説明

プロトン伝導性電解質膜、その製造方法、及びそれを用いた膜−電極接合体、燃料電池

【課題】水、メタノール等の電解質溶液の透過、水素、酸素のガス透過、電解質溶液による膨潤を抑え、かつ機械的強度に優れた電解質膜、その製造方法及びそれを用いた膜−電極接合体、燃料電池を提供する。
【解決手段】複数の細孔を有する多孔質基材と、前記細孔中に保持されたプロトン伝導性高分子組成物とを有する電解質膜であって、前記プロトン伝導性高分子組成物がプロトン酸基を有する芳香族系炭化水素樹脂を含み、25℃での前記電解質膜中に含まれる自由水がプロトン酸基1個あたりに対して0.5個以下であり、25℃での前記電解質膜中に含まれる束縛水がプロトン酸基1個あたりに対して1個以下であり、前記電解質膜のプロトン伝導性が25℃の水中で0.001S/cm以上であり、前記電解質膜のメタノール透過性が25℃の30重量%メタノール中で50(kg・μm/m2・h)以下である電解質膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の細孔を有する多孔質基材と、前記細孔中に保持されたプロトン伝導性高分子組成物とを有する電解質膜に関する。特に、燃料電池に使用する電解質膜に関する。
【背景技術】
【0002】
石油資源の枯渇化と地球温暖化等の環境問題の深刻化により、クリーンな電動機用電力源として燃料電池が注目されている。燃料電池は、低温で作動し、出力密度が高く、小型化できるという特徴を有し、車載用電源、家庭用電源、その他の用途に適し重要視されている。
この燃料電池としては、プロトン伝導性高分子組成物、例えば、スルホン酸基を有するパーフルオロカーボン系重合体「ナフィオン(R)等」を電解質膜として用いる固体高分子電解質型燃料電池が知られている。この電解質膜は、電気抵抗低減のため膜厚を薄くすることが求められる。
しかし、上記スルホン酸基を有する重合体の電解質膜の膜厚を薄くしようとすると、加工性や膜の取扱い性が悪化し、適度な機械的強度を保つことができなかった。また、電解質膜が膨潤することによる電解質膜を介したアノードのメタノールとカソードの酸化剤との短絡現象(クロスオーバー)の影響が大きくなり、温度上昇による電解質膜の融解(クリーピング)が発生しやすくなっていた。
他の電解質膜の膜厚を低減する方法として、パーフロロ系イオン交換樹脂を多孔質のポリテトラフルオロエチレンフィルム中に含浸した電解質膜が知られている(特許文献1参照)。しかし、パーフロロ系イオン交換樹脂はメタノールや水に対する膨潤はある程度抑制できるものの、メタノールの透過抑制に関しては不十分であり、電解質膜の出力特性に問題があった。
ところで電解質中の水に含まれる水の状態は、非特許文献1及び2に従うと電解質中に含まれる自由水、束縛水、不凍水とは、以下のように定義される。
自由水:電解質または基材の影響を受けず融解/凍結の温度及びエンタルピーがバルクの水と同じ水である。
束縛水:融解/凍結の温度がバルクの水と異なり、電解質または基材との相互作用があり、−20℃から20℃で相転移(結晶化)を示す水である。
不凍水:融解/凍結の温度がバルクの水と異なり、電解質または基材との強い相互作用があり、−20℃から20℃で相転移(結晶化)を示さない、即ち、−20℃より低い温度で相転移(結晶化)を示す水である。
この中でバルクの水と同じである自由水は、電解質内を自由に動くことができるため、メタノール透過を誘引する媒体の原因となる。また束縛水は、自由水ほどではないもののメタノールを透過する原因となる。そのため電解質に含まれる水は、電解質または基材の強い相互作用がある不凍水のみからなることが理想である。
【0003】
【特許文献1】特公平5−75835号公報
【特許文献2】特開2005−19055号公報
【非特許文献1】H.Hatakeyama,T.Hatakeyama,Thermochimica Acta 308,(1998)pp. 3-22
【非特許文献2】M.A.Hickner,B.S.Pivovar ”FUEL CELLS” (2005),5,No.2 pp. 213-229
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特開2005−19055号公報には、プロトン伝導性ポリマーと、これとは異なる高分子を混ぜることで、自由水、束縛水の量を減らすことができたと記述されている。しかし自由水、束縛水の量を十分に減らすことができなかったためメタノールの透過を阻止する効果が不十分であった。
本発明の第一の目的は、水、メタノール等の電解質溶液透過、及び水素、酸素のガス透過及び電解質溶液による膨潤を抑え、かつ機械的強度に優れた電解質膜及びその製造方法を提供することにある。
本発明の第二の目的は、電解質膜のこれまでにない薄膜化を実現し、かつ、電気抵抗が低く、寸法安定性、耐熱性、耐薬品性に優れた電解質膜及びその製造方法を提供することにある。
本発明の第三の目的は、上記電解質膜を用いた膜−電極接合体を提供することにある。
本発明の第四の目的は、上記膜−電極接合体を用いた燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、複数の細孔を有する多孔質基材において、各細孔の全て又は一部の中に、プロトン酸基を有する芳香族系炭化水素樹脂を含むプロトン伝導性高分子組成物を保持することによって上記欠点を克服した優れた電解質膜を提供できることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、
[1].複数の細孔を有する多孔質基材と、前記細孔中に保持されたプロトン伝導性高分子組成物とを有する電解質膜であって、前記プロトン伝導性高分子組成物がプロトン酸基を有する芳香族系炭化水素樹脂を含み、25℃での前記電解質膜中に含まれる自由水が前記プロトン酸基1個あたりに対して0.5個以下であり、25℃での前記電解質膜中に含まれる束縛水が前記プロトン酸基1個あたりに対して1個以下であり、前記電解質膜のプロトン伝導性が25℃の水中で0.001S/cm以上であり、前記電解質膜のメタノール透過性が25℃の30重量%メタノール中で50(kg・μm/m2・h)以下であることを特徴とする電解質膜に関する。
[2].前記芳香族系炭化水素樹脂が、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリキノリン及びポリキノキサリンからなる群より選ばれる、上記[1]に記載の電解質膜に関する。
[3].前記芳香族系炭化水素樹脂が、ポリエーテルスルホンである、上記[1]に記載の電解質膜に関する。
[4].前記プロトン酸基が、スルホン酸基、カルボン酸基、リン酸基およびフェノール性水酸基からなる群より選ばれる、上記[1]ないし[3]のいずれかに記載の電解質膜に関する。
[5].前記芳香族系炭化水素樹脂が、一般式(I)で表される構造を含む、上記[1]に記載の電解質膜に関する。
【0006】
【化1】

