール反応によって達成され得る。あるいは、17α-エチニルエストラジオールは、短鎖アルキルアミンの結合のための開始点として使用され得る。報告された7αエストラジオール誘導体への合成経路はさらに複雑であるが、当業者の能力範囲内である。Charpentierら、(1988),52 Steroids 609-621では、アドレノステロンから開始して、エストロンおよびエストラジオールの7α-カルボキシメチル-9(11)-エン誘導体が合成され、ここでは、カルボキシメチル基が最初に7α位に導入され、次に、A環が芳香族化された。7α誘導体の別の公開されている合成では、Bucortら(1978),253 J. Biol. Chem. 8221-8228は、エストラジオールの7αカルボン酸誘導体を最終的に生成するための、グリニヤール試薬のカンレノ酸メチルエステル(canrenoatemethylester)への結合体付加を記載した。あるいは、短鎖アルキルの末端でのアミノ基を介したステロイドリガンドの結合は、適切に保護された分子をp-ニトロフェニルクロロホルメートと反応させることによって達成され得る。
【0048】
以下に示す実施例から、当業者は、エストロゲンレセプターに対するリガンドデコイを含むヘテロ2機能性化合物の生化学的かつインビトロにおける機能性を実証するのに適した、ストレプトアビジン誘引ヘテロ2機能性化合物の機能を実証するために使用される方法を容易に採用し得る。さらなる手引が、以下の予測実施例(prospective examples)において、特に、リガンドデコイがDNA中に鎖間架橋を形成する能力を評価すること;適切な傷害シールド複合体が、損傷DNAおよびエストロゲンレセプター間に形成されるかどうかを評価すること;およびエストロゲンレセプターを発現する細胞のインビトロにおける選択的傷害について本発明のリガンド-デコイ化合物を評価することのために提供されている。同様の技術が、その他のリガンド応答性転写因子を誘引するようにプログラムされたヘテロ2機能性化合物の機能特性を実証するために、単なる規定実験により適用あるいは採用され得る。事実、このような研究は、オンコジーン産物、腫瘍サプレッサー遺伝子産物、サイクリンなどを誘引し、そしてこれらの細胞成分をゲノム傷害部位に固着させるように設計された化合物のようなその他のヘテロ2機能性化合物の機能性を評価するのに適している。電気泳動移動度シフトおよびDNaseI保護分析は、一般的に、特定のヘテロ2機能性化合物が、遺伝子毒性傷害を形成するか、選択細胞成分が適当にプログラムされたヘテロ2機能性化合物によって結合されるか、および得られた複合体が細胞DNAにおいて作用する酵素作用からゲノム傷害をシールドするのに有効であるかどうかを実証するに適した方法である。
【0049】
従って、エストロゲンレセプター(ER)を特異的に認識するさらなるその他のヘテロ2機能性リガンド-遺伝子毒性因子化合物が調製された。ヘテロ2機能性2-フェニルインドール-クロラムブシル化合物、1-[6-(N-2-エトキシ-(O-(3-(4-(N,N-ビス(2-クロロエチル)-アミノフェニル)プロピルアミン)カルバモイル)アミン)ヘキシル]-5-O-ヒドロキシ-2-(4-ヒドロキシフェニル)インドール(1)の調製を図示するフローチャートは、図9に示され、実施例12で考察されている。ヘテロ2機能性ER-リガンドデコイ化合物1は、まさに本発明の好ましい実施態様であり、溶液中にある場合および二本鎖DNAに固着された場合の両場合において、哺乳類ERに結合することが実証された(実施例13)。さらに、好ましい化合物1は、ERを発現する哺乳類細胞に対して選択的に細胞毒性であることが実証された(実施例14)。この選択毒性は、化合物1のクロラムブシル第1の因子部分に依存し、抗エストロゲン活性に起因しない(実施例15)。従って、本発明のER-リガンドデコイ化合物は、治療用抗エストロゲンであるタモキシフェンと同じ様式では、ER発現細胞を選択的に死滅させない。これらの結果は、リガンド応答性転写因子(ER)をゲノム傷害部位に固着するようにプログラムされたヘテロ2機能性化合物によって、本発明の実施を例示する。
【0050】
hUBFを用いて実施された予備研究から明白なように、第2の因子9は、他の実施態様において、ゲノム傷害部位で隔離されるべき転写因子あるいはその他のタンパク質の内因性ゲノム結合部位を模倣する核酸であり得る。核酸第2の因子は、一本鎖、二本鎖、直鎖、分枝、環状、またはそれらの配置の組合せであり得る。RNAあるいはDNAのどちらかが使用され得る。鎖内部塩基対合を介して、直鎖あるいは環状核酸第2の因子は、安定なヘアピン配置あるいはダンベル配置を採用し得る(ChuおよびOrgel(1992),20 Nucl. Acids Res. 5857-5858)。ある種の第2の因子(転写因子デコイ)は、認識される転写因子の内因性結合部位の配列あるいは構造のいずれかが似ている。すなわち、デコイのヌクレオチド配列は、内因性部位の配列またはデコイにタンパク質結合活性をあたえるのに十分に相同な配列を含み得る。例えば、デコイ配列は、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で内因性配列に結合する配列のような、内因性配列の保存的変型体であり得る。好ましくは、デコイ配列は、内因性配列と50%を超えて同一である。より好ましくは70%を超えて同一であり、さらに好ましくは90%を超えて同一である。特定のヌクレオチド配列を認識する多くの核酸結合タンパク質の結合親和性が、実際の結合部位に近接する核酸領域によって増強されることは周知である。これらの隣接領域は、特定の認識配列の3'あるいは5'側に配置され得る。核酸結合タンパク質は隣接領域のヌクレオチドと直接または強く相互作用する必要はないので、より大きな配列可変性が、結合部位自身よりこのような位置で許容され得る。従って、内因性部位に対してデコイへのタンパク質の結合優先性を調節する(例えば、増強する)、近接領域が隣接した核となる保存結合配列を含むデコイが、構築され得る。同様の基本原理が、核酸配列ではなく構造を模倣する核酸デコイの構築に適用され得る。タンパク質により認識される構造特性は、折り畳み、ルーピング、よじれ、核酸デコイによるより高次の構造(例えば、十字型)または非従来的なヘリックス配置(例えば、ZDNA)の採用によって生成される。必用に応じて、これらの構造特性は、デコイの非核酸成分(例えば、架橋剤)によって安定化され得る。さらなる変型が導入され得、そして好ましい特性(例えば、インビボ条件下での安定性)は、デコイ配列において、ヌクレオチドアナログあるいは誘導体(例えば、ホスホロチオエートアナログ、あるいはO-および/またはO-メチルグアニン誘導体)を使用することにより強調され得る。
【0051】
核酸第2の因子9の重要なクラスは、「アプタマー(aptamers)」として当該分野で公知のものを包含する。アプタマーは、インビトロにおいても知られる、方向付けられた分子進化の産物である。用語「アプタマー」は、元来、方向付けられた分子進化のRNA産物を記載するために、EllingtonおよびSzostakによって作り出された造語である。方向付けられた分子進化は、高親和性で所望のリガンドに結合する核酸分子が、ランダムDNA配列の大きなライブラリーから単離されるプロセスである(EllingtonおよびSzostak(1990),346 Nature 818-822)。このプロセスは、アフィニティー分離の相前後する数回の反復を実施すること、例えば、所望リガンドが結合されている固体支持体を使用して、その後、リガンド-溶出核酸を増幅するためのポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を実施することを包含する。従って、アフィニティー分離の各ラウンドにより、所望のリガンドに首尾良く結合する分子について、核酸集団を濃縮する。このようにして、EllingtonおよびSzostakは、RNAの初期ランダムプールを「馴らし(educated)」、CibacronBlueのような有機染料分子に特異的に結合したアプタマーを得た(同書、図2)。得られたある種のアプタマーは、Cibacron Blueおよび類似構造のその他の染料間で識別し得、このことは、技術の特異性を実証した。アプタマーは、1つのキラル中心での旋光によってのみ異なる立体異性体間を識別するように設計され得る(FamulokおよびSzostak(1992),1141 J. Am. Chem. Soc. 3990-3991)。元来、より高次の三次元構造を有する天然に存在するRNA(例えば、rRNAまたは転移RNA、tRNA)の確立された知識を考慮すると、RNAアプタマーは、リガンド認識により適すると考えられた。しかし、非対称PCR増幅によって生成された一本鎖DNA分子もまた、有効であることが示された(EllingtonおよびSzostak(1992),355Nature 850-825)。アプタマーは、生理学的条件下でアプタマーの安定性の増大を提供し得るヌクレオチドアナログ(例えば、ホスホロチオエートヌクレオチド)から調製され得ることに、注目されるべきである。標準的な技術は、転写因子デコイおよびアプタマーのような核酸を、タンパク質認識能および遺伝子毒性を実質的に損失することなく、遺伝子毒性薬物のようなその他の化学部分に連結し得る。
【0052】
方向付けられた分子進化の基本原理は、転写因子を含む、DNA結合タンパク質のようなタンパク質に高親和性で結合するアプタマーの生成を包含する(TuerkおよびGold(1990),249 Science 505-510; FamulokおよびSzostak(1992),31 Angew. Chem. Intl. Ed. Engl.979-988、この教示は、本明細書に参考として援用されている)。最近、アプタマーは、高親和性で細胞外タンパク質トロンビンに結合し(Bockら(1992),355 Nature 564-566)、そしてトロンビン触媒血餅形成を損ない得ることが報告された。高親和性アプタマーは、利用可能な構造またはリガンド認識情報がほとんどないかあるいは全くないタンパク質に対してさえ、生成され得る(FamulokおよびSzostak(1992),31 Angew. Chem. Intl. Ed. Engl. 979-988;HIV Revタンパク質に関する考察を参照のこと)。従って、任意の所望の選択細胞会合タンパク質に事実上結合するアプタマー第2の因子が、利用可能な技術を介して、タンパク質が既知の天然リガンドあるいは内因性ゲノム結合部位を有するか否かにかかわらず、生成され得る。この適応性は、新生物細胞またはウイルス感染細胞(例えば、ヒト免疫不全症ウイルス(HIV)または腫瘍発生腺腫およびパピローマウイルスに感染した細胞)を選択的に破壊することにおいて有用な、プログラム可能な遺伝子毒性薬物の設計に大きな見込みを与える。アプタマー認識タンパク質は、本明細書で考察されている一般的なクラスのいずれかのメンバーであり得る:転写因子、リガンド応答性転写因子、オンコジーン産物、腫瘍サプレッサー遺伝子産物、細胞周期調節タンパク質、核酸プロセッシングタンパク質、核構造タンパク質など。好ましいアプタマーは、核リンタンパク質p53に結合する。特に好ましいアプタマーは、PAb240エピトープのような、野生型p53において隠れている腫瘍関連変異体p53領域に結合する(Gannonら(1990)9 EMBO J. 1595-1602; StevenおよびLane(1992), 255 J. Mol. Biol. 577-583)。実施例においてより十分に記載されるように、PAb240エピトープに選択的に結合するアプタマー集団が調製された。このプールから増幅されたアプタマーを含み、従って変異p53を結合するようにプログラムされたヘテロ2機能性化合物は、実施例および期待例において以下に記載する技術および手引きの適切な規定通りの採用によって、生体分子機能およびインビトロ機能について評価され得る。
【0053】
第2の因子9のさらに別の一般的なクラスは、いわゆるエピトープライブラリーから選択されるペプチドリガンドを包含する。さらなるこのようなライブラリーを調製する技術と同様に、確定した平均長のランダムペプチドライブラリーが利用可能である。このようなライブラリーは、目的とする抗体によって認識される正確なエピトープを決定するために使用された(Geysenら(1984), 81 Proc. Natl. Acad. Sci. USA 3998-4002; Fodorら(1991),251 Science 767-773:各教示は、本明細書に参考として援用されている)。ウイルスコートタンパク質にクローン化されたランダムペプチドエピトープを発現する繊維状バクテリオファージ由来の少なくとも1つの「リビングライブラリー」が、構築されている(ScottおよびSmith(1990),249 Science 386-390:この教示は本明細書に参考として援用されている)。この技術は、好都合な結合特性を有するペプチドを呈示するファージが、選択細胞の所望のタンパク質成分(例えば、転写因子、サイクリン、細胞内レセプター、または腫瘍サプレッサー遺伝子産物)に対してアフィニティー精製され得、細菌宿主を用いてインビボにおいて増殖され、そして所望タンパク質に対する結合親和性をさらに改良するために部位特異的変異誘発のような技術にかけられ得るという利点を提供する。適切な遺伝子工学技術によって、この様式で結合について最適化されたペプチドは、高発現宿主細胞(例えば、E.coliのような細菌宿主)に導入され、必要に応じて切断可能な融合タンパク質として生産され、そして高収量で単離され得る。このようにして、大量のペプチド第2の因子が調製され、そして標準的な技術によって、遺伝子毒性第1の因子に連結されて、本明細書に開示のヘテロ2機能性化合物を調製し得る。タンパク質認識能あるいは遺伝子毒性を実質的に損失することなく、ペプチド第2の因子を遺伝子毒性第1の因子に連結するための適切な技術は、公知であって利用可能である。
