説明

プーリ装置

【課題】スリーブの工具掛け部の面精度を向上することができるとともに、工具掛け部の加工時間の短縮及びコストダウンを図ることができるプーリ装置を提供することにある。
【解決手段】一方向クラッチ内蔵型プーリ装置10では、工具掛け部11bの断面形状は、六角形の各辺から等しい長さの円弧がはみ出るように六角形と円とを重ね合わせた図形の外周形状を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プーリ装置に関するものであり、特に、自動車補機であるスタータ、オルタネータ、クランクプーリ、コンプレッサや、エンジンアイドルストップ時のモータによる補機駆動用またはエンジン始動用等として使用する一方向クラッチ内蔵型プーリ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、オルタネータ等、自動車用補機の回転軸の端部には従動プーリが固定されており、エンジンのクランク軸の端部に固定された駆動プーリとの間に無端ベルトが掛け渡され、補機を駆動するために利用されている。また、従動プーリとしては、無端ベルトの走行速度が一定もしくは上昇傾向にある場合に、無端ベルトから回転軸への動力の伝達を自在とし、無端ベルトの走行速度が低下傾向にある場合に、従動プーリと回転軸との相対回転を自在とするよう、一方向クラッチを内蔵したプーリ装置が知られている(例えば、特許文献1〜3参照。)。
【0003】
例えば、図6に示すように、オルタネータに組み込まれる一方向クラッチ内蔵型プーリ装置100は、エンジンのクランク軸に固定された駆動プーリからの駆動ベルトが掛け渡されるプーリ101と、オルタネータの回転軸に固定されるスリーブ102とを備え、プーリ101とスリーブ102との間に、一方向クラッチ103及び一対のサポート軸受104が配置されている。
【0004】
そして、プーリ101の回転角速度がオルタネータの回転軸の回転角速度より速い場合には、一方向クラッチ103のローラのくさび作用によって、プーリ101とスリーブ102とが相対回転不能(ロック状態)になり、エンジンの回転力がオルタネータの回転軸に伝達される。一方、速度変動や微小角速度変動等、プーリ101の回転角速度がオルタネータの回転軸の回転角速度より遅い場合には、プーリ101とスリーブ102との相対回転が自在(オーバーラン状態)となる。従って、クランク軸の回転角速度が変動した場合でも、一方向クラッチ103の作用により、無端ベルトとプーリ101が擦れ合うことが防止され、鳴きと呼ばれる異音の発生や摩耗による無端ベルトの寿命低下を防止すると共に、オルタネータの発電効率が低下することを防止できる。
【0005】
また、スリーブ102の内周面には、オルタネータの回転軸を固定するため、回転軸をがたつきなく嵌合するための軸嵌合用円孔部102aと、回転軸を螺合固定するための雌ねじ部102bと、スリーブ102と回転軸とを固定するため工具が係止可能な断面形状が六角形の工具掛け部102cとが形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−32910号公報
【特許文献2】特開2001−355710号公報
【特許文献3】特開2001−27308号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、六角形の工具掛け部102cは、通常、スリーブ102に所定の内径の下穴を最初に加工した後、六角形のツールを用いてプレス加工し、下穴の内周面がなくなるまでスリーブ102を塑性変形させることで形成される。
【0008】
ここで、プレス加工時において、工具掛け部102cの六角形の頂点付近と六角形の一辺の中間付近においては加工代が大きく異なり、プレス成形時の各部の応力の違いから成形後の六角形の工具掛け部102cの面精度があまり良好でないという課題があった。
【0009】
