説明

ヘパリン様化合物、その製造並びに血管傷害および介入に伴う動脈血栓を阻止するための使用

【課題】流動全血におけるコラーゲン誘発性の血小板凝集を阻害する能力によって特徴づけられるヘパリン様化合物の提供。
【解決手段】多重ヘパリンまたはヘパリン様グリコサミノグリカン、並びに球状コア分子に直接にもしくはスペーサー/リンカー分子を介して結合した、該多重ヘパリンもしくはヘパリン様グリコサミノグリカンまたは低分子量ヘパリンもしくはヘパリン様グリコサミノグリカンを含むプロテオグリカンにおいて存在する負に帯電したヘパリンまたはヘパリン様グリコサミノグリカン分子の高いカップリング密度を有するヘパリン様化合物。該ヘパリン様化合物は、哺乳類のマスト細胞から組織抽出または細胞培養または、合成、半合成および/または生物工学的方法によって製造することができる。それらは、動脈血栓およびその続発症の予防的処置において局所的に適用するための調製物、手段およびデバイスを製造するのに有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流動全血においてコラーゲン誘発性の血小板凝集をほぼ完全に阻害する能力によって特徴づけられ、さらに、天然のマスト細胞由来のヘパリンプロテオグリカン(HEP−PG)またはそこから得られるヘパリングリコサミノグリカン(HEP−GAG)分子において第一に提示される独特の特性を付与する負に帯電したヘパリンまたはヘパリン様グリコサミノグリカン単位のカップリング密度によって特徴づけられるヘパリン様化合物に関する。本発明はさらに、該ヘパリン様化合物の製造方法および血管の傷害および介入(インターベンション)に伴う動脈血栓の予防的処置における使用に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
ヘパリンはグリコサミノグリカンであり、高度にN−硫酸化されたD−グルクロン酸とD−グルコサミンから構成される酸性ムコ多糖である。ヘパリンは、腸、肝臓、肺など多くの哺乳類組織においてプロテオグリカンの形態で存在し、例えば哺乳類の血管や漿膜系の内側を覆う結合組織型のマスト細胞に局在している。ヘパリンの主要な薬学的特性は、天然の抗凝固物質であるアンチトロンビンIIIの活性を増強する能力である。
【0003】
ヘパリンは、自然界ではタンパク質と結合して存在し、いわゆるヘパリンプロテオグリカンを形成する。通常、内因的なまたは天然の、自然界に存在するヘパリンプロテオグリカンは、10〜15のヘパリングリコサミノグリカン鎖を含んでおり、それぞれ75±25kDaの範囲の分子量を有し、1つのコアタンパク質またはポリペプチドに結合している。天然のヘパリングリコサミノグリカン鎖はそれぞれ、自然の環境でエンドグリコシダーゼにより開裂するような、末端と末端とで連続的に配置された別個のいくつかのヘパリン単位を含んでいる。自然または天然の複合体は、純粋な形態で調製することが困難である。ゆえに、治療上のまたはこれに類するそれらの使用は触発されてはこなかった。ヘパリングリコサミノグリカンは、一般的にタンパク質と会合していわゆるプロテオグリカンを形成する、負に帯電したヘテロ多糖類という大きなグループに属する。その他自然界に存在するグリコサミノグリカンの例には、例えば、コンドロイチン−4−硫酸およびコンドロイチン−6−硫酸、ケラタン硫酸、デルマタン硫酸、ヒアルロン酸、ヘパラン硫酸およびヘパリンがある。これら自然界で存在するヘパリン様化合物のうち、ヒアルロン酸だけは、一般に、タンパク質様のコア分子と会合していない。
【0004】
過去数十年の間のヘパリンの研究における傾向は、ヘパリン鎖単位の開発と用途であったが、このヘパリン鎖単位は鎖をより短かくして特異性を高めた、全身臨床用調製物として分画されたものであった。一般に使用されている2種類の標準的な臨床用ヘパリンが、いわゆる非分画すなわち高分子量ヘパリン、そして分画すなわち低分子量ヘパリンである。この2種類のヘパリンは、それぞれ平均分子量が15kDaおよび5kDaである。本発明においては、これらの2種類のヘパリンはいずれも低分子量ヘパリンとされる。大部分の市販の調製物は、その起源、調製方法および/または測定方法にもよるが、分子量4〜20kDaである。したがって、市販のヘパリンは、本発明における定義では低分子量ヘパリンに属する。
