説明

プロパルギルアルコールの製造方法

本発明の主題は、アセチレンを含有するホルムアルデヒド水溶液を、銅アセチリドを含有する触媒で、1〜15barの運転圧力で70〜120℃で、連続した気相を形成させずに反応させることによりプロパルギルアルコールを製造するにあたり、ホルムアルデヒド水溶液がアセチレンに対する有機溶剤を含有し、かつ触媒を流動層の形で配置するプロパルギルアルコールの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アセチレンを含有するホルムアルデヒド水溶液を、銅アセチリドを含有する触媒の存在で、1〜15barの運転圧力で70〜120℃で、連続した気相を形成させずに反応させることによりプロパルギルアルコールを製造するにあたり、ホルムアルデヒド水溶液がアセチレンに対する有機溶剤を含有し、かつ触媒を流動層の形で配置するプロパルギルアルコールの製造方法に関する。
【0002】
アルキノールを製造するためのエチニル化は以前から公知の方法である。この方法の主な欠点はガス状のアセチレンの危険性であり、このガス状のアセチレンは周知のように費用のかかる安全措置を講じる必要があり、例えば装置を運転圧力の10倍以上に設計する必要がある。
【0003】
この方法をできる限り安全にかつ経済的に運転するために、従って、DE-A 24 21 407では、アセチレン圧縮のための装置部分にだけ自由な連続した気相を生じさせることが提案されている。しかしながら、この合成反応はホルムアルデヒド溶液に溶解したアセチレンを用いてのみ運転される。DE-A 24 21 407によるとこの条件下では主に1,4−ブチンジオールが生じる。
【0004】
DE-A 1 284 964は、場合により溶剤を添加することができる、固定床触媒を用いたプロパルギルアルコールの製造方法を開示している。一般に、固定床触媒中で実施する場合には、固定床触媒の生産性は比較的低いため、極めて大きな反応器容積及び/又は極めて長期間の反応時間を考慮しなければならない。さらに、消費された触媒の交換は多大な費用がかかり、かつ長期間の停止時間を必要とする。
【0005】
触媒の活性をできる限り利用するために、反応媒体中に懸濁される粉末までの小さな触媒粒子が使用される。しかしながら、この場合、反応媒体から前記触媒を分離するために、工業的に多大な費用を必要とする。
【0006】
US-A 4 117 248からは、懸濁液中でのホルムアルデヒド及びアセチレンの反応が有利であることが公知である。しかしながらこの方法の欠点は、連続するアセチレン気相が生じることでありかつ、0.7質量%のプロピノールを含有するだけであり、このプロピノールは反応混合物から経済的に分離することはできない。
【0007】
US 3,078, 970も、懸濁液中でN−アルキルピロリドンの使用下で連続するアセチレン気相生じさせないプロパルギルアルコールの製造方法を開示している。この場合でも、特に懸濁液中に存在する微細粒の触媒は、費用がかかり故障しやすい分離、例えば濾過又は遠心分離を必要とすることが欠点である。
【0008】
しかしながら、不均一系触媒を用いるエチニル化方法の経済性は触媒の生産性、反応媒体からの触媒の簡単な分離性及び高い装置利用性に決定的に依存する。
【0009】
従って、本発明の根底をなす課題は、エチニル化による簡単でかつ安全な製造が可能であり、かつ先行技術による方法の欠点を解消したプロパルギルアルコールの製造方法を提供することであった。この場合、簡単に触媒を分離でき、特に高い空時収率が可能であることが望ましい。
【0010】
前記課題は、本発明の場合に、アセチレンを含有するホルムアルデヒド水溶液を、銅アセチリドを含有する触媒で、1〜15barの運転圧力で70〜120℃で、連続した気相を形成させずに反応させることによりプロパルギルアルコールを製造するにあたり、ホルムアルデヒド水溶液がアセチレンに対する有機溶剤を含有し、かつ触媒を流動層の形で配置することを特徴とする、プロパルギルアルコールの製造方法により解決される。
【0011】
前記触媒粒子は、本発明の場合に有利に所定の方法で反応媒体と共に流すことによって流動化する。
【0012】
本発明の有利な実施態様の場合に、この流動化は膨張した固液流動層の形成が達成されるように実施される。これは、触媒層の明らかな膨張、触媒粒子間の空間容積の相応する増大及び触媒粒子の明らかなバックミキシングを伴う。
