説明

プロバイオティクスの保存と送達

【課題】プロバイオティクス物質の保存と胃腸系の特定の部位へのその送達方法を提供する。
【解決手段】プロバイオティクス微生物をフィルム形成性タンパク質と炭水化物の水性懸濁液に分散する、または、フィルム形成性タンパク質と炭水化物および脂肪の水中油型エマルジョンに分散する、または油に溶解した後、フィルム形成性タンパク質と炭水化物に分散することにより、プロバイオティクス微生物をマイクロカプセル化する。プロバイオティクスが酸素に敏感である場合、タンパク質、炭水化物を加熱しメイラード反応生成物をカプセル形成フィルム中に形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプロバイオティクス物質の保存と胃腸系の特定の部位へのその送達に関する。
【背景技術】
【0002】
プロバイオティクスとはヒトの健康に有益な効果をもたらすことが科学的に実証されている、生きた微生物食品成分である。プロバイオティクスはまた動物の健康や生産性を向上させるために、動物の飼料中にも使用されている。これらは便の固さを改善し、不快な臭いを減少させることを主な目的としてペットフードにも使用されている。
【0003】
商業的プロバイオティクスバクテリアとして世界的に使用されている主な菌株の大半はビフィズス菌と乳酸桿菌に属する。しかし、その他の属のバクテリアも世界の一部では使用されている。例えば中国はバチルスやクロストリジウム属をはじめとする数多くの他の属のバクテリアを使用している。エンテロコッカス・フェシウムもまた世界中で用いられているが、この属のものは抗生物質耐性の転移に関わっていると考えられている。西側諸国においては、ビフィズス菌と乳酸桿菌は共にプロバイオティクスとして使用する条件を満たした安全な菌として、大きな実績がある。その他にも実例が:
Mogensen, G., Salminen, S., O’Brien, J., Ouwehand, A., Hozapfel, W., Shortt, C., Fonden, R., Miller, GD., Donohue, D., Playne, M., Crittenden, R., Bianchi-Salvadori, B. and R. Zink (2002)。 Food microorganisms - health benefits, safety evaluation and strains with documented history of use in foods Internat, Dairy Federation Bulletin No:377:4 - 9およびMogensen, G., Salminen, S., O’Brien, J., Ouwehand, A., Holzapfel, W., Shortt, C., Fonden, R., Miller, GD., Donohue, D., Playne, M., Crittenden, R., Bianchi-Salvadori, B. and R. Zink (2002) Inventory of microorganisms with a documented history of use in food Internat, Dairy Federation Bulletin No:377:10 - 19で述べられている。
【0004】
ほとんどの健康効果は特定の菌株がもたらすもので、一般菌による例はあまりないことが研究者および医学関係調査員らにひろく認識されている。多くの研究グループにより、生産、食品添加、消化管内での生存、また健康特性を目的として、有用なプロバイオティクス性を持つ菌株が選択されているが、論文審査のある学術専門誌に発表された、ヒトの体内での機能に関するデータは不足している。
【0005】
プロバイオティクス食品には乳酸桿菌とビフィズス菌との両方の選択された菌株が含まれるべきである、という証拠は増え続けている。基本的な考えは、プロバイオティクス乳酸桿菌は若年層(乳児の消化管ミクロフローラには本来すでにビフィズス菌が豊富に存在している)に有用であり、プロバイオティクスビフィズス菌の添加は老年層でより重要となる、ということである。プロバイオティクスを用いない場合、常在するビフィズス菌の数は年齢とともに減少する。ビフィズス菌は病原菌に対する予防作用を有するが、これは乳酸桿菌だけでは効果的に行うことができない。プロバイオティクスバクテリア菌株が健康にとって有益であるためには、消化管の適切な部分にプロバイオティクスバクテリア菌株が十分な生菌数で存在することが必要不可欠である。ほとんどの専門家は適切な食餌用量は食品1グラムあたりの菌数1千万個であると考えている。理論的には、これを達成することはかなり容易である。しかしながら、現在に至るまでいかなる健康状態についても、またいかなるプロバイオティクス菌株についても、用量応答曲線は作成されていない。
【0006】
バクテリアは製造中、フリーズドライ中、および保存中にその数が減少する。しかし、胃腸を通過する際に、さらに数が減少する。プロバイオティクス培養菌は胃の中でpH1.2(胃が空の場合)からpH5.0の範囲の胃液に遭遇する。培養菌は胃の中におよそ40分から5時間にわたり留まる。また胃および小腸内で胆汁酸塩、脂肪分解酵素、加水分解酵素、およびタンパク質分解酵素に出会うが、これらには菌を殺す力がある。プロバイオティクスバクテリアの増殖、生存が可能となるのは胃腸管中で比較的高いpH領域に到達した後なのである。比較的高いpH領域とは回腸と大腸および小腸である。さらにこれらの菌株は消化管の通過の際にそこに存在する菌との間で場所と栄養を奪い合うことになる。またこれらの菌株は正常な蠕動運動によって消化管から押出されたり、他の生物が産生する抗菌剤により殺されないようにしなくてはならない。これらの菌にとって最も有利な生育条件が与えられるのは大腸の最初の1/3の部分(近位腸管)である。
【0007】
