プロトポルフィリンIX細胞内集積増強組成物
【課題】5−アミノレブリン酸(ALA)の投与量を増加させることなく、安全かつ簡単に疾患組織中へのプロトポルフィリンIX(PpIX)の集積量を増加させることができるPpIX細胞内集積増強組成物を提供すること。
【解決手段】ALAと18−クラウン−6エーテルとを併用して、光線力学的療法や光線力学的診断に用いると、ALAの投与量を増加させることなく、安全かつ簡単に疾患組織中へのPpIXの集積量を増加させることができ、ALA−PDDやALA−PDTの効果を増大させることができる。特に、ALA−PDTについては相乗効果が期待できる。
【解決手段】ALAと18−クラウン−6エーテルとを併用して、光線力学的療法や光線力学的診断に用いると、ALAの投与量を増加させることなく、安全かつ簡単に疾患組織中へのPpIXの集積量を増加させることができ、ALA−PDDやALA−PDTの効果を増大させることができる。特に、ALA−PDTについては相乗効果が期待できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプロトポルフィリンIX(以下「PpIX」ともいう)細胞内集積増強組成物に関し、より詳しくは、5−アミノレブリン酸(以下「ALA」ともいう)類と、18−クラウン−6又はその誘導体とを含有するPpIX細胞内集積増強組成物や、該組成物を有効成分として含有するALA−PDT用薬剤やALA−PDD用診断剤等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、がん、イボ、ニキビのような疾患組織の診断及び治療方法として光に反応する化合物を投与し、光を照射することにより標的箇所の特定や治療を行う光線力学的診断(Photodynamic diagnosis、以下PDDと略す)や、光線力学的治療(Photodynamic therapy、以下PDTと略す)が注目されている。PDDは、例えば、ポルフィリン系又はクロリン系光増感剤を患者に投与し、これを疾患組織に集積させ、波長400nm付近の光を照射することによって蛍光発光させ、これを観察することにより、疾病の有無及び患部を特定する診断法であり、またPDTは、集積した光増感剤に波長600〜700nmの光を照射することによって活性酸素種を生成させ、これにより疾患組織のみを選択的に壊死させる治療法である。これらのPDD及びPDTは、これまでの診断法及び治療法と比較して、低侵襲で副作用が少ないため、患者に対する負担が少ないという利点がある。
【0003】
このPDD及びPDTで用いる光増感剤として、ALAを用いる光線力学的診断(以下「ALA−PDD」ともいう)や、ALAを用いる光線力学的療法(以下「ALA−PDT」ともいう)の開発がすすんでおり、ALAは、細胞内でヘム生合成経路の一連の酵素群によりPpIXに代謝活性化される(特許文献1参照)が、PpIXはガン組織に対する集積性が非常に高いとは言えず、十分な治療効果を得るためには、多量のALAを投与する必要がある。しかしながら、ALAは、20mg/kgB.W.以上投与すると、嘔吐、日光過敏症あるいは一時的な肝機能障害を惹起することが知られているので、その投与量にはおのずから制限がある。
【0004】
したがって、ALAの投与量を増加させることなく、PpIXの疾患組織への集積性を増大させるために、粘着付着性剤、例えば水膨潤性ポリマーを添加したもの(特許文献2参照)、キレート化剤、例えばアミノポリカルボン酸キレート化剤を併用したもの(特許文献3参照)、5−アミノレブリン酸アルキルエステルを前駆体としたもの(特許文献4参照)、担体物質としてリポソームのような脂質を併用したもの(特許文献5参照)などが提案されている。
【0005】
しかしながら、5−アミノレブリン酸アルキルエステルは、疾患組織内へのPpIXの集積性は増加するものの、細胞に対する毒性も増加するため、安全性の点で問題があるし、キレート剤は、安全性は高いものの非経口投与製剤として用いなければならないため、患者に対する侵襲性が高くなるという欠点がある。また、リポソームによる送達は安全性の点では問題はないが、調製工程が煩雑であり、コスト高になるのを免れない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表平4−500770号公報
【特許文献2】特表2004−505040号公報
【特許文献3】特表2001−501970号公報
【特許文献4】特表平11−501914号公報
【特許文献5】特表2004−520021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、ALAの投与量を増加させることなく、安全かつ簡単に疾患組織中へのPpIXの集積量を増加させることができるPpIX細胞内集積増強組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、PpIXの前駆物質であるALAを投与した場合、体内においてALAから誘導されるPpIXの疾患組織中への集積量を増大させるため、ALAの投与方法の他、ALA誘導体や併用化合物について鋭意検討してきたが、クラウンエーテルの一種である18−クラウン−6又はその誘導体が、ALAと併用することでPpIXの疾患組織中への集積量を増大させる作用を有することを見い出した。また、他のクラウンエーテルの添加を検討する過程において、15−クラウン−5を添加した場合には、同様の効果を得られないことを確認し、さらに、18−クラウン−6又はその誘導体をALA類と併用した場合、PpIXの細胞内蓄積量の増加効果では説明しきれないほどのPDTの増強効果も確認し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち本発明は、(1)18−クラウン−6又はその誘導体と、5−アミノレブリン酸類とを含有することを特徴とするプロトポルフィリンIX細胞内集積増強組成物や、(2)18−クラウン−6又はその誘導体と、5−アミノレブリン酸類とを、18−クラウン−6又はその誘導体と、5−アミノレブリン酸類との複合体として、含有することを特徴とする上記(1)記載のプロトポルフィリンIX細胞内集積増強組成物や、(3)18−クラウン−6の誘導体が、ベンゾ−18−クラウン−6、ジベンゾ−18−クラウン−6、シクロヘキサノ−18−クラウン−6、ジシクロヘキサノ−18−クラウン−6、2−アミノメチル−18−クラウン−6、2−ヒドロキシメチル−18−クラウン−6であることを特徴とする上記(1)又は(2)記載のプロトポルフィリンIX細胞内集積増強組成物や、(4)ALA類が、5−アミノレブリン酸塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、リン酸塩、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、トルエンスルホン酸塩、コハク酸塩、シュウ酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、グリコール酸塩、メタンスルホン酸塩、酪酸塩、吉草酸塩、クエン酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、又はリンゴ酸塩であることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれか記載のプロトポルフィリンIX細胞内集積増強組成物に関する。
