説明

プーリユニット

【課題】 高速回転領域における動力伝達効率を調整することにより、耐久性を低下させるような異常な高速回転状態の発生を防止するとともに、小型でコンパクトな構造を有するプーリユニットを提供する。
【解決手段】 オルタネータプーリ2の回転数が設定値を超えたとき、回転調整機構4のウェイト6に作用する遠心力が大きくなり、ウェイト6は圧縮コイルばね6aの付勢力に抗してラジアル方向外側へ移動する。スライド部材7は引張コイルばね7dの付勢力によってアキシャル方向の壁部3d側に追従移動する。スライド部材7が壁部3d側に移動するにつれて、磁石8との間隔Lは最大間隔L2に増大する。間隔L2の増大に伴って、間隔L2を満たす磁性流体Mでは、磁界と直交する方向のせん断応力が小さくなり、粘度が低下する。回転調整機構4によるオルタネータプーリ2からオルタネータ軸3への動力伝達効率が低下して、オルタネータプーリ2の回転数が設定値まで低下する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プーリユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車用エンジンのクランクシャフト(クランクプーリ)からベルト、プーリユニット等を介してオルタネータを駆動する場合、エンジンの高性能化・高速回転化に伴ってオルタネータも次第に高速で回転する傾向にある(特許文献1参照)。このため、発電効率を考慮したときに必要となる回転数(例えば5000rpm)をはるかに超える高速(例えば18000rpm)で回転する場合がある。このように、必要以上の高速で回転される結果、軸受、ブラシ等の主として摺動部分に摩耗による寿命低下を生じ、耐久性(信頼性)が低下する問題がある。
【0003】
【特許文献1】特開平5−263091号公報
【0004】
そして、自動車用エンジンで駆動されるオルタネータ、ウォータポンプ、エアコンプレッサ、パワーステアリングポンプ等の補機に主として用いられるプーリユニットにとって、このような高速領域での過酷な運転状況は、特許文献1等でも想定していなかった新たな課題と言える。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、高速回転領域における動力伝達効率を調整することにより、耐久性を低下させるような異常な高速回転状態の発生を防止するとともに、小型でコンパクトな構造を有するプーリユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係るプーリユニットは、
ベルトが巻掛けられるプーリと、そのプーリと同芯状に配置され一体回転可能な回転軸とのうち一方を原動体、他方を従動体として、それら原動体と従動体との間に回転調整機構が介装されたプーリユニットであって、
前記回転調整機構は、前記原動体と従動体との間に形成され磁性流体が封入された環状室内に配設されるとともに、
前記原動体の回転数に応じ前記従動体側においてアキシャル方向に沿って移動可能で磁性を有するスライド部材と、
そのスライド部材とアキシャル方向に所定の間隔を形成するように対向して前記原動体側に固定された磁石とを備え、
前記原動体の回転数が所定値を超えると前記スライド部材がアキシャル方向に移動して前記間隔を増大させ、その間隔の増大に伴って当該間隔を満たす前記回転調整機構による前記原動体から従動体への動力伝達効率を低下させることを特徴とする。
【0007】
このように、高速回転領域においては、磁性を有するスライド部材と磁石との間隔を増大させ、間隔の増大に伴って磁性流体の粘度が低下することを利用して、回転調整機構による原動体(プーリ又は回転軸)から従動体(回転軸又はプーリ)への動力伝達効率を低下させる。これによって、所定値以上の高速回転領域においては、動力伝達効率を低下させることによってそれ以上の高速回転になるのを防止できる。言い換えれば、所定の高速回転領域に至るまでは、高い動力伝達効率を維持して効率よく稼動させることができる。
【0008】