【0054】
第2の因子9のさらに別の一般的なクラスは、組み合わせ合成により調製された合成の有機化合物および無機化合物のライブラリーから単離された有機化合物および無機化合物を包含する(Needelsら(1993), 90 P.N.A.S. USA 10700-10704; Ohlmeyerら(1993), 90P.N.A.S. USA 10922-10926)。
【0055】
第1の因子と第2の因子と間の連結
本明細書に開示のヘテロ2機能性化合物では、上記第1の因子および第2の因子は、ともに、好ましくは共有結合で、結合される。多くの実施態様では、第1の因子および第2の因子は、共有結合リンカー7を介して連結される。その他の実施態様では、第1の因子と第2の因子の連結は、非共有結合的会合によって達成される。このような実施態様では、第1の因子と第2の因子とは、必要に応じて連結され、細胞内に化合物3を形成する。従って、連結は、第1の因子が細胞DNAに結合した後あるいは第2の因子が細胞成分と複合体化された後に、生じ得る。非共有結合リンカーの1つの例は、それぞれに第1の因子および第2の因子に共有結合される相補的オリゴヌクレオチド鎖(例えば、オリゴ(dGg)/オリゴ(dC))を包含する。
【0056】
しかし、ほとんどの実施態様では、第1の因子と第2の因子とは、共有結合によって直接連結されるか、または有機リンカーを介して間接的に連結される。この有機リンカーは、生物学的分子に天然に存在する、好ましくは最高約20炭素原子を有し、必要に応じて、酸素、窒素、あるいはイオウのようなその他の原子と結合した、直鎖状、分枝状、あるいは環状の脂肪族、芳香族、あるいは脂肪族および芳香族の混合の有機化合物を包含する。有機リンカーは、例えば、ペプチド、オリゴ糖、オリゴヌクレオチド、カルバミン酸あるいは尿素誘導体(例えば、オリゴカルバミン酸ペプチドアナログ)であり得る。リンカーのさらなる例は、エチレングリコール、アルキルジアミンなどから独立的に選択される連結可能なモノマーで組立てられたポリマーを包含する(例えば、ポリエチレングリコール、尿素、またはスペルミン/スペルミジン)。リンカーは、本明細書に開示されているヘテロ2機能性化合物が、細胞DNAおよび細胞成分への同時結合を立体的に適応させ得るように、第1の因子と第2の因子との結合部分に間隔をあける役割をなす。しかし、リンカーは、第2の因子に結合される細胞成分によってゲノム傷害のシールドを取り除くほどには、第1の因子と第2の因子とを分離しない。特定の実施態様では、有機リンカーは、約12炭素原子までを含有する。その他の実施態様では、約8炭素原子まで含有する。第2の因子が、認識される細胞成分タンパク質中の深い裂け目またはポケットに接近しなければならないようなさらに他の実施態様では、そのリンカーは、約30炭素原子まで含有し得る。第1の因子と第2の因子との共有結合が、直接的あるいは間接的(付属リンカーを介して)であっても、そのリンカーは、生理学的条件下、特に細胞内条件下で安定である。すなわち、連結は、酵素的プロセスを含む、加水分解あるいはその他の生化学的プロセスによる切断に耐性である。この理由により、アミド結合あるいはエステル結合を有するリンカーは、本発明では好ましくない。反対に、カルバミン酸部分あるいは尿素部分を含むリンカーは、安定性および親水性の特性のために本願において好ましい。例えば、カルバミン酸骨格を介して連結されたアミノカルバミン酸モノマーで構成されたオリゴカルバミン酸ペプチドアナログは、トリプシンあるいはペプシンの存在下で少なくとも150分間安定であることが報告された(Choら(1993),261 Science 1303-1305)。
【0057】
直接的あるいは付属有機リンカーを介した、第1の因子の第2の因子への連結は、当業者に容易に明白になる規定通りの化学的または生化学的な方法あるいは改変を適用することによって達成され得る。実施される特定の連結反応は、所望のヘテロ2機能性化合物を生成するために連結される第1の因子および第2の因子の型によって決定される。付属リンカーが、その有機リンカー内にこれらの特性を与える部分を含むことによって、本発明の化合物の親水性あるいは細胞膜透過性を改良するための好機を提供することは、当業者により認識される。
【0058】
ヘテロ2機能性のプログラム可能な遺伝子毒性化合物の使用
本明細書に開示されている、ヘテロ2機能性のプログラム可能な遺伝子毒性化合物は、不均質な細胞集団中の選択細胞を破壊するための方法において有用である。一般に、その方法は、不均質な細胞集団を上記のようなヘテロ2機能性化合物と接触させる工程、および化合物が細胞内にインターナライズし、細胞DNAに結合し、そして選択細胞と優先的に会合される細胞成分に結合するのに十分な時間、その細胞集団を化合物とインキュベート(接触を維持)し、修復からゲノム傷害を防御する立体的なシールドを生成させる工程を包含する。以前に述べたように、不均質な細胞集団は、単細胞あるいは多細胞生物の細胞を包含し得、そして培養維持細胞、多細胞生物から引き出された細胞、あるいは多細胞生物の組織または器官に存在する細胞を包含し得る。すなわち、その方法は、インビトロ、エキソビボ(哺乳動物(例えば、ヒト)のような多細胞生物から引き出された生体組織検体のようなサンプルを使用する)、またはインビボにおける、多細胞生物への局所投与または全身投与によって実施され得る。認識細胞成分は、細胞に天然に会合されるものか、または、細胞に、例えば、遺伝子工学技術によって意図的に導入されるものであり得る。従って、本発明の方法は、例えば、組換えタンパク質の生産、あるいは改良または所望の特性を有する細胞の単離について、利用可能な生物学的選択方法の範囲を拡大する見込みを提供する。
【0059】
表現型によって、例えば、正常細胞からトランスフォームされた(悪性あるいは新生物)細胞のような分裂細胞、非感染細胞からウイルス感染細胞、および宿主生物細胞から病原性生物細胞を識別する、同時選択細胞成分に適したプログラム可能な遺伝子毒性化合物について、本明細書では広範囲の考察がなされてきた。本明細書に開示の方法は、任意のこれらの見地に基づいて、不均質な細胞集団のその他の細細胞と表現型によって識別し得る細胞の選択的傷害を達成するために実施され得ることが理解されるべきである。特に、この方法は、直腸結腸、生殖管、肝臓、リンパ系、乳房、骨髄、神経または呼吸道管起源の新生物(トランスフォームされた)細胞の選択的傷害を達成するために使用され得ることが理解されるべきである。生殖管起源の細胞は、より詳細には、卵巣、子宮、子宮内膜、頚管、腟、前立腺、または精巣起源であり得る。乳房起源(mammary origin)の細胞は、より詳細には、乳房起源(breast origin)であり得る。本明細書の開示から明白なように、このような細胞の選択的傷害は、悪性トランスフォーメーションに関与する細胞内タンパク質を認識する第2の因子の使用を介して達成され得る。従って、例えば、ヘテロ2機能性化合物は、オンコジーン産物(例えば、erbB、abl、またはmyc)、変異腫瘍サプレッサー遺伝子産物(例えば、変異体p53)、あるいは異常サイクリンまたはサイクリン依存性キナーゼを発現する悪性細胞を選択的に破壊するように、プログラムされ得るかまたは設計され得る。適切なヘテロ2機能性化合物は、標的高分子に結合する、リガンド、アプタマー、結合ポリペプチド、または、例えば組合せ合成によって生成された低分子量の有機分子に連結された遺伝子毒性分子を包含し得る。あるいは、化合物は、その生存あるいは増殖が特定遺伝子の発現に依存する細胞を、転写因子デコイである第2の因子を取り込むことによって、選択的に破壊するようにプログラムされ得る。その増殖がエストロゲンレセプター、アンドロゲンレセプター、またはプロゲステロンレセプターのような異常発現リガンド応答性転写因子によって駆動される悪性細胞は、第2の因子のようなリガンド模倣物を取り込む化合物によって、選択的に破壊され得る。このようなリガンド模倣物は、アンドロゲン、エストロゲン、プロゲストロン、グルココルチコイド、ならびにレセプター結合アナログおよびそれらの誘導体(例えば、臨床上関連したエストロゲンアナログであるタモキシヘン)を包含する。例えば、エストロゲンあるいはエストロゲンアナログ含有ヘテロ2機能性化合物は、乳ガンあるいは卵巣ガン細胞の選択的破壊を達成するために使用され得、プロゲストロン化合物は、子宮ガンあるいは子宮内膜ガン細胞を破壊するために同様に使用され得、そして、アンドロゲン化合物は、前立腺ガン細胞を破壊するために使用され得る。
【0060】
本発明に好ましいエストロゲンアナログ含有化合物は、2-フェニルインドール化合物およびそのアナログを包含し、これらは、1-[6-(N-2-エトキシ-(O-(3-(4-(N,N-ビス(2-クロロエチル)アミノフェニル)プロピルアミン)カルバモイル)アミン)ヘキシル]-5-O-ヒドロキシ-2-(4-ヒドロキシフェニル)インドール(1)を包含する。このような化合物は、乳房あるいは生殖管起源、特に卵巣起源の悪性エストロゲンレセプターポジティブ細胞を選択的に破壊することが、本明細書において認識される。同様に、本発明の基本原理の適用によって調製されたアンドロゲンおよびアンドロゲンアナログ含有化合物、例えば、アリールチオヒダントイン化合物(4-[4,4-ジメチル-3-(2-O-エチル-(2-N-メチル)-2-N-ヘキシル-(6-0-(3-(4-N,N-ビス(2-クロロエチル)アミノ-フェニル)プロピルアミン)カルバモイル)エチル)-5-オキソ-2-チオキソ-1-イミダゾルイジニル]-2-トリフルオロメチルベンゾニトリルを含む)は、生殖管起源、特に前立腺起源の悪性アンドロゲンレセプターポジティブ細胞を選択的に破壊することが認識される。
【0061】
本発明のヘテロ2機能性化合物はまた、宿主または感染生物の細胞および細菌、真菌、ウイルス、あるいは寄生生物のような感染性生物の細胞を含む不均質な細胞集団に存在する感染性生物の細胞を、インビトロあるいはインビボのいずれかで選択的に破壊するように設計され得る。従って、本明細書に開示されている化合物は、インビトロにおいて、培養細胞(例えば、哺乳類細胞)の健常性および無傷性の維持、ならびに、インビボにおいて、現在利用可能な抗生物質、抗真菌剤、あるいは抗寄生生物剤に対する獲得耐性を有するものを含む病原性生物により引き起こされる感染性疾患の処置において、有用であることが予測される。従って、プログラム可能な遺伝子毒性化合物の入手がさし迫って要求される感染性疾患は、敗血性創傷感染症、院内感染症(hospital-acquired infections)、結核、マラリア、およびアメバー赤痢を包含するが、これらに限定されない。プログラム可能な遺伝子毒性化合物が利用可能な遺伝子毒性薬剤の範囲を拡大する可能性を与えるその他の例、特に前立腺疾患の例は、住血吸虫症、フィラリア症、シャーガス症、リーシュマニア症、睡眠症、トキソプラズマ症、ニューモシスティス症、ラムブル鞭毛虫症、トリコモナス症、クロプトスポリジス症(croptosporidiosis)などを包含する。Harrison'sPrinciples of Internal Medicine, Part 5 Infectious Diseases Ch, 156-172。これらの疾患のあるものは、国際社会において比較的一般的であり、一方、他の疾患は、発展途上国の民衆に非常な脅威を示す。
【0062】
あるいは、本発明の化合物は、所望の特性を有する細胞あるいは望ましくない特性を欠く細胞について不均質な細胞集団を濃縮するために、インビトロにおいて使用され得る。従って、本発明の化合物は、現在の方法、例えば、一次抗体産生細胞を含む不均質な細胞集団および不死化融合パートナー細胞系から所望の抗体を産生するハイブリドーマ細胞を単離するための方法の代替となる、新規な方法を提供する。あるいは、本発明の化合物は、不都合なトランスフェクト体を含む細胞集団から異種核酸でトランスフェクトされた所望の細胞を分離するのに有用な、遺伝子選択薬剤の範囲を拡大する。
【0063】