【0010】
また、本発明は、(5)上記(1)〜(4)いずれか記載のプロトポルフィリンIX細胞内集積増強組成物を有効成分として含有する、5−アミノレブリン酸−光線力学的診断剤や、(6)上記(1)〜(4)いずれか記載のプロトポルフィリンIX細胞内集積増強組成物を有効成分として含有する、5−アミノレブリン酸−光線力学的治療剤に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明のPpIX細胞内集積増強組成物を用いることにより、ALAの投与量を増加させることなく、安全かつ簡単に疾患組織中へのPpIXの集積量を増加させることができ、ALA−PDDやALA−PDTの効果を増大させることができる。特に、ALA−PDTについては相乗効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】ALA塩酸塩と18−クラウン−6とを添加した場合の、細胞内PpIXの蛍光強度比の変化を示す図である。
【図2】ALA塩酸塩無添加系における、18−クラウン−6の細胞生存率に対する影響を示す図である。
【図3】ALA塩酸塩と15−クラウン−5とを添加した場合の、細胞内PpIXの蛍光強度比の変化を示す図である。
【図4】PpIX集積性に対する18−クラウン−6の細胞接触時間の影響を示す図である。
【図5】PDT効果に対するALA及び/又は18−クラウン−6の添加効果を示す図である。
【図6】PpIX集積性に対する18−クラウン−6の濃度依存性(ALA濃度の影響)を示す図である。
【図7】1.0mMのALAを基準としたPpIX集積性に対する18−クラウン−6の濃度依存性を示す図である。
【図8】ALA塩酸塩無添加系における、ベンゾ−18−クラウン−6の細胞生存率に対する影響を示す図である
【図9】ALA塩酸塩とベンゾ−18−クラウン−6とを添加した場合の、細胞内PpIXの蛍光強度比の変化を示す図である。
【図10】PDT効果に対する18−クラウン−6の添加効果(ALA濃度依存性)を示す図である。
【図11】PDT効果に対するALA及び/又はベンゾ−18−クラウン−6の添加効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のPpIX細胞内集積増強組成物としては、18−クラウン−6(エーテル)又はその誘導体から構成される18−クラウン−6類と、ALA類とを含有する組成物であれば特に制限されず、上記18−クラウン−6(1,4,7,10,13,16−ヘキサオキサシクロオクタデカン)の誘導体として、具体的には、ベンゾ−18−クラウン−6、ジベンゾ−18−クラウン−6、シクロヘキサノ−18−クラウン−6、ジシクロヘキサノ−18−クラウン−6、2−アミノメチル−18−クラウン−6、2−ヒドロキシメチル−18−クラウン−6等を挙げることができる。さらに、Oが一箇所以上Sに置き換わった18−チアクラウン−6エーテル又はその誘導体や、Oが一箇所以上NHに置き換わった18−アザクラウン−6エーテル又はその誘導体や、Oがそれぞれ一箇所以上S及びNHに置き換わった18−アザチアクラウン−6エーテル又はその誘導体などを挙げることができる。
【0014】
上記ALA類としては、ALA又はALAの塩が含まれ、ALAは、式HOOC−(CH2)2−(CO)−CH2−NH2で表されるアミノ酸の一種であり、例えば特開平4−9360号公報等に記載された化学合成法や、微生物による生産、酵素による生産等のいずれの公知の方法によっても製造することができる。
【0015】
ALA類のうち、ALAの塩としては、ALAは両性電解質であり、pHを変えることにより、酸性塩、中性塩又は塩基性塩のいずれの塩も形成可能であるが、安定性がよいという点でALA酸性塩が好ましく、具体的には、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、リン酸塩、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、トルエンスルホン酸塩、コハク酸塩、シュウ酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、グリコール酸塩、メタンスルホン酸塩、酪酸塩、吉草酸塩、クエン酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩等を挙げることができ、なかでも塩酸塩が好ましい。なお、これらの塩は使用時において、溶液として用いることもでき、その作用は、ALAの場合と同効なものが好ましい。
【0016】
以上の18−クラウン−6類やALA類を含む組成物は、水和物又は溶媒和物を形成していてもよく、溶媒としては、水又は生理的食塩水が好ましいが、溶解性を高めるために、水溶性有機溶剤、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、アセトン、グリセリン、プロビレングリコール、酢酸、ジメチルスルホキシドを併用することもできる。また、本発明の組成物は、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、シロップ剤、液剤、軟膏、巴布剤等の剤型で経口・経皮・静脈投与することができ、軟膏又は巴布剤として経皮的に施用する場合には、経皮吸収を促進するために経皮吸収促進剤、例えばl−メントールやd−リモネンなどのテルペン系化合物、L−α−ホスファチジルコリンなどのリン脂質、Tween系又はSpan系界面活性剤、ラウリン酸やオレイン酸などの脂肪酸又はその塩などを適宜配合して使用してもよい。
【0017】
