説明

プロテインキナーゼCのアイソザイム特異的アンタゴニスト

PKCペプチドアゴニストの生物学的活性を変化させるか、そうでなければPKCペプチドアゴニストをペプチドアンタゴニストへ変換する方法が記載される。この方法は、1つ以上のアミノ酸残基を置換する工程を包含し、その結果、ペプチド中の電荷を変化し、および/または、そうでなければそれぞれのPKC酵素に対するRACKタンパク質上のPKC結合部位由来の配列に類似の配列を作成する。PKC酵素の活性を阻害する方法、およびεPKCの種々のアンタゴニストもまた、開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、アゴニストの生物学的作用をアンタゴニストへ変換する方法、特に、プロテインキナーゼCのアゴニストを、プロテインキナーゼCのアンタゴニストへ変換する方法に関する。本発明はまた、プロテインキナーゼCのアイソザイム特異的調節のためのペプチド組成物、およびプロテインキナーゼCの特定のアイソザイムの作用に拮抗する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
プロテインキナーゼC(「PKC」)は、種々の細胞機能(細胞増殖、遺伝子発現の調節、およびイオンチャネル活性が挙げられる)に関するシグナル伝達において、重要な酵素である。PKCファミリーのアイソザイムとしては、少なくとも11の異なるプロテインキナーゼが挙げられ、このプロテインキナーゼは、その相同性およびアクチベーターに対する感受性に基づいて、少なくとも3つのサブファミリーに分けられ得る。各々のアイソザイムは、アイソザイム固有(「可変」または「V」)ドメインが散在する、多くの相同(「保存」または「C」)ドメインを含む。「古典的」または「cPKC」サブファミリーのメンバー(αPKC、βPKC、βIIPKC、およびγPKC)は、4つの相同ドメイン(C1、C2、C3およびC4)を含み、そしてカルシウム、ホスファチジルセリン、およびジアシルグリセロールまたはホルボールエステルを、活性化のために必要とする。「新規」または「nPKC」サブファミリーのメンバー(δPKC、εPKC、ηPKC、およびθPKC)において、C2様ドメインは、C1ドメインの上位にある。しかし、C2ドメインは、カルシウムに結合せず、したがって、nPKCサブファミリーは、活性化のためにカルシウムを必要としない。最後に、「異型」または「αPKC」サブファミリーのメンバー(ζPKC、およびλ/ιPKC)は、C2ドメインおよびC1相同ドメインの半分の両方を欠き、そしてジアセチルグリセロール、ホルボールエステルおよびカルシウムに、感受性である。
【0003】
PKCアイソザイムの細胞内分布に対する研究は、PKCの活性化が、その細胞内での再分布(転位とも称される)をもたらし、その結果、活性化PKCアイソザイムが、原形質膜、細胞骨格要素、核および他の細胞内区画と結合することを実証する(非特許文献1;非特許文献2;非特許文献3)。異なるPKCアイソザイムの固有の細胞機能は、細胞内の局在により決定され得る。例えば、活性化βPKCは、核の内側に見出され、対照的に、活性化βIIPKCは、核周囲および心筋細胞の細胞末梢に見出される(非特許文献4)。εPKC(カルシウムとは無関係であるが、活性化のためにリン脂質を必要とする、新規PKCファミリーのメンバー)は、脊髄神経節および脊髄の表層の両方において主要な求心性ニューロンに見出される。
【0004】
種々のPKCアイソザイムの細胞内の異なる領域への局在は、次に、活性化アイソザイムの、特定のアンカー分子(活性化Cキナーゼのレセプター(RACK)とも称される)への結合に起因するようである。RACKは、活性化PKCアイソザイムとそれぞれの細胞内部位とを選択的に固定することにより、機能すると考えられる。RACKは、完全に活性化したPKCにのみ結合し、そして必ずしも酵素の基質ではない。そしてまた、このキナーゼの触媒ドメインにより媒介されるRACKへも結合しない(非特許文献5)。PKCの転位は、活性化酵素のRACKへの結合を反映し、RACKへの結合は、PKCにその細胞応答を発生するために必要である(非特許文献6)。インビボにおいてRACKに対するPKCの阻害は、PKC結合の転位およびPKCに媒介される機能を阻害する(非特許文献7;非特許文献8;非特許文献9)。
【0005】
一般に、PKCの転位は、PKCアイソザイムの適切な機能のために必要である。PKC上のRACK結合部位を模倣するペプチド(非特許文献8;非特許文献7)は、インビボにて酵素の機能を選択的に阻害する、PKCのアイソザイム特異的転位インヒビターである。このようなPKCのアイソザイム選択的インヒビターは、活性化アイソザイムと、そのそれぞれのアンカータンパク質(RACK)との相互作用を選択的に阻害する能力に基づいて同定されている(非特許文献10)。これらの短いペプチドのインヒビター(7〜12アミノ酸長)は、個別のアイソザイムの機能に選択的に干渉することが示されている(非特許文献5;非特許文献11;非特許文献7;非特許文献12;非特許文献14)。
【0006】
βPKCおよびεPKC、ならびに他のPKCアイソザイムの転位アゴニストペプチドもまた、同定されている(非特許文献8;非特許文献14)。RACK上のPKC結合部位を模倣するペプチド(非特許文献15;非特許文献6)は、インビボにて酵素の機能を選択的に阻害する、PKCのアイソザイム特異的転位アクチベーターである(非特許文献8;非特許文献15)。これらのPKC由来の6〜8個のアミノ酸ペプチドは、その対応するRACK内の配列に対して相同であり、したがって、これらは、それぞれ偽βRACK(ΨβRACK)および偽εRACK(ΨεRACK)と称される。ΨβRACKまたはΨεRACKの細胞内への導入は、対応するアイソザイムの選択的転位を引き起こし、インビトロおよびインビボにおける基質のリン酸化により測定される場合の、その触媒活性を増加する(非特許文献8;非特許文献14)。アイソザイム(そのRACKは、まだ同定されていない(例えば、δPKCおよびθPKC))のΨRACK配列のC2ドメインまたはC2様ドメインの位置もまた、転位アゴニストペプチドに対応して見出された(非特許文献16)。たとえば、ΨεRACKの細胞内への導入は、δPKCの選択的転位を引き起こし、その触媒活性を増加する(非特許文献16)。これらのペプチドはまた、細胞内およびインビボにおいて、βPKC、δPKCおよびεPKCの役割を同定するために使用されている(非特許文献8;非特許文献16;非特許文献14)。
【0007】
治療の観点から、PKCの個別のアイソザイムは、種々の疾患状態の機構に関連する。この疾患状態としては、以下が挙げられる:癌(αPKCおよびδPKC);心肥大および心不全(βIPKCおよびβIIPKC);侵害受容(γPKCおよびεPKC);虚血(心筋梗塞が挙げられる)(εPKCおよびδPKC);免疫応答(特にT細胞媒介性)(θPKC);ならびに線維芽細胞増殖および記憶(δPKCおよびζPKC)。種々のPKCアイソザイム特異的ペプチドおよび可変領域特異的ペプチドが、以前に記載されている(例えば、特許文献1を参照のこと)。疼痛の知覚におけるεPKCの役割(特許文献1に最初に記載されたεPKCの選択的インヒビターである、εV1−2ペプチドの治療的使が挙げられる)は、近年報告された(特許文献2;特許文献3)。
【特許文献1】米国特許第5,783,405号明細書
【特許文献2】国際公開第00/01415号パンフレット
【特許文献3】米国特許第6,376,467号明細書
【非特許文献1】Saito,N.ら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 1989年、第86巻:p.3409−3413
【非特許文献2】Papadopoulos,V.およびHall,P.F.J.Cell Biol.1989年、第108巻:p.553−567
【非特許文献3】Mochly−Rosen,D.ら,Molec.Biol.Cell(公式にはCell Reg.)1990年、第1巻:p.693−706
【非特許文献4】Disatnik,M.H.ら,Exp.Cell Res.1994年,第210巻:p287−297
【非特許文献5】Mochly−Rosen,D.ら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 1991年、第88巻:p3997−4000
【非特許文献6】Mochly−Rosen,D.ら,Science 1995年、第268巻:p.247−251
【非特許文献7】Johnson,J.A.ら,J.Biol.Chem.1996年、第271巻:p.24962−24966
【非特許文献8】Ron,D.ら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 1995年、第92巻:p492−496
【非特許文献9】Smith,B.L.およびMochly−Rosen,D.,Biochem.Biophys.Res.Commun.1992年、第188巻:p.1235−1240
【非特許文献10】Souroujon,M.およびMochly−Rosen,D.,Nature Biotechnol.1998年、第16巻:p.919−924
【非特許文献11】Ron,D.ら,J.Biol.Chem.1995年、第270巻:p.24180−24187
【非特許文献12】Zhang,Z.ら,Biophys.J.1996年、第70巻(2,第2版):A391
【非特許文献13】Gray,M.O.ら,J.Biol.Chem.1997年、第272巻:p.30945−30951
【非特許文献14】Dorn,G.W.ら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 1999年、第96巻:p.12798−12803
【非特許文献15】Mochly−Rosen,D.ら,J.Biol.Chem.1991年、第226巻:p.1466−1468
【非特許文献16】Chenら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 2001年、第98巻:p.1114−1119
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
PKCアイソザイムは、種々の疾患状態に関連することは明らかであり、そしてヒト疾患を処置するための治療剤を開発するために、特定のPKCアイソザイムの作用を調節する方法についての必要性が存在し続けている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(発明の要旨)
プロテインキナーゼC(PKC)アゴニストペプチドの少なくとも1つのアミノ酸を別のアミノ酸で置換して、(例えば、置換した位置における電荷を変化させることにより)ペプチドの電子分布を変更すること、そして/または、活性化Cキナーゼについてのレセプター(RACK)タンパク質にのそれぞれの上のプロテインキナーゼC結合部位内の配列に、このペプチドがより類似するように変更することは、PKC酵素の活性を阻害するために使用され得るPKCアンタゴニストを産生することが発見された。したがって、プロテインキナーゼCアゴニストペプチドまたはプロテインキナーゼCアゴニストペプチド模倣物をプロテインキナーゼCアンタゴニストペプチドまたはプロテインキナーゼCアンタゴニストペプチド模倣物へ変換する方法が、提供される。1つの形態において、方法は、アゴニストペプチドまたはアゴニストペプチド模倣物中の少なくとも1つのアミノ酸を、PKCアゴニストペプチドまたはPKCアゴニストペプチド模倣物をPKCアンタゴニストペプチドまたはPKCアンタゴニストペプチド模倣物へ変換するアミノ酸で、置換する工程を包含する。本発明の特定の形態において、このペプチドアンタゴニストは、アンタゴニストが誘導されるアイソザイムの選択的インヒビターである。
【0010】
本発明のさらに別の局面において、PKC酵素の活性を阻害する方法もまた、提供される。1つの形態において、方法は、この酵素をPKCインヒビターペプチドまたはPKCインヒビターペプチド模倣物と接触させる工程を包含し、ここで、このペプチドは、PKCアゴニストペプチドまたはPKCアゴニストペプチド模倣物由来であり、アゴニストペプチドまたはアゴニストペプチド模倣物の少なくとも1つのアミノ酸は、このアゴニストペプチドまたはアゴニストペプチド模倣物をアンタゴニストペプチドまたはアンタゴニストペプチド模倣物へ変換するのに十分な、別のアミノ酸で置換される。本発明の特定の形態において、この置換は、置換された残基位置における電荷の変化をもたらす。
【0011】
処置方法もまた提供される。1つの形態において、方法は、治療有効量のεPKCアンタゴニストペプチドまたはεPKCアンタゴニストペプチド模倣物を、それを必要とする患者に投与する工程を包含する。この方法は、εPKC酵素の活性を調節することにより、多種多様の疾患または状態を処置するために使用され得る。
【0012】
PKC拮抗性活性を有するペプチドまたはペプチド模倣物もまた、提供される。本発明の1つの形態において、このペプチドまたはペプチド模倣物は、PKCアゴニストペプチドまたはPKCアゴニストペプチド模倣物由来であり、このアゴニストペプチドまたはアゴニストペプチド模倣物の少なくとも1つのアミノ酸は、このアゴニストペプチドまたはアゴニストペプチド模倣物をアンタゴニストペプチドまたはアンタゴニストペプチド模倣物へ変換するのに十分な能力がある別のアミノ酸で置換される。本発明のさらに他の形態において、このペプチドは、本明細書中に示される配列を有する。
【0013】
PKCアゴニストペプチドまたはPKCアゴニストペプチド模倣物を、プロテインキナーゼCアンタゴニストペプチドまたはプロテインキナーゼCアンタゴニストペプチド模倣物へ変換する方法を提供することが、本発明の目的である。
【0014】
PKC酵素の活性を阻害する方法を提供することが、本発明のさらに別の目的である。
【0015】
本明細書中に記載されるPKCアンタゴニストを使用する処置方法を提供することが、本発明のさらに別の目的である。
【0016】
εPKC拮抗性活性を有するペプチドまたはペプチド模倣物を提供することが、本発明のさらなる目的である。
【0017】
本発明のこれら目的および他の目的ならびに特徴は、本発明の以下の記述を、添付の図面とともに読むときに、より十分に理解される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
(好ましい実施形態の説明)
本発明の原理の理解を進める目的のために、ここで、好ましい実施形態に対して参照がなされ、特定の用語が、同じものを記載するために使用される。それにもかかわらず、本発明の範囲が限定されないことが意図され、このような本発明の変更およびさらなる改変、ならびに本明細書中に例示されるこのような本発明の原理のさらなる適用は、本発明に関する当業者に通常想像されるように企図されることが理解される。
【0019】
本発明は、PKCアゴニストペプチドまたはPKCアゴニストペプチド模倣物を、PKCアンタゴニストペプチドまたはPKCアンタゴニストペプチドに変換する方法を提供する。PKCアゴニストペプチドまたはPKCペプチド模倣物の少なくとも1つのアミノ酸を、このペプチドまたはペプチド模倣物の電子分布が変化され、そして/または、ペプチドまたはペプチド模倣物は、それぞれのRACKタンパク質上のPKC結合部位内の配列により近く類似するように別のアミノ酸で置換する工程は、PKC酵素の活性を阻害するために使用され得るアンタゴニストを産生することが発見された。1つの形態において、方法は、アゴニストペプチドまたはアゴニストペプチド模倣物の少なくとも1つのアミノ酸を、PKCアゴニストペプチドまたはPKCアゴニストペプチド模倣物をPKCアンタゴニストペプチドまたはPKCアンタゴニストペプチド模倣物に変換するアミノ酸で、置換する工程を包含する。本発明のさらに他の形態において、この置換は、異なるアミノ酸を有するペプチドまたはペプチド模倣物を合成するか、あるいは、既存のペプチドまたはペプチド模倣物のアミノ酸を改変し、その結果、アゴニストペプチドまたはアゴニストペプチド模倣物が、アンタゴニストペプチドまたはアンタゴニストペプチド模倣物に変換されることにより、なされ得る。本明細書中のペプチド模倣物は、それぞれのPKC酵素上の分子間結合部位に選択的に結合する低分子を含む。
【0020】
プロテインキナーゼC(PKC)酵素の活性を阻害する方法もまた、提供される。1つの形態において、方法は、PKC酵素と、PKCアゴニストペプチドまたはPKCアゴニストペプチド模倣物由来のPKCインヒビターペプチドあるいはPKCインヒビターペプチド模倣物とを接触させる工程を包含し、ここで、アゴニストペプチドまたはアゴニストペプチド模倣物の少なくとも1つのアミノ酸は、このアゴニストペプチドまたはアゴニストペプチド模倣物をアンタゴニストペプチドまたはアンタゴニストペプチド模倣物へ変換するのに十分な能力がある別のアミノ酸で置換される。
【0021】
処置方法もまた、提供される。1つの形態において、方法は、治療有効量のεPKCアンタゴニストペプチドまたはこのεPKCアゴニストペプチド模倣物を、それを必要とする患者に投与する工程を包含する。この方法は、εPKC酵素の活性を調節することにより、多種多様な疾患または状態を処置するために使用され得る。
【0022】
PKC拮抗活性を有するペプチドまたはペプチド模倣物もまた、提供される。本発明の特定の形態において、ペプチドまたはペプチド模倣物は、PKCアゴニストペプチドまたはPKCアゴニストペプチド模倣物由来であり、ここで、アゴニストペプチドまたはアゴニストペプチド模倣物中の少なくとも1つのアミノ酸は、このアゴニストペプチドまたはアゴニストペプチド模倣物をアンタゴニストペプチドまたはアンタゴニストペプチド模倣物へ変換するのに十分な能力がある別のアミノ酸で置換される。
【0023】
本発明の1つの局面において、PKC酵素アゴニストペプチドまたはPKCアゴニストペプチド模倣物を、PKC酵素アンタゴニストペプチドまたはPKC酵素アンタゴニストペプチド模倣物へ変換する方法が、提供される。1つの形態において、方法は、PKCアゴニストペプチドまたはPKCアゴニストペプチド模倣物の少なくとも1つのアミノ酸を、PKCアゴニストをPKCアンタゴニストへ変換するのに十分な能力がある別のアミノ酸で置換する工程を包含する。「ペプチド」および「ポリペプチド」とは、本明細書中で使用される場合、ペプチド結合により連結されるアミノ酸残基の鎖からなる化合物をいう。そうではないと指定されない限り、ペプチドについてのこの配列は、アミノ末端からカルボキシル末端の順で提供される。