当業者は、本発明が実施される環境に依存して、選択的細胞傷害を達成するのに必要なインキュベーション時間が広く変化することを、容易に理解および認識する。多くの例において、培養細胞、あるいは単細胞生物または多細胞生物から引き出される細胞の懸濁物の選択的傷害に必要な時間は、多細胞生物のインビボでの細胞の選択的傷害を達成するのに必要な時間より短い。多細胞生物(例えば、哺乳動物)の組織中の選択細胞を破壊するためのインビボにおける使用については、使用される薬物のプロトコルは、破壊されるべき細胞の所在場所、細胞の複製速度、細胞の修復能力レベル、投与されるヘテロ2機能性化合物の用量、投与経路(一般的に、全身的または局所的のいずれか、ならびに、経腸または非経口のいずれか)、および化合物の浄化および組織取り込みの薬力学的プロフィルに依存して変化する。従って、用量に影響する変数は、性質(例えば、種あるいは組織の型)、破壊されるべき選択細胞の量および接近しやすさ(すなわち、体の区画の所在位置)、ならびに認識される細胞成分に対する化合物の性質、遺伝子毒性、および親和性を包含するが、これらに限定されない。本発明の化合物は、経口、鼻腔内、静脈内、腹腔内、局所、皮下、筋肉内、あるいは、その他の投与経路に適した処方用の薬学的に受容可能なキャリアあるいは賦形剤(例えば、液体、懸濁液、固体、軟膏(salve、ointment)など)と組み合わされ得る。本発明の化合物は、単回投与(例えば、ボーラス注射)、等量、漸増量、減少量、または断続変化量の連続投与、または一定期間をかけた注入(例えば、静脈内点滴または輸注)、あるいは緩徐放出送達媒体からの放出により投与され得る。本発明の化合物の適切な用量は、もちろん本発明が実施される正確な環境によって決定されるが、一般的には、1kg体重あたり0.01 ngから10 gの範囲、好ましくは1 kg体重あたり1 ngから 0.1 gの範囲、そしてより好ましくは1 kg体重あたり100 ngから10mgの範囲である。
【0064】
所望であれば、選択的細胞傷害の程度は、選択細胞溶解産物を検出するための目視あるいは顕微鏡検査法、生化学的方法、色素形成法、あるいは免疫学的方法などのような標準的で広く使用可能な方法を介して、確認され得る。このような技術は、特定環境下で本発明の目的を達成するのに有効な用量および期間の両方を確立するために使用され得る。一旦、有効な用量および期間が確立されると、もはや選択的な細胞傷害の進行をモニターする必要はない。
【0065】
本発明の実施は、下記の実施例からより十分に理解されるが、この実施例は、単に例示するために本明細書に示され、いかなる方法においても本発明を限定するようには構成されていない。
【実施例】
【0066】
実施例1:hUBFを用いるウエスタンブロッティング研究およびサウスウエスタンブロッティング研究
プローブ調製. サウスウエスタンブロッティングのために使用したDNAプローブは、M13mp19複製型DNAから切り出した422塩基対(bp)のAvaI制限フラグメントであった。白金酸塩化プローブを、AvaI消化DNAをシスプラチンまたはトランス-DDPで処理することにより調製し、そして結合薬物/ヌクレオチドのモル比(rb)を、Donahueら、(1990),29Biochemistry 5872-5880に記載のように原子吸光分光法を用いることにより決定した。
【0067】
ウエスタンブロッティング技術およびサウスウエスタンブロッティング技術. HeLa全細胞抽出物(WCE)をSamsonら、(1986),83Proc.Natl.Acad.Sci. U.S.A. 5607-5610の超音波手順により調製した。97 kDa hUBF種を、Jantzenら、(1992),Genes& Dev. 1950-1963に報告されるようにプラスミドpTbGUBF1からインビトロ転写および翻訳により合成した。インビトロ翻訳したhUBFを35Sメチオニンの取り込みにより定量した。タンパク質サンプル(75mgのWCEまたは8ngのhUBF)を5〜15%勾配SDSポリアクリルアミドゲルで分離し、そしてニトロセルロースメンブレンに移した。HeLa全細胞抽出物(WCE)およびインビトロ翻訳hUBF(hUBF)の平行ブロットを、種々の32P標識DNAフラグメント(サウスウエスタン分析、図2のパネルA〜C)またはhUBFに対する抗血清(抗NOR-90)(図2のパネルD)でプローブした。サウスウエスタン分析のために、風乾したメンブレンをToneyら、(1989),86Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A. 8328-8332に報告されるように処理した。プローブする工程において、標識DNAは約5×104cpm/mlで存在し、そして非特異的競合物ポリ(dI-dC)・ポリ(dI-dC)は約5mg/mlで存在した。パネルAに示すブロットはシスプラチン(シス-Pt-422)修飾プローブでプローブし、パネルCに示すブロットはトランス-ジアンミンジクロロ白金(II)(トランス-Pt-422)修飾プローブでプローブし、そしてパネルBに示すブロットは非修飾(Un-422)プローブでプローブした。シス-Pt-422を認識するHeLaタンパク質を、パネルAの左に分子量で挙げる。シスプラチンおよびトランス-DDPにより修飾したプローブについてのrb値は、それぞれ0.043および0.052であった。オートラジオグラフィーの間、0.254mm厚の銅シートを用いて、インビトロ翻訳hUBFからの35S放射を選択的にブロックした。ウエスタン分析のために(パネルD)、E.K.L.Chan(Chanら、(1991),174 J.Exp.Med. 1239-1244)からの贈与として入手したヒトNOR-90(hUBF)に対する抗血清の1/250希釈物でフィルターをプローブした。抗体結合を、BioRadから市販される化学発光検出システムを用いて、標準的な技術により可視化した。HeLaおよびインビトロ翻訳hUBFの両方の位置を示す。正体未知の120kDa種もまた、抗NOR-90を用いてWCE中に可視化された。
【0068】
結果. シスプラチン修飾DNAでプローブしたヒトHeLa細胞抽出物のタンパク質ブロット(サウスウエスタン分析)(図2A)は、Mr(app)97、94および28kDaの種を示した。未修飾DNAまたは臨床的に無効なトランス-DDP化合物で修飾したDNAは、これらのタンパク質によって結合されなかったが(パネルBおよびC)、105kDaの非特異的DNA結合タンパク質が3つのDNAプローブの各々で検出された。28 kDa種は、豊富なクロマチンタンパク質HMG1であると最近同定された(PilおよびLippard(1992),256 Science 234-237; Hughesら、(1992),J.Biol.Chem. 13520-13527)。HMG1の厳密な機能は不明であるが、HMG1は染色体構造の維持およびDNAトポロジーの改変における役割を担うと提唱されており、それゆえ転写およびDNA複製のために重要であり得る(Bustinら、(1990),1049Biochim.Biophys.Acta 231-243)。HMGボックスは多くのシスプラチン傷害認識タンパク質の一様な特徴であるので、97および94 kDaタンパク質がこのDNA結合ドメインを保有することが仮定された。RNAポリメラーゼI転写因子hUBFはHMG1に相同ないくつかの領域を含み(Jantzenら、(1990),344Nature 830-836)、そしてオルタナティブスプライシング事象のために97 kDaおよび94 kDaの両方の種として存在する(Chanら、(1991),174J.Exp.Med. 1239-1244)。hUBF抗血清を用いるウエスタンブロット分析は、hUBFダブレットがサウスウエスタン分析により検出されたバンドに類似することを示した(図2、パネルAとDとを比較のこと)。これらの観察から、hUBFがシスプラチンDNA傷害に結合すると仮定された。この仮定はインビトロ翻訳hUBFのサウスウエスタンブロット分析により確認された(図2A、レーン2)。
【0069】
実施例2:[hUBF-シスプラチン]複合体のDNaseIフットプリンティング研究
プローブ調製. 単一の中央に位置する1,2鎖内シス-[Pt(NH3)2]2+d(GpC)架橋(GG-100)および類似の非修飾フラグメント(Un-100)を含有する100bpのDNAフラグメントを、hUBFフットプリンティング実験において、競合DNAおよびプローブの両方として使用した。これらのDNAフラグメントは、P. PilおよびS.J.Lippard(PilおよびLippard(1992), 256 Science 234-237)により好意で提供された。 GG-100のアダクト含有鎖およびUn-100の類似の非修飾鎖を、標準的な手順に従ってポリヌクレオチドキナーゼを用いて、γ32P-ATP(>6,000Ci/mmol)で5'末端標識した。非アダクト化鎖の5'末端をAvaIを用いて除去して、90 bpのフットプリンティングプローブを生成させた。これらをSephadexG-25 QuickspinTMカラム(Boehringer Mannheim)を通過させることにより生成した。
【0070】
DNaseIフットプリンティング技術. 均質HeLa hUBFを用いてrRNAプロモーター(下記)および白金酸塩化DNAプローブに対するDNaseIフットプリントを生成した。フットプリンティングを本質的にBellら、(1988),241Science 1192-1197に記載のように実施した。hUBFを、適切な標識DNAプローブ(実験に依存して103〜104cpm、0.7〜50 pM)および結合緩衝液(25 mM Tris-HCl(pH7.9)、14 mM MgCl2、0.5 mMジチオトレイトール、10%グリセロール、50mM KCl、0.05% Nonidet-P40、2.5 mM CaCl2)を全量50 mlで含有するフットプリンティング反応物に添加した。結合反応物を30℃で10分間インキュベートし、次いでDNaseI(WorthingtonDPFF用)で25℃で1分間消化した。DNaseI反応を、20 mM EDTA、1% SDS、0.2 M NaCl、および50 mg/ml酵母全RNAの溶液を添加することにより停止した。サンプルをフェノール/クロロホルム抽出し、エタノール沈殿し、そして変性ウェッジ(0.4〜1.5mm)配列決定ゲル(プロモーターフットプリントまたはGG-100フットプリントのためにそれぞれ、6%または12%)で70 Wで標準的な手順に従って電気泳動した。ゲルを固定し、乾燥し、そして増感スクリーンとともに予め短時間露光したX線フィルムに80℃で曝露し、そしてMolecularDynamics PhosphorImagerTM画像化機を用いることにより解析した。
【0071】
結果. 図3パネルAに示すように、400 pm hUBFは、規定されたGGアダクトにすぐ隣接するプローブの領域をDNaseI切断から保護するために十分であった(レーン1および2を比較のこと)。明確な保護パターンが、アダクトを含む14bp領域中に観察され、これはhUBFがGGにより誘導される構造的な歪みを認識するという直接的な証拠を提供する。関連する配列を左に示し、そして保護された残基を四角内に示す。破線はDNaseI感受性のままのGGのすぐ5'の残基を示す。GGアダクトの確立された構造的特徴は、主溝へのらせんの曲がり(34°)(BellonおよびLippard(1990),35 Biophys.Chem. 179-188)および巻き戻し(-13°)(Bellonら、(1991),30 Biochemistry8026-8035)を含む。このような保護は類似の非修飾100マーによってはもたらさず(レーン3)、これはhUBFの存在下および非存在下の両方において同一の切断パターンを示す(レーン3および4)。シスプラチンアダクト付近のGG-100およびUn-100の切断パターンは直接比較可能であるはずである(レーン2および4)。パネルBは、GG-100へのhUBF結合のPhorphorImager半定量的プロフィールを示す。YはGG-100の部分飽和(fractionalsaturation)であり、そしてこれは各々のhUBF濃度での保護された領域における3つのバンドの強度をモニターすることにより見積もった。データは方程式Kd=[hUBF][GG-100]/[hUBF-GG-100] (Kd=60 pMの場合)に適合する。最大の半分の結合を与えるタンパク質濃度(Kd(app))を破線で示す。標識プローブは20pM(104 cpm)で存在した。これらの結果は、[hUBF-シスプラチン]複合体形成がエネルギー的に非常に有望であることを示す。半定量的結合プロフィールの形状から、結合が非協同的であることも明白である。
【0072】
実施例3:[hUBF-DNAプロモーター]複合体のDNaseIフットプリント研究
プローブ調製. フットプリンティング研究のために、ヒトrRNA遺伝子の-208〜+78領域を含むpSBr208のEcoRI-BstEII制限フラグメントは、非コード鎖の5'または3'末端標識のいずれかであった。pSBr208をEcoRIで消化し、そして5'リン酸を仔ウシ腸ホスファターゼで除去した。EcoRI消化pSBr208をγ32P-ATP(>6,000Ci/mmol)で5'末端標識し、次にBstEIIで消化した。286 bpのフットプリンティングプローブを5%ポリアクリルアミドゲルで精製し、そして電気溶出した。より高い比活性のフットプリンティングプローブが必要な場合は、非コード鎖を[α-32P]-dATP、[α-32P]-dCTP、および[α-32P]-dGTP(>6,000Ci/mmol)の存在下でKlenow酵素を用いて3'末端標識した。
【0073】
先の実施例に記載されるDNaseIフットプリンティング技術は、本発明のプロモーター結合研究において従った。
【0074】
