説明

プロテーゼ

プロテーゼは、ポリアリールエーテルケトンから形成された内層と、多孔質ポリアリールエーテルケトンから形成され、内層に隣接する第1の外層であって、孔のうち少なくともいくつかは、骨統合を促進する材料を、その中に位置させている、第1の外層と、多孔質ポリアリールエーテルケトンから形成され、第1の外層に隣接する第2の外層であって、孔のうちの一部は、骨統合を促進する材料を含まない、第2の外層と、を含む。本発明は、プロテーゼを製造する方法にも関する。代替的な構成では、プロテーゼは、ポリアリールエーテルケトンから形成された内層と、多孔質ポリアリールエーテルケトンから形成され、内層に隣接する第1の外層であって、孔のうち少なくともいくつかは、約60%〜約90%の結晶化度を有する、骨統合を促進する材料を、その中に位置させている、第1の外層と、多孔質ポリアリールエーテルケトンから形成され、第1の外層に隣接する第2の外層であって、孔のうち少なくとも一部は、約50%未満の結晶化度を有する、骨統合を促進する材料を、その中に位置させている、第2の外層と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【開示の内容】
【0001】
本発明はプロテーゼに関する。より詳細には、本発明は寛骨臼プロテーゼに関する。
【0002】
股関節が有効に機能することは、人体の幸福および可動性にとって極めて重要である。各股関節は、骨盤の寛骨臼内部で回転する、頭部が球状の部分を載せている、オフセットした骨頸部で終端をなす、大腿骨の上方部分により構成される。関節リウマチおよび骨関節炎などの疾患は、寛骨臼の軟骨裏打ち部分(cartilage lining)の腐食を引き起こす場合があり、大腿骨の球状部と寛骨とがこすれ合って、痛み、およびさらなる腐食を引き起こす。骨の腐食により、骨自体が、その腐食を補おうとする場合があり、これにより結果として、骨が奇形になる可能性がある。
【0003】
股関節を人工インプラントと置換する手術が周知であり、広く行われている。一般的に、股関節プロテーゼは、2つの構成要素、すなわち、寛骨臼を裏打ちする寛骨臼構成要素と、大腿骨頭に取って代わる大腿骨構成要素と、から形成される。大腿骨構成要素は、全大腿骨頭代替品であってよく、この場合、この構成要素は、ヘッド、ネック、およびステムを含み、ステムは、使用中、準備された大腿骨の端部に挿入される。あるいは、適切な場合には、大腿骨頭構成要素は、大腿骨頭部が適切に機械加工されたら大腿骨の頭部に取り付けられる、表面修復プロテーゼであってよい。
【0004】
プロテーゼ寛骨臼を患者の骨盤に挿入する手術では、外科医はまず、リーマーを使用して、適切なサイズの空洞を患者の骨盤に切り出す。次に、寛骨臼カップをその空洞に挿入する。「適切なサイズ」とは、その特定の患者にとって最も適切であるとして外科医が選択したサイズを意味する。通常、元の健康な骨表面をできるだけ保持することが望ましい。
【0005】
市販されている寛骨臼カップは、個々の患者のニーズに合うように、様々な範囲のサイズで販売される。一般的に、寛骨臼カップは、42mm〜62mm直径のサイズで入手可能であり、隣り合うサイズは2mm刻みである。
【0006】
いくつかの異なるタイプのプロテーゼ寛骨臼カップがある。1つのタイプのカップは、ポリエチレンから作られるものである。そのようなカップは、概して、寛骨臼内にセメントで固められ、それらをセメント内に設置するのに軽い圧力しか必要としない。
【0007】
代替的な1つのカップのタイプは、大腿骨と関節接合するためのポリエチレンライナーユニットと、骨盤腔に挿入される金属シェルと、を有する。金属シェルを備えたこれらのカップは、セメントなしで植え込まれることができ、金属シェルと患者の寛骨臼との間の嵌め合い(jam fit)に依存している。しかしながら、いくつかの構成では、ライナーが所定の位置に適用される前に、カップのシェルを骨盤の所定の位置に固定するために、ねじを使用することができる。金属シェルを骨盤に挿入するには、かなりの力が必要である。外科医がこのような力を加えると、金属シェルが損傷または変形するかもしれないというリスクがある。力を加える間に、シェルが移動してしまい、寛骨臼内で最適に整列しない可能性もある。しばしば、金属シェルは、外側表面またはコーティングを有し、これらは、経時的に、骨がその外側表面またはコーティング内へ成長することを促進する。
【0008】