【0024】
この方法は、多種多様なPKC酵素に適用可能である。上記のように、PKC酵素は、その調節ドメインの相同性に基づいて、3つのファミリーに分類される:従来のPKC(cPKC;α、β、βII、およびγが挙げられる)、新規PKC(nPKC;ε、δ、η、およびθが挙げられる)、および異型PKC(aPKC;ζ、ιおよびλが挙げられる)。本明細書中で以前に記載されたように、PKC酵素について、その生物学的効果を発揮するためには、これらの酵素は、活性化されて、そのそれぞれのRACKタンパク質へ結合されなければならない。例として、εPKC結合部位は、εRACK上に存在する(このアミノ酸配列は、配列番号1にNNVALGYDとして示される)。そのそれぞれのPKC酵素との結合相互作用のためのPKC結合部位はまた、他のRACK上にも存在する。例えば、RACK1上のβPKC結合部位は、SIKIWDとして配列番号2に示される。この配列は、βとβIIとの間で同一である。なぜならば、これらは、最後の50アミノ酸のみ異なり、そしてαPKCおよびγPKCにおいて同一であるからである。本発明の1つの形態において、特定のアゴニスト由来の特定のアンタゴニストを設計する場合、これらの結合部位の配列は、少なくとも1つのアミノ酸が、ペプチドまたはペプチド模倣物をそれぞれのPKC酵素上のPKC結合部位により厳密に類似させるようなアミノ酸で置換されることを確実にするために、あるいは、そうでなければ、ペプチドまたはペプチド模倣物の結合部位に対する結合親和性を、増加させるために、適用され得る。本発明のさらに他の形態において、本明細書中に記載されるペプチドアゴニストまたはペプチドアゴニスト模倣物の少なくとも1つの荷電アミノ酸を、非荷電アミノ酸で置換することは、PKCアゴニストをPKCアンタゴニストへ変換すると予測されている。
【0025】
多種多様なPKCペプチドまたはPKCペプチド模倣物のアゴニストは、改変されても、あるいは、そうでないならPKCアンタゴニストペプチドまたはPKCアンタゴニストペプチド模倣物へ変換されてもよく、結果的に本発明における用途が見い出される。PKCアゴニストは、少なくとも約4〜約30アミノ酸の配列、または少なくとも約5〜約15アミノ酸の配列を含み得る。PKCアゴニストは、約30アミノ酸より長い配列から構成され得ることが、理解される。「PKCアゴニスト」は、本明細書中で、PKCを活性化して活性化されたPKCを形成し、PKCがその生物学的機能を実施することを容易にするか、または可能にし、あるいは、PKCの活性を模倣して、その模倣物がPKCの1つ以上の生物学的機能を実施することを可能にする、化合物を意味する。アゴニストは、例えば、活性化されたPKCが、細胞の特定の領域に転位されて、その結果、その生物学的効果を発揮させ得る。当該分野で公知のように、PKCの酵素のファミリーは、セリン/スレオニンキナーゼであり、そして、無数の細胞のプロセス(細胞増殖、遺伝子発現の調節、およびイオンチャネル活性が挙げられる)に関連する。「PKCアンタゴニスト」または「PKCインヒビター」は、本明細書中において、PKC酵素を阻害して不活性化PKC酵素を形成し、PKCがその生物学的機能を実施することを予防するか、その予防を容易にし、あるいは、PKCアンタゴニストの活性を模倣して、その模倣物がPKCの生物学的機能を阻害することを可能にする化合物を意味する。アンタゴニストは、例えば、活性化されたPKCが細胞の特異的な領域に転位されて、その結果、PKCが、その生物学的機能を発揮することを防ぎ得る。用語「アンタゴニスト」および「インヒビター」は、本明細書中で交換可能に使用されることに注意が必要である。
【0026】
このようなアゴニストとしては、cPKCアゴニスト(例えば、αPKCアゴニスト、βPKCアゴニスト、βIIPKCアゴニスト、およびγPKCアゴニストが挙げられる);nPKCアゴニスト(εPKCアゴニスト、δPKCアゴニスト、ηPKCアゴニスト、およびθPKCアゴニストが挙げられる);ならびにaPKCアゴニスト(ξPKCアゴニスト、ιPKCアゴニスト、およびλPKCアゴニストが挙げられる)が挙げられる。それぞれのPKCアゴニストは、各々のPKC酵素(例えば、ΨαRACK、ΨβRACK、ΨεRACK、ΨλRACKなど)に存在するΨRACK配列由来であり得る。ペプチドまたはペプチドフラグメントは、そのペプチドが、同一であるアミノ酸配列を有する場合か、あるいはそうでないなら、親ペプチドまたは親ポリペプチドのアミノ酸配列に特定の%の同一性(少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、そして少なくとも約95%の同一性を含む)を有する場合、親ペプチドまたは親ポリペプチド「由来である」。このような定義は、親ペプチドまたは親ポリペプチドまたは親ペプチド模倣物と比較した場合に、その配列の中に少なくとも1アミノ酸の置換を有する、ペプチドまたはペプチド模倣物を包含する。理論に限定されるべきではないが、これらのΨRACK配列は、本明細書中の実施例においてより完全に考察されるように、PKC酵素のそれぞれのRACK結合部位との阻害性の分子内相互作用に少なくとも関連することが見出された。
【0027】
同一性%は、例えば、高度なBLASTコンピュータプログラム(National Institutes of Healthより利用可能な、2.2.9版が挙げられる)を使用して、配列情報を比較することにより、決定され得る。BLASTプログラムは、KarlinおよびAltschul.Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:2264−2268(1990)のアライメント方法に基づき、そしてAltschulら,J.Mol.Biol.215:403−410(1990);KarlinおよびAltschul,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5873−5877(1993);ならびにAltschulら,Nucleic Acids Res.25:3389−3402(1997)で議論されるとおりである。簡単に述べると、BLASTプログラムは、同一性を2つの配列のうち短いのものの記号の全数で除算した同一なアライメントされた記号(すなわち、ヌクレオチドまたはアミノ酸)の数と規定する。このプログラムは、比較されるタンパク質の全長にわたって、同一性%を決定するために使用され得る。例えば、そのプログラムの中のblastpにおいて、短いクエリー配列に関する探索を最適化するために、デフォルトのパラメータが提供される。このプログラムはまた、WoottonおよびFederhen,Computers and Chemistry 17:149−163(1993)のSEGプログラムにより決定されるように、SEGフィルタの使用により、クエリー配列の断片の正体を明らかにすることを可能にする。
【0028】
多種多様なこのようなΨRACK配列は、様々な種(以下のヒト配列が挙げられる)において当該分野で公知である:例えば、ΨεRACK(HDAPIGYD,配列番号3);ΨδRACK(MRAAEEPM,配列番号4);ΨθRACK(KGKNVDLI、配列番号5);ΨηRACK(HETPLGYD、配列番号6);およびΨβRACK(SVEIWD、配列番号7)。RACK配列は、各々のPKCアイソザイムとそのRACKとの相同性領域を探索することにより同定された。εPKCにおいて、例えば、ΨεRACK配列HDAPIGYD(配列番号3;εPKC 85−92)は、アミノ酸NNVALGYD(配列番号1;εRACK 285−292)を構成するεRACKの配列と、約75%の相同性を有する。ΨRACK配列に対応するペプチド(εPKCが挙げられる)は、εPKC選択的アゴニストとして機能する。
【0029】
このアゴニストは、上記の配列(そのフラグメントまたは改変体を含む)の誘導体であり得る。改変体は、本発明におけるアゴニストとして有利に利用され得るペプチドの誘導体を得るために、アミノ酸配列の保存的アミノ酸置換を含む。
【0030】
保存的アミノ酸置換は、選択されたペプチドまたはポリペプチドの活性(例えば、εPKCアゴニスト活性またはΨεRACKアゴニスト活性)または三次構造に有意な変化をもたらさない置換である。このような置換は、代表的に、選択されたアミノ酸残基を、類似の構造、大きさまたは他の物理化学的性質を有する異なる残基で置き換える工程を包含する。例えば、GluのAspへの置換は、保存的置換であるみなされる。なぜならば、この両方は、類似の大きさの、負に荷電したアミノ酸であるためである。物理化学性質なアミノ酸の分類は、当業者に公知である。例えば、以下の群の各々の中のアミノ酸は、同じ群の中のほかのアミノ酸と相互交換可能され得る:脂肪族側鎖を有するアミノ酸(グリシン、アラニン、バリン、ロイシンおよびイソロイシンが挙げられる);非芳香族であり、ヒドロキシルを含む側鎖を有するアミノ酸(例えば、セリンおよびスレオニン);酸性側鎖を有するアミノ酸(例えば、アスパラギン酸およびグルタミン酸);アミド側鎖を有するアミノ酸(グルタミン、およびアスパラギンが挙げられる);塩基性アミノ酸(リシン、アルギニン、およびヒスチジンが挙げられる);芳香族環の側鎖を有するアミノ酸(フェニルアラニン、チロシンおよびトリプトファンが挙げられる);および硫黄を含む側鎖を有するアミノ酸(システインおよびメチオニンが挙げられる)。
【0031】
したがって、εPKCのΨεRACK配列由来の適切なεPKCアゴニストとしては、例えば、HDAPIGYD(配列番号3)ならびにその改変体および/またはフラグメントが挙げられる。この配列としては、以下の配列が挙げられる:配列番号8(HEADIGYD);配列番号9(HDAPIGYE);配列番号10(HDAPVGYE);配列番号11(HDAPLGYE);配列番号12(HDAPIGDY);配列番号13(HDAPIGEY);配列番号14(ADAPIGYD);配列番号15(HDGPIGYD);配列番号16(HDAAIGYD);配列番号17(AEAPVGEY);配列番号18(HEAPIGDN);配列番号19(HDGDIGYD);配列番号20(HDAPIG)および配列番号21(HDAPIPYD)。
【0032】
δPKCのΨδRACK配列由来の適切なδPKCアゴニストとしては、例えば、配列番号4(MRAAEEPV)ならびにその改変体および/またはフラグメントが挙げられる。この配列としては、以下の配列が挙げられる:配列番号22(MRVAEEPV);配列番号23(MRVVEEPV);配列番号24(MRAADEPV);配列番号25(MRAAEEP);配列番号26(MRLLEEPV);配列番号27(MRLAEEPV);および配列番号28(MRAAEE)。
【0033】
ηPKC上のΨηRACK配列由来の例示的なηPKCアゴニストとしては、例えば、HETPLGYD(配列番号6)ならびにその改変体および/またはフラグメントが挙げられる。この配列としては、以下の配列が挙げられる:配列番号29(HDTPLGYD);配列番号30(HDTPLG);配列番号31(HDTPIGYD);配列番号32(HETPAGYD);配列番号33(HETPAGYE);配列番号34(KETPAGYD);配列番号35(KETPVGYD)および配列番号36(KETPVG)。
【0034】
θPKC上のΨθRACK配列由来の例示的なθPKCアゴニストとしては、例えば、KGKNVDLI(配列番号5)ならびにその改変体および/またはフラグメントが挙げられる。この配列としては、以下の配列が挙げられる:配列番号37(RGKNVELA);配列番号38(KNVDLI);配列番号39(RGRNVDLI);配列番号40(KGRNADLI);配列番号41(KGKNVELI);配列番号42(KGKNVELA);配列番号43(KGKQVDLI)および配列番号44(RGKNLDLI)。
【0035】
βPKC上のΨβRACK配列由来の例示的なβPKCアゴニストとしては、例えば、SVEIWD(配列番号7)ならびにその改変体および/またはフラグメントが挙げられる。この配列としては、以下が挙げられる:配列番号45(SAEIWD);配列番号46(SVELWD);配列番号47(TVEIWD);配列番号48(SVEIWE)および配列番号49(SVEIW)。
【0036】
他の適切なアゴニストとしては、本明細書中に記載されるアゴニストのアミノ酸配列(配列番号3〜49が挙げられる)に対して、少なくとも約50%の同一性、さらに少なくとも約60%の同一性、少なくとも約70%の同一性、さらに少なくとも約80%の同一性、およびさらに少なくとも約90%の同一性を有し、そしてそれぞれのPKC酵素についてのアゴニストとして機能するアゴニストが挙げられることが理解される。
【0037】
また、本明細書中に記載されるΨRACK配列はまた、本明細書中に示される残基を越える1つ以上のアミノ酸残基を含み得ることが理解される。例えば、85〜92位のΨεRACK配列(配列HDAPIGYD;配列番号3に対応する)に関して、配列番号93(TDVCNGRKIELAVFHDAPIGYDDFVANCTI)は、εPKCのアミノ酸71〜100の残基の配列を示す。74〜81位のΨδRACK配列(配列MRAAEEPV;配列番号4に対応)に関して、配列番号94(IQIVLMRAAEEPVSEVTV)は、δPKCのアミノ酸69〜86の残基の配列を示す。75〜82位のΨθRACK配列(配列KGKNVDLI;配列番号5に対応)に関して、配列番号95(MQIIVKGKNVDLISETTV)は、θPKCのアミノ酸70〜87の残基の配列を示す。88〜95位におけるΨηRACK配列(配列HETPLGYD;配列番号6に対応)に関して、配列番号96(ELAVFHETPLGYDHFVAN)は、ηPKCのアミノ酸83〜100の残基の配列を示す。241〜246位におけるΨβRACK配列(配列SVEIWD;配列番号7に対応)に関して、配列番号97(KDRRLSVEIWDWDWDL)は、βPKC由来のアミノ酸236〜251の残基の配列を示す。配列93〜96由来であり、εPKCアゴニスト、δPKCアゴニスト、θPKCアゴニストおよびηPKCアゴニストとしての活性を有する配列は、例えば、本明細書中の教示にしたがって、置換位置におけるペプチドの電荷の変化を達成する置換アミノ酸を選択することにより(例えば、置換位置における電荷を減少するか、または増加させることにより)改変されて、その生物学的活性をアンタゴニストの活性へと変換し得る。例えば、負に荷電するか、正に荷電するアミノ酸は、非荷電アミノ酸を置換し得る。本発明の特定の形態において、改変された配列は、そのそれぞれの酵素についての天然のRACKの電子分布により厳密に類似する。
【0038】
PKCアゴニストをPKCアンタゴニストへ変換するのに十分な能力があるPKCアゴニストペプチドに存在するアミノ酸は、本発明の1つの形態において、アゴニストペプチドを、そのそれぞれのRACKタンパク質上のPKC結合部位内の配列に、より近接に類似させるアミノ酸である。したがって、この置換は、アゴニストペプチド上の特定の位置に存在し、そして、置換前に2つの配列の間の同一性%を比較する場合に、PKCアゴニストと、それぞれのRACKタンパク質上のPKC結合部位内の参照配列との間の同一性%を増加させるアミノ酸配列を用いる。置換されるアミノ酸を置き換えるこのようなアミノ酸は、ペプチド内で非保存的アミノ酸置換を提供するアミノ酸を含み得る。
【0039】
ペプチド配列が比較されるRACKタンパク質上の参照配列は、本明細書中で以前に記載されたBLASTプログラム、または当該分野で公知の他の類似のプログラムを使用して、比較される2つの配列を最適にアライメントすることから導き出される配列であり、そして、例えば、約4〜約30アミノ酸、または約5〜約15アミノ酸に相当し得る。それぞれのRACKのPKC結合部位において30アミノ酸より長い参照配列はまた、参照配列に対して構築されたペプチドアンタゴニストを比較する場合(ペプチドアンタゴニストの長さが、約30アミノ酸より長いような状況が挙げられる)に、利用され得ることが理解される。参照配列が、本明細書中で議論されるPKCの種々のアイソタイプから選択され得るような配列の例は、本明細書中で以前に列挙されている。置換されるアミノ酸は、本明細書中に記載されるとおりの別の適切なアミノ酸で置換される場合に、PKC酵素のRACKタンパク質上のPKC結合部位内の配列に対して、同一性%の増加したペプチド配列をもたらし、そして結果として、PKCアゴニストペプチドのPKCアンタゴニストペプチドへの変換をもたらすペプチド中の任意のアミノ酸であり得る。この適切なアミノ酸は、ペプチドまたはペプチド模倣物と、PKC酵素のRACKタンパク質上のPKC結合部位との間の結合親和性を増加させるアミノ酸配列を含む。
【0040】
本発明の他の形態において、PKCアゴニストをPKCアンタゴニストへ変換するのに十分な能力があるアミノ酸は、そのペプチドまたはペプチド模倣物が、そのそれぞれのRACKタンパク質上のPKC結合部位から選択される参照ペプチドの電子分布に、より厳密に近づくことを可能にするか、あるいは、荷電アミノ酸を非荷電アミノ酸で置換する、アミノ酸である。置換されるアミノ酸を置き換えるこのようなアミノ酸は、ペプチド中の非保存的アミノ酸置換を提供するアミノ酸であり得る。例として、8アミノ酸の参照ペプチドが、2位において非荷電アミノ酸を有し、そしてBLASTプログラムを使用して最適にアライメントすると、このアゴニストが、同じ位置に荷電アミノ酸を有する場合に、このアゴニスト中のアミノ酸は、このアゴニストペプチドが、参照ペプチドの特定の位置における電荷をより厳密に近づけ、そしてPKCアゴニストをアンタゴニストへ変換することを可能にするために、非荷電アミノ酸で置換され得る。したがって、PKCアゴニスト中の負に荷電したアミノ酸(例えば、アスパラギン酸、またはグルタミン酸)を、極性の非荷電アミノ酸(例えば、アスパラギンまたはグルタミン)で置換し得、これにより、ペプチド中の置換位置における電荷を減少し得る。いくつかの場合において、所与の配列における極性の非荷電残基は、荷電残基(例えば、正または負に荷電したアミノ酸残基)で置換され得、これにより、ペプチド中の置換位置における電荷を増加して、ペプチド機能における変化を達成することが理解される。