また、ALA類を経口・静脈投与する場合の、ALA類の投与量は、ALA類の合計が、ALA換算で体重1kgあたり、1mg〜1000mg、好ましくは5mg〜100mg、より好ましくは10mg〜30mg、さらに好ましくは15mg〜25mgである。また、例えばALA20%含有クリームを用いて、ALA類を経皮投与する場合の、ALA類の投与量は、ALA類の合計が、ALA換算で、1mg〜90mg、好ましくは2mg〜50mg、より好ましくは5mg〜30mgである。
【0018】
ALA類と18−クラウン−6類との使用割合は、モル比で1:1〜1:20、好ましく1:3〜1:15であり、また、上記18−クラウン−6類とALA類とは、複合体を形成していてもよく、ALA類のアミノ基と18−クラウン−6類とが複合体を形成すると、ALA類は疎水性が増加し、ALA類が細胞膜を直接に通過する受動的取込が促進されるため、PpIXの細胞内集積性が増加すると考えることもできるが、細胞内PpIX集積性の増加から類推される効果を超えたALA−PDTによる殺細胞効果からすると、本発明におけるALA−PDT効果の作用機序は不明である。
【0019】
本発明のPpIX細胞内集積増強組成物は、ALA−PDD用の診断剤として使用することができ、本発明のALA−PDD診断剤を用いると、皮膚又は他の上皮組織の種々の異常部位、疾患部位等の病変部の範囲を判断することができる。すなわち、病変部の治療(手術)において、病変部の範囲を判断する際に、それ自身は光増感作用を有さないALA類を18−クラウン−6類と共に投与し、ALA類から色素生合成経路を経て誘導されたPpIXが、病変部組織内に特異的に蓄積し、紫色〜青色の励起光を照射すると、赤色の蛍光を放射することを利用して、赤色の波長を検出することで、がん等の病変部の範囲を判断することができる。具体的には、本発明の組成物を投与し、3〜6時間経過後、波長400nm付近の光を照射して発光させ、生じる蛍光を観察する方法を例示することができる。このように、本発明の実施態様のひとつに、本発明のPpIX細胞内集積増強組成物を用いたALA−PDD方法が含まれる。
【0020】
また、本発明のPpIX細胞内集積増強組成物は、ALA−PDT用治療剤として使用することもでき、上記ALA−PDT治療剤を用いると、皮膚又は他の上皮組織の種々の異常部位、疾患部位等の病変部組織を壊死させることができる。すなわち、光に反応する化合物を投与し、光を照射することにより病変部組織を治療するPDTを行う際に、それ自身は光増感作用を有さないALA類を、18−クラウン−6類と共に投与し、ALA類から色素生合成経路を経て誘導されたPpIXが、病変部組織内に特異的に蓄積し、光照射されることにより周囲の酸素分子を光励起し、その結果生成する一重項酸素が、その強い酸化力による殺細胞効果を有することを利用する病変部組織を壊死させる方法・手段を挙げることができる。具体的には、本発明の組成物を投与して、3〜6時間経過後、患部に50〜500mW/cm2で波長600〜700nmの光を全照射エネルギーが50〜300J/cm2になるように照射する方法を例示することができる。このように、本発明の実施態様のひとつに、本発明のPpIX細胞内集積増強組成物を用いたALA−PDT方法が含まれる。
【実施例1】
【0021】
(PpIX集積性に対する18−クラウン−6添加効果)
5×105個/mLに調整したヒト組織球性リンパ腫由来細胞株U937細胞(以下、U937細胞)5mLにALA塩酸塩1.0mMと18−クラウン−6エーテルとを所定濃度添加し、37℃恒温下にて3時間インキュベーションした。インキュベーション後、ハンクス緩衝溶液を用いて2回洗浄し、蛍光分光光度計(FP-6500、日本分光社製)を用いて細胞内PpIXの蛍光強度を測定した。励起波長及び測定波長領域は、それぞれ410nm及び620〜650nmとした。
【0022】
(結果)
1.0mMのALA塩酸塩に18−クラウン−6を、濃度を変えて添加した場合の、細胞内PpIXの蛍光強度比を図1に示す。ただし蛍光強度比とは、ALA塩酸塩1.0mMのみを添加した際のPpIXに対する蛍光強度の百分率である。この結果、18−クラウン−6の添加量が増すにつれて。細胞内PpIX集積性が向上し、7.5mM付近で蛍光強度比が極大値を示した。一方、10mM以上添加すると細胞内PpIX集積性が減少するが、これは18−クラウン−6の細胞毒性によるためと考えられる。このことは、ALA塩酸塩無添加系において、18−クラウン−6の細胞生存率に対する影響を検討した図2の結果からも示唆される。
【0023】
[比較例1]
上記実施例1と同様に調整したU937細胞に、ALA塩酸塩1.0mMと15−クラウン−5とを添加した際の細胞内PpIXの蛍光強度比の変化を図3に示す。18−クラウン−6と異なり、15−クラウン−5を添加するとPpIXの細胞内蛍光強度は増加するどころか、逆に減少する傾向にあることがわかる。このことから、細胞内PpIX集積性に及ぼすクラウンエーテルの添加効果は、18−クラウン−6にのみ見いだされる現象であることが示唆された。
【実施例2】
【0024】
(PpIX集積性に対する18−クラウン−6の細胞接触時間の影響)
5×105個/mLに調整したU937細胞5mLにALA塩酸塩1.0mMを添加したものに、さらに18−クラウン−6を7.5mM添加し、37℃恒温下で所定時間インキュベーションした。ただし、ALA塩酸塩添加後のインキュベーション時間は3時間で固定した。インキュベーション後、ハンクス緩衝溶液を用いて2回洗浄し、蛍光分光光度計を用いて上記実施例1と同様の方法で、細胞内PpIXの蛍光強度を測定した。
【0025】
(結果)
図4に、18−クラウン−6添加後のインキュベーション時間に対する細胞内PpIXの蛍光強度比を示す。ただし蛍光強度比とは、ALA塩酸塩1.0mMのみを添加した際のPpIXに対する蛍光強度比の百分率である。18−クラウン−6添加後のインキュベーション時間の増加に伴い細胞内PpIX集積性は増加し、3時間で極大値を示すことがわかった。
【実施例3】
【0026】
(PDTに対するALA及び/又は18−クラウン−6の添加効果)
5×105個/mLに調整したU937細胞5mLに、ALA塩酸塩を1.0mM及び/又は18−クラウン−6を7.5mM添加し、37℃恒温下で3時間インキュベーションした。インキュベーション後、ヨウ化ナトリウムとヨウ化リチウムとを封入したメタルハライドランプ(ウシオ電機社製)を用いて波長領域550〜750nmの光(放射強度:40mW/cm2)を60分間照射し、生細胞数を測定して細胞生存率を算出した。ただし、コントロールには生理食塩水を用いた。
【0027】
(結果)
