説明

プロトン伝導性材料、プロトン伝導性膜、膜−電極接合体及び燃料電池

【課題】プロトン伝導性が良好なプロトン伝導性材料、プロトン伝導性膜、膜−電極接合体及び燃料電池を提供する。
【解決手段】プロトン伝導性材料は、水と、オキソニウムイオンと、酸素原子を有する複数の酸性官能基とを有し、酸性官能基が有する酸素原子と、酸性官能基に最も隣接する酸素原子とが水素結合したときの酸素原子間の距離が2.7オングストローム以下となる確率が、水分子同士の酸素原子間の距離が2.7オングストローム以下となる確率よりも高い。これにより、プロトンホッピングするための活性化エネルギーが低下してプロトンホッピングが容易に起こるため、プロトン伝導性を良好にすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロトン伝導性が良好なプロトン伝導性材料、プロトン伝導性膜、膜−電極接合体及び燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池(PEFC:Polymer Electrolyte Fuel Cell)は、車載用に−40〜100℃の広温度範囲、無加湿条件下の運転が望まれている。現状の電解質膜は、低湿度条件ではプロトン伝導性が急激に低下してしまうため、高湿度を保つ必要がある。しかし、電解質膜を高湿度に保つためには、例えば、高湿度を保つためのコンプレッサーが必要となり、それによるエネルギーロス、また、水による燃料ガス拡散の阻害といったフラッディング現象など、様々な問題が生じてしまう。そこで、電解質膜の低湿度条件での伝導性向上が望まれている。
【0003】
近年、リン酸ジルコニウム(Zirconium Phosphate:ZrP)(以下、「ZrPと呼ぶ。」)や、スルホフェニルホスホン酸ジルコニウム(Zirconium Sulphophenylphosphate:ZrSPP)(以下、「ZrSPPと呼ぶ。」)の粒子に、電解質膜としての芳香族炭化水素電解質ポリマー(Sulfonated poly ether sulfone:SPES)(以下、「SPES」と呼ぶ)を多点吸着させて異相界面を形成させた電解質膜が、それぞれ高温・低湿度条件でも高い伝導性が発現することが報告されている(特許文献1及び特許文献2を参照)。これらのZrP−SPES、ZrSPP−SPES膜においては、SPES、ZrP及びZrSPPのそれぞれ単体の伝導性よりも高く、異相界面で高速プロトン伝導が起こっていると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−043682号公報
【特許文献2】国際公開第2011/018908号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、これらのジルコニウム系の粒子は、表面に高密度な酸性官能基を持っている。酸性官能基は、一般的には、プロトンを放出してプロトン濃度を高めて伝導性を向上させるものと認識されている。しかし、ZrP上のリン酸基は、SPES中のスルホン酸基に比べて酸強度が弱く、ZrP−SPESの伝導性が上がる原因については解明されていない。また、ZrSPP及びSPESは、湿度依存性の高いプロトン伝導体であるが、ZrSPP及びSPESを組み合わせた電解質膜の場合には、湿度依存性がほぼなくなってしまう。このように、酸性官能基には、プロトンを放出する以外の作用があると考えられるが、この現象については解明されておらず、伝導性向上のための材料設計指針がない。この現象を実験的に解明することは微細な構造なので難しい。
【0006】
そこで、シミュレーションで水分子やプロトントランスファー(プロトン伝導)を調べることが有効である。一方、量子化学計算による研究は、現象の説明にとどまっており、実験にフィードバックしている例がこれまでになかった。
【0007】
そこで、本発明は、上記従来の課題を解決するものであり、プロトン伝導性が良好なプロトン伝導性材料、プロトン伝導性膜、膜−電極接合体及び燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本件発明者らは、シミュレーションでプロトントランスファーを再現して調べた結果、酸素原子を有する酸性官能基が有する酸素原子と、酸性官能基に最も隣接する酸素原子とが水素結合したときの酸素原子間の距離が短いものを多くすることにより、プロトン伝導性を良好にすることができることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明に係るプロトン伝導性材料は、水と、オキソニウムイオンと、酸素原子を有する複数の酸性官能基とを有し、酸性官能基が有する酸素原子と、酸性官能基に最も隣接する酸素原子とが水素結合したときの酸素原子間の距離が2.7オングストローム以下となる確率が、水分子同士の酸素原子間の距離が2.7オングストローム以下となる確率よりも高い。
【0010】