腸の粘膜層や胃腸管の上皮細胞壁などの表面に付着する能力は、したがってプロバイオティクスにとり重要な特徴となる。ここで使用する「定着(colonization)」という用語は、菌が胃腸領域中で継続的に生存可能な機能を有することを意味する。胃腸のミクロフローラは成人において比較的安定であり、消化管のエコシステムの条件の変化によって簡単に変わることはないと一般に考えられている。この例外は抗生物質の投与であるが、その場合でさえ、消化管フローラは通常ある時間経過の後再び成立し、前と同様の菌組成を持つのである。
【0008】
プロバイオティクスバクテリアの作用機序には下記のものが含まれる;
・競争的排除(胃腸粘膜表面における適した位置を占有し、感染菌種の定着を防ぐ)
・ 酸性条件の生成(菌株による乳酸発酵により、胃腸のpH値は低下する)
・ 免疫介在性の応答への影響
・ 腐敗性、遺伝毒性腸反応の低減(ひいては前発癌物質レベルの低下)
・ バクテリオシンなどの抗菌剤を放出。
【0009】
下痢性疾病の多くは小腸の機能不全から生じるが、いくらかの乳酸桿菌を除けば、この領域にプロバイオティクス菌は必ずしも常に多数存在するわけではない。健康なヒトの小腸領域におけるバクテリアの組成に関する直接的な証拠は、ほとんど得られていない。しかし、下痢性疾病を軽減する上でプロバイオティクスバクテリアが有効であることは、よく認識されている。これらは小腸を通過する際に機能するか、または免疫効果を通じて働きかけるものである。ほとんどの免疫反応は大腸ではなく、小腸の粘膜壁で生じるため、免疫調節が作用機序であると考えるのなら、プロバイオティクスは小腸に存在しなくてはならない。下痢性の障害が生じるもう一つの領域は大腸である。プロバイオティクスバクテリアはこの領域に極めて簡単に定着することができる。
【0010】
下痢性の疾患に加え、プロバイオティクスバクテリアは乳糖不耐症を低減させる上でも有効である。ただし高いβガラクトシダーゼ酵素作用を有するバクテリアを選択することが必要である。乳糖不耐症作用は腸で現れる。プロバイオティクスはこの他にも多数の新しい健康増進作用があるとされている。これらは例えば腸癌、過敏性腸症候群、炎症性腸疾患(例えばクローン病)などのように特に腸まわりに集中している。したがって、小腸の後半の部分にプロバイオティクス乳酸桿菌を放出することが好ましい。ビフィズス菌の放出目標は通常大腸である。免疫応答は乳酸桿菌よりもビフィズス菌の方が大きい傾向にあるので、小腸のビフィズス菌が極めて重要であるとの主張がなされている。
目標部位が小腸にある場合、バクテリア(おそらくいくつかの乳酸桿菌をのぞいて)は腸壁に十分な数付着しそうもないので、プロバイオティクスを毎日摂取することが必要である。しかし、目標部位が大腸であれば、バクテリアの増殖と定着の可能性があるので、連日の摂取は必要ではないかもしれない。
【0011】
疾病その他の状況に対し有効である、よい特性を有するプロバイオティクスバクテリアが良好な生存特性(例えば低いpHや胆汁酸塩、タンパク質分解酵素、加水分解酵素に対
する耐性や抗生物質に対する耐性、細胞壁への接着性)を持つとは限らない。目標部位へ到達するまでの間のバクテリアの保護が通常必要となる。
【0012】
保護はいくつかの方法で行うことができる。すなわち、徐放性薬剤用のカプセルに包む、ガムやアルギン酸塩のカプセルに包む、難消化性デンプンやイヌリンをガムと組み合わせたものでカプセル化する、あるいは難消化性デンプンを含む食品中に混合する、またタンパク質や脂質が保護を与えるような日常の食品中に加えるなどである。
【0013】
米国特許第5422121号は、結腸へ調剤を送達するのに有用な、親水性基を有するフィルム形成性ポリマーと結腸で分解可能な多糖類を含有するコーティングを開示している。
【0014】
米国特許第5840860号は、短鎖脂肪酸を炭水化物担体に共有結合で結びつけることにより、短鎖脂肪酸を結腸に送達することを開示している。
米国特許第6060050号は、担体であり、かつ大腸をはじめとする胃腸管内の領域で増殖媒体または維持媒体としても作用する高アミロースデンプンと、ビフィズス菌などのプロバイオティクスバクテリアとを組み合わせることを開示している。
【0015】
米国特許出願第20030096002号は、微生物を制御しつつ放出するために使用するマトリックスを開示している。このマトリックスは多糖類、デンプン、藻の派生物、およびポリマーの中から選択される放出修飾剤と疎水性ワックスとから形成されている。米国特許第6413494号は、ペクチンなどの多糖類からなる結腸薬送達賦形剤を開示している。
【0016】
プロバイオティクスによっては、加工の際や胃腸管への送達中に保護が必要である。プロバイオティクスは水または酸素に敏感であることがあり、加工、保存および移送中の生存を維持するために保護が必要である場合がある。
【0017】
欧州特許第1213347号は酵母および微生物を、水を吸収するマトリックス材料と混合することにより、これらを乾燥、保存する方法を開示している。
本発明の目的はプロバイオティクスを加工および貯蔵中の劣化から守り、胃腸管の特定部位への送達を可能にするために、これをカプセル化する方法を提供することである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】米国特許第5422121号
【特許文献2】米国特許第5840860号
【特許文献3】米国特許第6060050号
【特許文献4】米国特許出願第20030096002号
【特許文献5】米国特許第6413494号
【特許文献6】欧州特許第1213347号
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】Mogensen, G., Salminen, S., O’Brien, J., Ouwehand, A., Hozapfel, W., Shortt, C., Fonden, R., Miller, GD., Donohue, D., Playne, M., Crittenden, R., Bianchi-Salvadori, B. and R. Zink (2002) Food microorganisms - health benefits, safety evaluation and strains with documented history of use in foods Internat, Dairy Federation Bulletin No:377:4 - 9
