プロリン水酸化反応によるHIF−1ペプチドとVBCタンパク質との相互作用を蛍光偏光度を利用して定量的に分析する方法
【課題】蛍光偏光度を利用してHIF−1ペプチドとVBCタンパク質の相互作用を分析する方法を提供する。
【解決手段】1)蛍光物質が付着したハイドロキシプロリン(hydroxyproline)基を含むHIF−1ペプチドに蛍光物質を付着して蛍光プローブを製造する工程;2)前記蛍光プローブをVBCタンパク質と反応させる工程;3)前記反応物の蛍光偏光度を測定した後、蛍光プローブ自体の蛍光偏光度と比べて蛍光偏光度の変化を観察することによりHIF−1−VBCタンパク質結合体の形成を定量的に分析する方法;前記方法を利用してHIF−1ペプチドとVBCタンパク質の結合を妨害する物質を検索する方法;及び前記方法を利用してプロリルハイドロキシラーゼ(prolyl hydroxylase)の活性を分析する方法。該方法は、結合の有無による蛍光偏光度の変化で、HIF−1ペプチドとVBCタンパク質の相互作用を簡単に分析することができ、ウェルプレートを利用した超高速検索に効果的に適用できる。
【解決手段】1)蛍光物質が付着したハイドロキシプロリン(hydroxyproline)基を含むHIF−1ペプチドに蛍光物質を付着して蛍光プローブを製造する工程;2)前記蛍光プローブをVBCタンパク質と反応させる工程;3)前記反応物の蛍光偏光度を測定した後、蛍光プローブ自体の蛍光偏光度と比べて蛍光偏光度の変化を観察することによりHIF−1−VBCタンパク質結合体の形成を定量的に分析する方法;前記方法を利用してHIF−1ペプチドとVBCタンパク質の結合を妨害する物質を検索する方法;及び前記方法を利用してプロリルハイドロキシラーゼ(prolyl hydroxylase)の活性を分析する方法。該方法は、結合の有無による蛍光偏光度の変化で、HIF−1ペプチドとVBCタンパク質の相互作用を簡単に分析することができ、ウェルプレートを利用した超高速検索に効果的に適用できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイドロキシプロリンを含むHIF−1ペプチドに蛍光物質を付着したプローブとVBCタンパク質との相互作用を蛍光偏光度を利用して定量的に分析する方法および該方法を利用してこれら間の相互作用を阻害する阻害剤を検索する方法、並びに該方法を利用してプロリルハイドロキシラーゼの活性を分析する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
HIF−1(hypoxia inducible factor-1;低酸素誘導因子)は、エネルギー代謝、血管運動制御、新血管形成及びアポトーシスに関与する遺伝子の発現調節をはじめ低酸素状態に対する多様な細胞反応において重要な役目をするタンパク質である。特に、HIF−1αは、正常酸素状態ではプロテオゾーム(proteosome)により分解されるが、低酸素状態では安定化される。このような調節機序は、pVHL(von Hippel-Lindau tumour suppressor)タンパク質とHIF−1αとの相互作用によって起きる。HIF−1αとpVHL間の相互作用を抑制すれば、低酸素状態で細胞周期の進行が促進されたり血管形成の亢進または細胞生存機能が亢進されたりするため、冠状動脈不全、脳不全及び血管不全のような虚血状態の治療に好ましい(特許文献1)。一方、これら間の相互作用を促進させる場合には正常酸素状態で血管形成の抑制を通じて癌組職の成長を抑制することができ、癌治療研究に非常に有用である(非特許文献1)。
【0003】
VHLタンパク質とヒトHIF−1αの結合は、HIF−1αのアミノ酸配列の中で402番目または564番目に位置したハイドロキシプロリン基に依存する。プロリルハイドロキシラーゼという酵素によってHIF−1αタンパク質の特定プロリン基が水酸化されてVHLタンパク質との相互作用が調節される(非特許文献2)。特に、プロリルハイドロキシラーゼ−2酵素は、酸素、鉄及び補助因子(cofactor)である2−オキソグルタレート(2-oxoglutarate)の存在下で反応が進行される。ここで、酵素自体が酸化されることにより早い速度で非活性化されることを防ぐためには、アスコルベート(ascorbate)が必要とされる(非特許文献3)。このような水酸化反応を通じて転写とタンパク質加水分解(proteolytic destruction)を調節するメカニズムを形成することにより、さまざまな病的機序研究に役立つ。
【0004】
VHLタンパク質は、約100個のアミノ酸を有するβ領域(β domain)と約35個のアミノ酸からなるα領域(α domain)で構成されている。この中でβ領域は、Elongin Cタンパク質と結合してVHL−Elongin C複合体を形成し、該複合体のElongin C部分にElongin Bタンパク質が結合することによりVBCタンパク質を形成する。前記VBCタンパク質の残りのα領域にHIF−1αが結合する。ここで、VHLタンパク質の115番目のHis基、111番目のSer基とHIF−1αの564番目の水酸化−Pro基との水素結合が重要な役目を担当する(非特許文献4)。
【0005】
このようなVHLタンパク質とHIF−1αとの相互作用を観察するために多くの生化学的または免疫学的方法が使われている。まず、2種のタンパク質間の相互作用を研究するために広く使われているツーハイブリッド分析法(two-hybrid assay)を利用する場合、酵母GAL4転写因子のDNA結合ドメイン(DNA binding domain, DBD)はVHLタンパク質に、転写活性化ドメイン(transcriptional activation domain, TAD)はHIF−1αに、各々融合させて二つのタンパク質が結合してはじめて転写を活性化させることができる特徴を利用する。ここで、GFP(green fluorescent protein)、ルシフェラーゼ(luciferase)、β−ガラクトシダーゼ(β-galactosidase)等のリポーター(reporter)遺伝子を利用すれば、前記二つのタンパク質の結合による転写活性を容易に追跡することができる。すなわち、VHLタンパク質とHIF−1αタンパク質が結合すれば、リポーター遺伝子が活性化され、二つのタンパク質間の相互作用の有無を観察することができる(特許文献1)。
【0006】
その他の方法としては、VHLタンパク質とHIF−1αタンパク質中の一方のタンパク質は検出可能な物質で標識させて、残りのタンパク質は固体担体に固定させて二つのタンパク質の相互作用を測定する方法がある。検出可能な標識としては、組換えによって生産されるタンパク質に導入することができる35S−メチオニン(35S-methionine)、HA標識(tag)、GST標識、ヒスチジン標識等がある(特許文献1)。この中でHIF−1αにGSTを標識させてVHLタンパク質に35Sを標識させて電気泳動(SDS-PAGE)と磁気放射法(autoradiography)を利用して相互作用を観察する方法が普遍的に利用されている(非特許文献5)。しかし、この方法は大量の試料を必要とし過程が複雑で実験所要時間が長くなり放射性アイソトープを使わなければならない等の短所がある。
【0007】
これ以外にもVHLタンパク質と特定の部分のHIF−1αを一緒に免疫沈降(coimunoprecipitation)させる方法が、VHLタンパク質と相互作用するHIF−1αの部分をスクリーニングするのに利用されている(非特許文献6)。また、標的化合物に放射能を標識してタンパク質が結合する時にシンチレーション(scintillation)が起きることを感知するシンチレーション近接分析法(scintillation proximity assay)も利用されている(特許文献1)。
【0008】
しかし、上記のような生化学的または免疫学的方法や放射能を標識する方法は、過程が複雑で費用がたくさんかかる短所があるため、VHLタンパク質とHIF−1αの結合に係わる特性を観察するためのより簡単な分析法の開発が求められている。このような研究の一環として放射線元素を使わないで短時間にHIFとVBCタンパク質間の結合と水酸化反応の特性を観察することができる96−ウェルプレートを利用した分析法が開発された(非特許文献7)。前記方法は、ビオチン(biotin)が標識されたHIF−1α(biotinyl-HIF-1α)とVBC複合体を反応させた後、アビジン(avidin)がコーティングされたプレートに入れた後、波長450nmでOD値を測定して定量する方法である。この方法は、数十ナノモル水準の濃度範囲でもHIFの水酸化反応を観察して簡単に測定できるという長所があるが、高価なアビジンがコーティングされたプレートを必ず使わなければならないという問題点がある。
【0009】
以上のことに鑑みて、本発明者等は、HIF−1ペプチドとVBCタンパク質の相互作用を容易に定量的に分析することができる方法を開発しようと研究努力を重ねた結果、ハイドロキシプロリンを含むHIF−1ペプチドに蛍光物質を付着したプローブとVBCタンパク質の相互作用の有無を蛍光偏光度の変化を利用して定量的に分析する方法を開発した。本発明の分析方法は、結合体を別に分離する必要がないため、既存の方法に比べて過程が単純でウェルプレートを利用した自動化が可能であり、分析費用を大きく節減することができるので、HIF−1−VBCタンパク質の結合体形成に寄与するペプチド断片を分析したり、それらの間の相互作用を阻害する物質を検索したり、HIF−1を水酸化させるプロリンハイドロキシラーゼの活性を分析したりするのに非常に有用に適用することができる。
【0010】
【特許文献1】米国特許番号第6,787,326号B1
【非特許文献1】Amato G.等, Nature Reviews 2003年, 第2巻, 1-9頁
【非特許文献2】Masson N. and Ratcliffe P.J., Journal of Cell Science 2003年, 第116巻, 041-3049頁
【非特許文献3】Ivan M.等, PNAS 2002年, 第99(21)巻, 3459-13464頁
【非特許文献4】Min J.H. et al., Science 2002年, 第296巻, 886-1889頁
【非特許文献5】Yu F.等, PNAS 2001年, 第98(17)巻, 630-9635頁
【非特許文献6】Yu F.等, Cancer Research 2001年, 第61巻, 4136-4142頁
【非特許文献7】F. Oehme等, Analytical Biochemistry 2004年, 第330巻, 74-80頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、プロリン水酸化反応によるHIF−1ペプチドとVBCタンパク質との相互作用を簡単に定量的に分析することができる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するために、本発明は、光偏光度を利用してプロリン水酸化反応の有無によってHIF−1ペプチドとVBCタンパク質の相互作用を定量的に分析する方法を提供する。
【0013】
また、本発明は前記分析方法を利用してHIF−1ペプチドとVBCタンパク質の結合を妨害する物質を検索する方法を提供する。
【0014】
同時に、本発明は前記分析方法を利用してプロリルハイドロキシラーゼ(prolyl hydroxylase)の活性を分析する方法を提供する。
【0015】
以下、本発明を詳しく説明する。
本発明は、ハイドロキシプロリン基(hydroxyproline)を含むHIF−1ペプチドとVBCタンパク質の相互作用を蛍光偏光度を利用して定量的に分析する方法を提供する。
【0016】
本発明による好ましい分析方法は、
1)ハイドロキシプロリン基を含むHIF−1ペプチドに蛍光物質を付着して、光プローブを製造する工程;