したがって、自動車用エンジンで駆動されるオルタネータ、ウォータポンプ、エアコンプレッサ、パワーステアリングポンプ等の補機側のプーリユニットに用いる場合には、高速回転領域におけるプーリから回転軸への動力伝達効率を低下させて、補機側の軸受等の耐久性を維持できる。一方、自動車用エンジンのクランクシャフト・クランクプーリ間のプーリユニットに用いる場合には、高速回転領域における回転軸(クランクシャフト)からプーリ(クランクプーリ)への動力伝達効率を低下させて、上記補機側の軸受等の耐久性を維持できるとともに、エンジンで発生するエネルギー(馬力)が補機側で無駄に消費されることを防止し、燃費の向上にも寄与することができる。
【0009】
しかも、回転調整機構は、磁性流体が封入された環状室内に磁性を有するスライド部材と磁石とを設ければよい。これによって、プーリユニットを小型でコンパクトな構造とすることができる。
【0010】
ここで、磁性流体とは、一般によく知られているように、マグネタイト等の強磁性体の固体微粒子を、界面活性剤を用いて液体中に均一に分散させた懸濁液である。磁場(磁界)の中の磁性流体は、固体微粒子が磁界の向きに沿ってクラスター(連鎖状構造)を形成するために、磁界と直交する方向のせん断応力(磁界の直交方向にせん断すべりを生じさせるための内部応力)が大きくなり、粘度が上昇する。可変粘性磁性流体は、磁界の強さに対して粘度が大きく変化する性質を有するので、例えば磁性体間の間隔が変わるだけで粘度が大幅に変動する。なお、MR流体(Magneto Rheological Fluid)も可変粘性磁性流体の一種と考えられる。
【0011】
したがって、磁性を有するスライド部材が磁石に対向配置され、両者のアキシャル方向の間隔を磁性流体が満たしていればよい。スライド部材は、強磁性体(例えばFe,Ni,Co及びそれらの合金)、常磁性体(例えばAl,Mn,Pb,Pt,K,Na及びそれらの合金)、反磁性体(例えばCu,Ag,Bi,Sb及びそれらの合金)のいずれで構成されていてもよい。ただし、磁性流体の粘度の変動幅を大きくするためには、スライド部材を強磁性体で構成することが望ましい。
【0012】
ところで、スライド部材には、原動体の回転数に応じて遠心力を発生しラジアル方向に移動可能な移動体が常時接触するように配置され、スライド部材は、その移動体が遠心力によってラジアル方向へ移動するのに追従してアキシャル方向に移動することが望ましい。回転時の遠心力によってラジアル方向に移動可能な移動体(例えば球状ウェイト)に追従移動させることにより、スライド部材はアキシャル方向に円滑に移動することができるようになる。
【0013】
また、移動体は、従動体からラジアル方向に延出して環状室の一方側の端面を形成する壁部と、その環状室内に配置されて壁部に近づく向きに付勢されたスライド部材との間に保持されていることが望ましい。このように、環状室の一部を形成する壁部を利用して移動体を保持しているので、環状室及びその内部を小型コンパクトに形成することができる。
【0014】
さらに、移動体をラジアル方向へ移動するとともにスライド部材をアキシャル方向に移動するために、従動体の壁部とスライド部材との対向面を、ラジアル方向外側へいくほど離間距離が大となるように形成するとよい。このように、外側ほど拡開するように壁部とスライド部材との対向面が形成されているので、移動体のラジアル方向外側への移動が円滑に行なえる。具体的には、壁部側を垂直面とし、スライド部材側をテーパー面とすることで、環状室の容積を十分に確保しつつ、移動体のラジアル方向外側への移動がさらに円滑に行なえる。
【0015】
ところで、磁石は、スライド部材に対して従動体の位置する側とは反対側において原動体側に固定され、スライド部材は、壁部に近づく向きに移動したときに磁石との間隔を増大させることができる。このように、磁石とスライド部材に関して環状室内部にコンパクトに収納するとともに、磁性流体の粘度を変化させるために両者の間隔を回転数の変化に容易に追従させることができる。これによって、プーリユニットの一層の小型化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
(実施例1)