【非特許文献2】Mogensen, G., Salminen, S., O’Brien, J., Ouwehand, A., Holzapfel, W., Shortt, C., Fonden, R., Miller, GD., Donohue, D., Playne, M., Crittenden, R., Bianchi-Salvadori, B. and R. Zink (2002) Inventory of microorganisms with a documented history of use in food Internat, Dairy Federation Bulletin No:377:10 - 19
【発明の概要】
【0020】
この目的のために、本発明は、一つ以上のプロバイオティクス微生物が
・ タンパク質と炭水化物の水性懸濁液中に、または
・ フィルム形成性のタンパク質と炭水化物と脂肪の水中油型エマルジョン中に、または・ 最終的にフィルム形成性タンパク質と炭水化物内に分散される油中に、
分散している、プロバイオティクスバクテリア製剤を提供する。
【0021】
この懸濁液、分散液、あるいはエマルジョンは、乾燥させて粉末としてもよい。本明細書中、プロバイオティクスという用語には、消化管の目標部位に好ましくは生きたまま送達した時に、ヒトの健康に良い効果をもたらすバクテリアおよび菌類などの微生物が、それぞれ個々にあるいは組み合わせて、含まれる。例えば、ビフィズス菌、乳酸桿菌、サッカロミセス、ラクトコッカス、連鎖球菌、プロピオン酸菌属、およびホストに対し良好な効果をもたらすことを示しうるものであれば、その他のいかなる微生物であってもよい。プロバイオティクスはプレバイオティクス物質と混合してもよく、あるいはシンバイオティクス物質の一部として用いてもよい。
【0022】
本明細書中プレバイオティクスとは、タンパク質、ペプチドあるいは炭水化物など、プロバイオティクスの栄養を提供するか、またはプロバイオティクスを助ける作用を持つ物
質をさす。たとえばラクトフェリンは望ましいバクテリアの増殖を強化することができる。通常プレバイオティクスは上部腸管で消化できない。プレバイオティクス炭水化物としては難消化性デンプン、じゃがいもデンプン、あるいはスタープラスなどの高アミロースデンプン、修飾デンプン(カルボキシル化デンプン、アセチル化デンプン、プロピオン化デンプン、およびブチル化デンプンを含む)、フルクトオリゴ糖、グルコオリゴ糖、キシロオリゴ糖、ダイズオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、ミルクオリゴ糖、イヌリンオリゴ糖、などの非消化性オリゴ糖類、アラビノキシラン、アラビノガラクタン、ガラクトマンナンあるいはこれらの消化生成物があげられるが、プレバイオティクス効果を与えることのできるその他のオリゴ糖類を除外するものではない。
【0023】
本明細書中、シンバイオティクスという語は、プロバイオティクスとプレバイオティクスを組み合わせたものを指すが、これらは一緒に用いることによりヒトの健康にとってプラスの相乗効果を及ぼす。
【0024】
プロバイオティクスバクテリアは液体濃縮物として、あるいはフリーズドライで乾燥した形でカプセル化媒体中に導入することができる。プロバイオティクスバクテリアは油に分散し、ついでこれを水性懸濁液で乳化し、乾燥させてプロバイオティクスを含有する油をカプセル化したものを製造してもよい。これをさらに乾燥させて粉末としてもよい。スプレードライ、フリーズドライあるいはリフラクティブウィンドウズドライなどの適した乾燥方法であれば、いずれを用いてもよい。水分に敏感であるプロバイオティクスの場合は、油に懸濁することが好ましいであろう。この場合の油は好ましくは食用油であり、エマルジョンあるいはこのエマルジョンを乾燥することによって得られる粉末は食物の成分として、または飼料用サプリメントとして用いることができる。
【0025】
前述の炭水化物およびフィルム形成性タンパク質の水性懸濁液、またはフィルム形成性タンパク質、炭水化物および油混合物のエマルジョンはカプセル化工程に先立ち、糖とタンパク成分とを反応させるために加熱してもよい。この糖が還元基を有している場合、この加熱工程によりメイラード反応生成物が生じるであろう。プロバイオティクスが酸素に敏感である場合、水性懸濁液を加熱することが好ましい。
【0026】
本発明のカプセル材料により、丈夫で安定なフィルムあるいはマトリックスがプロバイオティクスを埋め込んで形成され、あるいはプロバイオティクスや、その油滴のまわりにフィルムが形成される。油をカプセル化するのに有用なタンパク質はすべて本発明のタンパク質成分として用いることができる。炭水化物はタンパク質と組み合わせて用いられる。水性懸濁液中では、タンパク質はプロバイオティクスの回りにカプセル状マトリックスを形成するので、フィルム形成性タンパク質でなくてもよい。しかし、油ベースの系においては、フィルム形成性タンパク質が必要である。
【0027】
このタンパク質は、好ましくは可溶性であり、またメイラード反応の加熱範囲で安定であることが好ましく、例を挙げると、カゼインタンパク、大豆タンパク、乳清タンパク、ゼラチン、卵アルブミンおよび大豆タンパク加水分解物などをはじめとする遊離アミノ酸基を増加させた加水分解タンパク質などである。このタンパク質と炭水化物とを反応させるには、タンパク質のゲル化や凝固が生じないように条件に注意する必要がある。ゲル化や凝固が生じると、タンパク質が効果的なフィルムを形成することができなくなる。好ましいタンパク質は乳タンパク質であり、特にカゼインまたは乳清タンパク単離物である。カゼインは低コストであり、メイラード反応生成物の形成などのあらゆる加熱処理中のゲル化に対して耐性が大きいため、多くの用途において好まれているタンパク質である。乳児食品に用いる場合、乳清タンパク質は好ましいタンパク質源である。タンパク質−炭水化物混合物中のメイラード反応生成物の量はこの製品の保存期間中酸素消去作用を生じるに十分な量である。カプセル化に先立ちタンパク質と炭水化物の間で最低どの位の反応が