【0041】
アゴニスト中の少なくとも1つのアミノ酸が、置換される。本発明の特定の形態において、2、3、または4以上のアミノ酸が、置換され得る。アゴニスト中の置換され得るアミノ酸の数または%はまた、ペプチドまたはペプチド模倣物中のアミノ酸の数に依存し得る。アゴニストの長さがより長いほど、および/またはこのアゴニストペプチドと、それぞれのRACKのPKC結合部位内の配列との間の同一性%もしくは電子分布の差が大きいほど、より多い置換数が可能である。約8アミノ酸のアゴニスト中の適切な置換数は、約4未満を含む。例として、アゴニストペプチドまたはアゴニストペプチド模倣物のアミノ酸の少なくとも約20%、少なくとも約30%、さらに少なくとも約40%、さらに少なくとも約50%、および少なくとも約60%が、置換され得る。
【0042】
本発明の方法にしたがって、εPKCアゴニストペプチド由来である、εPKC拮抗活性を有し得る例示的なペプチドとしては、配列番号50〜57に示される配列が挙げられる。これらのアンタゴニストは、配列番号12(HDAPIGDY)、配列番号20(HDAPIG)、配列番号16(HDAAIGYD)および配列番号21(HDAPIPYD)(これらは、米国特許第6,165,977号に開示される)として同定される、代替のΨεRACK配列に基づき、そして、例えば、εRACK上のεPKC結合部位内の配列(例えば、NNVALGYD(配列番号1)により類似するように、そして/または、選択されたアミノ酸残基において電荷の変化を含むように改変され得る。これらの代替のΨεRACK配列は、本明細書中に開示される方法にしたがって改変され得、ここで、1つ以上のアミノ酸残基は、ペプチド中の電荷の変化を達成するアミノ酸残基で置換され得る。例えば、配列番号12(HDAPIGDY)は、NのDへの置換により改変されて、配列番号50(HNAPIGDY)および配列番号51(HDAPIGNY)に到達する。配列番号20(HDAPIG)は、NのDへの置換により改変されて、配列番号52(HNAPIG)に到達する。配列番号21(HDAPIPYD)は、NのDへの置換により改変されて、配列番号53(HNAPIPYD)および配列番号54(HDAPIPYN)に到達し得る。さらに、配列番号3(HDAPIGYD)は、最初のDのNへの置換により改変されて、配列番号55(HNAPIGYD)に到達し得る。配列番号16(HDAAIGYD)は、第1または第2のDのいずれかをNで置換することにより改変されて、それぞれ、配列番号56(HNAAIGYD)および配列番号57(HDAAIGYN)に到達し得る。
【0043】
本発明の方法にしたがって、δPKCアゴニストペプチド由来である、δPKC拮抗活性を有し得る例示的なペプチドとしては、配列番号58〜65に示される配列が挙げられる。これらのアンタゴニストは、上記の代替のΨδRACK配列に基づき、そして、本発明によるアンタゴニストを形成するように改変され得る。例えば、配列番号4(MRVAEEPV)は、RをDまたはEへ交換することにより改変されて、それぞれ、配列番号58(MDVAEEPV)および配列番号59(MEVAEEPV)に到達し得る。あるいは、配列番号4(MRVAEEPV)における第2のEは、NまたはQで置換されて、配列番号60(MRVAENPV)および配列番号61(MRVAEQPV)に到達し得る。類似の改変は、例えば、配番号27(MRLAEEPV)に対してなされ、配列番号62(MDLAEEPV)に到達し得る(RをDに交換する);配列番号63(MELAEEPV)(RをEに交換する);配列番号64(MRLAENPV)(第2のEをNで交換する);および配列番号65(MRLAEQPV)(第2のEをQで交換する)。
【0044】
本発明の方法にしたがって、ηPKCアゴニストペプチド由来である、ηPKC拮抗活性を有し得る例示的なペプチドとしては、配列番号66〜69に示される配列が挙げられる。これらのアンタゴニストは、上記のΨηRACK配列および代替のΨηRACKに基づき、そして、本発明によるアンタゴニストを形成するように改変され得る。例えば、配列番号6(HETPLGYD)および配列番号34(KETPAGYD)は、QのEとの置換により改変されて、配列番号66(HQTPLGYD);配列番号67(KNTPAGYD);配列番号68(KQTPAGYD);および配列番号69(KNTPAGYD)に到達し得る。
【0045】
本発明の方法にしたがって、θPKCアゴニストペプチド由来である、θPKC拮抗活性を有し得る例示的なペプチドとしては、配列番号70〜78に示される配列が挙げられる。これらのアンタゴニストは、上記のΨθRACK配列および代替のΨθRACKに基づき、そして、本発明によるアンタゴニストを形成するように改変され得る。例えば、配列番号5(KGKNVDLI)は、第2のKを、DまたはEのいずれかで置換することにより改変されて、配列番号70(KGDNVDLI)および配列番号71(KGENVDLI)に到達し得;EをNで置換して、配列番号72(KGKEVDLI)に到達し得;あるいは、NをDで置換して配列番号73(KGKNVNLI)に到達し得る;同様に、配列番号37(RGKNVELA)は、KをDまたはEのいずれかで置換することにより改変されて、それぞれ、配列番号74(RGDNVELA)および配列番号75(RGENVELA)に到達し得る。さらに、配列番号43(KGKQVDLI)は、NをDで置換することにより改変されて、配列番号76(KGKQVNLI)に到達し得るか、あるいは、第2のKをDまたはEで置換することにより、改変されて、それぞれ、配列番号77(KGDQVNLI)および配列番号78(KGEQVNLI)に到達し得る。
【0046】
本発明の方法にしたがって、βPKCアゴニストペプチド由来である、βPKC拮抗活性を有し得る例示的なペプチドとしては、配列番号79〜85に示される配列が挙げられる。これらのアンタゴニストは、上記のΨβRACK配列および代替のΨβRACKに基づき、そして、本発明によるアンタゴニストを形成するように改変され得る。例えば、配列番号7(SVEIWD)、配列番号45(SAEIWD);配列番号46(SVELWD):配列番号47(TVEIWE);配列番号48(SVEIWE);および配列番号49(SVEIW)は全て、EをKで置換することにより改変されて、配列番号80(SVKIWD);配列番号81(SAKIWD);配列番号82(SVKLWD);配列番号83(TVKIWE);配列番号84(SVKIWE);および配列番号85(SVKIW)に到達し得る。
【0047】
これは、本明細書中に記載される種々のアゴニストにより産生され得るアンタゴニストの網羅的な列挙ではないことが、理解される。本明細書中で記載されるそれぞれのPKCアイソザイムについてか、および/または当該分野で公知の、他の特定の他の類似のPKCアゴニスト配列または代替のΨRACK配列は、本明細書中に記載される方法を使用して改変され得、PKCアンタゴニストを産生する。方法論は、本明細書中に記載される特定の置換を超えて広がることが、本明細書中の記載から理解される。ペプチド中の負に荷電したか、または正に荷電したアミノ酸残基の、極性の非荷電アミノ酸残基との置換は、ペプチドまたはペプチド模倣物の活性における変化を提供するように企図され、極性の非荷電アミノ酸の、正または負に荷電したアミノ酸との置換もまた、同様である。正に荷電したアミノ酸の、負に荷電したアミノ酸との置換、および、負に荷電したアミノ酸の、正に荷電したアミノ酸との置換もまた、想定される。正に荷電したアミノ酸としては、リジン、アルギニン、およびヒスチジンが挙げられる。負に荷電したアミノ酸としては、アスパラギン酸およびグルタミン酸が挙げられる。選択したアミノ酸について置換可能である、極性の非荷電アミノ酸としては、セリン、スレオニン、システイン、チロシン、アスパラギンおよびグルタミンが挙げられる。これらのアミノ酸は、少なくとも生物学的pH(例えば、約pH7)で前述の電荷を有することが期待される。したがって、例えば、リジン、アルギニンおよびヒスチジンは、アスパラギン酸またはグルタミン酸で置換され得る。アスパラギン酸およびグルタミン酸は、例えば、アスパラギン、グルタミン、リジンまたはアルギニンで置換され得る。セリンおよびスレオニンは、例えば、グルタミン酸、アスパラギン酸、グルタミンまたはアスパラギンで置換され得る。
【0048】
本明細書中に記載されるPKCペプチドアゴニストまたはペプチドアンタゴニストは、当業者に公知の方法により得られ得る。例えば、このタンパク質アゴニストおよび/またはアンタゴニストは、当該分野で公知の種々の固相合成技術ならびに、例えば、Williams,Paul Lloydら,Chemical Approaches to the Synthesis of Peptides and Proteins,CRC Press,Boca Raton,FL,(1997)に記載されるような技術を使用して化学合成され得る。さらに、ペプチドを、ペプチド模倣物へ変換する方法もまた、当業者に周知である。
【0049】
あるいは、タンパク質アゴニストまたはタンパク質アンタゴニストは、当業者に周知の組換え技術、ならびに例えば、Sambrookら,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Springs Harbor laboratory,第2版,Cold Springs Harbor,New York(1989);Martin,Robin,Protein Synthesis: Methods and Protocols, Humana Press,Totowa, NJ(1998);およびCurrent Protocols in Molecular Biology(Ausubelら.,編.),John Wiley & Sons(これは、規則的に、かつ周期的にアップデートされる)に記載されるとおりの技術により作製され得る。例えば、発現ベクターは、所望されるペプチドアゴニストまたはペプチドアンタゴニストを、適切な宿主細胞中で産生するために使用され得、次いで、この生産物は、公知の方法により単離され得る。この発現ベクターは、例えば、所望されるペプチドをコードするヌクレオチド配列を含み得、ここで、このヌクレオチド配列は、プロモーター配列に作動可能に連結される。
【0050】
本明細書中で定義される場合、ヌクレオチド配列は、別のヌクレオチド配列と機能的関係のある位置に置かれる場合、別のヌクレオチドに「作動可能に連結」される。例えば、コード配列が、プロモーター配列に作動可能に連結される場合、これは、一般に、プロモーターがコード配列の転写を促進し得ることを意味する。作動可能に連結されたとは、連結されたDNA配列が、代表的に近接し、そして、2つのタンパク質コード領域に結合し、近接し、そして読み枠内にあることを意味する。しかし、エンハンサーは、数キロ塩基対までプロモーターから離れ、そしてイントロン配列が、可変長の中に存在し得る場合に、機能し得ることから、数ヌクレオチドの配列は、連結され得るが、近接しない。さらに、本明細書中で定義される場合、ヌクレオチド配列は、天然のまたは合成のヌクレオチドおよび/もしくはヌクレオシドの直線かつ連続したアレイ、ならびにその誘導体を指すことが意図される。用語「コードする(encoding)」および「コードすること(coding)」とは、ヌクレオチド配列により、転写および翻訳の機構を介して、その情報を、細胞に提供し、その情報から、一連のアミノ酸が、特定のアミノ酸配列へと組み立てられて、ポリペプチドを産生するプロセスをいう。
【0051】
アゴニストまたはアンタゴニストは、天然のアミノ酸(例えば、L−アミノ酸)、または非天然のアミノ酸(例えば、D−アミノ酸)を含み得る。ペプチド中のアミノ酸は、ペプチド結合により連結され得るか、または改変されたペプチド(本明細書中に記載されるペプチド模倣物が挙げられる)においては、非ペプチド結合により連結され得る。
【0052】
アミノ酸を連結するアミド結合に対する多種多様な改変が、なされ得、そしてこれは当該分野において公知である。このような改変は、一般的な論評(Freidinger,R.M.「Design and Synthesis of Novel Bioactive Peptides and Peptidomimetics」J.Med.Chem.46:5553(2003),およびRipka,A.S.,Rich,D.H.「Peptidomimetic Design」Curr.Opin.Chem.Biol.2:441(1998))で議論される。これらの改変は、2つの方法の内の一方でペプチドの性質を改善するために設計される:(a)立体配座の柔軟性を制限することにより、ペプチドの効力を増加させる;(b)非分解性の部分をペプチドに導入することにより、ペプチドの半減期を増加させる。
【0053】
ストラテジー(a)の例としては、アミド結合の窒素またはα炭素上にさらなるアルキル基を配置すること(例えば、Zuckermanらのペプトイドストラテジー)、および、例えばGoodman,M.らのα改変(Pure Appl.Chem.68:1303(1996))が、挙げられる。アミドの窒素およびα炭素は、ともに連結されて、さらなる制限を提供し得る(Scottら,Org.Letts.6:1629−1632(2004))。
【0054】
ストラテジー(b)の例として、アミド結合の、例えば、ウレア残基(Patilら,J.Org.Chem.68:7274−7280(2003))、またはアザ−ペプチド連結(ZegaおよびUrleb,Acta Chim.Slov.49:649−662(2002))による置換が挙げられる。他の例もまた周知である:例えば、銀にさらなる炭素(「beta peptides」,Gellman,S.H.Acc.Chem.Res.31:173(1998))、またはエテン単位(Hagiharaら,J.Am.Chem.Soc.114:6568(1992))を導入すること、またはヒドロキシエチレン部分の使用(Patani,G.A.,Lavoie,E.J.Chem.Rev.96:3147−3176(1996))。1つ以上のアミノ酸は、等配電子の部分(例えば、ピロリノン(Hirschmannら,J.Am.Chem.Soc.122:11037(2000))、またはテトラヒドロフラン(Kulesza,A.ら,Org.Letts.5:1163(2003)))により置換され得る。
【0055】
本発明のさらに別の局面において、インビトロまたはインビボにおいて、PKCアンタゴニストを投与することにより、PKC酵素(例えば、εPKC)の活性を調節する方法が、提供される。PKCアンタゴニストは、ぺプチド(すなわち、アミノ酸配列)、またはそのペプチドの作用に刺激するように選択されたペプチド模倣物の有機分子であり得る。例として、プロテインキナーゼC(PKC)酵素の活性を阻害する方法が、提供される。1つの形態において、方法は、PKC酵素をPKCインヒビターペプチドまたはPKCインヒビターペプチド模倣物と接触させる工程を包含し、ここでこのペプチドまたはペプチド模倣物は、PKCアゴニストペプチドまたはPKCアゴニストペプチド模倣物由来であり、そしてここで、アゴニストペプチドまたはアゴニストペプチド模倣物中の少なくとも1つのアミノ酸は、このアゴニストペプチドまたはアゴニストペプチド模倣物をアンタゴニストペプチドまたはアンタゴニストペプチド模倣物へ変換するのに十分な能力がある別のアミノ酸で置換される。使用に適切なこのアゴニストペプチドは、本明細書中で以前に記載されているとおりである。アゴニストペプチドまたはアゴニストペプチド模倣物をアンタゴニストペプチドまたはアンタゴニストペプチド模倣物へ変換しやすいアミノ酸置換もまた、本明細書中で以前に記載されている。
【0056】
本発明のさらに別の局面において、PKC酵素により調節される状態を処置する方法が、提供される。1つの形態において、方法は、治療有効量のペプチドまたはペプチド模倣物を、それらを必要とする患者へ投与する工程を包含し、このペプチドまたはペプチド模倣物は、対応するPKCアイソザイムの拮抗性の調節因子として作用する。1つのPKCアンタゴニストまたはPKCアンタゴニストとの組み合わせが、投与され得る。このようなアンタゴニストは、本明細書中で以前に記載されたアンタゴニストである。
【0057】
PKCにより調節される多種多様な疾患または状態は、処置され得る。本明細書中で処置される疾患または状態は、代表的に、それぞれのPKCアイソザイムの活性の増加に関連する疾患または状態であり、そしてPKCアンタゴニストの投与から恩恵を被る。1つの例として、種々の炎症性疾患および線維症疾患は、εPKCの活性の増加に関連している(Aksoy,E.ら,Int.J.Biochem.Cell.Biol.36:183−188(2004);Fang,Q.ら,Eur.Respir.J.24:918−924(2004))。
【0058】
したがって、εPKCアンタゴニストを用いた処置に影響を受けやすい状態としては、例えば、線維症疾患(肺線維症または強皮症)、および炎症性疾患(例えば、炎症性腸疾患、敗血症性ショック、アレルギー性鼻炎が挙げられる);肺疾患(慢性閉塞性肺疾患およびぜん息が挙げられる);自己免疫疾患(多発性硬化症、ギャン−バレー症候群、乾癬、グレーブス病、慢性関節リウマチが挙げられる)、および免疫媒介性の糖尿病(1型真性糖尿病が挙げられる)が挙げられる。
【0059】
本明細書中に記載されるインヒビターは、融合タンパク質の一部となることにより改変され得る。この融合タンパク質は、ペプチドインヒビターの細胞内摂取を増加させるように機能するタンパク質またはペプチドを含むか、別の所望される生物学的効果(例えば、治療効果)を有するか、あるいはこれらの機能の両方を有し得る。例えば、εPKCまたは他のペプチドアンタゴニストもしくはペプチド模倣物アンタゴニストを、サイトカインまたは所望される生物学的応答を誘発する他のタンパク質に共役するか、あるいはそうでないなら付着することが、所望であり得る。この融合タンパク質は、当業者に公知の方法により産生され得る。このインヒビターペプチドは、当該分野で公知の種々の手段で、別のペプチドへ結合されるか、またはそうでないなら、共役され得る。例えば、インヒビターペプチドまたはインヒビターペプチド模倣物は、架橋を介して、キャリアペプチドまたは本明細書に記載される他のペプチドに結合され得、ここで、融合タンパク質の両方のペプチドは、その活性を保持する。さらなる例として、このペプチドは、一方のぺプチドのC末端から他方のペプチドのN末端へのアミド結合により、互いに連結され得るか、またはそうでないなら共益され得る。インヒビターぺプチドと、融合タンパク質の他のメンバーとの間の連結は、ペプチド結合により切断不可能であるか、あるいは、例えば、エステルまたは当該分野で公知のほかの切断可能な結合により切断可能であり得る。