【0005】
米国特許第5,529,986号には、合成により得られた巨大ヘパリン複合体分子が記載されている。この分子は、最低20個のヘパリン部分からなるが、100を越えるヘパリン部分を含むこともあり、例えばポリリシン、ポリオルニチン、キトサン、ポリアミンまたはポリアリルなどの天然または合成により得られた実質的に直鎖状のポリマー骨格と組合わされている。
【0006】
しかしながら、この特許では、それぞれのヘパリン部分がおよそ12kDaという低分子量によって特徴付けられてもおり、これは天然のヘパリンプロテオグリカンに存在するヘパリン鎖よりもかなり短かいものである。米国特許第5,529,986号に記載の巨大ヘパリン分子は、体外循環系の表面のコーティングに特に有用であるといわれており、その作用は、アンチトロンビンIIIに対する結合およびその作用の増強に基づいているといわれており、これは、現時点で存在するすべてのヘパリン調製物の、主要な機能的抗凝固メカニズムである。
【0007】
主に、標準的なヘパリン調製物は血栓症の全身的処置に使用される。これら標準的なヘパリン調製物自体は、静脈血栓など、凝固活性が優性な乏血小板血栓において最も効果的である。臨床用に使用される標準的なヘパリンは、血栓のさらなる成長をブロックすることで血栓症の全身的処置には効果的ではあるが、じゅく状斑の内因的破裂、または外因的な血管形成術または血管もしくは毛細血管の外科手術のいずれかに関連した血栓が形成する合併症を阻害するのには、十分に効果的であるとはいえない。
【0008】
動脈に対する介入、例えばステントを用いるまたは用いない血管形成術(PT(C)A=経皮経管(冠動脈)形成術)および血管または毛細血管の外科手術、並びに(指向的)動脈切除術および末梢血栓動脈内膜切除術などは、主な死亡原因である心血管の疾患に対する発展途上の処置方式の代表的なものである。したがって、内因的な血管もしくは毛細血管の傷害および/または外因的介入に関連して起こる、血小板主導の動脈血栓が、しばしば直面する問題となり、これらの状況においては血栓症の伝統的な全身的処置の効力が制限される場合が多い。
【0009】
動脈に対する介入に関連した現在の全身的抗血栓処置には、非分画ヘパリン(12kDa)または低分子量ヘパリン(7.5kDa)等の抗凝固剤と、アセチルサリチル酸(シクロオキシゲナーゼ阻害剤)などの抗血小板薬またはチクロピジンまたはより良好なクロピドグレル(ADPアンタゴニスト)の組合せが含まれる。最近の開発では、強力な血小板糖タンパクIIb/IIIa、フォンビルブラント因子およびフィブリノーゲン受容体アンタゴニスト、例えばアブシキシマブ、チロフィバンおよびベロフィバチドなどが代表的である。介入により処置された血栓になりやすい血管の急性血栓閉塞を30〜35%阻害した、新しい組合せ治療が成功している。血液製剤の注入を必要とする出血の危険性(大出血)は、だいたい6〜7%である。これまでアブシキシマブが最も効果的であるとされてきたが、これらは抗体ベースの薬剤なので、反復的な投与は抗原性を引き起こすことがある。
【0010】
非分画ヘパリンによる全身的処置は多くの望ましくない影響、例えば予測不能なバイオアベイラビリティー、短かい半減期、アンチトロンビンIIIの機能の減少につながるタンパク質に対する非特異的結合、および血小板減少症さらに血栓症による免疫学的血小板作用など、を受ける。これらの望ましくない影響は、低分子量の、分画されたペパリンの使用によって大いに回避されてきたが、フィブリンに結合したトロンビンおよび血小板に結合したXa因子の制御が制限されるために、そして血小板から分泌される血小板第4因子によるヘパリン活性の中和のために、動脈血栓を阻害する能力が制限されてきた。したがって、血管または毛細血管の傷害および介入に伴う動脈血栓の有効で確かな予防的処置を発展させる必要性は非常に高い。
【0011】
それらの研究において、本発明者らは、低分子量ヘパリンとは対照的に、哺乳類のマスト細胞から得られる天然のヘパリンプロテオグリカン(HEP−PG)が、血小板−コラーゲン相互作用を阻害するその能力に基づき強力な抗血栓特性を示すことを見い出した。このユニークな特性、即ちコラーゲンに血小板が粘着した後の血小板活性化事象をブロックする特性、は非分画ヘパリンおよび分画された市販のヘパリンを含めて低分子量ヘパリンにはないものであり、アンチトロンビンIIIまたはヘパリンコファクターIIの機能または活性を高める潜在能力も同時にもたらす。