(一般式(I)中、X1及びX2は、互いに同一であっても異なっていてもよく、−(ROm)n−であり、ここで、Rはアルキレン基であり、mは0又は1、nは0〜20の整数である)
[6].前記多孔質基材が、無機材料又は耐熱性ポリマーである、上記[1]に記載の電解質膜に関する。
[7].前記多孔質基材が、ポリイミドであり、前記芳香族系炭化水素樹脂が、ポリエーテルスルホンである、上記[1]に記載の電解質膜に関する。
[8].前記プロトン伝導性高分子組成物が、架橋剤を含む、上記[1]ないし[7]のいずれかに記載の電解質膜に関する。
[9].前記細孔の一部と前記芳香族系炭化水素樹脂の一部が固定されている、上記[1]ないし[8]のいずれかに記載の電解質膜に関する。
[10].上記[1]に記載の電解質膜の製造方法であって、以下の工程を含む、電解質膜の製造方法に関する。
(1)複数の細孔を有する多孔質基材と、前記細孔中に保持されたプロトン伝導性高分子組成物とを有する電解質膜であって、前記多孔質基材の前記細孔中に前記プロトン伝導性高分子組成物を形成するためのモノマー及び/又はオリゴマーを保持する工程;及び
(2)前記モノマー及び/又はオリゴマーを前記細孔中において重合する工程。
[11].前記プロトン伝導性高分子組成物を形成するためのモノマー及び/又はオリゴマーが、反応基を3個以上有することを特徴とする、上記[10]に記載の電解質膜の製造方法に関する。
[12].上記[1]に記載の電解質膜の製造方法であって、以下の工程を含む、電解質膜の製造方法に関する。
(1)複数の細孔を有する多孔質基材と、前記細孔中に保持されたプロトン伝導性高分子組成物とを有する電解質膜であって、前記多孔質基材を前記プロトン伝導性高分子組成物の溶媒溶液に浸漬して前記多孔質基材の前記細孔中に前記プロトン伝導性高分子組成物を導入する工程;及び
(2)前記プロトン伝導性高分子組成物を保持した前記多孔質基材を、60℃以上の温度で少なくとも1時間保持する工程。
[13].上記[1]ないし[9]のいずれかに記載の電解質膜を用いた膜−電極接合体に関する。
[14].上記[13]に記載の膜−電極接合体を用いた燃料電池に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の電解質膜は、電気抵抗が低く、燃料電池に利用した場合に燃料電池の内部抵抗を低減することができる。また、本発明の電解質膜は、多孔質基材の細孔にプロトン伝導性高分子組成物が細部まで隙間なく充填されているので、カソードの酸化剤ガス(例えば酸素)、または、アノードのメタノールの透過性が極めて低い。さらに、本発明の電解質膜は、寸法安定性、耐熱性、耐薬品性に優れた多孔質基材を母材とすることができるので、高温条件下においても電解質の膨潤を抑制でき、メタノールや酸素ガスの透過を抑えて品質の安定した電解質膜を提供することができる。また電解質内部で発生する過酸化水素等のラジカル化合物等に分解しないため、高い電池出力を長期間安定的に得ることができる。
本発明の電解質膜は、燃料電池、特に、固体高分子型燃料電池及び直接メタノール型燃料電池用の電解質膜として使用される。このような燃料電池に使用することにより、メタノールのような燃料及びO2ガスのような酸化剤のクロスオーバーが抑制でき、高い電池出力を長期間安定的に得ることができる。
本発明の電解質膜に含まれる水の状態は、電解質または基材との相互作用を有する水(束縛水、不凍水)からなり、この中で不凍水が主成分となり、自由水がほとんど存在せず、束縛水の量を極力低減した電解質膜である。このような構造を持つことで、電解質または基材との強い相互作用を有する不凍水のみからなる電解質は、スルホン酸基の周りに水が取り囲むいわゆるクラスタ構造を形成しにくい。このため水の移動を極力抑制することができてメタノールや酸素ガスの透過を抑えることができる。さらに電解質内部で発生する過酸化水素等のラジカル化合物等の電解質の浸入を抑えることができるため、高い電池出力を長期間安定的に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の電解質膜及びその製造方法、膜−電極接合体、燃料電池について詳述する。
(1)電解質膜
本発明の電解質膜は、複数の細孔を有する多孔質基材と、前記細孔中に保持されたプロトン伝導性高分子組成物とを有する。電解質膜は、プロトン伝導性、寸法安定性、耐熱性、耐薬品性に優れることが望まれる。好ましい多孔質基材とプロトン伝導性高分子組成物との組み合わせは、双方とも芳香族を含む材料の組み合わせである。
ここで、電解質膜のプロトン伝導性は、25℃、湿度100%において0.001S/cm以上であり、0.002S/cm以上がより好ましい。
メタノール透過性は、25℃の30重量%メタノール中で0(kg・μm/m2・h)以上、100(kg・μm/m2・h)以下でもよいが、0(kg・μm/m2・h)以上、50(kg・μm/m2・h)以下とする。100(kg・μm/m2・h)以上だと、メタノール透過による性能劣化が顕著になる。
寸法安定性、耐熱性は、高温条件下においても電解質の膨潤を抑制できるため、メタノールや酸素ガスの透過を抑えることができるという点で好ましい。
寸法安定性は、電解質膜を25℃、純水中で24時間浸漬し、浸漬前後の面積変化率(%)で、20%以下が好ましく、10%以下であればより好ましく、3%以下あることがより好ましい。面積変化率が20%以下であれば、電解質膜表面と触媒層との接着性が十分に得られ、電解質膜と触媒層の界面抵抗が大きくなりすぎることもなく、電解質の膨潤を十分に抑制し、かつ、メタノール透過性を低く抑えることができる。
耐熱性は、燃料電池の使用範囲である−30℃〜150℃で物性が変わらないことが好ましい。
耐薬品性は、電解質膜内で発生する過酸化水素等の酸化剤に分解しない高い耐酸化性を有することが望ましい。
【0009】
(1−1)多孔質基材
本発明に用いられる多孔質基材は、特に限定されず、既知の無機材料及び有機材料から選択され得る。これらの多孔質基材は、寸法安定性、耐熱性、耐薬品性、機械的強度に優れたものが好ましい。
具体的に、無機材料としては、アルミナ系、ジルコニア系、シリカ系、窒化ケイ素系、炭化ケイ素系などのセラミック、ガラス、アルミナ、及びこれらの複合体が挙げられる。また、有機材料としては、熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂などの各種ポリマーが選択できる。多孔質基材は、好ましくは、芳香族を含む有機材料であることが望ましい。また、好ましくは、耐久性という点から耐熱性ポリマーであることが望ましい。ここで、耐熱性ポリマーとは、ガラス転移温度(Tg)が150℃以上、好ましくは、150〜300℃である樹脂を言う。耐熱性ポリマーとしては、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリキノリン、ポリキノキサリン、架橋型ポリエチレン、及びこれらの混合物が好ましい。ここで、ポリキノリン及びポリキノキサリンは、下記のキノリン骨格及びキノキサリン骨格を有するポリマーを言う。








【0010】
【化2】

本発明で使用する多孔質基材の膜厚は、例えば、0.01〜300μm、好ましくは0.01〜200μm、より好ましくは0.1〜100μmであることが適当である。膜厚が0.01μm以上であれば、十分な強度が得られ、取扱い、作業性の面で有利であり、300μm以下であれば、得られる電解質膜の電気抵抗が大きくなりすぎることもないので好適である。また、本発明の多孔質基材は、それ自身にプロトン伝導性を持たせるためのスルホン酸基を導入する必要がないので、スルホン酸基による膜の機械的強度の低下の影響を受けない。したがって、本発明の多孔質基材の膜厚は、例えば、20μm未満、好ましくは、10μm以下、より好ましくは、1μm以下としてもよい。
【0011】
本発明で用いる多孔質基材に存在し、プロトン伝導性高分子組成物が保持される細孔は、連続孔であることが適当である。ここで「連続孔」とは、多孔質基材の表面及び裏面を貫通している細孔を意味し、このような連続孔にプロトン伝導性高分子組成物を保持することにより、プロトンがこの連続孔を通じて多孔質基材の表面から裏面に移動することが可能となる。従って、本発明の多孔質基材は、電解質によって膨潤することなく、この連続孔を通じてプロトンを移動させることができる。
本発明の多孔質基材の空孔率は、例えば、10〜95%、好ましくは、20〜90%、より好ましくは40〜80%であることが適当である。10%以上であれば、多孔質基材の細孔内にプロトン伝導性高分子組成物を十分に保持することができ、充分なイオン伝導率を得ることができる。また、95%以下であれば、実用的な薄膜強度を得ることができる。
本発明で用いる多孔質基材の表面と裏面を貫通する細孔の平均径(平均貫通孔径)は、0.001〜100μm好ましくは、0.005〜50μm、より好ましくは、0.01〜10μmであることが適当である。平均貫通孔径が0.001μm以上であれば、多孔質基材の細孔内にプロトン伝導性高分子組成物を十分に保持することができ、充分なイオン伝導率を得ることができる。また、平均貫通孔径が100μm以下であれば、プロトン伝導性高分子組成物が漏出することなく細孔内に固定化することができるので好適である

