説明

ヘッドマウントディスプレイ

【課題】画像表示部からの光により形成される画像情報が、他のユーザに漏洩する恐れを低減しつつ、外光、および画像情報を形成する光の減光を低減することが出来るヘッドマウントディスプレイを提供すること。
【解決手段】ユーザの頭部に装着されるフレームに取り付けられ、画像情報に基づく画像光が前記ユーザの眼に入射されることにより、画像がユーザに認識されるヘッドマウントディスプレイであって、前記画像が虚像となる画像光を発生する発生部と、前記ユーザの視野内に配置されるハーフミラーと、を備え、前記ハーフミラーは、前記発生部により発生される画像光の一部を前記ユーザの眼の方向に反射する第1面と、前記第1面に対して所定の角度で傾斜し、前記画像光の他部が前記第1面を透過した透過光の入射角が臨界角近傍となる第2面と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、装着したユーザにコンテンツ画像を視認可能に提示するヘッドマウントディスプレイに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ユーザの目にコンテンツ画像を視認可能に提示することにより、ユーザがコンテンツ画像を認識することが可能なヘッドマウントディスプレイが知られている。例えば特許文献1に、虚像表示型情報表示システムが開示されている。虚像表示型情報表示システムは、画像表示部と半透過型光学素子とを備える。半透過型光学素子は、画像表示部からの光の一部を反射し、残りの画像光を透過する。画像表示部からの一部の光は、半透過型光学素子により反射され、ユーザの目に入射する。ユーザは、この反射光により形成される画像情報を視認する。
【0003】
半透過型光学素子は、ユーザの視線方向において、外界からの外光を透過させる。この結果、ユーザが半透過型光学素子を通じて視線方向の景色も視認することができる。この透過構成のため、半透過型光学素子は画像表示部から出射された光も透過させる。この場合、出射方向に他のユーザがいる場合、他のユーザが半透過型光学素子を透過した透過光により形成される画像情報を認識できる可能性がある。この結果、例えば、画像情報が機密情報などの場合、機密情報が他のユーザに知られてしまうという恐れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−201611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
他のユーザへ画像情報を漏洩させないために、特許文献1には以下の技術が開示されている。第1の偏光状態の光を透過させる第1偏光フィルタが画像表示部に貼り付けられ、第1の偏光状態とは異なる第2の偏光状態の光を透過させる第2偏光フィルタが半透過型光学素子に貼り付けられる。この第2偏光フィルタは外界からの外光のうち、第2の偏光状態の光を透過させるので、減光された外光がユーザの眼に入射する。従って、ユーザは、実際よりも外界が暗いと認識する恐れがある。
【0006】
また、特許文献1には、表示部側ルーバー光学素子が画像表示部に設けられる技術が開示されている。この技術においては、表示部側ルーバー光学素子は、画像表示部の視野角を制限する。従って、ユーザは、半透過型光学素子からの反射光により形成される画像情報を鮮明に認識出来ない恐れがある。
【0007】
また、特許文献1には、第2のルーバー状光学素子が半透過型光学素子の画像表示部とは反対側の面に設けられる技術が開示されている。この第2のルーバー状光学素子は、短手方向がユーザの視線方向に略平行なルーバーを有する。このユーザの視線方向に略平行なルーバーはユーザが視線方向を異なる方向にしたときには、その異なる方向からの外光を遮る。この結果、ユーザの視野が狭くなる恐れがある。
【0008】
本発明は、画像表示部からの光により形成される画像情報が、他のユーザに漏洩する恐れを低減しつつ、外光、および画像情報を形成する光の減光を低減することが出来るヘッドマウントディスプレイを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的を達成するために、請求項1記載のヘッドマウントディスプレイは、ユーザの頭部に装着されるフレームに取り付けられ、画像情報に基づく画像光が前記ユーザの眼に入射されることにより、画像がユーザに認識されるヘッドマウントディスプレイであって、前記画像が虚像となる画像光を発生する発生部と、前記ユーザの視野内に配置されるハーフミラーと、を備え、前記ハーフミラーは、前記発生部により発生される画像光の一部を前記ユーザの眼の方向に反射する第1面と、前記第1面を透過した前記画像光の他部である透過光の入射角が臨界角近傍となる第2面と、を備えることを特徴とするものである。
【0010】
この目的を達成するために、請求項2記載のヘッドマウントディスプレイは、請求項1記載のヘッドマウントディスプレイであって、前記第2面は、前記透過光を全反射するように第1面に対して所定の角度で傾斜することを特徴とするものである。
【0011】
この目的を達成するために、請求項3記載のヘッドマウントディスプレイは、請求項2記載のヘッドマウントディスプレイであって、前記ハーフミラーの材質は屈折率nを有し、前記第1面は、前記画像光が入射角αとなる位置で配置され、前記第2面は、前記第1面に対し、傾斜角θで傾斜し、傾斜角θは、
【数1】