【0012】
これまでのヘパリンのメカニズム、即ち、現在の臨床的使用におけるヘパリンのアンチトロンビンIII増強作用、さらに米国特許第5,529,986号に記載されている巨大ヘパリン分子構築物のアンチトロンビンIII増強作用、とは対照的に、本発明のヘパリン様化合物の効力はアンチトロンビンIII活性に依存するものではなく、これまで記載されていなかった、コラーゲン上での血小板粘着が引き金となる血小板活性化を強力に阻害するメカニズムに基づくものである。現在、このメカニズムの詳細は分かっていないが、コラーゲンへの血小板GP Ia/IIaの結合後の活性化シグナルとそれに続く膜リン脂質のフリップ・フロップの崩壊、および血小板においてコラーゲンによって通常誘発されるプロコアグラント活性によると考えられる。フォンビルブラント因子(vWF)への強い結合も関与しているのかもしれない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、全身的な抗血小板薬と組み合せることができる、局所的適用形態での抗血小板処置の別の方法を提供する。この組合せは、血管形成術、血管および毛細血管の外科手術および動脈内膜切除と組み合せて使用することができ、血小板接着のための暴露された内皮下血管および毛細血管のコラーゲンを不動態化することができる。最初の研究において、ヘパリンプロテオグリカン(HEP−PG)で達成された望ましい効果によって、血小板−血小板相互作用の阻害に基づく局所的な血栓形成は有意に減少したけれども、コラーゲン上での粘着は維持されていた。粘着血小板上でのコラーゲン誘発の血小板活性化は、マスト細胞由来のヘパリンプロテオグリカン(HEP−PG)、多重ヘパリングリコサミノグリカン分子それ自体またはコア分子に結合した多重ヘパリングリコサミノグリカン分子、負に帯電したグリコサミノグリカンの十分なカップリング密度をもたらす空間的に最適な巨大分子の提示または配置をもたらす長球状または球状のコア分子に結合した低分子量ヘパリンまたはヘパリン様グリコサミノグリカン、の存在下で完全にブロックされることが示された。
【0014】
上に定義された効果は、ヘパリングリコサミノグリカン(HEP−GAG)が75±25kDaの分子量を有し、および/または多重の担体(コア分子)に結合し、スペーサー/リンカーを有し、非分画もしくは分画ヘパリンまたはヘパリン様鎖が最適な空間的位置で提示されたときに得られ、このHEP−GAG分子を含むプロテオグリカン(HEP−PG)分子は、溶液中として存在するかまたはコラーゲンでコートされた表面上に固定化するかまたは吻合術の際、閉じる血管表面に塗布する。現在の手段を用いた、血栓を阻害するためおよび過剰な創傷修復を制限するためのトロンビンターゲッティングは、処置部位の再狭窄の発生を依然として伴っていた。本発明のHEP−GAG分子およびHEP−PG分子の利点は、正常な止血応答を確保する、維持された全身的血小板機能にあった。生体内での平滑筋細胞増殖に対する、マスト細胞由来のHEP−GAG分子およびHEP−PG分子の局所的阻害効果も、低分子量ヘパリン分子種の効果(Wang & Kovanen, Circulation Res, 印刷中)と比較して有意に優れていることを示した。
【0015】
これらの予備的な知見に基づき、本発明者らは本発明のヘパリン様化合物、並びにその調製方法およびそれらの使用を開発した。本発明の目的は以下に記載する。
【0016】
本発明の第1の目的は、マスト細胞由来の多重ヘパリングリコサミノグリカン(HEP−GAG)および/またはヘパリンプロテオグリカン(HEP−PG)の構造と特性を模擬した可溶性のヘパリン様化合物を提供することであり、このHEP−GAG分子およびHEP−PG分子は、血小板−コラーゲン相互作用のほぼ完全な阻害に基づくこれまで報告されなかったメカニズムによって特徴づけられることが示された。このメカニズムは、新たに開発され、合成的、半合成的または生物工学的に修飾されたヘパリン様化合物、並びに血管または毛細血管の傷害、および血管形成術、ステント術および血管移植術などの介入に伴う血栓を阻害するのに有用な局所的に適用可能な調製物の特性をスクリーニングし決定するのに有用であり、便利である。