【0012】
(1−2)プロトン伝導性高分子組成物
本発明に用いられるプロトン伝導性高分子組成物は、プロトン酸基を有する芳香族系炭化水素樹脂、及び必要に応じてその他の樹脂並びに添加剤を含む。
(1−2−1)芳香族系炭化水素樹脂
本発明で用いる芳香族系炭化水素樹脂は、炭化水素系樹脂の主骨格に芳香族基を有するものである。このような芳香族系炭化水素樹脂は、耐熱性、耐酸化性、柔軟性、製膜性という点で好ましい。この芳香族系炭化水素樹脂の主骨格は、ポリエーテルケトン、ポリスルフィド、ポリホスファゼン、ポリフェニレン、ポリベンゾイミダゾール、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリアミド、ポリイミド、ポリ尿素、ポリキノリン、ポリキノキサリン、ポリスルホン、ポリスルホネート、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾチアゾール、ポリチアゾール、ポリフェニルキノキサリン、ポリキノリン、ポリシロキサン、ポリトリアジン、ポリジエン、ポリピリジン、ポリピリミジン、ポリオキサチアゾール、ポリテトラザピレン、ポリオキサゾール、ポリビニルピリジン、ポリビニルイミダゾール、ポリピロリドン、ポリアクリレート誘導体、ポリメタクリレート誘導体、ポリスチレン誘導体等であることが適当である。中でも、耐熱性、耐電解液性(耐膨潤性)という点からポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリキノリン、ポリキノキサリンのいずれかを含むことがより好ましくポリエーテルスルホンを含むことがより好ましい。芳香族系炭化水素樹脂は、上記ポリマーの1種又は複数の混合物であってもよく、また、上記ポリマーを構成するモノマーの2種以上を共重合した共重合体であってもよい。
本発明で用いる芳香族系炭化水素樹脂の数平均分子量は、1,000〜1,000,000であることが好ましく、得られる電解質膜の強度と加工性の観点から、5,000〜500,000であることがより好ましく、10,000〜200,000であることが特に好ましい。数平均分子量が、1,000以上であれば、得られる電解質膜の強度を十分に保つことができ、1,000,000以下であれば、十分な加工性を保持することができる。
【0013】
(1−2−2)プロトン酸基
芳香族系炭化水素樹脂に存在するプロトン酸基としては、プロトンを放出しやすい官能基が挙げられる。例えば、スルホン酸基(−SO3H)、カルボン酸基(−COOH)、リン酸基(−PO32)、アルキルスルホン酸基(−(CH2nSO3H)、アルキルカルボン酸基(−(CH2nCOOH)、アルキルホスホン酸基(−(CH2nPO32)、およびフェノール性ヒドロキシル基(−Ph−OH)等からなる群より選ばれた少なくとも1種以上含まれたものが好ましい(nは、例えば、1〜10、好ましくは1〜5)。上記スルホン酸基、カルボン酸基、リン酸基は、一部がアルキル基、ナトリウム、カリウム、カルシウム等で置換されていてもよい。上記酸生成基に含まれるアルキル基及びアルキレン基は、炭素数が1〜10個、好ましくは、1〜5個含有するものである。
プロトン酸基を芳香族系炭化水素樹脂の主骨格に導入するためには、種々の既知の官能基導入反応を利用することができる。例えば、スルホン酸基を導入する場合、スルホン化剤が使用される。このスルホン化剤としては、特に限定されるものではないが、たとえば、濃硫酸、発煙硫酸、クロロ硫酸、無水硫酸錯体等を好適に使用することができる。また、カルボン酸基を導入する場合、酸化反応、カルボン酸誘導体の加水分解反応、転移反応等を用いることができる。フェノール性ヒドロキシル基を導入する場合、ハロゲン等の置換反応、キノン等の還元反応、炭化水素の酸化反応等を用いることができる。
また、芳香族系炭化水素樹脂主骨格へのプロトン酸基の導入は、芳香族系炭化水素樹脂の重合前に芳香族系炭化水素樹脂を作製するためのモノマーにプロトン酸基を導入することが望ましい。モノマーの段階でプロトン酸基を導入することにより、ポリマー鎖にスルホン酸基が均一に導入されるために良好な耐酸化性が得られ、プロトン伝導率の制御がしやすく、一定の品質の電解質膜を製造することができる。また、プロトン酸基の導入がポリマーに導入する場合に比べて容易である。
プロトン酸基は、芳香族系炭化水素樹脂を構成する単位骨格当たり、例えば、0.1〜5個、好ましくは、0.5〜4個、より好ましくは1〜2個含まれる。また、多孔質基材の細孔(空孔)1cm3に含まれるプロトン酸基のモル数(プロトン酸基密度(mmol/cm3))は、0.5〜1.5mmol/cm3、好ましくは、0.7〜1.2mmol/cm3、より好ましくは、0.8〜1.1mmol/cm3であることが適当である。このプロトン酸基密度は、以下の式から求められる。

プロトン酸基密度(mmol/cm3)=充填ポリマー体積密度(g/cm3)×イオン交換容量IEC(meq)

ここで、充填ポリマー体積密度(g/cm3)は、電解質膜を構成する多孔質基材の細孔(空孔)1cm3あたりに充填されたポリマーの質量(g)である。実際には、[1cm×1cm×ポリマー充填後の膜厚(cm)×ポリマー充填後の空孔率]から求めた体積を有する細孔に充填されたポリマーの質量(g)から計算できる。
【0014】
(1−2−3)プロトン酸基を有する芳香族系炭化水素樹脂
本発明の好ましいプロトン酸基を有する芳香族系炭化水素樹脂は、以下の一般式(I)で表される構造を有する。
【0015】
【化3】

一般式(I)中、X1及びX2は、互いに同一であっても異なっていてもよく、−(ROmn−である。ここで、Rはアルキレン基、好ましくは、炭素数1〜20、より好ましくは、炭素数1〜10の直鎖又は分枝鎖のアルキレン基であり;mは0又は1であり;nは0〜20、好ましくは、0〜10、より好ましくは1〜5の整数である。上記Rを示すアルキレン基は、一部ハロゲン基、水酸基、フェノール等によって置換されていてもよい。
また、本発明の好ましいプロトン酸基を有する芳香族系炭化水素樹脂は、以下の一般式(II)で表される2価のエーテル基の構造を有していてもよい。
【0016】
【化4】

一般式(II)中、X3は、単結合、−O−、−SO2−、−CO−、
【0017】
【化5】


である。
【0018】
さらに、本発明の好ましいプロトン酸基を有する芳香族系炭化水素樹脂は、以下の一般式(III)で表される、3個以上の反応基を有するモノマー/オリゴマーから得られる基の構造を有していてもよい。