以下、本発明の実施の形態につき図面に示す実施例を参照して説明する。図1は本発明に係るプーリユニットの一例を示す半断面図、図2はその高速回転時の作動を示す半断面図である。図1は自動車用エンジン(図示せず)で駆動されるオルタネータ(図示せず)のプーリユニット1を示し、エンジンからの駆動力がベルトBから伝達される原動体としてのオルタネータプーリ2(プーリ)と、オルタネータプーリ2と同芯状に配置されて一体回転可能な従動体としてのオルタネータ軸3(回転軸)と、オルタネータプーリ2とオルタネータ軸3との間に介装された回転調整機構4と、を備えている。したがって、図1において、エンジンの駆動力は、ベルトB→オルタネータプーリ2→回転調整機構4→オルタネータ軸3に伝達される。
【0017】
このうち、オルタネータプーリ2は、ベルトBを巻掛するための波状溝2aが外周に形成された円筒状のプーリ本体2bを有する。プーリ本体2bのアキシャル方向一端側(左端側)には、円環状のフランジ部2cがラジアル方向内側に向けて一体的に延出形成されている。
【0018】
一方、オルタネータ軸3は円筒状の軸本体3aを有し、その内面側に形成される取付軸孔3bにはオルタネータ入力軸(図示せず)が螺合固定されている。また、軸本体3aとプーリ本体2bとのアキシャル方向他端側(右端側)には、玉軸受11(転がり軸受;軸受部)が介装されている。なお、玉軸受11は、軸本体3aの外周面3cに固定された円環状の内輪11a(内側軌道輪)と、プーリ本体2bの内周面2dに固定された円環状の外輪11b(外側軌道輪)と、内輪11aと外輪11bとの間を転動する複数の玉(転動体)とを有する。また、玉軸受11は、アキシャル方向一端側(左端側)を、軸本体3aの外周面3c中央部からラジアル方向外側に向けて一体的に延出形成された円環状の壁部3dで支持されている。したがって、オルタネータプーリ2とオルタネータ軸3とのアキシャル方向の相対移動は玉軸受11及び壁部3dで規制されている。
【0019】
次に、回転調整機構4は、磁性流体Mが封入された環状室5内に配設されている。この環状室5は、プーリ本体2bの内周面2d及び軸本体3aの外周面3cと、上記したプーリ本体2bのフランジ部2c及び軸本体3aの壁部3dとにより、断面が矩形状となるように囲まれて、プーリユニット1の中央部から一端部側(左端部側)にドーナツ状に形成されている。なお、符号12は、プーリ本体2bの内周面2dと壁部3dの先端部との間、及び軸本体3aの外周面3cとフランジ部2cの先端部との間にそれぞれ介装された円環状の密封用シールを示す。
【0020】
この環状室5の内部には、回転に伴う遠心力によりラジアル方向に移動可能なウェイト6(移動体)と、軸本体3aの外周面3c上をアキシャル方向に沿って移動可能なスライド部材7と、プーリ本体2bのフランジ部2cに固定された磁石8とが収納されている。
【0021】
このうち、ウェイト6は球状に形成されて、周方向に所定角度間隔(例えば90°間隔)で複数(例えば4個)配置されている。各ウェイト6は、上記壁部3dの先端部からアキシャル方向一端部側(左端部側)に突出形成された円環状の鍔部3eの内面に、圧縮コイルばね6a(付勢部材)によってラジアル方向中心側に付勢支持されている。また、各ウェイト6は、壁部3dとスライド部材7とに常時接触するように挟まれて保持されている。
【0022】
スライド部材7は強磁性体(例えば鋼鉄製)で円環状に形成されるとともに、その内径部7aにすべり軸受であるブッシュ7bが固定され、アキシャル方向に沿って移動可能に設けられている。このスライド部材7は、垂直状の壁部3dと対向する対向面7cが、ラジアル方向外側へいくほど離れる(離間距離が大となる)ように、テーパー面状に形成されている。また、スライド部材7とウェイト6とは、壁部3dとスライド部材7との間に掛け渡された引張コイルばね7d(付勢部材)によって壁部3d側に付勢支持されている。
【0023】
したがって、ウェイト6はオルタネータプーリ2の回転が高速になると回転数に応じて遠心力を発生し、圧縮コイルばね6aの付勢力に抗してラジアル方向外側に移動する。スライド部材7は、ウェイト6がラジアル方向外側へ移動するのに追従して、引張コイルばね7dの付勢力によってアキシャル方向の壁部3d側に移動する(図2参照)。
【0024】
