説明

プーリ

【目的】金属製のボスの周囲を合成樹脂が被覆してベルト車を形成するタイプのプーリを簡単に製造できるようにすること。
【構成】アルミニウム合金材で略円板状のボス板部1と、合成樹脂材で前記ボス板部1を周方向に沿って覆うプーリ外周部2とからなること。前記ボス板部1には、少なくとも前記プーリ外周部2によって覆われる被覆接合領域Sに無数の超微細小な凹部11,11,…が形成されること。前記プーリ外周部2は、成形により溶融樹脂が前記被覆接合領域Sの超微細小な凹部11,11,…に入り込んで接合固着されること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載されるエンジンやモータ等の駆動源により発生する回転駆動力を、ベルトを介して所望の部品に伝達するために使用されるプーリに関する。
【背景技術】
【0002】
車両のパワーステアリングポンプに回転駆動力を伝えるためのベルト伝動装置に用いられる樹脂モールドプーリが特許文献1(実開平4−106548)に開示されている。特許文献1を詳述すると、中央にシャフト(6)への固定用のボス部分(2b)を有するアルミニウム製の環状固定部(2)をインサートする状態で、樹脂製のプーリー部(4)をモールド成形したものであって、シャフト(6)端部の雄ネジ部(6a)に対してナット8を締め込むことでシャフト(6)に固定するように用いられる樹脂モールドプーリである。
【0003】
そして、アルミニウムダイカスト(鋳造)製の環状固定部(2)の外周部分(2c)には、熱硬化性樹脂製のプーリー部(4)との結合性を高めるために突起部分(2h)が複数形成されている。該突起部分(2h)が形成されることで、プーリー部(4)と環状固定部(2)の結合が外れてプーリー部(4)が回転方向に移動してしまうことを防止している。さらに、詳述すると特許文献1では、図1の左右方向(いわゆる軸方向)にプーリー部(4)が抜けないように、プーリー部(4)の内側環状部分(4a)は環状固定部(2)の外周部分(2c)を左右両方向から覆っている。
【0004】
プーリー部(4)が環状固定部(2)に対して径方向に移動することを防止するために外周部分(2c)が形成されており、ベルト荷重を支えるために外周部分(2c)の軸方向の長さは円板部分(2a)の軸方向の長さよりも長く形成されている。プーリー部(4)が環状固定部(2)に対して回転方向に移動することを防止するために突起部分(2h)が形成され、それに対応したプーリー部(4)の内側環状部分(4a)は凹形状となっている。上記3つの固定手段によりプーリー部(4)は環状固定部(2)に対して、軸方向にも径方向にも回転方向にも移動しないようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平4−106548
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、樹脂とアルミの熱膨張係数は異なり、一般に樹脂の方がアルミよりも熱膨張係数が大きいため、例えば低温時にしっかり隙間無く固定されていたとしても、高温時には外周側に配置された樹脂製のプーリー部(4)の方がアルミ製の環状固定部(2)よりも熱により大きく膨張する。このため高温時には、アルミ製の環状固定部(2)の外周部分(2c)に形成された突起部分(2h)と樹脂製のプーリー部(4)の内側環状部分(4a)との間に極僅かな微小隙間が発生する。また、逆にアルミ側の熱膨張係数が大きい場合には、高温時におけるクリープ変形が生じ、やはり微小隙間が発生する。
【0007】
特許文献1のような樹脂モールド成形では、プーリー部(4)は環状固定部(2)を覆ってはいるが表面は凹凸の無い表面(理解し易く言えば、つるつる)であるため、樹脂とアルミが固着するようにはなっておらず、樹脂は単にアルミを覆っているだけである。そのため突起部分(2h)と内側環状部分(4a)の極僅かな微小隙間でフレッティング(微小滑りによる繰り返したたかれる状態)が発生することによりプーリー部(4)の耐久性が低下したり、突起部分(2h)の摩耗が促進したりする恐れがある。
【0008】