の条件を満たす下限角θm以上、かつ90度未満であること
を特徴とするものである。
【0012】
この目的を達成するために、請求項4記載のヘッドマウントディスプレイは、請求項2または3記載のヘッドマウントディスプレイであって、前記ハーフミラーは、前記ユーザの片眼の視野内に配置され、前記第2面は、前記第2面において全反射された反射光が前記ユーザの両目の間に向くように配置されることを特徴とするものである。
【0013】
この目的を達成するために、請求項5記載のヘッドマウントディスプレイは、請求項1〜4のいずれかに記載のヘッドマウントディスプレイであって、前記第2面は、前記発生部側において前記第1面と交わることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
請求項1記載のヘッドマウントディスプレイによれば、透過光の入射角が臨界角近傍となる。この結果、第1面を透過し第2面に入射した透過光は、第2面において屈折、または全反射する。第2面において屈折または、全反射した透過光の進行方向は、発生部により発生された画像光の進行方向よりもユーザ側に向く。これにより、第2面において屈折または、全反射した透過光が、発生部により発生された画像光の進行方向に位置する他のユーザの眼に入射する可能性が低減する。また、ハーフミラーは、発生部により発生された画像光、および第2面側から入射する外光を遮るルーバー、偏光フィルタなどの構成を備えない。この結果、ヘッドマウントディスプレイを装着するユーザの眼に入射する発生部により発生された画像光、および外光の減光が抑えられる。従って、発生部において発生された画像光の進行方向において、他のユーザに画像が漏洩する恐れを低減しつつ、外光、および画像を形成する画像光の減光を抑えることが出来る。
【0015】
請求項2記載のヘッドマウントディスプレイによれば、第2面は、透過光を全反射するように第1面に対して所定の角度で傾斜する。第2面において全反射された反射光は、ヘッドマウントディスプレイを装着するユーザに向かう。この結果、第1面を透過した透過光の一部が、第2面において全反射され、ヘッドマウントディスプレイを装着するユーザの顔が位置する領域に画像光が入射する。従って、第1面を透過した透過光の一部がユーザの顔が位置する領域に画像光が入射することによって、他のユーザに画像が漏洩する恐れを低減しつつ、外光、および画像を形成する画像光の減光を抑えることが出来る。
【0016】
請求項3記載のヘッドマウントディスプレイによれば、第2面は、第1面に対し、下限角θm以上90°未満の傾斜角θで傾斜する。下限角θmは第2面に入射された光が全反射される最小の角度である。これにより、第1面を入射角αで透過した光は、第2面において全反射される。第2面において、全反射された反射光は、ヘッドマウントディスプレイを装着するユーザに向かう。この結果、第1面を透過した透過光の一部が、第2面において全反射され、ヘッドマウントディスプレイを装着するユーザの顔に画像光が入射する。従って、第1面を透過した透過光の一部がユーザの顔が位置する領域に画像光が入射することによって、他のユーザに画像が漏洩する恐れを低減しつつ、外光、および画像を形成する画像光の減光を抑えることが出来る。
【0017】
請求項4記載のヘッドマウントディスプレイによれば、第2面において全反射された反射光がユーザの両目の間に向くように第2面は配置される。この結果、第1面を透過した透過光の一部が第2面において、全反射され、他方の眼に画像を形成することを低減することが出来る。従って、ユーザは、他方の眼に画像が形成されないので、他方の眼で外界を視認しやすくなる。
【0018】
