説明

プロジェクター及びその制御方法

【課題】光源ランプの電力レベルや映像信号の輝度レベルの変動時にランプ温度をなるべく高温の状態に保つことによって信頼性を確保することのできるプロジェクター及びその制御方法を提供する。
【解決手段】本発明のプロジェクターは、映像信号に応じて光源の電力レベルを変動させて調光を行うプロジェクターにおいて、光源から射出された光を変更して表示を行う表示装置と、光源となるランプと、光源を冷却する冷却用ファンと、映像信号に基づくランプの電力レベルあるいは映像信号の輝度レベルを単位時間ごとに取得したサンプルを平均し、この平均値に基づいて冷却用ファンの回転数をフィードバック制御する制御装置と、を備え、制御装置は、電力レベルあるいは輝度レベルが上昇している場合と下降している場合とで、サンプル数を異ならせて平均値を算出することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロジェクター及びその制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プロジェクターの光源として一般的に用いられる超高圧水銀ランプ(光源ランプ)は、ランプ温度が低すぎると水銀が凝縮してしまい、信頼性の低下、照度低下、色味の劣化という問題が発生する。映像信号(輝度レベル)に応じて光源ランプの電力を変動させて調光を行う場合、重要になるのがランプの温度管理である。なるべくランプの温度を高めに保つことで水銀が蒸発している状態を保ち、信頼性の確保、照度の安定化、色味の保持を図る必要がある。光源ランプの温度は、ランプに向かって風を吹きつける冷却用ファンの回転数を制御することによって適度に調整することができる。
【0003】
しかし、冷却用ファンは騒音の発生源でもあり、回転数を頻繁に変動させると騒音を悪化させるおそれがある。そこで、映像信号の輝度レベルまたはランプ電力の積分値(平均値)に基づいて、冷却用ランプを適温にするためにファンの回転数を制御する方法が知られている(特許文献1)。特許文献1では、ランプ電力レベル算出部からの入力信号とランプ駆動レベル信号積分部からの入力信号に基づいて、ファンの回転数を制御するファン駆動信号発生部を含んで構成されている。
【0004】
映像信号の輝度レベルまたはランプ電極の積分値を用いるのは、ファンの回転数が映像信号の輝度レベルに対して敏感に反応しないようにするための工夫である。これにより、ファンの回転数が滑らかに変動するとともに、映像信号の輝度レベルの変動に対してファンの回転数が遅延した形で追従するようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許4003796号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
超高圧水銀ランプでは、映像信号の輝度レベルあるいはランプ電力が低い状態から高い状態に移行するとき、ランプ温度が上昇して発光管内の水銀が凝縮した状態から蒸発する方向に向かう。そして、冷却用ファンも光源ランプの輝度レベルの平均値に応じて、回転数が遅い状態から早い状態に移行する。このとき、なるべく早く発光管内の水銀を蒸発させたいため、ランプ温度をできるだけ高温の状態のまま保持しておきたい。このため、映像信号の輝度レベル(ランプ電力)が上昇している場合には、冷却用ファンの回転数が上昇するスピードは遅い方が好ましく、従来の方法による遅延効果が功を奏すことになる。
【0007】
しかし、一方で次のような問題が起こり得る。映像信号の輝度レベルあるいはランプ電力が高い状態(ランプ電力が高い状態)から低い状態(ランプ電力が低い状態)に移行するとき、発光管内の水銀は凝縮する方向に向かう。このとき、冷却用ファンの回転数は早い状態から遅い状態に移行する。発光管内の水銀はなるべく蒸発した状態を保っておきたいため、冷却用ファンの回転数をなるべく早く低下させて光源ランプの冷却を防ぎたい。しかし、従来の方法では上述した遅延効果によってファン回転数が低下するスピードが遅くなるため、光源ランプが冷え易くなり水銀の凝縮を加速させてしまう。
【0008】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み成されたものであって、映像信号の輝度レベルや光源の電力レベルの変動時に光源の温度をなるべく高温の状態に保つことによって、信頼性を確保することのできるプロジェクター及びその制御方法を提供することを目的の一つとしている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のプロジェクターは、映像信号に応じて光源の電力レベルを変動させて調光を行うプロジェクターであって、前記光源から射出された光を変更して表示を行う表示装置と、前記光源となるランプと、前記光源を冷却する冷却用ファンと、前記映像信号に基づく前記ランプの電力レベルあるいは前記映像信号の輝度レベルを単位時間ごとに取得したサンプルを平均し、この平均値に基づいて前記冷却用ファンの回転数をフィードバック制御する制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記電力レベルあるいは前記輝度レベルが上昇している場合と下降している場合とで、前記サンプル数を異ならせて前記平均値を算出することを特徴とする。