摩耗の促進は、樹脂には通常ガラス繊維が配合されており、初期は、アルミよりも軟らかい樹脂モールド側が摩耗するが、やがて、摩耗が進んで樹脂モールド内のガラス繊維が露出してくると、金属部分と擦れ合うことになる。そして、ガラス繊維は、アルミよりも硬い材質なので、今度はアルミが摩耗し始めることになる。また回転方向の回り止めが小さな突起部分(2h)のみで行われているため結合力は低く、また突起部分(2h)に応力が集中しがちである。
【0009】
また、突起部分(2h)を形成するためには鋳造金型を、突起部分(2h)の形状と相補形状である小さな凹形状を有した形状にする必要があるが、鋳造金型の小さな凹形状は金型製作費を高くさせ、且つ鋳造時の繰り返し荷重や熱変形にも弱く、金型メンテナンスが大変である。さらに、ベルト荷重を支えるために外周部分(2c)の軸方向の長さを長く形成する必要があるため、特許文献1のプーリは必要以上に軸方向に長いプーリとなってしまうものであった。本発明の目的(技術的課題)は、モールド樹脂タイプの、金属製のボスの周囲を合成樹脂が被覆してベルト車を形成するタイプのプーリを簡単に製造することができ、且つ耐久性において極めて優れたプーリを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、発明者は、上記課題を解決すべく、鋭意,研究を重ねた結果、請求項1の発明を、アルミニウム合金材で略円板状のボス板部と、合成樹脂材で前記ボス板部を周方向に沿って覆うプーリ外周部とからなり、前記ボス板部には、少なくとも前記プーリ外周部によって覆われる被覆接合領域に無数の超微細小な凹部が形成され、前記プーリ外周部は、成形により溶融樹脂が前記被覆接合領域の超微細小な凹部に入り込んで接合固着されてなるプーリとしたことにより、上記課題を解決した。
【0011】
請求項2の発明を、請求項1において、前記ボス板部の少なくとも被覆接合領域は、多数の小さな窪み部からなる起伏面としてなるプーリとしたことにより、上記課題を解決した。請求項3の発明を、請求項1又は2において、前記ボス板部の側面には、直径中心を同一とする円周状のビード部が形成され、該ビード部は前記プーリ外周部の挟持片が接合されてなるプーリとしたことにより、上記課題を解決した。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明では、アルミニウム合金製のボス板部の少なくとも合成樹脂製のプーリ外周部による被覆接合領域には、全て超微細小な凹部が形成され、アルミニウム合金製のプーリ外周部の超微細小な凹部にプーリ外周部の合成樹脂の一部が入り込むことにより、プーリ外周部がボス板部の外周側を樹脂が覆う領域全てにおいて軸方向,径方向,回転方向に対して強固に固着される。したがって、プーリ外周部はボス板部に対して軸方向,径方向,回転方向全ての方向に対して強度が高いものとなり、耐久性に優れたプーリにすることができる。
【0013】
また、超微細小な凹部にプーリ外周部の樹脂が入り込んでいるため、温度変化によってアルミニウム合金製のボス板部と、合成樹脂製のプーリ外周部との間に隙間が生じることが無い。よって温度変化によりフレッティングが発生したり、このフレッティングによりボス板部とプーリ外周部との相互に摩耗が促進されることが無いため耐久性が向上する。
【0014】
また、アルミニウム合金製のボス板部は、その最外周面は単なる円形状であり、プーリ外周部に対する回り止め用の小さな凸形状等の部位を設ける必要が無いため、応力が集中することが無く、金型の耐久性が向上する。また、回り止め用の小さな凸形状を設ける必要が無いため、金型の製造コストを削減できる。
【0015】
請求項2の発明では、アルミニウム合金のボス板部に小さな窪み部を多数形成してボス板部に起伏面を設けることで、ショット後離型剤及び酸化被膜層が除去され、表面積増大,濡れ性向上という2つの効果が得られると共に、多数の小さな窪み部による起伏面は、ボス板部の表面積を増大させることができ、無数の超微細小な凹部がより多く形成されるため、ボス板部とプーリ外周部との結合力が向上する。
【0016】