本発明は、上述したような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、スリーブの工具掛け部の面精度を向上することができるとともに、工具掛け部の加工時間の短縮及びコストダウンを図ることができるプーリ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1) 内周面に、断面六角形の工具が係止可能な工具掛け部と、回転軸が嵌合される軸嵌合部と、前記回転軸の先端の雄ねじが螺合される雌ねじ部と、を有し、前記雌ねじ部が前記工具掛け部と前記軸嵌合部との間に位置するスリーブと、
該スリーブの周囲に該スリーブと同心に配置されるプーリと、
を備えるプーリ装置であって、
前記工具掛け部の断面形状は、六角形の各辺から等しい長さの円弧がはみ出るように六角形と円とを重ね合わせた図形の外周形状を有していることを特徴とするプーリ装置。
(2)前記工具掛け部の前記円弧の断面形状を構成する面は、前記六角形の断面形状を構成する面を加工する前に形成される下穴であることを特徴とする(1)に記載のプーリ装置。
(3) スリーブとプーリとの間に配置される一方向クラッチをさらに備えることを特徴とする(1)又は(2)に記載のプーリ装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、工具掛け部の断面形状は、六角形の各辺から等しい長さの円弧がはみ出るように六角形と円とを重ね合わせた図形の外周形状を有しているので、工具掛け部の円の断面形状を構成する面がなくなるまで、六角形の断面形状を構成する面をプレス加工する必要がなくなり、プレス加工の際の加工代が少なくなることから、工具掛け部の面精度を向上することができる。また、加工に要するプレス圧も少なくなり、加工時間も短縮することができる。加えて、プレス加工の際の変形量も小さいので、外径が小さい、薄肉のスリーブを形成することができ、或いは、工具掛け部の六角形の断面形状を大きくすることができる。これにより、面精度の向上、加工の容易化、小型化、コストダウンが図られたプーリ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係る一方向クラッチ内蔵型プーリ装置の縦断面図である。
【図2】(a)は図1のスリーブの断面図であり、(b)は(a)の側面図であり、(c)は(b)のII部拡大図である。
【図3】(a)は、冷間鍛造工程前のスリーブの断面図であり、(b)は、冷間鍛造工程後のスリーブの断面図である。
【図4】(a)はスリーブを冷間鍛造するための鍛造金型の正面図であり、(b)は(a)の側面図である。
【図5】(a)はスリーブの雌ねじ部加工工程のタップが加工開始点位置にある状態を示す断面図であり、(b)は(a)の側面図であり、(c)は、タップが加工終了点位置にある状態を示す断面図である。
【図6】従来の一方向クラッチ内蔵型プーリ装置の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態に係るプーリ装置について図面を参照して詳細に説明する。
【0014】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態のオルタネータ用一方向クラッチ内蔵型プーリ装置を説明するための縦断面図である。図1に示されるように、本実施形態の一方向クラッチ内蔵型プーリ装置10は、オルタネータ等の補機を駆動するためのもので、図示されない回転軸が内嵌されるスリーブ11を有する。スリーブ11の周囲には、外周面にプーリ溝12aが形成されたプーリ12がスリーブ11と同心に配置されている。また、スリーブ11の外周面とプーリ12の内周面との間で、この間に形成される環状空間の軸方向中間部には、一方向クラッチ13が配置されており、上記環状空間の軸方向両端部、即ち、一方向クラッチ13の軸方向両側には、例えば、深溝玉軸受等の玉軸受である一対のサポート軸受14が配設されている。なお、ベルト溝12aの形状は、V溝、ポリV溝、歯型溝等の任意の形状に設計可能である。
【0015】