【0013】
他の実施態様の場合には、この流動化は、触媒層の膨張及び触媒粒子間の空間容積の増加をわずかにとどめるように実施される。それにより触媒粒子に確実な運動が維持される。しかしながら、触媒層の巨視的な混合は生じない。これは、流動化開始点での触媒層の流動化によって達成される。流動化開始点を越える流動層(いくらか膨張した流動層)の場合には、巨視的な混合が生じる。
【0014】
両方の実施態様の場合に触媒の流動化は、エチニル化反応器から大量の触媒が搬出されないように実施される。この挙動は、触媒層の適当に選択された流体速度により達成される。この最適な流体速度(例えば空塔速度により表される)は、本発明の望ましい実施態様(膨張した流動層又は流動化開始点での流動層)に、反応媒体の粘度及び密度並びに触媒粒子の特性、特に触媒粒子のサイズ、形状、密度及び気孔率を合わせなければならない。
【0015】
低すぎる空塔速度により流動化が消失する。最小流動化のために必要な空塔速度に達することにより、流動化開始点での流動層にとって特徴的である継続的に固体接触の形成と解除が達成される。この空塔速度の上昇により粒子間の距離は拡大し、並びに粒子の運動性も高まり、それにより触媒層の巨視的な混合(膨張した流動層)が生じる。高すぎる空塔速度により、最終的に触媒粒子は反応媒体により反応器から大量に流失する。
【0016】
本発明による方法にとっての流動化開始点での最適なパラメーターは理論的又は実験的に測定することができる。目標とする流動化開始点を見つけ出す実験的な方法として、空塔速度に依存する触媒充填物に関する圧力損失の分析が適している。低すぎる空塔速度の場合に、この圧力損失は、固相の場合の関係と同様に、流動速度と共に連続的に上昇し、前記層は流動化状態で存在していない。それに対して、調査される流動化開始点(最小流動化速度)以降は圧力損失の上昇はわずかになるかもしくは一定のままとなる。
【0017】
流動化開始点での流動層もしくは膨張した流動層の存在の程度は、触媒層の膨張係数、つまり流動化した触媒層により収容される体積対流動なしの触媒層の体積の比である。
【0018】
流動化開始点での固定層の場合に、この係数は≦1.15であり、有利に<1.10であり、特に有利に<1.05である。触媒粒子により満たされた反応区域の体積は反応媒体による流動の間に、流動なしの状態の場合よりも、つまり最大で15%、有利に最大で10%、特に最大で5%大きくなる。
【0019】
本発明による方法に適した、膨張した流動層の形成下での運転点は、空塔速度で前記の流動化開始点を明らかに上回る。この運転点は、1.01〜4、有利に1.05〜2、特に有利に1.1〜1.5の膨張係数を生じる(流動化された触媒層により収容された体積対流動なしでの触媒層の体積の比)。触媒粒子により満たされた反応区域の体積は反応媒体による流動の間に、流動なしの状態の場合よりも、つまり1〜300%、有利に5〜100%、特に有利に10〜50%大きくなる。
【0020】
この本発明による方法は、レッペ(Reppe)によるエチニル化のために適した銅アセチリド触媒を用いて実施される。これは、例えばDE-A 1 072 985、DE-A 1 075 593、CH-B 220 204、GB-B 784 638、FR-B 1 144 265、DE-B 726 714、DE-B 740 514、DE-B 1 013 279及びGB-B 805861に記載されている。
【0021】
前記触媒は粉末の形で又は有利に成形体の形でエチニル化反応中に導入することができる。粉末状の原料からの成形体の製造は、当業者に公知の方法により、特にHandbook of Heterogenous Catalysis, Vol. 1, VCH Verlagsgesellschaft Weinheim, 1997, p. 414-417記載されているように、例えばタブレット化、アグロメレーション又は押出により行うことができる。この成形の際に、当業者に公知の助剤、例えば結合剤、離型剤及び/又は溶剤を使用することができる。前記触媒は重合のために、円柱状、ストランド状、リブ付きストランド状、球状、リング状又は破片状の形で使用される。球形、球形に似た成形体又は破片を使用するのが有利である。
【0022】