結果. hUBFによるシスプラスチンアダクト認識の生物学的な重要性は、最終的には相互作用の親和性に依存する。従って、hUBFとrDNAとの相互作用は、生物学的に関連する親和性についての有用な基準値を提供する。図4の上方のパネルは、7〜78pMの範囲のhUBF濃度でのrDNA結合プロフィールを示す。[hUBF-プロモーター]複合体の形成により、それぞれCOREエレメントおよびUCEエレメント中の-20位および-95位でのDNaseI超感受性を生じた。さらに、-95に対称的に隣接する40bpの領域は切断に対して無反応性になった(Bellら、(1988),241 Science 1192-1197)。プロモーター占有程度は、上流制御エレメント(UCE)中の-95位の増加したDNaseI感受性により最も簡便に可視化された。図4に示す結果を生じるために使用した3'標識プローブは、0.7pM(103 cpm)で存在した。このように、バンドは不完全な標識によりダブレットとして出現する。
【0075】
次に、hUBF結合を-95での増大した切断の強度を測定することにより定量した。下部のパネルにおいて、強度を左に恣意的なPhosphorImager単位(PIU)で報告し、そして右に見かけの部分飽和度(Y)で表す。最大の半分の結合を与えるタンパク質濃度(Kd(app)、18pM)を破線で示す。このように、hUBFは、rDNAプロモーター中のその内因性部位(1つまたは複数)に強固に結合する。プロモーター配列についてのhUBFの親和性およびシスプラチンデコイ(decoy)についてのhUBFの親和性は匹敵し、3倍しか違わないことに留意するべきである。これは、シスプラチンアダクトが細胞環境中でhUBFについて効果的なデコイであり得ることを示唆する。UCEフットプリントがGG-100について観察されたフットプリントに量的に類似していることにさらに留意するべきである。両方の複合体において、保護された領域はヌクレアーゼ感受性部位に対称的に隣接する。hUBFプロモーター結合プロフィールの形状は、結合プロモーターの部分(fraction)(Y)がhUBF濃度の狭い範囲で鋭く増加することを示し、このことは結合が協同的であることを示す。これらのデータのHillプロットは2.7のHill定数(nH)で最良の適切な直線(r=0.997)を生じ、このことは正の協同を示す。協同はまた、XenopusUBFのエンハンサー反復への結合について報告されている(PutnamおよびPikaard (1992),12 Mol.Cell Biol. 4970-4980)。転写因子ハイジャックモデルに関する協同の重要な結果は、遊離核hUBFのプールにおける小さな減少がプロモーター占有を強く減少させ得ることである。
【0076】
実施例4:シスプラチンデコイによる[hUBF-rDNAプロモーター]複合体化の競合的阻害
シスプラチンアダクトおよびrDNAプロモーターについてのhUBF親和性定数の匹敵する値から、シスプラチンアダクトは[hUBF-プロモーター]複合体形成の効果的な競合的インヒビターであるはずであるようである。従って、競合研究を、先の実施例において論じたプローブ調製物およびDNaseIフットプリンティング技術を用いて実施した。
【0077】
競合技術. 精製HeLa UBFを、ネガティブコントロール(図5のレーン1に示す)以外の全てのサンプルに、最終濃度160pMになるように添加した。hUBFのこのレベルは、ポジティブコントロール(レーン2)において1の見かけの部分飽和度(Y)を生じるレベルより十分に高い。5'標識プローブは46pM(104 cpm)で存在した。非標識競合物としてUn-100(レーン3〜6)およびGG-100(レーン7〜12)を、列挙した最終濃度(nM)に添加した。競合効果をプロモータープローブのYを測定することにより見積もった。Y値を下に示す。レーン1および2をレーン3〜12におけるYを算出するために標準として用いた。
【0078】
結果. 図5は、GG-100が効率的にhUBF-プロモーター相互作用に拮抗することを示す。COREおよびUCEエレメントにおける-21位および-95位でのバンドの強度の減少ならびに-75位と-115位との間バンドの再出現は、この効果を例示する(レーン7〜12)。hUBFの飽和濃度において、プロモーター複合体の形成は5×10-9M(レーン11)の白金アダクト濃度(これはガン患者DNAにおけるアダクトレベル(104〜105/細胞、または10-7〜10-6M)(Reedら、(1993),53 Cancer Res. 3694-3699)より十分低い)により完全に阻害された。対応する非修飾競合物DNA(Un-100)は、GG-100より10〜30倍弱いhUBFの競合物であった(レーン3〜6)。Un-100は、GG-100中の1つの特異的な結合部位に比較して100までの重複する非特異的結合部位を含むので、非白金酸塩化部位に対する白金酸塩化部位についてのhUBFの優先性は、1〜3×103倍程高くあり得る。これらの結果はシスプラチンデコイが、この転写因子をその内因性ゲノム結合部位から隔離し、そしてrDNAプロモーターを未占有のままにして、効果的にhUBFをハイジャックするという見解を直接支持する。これらの結果から、細胞性タンパク質合成機構の混乱が予言され得る。
【0079】
実施例5:ヘテロ2機能性化合物が選択されたタンパク質のゲノム傷害部位への結合を仲介し得ることの実証
TMP-ビオチン傷害結合体. 17マーオリゴヌクレオチド(U-17と称する)を標準的なホスホルアミダイト化学により合成した。U-17は単一の中央に位置する5'-TA-3'部位、およびTA部位から3'側に3塩基離れて位置するウラシルデオキシヌクレオチドを含んだ。オリゴマーを20%変性(7M尿素)ポリアクリルアミドゲル(アクリルアミド/ビス、19:1)で精製し、そしてAmiconセントリリューターを用いることにより電気溶出した。尿素をオリゴマーからAmiconCentricon 3TMマイクロコンセントレーター中での数回の蒸留水洗浄により除去した。精製U-17を、[γ-32P]ATP(6000Ci/mmol、New England Nuclear)で、T4ポリヌクレオチドキナーゼ(New England Biolabs)を用いて、標準的な技術に従い5'末端標識した。非取り込み標識を充填済G-25カラム(Boehringer-Mannheim)を通した遠心分離により除去した。次いで、標識U-17をその非標識相補鎖にアニールさせた。次いで、TMP-ビオチン結合体(50%(v/v)アセトニトリル中に溶解した)を、二重鎖オリゴマー溶液にTMP-ビオチン対塩基対が約1000:1のモル比で添加した。室温で10分間インキュベートした後、混合物を冷却した表面に置き、そして15-WGeneral Electricランプ(365 nmでの最大出力)を用いる近紫外光照射に供した。最終照射用量は約85 kJ/m2であった。生じた照射混合物(今やTMP-ビオチン傷害U-17を含む)を、20%変性ポリアクリルアミドゲルで分離した。モノアダクト化TMP-ビオチンU-17鎖を含有するゲルスライスを切り出し、傷害DNAを上記のように電気溶出により精製した。最後に、傷害U-17鎖をその同族非標識相補鎖にアニールさせて、二本鎖傷害プローブを形成させた。
【0080】
ゲル移動度シフトアッセイ. TMP-ビオチン結合体でモノアダクト化したU-17へのストレプトアビジンの結合を、プローブをストレプトアビジン(Pierce)と10μlの結合緩衝液[25mM Tris-HCl(pH7.4)、100 mM NaClおよび1.5 MgCl2]中室温で10分間インキュベートし、そして混合物を4℃で5%非変性ポリアクリルアミドゲル(アクリルアミド/ビス、29:1)で電気泳動することにより測定した。一定量の傷害U-17(3200cpm、約0.1 nM)を、ストレプトアビジンの濃度を0〜50 nMまで変化させながら各々のインキュベーションにおいて使用した。示した場合、遊離d-ビオチン(0.4mM)をインキュベーション中に添加した。電気泳動後、ゲルを乾燥し、そして増感スクリーンとともにX線フィルムに曝した。乾燥したゲルをまたPhorphorImagerスクリーンに曝し、そしてデータをIMAGEQUANTソフトウエア(MolecularDynamics, Sunnyvale, CA)を用いて分析した。
【0081】
結果. ストレプトアビジンは、TMP-ビオチン結合体でモノアダクト化したU-17フラグメントの電気泳動移動度を遅らせた(図6、パネルA)。遅延はDNAへ挿入されたビオチンへのストレプトアビジンの結合によりもたらされた。なぜならおそらく遊離ビオチンが、固定化されたビオチンとストレプトアビジンについて競合することにより、遅延を戻したからである(パネルA中のレーン8)。MolecularDynamicsのIMAGEQUANTソフトウエアによるデータの定量は、結合曲線を生じた(パネルB)。最大の半分の結合のためのストレプトアビジン濃度(C1/2)は約1.5nMであり、このことはストレプトアビジンと固定化ビオチンとの間のKdもまた約1.5 nMであったことを示唆する。ストレプトアビジンは、U-17オリゴマーまたはただ1個のソラレン誘導体でモノアダクト化したU-17のいずれかに対する結合活性をほとんど示さなかった(データは示さず)。Kd値がストレプトアビジンまたはアビジンから遊離したビオチンのKd値と非常に顕著に異なることを指摘するベきである。先に論じたように、このKd値の観察された増加は、TMP-ビオチン結合体のDNAへのアダクト化によりストレプトアビジン-ビオチン結合におよぼされた立体効果におそらく帰因した。
【0082】
実施例6:傷害結合ストレプトアビジンがDNA修復酵素による接近を妨害することの実証
ウラシルグリコシラーゼ保護アッセイ. 先に記載のように得られた二本鎖、TMP-ビオチン修飾U-17を、このアッセイにおけるプローブとして用いた。プローブ(各反応について4000cpm、約0.15 nM)をまず12μlのグリコシラーゼ緩衝液[30 mM Tris-HCl (pH7.4)、50 mM KClおよび5mM MgCl2]中室温で10分間、ストレプトアビジン(36ng、約50 nM)の存在下で(示す場合)インキュベートした。いくつかのインキュベーションにおいて、0.4 mMの遊離d-ビオチンを添加した。インキュベーション後、3μl(0.15単位)のウラシルグリコシラーゼ(Boehringer-Mannheim)を添加し、次いで混合物を37℃で5分間から40分間インキュベートした。各々のインキュベーションの最後に、85μlの新鮮に調製した1.25Mピペリジン(Fisher)を添加し、そしてサンプルを次に90℃で1時間加熱した。DNA分子中の脱プリン部位(apurinicsite)はアルカリ切断を受けやすいので(LindahlおよびAndersson (1972),11 Biochemistry 3618-3623)ウラシルグリコシラーゼ処理からなんらかの脱プリン部位が生じれば、上記のピペリジン処理はDNA鎖破壊を生じるはずである。サンプルを減圧遠心分離してピペリジンを除去し、そして蒸留水中に再懸濁して再び減圧遠心分離することにより洗浄した。洗浄したサンプルを、最後に変性ローディング緩衝液[80%(v/v)再結晶ホルムアミド、0.1%(w/v)キシレンシアノールおよび0.1%(w/v)ブロムフェノールブルー]中に再懸濁し、20%変性ポリアクリルアミドゲルで分析した。ゲルを(乾燥させずに)X線フィルムに増感スクリーンとともに-80℃で曝露した。
【0083】
結果. 図7に示すように、ストレプトアビジン(TMP-ビオチンDNAアダクトと複合体化した場合)は、ウラシルグリコシラーゼによる付近のウラシル塩基の除去を阻害した(レーン3〜6をレーン7〜10と比較のこと)。この阻害は遊離のビオチンを添加すると実質的に戻された(レーン11〜14)。TMP-ビオチンDNAアダクトは、90℃で1時間加熱した後でさえ安定であった(レーン1)。TMP-ビオチンアダクトの少しの部分は、プローブをピペリジン処理に供した場合、除去された[レーン2のバンド(b);レーン3〜14のバンド(b)およびバンド(d)]。
【0084】
実施例7:傷害結合ストレプトアビジンが立体シールドとして作用することの実証
DNaseI保護アッセイ(DNaseIフットプリンティングとも呼ばれる). 再び、TMP-ビオチンで修飾した32P末端標識二本鎖U-17を、このアッセイにおいて用いた。簡潔に記載すると、傷害DNA(5,000cpm、約0.15 nM)をまず種々の量のストレプトアビジン(0〜50 nM)と室温で10分間、10μlの結合緩衝液[25 mMTris-HCl(pH7.4)、100 mM NaClおよび1.5 mM MgCl2]中でインキュベートした。示す場合、0.4 mMの遊離d-ビオチンをインキュベーションの1つに含んだ。各々のインキュベーションの最後に、2μlの2.5mg/mlの新鮮に希釈したDNaseI(Worthington Enzymes, Freehold, NJ:最終濃度、0.4 mg/ml)を添加し、そして消化を室温で2分間実施し、その後50μlの停止溶液[20mM EDTA(pH8.0)、1% SDSおよび50μg/ml酵母全RNA]の添加により停止した。次いでサンプルをエタノール沈殿した。80%エタノールで1回洗浄した後、DNAペレットを風乾し、次いで変性ローディング緩衝液中に再懸濁した。最後に、再懸濁物を20%変性ポリアクリルアミドゲルにロードした。ゲルを乾燥し、そしてX線フィルムに増感スクリーンとともに-80℃で曝露した。