【0019】
【化6】

一般式(III)中、R1及びR2は、C、H及びOからなる基(即ち、2価の炭化水素基)である。上記一般式(III)で示される基の分子量は、例えば、1000以下、好ましくは、100〜500であることが適当である。具体的に、R1及びR2は、ベンゾフェノン、フラボン、アントラキノン、ピリジン、R3(Ph−)n(式中、R3は、C1〜100の飽和又は不飽和の、直鎖又は分枝鎖の脂肪族基、脂環式基又は芳香族基であり、nは3又は4である)から選択される化合物から3又は4つの水素基が脱離した置換基が挙げられる。より好ましくは、R2は、CH3C(Ph−)3基である。
上記一般式(III)で表される基は、A、A'及びBの位置で架橋点を有する。一般式(III)の基は、この架橋点を介して、本発明の電解質膜に含まれる樹脂又は多孔質基材と架橋することができる。この架橋により、エーテル結合、エステル結合、アミド結合、スルホン結合、ウレア結合、イミド結合、カルボニル結合又はキノキサリン結合を生成することができる。
【0020】
このプロトン酸基を有する芳香族系炭化水素樹脂の合成例の代表例として、MacGrathらのポリエーテルスルホンの合成方法が挙げられる(James E. McGrath, et al., "Direct polymerization of sulfonated poly(arylene ether sulfone) random (statistical) copolymers: candidates for new proton exchange membranes", Journal of Membrane Science 197 (2002) pp.231-242)。すなわち3,3'-ジスルホン酸ナトリウム-4,4'-ジクロロジフェニルスルホン(4,4'−ジヒドロキシ−3,3'−ジスルホン酸ジフェニルスルホンナトリウム塩)と4,4'-ジクロロジフェニルスルホン(ビス(4−クロロフェニル)スルホン)をハロゲン基含有モノマーとし、これと4,4'-ジヒドロキシビフェニル等の水酸基含有モノマーとを反応させてプロトン酸基を有する芳香族系炭化水素樹脂を合成することができる。この合成法は、反応溶液にN-メチル-2-ピロリジノンN,N-ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホンアミド等の非プロトン極性溶媒が用いられる。また反応触媒として炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の塩基が用いられる。また上記モノマーのほかにハロゲン基含有モノマーとしてスルホン酸基含有4,4'-ジクロロジフェニルスルホン、スルホン酸基含有4,4'-ジフルオロジフェニルスルホン、スルホン酸基含有4,4'-ジクロロベンゾフェノン、スルホン酸基含有4,4'-ジフルオロベンゾフェノン、スルホン酸基含有1,3-ジクロロナフタレン、スルホン酸基含有1,3-ジフルオロナフタレン、スルホン酸基含有1,5-ジクロロナフタレン、スルホン酸基含有1,5-ジフルオロナフタレン、4,4'-ジフルオロジフェニルスルホン、4,4'-ジクロロベンゾフェノン、4,4'-ジフルオロベンゾフェノン、1,3-ジクロロナフタレン、1,3-ジフルオロナフタレン、1,5-ジクロロナフタレン、1,5-ジフルオロナフタレンが挙げられる。またヒドロキシル基を含有するモノマーとして4,4'-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4'-ジヒドロキシジフェニルチオエーテル、4,4'-ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4'-ジヒドロキシジフェニルケトン、4,4'-ジヒドロキシベンゾフェノン、1,3-ジヒドロキシナフタレン、1,5-ジヒドロキシナフタレン、などが挙げられる。
【0021】
(1−2−4)その他の樹脂
本発明で用いるプロトン伝導性高分子組成物は、上記芳香族系炭化水素樹脂1種のみからなる高分子組成物であってもよいが、本発明で用いるプロトン伝導性高分子組成物の特性を著しく低下しない範囲で、1種以上の上記芳香族系炭化水素樹脂以外の樹脂を含有してもよい。これらを加えることにより、プロトン伝導性高分子組成物に可とう性を付加することができる。
また、電解質の膨潤を抑制する、多孔質基材の細孔中に保持されるべきプロトン伝導性高分子組成物等が細孔外部に偏析(溶出)することを防止するといった効果が得られる。
このようなその他の樹脂としては、具体的には、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ABS樹脂およびAS樹脂等の汎用樹脂;ポリアセテート(POM)、ポリカーボネート(PC)、ポリアミド(PA:ナイロン)、ポリエチレンテレフタレート(PET)およびポリブチレンテレフタレート(PBT)等のエンジニアリングプラスチック;ならびにポリアクリロニトリル、ポリアクリル酸、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリケトン(PK)、ポリイミド(PI)、ポリシクロヘキサンジメタノールテレフタレート(PCT)、ポリアリレート(PAR)及び各種液晶ポリマー(LCP)等の熱可塑性樹脂;エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ノボラック樹脂、ビスマレイミド樹脂等の熱硬化性樹脂等が挙げられる。またここでいうその他の樹脂は、その樹脂の構造中に、本発明の電解質膜に含まれる樹脂又は基材と結合し得る架橋点を持つ構造を有していてもよい。
架橋点は、エーテル結合、エステル結合、アミド結合、スルホン結合、ウレア結合、イミド結合、カルボニル結合、キノキサリン結合を生成できる反応基であることが好ましい。
その他の樹脂の数平均分子量は1,000〜1,000,000であることが好ましく、得られる電解質膜の強度と加工性の観点から、5,000〜500,000であることがより好ましく、10,000〜200,000であること特に好ましい。数平均分子量が1,000以上であれば、得られる電解質膜の強度を十分に保つことができ、1,000,000以下であれば、十分な加工性を保持することができる。
その他の樹脂は、プロトン伝導性高分子組成物に対し、例えば0.01〜90重量%、好ましくは、10〜50重量%の量で存在することが好ましい。0.01重量%以上であれば、電解質の膨潤、メタノール透過性の低減といった効果が十分に得られるので好ましい。90%重量以下であれば、良好なプロトン伝導性が得られるので好ましい。
【0022】
(1−2−5)その他の添加剤
本発明で用いるプロトン伝導性高分子組成物は、必要に応じて、例えば、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、粘着付与剤、可塑剤、架橋剤、粘度調整剤、静電気防止剤、抗菌剤、消泡剤、分散剤、重合禁止剤、等の各種添加剤を含んでいてもよい。特に架橋剤としては、例えば、エポキシ樹脂、ビスマレイミド、アクリレート系樹脂が挙げられる。
これらの添加剤は、プロトン伝導性高分子組成物に対し、0.01〜50重量%添加することが好ましく、0.1〜30重量%添加することがより好ましい。
【0023】
(1−2−6)プロトン伝導性高分子組成物の組成
プロトン伝導性高分子組成物の組成は、樹脂組成物全体に対して、プロトン酸基を有する芳香族系炭化水素樹脂が、例えば、50重量%以上、好ましくは70重量%以上含むことが好ましい。芳香族系炭化水素樹脂の量が50重量%以上であれば、プロトン伝導性高分子組成物中のプロトン酸基濃度を十分に保ち、良好なプロトン伝導率を得ることができる。また、プロトン酸基を有する芳香族系炭化水素樹脂の相が非連続相となることもなく、伝導するプロトンの移動度が低下することもないので好ましい。
【0024】
(1−2−7)プロトン伝導性高分子組成物に含まれる水の構造
電解質中に含まれる水の状態はDSCで容易に測定することができる。25℃、24時間含浸後の電解質膜の表面の水をふき取ったものを試料としてDSCを測定したとき、0℃付近でのシャープなピークを自由水、−20℃から20℃でのブロードのピークを束縛水、ピークが現れない水を不凍水と定義することができる。
この中で自由水は、電解質または基材の影響を受けずバルクの水と同じ状態であるためクラスタ構造を作りやすくメタノールの透過、ガス透過を引き起こす原因となる。また束縛水は、ある程度水の分子運動が抑制されているもののやはりクラスタ構造を作りやすくメタノールの透過、ガス透過を引き起こす原因となる。そのため自由水、束縛水は、極力低減することが好ましく、電解質または基材に強く相互作用がある不凍水のみ含まれていることが好ましい。自由水の含有量(水分子の個数)は、電解質膜に含有するプロトン酸基1個あたりにつき0個から0.5個がより好ましく、0個から0.1個がさらに好ましい。束縛水は、電解質膜に含有するプロトン酸基1個あたりにつき0個から1個が好ましく、0個から0.5個がより好ましく、0個から0.1個がさらに好ましい。
不凍水は、電解質膜に含有するプロトン酸基1個あたりにつき100個から1個が好ましく30個から2個がより好ましく、20個から4個がさらに好ましい。1個以下だとプロトン伝導が十分でなく100個以上だと過酸化物等の進入が容易になり寿命が短くなる原因となる。
【0025】
(2)電解質膜とその製造方法
本発明の電解質膜は、上記多孔質基材の細孔中にプロトン伝導性高分子組成物を導入(充填、挿入)し、上記多孔質基材の細孔中にプロトン伝導性高分子組成物を保持(固定化、担持)させたものである。
(2−1)電解質膜の製造方法
多孔質基材にプロトン伝導性高分子組成物を導入する方法は特に限定されないが、例えば、(a)多孔質基材の細孔中でモノマー及び/又はオリゴマーを重合する方法、及び、(b)多孔質基材をプロトン伝導性高分子組成物の溶媒溶液に含浸して多孔質基材の細孔中にプロトン伝導性高分子組成物を導入する方法が挙げられる。
(a)多孔質基材の細孔中でモノマー及び/又はオリゴマーを重合する方法
多孔質基材の細孔中でモノマー及び/又はオリゴマーを重合する方法は、以下の工程、
(1)多孔質基材の細孔中にプロトン伝導性高分子組成物を形成するためのモノマー及び/又はオリゴマーを保持する工程;及び
(2)上記モノマー及び/又はオリゴマーを細孔中において重合する工程、を含むことが適当である。
【0026】
この重合方法は、プロトン伝導性高分子組成物を多孔質基材の細孔の内部で重合するものであり、この方法により、プロトン伝導性高分子組成物を多孔質基材の細孔の内部と架橋することができ、プロトン伝導性高分子組成物が、細孔外部に偏析(溶出)することを防止することができる。
さらに重合時には、プロトン伝導性高分子組成物と多孔質基材とを反応させることができる。例えば、プロトン伝導性高分子組成物として架橋点となる反応基にヒドロキシル基を有するポリエーテルスルホンを使用し、多孔質基材としてポリイミドを使用する場合、ポリエーテルスルホンの末端ヒドロキシル基と、ポリイミド多孔質基材中の未反応のポリアミック酸が反応し、エステル結合を形成して架橋し得る。このように、細孔とプロトン伝導性高分子組成物とが反応して架橋することにより、プロトン伝導性高分子組成物が細孔外部に析出(溶出)することを抑えることができる。
ここで使用するモノマー及び/又はオリゴマーは、3個以上、好ましくは、3又は4個の反応基を有することが適当である。ここで、反応基としては、ヒドロキシル基、カルボキシル基等が挙げられる。
また、架橋により、エーテル結合、エステル結合、アミド結合、スルホン結合、ウレア結合、イミド結合、カルボニル結合、キノキサリン結合を生成することが好ましい。中でも、エーテル結合、エステル結合を生成することが望ましい。
【0027】