一方向クラッチ13は、プーリ12がスリーブ11に対して所定方向に相対回転する傾向となる場合にのみプーリ12からスリーブ11への回転力を伝達する。また、一対のサポート軸受14は、プーリ12に加わるラジアル荷重を支承しつつ、スリーブ11とプーリ12との相対回転を可能とする。
【0016】
各サポート軸受14は、スリーブ11の外周面に外嵌される内輪15と、プーリ12の内周面に内嵌される外輪16と、内輪15と外輪16の両軌道面間に配置された転動体である複数の玉17と、玉17を転動自在に保持する保持器18と、外部からの異物の浸入や内部からのグリース等の潤滑剤の漏洩を防止するシール部材19を有している。
【0017】
一方向クラッチ13は、プーリ12の内周面に圧入固定されるクラッチ外輪20と、スリーブ11の大径部の外周面に圧入固定されるクラッチ内輪21と、クラッチ外輪20とクラッチ内輪21との間に回動自在に配設された係合子である複数のローラ22とを備えている。クラッチ内輪21の外周面は、ローラ22が転接する嵌合部である複数の凹状のランプ面21aが円周方向に所定の間隔で設けられたカム面を形成する。ローラ22は、各ランプ面21aとクラッチ外輪20の内周面に形成された円筒面20aとから構成される楔空間に回転自在に保持されている。
【0018】
また、一方向クラッチ13は、各ローラ22を個別に収容する複数のポケットを有するクラッチ保持器23と、各ローラ22をロック方向に弾性的に押圧する弾性部材であるばね24とを備えている。
【0019】
上記のように構成される一方向クラッチ内蔵型プーリ装置10では、プーリ12の回転角速度が、例えばオルタネータの回転軸の回転角速度より速い場合には、一方向クラッチ13のローラ22がくさび作用によってクラッチ内輪21のランプ面21aとクラッチ外輪20の円筒面20aとの間に噛み込まれて、プーリ12とスリーブ11とが相対回転不能(ロック状態)となり、エンジンの回転力がオルタネータの回転軸に伝達される。一方、プーリ12の回転角速度がオルタネータの回転角速度より遅い場合には、ローラ22の噛み込みが解除されて、プーリ12とスリーブ11との相対回転が自在(オーバーラン状態)となる。
【0020】
図2にも示すように、上記のプーリ装置10において、スリーブ11の内周面は、オルタネータの回転軸が挿入されるオルタネータ側に軸嵌合部である軸嵌合用円孔部11aと、オルタネータ側と反対側の自由端側に六角レンチ等の工具が係合可能な工具掛け部11bと、軸嵌合用円孔部11aと工具掛け部11bとの間に形成され、図示しない回転軸の雄ねじ部と螺合可能な雌ねじ部11cと、を備える。
【0021】
また、軸嵌合用円孔部11aの内径dと、雌ねじ部11cの最大内径寸法Dとの寸法関係が、D≧dの関係にある場合には、軸嵌合用円孔部11aと雌ねじ部11cとの間に逃がし部11dが形成される。この逃がし部11dは、雌ねじ部11cをねじ加工する際に使用される後述のタップ30(図5参照。)が軸嵌合用穴部11aの内周面と干渉するのを回避するために形成される。
【0022】
工具掛け部11bの断面形状は、図2(b)及び図2(c)に示されるように、六角形の各辺から等しい長さの円弧がはみ出るように六角形と円とを重ね合わせた図形の外周形状を有しており(以下、この円を「仮想円」と言い、六角形からはみ出した円弧を「円弧逃がし部」と言う。)、即ち、円弧逃がし部aを除いた六角形の平坦部bの対向する2平面幅Wは、仮想円Cの径D1より小さくなるように設定されている(W<D1)。
【0023】
また、工具寸法により決定される六角形の平坦部bの対向する2平面幅Wの設定値にもよるが、可能であるならば、仮想円Cの径D1は、タップ30の外径との干渉を避けるために、D1>Dに設定されることが好ましい。
【0024】
さらに、逃がし部11dの内径D2は、雌ねじ部11cの最大内径Dより大きく設定されており、その軸方向長さLは、後述する雌ねじ加工用タップ30による雌ねじ部11cの加工終了時点において、タップ30が軸嵌合用円孔部11aとの干渉を避けるように、タップ30の食い付き部30bのテーパ長さlとねじ1ピッチ程度を合計した長さ以上に設定されている。
【0025】