磁石8は円環状に形成されるとともに、オルタネータプーリ2のアキシャル方向一端部側(左端部側)においてプーリ本体2bのフランジ部2c内面(環状室5側)に固定されている。つまり、磁石8はスライド部材7と、アキシャル方向に磁性流体Mで満たされた間隔L(L1)を挟んで対向配置されている。したがって、スライド部材7がアキシャル方向の壁部3d側に移動すると、磁石8との間隔LはL2に増大する(図2参照)。
【0025】
次に、図1及び図2により、このように構成したプーリユニット1の作動について説明する。図1に示すように、オルタネータプーリ2が設定値(例えば5000rpm)で回転しているとき、スライド部材7と磁石8との間隔Lは初期間隔L1に保持されている。このとき、その間隔L1を満たす磁性流体Mでは、スライド部材7と磁石8との磁界を横切るせん断応力(磁界の直交方向にせん断すべりを生じさせるための内部応力)が大きくなり、粘度が高く維持されている(図5参照)。したがって、回転調整機構4によるオルタネータプーリ2からオルタネータ軸3への動力伝達効率が高く保持され、効率よく動力伝達が行われている。
【0026】
図2に示すように、オルタネータプーリ2の回転数が上記設定値を超えたとき、回転調整機構4のウェイト6に作用する遠心力が大きくなり、ウェイト6は圧縮コイルばね6aの付勢力に抗して垂直状の壁部3dとスライド部材7のテーパー状の対向面7cとで摺接案内されながらラジアル方向外側へ移動する。同時に、スライド部材7は引張コイルばね7dの付勢力によってアキシャル方向の壁部3d側に追従移動する。そして、スライド部材7が壁部3d側に移動するにつれて、磁石8との間隔Lは最大間隔L2に増大する。
【0027】
磁石8とスライド部材7との間隔L2の増大に伴って、その間隔L2を満たす磁性流体Mでは、磁界と直交する方向のせん断応力が小さくなり、粘度が低下する(図5参照)。したがって、回転調整機構4によるオルタネータプーリ2からオルタネータ軸3への動力伝達効率が低下して、オルタネータプーリ2の回転数が上記設定値まで低下する。
【0028】
このように、オルタネータプーリ2の回転数が設定値を超えたときに、回転調整機構4によるオルタネータプーリ2からオルタネータ軸3への動力伝達効率が低下するので、所定時間経過後にオルタネータプーリ2の回転数は再び設定値まで低下する。したがって、オルタネータプーリ2が異常な高速回転を行うのを防止し、軸受11やブラシ(図示せず)の耐久性が維持される。なお、最大間隔L2はオルタネータによる発電(充電)が支障なく行える範囲内に設定しておけばよい。
【0029】
(実施例2)
図3は本発明に係るプーリユニットの他の例を示す半断面図、図4はその高速回転時の作動を示す半断面図である。図3はオルタネータ(図示せず)を駆動する自動車用エンジン(図示せず)のプーリユニット101を示し、エンジンのクランクシャフトに直結される原動体としてのエンジン出力軸103(回転軸)と、エンジン出力軸103と同芯状に配置されて一体回転可能な従動体としてのエンジンプーリ102(プーリ)と、エンジン出力軸103とエンジンプーリ102との間に介装された回転調整機構4と、を備えている。したがって、図3において、エンジンのクランクシャフトの駆動力は、エンジン出力軸103→回転調整機構4→エンジンプーリ102→ベルトBに伝達される。
【0030】
このうち、エンジンプーリ102は、ベルトBを巻掛するための波状溝102aが外周に形成された円筒状のプーリ本体102bを有する。プーリ本体102bのアキシャル方向一端側(左端側)には、円環状のフランジ部102cがラジアル方向内側に向けて一体的に延出形成されている。
【0031】
一方、エンジン出力軸103は円筒状の軸本体103aを有し、その内面側に形成される取付軸孔103bにはクランクシャフト(図示せず)が螺合固定されている。また、軸本体103aとプーリ本体102bとのアキシャル方向他端側(右端側)には、玉軸受11(転がり軸受;軸受部)が介装されている。なお、玉軸受11は、軸本体103aの外周面103cに固定された円環状の内輪11a(内側軌道輪)と、プーリ本体102bの内周面102dに固定された円環状の外輪11b(外側軌道輪)と、内輪11aと外輪11bとの間を転動する複数の玉(転動体)とを有する。また、玉軸受11は、アキシャル方向一端側(左端側)を、プーリ本体102bの内周面102d中央部からラジアル方向内側に向けて一体的に延出形成された円環状の壁部102eで支持されている。したがって、エンジンプーリ102とエンジン出力軸103とのアキシャル方向の相対移動は玉軸受11及び壁部102eで規制されている。