このタイプのプロテーゼでは、ポリエチレンライナーユニットは、金属シェルが寛骨臼に位置した後で、金属シェル内にスナップ嵌めされるか、またはねじ込まれる。したがって、ライナーの内側表面は、関節のソケット部を形成する。
【0009】
最近になって、プラスチックライナーに代わるものとして、セラミックスが使用されている。この構成では、一般的にチタンから形成される金属シェルが、寛骨臼に挿入される。次に、セラミックスのライナーが、シェルに挿入される。
【0010】
これらの様々な先行技術の構成が、磨耗した関節の痛みの軽減を患者に与えるが、特に磨耗に関して、患者に改善された結果をもたらすプロテーゼを提供することが、引き続き望まれている。これは、プロテーゼ自体が寛骨臼内で磨耗するかまたは緩んでしまったときに再建手術が必要となり得る場合に、若い患者にとって特に重要である。したがって、自然の骨をより厳密に模倣すると共に、プロテーゼの磨耗の問題を最小限にする、プロテーゼの新たな材料および/または新たな構造が継続して必要とされている。
【0011】
ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)ポリマーは、整形外科用インプラントでの使用に適した材料として推奨されてきた。この材料は、"Taking a PEEK at Material Options for Orthopedics", Kinburn A., Medical Design Technology Magazine; 1 Jan 2009 page 26ff、で論じられている。PEEKを炭素繊維で補強すると、特定の利点を得ることができると示唆されている。蹄鉄型カップにPEEKを使用することが、"Biomechanics of a PEEK Horseshoe-Shaped Cup: Comparisons with a Predicate Deformable Cup" Manley, M. T., et al Poster No 1717 at 53rd Annual Meeting of the Orthopaedic Research Society、で論じられている。
【0012】
WO2009/097412は、PEEKが多層半球形プロテーゼにおいて有用であり得ると示唆している。この多層システムは、多孔質金属から形成された外層と、ポリアリールエーテルケトンから形成された内層と、を含み、ポリアリールエーテルケトンは、第1の材料の孔を少なくとも部分的に透過する。出願人らは、この構成により2つの層が確実に互いに接合することができると示唆している。彼らはまた、このプロテーゼは、先行技術の構成で得られるものよりも剛性が低いことを示唆している。
【0013】
プロテーゼ寛骨臼カップでPEEKを使用する例が、EP1647242に記載されている。記載された一実施形態では、プロテーゼは、PEEK/炭素繊維複合物から作られた内側支持表面(inner bearing surface)を含む。そして、プラズマトーチを使用してPEEKをスパッタリングすることによって、内側支持表面上に外側コーティングが形成される。この外側コーティングは、バリア裏打ち層を形成する。スパッタリング処理開始時のPEEK粒子のサイズは小さく、処理中に増大して、多孔質構造が作り出される。この多孔質層は、連続層としてハイドロキシアパタイトでコーティングされる。このコーティングは、複合物材料と骨細胞との間にバリアを作り、骨付着のために適切な粗さを与え、かつ/または、骨細胞の内方成長のために開放気孔率(open porosity)を与えるために設けられる。
【0014】
US2008/161927は、第1の椎骨と第2の椎骨との間の癒合を促進する装置を記載しており、この装置は、PEEKから形成された第1の固体領域と、その第1の固体領域に接合した第1の多孔質領域と、を含む。第1の多孔質領域は、多孔質PEEK構造を有する。ハイドロキシアパタイトなどの骨成長促進材料を、第1の多孔質領域に塗布することができる。
【0015】
相互接続された複数の孔を含む、PEEKから形成されたインプラントが、WO2007/051307に記載されている。多孔質材料を製造する方法も記載されており、この方法では、第1の材料が、その第1の材料より高い融点を有する第2の材料と混合され、その混合物を、圧力下で、第1の材料の融点と第2の材料の融点との間の温度まで加熱し、融解した混合物が硬化するまでその混合物を冷却し、第1の材料から第2の材料を除去する。流体材料を固体の粒子犠牲材料と混合して混合物を形成することと、その混合物を硬化させることと、硬化した混合物から固体の粒子を除去して、相互接続された複数の孔を残すことと、を含む方法も記載されている。犠牲材料としては、概して粗い食卓塩が使用される。