次に、加工方法の一例として、図2に示すような、軸嵌合用円孔部11aの内径dと雌ねじ部11cの最大内径寸法DとがD≧dの寸法関係を、該最大内径寸法Dと仮想円Cの径D1とがD1>Dの寸法関係を有するスリーブ11の加工方法について説明する。まず、スリーブ材料として鋼丸棒を所望の長さに切断した後、図3(a)に示すような内径の異なる中空のスリーブ鍛造素材Sを造る。
【0026】
ここで、スリーブ鍛造素材Sには、上記仮想円Cの径D1に対応する大径の下穴a1が加工された部分に、図4に示すような平面部b1を持った六角形の鍛造金型(パンチ)40によって数回の冷間鍛造加工(プレス加工)が行われる。この鍛造金型40の六角形の対向する2平面幅は大径の下穴a1の内径よりも小さく設定されており、プレス加工は、図3(b)に示すように、下穴a1の内周面を部分的に残すようにして行われる。このようなプレス加工では、下穴a1がなくなるまで六角形の断面形状を構成する面をプレス加工する場合に比べて、加工代が少なくなることから、工具掛け部11bの面精度を向上することができる。この結果、工具掛け部11bの断面形状は、六角形の各辺から等しい長さの円弧がはみ出るように六角形と円とを重ね合わせた図形の外周形状を有し、該円弧の断面形状を構成する面である円弧逃がし部aは、下穴a1によって構成され、該六角形の断面形状を構成する面である平坦部bは、プレス加工によって構成される。その後、雌ねじ部11c以外の内径、外径、及び端面が、旋削や研削にて所望の寸法に加工される。
【0027】
次に、図5に示すように、雌ねじ部11cがタップ30を用いて加工される。タップ30には切削タップや成形(盛上げ、転造)タップなどの種類があるが、いずれもそのタップ寸法が被加工物に転写される。タップ30は、所定のねじピッチPでねじが切られた外径Dを有する平行ねじ部30aと、ねじ部30aの先端に設けられ、通常1〜4ピッチ程度の長さlを有する被加工物への食い付きテーパ部30bとを備える。
【0028】
図5(a)及び(b)に示すように、スリーブ11の工具掛け部11bは、タップ30の平行ねじ部30aの外径Dより大きい仮想円Cを構成する円弧逃がし部aを有しているので、タップ30は、雌ねじ部11cを加工する図5(a)に示す加工開始点の位置まで、工具掛け部11bと干渉することなく挿入される。
【0029】
また、タップ30もしくは被加工物が回転駆動されると、加工するねじが右ねじの場合は右回転によりタップ30が奥へ進み、左回転によって後退する(左ねじの場合はその逆の動作となる。)。この回転駆動により、雌ねじ部のタップ加工は進行するが、その軸方向送り速度はタップ30もしくは被加工物1回転当たりのねじピッチ量となる。
【0030】
このようにして、タップ30を加工開始点の位置まで挿入した後、タップ30もしくは被加工物を回転駆動すると、食い付きテーパ部30bが被加工物に切込み、回転と送りを与える事により、食い付きテーパ部30bに沿ってねじが形成され、タップ30の平行ねじ部30aの寸法に加工される。
【0031】
回転と送りによりタップ30は進行し、被加工物の所望の完全ねじ位置Tを食い付きテーパ部30bが完全に抜けることにより、被加工物に形成されるねじが雌ねじ部11cの軸方向長さ全長に亘って完全に形成され、図5(c)に示される位置が加工終了点となる。
【0032】
この加工終了点でタップ30もしくは被加工物の回転駆動を停止、且つ送りも停止して逆転に備えるが、タップ30もしくは被加工物を駆動する主軸機構には回転慣性があり瞬時に回転および送りを停止することができない。このため、停止させようとする点から僅かにタップが進行してしまう。また、食い付きテーパ部30bの長さにも製作上の誤差があるため、安定して完全ねじ位置を確保するためには、タップ30を進行方向に進めて停めるのが一般的である。
【0033】
一方、スリーブ11は、図5(c)に示すように、タップ30の外径Dよりも大きな内径D2を有する逃がし部11dが食い付きテーパ部30bの長さlとねじ1ピッチ程度の余裕代の合計長さを有するように形成されるので、タップ30は、加工終了時点においてもスリーブ11の軸嵌合用円孔部11aと干渉することがない。
