説明

プロテオグリカンの医薬用途

【課題】 プロテオグリカンの新規な医薬用途を提供すること。
【解決手段】 本発明は、プロテオグリカンを有効成分とする抗肥満剤である。また、プロテオグリカンを有効成分とする抗糖尿病剤である。プロテオグリカンは、肥満個体に対して体重軽減や血糖値上昇抑制をもたらし、また、糖尿病の指標であるHbA1c値の低下作用を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロテオグリカンの新規な医薬用途に関する。
【背景技術】
【0002】
プロテオグリカンは複合糖質のひとつで、コアタンパクとそれに結合するグリコサミノグリカン(酸性ムコ多糖)からなり、細胞外マトリックスの主な構成要素として、皮膚、軟骨、骨、血管壁などに存在する。近年、プロテオグリカンの研究開発が精力的に行われていることは周知の通りであり、本発明者らも、プロテオグリカンが例えばTNF−αやIFN−γの産生抑制作用などを有することをこれまでに報告している(特許文献1)。しかしながら、プロテオグリカンが有する薬理作用の全容はいまだ明らかでない。
【特許文献1】特開2007−131548号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そこで本発明は、プロテオグリカンの新規な医薬用途を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは上記の点に鑑みて鋭意研究を進めた結果、プロテオグリカンが肥満個体に対して体重軽減や血糖値上昇抑制をもたらすこと、糖尿病の指標であるHbA1c値の低下作用を有することを見出した。
【0005】
上記の知見に基づいてなされた本発明は、請求項1記載の通り、プロテオグリカンを有効成分とする抗肥満剤である。
また、本発明は、請求項2記載の通り、プロテオグリカンを有効成分とする抗糖尿病剤である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、プロテオグリカンの新規な医薬用途として、抗肥満剤および抗糖尿病剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明において有効成分とするプロテオグリカンは、例えば、サケ、サメ、ウシ、クジラなどの軟骨を原材料にして精製されたものが挙げられる。プロテオグリカンの精製方法としては、特開2002−69097号公報に記載の酢酸を用いた方法を好適に採用することができる。この方法は、例えばミンチにしたサケの鼻軟骨から溶出溶媒として酢酸を用いて粗プロテオグリカンを溶出した後、得られる溶出液を濾過してから遠心分離し、その上澄液に食塩飽和エタノールを加えて遠心分離することにより得られる粗プロテオグリカンを含む半固形沈殿物を酢酸に溶解し、次いで透析することにより行うものであり、この方法によれば、例えばサケの鼻軟骨から約100〜400kDaの分子量を有するプロテオグリカンを得ることができる。
【0008】
プロテオグリカンは、経口投与によって肥満個体に対する体重軽減作用や血糖値上昇抑制作用を発揮するとともに、糖尿病の指標であるHbA1c値の低下作用を発揮するが、プロテオグリカンの投与方法は経口投与に限定されるものでなく、静脈注射、筋肉注射、皮下投与、直腸投与などの非経口投与であってもよい。投与に際してはそれぞれの投与方法に適した剤型に製剤化すればよい。製剤形態としては、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、細粒剤、丸剤、トローチ剤、舌下錠、坐剤、軟膏、注射剤、乳剤、懸濁剤、シロップなどが挙げられ、これら製剤の調製は、無毒性の賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、防腐剤、等張化剤、安定化剤、分散剤、酸化防止剤、着色剤、矯味剤、緩衝剤などの添加剤を使用して自体公知の方法にて行うことができる。無毒性の添加剤としては、例えば、でんぷん、ゼラチン、ブドウ糖、乳糖、果糖、マルトース、炭酸マグネシウム、タルク、ステアリン酸マグネシウム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アラビアゴム、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ペトロラタム、グリセリン、エタノール、シロップ、塩化ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、クエン酸、ポリビニルピロリドン、水などが挙げられる。なお、製剤中には、本発明の有用性を補強したり増強したりするために、他の薬剤を含有させてもよい。
【0009】
製剤中における有効成分であるプロテオグリカンの含有量は、その剤型に応じて異なるが、一般に0.1〜100重量%の濃度であることが望ましい。製剤の投与量は、投与対象者の性別や年齢や体重の他、症状の軽重、医師の診断などにより広範に調整することができるが、一般に1日当り0.01〜300mg/Kgとすることができる。上記の投与量は、1日1回または数回に分けて投与すればよい。
【0010】
また、プロテオグリカンは、種々の形態の食品(サプリメントを含む)に、所望する薬理作用を発揮するに足る有効量を添加することで、機能性食品として食してもよい。
【実施例】
【0011】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定して解釈されるものではない。
【0012】
実施例1:肥満モデルマウスに対するプロテオグリカンの抗肥満効果(体重軽減作用および血糖値上昇抑制作用)