【0017】
本発明の別の目的は、適合し得る添加剤、担体などと組み合せて本発明のヘパリン様化合物を含有する薬学的に有用な調製物を提供することであった。
【0018】
本発明の第3の目的は、本発明のヘパリン様化合物を投与するための手段および/またはデバイスを、該手段またはデバイスをコーティングすることにより提供することであった。
【0019】
さらに、本発明の目的は、マスト細胞からHEP−GAGおよびHEP−PG分子を製造するための方法を提供し、さらにそのマスト細胞またはHEP−GAGもしくはHEP−PG分子を化学的および/または生物工学的方法により修飾して、請求の範囲で定義された、天然のマスト細胞由来のHEP−PG分子またはそれから得られる多重HEP−GAG分子の空間的配置と特性に類似した最適な空間的配置と特性を有する、新規のヘパリン様化合物を提供することであった。
【0020】
さらに、本発明の目的は、本発明のヘパリン様化合物の、それ自体としてのまたは調製物を製造するための成分としての使用、および血管形成術、ステント術および血管移植術などの血管および毛細血管の外科手術または介入に関連する動脈血栓を含む重篤な血管障害の予防的処置および阻害に有用なデバイスの使用であった。
【課題を解決するための手段】
【0021】
(発明の要約)
血小板−コラーゲン相互作用は、止血および動脈血栓の、本質的な引き金となる事象である。予備研究において、本発明者らは、ヘパリンプロテオグリカン(HEP−PG)の分子量、つまりそのヘパリングリコサミノグリカン(HEP−GAG)部分の多重構造または空間的配置または提示に基づくヘパリングリコサミノグリカン(HEP−GAG)の特に高い分子量、と血小板−コラーゲン相互作用に対するその阻害効果との間の明確な関連性を見い出した。最良の結果は、多重グリコサミノグリカン(HEP−GAG)、または血管のマスト細胞が活性化されてそれら細胞の顆粒が外部の体液にエキソサイトーシスにより排出され、そこで顆粒由来のヘパリン分子が可溶化されるような、生体内における状況を模擬するサイズを有する多重グリコサミノグリカン鎖を含むヘパリンプロテオグリカン(HEP−PG)によって、得られることが示された。この可溶化されたヘパリンプロテオグリカン(HEP−PG)は、平均して約10個の、それぞれの分子量が75±25kDaであるヘパリングリコサミノグリカン(HEP−GAG)部分を含む。所望の効果は、いくつかの非分画のまたは分画された、本明細書におけるいわゆる低分子量ヘパリングリコサミノグリカン単位が末端−末端結合または末端−側鎖で組み合わさって多重グリコサミノグリカン自身かまたはコア分子に結合した多重グリコサミノグリカンを形成することによっても得られた。さらに、同様な凝集の阻害は、多重非分画ヘパリン鎖(12±10kDa)の多重アミノ硫酸基がヘテロな二官能性カップリング試薬、即ち空間的な配置とカップリング密度を有する本発明の最適に帯電したヘパリン様化合物を製造するための最適なコア分子を与えるスペーサーまたはリンカー分子、例えば球状タンパク質であるアルブミンに存在するリジン残基と結合するN−サクシニルイミジル−3(2−ピリジルチオ)プロピオネート(SPSD)など、とカップリングした場合に見い出された。
【0022】
このように、本発明はヘパリン様化合物であって、多重ヘパリンまたはヘパリン様グリコサミノグリカン分子を含み、高分子量を有し、いくつかの末端−末端および/または末端−側鎖で連結したヘパリンまたはヘパリン様グリコサミノグリカン分子そのものまたはそれが天然または合成により得られた、鎖状の、好ましくは短いまたは球状のコア分子に連結したものからなる、または球状のコア分子と複合体を形成する低分子量のヘパリンまたはヘパリン様グリコサミノグリカンからなる、ヘパリン様化合物に関する。