【0034】
そして、前述のように被加工物に完全にねじを形成した後、タップ30もしくは被加工物を逆転させるとともに、戻り方向に1回転あたり1ピッチ分の送りで戻すことにより、タップ30の抜取り加工が完了する。
【0035】
前述したタップ加工においては、タップ寸法がそのまま被加工物に形成されるので、加工機械の熱変位の影響が無く、寸法補正が不要なので補正作業ミスも発生しないので、ねじ旋削加工と比較してねじ外径寸法やねじ有効径寸法が安定する。
【0036】
また{(ねじ長さ/ねじピッチ)+食い付きテーパ部の長さ}×2(行・帰り各1回)分の長さの工具移動で加工が完了するので、ねじ旋削加工で数回に分けて切込み加工を行う場合と比較して、加工時間が短縮できる。特に小径のねじのねじ旋削加工の場合、バイトが小さいためバイト剛性が低く、旋削時のビビリ抑制のため加工条件を低くしなければならないので、タップ加工はこのような場合に非常に有利となる。更に、前述のように形成された雌ねじの寸法が安定することにより、検査の頻度を減らし工数低減が可能となる。
【0037】
従って、本実施形態の一方向クラッチ内蔵型プーリ装置10によれば、工具掛け部11bの断面形状は、六角形の各辺から等しい長さの円弧がはみ出るように六角形と円とを重ね合わせた図形の外周形状を有している。このため、工具掛け部11bの下穴a1がなくなるまで六角形の断面形状を構成する面をプレス加工しないので、プレス加工の際の加工代が少なくなることから、工具掛け部11bの面精度を向上することができる。また、加工に要するプレス圧も少なくなり、加工時間も短縮することができる。加えて、プレス加工の際の変形量も小さいので、外径が小さい、薄肉のスリーブ11を形成することができ、或いは、工具掛け部11bの六角形の断面形状を大きくすることができる。これにより、面精度の向上、加工の容易化、小型化、コストダウンが図られたプーリ装置10を提供することができる。
また、円弧逃がし部aは、下穴a1によって構成されるので、平坦部bを加工した後、円弧逃がし部aを別途形成する必要がなく、製造コストの増加を抑えることができる。
【0038】
また、円弧逃がし部aを持った工具掛け部11bの仮想円Cが、タップ30の外径(雌ねじ部の最大内径)Dよりも大きいので、タップ30は工具掛け部11bに干渉することなく挿入可能となる。
さらに、雌ねじ部11cの最大内径Dは、軸嵌合用円孔部11aの内径と略等しく、軸嵌合用円孔部11a側からタップ30を挿入することが不可能な場合にも、工具掛け部側から雌ねじ部11cのタップ加工が可能となる。
なお、雌ねじ部11cの最大内径Dが軸嵌合用円孔部11cの内径と略等しいとは、雌ねじ部の最大内径の公差を持った寸法範囲と軸嵌合用円孔部11cの内径の公差を持った寸法範囲が部分的に重なる部分を有することを意味する。
【0039】
また、雌ねじ部11cと軸嵌合用円孔部11aとの中間にタップ30の外径(雌ねじ部の最大内径)Dよりも大きい内径D2である逃がし部11dが、タップ食い付き部30bの長さとねじ1ピッチ分の合計よりも長く付設されるので、雌ねじ部11cの加工部位において不完全ねじとなることを防止し、且つ軸嵌合用円孔部11aにタップ30が干渉することを防止できる。
【0040】
加えて、タップ30の食い付きテーパ部30bの長さよりもねじ1ピッチ以上長く逃がし部11dの長さを設定することにより、タップ30を正回転加工した後逆回転で戻す際、正回転から逆回転に回転切替えする際のタップ30及び回転駆動主軸の慣性によって、意図する回転切替え位置よりも長くタップ30が進んでしまった場合にも、タップ30が軸嵌合用円孔部に干渉することを防止することができる。
【0041】
また、タップ30の外径よりも大きい仮想円Cを構成する円弧逃がし部aを付設した工具掛け部側からタップ30を挿入することにより、雌ねじ部11c以外のスリーブ11の内周面のどこにもタップ30が干渉してキズ付けることがなく、タップ加工開始点にタップ30を位置決めできる。そして、雌ねじ部11cを切削もしくは成形(盛上げタップ、転造タップ)を行い、そのタップ30の加工終点位置は、軸嵌合用円孔部11aに隣接した逃がし部11dの範囲内とするので、雌ねじ部以外のスリーブ11の内周面のどこにも干渉してキズ付けることなくタップ加工を終了することができる。