結果を図5に示す。細胞生存率はコントロールの細胞生存数を100%として表した。細胞生存率が低いほどPDT効果が高いことを意味する。18−クラウン−6のみを添加した系ではPDT効果はまったく認められなかった。また、ALA塩酸塩のみを添加した系では細胞生存率は75.2%であった。しかし、ALA塩酸塩と18−クラウン−6とを併用すると細胞生存率は21.0%と急激に低下した。これはALA塩酸塩と18−クラウン−6共存下において、PpIXの細胞内集積性が増加したという理由だけでは説明できない。
【実施例4】
【0028】
(PpIX集積性に対する18−クラウン−6の濃度依存性)
5×105個/mLに調整したU937細胞5mLに0.25、0.5、又は1.0mMのALA塩酸塩を添加し、さらに18−クラウン−6をそれぞれ0、2.5、5.0、7.5、又は10mM添加し、37℃恒温下で3時間インキュベーションした。インキュベーション後、ハンクス緩衝溶液を用いて2回洗浄し、蛍光分光光度計を用いて上記実施例1と同様の方法で、細胞内PpIXの蛍光強度を測定した。図6に、ALA塩酸塩濃度を0.25、0.5及び1.0mMとした時の18−クラウン−6の添加濃度に対する細胞内PpIXの蛍光強度比を示す。ただし蛍光強度比は、各濃度のALAのみを添加した際のPpIXの蛍光強度を100%とした値を示した。また、図6の結果を基に、縦軸の蛍光強度比を1.0mMのALAのみを添加した際のPpIXの蛍光強度を基準に整理しなおした図を図7に示す。
【0029】
(結果)
図6より、いずれのALA濃度においてもALA単独投与よりも、18−クラウン−6を添加することで、細胞内PpIX集積性が増加し、その傾向はALA濃度が高いほど顕著であることがわかった。また、図7より、ALA濃度が0.5mMの場合、18−クラウン−6を2.5mM以上共存させると、1.0mMのALA単独投与の場合よりもPpIXの細胞内集積性が増加することがわかった。
【実施例5】
【0030】
(PpIX集積性に対するベンゾ−18−クラウン−6添加効果)
5×105個/mLに調整したU937細胞5mLにALA塩酸塩1.0mMとベンゾ−18−クラウン−6とを所定濃度添加し、37℃恒温下にて3時間インキュベーションした。インキュベーション後、ハンクス緩衝溶液を用いて2回洗浄し、蛍光分光光度計を用いて上記実施例1と同様の方法で、細胞内PpIXの蛍光強度を測定した。ただし、ベンゾ−18−クラウン−6を5mM以上投与すると細胞毒性が大きくなるので(図8参照)、ベンゾ−18−クラウン−6の添加濃度は5mM以下とした。
【0031】
(結果)
図9に、ベンゾ−18−クラウン−6の添加濃度に対する細胞内PpIXの蛍光強度比を示す。ただし、ALA塩酸塩1.0mMのみを添加した際のPpIXの蛍光強度を100%とした。その結果、18−クラウン−6と同様に、ALA塩酸塩にベンゾ−18−クラウン−6を添加することによって細胞内PpIX集積性が向上することがわかった。
【実施例6】
【0032】
(PDTに対するALA及び/又は18−クラウン−6の添加効果)
5×105個/mLに調整したU937細胞5mLに0.25、0.5、又は1.0mMのALA塩酸塩を添加し、さらに18−クラウン−6をそれぞれ7.5mM添加し、37℃恒温下で3時間インキュベーションした。インキュベーション後、上記実施例3と同様な方法で光照射し、生細胞数を測定して細胞生存率を算出した。ただし、コントロールには生理食塩水を用いた。
【0033】
(結果)
結果を図10に示す。細胞生存率はコントロールの細胞生存数を100%として表した。細胞生存率が低いほどPDT効果が高いことを意味する。0.5、又は1.0mMのALA塩酸塩を添加した系では18−クラウン−6を併用すると細胞生存率が急激に低下した。しかし、0.25mMのALA塩酸塩を添加した系では顕著な変化は認められなかった。
【実施例7】
【0034】
(PDTに対するALA及び/又はベンゾ−18−クラウン−6の添加効果)
5×105個/mLに調整したU937細胞5mLに、ALA塩酸塩を1.0mM及び/又はベンゾ−18−クラウン−6を3.75mM添加し、37℃恒温下で3時間インキュベーションした。インキュベーション後、上記実施例3と同様な方法で光照射し、生細胞数を測定して細胞生存率を算出した。ただし、コントロールには生理食塩水を用いた。
【0035】
(結果)
結果を図11に示す。細胞生存率はコントロールの細胞生存数を100%として表した。細胞生存率が低いほどPDT効果が高いことを意味する。ベンゾ−18−クラウン−6のみを添加した系ではPDT効果はまったく認められなかった。また、ALA塩酸塩のみを添加した系では細胞生存率は85.0%であった。しかし、ALA塩酸塩と18−クラウン−6とを併用すると細胞生存率は20.6%と急激に低下した。
【技術分野】
【0001】
本発明はプロトポルフィリンIX(以下「PpIX」ともいう)細胞内集積増強組成物に関し、より詳しくは、5−アミノレブリン酸(以下「ALA」ともいう)類と、18−クラウン−6又はその誘導体とを含有するPpIX細胞内集積増強組成物や、該組成物を有効成分として含有するALA−PDT用薬剤やALA−PDD用診断剤等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、がん、イボ、ニキビのような疾患組織の診断及び治療方法として光に反応する化合物を投与し、光を照射することにより標的箇所の特定や治療を行う光線力学的診断(Photodynamic diagnosis、以下PDDと略す)や、光線力学的治療(Photodynamic therapy、以下PDTと略す)が注目されている。PDDは、例えば、ポルフィリン系又はクロリン系光増感剤を患者に投与し、これを疾患組織に集積させ、波長400nm付近の光を照射することによって蛍光発光させ、これを観察することにより、疾病の有無及び患部を特定する診断法であり、またPDTは、集積した光増感剤に波長600〜700nmの光を照射することによって活性酸素種を生成させ、これにより疾患組織のみを選択的に壊死させる治療法である。これらのPDD及びPDTは、これまでの診断法及び治療法と比較して、低侵襲で副作用が少ないため、患者に対する負担が少ないという利点がある。
【0003】
このPDD及びPDTで用いる光増感剤として、ALAを用いる光線力学的診断(以下「ALA−PDD」ともいう)や、ALAを用いる光線力学的療法(以下「ALA−PDT」ともいう)の開発がすすんでおり、ALAは、細胞内でヘム生合成経路の一連の酵素群によりPpIXに代謝活性化される(特許文献1参照)が、PpIXはガン組織に対する集積性が非常に高いとは言えず、十分な治療効果を得るためには、多量のALAを投与する必要がある。しかしながら、ALAは、20mg/kgB.W.以上投与すると、嘔吐、日光過敏症あるいは一時的な肝機能障害を惹起することが知られているので、その投与量にはおのずから制限がある。