このモノマーとしては、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,3,5−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン、2,4,4'−トリヒドロキシベンゾフェノン、2,3,4−トリヒドロキシベンゾフェノン、4',5,7−トリヒドロキシフラバノン、3,5,7−トリヒドロキシフラボン、4',5,7−トリヒドロキシフラボン、5,6,7−トリヒドロキシフラボン、6−メチル−1,3,8−トリヒドロキシアントラキノン、2,4,5−トリヒドロキシピリジン、2,2',4,4'−テトラヒドロキシベンゾフェノン等の3官能以上のヒドロキシ基を持つものが挙げられる。
また、オリゴマーとしては、上記モノマーが2分子以上、好ましくは、2〜100含むものが好ましい。
この反応基を3個以上有するモノマー及び/又はオリゴマーの使用量は上記電解質膜の製造方法で使用するモノマー及び/又はオリゴマーの全体の、例えば、0.0001〜80mol%、好ましくは、0.001〜50mol%、より好ましくは、0.01〜40mol%であることが適当である。80mol%以下であれば、得られた電解質膜は十分な柔軟性を有し、0.0001mol%以上であれば本発明の電解質として十分な効果が得られるので好ましい。
【0028】
具体的な反応方法は、まず細孔中にプロトン伝導性高分子組成物を形成するためのモノマー及び/又はオリゴマーを保持する。即ち、本発明のプロトン伝導性高分子組成物を形成するためのモノマー及び又はオリゴマーをそのまま又は溶媒に溶かした溶液を準備する。
ここで、溶媒としては、例えば、トルエン、アセトン、N−メチル−2−ピロリジノン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)及びジメチルアセトアミド(DMAc)等を使用することができる。このモノマー及び/又はオリゴマー、あるいはこれらを含む溶媒溶液に多孔質基材を浸漬し、上記モノマー及び/又はオリゴマーを多孔質基材の細孔中に保持させる。
次いで、モノマー及び/又はオリゴマーを細孔中で重合する。重合条件は、上記モノマー及び/又はオリゴマーを重合する通常の条件が採用され得る。例えば、60〜200℃、好ましくは、80〜180℃で、1〜24時間、好ましくは2〜12時間熱処理後、さらに前記温度より高い150〜250℃、好ましくは、160〜200℃の温度に昇温し、さらに8〜64時間、好ましくは、12〜48時間保持する。
重合の際、多孔質基材の細孔を密閉することが好ましい。細孔を密閉するとは、細孔内部にある溶媒の飛散を防ぐことを意味し、密閉をすることによって、溶媒が飛散しにくくなり、上記重合にかかる時間をかけてゆっくりと溶媒が除去されるようになる。この意味から、ここでいう密閉は、溶媒が全く飛散しない完全な密閉をいうものではなく、溶媒の飛散が、完全に解放された状態と比べて、例えば、少なくとも70%、好ましくは80〜99.9%、より好ましくは、90〜99%抑制された状態をいう。密閉は、多孔質基材を非多孔質のポリイミド等の樹脂フィルム又はガラス基板等で基材の両表面を覆うことによって行われる。
重合反応終了後、水洗し、40〜120℃、好ましくは、80〜100℃で0.5〜10時間、好ましくは1〜5時間真空乾燥し、水を除去して重合体を得る。
【0029】
(b)多孔質基材をプロトン伝導性高分子組成物の溶媒溶液に含浸して多孔質基材の細孔中にプロトン伝導性高分子組成物を導入する方法
多孔質基材をプロトン伝導性高分子組成物の溶媒溶液に含浸する方法は、以下の工程、
(1)前記多孔質基材を前記プロトン伝導性高分子組成物の溶媒溶液に浸漬して前記多孔質基材の前記細孔中に前記プロトン伝導性高分子組成物を導入する工程;及び
(2)前記プロトン伝導性高分子組成物を保持した前記多孔質基材を、60℃以上の温度で少なくとも1時間保持する工程;を含むことが適当である。
具体的には、まず多孔質基材をプロトン伝導性高分子組成物の溶媒溶液に浸漬する。これにより、多孔質基材の前記細孔中に前記プロトン伝導性高分子組成物が導入される。
得られる溶媒溶液は、プロトン伝導性高分子組成物を、例えば、5〜50重量%、好ましくは、10〜40重量%含むことが適当である。溶媒としては、例えば、トルエン、アセトン、N−メチル−2−ピロリジノン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)及びジメチルアセトアミド(DMAc)等を使用することができる。特に、アセトンを利用することにより、多孔質基材中及び溶媒溶液中の不純物を除去することができるので好ましい。さらに、多孔質基材を浸漬する際に、減圧脱気しながら浸漬することが好ましい。加えて、細孔の一部とプロトン伝導性高分子組成物の一部とを架橋するために架橋剤を添加してもよい。架橋させるためには、プロトン伝導性高分子組成物として、ビスマレイミド、エポキシ基、アクリレートを含む芳香族系炭化水素樹脂を使用することが好ましい。
【0030】
次いで、前記プロトン伝導性高分子組成物を保持した前記多孔質基材を熱処理する。この熱処理によって、多孔質基材の前記細孔中に前記プロトン伝導性高分子組成物がさらに導入され、かつ、溶媒が除去され、細孔中に前記プロトン伝導性高分子組成物が充填・固定化される。
上記熱処理温度は、例えば、60〜200℃、好ましくは、80〜180℃の熱処理温度であることが適当である。また、熱処理時間は、少なくとも1時間、例えば、1〜36時間、好ましくは1〜30時間、より好ましくは2時間〜24時間であることが適当である。60℃以上の温度にすることにより、多孔質基材の細孔中にプロトン伝導性高分子組成物をすみやかに導入・固定化することができる。また、1時間以上であれば、プロトン伝導性高分子組成物が細孔中に十分浸透し36時間以下であれば、多孔質基材が熱分解することもない。
上記熱処理の際、多孔質基材の細孔を密閉することが好ましい。密閉をすることによって、溶媒が飛散しにくくなり、上記熱処理にかかる時間をかけてゆっくりと溶媒が除去されるようになる。このように密閉することによって、多孔質基材の表面にプロトン伝導性高分子組成物が析出してくることなく、多孔質基材の細孔中により多くのプロトン伝導性高分子組成物が導入されることになる。ここでいう密閉は、溶媒が全く飛散しない完全な密閉をいうものではなく、溶媒の飛散が、完全に解放された状態と比べて、例えば、少なくとも70%、好ましくは80〜99.9%、より好ましくは、90〜99%抑制された状態をいう。密閉は、多孔質基材を非多孔質のポリイミド等の樹脂フィルム又はガラス基板等で基材の両表面を覆うことによって行われる。
【0031】
以上のようにして得られた電解質膜は、必要に応じて洗浄、乾燥、スルホン化、クロルスルホン化、ホスホニウム化、加水分解等の既知の処理を行い、電解質膜中のプロトン伝導性高分子組成物中に所望の陽イオン交換基を導入して、陽イオン交換樹脂膜とすることができる。
【0032】
(2−2)電解質膜の性質
得られた電解質膜は、プロトン伝導性高分子組成物が多孔質基材の全部又は一部の細孔中に保持されたものである。保持は、細孔とプロトン伝導性高分子組成物とが化学結合していないが、細孔内にプロトン伝導性高分子組成物が入り込み、プロトン伝導性高分子組成物が細孔から出られない状態、及び、固定化は、細孔とプロトン伝導性高分子組成物とが化学結合し、細孔内にプロトン伝導性高分子組成物が固定されている状態等を言う。後者の固定化は、多孔質基材の細孔の一部、例えば、多孔質基材を構成するポリマーの官能基の一部と、プロトン伝導性高分子組成物を構成するプロトン酸基を有する芳香族炭化水素樹脂の一部、例えば、芳香族系炭化水素樹脂を構成するポリマーの官能基の一部とが結合して、細孔とプロトン伝導性高分子組成物とが固定化している場合を含む。
【0033】
得られた電解質膜は、目的に応じて任意の膜厚にすることができるが、プロトン伝導率の面からはできるだけ薄いことが好ましい。具体的には、乾燥膜厚で、例えば5〜200μm、好ましくは5〜75μm、より好ましくは5〜50μmである。電解質膜の膜厚が5μm以上であれば、電解質膜の取り扱いが容易となり、また、この電解質膜を使用した燃料電池の短絡の問題を回避することができ、200μm以下であれば、電解質膜の電気抵抗値を低く抑えることができ、及び、この電解質膜を使用した燃料電池の発電性能を良好に向上することができる。また、本発明の電解質膜の表面に、さらにプロトン伝導性高分子組成物の層を積層しても良い。
本発明の電解質膜の電気伝導度が高い場合には、膜の両表面を研磨するか、或いは両表面にサンドブラストなどを実施して数ミクロンの表面層を削除することも可能である。このような膜の研磨及び表面層の削除は、本発明の電解質膜上に電極触媒層を付着する際の接着性の向上にも繋がる。
本発明の電解質膜は、膜の電気抵抗を低減するために、膜の断面に関して不均質であってもよい。即ち逆浸透膜のように膜の一方の表層部だけが緻密構造の多孔質膜(空孔率10〜60%、好ましくは、20〜50%、平均細孔径0.001〜10μm、好ましくは、0.01〜5μm)で内部及び反対側表面が多孔質(空孔率30〜90%、好ましくは、40〜80%、平均細孔径0.01〜100μm、好ましくは、0.1〜5μm)であっても良い。逆浸透膜として本発明の電解質膜を使用する際の特に好ましい構造は、膜の両表層部が上述のような緻密構造で内部は上述のような多孔質である場合である。
本発明の電解質膜には、多孔質基材中に十分な量のプロトン伝導性高分子組成物を含むことが好ましい。多孔質基材中に含まれるプロトン伝導性高分子組成物の量は、充填率で評価できる。充填率とは、多孔質基材中に充填されたプロトン伝導性高分子組成物の質量割合を意味し、以下の式:
[充填率]=[実際に充填されたプロトン伝導性高分子組成物の質量%]/[理論的に100%充填された場合のプロトン伝導性高分子組成物の質量%]×100
より求めることができる。本発明の電解質膜の充填率は、例えば18〜83%、好ましくは30〜70%、より好ましくは40〜55%であることが適当である。このように充填率を上げることにより、電解質に含まれる束縛水及び自由水の量を減らすことができる。
【0034】
(3)膜−電極接合体
本発明の膜−電極接合体は、上記電解質膜と、この電解質膜の少なくとも1面、通常電解質膜の両面に設けた電極とを含む。
(3−1)電極
本発明の電極は、ガス拡散層と、このガス拡散層上及び/又は内部に設けた触媒層とを有する。
(3−1−1)ガス拡散層
ガス拡散層としては、例えば、カーボン繊維織布、カーボンペーパー等、通気性を有する既知の基体が使用され得る。好ましくは、これらの基体等を撥水処理したものが使用される。撥水処理は、例えば、これら基体を、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体などのフッ素樹脂等からなる撥水剤の水溶液中に浸漬し、乾燥し、焼成することにより行われる。
【0035】
(3−1−2)触媒層
触媒層に使用される触媒物質としては、例えば、白金,ロジウム,ルテニウム,イリジウム,パラジウム,オスニウムなどの白金族金属及びその合金が適している。これら触媒物質及び触媒物質の塩類を単独または混合して用いてもよい。中でも、金属塩や錯体、特に[Pt(NH34]X2または[Pt(NH36]X4(Xは1価の陰イオン)で
あらわされるアンミン錯体が好ましい。また、触媒として金属化合物を用いる場合、いくつかの化合物の混合物を用いても良いし、複塩でもよい。例えば、白金化合物とルテニウム化合物を混ぜて用いることで、還元工程により、白金−ルテニウム合金の形成が期待できる。
触媒の粒径は、特に限定されないが、触媒活性の大きくなる適当な大きさの観点から平均粒径が0.5〜20nmであることが好ましい。なお、K.Kinoshita等の研究(J.Electrochem.Soc.,137,845(1990))では、酸素の還元に対して活性の高い白金の粒径は3nm程度であることが報告されている。