【0060】
さらに、本発明の他の形態において、ペプチドアンタゴニストの細胞内摂取を増加し得るキャリアタンパク質またはペプチドは、例えば、Drosophila Antennapediaホメオドメイン由来の配列(配列番号91(CRQIKIWFQNRRMKWKK)で示される)であり得、そしてN末端のCys−Cys結合を介する架橋によるインヒビターへ結合され得る(Theodore,L.ら J.Neurosci.15:7158−7167(1995);Johnson,J.A.ら,Circ.Res 79:1086(1996)において議論される)。あるいは、インヒビターは、1型ヒト免疫不全ウイルス由来のトランス活性化調節タンパク質(Tat)由来の輸送ポリペプチド(例えば、配列番号92に示されるTatのアミノ酸47〜57(YGRKKRRQRRR))(Vivesら,J.Biol.Chem,272:16010−16017(1997)、米国特許第5,804,604号およびGenBank登録番号AAT48070に記載される)、あるいは、ポリアルギニン(Mitchellら,J.Peptide Res.56:318−325(2000)およびRolhbardら,Nature Med.6:1253−1257(2000)に記載される)により改変され得る。このインヒビターは、インヒビターの細胞摂取を増加するために、当業者に公知の他の方法により改変され得る。
【0061】
このインヒビターは、種々の形態で有利に投与され得る。例えば、このインヒビターは、溶液または懸濁液中で舌下投与のために錠剤形態で投与され得る。このインヒビターはまた、薬学的に受容可能なキャリアまたはビヒクルと混合され得る。このキャリアは、例えば非経口投与に適切な液体(水、生理食塩水、または他の水溶液が挙げられる)であっても、油であってもよい。このキャリアは、静脈内投与または関節内投与のために選択され得、そして、当該分野で公知の防腐剤、静菌剤、緩衝液および抗酸化剤を含有し得る、滅菌水溶液または滅菌非水性溶液を含み得る。錠剤形態において、固体キャリアとしては、例えば、ラクトース、デンプン、カルボキシメチルセルロース、デキストリン、カルシウム、ホスフェート、炭酸カルシウム、合成カルシウムまたは天然カルシウムの割り当て、酸化マグネシウム、乾燥水酸化アルミニウム、ステアリン酸マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、乾燥酵母、またはこれらの組み合わせが挙げられ得る。この錠剤は、好ましくは、口内での溶解を補助する1つ以上の薬剤を含む。このインヒビターはまた、当該分野で公知の他の類似の薬物が投与される形態で投与され得る。
【0062】
このインヒビターは、種々の経路により患者へ投与され得る。例えば、このインヒビターは、非経口(腹腔内、静脈内、関節内、皮下、または筋肉内が挙げられる)で投与され得る。このインヒビターはまた、粘膜表面(直腸内、および膣内が挙げられる);鼻内(吸入が挙げられる);舌下;眼内および経皮により投与され得る。これらの投与経路の組み合わせもまた、想定される。
【0063】
治療有効量のεPKCまたは他のインヒビターペプチドが、提供される。本明細書中で使用される場合、インヒビターの治療有効量は、特定の疾患または状態に付随する症状を減少させるか、あるいは排除するために必要とされるインヒビターの量である。このような臨床エンドポインド(clinical endpoint)は、多種多様な疾患または状態について当該分野で周知である。この量は、それぞれのPKC酵素の活性を調節する(例えば、減少する)のに有効な量を含む。例えば、治療有効量は、PKC酵素の細胞内活性(キナーゼ活性、PKC酵素転位活性が挙げられる)に影響を及ぼし、そして/または、その他にPKCがその生物学的機能を果たすことを防ぐのに有効な量を含む。この量は、当該分野で公知の投与経路、処置期間、使用される特定のインヒビター、特定の疾患または状態、および患者の健康に依存して変動する。当業者は、最適な投薬量を決定することができる。一般に、代表的に利用されているインヒビターの量は、例えば、体重1kgあたり約0.0005mg〜約20mgであるが、好ましくは、約0.001mg/kg〜約5mg/kgであり得る。
【0064】
処置されるべき患者は、代表的には、このような処置を必要とする患者(PKCアンタゴニストでの処置に影響を受けやすい特定の疾患または状態により影響を受ける患者が挙げられる)である。患者は、さらに代表的には、脊椎動物、好ましくは哺乳動物(ヒトが挙げられる)である。処置され得る他の動物としては、家畜(例えば、ウマ、ヒツジ、ウシおよびブタ)が挙げられる。処置され得る他の例示的な動物としては、ネコ、イヌ;げっ歯類(げっ歯目のげっ歯類が挙げられる(例えば、マウス、ラット、アレチネズミ、ハムスター、およびモルモット));ウサギ目のメンバー(ウサギおよびノウサギが挙げられる)、およびこのような処置から恩恵を受け得る任意の他の哺乳動物が挙げられる。患者は、好ましくは、インビボで処置される。
【0065】
したがって、PKCペプチドアンタゴニスト(本明細書中に記載されるεPKCアンタゴニストが挙げられる)は、εPKCの転位、または他の活性に関する状態の処置のために治療剤としての用途が発見される。PKCアンタゴニストの投与は、例えば、転位およびその後のシグナル伝達事象のカスケードを阻害する。アンタゴニストはまた、虚血および他の状態におけるPKCアイソザイムの効果に対する研究において、用途が発見され、そしてまた、拮抗活性を有するか、またはペプチドの模倣物として作用する治療剤の設計において、スクリーニングの補助として使用され得る。
【0066】
ここで、上記の本発明を例示する特定の実施例に対して、参照がなされる。実施例は、好ましい実施形態を例示するために提供され、これにより本発明の範囲に対する限定が意図されないことが理解されるべきである。さらに、本明細書中で引用された全ての文書は、当該分野における技術レベルを表しており、その全体が、本明細書により参考として援用される。
【実施例】
【0067】
(実施例1)
(心筋細胞に対するN−ΨεRACKの効果)
(A.ペプチドの調製および細胞への送達)
以下のペプチドを、従来の技術により、合成し、そして精製した(95%より高く):
ΨεRACK(配列番号3、HDAPIGYD、εPKCアミノ酸残基85−92);
N−ΨεRACK(配列番号55、HNAPIGYD);
A−ΨεRACK(配列番号79、HAAPIGYD);
εV1−2(配列番号86、EAVSLKPT;εPKCアミノ酸残基14〜21、そして米国特許第6,165,977号に記載される);
ΨβRACK(配列番号7、SVEIWD、βPKCアミノ酸241−246)。
【0068】
このぺプチドは、未改変であるか、あるいは、N−末端Cys−Cys結合を介してDrosophila Antennapediaホメオドメイン由来のキャリアペプチド(配列番号6,C−RQIKIWFQNRRMKWKK)(Derossi,D.ら,J.Biol.Chem.269:10444−10450,(1994);Derossi,D.ら,J.Biol.Chem.271:18188−18193,(1996);Theodore,L.ら,J.Neurosci.15:7158−7167,(1995))に架橋したかのどちらかであった。このキャリアペプチド(配列番号6)を、コントロールペプチドとして使用した。
【0069】
一次心筋細胞培養物(90〜95%純度)を、前述のように新生児ラットから調製した(Gray,M.O.ら,J.Biol.Chem.272:30945−30951,(1997);Disatnik,M.−H.ら,Exp.Cell Res.210:287−297,(1994))。ペプチド(適用された濃度は100nM〜1μM)を、コントロールとしての見せ掛けの透過とともに、一過性の透過により細胞内に導入するか(Johnson,J.A.ら,Circ.Res.79:1086−1099,(1996))、あるいは、コントロールとしてキャリア−キャリアのダイマーとともに、キャリア−ペプチドの結合体として細胞内に導入した(30nM〜1μM)(Derossi,D.ら,前述(1994);Derossi,D.ら,前述(1996);Theodore,L.ら,前述(1995))。
【0070】
細胞を、ペプチドの非存在下、または存在下で10〜20分間処理し、次に、1nM ホルボール12−ミリステート13−アセテート(PMA)を用いてか、または用いずに10分間または20分間さらにインキュベートした。あるいは、細胞を、100nM PMA(ポジティブコントロール)を用いて10分間インキュベートするか、またはPMAの非存在下でインキュベートした。
【0071】
(B.心筋細胞の収縮頻度の測定)
心筋細胞の収縮頻度の測定を、実質的に以前に記載されたとおりに実施した(Johnson,J.A.ら,J.Biol.Chem.271:24962−24966,(1996))。簡単に述べると、35mmプレート上で培養した心筋細胞を、37℃において、温度調節装置(Medical Systems Corp.)に置き、そして倒立顕微鏡(Carl Zeiss Inc.)のステージ上に配置した。1つの顕微鏡内の視野において、4つの細胞の収縮頻度を、2分間ごとに各々15秒間定量した。基底収縮頻度(約300ビート/分)は、長い時間にわたり、安定であった。
【0072】
(結果)
上記のように、配列番号1〜5により表されるペプチドを、合成し、そして精製した。詳細には、ΨεRACK(配列番号3、HDAPIGYD)、 N−ΨεRACK(配列番号55、HNAPIGYD)、A−ΨεRACK(配列番号79、HAAPIGYD);εV1−2(配列番号86、EAVSLKPT);ΨβRACK(配列番号7、SVEIWD)を、調製した。これらのペプチドを、改変しないか、あるいは、N末端Cys−Cys結合を介して、Drosophila Antennapediaのホメオドメイン由来のキャリアペプチド(配列番号81、C−RQIKIWFQNRRMKWKK)に架橋した。
【0073】
配列番号3、配列番号55および配列番号79のペプチドを、新生児ラットから調製した心筋細胞培養物内に、コントロールとしての見せ掛けの透過とともに、一過性の透過により導入するか、あるいは、コントロールとしてキャリア−キャリアのダイマーとともに、キャリア−ペプチドの結合体として導入した。この細胞を、ペプチドの非存在下、または存在下で10〜20分間処理し、次に、ホルボール12−ミリステート13−アセテート(PMA)を用いてか、または用いずに10分間または20分間さらにインキュベートした。あるいは、細胞を、100nM PMAを用いて10分間インキュベートする(ポジティブコントロール)か、またはPMAの非存在下でインキュベートした。ペプチドおよび/またはPMAの効果を、実施例1Bに記載されるように、筋細胞の収縮頻度を測定することにより、決定した。
【0074】
図1Aは、ΨεRACKで処理し(三角形)、およびコントロールペプチドで処理し(正方形)、次に、実験の開始から約30分後に培地に添加されたPMAでのインキュベーションについての結果を示す(PMAの添加を、図1Aのグラフ上の矢印により示す)。細胞に対するΨεRACKペプチドの適用から約10分後、コントロール細胞と比較して心筋細胞の収縮頻度の減少が誘導された。ΨεRACKの存在下で観察された減少は、PMAの添加によりかなり増強された。このことは、心筋細胞の収縮頻度の減少を誘導することが公知である(Johnson,J.A.ら,J.Biol.Chem.,271:24962(1996))。
【0075】
図1Bは、新生児ラットの心筋細胞の収縮頻度の減少%を示す。この減少%は、細胞の基底収縮頻度に対するものであり、この細胞は、1分間あたり約300ビートで自然に、かつ安定にうつ。ΨεRACKペプチドで処理した細胞は、ペプチド添加の20分後に、コントロールペプチドで処理した細胞についての2±1%と比較して、収縮頻度において、ΨεRACKについての基底頻度から9±2%の減少を有した。PMAとともにΨεRACKで処理した細胞は、基底収縮頻度から44±6%の減少を経験し、対して、PMA単独での処置は、わずか11±4%の減少を引き起こした。
【0076】
引き続き図1Bを参照して、細胞を、εPKC特異的インヒビターペプチド(εV1−2)で処理して、収縮頻度に対するΨεRACKの効果は、その能力に起因してεPKCの転位を誘導し、そこから、誘導する場合に、εPKC選択的転位インヒビターが、転位を阻害するか否かを、決定した。実際には、図1Bに示すように、心筋細胞の収縮に対するΨεRACKの効果を、εPKC特異的インヒビターペプチドεV1−2の事前の適用により、無効にした。さらに、ΨεRACK効果が、εPKCの触媒活性の増加に起因する場合、この効果は、触媒活性のインヒビターにより無効にされるはずである。示されるように、非選択的PKCインヒビターのケレリスリン(che)が、ΨεRACKにより誘導される調律運動の変化(negative chronotropy)を阻害した。これらのデータは、新生児の心筋細胞における陰性の調律運動の変化を誘導するために、εPKC活性化が必要とされ、そして誘導するのに十分であることを、実証する。
【0077】
図1A〜1Bにおける結果は、ΨεRACKは、心筋細胞における収縮頻度の抑制を刺激することを確実にする。この方法論は、εPKCの転位に対して、他のペプチドおよびペプチド模倣物の効果を定量するための手段を提供する。このようにして、配列HNAPIGYD(配列番号55)を有するペプチドを設計し、N−ΨεRACKとして、本明細書中で参照する。この配列は、アスパラギン酸(D)(負に荷電したアミノ酸)を、アスパラギン(N)(極性の非荷電アミノ酸)へ置換することを除いて、ΨεRACK(HDAPIGYD、配列番号3)と同一である。心筋細胞の収縮頻度に対するN−ΨεRACKの効果を、研究した。その結果を、図2A〜2Cに示す。
【0078】
図2Aは、コントロールペプチド(正方形)、またはN−ΨεRACK(菱形)での処理後の時間の関数として、新生児ラットの心筋細胞の収縮頻度を示す。上および実施例1において議論するように、収縮頻度を、基底収縮頻度に対する収縮頻度の減少%として表現する。ΨεRACKと対照的に、N−ΨεRACKで処理した細胞の収縮頻度は、図2A〜2Bに提示されるデータの最初の20分間の間(PMA処理の前)、コントロールペプチドで処理した細胞とほとんど等しかったという事実に見られるように、N−ΨεRACKは、心筋細胞の収縮頻度に対する拮抗効果を有さなかった。この細胞を、ペプチド処理から約20分後に、PMAで処理し、図2A〜2Bに見られるように、約20分間より長い時間において、N−ΨεRACKは、εPKCのアンタゴニストとして作用した。すなわち、N−ΨεRACKは、PMAにより誘導される収縮頻度の減少を軽減することができた。図2Bに見られるように、ΨεRACKは、5nM PMAにより誘導される収縮頻度の減少を軽減した。本明細書中には示さない研究において、N−ΨεRACKは、10nM PMAにより誘導される収縮頻度における減少を、PMA添加後40分間で、47±3%〜24±5%軽減した(n=4;P<0.05)。
【0079】
図2Cは、N−ΨεRACKで処理した心筋細胞(菱形)についての収縮速度の減少%を示す。N−ΨεRACKでの処理から約15分後、この細胞を、15分の時点の矢印で示されるように、さらにΨεRACKで処理した。15分の時点でΨεRACKで処理したコントロール細胞(三角形)は、収縮頻度において直接的な減少を示した;しかし、N−ΨεRACKと、ΨεRACKとの両方で処理した細胞は、収縮頻度においてほとんど変化を示さなかった。30分の時点における細胞のPMAでの処理により、N−ΨεRACKで処理しないコントロール細胞において、収縮頻度のさらなる減少を誘導した。しかし、N−ΨεRACKで処理した細胞は、収縮頻度における10%未満の減少を有し、このことは、N−ΨεRACKは、収縮頻度の減少において、ΨεRACKとPMAとの合わせた効果を、ほとんど完全に無効にし得ることを示す。したがって、N−ΨεRACKは、心筋細胞において、εPKC機能のアゴニストとして作用する。
【0080】
理論に限定されるわけではないが、ΨεRACKおよびN−ΨεRACKの両方は、εpKCのRACK結合部位に結合することが企図される。ΨεRACKは、RACK結合部位とΨεRACK配列との間の分子内相互作用に逆に干渉することにより、作用し、対照的に、N−ΨεRACKは、RACK結合部位とεRACKとの間の分子間相互作用に干渉することにより、作用する。ペプチドは、酵素のその基質への接触に影響を及ぼすか、またはεPKCの翻訳後改変(例えばリン酸化;リン酸化は、従来PKCアイソザイムの活性化および転位を調節する)に影響を及ぼす可能性もある。本明細書中で記載される実施例において、荷電アミノ酸を、非荷電アミノ酸で置換して、内因性アンカータンパク質により厳密に類似するペプチドに到達した。任意の配列についての同属のレセプターの配列は、置換の確認における指針を提供する。
【0081】
(実施例2)
(εPKCの転位に対するN−ΨεRACKの効果)
新生児ラットおよび成体ラットの心筋細胞における特異的PKCアイソザイムの転位を、以前に記載されたように(Johnson,J.A.およびMochly−Rosen,D.,Circ.Res.76:654−663,(1995))、処理した細胞の細胞質ゾル画分および粒子画分のウェスタンブロット分析(Santa Cruz Biotechnology, Inc.)においてPKCアイソザイム特異的抗体を使用することにより、ペプチド処理後に、評価した。簡単に述べると、ペプチド処理後の細胞を、ホモジナイズし、分画し、そしてウェスタンブロットにより分析した。最初にブロットを、抗εPKCでプローブし(図3A)、次にはがし、そして抗αPKCについて再度プローブした(図3B)。転位%(細胞内のPKCの全量にわたる、粒子画分中のPKCの量)を、図3A〜3Bのヒストグラムに示す。