請求項5記載のヘッドマウントディスプレイによれば、第2面は、発生部側において第1面と交わる。これにより、第1面と交わらない第2面を有するハーフミラーよりも、ハーフミラーの厚みが薄くなる。ハーフミラーの厚みが厚くなると、ハーフミラー中の外界からの外光の光路が長くなる。外界から第2面を透過する光は第2面において屈折する。この屈折された方向に光路が長くなるので、ユーザの眼に入射される外光によりユーザが認識する外界は、ハーフミラーの厚みだけ実際の外界よりも位置がずれる。発生部側において第1面と交わる第2面を有するハーフミラーの厚みが薄くなるので、ユーザは実際の外界に近い外界を認識する。従って、第2面が第1面と交わることにより、第2面が第1面と交わらないハーフミラーよりも、ユーザは位置ずれが抑えられた外界を認識することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態におけるHMD1の外観を示す斜視図である。
【図2】発生部10の拡大斜視図である。
【図3】図2に示す矢印のA−A線に沿う発生部10の断面図である。
【図4】ハーフミラー20の形状、および発生部10から発生された画像光の光路を示す図である。
【図5】第2面22において全反射された光が右眼REに入射する場合の光路図である。
【図6】図5におけるハーフミラー20付近を拡大した拡大図である。
【図7】外光がハーフミラー20の内部を透過し、HMD1を装着するユーザの片眼に入射する光路を示す光路図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の一実施形態について、図1〜図7を参照して説明する。以下の説明において、ヘッドマウントディスプレイを、HMD(Head Mounted Display)と記載する。
【0021】
[HMD1の概要]
HMD1について、図1を用いて説明する。図1は、HMD1の外観を示す斜視図である。HMD1は、頭部装着部2と、発生部10とを備える。頭部装着部2は、ユーザの頭部に装着される。本実施形態において、ユーザは、大気中でHMD1を装着する。頭部装着部2が本発明のフレームの一例である。
【0022】
頭部装着部2について、図1を用いて説明する。頭部装着部2の骨格は、ユーザの頭部に装着される装着部として働く。頭部装着部2の骨格は、テンプル3A、3Bと、ヨロイ4A、4Bと、フロントフレーム5とによって構成される。ユーザの耳に当たるモダン6A、6Bが、テンプル3A、3Bの一端に取り付けられる。テンプル3A、3Bの他端は、蝶番7A、7Bを介してヨロイ4A、4Bに連結される。ヨロイ4A、4Bは、フロントフレーム5の左右両端に連結される。ユーザの鼻に当接する鼻パッド8が、フロントフレーム5の中央に設けられる。テンプル3A、3Bは、ヨロイ4A、4Bに形成された蝶番7A、7Bによって、フロントフレーム5に対して折りたたむことができる。頭部装着部2の骨格の構成は、例えば、通常の眼鏡と同様である。頭部装着部2は、ユーザに装着された状態において、モダン6A、6Bと、鼻パッド8と、によりユーザの頭部に保持される。図1において、ヨロイ4B,および蝶番7Bの図示は省略される。
【0023】
発生部10は、画像をユーザの片眼に視認可能に提示する。発生部10は、ヨロイ4B付近に配設された取付部9を介して、頭部装着部2の骨格に保持される。発生部10は、頭部装着部2の骨格に取り付けられた状態において、頭部装着部2を装着したユーザの左眼LEと略同一の高さとなる位置に配設される。
【0024】
図2、および図3を参照して、発生部10を説明する。図2は、発生部10の拡大斜視図である。図3は、図2に示す矢印のA−A線に沿う発生部10の断面図である。発生部10は、図示しない制御ボックスからケーブルを介して送信された各種の信号に基づく画像光を、ハーフミラー20に向けて出射する。各種信号は、画像情報に基づく信号である。具体的には、図3に示すように、発生部10は、LCD(Liquid Crystal Display)11、およびレンズ系12を備える。LCD11と反対側の発生部10の端部において、ハーフミラー20が発生部10に固定される。