生じる必要があるかは、カプセル化される特定のプロバイオティクス株の耐酸素性に応じて異なる。個々のタンパク質/炭水化物の組み合わせに対し、メイラード反応生成物の生成量は生じる色変化の程度によりモニターすることができる。これに代わる測定法は、未反応糖の分析である。
【0028】
炭水化物とタンパク質がメイラード反応を起こすことが、プロバイオティクスバクテリアの有効なカプセル材料となるために必要不可欠であるわけではない。タンパク質とデンプンを混合する上で、材料、とりわけ炭水化物、のミクロ流動化により得られる製剤の有効性が強化されることが見いだされた。
好ましい炭水化物は還元基を有する糖であり、好ましくは単糖類(例えばグルコース、フルクトース)、二糖類(例えばマルトース、ラクトース)、三糖類、オリゴ糖類およびグルコースシロップからなる群から選択される。蜂蜜を含め、還元糖源であればいかなるものも使用することができる。タンパク質とメイラード反応を起こさない炭水化物を使用してもよい。
【0029】
小腸および直腸中でのプロバイオティクスの増殖と送達を良好にするために、オリゴ糖、または難消化性デンプンをはじめとするデンプンを用いることは本発明の範囲内のことである。これらの物質の中のあるものは通常上部腸管においては消化されないため、プロバイオティクスの増殖を助けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】ビフィドバクテリウム・インファンティスのスプレードライプロセスにおける生存率を示グラフである。
【図2】ビフィドバクテリウム・ラクティスBb−12のスプレードライプロセスにおける生存率を示すグラフである。
【図3】ラクトバシラス・アシドフィルスLa−5のスプレードライプロセス中の生存率を示すグラフである。
【図4】ビフィドバクテリウム・インファンティスのシミュレーションによる胃腸通過後の生存率を示すグラフである。
【図5】25℃、相対湿度50%で2週間保存した後のビフィドバクテリウム・インファンティスの生存率を示すグラフである。
【図6】25℃、相対湿度50%で5週間保存した時のビフィドバクテリウム・インファンティスの生存率を示すグラフである。
【図7】25℃、相対湿度50%で5週間保存した時のビフィドバクテリウム・ラクティスBb−12の生存率を示すグラフである。
【図8】pH4.0で2時間培養した後のビフィドバクテリウム・インファンティスの生存率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
[発明の好ましい態様]
本発明の好ましい実施態様を解説する。
材料
実施例で用いたプロバイオティクスバクテリアはビフィズス菌と乳酸桿菌であるが、同じプロセスによりプロバイオティクスバクテリアのその他の菌株およびそのブレンド物もまたカプセル化することができる。
【0032】
マイクロカプセル化の技法の利点を調べるために、プロバイオティクスであるラクトバシラス・アシドフィルスLa−5(デンマーク、クリスチャン・ハンセン社)と環境条件に対し本質的に異なるレジリエンシーを有する二つのプロバイオティクスビフィズス菌株を用いた。ビフィドバクテリウムて・ラクティスBb−12(デンマーク、クリスチャン・ハンセン社)は比較的丈夫なプロバイオティクス菌株で、低pHを始めとする環境条件に対するレジリエンシーが比較的高く、さらに耐気性も比較的高い。ビフィドバクテリウム・インファンティス(デンマーク、クリスチャン・ハンセン社)は、ビフィドバクテリウム・ラクティスBb−12と比較すると、環境条件に比較的敏感である。
【0033】
実施例において使用したタンパク質は主にカゼインであるが、製剤中のタンパク質は乳清タンパク質、大豆タンパク質、加水分解タンパク質などの他のタンパク質と容易に置き換えることができる。
【0034】
実施例では、炭水化物として、グルコース、オリゴ糖類、乾燥グルコースシロップ、難消化性デンプン、および前処理をしたデンプンを用いた。ラクトース、多糖類、マルトデキストリン、天然デンプン、加工デンプンなどのその他の炭水化物もまた製剤中で用いることができる。
脂質としては、植物油、動物油、ジグリセリド、トリグリセリド、n3系およびn6系の油など、がある。
使用したマイクロカプセル化方法
方法1:タンパク質と炭水化物を反応させた、または反応させない水性懸濁液中にプロバ
イオティクスバクテリアを入れる。
・ タンパク質と炭水化物の混合溶液を60℃で生成する(ここで炭水化物には難消化性デンプンが含まれており、このデンプンはそのまま用いてもよく、またはあらかじめミクロ流動化処理をしておいてもよい)。この混合物を98℃で30分加熱する。10℃に冷ます。フリーズドライしたバクテリアまたは濃縮物をミキサーを用いて反応溶液中に分散させる。Tiを120℃−160℃、Toを50℃−70℃としてスプレードライする。(Tiは入口空気の温度、Toは出口空気の温度である。)
・ タンパク質と炭水化物の混合溶液を60℃で生成する(ここで炭水化物には難消化性デンプンが含まれており、このデンプンはそのまま用いてもよく、またはあらかじめミクロ流動化処理をしておいてもよい)。10℃に冷ます。フリーズドライしたバクテリアまたは濃縮物をミキサーを用いて溶液中に分散させる。Tiを120℃−160℃、Toを50℃−70℃としてスプレードライする。
方法2:反応させた、または反応させていない、フィルム形成性タンパク質と炭水化物および脂肪の水中油型のエマルジョン中にプロバイオティクスバクテリアを入れる。
・ タンパク質と炭水化物の混合溶液を60℃で生成し(ここで炭水化物には難消化性デンプンが含まれており、このデンプンはそのまま用いてもよく、またはあらかじめミクロ流動化処理をしておいてもよい)、油を加え、混合物を350バールで均質化する。この均一化したエマルジョンを98℃で30分加熱する。10℃に冷ます。フリーズドライしたバクテリアをミキサーを用いて反応混合物中に分散させる。Tiを120℃−160℃、Toを50℃−70℃としてスプレードライする。