【0082】
(結果)
ウェスタンブロット解析を使用して、εPKCの、細胞質ゾルから細胞下の粒子画分への転位(PKC活性化の特徴)を評価した。N−ΨεRACKペプチドまたはΨεRACKペプチドを、PMAの用量(1nM)の存在下にて、一過性の透過により細胞内へ導入した。実施例2に記載されるように、次いで、この細胞をホモジナイズし、分画し、そしてウェスタンブロットにより分析した。最初にブロットを、抗εPKCでプローブした(図3A)。次いで、このブロットをはがし、図3Bに示されるように、抗αPKCで再度プローブした。転位%を、細胞のPKCの全量にわたる粒子画分のPKCの量として図3A〜3Bにヒストグラムで示す。ウェスタンブロットは、N−ΨεRACKが、PMAにより誘導される転位を阻害し、したがって、PMAおよびΨεRACKにより誘導されるεPKC転位のアンタゴニスト、そしてεPKC機能のアンタゴニストであることを示す(図2)。
【0083】
(実施例3)
(虚血からのΨεRACKに誘導される保護に対するN−ΨεRACKの効果)
心筋細胞を、以前に記載された(Chenら,Proc.Natl.Acad.Sci.,96(22):12784(1999))とおりに、成体雄ラットから単離した。インキュベーション緩衝液中の筋細胞を、実施例1に記載されたように調製した、ペプチドまたはペプチドの組み合わせで、15分間処理した。次いで、筋細胞を、窒素で飽和した脱気したインキュベーション緩衝液中で、1分間1000rpmにてペレット化し、37℃にて3時間インキュベーションして虚血を刺激した。細胞の損傷を、トリパンブルーの除去により、3時間後に評価し、損傷を有する細胞%を、以前に記載された(Chenら,Proc.Natl.Acad.Sci.,96(22):12784(1999))ように、決定した。
【0084】
(結果)
ΨεRACK(配列番号1)は、細胞に投与される場合、虚血に対する保護を与える(Dornら,Proc.Natl.Acad.Sci.,96(22):12798(1999))。この実施例において、虚血エピソードに曝露された細胞に対するN−ΨεRACKの効果を、評価した。さらに、配列HAAPIGYD(配列番号3)を有するペプチドを(A−ΨεRACKと称される)を調製して、ΨεRACK(HDAPIGYD;配列番号3)におけるアスパラギン酸残基(D)の変化の効果を決定し、そこから、この残基が、アゴニストとしてのペプチドの作用に重要である場合、そのアラニン(A)(非荷電の、非極性アミノ酸)への置換により、ペプチドを不活性にさせるはずである。心臓の保護に対するこのペプチドの効果もまた、評価した。この実施例において記載されるように、心筋細胞を、虚血を刺激する前に、ΨεRACKペプチド、N−ΨεRACKペプチド、A−ΨεRACKペプチド、εV1−2ペプチド、およびこれらのペプチドの種々の組み合わせで処理した。虚血エピソードの刺激の後に、細胞損傷を、トリパンブルー色素排除により、評価した。結果を、図4に示す。
【0085】
図4は、虚血エピソードから得られた、ラット心筋細胞に対する細胞損傷の%を示す棒グラフである。虚血に供されない筋細胞を、各々の棒の透明な領域で表し、虚血損傷の%を、黒く塗った領域により表す。PKC活性に対するコントロールとして、筋細胞を、ケレリスリン(chelerythrine)(che)およびΨεRACKペプチドの組み合わせで処理した。ΨεRACKペプチドによる処理は、虚血により誘導される細胞損傷を、60%まで減少した。しかし、N−ΨεRACKおよびA−ΨεRACKは、虚血に対する応答の効果を有さず、このことは、アスパラギン酸の、アスパラギンまたはアラニンへの変化は、ΨεRACKのアゴニスト活性の喪失をもたらすことを示す。さらに、N−ΨεRACKとΨεRACKとの組み合わせは、虚血性の損傷からの保護を無効にした。選択的インヒビター(εV1−2)またはPKC触媒活性のインヒビター(Che)を用いた、εPKCの阻害は、ΨεRACKにより誘導される保護効果を取り消した。N−ΨεRACKは、ΨεRACKにより誘導される保護を無効にし、これに対して、不活性なペプチド(A−ΨεRACK)は無効にせず、このことは、N−ΨεRACKは、εPKCインヒビターであることを示す。
【0086】
これらの知見は、1個のアミノ酸置換(εRACK配列に対するΨεRACKの類似性を増加する)は、アゴニスト活性の喪失、およびアンタゴニスト活性の取得をもたらすことを示す。ΨεRACKペプチドアゴニストは、PKCの、そのRACKまたは脂質との分子間相互作用を変更することなく、PKCの分子内相互作用に干渉する。さらに、このペプチドを、εPKC上のRACK結合部位の少なくとも一部に曝露し、次いで、εRACKにより置換されて、十分な活性を得る。対照的に、N−ΨεRACKペプチドは、RACK結合部位とΨεRACKとの間の分子間相互作用だけではなく、εPKCとεRACKとの間の分子内相互作用にも干渉する。εPKCとεRACKとの間の相互作用が阻害されることから、転位およびεPKCの機能もまた、結果として阻害される。
【0087】
(実施例4)
(異なるΨεRACKのεPKC変異体のプロテアーゼ分解に対する感受性)
ΨεRACKのD86部位が、RACK結合部位との分子内相互作用において、係合される場合、D(86)N変異体は、より閉じた状態(closed state)で存在し得、したがって、タンパク質分解により耐性である。対照的に、D(86)A変異体は、開いた立体配座を支持するはずであり得、したがって、タンパク質分解により感受性であるはずである。この仮説を試験するために、昆虫細胞内で発現されたεPKC Wtおよび変異体を、εPKCについて以前に示したように(Orr,J.W.ら,J.Biol.Chem.267:15263−15266(1992))、エンドペプチダーゼ(Arg C)によりタンパク質分解に供した。Arg Cによる分解を、全長εPKCの減少によりモニタリングした。
【0088】
(材料)
制限酵素を、New England Biolabsより得た。抗εPKC V5抗体を、Santa Cruz Biotechnologyより得た。
【0089】
(細胞培養)
CHO−Hir細胞(BioImage A/S, Soeborg, Denmarkより好意で提供された)を、glutamax(Gibco−Brl)、10%ウシ胎仔血清(米国で認可された、Gibco−Brl)、および抗生物質(100単位/mlペニシリンおよび100μg/ml硫酸ストレプトマイシン、Gibco−Brl)を補充した、F−12(HAM)培養混合物の培地に維持した。MCF7細胞(James Ford,Stanford Universityからの贈与物)を、5% FBSおよび抗生物質を補充したRPMI 1640培地(Gibco−Brl)中に維持した。細胞を、37℃、5% COにて培養した。昆虫細胞を、26℃で増殖し、Sf9細胞を、10%ウシ胎仔血清(Gibco−Brl)および抗生物質を補充したSF900II SFM培地、Gibco−Brl)で培養した。Hi5昆虫細胞を、抗生物質を含有するInsect Xpress(Bio Whittaker)で培養した。
【0090】
(構築物)
これらの研究において使用したEGFP−εPKC構築物は、BioImage A/S,Soeborg,Denmarkより好意で提供された。この構築物は、GenBank登録番号X65293で受託されたヒトεPKC配列と比較して、2つのアミノ酸置換(Q(34)AおよびS(336)G)を含んだ。このクローンの部位特異的変異誘発を、Quick Change特定部位変異誘発キット(Stratagene)を製造者の指示書に従って使用して実施した。この部位特異的変異誘発について使用したプライマーは:D(86)Nについて、順方向プライマー(5’−GTAGCCTATGGGGGCATTGTGAAAGACAGCCAG−3’)(配列番号87)、および逆方向プライマー(5’−CTGGCTGTCTTTCACAATGCCCCCATAGGCTAC−3’)(配列番号88)であった。D(86)Aについて、順方向プライマー(5’−CTGGCTGTCTTTCACGCTGCCCCCATAGGCTAC−3’)(配列番号89)、および逆方向プライマー(5’−GTAGCCTATGGGGGCAGCGTGAAAGACAGCCAG−3’)(配列番号90)であった。εPKC変異体を完全に配列決定し、XholおよびBamH1(New England Biolabs)部位に切断して、pEYFPC1およびpECFP C1(Clontech)に再度ライゲーションすることにより、サブクローン化した。バキュロウイルス発現系における発現について、GFP−εPKCを、XholおよびBamHIで切断して、インサートを放出し、Klenow(New England Biolabs)で満たし、そしてSmaI(New England Biolabs)で消化したpvL 1392(BD Biosciences)にクローン化した。これらの研究において使用した、PZeoSVへクローン化したヒトεRACK構築物は、BioImage A/S, Soeborg, Denmarkより好意で提供された。εRACKインサートを、Sca1(New England Biolabs)およびXho1で切断することにより放出し、Klenowで端部を平滑にし、そしてPacG3X(BD Biosciences)のSma1部位へ再度ライゲーションした。εRACKを、GST融合タンパク質として発現させた。
【0091】
(一過性のトランスフェクション)
CHO−Hir細胞、MCF−7細胞およびHi5細胞のトランスフェクションを、FUGENE6(Roche)を使用して、製造者の指示書に従って、実施した。
【0092】
(昆虫細胞タンパク質の発現)
バキュロウイルスを、Sf9細胞で産生し、全てのタンパク質を、Hi5細胞で発現した。全ての構築物の発現は、トランスフェクション後72時間で最適であった。感染されたHi5細胞を、ホモジナイズ緩衝液(20mM Tris−HCl(pH7.5)、2mM EDTA、10mM EGTA、0.25Mスクロース、12mM βME、およびプロテアーゼインヒビター:ロイペプチン(25μg/ml)、アプロチニン(25μg/ml)、PMSF(17μg/ml)、SBTI(20μg/ml)、E64(25μg/ml)(Sigma))で溶解した。49000gにて30分間スピン後に、可溶性画分を単離し、その上清を、さらに使用するまで、−20℃にて50%グリセロール中で保存した。
【0093】
(Arg Cタンパク質分解アッセイ)
Arg C消化を、記載されるとおりに実施した(Orr,J.W.ら,J.Biol.Chem.267:15263−15266(1992))。約70ngのPKCを含有する粗昆虫細胞溶解物(標準(PKC(PanVera))とのウェスタンブロット比較により決定した)を、室温にて、20μlのエンドプロテイナーゼArg C(Boehringer Mannheim 25ユニット/ml)を含む520μlの20mM Tris(pH7.4)で消化した。アリコートを、8% SDS−PAGEゲル上で指定された時点において取り出し、次に抗εPKC抗体を使用してウェスタンブロットを行った。
【0094】
(統計分析)
定量分析について、オートラジオグラフを走査し、そしてNIH画像化ソフトウェアを使用して定量した。吸光度データの分析を、MetaMorph(登録商標)(Universal Imaging Corporation)を使用して実施した。統計的有意差を決定するために、a1テイル2型のT検定(Microsoft excel)を使用した。時間の経過による曲線の有意差を、2つの様式のANOVA試験(Stat View(登録商標))を使用して決定した。
【0095】
(結果)
これらの実験条件下で、D(86)A変異体は、野生型(Wt)酵素を比較した場合に、Arg Cによる分解に対する酵素の感受性を変化しなかったが、D(86)N変異体は、D(86)AまたはWtのいずれよりも、タンパク質分解に対してより有意に耐性であった(図5A、B)。
【0096】
(実施例5)
(εPKC変異体のεRACKへの結合)
RACKは、活性なPKCに結合する(Mochly−Rosen,D.& Gordon,A.S.,FASEB J.12:35−42(1998);Mochly−Rosen,D.ら,Molec.Biol.Cell.(公式にはCell Regulation)1:693−706(1990)。ΨεRACKとRACK結合部位との間の分子内相互作用が、不活性な閉じた形態(closed form)を安定化する場合、この分子内相互作用の親和性の増加または減少は、酵素のそのRACKに対する結合能力において、対応する減少または増加を引き起こすはずである。不活性な閉じた形態を安定化する、本明細書中で提案されるΨεRACKとRACK結合部位との間の分子内相互作用の親和性の増加または減少が、酵素のそのRACKに対する結合能力において、減少または増加を引き起こすかどうかを試験するために、リン脂質(PL)アクチベーターの存在下および非存在下にて、昆虫細胞で発現するεPKC(WtおよびΨεRACK変異体)の免疫化されたGST−εRACKへの結合を、定量した。
【0097】
(εRACK結合アッセイ)
εPKCまたはGST−εRACKのどちらかを発現する昆虫細胞を、実施例4に記載されるとおりに溶解した。GST−εRACK 10ngを、グルタチオン−セファロース4Bビーズ(bead)(Amersham−Pharmacia)に固定し、洗浄緩衝液(20mM Tris−HCl(pH7.5)、2mM EDTA、100mM NaCl、12mM βME、および0.1% TritonX−100)で、全体を洗浄した。次いで、固定したGST−εRACKを、リン脂質アクチベーター(PL)(1回の反応あたり12μgのホスファチジルセリン、1回の反応あたり400ngのSn−1,2ジオレオイルグリセロール)の存在下または非存在下にて、100ngのWt、D(86)A、またはD(86)N εPKCタンパク質を含有する昆虫細胞溶解物の可溶性画分とともに4℃にて1時間インキュベートした。洗浄緩衝液で全体を洗浄する際に、結合されたタンパク質を、SDS−PAGEサンプル緩衝液で溶出させ、タンパク質を、8% SDS−PAGEゲル上で分離した。εRACKと相互作用するεPKCの量を、抗εPKC−V5抗体を用いて、εPKCについてのウェスタンブロットプローブにより定量した。次いで、ブロットを、抗GST(Santa Cruz)で再度プローブ化し、等量のGST−εRACKが、各々の結合アッセイにおいて存在することを検証した。この実施例についての全ての他の方法を、例えば、実施例4に記載されるとおりに実施した。
【0098】
(結果)
PLアクチベーターの非存在下において、D(86)AεPKC変異体のεRACKへの結合は、D(86)NまたはWt酵素のいずれかの結合よりも、少なくとも2倍大きかった(図5C、D)。D(86)NおよびWt酵素のεRACKへの結合は、PLの存在下にて、有意に増加し、これに対して、D(86)A変異体のεRACKへの結合は、増加しなかった(図5C、D)。等しい濃度のPLの存在下にて、D(86)AまたはWtεPKCのいずれかよりも、D(86)NεPKCのεRACK結合は少なかった。これらの結果は、D(86)A変異体のεRACK結合部位は、εRACKへの結合についてすでに利用可能であるが、これに対して、この部位は、WtまたはD(86)NεPKCの両方で覆われ、活性化の際のみに、結合に対して接近可能である、という予測に一致する。
【0099】
(実施例6)
(細胞内のεPKCおよびεPKC変異体の転位の割合)
本明細書中に記載されるΨεRACK変異体およびWtεPKCのインビトロの研究は、ΨεRACKは、不活性な閉じた状態を安定化する分子内相互作用に関するという、本明細書中で提案された仮説を支持する。この仮説をさらに試験するために、刺激に対する応答において、細胞内のΨεRACK変異体およびWtεPKCの転位の割合を、試験した。転位プロセスの一部は、ΨεRACK部位と、εRACK結合部位との間の分子内相互作用の妨害を必要とする、と本明細書中で仮定した。この分子内相互作用の調節が、εPKCの転位の割合に影響を及ぼし得るかどうかを調査するために、εPKC ΨεRACK変異体を、そのアミノ末端に、GFPタンパク質、CFPタンパク質またはYFPタンパク質を融合させ、そして、細胞分画法およびリアルタイム画像化法の両方により転位を分析した。
【0100】
(キナーゼアッセイ)
異なるεPKC変異体の基質をリン酸化する能力を、Kikkawa,U.ら,Biochem.Biophys.Res.Commun.135:636−643(1986)から改変された方法により、以下の[γ32P]ATPのミエリン塩基性タンパク質への取り込みによりアッセイした。ミエリン塩基性タンパク質のリン酸化を、液体シンチレーションによるか、または免疫沈降実験については、オートラジオグラフィーにより測定した。免疫沈降した酵素のキナーゼ反応について、ビーズを、20mM Tris(pH7.5)、一回の反応あたり0.3μCiの[γ32P]ATP(Amersham)、一回の反応あたり9μMのATP(Sigma)、一回の反応あたり12μgのミエリン塩基性タンパク質(Sigma)および一回の反応あたり50mM MgClからなる、20μlのキナーゼ反応緩衝液に再懸濁した。必要とされる場合、一回の反応あたり4μlのリン脂質を添加した。リン脂質を、上記のとおりに調製した。キナーゼ反応を、SDSサンプル緩衝液を用いて、煮沸して停止した。次いで、サンプルを12% SDS PAGEを進行させ、ニトロセルロースに移して、オートラジオグラフィーに曝露した。次いで、同じニトロセルロースを、抗εPKC(V5)抗体(Santa Cruz Biotechnology)で発展させて(develop)、免疫沈降した融合タンパク質の量を検証した。
【0101】
(ウェスタンブロットによるPKC転位の分析)