この固定状態において、ハーフミラー20は、HMD1を装着するユーザの視野内に配置される。LCD11は、画像光を発生する。発生された画像光は、レンズ系12を通過し、ハーフミラー20に入射する。ハーフミラー20は、発生部10において発生された画像光の一部を反射し、ユーザの左眼LEに導く。これにより、ユーザは、コンテンツ画像を認識する。HMD1を装着したユーザが認識するコンテンツ画像が虚像VIとなるように発生部10は、画像光を発生する。ハーフミラー20は、外界像を表す外光の一部を透過し、ユーザの左眼LEに導く。即ち、ユーザは、画像光を外光に重畳した状態で視認する。LCD11は、有機EL(Organic Electro―Luminescence)ディスプレイなどの他の2次元画像表示素子で構成されてもよい。あるいは、光を2次元方向に走査し、その走査された画像光をユーザの左眼LEに導き、網膜上にコンテンツ画像を形成する周知の網膜走査方式がLCD11と代わって用いられても良い。
【0025】
図4を参照して、ハーフミラー20の形状を説明する。図4は、ハーフミラー20の形状、および発生部10から発生された画像光の光路を示す図である。図4は、ハーフミラー20の形状を示すが、発生部10、およびハーフミラー20の相対的な大小関係、および距離関係を示さない。ハーフミラー20は、第1面21と第2面22とを備える。第1面21は、発生部10側の面である。すなわち、発生部10から発生された画像光を最初に反射する面が第1面21である。第2面22は、第1面21に対し、傾斜角θで傾斜する。図4に示す2点鎖線により、第1面21と平行な面PLが示され、第1面21の画像光が入射する位置における法線NL1、および第2面22の画像光が入射する位置における法線NL2が、破線によりそれぞれ示される。図4に示す実線は、LCD11から発生される画像光のうち、レンズ系12の中心13を通過するコリメートされた画像光を示す。以降の説明では、コリメートされた画像光に対する角度を用いてハーフミラー20の形状を説明する。第2面22は、平行な面PLに対し、傾斜角θで傾斜する。この第2面22が傾斜している状態において、第1面21と第2面22との距離が、発生部10側において短くなる。すなわち、第1面21の法線NL1の方向における第1面21と第2面22との距離は、発生部10に近づくにつれて短くなる。傾斜角θが本発明の所定の角度の一例である。
【0026】
ハーフミラー20は、ポリカーボネート、アクリル樹脂などの透明樹脂材料から形成される。ポリカーボネートの屈折率nは1.585である。アクリル樹脂の屈折率は、1.490である。この屈折率は、各材料の絶対屈折率である。ハーフミラー20の第1面21に、入射した画像光の一部を反射する反射層が形成される。具体的には、所定の反射率となるように、第1面21にアルミニウムなどの金属が蒸着される。この反射層が形成されたハーフミラー20の第1面21は、発生部10において発生された画像光を、HMD1を装着するユーザの左眼LEに入射する反射光と、第1面21を透過する透過光とに分ける。
【0027】
図4を参照して、発生部10から発生する画像光の光路を説明する。発生部10に固定されたLCD11から発生された画像光は、レンズ系12を通過する。レンズ系12の中心13を通過した光は、第1入射角αで第1面21に入射する。LCD11から発生された画像光は、第1面21において反射する反射光と、第1面21を透過する透過光とに分かれる。第1入射角αが本発明の入射角αの一例である。
【0028】
第1面21で反射された反射光は、ユーザの左眼LEに入射する。この入射光により、ユーザは、画像を認識する。
【0029】
第1面21において、第1面21を透過する透過光は屈折する。第1面21を透過する前後において、第1入射角α、屈折角β、およびハーフミラー20を形成するポリカーボネートの屈折率nで、スネルの法則が用いられた(数1−1)が示される。
【数1−1】