本発明に係るプロトン伝導性膜は、プロトン伝導性ポリマーを、第1の極性有機溶媒に溶解してポリマー溶液を得るポリマー溶液調製工程と、第2の極性有機溶媒に、ジルコニウムアルコキシドとキレート剤と触媒とを溶媒中で反応させて得られるジルコニウムナノ粒子を分散させて、ジルコニウムナノ粒子分散体を得る第1の分散工程と、ポリマー溶液とジルコニウムナノ粒子分散体とを混合して、第1の極性有機溶媒及び第2の極性有機溶媒と、プロトン伝導性ポリマー及びジルコニウムナノ粒子を有するプロトン伝導性複合材料との複合材料分散体を得る第2の分散工程と、第2の分散工程で得られた複合材料分散体を多孔性ポリマー基材の孔に含浸する含浸工程と、複合材料分散体が含浸された多孔性ポリマー基材と硫酸溶液とを反応させることで、多孔性ポリマー基材に、ジルコニウムナノ粒子と硫酸溶液とから生成された強酸性ジルコニウム化合物と、プロトン伝導性ポリマーとが固定されたプロトン伝導性膜を得る反応工程とによって得られ、水と、オキソニウムイオンと、酸素原子を有する複数の酸性官能基とを有し、複数の酸性官能基が有する酸素原子と、酸性官能基に最も隣接する酸素原子とが水素結合したときの酸素原子間の距離が2.7オングストローム以下となる確率が、水分子同士の酸素原子間の距離が2.7オングストローム以下となる確率よりも高く、プロトン伝導度が2×10−1Scm−1以上である。
【0011】
本発明に係る膜−電極接合体は、触媒層を有する電極と、プロトン伝導性膜とを用いた膜−電極接合体において、プロトン伝導性膜は、水と、オキソニウムイオンと、酸素原子を有する複数の酸性官能基とを有し、複数の酸性官能基が有する酸素原子と、酸性官能基に最も隣接する酸素原子とが水素結合したときの酸素原子間の距離が2.7オングストローム以下となる確率が、水分子同士の酸素原子間の距離が2.7オングストローム以下となる確率よりも高い。
【0012】
本発明に係る燃料電池は、上述した膜−電極接合体を用いたものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、プロトンホッピングするための活性化エネルギーが低下してプロトンホッピングが容易に起こるため、プロトン伝導性を良好にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】細孔フィリング膜を模式的に示す図である。
【図2】Grotthuss機構を模式的に示す図である。
【図3】Grotthuss機構を模式的に示す図であり、(A)は初期構造を示す図であり、(B)は遷移状態を示す図であり、(C)は移動後の構造を示す図である。
【図4】プロトントランスファーが起こった酸素原子間の平均距離と活性化エネルギーとの関係を示すグラフである。
【図5】プロトントランスファーが起こった酸素原子間の平均距離と活性化エネルギーとの関係を示すグラフである。
【図6】ZrP−SPES界面を模式的に示す図である。
【図7】無水ZrP−SPES界面での官能基間のプロトントランスファーを模式的に示す図である。
【図8】ZrSPPの構造を模式的に示す図である。
【図9】ZrSの構造の表面を模式的に示す図である。
【図10】(A)は、既報の文献に記載された硫酸ジルコニウム化合物のXRDパターンを示す図であり、(B)は、実施例で得られた化合物のXRDパターンを示す図である。
【図11】ZrS−SPES細孔フィリング膜、ZrSPP−SPES細孔フィリング膜、ZrSPP、ZrS及びSPESキャスト膜の90℃でのプロトン伝導性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、発明を実施するための形態(以下、実施の形態とする)について説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
1.プロトン伝導性材料
2.プロトン伝導性膜
3.膜−電極接合体
4.燃料電池
5.実施例
【0016】
<1.プロトン伝導性材料>
本実施の形態に係るプロトン伝導性材料は、水と、オキソニウムイオンと、酸素原子を有する複数の酸性官能基(以下、単に「酸性官能基」と呼ぶ。)とを有し、酸性官能基が有する酸素原子と、この酸性官能基に最も隣接する酸素原子とが水素結合したときの酸素原子間の距離が2.7オングストローム以下となる確率が、水分子同士の酸素原子間の距離が2.7オングストローム以下となる確率よりも高い。このように、プロトン伝導性材料は、酸性官能基が有する酸素原子と、この酸性官能基に最も隣接する酸素原子とが直接水素結合しているため、酸性官能基間の距離が短くなる確率が上がる。これにより、水分子無しでもプロトントランスファーが起こるようになり、プロトンホッピングするための活性化エネルギーが低下してプロトンホッピングが容易に起こるため、プロトン伝導性を良好にすることができる。このようにプロトン伝導性が良好なプロトン伝導性材料は、例えば、プロトンのセンサー、イオン交換膜、触媒、電池材料(例えば、燃料電池用触媒層、燃料電池用電解質膜)として用いることができる。
【0017】
なお、プロトン伝導性材料においては、構造上の理由から、上述した酸素原子間の距離が2.35オングストローム以上である。
【0018】
ここで、酸素原子間の距離とは、水素結合を介して隣り合った、水、オキソニウムイオン(ヒドロニウムイオン)、酸性官能基に含まれる酸素原子との間の距離を示す。プロトン伝導性材料における酸性官能基とは、プロトンの授受に関わる官能基を指し、例えば、スルホン酸基、スルホ基、スルホニル基、リン酸基などが挙げられる。このような酸性官能基の中では、プロトンの放出だけでなく、水素結合ネットワークを形成するために、酸強度が高く官能基密度が高い物質が好ましい。また、酸性官能基は、材料を組み合わせて異相界面を形成することで通常はプロトンの授受に関わりにくい官能基であってもよく、このような場合には、酸強度が同程度であることが好ましい。