【0010】
本発明では、映像信号に基づく光源ランプの電力レベルあるいは映像信号の輝度レベルを単位時間ごとに取得したサンプルを平均し、この平均値に基づいて冷却用ファンの回転数をフィードバック制御している。このとき、電力レベルあるいは輝度レベルが上昇している場合と下降している場合とで、取得するサンプル数を異ならせて平均化し、算出された平均値に基づいて冷却用ファンの回転数を制御する。これにより、プロジェクターの駆動中、ランプ温度をなるべく高めに保つことが可能となる。よって、本発明は、プロジェクター用のランプとして超高圧水銀ランプを利用する場合に好適である。この場合、ランプ温度をなるべく高温に保持できることから、水銀が蒸発している状態が保たれて、信頼性の確保、照度の安定化、色味の保持を図ることが可能である。
【0011】
また、前記制御装置は、前記電力レベルあるいは前記輝度レベルが上昇している場合に、前記電力レベルあるいは前記輝度レベルが下降しているときよりも前記サンプル数を相対的に多くする機能を有していること構成としてもよい。
【0012】
これにより、電力レベルあるいは輝度レベルが上昇している場合は電力レベルあるいは輝度レベルの変動に対して遅延する形で追従することになるため、光源(ランプ)の温度を早く上昇させることができ、ランプ内の水銀を素早く蒸発させることができる。また、電力レベルあるいは輝度レベルが下降している場合は電力レベルあるいは輝度レベルの変動に対して殆ど遅延することなく追従することになる。つまり、電力レベルの低下とともに冷却用ファンの回転数を直ぐに低下させることができるので、ランプの温度をなるべく高温の状態で保つことが可能になる。
このように、ランプ温度を高温に保つことで、照度の立ち上がりが改善されてランプの信頼性が向上し、プロジェクター製品として、映像の色味が劣化することを防止できる。これにより、高品位なプロジェクターが得られる。
【0013】
また、前記制御装置は、前記電力レベルあるいは前記輝度レベルの微分値を算出し、当該微分値がプラスならば前記電力レベルあるいは前記輝度レベルが上昇していると判断し、前記微分値がマイナスならば前記電力レベルあるいは前記輝度レベルが下降していると判断する機能を有している構成としてもよい。
このように、電力レベルあるいは輝度レベルの微分値を算出することによって電力レベルあるいは輝度レベルの変化量、つまり映像の明暗(濃淡)を抽出することができる。
【0014】
また、前記制御装置は、前記微分値がゼロの場合は前記電力レベルあるいは前記輝度レベルの変化なしと判断する機能を有している構成としてもよい。
これにより、電力レベルあるいは輝度レベルの微分値がゼロの場合には、電力レベルあるいは輝度レベルの変化(変動)なしと判断することで、前の時間における電力レベルあるいは輝度レベルの微分値を引き継ぐことができる。
【0015】
本発明のプロジェクターの制御方法は、映像信号に応じて光源の電力レベルを変動させて調光を行うプロジェクターの制御方法であって、前記映像信号に基づく前記電力レベルあるいは前記映像信号の輝度レベルを検出するステップと、前記電力レベルあるいは前記輝度レベルの微分値を算出するステップと、前記微分値がプラスとなる第1期間と、前記微分値がマイナスとなる第2期間とで、平均をとるサンプル数を異ならせて積分値を算出するステップと、各期間において算出された前記積分値に基づいて冷却用ファンの回転数を決定するステップと、を有することを特徴とする。
【0016】
本発明のプロジェクターの制御方法によれば、光源の電力レベルあるいは映像信号の輝度レベルの微分値を算出することによって、電力レベル、輝度レベルの変動態様(上昇あるいは下降)を検出し、微分値がプラスとなる第1期間(電力レベル及び輝度レベルの上昇期間)と、微分値がマイナスとなる第2期間(電力レベル及び輝度レベルの下降期間)とで、平均をとるサンプル数を異ならせて積分値を算出し、各期間において算出された積分値に基づいて冷却用ファンの回転数を決定することによって、プロジェクターの駆動中、ランプ温度をなるべく高めに保つことが可能となる。よって、本発明は、プロジェクター用のランプとして超高圧水銀ランプを利用する場合に好適である。
【0017】