【0004】
したがって、ALAの投与量を増加させることなく、PpIXの疾患組織への集積性を増大させるために、粘着付着性剤、例えば水膨潤性ポリマーを添加したもの(特許文献2参照)、キレート化剤、例えばアミノポリカルボン酸キレート化剤を併用したもの(特許文献3参照)、5−アミノレブリン酸アルキルエステルを前駆体としたもの(特許文献4参照)、担体物質としてリポソームのような脂質を併用したもの(特許文献5参照)などが提案されている。
【0005】
しかしながら、5−アミノレブリン酸アルキルエステルは、疾患組織内へのPpIXの集積性は増加するものの、細胞に対する毒性も増加するため、安全性の点で問題があるし、キレート剤は、安全性は高いものの非経口投与製剤として用いなければならないため、患者に対する侵襲性が高くなるという欠点がある。また、リポソームによる送達は安全性の点では問題はないが、調製工程が煩雑であり、コスト高になるのを免れない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表平4−500770号公報
【特許文献2】特表2004−505040号公報
【特許文献3】特表2001−501970号公報
【特許文献4】特表平11−501914号公報
【特許文献5】特表2004−520021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、ALAの投与量を増加させることなく、安全かつ簡単に疾患組織中へのPpIXの集積量を増加させることができるPpIX細胞内集積増強組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、PpIXの前駆物質であるALAを投与した場合、体内においてALAから誘導されるPpIXの疾患組織中への集積量を増大させるため、ALAの投与方法の他、ALA誘導体や併用化合物について鋭意検討してきたが、クラウンエーテルの一種である18−クラウン−6又はその誘導体が、ALAと併用することでPpIXの疾患組織中への集積量を増大させる作用を有することを見い出した。また、他のクラウンエーテルの添加を検討する過程において、15−クラウン−5を添加した場合には、同様の効果を得られないことを確認し、さらに、18−クラウン−6又はその誘導体をALA類と併用した場合、PpIXの細胞内蓄積量の増加効果では説明しきれないほどのPDTの増強効果も確認し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち本発明は、(1)18−クラウン−6又はその誘導体と、5−アミノレブリン酸類とを含有することを特徴とするプロトポルフィリンIX細胞内集積増強組成物や、(2)18−クラウン−6又はその誘導体と、5−アミノレブリン酸類とを、18−クラウン−6又はその誘導体と、5−アミノレブリン酸類との複合体として、含有することを特徴とする上記(1)記載のプロトポルフィリンIX細胞内集積増強組成物や、(3)18−クラウン−6の誘導体が、ベンゾ−18−クラウン−6、ジベンゾ−18−クラウン−6、シクロヘキサノ−18−クラウン−6、ジシクロヘキサノ−18−クラウン−6、2−アミノメチル−18−クラウン−6、2−ヒドロキシメチル−18−クラウン−6であることを特徴とする上記(1)又は(2)記載のプロトポルフィリンIX細胞内集積増強組成物や、(4)ALA類が、5−アミノレブリン酸塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、リン酸塩、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、トルエンスルホン酸塩、コハク酸塩、シュウ酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、グリコール酸塩、メタンスルホン酸塩、酪酸塩、吉草酸塩、クエン酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、又はリンゴ酸塩であることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれか記載のプロトポルフィリンIX細胞内集積増強組成物に関する。
【0010】
また、本発明は、(5)上記(1)〜(4)いずれか記載のプロトポルフィリンIX細胞内集積増強組成物を有効成分として含有する、5−アミノレブリン酸−光線力学的診断剤や、(6)上記(1)〜(4)いずれか記載のプロトポルフィリンIX細胞内集積増強組成物を有効成分として含有する、5−アミノレブリン酸−光線力学的治療剤に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明のPpIX細胞内集積増強組成物を用いることにより、ALAの投与量を増加させることなく、安全かつ簡単に疾患組織中へのPpIXの集積量を増加させることができ、ALA−PDDやALA−PDTの効果を増大させることができる。特に、ALA−PDTについては相乗効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】ALA塩酸塩と18−クラウン−6とを添加した場合の、細胞内PpIXの蛍光強度比の変化を示す図である。
【図2】ALA塩酸塩無添加系における、18−クラウン−6の細胞生存率に対する影響を示す図である。
【図3】ALA塩酸塩と15−クラウン−5とを添加した場合の、細胞内PpIXの蛍光強度比の変化を示す図である。
【図4】PpIX集積性に対する18−クラウン−6の細胞接触時間の影響を示す図である。
【図5】PDT効果に対するALA及び/又は18−クラウン−6の添加効果を示す図である。
【図6】PpIX集積性に対する18−クラウン−6の濃度依存性(ALA濃度の影響)を示す図である。
【図7】1.0mMのALAを基準としたPpIX集積性に対する18−クラウン−6の濃度依存性を示す図である。
【図8】ALA塩酸塩無添加系における、ベンゾ−18−クラウン−6の細胞生存率に対する影響を示す図である
【図9】ALA塩酸塩とベンゾ−18−クラウン−6とを添加した場合の、細胞内PpIXの蛍光強度比の変化を示す図である。
【図10】PDT効果に対する18−クラウン−6の添加効果(ALA濃度依存性)を示す図である。