【0019】
また、プロトン伝導性材料は、酸性官能基が有する酸素原子と、この酸性官能基に最も隣接する酸素原子と水素結合したときの酸素原子間の距離が2.6オングストローム以下となる確率が、水分子同士の酸素原子間の距離が2.6オングストローム以下となる確率よりも高いことが好ましい。このように、酸性官能基に最も隣接する酸素原子と水素結合したときの酸素原子間の距離が2.6オングストローム以下となる確率の方が高くなることにより、プロトンホッピングするための活性化エネルギーがより低下してプロトンホッピングがより容易に起こるため、プロトン伝導性をより良好にすることができる。
【0020】
プロトン伝導性材料は、例えば、上述した酸性官能基を有するジルコニウム化合物と、上述した酸性官能基を有するプロトン伝導性ポリマーとのハイブリッド(複合)材料とすることが好ましい。このようなハイブリッド(複合)材料とすることにより、プロトン伝導性材料としての性能を向上させることができる。
【0021】
酸性官能基を有するジルコニウム化合物としては、スルホン酸基又はスルホ基を有するもの、例えば、硫酸ジルコニウム(Zr(SO:以下、「ZrS」と呼ぶ)、ZrSPP、ZrPを用いることができる。
【0022】
酸性官能基を有するプロトン伝導性ポリマーとしては、スルホン酸基を有するもの、例えば、以下のスルホン化ポリマーを挙げることができる。すなわち、SPEEK:スルホン化ポリエーテルエーテルケトン、SPEK:スルホン化ポリエーテルケトン、SPES、SPO:ポリ(2,6−ジフェニル−4−フェニレンオキサイド)、SPPBP:スルホン化ポリ(4−フェノキシベンゾイル−1,4−フェニレン)、SPPO:スルホン化ポリフェニレンオキサイド又はポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンオキサイド)、SPPQ:ポリ(フェニルキノザリン)、SPS:スルホン化ポリスチレン、SPSF:スルホン化ポリスルホン、SPSU:スルホン化ポリスルホンウデル(sulfonated polysulfone Udel)、パーフルオロスルホン酸ポリマー(Nafion(登録商標)等)を用いることができる。
【0023】
<2.プロトン伝導性膜>
上述したプロトン伝導性材料は、図1に示すように、多孔性ポリマー基材1の細孔2に、上述したジルコニウム化合物とプロトン伝導性ポリマーとのハイブリッド材料3が充填された細孔フィリング膜(プロトン伝導性膜)4の状態とすることが好ましい。このような状態とすることにより、水による膨潤を抑えることで官能基同士の距離が離れるのを防ぎ、界面を維持できるため、プロトン伝導性材料の性能をさらに向上させることができる。
【0024】
多孔性ポリマー基材1としては、機械的強度、化学的安定性及び耐熱性などに優れているフッ素系樹脂や炭化水素系樹脂を用いることができる。フッ素系樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(CTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(ETFE)、クロロトリフルオロエチレン−エチレン共重合体(ECTFE)等を挙げることができる。これらのフッ素系樹脂の中では、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)が、上述したように機械的強度などに優れている観点から多孔性ポリマー基材1として好ましい。
【0025】
また、炭化水素系樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリエステル、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホン、ポリスルフィド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリフェニレン、ポリエーテル、ポリエーテルイミド、ポリエーテルアミド、耐熱性架橋ポリエチレンなどを挙げることができる。これらの炭化水素系樹脂の中では、熱的安定性の面から、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリエステル、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホン、ポリスルフィド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリフェニレン、ポリエーテル、ポリエーテルイミド、ポリエーテルアミドであるのが好ましいが、これらに限定されない。
【0026】
また、多孔性ポリマー基材1は、平均貫通孔径が0.001〜100μmであるものが、機械的強度などの観点から好ましい。また、多孔性ポリマー基材1は、平均貫通孔径が0.001〜1μmであるものが、細孔内部での微細構造を維持するために好ましい。
【0027】
例えば、次の手順により多孔性ポリマー基材1に、ジルコニウム化合物とプロトン伝導性ポリマーとが固定された細孔フィリング膜4を作製することができる。
【0028】
まず、プロトン伝導性ポリマーを第1の極性有機溶媒に溶解してポリマー溶液を得る。第1の極性有機溶媒としては、例えば、N−メチルピロリドン(NMP:N-methylpyrrolidone)、N、N-ジメチルホルムアミド(DMF:N,N-dimethylformamide)、ジメチルスルホキシド等を用いることができる。