また、前記第1期間において取得する前記サンプル数は、前記第2期間において取得するサンプル数より多い制御方法としてもよい。
これによれば、電力レベルあるいは輝度レベルが上昇している場合は、電力レベルあるいは輝度レベルの変動に対して遅延する形で追従することになるため、ランプ温度を早く上昇させることができ、ランプ内の水銀を素早く蒸発させることができる。また、電力レベルあるいは輝度レベルが下降している場合は、電力レベルあるいは輝度レベルの変動に対して殆ど遅延することなく追従する形となる。つまり、電力レベルの低下とともに冷却用ファンの回転数を直ぐに低下させることができるので、ランプの温度をなるべく高温の状態で保つことが可能になる。その結果、照度の立ち上がりを改善してランプの信頼性を高めることができ、プロジェクター製品として映像の色身が劣化することを防止することができる。これにより、高品位なプロジェクターが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態であるプロジェクターの全体構成を示す平面図。
【図2】実施形態の制御装置の概略構成を示すブロック図の一例。
【図3】ある映像信号の輝度レベルとその積分値を表すグラフ。
【図4】図3に示すグラフの一部(278〜300秒の間)を拡大して示すグラフ。
【図5】映像信号の輝度レベル(ランプの電力レベル)と輝度レベル(ランプの電力レベル)積分量の分布波形を示すグラフ。
【図6】プロジェクターの制御系が実行する処理の手順を表すフローチャート。
【図7】電力レベルと冷却用ファンの回転数の変動態様を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態につき、図面を参照して説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
なお、各図において、鉛直方向をy軸方向、光源装置から射出される光の射出方向をz軸方向、y軸方向およびz軸方向に垂直な方向をx軸方向と定義する。
【0020】
図1は、本発明の一実施形態であるプロジェクターの全体構成を示す平面図である。
本発明のプロジェクター1は、光変調装置として透過型の液晶ライトバルブを3組用いた、いわゆる3板式の液晶プロジェクターの例である。
本実施形態のプロジェクター1は、図1に示すように、平面視で略矩形状の外装筐体2と、外装筐体2内に収納される装置本体3と、を備えている。
外装筐体2は、プロジェクター1の天面(図示略:図1における手前側)、正面2B、背面2C、左側面2D、右側面2Eおよび底面(図示略:図1における奥側)を構成し、底面には複数の脚部(図示略)が設けられている。
【0021】
装置本体3は、光学ユニット4と本体冷却装置5とを備えている。装置本体3は、プロジェクター1の各構成部材に電力を供給する電源装置200、プロジェクター1の各構成部材の動作を制御する制御装置201等を備えている。
本体冷却装置5は、複数のファン6,7,8により構成され、光学ユニット4、電源装置200および制御装置201に対し、外装筐体2の外部から導入した空気を送風し、これらの各装置を冷却する。
【0022】
複数のファン6,7,8のうち、後述する投射光学装置9を挟むように両側に配置された一対のファン6,7は、例えばシロッコファンで構成され、外装筐体2に形成された吸気口(図示略)から外部の空気を導入し、冷却空気を後述する画像形成光学装置10に送風する。また、ファン(「冷却用ファン」と呼ぶこともある)8は、例えば軸流ファンで構成され、後述する光源装置11を冷却した空気を吸引してプロジェクター1の正面2Bに向かって排出し、さらに、正面2Bに形成された排気口21Bを通して外装筐体2の外部に排出する。
なお、排気口21Bは、外装筐体2のいずれの面に形成されていても良い。
【0023】
光学ユニット4は、前述の制御装置201による制御により、画像情報に応じた画像光を形成する。光学ユニット4は、光源装置11、照明光学装置16、色分離光学装置17、リレー光学装置18、画像形成光学装置10、投射光学装置9、光学部品用筐体19、光源収納部材20等を備えている。
【0024】
〔光源装置の構成〕
光源装置11は、図1に示すように、発光管22および反射鏡23を有する光源ランプ(光源)13、発光管22を冷却する冷却装置14、光源ランプ13からの光を平行化する平行化凹レンズ24を有して構成され、光源収納部材20内に収納されている。
【0025】
光源ランプ13は、アーク放電型のランプであって、高圧水銀ランプ、メタルハイドロランプ、キセノンランプ等が用いられる。アーク放電型のランプはアーク熱によって発光管が熱せられるため、冷却装置14と組み合わせて用いられる。本実施形態では、このような光源ランプ13の近傍に、冷却装置14を構成するファン15が配置されている。このファン15は、例えばシロッコファンで構成され、外装筐体2の内部の空気を吸引し、光源ランプ13に送風する。