【図11】PDT効果に対するALA及び/又はベンゾ−18−クラウン−6の添加効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のPpIX細胞内集積増強組成物としては、18−クラウン−6(エーテル)又はその誘導体から構成される18−クラウン−6類と、ALA類とを含有する組成物であれば特に制限されず、上記18−クラウン−6(1,4,7,10,13,16−ヘキサオキサシクロオクタデカン)の誘導体として、具体的には、ベンゾ−18−クラウン−6、ジベンゾ−18−クラウン−6、シクロヘキサノ−18−クラウン−6、ジシクロヘキサノ−18−クラウン−6、2−アミノメチル−18−クラウン−6、2−ヒドロキシメチル−18−クラウン−6等を挙げることができる。さらに、Oが一箇所以上Sに置き換わった18−チアクラウン−6エーテル又はその誘導体や、Oが一箇所以上NHに置き換わった18−アザクラウン−6エーテル又はその誘導体や、Oがそれぞれ一箇所以上S及びNHに置き換わった18−アザチアクラウン−6エーテル又はその誘導体などを挙げることができる。
【0014】
上記ALA類としては、ALA又はALAの塩が含まれ、ALAは、式HOOC−(CH2)2−(CO)−CH2−NH2で表されるアミノ酸の一種であり、例えば特開平4−9360号公報等に記載された化学合成法や、微生物による生産、酵素による生産等のいずれの公知の方法によっても製造することができる。
【0015】
ALA類のうち、ALAの塩としては、ALAは両性電解質であり、pHを変えることにより、酸性塩、中性塩又は塩基性塩のいずれの塩も形成可能であるが、安定性がよいという点でALA酸性塩が好ましく、具体的には、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、リン酸塩、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、トルエンスルホン酸塩、コハク酸塩、シュウ酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、グリコール酸塩、メタンスルホン酸塩、酪酸塩、吉草酸塩、クエン酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩等を挙げることができ、なかでも塩酸塩が好ましい。なお、これらの塩は使用時において、溶液として用いることもでき、その作用は、ALAの場合と同効なものが好ましい。
【0016】
以上の18−クラウン−6類やALA類を含む組成物は、水和物又は溶媒和物を形成していてもよく、溶媒としては、水又は生理的食塩水が好ましいが、溶解性を高めるために、水溶性有機溶剤、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、アセトン、グリセリン、プロビレングリコール、酢酸、ジメチルスルホキシドを併用することもできる。また、本発明の組成物は、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、シロップ剤、液剤、軟膏、巴布剤等の剤型で経口・経皮・静脈投与することができ、軟膏又は巴布剤として経皮的に施用する場合には、経皮吸収を促進するために経皮吸収促進剤、例えばl−メントールやd−リモネンなどのテルペン系化合物、L−α−ホスファチジルコリンなどのリン脂質、Tween系又はSpan系界面活性剤、ラウリン酸やオレイン酸などの脂肪酸又はその塩などを適宜配合して使用してもよい。
【0017】
また、ALA類を経口・静脈投与する場合の、ALA類の投与量は、ALA類の合計が、ALA換算で体重1kgあたり、1mg〜1000mg、好ましくは5mg〜100mg、より好ましくは10mg〜30mg、さらに好ましくは15mg〜25mgである。また、例えばALA20%含有クリームを用いて、ALA類を経皮投与する場合の、ALA類の投与量は、ALA類の合計が、ALA換算で、1mg〜90mg、好ましくは2mg〜50mg、より好ましくは5mg〜30mgである。
【0018】
ALA類と18−クラウン−6類との使用割合は、モル比で1:1〜1:20、好ましく1:3〜1:15であり、また、上記18−クラウン−6類とALA類とは、複合体を形成していてもよく、ALA類のアミノ基と18−クラウン−6類とが複合体を形成すると、ALA類は疎水性が増加し、ALA類が細胞膜を直接に通過する受動的取込が促進されるため、PpIXの細胞内集積性が増加すると考えることもできるが、細胞内PpIX集積性の増加から類推される効果を超えたALA−PDTによる殺細胞効果からすると、本発明におけるALA−PDT効果の作用機序は不明である。
【0019】
本発明のPpIX細胞内集積増強組成物は、ALA−PDD用の診断剤として使用することができ、本発明のALA−PDD診断剤を用いると、皮膚又は他の上皮組織の種々の異常部位、疾患部位等の病変部の範囲を判断することができる。すなわち、病変部の治療(手術)において、病変部の範囲を判断する際に、それ自身は光増感作用を有さないALA類を18−クラウン−6類と共に投与し、ALA類から色素生合成経路を経て誘導されたPpIXが、病変部組織内に特異的に蓄積し、紫色〜青色の励起光を照射すると、赤色の蛍光を放射することを利用して、赤色の波長を検出することで、がん等の病変部の範囲を判断することができる。具体的には、本発明の組成物を投与し、3〜6時間経過後、波長400nm付近の光を照射して発光させ、生じる蛍光を観察する方法を例示することができる。このように、本発明の実施態様のひとつに、本発明のPpIX細胞内集積増強組成物を用いたALA−PDD方法が含まれる。
【0020】
また、本発明のPpIX細胞内集積増強組成物は、ALA−PDT用治療剤として使用することもでき、上記ALA−PDT治療剤を用いると、皮膚又は他の上皮組織の種々の異常部位、疾患部位等の病変部組織を壊死させることができる。すなわち、光に反応する化合物を投与し、光を照射することにより病変部組織を治療するPDTを行う際に、それ自身は光増感作用を有さないALA類を、18−クラウン−6類と共に投与し、ALA類から色素生合成経路を経て誘導されたPpIXが、病変部組織内に特異的に蓄積し、光照射されることにより周囲の酸素分子を光励起し、その結果生成する一重項酸素が、その強い酸化力による殺細胞効果を有することを利用する病変部組織を壊死させる方法・手段を挙げることができる。具体的には、本発明の組成物を投与して、3〜6時間経過後、患部に50〜500mW/cm2で波長600〜700nmの光を全照射エネルギーが50〜300J/cm2になるように照射する方法を例示することができる。このように、本発明の実施態様のひとつに、本発明のPpIX細胞内集積増強組成物を用いたALA−PDT方法が含まれる。
【実施例1】
【0021】
(PpIX集積性に対する18−クラウン−6添加効果)