好ましくは、コア分子自体よりも多くのヘパリンまたはヘパリン様分子の結合を可能にするスペーサーまたはリンカー分子を使用して、上記ヘパリンまたはヘパリン様グリコサミノグリカンの望ましく十分なカップリング密度を得る。本発明のヘパリン様化合物は、負に帯電したヘパリンまたはヘパリン様グリコサミノグリカン分子または単位のカップリング密度を有し、それは、本発明のヘパリン様化合物の独特の特異的な特性の原因となるまたはそのような特性と密接に関連していると思われる空間的配置を本発明のヘパリン様化合物にもたらし、その特性は、マスト細胞由来のHEP−GAGおよびHEP−PG分子についてはじめて認識され、その特性は、血管または毛細血管の傷害または介入に伴う動脈血栓の一般的な原因である流動血液におけるコラーゲン上の血小板凝集を実質的に完全に阻害する能力である。
【0023】
本発明のヘパリン様化合物は、好ましくはいくつかの多重の末端−末端でおよび/または末端−側鎖で結合したヘパリングリコサミノグリカン(HEP−GAG)分子を含む。そのそれぞれは、好ましくは75±25kDaまたは75±25kDaを超える分子量を有する。
【0024】
本発明のヘパリン様化合物において、多重ヘパリンまたはヘパリングリコサミノグリカン分子は、天然または合成のコア分子と、結合、連結または複合体を形成してもよい。コア分子は、好ましくは球状であるかまたは所望の長球状の配置を与えるものであるが、より鎖状に近いコア分子に結合することもできる。
【0025】
低分子量のヘパリンまたはヘパリングリコサミノグリカン分子もコア分子に結合することができる。但し、その場合には、コア分子は長球状または球状の配置を有する。また、スペーサーまたはリンカー分子の使用が望ましく、これはより多くのヘパリンまたはヘパリン様分子または単位の連結を可能にし、したがってより最適な空間的配置とより高いカップリング密度をもたらす。
【0026】
コア分子はタンパク質またはポリペプチドであると有利である。コア分子の有用な例は、球状タンパク質、例えばアルブミン、好ましくはヒト由来の血清アルブミンである。コア分子のさらなるタイプは、ポリペプチドであるが、これは非常に長いものである必要はなく、例えば、Ser−Gly−Ser−Gly−配列の1またはそれ以上の繰り返しを含む。別法として、他の種類のアミノ酸配列を使用することができる。
【0027】
本発明は、商業的に入手可能なヘパリンおよびタンパク質またはポリペプチドからの一般的な修飾を含む、天然の供給源、合成または半合成または生物工学的方法からヘパリン様化合物を製造するための方法を記載する。
【0028】
天然のヘパリン様化合物は、単離・精製した結合組織由来のマスト細胞を適当な培養細胞培地中で、良好な細胞増殖とヘパリンを含有する顆粒の産生とを可能にする条件を用いて増殖させることにより製造する。増殖工程を終了したのち、即ちヘパリンプロテオグリカンの収量が最適になったら、ヘパリンプロテオグリカンを含有する顆粒を、場合により活性化および/または溶解により放出させる。活性化工程は、マスト細胞脱顆粒を誘導し、可溶化された多重HEP−PG分子を放出させるマスト細胞アゴニストにより行うことができる。好ましいアゴニストは、塩基性ポリアミンやカルシウムイオノフォアからなる群から選択する。放出された顆粒を、周囲の培地中で可溶化させ、この可溶化したヘパリンプロテオグリカン(HEP−PG)を外の培地から集める。その後、所望であれば、天然の多重ヘパリングリコサミノグリカン(HEP−GAG)を該ヘパリンプロテオグリカンから分離することができ、該ヘパリングリコサミノグリカン(HEP−GAG)分子をさらにお互いに連結させて、高度の分岐および/または多重性を有するヘパリングリコサミノグリカンを得ることができる。
【0029】
合成的または半合成的方法において、いくつかのヘパリンまたはヘパリン様グリコサミノグリカン単位を、末端−末端および/または末端−側鎖で共有結合により連結させることができる。場合により、特に低分子量のヘパリン分子を出発物質として使用する場合、カップリング剤、例えばスペーサーまたはリンカー分子、を使用して、最適な多重性と空間的配置が得られるようにする。
【0030】