【0026】
照明光学装置16は、一対のレンズアレイ31,32、偏光変換素子33、重畳レンズ34を備えている。
色分離光学装置17は、第1のダイクロイックミラー35、第2のダイクロイックミラー36、反射ミラー37を備えている。
リレー光学装置18は、入射側レンズ38、リレーレンズ群39、第1の反射ミラー40、第2の反射ミラー41を備えている。
【0027】
画像形成光学装置10は、フィールドレンズ42、光変調装置としての赤色光、緑色光、青色光の各色光用の液晶ライトバルブ(光変調素子)43と、各液晶ライトバルブ43に対応した入射側偏光板44、視野角補償板45および射出側偏光板46、色合成光学装置としてのクロスダイクロイックプリズム47を備えている。
なお、液晶ライトバルブとして、赤色光変調用の液晶ライトバルブ43R、緑色光変調用の液晶ライトバルブ43G、青色光変調用の液晶ライトバルブ43Bを有する。
投射光学装置9は、画像形成光学装置10によって形成された画像光をスクリーン等の被投射面上に拡大投射する。
【0028】
光学部品用筐体19は、上記した照明光学装置16、色分離光学装置17、リレー光学装置18および画像形成光学装置10を内部に収納する箱状の筐体である。光学部品用筐体19には、内部に設定されたランプ光軸L1上の所定の位置に、照明光学装置16、色分離光学装置17、リレー光学装置18、画像形成光学装置10が順次配列されている。この光学部品用筐体19の一面に光源収納部材20が接続されており、内部に光源装置11が収納されている。
【0029】
光源装置11から射出された光は、照明光学装置16によって照明領域内の照度が均一化された後、色分離光学装置17によって赤色光、緑色光、青色光の3つの色光に分離される。これら分離された各色光は、対応する各液晶ライトバルブ43において画像情報に応じてそれぞれ変調され、色光毎の画像光が形成される。そして、色光毎の画像光は、クロスダイクロイックプリズム47によって合成され、投射光学装置9によって被投射面上に拡大投射される。
【0030】
通常、プロジェクター1には光源ランプ13の温度劣化を防止するために冷却用のファン8が設けられている。しかしながら、光源ランプ13として用いられる超高圧水銀ランプは、ランプ温度が低くなりすぎると水銀が凝集して信頼性の低下を招くおそれがあるため、ランプ温度の管理が重要になってくる。映像信号V1に応じて光源ランプ13の電力レベルを変動させてランプ調光を行う際、電力レベルの上昇変化および下降変化のいずれにおいてもなるべくランプ温度を高めに保つ必要がある。
【0031】
本実施形態のプロジェクター1は、輝度レベルや電力レベルの変動態様によって冷却用ファン8の回転数を制御することによって、光源ランプ13の冷やしすぎを防止することが可能である。ここで、ランプ温度に直接関係しているのは映像信号V1に基づいて変動する光源ランプ13の電力レベルであるため、本実施形態では、光源ランプ13の電力レベルを利用して冷却用ファン8の回転数を制御することにより、光源ランプ13の温度調整を行う例について述べる。
【0032】
図2は、本実施形態の制御装置の概略構成を示すブロック図の一例である。
図2に示すように、制御装置201は、CPU59、信号処理部50、ランプ駆動部51、液晶パネル駆動部52、ファン駆動部53およびフレームメモリ58等を備えており、外部から入力される映像信号V1に基づいて、光源ランプ13、液晶ライトバルブ43、冷却用ファン8を駆動させる。
【0033】
本実施形態の信号処理部50は、輝度レベル検出部54、電力レベル検出部55、微分値算出部56、積分値算出部57を有し、外部から入力される映像信号V1に対して所定の信号処理を行い、当該処理によって得られる各種情報をCPU59へと出力する。ここで言う信号処理とは、光源ランプ13、液晶ライトバルブ43、冷却用ファン8をそれぞれ最適に駆動させるための信号処理であって、詳しくは後述する。CPU59は、信号処理部50から入力された各種情報に基づいて、光源ランプ13、液晶ライトバルブ43、冷却用ファン8の駆動制御を行うこととなる。
【0034】
輝度レベル検出部54は入力された映像信号V1の輝度レベルを検出し、電力レベル検出部55は入力された映像信号V1に基づいて光源ランプ13へ供給される電力レベルを検出する。輝度レベルや電力レベルは映像信号V1に応じて変化し、映像(画像)の明るさに関係する。
ここで、輝度レベル検出部54及び電力レベル検出部55では、入力された映像信号V1の輝度レベルや光源ランプ13の電力レベルを、例えば1画面ごとに検出してもいいし、フレーム毎や1フィールドごとに検出するようにしてもよい。