【0029】
続いて、第2の極性溶媒にジルコニウムナノ粒子を分散させて、ジルコニウムナノ粒子の分散体を得る。
【0030】
ジルコニウムナノ粒子は、例えば、次のようにして作製することができる。まず、ジルコニウムアルコキシドを溶媒に分散させ、ジルコニウムアルコキシド溶液中にキレート剤を加える。そして、キレート剤を加えたジルコニウムアルコキシド溶液中に触媒を加える。そして、溶媒を乾燥させて乾燥後の生成物、すなわち、ジルコニウムナノ粒子の粉体を回収する。回収されたジルコニウムナノ粒子は、ナノサイズの粒径(例えば、動的光散乱法により測定した体積平均粒径が数nm〜数十nm)を有する。
【0031】
第2の極性有機溶媒としては、上述した第1の極性有機溶媒と同様に、N−メチルピロリドン、N、N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等を用いることができる。
【0032】
続いて、上述したポリマー溶液をジルコニウムナノ粒子の分散体に注ぐか、又は、ジルコニウムナノ粒子分散体をポリマー溶液に注いで、極性有機溶媒及びハイブリッド材料3を有する分散体を得る。
【0033】
続いて、多孔性ポリマー基材1の孔に極性有機溶媒及びハイブリッド材料3を有する分散体を含侵し、含浸した後、溶媒を乾燥により除去することにより、多孔性ポリマー基材の細孔2の中に、極性有機溶媒及びハイブリッド材料3を有する分散体を充填して固定させた細孔フィリング膜4とする。
【0034】
続いて、細孔フィリング膜4に、硫酸を反応させることで、多孔性ポリマー基材1に、ZrSとプロトン伝導性ポリマーとが固定されたプロトン伝導性膜を得ることができる。
【0035】
このように細孔フィリング膜4中でZrSを形成することで、ZrSを低温条件下で生成することができ、これにより、プロトン伝導性が良好なZrSを得ることができる。また、多孔性ポリマー基材1に、ZrSとプロトン伝導性ポリマーとが固定されたプロトン伝導性膜は、幅広い温度領域(例えば−30℃〜120℃)及び低湿度(例えば50%相対湿度以下)の条件下での高い伝導性、高機械的安定性及び高化学的安定性などを有する。したがって、このプロトン伝導性膜を、例えば、プロトンのセンサー、イオン交換膜、触媒、電池材料(例えば、燃料電池用触媒層、燃料電池用電解質膜)として適用することが可能となる。
【0036】
<3.膜−電極接合体>
上述したプロトン伝導性膜(以下、「電解質膜」ともいう。)は、この電解質膜の少なくとも1面又は電解質膜の両面に電極を設けることにより、膜−電極接合体(膜−電極複合体(MEA:Membrane Electrode Assembly))として用いることができる。
【0037】
ガス拡散層としては、例えば、カーボン繊維織布、カーボンペーパー等、通気性を有する既知の基体を使用することができる。好ましくは、これらの基体等を撥水処理したものが使用される。撥水処理は、例えば、これら基体を、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体などのフッ素樹脂等からなる撥水剤の水溶液中に浸漬し、乾燥し、焼成することにより行われる。
【0038】
触媒層に使用される触媒物質としては、例えば、白金、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、パラジウム、オスニウムなどの白金族金属及びその合金が好ましい。また、触媒層に使用される触媒物質としては、これら触媒物質及び触媒物質の塩類を単独又は混合して用いてもよい。また、触媒層内でも良好なプロトン伝導性を確保するために、触媒物質が担持された炭素微粒子とともに、上述したプロトン伝導性材料や、高分子電解質及び/又はオリゴマー電解質を併用することが好ましい。
【0039】
触媒の粒径は、特に限定されないが、触媒活性の大きくなる適当な大きさの観点から、平均粒径が0.5〜20nmであることが好ましい。
【0040】
触媒の量は、付着方法等により異なるが、ガス拡散層の表面に例えば、約0.02〜約20mg/cmの範囲、好ましくは、約0.02〜20mg/cmの範囲で付着されていることが適当である。また、電極の総量に対し、例えば、0.01〜80重量%、好ましくは、0.3〜60重量%の量で存在することが適当である。
【0041】
<4.燃料電池>
上述した膜−電極接合体は、燃料電池に用いることができる。燃料電池としては、固体高分子形(PEFC)や直接メタノール供給型燃料電池(DMFC)が挙げられる。
【実施例】
【0042】
<5.実施例>
以下、本発明の具体的な実施例について説明する。なお、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0043】
本実施例では、まず、量子化学計算により、ZrP表面と、ZrP−SPES界面と、ZrSPP表面とにおけるプロトントランスファー及び水分子について解析した。また、この解析結果からプロトン伝導性向上が期待される材料としてZrSを設計し、シミュレーションによる解析を行ってZrSの伝導機構を解明した。さらに、実際にZrSで電解質膜(ZrS−SPES細孔フィリング膜)を合成して各湿度条件でのプロトン伝導性を評価した。
【0044】