【0030】
ハーフミラー20の内部を透過する透過光は、第2面22において、全反射する。すなわち、第1面21を透過しハーフミラー20の内部を透過した透過光が第2面22に入射するときの第2入射角γが臨界角以上である。第2面22において、第2入射角γ、ハーフミラーを形成するポリカーボネートの屈折率nで、(数1−2)が示される。
【数1−2】

第2面22は、第1面21に対し、傾斜角θを有する。すなわち、第2入射角γ、屈折角β、および傾斜角θは(数1−3)の関係を有する。
【数1−3】

第2入射角γが、本発明の透過光の入射角の一例である。
【0031】
(数1−1)、(数1−2)、および(数1−3)より、(数1−4)が導かれる。
【数1−4】

ハーフミラー20の第2面22の傾斜角θは、(数1−4)の関係を満たす。(数1−4)の等号が成立する傾斜角θが、本発明の下限角θmである。すなわち、第2面22の傾斜角θは、(数1)の条件を満たす下限角θm以上である。
【数1】

第2面22が傾斜している状態において、第1面21と第2面22と距離が、発生部10側において短くなることから、傾斜角θは、下限角θm以上、90°未満である。
【0032】
ハーフミラー20が、ポリカーボネートから形成され、第1入射角αが45°の場合、下限θmは13.1°である。
【0033】
第2面22において、全反射された反射光について説明する。第2面22において、全反射された反射光は、HMD1を装着したユーザの両目の間に向く。この結果、第2面22において全反射された反射光が他のユーザの目に入射し、他のユーザが画像を認識することが低減する。具体的に全反射された画像光がHMD1を装着するユーザの他方の片眼である右眼REに入射する場合の傾斜角θcを、図5、および図6を参照して説明する。図5は、第2面22において全反射された光が右眼REに入射する場合の光路図である。図6は、図5におけるハーフミラー付近を拡大した拡大図である。図5、および図6は、ハーフミラーの形状を示すが、発生部10、およびハーフミラー20の相対的な大小関係、および距離関係を示さない。第2面22において全反射された反射光が、HMD1を装着したユーザの両目の間に向く場合の傾斜角θは、(数2−1)で示される。
【数2−1】

【0034】
画像光の光路を距離L1、距離L2、および距離L3を用いて説明する。図5に示すように、LCD11から発生されレンズ系12の中心を通過した画像光が、第1面21においてハーフミラー20の内部に透過する透過点PAから、ユーザの左眼LEまでの距離が距離L1である。図6に示すように、透過点PAから第2面22の点PBまでの第1面21の法線NL1の方向の長さが距離L2である。すなわち、距離L2は、ハーフミラー20の厚みである。図5に示すように、HMD1を装着したユーザの両眼の間の距離が距離L3である。第1面21における透過点PAを透過し、屈折した透過光は、第2面22の全反射点PCにおいて全反射される。全反射点PCにおいて全反射された反射光は、HMD1を装着したユーザの他方の片眼である右眼REに入射する。
【0035】
図6に示すように、透過点PAと全反射点PCとを結ぶ距離Z1は、点PBと透過点PAとを結ぶ線分と、点PBと全反射点PCとを結ぶ線分とのなす角、および全反射点PCと透過点PAとを結ぶ線分と、全反射点PCと点PBとを結ぶ線分とのなす角より、正弦定理が用いられた(数2−2)で示される。
【数2−2】

【0036】
レンズ系12の中心13と透過点PAとを通過する直線と、この直線と全反射点PCを通過する垂線との交点PDを図5、および図6に示す。図6に示すように、透過点PAと交点PDとを結ぶ線分の長さX1と、全反射点PCと交点PDとを結ぶ線分の長さY1と、透過点PAと全反射点PCとを結ぶ線分と、透過点PAと全反射点PCとを結ぶ線分と、透過点PAと交点PDとを結ぶ線分とのなす角とにより(数2−3)が示される。
【数2−3】

【0037】
図6に示す、全反射点PCと右眼REとを結ぶ線分と、全反射点PCと交点PDとを結ぶ線分とのなす角δは、全反射点PCと透過点PAとを結ぶ線分と、全反射点PCと交点PDとを結ぶ線分とのなす角と、全反射点PCと透過点PAとを結ぶ線分と、全反射点と右眼REとを結ぶ線分とのなす角とにより、(数2−4)が示される。(数2−4)の導出は、(数1−3)の関係を満たす。
【数2−4】

【0038】
図5に示すように、全反射点PCと交点PDとを通過する直線とユーザの両眼を結ぶ線分との交点PEと、ユーザの他方の片眼REとの距離L4は、角δ、および全反射点PCと交点PEとを結ぶ線分の長さから、三平方の定理が用いられた(数2−5)で示される。(数2−5)の導出は、全反射点PCと交点PEとを結ぶ線分の長さが、距離Y1と距離L1との和である関係を満たす。
【数2−5】

【0039】
(数2−6)で示すように、距離L3は、交点PEとユーザの左眼LEとを結ぶ線分の長さと、距離L4との和である。交点PEとユーザの片眼LEとを結ぶ線分の長さは、(数2−3)で示すX1である。
【数2−6】

【0040】
上述した(数2−1)〜(数2−6)より、第2面22において全反射された画像光がHMD1を装着するユーザの片眼REに入射する場合の傾斜角θcは(数2)で示される。
【数2】