2)前記蛍光プローブをVBCタンパク質と反応させる工程;及び
3)前記反応物の蛍光偏光度を測定した後、蛍光プローブ自体の蛍光偏光度と比べて蛍光偏光度の変化を観察する工程を含む。
【0017】
工程1)で蛍光プローブは、公知されたHIF−1タンパク質のアミノ酸配列の中でVBCタンパク質に結合すると知られている部位を対象に特定ペプチド配列を選定して合成した後、合成されたペプチドのN−末端にアミノカプロン酸リンカー(aminocaproic acid linker)を付けてその終りに蛍光物質を標識させて準備する。このように準備したペプチド配列の中で特定プロリン残基を水和させて蛍光プローブがハイドロキシプロリン基を含むようにする。
【0018】
本発明でペプチドに標識することができる蛍光物質としては、フルオレシンカルボキシル酸(FCA)、フルオレシンイソチオシアネート(FITC)、フルオレシンチオOウレア(FTH)、7−アセトキシクマリン−3−イル、フルオレシン−5−イル、フルオレシン−6−イル、2’,7’−ジクロロフルオレシン−5−イル、2’,7’−ジクロロフルオレシン−6−イル、ジハイドロテトラメチルロダミン−4−イル、テトラメチルロダミン−5−イル、テトラメチルロダミン−6−イル、4,4−ジフルオロ−5,7−ジメチル−4−ボラ−3a,4a−ジアザ−s−インダセン−3−エチル及び 4,4−ジフルオロ−5,7−ジフェニル−4−ボラ−3a,4a−ジアザ−s−インダセン−3−エチルからなる群から選択して使用することができる。特定プロリン残基の水酸化は、水酸化されたプロリンアミノ酸の添加(Merck社のHyPアミノ酸を合成する時に添加して使用)により成される。
【0019】
本発明の好ましい実施例では、GenBank登載番号:(U22431)のHIF−1αアミノ酸配列の中で556乃至574a.a.に該当する部位と390乃至417a.a.に該当する部位を選定した後、各々のアミノ酸配列を有するペプチドを合成する。合成されたペプチドのN−末端にアミノカプロン酸リンカーを連結させて、連結されたリンカーの反対側にFITCを標識して配列番号:1で記載される20個のアミノ酸を有するF−P564及び配列番号:2で記載される28個のアミノ酸を有するF−P402ペプチドを製造する。前記F−P564及びF−P402ペプチドの564番目のプロリン(配列番号:1から12番目アミノ酸)と402番目プロリン(配列番号:2から16番目アミノ酸)を水酸化されたプロリンアミノ酸の添加により水和させて配列番号:3及び4で記載されるF−HyP564及びF−HyP402ペプチドを合成する。
【0020】
工程2)は、工程1)で準備した蛍光プローブをVBCタンパク質と反応させる工程で、VBCタンパク質は通常的な遺伝子組換え技術により製造することができる。
【0021】
一般的に、VBCタンパク質は、まずVHLタンパク質のβ領域にElongin Cタンパク質を結合させてVHL−Elongin C複合体を形成し、前記複合体のElongin C部分にElongin Bタンパク質を結合させて形成される。VHL、Elongin C及びElongin B遺伝子は、各々GenBankに登載番号(NM000551)、(NM007108)及び(NM005648)で公知されている。
【0022】
本発明の好ましい実施例では、VHLタンパク質を暗号化する核酸配列を含む発現ベクター、Elongin Cタンパク質を暗号化する核酸配列を含む発現ベクター、及びElongin Bタンパク質を暗号化する核酸配列を含む発現ベクターを製造した後、これらを適当な宿主細胞に同時に形質転換させて宿主細胞内で、VHL、Elongin C及びElongin Bタンパク質が一つに連結された複合体形態で発現させて、宿主細胞からこれを分離する。宿主細胞で発現されたVBCタンパク質は、培養された細胞または培養溶液から抽出して分離、精製することができる。VBCタンパク質の分離、精製は、多くの公知の方法によって実施することができ、透析、限外ろ過、ゲルろ過及びSDS−PAGEのような分子量の差を利用した方法、イオン交換カラムクロマトグラフィーのような電荷の差を利用した方法、逆相高性能液体クロマトグラフィーのように親水性の差を利用した方法を使用することができる。
【0023】
上記のように製造された蛍光プローブが付着したペプチドとVBCタンパク質を25℃の適当な緩衝溶液で1:1から1:14の割合で混合してHIF−1ペプチドとVBCタンパク質間の相互作用を誘導する。
【0024】
工程3)では、蛍光偏光分析機を利用して反応が完了した工程2)の反応物の蛍光偏光度を測定した後、測定された反応物の蛍光偏光度の値を蛍光プローブ自体の蛍光偏光度の値と比べてその変化を観察する。HIF−1ペプチドに蛍光物質が付着した蛍光プローブは、相対的に小さな値の蛍光偏光度を有するが、この蛍光プローブが分子量が大きいVBCタンパク質と結合して結合体を形成するようになれば、蛍光偏光度が顕著に増加するようになる。したがって、蛍光プローブとVBCタンパク質間の反応前後の蛍光偏光度値の変化を観察して、蛍光偏光度に何も変化がない場合にはこれら間の相互作用が起きていないこと示し、蛍光偏光度が顕著に増加した場合にはこれら間の相互作用によって結合体が形成されたと判断することができる。
【0025】
前記方法によって工程1)で製造されたハイドロキシプロリン基を含むF−HyP564及びF−HyP402蛍光プローブとハイドロキシプロリン基を含まないF−P564及びF−P402蛍光プローブを対象にHIF−1ペプチドとVBCタンパク質間の結合有無と特性を分析した。
【0026】
まず、プロリン水酸化反応によってHIF−1ペプチドとVBCタンパク質の結合様相が変わるかどうかを調べるために、F−P564及びF−HyP564ペプチドを各々VBCタンパク質と25℃で反応させた後、蛍光偏光度を測定した結果、F−P564ペプチドとVBCタンパク質の反応物はF−P564ペプチド自体の蛍光偏光度と類似の値を示した一方、F−HyP564ペプチドとVBCタンパク質の反応物はF−P564ペプチド自体より著しく増加した蛍光偏光度を示し、ハイドロキシプロリン基を有するHIF−1ペプチドがVBCタンパク質と結合してこれらの結合を蛍光偏光度の変化で容易に分析することができることを確認した(図1参照)。
【0027】
また、VBCタンパク質の濃度を増加させながらF−HyP564ペプチドと反応させた結果、溶液上のVBCタンパク質の濃度が増加するにつれて蛍光偏光度が増加して(図2参照)F−HyP564ペプチドがVBCタンパク質の濃度に依存的様相で相互作用することが分かった。ここで、F−HyP564ペプチドとVBCタンパク質間の結合定数は、138.1nMだった(図3参照)。
【0028】
他のプロリン水酸化反応部位として知られている402番目プロリンに対するF−HyP402ペプチド蛍光プローブに対しても上記と同様に実験した結果、VBCタンパク質の濃度が増加するにつれてF−HyP402ペプチドとVBCタンパク質反応物の蛍光偏光度が増加することが示され(図4参照)、VBCタンパク質の濃度に依存的にF−HyP402ペプチド−VBCタンパク質の結合体が増加することが確認された。ここで、結合定数は、337.79nMと示され(図5参照)564番目プロリンの水酸化反応が402番目プロリンの水酸化反応よりさらに強いVBCタンパク質との結合を誘発することを分かった。
【0029】
前記結果から本発明の分析方法が、ハイドロキシプロリン基を含むHIF−1ペプチドとVBCタンパク質間の相互作用による結合体形成有無を、結合体を別に分離することなしに蛍光偏光度を利用して簡単に定量的に分析することができることを確認した。
【0030】
また、本発明は、前記分析方法を利用してハイドロキシプロリン基を含むHIF−1ペプチドとVBCタンパク質間の相互作用を阻害する物質を検索する方法を提供する。
【0031】
前記検索方法は、ハイドロキシプロリン基を含むHIF−1ペプチド蛍光プローブとVBCタンパク質の反応溶液に阻害剤候補物質を添加して反応させた後、反応溶液の蛍光偏光度を測定して阻害剤候補物質の添加有無による蛍光偏光度の変化を観察する。ここで、阻害剤候補物質の添加によりハイドロキシプロリン基を含むHIF−1ペプチドとVBCタンパク質の反応物の蛍光偏光度が減少すれば、その物質はHIF−1ペプチドとお互いに競争的にVBCタンパク質に作用して結合体を形成する阻害剤であることが分かる。
【0032】
本発明の好ましい実施例では、このような競争反応を利用してF−HyP564ペプチド−VBCタンパク質の結合体形成を阻害する物質を検索する可能性をテストするために、F−HyP564ペプチドとVBCタンパク質の反応液にHyP564ペプチドの濃度を増加させながら反応させた後、蛍光偏光度を測定した結果、一定量のVBCタンパク質に対してF−HyP564ペプチドとHyP564ペプチドがお互いに競争的に作用して、HyP564ペプチド−VBCタンパク質の結合体形成が増加するにつれてF−HyP564ペプチド−VBCタンパク質の結合体形成は阻害されて蛍光偏光度が減少することを確認した(図6及び4b参照)。したがって、本発明による蛍光偏光度分析方法にこのような競争反応を適用すれば、HIF−1ペプチドとVBCタンパク質との結合を抑制する物質を容易に検索することができる。
【0033】
同時に、本発明は前記蛍光偏光度を利用した分析方法を利用してプロリルハイドロキシラーゼ(prolyl hydroxylase)の活性を分析する方法を提供する。
【0034】
プロリルハイドロキシラーゼは、HIF−1の特定プロリン基を水酸化させる酵素で、前記方法はハイドロキシプロリン基を含まないHIF−1ペプチドにこの酵素を処理すれば、特定プロリン基が水酸化されてVBCタンパク質と結合することができるのかどうかを分析する方法である。
【0035】
ハイドロキシプロリン基を含まないF−P564ペプチドにプロリルハイドロキシラーゼを処理した後、酵素反応物の質量を分析してF−P564及びF−HyP564ペプチドと比較した結果、プロリルハイドロキシラーゼの作用によりF−P564の564番目プロリン基が水酸化されたことを確認した(図10参照)。また、蛍光偏光度分析方法で酵素反応物のVBCタンパク質結合体に対する反応有無を確認するために、F−P564、F−HyP564ペプチド及び酵素反応物各々をVBCタンパク質と反応させた後、蛍光偏光度を測定した結果、酵素反応物の蛍光偏光度がF−HyP564ペプチドの場合と同じように増加することを確認し(図11参照)、プロリルハイドロキシラーゼの活性によりF−P564ペプチドがF−HyP564ペプチドに転換されてVBCタンパク質と結合体を形成することができ、このような相互作用を 本発明の分析方法によって蛍光偏光度の変化を観察することによって容易に定量的に分析することができることを確認した。
【0036】
本発明(1)は、
1)ハイドロキシプロリン基(hydroxyproline)を含むHIF−1ペプチドに蛍光物質を付着して蛍光プローブを製造する工程;
2)前記蛍光プローブをVBCタンパク質と反応させる工程;及び
3)前記反応物の蛍光偏光度を測定した後、蛍光プローブ自体の蛍光偏光度と比べて蛍光偏光度の変化を観察する工程を含む、プロリン水酸化反応によるHIF−1ペプチドとVBCタンパク質の相互作用を蛍光偏光度を利用して定量的に分析する方法である。
本発明(2)は、工程1)で蛍光プローブが、HIF−1タンパク質のアミノ酸配列(GenBank 登載番号:U22431)中でVBCタンパク質に結合することが知られている部位を対象に特定ペプチド配列を選定して合成し、合成されたペプチドのN−末端にアミノカプロン酸リンカー(aminocaproic acid linker)を付けて、その終りに蛍光物質を標識した後、特定プロリン残基を水和させてハイドロキシプロリン基を含むように製造することを特徴とする本発明(1)の方法である。