本発明で用いる触媒には、更に助触媒を添加することができる。助触媒としては、微粉状炭素が挙げられる。微粉状炭素としては共存する触媒が高い活性を示すものが好ましく、例えば、触媒として白金族金属の化合物を用いる場合には、Denka Black,Valcan XC−72,Black Peral 2000等の、アセチレンブラック等が適当である。
触媒の量は、付着方法等により異なるが、ガス拡散層の表面に例えば、約0.02〜約20mg/cm2の範囲、好ましくは約0.02〜約20mg/cm2の範囲で付着されていることが適当である。また、電極の総量に対し、例えば、0.01〜10重量%、好ましくは、0.3〜5重量%の量で存在することが適当である。
【0036】
(3−1−3)結着剤
電極は、電極の中及び/又は表面に結着剤を有するものが好ましい。このような結着剤は、上記ガス拡散層と触媒層との結合、及び電極と電解質膜との結合を促進する。結着剤としては、例えば、本発明で使用され得るすべてのポリマー、その他、ナフィオン(R)やフレミオン(R)などのフッ素系等の固体高分子電解質を使用することができる。
(3−1−4)電極の性質
得られる電極は、多孔質である。この多孔質の平均細孔径は、例えば、0.01〜50μm、好ましくは0.1〜40μmであることが適当である。さらに、この多孔質の空孔率は、例えば、10〜99%、好ましくは10〜60%であることが適当である。
【0037】
(3−2)膜−電極接合体の製造
本発明の膜−電極接合体は、電解質膜上に、上記電極を設けることにより製造される。好ましくは、電解質膜側に電極の触媒層側が接合される。この、膜−電極接合体の製造方法としては、たとえば以下の3つの方法が挙げられる。
(a)電解質膜上に、直接触媒物質を適用して触媒層を形成し、さらに形成した触媒層上にガス拡散層を形成する方法。例えば、特表2000−516014号公報に記載の方法によりイオン交換基を有するパーフルオロカーボンポリマー、白金族触媒、微粉状炭素(カーボンブラック)その他添加物を含む触媒物質を電解質膜上に塗布、噴霧、印刷等することにより適用して触媒層を形成し、この触媒層上に、ガス拡散層を熱プレス等により加熱圧着する方法がある。
(b)あらかじめ基板上に触媒物質を適用して触媒層を作製し、得られた触媒層を電解質膜上に転写し、さらに形成した触媒層上にガス拡散層を形成する方法。例えば、あらかじめポリ四弗化エチレンと、トーマス法等で合成した白金黒とを均一に混合し、テフロン(登録商標)シート基板上に適用して加圧成型した後、電解質膜上に転写し、さらにガス拡散層を配置し、得られた積層物を加圧圧着する方法がある。
(c)ガス拡散層を触媒物質の溶液に浸漬等させてあらかじめ電極を作製し、得られた電極を電解質膜上に設ける方法。例えば、可溶性白金族塩の溶液(ペースト)に、ガス拡散層を浸漬し、可溶性白金族塩をガス拡散層上及び内に吸着(イオン交換)させる。次いで、ヒドラジン、Na2BO4のような還元剤溶液に浸漬してガス拡散層上に触媒となる金属を析出させる方法がある。
【0038】
より好ましい本発明の膜−電極接合体の製造方法としては、触媒物質とガス拡散層材料とを含む電極材料を直接電解質膜上に適用する方法が挙げられる。具体的には、触媒物質として、白金−ルテニウム(Pt−Ru)白金(Pt)等の触媒物質を担持した触媒担持カーボン粒子を用い、この触媒物質を、水のような溶媒、固体高分子電解質のような結着剤、及び任意にガス拡散層の製造に使用されるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粒子のような撥水剤と共に混合してペーストを作製する。このペーストを直接本発明の電解質膜上に塗布あるいは噴霧により適用して製膜し、その後加熱乾燥して、高分子電解質上に触媒層(撥水剤を含む場合はガス拡散層の一部をなす撥水性層を含む)を形成する。この触媒層上に、任意に撥水処理されたカーボンペーパー等のガス拡散層を熱プレス等することによって電極が作製される。
このときの触媒層の厚さは、例えば、0.1〜1000μm、好ましくは、1〜500μm、より好ましくは2〜50μmであることが適当である。
【0039】
上記ペーストは、粘度を0.1〜1000Pa・sの範囲に調節しておくことが望ましい。この粘度は、(i)各粒子サイズを選択するか、(ii)触媒の粒子と結着剤との組成を調節するか、(iii)水の含有量を調節するか、或は(iv)好適には粘度調節剤、例えばカルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースおよびセルロースなど、およびポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸ナトリウムおよびポリメチルビニルエーテルなどを添加することなどで調節可能である。
【0040】
(4)燃料電池
本発明の燃料電池は、上記膜−電極接合体を用いたものである。本発明の燃料電池としては、固体高分子型(PEFC)及び直接メタノール供給型燃料電池(DMFC)が挙げられる。
また、本発明の燃料電池の製造方法は、上記電解質膜を2つの電極の間に配置して膜−電極接合体を得る工程を含む。
具体的には、例えば、本発明の電解質膜の各面上に触媒層を付着させ、さらにガス拡散層を設けた膜−電極接合体の各面に、さらにアノード極及びカソード極の2つの極板を配置又は挟持し、得られた積層体の一方の面に常圧或いは加圧された水素ガス、加圧されたメタノールガス或いはメタノール水溶液を保持できる燃料室を配置し、積層体の他方の面に常圧或いは加圧された酸素或いは空気を保持できるガス室を配置することにより燃料電池が作製される。このように作製された燃料電池は、水素或いはメタノールと酸素が反応して生じた電気エネルギーを取り出すものである。
また、必要な電力を取り出すために、この膜−電極接合体又は積層体を1単位として直列或いは並列に多数の単位を配してもよい。
【実施例】
【0041】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0042】
(実施例1)
4,4'−ジヒドロキシビフェニル 37.247g、ビス(4−クロロフェニル)スルホン 40.208g、4,4'−ジヒドロキシ−3,3'−ジスルホン酸ジフェニルスルホンナトリウム塩 30.558g、炭酸カリウム 33.17g、ジメチルアセトアミド 250mlを、ディーンスタークトラップ、コンデンサー、撹拌機および窒素供給管を備えた500ml容の4つ口丸底フラスコに仕込んだ。この混合物をオイルバス上、100℃に加熱したのち、トルエン200mlを加え160℃に加熱して4時間還流してトルエンを留去した。オイルバスを180℃に昇温してトルエンを留去するとともに、180℃、80時間重合を続けた。冷却後、この溶液を2,500ml水中に注いで重合物を析出させた後、この重合物を水洗し、乾燥した(収率99%)。得られた重合物(粉末)をN−メチル−2−ピロリジノンに再溶解し、ポリエーテルスルホン溶液(固形分20重量%)を作製した。また、ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)を用いて数平均分子量を測定したところ、30,000であった(ポリスチレン換算)。このポリマーを元素分析(Perkin PE−2400)により炭素(C)と硫黄(S)成分の比を求めたところEW値829(g・eq-1)であることが分かった。
十分脱気した多孔質基材であるポリイミド膜(宇部興産株式会社製:商品名UPILEX−PT)、空孔率50%、膜厚30μm、平均貫通孔径0.35μm(水銀ポロしメータで測定))をN−メチル−2−ピロリジノンに浸漬した後、120℃、15分保持した。熱処理後、ポリイミド膜をN−メチル−2−ピロリジノンから引き上げ、このポリイミド膜を上述のようにして作製したポリエーテルスルホン溶液(20重量%)に浸漬した。浸漬後表面の多孔質基材の表面に付着した樹脂を十分除去した後、表面をガラス基材で覆い、130℃で5時間熱処理を行って溶媒をゆっくり除去し充填を行った。充填した膜を水洗し80℃、2時間で真空乾燥し、水を除去することによりスルホン化ポリエーテルスルホン(S−PESポリマー)をポリイミド膜の細孔中に充填した。その後、水で十分洗浄し、1N硫酸溶液に24時間浸漬した。浸漬後、乾燥して本発明の電解質膜を得た。プロトン伝導性高分子組成物を充填した後の質量の差から、細孔中に充填された電解質膜の重量あたりの充填率は30%であり膜厚が30μmの電解質膜を得た。
【0043】
(実施例2)
4,4'−ジヒドロキシビフェニル 37.242g、ビス(4−クロロフェニル)スルホン 45.952g、4,4'−ジヒドロキシ−3,3'−ジスルホン酸ジフェニルスルホンナトリウム 20.372g、炭酸カリウム 33.17g、ジメチルアセトアミド 250mlを、ディーンスタークトラップ、コンデンサー、撹拌機および窒素供給管を備えた500ml容の4つ口丸底フラスコに仕込んだ。この混合物をオイルバス上100℃に加熱したのち、トルエン200mlを加え、160℃に加熱して4時間還流してトルエンを留去した。オイルバスを180℃に昇温してトルエンを留去するとともに、180℃で80時間重合を続けた。冷却後、この溶液を2,500ml水中に注いで重合物を析出させた後、この重合物を水洗し、乾燥した(収率99%)。得られた重合物(粉末)をN−メチル−2−ピロリジノンに再溶解し、ポリエーテルスルホン溶液(固形分20重量%)を作製した。また、ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)を用いて数平均分子量を測定したところ、30,000であった(ポリスチレン換算)。このポリマーを元素分析(Perkin PE−2000)により炭素(C)と硫黄(S)成分の比を求めたところEW値1163(g・eq-1)であることが分かった。
十分脱気した多孔質基材であるポリイミド膜(宇部興産株式会社製:商品名UPILEX−PT、空孔率50%、膜厚30μm)をN−メチル−2−ピロリジノンに浸漬した後、120℃、15分保持した。熱処理後、ポリイミド膜をN−メチル−2−ピロリジノンから引き上げ、このポリイミド膜を上述のようにして作製したポリエーテルスルホン溶液(20重量%)に浸漬した。浸漬後表面の多孔質基材の表面に付着した樹脂を十分除去した後表面をガラス基材で覆い、130℃で5時間熱処理を行い、溶媒をゆっくり除去し充填を行った。充填した膜を水洗し、80℃、2時間で真空乾燥し、水を除去することによりスルホン化ポリエーテルスルホン(S−PESポリマー)をポリイミド膜の細孔中に充填した。その後、水で十分洗浄し、1N硫酸溶液に24時間浸漬した。浸漬後、乾燥して本発明の電解質膜を得た。プロトン伝導性高分子組成物を充填した後の質量の差から、細孔中に充填された電解質膜の重量あたりの充填率は30%であり、膜厚が30μmの電解質膜を得た。
【0044】
(実施例3)
十分脱気した多孔質基材であるポリイミド膜(宇部興産株式会社製:商品名UPILEX−PT、空孔率50%、膜厚30μm)をN−メチル−2−ピロリジノンに浸漬した後、120℃、15分保持した。熱処理後、ポリイミド膜をN−メチル−2−ピロリジノンから引き上げ、このポリイミド膜を実施例1で作製したポリエーテルスルホン溶液(固形分15重量%、N−メチル−2−ピロリジノン溶液)に浸漬した。基材表面をガラス基板で覆い、130℃で5時間熱処理を行い、溶媒をゆっくり除去した。この作業を繰り返し行い充填した。その後、膜を水洗し、80℃、2時間で真空乾燥し、水を除去することによりスルホン化ポリエーテルスルホン(S−PESポリマー)をポリイミド膜の細孔中に充填した。その後、水で十分洗浄し、1N硫酸溶液に24時間浸漬した。浸漬後、乾燥して本発明の電解質膜を得た。充填回数を変えることで充填率、膜厚が表1に示す電解質膜を作製した。
【0045】
【表1】