【0035】
微分値算出部56は、入力された映像信号V1に基づく光源ランプ13の電力レベルの時間微分値を算出することによって、電力レベルの変化量、つまり映像の明暗(濃淡)の変化量が多い時点を抽出する。この微分値算出部56において算出された微分値の正負によって、CPU59にて映像信号V1に応じて電力レベルの上昇、下降、一定が判断される。つまり、変化の微分値がプラスならば上昇、マイナスならば下降と判断され、微分値がゼロならば一定(変化なし)と判断される。微分値がゼロの場合は前の時間での微分値を引き継ぐことになる。
【0036】
また、この微分値算出部56は、入力された映像信号V1の輝度レベルの時間微分値を算出することも可能である。この場合、CPU59は、微分値算出部56において算出された電力レベルの微分値の正負によって、映像信号V1の輝度レベルの上昇あるいは下降を判断することとなる。
【0037】
積分値算出部57は、入力された映像信号V1に基づく光源ランプ13の電力レベルの時間積分値を算出することによって電力レベルの時間的変化を平均化する。このとき、上記した微分値算出部56の算出結果に応じて平均化する電力レベルの単位時間に取得するサンプル数を変化させる。つまり、微分値算出部56にて算出された微分値の正負によって判断される電力レベルの上昇あるいは下降により、その期間で平均化する電力レベルのサンプル数を異ならせる。例えば、電力レベルが上昇している期間のサンプル数を電力レベルが下降している期間のサンプル数よりも相対的に多くする。その結果、サンプル数が増えて平均化する時間が長くなるため、時間的な変動が穏やかな平均電力レベルの分布が得られる。また、電力レベルが下降している期間のサンプル数を電力レベルが上昇している期間のサンプル数よりも相対的に少なくする。その結果、サンプル数が減って平均化する時間が短くなるため、電力レベルに略沿うようにして変化する平均電力レベルの分布が得られる。つまり、所定期間において平均化する電力レベルのサンプル数が少ないほど、入力された映像信号に基づく電力レベルの時間的な変化に追従した分布となる。
【0038】
ここで、電力レベルが上昇傾向にある場合には平均するサンプル数を1000点とし、電力レベルが下降傾向にある場合には平均するサンプル数を100点とする。サンプル数はこれらに限られるものではなく、適宜変更が可能である。
【0039】
なお、この積分値算出部57は、入力された映像信号V1の輝度レベルの時間積分値を算出することによって輝度レベルの時間的変化を平均化することもできる。この場合、上記した微分値算出部56において算出された輝度レベルの微分値の算出結果に応じて、平均化する輝度レベルのサンプル数を変化させる。
【0040】
フレームメモリ58には、光源ランプ13の電力レベルと冷却用ファン8の回転数との相関関係を示すテーブル(LUT)や数式が予め記憶されている。CPU59は、フレームメモリ58に記憶されたテーブルや数式から映像信号V1に応じた冷却用ファン8の回転数の制御データを読み出して、積分値算出部57から入力された処理信号と照らし合わせ、冷却用ファン8の制御信号を生成する。そして、この生成した制御信号をファン駆動部53へと出力する。
【0041】
CPU59は、映像信号V1の電力レベル(輝度レベル)が大きくなると光源ランプ13の照度が高くなるように制御するとともに、ファン8の回転数が徐々に高くなるように制御する。また、映像信号V1の電力レベル(輝度レベル)が小さくなると光源ランプ13の照度が低くなるように制御するとともに、ファン8の回転数を迅速に低下させるような制御を行う。
【0042】
冷却用ファン8の回転数は、光源ランプ13の冷却効率に影響する。つまり、映像信号V1に基づいて光源ランプ13の電力レベルの変動形態を検出して冷却用ファン8の回転数を制御することにより、光源ランプ13の冷却速度を調整できる。
【0043】
また、CPU59は、電力レベル検出部55からの検出結果に基づいて、光源ランプ13の駆動信号を生成してランプ駆動部51へと出力する。このようにして、映像信号V1に基づいた光源ランプ13の照度調整を行う。
【0044】
CPU59は、映像信号V1の電力レベル(輝度レベル)が上昇すると光源ランプ13の照度が高くなるように制御するとともに、ファン8の回転数が徐々に高くなるように制御する。また、映像信号V1の電力レベル(輝度レベル)が下降すると光源ランプ13の照度が低くなるように制御するとともに、ファン8の回転数を迅速に低下させるような制御を行う。
【0045】
また、CPU59は、信号処理部50から入力された輝度レベル検出部54からの検出結果に基づいて、映像信号V1を、各液晶ライトバルブ43を駆動するのに必要な信号に変換、処理して、液晶パネル駆動部52へと出力する。
【0046】