前記触媒の粒子径は、反応条件及び触媒タイプに応じて広範囲に可変である。通常では、本発明による流動層法のための個々の触媒粒子は、0.2〜3mm、有利に0.8〜1.5mmのサイズである。
【0023】
このエチニル化は一般に70〜120℃、有利に80〜90℃の温度で、かつ反応室、特にエチニル化反応器中で1bar〜15bar、有利に3〜7barの運転圧力で実施される。本発明の範囲内で連続する気相とは、個々の不連続の気泡又は小気泡を越えて観察される反応器空間内でのガス空間であると解釈される。
【0024】
アセチレンが溶解して存在するホルムアルデヒド水溶液に、本発明による方法の場合に、水性ホルムアルデヒドと混合可能なアセチレンに対する有機溶剤が添加される。前記溶液中のホルムアルデヒドの濃度は、全体の混合物に対して有利に1〜40質量%、殊に10〜30質量%である。アセチレンに対する有機溶剤として、反応条件下で、溶剤1立方メートル当たりガス状のアセチレンを2cmより多く吸収するような溶剤である。従って、環状エーテル、例えばテトラヒドロフラン、ジメチルテトラヒドロフラン、ヘキサメチレンオキシド又はジオキサン、さらにラクトン、例えばブチロラクトン、並びに二置換カルボン酸アミド、例えばN−メチルピロリドン及びジメチルホルムアミド、さらにアセタール、例えばホルムアルデヒドジメチルアセタール及びアルコール、例えばメタノールが適している。溶剤としてテトラヒドロフランが特に有利に使用される。
【0025】
ホルムアルデヒド水溶液中での有機溶剤対ホルムアルデヒドの重量比は、この場合0.1:1〜20:1、有利に1.5:1〜4:1である。
【0026】
本発明による反応は、液相中で、有機溶剤を含有するホルムアルデヒド水溶液中に溶解したアセチレンを用いて行われ、前記アセチレンはこの形で反応器空間に、つまりエチニル化反応器に供給され、その際、有機溶剤を含有するホルムアルデヒド水溶液中でのアセチレンの分圧は反応器空間中の運転圧力の0.1〜95%である。
【0027】
有機溶剤を含む反応させるべきホルムアルデヒド水溶液は、反応空間、例えばエチニル化反応器に導入される前にアセチレンを添加され、その際、このアセチレン量は、例えばそれぞれの飽和濃度の0.1〜1倍であることができる。反応すべき溶液として、この場合に、連続的運転法の場合に、なおホルムアルデヒドを含有するが、アセチレンを貧有する返送された液体であるとも解釈される。
【0028】
アセチレンを、有機溶剤を含有するホルムアルデヒド水溶液と混合することは、適当な触媒不含の反応容器の前空間で又は有利に適当な混合ノズル装置中で又は有利に別個の気液接触装置中で、例えば飽和器として用いられる場合により充填物、例えば充填体を有する反応管中で実施される。
【0029】
アセチレンで飽和された、有機溶剤を含有するホルムアルデヒド水溶液のpH値は、1〜5質量%の炭酸水素ナトリウム溶液の添加により3〜8、有利に6〜7に調節される。このpH調節は、しかしながら例えばソーダ溶液又は苛性ソーダ液を用いて行うこともできる。
【0030】
有利に、この方法は、次に詳説する図面に記載された装置中で実施することができる。
【0031】
テトラヒドロフランを含有するホルムアルデヒド水溶液(A)を、供給ポンプ(1)を介して、充填物、例えば充填体を備えた、飽和器として用いられる反応管(2)の上部中に供給する。場合により、ホルムアルデヒド溶液をエチニル化からの反応搬出物と混合することができる。図示されていない圧縮機を介して、アセチレンは一般に4〜6barの圧力下で飽和器として用いられる反応管(2)中へ下から供給され、その際、飽和器中では3〜4barの所定の圧力及び70〜85℃の温度が維持される。供給ポンプ(3)を介して1〜5質量%の炭酸水素ナトリウム溶液を供給して、飽和器(2)から導管(4)を介してポンプ(5)を用いて搬出される有機溶剤を含有する飽和ホルムアルデヒド水溶液のpH値をpH6〜7に調節する。
【0032】
圧力調節装置(5)は、この場合にアセチレン供給管を介して装置圧力を調節する。少量のアセチレンは飽和器の頂部で量を調節されて放圧され、かつ排ガスとして失われる。この排ガスは原則として、アセチレンを用いた相応する高濃度化及び二酸化炭素の除去の後に、アセチレン供給管に再び戻される。この投入混合物は、飽和器(2)の底部からポンプ(5)を用いてエチニル化反応器(6)中に圧入される。エチニル化反応器(6)中で、1.5mmの破片(7)の形の銅アセチリド触媒は、相応する量のポンプ循環された液体(循環量)により反応器中で浮遊状態に維持される。この循環量は、有利にxの一定の膨張が生じるように調節される。この反応はほぼ等温で進行する、それというのも生じる反応熱は反応器壁を介して反応器の二重ジャケット内に存在する油に引き渡されるためである。