また、ボス板部のアルミニウム合金の離型剤及び酸化被膜層を除去することで処理すべきアルミニウム合金にヒドラジン水溶液,アンモニア水,水溶性アミン化合物等を確実に到達させることができ、浸漬処理を確実に行うことができる。さらにボス板部のアルミニウム合金の表面の濡れ性を向上させることで、ボス板部のアルミニウム合金の表面がヒドラジン水溶液,アンモニア水,水溶性アミン化合物等を弾くこと無くよく馴染むため、ヒドラジン水溶液,アンモニア水,水溶性アミン化合物等による浸漬処理を確実に行うことができる。
【0017】
請求項3の発明では、アルミニウム合金製のボス板部にビードが形成されることにより、プーリ外周部の被覆接合部と、ボス板部との被覆接合領域が増大し、よってベルト荷重を受ける部分の高さが増大し、ベルト荷重によるボス板部に対する被覆面圧を低減させることができ、ベルト荷重に対する強度を一層向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】(A)は本発明の縦断側面図、(B)は(A)の一部切除したY1−Y1矢視断面図、(C)は(A)の(ア)部拡大図、(D)は(C)の(イ)部極大拡大図、(E)は(D)の(ウ)部超極大拡大図である。
【図2】(A)は被覆接合領域のみに超微細小な凹部及び小さな窪み部を形成したボス板部の平面斜視図、(B)は(A)のY2−Y2矢視の極大拡大図、(C)は(B)の(エ)部の超極大拡大図、(D)は小さな窪み部が形成されないボス板部の極大拡大図、(E)は(D)の(オ)部超極大拡大図、(F)は全体に超微細小な凹部と小さな窪み部が形成された実施形態のボス板部の平面斜視図である。
【図3】(A)はビードが形成された実施形態の縦断側面図、(B)は(A)の(エ)部拡大図、(C)は(B)の(オ)部拡大図、(D)はビードを連続する円周形状とした実施形態のボス板部の正面図、(E)はビードが間欠する円周形状とした実施形態のボス板部の正面図である。
【図4】プーリ外周部のベルト荷重中心に対する本発明の作用を示す要部拡大断面図である。
【図5】(A)は本発明において被覆接合領域をボス板部のボルト孔の部分にまで拡げた実施形態の縦断側面図、(B)はプーリ外周部の被覆接合部とベルト受け部との断面形状を略T字形状とした実施形態の要部縦断側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本発明には、複数の実施形態が存在する。全ての実施形態では、主にボス板部1とプーリ外周部2とから構成される。プーリ外周部2は合成樹脂によって形成され、ボス板部1にプーリ外周部2が接合されて、一体的に構成されるものである。
【0020】
まず、第1実施形態から説明すると、図1(A),(B)に示すように、ボス板部1は、アルミニウム合金から略円板形状に形成されるものである。ボス板部1は、図1(A)及び図2(A)に示すように対向する側面部1a,1bと、両側面部1a,1b間の外周側面部1cが存在する。該外周側面部1cは、厚さ方向を構成する側面である。ここで、前記側面部1a,1bについて、プーリの表側に対応する面を側面部1aとし、裏面に対応する面を側面部1bとする〔図1(A)参照〕。ボス板部1には、直径中心位置にボス貫通孔13が形成され、該ボス貫通孔13の周囲に複数のボルト孔14,14,…が形成される。該ボルト孔14の位置は、径方向に見て回転中心から最外周の縁までの略半分程度の位置に配置される。
【0021】
ボス板部1は、その板厚としては2乃至10mm程度である。そして、ボス板部1には、後述するプーリ外周部2に覆われる部分を被覆接合領域Sと称する。そして、ボス板部1の少なくとも前記被覆接合領域Sには、超微細小な凹部11,11,…が無数に形成されている〔図1(D),(E)及び図2(B),(C)参照〕。ここで無数とは、数え切れないほど多い数のことを言う。超微細小な凹部11は、ボス板部1の材質であるアルミニウム合金が侵食性水溶液に浸漬処理されて形成される。
【0022】
また、前記超微細小な凹部11,11,…は、被覆接合領域Sのみではなく、ボス板部1の全面に亘って形成されてもよい〔図2(F)参照〕。実際には、無数の超微細小な凹部11,11,…をボス板部1に形成するには、被覆接合領域Sのみに限定して形成するよりは、ボス板部1の全面に亘って形成する方が作業が効率的である。
【0023】