上記の本発明はすべて、血管または毛細血管傷害および/または介入に伴う動脈血栓の予防的処置のための方法に関する。この方法は、本発明のヘパリン様化合物の局所的投与によって行なわれる。局所的投与は、調製物の形態で本発明のヘパリン様化合物の有効量を直接、および/または本発明のヘパリン様化合物でコーティングしたデバイス例えばステント、血管移植片または体外循環系などとして間接的に適用することにより行なわれる。本発明のヘパリン様化合物は、薬学的に許容しうる担体および/または添加剤と組み合せて、適用や投与のためのより有用な調製物を得ることができる。
【0031】
本発明はさらに、血管または毛細血管の傷害または介入に関連する本発明のヘパリン様化合物の局所的投与のための調製物、手段および/またはデバイスを記載する。効果的な局所的投与は、例えば本発明のヘパリン様化合物でコーティングされた手段および/またはデバイスにより得られる。
【0032】
本発明はさらに、血管傷害または介入の部位での血小板凝集または詰まりを阻害するための方法に関する。この阻害は、特に本発明のヘパリン様化合物でコーリングされたデバイスの助けにより得られる。
【0033】
局所的投与のための手段および/またはデバイスを製造するための方法はさらに、活性を保持し保存が可能なように、例えばデバイスを本発明のヘパリン様化合物を含む溶液と接触させ、ほぼ滅菌条件下でこのデバイスを処理することを示唆し、そして包含する。デバイスは、例えば凍結乾燥により乾燥することができ、滅菌したバイアル内で使用するまで保存することができる。本発明のヘパリン様化合物でコーティングされたデバイスを処理し保存するための別の方法が当業者に知られている。
【0034】
このように、本発明は、血管または毛細血管の傷害および介入に伴う動脈血栓の原因である、流動している全血におけるコラーゲン上の血小板凝集の実質的に完全な阻害が可能な、医薬品および/またはデバイスを製造するためのヘパリン様化合物の使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】クエン酸塩添加血漿(希釈率1:3)におけるトロンビン時間に対する種々のヘパリングリコサミノグリカン(HEP−GAG)の用量依存的効果を示す。HMWH=高分子量、即ち非分画ヘパリン、LMWH=低分子量、即ち分画ヘパリン、HEP−PG=マスト細胞由来水溶性ヘパリンプロテオグリカン。
【図2】クエン酸塩により抗凝固処理された血小板豊富血漿(PRP)における、コラーゲン(Sigma、凝集キットのコラーゲン)誘導性血小板凝集(25μg/mL)の最大凝集(%)に対する、マスト細胞由来HEP−PG(分子量750kDa)、HEP−PGから得られたヘパリングリコサミノグリカン(HEP−GAG)鎖(分子量75kDa)、HMWH(分子量15kDa)、LMWH(分子量5kDa)の効果の比較を示す。
【図3】PPACK−抗凝固流動全血における種々のせん断速度条件下でのコラーゲン(ウシ、I型、線維性)上の血小板沈着に対するマスト細胞由来HEP−PG(3μg/mL)の効果を示す。潅流時間は5分とした。数値は、4人のドナーについて、200、700および1700 1/sでの平均±SDで示し、それぞれ2回ずつ行なった。
【図4】標準ヘパリン(10mg/mL)またはマスト細胞由来HEP−PG(10mg/mL)を固定化した潅流チャネルの、モノマーコラーゲンI型上をせん断速度1640 1/sでヒト全血を潅流した後のスキャンニング電子顕微鏡写真である。上段の図(対照)は、潅流チャネルにおいて大きな血小板凝集がみられる。中段の図では、標準的な非分画ヘパリン(HMWH)が凝集の大きさをある程度減少させたが、表面の領域は外見的には影響を受けなかった。下段の図では、マスト細胞由来のHEP−PGの存在下で、血小板沈着がほとんどみられず、主に低いせん断速度条件でのチャネルの淵において、単一の血小板の粘着がときおりみられるだけであった。
【図5】線維状の形態のコラーゲンI型(エキリン、Horm(商標)コラーゲンNycomed)上での血小板粘着に対する、固定化した非分画の標準的なヘパリン(10mg/mL)およびHEP−PG(10μg/mL)の効果を示す。この形態のコラーゲンに対する血小板粘着は、GP Ia/IIaに加え、GP IVおよびGP VIに依存する。ドナーは5人であり、それぞれ2回ずつ行なった。せん断速度は1640 1/sであり、潅流時間は5分であり、血液をPPACK30μMで抗凝固処理した。Collはコラーゲンであり、HMWHは非分画の標準的なヘパリンであり、HEP−PGはマスト細胞由来のヘパリンプロテオグリカンである。