(量子化学計算)
量子化学計算において、計算手法としては、密度汎関数法で、十分な精度で描ける汎関数としてRPBE(Revised-Perdew-Burke-Ernzerhof)、基底関数は、the improved Troullier‐Martins methodを使って求めた運動量保存型擬ポテンシャルのa double-zeta split‐valence basis set with polarization orbitals (DZP)を用いた。プログラムとしては、ブロッホの定理に基づき、結晶を周期境界条件で再現できるthe Spanish Initiative for Electronic Simulations with Thousands of Atoms (siesta)-2.0.1を利用した。なお、構造を描写するソフトは、VESTAを用いた。具体的に、使用した基底関数は、擬ポテンシャル(内殻電子部分を近似し、反応に主に寄与する価電子部分のみを正確に記述した関数)である。また、以下の表1に示すように、価電子部分とした半径の値をパラメーターとして動かした。それぞれの原子のs,p,d,f軌道は、表1に示す半径より外側だけを正確に記述しており、半径以内の内殻電子を近似した。また、パラメーターを動かした場合に、各軌道間での励起エネルギーが、内殻電子を近似していない基底関数との誤差が1mRydになるようにした。
【0045】
【表1】

【0046】
真空層をとり、周期境界条件を用いることで、結晶粒子表面を再現した。プロトントランスファーの機構は、Vehicle機構とGrotthuss機構の二通りがあるが、本発明では、次のような理由から図2に示すGrotthuss機構とした。なお、Grotthuss機構とともにVehicle機構を伴うようにしてもよい。まず、次の式で水分子のまわりとの相互作用の力Einteractionを定義した。
interaction = Ewhole - (Ewater + Eothers) (1)
【0047】
(1)式において、Ewholeは、対象とする水を含めた無機粒子表面の構造のエネルギーで、Ewaterは、水分子のエネルギー、Eothersは、対象とする水分子を除いた構造でのエネルギーを指している。この定義で、それぞれ無機粒子上に1つの水分子を置いた場合、官能基との相互作用は40−55[kJ/mol]程度となり、通常の水素結合の実験値(10―20[kJ/mol])に比べて非常に高い値となり、無機粒子上の水が固定されていると考えられる。これにより、プロトントランスファーは、水分子自体が移動する必要のあるVehicle機構ではなく、Grotthuss機構であるということが示された。
【0048】
Grotthuss機構の再現には、まず初期構造(図3(A))における水素結合方向にプロトンが酸素原子間を移動し、移動したプロトンと移動前後にプロトンが結合している酸素原子を固定した状態で構造最適化を行った。続いて、固定をはずした状態で再度構造最適化を行い、移動後の構造(図3(C))を得ることで再現した。また、Nudged Elastic Band(NEB)法をsiesta-2.0.1にインプリメントし、この初期構造と移動後の構造をもとに遷移状態(図3(B))を探索した。そして、初期構造と遷移状態のエネルギー状態の比較から活性化エネルギーを計算した。
【0049】
プロトン伝導度については、下記式(2)のNernst−Einsteinの式で表されるプロトンホッピングの活性化エネルギー(E)を左右する要因を調べることにより、伝導性を押し上げている要因を解明した。下記式(2)において、Eは活性化エネルギー、Aは頻度因子(定数)、Rは気体定数、Tは絶対温度を表す。
σ=A/T exp(−E/RT) (2)
【0050】
次に、ZrP表面、水だけの系、ZrSPP表面、ZrP−SPES界面及びZrS表面について、具体的なモデルの作製方法を説明する。
【0051】
〔ZrP表面〕
ZrPは、層状の結晶構造であり、ユニットセルは、層が二層重なっている構造となっている。一層だけにおける計算でも二層の場合と構造・各原子の電荷にほぼ変化がなかったので、今回のモデルでは、一層分だけをZrP表面として扱った。結晶構造は、周期境界条件(k-grid: 2×2×1)を用いてユニットセル一層分が層方向に広がった状況を再現した。このモデルのセルサイズは、9.1オングストローム×5.3オングストローム×66.0オングストロームであり、真空層をz方向に40オングストロームとって粒子表面を再現した。
【0052】
水分子は、表面に十分量配置することで、水分子に対するZrP表面の影響を見ることとした。配置の決め方は、まず、セルのx、y方向のサイズをZrP表面とそろえ、10個の水分子で密度が1[g/cm3]になるようにz方向のサイズを6.183オングストロームと決めた。続いて、Nose thermostatを使って400[K]の状態で1.5psほどMolecular Dynamics(MD)計算を行い、得られた水の構造をZrP表面においてZrPのリン酸基以外の位置を固定して再度同じ条件のMD計算を行った後に、ZrPの位置の固定をなくして構造最適化をかけた。これにより、ZrP上の水の構造は、5通り得られ、官能基一つに対して5個の水分子が割り当てられている。
【0053】
〔水だけの系〕
ZrPのない水だけの系を上述したZrP表面の場合と同様のセルサイズ、方法で3通り得て、プロトントランスファーについて解析した。