前記侵食性水溶液としては、ヒドラジン水溶液,アンモニア水,水溶性アミン化合物等である。これらのいずれかの溶液にて浸漬処理を施すことにより、無数の超微細小な凹部11がボス板部1の表面に形成される。図2(C)及び(F)に記載したように、無数の超微細小な凹部11,11,…のそれぞれは、不規則で大きさの不揃いの凹部が不均一に集合したものである。
【0024】
前記侵食性水溶液は、軽合金材としての金属材料、主に、アルミニウム合金材の表面を僅かに侵して超微細小な凹部11,11,…を無数に生ぜしめるものである。その大きさは個々に異なるが、適宜数十〜数百nm(10−9メートル)程度である。実施例では、アルミニウム合金製のボス板部1をヒドラジン水溶液で浸漬処理して、該ボス板部1の表面に適宜数十〜数百nm程度の凹部が全面を覆うことになる。
【0025】
例えば、アルミニウム合金を電子顕微鏡で観察すると凹部の大きさは、20〜50nm,10〜80nm,30〜300nmと浸漬処理の条件により異なるものとなり、適宜ナノ(nm)寸法の凹部が設けられる。実際の工程では、アルミニウム合金からなるボス板部1が、ヒドラジン水溶液,アンモニア水,水溶性アミン化合物等の溶液にドブ漬けされる。そして、ボス板部1のアルミニウム合金の略全体の表面に無数の超微細小な凹部11,11,…が形成される。
【0026】
プーリ外周部2は、図1(A)に示すように、前記ボス板部1の被覆接合領域Sと接合する被覆接合部21と、ベルト受け部22とから構成される。プーリ外周部2は、ガラス繊維、炭素繊維などの繊維を含有された合成樹脂で形成されることが好ましい。この合成樹脂の材質については、仕様や使用環境等から要求される条件により適宜、選択することができる。プーリ外周部2は、金型によって、前記ボス板部1に鋳込み形成され、前記被覆接合部21がボス板部1の被覆接合領域Sを被覆しつつ接合し、同時にベルト受け部22が成形されて、ボス板部1とプーリ外周部2とが一体化される。
【0027】
ベルト受け部22は、被覆接合部21に対して直角となる円筒形状の部位であり、外周にはベルト受溝22aが形成されている。ベルト受け部22は、その幅方向の一端側と前記被覆接合部21とが連続して断面略「L」字形状となる構成としたものや〔図1(A),図5(A)参照〕、ベルト受け部22の幅方向中心と被覆接合部21とが連続して、断面略「T」字形状となる構成としたもの〔図5(B)参照〕が存在する。また、ベルト受け部22が単なる円筒形状の、いわゆる平プーリとしてもよい。
【0028】
そして、鋳込み形成されるときに、プーリ外周部2の被覆接合部21を形成する溶融樹脂が無数の超微細小な凹部11,11,…に入り込み、冷えて固まることによって、アルミニウム合金製のボス板部1と、合成樹脂製のプーリ外周部2とが接合固着される。図1(D)はその接合固着状態を示す極大拡大図であり、図1(E)は、溶融樹脂が無数の超微細小な凹部11,11,…に溶融樹脂が入り込む構造を目視できる大きさとした超極大拡大図である。ボス板部1の超微細小な凹部11,11,…にプーリ外周部2の一部が入り込んで固着される状態のことを、アンカー効果(他に投錨効果、ファスナー効果)とも言う。
【0029】
本発明では、鋳込み形成により、ボス板部1の無数の超微細小な凹部11,11,…にプーリ外周部2の被覆接合部21を形成する溶融した合成樹脂が入り込み、その状態で溶融した合成樹脂が硬化してボス板部1とプーリ外周部2との強固な接合にすることができる。被覆接合部21は、略二股形状に形成された挟持片21a,21b及び両挟持片21a,21bの間に形成される挟持底面21cがボス板部1の外周付近でその厚さ方向に挟持するようにして接合する。
【0030】
ここで、前記被覆接合部21の両挟持片21a,21b及び挟持底面21cは、ボス板部1に対して鋳込み工程で形成されるものである。具体的には、ボス板部1の被覆接合領域Sは、プーリ外周部2の被覆接合部21の両挟持片21a,21bにてボス板部1の両側面部1a,1bを挟持すると共に、挟持底面21cがボス板部1の外周側面部1cに当接する。これら両挟持片21a,21b及び挟持底面21cを形成する溶融樹脂がボス板部1の両側面部1a,1b及び外周側面部1cに形成された無数の超微細小な凹部11,11,…に入り込むことになる。ここで、挟持片21aはプーリ外周部2の表側に対応し、挟持片21bはプーリ外周部2の裏面に対応する〔図1(A),(C)参照〕。