【0041】
図7を参照して、HMD1の正面方向からの外光がハーフミラー20の内部を透過し、HMD1を装着するユーザの左眼LEに入射する光路を説明する。図7に示すように、外光は第3入射角α1で、第2面22に入射する。以下の説明では、第2面22を透過する外光の光路を説明する。
【0042】
第2面22を透過する透過光は屈折する。第2面22を透過する前後において、第3入射角α1、第2屈折角β1、およびハーフミラー20を形成するポリカーボネートの屈折率nで、(数3−1)が示される。
【数3−1】

【0043】
ハーフミラー20の内部を透過する外光は、第1面21において全反射しない。第2面22において、第4入射角γ1、ハーフミラーを形成するポリカーボネートの屈折率nで、(数3−2)が示される。
【数3−2】

これは、図4に示すように、第1面21と第2面22との間における第1面21の法線NL1の方向の長さが、発生部10に近づくにつれて短くなるように第2面22が第1面21に対し傾斜角θで傾斜するからである。すなわち、第3入射角α1は、図4に示す第1入射角αよりも小さい角であることにより、第2屈折角β1が屈折角βよりも小さくなる。この大小関係により、第4入射角γ1が第2入射角γよりも小さくなる。この結果、HMD1の正面方向からの外光が第1面21において全反射しない。また、ハーフミラー20は、特許文献1に開示された偏向フィルタ、およびルーバーなどの外光を遮る構成を備えない。すなわち、外光がユーザの眼に入射することにより視認される外界の明るさは、低減しない。
【0044】
[効果]
本実施形態によれば、第2面22における透過光の第2入射角γが臨界角以上となる。この結果、第1面21を透過した透過光が、第2面22において、全反射する。第2面22において、全反射した透過光の進行方向は、発生部10により発生された画像光の進行方向よりもユーザ側に向く。これにより、第2面22において全反射した透過光が、発生部10により発生された画像光の進行方向に位置する他のユーザの眼ESに入射することが低減する。また、本発明のHMD1は、特許文献1に開示された技術のように、表示部側ルーバー光学素子が発生部10に設けられない。この結果、発生部の視野角を制限することが低減する。従って、HMD1を装着したユーザがハーフミラー20の第1面21からの反射光により形成される画像を鮮明に認識出来ないことが低減する。一方、第1面21を透過した透過光の第2入射角γが臨界角以上となる第2面22により、第2面22側から入射する外光が、第1面21において全反射する可能性が低くなる。また、ハーフミラー20は、発生部10により発生された画像光、および第2面22側から入射する外光を遮るルーバー、偏光フィルタなどの構成を備えない。この結果、HMD1を装着するユーザの眼に外光が入射しないことが低減される。従って、発生部10により発生された画像光の進行方向において、他のユーザに画像が漏洩する恐れを低減しつつ、外光、および画像を形成する画像光の減光を低減することが出来る。
【0045】
本実施形態によれば、第2面22は、透過光を全反射する。第2面22において、全反射された反射光は、HMD1を装着するユーザに向かう。この結果、第1面21を透過した透過光の一部が、第2面22において全反射され、HMD1を装着するユーザの顔に画像を形成する。従って、第1面21を透過した透過光の一部が画像を形成することによって、他のユーザに画像が漏洩する恐れを低減しつつ、外光、および画像を形成する画像光の減光を抑えることが出来る。
【0046】
本実施形態によれば、第2面22は、第1面21に対し、下限角θm以上90°未満の傾斜角θで傾斜する。これにより、第1面21を第1入射角αで透過した光は、第2面22において全反射される。第2面22において、全反射された反射光は、HMD1を装着するユーザに向かう。この結果、第1面21を透過した透過光の一部が、第2面22において全反射され、HMD1を装着するユーザの顔に画像を形成する。従って、第1面21を透過した透過光の一部がユーザの顔が位置する領域に画像を形成することによって、他のユーザに画像が漏洩する恐れを低減しつつ、外光、および画像を形成する画像光の減光を抑えることが出来る。
【0047】
本実施形態によれば、第2面22において全反射された反射光がユーザの両目の間に向くように第2面22は配置される。具体的には、傾斜角θは、全反射された画像光がHMD1を装着するユーザの右眼REに入射する場合の傾斜角θcよりも小さい。この結果、第1面21を透過した透過光の一部が第2面22において、全反射され、他方の眼である右眼REに画像を形成することを抑えることが出来る。従って、ユーザは、他方の眼である右眼REに画像が形成されないので、一方の眼である左眼LEで外界を視認しやすくなる。