本発明(3)は、ハイドロキシプロリン基を含むHIF−1ペプチドが、配列番号:3または4で記載されるアミノ酸配列を有することを特徴とする本発明(1)の方法である。
本発明(4)は、蛍光物質が、フルオレシンカルボキシル酸(FCA)、フルオレシンイソチオシアネート(FITC)、フルオレシンチオOウレア(FTH)、7−アセトキシクマリン−3−イル、フルオレシン−5−イル、フルオレシン−6−イル、2’,7’−ジクロロフルオレシン−5−イル、2’,7’−ジクロロフルオレシン−6−イル、ジハイドロテトラメチルロダミン−4−イル、テトラメチルロダミン−5−イル、テトラメチルロダミン−6−イル、4,4−ジフルオロ−5,7−ジメチル−4−ボラ−3a,4a−ジアザ−s−インダセン−3−エチル及び4,4−ジフルオロ−5,7−ジフェニル−4−ボラ−3a,4a−ジアザ−s−インダセン−3−エチルからなる群から選択されることを特徴とする本発明(1)の方法である。
本発明(5)は、工程2)で、蛍光物質が付着したHIF−1ペプチドとVBCタンパク質を25℃の緩衝溶液で1:1から1:14の割合で混合して即時に測定可能であることを特徴とする本発明(1)の方法である。
本発明(6)は、工程3)で測定された工程2)反応物の蛍光偏光度が、蛍光プローブの蛍光偏光度より増加した場合には、蛍光プローブとVBCタンパク質が結合体を形成したと判断することを特徴とする本発明(1)の方法である。
本発明(7)は、本発明(1)の方法を利用して、ハイドロキシプロリン基を含むHIF−1ペプチドとVBCタンパク質間の相互作用を阻害する物質を検索する方法である。
本発明(8)は、
1)蛍光物質が結合されたハイドロキシプロリン基を含むHIF−1ペプチドとVBCタンパク質の反応溶液に阻害剤候補物質を添加して反応させる工程;
2)前記反応溶液の蛍光偏光度を測定して阻害剤候補物質の添加可否による蛍光偏光度の変化を観察する工程;及び
3)阻害剤候補物質の添加によりハイドロキシプロリン基を含むHIF−1ペプチドとVBCタンパク質の反応物の蛍光偏光度が減少した場合に、前記候補物質を阻害剤であると判定する工程を含むことを特徴とする本発明(7)の方法である。
本発明(9)は、本発明(1)の方法を利用して、プロリルハイドロキシラーゼ(prolyl hydroxylase)の活性を分析する方法である。
本発明(10)は、
1)ハイドロキシプロリン基を含まないHIF−1ペプチドにプロリルハイドロキシラーゼを処理する工程;
2)前記酵素反応物をVBCタンパク質と反応させた後、蛍光偏光度を測定する工程;及び
3)工程2)で測定された蛍光偏光度をハイドロキシプロリン基を含むHIF−1ペプチドとVBCタンパク質との結合体の蛍光偏光度と比べる工程を含む本発明(9)の方法である。
【発明の効果】
【0037】
したがって、本発明の蛍光偏光度を利用してHIF−1ペプチドとVBCタンパク質の相互作用を分析する方法を利用すれば、ハイドロキシプロリンを持ったHIF−1ペプチドとVBCタンパク質の結合を定量的に評価することができ、HIF−1−VBCタンパク質の結合を阻害する物質を容易に検索できるだけではなく、プロリルハイドロキシラーゼの活性を簡便に測定できる。また、前記方法は、HIF−1ペプチドとVBCタンパク質の間の結合体を別に分離する必要がないので工程が簡単でウェルプレート上に適用して超高速検索に利用することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下、本発明を実施例によって詳しく説明する。
但し、下記の実施例は本発明を例示するだけのものであり、本発明の内容が下記の実施例によって限定されるものではない。
【実施例1】
【0039】
VBCタンパク質の製造
ヒトフォン・ヒッペル・リンダウ(Human von Hippel-Lindau)遺伝子断片(GenBank登載番号:NM000551のアミノ酸配列中54乃至213a.a.に該当)とヒトElongin B断片(GenBank登載番号:NM007108のアミノ酸配列中1乃至118a.a.に該当)が、pGEX−4T−1の変形されたベクターに挿入されたプラスミド(pGEX4T-VHL-EB)とヒトElongin C断片(GenBank登載番号:NM005648のアミノ酸配列中17乃至112a.a.に該当)が、pET29bのベクターに挿入されたプラスミド(pDEV-EC)(Novagen)を大膓菌BL21(DE3)(Novagen)に同時に形質転換して大量発現させた。
【0040】
形質転換された細胞を37℃で50μg/mlのアンピシリン(ampicillin)を含んだLB培地に接種して吸光度が0.8乃至0.9になるまで培養した後、0.5mM IPTG(イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド)で発現を誘導して、18℃で15時間培養した。10mMリン酸塩緩衝溶液(PBS, pH 7.4, 110mM NaCl及び1mM DTT [dithiotheitol])に、PMSF(フェニルメチルスルホニルフルオライド)とライソザイム(lysozyme)を最終濃度が各々0.2mM及び1mg/mlになるように添加した後、遠心分離により回収された細胞を前記緩衝溶液に懸濁して4℃で超音波処理で破壊した。細胞抽出物に2%トリトンX−100(Triton X-100)を添加してよく攪拌後、10分間氷に置いてから13,000rpmで30分間遠心分離した。それから分離した上層液に1mM DTTを添加してグルタチオン−セパロース(glutathione-sepharose)4B樹脂(Bio-Rad)と混合した後、4℃で2時間撹拌した。反応した樹脂混合液に10倍容積のリン酸塩緩衝溶液を添加して、2100rpmで5分間遠心分離して上層液を除去した。上記過程を3回繰り返して反応しない上層液を除去した。
【0041】
バイオスピンディスポーザブルクロマトグラフィーカラム(Bio-Spin Disposable Chromatography Columns, Bio-Rad)に反応した樹脂混合物を入れて、5mlのPBSでろ過させて、2mlの1M NaCl溶液でろ過させることにより不必要な反応物を除去した。前記カラムを10mMグルタチオン(GSH)で溶離させてGST−VBCタンパク質を回収した。回収されたタンパク質は、SDS−PAGEで確認し、BCAタンパク質分析法(Pierce)で定量した。
【実施例2】
【0042】
蛍光標識されたHIF−1ペプチドとVBCタンパク質の結合力分析
<2−1> 蛍光標識されたHIF−1ペプチドの製造
HIF−1α(hypoxia-inducible factor)の蛍光プローブを製作するために、HIF−1αタンパク質の中でVBCタンパク質と結合することが知られている部分(非特許文献4)のアミノ酸配列中56乃至574番目アミノ酸部位と390乃至417番目アミノ酸部位を対象配列に選定して、そのN−末端にアミノカプロン酸リンカー(aminocaproic acid linker)を付けてその終りにFITC(fluorescein isothiocyanate)が標識された形態にペプチドを設計した後、合成した(Anygen, Korea)。このように合成した蛍光プローブを各々F−P564及びF−P402ペプチドと命名し、それらは配列番号:1及び2で記載されるアミノ酸配列を有する。また、前記F−P564及びF−P402ペプチド各々の564番目プロリン(配列番号:1から12番目のアミノ酸)と402番目プロリン(配列番号:2から16番目アミノ酸)が水和されたF−HyP564及びF−HyP402ペプチドを合成した(Anygen, Korea)。これらは各々配列番号:3及び4で記載されるアミノ酸配列を有する。
【0043】
実施例1で製造されたVBCタンパク質と上記のように合成されたペプチドを使って、タンパク質リガンドの複合体形成の時、変化する蛍光偏光度を測定することによりこれら間の結合有無と結合特性を下記のように分析した。ここで、蛍光偏光度は、蛍光偏光分析機(fluorometer, Perkin-Elmer)を利用して測定し、スリットの大きさは5nm、積分時間は5秒に設定した。50mM Tris及び120mM NaClを含みpHが8.0に調整された緩衝溶液にNP−40(nonidet P40)を0.5%になるように実験前に添加して結合実験に使用した。
【0044】
<2−2> 蛍光標識されたHIF−1ペプチドとVBCタンパク質の結合分析
前記実施例<2−1>で合成されたペプチド蛍光プローブがVBCタンパク質と結合するのかどうかを蛍光偏光度の変化で分析するために、上記であらかじめ準備した緩衝溶液にF−P564ペプチドとF−HyP564ペプチドを各々濃度100nMで溶解させた後、800nMVBCタンパク質を添加して25℃で混合した。混合後、蛍光偏光度を測定した結果、ハイドロキシプロリン基を含まないF−P564ペプチドの蛍光偏光度は0.066だった。一方、ハイドロキシプロリン基を含むF−HyP564ペプチドの蛍光偏光度は0.324に増加した(図1)。このような結果は、ハイドロキシプロリン基を含むHIF−1ペプチドが分子量が大きいVBCタンパク質との相互作用により結合体を形成することにより蛍光偏光度が顕著に増加したことを示し、このような結合体の形成を蛍光偏光度の変化で簡単に分析することができることを示すものである。
【0045】
<2−3>VBCタンパク質の濃度変化による蛍光標識されたHIF−1ペプチドとVBCタンパク質の結合分析
F−HyP564ペプチドにVBCタンパク質の濃度を0から1400nMに増加させながら前記実施例<2−2>と同じ条件で反応させた後、蛍光偏光度の変化を測定した結果、溶液のVBCタンパク質の濃度が増加するにつれて蛍光偏光度も比例的に増加して、F−HyP564ペプチドとVBCタンパク質の結合体形成がVBCタンパク質の濃度につれて増加することが確認された(図2)。
【0046】
図2の結果からF−HyP564ペプチドとVBCタンパク質間の結合定数を求めるために下記式1及び2を使ってカレイダグラフ(KaleidaGraph)プログラムで計算した結果、F−HyP564ペプチドとVBCタンパク質の間の結合定数は、138.1nMだった(図5)。
【0047】
【数1】
【0048】
FP:試料の蛍光偏光度
FP0:[VBC]=0の時の蛍光偏光度
FPmax:F−HyP564ペプチドがすべてVBCタンパク質と結合体を形成した時の蛍光偏光度
[VBC]0:試料中のVBCタンパク質の濃度
[F−HyP564]0:試料中のF−HyP564ペプチドの濃度
Kd:VBCタンパク質とF−HyP564ペプチド間の結合定数
【0049】
【数2】
【0050】
[HyP564]:試料中のHyP564ペプチドの濃度
KD:VBCとHyP564ペプチド間の結合定数
【0051】
また、他のプロリン水酸化反応部位として知られている402番目プロリンを対象にしたF−HyP402ペプチドに対しても上記と同じ方法でVBCタンパク質の濃度を増加させながら反応させた後、蛍光偏光度を測定した結果、F−HyP402ペプチドの場合にもVBCタンパク質の濃度が増加するほど蛍光偏光度が増加した(図4)。式1及び2を利用してカレイダグラフプログラムで計算した結果、F−HyP402ペプチドとVBCタンパク質間の結合定数は、337.79nMだった(図5)。
【0052】
前記結果から、HIF−1タンパク質の564番目プロリンの水酸化反応が402番目プロリンの水酸化反応よりさらに強いVBCタンパク質との相互作用を誘発し、このような相互作用により形成された結合体の形成を蛍光偏光度の変化で簡便に分析することができることを確認した。
【実施例3】
【0053】
F−HyP564ペプチド−VBCタンパク質結合体形成の阻害物質検索
前記実施例2で検証された蛍光偏光度分析方法を利用して競争反応でF−HyP564ペプチド−VBCタンパク質結合体の形成を阻害する物質を検索することができるのかどうかを調査するために蛍光物質が標識されないHyP564ペプチドを阻害剤に利用して次のような実験を遂行した。