【0054】
〔ZrP−SPES界面〕
上述したZrP表面の上に、SPESの酸性官能基部分(スルホン酸基)をモデル化したHSOHを配置し、界面を再現した。
【0055】
〔ZrSPP表面〕
上述したZrP表面のリン酸基をスルホフェニルホスホン酸基に置き換えて、構造最適化することでZrSPPを再現した。水の配置の決め方は、ZrSPP表面上に水分子を整列させて、スルホン酸基、ベンゼン環以外のZrSPP表面を固定して構造最適化することによって得た。水分子の数は、官能基一つに対して8個配置した。この水分子が官能基に対して8つある場合において、リン酸基とフェニルスルホン酸基との割合が1:1の構造では、5通りのモデルで解析した。リン酸基が全てスルホフェニルホスホン酸に置き換わった構造は、無水状態での解析を行った。
【0056】
〔ZrS表面〕
ZrSは、常温からPEFC作動条件内で安定である4水和物をモデル化した。4水和物の結晶構造は、ZrPと同様に層状結晶であるが、正確な構造が分かっていない。これより、同じ層状結晶である1水和物に水分子を追加する形で4水和物を再現した。こちらも官能基一つに対し水分子5個を配列させ、1水和物ZrSに含まれていた結晶水及びスルホン酸基以外を固定して構造最適化を行うことにより、5通りのZrS上の水分子の構造を得た。セルサイズは、39.5オングストローム×8.7オングストローム×12.3オングストロームで、x方向がZrS表面に対し垂直な方向となっており、真空層が30オングストローム取っている。ZrP表面の場合と同様に、周期境界条件(k-grid: 1×2×2)を用いて結晶表面が広がっている状況を再現した。
【0057】
(量子化学計算の結果)
図4及び図5は、プロトントランスファーが起こった酸素原子間の平均距離と活性化エネルギーとの関係を示すグラフである。具体的に、図4及び図5に示す記号(◇)は、ZrS表面での結果である。また、記号(■)は、ZrP表面での結果である。また、記号(▲)は、ZrSPP表面での結果である。また、記号(×)は、水のみ(1g/cm)の結果である。ここで、プロトントランスファーが起こった酸素原子間の平均距離とは、あるプロトントランスファーを再現したときに、プロトン移動に関わった酸素原子間距離の平均をいう。
【0058】
〔ZrP表面〕
図4及び図5に示すZrP上のプロトントランスファーの解析により、プロトンがホッピングして移動する酸素原子間距離が短いほど、上記式(2)におけるEが小さいことが示された。例えば、酸素原子間距離が2.4オングストロームでは、Eがほぼ0kJ/molとなっていることが分かった。
【0059】
ZrPは、表面にリン酸基を高密度に持っている。ここで、官能基が隣の酸素原子と水素結合したときの酸素原子間距離が2.6オングストローム以下となる確率をPとすると、ZrP上のリン酸基は、確率(P)=31.3%となり、通常の水同士のP=5.6%よりも高い。この結果から、リン酸基は、自身の酸強度によって水分子を引き付け、酸素原子間距離を短くすることが分かった。
【0060】
よって、酸性官能基であるリン酸基は、プロトンの放出だけでなく水素結合ネットワークを形成するため、酸強度が高く、官能基密度が高い物質が、プロトン伝導性の向上には有利であることが示された。
【0061】
〔ZrP−SPES界面〕
次に、SPESのモデルとして、スルホン酸基(HSOH)を様々な位置に配置して、図6に示すZrP−SPES界面のプロトントランスファーを解析した。
【0062】
スルホン酸基は、強酸であるためプロトンを放出した状態で安定であり、通常は、プロトンを放出した後、ほぼ水と水素結合しない(プロトン放出後のスルホン酸基は、確率(P)=8.7%)。
【0063】
しかし、スルホン酸基は、ZrPのリン酸基と、SPESのスルホン酸基とが直接水素結合した場合には、周りの水及び官能基と短い酸素原子間距離を形成することが分かった(確率(P)=80.0%)。これは、通常、プロトンの放出や傍受に関与しないサイトが官能基の電荷的相互作用によって活性化し、水素結合ネットワークを形成したと考えられる。また、これらの官能基同士間でプロトントランスファー(E=25kJ/mol)が起こり、水分子が無くても図7(A)〜(C)に示すようにプロトンが伝導することが示された。
【0064】
また、官能基間のプロトントランスファーでは、弱酸側にプロトンが留まり、移動が起こりにくいことが示唆された。これは、酸強度が違うとプロトンの放出による安定化エネルギーに差があるためと考えられる。なお、このモデルでのエネルギー差は、9kJ/mol程度である。そのため、常温では、RT=2.5kJ/mol程度であることから、プロトントランスファー自体が十分に起こり得ると考えられる。
【0065】
〔ZrSPP表面〕
ZrSPPは、図8に示すようにZrPのリン酸基(POH)がスルホフェニルホスホン酸基(PCSOH)に置き換わった構造である。この構造は、ベンゼン環の回転軸に自由度がある。ZrSPP表面では、スルホン酸基が向き合った構造が最も安定である。ZrSPP表面では、スルホン酸基同士で水素結合することで、プロトンを放出したスルホン酸基も水素結合ネットワークを作ること(P=75%)が分かった。また、この官能基高密度構造でも、水分子無しでプロトン伝導することが示された。この系では、ZrP−SPES界面に比べてZrSPPのスルホン酸基同士の酸強度が等しいため、プロトンが片側にスタックする現象が起こらなかった。