図3は、ある映像信号の輝度レベルをおよそ6分間(サンプル間隔:1/60sec)抽出したグラフであって、元の輝度レベルデータを細い実線で示し、サンプル数を100点とした場合の平均値を破線で示し、サンプル数を1000点とした場合の平均値を太い実線で示す。図4は、図3に示すグラフの一部(278〜300秒の間)を拡大して示すグラフである。
【0047】
図3及び図4中に、破線で示す100点平均(サンプル数100点での時間平均)では輝度レベル(細線で示す元データ)に対する追従性が早く、太線で示す1000点平均(サンプル数1000点での時間平均)では輝度レベルに対する追従性が遅いことが分かる。つまり、サンプル数が多いほど元データが平均化されるため、緩やかな曲線で表される。
上述したように、本実施形態の本体冷却装置5の構成要素である冷却用ファン8の回転数は、映像信号の輝度レベルあるいは光源ランプ13の電力レベルの変化に基づいて制御される。
【0048】
なお、図3及び図4では映像信号の輝度レベルとその積分値の変動態様を示しているが、映像信号に基づいて変動する光源ランプの電力レベルとその積分値においても略同様のグラフとなる。適応調光を行う場合、ランプ電力は映像信号に対して遅延することなく反応しなければならないため、略輝度レベルの変動に追従することになる。
【0049】
図5に、映像信号の輝度レベル(ランプの電力レベル)と輝度レベル(ランプの電力レベル)微分量の分布波形を示す。
図5に示す映像信号の輝度レベルとその微分値との関係によれば、微分値が正となる上昇期間(第1期間)T1では輝度レベルが上昇し、負となる下降期間(第2期間)T2では輝度レベルが下降していることが分かる。図中、輝度レベルが上昇しているのに微分値が負の値になっている箇所が若干見受けられるが、これは何らかのノイズの影響であると考えられるため本実施形態では考慮しない。
なお、図5では輝度レベルの変動態様を示しているが、光源ランプ13の電力レベル及びその微分値も略同様の変動態様となる。
【0050】
〔プロジェクターの制御方法〕
次に、プロジェクターの制御方法について述べる。
図6は、プロジェクターの制御系が実行する処理の手順を表すフローチャートである。
図7は、電力レベルと冷却用ファンの回転数との変動を示すグラフである。
【0051】
まず、外部から映像信号V1が制御装置201の信号処理部50へ入力されると、輝度レベル検出部54において映像信号V1の輝度レベルを検出するとともに電力レベル検出部55において映像信号V1に基づいて光源ランプ13へ供給される電力レベルWを検出する(ステップS1)。
【0052】
CPU59は、微分値算出部56において、電力レベル検出部55の検出結果から電力レベルWの微分値(変化量)ΔW/Δtを算出し(ステップS2)、その微分値ΔW/Δtによって映像信号V1の電力レベルWの変動態様(上昇、下降、一定)を判断する。
そして、微分値算出部56における算出された微分値ΔW/Δtがプラスであると判断される(ステップS3)と、電力レベルWが上昇しているとみなしてステップS5へ移行する。また、微分値ΔW/Δtがマイナスであると判断される(ステップS4)と、電力レベルWが下降しているとみなしてステップS6へ移行する。また、ステップS4において微分値がプラスでもマイナスでもない、「ゼロ」と判断されると、電力レベルWの変動なしとみなしてステップS7へと移行する。ここで、電力レベルWがプラスと判断された期間は電力レベルWが上昇している上昇期間T1であり、電力レベルWがマイナスと判断された期間は電力レベルWが下降している下降期間T2である。
【0053】
次に、積分値算出部57において、電力レベル検出部55からの検出結果から電力レベルWの時間積分値を算出することによって電力レベルWの時間的変化を平均化する。このとき、CPU59は、微分値算出部56の算出結果によって判断した電力レベルWの微分値ΔW/Δtに基づいて、上昇期間T1と下降期間T2とにおいて、電力レベルWの単位時間ごとに取得するサンプル数Nを異ならせるように積分値算出部57を制御する。
【0054】
具体的に、光源ランプ13の電力レベルWが上昇している上昇期間T1ではサンプル数N1を1000点とって平均し(ステップS5)、光源ランプ13の電力レベルWが下降している期間T2ではサンプル数N2を100点にして平均する(ステップS6)。そして、各ステップS5,S6において得られた算出結果(電力レベルWの平均化データ)をCPU59に出力する。
【0055】
なお、微分値算出部56において微分値ΔW/Δtの算出結果が「ゼロ」で電力レベルWに変動なしと判断された場合には、ステップS7において、前回までの冷却用ファン8の回転数を引き継ぐように判断されて、ステップS8へと移行する。
【0056】