・ タンパク質と炭水化物の混合溶液を60℃で生成し(ここで炭水化物には難消化性デンプンが含まれており、このデンプンはそのまま用いてもよく、またはあらかじめミクロ流動化処理をしておいてもよい)、油を加え、混合物を250バールで均質化する。10℃に冷ます。フリーズドライしたバクテリアをミキサーを用いて混合物に分散させる。Tiを120℃−160℃、Toを50℃−70℃としてスプレードライする。
方法3:プロバイオティクスバクテリアを油に入れ、ついでそれを、反応させた、またはさせなかったフィルム形成性タンパク質と炭水化物中に分散させる。
・ タンパク質と炭水化物の混合溶液を60℃で生成する(ここで炭水化物には難消化性デンプンが含まれており、このデンプンはそのまま用いてもよく、またはあらかじめミクロ流動化処理をしておいてもよい)。混合物を98℃で30分加熱する。10℃に冷ます。フリーズドライしたバクテリアを油に分散させる。フリーズドライしたバクテリアの分散物をミキサーを用いて反応溶液中に加える。Tiを120℃−160℃、Toを50℃−70℃としてスプレードライする。
・ タンパク質と炭水化物の混合溶液を60℃で生成する(ここで炭水化物には難消化性デンプンが含まれており、このデンプンはそのまま用いてもよく、またはあらかじめミクロ流動化処理をしておいてもよい)。10℃に冷ます。フリーズドライしたバクテリアを油に分散させる。フリーズドライしたバクテリアの分散物をミキサーを用いて溶液中に加える。Tiを120℃−160℃、Toを50℃−70℃としてスプレードライする。
【実施例】
【0035】
加工製剤例
(方法1)
実施例1(タンパク質−糖によるカプセル化)
フリーズドライしたプロバイオティクスバクテリアのタンパク質−糖マトリックスによ
るカプセル化
(加工処理)
カゼインナトリウム、オリゴ糖および乾燥したグルコースシロップを含む混合物(Cas-oligo-DGS)溶液を60℃で調製する。10℃に冷ます。フリーズドライしたバクテリアをこの溶液中にミキサーを用いて分散させる。Ti/Toを160/65℃としてスプレードライする。
【0036】
【表1】

【0037】
実施例2(タンパク質−糖MRPによるカプセル化)
フリーズドライしたプロバイオティクスバクテリアの熱処理タンパク質−糖マトリックスによるカプセル化
(加工処理)
カゼインナトリウム、オリゴ糖および乾燥したグルコースシロップを含む混合物(Cas-oligo-DGS)溶液を60℃で調製する。混合物を98℃で30分熱し、10℃に冷ます。フリーズドライしたバクテリアをこの反応溶液中にミキサーを用いて分散させる。Ti/To
を160/65℃としてスプレードライする。
【0038】
【表2】

【0039】
実施例3(タンパク質−糖−RS(生)によるカプセル化)
フリーズドライしたプロバイオティクスバクテリアのタンパク質−糖−高アミロース
デンプンマトリックスによるカプセル化
(加工処理)
15重量%のカゼインナトリウム溶液を60℃で調製し、糖を加える。10重量%のHylon VII分散液を60℃で調製する。カゼインナトリウム−糖溶液とHylon VII分散液を混合する。10℃に冷ます。フリーズドライしたバクテリアをこのタンパク質−糖−デンプン混合物中にミキサーを用いて分散させる。Ti/Toを160/65℃としてスプレードライする。
【0040】
【表3】

【0041】
実施例4(タンパク質−糖−RS(MF)によるカプセル化)
フリーズドライしたプロバイオティクスバクテリアのタンパク質−糖−ミクロ流動化処理した高アミロースデンプンマトリックスによるカプセル化
加工処理
15重量%のタンパク質溶液を60℃で調製し、糖を加える。20重量%のHylon VII分散液を60℃で調製し、121℃で60分加熱し、冷ましてから残りの水を加えて全固形成分の濃度を10重量%とし、800バールで3回ミクロ流動化を行う。タンパク質−糖溶液とミクロ流動化したHylonVII分散液を合わせて混合する。10℃に冷ます。フリーズドライしたバクテリアをこのタンパク質−糖−デンプン混合物中にミキサーを用いて分散させる。Ti/Toを160/65℃としてスプレードライする。
【0042】
【表4】

【0043】
(方法2)
実施例5(タンパク質−糖−油エマルジョンによるカプセル化)
フリーズドライしたプロバイオティクスバクテリアのタンパク質−糖−油エマルジョンによるカプセル化
(加工処理)
カゼインナトリウム、オリゴ糖および乾燥したグルコースシロップを含む混合物(Cas-oligo-DGS)溶液を60℃で調製し、ミキサーを用いて油を加え、250バールで均質化する。10℃に冷ます。フリーズドライしたバクテリアをこのエマルジョン中にミキサーを用いて分散させる。Ti/Toを160/65℃としてスプレードライする。
【0044】
【表5】

【0045】
実施例6(タンパク質−糖−油MRPエマルジョンによるカプセル化)
フリーズドライしたプロバイオティクスバクテリアの熱処理タンパク質−糖−油エマルジョンによるカプセル化
(加工処理)
カゼインナトリウム、オリゴ糖および乾燥したグルコースシロップを含む混合物(Cas-oligo-DGS)溶液を60℃で調製し、油を加えて250バールで均質化する。このエマルジョンを98℃で30分熱し、10℃に冷ます。フリーズドライしたバクテリアをこのエマルジョン中にミキサーを用いて分散させる。Ti/Toを160/65℃としてスプレードライする。
【0046】
【表6】

【0047】
実施例7(タンパク質−糖−RS(MF)−油エマルジョンによるカプセル化)
フリーズドライしたプロバイオティクスバクテリアのタンパク質−糖−ミクロ
流動化した高アミロースデンプン−油エマルジョンによるカプセル化
(加工処理)
15重量%のタンパク質溶液を60℃で調製し、糖を加える。20重量%のHylon VII分散液を60℃で調製し、121℃で60分加熱し、冷まして残りの水を加えて全固形成分の濃度を10重量%とし、800バールで3回ミクロ流動化を行う。タンパク質−糖溶液とミクロ流動化したHylon VII分散液を合わせて混合する。油を加えて250バールで均質化する。10℃に冷ます。フリーズドライしたバクテリアをこのエマルジョン中にミキサーを用いて分散させる。Ti/Toを160/65℃としてスプレードライする。