【0054】
前記実施例2と同じ緩衝溶液に100nMのF−HyP564ペプチドと500nMのVBCタンパク質を添加した後、ここにHyP564ペプチドの濃度を0から500μMに増加させながら25℃で混合した。前記反応液の蛍光偏光度を測定した結果、HyP564ペプチドを添加しない場合に比べて添加した場合に蛍光偏光度が減少した(図6)。ここで、HyP564ペプチドとVBCタンパク質の間の結合定数は、3.71μMだった(図7)。前記結果は、HyP564ペプチドがVBCタンパク質に対してF−HyP564ペプチドとお互いに競争的に作用するため、HyP564ペプチドとVBCタンパク質結合体の形成が増加するにつれてF−HyP564ペプチドとVBCタンパク質結合体の形成が阻害されたこともので、これを利用すれば、HIF−1−VBCタンパク質の間の相互作用を阻害する物質を容易に検索することができることを示すものである。
【実施例4】
【0055】
F−HyP564ペプチドとVBCタンパク質結合体の形成に決定的な部位確認
F−HyP564ペプチドでVBCタンパク質と特異的に結合する部分を決定するために、配列番号:1で記載されるアミノ酸配列の中でN断片(アミノ酸配列 ALAPYPA)とC断片(アミノ酸配列 DDDFQLR)、及びN断片のプロリン基が水酸化されたHy−N断片ペプチド(アミノ酸配列 ALAHyPYPA)を合成した(Anygen, Korea)。
【0056】
前記実施例<2−2>と同じ条件で100nMのF−HyP564ペプチドと500nMのVBCタンパク質を含む試料を製造し、そこにP564ペプチド、N、C及びHy−N断片各々の濃度を0から500μMに増加させながら添加して混合後、これらの蛍光偏光度の変化を測定した。
【0057】
その結果、図8に示したように、P564ペプチド、N断片及びC断片が添加された試料では、微々たる蛍光偏光度の減少だけが高い濃度のペプチドで観察され、競争反応によりHyP564ペプチドとVBCタンパク質結合体の形成があまり阻害されなかったことが分かった。一方、Hy−N断片ペプチドが添加された試料では、この濃度が増加するにつれて蛍光偏光度の急激な減少を見せたが、前記ペプチドによる阻害効果を式1及び2を利用してカレイダグラフプログラムで定量分析した結果、20μMの結合定数を得た(図9)。
【0058】
以上のことから、F−HyP564ペプチドでVBCタンパク質との相互作用に重要な役目を担当する部位がハイドロキシプロリン基を含む部位であることを確認した。
【実施例5】
【0059】
蛍光偏光度測定によるプロリルハイドロキシラーゼ活性分析
HIF−1αの特定プロリン基を水酸化反応させる酵素として知られたHIF−1α特異的なプロリル−4−ハイドロキシラーゼ−2(PHD−2)でF−P564ペプチドを処理した後、このペプチドがVBCタンパク質と結合するのかどうかを蛍光偏光度を利用して調査した。
【0060】
まず、ヒトのリンパ球cDNAライブラリからクローニングしたヒトPHD2遺伝子(GenBank登載番号:AJ310543)をpET21bベクター(Novagen)にクローニングして得たプラスミドpET21b−PHD2を大膓菌に形質転換させた後、大量発現させた。前記大膓菌形質転換体から大量発現されたPHD2タンパク質をヒスチジン標識(Histidine-tag)を利用してニッケル親和性クロマトグラフィー(Ni-affinity chromatography)とゲルろ過(gel-filtration)で精製した後、超遠心分離(ultracentrifμgation)で濃縮して得たプロリルハイドロキシラーゼを以後の分析に利用した。
【0061】
プロリン水酸化反応分析のために最終濃度が2mMのアスコルビン酸、5mMのα−ケトグルタレート(α-ketoglutarate)及び100μMの塩化第2鉄水和物(Iron (II) Chloride Hydrate)になるように緩衝溶液(20mM Tris-HCl, pH8.0, 100mM NaCl, 1mM EDTA, 1mM PMSF, 0.5% NP-40)に分析の直前に添加した。ここに上記で精製されたプロリンハイドロキシラーゼ4μgとF−P564ペプチド16μMを混合した後、30℃で90分間反応させた。反応後、F−P564、F−HyP564ペプチド及び酵素反応物をMALDI質量分析機(mass spectrometry)で分析して、F−P564ペプチドのプロリン基が水酸化されたことを確認した(図10)。
【0062】
前記実施例<2−2>と同じ緩衝液及び反応条件で、F−P564、F−HyP564ペプチド及び酵素反応物(F-P564:100nM,F-HyP564:100nM, 酵素反応物:500nM)各々を500nMVBCタンパク質と25℃で混合後、蛍光偏光度を測定した。その結果、F−P564ペプチドを添加した場合に比べて酵素反応物を添加した場合の蛍光偏光度が、F−HyP564ペプチドを添加した場合と同様の水準で著しく増加したことを確認した(図11)。
【0063】
以上のことから、ハイドロキシプロリン基を含まないHIF−1ペプチドがプロリルハイドロキシラーゼにより特定プロリン基が水酸化されてVBCタンパク質と結合することができることを蛍光偏光度の変化で簡単に確認することができ、これを利用してプロリルハイドロキシラーゼの活性も分析することができることが分かる。
【0064】
したがって、本発明の分析法を利用すれば、ハイドロキシプロリンを持ったHIF−1ペプチドに蛍光物質を付着したプローブとVBCの結合を定量的に評価することができ、HIF−1−VBC結合を阻害する物質の検索及びプロリルハイドロキシラーゼ酵素の活性を簡便に測定できる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
上記で詳しく見たように、本発明の蛍光偏光度を利用してHIF−1ペプチドとVBCタンパク質の結合様相を分析する方法は、HIF−1−VBCタンパク質結合体を別に分離する過程なしに、蛍光偏光度の増減を通じて簡単に分析することができ、前記分析方法は、HIF−1ペプチドとVBCタンパク質間の相互作用を阻害する物質を検索してプロリルハイドロキシラーゼの活性を分析するのに非常に有用に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】F−P564及びF−HyP564ペプチド各々をVBCタンパク質と反応させた後の結合体形成有無を蛍光偏光度の変化で調査した結果である。
【図2】F−HyP564ペプチドをVBCタンパク質の濃度を増加させながら反応させた後の結合体形成有無を蛍光偏光度の変化で調査した結果である。
【図3】図2で形成されたF−HyP564ペプチドとVBCタンパク質間の結合体の結合定数をカレイダグラフ(KaleidaGraph)プログラムを利用して分析した結果である。
【図4】F−HyP402ペプチドをVBCタンパク質の濃度を増加させながら反応させた後の結合体形成有無を蛍光偏光度の変化で調査した結果である。
【図5】図4で形成されたF−HyP402ペプチドとVBCタンパク質間の結合体の結合定数をカレイダグラフプログラムを利用して分析した結果である。
【図6】F−HyP564ペプチドとVBCタンパク質の反応時阻害剤候補物質の各々を添加した後、結合体の形成有無を蛍光偏光度の変化で調査した結果である。
【図7】図6で阻害剤と確認されたHyP564ペプチドの50%阻害濃度をカレイダグラフプログラムを利用して測定した結果である。
【図8】F−HyP564ペプチドとVBCタンパク質の反応時の結合部位を確認するために阻害剤であるHyP564ペプチドの各種断片を添加した後、蛍光偏光度の変化を測定した結果である。
【図9】図8で阻害効果を示すHyP564ペプチドのN−断片ペプチドの50%阻害濃度をカレイダグラフプログラムを利用して測定した結果である。
【図10】F−P564ペプチドをプロリルハイドロキシラーゼで処理した後、前記ペプチドの水酸化反応の有無を質量分析機(mass spectrometry)で確認した結果である。
【図11】F−P564ペプチドとプロリルハイドロキシラーゼの酵素反応物をVBCタンパク質と反応させた後、蛍光偏光度を測定してF−P564ペプチドまたはF−HyP564ペプチドとVBCタンパク質の結合による蛍光偏光度の変化と比べた結果である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイドロキシプロリンを含むHIF−1ペプチドに蛍光物質を付着したプローブとVBCタンパク質との相互作用を蛍光偏光度を利用して定量的に分析する方法および該方法を利用してこれら間の相互作用を阻害する阻害剤を検索する方法、並びに該方法を利用してプロリルハイドロキシラーゼの活性を分析する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
HIF−1(hypoxia inducible factor-1;低酸素誘導因子)は、エネルギー代謝、血管運動制御、新血管形成及びアポトーシスに関与する遺伝子の発現調節をはじめ低酸素状態に対する多様な細胞反応において重要な役目をするタンパク質である。特に、HIF−1αは、正常酸素状態ではプロテオゾーム(proteosome)により分解されるが、低酸素状態では安定化される。このような調節機序は、pVHL(von Hippel-Lindau tumour suppressor)タンパク質とHIF−1αとの相互作用によって起きる。HIF−1αとpVHL間の相互作用を抑制すれば、低酸素状態で細胞周期の進行が促進されたり血管形成の亢進または細胞生存機能が亢進されたりするため、冠状動脈不全、脳不全及び血管不全のような虚血状態の治療に好ましい(特許文献1)。一方、これら間の相互作用を促進させる場合には正常酸素状態で血管形成の抑制を通じて癌組職の成長を抑制することができ、癌治療研究に非常に有用である(非特許文献1)。
【0003】
VHLタンパク質とヒトHIF−1αの結合は、HIF−1αのアミノ酸配列の中で402番目または564番目に位置したハイドロキシプロリン基に依存する。プロリルハイドロキシラーゼという酵素によってHIF−1αタンパク質の特定プロリン基が水酸化されてVHLタンパク質との相互作用が調節される(非特許文献2)。特に、プロリルハイドロキシラーゼ−2酵素は、酸素、鉄及び補助因子(cofactor)である2−オキソグルタレート(2-oxoglutarate)の存在下で反応が進行される。ここで、酵素自体が酸化されることにより早い速度で非活性化されることを防ぐためには、アスコルベート(ascorbate)が必要とされる(非特許文献3)。このような水酸化反応を通じて転写とタンパク質加水分解(proteolytic destruction)を調節するメカニズムを形成することにより、さまざまな病的機序研究に役立つ。
【0004】
VHLタンパク質は、約100個のアミノ酸を有するβ領域(β domain)と約35個のアミノ酸からなるα領域(α domain)で構成されている。この中でβ領域は、Elongin Cタンパク質と結合してVHL−Elongin C複合体を形成し、該複合体のElongin C部分にElongin Bタンパク質が結合することによりVBCタンパク質を形成する。前記VBCタンパク質の残りのα領域にHIF−1αが結合する。ここで、VHLタンパク質の115番目のHis基、111番目のSer基とHIF−1αの564番目の水酸化−Pro基との水素結合が重要な役目を担当する(非特許文献4)。
【0005】