【0085】
結果. 図8に示すように、ストレプトアビジンを添加した場合、修飾U-17はDNaseI切断に対して耐性になった。増強されたC16バンドおよびG17バンドは、ストレプトアビジンがこれらのフラグメント(全長または1塩基少ない)をDNaseIによるさらなる切断から保護したことを示す。傷害DNAプローブが5'末端標識され、そして5マーより短いフラグメントは実験手順で用いたエタノール沈殿により回収され得なかったので、修飾されたチミジンの5'側の2塩基(C5およびG6)のみがストレプトアビジンにより覆われることが観察された。しかし、3'側では、覆われた領域はより広かった。先に論じたように、保護された領域は少なくともプローブの全長に広がった。これは修飾された塩基から10ヌクレオチド離れていた。プローブの3'側の同様な長さもまた、ストレプトアビジンにより保護されたことを予測することが合理的である。これらの観察は、ストレプトアビジン(約50kDのタンパク質)が、TMP-ビオチンがモノアダクト化されたチミジンに隣接する少なくとも20ヌクレオチドを覆ったことを示唆した。哺乳動物細胞におけるDNA切り出し修復酵素(これは種々のDNA損傷を修復し得る(Friedberg(1985),DNARepair))は、まずそれを認識し、次いで損傷鎖の傷害部位に隣接する27〜29ヌクレオチドの「パッチ」またはDNAフラグメントを切り出すことによりDNA傷害を修復する(Huangら、(1992),89P.N.A.S.USA 3664-3668;Svovodaら、(1993),268 J.Biol.Chem. 1931-1936)。ストレプトアビジンの非存在下でさえ、修飾チミジンの3'側の4〜5ヌクレオチドの小さな領域がDNaseI切断に耐性であったことが示された。この効果はTMP-ビオチン傷害それ自体の存在に起因した可能性がある。実験がDNaseのかわりに適切な修復酵素を用いて実施されれば、同様な効果は観察されない。
【0086】
予測実施例8:ヘテロ2機能性化合物がゲノム傷害を形成することの実証のためのガイドライン
所定のプログラムされた遺伝子毒性化合物(例えば、ナイトロジェンマスタード-ステロイドデコイ エストロゲン-クロラムブシル)がDNAを損傷する能力は、化合物が二重鎖DNA分子の反対鎖との間に鎖間架橋を形成する能力を測定することにより評価し得る。このような架橋の形成は、クロラムブシル(chloramubicil)およびメルファレン(melphalen)を含む2機能性マスタードの臨床的効力と強く相関することが知られている(Rossら、(1978),38Cancer Res. 1502-1506;Zwellingら、(1981),41 Cancer Res. 640-649)。アッセイは単純かつ迅速である。このアッセイは、熱およびカオトロピック化合物(例えば、尿素)、または有機溶媒(例えば、N,N-ジメチルホルムアミド)の変性条件下でのDNA鎖の分離に基づいている。架橋されると、変性DNA鎖は分離し得ず、そしてその結果、ポリアクリルアミドゲル中での電気泳動の間、架橋されない分離された鎖よりもゆっくり移動する。選択した化合物と32Pで標識した短いDNA二重鎖分子とをインキュベートした後、架橋したDNA分子の百分率を、標準的な方法に従ったゲル電気泳動による分離後に測定し得る。架橋および短いDNAフラグメント(Rinkら、(1993),115J.Amer.Chem.Soc. 2551-2557)およびより長いDNAフラグメント(Hartleyら、(1991),193 Anal.Biochem.131-134;Holleyら、(1992),52 Cancer Res. 4190-4195)のゲル分析の条件は、詳細に記載されている。これらの方法は、例えばU-17のような二重鎖17マーオリゴヌクレオチドから、広く入手可能なpGEMプラスミドのDdeI制限エンドヌクレアーゼ消化物から得られる166、235、540、1423、および3199塩基対フラグメントのサイズの範囲のDNAフラグメントの架橋を評価するために適応され得る。
【0087】
特定のプログラムされたヘテロ2機能性化合物の架橋能を、親遺伝子毒性薬剤(例えば、クロラムブシル)の架橋能と比較するべきである。調査される化合物は、好ましくは同様の条件下で親化合物の能力に匹敵する、インビトロにおいてDNA中に鎖間架橋を生成する能力を有する。そうでない場合、合成中間体の反応性を、親遺伝子毒性薬剤の構造へのいかなる修飾が、その架橋活性の減少を担うかを決定するために試験し得る。この知見を得て、必要に応じて、任意のリンカーまたは他の成分の構造を修飾して、ヘテロ2機能性化合物の遺伝子毒性薬剤部分の反応性を所望のレベルまで回復させ得る。
【0088】
予測実施例9:ヘテロ2機能性化合物の選択された細胞成分への結合を示すガイドライン
プログラムされた遺伝子毒性リガンド化合物エストロゲン-クロラムブシルとエストロゲンレセプタータンパク質との間の強固な会合は、化合物の意図された機能に関連する。リガンドデゴイレセプター複合物の会合の強さは、化合物の「遊離」形態およびゲノム傷害を形成するDNAに共有結合した形態の両者について測定されるべきである。化合物の遊離形態とレセプターとの相互作用を知ることによって、ステロイドリガンドの任意のリンカーへの化学結合の位置が、レセプタータンパク質と相互作用する能力を保持したかどうかが示され得る。化合物の遊離形態と化合物のDNA結合形態とで会合の強度を比較することにより、DNA分子が傷害-シールディング複合体の形成を立体的に妨げるかどうかが示されるべきである。
【0089】
いくつかの常に広く用いられるアッセイの内の1つを、遊離化合物がエストロゲンレセプターから天然のステロイドリガンドをはずし得る能力を測定するために用い得る。代表的には、まず放射能標識エストラジオールを、エストロゲン応答性組織(例えば、子宮)から調製される細胞抽出液中のレセプタータンパク質に結合させる。仔ウシ子宮を、この目的のために最も普通に用いる。次いで、漸増濃度の調査中の化合物を添加する。他の化学物質の濃度の上昇の作用によりタンパク質と強固に会合したままのエストラジオールの量は、レセプターに対する天然リガンドと合成リガンドとの相対的な親和性の尺度を提供する。
【0090】
調査中の化合物が、まずDNAに共有結合されている場合、レセプタータンパク質とのそれとの会合を、Carthewら(1985)、43、Cell、439-448に完全に記載されている移動度シフト技術の通常の改変を用いてゲル電気泳動により調査し得る。これにより、DNA-レセプター複合体を、この技術の適用または通常の改変により、電気泳動により傷害した非複合化DNAから分離し得る。さらに、会合の強度を、前記の実施例に記載されているようなレセプターに対する競合リガンドを添加することにより測定し得る。例えば、エストラジオールの量が増加すると、レセプタータンパク質に対してDNA結合リガンドと競合し、これによりDNAレセプター複合体の形成を制限する。DNAレセプター複合体の形成を妨害するエストラジオールの効力は、ヘテロ2機能性リガンド化合物とレセプターとの会合の相対的な強度の有用な尺度を提供するべきである。
【0091】
生体分子の研究(例えば、上記の研究)の結果から、生存細胞中での傷害修復のブロックについて、調査中の化合物の効力を予測し得るはずである。
【0092】
予測実施例10:リガンドデゴイ化合物の効力を示すガイドライン
エストロゲンレセプターを発現する腫瘍細胞を死滅させることについて、ヘテロ2機能性化合物(例えば、エストロゲンクロラムブシルデゴイ)の特異性を、乳ガンについての入手可能な細胞培養モデル中で容易に試験し得る。これらのモデルから得られた結果は、インビボで使用するための、プログラムされたヘテロ2機能性化合物の候補の遺伝子毒性効力を合理的に予測するための適切な基礎を形成する。即ち、本発明の細胞培養モデル中の化合物の効力は、哺乳動物(ヒトを含む)のような多細胞生物における遺伝子毒性の潜在性の早期指標を提供する。本目的のために、乳ガン細胞株は、プロトコルのスクリーニングのために選択されるべきである。なぜなら、ガンのこの形態は、現在、エストロゲンレセプターデゴイの遺伝子毒性使用のための本質的標的であるからである。いくつかのヒト乳ガン細胞株は、広範囲に入手可能であり、そしてそれらのエストロゲンレセプター状態に関して特徴付けられている。MCF-7およびMDA-MB-231細胞株は、2つのこのような例である。エストロゲンレセプター状態は、これらの細胞株のエストロゲンおよび遺伝子毒性抗エストロゲン(例えば、タモキシフェン)に対する応答を測定することにおいて鍵となる役割を果たす。エストロゲンは、エストロゲンレセプターポジティブ細胞株MCF-7の増殖を刺激する一方で、レセプターを有しないMDG-MB-231の増殖速度に影響を与えない。同様に、抗エストロゲン(例えば、タモキシフェン)は、MCF-7細胞の増殖を阻害するが、しかし、MDA-MB-231細胞の増殖に影響を与えない。従って、これらの2つの細胞株により、標的レセプターを含有する細胞を死滅させることにおいて化合物(例えば、エストロゲンクロラムブシルデゴイ)がクロラムブシル自体よりも有効であるかどうかの決定が可能になる。従って、高レベルのエストロゲンレセプタータンパク質を有する細胞株は、ヘテロ2機能性デゴイに対してより感受性であるはずである。
【0093】
細胞感受性は、増殖阻害アッセイを用いて評価され得る。等しい濃度のクロラムブシルおよびクロラムブシルエストロゲン結合体が細胞培養物に添加され得、そして処理後7日までのレプリカ培養物における細胞の数を数えることによって、細胞増殖速度を測定し得る。処理および未処理コントロール培養物の両方における細胞数の増加を比較し、潜在的な抗腫瘍効果を評価し得る。好ましい結果は、レセプター保有細胞株とレセプター非依存性細胞株との表現型が異なる対を用いて、試験を繰り返すことにより確認されるべきである。レセプターネガティブ細胞と比較して、エストロゲンレセプターポジティブ細胞の増殖を阻害する2〜4倍以上の能力を示す薬物が、適切な哺乳動物においてさらに試験するために選択されるはずである。
【0094】
実施例11:変異体P53に選択的に結合するアプタマーのプールのインビトロでの遺伝的選択
2つの10マーペプチド(EP240-Cys:NH2-Thr-Phe-Arg-His-Ser-Val-Val-Val-Pro-Cys-COOH);およびEP240S-Cys:NH2-Thr-Phe-Val-His-Val-Ser-Arg-Val-Pro-Cys-COOH)を、標準的な技術により合成し、ペプチド中のシステイン残基により、チオールセファロース支持マトリックスに結合させた。ペプチドEP240-Cysは、PAb240により認識される5残基のエピトープ(下線で示す)を含有し、従って選択標的ペプチドとして用いた。ペプチドEP240S-Cys(ここで、エピトープ配列がスクランブルされている)を、標的ペプチドに非配列特異的に結合するアプタマーを除去するために用いた。C末端のシステイン残基(これは天然タンパク質の配列には存在しない)を、両ペプチドに結合し、チオール誘導アガロースビーズ上での固定、および還元条件下(例えば、20mMDTT)での結合アプタマー候補と一緒のペプチドの溶出を促進した。各末端に18マーのPCRプライマー領域が隣接した中央の64マーの全体的にランダム化した配列を含有する100マーのオリゴヌクレオチドのプールを標準的な技術によって合成した。約90ピコモルのオリゴヌクレオチド(これは1013以上の異なる分子を表す)を、5'末端ビオチン化プライマーを2つの隣接領域の1つに対して用いて、PCRにより約100倍増幅した。この後、非ビオチン化DNA鎖を2本鎖PCR生成物をストレプタトアビジンカラムに結合させ、0.15NNaOHでカラムを溶出することにより単離した。1本鎖の候補アプタマーの増幅プール(約900ピコモル)をまず、スクランブルしたEP240S-Cysペプチドを含有するプレ選択カラムにかけた。この工程は、非特異的結合を除去するために設計された。プレカラムからのDNA素通りをEP240-Cysエピトープペプチドを含有する選択カラムに直接載せた。結合緩衝液で十分に洗浄した後、選択カラムを20mMDDTを含有する結合緩衝液で溶出した。溶出したDNAをPCR増幅に供した。選択と増幅を繰り返し、所望の結合特性を有する候補アプタマーに富むプールを作成した。9回の選択を行った。予備的な結果は、選択カラムEP240-Cysに優先的に結合し、プレ選択カラムEP-240S-Cysに結合しないアプタマーの集団が選択されてことを示した。このプールから単離された個々のアプタマーは、変異体p53に対するそれらの結合特性の評価を受け得、そして認識されたp53変異体を発現する細胞を選択的に破壊するようにプログラムされたヘテロ2機能性化合物としてさらに開発され得る。
【0095】
実施例12:エストロゲンレセプターをゲノム傷害部位に誘引するようにプログラムされたヘテロ2機能性遺伝子毒性化合物の調製
12.1 本発明の2-フェニルインドール-ナイトロジェンマスタード化合物の合成の概要