【0016】
これらの案は、先行技術の問題に取り組むのにいくらか役立つが、代替的な、好ましくは改善された、構成が依然として必要とされている。
【0017】
本発明によると、プロテーゼが提供され、このプロテーゼは、
ポリアリールエーテルケトンから形成された内層と、
多孔質ポリアリールエーテルケトンから形成され、内層に隣接している第1の外層であって、孔のうち少なくともいくつかは、骨統合(osteointegration)を促進する材料を、その中に位置させている、第1の外層と、
多孔質ポリアリールエーテルケトンから形成され、第1の外層に隣接している第2の外層であって、孔の少なくとも一部は、骨統合を促進する材料を含まない、第2の外層と、
を含む。
【0018】
本発明のプロテーゼは、先行技術の構成に対して、様々な利点を提供する。プロテーゼは、軽量であると共に、必要な強度を有している。さらに、先行技術の構成に比べ、改善された耐磨耗性を有している。
【0019】
チタン層などの金属コーティング層が、内層と第1の外層との間に位置してもよいが、これは、一般に好ましくない。そのような金属層が存在する場合、概して薄くなり、約1mm以下のものとなる。
【0020】
金属は外層に使用されないので、製造コストは、先行技術のプロテーゼに比べ、実質的に減少する。金属の外側表面を使用しないことのさらなる利点は、出来上がったプロテーゼがいくらか可撓性を有し、一般的には、自然の骨と同様の可撓性を有することである。プロテーゼを寛骨臼で使用する場合、プロテーゼは、骨盤と同様の可撓性を有する。金属の外層を使用しないことのさらなる利点は、出来上がったプロテーゼが、より柔軟なエッジを有して、衝突の影響が低減されることである。
【0021】
外層および内層のポリアリールエーテルケトンは、同じでも、異なっていてもよい。好適な1つの構成では、各層のポリアリールエーテルケトンは、ポリエーテルエーテルケトンである。
【0022】
第1および第2の外層は、別個の層であってよく、あるいは、それらが近接するように単一の層内部の複数の領域であってもよい。
【0023】
1つの構成では、ポリアリールエーテルケトンは、補強され得る。概して、内層のみが補強されるが、いくつかの構成では、外層のうちの少なくとも一方が、補強材を含むことができる。任意の適切な材料を使用してポリアリールエーテルケトンを補強することができるが、補強材料としては、一般に、炭素繊維を使用する。
【0024】
多孔質の外層中の孔は、別個の分離された孔であってよいが、少なくともいくつかの孔は、他の孔と相互接続しているのが好ましい。したがって、特に好適な構成では、孔の群が相互接続して、迷路(labyrinth)を形成する。この多孔質構造は、その外側表面から骨の内方成長を可能にするだけでなく、内層から第1の外層内へ、そして第1の外層から第2の外層内へポリアリールエーテルケトンが統合することを可能にし、それにより、それらの層が互いに確実に固定される。
【0025】
骨の内方成長を促進する材料として、任意の適切な材料を使用することができる。適切な材料には、ハイドロキシアパタイト、リン酸カルシウム、リン酸三カルシウム、および炭酸カルシウムが含まれ、ハイドロキシアパタイトが特に好ましい。1つまたは複数の孔の中に、骨統合を促進する材料が位置している場合、骨内方成長材料が、その孔を完全に、または部分的に埋めることができる。1つの構成では、孔のうちいくつかが、部分的に埋められ、他の孔は、完全に埋められる。さらなる構成では、孔が埋められるか、または部分的に埋められるのではなく、孔のうち少なくともいくつかは、それらの壁のうち少なくとも1つ、またはその一部を、骨内方成長材料でコーティングされることができる。さらなる構成では、いくつかの孔は埋められてよく、いくつかの孔は部分的に埋められてよく、一方、他の孔は、それらの壁のうち少なくとも1つ、またはその一部を、骨内方成長材料でコーティングされることができる。
【0026】
第2の外層における孔のうち少なくとも一部は、骨統合を促進する材料を含まない。1つの構成では、第2の外層における孔の約50%超が、骨統合を促進する材料を含まない。別の構成では、孔の約60%〜約80%が、骨統合を促進する材料を含まない。さらなる構成では、この外層の孔は、骨統合を促進する材料を実質的に含まない。
【0027】