このようなVHLタンパク質とHIF−1αとの相互作用を観察するために多くの生化学的または免疫学的方法が使われている。まず、2種のタンパク質間の相互作用を研究するために広く使われているツーハイブリッド分析法(two-hybrid assay)を利用する場合、酵母GAL4転写因子のDNA結合ドメイン(DNA binding domain, DBD)はVHLタンパク質に、転写活性化ドメイン(transcriptional activation domain, TAD)はHIF−1αに、各々融合させて二つのタンパク質が結合してはじめて転写を活性化させることができる特徴を利用する。ここで、GFP(green fluorescent protein)、ルシフェラーゼ(luciferase)、β−ガラクトシダーゼ(β-galactosidase)等のリポーター(reporter)遺伝子を利用すれば、前記二つのタンパク質の結合による転写活性を容易に追跡することができる。すなわち、VHLタンパク質とHIF−1αタンパク質が結合すれば、リポーター遺伝子が活性化され、二つのタンパク質間の相互作用の有無を観察することができる(特許文献1)。
【0006】
その他の方法としては、VHLタンパク質とHIF−1αタンパク質中の一方のタンパク質は検出可能な物質で標識させて、残りのタンパク質は固体担体に固定させて二つのタンパク質の相互作用を測定する方法がある。検出可能な標識としては、組換えによって生産されるタンパク質に導入することができる35S−メチオニン(35S-methionine)、HA標識(tag)、GST標識、ヒスチジン標識等がある(特許文献1)。この中でHIF−1αにGSTを標識させてVHLタンパク質に35Sを標識させて電気泳動(SDS-PAGE)と磁気放射法(autoradiography)を利用して相互作用を観察する方法が普遍的に利用されている(非特許文献5)。しかし、この方法は大量の試料を必要とし過程が複雑で実験所要時間が長くなり放射性アイソトープを使わなければならない等の短所がある。
【0007】
これ以外にもVHLタンパク質と特定の部分のHIF−1αを一緒に免疫沈降(coimunoprecipitation)させる方法が、VHLタンパク質と相互作用するHIF−1αの部分をスクリーニングするのに利用されている(非特許文献6)。また、標的化合物に放射能を標識してタンパク質が結合する時にシンチレーション(scintillation)が起きることを感知するシンチレーション近接分析法(scintillation proximity assay)も利用されている(特許文献1)。
【0008】
しかし、上記のような生化学的または免疫学的方法や放射能を標識する方法は、過程が複雑で費用がたくさんかかる短所があるため、VHLタンパク質とHIF−1αの結合に係わる特性を観察するためのより簡単な分析法の開発が求められている。このような研究の一環として放射線元素を使わないで短時間にHIFとVBCタンパク質間の結合と水酸化反応の特性を観察することができる96−ウェルプレートを利用した分析法が開発された(非特許文献7)。前記方法は、ビオチン(biotin)が標識されたHIF−1α(biotinyl-HIF-1α)とVBC複合体を反応させた後、アビジン(avidin)がコーティングされたプレートに入れた後、波長450nmでOD値を測定して定量する方法である。この方法は、数十ナノモル水準の濃度範囲でもHIFの水酸化反応を観察して簡単に測定できるという長所があるが、高価なアビジンがコーティングされたプレートを必ず使わなければならないという問題点がある。
【0009】
以上のことに鑑みて、本発明者等は、HIF−1ペプチドとVBCタンパク質の相互作用を容易に定量的に分析することができる方法を開発しようと研究努力を重ねた結果、ハイドロキシプロリンを含むHIF−1ペプチドに蛍光物質を付着したプローブとVBCタンパク質の相互作用の有無を蛍光偏光度の変化を利用して定量的に分析する方法を開発した。本発明の分析方法は、結合体を別に分離する必要がないため、既存の方法に比べて過程が単純でウェルプレートを利用した自動化が可能であり、分析費用を大きく節減することができるので、HIF−1−VBCタンパク質の結合体形成に寄与するペプチド断片を分析したり、それらの間の相互作用を阻害する物質を検索したり、HIF−1を水酸化させるプロリンハイドロキシラーゼの活性を分析したりするのに非常に有用に適用することができる。
【0010】
【特許文献1】米国特許番号第6,787,326号B1
【非特許文献1】Amato G.等, Nature Reviews 2003年, 第2巻, 1-9頁
【非特許文献2】Masson N. and Ratcliffe P.J., Journal of Cell Science 2003年, 第116巻, 041-3049頁
【非特許文献3】Ivan M.等, PNAS 2002年, 第99(21)巻, 3459-13464頁
【非特許文献4】Min J.H. et al., Science 2002年, 第296巻, 886-1889頁
【非特許文献5】Yu F.等, PNAS 2001年, 第98(17)巻, 630-9635頁
【非特許文献6】Yu F.等, Cancer Research 2001年, 第61巻, 4136-4142頁
【非特許文献7】F. Oehme等, Analytical Biochemistry 2004年, 第330巻, 74-80頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、プロリン水酸化反応によるHIF−1ペプチドとVBCタンパク質との相互作用を簡単に定量的に分析することができる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するために、本発明は、光偏光度を利用してプロリン水酸化反応の有無によってHIF−1ペプチドとVBCタンパク質の相互作用を定量的に分析する方法を提供する。
【0013】
また、本発明は前記分析方法を利用してHIF−1ペプチドとVBCタンパク質の結合を妨害する物質を検索する方法を提供する。
【0014】
同時に、本発明は前記分析方法を利用してプロリルハイドロキシラーゼ(prolyl hydroxylase)の活性を分析する方法を提供する。
【0015】
以下、本発明を詳しく説明する。
本発明は、ハイドロキシプロリン基(hydroxyproline)を含むHIF−1ペプチドとVBCタンパク質の相互作用を蛍光偏光度を利用して定量的に分析する方法を提供する。
【0016】
本発明による好ましい分析方法は、
1)ハイドロキシプロリン基を含むHIF−1ペプチドに蛍光物質を付着して、光プローブを製造する工程;
2)前記蛍光プローブをVBCタンパク質と反応させる工程;及び
3)前記反応物の蛍光偏光度を測定した後、蛍光プローブ自体の蛍光偏光度と比べて蛍光偏光度の変化を観察する工程を含む。
【0017】
工程1)で蛍光プローブは、公知されたHIF−1タンパク質のアミノ酸配列の中でVBCタンパク質に結合すると知られている部位を対象に特定ペプチド配列を選定して合成した後、合成されたペプチドのN−末端にアミノカプロン酸リンカー(aminocaproic acid linker)を付けてその終りに蛍光物質を標識させて準備する。このように準備したペプチド配列の中で特定プロリン残基を水和させて蛍光プローブがハイドロキシプロリン基を含むようにする。
【0018】
本発明でペプチドに標識することができる蛍光物質としては、フルオレシンカルボキシル酸(FCA)、フルオレシンイソチオシアネート(FITC)、フルオレシンチオOウレア(FTH)、7−アセトキシクマリン−3−イル、フルオレシン−5−イル、フルオレシン−6−イル、2’,7’−ジクロロフルオレシン−5−イル、2’,7’−ジクロロフルオレシン−6−イル、ジハイドロテトラメチルロダミン−4−イル、テトラメチルロダミン−5−イル、テトラメチルロダミン−6−イル、4,4−ジフルオロ−5,7−ジメチル−4−ボラ−3a,4a−ジアザ−s−インダセン−3−エチル及び 4,4−ジフルオロ−5,7−ジフェニル−4−ボラ−3a,4a−ジアザ−s−インダセン−3−エチルからなる群から選択して使用することができる。特定プロリン残基の水酸化は、水酸化されたプロリンアミノ酸の添加(Merck社のHyPアミノ酸を合成する時に添加して使用)により成される。
【0019】
本発明の好ましい実施例では、GenBank登載番号:(U22431)のHIF−1αアミノ酸配列の中で556乃至574a.a.に該当する部位と390乃至417a.a.に該当する部位を選定した後、各々のアミノ酸配列を有するペプチドを合成する。合成されたペプチドのN−末端にアミノカプロン酸リンカーを連結させて、連結されたリンカーの反対側にFITCを標識して配列番号:1で記載される20個のアミノ酸を有するF−P564及び配列番号:2で記載される28個のアミノ酸を有するF−P402ペプチドを製造する。前記F−P564及びF−P402ペプチドの564番目のプロリン(配列番号:1から12番目アミノ酸)と402番目プロリン(配列番号:2から16番目アミノ酸)を水酸化されたプロリンアミノ酸の添加により水和させて配列番号:3及び4で記載されるF−HyP564及びF−HyP402ペプチドを合成する。
【0020】
工程2)は、工程1)で準備した蛍光プローブをVBCタンパク質と反応させる工程で、VBCタンパク質は通常的な遺伝子組換え技術により製造することができる。
【0021】
一般的に、VBCタンパク質は、まずVHLタンパク質のβ領域にElongin Cタンパク質を結合させてVHL−Elongin C複合体を形成し、前記複合体のElongin C部分にElongin Bタンパク質を結合させて形成される。VHL、Elongin C及びElongin B遺伝子は、各々GenBankに登載番号(NM000551)、(NM007108)及び(NM005648)で公知されている。
【0022】
本発明の好ましい実施例では、VHLタンパク質を暗号化する核酸配列を含む発現ベクター、Elongin Cタンパク質を暗号化する核酸配列を含む発現ベクター、及びElongin Bタンパク質を暗号化する核酸配列を含む発現ベクターを製造した後、これらを適当な宿主細胞に同時に形質転換させて宿主細胞内で、VHL、Elongin C及びElongin Bタンパク質が一つに連結された複合体形態で発現させて、宿主細胞からこれを分離する。宿主細胞で発現されたVBCタンパク質は、培養された細胞または培養溶液から抽出して分離、精製することができる。VBCタンパク質の分離、精製は、多くの公知の方法によって実施することができ、透析、限外ろ過、ゲルろ過及びSDS−PAGEのような分子量の差を利用した方法、イオン交換カラムクロマトグラフィーのような電荷の差を利用した方法、逆相高性能液体クロマトグラフィーのように親水性の差を利用した方法を使用することができる。
【0023】
上記のように製造された蛍光プローブが付着したペプチドとVBCタンパク質を25℃の適当な緩衝溶液で1:1から1:14の割合で混合してHIF−1ペプチドとVBCタンパク質間の相互作用を誘導する。
【0024】
工程3)では、蛍光偏光分析機を利用して反応が完了した工程2)の反応物の蛍光偏光度を測定した後、測定された反応物の蛍光偏光度の値を蛍光プローブ自体の蛍光偏光度の値と比べてその変化を観察する。HIF−1ペプチドに蛍光物質が付着した蛍光プローブは、相対的に小さな値の蛍光偏光度を有するが、この蛍光プローブが分子量が大きいVBCタンパク質と結合して結合体を形成するようになれば、蛍光偏光度が顕著に増加するようになる。したがって、蛍光プローブとVBCタンパク質間の反応前後の蛍光偏光度値の変化を観察して、蛍光偏光度に何も変化がない場合にはこれら間の相互作用が起きていないこと示し、蛍光偏光度が顕著に増加した場合にはこれら間の相互作用によって結合体が形成されたと判断することができる。
【0025】
前記方法によって工程1)で製造されたハイドロキシプロリン基を含むF−HyP564及びF−HyP402蛍光プローブとハイドロキシプロリン基を含まないF−P564及びF−P402蛍光プローブを対象にHIF−1ペプチドとVBCタンパク質間の結合有無と特性を分析した。
【0026】