【0048】
【表7】

【0049】
(方法3)
実施例8(油添加後、タンパク質−糖によるカプセル化)
フリーズドライしたプロバイオティクスバクテリアを油に添加し、ついでタンパク質
−糖マトリックスでカプセル化する
(加工処理)
カゼインナトリウム、オリゴ糖および乾燥したグルコースシロップを含む混合物(Cas-oligo-DGS)溶液を60℃で調製する。10℃に冷ます。フリーズドライしたバクテリアを油中に分散させる。フリーズドライしたバクテリアを油中に分散させたものを、先の溶液にミキサーを用いて添加する。Ti/Toを160/65℃としてスプレードライする。
【0050】
【表8】

【0051】
実施例9(油添加後、タンパク質−糖MRPによるカプセル化)
フリーズドライしたプロバイオティクスバクテリアを油に添加し、ついで熱処理タン
パク質−糖マトリックスでカプセル化する。
(加工処理)
カゼインナトリウム、オリゴ糖および乾燥したグルコースシロップを含む混合物(Cas-oligo-DGS)溶液を60℃で調製する。混合物を98℃で30分熱し、10℃に冷ます。フリーズドライしたバクテリアを油に分散させる。ビフィドバクテリアBb−12分散液を先の溶液にミキサーを用いて加える。Ti/Toを160/65℃としてスプレードライする。
【0052】
【表9】

【0053】
実施例10(油添加後、タンパク質−RS(生)によるカプセル化)
フリーズドライしたプロバイオティクスバクテリアを油に添加し、タンパク質−高ア
ミロースデンプンマトリックスでカプセル化する。
(加工処理)
15重量%のカゼインナトリウム溶液を60℃で調製する。10重量%のHylon VII分散液を60℃で調製する。カゼインナトリウム溶液とHylon VII分散液を合わせて混合する。10℃に冷ます。フリーズドライしたバクテリアを油に分散する。フリーズドライしたバクテリアの油分散液をタンパク質−デンプン混合物にミキサーを用いて添加する。Ti/Toを160/65℃としてスプレードライする。
【0054】
【表10】

【0055】
実施例11(油添加後、タンパク質−RS(MF)によるカプセル化)
フリーズドライしたプロバイオティクスバクテリアを油に添加し、タンパク質−ミク
ロ流動化した高アミロースデンプンマトリックスでカプセル化する。
(加工処理)
15重量%のカゼイン塩溶液を60℃で調製する。20重量%のHylon VII分散液を60℃で調製し、121℃で60分加熱し、冷まして残りの水を加えて全固形成分の濃度を10重量%とし、800バールで3回ミクロ流動化を行う。カゼインナトリウム溶液とミクロ流動化したHylon VII分散液を合わせて混合する。10℃に冷ます。フリーズドライしたバクテリアを油に分散させる。フリーズドライしたバクテリアの分散液をこのタンパク質−デンプン混合物にミキサーを用いて加える。Ti/Toを160/65℃としてスプレードライする。
【0056】
【表11】

【0057】
実施例12(油添加後、タンパク質−糖−RS(MF)によるカプセル化)
フリーズドライしたプロバイオティクスバクテリアを油に添加し、タンパク質−糖−
ミクロ流動化した高アミロースデンプンマトリックスでカプセル化する。
(加工処理)
15重量%のタンパク質溶液を60℃で調製し、糖を加える。20重量%のHylon VII分散液を60℃で調製し、121℃で60分加熱し、冷まして残りの水を加えて全固形成分の濃度を10重量%とし、800バールで3回ミクロ流動化を行う。タンパク質−糖溶液とミクロ流動化したHylon VII分散液を合わせて混合する。10℃に冷ます。フリーズ
ドライしたバクテリアを油中に分散させる。フリーズドライしたバクテリアの分散液を、先のタンパク質−デンプン混合物中にミキサーを用いて加える。Ti/Toを160/65℃としてスプレードライする。
【0058】
【表12】

【0059】
バクテリア生存率の評価
生菌数を数えるために、人工腸液(SIF)(後述)または脱イオン水(DI)にカプセル材料を溶解し、プロバイオティクスをマイクロカプセルから放出させた。スプレードライカプセル化サンプル1.0gを2つ用意し、人工腸液または脱イオン水10mlと混合し、100rpmで連続的に撹拌しながら、37℃で1−2時間培養した。放出された生菌の数は従来の微生物平板法によりおこなった。放出されたバクテリアを0.1%のペプトン(pH6.9−7.0)中で10倍に連続希釈した。サンプル中の油からのバクテリアの分散を容易にするために、撹拌に先立ちすべてのサンプルの最初の希釈液にはTween80(100μl)を加えた。ビフィズス菌は補強クロストリジウム寒天(RCA)上で培養し、乳酸菌はMRS(de Man-Rogosa-Sharpe)寒天培地で培養した。寒天平板は37℃で無酸素下で48時間培養し、カプセル化した物質のCFU/gを定量した。生存率(パーセント)は下記の通り計算した。
【0060】
生存率(パーセント)=(処理後のCFU/g÷初期のCFU/g)×100%
マイクロカプセル化処理がプロバイオティクスバクテリアの生存に与える良い効果を4つの領域で検討した。
・スプレードライ工程中の生存
・胃腸通過の際の生存(および放出)
・非冷蔵保存の際の生存
・低pHにおける生存
スプレードライ工程におけるマイクロカプセル化の利点
先に名前をあげた3つのプロバイオティクス菌株それぞれを、実施例に記載の技法を用いてマイクロカプセル化し、スプレードライした。スプレードライ工程で生き残ったプロバイオティクスバクテリアのパーセントを各マイクロカプセル化技法に対して求めた。ビフィドバクテリウム・インファンティスにおいては、フリーズドライしたバクテリアサンプルを再懸濁し、スプレードライして、フリーズドライしたバクテリアサンプルのカプセル化後のスプレードライによる生存率と比較することができた。
【0061】
図1は非カプセル化バクテリアと比較し、3つのマイクロカプセル化技法すべてがプロバイオティクスバクテリアをスプレードライ工程中保護していたことを示す。(図1で「非カプセル化バクテリア」とはフリーズドライしたプロバイオティクスサンプルを水に分散してスプレードライしたことを意味する。)マイクロカプセル化により、プロバイオティクスであるビフィズス菌のスプレードライ工程の際の生存は十分に保護された。