【図6】ペプシンで消化した天然の酢酸可溶性ウシコラーゲン線維である、モノマー形態のコラーゲンI型上での血小板沈着に対する、固定化した非分画の標準的なヘパリン(10mg/mL)およびマスト細胞由来HEP−PG(10μg/mL)の効果を示す。血小板沈着は、GP Ia/IIaに大きく依存する。非分画ヘパリンおよびHEP−PGはいずれも、固定化したまたはモノマー形態のコラーゲンの場合、血小板沈着を阻害したが、HEP−PGは阻害機能において、有意により強力なものであった。ドナーは5人であり、それぞれ2回ずつ行なった。せん断速度は1640 1/sであり、潅流時間は5分であり、血液をPPACK30μMで抗凝固処理した。Collはコラーゲンであり、HMWHは非分画の標準的なヘパリンであり、HEP−PGはマスト細胞由来のヘパリンプロテオグリカンである。
【図7】Mg2+(2mM)含有緩衝液中での血小板と線維状I型コラーゲンとの相互作用に対する、マスト細胞由来のHEP−PGの効果を示す。実験は22℃にて100×10/mLの血小板を用い、均等な血小板凝集を導く静的条件下で行った。データは、4人のドナーについての平均±SDであり、それぞれ2回ずつ行なった。PDは血小板沈着である。
【図8】Mg2+(2mM)含有緩衝液中における、血小板とコラーゲンとの相互作用に対するマスト細胞由来HEP−PGの効果を示す。実験は37℃にて300×10/mLの血小板を用い、血小板と線維状I型コラーゲンに粘着した血小板との相互作用を可能にする低速回転(100rpm)下で行った。データは、5人のドナーについての平均±SDであり、それぞれ2回ずつ行なった。P<0.0001(二重t−テスト)。PDは血小板沈着である。
【図9】血液をベッセルに10分間循環させた後の、ラット吻合モデルのスキャンニング電子顕微鏡写真である。潅流を行なった吻合部位の2種類の倍率(75倍および500倍)。左側の図は、生理食塩水処理した吻合を示し、右側の図は、マスト細胞由来HEP−PGで処理した吻合を示す。実験結果は5回行なったうちの代表的なものを示す。
【図10】Aは、クエン酸塩添加PRPにおけるコラーゲン(Sigma, 凝集キット,25μg/mL)誘発性の血小板凝集を示し、Bは、コラーゲン誘発性の血小板凝集に対するマスト細胞由来HEP−PG(ヘパリン3μg/mL)の効果を示し、Cは、コラーゲン誘発性の血小板凝集に対するアルブミン結合非分画ヘパリン(ヘパリン0.75μg/mL)の効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0036】
(発明の詳細な記載)
定義
本記載では、以下の略語および頭字語を頻繁に使用する。GPは糖タンパク質を意味する。HEP−GAGは、流動している全血におけるコラーゲン誘発性の血小板凝集のほぼ完全な阻害が可能な、長い(75kD)または分岐したまたは多重ヘパリングリコサミノグリカンを意味する。HEP−PGは、上で定義したHEP−GAG分子を含むヘパリンプロテオグリカン(天然のまたは合成のまたは半合成の、コア分子に結合した、即ちタンパク−またはペプチドに結合した)を意味する。HMWHは、商業的に入手可能な、非分画の高分子量の7.5〜30kDaのヘパリンまたはヘパリングリコサミノグリカン単位を意味する。LMWHは、商業的に入手可能な、低分子量の、7.5kDa未満のヘパリンまたはヘパリングリコサミノグリカン単位を意味する。この2つのタイプのヘパリンは、本発明においては、いわゆる低分子量ヘパリン分子または単位である。HSAは、ヒト血清アルブミンを意味し、BSAは、ウシ血清アルブミンを意味し、MWは分子量を意味する。PBSは、リン酸緩衝化生理食塩水を意味する。PPACKは、D−フェニルアラニル−1−プロピル−1−アルギニンクロロメチルケトンを意味し、PRPは、血小板豊富血漿を意味し、SDSは、ドデシル硫酸ナトリウムを意味し、TESは、N−トリス(ヒドロキシ−メチル)メチル−2−アミノエタンスルホン酸を意味し、vWfはフォンビルブラント因子を意味する。SPDPは、N−サクシニルイミジル−3−(2−ピリジルチオ)プロピオネートを意味する。
【0037】