まず、プロリン水酸化反応によってHIF−1ペプチドとVBCタンパク質の結合様相が変わるかどうかを調べるために、F−P564及びF−HyP564ペプチドを各々VBCタンパク質と25℃で反応させた後、蛍光偏光度を測定した結果、F−P564ペプチドとVBCタンパク質の反応物はF−P564ペプチド自体の蛍光偏光度と類似の値を示した一方、F−HyP564ペプチドとVBCタンパク質の反応物はF−P564ペプチド自体より著しく増加した蛍光偏光度を示し、ハイドロキシプロリン基を有するHIF−1ペプチドがVBCタンパク質と結合してこれらの結合を蛍光偏光度の変化で容易に分析することができることを確認した(図1参照)。
【0027】
また、VBCタンパク質の濃度を増加させながらF−HyP564ペプチドと反応させた結果、溶液上のVBCタンパク質の濃度が増加するにつれて蛍光偏光度が増加して(図2参照)F−HyP564ペプチドがVBCタンパク質の濃度に依存的様相で相互作用することが分かった。ここで、F−HyP564ペプチドとVBCタンパク質間の結合定数は、138.1nMだった(図3参照)。
【0028】
他のプロリン水酸化反応部位として知られている402番目プロリンに対するF−HyP402ペプチド蛍光プローブに対しても上記と同様に実験した結果、VBCタンパク質の濃度が増加するにつれてF−HyP402ペプチドとVBCタンパク質反応物の蛍光偏光度が増加することが示され(図4参照)、VBCタンパク質の濃度に依存的にF−HyP402ペプチド−VBCタンパク質の結合体が増加することが確認された。ここで、結合定数は、337.79nMと示され(図5参照)564番目プロリンの水酸化反応が402番目プロリンの水酸化反応よりさらに強いVBCタンパク質との結合を誘発することを分かった。
【0029】
前記結果から本発明の分析方法が、ハイドロキシプロリン基を含むHIF−1ペプチドとVBCタンパク質間の相互作用による結合体形成有無を、結合体を別に分離することなしに蛍光偏光度を利用して簡単に定量的に分析することができることを確認した。
【0030】
また、本発明は、前記分析方法を利用してハイドロキシプロリン基を含むHIF−1ペプチドとVBCタンパク質間の相互作用を阻害する物質を検索する方法を提供する。
【0031】
前記検索方法は、ハイドロキシプロリン基を含むHIF−1ペプチド蛍光プローブとVBCタンパク質の反応溶液に阻害剤候補物質を添加して反応させた後、反応溶液の蛍光偏光度を測定して阻害剤候補物質の添加有無による蛍光偏光度の変化を観察する。ここで、阻害剤候補物質の添加によりハイドロキシプロリン基を含むHIF−1ペプチドとVBCタンパク質の反応物の蛍光偏光度が減少すれば、その物質はHIF−1ペプチドとお互いに競争的にVBCタンパク質に作用して結合体を形成する阻害剤であることが分かる。
【0032】
本発明の好ましい実施例では、このような競争反応を利用してF−HyP564ペプチド−VBCタンパク質の結合体形成を阻害する物質を検索する可能性をテストするために、F−HyP564ペプチドとVBCタンパク質の反応液にHyP564ペプチドの濃度を増加させながら反応させた後、蛍光偏光度を測定した結果、一定量のVBCタンパク質に対してF−HyP564ペプチドとHyP564ペプチドがお互いに競争的に作用して、HyP564ペプチド−VBCタンパク質の結合体形成が増加するにつれてF−HyP564ペプチド−VBCタンパク質の結合体形成は阻害されて蛍光偏光度が減少することを確認した(図6及び4b参照)。したがって、本発明による蛍光偏光度分析方法にこのような競争反応を適用すれば、HIF−1ペプチドとVBCタンパク質との結合を抑制する物質を容易に検索することができる。
【0033】
同時に、本発明は前記蛍光偏光度を利用した分析方法を利用してプロリルハイドロキシラーゼ(prolyl hydroxylase)の活性を分析する方法を提供する。
【0034】
プロリルハイドロキシラーゼは、HIF−1の特定プロリン基を水酸化させる酵素で、前記方法はハイドロキシプロリン基を含まないHIF−1ペプチドにこの酵素を処理すれば、特定プロリン基が水酸化されてVBCタンパク質と結合することができるのかどうかを分析する方法である。
【0035】
ハイドロキシプロリン基を含まないF−P564ペプチドにプロリルハイドロキシラーゼを処理した後、酵素反応物の質量を分析してF−P564及びF−HyP564ペプチドと比較した結果、プロリルハイドロキシラーゼの作用によりF−P564の564番目プロリン基が水酸化されたことを確認した(図10参照)。また、蛍光偏光度分析方法で酵素反応物のVBCタンパク質結合体に対する反応有無を確認するために、F−P564、F−HyP564ペプチド及び酵素反応物各々をVBCタンパク質と反応させた後、蛍光偏光度を測定した結果、酵素反応物の蛍光偏光度がF−HyP564ペプチドの場合と同じように増加することを確認し(図11参照)、プロリルハイドロキシラーゼの活性によりF−P564ペプチドがF−HyP564ペプチドに転換されてVBCタンパク質と結合体を形成することができ、このような相互作用を 本発明の分析方法によって蛍光偏光度の変化を観察することによって容易に定量的に分析することができることを確認した。
【0036】
本発明(1)は、
1)ハイドロキシプロリン基(hydroxyproline)を含むHIF−1ペプチドに蛍光物質を付着して蛍光プローブを製造する工程;
2)前記蛍光プローブをVBCタンパク質と反応させる工程;及び
3)前記反応物の蛍光偏光度を測定した後、蛍光プローブ自体の蛍光偏光度と比べて蛍光偏光度の変化を観察する工程を含む、プロリン水酸化反応によるHIF−1ペプチドとVBCタンパク質の相互作用を蛍光偏光度を利用して定量的に分析する方法である。
本発明(2)は、工程1)で蛍光プローブが、HIF−1タンパク質のアミノ酸配列(GenBank 登載番号:U22431)中でVBCタンパク質に結合することが知られている部位を対象に特定ペプチド配列を選定して合成し、合成されたペプチドのN−末端にアミノカプロン酸リンカー(aminocaproic acid linker)を付けて、その終りに蛍光物質を標識した後、特定プロリン残基を水和させてハイドロキシプロリン基を含むように製造することを特徴とする本発明(1)の方法である。
本発明(3)は、ハイドロキシプロリン基を含むHIF−1ペプチドが、配列番号:3または4で記載されるアミノ酸配列を有することを特徴とする本発明(1)の方法である。
本発明(4)は、蛍光物質が、フルオレシンカルボキシル酸(FCA)、フルオレシンイソチオシアネート(FITC)、フルオレシンチオOウレア(FTH)、7−アセトキシクマリン−3−イル、フルオレシン−5−イル、フルオレシン−6−イル、2’,7’−ジクロロフルオレシン−5−イル、2’,7’−ジクロロフルオレシン−6−イル、ジハイドロテトラメチルロダミン−4−イル、テトラメチルロダミン−5−イル、テトラメチルロダミン−6−イル、4,4−ジフルオロ−5,7−ジメチル−4−ボラ−3a,4a−ジアザ−s−インダセン−3−エチル及び4,4−ジフルオロ−5,7−ジフェニル−4−ボラ−3a,4a−ジアザ−s−インダセン−3−エチルからなる群から選択されることを特徴とする本発明(1)の方法である。
本発明(5)は、工程2)で、蛍光物質が付着したHIF−1ペプチドとVBCタンパク質を25℃の緩衝溶液で1:1から1:14の割合で混合して即時に測定可能であることを特徴とする本発明(1)の方法である。
本発明(6)は、工程3)で測定された工程2)反応物の蛍光偏光度が、蛍光プローブの蛍光偏光度より増加した場合には、蛍光プローブとVBCタンパク質が結合体を形成したと判断することを特徴とする本発明(1)の方法である。
本発明(7)は、本発明(1)の方法を利用して、ハイドロキシプロリン基を含むHIF−1ペプチドとVBCタンパク質間の相互作用を阻害する物質を検索する方法である。
本発明(8)は、
1)蛍光物質が結合されたハイドロキシプロリン基を含むHIF−1ペプチドとVBCタンパク質の反応溶液に阻害剤候補物質を添加して反応させる工程;
2)前記反応溶液の蛍光偏光度を測定して阻害剤候補物質の添加可否による蛍光偏光度の変化を観察する工程;及び
3)阻害剤候補物質の添加によりハイドロキシプロリン基を含むHIF−1ペプチドとVBCタンパク質の反応物の蛍光偏光度が減少した場合に、前記候補物質を阻害剤であると判定する工程を含むことを特徴とする本発明(7)の方法である。
本発明(9)は、本発明(1)の方法を利用して、プロリルハイドロキシラーゼ(prolyl hydroxylase)の活性を分析する方法である。
本発明(10)は、
1)ハイドロキシプロリン基を含まないHIF−1ペプチドにプロリルハイドロキシラーゼを処理する工程;
2)前記酵素反応物をVBCタンパク質と反応させた後、蛍光偏光度を測定する工程;及び
3)工程2)で測定された蛍光偏光度をハイドロキシプロリン基を含むHIF−1ペプチドとVBCタンパク質との結合体の蛍光偏光度と比べる工程を含む本発明(9)の方法である。
【発明の効果】
【0037】
したがって、本発明の蛍光偏光度を利用してHIF−1ペプチドとVBCタンパク質の相互作用を分析する方法を利用すれば、ハイドロキシプロリンを持ったHIF−1ペプチドとVBCタンパク質の結合を定量的に評価することができ、HIF−1−VBCタンパク質の結合を阻害する物質を容易に検索できるだけではなく、プロリルハイドロキシラーゼの活性を簡便に測定できる。また、前記方法は、HIF−1ペプチドとVBCタンパク質の間の結合体を別に分離する必要がないので工程が簡単でウェルプレート上に適用して超高速検索に利用することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下、本発明を実施例によって詳しく説明する。
但し、下記の実施例は本発明を例示するだけのものであり、本発明の内容が下記の実施例によって限定されるものではない。
【実施例1】
【0039】
VBCタンパク質の製造
ヒトフォン・ヒッペル・リンダウ(Human von Hippel-Lindau)遺伝子断片(GenBank登載番号:NM000551のアミノ酸配列中54乃至213a.a.に該当)とヒトElongin B断片(GenBank登載番号:NM007108のアミノ酸配列中1乃至118a.a.に該当)が、pGEX−4T−1の変形されたベクターに挿入されたプラスミド(pGEX4T-VHL-EB)とヒトElongin C断片(GenBank登載番号:NM005648のアミノ酸配列中17乃至112a.a.に該当)が、pET29bのベクターに挿入されたプラスミド(pDEV-EC)(Novagen)を大膓菌BL21(DE3)(Novagen)に同時に形質転換して大量発現させた。
【0040】
形質転換された細胞を37℃で50μg/mlのアンピシリン(ampicillin)を含んだLB培地に接種して吸光度が0.8乃至0.9になるまで培養した後、0.5mM IPTG(イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド)で発現を誘導して、18℃で15時間培養した。10mMリン酸塩緩衝溶液(PBS, pH 7.4, 110mM NaCl及び1mM DTT [dithiotheitol])に、PMSF(フェニルメチルスルホニルフルオライド)とライソザイム(lysozyme)を最終濃度が各々0.2mM及び1mg/mlになるように添加した後、遠心分離により回収された細胞を前記緩衝溶液に懸濁して4℃で超音波処理で破壊した。細胞抽出物に2%トリトンX−100(Triton X-100)を添加してよく攪拌後、10分間氷に置いてから13,000rpmで30分間遠心分離した。それから分離した上層液に1mM DTTを添加してグルタチオン−セパロース(glutathione-sepharose)4B樹脂(Bio-Rad)と混合した後、4℃で2時間撹拌した。反応した樹脂混合液に10倍容積のリン酸塩緩衝溶液を添加して、2100rpmで5分間遠心分離して上層液を除去した。上記過程を3回繰り返して反応しない上層液を除去した。