【0032】
次に、回転調整機構4は、磁性流体Mが封入された環状室5内に配設されている。この環状室5は、プーリ本体102bの内周面102d及び軸本体103aの外周面103cと、上記したプーリ本体102bのフランジ部102c及び壁部102eとにより、断面が矩形状となるように囲まれて、プーリユニット101の中央部から一端部側(左端部側)にドーナツ状に形成されている。
【0033】
この環状室5の内部には、回転に伴う遠心力によりラジアル方向に移動可能なウェイト6(移動体)と、プーリ本体102bの内周面102d上をアキシャル方向に沿って移動可能なスライド部材7と、軸本体103aの外周面103cに固定された磁石8とが収納されている。
【0034】
このうち、ウェイト6は球状に形成されて、周方向に所定角度間隔(例えば90°間隔)で複数(例えば4個)配置されている。各ウェイト6は、上記壁部102eの基端部からアキシャル方向一端部側(左端部側)に突出形成された円環状の鍔部102fの内面に、圧縮コイルばね6a(付勢部材)によってラジアル方向中心側に付勢支持されている。また、各ウェイト6は、壁部102eとスライド部材7とに常時接触するように挟まれて保持されている。
【0035】
スライド部材7は強磁性体(例えば鋼鉄製)で円環状に形成されるとともに、その内径部7aにすべり軸受であるブッシュ7bが固定され、アキシャル方向に沿って移動可能に設けられている。このスライド部材7は、垂直状の壁部102eと対向する対向面7cが、ラジアル方向外側へいくほど離れる(離間距離が大となる)ように、テーパー面状に形成されている。また、スライド部材7とウェイト6とは、壁部102eとスライド部材7との間に掛け渡された引張コイルばね7d(付勢部材)によって壁部102e側に付勢支持されている。
【0036】
したがって、ウェイト6はエンジン出力軸103の回転が高速になると回転数に応じて遠心力を発生し、圧縮コイルばね6aの付勢力に抗してラジアル方向外側に移動する。スライド部材7は、ウェイト6がラジアル方向外側へ移動するのに追従して、引張コイルばね7dの付勢力によってアキシャル方向の壁部102e側に移動する(図4参照)。
【0037】
磁石8は円環状に形成されるとともに、エンジン出力軸103のアキシャル方向一端部側(左端部側)において内周面103cに固定されている。つまり、磁石8はスライド部材7と、アキシャル方向に磁性流体Mで満たされた間隔L(L1)を挟んで対向配置されている。したがって、スライド部材7がアキシャル方向の壁部102e側に移動すると、磁石8との間隔LはL2に増大する(図4参照)。
【0038】
次に、図3及び図4により、このように構成したプーリユニット101の作動について説明する。図3に示すように、エンジン出力軸103が設定値(例えば5000rpm)で回転しているとき、スライド部材7と磁石8との間隔Lは初期間隔L1に保持されている。このとき、その間隔L1を満たす磁性流体Mでは、スライド部材7と磁石8との磁界を横切るせん断応力(磁界の直交方向にせん断すべりを生じさせるための内部応力)が大きくなり、粘度が高く維持されている(図5参照)。したがって、回転調整機構4によるエンジン出力軸103からエンジンプーリ102への動力伝達効率が高く保持され、効率よく動力伝達が行われている。
【0039】
図4に示すように、エンジン出力軸103の回転数が上記設定値を超えたとき、回転調整機構4のウェイト6に作用する遠心力が大きくなり、ウェイト6は圧縮コイルばね6aの付勢力に抗して垂直状の壁部102eとスライド部材7のテーパー状の対向面7cとで摺接案内されながらラジアル方向外側へ移動する。同時に、スライド部材7は引張コイルばね7dの付勢力によってアキシャル方向の壁部102e側に追従移動する。そして、スライド部材7が壁部102e側に移動するにつれて、磁石8との間隔Lは最大間隔L2に増大する。
【0040】