トランスフェクションから24時間後の細胞を、以前に記載されたように(Schechtman,D & Mochly−Rosen,D.,Methods Enzymol.345:470−489(2002))、さらに24時間、血清を欠乏させ、そしてホルボール12−ミリステート13−アセテート(PMA)(LC Laboratories)で、指定された時間および濃度で、室温にてインキュベートし、その後、分画した。PKCの分布を評価するために、異なる細胞画分を、SDS PAGEを進行させ、ウェスタンブロット分析に移し、そして抗εPKC V5抗体でプローブした。過剰発現したGFP−εPKCの溶解物を、約0.2μg/ウェルに希釈した。この濃度においては、内因性εPKCは、検出されなかった。この実施例について、全ての他の方法を、例えば、実施例4に記載されるとおりに実施した。
【0102】
(顕微鏡検査および分析)
CHO細胞を、カバーガラス上で増殖させ、実施例4に記載されるように、血清を欠乏させた。各々の実験について、細胞を、市販の金属製カバーガラスホルダ(Molecular Probes)に移した。このホルダ内において、カバーガラスは、1ml浴の底部を構成した。次いで、培地を、細胞外緩衝液(120mM NaCl、5mM KCl、1.5mM CaCl、1.5mM MgCl、20mM HEPESおよび30mM グルコース)で置き換えた。細胞を、細胞外緩衝液中で、PMA(100nM)またはATP(1mM)のいずれかで、刺激した。GFPで標識した構築物の蛍光画像を、レーザー走査共焦点顕微鏡(Pascal,Zeiss)の、488nmの励起光線を使用して達成し、発光を、505〜550nmの帯域フィルタを通して収集した。細胞を、1.2開口数(NA)で40×Zeiss Plan−apo油浸対物レンズを使用して、倒立顕微鏡(Axiovert、100M)のステージ上で画像化した。CFPとYFPとの融合タンパク質の2色の画像化について、回転盤Nipkow共焦点顕微鏡を使用した。40×油浸Olympus対物レンズ(1.35NA)を有するOlympus IX70倒立顕微鏡を使用して、細胞を観察し、CCDカメラ(Hamamatsu)および2×2ピクセルビニングで、画像を入手した。CFPを442nmのヘリウム−カドミウムレーザー(Kimmon)のレーザー光線で励起し、これに対して、YFPを、514nmのアルゴンイオンレーザー(Melles−Griot)の光線で画像化した。FRAP実験について、細胞質の局在領域のYFP標識タンパク質を選択的に光脱色する(photobleach)するために、514nmのEnterpriseレーザー(Coherent)の光線を、最大出力(約400mW)にて使用した。これらの実験について、60×油浸対物レンズ(1.4NA)を、使用した。これらの条件下で、そしてビーム経路に虹彩絞りを配置することにより、約35μmを測定する細胞質の領域内において、500msのYFP蛍光の80%の脱色を可能にした。リアルタイム共焦点画像を、PMAを利用する実験について、20分間の間10〜15秒間ごとに入手し、ATPで刺激した細胞の場合においては、3分の全継続時間の間、5秒ごとに入手した。各々の時間の連続において、第5の画像の後に、試薬を、細胞チャンバに添加した。一般的な色素の光脱色レベルが10〜30%を超えないことを確認する実験において使用されたものと、同じ画像化条件を使用して、コントロール時間経過(control time lapse)を入手した。全ての画像を、室温で入手した。画像を12ビットまたは16ビットのファイルに書き出し、蛍光強度における変化を、MetaMorph(登録商標)データ分析ソフトウェア(Universal Imaging Corp.)を使用して測定した。PKCの転位をモニタリングするために、対象の小さな領域を、各細胞の細胞質内で選択し、蛍光強度値を、バックグラウンド値の減算後に、時間に対してグラフ化し、そして、正規化し、その結果、最初の蛍光値は、100%であった。3つの独立した実験からの10〜15個の細胞の平均を、使用した。統計学的有意性を決定するために、a1テイル2型のT検定(Microsoft excel)を使用した。
【0103】
(免疫沈降)
CHO−Hir細胞を、血清を含まない培地中で2回洗浄し、トランスフェクションから12〜24時間後に血清を枯渇させた。次いで、細胞を、血清を含まない培地中に約12時間維持し、その後、実験に供した。細胞を、ホモジネート緩衝液(20mM Tris−HCl(pH7.5)、2mM EDTA、10mM EGTA、0.25M スクロース、12mM β−メルカプトエタノール、PMSF(17μg/ml)、ダイズトリプシンインヒビター(SBTI)(20μg/ml)、ロイペプチン(25μg/ml)、アプロチニン(25μg/ml)、および0.1% Triton−X 100(Sigma))で溶解し、そして、1000×gで30分間遠心分離した。次いで、その上清を、免疫沈降実験のために使用した。免疫沈降を、抗GFPモノクローナル抗体3E6(Molecular Probes)を用いて、製造者の指示書に従って実施した。簡単に述べると、溶解物(約2mg/ml)を、プロテインGアガロースビーズ(25μlにパックされた容量、Invitrogen)中で、少なくとも30分間、前もって清澄化し、そして1000×gで回転した。次いで、この上清を、1μgの抗GFPモノクローナル抗体で、少なくとも2時間インキュベートした。次いで、プロテインGアガロースビーズ(25μlパックされた容量)を、溶解物−抗体複合体に添加し、少なくとも2時間インキュベートした(全てのインキュベーションは、4℃にて行った)。その後、ビーズを、緩衝液1(50mM Tris、0.15M NaCl、1mM EDTA、0.1% Triton X100、pH7.5)で3回、緩衝液2(50mM Tris、0.15M NaCl、0.1% Triton X100、pH7.5)で1回、そして緩衝液3(50mM Tris、0.1% Triton X100、pH7.5)で1回洗浄した。キナーゼアッセイについて、ビーズを、20mM Tris−HCl(pH7.5)でさらに1回洗浄した。
【0104】
(結果)
インビトロキナーゼアッセイにおいて、GFP融合タンパク質が、類似の触媒活性を有することは、最初に確認された。図6Aおよび図6Bに見られるように、免疫沈降したGFP−εPKC変異体は、活性化の際に、ミエリン塩基性タンパク質を同じ程度までリン酸化した。
【0105】
WtおよびΨεRACK εPKC変異体は、ホルボールエステルによる活性化に感受性であり、そしてこれらは、活性化の際に、細胞の可溶性画分から、粒子画分へ転位したこともまた、確認された。εPKC変異体の転位を、2つの異なる細胞株(MCF−7およびCHO)を使用して決定した(CHO細胞を、100nM PMAで10分間刺激した(図6C)。MCF−7細胞を、10nM PMAで10分間刺激した(図6D、6E)。なぜならば、より高い用量のPMAを用いたMCF−7細胞の刺激は、細胞の分離をもたらすためである)。PMAで処置した後、細胞を、可溶性画分と粒子画分とに分画し、そしてGFP−εPKCを、抗εPKCを使用するウェスタンブロット解析により、検出して定量した。1レーンあたり20ngのタンパク質をロードした場合に、GFP−εPKC融合タンパク質(約110Kda)のみが検出され、内因性εPKC(約80Kda)は検出されなかった。全ての変異体は、類似の発現レベルを示した(図6C〜6E)。PMA処理において、粒子画分中に、D(86)NまたはWt εPKCのいずれかよりも、D(86)A εPKCでより大きな増加が存在した(図6C、図6D)。これは、PKCの分解に起因せず、εPKCの全量は、活性化の際に変化しなかった。したがって、GFP−εPKC ΨεRACK変異体は、触媒的に活性であり、そして細胞の可溶性画分から粒子画分へ転位することにより、PMAによる活性化に応答した。2つの異なる細胞株を使用して、PMAで処理した10分後に、WtまたはD(86)N εPKCと比較して、D(86)A εPKCは、より粒子画分に転位することが、見出された。
【0106】
細胞分画実験は、動力学的な研究には適切でないことから、GFP標識を使用して、CHO細胞においてリアルタイムの顕微鏡分析により、異なるεPKCの転位速度を追跡した(図7A〜7C)。εPKCの転位は、細胞末梢における蛍光強度の増加に随伴する、細胞質における蛍光強度の減少として見られた。PMAにより刺激した場合、全てのεPKC変異体は、同じ位置(細胞末梢)へ移動した(図7A)。D(86)A変異体の細胞末梢への転位は、PMA刺激の1分間以内に開始し、これに対して、Wt酵素の転位は、PMA刺激のたった2〜3分後に明らかとなった(図7A、矢印)。対照的に、D(86)N変異体の転位は、刺激のたった5分後に明らかとなった。細胞末梢と細胞質との間の各々のεPKCの分布を示す、代表的な株の強度プロフィールを、異なる時点における代表的な細胞について示す(図7B)。
【0107】
細胞質における蛍光強度の減少量は、細胞末梢における蛍光の増加量に比例した(Raghunath,A.ら,Biochem.J.370:901−912(2003))。なぜならば、全蛍光強度は、変化しなかったためである。異なるεPKC酵素の転位を定量的にモニタリングするために、蛍光強度の減少を、MetaMorph(登録商標)ソフトウェア(Universal Imaging Corp.)を使用して、PMA刺激の際に、細胞質領域で測定した。細胞質における蛍光の減少により得られたεPKC転位の図の比較は、転位速度が、2つの変異体とWt εPKCとの間で有意に異なることを示した(p<0.0001;図7C)。D(86)A変異体は、WtまたはD(86)N εPKC変異体のいずれかよりも、より速い速度で転位した。Wt酵素は、D(86)A変異体と同様の安定状態レベル(このレベルにおいて、細胞末梢におけるεPKCのさらなる蓄積は存在しなかった)に到達したが、より遅い速度で到達した。対照的に、D(86)N変異体は、WtまたはD(86)A変異体のいずれかよりも、より高いレベルの安定状態に到達した。従って、D(86)A変異体は、D(86)NまたはWt εPKCのいずれかよりもより速い速度で転位し、そして細胞末梢へ到達したD(86)N εPKC変異体の量は、D(86)AまたはWt εPKCのいずれかの量よりも少なかった。
【0108】
(実施例7)
(εPKC転位の数学的モデリングは、εPKC転位が、少なくとも2つの工程のプロセスであることを支持する)
異なるεPKC ΨεRACK変異体の転位の初期プロセスをさらに特徴付けるために、細胞質における蛍光の減少を、数学モデルに当てはめた。
【0109】
(数学的モデリング)
数学的モデリングを、異なるεPKC ΨεRACK変異体の類似のレベルを発現する細胞のデータから、得た。非線形最小二乗回帰分析を、EViewソフトウェア(QMS)を使用して実施し、微分方程式分析を、Berkeley MadonnaTMを使用して実施した。この実施例について、全ての他の方法を、例えば、実施例4および実施例6に記載されるとおりに実施した。
【0110】
経時的な蛍光を、NalefskiおよびNewton Nalefski,E.A.& Newton,A.C.,Biochemistry 40:13216−13229(2001)により以前になされたように一次の指数方程式(1)、および二次の指数方程式(2)を用いた非線形回帰分析により分析した。I(t)は、時間(t)において細胞質内で観察された分子の濃度であり、C1〜5は定数である。
【0111】
1.I(t)=C+C(−C3(t))
2.I(t)=C+C(−C3(t))+C(−C5(t))
D(86)A εPKC変異体の転位プロセスについて、一次の指数方程式を使用して得た残差のグラフ(図8A)および二次の指数方程式を使用して得た残差のグラフ(図8B)を、図8A〜図8Dに示す。D(86)NおよびWt εPKCについての残差分析は、同様の結果を示した(データは示さず)。より小さく、かつより等しく分布した誤差を有する優れたフィットを、二次の指数方程式で得たことから、2工程のモデルを採用して、εPKC転位の最初のプロセスを例示した。第1の工程は、εPKCが開くこと(opening)およびΨεRACKとεRACK結合部位との間の分子内相互作用の崩壊であり、第2工程は、εPKCの膜への結合である(この場合、膜への結合とは、脂質またはタンパク質のいずれかへの結合であり得る)。このプロセスは、以下のとおりに記載される:
【0112】
【化1】

ここで、k1は、細胞質内で、εPKCが開く速度であり、k−1は、細胞質内で閉じる速度であり、k2は、εPKCが膜へ結合する速度であり、そしてk−2は、εPKCが膜から解離する速度である。二次の指数方程式を使用して、定数C1、C3およびC5の値を、推定した(表1)。
【0113】
(表1は、二次の指数方程式を使用して推定した定数およびk1、k−1、k2、k−2について計算した値を示す)
【0114】
【化2】

D(86)Nについて、k1=c5の関係は、妥当ではない。なぜならば、k1、k−1、k2およびk−2についての対応する値は、微分方程式を使用したシミュレーションにより得たためである。
C1の値は、安定状態の細胞質ゾルεPKCのレベルに対応する。次に、この値は、D(86)AならびにWt εPKCのC1およびC3について得た値が、統計学的に等しいかどうか、という仮説を決定する。WALDパラメータ検定を使用して、そしてF検定およびχi−Squared検定を使用して、それぞれ、0.9および0.7のp値を得た。したがって、AおよびD、C1についての安定状態レベルは等しいと、仮定した。また、第2工程(膜への結合)は、εRACK εPKC変異体の間で異なるはずはなく、これは、C3が、Wt εPKCとD(85)A εPKCとの両方で等しいと想定した。したがって、安定状態レベル(C1)は、D(86)A εPKCおよびWt εPKCについて等しく、そして第2工程(膜への結合)もまた等しい場合、D(86)AおよびD(86)A εPKCの両方についてのk−1(εPKCの閉じる速度)が無視できることは、もっともらしい。k−1が無視できる場合、以下の方程式(3−5)が適用でき、そしてk−2(方程式6)およびk2を計算するために使用され得る(表1)。
【0115】
3.(C1/100)=k−2/(k2+k−2)
4.C3=(k2+k−2)
5.C5=k1
6.k−2=[(C1/100)(C3]
(t)が、時間(t)において細胞質内の閉じたεPKCの濃度に等しい場合、I(t)が、時間(t)において細胞質内の開いたεPKCの濃度に等しい場合I(t)が、時間(t)において膜でのεPKCの濃度に等しい場合、そしてI(t)が、時間(t)(I(t)+I(t))において細胞質内の開いたεPKCおよび閉じたεPKCの濃度に等しい場合、以下の微分方程式(7−9)が、このモデルを記載するために使用され得る。
【0116】
7.dI(t)/dt=−(K1)(I(t))+(K−1)(I1(t))
8.dI(t)/dt=−(K−1+K2)l(t)+(K1)(I(t))+(K−2)(I(t))
9.dI(t)=−(K−2)(I(t))+(K2)(I(t))。
【0117】
次に、この微分方程式を、Runge−Kuttaアルゴリズム(Berkeley−Madonna)を使用してI(t)についての解を導き、そしてこの解を、実験データ(細胞質における蛍光の消失)と比較した。I(t)の解を導き、そして計算したパラメータを、k1、k−1、k2およびk−2について使用し(表1)、細胞質内の(閉じたεPKCの初期量は、100%[I(0)=100]に等しいと想定した。図8Cは、D(86)A εPKCについての未加工のデータの曲線と二次の指数方程式を用いた非線形回帰分析により得た曲線との間のフィットを示す。図8Dは、D(86)Aについての未加工のデータの曲線とI(t)についての微分方程式を解くことにより得た曲線との間のフィットを示す。同様のフィットの結果が、D(86)NおよびWt εPKCについて得られた(データは示さず)。全ての曲線のフィットデータについての残差は、二次の指数方程式を使用する非線形回帰分析により得た残差と類似した(図4B;データは示さず)。
【0118】
D(86)Nについての安定状態レベルは、D(86)AまたはWtのいずれかについてよりも高く(表1)、したがって、この変異体についてのk−1は、無視できない。この場合において、Runge−Kuttaアルゴリズムをまた使用して、微分方程式の解を導いた。第2工程(膜への結合)の速度は、εPKC変異体のいずれについても変更されないはずであることから、k2およびk−2の値は、D(86)AおよびWtについて得た値の範囲内にあるはずであることを想定した。本明細書中の実験データおよび数学的モデリングは、ともに、活性化の際に、εPKCの細胞膜への2工程の転位プロセスを示唆する。第2工程は、分子内相互作用から独立しているのに対して、第1工程(本明細書中で酵素が開くことに関することが予測された)は、この分子内相互作用に大きく依存した。
【0119】
(実施例8)
(同じ細胞内でのD(86)A ΨεRACK変異体およびWtεPKCの同時のトランスフェクション)
1つの細胞内で、εPKC変異体の挙動をさらに調査するために、2つの異なるεPKC構築物を、YFPまたはCFPのいずれかに融合させて、CHO細胞内へ同時にトランスフェクトした。この実施例について、全ての方法を、例えば、実施例4、実施例6および実施例7に記載されるとおりに実施した。
【0120】
(結果)
YFP−AおよびCFP−D εPKCを、同様のレベルで同時に発現する代表的な細胞を、図9Aに示す。PMAを用いた刺激の際に、D(86)A変異体は、Wt酵素より早く転位した(図9A)。細胞質において蛍光強度の減少を表す、定量分析を、図9Cに示す。D(86)A変異体を、PMA刺激から1.5分後に、細胞末梢にて見出し、それに対して、WtεPKCの転位は、10分後においてさえも最小限であった(図9A)。したがって、D(86)A ΨεRACK変異体およびWtεPKCが、同じ細胞内にある場合でさえも、D(86)Aは、Wt εPKCより早く転位した。
【0121】
(実施例9)
(Gタンパク質共役レセプターによる細胞刺激の際のΨεRACK εPKC変異体の転位速度)
次に、PMAではなく、レセプターのシグナル伝達を介して、転位を刺激する場合に、異なるεPKCの転位速度における差異も観察されるかどうかを、決定した。ATPを、事前に使用して、プリン性Gタンパク質共役レセプターを刺激することにより、CHO細胞中のPKCを活性化した(Maasch,C.ら,FASEB J.14:1653−1663(2000))。この実施例について、全ての方法を、例えば、実施例4、実施例6および実施例7に記載されるとおりに実施した。