孔のうち少なくともいくつかは、その内部に、骨統合を促進する材料を含む。1つの構成では、孔の少なくとも約20%が、骨統合を促進する材料を含む。別の構成では、孔の少なくとも約50%、または約60%〜約80%が、骨統合を促進する材料を含む。さらなる構成では、第1の外層における孔の実質的にすべてが、骨統合を促進する材料を含む。
【0028】
理論に束縛されるつもりはないが、内側の孔の中に骨統合を促進する材料を位置させることで、骨を孔の迷路に通して第1の外層内に引っ張ることが容易になり、これにより、プロテーゼが所定位置にしっかり保持されると考えられる。
【0029】
1つの構成では、骨統合を促進する材料、一般にハイドロキシアパタイト、の結晶化度は、第1の外層と第2の外層との間で異なる。1つの構成では、より高い結晶化度を有する材料が、第1の外層に存在し、より低い結晶化度を有する材料が、骨統合を促進する材料を含む、第2の外層の孔に存在する。選択される実際の結晶化度は、相対的により多くの結晶質が第1の外層に位置しているという条件で、適切ないかなるものであってもよい。一般的に、より高い結晶質のハイドロキシアパタイトは、約60%〜約90%、より詳細には約80%〜約85%、の結晶化度を有する。典型的には、より低い結晶質のハイドロキシアパタイトは、約50%未満の結晶化度を有する。
【0030】
この構成では、第2の外層中の、より低い結晶化度のハイドロキシアパタイトが、体内ですばやく再吸収され、第1の外層中のハイドロキシアパタイトは、再吸収されないか、またはゆっくりと再吸収されるに過ぎないと考えられる。1つの構成では、第2の外層中のハイドロキシアパタイトの結晶化度は、数週間で再吸収されることができ、約2〜約8週間がその期間を示すものであり、約4〜約6週間が好ましい。対照的に、より高い結晶化度の第1の外層中のハイドロキシアパタイトが、少しでも(at all)再吸収される場合、その再吸収(resorbtion)は、数週間ではなく、数年の期間で再吸収される。一般に、8〜約15年の再吸収期間が予測され得、約10〜約12年間が望ましい。しかしながら、結晶化度に加え、粒径、およびin vivoの負荷が、再吸収期間に影響を及ぼすことが理解される。
【0031】
骨内方成長材料の存在により、骨の内方成長が促進されることに加えて、様々な利点がもたらされる。外層が孔を含むので、外層は、構造的には圧縮に弱くなる場合があり、これにより、圧縮時のプロテーゼの強度が低減され得、挿入時に困難を生じる場合がある。孔内に骨内方成長が存在することで、強度が改善され、プロテーゼが挿入の厳しさに耐えることができるようになる。これに関連して、プロテーゼが寛骨臼プロテーゼである場合の嵌め込み力(impaction forces)が、おおよそ5〜20mPaであり得ることは、注目すべきことである。さらに、骨内方成長材料は、一般に周囲のポリアリールエーテルケトンより硬いので、嵌め込みの必要な剛性を与えるのに役立つ。植え込みから数週間以内で第2の外層の骨内方成長材料の少なくとも一部が再吸収されることは、プロテーゼの剛性が低減し、前記の利点をもたらす自然の骨の剛性に近づいたことを意味する。
【0032】
骨が再吸収された材料に取って代わり、骨の内方成長を促進すると、多孔質構造へ統合されることが、理解されるであろう。
【0033】
外層の孔は、あらゆる適切なサイズのものであってよい。一つの構成では、孔のサイズは、約300〜約500μm(約300〜約500ミクロン)の範囲である。
【0034】
外層中の任意の適切な量の孔が存在してよい。第1および第2の外層中の孔の量は、同じでも異なっていてもよい。概して、約50〜約90%の気孔率を使用することができる。外層の強度は、より高い気孔率では低減されてもよいが、骨内でのプロテーゼの嵌め込みに耐えるのに必要な強度は、補強および/または骨統合を促進する材料の存在により、もたらされ得る。
【0035】
本発明の第2の態様によると、プロテーゼが提供され、このプロテーゼは、
ポリアリールエーテルケトンから形成された内層と、
多孔質ポリアリールエーテルケトンから形成され、内層に隣接する第1の外層であって、孔のうち少なくともいくつかは、約60%〜約90%の結晶化度を有する、骨統合を促進する材料を、その中に位置させている、第1の外層と、
多孔質ポリアリールエーテルケトンから形成され、第1の外層に隣接する第2の外層であって、孔のうち少なくとも一部は、約50%未満の結晶化度を有する、骨統合を促進する材料を、その中に位置させている、第2の外層と、
を含む。
【0036】
一つの構成では、一方または両方の層の孔の実質的にすべてが、特定の結晶化度の、骨統合を促進する材料を、その中に位置させてよい。