【0048】
[変形例1]
本実施形態では、図7に示すように、第1面21と第2面22と交わる第3面23がハーフミラー20に形成されたが、この第3面23は、ハーフミラー20に形成されなくても良い。すなわち、第1面21と第2面22とが交わってもよい。第1面21と第2面22とが交わると、ハーフミラー20の厚みが薄くなる。ハーフミラー20の厚みが薄くなると、ハーフミラー20の内部における外光の光路が短くなる。ハーフミラー20の内部における外光の光路が短くなると、ハーフミラー20を透過した外光がユーザの眼に入射することにより形成される外界の像が、実際の外界の像の位置とずれることが低減される。この結果、HMD1を装着するユーザは実際の外界に近い外界を認識する。従って、第2面22が第1面21と交わることにより、第2面22が第1面21と交わらないハーフミラー20よりも、ユーザは位置ずれが抑えられた外界を認識することが出来る。
【0049】
[変形例2]
本実施形態では、図4に示すように、第2面22において全反射された反射光はHMD1を装着するユーザの方向に進行する。これに限らず、第2面22における第2入射角γが臨界角より小さい角であっても、第2面22において屈折された屈折光が、HMD1を装着するユーザの方向、すなわち、ユーザの顔が位置する領域、および、その顔が位置する領域の周辺であって、他のユーザが近接できない周辺領域に進行すればよい。すなわち、第1面21を透過した透過光の第2入射角γが臨界角近傍であればよい。
【0050】
[変形例3]
本実施形態では、ハーフミラー20の第1面21、および第2面は平面であったが、曲面でもよい。また、前記した実施形態では、フレームの一例として、頭部装着部2が説明された。しかし、他の装着部がフレームとして用いられてもよい。例えば、HMD1は、発生部10をゴーグルのようにヘッドバンドを用いて頭部に装着する装着部が用いられてもよい。あるいは、ユーザの耳に対して取り付けられる装着部でもよい。また、ユーザの利用している視力矯正用の眼鏡に対して発生部10が取り付け可能な場合、その視力矯正用の眼鏡自体が装着部となる。
【符号の説明】
【0051】
1 ヘッドマウントディスプレイ
2 頭部装着部
10 発生部
11 LCD
12 レンズ系
20 ハーフミラー
21 第1面
22 第2面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザの頭部に装着されるフレームに取り付けられ、画像情報に基づく画像光が前記ユーザの眼に入射されることにより、画像がユーザに認識されるヘッドマウントディスプレイであって、
前記画像が虚像となる画像光を発生する発生部と、
前記ユーザの視野内に配置されるハーフミラーと、
を備え、
前記ハーフミラーは、
前記発生部により発生される画像光の一部を前記ユーザの眼の方向に反射する第1面と、
前記第1面に対して所定の角度で傾斜し、前記第1面を透過した前記画像光の他部である透過光の入射角が臨界角近傍となる第2面と、
を備えることを特徴とするヘッドマウントディスプレイ。
【請求項2】
前記第2面は、前記透過光を全反射するように第1面に対して所定の角度で傾斜すること
を特徴とする請求項1記載のヘッドマウントディスプレイ。
【請求項3】
前記ハーフミラーの材質は屈折率nを有し、
前記第1面は、前記画像光が入射角αとなる位置で配置され、
前記第2面は、前記第1面に対し、傾斜角θで傾斜し、
傾斜角θは、
【数1】


の条件を満たす下限角θm以上、かつ90度未満であること
を特徴とする請求項2記載のヘッドマウントディスプレイ
【請求項4】
前記ハーフミラーは、前記ユーザの片眼の視野内に配置され、
前記第2面は、前記第2面において全反射された反射光が前記ユーザの両目の間に向くように配置されること
を特徴とする請求項2または3記載のヘッドマウントディスプレイ。
【請求項5】
前記第2面は、前記発生部側において前記第1面と交わること
を特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のヘッドマウントディスプレイ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−76825(P2013−76825A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−216315(P2011−216315)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】