【0062】
ビフィドバクテリウム・インファンティスのスプレードライに際しては、方法1が最適であるように思われる。この感受性を有する菌株においては、その規模として1000倍以上の(対数目盛(単位log10)で3以上)生存率の向上が達成された。
【0063】
図2はビフィドバクテリウム・ラクティスBb−12の生存率が、感受性を有するビフィドバクテリウム・インファンティス株よりも一般にはるかに高いことを示す。多数のマイクロカプセル化処理が、スプレードライ中のビフィドバクテリウム・ラクティスBb−12の生存率を同じオーダーに保つ(生存率の差は対数目盛(単位log10)で1未満)ことができた。
【0064】
方法3による処理では、ビフィドバクテリウム・ラクティスBb−12の生存率を維持する能力において、各処理の間に差が見られた。フリーズドライしたビフィドバクテリウム・ラクティスBb−12を水に再懸濁させたものはスプレードライできなかったため、この菌株に対してはスプレードライ工程に対し、カプセル化の有する効果を比較することができなかった。
【0065】
図3はさまざまにカプセル化処理されたラクトバシラス・アシドフィルスLa−5において、スプレードライプロセス中の生存がよく保たれていたことを示す。多くのマイクロカプセル化処理により、スプレードライ中50%を超える生存率が維持されたが、最も効果の高い処理においては菌株間に差が見られた。
【0066】
総合すると、図1から用いたカプセル化方法によりスプレードライ中に保護が与えられること、図2と図3からビフィドバクテリウム・ラクティスBb−12およびラクトバシラス・アシドフィルスLa−5はスプレードライ後もその生存がほぼ損なわれていないことがわかる。
胃腸通過の際のマイクロカプセル化の利点
胃腸通過中の生存をシミュレートするために、マイクロカプセル化したプロバイオティクスとマイクロカプセル化をおこなわないプロバイオティクスの両方を胃と小腸の条件をシュミレートする2段階インビトロモデルに通した。ステージ1においてはそれぞれスプレードライしたカプセル化処理済みの1.0gのサンプルを二つ用意し、10mLの人工胃液(SGF)と混合して100rpmで連続的に撹拌しつつ、37℃で2時間培養した。2時間後、サンプルのpHを1Mの水酸化ナトリウム(生菌を損傷しないように滴下)を用いて6.8に調節し、このpHを調節したサンプルに人工腸液10mlを加えて、100rpmで連続的に撹拌しつつ、37℃でさらに3時間培養した。その後バクテリアの生菌数を測定した。
【0067】
人工胃液と人工腸液は下記のようにして調製した(参照:米国薬局方(2000))およびNational Formulatory (USP 24NF19, Rockville MD)。
人工胃液(SGF)(pH1.2)
塩化ナトリウム(1.0g)、ペプシン1.6gおよび濃塩酸(36%)3.5mlを脱イオン水に溶かし全量を500mlとする。溶液の最終pHは1.2であった。
人工腸液(SIF)(pH6.8)
3.4gのリン酸水素カリウムを脱イオン水450mlに溶かす。これに38.5mlの0.2M水酸化ナトリウムと6.25gのパンクレアチン(8×米国薬局方グレード)を添加した。この溶液を4℃で一晩撹拌し、1Mの水酸化ナトリウムまたは0.2Mの塩酸を用いてpHを6.8に調節した。ついで、この溶液を脱イオン水で500mlにした。
【0068】
図4は3つのマイクロカプセル化方法すべてがこの菌株の生存を向上させたことを示している。(「非カプセル化(フリーズドライ)」とは図4およびその後の図すべてにおいて、フリーズドライされたプロバイオティクスサンプルを意味する。)
マイクロカプセル化されなかったフリーズドライプロバイオティクスであるビフィドバクテリウム・インファンティスと比べて、マイクロカプセル化により、この菌株の生存は大きく保護された。方法2と3はもっとも保護性が高かった。この感受性プロバイオティクス株に対し、カプセル化したものでは、ほぼ100%の生存率が達成され、カプセル化しなかったものでは同じ条件で生存率が1万分の1(対数目盛(単位log10)で4)に減少した。
冷蔵せずに保存した際のマイクロカプセル化の利点
カプセル化したプロバイオティクスバクテリアとカプセル化しなかったプロバイオティクスバクテリアをそれぞれ25℃、相対湿度50%の条件で5週間にわたり保存し、その生存率を評価した。菌株の生存は2週間後と5週間後に評価した。生菌数は先に記載のようにして得た。
【0069】
図5から温度25℃、相対湿度50%の条件で2週間保存した時に、3種類のマイクロカプセル化方法はそれぞれある程度菌株の生存を保護したことがわかる。マイクロカプセル化はプロバイオティクスの生存を大きく保護しており、図4はこれら3つのマイクロカプセル化方法すべてが菌株の生存を向上させたことを示している。(「非カプセル化(フリーズドライ)」とは図4およびそれ以降の図におけるフリーズドライしたプロバイオティクスサンプルを指す。)
マイクロカプセル化により、プロバイオティクスであるビフィドバクテリウム・インファンティスの非冷蔵保存中の生存は、非カプセル化フリーズドライ菌と比較し、大きく保護された。
【0070】
方法2と方法3がもっとも保護能が高かった。
酸素などの環境条件に敏感である種由来のこのプロバイオティクス菌株を非冷蔵条件で2週間保存した時の生存率は、処理を行うことによって同じオーダー(対数目盛(log10)で1未満)に留まった。
【0071】
これと対照的に、非カプセル化フリーズドライバクテリアは生存率が10万分の1以下に減少した。
図6はカプセル化しなかったバクテリアと比べ、プロバイオティクスであるビフィドバクテリウム・インファンティスはマイクロカプセル化により非冷蔵保存中の生存が大きく保護されたことを示す。方法2とタンパク質−RS(MF)によるカプセル化(方法1)処理が5週間の保存を通じビフィドバクテリウム・インファンティスの生存を維持するのに最も成功した。25℃と相対湿度50%の条件で5週間保存後、方法2を使用したマイクロカプセル化によれば生菌数の減少は対数目盛(単位log10)で2未満に維持されたが、一方カプセル化されなかったバクテリアに対しては、生菌数の落ち込みは対数目盛(単位log10)で8以上であった。