【0037】
プロテーゼは、好ましくは寛骨臼プロテーゼである。一つの構成では、プロテーゼは、従来のカップ形状のものであってよい。しかしながら、自然の骨盤では、寛骨臼は半球ではなく、蹄鉄形状に類似しているので、プロテーゼは、同様の蹄鉄形状のものであってもよい。カップ形状のプロテーゼを使用する場合であっても、大腿骨頭プロテーゼによるカップの摩耗は、蹄鉄をサブスクライブする(subscribes a horseshoe)ことが知られている。
【0038】
一つの代替的な構成では、プロテーゼは、組み合わせ構造のものであってよく、それにより、カップは、全体的に従来の半球形カップ(overall of conventional hemispherical cup)であるが、支持領域、すなわち蹄鉄が、より厚く、残りのエリアがより薄い。このより薄いエリアは、骨への固定手段の場所であってよい。したがって、骨ねじを使用する場合、骨ねじは、この位置でプロテーゼを通して挿入され得る。組み合わせ構造を使用する場合、外側表面は概して従来の半球形カップであってよく、支持領域内の厚さの増大により、カップの内側表面における隆起した支持表面がもたらされる。
【0039】
本発明のプロテーゼは、従来の半球形構造のものである場合、任意の適切なサイズのものであり、かつ任意の適切な厚さの壁である。この厚さは、概して、骨を保護し、できるだけ自然の大腿骨頭直径を維持するのに必要な最小限のものである。一つの構成では、壁の厚さは、約2〜約5mmであり、約3mmが一般的に有用である。内層と外層との厚さの比率は、必要に応じて調節されてよい。しかしながら、ほぼ1:1の比率が望ましいであろうと考えられる。しかしながら、厚さ比率の変動により、プロテーゼの性質が調整され、骨盤内への負荷の自然な配分が複製される。
【0040】
プロテーゼが、負荷支持エリアにおける増大した厚さと、非負荷支持位置にある、より薄いエリアがある構成のものである場合、負荷支持エリアの厚さは、従来のプロテーゼについて前述したものと同様になる。
【0041】
本発明のプロテーゼは、任意の適切な手段により形成され得る。一つの構成では、層状構造は、射出成形プロセスにより作られることができる。外層の孔は、ペレット形態の犠牲材料を、ポリアリールエーテルケトンのペレットと混合することにより形成される。いったん層が形成されると、犠牲材料は、適切な手段により除去される。一実施例では、ハイドロキシアパタイトペレットなどの骨の内方成長を促進する材料は、ポリアリールエーテルケトンのペレットと混合され得る。いったん層が射出成形され硬化されると、酸などのエッチング剤を、第2の外層の最も外側の表面に塗布して、骨統合を促進する材料の一部を優先的に取り除いて、骨統合を促進する材料を含まない第2の外層の孔を形成することができる。酸は、プロテーゼの外側表面に塗布されるので、犠牲材料は、第2の外層から実質的に除去されて、孔を提供する。しかしながら、使用する酸の量は、酸が第1の外層までほとんどまたはまったく貫通せず、骨統合を促進する材料が孔に保持されるように、選択される。
【0042】
本発明の第3の態様によると、前述した第1の態様のプロテーゼを製造するプロセスが提供され、このプロセスは、
射出成形によってポリアリールエーテルケトンの内層を形成する工程と、
骨統合を促進する材料のペレットを、ポリアリールエーテルケトンのペレットと混合する工程と、
射出成形により内層上に第1および第2の外層を形成する工程と、
骨統合を促進する材料が孔のうち少なくともいくつかから除去されるように、第2の外層の表面にエッチング剤材料を塗布する工程と、
を含む。
【0043】
任意の適切なエッチング剤を使用することができる。適切なエッチング剤には、硝酸もしくはクエン酸などの酸が含まれる。
【0044】
一つの代替的な構成では、多孔質外層は、選択的レーザービーム溶解、選択的電子ビーム溶解、もしくは選択的焼結により作られてよく、選択的レーザービーム溶解が特に好ましい。選択的レーザー溶解は、3次元固体物を結果として生じる2次元生産プロセスである。直接レーザー溶解プロセスは、ポリアリールエーテルケトン粉末の薄層を、直立部分が作られるべき基板上のエリアにわたって広げることを伴う。次に、層の断面が、レーザーからのエネルギーを使用して、粉末層の上に選択的に「描かれる(drawn)」。レーザーは、最終的な外層の第1の層を形成するように、粉末を溶かす。その後、この一連の作業は、所望の形状が作成されるまで、必要に応じてたびたび繰り返される。オフセット技術(offset technique)により、例えばブリッジが形成され、所望の多孔質構造がもたらされる。