CPU59は、積分値算出部57から上記各期間T1,T2における電力レベルWの平均化データがそれぞれ入力されると、フレームメモリ58に記憶されたテーブル(LUT)や計算式から映像信号に応じた冷却用ファン8の回転数の制御データを読み出して、積分値算出部57から入力された処理信号と照らし合わせることにより、冷却用ファン8の回転数を決定し、その制御信号を生成する(ステップS8)。
【0057】
そして、上昇期間T1では冷却用ファン8の回転数の変化率が下降期間T2のときよりも小さくなるような制御信号を生成し、下降期間T2では回転数の変化率が上昇期間T1のときよりも大きくなるような制御信号を生成する。
また、光源ランプ13の電力レベルWが上昇も下降もしない場合、つまり積分値が0の場合にはその期間における冷却用ファン8の回転数は変化させず、そのままの状態を維持する制御信号を生成する。そして、これら制御信号をファン駆動部53へと出力する。
【0058】
次に、ファン駆動部53は、入力されたファン回転数の制御信号に基づいて冷却用ファン8を駆動する(ステップS5)。つまり、図7に示すように、上昇期間T1では当該期間T1内における電力レベル(輝度レベル)の積分値(1000点平均したグラフ)に基づいて冷却用ファン8の回転数をゆっくりと高めるように制御する。このようにして、光源ランプ13の温度を直ぐに高める。
【0059】
また、下降期間T2では当該期間T2内における電力レベル(輝度レベル)の積分値(100点平均したグラフ)に基づいて冷却用ファン8の回転数を迅速に低下させるように制御する。このようにして、光源ランプ13の温度低下を防止してなるべく高い状態のまま保持する。ただし、光源ランプ13の温度はその劣化が防止される温度に保持される。
【0060】
以上述べたように、本実施形態のプロジェクター1は、映像信号に基づく光源ランプ13の電力レベルの変動態様に応じて冷却用ファン8の回転数を制御することにより、光源ランプ13の温度の低下を防止して、水銀の蒸発状態をなるべく維持するように構成されている。具体的には、光源ランプ13の電力レベルが上昇傾向にある場合と下降傾向にある場合とで積分値算出部57において各期間内で平均化する電力レベルのサンプル数を異ならせることによって、電力レベルの変動に対する冷却用ファン8の回転数の追従性を変化させている。
【0061】
電力レベルが低い状態から高い状態に移行するとき、光源ランプ13内の水銀は凝縮した状態から徐々に蒸発することになる。そして、冷却用ファン8の回転数も電力レベルの平均値に応じて遅い状態から速い状態へと移行する。このとき、なるべく早く水銀を蒸発させたいため、冷却用ファン8の回転数が上昇するスピードは遅い方が好ましい。
【0062】
そこで、本実施形態では、光源ランプ13の電力レベルが上昇している期間において平均をとる電力レベルのサンプル数を多くする(時間を長くする)ことで、冷却用ファン8の回転数は、電力レベルの変動にすぐには追従せず、ゆっくりと上昇していくことになる。このように、冷却用ファン8の回転数が滑らかに変動(上昇)するとともに電力レベルの変動に対して遅延した形で追従することになるため、ランプ温度を早く上昇させることができて、光源ランプ13の発光管内の水銀を素早く蒸発させることができる。また、光源ランプ13内の水銀の蒸発を促進させる温度を保ちながら、発光管の劣化等を防止するために必要な冷却を行うことができる。
【0063】
また、電力レベルが高い状態から低い状態に移行するとき、光源ランプ13の水銀は凝縮する方向へ向かう。このとき、冷却用ファン8の回転数は早い状態から遅い状態に移行する。光源ランプ13内の水銀はなるべく蒸発した状態を保っておくためには、冷却用ファン8の回転数をなるべく早く低下させる必要がある。
【0064】
そこで、本実施形態では、光源ランプ13の電力レベルが上昇している期間において平均化する電力レベルのサンプル数を少なくする(時間を短くする)ことで、冷却用ファン8の回転数が電力レベルの変動に略沿うような形で追従することになる。つまり、電力レベルの低下とともに冷却用ファン8の回転数を直ぐに低下させることができるので、光源ランプ13の温度をなるべく高温の状態で保つことが可能になる。これにより、光源ランプ13内の水銀の凝集を遅延させることができる。
【0065】
このように、外部から入力される映像信号の電力レベルを時間的に平均し、この平均値に基づいて冷却用ファン8の回転数をフィードバック制御することにより、光源ランプ13のランプ温度をなるべく高温の状態に保つことができる。これにより水銀を蒸発させた状態を保つことが可能となる。その結果、光源ランプ13の信頼性を高めて照度の立ち上がりを改善し、プロジェクター製品として、映像の色味が劣化することを防止できるという効果が期待できる。
【0066】