【0066】
〔ZrS表面〕
上述した結果に基づいて、高密度官能基を持ち、より酸強度の高いZrSに着目した。ZrSは、図9に示すような構造を有する。ZrSの表面には、ZrP、ZrSPPに対し、0.9倍の密度でZr原子が、また同じく0.9倍の密度でスルホ基がある。また、ZrSの酸強度は、ハメットの酸度関数が−12と非常に高い。
【0067】
ZrS上の解析を行ったところ、Zr原子がルイス酸として働いて、吸着した水分子が水素結合を作るが(P=54.5%)、スルホ基が水分子との水素結合を作らず(P=0%)、実質的な酸性官能基としては、ルイス酸として働くZr原子に吸着した水分子のみである。
【0068】
しかし、上述したZrP−SPES界面及びZrSPP表面の計算結果から、異相界面では、他の官能基が水素結合することで、通常プロトンの放出や傍受に関与しないサイトも活性化して水素結合ネットワークを作ることが考えられる。これにより、ZrSのスルホ基を活性化して、官能基密度がスルホ基とルイス酸とを合わせてZrP及びZrSPPの1.8倍となり、高いプロトン伝導性を発現できると考えられる。すなわち、例えば、ZrS−SPESのような異相界面においては、ZrSのスルホ基の官能基密度が高くなり、より高い確率で、このZrSのスルホ基が周りの官能基等と短い酸素原子間距離を形成すると考えられるため、プロトン伝導性をより高くすることが可能となる。
【0069】
<実施例1>
実施例1では、上述したZrS表面の解析結果に基づいて、図1に示すように、ZrSにSPESが多点吸着した電解質溶液を多孔質基材に充填した細孔フィリング膜を作製した。
【0070】
(SPESの合成)
3,3’-Disulfonated-4,4’-Dichlorldiphenyl Sulfone(DS−DCDPS)と、4,4’-Dichlorldiphenyl Sulfone(DCDSP)と、4,4'-ビフェノール(4,4’-Biphenol:BP)と触媒の炭酸カリウム(KCO)とを混合して200℃で加熱し、精製することで有機電解質ポリマーであるSPESを合成した。
【0071】
(無機粒子の合成)
ZrSの前駆体となるジルコニウムナノ粒子(Zr precursor)(以下、「ZrO」と呼ぶ)を粒径0.5nm程度のサイズで次のようにして合成した。すなわち、ジルコニウムブトキシドの希釈溶液(0.05M)をイソプロピルアルコールで調製した。ジルコニウムアルコキシド溶液中に、キレート剤としてアセチルアセトンを滴下し、30分間攪拌を続けた。ジルコニウムアルコキシド中のジルコニウムとアセチルアセトンとの濃度の比率は、1:2とした。上述したジルコニウムアルコキシド溶液に、触媒として1Mの硝酸溶液を加えて、6時間攪拌してジルコニアゾルを得た。このジルコニアゾルを乾燥機で、12時間以上、80℃で乾燥することでZrOを得た。得られたジルコニウムナノ粒子の分散状態をアセチルアセトンにより保護し、DLS(Dynamic Light Scattering)、XRD及びFTIRで合成の確認をした。
【0072】
(細孔フィリング膜の作製)
ZrOとSPESとを1:1の割合で混合し、多点吸着させて電解質溶液を作製した。この溶液を多孔質の架橋ポリエチレン基材(CLPE)に滴下して乾燥させ、1.5M硫酸に浸して80℃で加熱し、膜中のZrOをZrSに変換してZrS−SPES細孔フィリング膜を得た。
【0073】
<比較例1>
比較例1では、実施例1で得られたZrOを1.5M硫酸に浸し、80℃で加熱することで、ZrSを得た。
【0074】
図10(A)は、既報の文献に記載された硫酸ジルコニウム化合物のXRDパターンを示す図であり、図10(B)は、実施例1で得られた化合物のXRDパターンを示す図である。図10に示すように、ジルコニウムナノ粒子を硫酸に浸し、加熱することで得られた化合物は、ZrSであることが確認できた。
【0075】
<比較例2>
比較例2では、実施例1で得られたZrOに、SPP硫酸溶液を混合し、80℃で加熱した。ジルコニウムナノ粒子に対するSPPのモル比は2倍、硫酸濃度は1.5Mとした。反応後、溶媒を除去してサンプルを乾燥し、乾燥させたサンプルをイソプロピルアルコールで洗浄、精製して、ZrSPPを得た。
【0076】
<比較例3>
比較例3では、ポリマーを有機極性溶媒に溶解することにより、SPES溶液を作製した。SPES溶液をホットプレート上でキャストし、その後に80℃で一晩、真空乾燥することにより、自立(self-standing)フィルム(SPESキャスト膜)を調製した。
【0077】
<比較例4>
比較例4では、実施例1で調整した、SPES溶液とZrO溶液とを重量比1:1で混合した混合溶液を多孔質の架橋ポリエチレン基材(CLPE)に充填させたZr−SPES細孔フィリング膜を得た。得られたZr−SPES細孔フィリング膜をSPP硫酸溶液と混合し、80℃で加熱処理した。ここで、膜中のZrOに対するSPPのモル比は2倍以上とし、硫酸の濃度は1Mとした。
【0078】
実施例1及び比較例1〜比較例4で得られた細孔フィリング膜等のプロトン伝導度は、インピーダンス測定により調べた。
【0079】
図11は、ZrS−SPES細孔フィリング膜(■)、ZrSPP−SPES細孔フィリング膜(●)、ZrSPP(○)、ZrS(□)及びSPESキャスト膜(◆)の90℃でのプロトン伝導性を示すグラフである。