エストロゲンレセプターを誘引するように設計されたリガンドデゴイ化合物が、本明細書中に開示される原則に従って調製された。この化合物は、現在、エストロゲンレセプターを発現するトランスフォームヒト細胞の選択的傷害を達成するために好ましく、プロテアーゼ抵抗性の親水性有機リンカーを通して2-フェニルインドール第2因子に結合するナイトロジェンマスタード(クロラムブシル)第1因子を含有する。第2因子リガンドは、ヘテロ2機能性化合物を二本鎖DNAにアダクト化した場合でさえも、哺乳動物エストロゲンレセプターに有効に結合することが示されている。この好ましい化合物(2-フェニルインドール-C6NC2として本明細書中に言及される)の調製のために用いられる合成経路は、図9に概説され、図9では同様に、参照番号は、本明細書で言及される中間体および生成化合物を同定する。
【0096】
第1工程は、p-メトキシアニソールのp-メトキシ-2-ブロモプロピオフェノン
でのアルキル化(von Angererら、(1984) 27 J.Med.Chem.1349)を包含する。2をBBrおよびMOM-Clで連続処理し、対応するフェニルインドール4を得た。4を1,6-ジブロモヘキサンでアルキル化し、臭化物5を得た。5を1-ジフェニルホスフィンアミド-2-TBDMS-エタノールアミン(6)で処理して7を得、これをTBAFに曝露して脱保護し、アルコール8を得た。p-ニトロフェニルカーボネートの存在下、ヒドロキシ基を活性化し、次いで3-[4[N,N-ビス(2-クロロエチル)アミノ]-フェニル]-プロピルアミンを添加し、カルバメート9を得た。ジフェニルホスフィン基およびメトキシメチル基の酸加水分解により、所望のヘテロ2機能性マスタード-2-フェニルインドール化合物1を得た。この合成法のさらに詳細な議論を以下の図9に述べる。
【0097】
12.2 5-メトキシ-2-(4-メトキシフェニル)インドール(2)の合成:
p-メトキシ-2-ブロモプロピオフェノン(1g、4.11mmol)の溶液を、p-メトキシアニソール(1.7g、13.82mmol)のN,N-ジメチルアニリン溶液に添加し、3時間還流下で加熱した。反応混合物を室温まで冷却し、2NHCl中に注ぎ、そしてEtOAcで抽出した。有機抽出液を水で洗浄し、そしてNaSOで乾燥した。減圧下で溶媒を除去し、そしてCHClを用いるSiOのフラッシュクロマトグラフィーにかけ、所望の中間体化合物2を得た。
【0098】
12.3 5-ヒドロキシ-2-(4-ヒドロキシフェニル)インドール(3)の合成:
5g(18.7mmol)の5-メトキシ-2-(4-メトキシフェニル)インドールを、アルゴン下、30mLCHClに溶解し、ドライアイス/アセトンで冷却し、そして70mL 1M BBrを撹拌しながら添加した。溶液を30分間にわたって0℃まで加温した。次いで、室温で一晩撹拌した。反応混合物を飽和NaHCO溶液に懸濁し、そしてCHCl(2×)で抽出した。有機抽出液をブラインで洗浄し、そしてNaSOで乾燥した。減圧下で溶媒を除去し、そしてフラッシュクロマトグラフィー(CHCl中の5%MeOH溶液)にかけ、3.33gの3を得た。
【0099】
12.4 5-O-メチルメトキシ-2-(4-O-メトキシ-メチルフェニル)インドール(4)の合成:
3g(12mmol)の5-ヒドロキシ-2-(4-ヒドロキシフェニル)インドールを、アルゴン下、50mLの乾燥THFに溶解した。溶液をドライアイス/アセトンで冷却した後、1.92gのMOM-Clおよび0.58gのNaHを添加した。反応混合物を室温まで冷却し、1時間撹拌し、そして水で洗浄した。有機層をNaSOで乾燥し、そして減圧下でエバポレートした。生成物をフラッシュクロマトグラフィーによって単離し、2.5g(60%)の4を得た。
【0100】
12.5 1-(6-ブロモヘキシル)-5-O-メトキシメチル-2-(4-O-メトキシメチルフェニル)インドール(5)の合成:
水素化ナトリウム(0.25gのオイル中50%分散体、5.14mmol)を、50mLの乾燥DMFに懸濁し、アルゴン下で0℃まで冷却した。5-O-メトキシ-メチル-2-(4-O-メトキシメチルフェニル)インドール(1.0g、3.0mmol)をゆっくりと反応混合物に添加した。混合物を1時間室温で撹拌し、次いで30mLのDMF中の1,6-ジブロモヘキサン(4.5g、18.44mmol)を滴下した。2時間撹拌した後、反応を水でクエンチし、そしてエーテルで抽出した。有機相を水(3×)で洗浄し、そして乾燥した(NaSO)。オイル状残渣をフラッシュクロマトグラフィー(CHCl)によって精製し、1.1g(75%)の5を得た。
【0101】
12.6 1-ジフェニルホスフィンアミド-2-O-TBDMS-エタノールアミン(6)の合成:
5g(21.2mmol)のジフェニルホスフィン酸クロライドを20mLの乾燥ピリジンに溶解した。溶液を撹拌しながら飽和になるまでNHでバブリングした。溶液に栓をして、室温で2時間撹拌した。反応混合物を減圧下で濃縮し、そして残渣をCHClに溶解した。溶液を飽和NaHCOおよびブラインで抽出した。有機層をNaSOで乾燥し、そして減圧下で濃縮して乾燥した。得られた化合物(1.0g)を15mLのベンゼンと40mgのテトラ-n-ブチルアンモニウムブロマイドを含有する15mLの50%NaOHとの2相混合物に懸濁した。還流している懸濁液に5mLのベンゼンに溶解した1g(4.2mmol)の1-ブロモ-2-TBDMS-エタノールを添加した(1-ブロモ-2-TBDMS-エタノールは、5gの1-ブロモエタノール、10gのt-ブチルジメチルシリルクロライドおよび9.5gイミダゾールを、12mLのDMFに溶解し、室温で一晩撹拌することにより調製した)。4時間還流した後、有機層を除去し、水(3×)で抽出し、そしてNaSOで乾燥した。ベンゼンを減圧下で除去し、そして0.25gの生成物をオイル状の残渣から、フラッシュクロマトグラフィー(CHCl中の3%MeOH)により単離した。
【0102】
12.7 1-[6-(N-ジフェニルホスフィンアミド-2-エタノールアミン)ヘキシル]-5-O-メトキシメチル-2-(4-O-メトキシメチルフェニル)インドール(8)の合成:
臭化物(6)(0.25g、0.5mmol)と、1-ジフェニルホスフィンアミド-2-O-TBDMS-エタノールアミン(0.25g、0.7mmol)と、NaH(24mg、1mmol)と、触媒量のテトラブチルアンモニウムブロマイドとの混合物をベンゼン中で3時間還流した。反応混合物を冷却し、水(2×)で抽出し、そしてNaSOで乾燥した。溶媒を減圧下で除去し、そして得られた透明油状物をフラッシュクロマトグラフィーで精製して、0.4g(0.5mmol)の7を得た。生成物を、1mmolのテトラブチルアンモニウムフルオライド(1.0mmol)の存在下、5mLの乾燥THF中で室温で2時間脱シリル化した。溶媒を減圧下で除去し、そして残渣をCHClに溶解し、水で抽出した。NaSOで乾燥した後、0.3g(0.44mmol)の生成物(8)を粘稠な液体として得た。
【0103】
12.8 1-[6-(N-ジフェニルホスフィンアミド-2-エトキシ(O-(3-(4-(N,N-ビス(2-クロロエチル)アミノフェニル)プロピルアミン)カルバモイル)アミン)-ヘキシル]-5-O-メトキシメチル-2-(4-O-メトキシメチルフェニル)インドール(9)の合成:
5mLの乾燥ピリジン中のアルコール(8)(0.3g、0.44mmol)を、p-ニトロフェニルクロロホルメート(0.25g、1.2mmol)の撹拌した2mLのCHCl溶液にゆっくりと添加した。室温で1時間撹拌した後、反応物をCHClで希釈し、飽和NaHCO(3×)およびブラインで洗浄した。得られたオイル状の残渣をフラッシュクロマトグラフィー(CHCl中の2%MeOH)で精製した。活性化アルコール(0.4g)を、TEA(0.18mL、1.3mmol)を含有する3-[4-[N,N-ビス(2-クロロエチル)アミノ]-フェニル]プロピルアミン(0.25g、1.0mmol)のTHF溶液に添加し、45分間還流した。反応混合物を冷却し、そして溶媒を減圧下で除去した。残渣をCHClに溶解し、NaHCO(3×)およびブラインで抽出した。NaSOで乾燥し、そして減圧下で濃縮した後、0.35gの生成物をフラッシュSiOクロマトグラフィー(CHCl中の4%MeOH)で粘稠な液体として単離した。
【0104】
12.9 1-[6-(N-2-エトキシ-(O-(3-(4-(N,N-ビス(2-クロロエチル)-アミノフェニル)プロピルアミン)カルバモイル)アミン)ヘキシル]-5-O-ヒドロキシ-2-(4-ヒドロキシフェニル)インドール(1)の合成:
0.35gの9の5mLのMeOH溶液に、濃HCl(0.3mL)を添加した。室温で4時間撹拌した後、溶媒を減圧下で除去し、そして得られた残渣をCHCl中の2%MeOHに溶解し、飽和NaHCO(2×)およびブラインで洗浄した。NaSOで乾燥し、そしてフラッシュクロマトグラフィーによって精製し、200mgの1(所望のプログラムされたヘテロ2機能性遺伝子毒性化合物)を得た。
【0105】
実施例13: 2-フェニルインドール-C6NC2-マスタードリガンドデコイ化合物1がエストロゲンレセプター(ER)に効果的に結合することの実証
2-フェニルインドール-C6NC2-マスタード(1)および関連する化合物の哺乳動物のERに対する相対的親和性を測定するために、エストロゲンレセプター(ER)の供給源として仔ウシ子宮抽出物を利用するインビトロ競合アッセイを、実施例9(上記)に示された指針に従って用いた。レセプタータンパク質アッセイを、Korenman(1969)、13Steroids 163に記載されるように実施した。手短には、子宮の細胞質ゾルを、0.01M Tris-HCl pH 8.0、1mM EDTA、0.25Mスクロース中で仔ウシ子宮をホモジナイズし、そして105,000gで1時間ホモジネートを遠心分離することにより調製した。得られた上清を、液体N2中に保存した。アッセイを、ある範囲の濃度の試験化合物を一定量のトリチウム標識エストラジオール([3H]E2)と予め混合することにより実施した。次いで仔ウシ子宮細胞質ゾルを加えた。4℃で一晩インキュベートした後、活性炭/デキストランを添加して、非結合[3H]E2を除去した。遠心分離により活性炭/デキストランを除去した後、結合(すなわち、非競合)[3H]E2のレベルを、液体シンチレーション分光測定により測定した。このアッセイにおいて[3H]E2結合を廃止するために必要とされる試験化合物の濃度が低いことは、試験化合物とERとの間の強固な結合を示す。
【0106】
この競合アッセイを用いて、2-フェニルインドール-C6NC2-マスタードおよびその同類物(変化する長さの有機リンカーにより結合した、1の第1および第2の因子を含有する)、ならびに精製および単離されたDNAとのこれらの化合物の反応により形成された、2-フェニルインドール第2因子を含有するDNA傷害のエストロゲンレセプターに対する結合親和性を測定した。後者の場合には、種々のレベルの2-フェニルインドール-C6NC2-マスタードを用いて、プラスミドDNAを修飾し、そして残渣の非結合試験化合物を、エタノール沈澱および複数回のエタノール/水洗浄により修飾DNAから除去した。次いで、2-フェニルインドール-C6NC2-マスタード傷害を含有する精製プラスミドDNAを[3H]E2と組み合わせ、そして上記のような競合アッセイに用いた。
【0107】
遊離2-フェニルインドール化合物での結果を図10に示す。2-フェニルインドール-C6NC2-マスタード化合物は、ERに対して最も高い親和性を有する。ERに対するこのリガンドデコイの親和性は、天然のリガンド、エストラジオール(E2)の親和性の約20倍以内である。相応する2-フェニルインドール-C5NC3-マスタード化合物は、ERに対してE2よりも約200倍低い親和性を有するが、一方相応する2-フェニルインドール-C3NC3-マスタードは、ERに対して、もしあるにしても僅かな親和性のみを有する。上述のように、これらの化合物は、リンカーの中心のNH基のいずれもの側に配置されたCH2基の数で、好ましい2-フェニルインドール-C6NC2-マスタード(図9の化合物1)と異なる。これらの相応する化合物を、実施例12に論じる合成スキームの日常的な改変により調製した。
【0108】
図11は、好ましい2-フェニルインドール-C6NC2-マスタード(1)、2-フェニルインドール-C5NC3-マスタード、または未誘導体化クロラムブシルマスタードで傷害した単離されたDNAを用いるレセプター競合アッセイの結果を示す。これらのデータは、クロラムブシルにより形成されたDNA傷害は、ERに対して親和性を有しないが、一方本発明の化合物により形成されたDNA傷害は、ERに対してE2と効果的に競合することを示す。これらの結果は、2-フェニルインドールの第1の因子が、ゲノム傷害にERを誘引し得ることを示し、このことは本発明の化合物(特に好ましい化合物1を包含する)が、インビボでゲノム傷害に立体的に大きなERを局在化し得、それにより細胞修復酵素による接近を妨げるという予測に合理的な根拠を提供する。
【0109】
図10および11に示される結果はさらに、哺乳動物のERを誘引するようにプログラムされたリガンドデコイ化合物の第1の因子と第2の因子との間に配置される随意のリンカーの最適化を示す。同様の最適化の研究が、他の細胞成分を誘引するために本明細書に開示された原理に従って設計される他のヘテロ2機能性化合物について行われ得る。リンカーの特徴は、選択されたヘテロ2機能性遺伝子毒性化合物により誘引される特定の細胞成分に一部依存して変化することが予測されるはずである。