また、冷却用ファン8の回転数を制御する際に光源ランプ13の電力レベルの積分値(平均値)を用いることで、冷却用ファン8の回転数が電力レベル(輝度レベル)に対して敏感に反応しないようにしている。これにより、画像のちらつきが防止されるため視聴者の目の負担を軽減することができ、視聴者はスクリーンに映し出された画像を長時間良好に視認できるようになる。
【0067】
また、平均化した電力レベルのデータに対して冷却用ファン8の回転数が追従するように制御することによって、電力レベル(輝度レベル)の変動に対してファンの回転数を敏感に反応させる(冷却用ファン8の回転数を頻繁に変動させる)必要がないため、騒音の問題は改善されることになる。
【0068】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0069】
先の実施形態では、映像信号に基づく光源ランプの電力レベルの変動に応じて冷却用ファン8の回転数の制御を行うこととしたが、映像信号の輝度レベルの変動に応じて冷却用ファン8の回転数の制御を行うこととしてもよい。この場合にも、輝度レベルが上昇している期間では、輝度レベルが下降している期間よりも平均値をとるサンプル数を少なくする(秒数を短くする)ことで、冷却用ファン8の回転数を輝度レベルの変動に遅延した形で追従させることができ、また、輝度レベルが下降している期間では輝度レベルの変動に略沿うような形で追従させることができる。これにより、先の実施形態と同様に、光源ランプ13の温度をなるべく高温の状態で保つことが可能である。
【符号の説明】
【0070】
1…プロジェクター、8…冷却用ファン、13…光源ランプ(ランプ)、V1…映像信号、201…制御装置、43(43R,43G,43B)…液晶ライトバルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
映像信号に応じて光源の電力レベルを変動させて調光を行うプロジェクターであって、
前記光源となるランプと、
前記光源からの照明光を画像情報に応じて変調する光変調素子と、
前記光源を冷却する冷却用ファンと、
前記映像信号に基づく前記ランプの電力レベルあるいは前記映像信号の輝度レベルを単位時間ごとに取得したサンプルを平均し、この平均値に基づいて前記冷却用ファンの回転数をフィードバック制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、前記電力レベルあるいは前記輝度レベルが上昇している場合と下降している場合とで、サンプル数を異ならせて前記平均値を算出する
ことを特徴とするプロジェクター。
【請求項2】
前記制御装置は、前記電力レベルあるいは前記輝度レベルが上昇している場合に、前記電力レベルあるいは前記輝度レベルが下降しているときよりも前記サンプル数を相対的に多くする機能を有している
ことを特徴とする請求項1に記載のプロジェクター。
【請求項3】
前記制御装置は、前記電力レベルあるいは前記輝度レベルの微分値を算出し、当該微分値がプラスならば前記電力レベルあるいは前記輝度レベルが上昇していると判断し、前記微分値がマイナスならば前記電力レベルあるいは前記輝度レベルが下降していると判断する機能を有している
ことを特徴とする請求項1または2に記載のプロジェクター。
【請求項4】
前記制御装置は、前記微分値がゼロの場合は前記電力レベルあるいは前記輝度レベルの変化なしと判断する機能を有している
ことを特徴とする請求項3に記載のプロジェクター。
【請求項5】
映像信号に応じて光源の電力レベルを変動させて調光を行うプロジェクターの制御方法であって、
前記映像信号に基づく前記電力レベルあるいは前記映像信号の輝度レベルを検出するステップと、
前記電力レベルあるいは前記輝度レベルの微分値を算出するステップと、
前記微分値がプラスとなる第1期間と、前記微分値がマイナスとなる第2期間とで、平均をとるサンプル数を異ならせて積分値を算出するステップと、
各期間において算出された前記積分値に基づいて冷却用ファンの回転数を決定するステップと、を有する
ことを特徴とするプロジェクターの制御方法。
【請求項6】
前記第1期間において取得する前記サンプル数は、前記第2期間において取得する前記サンプル数より多い
ことを特徴とする請求項5に記載のプロジェクターの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−15696(P2013−15696A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−148902(P2011−148902)
【出願日】平成23年7月5日(2011.7.5)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】