【0031】
上記の構成により、合成樹脂製のプーリ外周部2の被覆接合部21がアルミニウム合金製のボス板部1を覆う部分の全ての領域(被覆接合領域S)で、軸方向,径方向,回転方向の全ての方向に対してズレを防止する構造にできる。すなわち、合成樹脂製のプーリ外周部2の被覆接合部21が、アルミニウム合金製のボス板部1の被覆接合領域Sによって軸方向,径方向,回転方向の全方向の荷重を支える構造にすることができる。このように、プーリ外周部2にかかるベルト荷重をボス板部1の直径方向の外周側面部1cだけでなく、厚さ方向の両側面部1a,1bでも支えることができるため、ボス板部1の厚さ方向(軸方向)寸法を小さくでき、最小コストにて製造できる。
【0032】
さらに、ボス板部1の少なくとも被覆接合領域Sには0.0数mm程度の小さな窪み部12,12,…が多数形成されている。ここで、「多数」とは、前述した「無数」よりは遥かに少ない数のことである。さらに、窪み部12の大きさは、前述したように0.0数mm程度の極めて小さいものであるが、前記超微細小な凹部11に対しては巨大である。前記多数の小さな窪み部12,12,…は、少なくとも被覆接合領域Sに形成されるのであり、該被覆接合領域Sは起伏した面となる。これを起伏面Saと称する。そして、一つずつの小さな窪み部12に無数の超微細小な凹部11,11,…が形成されるものである〔図2(B),(C)参照〕。
【0033】
多数の小さな窪み部12,12,…は、ショットピーニング或はショットブラストによって形成されるものであり、実際の工程ではアルミニウム合金製のボス板部1の略全面に小さな硬球が叩き付けられるため、小さな窪み部12,12,…はボス板部1の略全面に形成され、さらに、硬球によって、ボス板部1のアルミニウム合金の表面に形成されていた離型剤及び酸化被膜層が除去できる。また、ボス板部1の表面に小さな窪み部12,12,…が多数形成されることによって形成される起伏面Saは、ボス板部1の表面積を増大させることができ、且つ液体を弾くことなく、よく馴染むため、濡れ性を向上させる。
【0034】
したがって、離型剤及び酸化被膜層の除去後においては、表面積の増大,濡れ性向上によりヒドラジン水溶液,アンモニア水,水溶性アミン化合物等の浸透性が向上する。具体的には離型剤及び酸化被膜層の除去と濡れ性の向上により成形時にヒドラジン水溶液,アンモニア水,水溶性アミン化合物等がよく馴染み、表面積が増大することにより、ボス板部1には超微細小な凹部11,11,…がより多く形成されるため、樹脂との結合強度が向上する。
【0035】
これによりアルミニウム合金製のボス板部1の起伏面Saには多数の小さな窪み部12,12,…と、それぞれの小さな窪み部12に無数の超微細小な凹部11,11,…が形成されていることで、合成樹脂製のプーリ外周部2との被覆接合部21の接合力がより強固になり、極めて耐久性のあるプーリにすることができる〔図1(C)乃至(E)参照〕。また、ボス板部1には、無数の超微細小な凹部11,11,…のみが形成され、小さな窪み部12,12,…が形成されず、したがって、前記起伏面Saが形成されないこともある。この場合には、ボス板部1の側面部1a,1b及び外周側面部1cは、平坦面となる〔図2(D),(E)参照〕。
【0036】
次に、本発明の第2実施形態を説明する。この第2実施形態では、図3(A),(D)に示すように、前述した第1実施形態におけるボス板部1の一方の側面部1a又は他方の側面部1bにビード15が形成されたものである。ビード15は、ボス板部1の直径中心を同一中心として環状の突出条が形成されるものである〔図3(D)参照〕。ビード15は、環の周方向において連続形成される。また、第2実施形態の変形例としてビード15が環の周方向に沿って、間欠的に形成されることもある〔図3(E)参照〕。
【0037】
アルミニウム合金製のボス板部1が鋳造成形手段にて形成されるときには金型にビード15を成形するための成形溝が設けられる。鋳造品であれば、ビード15は側面部1aに形成されても、反対側の側面部1bは平坦である。或は、プレス成形手段にて形成される場合にはプレス金型にビード15に対応した成形部が設けられる。プレス製造品であれば側面部1aが凸状であれば、反対側の側面部1bは凹状である。鋳造成形手段又は、プレス成形手段のいずれであっても、ボス板部1のアルミニウム合金の板厚は一定であることが製造上好ましい。