【0072】
図7は25℃、相対湿度50%の条件でバクテリアを5週間保存したときに、3つのマイクロカプセル化方法によりカプセル化したものはすべて、しなかったものよりもはるかに菌株の生存が保護されたことを示している。
【0073】
マイクロカプセル化を行わなかったフリーズドライバクテリアと比較すると、マイクロカプセル化により、非冷蔵保存中のプロバイオティクスであるビフィドバクテリウム・ラクティスBb−12の生存は十分に保護された。2週間の保存後の非カプセル化バクテリアの生存率は1000CFU/gの検出限界以下であった。この時点での非カプセル化フリーズドライバクテリアの生存率(パーセント)はしたがって可能な最大生存率を表しており、過大評価である可能性がある。
【0074】
5週間後の生存率(パーセント)で表す利点は、対数目盛(単位log10)で2〜4のであった。
低pH環境におけるマイクロカプセル化の利点
マイクロカプセル化がバクテリアをやや低いpHから守る能力をpH4.0での培養例により評価した。カプセル化しスプレードライしたバクテリアとフリーズドライ後カプセル化を行わなかったプロバイオティクスバクテリア(0.12gのフリーズドライパウダー同等物)を0.2Mの酢酸バッファー(pH4.0)10mLに混合し、100rpmで連続的に撹拌しつつ37℃で2時間培養した。2時間の培養の後、サンプルのpHを1Mの水酸化ナトリウムを用いて6.8に調節し、37℃(室温)でさらに1時間培養して、カプセルからのバクテリアの放出を行った。サンプル中の生菌数を前に記載のようにして求めた。
【0075】
図8はpH4.0での培養後の生存に関しては、3つのマイクロカプセル化方法すべてが菌株の生存をある程度保護し、平均で対数目盛2〜3の向上をもたらした(「非カプセル化:フリーズドライ」とはフリーズドライしたプロバイオティクスサンプルである)ことを示している。
【0076】
マイクロカプセル化は非カプセル化フリーズドライバクテリアと比較すると、プロバイオティクスビフィドバクテリウム・インファンティスの生存を大きく保護した。
本発明の基本的教示から逸脱せずに、本発明に記載のものとは異なる実施例において本発明を実現することも可能であることが当業者には明白であろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一つ以上のプロバイオティクス微生物が,
a) タンパク質と炭水化物の水性懸濁液中に、
b) フィルム形成性のタンパク質と炭水化物と脂肪の水中油型エマルジョン中に、または
c) 後にフィルム形成性タンパク質と炭水化物内に分散される油中に、
分散している、カプセル化したプロバイオティクス。
【請求項2】
前記炭水化物が還元糖末端を含む、請求項1に記載のカプセル化したプロバイオティクス。
【請求項3】
一つ以上のプレバイオティクス物質が前記プロバイオティクス微生物と混合されている、請求項1または2に記載のカプセル化したプロバイオティクス微生物。
【請求項4】
前記フィルム形成組成物中の前記炭水化物がプレバイオティクス炭水化物である、請求項1または2に記載のカプセル化したプロバイオティクス微生物。
【請求項5】
前記タンパク質がカゼインまたは乳清タンパク質である、請求項1に記載のカプセル化したプロバイオティクス微生物。
【請求項6】
前記炭水化物が難消化性デンプンまたは高アミロースデンプンである、請求項1または2に記載のカプセル化したプロバイオティクス微生物。
【請求項7】
前記タンパク質と炭水化物が熱処理されている、請求項2に記載のカプセル化したプロバイオティクスバクテリア。
【請求項8】
前記タンパク質と炭水化物がプロバイオティクスバクテリアの添加に先立ち、油または脂肪の存在下で熱処理されている、請求項2に記載のカプセル化したプロバイオティクスバクテリア。
【請求項9】
前記デンプンが加熱および/またはミクロ流動化により処理されている、請求項3のプロバイオティクスバクテリア製剤。
【請求項10】
スプレードライまたはフリーズドライされ、粉末を形成している、請求項1に記載のカプセル化プロバイオティクス微生物。
【請求項11】
前記プロバイオティクス微生物がビフィズス菌、乳酸桿菌、サッカロミセス、ラクトコッカス、連鎖球菌およびプロピオン酸菌属から選択される、請求項1に記載のカプセル化プロバイオティクス微生物。
【請求項12】
カゼインまたは乳清タンパク質とオリゴ糖を含むフィルム形成混合物中にカプセル化されている、ビフィズス菌、乳酸桿菌、サッカロミセス、ラクトコッカス、連鎖球菌、およびプロピオン酸菌属から選択されるプロバイオティクスバクテリアからなるプロバイオティクス粉末。
【請求項13】
前記フィルム形成混合物が加熱され、オリゴ糖とカゼインまたは乳清タンパク質との間でメイラード反応生成物を形成する、請求項12に記載のプロバイオティクス粉末。
【請求項14】
前記プロバイオティクスバクテリアがプロバイオティクス液体濃縮物である、請求項12
に記載のプロバイオティクス粉末。
【請求項15】
前記プロバイオティクスバクテリアがフリーズドライされている、請求項12に記載のプロバイオティクス粉末。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−187670(P2010−187670A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−36392(P2010−36392)
【出願日】平成22年2月22日(2010.2.22)
【分割の表示】特願2006−529457(P2006−529457)の分割
【原出願日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(305039998)コモンウェルス サイエンティフィック アンド インダストリアル リサーチ オーガニゼイション (92)
【Fターム(参考)】