【0046】
(実施例4)
十分脱気した多孔質基材であるポリイミド膜(宇部興産株式会社製:商品名UPILEX−PT、空孔率50%、膜厚30μm)をN−メチル−2−ピロリジノンに浸漬した後、120℃、15分保持した。熱処理後、ポリイミド膜をN−メチル−2−ピロリジノンから引き上げ、このポリイミド膜を実施例2で作製したポリエーテルスルホン溶液(固形分15重量%、N−メチル−2−ピロリジノン溶液)に浸漬した。基材表面をガラス基板で覆い、130℃で5時間熱処理を行い、溶媒をゆっくり除去した。この作業を繰り返し行い充填した。その後、膜を水洗し、80℃、2時間で真空乾燥し、水を除去することによりスルホン化ポリエーテルスルホン(S−PESポリマー)をポリイミド膜の細孔中に充填した。その後、水で十分洗浄し、1N硫酸溶液に24時間浸漬した。浸漬後、乾燥して本発明の電解質膜を得た。充填回数を変えることで充填率、膜厚が表2に示す電解質膜を作製した。
【0047】
【表2】

【0048】
(比較例1)
市販のナフィオン117(膜厚175μm)を用いた。多孔質基材は使用しなかった。
【0049】
(比較例2)
実施例1で作製したポリエーテルスルホン溶液(固形分20重量%)をガラス基板の上にキャストし、ガラス板上に流延した後、100℃で30分、160℃で1時間乾燥し、溶媒を留去した。その後、1N硫酸溶液に24時間浸漬して、厚さ50μmの電解質膜を得た。なお、多孔質基材は使用しなかった。
【0050】
(比較例3)
実施例2で作製したポリエーテルスルホン溶液(固形分20重量%)をガラス基板の上にキャストし、ガラス板上に流延した後、100℃で30分、160℃で1時間乾燥し、溶媒を留去した。その後、1N硫酸溶液に24時間浸漬して、厚さ50μmの電解質膜を得た。なお、多孔質基材は使用しなかった。
【0051】
<評価>
得られた実施例及び比較例の電解質膜を2cm×2cmの寸法に切り取り、以下に示す方法で面積変化率、耐酸化性、形状安定性、プロトン伝導性及びメタノール透過性を評価した。
(i)プロトン伝導性
電解質膜を10mm×30mmの短冊状に切り取り、両端を白金板(5mm×50mm)で挟み込み、テフロン(登録商標)製測定用プローブで挟持した。この挟持した積層体を、25℃、湿度100%の雰囲気中にて、白金板間の抵抗をSOLARTRON社製、1260FREQUENCY RESPONSE ANALYSERにより測定し、以下の式からプロトン電導度を求めた。
プロトン伝導度[S/cm]=白金板間隔[cm]/(膜幅[cm]×膜厚[cm]×抵抗[Ω])
プロトン伝導度が0.01Sm-1以上、好ましくは、0.03Sm-1以上であれば、良好なプロトン伝導性を有すると言える。
【0052】
(ii)メタノール透過性
Yamaguchiらの方法(J.Electrochem.Soc.,2002,149,A1448−1453)により、25℃において30重量%メタノール水溶液を用い測定を行った。ガスクロマトグラフィにより電解質膜を透過したメタノールを定量し、経時変化に対してメタノール透過量をプロットした。このプロットの傾きから、メタノール透過流速Jを得、このメタノール透過流速Jから、電解質膜の膜厚を考慮した下式に従い、メタノール透過係数Pを算出した。
P=J×l
(P:メタノール透過係数(kg・μm/m2h)、J:メタノール透過流速(kg・μm/m2h)、l:膜厚(μm))
メタノール透過係数Pが、50(kg・μm/m2h)以下であれば○(メタノール透過性が良好)、50(kg・μm/m2h)超であれば×と評価した。
【0053】
(iii)活性化エネルギー
(i)と同様な方法で測定温度を変えてプロトン伝導性を測定し、活性化エネルギーを求めた。グラフの横軸に、絶対温度Tを1/Tとしてプロットし、縦軸にプロトン伝導性sを常用対数Log(s)としてプロットしてアレニウスプロットを作成した。このアレニウスプロットの傾きGを求め、活性化エネルギーE[J/mol]を式E=−2.302×G×Rから計算した。
ここでRは気体定数8.314(J/K・mol)である。
活性化エネルギーが大きければ、プロトンの伝導機構が、自由水や束縛水によらないことになる。即ち、活性化エネルギーが大きい場合、プロトンはスルホン酸基のみで移動する。一方、活性化エネルギーが小さい場合、プロトンはスルホン酸に含まれる自由水や束縛水によって移動する傾向にある。
【0054】
(iv)電解質中の水の構造解析および含有量
電解質膜は25℃で、24時間水中に漬浸させた後に表面に付着した水を拭き取り、低温DSCのサンプルとした。低温DSCの測定条件は、20℃から−50℃まで20℃/minの速度で冷却し、その後20℃まで5.0℃/minの速度で昇温した。ベースラインを−30℃から10℃に取り、昇温過程における水の融解吸熱ピーク面積を解析した。0℃におけるシャープな融解吸熱ピークを自由水に、0℃以下におけるブロードな融解吸熱ピークを束縛水に帰属して、定量分析を行った。測定後にサンプルを90℃で4時間真空乾燥を行い、自由水・束縛水・不凍水の全てを除いた乾燥重量を測定して全含水量を求めた。低温DSC測定から求めた自由水・束縛水の量と全含水量との差を不凍水とした。これらの自由水・束縛水・不凍水の量をサンプル中のスルホン酸基の個数で割ることにより、スルホン酸基一個当たりの自由水、束縛水、不凍水の水分子個数を求めた。
【0055】
(v)スルホン酸基密度
実施例1〜4のS−PESポリマー中のプロトン酸基(スルホン酸基)のプロトン酸基密度(スルホン酸基密度)を、以下の式から求めた。