【0038】
前記ビード15が形成されたボス板部1において、ビード15の外周面側にプーリ外周部2の被覆接合部21を構成する挟持片21a(又は挟持片21b)が当接される構成となる。ビード15は、被覆接合領域S又は起伏面Saの領域内にかかる部分では、無数の超微細小な凹部11,11,…が形成されている。また多数の小さな窪み部12,12,…も同様に形成されるものである。
【0039】
ビード15の役割としては、プーリ外周部2のベルト受け部22の幅方向に亘って架かるベルトの中心荷重Fをビード15の断面から見て外周側で受けることができ、ボス板部1がより一層広い面積にてプーリ外周部2の被覆接合部21を受けることができる〔図3(B),(C)参照〕。すなわち、ベルトの中心荷重Fに対して、両側面部1a,1b及び外周側面部1cだけでなく前記ビード15が加わることによって中心荷重Fを各部分の被覆接合領域Sにおける無数の超微細小な凹部11,11,…及び多数の小さな窪み部12,12,…によって支持するので、プーリ外周部2の強度が向上する。換言すると、ビード15は、側面部1aからの突出高さがボス板部1の板厚に加わって、被覆接合領域S又は起伏面Saの有効面積が増加する。
【0040】
第1及び第2実施形態において、被覆接合部21とベルト受け部22とを「L」字形状としたタイプでは、ベルトの荷重中心Fから遠い方における挟持片21aによるボス板部1への被覆面積は、ベルト荷重中心Fから近い方における被覆接合部21の挟持片21bによるボス板部1への被覆面積に対して大きくなっている(図4参照)。ここで、挟持片21a側を被覆接合部21の表面側とし,挟持片21b側は裏面側とする。
【0041】
ベルト受け部22の中心荷重Fの位置が被覆接合部21に対して、片持ち梁形状となり、被覆接合部21に曲げモーメントMが発生し、この曲げモーメントMが想定以上に大きくなると、被覆接合部21に与えられる負荷が高くなることを緩和する。すなわち、表面側挟持片21aを裏面側挟持片21bよりもボス板部1に対する被覆面積を大きくすることで、被覆接合部21にかかる曲げモーメントMを抑制することができる。そして、被覆接合部21の両挟持片21a,21bによりボス板部1の外周を覆う面積を、表面側の挟持片21aによる被覆面積の方を大きくしたことにより、ベルト荷重による被覆接合部21及びベルト受け部22の倒れ動作による変形自体を抑制し、もってプーリの耐久性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0042】
1…ボス板部、1a,1b…側面部、1c…外周側面部、S…被覆接合領域、
11…超微細小な凹部、2…プーリ外周部、21…被覆接合部、12…小さな窪み部、
21a,21b…挟持片、21c…挟持底面、Sa…起伏面、15…ビード。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金材で略円板状のボス板部と、合成樹脂材で前記ボス板部を周方向に沿って覆うプーリ外周部とからなり、前記ボス板部には、少なくとも前記プーリ外周部によって覆われる被覆接合領域に無数の超微細小な凹部が形成され、前記プーリ外周部は、成形により溶融樹脂が前記被覆接合領域の超微細小な凹部に入り込んで接合固着されてなることを特徴とするプーリ。
【請求項2】
請求項1において、前記ボス板部の少なくとも被覆接合領域は、多数の小さな窪み部からなる起伏面としてなることを特徴とするプーリ。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記ボス板部の側面には、直径中心を同一とする円周状のビード部が形成され、該ビード部は前記プーリ外周部の挟持片が接合されてなることを特徴とするプーリ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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