5×105個/mLに調整したヒト組織球性リンパ腫由来細胞株U937細胞(以下、U937細胞)5mLにALA塩酸塩1.0mMと18−クラウン−6エーテルとを所定濃度添加し、37℃恒温下にて3時間インキュベーションした。インキュベーション後、ハンクス緩衝溶液を用いて2回洗浄し、蛍光分光光度計(FP-6500、日本分光社製)を用いて細胞内PpIXの蛍光強度を測定した。励起波長及び測定波長領域は、それぞれ410nm及び620〜650nmとした。
【0022】
(結果)
1.0mMのALA塩酸塩に18−クラウン−6を、濃度を変えて添加した場合の、細胞内PpIXの蛍光強度比を図1に示す。ただし蛍光強度比とは、ALA塩酸塩1.0mMのみを添加した際のPpIXに対する蛍光強度の百分率である。この結果、18−クラウン−6の添加量が増すにつれて。細胞内PpIX集積性が向上し、7.5mM付近で蛍光強度比が極大値を示した。一方、10mM以上添加すると細胞内PpIX集積性が減少するが、これは18−クラウン−6の細胞毒性によるためと考えられる。このことは、ALA塩酸塩無添加系において、18−クラウン−6の細胞生存率に対する影響を検討した図2の結果からも示唆される。
【0023】
[比較例1]
上記実施例1と同様に調整したU937細胞に、ALA塩酸塩1.0mMと15−クラウン−5とを添加した際の細胞内PpIXの蛍光強度比の変化を図3に示す。18−クラウン−6と異なり、15−クラウン−5を添加するとPpIXの細胞内蛍光強度は増加するどころか、逆に減少する傾向にあることがわかる。このことから、細胞内PpIX集積性に及ぼすクラウンエーテルの添加効果は、18−クラウン−6にのみ見いだされる現象であることが示唆された。
【実施例2】
【0024】
(PpIX集積性に対する18−クラウン−6の細胞接触時間の影響)
5×105個/mLに調整したU937細胞5mLにALA塩酸塩1.0mMを添加したものに、さらに18−クラウン−6を7.5mM添加し、37℃恒温下で所定時間インキュベーションした。ただし、ALA塩酸塩添加後のインキュベーション時間は3時間で固定した。インキュベーション後、ハンクス緩衝溶液を用いて2回洗浄し、蛍光分光光度計を用いて上記実施例1と同様の方法で、細胞内PpIXの蛍光強度を測定した。
【0025】
(結果)
図4に、18−クラウン−6添加後のインキュベーション時間に対する細胞内PpIXの蛍光強度比を示す。ただし蛍光強度比とは、ALA塩酸塩1.0mMのみを添加した際のPpIXに対する蛍光強度比の百分率である。18−クラウン−6添加後のインキュベーション時間の増加に伴い細胞内PpIX集積性は増加し、3時間で極大値を示すことがわかった。
【実施例3】
【0026】
(PDTに対するALA及び/又は18−クラウン−6の添加効果)
5×105個/mLに調整したU937細胞5mLに、ALA塩酸塩を1.0mM及び/又は18−クラウン−6を7.5mM添加し、37℃恒温下で3時間インキュベーションした。インキュベーション後、ヨウ化ナトリウムとヨウ化リチウムとを封入したメタルハライドランプ(ウシオ電機社製)を用いて波長領域550〜750nmの光(放射強度:40mW/cm2)を60分間照射し、生細胞数を測定して細胞生存率を算出した。ただし、コントロールには生理食塩水を用いた。
【0027】
(結果)
結果を図5に示す。細胞生存率はコントロールの細胞生存数を100%として表した。細胞生存率が低いほどPDT効果が高いことを意味する。18−クラウン−6のみを添加した系ではPDT効果はまったく認められなかった。また、ALA塩酸塩のみを添加した系では細胞生存率は75.2%であった。しかし、ALA塩酸塩と18−クラウン−6とを併用すると細胞生存率は21.0%と急激に低下した。これはALA塩酸塩と18−クラウン−6共存下において、PpIXの細胞内集積性が増加したという理由だけでは説明できない。
【実施例4】
【0028】
(PpIX集積性に対する18−クラウン−6の濃度依存性)
5×105個/mLに調整したU937細胞5mLに0.25、0.5、又は1.0mMのALA塩酸塩を添加し、さらに18−クラウン−6をそれぞれ0、2.5、5.0、7.5、又は10mM添加し、37℃恒温下で3時間インキュベーションした。インキュベーション後、ハンクス緩衝溶液を用いて2回洗浄し、蛍光分光光度計を用いて上記実施例1と同様の方法で、細胞内PpIXの蛍光強度を測定した。図6に、ALA塩酸塩濃度を0.25、0.5及び1.0mMとした時の18−クラウン−6の添加濃度に対する細胞内PpIXの蛍光強度比を示す。ただし蛍光強度比は、各濃度のALAのみを添加した際のPpIXの蛍光強度を100%とした値を示した。また、図6の結果を基に、縦軸の蛍光強度比を1.0mMのALAのみを添加した際のPpIXの蛍光強度を基準に整理しなおした図を図7に示す。
【0029】
(結果)
図6より、いずれのALA濃度においてもALA単独投与よりも、18−クラウン−6を添加することで、細胞内PpIX集積性が増加し、その傾向はALA濃度が高いほど顕著であることがわかった。また、図7より、ALA濃度が0.5mMの場合、18−クラウン−6を2.5mM以上共存させると、1.0mMのALA単独投与の場合よりもPpIXの細胞内集積性が増加することがわかった。
【実施例5】
【0030】
(PpIX集積性に対するベンゾ−18−クラウン−6添加効果)
5×105個/mLに調整したU937細胞5mLにALA塩酸塩1.0mMとベンゾ−18−クラウン−6とを所定濃度添加し、37℃恒温下にて3時間インキュベーションした。インキュベーション後、ハンクス緩衝溶液を用いて2回洗浄し、蛍光分光光度計を用いて上記実施例1と同様の方法で、細胞内PpIXの蛍光強度を測定した。ただし、ベンゾ−18−クラウン−6を5mM以上投与すると細胞毒性が大きくなるので(図8参照)、ベンゾ−18−クラウン−6の添加濃度は5mM以下とした。
【0031】
(結果)
図9に、ベンゾ−18−クラウン−6の添加濃度に対する細胞内PpIXの蛍光強度比を示す。ただし、ALA塩酸塩1.0mMのみを添加した際のPpIXの蛍光強度を100%とした。その結果、18−クラウン−6と同様に、ALA塩酸塩にベンゾ−18−クラウン−6を添加することによって細胞内PpIX集積性が向上することがわかった。
【実施例6】
【0032】
(PDTに対するALA及び/又は18−クラウン−6の添加効果)
5×105個/mLに調整したU937細胞5mLに0.25、0.5、又は1.0mMのALA塩酸塩を添加し、さらに18−クラウン−6をそれぞれ7.5mM添加し、37℃恒温下で3時間インキュベーションした。インキュベーション後、上記実施例3と同様な方法で光照射し、生細胞数を測定して細胞生存率を算出した。ただし、コントロールには生理食塩水を用いた。
【0033】