【0045】
電子ビーム溶解は、粉末の溶解をもたらすのに、レーザーの代わりに電子ビームを使用することを除き、同様の処置である。電子ビームは、従来のテレビ受像機において電子ビームを制御するのに使用するのと同様の方法で、一連の電磁石を使用して焦点に集められる。
【0046】
選択的レーザー焼結は、外層を作り上げるのに使用され得る別のプロセスである。レーザービームを使用して、所望の層の輪郭を「描き(draw)」、レーザービームで照らされているエリアでポリマーの溶解を結果として生じる。レーザー溶解および電子ビーム溶解のプロセスと同様に、外層は多くの層から作られる。その後の層の焼結およびヒッピング(hipping)により、ポリマーの熱分解が結果として生じ、所望の外層が形成される。
【0047】
第1および第2の外層を形成するプロセスは、孔を形成する犠牲手段として骨統合を促進する材料を使用することを含まないが、この材料は、プラズマ溶射を含む任意の適切な手段により塗布され得る。
【0048】
本発明は、添付図面を参照して、一例として説明される。
【0049】
図1に示すように、本発明の寛骨臼プロテーゼ1は、多孔質ポリエーテルエーテルケトンを含む外層2を含む。例示されてはいないが、この外層は、第1の外層および第2の外層を含む。この実施例では、第1および第2の外層は近接している。この層は、複数の孔3を含み、孔のうち少なくともいくつかは、相互接続されている。カップ1は、炭素繊維強化ポリエーテルエーテルケトンを含む内層4も含んでいる。ハイドロキシアパタイトが、第1の外層の孔のうち少なくともいくつかの中に位置しており、第2の外層の孔のうち少なくともいくつかは、ハイドロキシアパタイトを含まない。
【0050】
代替的な構成が、図2に示されている。この構成では、カップ1は、炭素繊維強化ポリエーテルエーテルケトンの内層4を含む。外層2は、第1の外層2aおよび第2の外層2bから構成される。図2では、蜂の巣状の陰影があるが、これは単に、図面中の層を区別するためのものであり、いかなる構造を示すものでもない。層の孔の例は図2aおよび図2bにそれぞれ示されている。この実施形態では、骨統合を促進する材料として存在するハイドロキシアパタイトは、プラズマコーティングにより塗布されており、したがって、コーティングの塗布からの照準線(line of sight)上にある孔の壁が、コーティングされる。この実施形態では、第1の外層におけるハイドロキシアパタイトの結晶化度は、第2の外層のものより高い結晶化度となっている。
【0051】
カップ1は、従来の半球形カッププロテーゼであってよく、あるいは、図3に示すように、プロテーゼは、内側表面上に隆起した支持表面5を有することができる。より薄いエリアが、領域6に位置している。固定ねじを、このより薄いエリアに通すことができる。
【0052】
代替的な構成では、プロテーゼは、図4に示すように、蹄鉄構成のものであってもよい。
【0053】
本発明は、寛骨臼プロテーゼに関して詳細に説明されてきたが、本発明は、肩部のプロテーゼなど、他のプロテーゼにも適用できることが、理解されるであろう。さらに、本発明の様々な改変、用途、もしくは改作を、本発明の範囲内で行えることが、理解されるであろう。
【0054】
〔実施の態様〕
(1) プロテーゼにおいて、
ポリアリールエーテルケトンから形成された内層と、
多孔質ポリアリールエーテルケトンから形成され、前記内層に隣接する第1の外層であって、孔のうち少なくともいくつかは、骨統合を促進する材料を、その中に位置させている、第1の外層と、
多孔質ポリアリールエーテルケトンから形成され、前記第1の外層に隣接する第2の外層であって、孔の一部は、骨統合を促進する材料を含まない、第2の外層と、
を含む、プロテーゼ。
(2) 実施態様1に記載のプロテーゼにおいて、
前記第1の外層における前記骨統合を促進する材料の結晶化度は、約60%〜約90%である、プロテーゼ。
(3) 実施態様1に記載のプロテーゼにおいて、
前記第1の外層における前記骨統合を促進する材料の結晶化度は、約80%〜約85%である、プロテーゼ。
(4) 実施態様1〜3のいずれかに記載のプロテーゼにおいて、
前記第2の外層における前記骨統合を促進する材料の結晶化度は、50%未満である、プロテーゼ。
(5) プロテーゼにおいて、
ポリアリールエーテルケトンから形成される内層と、