【0080】
図11に示すように、実施例1で作製したZrS−SPES細孔フィリング膜は、湿度依存性がなく、広範な湿度域で極めて高いプロトン伝導性(約0.2S/cm)を示した。このプロトン伝導度は、比較例4で得られたZrSPP−SPES細孔フィリング膜におけるプロトン伝導度の2〜3倍の値を示している。この結果は、ZrS単体では、ZrSPP単体に比べて低い伝導度であるので、ZrS−SPES界面でSPESのスルホン酸基がZrSのスルホ基に水素結合して活性化させ、官能基高密度構造がZrSPP以上に多く形成されたためと考えられる。
【0081】
以上のように、酸性官能基同士が直接水素結合すると、通常プロトンの放出、受容に関与しなかったサイトが活性化し、水素結合ネットワークを形成して、官能基高密度構造では、水分子無しでもプロトントランスファーが起こることが示された。また、官能基同士間のプロトントランスファーでは、酸強度が等しい場合にはプロトンが留まりにくいことが示された。よって、プロトン伝導性向上の材料設計指針として、強い酸強度と、高い官能基密度をもつ材料が好ましいことが分かった。
【符号の説明】
【0082】
1 多孔性ポリマー基材、2 細孔、3 ハイブリッド材料、4 細孔フィリング膜(プロトン伝導性膜)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と、オキソニウムイオンと、酸素原子を有する複数の酸性官能基とを有し、
上記酸性官能基が有する酸素原子と、該酸性官能基に最も隣接する酸素原子とが水素結合したときの酸素原子間の距離が2.7オングストローム以下となる確率が、水分子同士の酸素原子間の距離が2.7オングストローム以下となる確率よりも高いプロトン伝導性材料。
【請求項2】
上記酸性官能基が有する酸素原子と、該酸性官能基に最も隣接する酸素原子と水素結合したときの酸素原子間の距離が2.6オングストローム以下となる確率が、水分子同士の酸素原子間の距離が2.6オングストローム以下となる確率よりも高い請求項1記載のプロトン伝導性材料。
【請求項3】
上記酸性官能基としてスルホン酸基又はスルホ基を有するジルコニウム化合物と、上記酸性官能基としてスルホン酸基を有するプロトン伝導性ポリマーとを有し、
上記ジルコニウム化合物と上記プロトン伝導性ポリマーとの界面における、該ジルコニウム化合物のスルホン酸基又はスルホ基及び該プロトン伝導性ポリマーのスルホン酸基が有する酸素原子間の距離が2.6オングストローム以下となる確率が、水分子同士の酸素原子間の距離が2.6オングストローム以下となる確率よりも高い請求項2記載のプロトン伝導性材料。
【請求項4】
プロトン伝導性ポリマーを、第1の極性有機溶媒に溶解してポリマー溶液を得るポリマー溶液調製工程と、
第2の極性有機溶媒に、ジルコニウムアルコキシドとキレート剤と触媒とを溶媒中で反応させて得られるジルコニウムナノ粒子を分散させて、ジルコニウムナノ粒子分散体を得る第1の分散工程と、
上記ポリマー溶液と上記ジルコニウムナノ粒子分散体とを混合して、上記第1の極性有機溶媒及び上記第2の極性有機溶媒と、プロトン伝導性ポリマー及び上記ジルコニウムナノ粒子を有するプロトン伝導性複合材料との複合材料分散体を得る第2の分散工程と、
上記第2の分散工程で得られた複合材料分散体を多孔性ポリマー基材の孔に含浸する含浸工程と、
上記複合材料分散体が含浸された多孔性ポリマー基材と硫酸溶液とを反応させることで、上記多孔性ポリマー基材に、上記ジルコニウムナノ粒子と上記硫酸溶液とから生成された強酸性ジルコニウム化合物と、上記プロトン伝導性ポリマーとが固定されたプロトン伝導性膜を得る反応工程とによって得られ、
水と、オキソニウムイオンと、酸素原子を有する複数の酸性官能基とを有し、該酸性官能基が有する酸素原子と、該酸性官能基に最も隣接する酸素原子とが水素結合したときの酸素原子間の距離が2.7オングストローム以下となる確率が、水分子同士の酸素原子間の距離が2.7オングストローム以下となる確率よりも高く、プロトン伝導度が2×10−1Scm−1以上であるプロトン伝導性膜。
【請求項5】
触媒層を有する電極と、プロトン伝導性膜とを用いた膜−電極接合体において、
上記プロトン伝導性膜は、水と、オキソニウムイオンと、酸素原子を有する複数の酸性官能基とを有し、
上記酸性官能基が有する酸素原子と、該酸性官能基に最も隣接する酸素原子とが水素結合したときの酸素原子間の距離が2.7オングストローム以下となる確率が、水分子同士の酸素原子間の距離が2.7オングストローム以下となる確率よりも高い膜−電極接合体。
【請求項6】
請求項5記載の膜−電極接合体を用いた燃料電池。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2012−204326(P2012−204326A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−70954(P2011−70954)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、固体高分子形燃料電池実用化推進技術開発/次世代技術開発/微細孔内精密ミクロ構造制御と界面高速プロトン伝導現象を用いた広温度・無加湿型PEFCの開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】