(実験方法)
分子量が約100〜200kDaのサケの鼻軟骨由来のプロテオグリカン(PG:特開2002−69097号公報に記載の方法により精製。以下同じ)を10mg/mLの濃度でPBS(リン酸緩衝生理食塩水)に溶解し、肥満モデルマウス(C57BL/6j−ob/ob,The Jackson Laboratories社から購入。水および餌は自由摂取。以下同じ)に対して200μL/mouse(2mg/mouse)を4週間、毎日ゾンデで午前9時〜12時の時間帯に胃内に投与した。また、別の肥満モデルマウスに対し、200μL/mouseのPBSを毎日午前9時〜12時の時間帯にゾンデで4週間、胃内に投与した。投与開始から1週間ごとにそれぞれの体重測定を行い、投与開始時の体重を100としてその増減を百分率で求めた。また、投与開始から1週間ごとに投与してから18時間絶食後、眼窩血をキャピラリーで採取し、血糖測定システム(商品名:メディセーフミニ,テルモ社)を用いてそれぞれの血糖値を測定した。
【0013】
(実験結果)
体重の推移を図1に、血糖値の推移を図2に示す。なお、図1および図2には、C57BL/6j−ob/?(The Jackson Laboratories社から購入)およびC57BL/6(日本クレア社から購入)の2種類の正常マウスに対する投与結果をあわせて示す。図1および図2から明らかなように、プロテオグリカンの経口投与によって肥満モデルマウスにおける体重軽減および血糖値上昇抑制が認められたが(ob/ob−PG対ob/ob−PBS)、正常マウスにおいてはこのような作用は認められなかった。以上の結果から、プロテオグリカンは肥満に対する予防薬や治療薬として有用であることがわかった。
【0014】
実施例2:肥満モデルマウスに対するプロテオグリカンの抗糖尿病効果(HbA1c値低下作用)
(実験方法)
実施例1と同様にして分子量が約100〜200kDaのサケの鼻軟骨由来のプロテオグリカンを毎日ゾンデで午前9時〜12時の時間帯に肥満モデルマウスの胃内に2mg/mouse投与し、4週間後、鼠径部より血液を採取し、自動生化学検査機械(商品名:DimensionXtand,Simens社)を用いてHbA1c値を測定した。また、実施例1と同様にしてPBSを投与した肥満モデルマウスと、プロテオグリカンもPBSも投与していない肥満モデルマウスについても、4週間後にHbA1c値を測定した。
【0015】
(実験結果)
結果を図3に示す(n=6)。なお、図3には、正常マウス(C57BL/6j−ob/?,The Jackson Laboratories社から購入)に対する投与結果をあわせて示す。図3から明らかなように、プロテオグリカンの経口投与によって肥満モデルマウスにおけるHbA1c値の低下が認められた(ob/ob−PG対ob/ob−PBS)。以上の結果から、プロテオグリカンは糖尿病(特に肥満によって誘発される2型糖尿病や境界型糖尿病)に対する予防薬や治療薬として有用であることがわかった。
【0016】
製剤例1:錠剤
1錠当たり5mgのプロテオグリカンを含む以下の成分組成からなる200mg錠剤を、各成分をよく混合してから打錠することで製造した。
プロテオグリカン 5mg
乳糖 137〃
でんぷん 45〃
カルボキシメチルセルロース 10〃
タルク 2〃
ステアリン酸マグネシウム 1〃
合計200mg/錠
【0017】
製剤例2:カプセル剤
1カプセル当たり20mgのプロテオグリカンを含む以下の成分組成からなる100mgカプセル剤を、各成分をよく混合してからカプセルに充填することで製造した。
プロテオグリカン 20mg
乳糖 53〃
でんぷん 25〃
ステアリン酸マグネシウム 2〃
合計100mg/カプセル
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明は、プロテオグリカンの新規な医薬用途として、抗肥満剤および抗糖尿病剤を提供することができる点において産業上の利用可能性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例1における肥満モデルマウスに対するプロテオグリカンの抗肥満効果(体重軽減作用)を示すグラフである。
【図2】同、抗肥満効果(血糖値上昇抑制作用)を示すグラフである。
【図3】実施例2における肥満モデルマウスに対するプロテオグリカンの抗糖尿病効果(HbA1c値低下作用)を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロテオグリカンを有効成分とする抗肥満剤。
【請求項2】
プロテオグリカンを有効成分とする抗糖尿病剤。




【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−126461(P2010−126461A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−300969(P2008−300969)
【出願日】平成20年11月26日(2008.11.26)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年10月29日 文部科学省 科学技術・学術政策局が発行する「都市エリア産学官連携促進事業 平成20年度版」に発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、文部科学省、地域科学技術振興事業委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504229284)国立大学法人弘前大学 (162)
【Fターム(参考)】