スルホン酸基密度(mmol/cm3)=充填ポリマー体積密度(g/cm3)×イオン交換容量IEC(meq)

ここで、充填ポリマー体積密度(g/cm3)は、[1cm×1cm×ポリマー充填後の膜厚(cm)×ポリマー充填後の空孔率]から求めた体積を有する細孔に充填されたポリマーの質量(g)から計算した。
結果を表3にまとめる。
【表3】

*実施例3及び4は、図5に示すような5つの測定値の平均である。
【0056】
<実施例1及び2と比較例1〜3との対比>
図1にDSCの測定データを示した。図1の比較例1、比較例2、比較例3の測定データからは、自由水、束縛水のピークが認められた。しかし、図1の実施例1、実施例2の測定データからは、束縛水のわずかなピークしか認められなかった。
表4に水の構造解析および含有量、プロトン伝導性、活性化エネルギー、メタノール透過性(25℃、30重量%メタノール使用時)を示した。実施例1、実施例2は、比較例1、比較例2、比較例3と比較して自由水がほとんどなく、束縛水の量がきわめて低いことがわかった。さらに実施例1、実施例2は、自由水が0、束縛水が0.5以下でもプロトン伝導性を有し、メタノール透過性を大きく抑制できることがわかった。またアレニウスプロットを計算すると実施例1、実施例2は、活性化エネルギーが高いことがわかった。実施例1及び実施例2は、比較例1、比較例2、比較例3と比較してプロトンの伝導の機構が違うことが推測される。










【0057】
【表4】

【0058】
<実施例3及び4の評価結果>
実施例3および実施例4で作製した異なる充填率を有する電解質膜について、充填率と含水率との関係を図2に、充填率と束縛水の個数との関係を図3に、充填率と不凍水の個数との関係を図4に、充填率とスルホン酸基密度との関係を図5に示した。充填率が高くなると含水率、束縛水の個数、不凍水の個数が減る傾向にある。これは細孔に充填することにより電解質の膨潤が抑制され含水率、束縛水の個数、不凍水の個数が減ったためと考えられる。また、含水率は、以下の式から求めた。
[含水率(%)]=100×([膨潤膜質量]−[乾燥膜質量])/[乾燥膜質量]
なお、膨潤膜質量は、上記のように膜を浸漬し、膜の表面を十分に拭き取ってから求めた。
【0059】
実施例3および実施例4で作製した電解質膜のプロトン伝導性と、スルホン酸基密度及び束縛水の個数との関係を図6に、プロトン伝導性と、スルホン酸基密度及び不凍水の個数との関係を図7に示した。この図から本発明の電解質膜の場合、プロトン伝導性に影響するのは、スルホン酸基の密度であり、電解質膜に含まれるスルホン酸1つあたりの束縛水の個数が0.5個以下でもプロトン伝導性は低下しないことがわかった。
すなわち、実施例3及び実施例4の結果からわかるように、プロトン伝導性が水の影響を受けず、スルホン酸基の影響を受けることから、プロトンの伝導がスルホン酸を伝わって運ぶ機構(プロトンホッピング)によって行われていると推定される。
【0060】
さらに、実施例1及び2、比較例1〜3の電解質膜を水に浸漬した際の含水率及びその際の面積変化率を求めた。具体的には、各電解質膜を25℃で24時間純水中に浸漬し、浸漬前後の面積変化を測定し、以下の式から面積変化率を求めた。
[面積変化率(%)]=100×([膨潤膜面積]・[乾燥膜面積])/[膨潤膜面積]
また、含水率は、以下の式から求めた。
[含水率(%)]=100×([膨潤膜質量]−[乾燥膜質量])/[乾燥膜質量]
なお、膨潤膜質量は、上記のように膜を浸漬し、膜の表面を十分に拭き取ってから求めた。結果を以下の表5にまとめる。
【表5】

以上の結果から、実施例1及び2の電解質膜は、含水率が低く、かつ、電解質溶液による膨潤を適度に抑制したものであることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】実施例1、2、比較例1〜3の低温DSCの測定チャートを示す図。
【図2】充填率と含水率の関係を示す図。
【図3】充填率と束縛水の関係を示す図。
【図4】充填率と不凍水の関係を示す図。
【図5】充填率とスルホン酸基密度の関係を示す図。
【図6】プロトン伝導性とスルホン酸基密度の関係を示す図。
【図7】プロトン伝導性とスルホン酸基密度、不凍水の関係を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の細孔を有する多孔質基材と、前記細孔中に保持されたプロトン伝導性高分子組成物とを有する電解質膜であって、前記プロトン伝導性高分子組成物がプロトン酸基を有する芳香族系炭化水素樹脂を含み、25℃での前記電解質膜中に含まれる自由水が前記プロトン酸基1個あたりに対して0.5個以下であり、25℃での前記電解質膜中に含まれる束縛水が前記プロトン酸基1個あたりに対して1個以下であり、前記電解質膜のプロトン伝導性が25℃の水中で0.001S/cm以上であり、前記電解質膜のメタノール透過性が25℃の30重量%メタノール中で50(kg・μm/m2・h)以下であることを特徴とする電解質膜。
【請求項2】
前記芳香族系炭化水素樹脂が、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリキノリン及びポリキノキサリンからなる群より選ばれる、請求項1に記載の電解質膜。
【請求項3】
前記芳香族系炭化水素樹脂が、ポリエーテルスルホンである、請求項1に記載の電解質膜。
【請求項4】
前記プロトン酸基が、スルホン酸基、カルボン酸基、リン酸基およびフェノール性水酸基からなる群より選ばれる、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の電解質膜。
【請求項5】
前記芳香族系炭化水素樹脂が、一般式(I)で表される構造を含む、請求項1に記載の電解質膜。
【化1】

(一般式(I)中、X1及びX2は、互いに同一であっても異なっていてもよく、−(ROm)n−であり、ここでRは、アルキレン基であり、mは0又は1、nは0〜20の整数である)
【請求項6】
前記多孔質基材が、無機材料又は耐熱性ポリマーである、請求項1に記載の電解質膜。
【請求項7】
前記多孔質基材が、ポリイミドであり、前記芳香族系炭化水素樹脂が、ポリエーテルスルホンである、請求項1に記載の電解質膜。
【請求項8】
前記プロトン伝導性高分子組成物が、架橋剤を含む、請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の電解質膜。
【請求項9】
前記細孔の一部と前記芳香族系炭化水素樹脂の一部が固定されている、請求項1ないし請求項8のいずれかに記載の電解質膜。
【請求項10】
請求項1に記載の電解質膜の製造方法であって、以下の工程を含む、電解質膜の製造方法。
(1)複数の細孔を有する多孔質基材と、前記細孔中に保持されたプロトン伝導性高分子組成物とを有する電解質膜であって、前記多孔質基材の前記細孔中に前記プロトン伝導性高分子組成物を形成するためのモノマー及び/又はオリゴマーを保持する工程;及び
(2)前記モノマー及び/又はオリゴマーを前記細孔中において重合する工程。
【請求項11】
前記プロトン伝導性高分子組成物を形成するためのモノマー及び/又はオリゴマーが、反応基を3個以上有することを特徴とする、請求項10に記載の電解質膜の製造方法。
【請求項12】
請求項1に記載の電解質膜の製造方法であって、以下の工程を含む、電解質膜の製造方法。
(1)複数の細孔を有する多孔質基材と、前記細孔中に保持されたプロトン伝導性高分子組成物とを有する電解質膜であって、前記多孔質基材を前記プロトン伝導性高分子組成物の溶媒溶液に浸漬して前記多孔質基材の前記細孔中に前記プロトン伝導性高分子組成物を導入する工程;及び
(2)前記プロトン伝導性高分子組成物を保持した前記多孔質基材を、60℃以上の温度で少なくとも1時間保持する工程。
【請求項13】
請求項1ないし請求項9のいずれかに記載の電解質膜を用いた膜−電極接合体。
【請求項14】
請求項13に記載の膜−電極接合体を用いた燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−112712(P2008−112712A)
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−30855(P2007−30855)
【出願日】平成19年2月9日(2007.2.9)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】