磁石8とスライド部材7との間隔L2の増大に伴って、その間隔L2を満たす磁性流体Mでは、磁界と直交する方向のせん断応力が小さくなり、粘度が低下する(図5参照)。したがって、回転調整機構4によるエンジン出力軸103からエンジンプーリ102への動力伝達効率が低下して、エンジン出力軸103の回転数が上記設定値まで低下する。
【0041】
このように、エンジン出力軸103の回転数が設定値を超えたときに、回転調整機構4によるエンジン出力軸103からエンジンプーリ102への動力伝達効率が低下するので、所定時間経過後にエンジン出力軸103の回転数は再び設定値まで低下する。したがって、エンジン出力軸103が異常な高速回転を行うのを防止し、軸受11やブラシ(図示せず)の耐久性が維持される。また、エンジンで発生するエネルギー(馬力)がオルタネータ側で無駄に消費されることを防止し、燃費の向上にも寄与することができる。なお、最大間隔L2はオルタネータによる発電(充電)が支障なく行える範囲内に設定しておけばよい。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明に係るプーリユニットの一例を示す半断面図。
【図2】図1のプーリユニットの高速回転時の作動を示す半断面図。
【図3】本発明に係るプーリユニットの他の例を示す半断面図。
【図4】図3のプーリユニットの高速回転時の作動を示す半断面図。
【図5】磁石とスライド部材との間隔と、磁性流体の粘度及び動力伝達効率との関係を示すグラフ。
【符号の説明】
【0043】
1 プーリユニット
2 オルタネータプーリ(プーリ)
3 オルタネータ軸(回転軸)
4 回転調整機構
5 環状室
6 ウェイト(移動体)
7 スライド部材
8 磁石
101 プーリユニット
102 エンジンプーリ(プーリ)
103 エンジン出力軸(回転軸)
B ベルト
M 磁性流体
L 間隔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベルトが巻掛けられるプーリと、そのプーリと同芯状に配置され一体回転可能な回転軸とのうち一方を原動体、他方を従動体として、それら原動体と従動体との間に回転調整機構が介装されたプーリユニットであって、
前記回転調整機構は、前記原動体と従動体との間に形成され磁性流体が封入された環状室内に配設されるとともに、
前記原動体の回転数に応じ前記従動体側においてアキシャル方向に沿って移動可能で磁性を有するスライド部材と、
そのスライド部材とアキシャル方向に所定の間隔を形成するように対向して前記原動体側に固定された磁石とを備え、
前記原動体の回転数が所定値を超えると前記スライド部材がアキシャル方向に移動して前記間隔を増大させ、その間隔の増大に伴って当該間隔を満たす磁性流体の粘度が低下することにより、前記回転調整機構による前記原動体から従動体への動力伝達効率を低下させることを特徴とするプーリユニット。
【請求項2】
前記スライド部材には、前記原動体の回転数に応じて遠心力を発生しラジアル方向に移動可能な移動体が常時接触するように配置され、
前記スライド部材は、その移動体が遠心力によってラジアル方向へ移動するのに追従してアキシャル方向に移動する請求項1に記載のプーリユニット。
【請求項3】
前記移動体は、前記従動体からラジアル方向に延出して前記環状室の一方側の端面を形成する壁部と、その環状室内に配置されて前記壁部に近づく向きに付勢された前記スライド部材との間に保持されている請求項2に記載のプーリユニット。
【請求項4】
前記移動体をラジアル方向へ移動するとともに前記スライド部材をアキシャル方向に移動するために、前記従動体の壁部と前記スライド部材との対向面は、ラジアル方向外側へいくほど離間距離が大となるように形成されている請求項3に記載のプーリユニット。
【請求項5】
前記磁石は、前記スライド部材に対して前記従動体の位置する側とは反対側において前記原動体側に固定され、
前記スライド部材は、前記壁部に近づく向きに移動したときに前記磁石との間隔を増大させる請求項3又は4に記載のプーリユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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