多孔質ポリアリールエーテルケトンから形成され、前記内層に隣接する第1の外層であって、孔のうち少なくともいくつかは、約60%〜約90%の結晶化度を有する、骨統合を促進する材料を、その中に位置させている、第1の外層と、
多孔質ポリアリールエーテルケトンから形成され、前記第1の外層に隣接する第2の外層であって、孔のうち少なくとも一部は、約50%未満の結晶化度を有する、骨統合を促進する材料を、その中に位置させている、第2の外層と、
を含む、プロテーゼ。
【0055】
(6) 実施態様1〜5のいずれかに記載のプロテーゼにおいて、
前記第1の外層の前記孔の実質的にすべてが、骨統合を促進する材料を含む、プロテーゼ。
(7) 実施態様1〜6のいずれかに記載のプロテーゼにおいて、
前記外層および前記内層の前記ポリアリールエーテルケトンは、同じものである、プロテーゼ。
(8) 実施態様1〜6のいずれかに記載のプロテーゼにおいて、
前記外層および前記内層の前記ポリアリールエーテルケトンは、異なるものである、プロテーゼ。
(9) 実施態様1〜7のいずれかに記載のプロテーゼにおいて、
前記ポリアリールエーテルケトンは、ポリエーテルエーテルケトンである、プロテーゼ。
(10) 実施態様1〜9のいずれかに記載のプロテーゼにおいて、
前記ポリアリールエーテルケトンは、補強されている、プロテーゼ。
【0056】
(11) 実施態様10に記載のプロテーゼにおいて、
補強材は、炭素繊維である、プロテーゼ。
(12) 実施態様1〜11のいずれかに記載のプロテーゼにおいて、
前記骨統合を促進する材料は、ハイドロキシアパタイトである、プロテーゼ。
(13) 実施態様1〜12のいずれかに記載のプロテーゼにおいて、
少なくともいくつかの孔は、相互接続されて、迷路を形成する、プロテーゼ。
(14) 実施態様1〜13のいずれかに記載のプロテーゼにおいて、
前記プロテーゼは、寛骨臼プロテーゼである、プロテーゼ。
(15) 実施態様14に記載のプロテーゼにおいて、
前記寛骨臼プロテーゼは、半球形のカッププロテーゼである、プロテーゼ。
【0057】
(16) 実施態様14に記載のプロテーゼにおいて、
前記寛骨臼プロテーゼは、蹄鉄型プロテーゼである、プロテーゼ。
(17) 実施態様14に記載のプロテーゼにおいて、
前記寛骨臼プロテーゼは、半球形のカッププロテーゼであり、隆起した支持表面を有する、プロテーゼ。
(18) 第1の態様のプロテーゼを製造するプロセスにおいて、
射出成形によりポリアリールエーテルケトンの内層を形成する工程と、
骨内方成長材料のペレットを、ポリアリールエーテルケトンのペレットと混合する工程と、
射出成形により前記内層上に第1および第2の外層を形成する工程と、
前記骨内方成長材料が孔のうち少なくともいくつかから除去されるように、前記第2の外層の表面にエッチング剤材料を塗布する工程と、
を含む、プロセス。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の第1の態様による寛骨臼プロテーゼを貫通する断面図である。
【図2】本発明の第2の態様による寛骨臼プロテーゼを貫通する断面図である。
【図2a】第1の外層を形成する材料の拡大図である。
【図2b】第2の外層を形成する材料の拡大図である。
【図3】隆起した支持表面を有する実施形態を示す、本発明の寛骨臼プロテーゼの斜視図である。
【図4】蹄鉄構成の実施形態を示す、本発明の寛骨臼プロテーゼの斜視図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロテーゼにおいて、
ポリアリールエーテルケトンから形成された内層と、
多孔質ポリアリールエーテルケトンから形成され、前記内層に隣接する第1の外層であって、孔のうち少なくともいくつかは、骨統合を促進する材料を、その中に位置させている、第1の外層と、
多孔質ポリアリールエーテルケトンから形成され、前記第1の外層に隣接する第2の外層であって、孔の一部は、骨統合を促進する材料を含まない、第2の外層と、
を含む、プロテーゼ。
【請求項2】
請求項1に記載のプロテーゼにおいて、
前記第1の外層における前記骨統合を促進する材料の結晶化度は、約60%〜約90%である、プロテーゼ。
【請求項3】
請求項1に記載のプロテーゼにおいて、
前記第1の外層における前記骨統合を促進する材料の結晶化度は、約80%〜約85%である、プロテーゼ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のプロテーゼにおいて、
前記第2の外層における前記骨統合を促進する材料の結晶化度は、50%未満である、プロテーゼ。
【請求項5】