(結果)
結果を図10に示す。細胞生存率はコントロールの細胞生存数を100%として表した。細胞生存率が低いほどPDT効果が高いことを意味する。0.5、又は1.0mMのALA塩酸塩を添加した系では18−クラウン−6を併用すると細胞生存率が急激に低下した。しかし、0.25mMのALA塩酸塩を添加した系では顕著な変化は認められなかった。
【実施例7】
【0034】
(PDTに対するALA及び/又はベンゾ−18−クラウン−6の添加効果)
5×105個/mLに調整したU937細胞5mLに、ALA塩酸塩を1.0mM及び/又はベンゾ−18−クラウン−6を3.75mM添加し、37℃恒温下で3時間インキュベーションした。インキュベーション後、上記実施例3と同様な方法で光照射し、生細胞数を測定して細胞生存率を算出した。ただし、コントロールには生理食塩水を用いた。
【0035】
(結果)
結果を図11に示す。細胞生存率はコントロールの細胞生存数を100%として表した。細胞生存率が低いほどPDT効果が高いことを意味する。ベンゾ−18−クラウン−6のみを添加した系ではPDT効果はまったく認められなかった。また、ALA塩酸塩のみを添加した系では細胞生存率は85.0%であった。しかし、ALA塩酸塩と18−クラウン−6とを併用すると細胞生存率は20.6%と急激に低下した。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
18−クラウン−6又はその誘導体と、5−アミノレブリン酸類とを含有することを特徴とするプロトポルフィリンIX細胞内集積増強組成物。
【請求項2】
18−クラウン−6又はその誘導体と、5−アミノレブリン酸類とを、18−クラウン−6又はその誘導体と、5−アミノレブリン酸類との複合体として、含有することを特徴とする請求項1記載のプロトポルフィリンIX細胞内集積増強組成物。
【請求項3】
18−クラウン−6の誘導体が、ベンゾ−18−クラウン−6、ジベンゾ−18−クラウン−6、シクロヘキサノ−18−クラウン−6、ジシクロヘキサノ−18−クラウン−6、2−アミノメチル−18−クラウン−6、2−ヒドロキシメチル−18−クラウン−6であることを特徴とする請求項1又は2記載のプロトポルフィリンIX細胞内集積増強組成物。
【請求項4】
ALA類が、5−アミノレブリン酸塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、リン酸塩、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、トルエンスルホン酸塩、コハク酸塩、シュウ酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、グリコール酸塩、メタンスルホン酸塩、酪酸塩、吉草酸塩、クエン酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、又はリンゴ酸塩であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載のプロトポルフィリンIX細胞内集積増強組成物。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか記載のプロトポルフィリンIX細胞内集積増強組成物を有効成分として含有する、5−アミノレブリン酸−光線力学的診断剤。
【請求項6】
請求項1〜4いずれか記載のプロトポルフィリンIX細胞内集積増強組成物を有効成分として含有する、5−アミノレブリン酸−光線力学的治療剤。
【請求項1】
18−クラウン−6又はその誘導体と、5−アミノレブリン酸類とを含有することを特徴とするプロトポルフィリンIX細胞内集積増強組成物。
【請求項2】
18−クラウン−6又はその誘導体と、5−アミノレブリン酸類とを、18−クラウン−6又はその誘導体と、5−アミノレブリン酸類との複合体として、含有することを特徴とする請求項1記載のプロトポルフィリンIX細胞内集積増強組成物。
【請求項3】
18−クラウン−6の誘導体が、ベンゾ−18−クラウン−6、ジベンゾ−18−クラウン−6、シクロヘキサノ−18−クラウン−6、ジシクロヘキサノ−18−クラウン−6、2−アミノメチル−18−クラウン−6、2−ヒドロキシメチル−18−クラウン−6であることを特徴とする請求項1又は2記載のプロトポルフィリンIX細胞内集積増強組成物。
【請求項4】
ALA類が、5−アミノレブリン酸塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、リン酸塩、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、トルエンスルホン酸塩、コハク酸塩、シュウ酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、グリコール酸塩、メタンスルホン酸塩、酪酸塩、吉草酸塩、クエン酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、又はリンゴ酸塩であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載のプロトポルフィリンIX細胞内集積増強組成物。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか記載のプロトポルフィリンIX細胞内集積増強組成物を有効成分として含有する、5−アミノレブリン酸−光線力学的診断剤。
【請求項6】
請求項1〜4いずれか記載のプロトポルフィリンIX細胞内集積増強組成物を有効成分として含有する、5−アミノレブリン酸−光線力学的治療剤。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−26221(P2011−26221A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−171599(P2009−171599)
【出願日】平成21年7月22日(2009.7.22)
【出願人】(508123858)SBIアラプロモ株式会社 (13)
【出願人】(593232206)学校法人桐蔭学園 (33)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年7月22日(2009.7.22)
【出願人】(508123858)SBIアラプロモ株式会社 (13)
【出願人】(593232206)学校法人桐蔭学園 (33)
【Fターム(参考)】
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