【0041】
バイオスピンディスポーザブルクロマトグラフィーカラム(Bio-Spin Disposable Chromatography Columns, Bio-Rad)に反応した樹脂混合物を入れて、5mlのPBSでろ過させて、2mlの1M NaCl溶液でろ過させることにより不必要な反応物を除去した。前記カラムを10mMグルタチオン(GSH)で溶離させてGST−VBCタンパク質を回収した。回収されたタンパク質は、SDS−PAGEで確認し、BCAタンパク質分析法(Pierce)で定量した。
【実施例2】
【0042】
蛍光標識されたHIF−1ペプチドとVBCタンパク質の結合力分析
<2−1> 蛍光標識されたHIF−1ペプチドの製造
HIF−1α(hypoxia-inducible factor)の蛍光プローブを製作するために、HIF−1αタンパク質の中でVBCタンパク質と結合することが知られている部分(非特許文献4)のアミノ酸配列中56乃至574番目アミノ酸部位と390乃至417番目アミノ酸部位を対象配列に選定して、そのN−末端にアミノカプロン酸リンカー(aminocaproic acid linker)を付けてその終りにFITC(fluorescein isothiocyanate)が標識された形態にペプチドを設計した後、合成した(Anygen, Korea)。このように合成した蛍光プローブを各々F−P564及びF−P402ペプチドと命名し、それらは配列番号:1及び2で記載されるアミノ酸配列を有する。また、前記F−P564及びF−P402ペプチド各々の564番目プロリン(配列番号:1から12番目のアミノ酸)と402番目プロリン(配列番号:2から16番目アミノ酸)が水和されたF−HyP564及びF−HyP402ペプチドを合成した(Anygen, Korea)。これらは各々配列番号:3及び4で記載されるアミノ酸配列を有する。
【0043】
実施例1で製造されたVBCタンパク質と上記のように合成されたペプチドを使って、タンパク質リガンドの複合体形成の時、変化する蛍光偏光度を測定することによりこれら間の結合有無と結合特性を下記のように分析した。ここで、蛍光偏光度は、蛍光偏光分析機(fluorometer, Perkin-Elmer)を利用して測定し、スリットの大きさは5nm、積分時間は5秒に設定した。50mM Tris及び120mM NaClを含みpHが8.0に調整された緩衝溶液にNP−40(nonidet P40)を0.5%になるように実験前に添加して結合実験に使用した。
【0044】
<2−2> 蛍光標識されたHIF−1ペプチドとVBCタンパク質の結合分析
前記実施例<2−1>で合成されたペプチド蛍光プローブがVBCタンパク質と結合するのかどうかを蛍光偏光度の変化で分析するために、上記であらかじめ準備した緩衝溶液にF−P564ペプチドとF−HyP564ペプチドを各々濃度100nMで溶解させた後、800nMVBCタンパク質を添加して25℃で混合した。混合後、蛍光偏光度を測定した結果、ハイドロキシプロリン基を含まないF−P564ペプチドの蛍光偏光度は0.066だった。一方、ハイドロキシプロリン基を含むF−HyP564ペプチドの蛍光偏光度は0.324に増加した(図1)。このような結果は、ハイドロキシプロリン基を含むHIF−1ペプチドが分子量が大きいVBCタンパク質との相互作用により結合体を形成することにより蛍光偏光度が顕著に増加したことを示し、このような結合体の形成を蛍光偏光度の変化で簡単に分析することができることを示すものである。
【0045】
<2−3>VBCタンパク質の濃度変化による蛍光標識されたHIF−1ペプチドとVBCタンパク質の結合分析
F−HyP564ペプチドにVBCタンパク質の濃度を0から1400nMに増加させながら前記実施例<2−2>と同じ条件で反応させた後、蛍光偏光度の変化を測定した結果、溶液のVBCタンパク質の濃度が増加するにつれて蛍光偏光度も比例的に増加して、F−HyP564ペプチドとVBCタンパク質の結合体形成がVBCタンパク質の濃度につれて増加することが確認された(図2)。
【0046】
図2の結果からF−HyP564ペプチドとVBCタンパク質間の結合定数を求めるために下記式1及び2を使ってカレイダグラフ(KaleidaGraph)プログラムで計算した結果、F−HyP564ペプチドとVBCタンパク質の間の結合定数は、138.1nMだった(図5)。
【0047】
【数1】
【0048】
FP:試料の蛍光偏光度
FP0:[VBC]=0の時の蛍光偏光度
FPmax:F−HyP564ペプチドがすべてVBCタンパク質と結合体を形成した時の蛍光偏光度
[VBC]0:試料中のVBCタンパク質の濃度
[F−HyP564]0:試料中のF−HyP564ペプチドの濃度
Kd:VBCタンパク質とF−HyP564ペプチド間の結合定数
【0049】
【数2】
【0050】
[HyP564]:試料中のHyP564ペプチドの濃度
KD:VBCとHyP564ペプチド間の結合定数
【0051】
また、他のプロリン水酸化反応部位として知られている402番目プロリンを対象にしたF−HyP402ペプチドに対しても上記と同じ方法でVBCタンパク質の濃度を増加させながら反応させた後、蛍光偏光度を測定した結果、F−HyP402ペプチドの場合にもVBCタンパク質の濃度が増加するほど蛍光偏光度が増加した(図4)。式1及び2を利用してカレイダグラフプログラムで計算した結果、F−HyP402ペプチドとVBCタンパク質間の結合定数は、337.79nMだった(図5)。
【0052】
前記結果から、HIF−1タンパク質の564番目プロリンの水酸化反応が402番目プロリンの水酸化反応よりさらに強いVBCタンパク質との相互作用を誘発し、このような相互作用により形成された結合体の形成を蛍光偏光度の変化で簡便に分析することができることを確認した。
【実施例3】
【0053】
F−HyP564ペプチド−VBCタンパク質結合体形成の阻害物質検索
前記実施例2で検証された蛍光偏光度分析方法を利用して競争反応でF−HyP564ペプチド−VBCタンパク質結合体の形成を阻害する物質を検索することができるのかどうかを調査するために蛍光物質が標識されないHyP564ペプチドを阻害剤に利用して次のような実験を遂行した。
【0054】
前記実施例2と同じ緩衝溶液に100nMのF−HyP564ペプチドと500nMのVBCタンパク質を添加した後、ここにHyP564ペプチドの濃度を0から500μMに増加させながら25℃で混合した。前記反応液の蛍光偏光度を測定した結果、HyP564ペプチドを添加しない場合に比べて添加した場合に蛍光偏光度が減少した(図6)。ここで、HyP564ペプチドとVBCタンパク質の間の結合定数は、3.71μMだった(図7)。前記結果は、HyP564ペプチドがVBCタンパク質に対してF−HyP564ペプチドとお互いに競争的に作用するため、HyP564ペプチドとVBCタンパク質結合体の形成が増加するにつれてF−HyP564ペプチドとVBCタンパク質結合体の形成が阻害されたこともので、これを利用すれば、HIF−1−VBCタンパク質の間の相互作用を阻害する物質を容易に検索することができることを示すものである。
【実施例4】
【0055】
F−HyP564ペプチドとVBCタンパク質結合体の形成に決定的な部位確認
F−HyP564ペプチドでVBCタンパク質と特異的に結合する部分を決定するために、配列番号:1で記載されるアミノ酸配列の中でN断片(アミノ酸配列 ALAPYPA)とC断片(アミノ酸配列 DDDFQLR)、及びN断片のプロリン基が水酸化されたHy−N断片ペプチド(アミノ酸配列 ALAHyPYPA)を合成した(Anygen, Korea)。
【0056】
前記実施例<2−2>と同じ条件で100nMのF−HyP564ペプチドと500nMのVBCタンパク質を含む試料を製造し、そこにP564ペプチド、N、C及びHy−N断片各々の濃度を0から500μMに増加させながら添加して混合後、これらの蛍光偏光度の変化を測定した。
【0057】
その結果、図8に示したように、P564ペプチド、N断片及びC断片が添加された試料では、微々たる蛍光偏光度の減少だけが高い濃度のペプチドで観察され、競争反応によりHyP564ペプチドとVBCタンパク質結合体の形成があまり阻害されなかったことが分かった。一方、Hy−N断片ペプチドが添加された試料では、この濃度が増加するにつれて蛍光偏光度の急激な減少を見せたが、前記ペプチドによる阻害効果を式1及び2を利用してカレイダグラフプログラムで定量分析した結果、20μMの結合定数を得た(図9)。
【0058】
以上のことから、F−HyP564ペプチドでVBCタンパク質との相互作用に重要な役目を担当する部位がハイドロキシプロリン基を含む部位であることを確認した。
【実施例5】
【0059】
蛍光偏光度測定によるプロリルハイドロキシラーゼ活性分析
HIF−1αの特定プロリン基を水酸化反応させる酵素として知られたHIF−1α特異的なプロリル−4−ハイドロキシラーゼ−2(PHD−2)でF−P564ペプチドを処理した後、このペプチドがVBCタンパク質と結合するのかどうかを蛍光偏光度を利用して調査した。
【0060】
まず、ヒトのリンパ球cDNAライブラリからクローニングしたヒトPHD2遺伝子(GenBank登載番号:AJ310543)をpET21bベクター(Novagen)にクローニングして得たプラスミドpET21b−PHD2を大膓菌に形質転換させた後、大量発現させた。前記大膓菌形質転換体から大量発現されたPHD2タンパク質をヒスチジン標識(Histidine-tag)を利用してニッケル親和性クロマトグラフィー(Ni-affinity chromatography)とゲルろ過(gel-filtration)で精製した後、超遠心分離(ultracentrifμgation)で濃縮して得たプロリルハイドロキシラーゼを以後の分析に利用した。
【0061】
プロリン水酸化反応分析のために最終濃度が2mMのアスコルビン酸、5mMのα−ケトグルタレート(α-ketoglutarate)及び100μMの塩化第2鉄水和物(Iron (II) Chloride Hydrate)になるように緩衝溶液(20mM Tris-HCl, pH8.0, 100mM NaCl, 1mM EDTA, 1mM PMSF, 0.5% NP-40)に分析の直前に添加した。ここに上記で精製されたプロリンハイドロキシラーゼ4μgとF−P564ペプチド16μMを混合した後、30℃で90分間反応させた。反応後、F−P564、F−HyP564ペプチド及び酵素反応物をMALDI質量分析機(mass spectrometry)で分析して、F−P564ペプチドのプロリン基が水酸化されたことを確認した(図10)。
【0062】
前記実施例<2−2>と同じ緩衝液及び反応条件で、F−P564、F−HyP564ペプチド及び酵素反応物(F-P564:100nM,F-HyP564:100nM, 酵素反応物:500nM)各々を500nMVBCタンパク質と25℃で混合後、蛍光偏光度を測定した。その結果、F−P564ペプチドを添加した場合に比べて酵素反応物を添加した場合の蛍光偏光度が、F−HyP564ペプチドを添加した場合と同様の水準で著しく増加したことを確認した(図11)。
【0063】
以上のことから、ハイドロキシプロリン基を含まないHIF−1ペプチドがプロリルハイドロキシラーゼにより特定プロリン基が水酸化されてVBCタンパク質と結合することができることを蛍光偏光度の変化で簡単に確認することができ、これを利用してプロリルハイドロキシラーゼの活性も分析することができることが分かる。
【0064】