【0110】
実施例14: 2-フェニルインドール-C6NC2-マスタードリガンドデコイ化合物1がエストロゲンレセプター(RE)を発現する哺乳動物細胞に対して選択的に毒性であることの実証
ERの発現により非選択細胞と表現型的に区別される選択された細胞に対する、好ましい2-フェニルインドール-C6NC2-マスタードおよび相応するリガンドデコイ化合物の毒性を、実施例10(上記)に示された指針に従ってヒト乳腫瘍細胞株、MCF7およびMDA-MB-231を用いて試験した。MCF-7細胞株は、エストロゲンレセプタータンパク質を発現するが、一方ERタンパク質は、MDA-MB-231細胞株において検出され得ない。
【0111】
14.1 細胞培養条件
両方の細胞株を、2mMグルタミン、1mMピルビン酸ナトリウム、および10%ウシ胎児血清を補充した最少必須培地(MEM)で日常的に培養した。試験化合物の毒性を測定するために、細胞をトリプシン処理し、そして96ウェルマイクロタイタープレート中の100μlの培地中に以下の密度で入れた:MCF-7、2000細胞/ウェル;MDA-MB-231、1000細胞/ウェル。化合物で処置する前に、細胞を96ウェルプレート中で24時間増殖させた。
【0112】
14.2 細胞の処理
全てのリガンドデコイ化合物を、ジメチルスルホキシド(DMSO)中の10mMストック溶液として調製した。最初に化合物を、DMSOで2mMまで希釈した。引き続く希釈を、適切な組織培養培地中で行った。試験条件下のDMSOの最終濃度は、0.25%であった。コントロール研究では、試験化合物のマスタード部分を、最初に加水分解により不活化した。これは、50%DMSOおよび50% 20mM Hepes,pH 8.0を含有する溶液中で70℃にて6時間化合物を加熱することにより実行された。マスタード基の加水分解を、HPLCによる分析により確認した。加水分解された化合物で処理される細胞の培地におけるDMSOの最終濃度は、0.1%であった。
【0113】
各処理条件を、複製した8つのウェルで行った。細胞の処理を、以下に示すように4時間または4日間のいずれかで行った。4時間の処理については、試験化合物を含有する培地を、ウェルから吸引し、そして新しい培地に交換した。4日間の処理については、細胞を、アッセイの持続時間の間、化合物を含有するもとの培地中に留めた。4日目に、処理およびコントロール培養物における細胞増殖を、メチレンブルー色素結合アッセイを用いて測定した。
【0114】
14.3 メチレンブルー色素結合アッセイ
Finlayら、(1984), 139 Anal.Biochem. 272に記載のような色素結合アッセイを用いて、2-フェニルインドール-C6NC2-マスタードおよび相応するリガンドデコイ化合物の細胞毒性効果を評価した。このアッセイのために、培地を、各々のウェルから吸引し、そして100μlの50%エタノール中の0.5%メチレンブルーに交換した。色素溶液を30分間細胞に留め、その後、過剰の未結合色素を、数回の連続的な水での洗浄により除去した。染色された細胞を、1〜2時間風乾させ、次いで結合色素を、100μlのリン酸緩衝化生理食塩水中の1%サルコシルを添加することにより可溶化した。可溶化色素の吸光度を、Ceres9000プレートリーダー(Biotek)で620nmにて読み取った。
【0115】
代表的な研究の結果を図12に示す。この結果は、MCF-7 ERポジティブ乳ガン細胞における好ましい2-フェニルインドール-C6NC2-マスタードのED50(細胞増殖を50%阻害する濃度)が、MDA-MB-231ERネガティブ乳ガン細胞における同一化合物のED50よりも2〜3倍低いことを確立する。これは、本発明の好ましいリガンドデコイ化合物(本発明の原理に従って調製された)が、ERの発現により表現型的に非選択細胞と区別可能な乳ガン細胞に対して選択的に毒性であることを示す。
【0116】
実施例15: 2-フェニルインドール-C6NC2-マスタードリガンドデコイ化合物1の選択的な毒性が抗エストロゲン活性に起因しないことの実証
抗ガン薬物タモキシフェンは、その抗エストロゲン活性によりER発現乳ガン細胞に対して選択的に毒性である。そこで、新規のアッセイシステムを、図12および図13において観測された選択的毒性を担い得るいくつかの考えられ得る機構を区別するために、遺伝子工学技術を用いて、開発した。
【0117】
15.1 新規のHeLa由来細胞株の構築
機能的なエストロゲンレセプター(ER)タンパク質またはそのためのコントロールを発現する同遺伝子系細胞株を、好ましい2-フェニルインドール-C6NC2-マスタードの選択的な毒性が、抗エストロゲン活性または、例えば図1の立体的なシールドモデルに従う、選択的遺伝子毒性のような他の作用の機構に寄与し得るか否かを決定するために確立した。HeLa細胞を、野生型ER遺伝子を含有する真核生物発現ベクター(Toraら、(1989),8 EMBO J. 1981)でリポフェクションの技術(Felgnerら、(1987), 85 PNAS 7413に記載されるような)により安定にトランスフェクトした。ER遺伝子は、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーターの転写制御下でセンス方向またはアンチセンス方向のいずれかであった。リポフェクションの3日後、細胞を低密度で再プレートし、そして500μg/mlG418を含有する培地中で9日間ネオマイシン耐性について選択した。耐性コロニーを単離し、Olea-Serranoら、(1985), 21Eur.J.Cancer Clin.Oncol. 965に記載のようなトリチウム標識エストラジオール([3H]E2)結合アッセイを用いることにより機能的ERタンパク質の存在について試験した。手短には、単一のG418耐性クローンに由来する細胞を、組織培養プレートの個々のウェルに播種し、そしてエストロゲン非含有培地中で3日間インキュベートして、外因性エストロゲンを除去した。[3H]E2を1時間添加し、その後細胞をPBSで数回洗浄して、未結合[3H]E2を除去した。残っている[3H]E2をエタノール中に可溶化し、そして細胞と結合した3H放射活性の量を、液体シンチレーション分光測定により測定した。
【0118】
高レベルの[3H]E2結合活性を有するいくつかのクローンを選択した。クローンHeLa36において観測された、結合の最も高いレベルは、ERポジティブヒト乳ガン細胞株、MCF-7において見出された[3H]E2のレベルに匹敵した。[3H]E2を結合する能力は、これらの細胞の機能的なERタンパク質を安定に発現する能力を確立した。
【0119】
ER遺伝子がアンチセンス方向であったCMV発現ベクターでトランスフェクトしたコントロール細胞の同様の分析は、G418耐性細胞において検出可能な[3H]E2結合活性を示さなかった。これは、安定なトランスフェクタントが機能的なERタンパク質を欠失していたことを確立した。以下の毒性研究において用いられた1つのこのようなERネガティブコントロールクローンをHeLa7と命名した。
【0120】
15.2 ERを発現するが、抗エストロゲン活性に対して非感受性である、HeLa 36細胞における2-フェニルインドール-C6NC2-マスタード1の選択的な毒性
機能的なERを発現する安定なHeLa形質転換体(HeLa 36)またはそのためのコントロール(HeLa7)を、2mMグルタミン、1mMピルビン酸ナトリウム、および10%ウシ胎児血清を補充したDulbeccoの改変Eagles培地(DMEM)中で培養した。全ての細胞を、75cm2フラスコ中で増殖させ、そしてトリプシン処理により、3日毎に継代培養した。
【0121】
HeLa ER形質転換体における2-フェニルインドール-C6NC2-マスタードおよび相応するリガンドデコイ化合物の選択的な毒性を、細胞を、HeLa7については1500細胞/ウェルで、HeLa 36細胞株については2000細胞/ウェルで最初に播種した以外は、本質的に実施例14において上述したように評価した。
【0122】
HeLa 7細胞およびHeLa 36細胞における、好ましい2-フェニルインドール-C6NC2-マスタードについての細胞毒性および増殖阻害の結果を、それぞれ図13および図14に示す。図13は、5μM用量の好ましいヘテロ2機能性リガンドデコイ化合物への4時間の曝露が、HeLa7細胞(機能的ERを欠失する)においてよりもHeLa 36細胞において4〜5倍高い細胞毒性を生じさせることを確立する結果を示す。2.5μM用量の同一化合物への同様の曝露期間は、これらのHeLa細胞株間で毒性における約2倍の差異を生じさせた。図14は、本発明の好ましいリガンドデコイ化合物へのより長い(4日間)曝露が、コントロールHeLa7細胞(認識される細胞成分を欠失する)と比較してHeLa 36細胞(認識されるER細胞成分を発現する)において選択的に毒性および増殖阻害な効果を生じさせることを実証する結果を示す。
【0123】
図15にその結果を示したコントロール研究は、上記で観測された選択的細胞毒性が、本発明の好ましい化合物の遺伝子毒性の第1の因子(クロラムブシル)の構造の完全性に依存することを確立した。5μMまでの用量の2-フェニルインドール-C6NC2-マスタードの化学的加水分解調製物への4時間の曝露の後、HeLa7またはHeLa 36細胞のいずれにおいても、有意な細胞毒性効果は観測されなかった。これらの結果は、好ましいリガンドデコイ化合物(1)の観測された選択的な細胞毒性が、抗エストロゲン活性に起因しないことを確立する。
【0124】
等価物
本発明は、その精神または本質的な特徴から逸脱することなく、他の特定の形態で実施され得る。それ故、上記の実施態様は、本明細書に記載される発明を制限することよりもむしろ、説明であるとどの点から見ても考えられる。従って本発明の範囲は、上記の記載よりもむしろ、添付された請求項により示され、それ故、請求項の意味および等価の範囲内に入る全ての変更は、その中に包含されると意図される。
【0125】
【化1】

【0126】
【化2】

【図面の簡単な説明】
【0127】
【図1】図1は、本発明のヘテロ2機能性のプログラム可能遺伝子毒性化合物の基本的な特徴、およびゲノム傷害の修復の立体的な妨害を媒介することにおけるそれらの予測される作用の様式を示す図解である。
【図2】図2、パネルA〜Dは、シスプラチン1,2-ジヌクレオチド鎖内(intrastrand)DNAアダクト(adduct)を含有する構造的デコイへのHMG-ボックス転写因子、hUBF(ヒトUBF)の結合のサウスウエスタン(A、B、およびC)およびウエスタンブロット(D)研究のオートラジオグラフの結果を表す(WCE=全細胞抽出物;hUBFはインビトロ翻訳から得られた;抗NOR-90=hUBFに対する抗血清)。
【図3】図3、パネルAおよびBは、DNase Iフットプリンティング研究のオートラジオグラフの結果を表す。これらは、hUBFがシスプラチンアダクト部位に対称的に広がるデコイの領域を保護することを示す。
【図4】図4、上部および下部パネルは、内因性のゲノム結合部位に対するhUBFの親和性を樹立する研究のオートラジオグラフの結果を表す。
【図5】図5は、この転写因子の同族のゲノム結合部位とシスプラチンデコイとのhUBF保護領域における類似性を示したさらなるフットプリンティング研究のオートラジオグラフの結果を表す(図3と比較のこと)。
【図6】図6は、ヘテロ2機能性TMP-ビオチン結合体とモノアダクト化した(monoadducted)U17へのストレプトアビジンの結合を示すオートラジオグラフの結果を表す。パネルAは、ゲル移動度シフトアッセイの結果のオートラジオグラフを表す。3200cpm(約0.1nM)の放射標識したTMP-ビオチンで傷害したDNAを各レーンに用いた。0nM、0.4nM、1nM、2nM、5nM、10nM、50nM、および50nMのストレプトアビジンを、それぞれレーン1〜8に用いた。レーン8では、遊離d-ビオチンも0.4nMの最終濃度で添加した。パネルBは、ストレプトアビジン濃度に対して結合したプローブの百分率(パネルA)をプロットすることにより作成された結合曲線である。
【図7】図7は、傷害結合ストレプトアビジンによるウラシルグリコシラーゼの阻害を示すオートラジオグラフの結果を表す。バンド(a)は、各反応に用いた完全長およびインタクトなプローブを表す。バンド(c)は、ウラシルグリコシラーゼ処理および引き続くピペリジン切断の産物を表す。バンド(b)およびバンド(d)は、アダクトのアルカリ傾向に起因する、それぞれバンド(a)およびバンド(c)の分解産物である。
【図8】図8は、DNaseI保護アッセイのオートラジオグラフの結果を表す。5000cpm(約0.15fmol、約0.15nM)の32P末端標識した、TMP-ビオチン傷害プローブを各レーンに用いた。0nM、0.4nM、2nM、10nM、50nM、および50nMのストレトアビジンをそれぞれレーン2〜7に用いた。レーン7において、0.4nMの遊離d-ビオチンもインキュベーション中に含んだ。示される場合、5μgのDNaseI(最終濃度、0.4mg/ml)を各消化に用いた。右に示された四角で囲まれたチミジン塩基は、TMP-ビオチンモノアダクトの位置を示す。
【図9】図9は、本発明の好ましいヘテロ2機能性化合物(1)を調製するための化学合成スキームを要約するフローチャートを表す。本明細書中で、エストロゲンレセプターを発現する細胞に対して選択的に毒性であることが示された。