【0122】
(結果)
ATPを用いた刺激の際に、GFP−εPKCの細胞末梢への転位は、PMAにより誘導される転位よりも速いことが、本明細書中で見出された(図9Bに対して、図7A〜図7C)。D(86)AおよびWt εPKCの転位は、刺激から10秒後にすでに明らかであるが、D(86)N εPKC酵素の転位は、刺激の40秒後におこり、D(86)AまたはWt εPKCのいずれかよりもより有意に高いレベルで安定な状態に到達した(図9B)。細胞質の蛍光強度の減少で表す定量分析を、図9Dに示す。
【0123】
(実施例10)
(εPKC ΨεRACK変異体の拡散速度)
異なる転位速度は、細胞のεPKCの全体的な移動(拡散)における差異を反映し得る。したがって、細胞質酵素の光脱色後の蛍光強度の回復(FRAP)を測定した;εPKCの移動を、脱色した領域において蛍光を回復するのに必要な時間をモニタリングすることにより、測定した。この実施例について、全ての方法を、例えば、実施例4、実施例6および実施例7に記載されるとおりに実施した。
【0124】
全てのεPKCについて、50%のFRAPが、同じような時点で到達した(それぞれのεPKCあたり少なくとも10個の細胞の平均は、Wt=9.0±1.2秒、D(86)A=9.2±1.1秒、そしてD(86)N=9.1±1.6秒であった)。脱色した領域において完全に回復した後の蛍光(F∞)と、脱色前に観察された蛍光(Fi)と、脱色直後の蛍光(F0)を比較することにより、移動画分=(F∞−F0)(Fi−F0)を、決定した。移動画分は、Wtおよび変異体εPKCと他のタンパク質および膜との相互作用における差異により影響を受け得ることから、これは、決定するのに重要であった。移動画分は、全てのεPKCについて等しかった(Wtについて63±2%、D(86)Aについて63±4%、およびD(86)Nについて64±2.5%、それぞれ少なくとも10細胞の平均)ことが見出された。したがって、転位速度における差異は、不活性な酵素の移動における差異に起因しないが、むしろ、ΨεRACKとRACK結合部位との間の分子内相互作用の調節に起因した。
【0125】
(考察)
シグナル伝達において重要な要素は、細胞外刺激の非存在下において酵素が不活性なままである、固有の機構である。この機構は、活性部位が曝露されない閉じた立体配座を安定化する、分子内相互作用の使用に関する。刺激の際に、酵素は、開いた立体配座を採用し、これにより、分子内相互作用は中断されて、開いた形態を安定化する分子間相互作用のための結合部位が曝露され、触媒的に活性な酵素をもたらす。PKCの場合において、分子間相互作用部位は、リン脂質およびアンカータンパク質のための結合部位である(Mochly−Rosen,D & Gordon,A.S.FASEB J.12:35−42(1998);Oancea,E.ら,J.Cell.Biol.140:485−498(1998))。本明細書中で、εRACK結合部位およびΨεRACK部位との間の分子内相互作用における変更は、酵素の転位速度に影響を及ぼし、さらに、εPKCの転位およびシグナル伝達におけるこの分子内相互作用の役割を補助することが実証される。
【0126】
以前に記載されたように、εPKCにおけるΨεRACK配列は、εRACK配列と約25%異なる。電荷の変化(N−D)は、εPKCとそのRACK(εRACK)との間の分子間相互作用と比較して、εPKC内の分子内相互作用力価の差異に寄与することを、本明細書中で示唆した(Souroujon,M.C. & Mochly−Rosen,D.Nat.Biotechnol.16:919−924(1998);Dorn,G.W.ら,第2版,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.96:12798−12803(1999))。εPKCのΨεRACK配列のD(86)をNへ変異させることで、ΨεRACKとεPKCのRACK結合部位との間の分子内相互作用が増加することにおそらく起因する、野生型の酵素よりもよりゆっくりと転位する酵素を、作製した。εPKCのD(86)をAへと変異することにより、ΨεRACKとRACK結合部位との間の分子内相互作用を無効にし、そして野生型酵素よりもより速い速度で転位する酵素をもたらした。
【0127】
(εPKCのΨεRACK部位の変異は、εPKCの内因性の性質に影響を及ぼす)
3つの基準を使用して、εPKC内の分子内相互作用におけるΨεRACK部位の役割、およびこの相互作用におけるD86の役割を実証した。第1の基準は、プロテアーゼに対する酵素の感受性であった;開いた酵素は、活性化後のプロテアーゼ分解により感受性であった(Orr,J.W.ら,J.Biol.Chem.267:15263−15266(1992))。D(86)N変異体は、タンパク質分解により耐性であり;D(86)N変異体は、D(86)A酵素またはWt酵素のいずれかと同じ程度の分解について2倍の時間を必要とすることが、本明細書中で示された(図5)。したがって、D(86)N変異体は、より閉じているか、または不活性な酵素である。A変異体のタンパク質分解に対する感受性は、野生型D(86)εPKCと同じであったことから、この変異体は、野生型酵素と立体配座的に異なるかどうかは、この方法をもちいては、決定できなかった。
【0128】
第2の判断基準は、野生型酵素および変異体酵素のεRACKへのPL依存性結合を試験した。D(86)が、細胞内相互作用のために重要であるなら、D(86)Aは、εRACK結合についての脂質の活性化にそれほど依存しないはずである。実際には、1つのアミノ酸置換は、ΨεRACKとεRACK結合部位との間の分子内相互作用を調節した;D(86)N変異体は、εRACKとより大きな類似性を有し、そしてそのεRACKへ結合する能力を減少した。このことは、D(86)N変異体は、より閉じた立体配座であることを示す。対照的に、D(86)A εPKC変異体は、RACK結合についてのアクチベーターにそれほど依存せず、このことはこの変異体が、より開いた立体配座であることを示す。
【0129】
(ΨεRACK部位の変異および細胞のεPKCの転位速度)
細胞内相互作用におけるΨεRACK部位の重要な役割を実証する、第3の基準は、細胞の活性化の際に、酵素の転位速度を試験した。D(86)A εPKC変異体は、細胞分画研究により測定すると、D(86)NまたはWt εPKCのどちらかよりも、有意に早く転位した。リアルタイム共焦点顕微鏡法を使用して、D(86)A変異体は、野生型εPKCよりも速く転位し、次に、D(86)N変異体よりも速く転位することを、本明細書中で実証した。同時に、ΨεRACK部位は、刺激の非存在下において、εPKCの閉じた立体配座を安定化する、重要な分子内相互作用を媒介するようである。
【0130】
異なるεPKC変異体の転位機構についてのスキームを図10に示す。ΨεRACK部位とεRACK結合部位との間の分子内相互作用の崩壊は、膜への結合を促進し、そしてこのプロセスにおける律速段階であるはずである。D(86)を変異することにより、この分子内相互作用を調節することは、転位プロセスの第1工程に影響を及ぼすことにより、εPKCの転位速度を変化する。本明細書中のデータの数学的モデリングはさらに、転位を導く分子事象を解明した(図8を参照のこと)。非線形回帰分析を使用して、2次の指数方程式は、1次の指数方程式よりも良好にフィットし、このことは、PMAにより誘導される転位は、少なくとも2つの工程を含むことを示唆する(図7)。第1の工程は、酵素が開くプロセスおよび閉じるプロセスを表し、そして第2の工程は、細胞膜への開いた酵素の結合を表すことを、本明細書中で提案した。重要なことに、D(86)N変異体の安定状態レベルは、D(86)AまたはWt PKCのいずれかのレベルよりも高く、このことは、細胞末梢へ到達したD(86)Nの量は、WtまたはD(86)A εPKCのいずれかの量よりも少ないことを示唆する。D(86)A変異体は、D(86)NまたはWt εPKCのいずれかよりも、有意により速く転位した。粒子画分におけるD(86)Aの安定状態レベルは、Wt酵素の安定状態レベルと同様であり、かつ、転位の第2工程(膜への結合)は、全ての変異体について等しいことから、酵素の閉じる速度は、酵素が一旦開くと、無視できると考えることができた。Ochoaら(J.Mol.Bol.311:837−849(2001))らは、V1ドメインのPLへの結合は、D(86)A変異により変更され、このことは、本明細書中で、転位の第2工程(膜への結合)は、変化されないと提案する仮説を支持することを実証した(Ochoaら,J.Mol.Bol.311:837−849(2001))。しかし、N変異体について、k1(PKCが開く速度)は、D(86)Aよりも低く、Wt εPKCに類似し、そしてk−1(εPKCが閉じる速度)は、PKCを無視できなかった。
【0131】
Shiraiら,(J.Cell.Biol.143:511−521(1998))と同様に、εPKCのATPにより誘導される転位は、PMAに誘導される転位よりも非常に迅速であったことが見出された(図9B対図7)。ATPにより媒介される転位は、迅速なプロセスであることから、WtとD(86)A変異体との間の差異は、分析した時間間隔では観察されなかった。しかし、D(86)N変異体の転位は、野生型またはA変異体のいずれよりも有意に低く、このことは、εRACK部位の重要性、およびPKC転位についての分子内相互作用の崩壊を支持した。
【0132】
Schaeferらは、古典的PKCと新規PKCとの間の転位における差異が、拡散速度、および膜との衝突効率における差に起因することを示唆した(Schaefer,M.ら,FASEB J.15:1634−1636(2001);Lenz,J.C.ら,J.Cell.Biol.159:291−302(2002))。拡散および膜への衝突は、転位速度の要因であるようであるが、本明細書中のデータは、酵素における立体配座の変化もまた生じ、少なくとも2工程のプロセスを導くことを実証する。
【0133】
新規PKC(カルシウム誘導性)のアイソザイムの場合、酵素の開裂を誘発するものが何であるかは、なお明らかでない。本明細書において、εRACKとRACK結合部位との間の分子内相互作用を崩壊することは、転位に先行し、細胞末梢へアンカーする、活性化における重要な工程であることが示されている。このアンカーが、主に膜への結合により媒介されるかどうか、アンカータンパク質に関するかどうか、そして脂質への結合は、タンパク質への結合に先行するかどうかは、εPKCを過剰発現する細胞において決定することができなかった。しかし、内因性εPKCの転位は、そのεRACKとの同時局在化をもたらし(Csukai,M.ら,J.Biol.Chem.272:29200−29206 (1997))、そして、εPKC内のRACK結合部位の1つに対応するペプチド(εV1−1ペプチド)を有する細胞内εRACKへの結合の崩壊は、εPKCの転位およびεRACKとの同時の局在化を阻害する(Johnson,J.A.,ら,J.Biol.Chem.271:24962−24966(1996);Mochly−Rosen,D.ら,Circ.Res.86:1173−1179(2000))ことが、以前に実証されていた。重要なことに、ΨεRACK配列に対応するペプチドは、εPKCの転位、およびεRACKとの同時局在化を誘導し、そして、εPKCの機能を誘発することが、以前に示されている(Dorn, G.W.ら,第2版,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.96:12798−12803(1999))。
【0134】
酵素が過剰発現する場合、この研究においては、RACKを含む結合タンパク質は、酵素に対してもはや化学量論的量で存在しないようである。実際には、過剰発現した野生型εPKCおよび内因性εRACKは、細胞内に同時に局在せず、それに対して、内因性εPKCは、εRACKとともに同時局在し、その後、非トランスフェクト細胞において活性化した(示さず)。εPKCとともにεRACKを同時発現する多くの試みが、失敗したことから、本実施例において実施した転位の試験は、おもに、GFP−酵素と細胞膜内の脂質との相互作用を主に反映している。
【0135】
εPKCにおいて、このRACK結合部位はどこにあるのか。εPKCのV1ドメインは、βPKCのC2ドメインに対して相同である(Dekker,L.V.,ら,Curr.Opin.Struct.Biol.5:396−402(1995))。しかし、βPKC(30)のV5領域にはさらなるRACK結合部位が存在し、βPKCのC2領域を用いた分子動力学研究は、ΨRACKとC2領域内のRACK結合部位との間の分子内相互作用が、不可能であることを示した(Banci,L.ら,J.Biol.Chem.277:12988−12997(2002))。かわりに、εRACKとβPKCのRACK結合部位との間の分子内相互作用は、βPKCのC2領域とV5領域との間に起こるようであることが本明細書中で示唆される。これはまた、εPKCについても原因となり得る。近年の研究員および共同研究者により、αPKCにおいてもまた、不活性な状態で酵素を維持する、C1ドメインとC2ドメインとの間のさらなる分子内相互作用が存在することを実証した(Slater,S.J.ら,J.Biol.Chem.277:15277−15285(2002))。さらに、αPKCは、C1ドメインとC2ドメインとの間の分子内相互作用を介して、ダイマーを形成することが示唆された。このことが、εRACK結合部位およびΨεRACKについてあてはまるという仮説は、排除された(Slater,S.J.,ら,J.Biol.Chem.277:15277−15285(2002))。
【0136】
インタクトなεPKCのΨεRACK部位を変異させることにより、本明細書中において、εPKCの転位プロセスにおいて、ΨεRACKとεRACK結合部位との分子内相互作用の崩壊の重要性が実証された。発明者の知る限りでは、これが、(Ψ−基質)部位、または触媒部位、あるいはカルシウム結合部位の外側でなされた一電荷の変化が、転位速度の変化を誘発した最初である。まとめると、ΨεRACKとRACK結合部位との間の相互作用の崩壊は、PKC転位の基準であり、律速段階であることが、本明細書中で結論付けられる。
【0137】
前述より、本発明の種々の目的および特徴が、いかに満たされるかが明らかになり得る。例えば、アミノ酸残基を置換してアゴニスト中の電荷の変化を達成することにより、PKCペプチドアゴニストをPKCペプチドアンタゴニストへ変換するための方法(その結果、本発明の1つの形態において、改変されたアゴニストペプチドは、RACKにより類似する)が、記載される。PKCアイソザイム選択的アンタゴニストおよびアゴニストを同定するために現在使用されるこのアプローチは、多くのタンパク質の一次配列を含む巨大なデータベースの利用可能性から利益を得る。本明細書中で、ペプチドアゴニスト(ΨεRACKが挙げられる)を取り扱い、そして1つのアミノ酸残基を置換する(DをNへ)ことにより、アイソザイム特異的転位アゴニストを、アンタゴニストへ変換するためにこのアプローチを使用した。この変化は、RACK由来の配列に対するペプチドの類似性を増加し、そしてまた、ペプチドの電荷の変化を達成した。心筋細胞収縮速度の調節(ψεRACKによって誘導され得るεPKC媒介性機能)が、上記ψεRACK中のアスパラギン酸(D)の残基の位置においてアスパラギン(N−ψεRACK)またはアラニン(A−ψεRACK)を含むペプチドによって誘導されないことを示すことによって、この改変されたペプチドの活性における変化は、本明細書中に記載される実施例において例証される。さらに、N−ψεRACKは、収縮のPMA調節またはψεRACK調節、ならびにPMA誘導性εPKC転位またはΨεRACK誘導性εPKC転位を阻害した。したがって、電荷の変化を引き起こす単一アミノ酸置換は、上記RACK配列に対する上記ペプチドの類似点を増加させ、そしてアゴニスト活性の喪失およびアンタゴニスト活性の獲得を生じた。
【0138】
本発明は、特定の実施形態について記載されているが、種々の変化および改変が、本発明から逸脱することなくなされ得ることが当業者に対して明白となる。特に指示の無い限り、本明細書中の全ての用語は、本発明の分野における当業者が有する意味と同様の意味を有する。実施者は、Current Protocols in Molecular Biology(Ausubel,F.M.ら、John Wiley and Sons,Inc.、Media Pa.)(これは、当該分野の定義および用語について定期的かつ周期的に更新される)に対して、特に従う。
【図面の簡単な説明】
【0139】
【図1】図1Aは、新生児ラットの心筋細胞において、コントロール、キャリアペプチド(正方形)、およびΨεRACKペプチド(三角形)で処理した細胞における時間の関数として、15秒間隔で測定した収縮の回数を示すグラフである。両方の細胞集団(コントロールおよびΨεRACペプチド処理)は、実施例1により十分に記載されるように、30分間において、ホルボール12−ミリステート13−アセテート(PMA)で処理した。図1Bは、実施例1により十分に記載されるように、(i)εPKCアゴニストペプチド(ΨεRACKペプチド)、(ii)ホルボール12−ミリステート13−アセテート(PMA)、(iii)PMAおよびΨεRACKペプチド、(iv)PMA、ΨεRACKペプチド、およびεV1−2ペプチド、または(v)PMA、ΨεRACKペプチド、およびケレリトリン(Che)で処理した後に基底収縮頻度に対する収縮頻度の減少%として表現される、新生児ラット心筋細胞の収縮頻度を示す棒グラフである。
【図2】図2A〜図2Cは、実施例1により十分に記載されるように、時間の関数として、基底収縮頻度に対する収縮頻度の減少%として表現される、新生児ラット心筋細胞の収縮速度のグラフである。図2A〜2Bは、ΨεRACKペプチド(N−ΨεRACKペプチド)由来のεPKCアンタゴニストペプチドで処理されない細胞(四角形)、およびN−ΨεRACK(配列番号2)で処理された細胞(菱形)についてのデータを示す。両方の細胞集合は、NΨεRACKペプチドの投与後15〜20分で、1nM(図2A)または5nM(図2B)のPMAで処理した。そして、図2Cは、N−ΨεRACKペプチドで処理し、次いでΨεRACK(配列番号1)および1nM PMAで処理した細胞(菱形)、およびΨεRACKで処理し、次いで1nM PMAで処理した細胞についてのデータ(三角形)を示す。