したがって、本発明の分析法を利用すれば、ハイドロキシプロリンを持ったHIF−1ペプチドに蛍光物質を付着したプローブとVBCの結合を定量的に評価することができ、HIF−1−VBC結合を阻害する物質の検索及びプロリルハイドロキシラーゼ酵素の活性を簡便に測定できる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
上記で詳しく見たように、本発明の蛍光偏光度を利用してHIF−1ペプチドとVBCタンパク質の結合様相を分析する方法は、HIF−1−VBCタンパク質結合体を別に分離する過程なしに、蛍光偏光度の増減を通じて簡単に分析することができ、前記分析方法は、HIF−1ペプチドとVBCタンパク質間の相互作用を阻害する物質を検索してプロリルハイドロキシラーゼの活性を分析するのに非常に有用に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】F−P564及びF−HyP564ペプチド各々をVBCタンパク質と反応させた後の結合体形成有無を蛍光偏光度の変化で調査した結果である。
【図2】F−HyP564ペプチドをVBCタンパク質の濃度を増加させながら反応させた後の結合体形成有無を蛍光偏光度の変化で調査した結果である。
【図3】図2で形成されたF−HyP564ペプチドとVBCタンパク質間の結合体の結合定数をカレイダグラフ(KaleidaGraph)プログラムを利用して分析した結果である。
【図4】F−HyP402ペプチドをVBCタンパク質の濃度を増加させながら反応させた後の結合体形成有無を蛍光偏光度の変化で調査した結果である。
【図5】図4で形成されたF−HyP402ペプチドとVBCタンパク質間の結合体の結合定数をカレイダグラフプログラムを利用して分析した結果である。
【図6】F−HyP564ペプチドとVBCタンパク質の反応時阻害剤候補物質の各々を添加した後、結合体の形成有無を蛍光偏光度の変化で調査した結果である。
【図7】図6で阻害剤と確認されたHyP564ペプチドの50%阻害濃度をカレイダグラフプログラムを利用して測定した結果である。
【図8】F−HyP564ペプチドとVBCタンパク質の反応時の結合部位を確認するために阻害剤であるHyP564ペプチドの各種断片を添加した後、蛍光偏光度の変化を測定した結果である。
【図9】図8で阻害効果を示すHyP564ペプチドのN−断片ペプチドの50%阻害濃度をカレイダグラフプログラムを利用して測定した結果である。
【図10】F−P564ペプチドをプロリルハイドロキシラーゼで処理した後、前記ペプチドの水酸化反応の有無を質量分析機(mass spectrometry)で確認した結果である。
【図11】F−P564ペプチドとプロリルハイドロキシラーゼの酵素反応物をVBCタンパク質と反応させた後、蛍光偏光度を測定してF−P564ペプチドまたはF−HyP564ペプチドとVBCタンパク質の結合による蛍光偏光度の変化と比べた結果である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)ハイドロキシプロリン基(hydroxyproline)を含むHIF−1ペプチドに蛍光物質を付着して蛍光プローブを製造する工程;
2)前記蛍光プローブをVBCタンパク質と反応させる工程;及び
3)前記反応物の蛍光偏光度を測定した後、蛍光プローブ自体の蛍光偏光度と比べて蛍光偏光度の変化を観察する工程を含む、プロリン水酸化反応によるHIF−1ペプチドとVBCタンパク質の相互作用を蛍光偏光度を利用して定量的に分析する方法。
【請求項2】
工程1)で蛍光プローブが、HIF−1タンパク質のアミノ酸配列(GenBank 登載番号:U22431)中でVBCタンパク質に結合することが知られている部位を対象に特定ペプチド配列を選定して合成し、合成されたペプチドのN−末端にアミノカプロン酸リンカー(aminocaproic acid linker)を付けて、その終りに蛍光物質を標識した後、特定プロリン残基を水和させてハイドロキシプロリン基を含むように製造することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
ハイドロキシプロリン基を含むHIF−1ペプチドが、配列番号:3または4で記載されるアミノ酸配列を有することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項4】
蛍光物質が、フルオレシンカルボキシル酸(FCA)、フルオレシンイソチオシアネート(FITC)、フルオレシンチオOウレア(FTH)、7−アセトキシクマリン−3−イル、フルオレシン−5−イル、フルオレシン−6−イル、2’,7’−ジクロロフルオレシン−5−イル、2’,7’−ジクロロフルオレシン−6−イル、ジハイドロテトラメチルロダミン−4−イル、テトラメチルロダミン−5−イル、テトラメチルロダミン−6−イル、4,4−ジフルオロ−5,7−ジメチル−4−ボラ−3a,4a−ジアザ−s−インダセン−3−エチル及び4,4−ジフルオロ−5,7−ジフェニル−4−ボラ−3a,4a−ジアザ−s−インダセン−3−エチルからなる群から選択されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項5】
工程2)で、蛍光物質が付着したHIF−1ペプチドとVBCタンパク質を25℃の緩衝溶液で1:1から1:14の割合で混合して即時に測定可能であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項6】
工程3)で測定された工程2)反応物の蛍光偏光度が、蛍光プローブの蛍光偏光度より増加した場合には、蛍光プローブとVBCタンパク質が結合体を形成したと判断することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項7】
請求項1記載の方法を利用して、ハイドロキシプロリン基を含むHIF−1ペプチドとVBCタンパク質間の相互作用を阻害する物質を検索する方法。
【請求項8】
1)蛍光物質が結合されたハイドロキシプロリン基を含むHIF−1ペプチドとVBCタンパク質の反応溶液に阻害剤候補物質を添加して反応させる工程;
2)前記反応溶液の蛍光偏光度を測定して阻害剤候補物質の添加可否による蛍光偏光度の変化を観察する工程;及び
3)阻害剤候補物質の添加によりハイドロキシプロリン基を含むHIF−1ペプチドとVBCタンパク質の反応物の蛍光偏光度が減少した場合に、前記候補物質を阻害剤であると判定する工程を含むことを特徴とする請求項7記載の方法。
【請求項9】
請求項1記載の方法を利用して、プロリルハイドロキシラーゼ(prolyl hydroxylase)の活性を分析する方法。
【請求項10】
1)ハイドロキシプロリン基を含まないHIF−1ペプチドにプロリルハイドロキシラーゼを処理する工程;
2)前記酵素反応物をVBCタンパク質と反応させた後、蛍光偏光度を測定する工程;及び
3)工程2)で測定された蛍光偏光度をハイドロキシプロリン基を含むHIF−1ペプチドとVBCタンパク質との結合体の蛍光偏光度と比べる工程を含む請求項9記載の方法。
【請求項1】
1)ハイドロキシプロリン基(hydroxyproline)を含むHIF−1ペプチドに蛍光物質を付着して蛍光プローブを製造する工程;
2)前記蛍光プローブをVBCタンパク質と反応させる工程;及び
3)前記反応物の蛍光偏光度を測定した後、蛍光プローブ自体の蛍光偏光度と比べて蛍光偏光度の変化を観察する工程を含む、プロリン水酸化反応によるHIF−1ペプチドとVBCタンパク質の相互作用を蛍光偏光度を利用して定量的に分析する方法。
【請求項2】
工程1)で蛍光プローブが、HIF−1タンパク質のアミノ酸配列(GenBank 登載番号:U22431)中でVBCタンパク質に結合することが知られている部位を対象に特定ペプチド配列を選定して合成し、合成されたペプチドのN−末端にアミノカプロン酸リンカー(aminocaproic acid linker)を付けて、その終りに蛍光物質を標識した後、特定プロリン残基を水和させてハイドロキシプロリン基を含むように製造することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
ハイドロキシプロリン基を含むHIF−1ペプチドが、配列番号:3または4で記載されるアミノ酸配列を有することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項4】
蛍光物質が、フルオレシンカルボキシル酸(FCA)、フルオレシンイソチオシアネート(FITC)、フルオレシンチオOウレア(FTH)、7−アセトキシクマリン−3−イル、フルオレシン−5−イル、フルオレシン−6−イル、2’,7’−ジクロロフルオレシン−5−イル、2’,7’−ジクロロフルオレシン−6−イル、ジハイドロテトラメチルロダミン−4−イル、テトラメチルロダミン−5−イル、テトラメチルロダミン−6−イル、4,4−ジフルオロ−5,7−ジメチル−4−ボラ−3a,4a−ジアザ−s−インダセン−3−エチル及び4,4−ジフルオロ−5,7−ジフェニル−4−ボラ−3a,4a−ジアザ−s−インダセン−3−エチルからなる群から選択されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項5】
工程2)で、蛍光物質が付着したHIF−1ペプチドとVBCタンパク質を25℃の緩衝溶液で1:1から1:14の割合で混合して即時に測定可能であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項6】
工程3)で測定された工程2)反応物の蛍光偏光度が、蛍光プローブの蛍光偏光度より増加した場合には、蛍光プローブとVBCタンパク質が結合体を形成したと判断することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項7】
請求項1記載の方法を利用して、ハイドロキシプロリン基を含むHIF−1ペプチドとVBCタンパク質間の相互作用を阻害する物質を検索する方法。
【請求項8】
1)蛍光物質が結合されたハイドロキシプロリン基を含むHIF−1ペプチドとVBCタンパク質の反応溶液に阻害剤候補物質を添加して反応させる工程;
2)前記反応溶液の蛍光偏光度を測定して阻害剤候補物質の添加可否による蛍光偏光度の変化を観察する工程;及び
3)阻害剤候補物質の添加によりハイドロキシプロリン基を含むHIF−1ペプチドとVBCタンパク質の反応物の蛍光偏光度が減少した場合に、前記候補物質を阻害剤であると判定する工程を含むことを特徴とする請求項7記載の方法。
【請求項9】
請求項1記載の方法を利用して、プロリルハイドロキシラーゼ(prolyl hydroxylase)の活性を分析する方法。
【請求項10】
1)ハイドロキシプロリン基を含まないHIF−1ペプチドにプロリルハイドロキシラーゼを処理する工程;
2)前記酵素反応物をVBCタンパク質と反応させた後、蛍光偏光度を測定する工程;及び
3)工程2)で測定された蛍光偏光度をハイドロキシプロリン基を含むHIF−1ペプチドとVBCタンパク質との結合体の蛍光偏光度と比べる工程を含む請求項9記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2007−33430(P2007−33430A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−346539(P2005−346539)
【出願日】平成17年11月30日(2005.11.30)
【出願人】(595001181)コリア インスティテュート オブ サイエンス アンド テクノロジー (25)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年11月30日(2005.11.30)
【出願人】(595001181)コリア インスティテュート オブ サイエンス アンド テクノロジー (25)
【Fターム(参考)】
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