【0033】
エチニル化反応器の反応器頂部では、飽和器(2)の底部を介して調節される搬出物の放圧が行われ、前記搬出物は集められ、分析される。
【0034】
本発明の方法により製造されたプロパルギルアルコールは、有害生物駆除剤及び、医薬品合成において使用される2−アミノピリミジンの製造のための出発物質である。
【0035】
実施例
実施例1〜6
直径40mm及び高さ2000mmの円筒状の反応器に、1300mmの充填高さに応じて触媒1.5Lを充填した。前記触媒は平均粒子径1.5mmを有し、かつ担持材料としての二酸化ケイ素に対して、銅14質量%を銅アセチリドの形で、酸化ビスマス4質量%(酸化ビスマスとして計算する)を含有する。運転圧力は3.3barであった。前記反応器は、アセチレン分圧3barで負荷されたホルムアルデヒド溶液(表1によりテトラヒドロフランを添加されている)を下方から上方に向かって貫流させた。この場合、投入混合物の供給を調節して、触媒を浮遊状態に維持した。供給溶液のpH値は6〜6.5であった。流動層の膨張は325mmであった。その他の反応条件は表1に記載されていて、搬出物の組成、空時収率及び搬出物中のプロピノール対1,4−ブチンジオールの比は表2に記載されている。
【0036】
比較例1
この比較例は本発明による実施例1と同様に実施するが、供給量313ml/hはアセチレン分圧3barで負荷された30質量%のホルムアルデヒド溶液からなり、前記ホルムアルデヒド溶液はテトラヒドロフランを有していなかった。他の試験条件は表1に記載されていて、試験結果は表2に記載されている。
【0037】
表1
【0038】
【表1】

【0039】
表2
【0040】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明による方法を実施するための装置を示す略図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アセチレンを含有するホルムアルデヒド水溶液を、銅アセチリドを有する触媒で、1〜15barの運転圧力で70〜120℃で、連続した気相を形成させずに反応させることによるプロパルギルアルコールの製造方法において、前記ホルムアルデヒド水溶液がアセチレンに対する有機溶剤を含有し、かつ触媒を流動層の形で配置することを特徴とする、プロパルギルアルコールの製造方法。
【請求項2】
流動層の膨張係数は≦1.15であることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
運転圧力が3〜7barであることを特徴とする、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
ホルムアルデヒド水溶液のpH値を3〜8に調節することを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
ホルムアルデヒド水溶液中の有機溶剤対ホルムアルデヒドの質量比が、0.1:1〜20:1であることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
有機溶剤がテトラヒドロフランであることを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2007−533597(P2007−533597A)
【公表日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−520708(P2006−520708)
【出願日】平成16年7月3日(2004.7.3)
【国際出願番号】PCT/EP2004/007269
【国際公開番号】WO2005/019144
【国際公開日】平成17年3月3日(2005.3.3)
【出願人】(595123069)ビーエーエスエフ アクチェンゲゼルシャフト (847)
【氏名又は名称原語表記】BASF Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】