【図3】図3A〜図3Bは、コントロール、ペプチドキャリア(レーン番号1)、1nM PMA(レーン番号2)、PMAおよびΨεRACK(配列番号1、レーン番号3)、あるいは、N−ΨεRACK、ΨεRACK、およびPMA(レーン番号4)で処理した、心筋細胞の細胞溶解性画分(S)から細胞粒子画分(P)へのεPKC(図3A)およびαPKC(図3B)へのPMA誘導性転位のウェスタンブロット分析を示す。これは、実施例2により完全に記載される。
【図4】図4は、虚血エピソードより得られたラット心筋細胞に対する細胞損傷の%を示す棒グラフである。虚血に供されない筋細胞は、各々の棒の白抜きの領域により表し、虚血損傷の%を、塗りつぶした領域により表す。細胞を、虚血エピソード前に、ΨεRACKペプチド、N−ΨεRACKペプチド、A−ΨεRACKペプチド、εV1−2および実施例3により十分に示されるとおりのこれらのペプチドの種々の組み合わせで、前処理した。
【図5】図5Aは、実施例4により十分に記載されるとおりに抗εPKCV5抗体を使用してプロテアーゼ、Arg Cにより、ΨεRACK変異体の分解速度を示す、ウェスタンブロット分析を示す。Wt、野生型;D(86)A、εPKC変異体(ここでεPKCに対するΨεRACKの86位におけるDは、Aで置換される);D(86)N、εpKC変異体(ここでεpKCにおけるΨεRACKの86位におけるDは、Nで置換される)。図5Bは、時間の関数として、Arg CによるΨεRACK εPKC変異体の分解速度を示すグラフであり、ここでこのデータは、実施例4により十分に記載されるとおりの、5回の独立した実験の平均を表す。データは、酵素の最初の量に対して正規化し、全長εPKCの%として表現する。Wt(黒い四角形);D(86)A(白い三角形);D(86)N(白い丸);T検定を使用してp<0.05。図5Cは、実施例5により十分に記載されるように、抗εPKC V5抗体を使用して決定する場合の、PLの存在下および非存在下におけるΨεRACK εPKC変異体のGST−εRACKへの結合を示すウェスタンブロット分析である。PLはリン脂質アクチベーター(ホスファチジルセリンおよびSn−1,2ジオレオイルグリセロール)である。図5Dは、実施例5により十分に記載されるとおりの、PLの非存在下(白い棒)および存在下(黒い棒)におけるΨεRACK εPKC変異体のGST−εRACKへの結合についての、(4回の独立した実験の平均の)PKC野生型および変異体における結合の正規化を示すグラフである(T検定を使用してp<0.05)。PLはリン脂質アクチベーター(ホスファチジルセリンおよびSn−1,2ジオレオイルグリセロール)である。
【図6】図6Aは、実施例6により十分に記載されるように、抗εPKC V5抗体で検出した、免疫沈降GFP−εPKC変異体のウェスタンブロット分析(パネル上部)、および[γ32P]標識ミエリン塩基性タンパク質のオートラジオグラフィーにより測定したその触媒活性(パネル下部、代表的な実験)を示す。図6Bは、実施例6により十分に記載されるように、εPKC野生型または変異体におけるミエリン塩基性タンパク質(MBP)リン酸化のグラフを示す(3回の独立したキナーゼ反応の平均は、PLの存在下にてミエリン塩基性タンパク質リン酸化により見られるように、活性化の際にεPKC変異体の等しい活性を示す)(反応を3分間および15分間実施した)。図6Cは、実施例6により十分に記載されるように、GFP−εPKC ΨεRACK変異体でトランスフェクトし、次に、100nM PMAで10分間処理したCHO細胞の転位を示すウェスタンブロット分析である。GFP−εPKCは、抗εPKC V5抗体で検出された。図6Dは、実施例6により十分に記載されるように、10nM PMAで10分間刺激する際に、MCF−7細胞におけるGFP−εPKC変異体の転位を示すウェスタンブロット分析を示す。図6Eは、実施例6により十分に記載されるように、PMA刺激後のWt、D(86)N変異体、またはD(86)A変異体における、GFP−εPKCの転位のグラフを示す。MCF−7コントロール(白い棒)および10nM PMAで10分間刺激した細胞(黒い棒)における、GFP−εPKC ΨεRACKの転位の4回の独立した実験の平均を、図に示す(T検定を使用してp<0.05)。
【図7】図7Aは、実施例6により十分に記載されるように、100nM PMAでの刺激の際に、異なる時点における、ΨεRACK εPKC変異体の共焦点図を示す。パネル内の矢印は、各々のεPKC変異体について、細胞末梢への転位が明らかとなった時点を示す。図7Bは、実施例7により十分に記載されるように、異なる時点(Aのラインにより示される、左のパネル)において、代表的なトランスフェクトされた細胞についての、細胞末梢と細胞質との間のPKCの分布を示す、代表的なライン強度プロフィールを示す。図7Cは、実施例6により十分に記載されるように、100nM PMAによる刺激後、時間の関数として、Wt細胞、またはD(86)A ΨεRACK εPKC変異体、またはD(86)N ΨεRACK εPKC変異体の細胞質における蛍光%のグラフを示す:Wt(黒い四角)、D(86)A(白い三角);D(86)N(白い丸)。平均転位速度は、最初の蛍光強度を100%に正規化することにより表現した(少なくとも3回の独立した実験の平均、各々の実験について少なくとも3個の細胞を分析した)。変異体およびWt酵素についての時間の経過は、p<0.001の二元配置ANOVAにより統計学的に互いに異なる。
【図8】図8A〜8Dは、実施例7により十分に記載されるように、D(86)Aの数学的モデル分析を示し、PMAによる刺激後、時間の関数として、蛍光%のグラフ表示して分析した。D(86)NおよびWt εPKCに関して同様の結果が得られた。図8Aは、一次の指数方程式を用いた非線形回帰分析を示し、図8Bは、二次の指数方程式を用いた非線形回帰分析を示し、図8Cは、D(86)Aの未加工データの曲線の間のフィットを表すグラフである。この曲線は、二次の指数方程式を用いた非線形回帰により得られた。図8Dは、D(86)Aの未加工データの曲線の間のフィットを表すグラフである。この曲線は、表1に提供されるk1、k−1、k2およびk−2に対する値を使用して微分方程式により得られた。データに適合させた全ての曲線に対する残差は、二次の指数方程式を使用する非線形回帰を用いて得られた残差と類似していた。
【図9】図9Aは、実施例8においてより十分に記載されるように、100nM PMAでの刺激後の種々の時間での、YFP−εPKC D(86)AおよびCFP−εPKC Wtの両方でトランスフェクトしたCHO細胞の共焦点像を示す。図9Bは、実施例9においてより十分に記載されるように、1mM ATPでの刺激後の時間の関数としての、D(86)A変異体およびD(86)N変異体でトランスフェクトしたCHO細胞の共焦点像を示す。1mM ATPを用いた刺激に対して、このD(86)A変異体は、野生型と比較して同等の転位速度を有し、そしてRACK D(86)N変異体は、より遅い転位速度を有した。矢印は、各々のεPKC酵素について細胞抹消への転位が明白になり始める時間を示す。図9Cは、実施例9においてより十分に記載されるように、D(86)AおよびD(86)Nでトランスフェクトした細胞におけるPMA刺激後の、時間の関数としての蛍光強度を示す。1mM ATPの添加後の時間に比例して細胞質中の蛍光の喪失を測定することにより、転位速度を分析した:Wt(黒四角形)、D(86)A(白三角形)、D(86)N(白丸)。データは、それぞれの実験で少なくとも3つの細胞を用いた少なくとも3回の独立した実験の平均である。D(86)N変異体の時間経過は、p<0.001での二元配置ANOVA検定を使用すると、D(86)AまたはWt εPKCのいずれかとは統計学的に異なる。図9Dは、実施例8においてより十分に記載されるように、ATP刺激後の時間の関数としての、CFP−εPKC Wt(黒四角形)およびYFP−εPKC D(86)A(白三角形)でトランスフェクトしたCHO細胞の蛍光強度を示す。細胞質中のYFP−εPKC D(86)A変異体のレベルは、CFP−εPKC Wtのレベルと比較して、より早く減少した。
【図10】図10は、活性化に対する膜へのεPKC転位における最初の段階;実施例の考察の節においてより十分に説明される、2段階の工程を示す画像(pictorial)を示す。転位のプロセスにおけるさらなる工程としては、RACKに対する結合が挙げられる(スキーム中には示さず)。簡単にするために、ΨεRACK結合部位とεRACK結合部位との間の分子内相互作用のみが示される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロテインキナーゼC(PKC)アゴニストペプチドまたはプロテインキナーゼC(PKC)アゴニストペプチド模倣物を、PKCアンタゴニストペプチドまたはPKCアンタゴニストペプチド模倣物へ変換する方法であって、該アゴニストペプチドまたはアゴニストペプチド模倣物の少なくとも1つのアミノ酸を、PKCアゴニストペプチドまたはPKCアゴニストペプチド模倣物をPKCアンタゴニストペプチドまたはPKCペプチド模倣物へ変換するアミノ酸で、置換する工程を包含する、方法。
【請求項2】
前記少なくとも1つのアミノ酸が非荷電アミノ酸で置換される荷電アミノ酸である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記荷電アミノ酸がアスパラギン酸であり、前記非荷電アミノ酸がアスパラギンである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記PKCアゴニストペプチドは、古典的PKCアゴニスト、新規なPKCアゴニストまたは異型のPKCアゴニストである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記PKCアゴニストペプチドが、εPKCアゴニストペプチドである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記εPKCアゴニストペプチドが、配列番号3に示されるアミノ酸配列を有するΨεRACKペプチドである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記εPKCアゴニストペプチドは、配列番号12;配列番号20;配列番号16;または配列番号21に示されるアミノ酸配列を有する、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記PKCアンタゴニストペプチドは、配列番号50;配列番号51;配列番号52;配列番号53;配列番号54;配列番号55;配列番号56;または配列番号57に示されるアミノ酸配列を有するεPKCアンタゴニストペプチドである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記PKCアゴニストペプチドが、εPKCアゴニストペプチドであり、前記少なくとも1つのアミノ酸が非荷電アミノ酸で置換される荷電アミノ酸である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
プロテインキナーゼC(PKC)酵素の活性を阻害する方法であって、該酵素を、PKCインヒビターペプチドまたはPKCインヒビターペプチド模倣物と接触させる工程を包含し、該ペプチドは、PKCアゴニストペプチドまたはPKCアゴニストペプチド模倣物由来であり、ここで該アゴニストペプチドまたはアゴニストペプチド模倣物中の少なくとも1つのアミノ酸は、該アゴニストペプチドまたはアゴニストペプチド模倣物をアンタゴニストペプチドまたはアンタゴニストペプチド模倣物へ変換するのに十分な別のアミノ酸で置換される、方法。
【請求項11】
前記PKCアゴニストペプチドが、前記PKC酵素のΨ−RACK配列由来である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記Ψ−RACK配列が、ΨεRACK配列である、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記プロテインキナーゼCが、εPKCであり、前記PKCアゴニストペプチドが、前記PKC酵素のΨ−RACK配列の誘導体である、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記PKCアゴニストペプチドは、配列番号3に示されるアミノ酸配列を有するΨεRACKアゴニストペプチドである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記PKCアゴニストペプチドは、配列番号12;配列番号16;配列番号20;または配列番号21に示されるアミノ酸配列を有する、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
請求項13に記載の方法であって、前記PKCアゴニストペプチドは、配列番号3に示されるアミノ酸配列を有するΨεRACKペプチドであり、前記PKCインヒビターペプチドは、配列番号3とは異なるアミノ酸配列を有し、該配列において、前記少なくとも1つのアミノ酸残基は、該少なくとも1つのアミノ酸と比較して電荷が低い別のアミノ酸で置換される、方法。
【請求項17】
前記少なくとも1つのアミノ酸は、負に荷電し、前記別のアミノ酸は、非荷電である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記少なくとも1つのアミノ酸が、アスパラギン酸であり、前記別のアミノ酸が、アスパラギンである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記PKCインヒビターペプチドは、配列番号55に示されるアミノ酸配列を有する、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記PKCインヒビターペプチドは、配列番号50;配列番号51;配列番号52;配列番号53;配列番号54;配列番号55;配列番号56;または配列番号57に示されるアミノ酸配列を有する、請求項10に記載の方法。
【請求項21】
PKCアンタゴニスト活性を有するペプチドを含むペプチドであって、該ペプチドは、PKCアゴニストペプチド由来であり、ここで該アゴニストペプチド中の少なくとも1つのアミノ酸は、該アゴニストペプチドをアンタゴニストペプチドへ変換するのに十分である別のアミノ酸で置換される、ペプチド。
【請求項22】
前記PKCが、εPKCであり、前記PKCアゴニストペプチドが、εPKCアゴニストペプチドである、請求項21に記載のペプチド。
【請求項23】
前記ペプチドは、配列番号55に示されるアミノ酸配列を有する、請求項22に記載のペプチド。
【請求項24】
前記アゴニストペプチドは、配列番号50;配列番号51;配列番号52;配列番号53;配列番号54;配列番号55;配列番号56;または配列番号57に示されるアミノ酸配列を有する、請求項21に記載のペプチド。
【請求項25】
前記少なくとも1つのアミノ酸は、置換された位置において、電荷の変化を提供するアミノ酸で置換され、請求項21に記載のペプチド。
【請求項26】
PKC拮抗活性を有するペプチドであって、配列番号50;配列番号51;配列番号52;配列番号53;配列番号54;配列番号55;配列番号56;または配列番号57に示されるアミノ酸配列を有する、ペプチド。
【請求項27】
処置方法であって、配列番号50;配列番号51;配列番号52;配列番号53;配列番号54;配列番号55;配列番号56;または配列番号57に示されるアミノ酸配列、あるいはこれらの組み合わせを有する治療有効量のεPKCアンタゴニストペプチドを、必要とする患者に投与する工程を包含する、方法。
【請求項28】
前記処置は、εPKCにより調節される疾患または状態のためのものである、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記疾患または状態は、線維症疾患または炎症性疾患である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記線維症疾患は、強皮症、肝線維症、または肺線維症である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記炎症性疾患は、自己免疫疾患または肺疾患である、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
前記自己免疫疾患は、多発性硬化症、ギャン−バレー症候群、乾癬、グレーブス病、慢性関節リウマチ、およびI型真性糖尿病である、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記肺疾患は、慢性閉塞性肺疾患またはぜん息である、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
前記炎症性疾患は、敗血症性ショックまたは炎症性腸疾患である、請求項29に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2007−513974(P2007−513974A)
【公表日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−544101(P2006−544101)
【出願日】平成16年12月13日(2004.12.13)
【国際出願番号】PCT/US2004/041854
【国際公開番号】WO2005/059124
【国際公開日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【出願人】(504394593)ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ レランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティー (10)
【Fターム(参考)】