【0042】
加えて、上記によって雌ねじ加工方法をねじ切り旋削加工からタップ加工とすることが可能であり、タップ加工することにより以下の効果がある。
1)加工用タップのねじ有効径と外径と谷径と山形状が、そのままスリーブ内径部に転写されるので、加工機械の熱変位や作業者の寸法修正ミスやねじ切りバイト先端の磨耗などの不安定要素が解消され、ねじ精度が安定する。
2)ねじ精度が安定するので、ねじ検査の頻度を少なくでき、検査工数が低減できる。
3)ねじ精度が安定するので、細やかな寸法補正の必要が無く、寸法補正にかかる工数を低減できる。
4)タップ加工では、タップを適当な回転数で回転駆動しながら、1回転あたりねじピッチと同じ送り速度でタップを進め、加工終点位置で逆転させてタップを逆方向に抜取る作業1回でねじ成形できるので、加工時間が短くできる。
【0043】
なお、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良等が可能である。
【0044】
本発明の一方向クラッチは、スリーブとプーリとの間で回転力を伝達するものであればよく、本実施形態のように、プーリがスリーブに対して所定の方向に相対回転する傾向となる場合にのみ、回転力を伝達する一方向クラッチでもよいし、クラッチ内輪の外周面を円筒面と、クラッチ外輪の内周面を複数のランプ面を有するカム面とし、スリーブがプーリに対して所定の方向に相対回転する傾向となる場合にのみ、回転力を伝達する一方向クラッチでもよい。
【0045】
また、本発明の一方向クラッチは、本実施形態のようなローラクラッチであってもよく、カムクラッチやスプラグクラッチであってもよい。また、一方向クラッチのクラッチ外輪或いはクラッチ内輪は、本実施形態のようにプーリ或いはスリーブと別体であってもよく、プーリ或いはスリーブと一体、即ち、プーリの内周面或いはスリーブの外周面によって構成されてもよい。
【0046】
さらに、本発明の一対のサポート軸受は、深溝玉軸受以外の形式であってもよく、ころ軸受や、玉軸受ところ軸受の組合せであってもよい。また、サポート軸受の内輪或いは外輪も、プーリ或いはスリーブと一体、即ち、プーリの内周面或いはスリーブの外周面によって構成されてもよい。
【符号の説明】
【0047】
10 一方向クラッチ内蔵型プーリ装置
11 スリーブ
11a 軸嵌合用円孔部(軸嵌合部)
11b 工具掛け部
11c 雌ねじ部
11d 逃がし部
12 プーリ
12a プーリ溝
13 一方向クラッチ
14 サポート軸受
a 円弧逃がし部
b 平面部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に、断面六角形の工具が係止可能な工具掛け部と、回転軸が嵌合される軸嵌合部と、前記回転軸の先端の雄ねじが螺合される雌ねじ部と、を有し、前記雌ねじ部が前記工具掛け部と前記軸嵌合部との間に位置するスリーブと、
該スリーブの周囲に該スリーブと同心に配置されるプーリと、
を備えるプーリ装置であって、
前記工具掛け部の断面形状は、六角形の各辺から等しい長さの円弧がはみ出るように六角形と円とを重ね合わせた図形の外周形状を有していることを特徴とするプーリ装置。
【請求項2】
前記工具掛け部の前記円弧の断面形状を構成する面は、前記六角形の断面形状を構成する面を加工する前に形成される下穴であることを特徴とする請求項1に記載のプーリ装置。
【請求項3】
前記スリーブと前記プーリとの間に配置される一方向クラッチをさらに備えることを特徴とする請求項1又は2に記載のプーリ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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