プロテーゼにおいて、
ポリアリールエーテルケトンから形成される内層と、
多孔質ポリアリールエーテルケトンから形成され、前記内層に隣接する第1の外層であって、孔のうち少なくともいくつかは、約60%〜約90%の結晶化度を有する、骨統合を促進する材料を、その中に位置させている、第1の外層と、
多孔質ポリアリールエーテルケトンから形成され、前記第1の外層に隣接する第2の外層であって、孔のうち少なくとも一部は、約50%未満の結晶化度を有する、骨統合を促進する材料を、その中に位置させている、第2の外層と、
を含む、プロテーゼ。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のプロテーゼにおいて、
前記第1の外層の前記孔の実質的にすべてが、骨統合を促進する材料を含む、プロテーゼ。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のプロテーゼにおいて、
前記外層および前記内層の前記ポリアリールエーテルケトンは、同じものである、プロテーゼ。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のプロテーゼにおいて、
前記外層および前記内層の前記ポリアリールエーテルケトンは、異なるものである、プロテーゼ。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のプロテーゼにおいて、
前記ポリアリールエーテルケトンは、ポリエーテルエーテルケトンである、プロテーゼ。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載のプロテーゼにおいて、
前記ポリアリールエーテルケトンは、補強されている、プロテーゼ。
【請求項11】
請求項10に記載のプロテーゼにおいて、
補強材は、炭素繊維である、プロテーゼ。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載のプロテーゼにおいて、
前記骨統合を促進する材料は、ハイドロキシアパタイトである、プロテーゼ。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項に記載のプロテーゼにおいて、
少なくともいくつかの孔は、相互接続されて、迷路を形成する、プロテーゼ。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか1項に記載のプロテーゼにおいて、
前記プロテーゼは、寛骨臼プロテーゼである、プロテーゼ。
【請求項15】
請求項14に記載のプロテーゼにおいて、
前記寛骨臼プロテーゼは、半球形のカッププロテーゼである、プロテーゼ。
【請求項16】
請求項14に記載のプロテーゼにおいて、
前記寛骨臼プロテーゼは、蹄鉄型プロテーゼである、プロテーゼ。
【請求項17】
請求項14に記載のプロテーゼにおいて、
前記寛骨臼プロテーゼは、半球形のカッププロテーゼであり、隆起した支持表面を有する、プロテーゼ。
【請求項18】
第1の態様のプロテーゼを製造するプロセスにおいて、
射出成形によりポリアリールエーテルケトンの内層を形成する工程と、
骨内方成長材料のペレットを、ポリアリールエーテルケトンのペレットと混合する工程と、
射出成形により前記内層上に第1および第2の外層を形成する工程と、
前記骨内方成長材料が孔のうち少なくともいくつかから除去されるように、前記第2の外層の表面にエッチング剤材料を塗布する工程と、
を含む、プロセス。

【図1】
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【図2】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2013−518653(P2013−518653A)
【公表日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−551684(P2012−551684)
【出願日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際出願番号】PCT/GB2011/050188
【国際公開番号】WO2011/095813
【国際公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【出願人】(511307362)フィンズブリー・(デヴェロップメント)・リミテッド (2)
【Fターム(参考)】