【図10】図10は、エストロゲンレセプター(ER)に対する2-フェニルインドール第2因子を含有するヘテロ2機能性化合物の相対的親和性を樹立する競合研究の結果の定量的プロットを表す。
【図11】図11は、図10で評価された2つの化合物のER親和性が、化合物がDNAに共有結合的にアダクトされる場合に保持されていることを確立する競合研究の結果の定量的プロットを表す。
【図12】図12は、図12の右に示された構造(差し込み図)を有する本発明の好ましいヘテロ2機能性ERデコイ化合物(1)が、ERを発現するヒト乳ガン細胞において選択的に毒性あることを確立する細胞毒性研究の結果の定量的プロットを表す。
【図13】図13は、好ましいERリガンドデコイ化合物(1)が機能性ERを発現するHeLa細胞形質転換体(ER+)に対して選択的に毒性であり、そしてコントロール、アンチセンスER発現ベクターで形質転換したHeLa細胞(ER-)に対して比較的非毒性であることを確立する4時間細胞毒性研究の結果の定量的棒グラフを表す。
【図14】図14は、好ましいERリガンドデコイ化合物(1)がER+形質転換HeLa細胞に対して増殖抑制性であり、そしてER形質転換HeLa細胞に対して比較的非毒性であることを確立する4日細胞増殖阻害研究の結果の定量的棒グラフである。
【図15】図15は、図13に示された選択的毒性結果が、第2の因子(2-フェニルインドール)の考えられ得る抗エストロゲン活性よりもむしろ第1の因子(例えば、クロラムブシル)の遺伝子毒性に依存することを確立する制御毒性研究の結果の定量的棒グラフを表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不均質な細胞集団中の選択された細胞を破壊するために適切な細胞膜透過ヘテロ2機能性化合物であって、
i)細胞DNAに結合して、ゲノム傷害を形成する第1の因子、および
ii)第1の因子と連結した第2の因子であって、該第2の因子が、選択された細胞の集団に優先的に存在する細胞成分に結合し、複合体が該第2の因子と該細胞成分との間に形成し、該複合体が、細胞DNAに対する該第1の因子の結合によって形成されたゲノム傷害の修復を阻害するために効果的である、第2の因子
を含有するヘテロ2機能性化合物。
【請求項2】
前記第1の因子が、DNAに共有結合する、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
前記第1の因子が、DNAにインタカレートする、請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
前記第1の因子が光活性化される、請求項1、2、または3に記載の化合物。
【請求項5】
前記第1の因子が、ソラレンあるいはそのアナログまたは誘導体である、請求項4に記載の化合物。
【請求項6】
前記第1の因子が、ダカルバジンあるいはそのアナログまたは誘導体である、請求項4に記載の化合物。
【請求項7】
前記第1の因子が、合成された抗生物質または天然に供給される抗生物質である、請求項1、2、または3に記載の化合物。
【請求項8】
前記抗生物質が、抗新生物抗生物質である、請求項7に記載の化合物。
【請求項9】
前記抗新生物抗生物質が、アムサクリン、アクチノマイシンA、C、D、またはF、カルミノマイシン、ダウノマイシン、14−ヒドロキシダウノマイシン、マイトマイシンA、B、またはC、マイトキサントロン、プリカマイシン、あるいはそれらのいずれかのアナログまたは誘導体である、請求項8に記載の化合物。
【請求項10】
前記第1の因子が、クロロエチルニトロソウレアまたはナイトロジェンマスタードである、請求項1または2に記載の化合物。
【請求項11】
前記クロロエチルニトロソウレアが、カルムスチン、クロロゾトシン、ロムスチン、ニムスチン、ラニムスチン、またはストレプトゾトシン、あるいはそれらのいずれかのアナログまたは誘導体である、請求項10に記載の化合物。
【請求項12】
前記ナイトロジェンマスタードが、クロラムブシル、シクロホスファミド、イホスファミド、メルファラン、メクロロエタミンオキシド、あるいはそれらのいずれかのアナログまたは誘導体である、請求項10に記載の化合物。
【請求項13】
前記第1の因子が、重金属配位化合物である、請求項1または2に記載の化合物。
【請求項14】
前記化合物が、カルボプラチン、シスプラチン、Pt{1,2−ジアンミノシクロヘキサン}Cl、Pt{エチレンジアンミン}Cl、トランスプラチン、あるいはそれらのいずれかのアナログまたは誘導体である、請求項13に記載の化合物。
【請求項15】
前記第1の因子が、ブスルファン、ヘプスルファン、あるいはそれらのいずれかのアナログまたは誘導体である、請求項1または2に記載の化合物。
【請求項16】
前記第1の因子が、ミトグアゾンあるいはそのアナログまたは誘導体である、請求項1または2に記載の化合物。
【請求項17】
前記第1の因子が、プロカルバジンあるいはそのアナログまたは誘導体である、請求項1または2に記載の化合物。
【請求項18】
前記第1の因子が、ヘキサメチルメラミン、トリエチレンメラミン、あるいはそのアナログまたは誘導体である、請求項1または2に記載の化合物。
【請求項19】
前記第1の因子が、トリエチレンホスホルアミド、トリエチレンチオホスホルアミド、あるいはそのアナログまたは誘導体である、請求項1または2に記載の化合物。
【請求項20】
前記第1の因子が、共有結合により前記第2の因子に直接連結される、請求項1に記載の化合物。
【請求項21】
前記第1の因子が、約20個までの炭素原子を含有する有機リンカーへの共有結合により前記第2の因子に間接的に連結される、請求項1に記載の化合物。
【請求項22】
前記有機リンカーは、約10個までの炭素原子を含有する、請求項21に記載の化合物。
【請求項23】
前記有機リンカーが、約5個までの炭素原子を含有する、請求項22に記載の化合物。
【請求項24】
前記第2の因子が、前記選択された細胞に優先的に会合されたタンパク質に結合する、請求項1に記載の化合物。
【請求項25】
前記タンパク質が、内因性の細胞起源である、請求項24に記載の化合物。
【請求項26】
前記タンパク質が、ウイルス起源である、請求項24に記載の化合物。
【請求項27】
前記選択された細胞が、分裂細胞である、請求項25または26に記載の化合物。
【請求項28】
前記分裂細胞が、トランスフォーム細胞である、請求項27に記載の化合物。
【請求項29】
前記タンパク質が、サイクリンまたはサイクリン依存性キナーゼである、請求項27に記載の化合物。
【請求項30】
前記タンパク質が、オンコジーン産物または変異腫瘍抑制遺伝子産物である、請求項28に記載の化合物。
【請求項31】
前記タンパク質が、変異p53であり、前記第2の因子が、非トランスフォーム細胞によって発現されるような天然のp53よりも該変異p53に対して強い結合優先性を有する、請求項30に記載の化合物。
【請求項32】
前記変異p53が、エピトープNH−Arg−His−Ser−Val−Val−COOHを提示する、請求項31に記載の化合物。
【請求項33】
前記第2の因子が、低分子量の有機分子、レセプターリガンド、結合性ポリペプチド、核酸アプタマー、あるいはそれらいずれかのアナログまたは誘導体である、請求項28に記載の化合物。
【請求項34】
前記タンパク質が、転写因子である、請求項25または26に記載の化合物。
【請求項35】
前記第2の因子は、前記転写因子のための内因性のゲノム結合部位を模倣するデコイである、請求項34に記載の化合物。
【請求項36】
前記第2の因子が、核酸アプタマーである、請求項34に記載の化合物。
【請求項37】
前記第2の因子が、リボソームDNAプロモーターを模倣し、前記転写因子は、上流結合因子である、請求項36に記載の化合物。
【請求項38】
前記転写因子が、リガンド応答性である、請求項34に記載の化合物。
【請求項39】
前記第2の因子が、核酸アプタマーあるいは活性化または抑圧リガンドである、請求項38に記載の化合物。
【請求項40】
前記転写因子が、グルココルチコイドレセプター、アンドロゲンレセプター、エストロゲンレセプター、またはプロゲステロンレセプターである、請求項39に記載の化合物。
【請求項41】
前記転写因子が、エストロゲンレセプターであり、前記第2の因子が、2−フェニルインドール部分である、請求項40に記載の化合物。
【請求項42】
前記第1の因子が、ナイトロジェンマスタードである、請求項41に記載の化合物。
【請求項43】
化合物1−[6−(N−2−エトキシ−(O−(3−(4−(N,N−ビス(2−クロロエチル)アミノフェニル)プロピルアミン)カルバモイル)アミン)ヘキシル]−5−O−ヒドロキシ−2−(4−ヒドロキシフェニル)インドール。
【請求項44】
前記転写因子が、アンドロゲンレセプターであり、前記第2の因子が、アリールチオヒダントイン部分である、請求項40に記載の化合物。
【請求項45】
前記第1の因子が、ナイトロジェンマスタードである、請求項44に記載の化合物。
【請求項46】
化合物4−[4,4−ジメチル−3−(2−O−エチル−(2−N−メチル)−2−N−ヒドロキシル−(6−O(3−(4−(N,N−ビス(2−クロロエチル)アミノフェニル)プロピルアミン)カルバモイル))−エチル)5−オキソ−2−チオキソ−1−イミダゾリニル]−2−トリフルオロメチル−ベンゾニトリル。
【請求項47】
前記第2の因子が、第1の系統発生学的種の細胞に会合された細胞成分に結合し、前記不均質な細胞集団が、少なくとも2つの系統発生学的種の細胞を含有する、請求項1に記載の化合物。
【請求項48】
前記第1の系統発生学的種が、細菌、酵母、真菌、または寄生体から選択される感染生物である、請求項47に記載の化合物。
【請求項49】
不均質な細胞集団中の選択された細胞の破壊のための方法であって、以下の工程:
a)該不均質な集団と細胞膜透過ヘテロ2機能性化合物を接触させる工程であって、該細胞膜透過ヘテロ2機能性化合物は、
i)細胞DNAに結合して、ゲノム傷害を形成する第1の因子、および
ii)第1の因子と連結した第2の因子であって、該第2の因子が、選択された細胞の集団に優先的に存在する細胞成分に結合する、第2の因子、
を含有する、工程;ならびに
b)該集団と該化合物とを一定期間インキュベートする工程であって、該一定期間が該化合物が該選択された細胞内にインターナライズし、細胞DNAと結合し、そして細胞成分と結合して、該第1の因子によって与えられるゲノム傷害の修復を阻害するために有効な複合体を形成し、それにより該不均質な集団において他の細胞に対して優先的に該選択された細胞を破壊するに十分である、工程
を包含する、方法。
【請求項50】
前記細胞成分が、サイクリンまたはサイクリン依存性キナーゼである、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
前記細胞成分が、トランスフォーム細胞により発現されるタンパク質である、請求項49に記載の方法。
【請求項52】
前記細胞成分が、オンコジーン産物または変異腫瘍抑制遺伝子産物である、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
前記細胞成分が、変異p53である、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
前記細胞成分が、転写因子である、請求項49に記載の方法。
【請求項55】
前記転写因子が、上流結合因子である、請求項54に記載の方法。
【請求項56】
前記転写因子が、リガンド応答性である、請求項54に記載の方法。
【請求項57】
前記転写因子リガンドが、グルココルチコイド、アンドロゲン、エストロゲン、またはプロゲステロンのレセプターである、請求項56に記載の方法。
【請求項58】
前記選択された細胞が、結腸直腸、生殖路、肝臓、リンパ系、乳房、骨髄系、神経系または気道起源の新生物細胞である、請求項49、50、51、52、53、54、55、56、または57に記載の方法。
【請求項59】
前記新生物細胞が、卵巣、子宮、子宮内膜、頚部、膣、前立腺、または精巣起源である、請求項58に記載の方法。
【請求項60】
前記新生物細胞が、乳房起源である、請求項58に記載の方法。
【請求項61】
前記新生物細胞が、結腸直腸起源である、請求項58に記載の方法。
【請求項62】
前記選択された細胞が、第1の系統発生学的種の細胞であり、前記不均質な細胞集団が、少なくとも2つの系統発生学的種の細胞を含有する、請求項49に記載の方法。
【請求項63】
前記第1の種が、細菌、酵母、真菌、または寄生体から選択される感染性生物である、請求項62に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2008−81508(P2008−81508A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−312925(P2007−312925)
【出願日】平成19年12月3日(2007.12.3)
【分割の表示】特願平7−528538の分割
【原出願日】平成7年5月4日(1995.5.4)
【出願人】(596060697)マサチューセッツ・インスティテュート・オブ・テクノロジー (233)
【Fターム(参考)】