本記載においては、使用する用語は、免疫化学、免疫学、生化学などを含め、医学の分野においてそれらが一般的に有する、それらの分野の教科書や論文に記載されている意味と同じ意味を有する。但し、いくつかの用語については、より広い意味で使用し、その用語の一般に使用されている意味とは若干違う意味を有する。これらの用語のうちのいくつかを、以下に定義する。
【0038】
「ヘパリン様化合物」なる語は、マスト細胞由来のヘパリンプロテオグリカンおよびヘパリングリコサミノグリカンと構造的に類似した化合物を意味し、流動している全血におけるコラーゲン誘発性の血小板凝集をほぼ完全に阻害する能力と、Lassila R, Lindstedt K, Kovanen PT. Arteriosclerosis, Thrombosis, and Vascular Biology 1997; 17 (12):3578-3587に記載された方法によって測定することができる天然のマスト細胞由来のヘパリンプロテオグリカン(HEP−PG)またはそこから得られるヘパリングリコサミノグリカン(HEP−GAG)分子によって示される独特の特性を付与する、負に帯電したヘパリンまたはヘパリン様グリコサミノグリカン単位のカップリング密度によって特徴付けられる化合物を意味する。
【0039】
本発明のヘパリン様化合物は、可溶性ものもコラーゲン上に固定化されたものも、血管の傷害および介入に伴う動脈血栓の原因である流動している全血におけるコラーゲン上での血小板凝集を阻害する能力、並びに流動している全血とコラーゲンとの相互作用を阻害する能力によって、特に、特徴付けられる。ヘパリンまたはヘパリン様グリコサミノグリカン分子の多重構造または最適なカップリング密度に加え、この特性は本発明のヘパリン様化合物に要求される必要条件である。
【0040】
最も具体的な意味では、「ヘパリン様化合物」は、マスト細胞由来のヘパリンプロテオグリカン(HEP−PG)およびそれから得られるヘパリングリコサミノグリカン(HEP−GAG)に限定される。但し、負に帯電したヘパリンまたはヘパリン様グリコサミノグリカン分子または単位の所望の高いカップリング密度を有する化合物を生じる、独特の、空間的に最適な配置を有するヘパリン様化合物を得るための、直接にまたはスペーサーもしくはリンカー分子の助けによってコア分子に連結した、多重の、非分画または分画ヘパリンまたはヘパリン様鎖もまた含まれる。本発明のヘパリン様化合物の独特の特性を付与する所望の高いカップリング密度は、例えば天然のマスト細胞由来のヘパリンプロテオグリカン(HEP−PG)または多重ヘパリングリコサミノグリカン(HEP−GAG)分子においてはじめて見出されたものであると同時に、本発明のヘパリン様化合物の特性を説明するものであると思われる。
【0041】
本発明において「ヘパリンまたはヘパリン様プロテオグリカン」なる語は、ヘパリン様化合物の定義において記載した必要条件を満たすヘパリンまたはヘパリン様プロテオグリカンを意味する。好ましくは、プロテオグリカンは、コア分子に結合した、3を越える多重ヘパリンまたはヘパリン様グリコサミノグリカン分子を含む。上記の「ヘパリンまたはヘパリン様化合物」なる語はすべて、組織抽出または好ましくは細胞の培養によって哺乳類の結合組織型マスト細胞から得られる、天然の、水溶性のヘパリンプロテオグリカン(HEP−PG)を包含する。これらのヘパリンプロテオグリカン(HEP−PG)は、通常約10〜15の多重ヘパリングリコサミノグリカン(HEP−GAG)分子を含む。合成によって製造されたヘパリンまたはヘパリン様プロテオグリカンは、上で定義した必要条件を満たす限り、任意の数の多重ヘパリンまたはヘパリン様グリコサミノグリカン分子を含むことができる。
【0042】
「水溶性または可溶化されたヘパリン様化合物」なる語は、マスト細胞由来HEP−PG分子が、マスト細胞の顆粒から,その分子が可溶化する外の媒体へ放出され、その後で細胞の残骸やその他の不溶性成分から分離できることを意味する。本発明の他のヘパリン様化合物は、たとえ、その分子すべての固有の特性が、特定の、特に固体表面に容易に粘着するものであったとしても、上で定義したのと同じタイプの可溶性が付与されるということが観察される。
【0043】
上記の「多重ヘパリンまたはヘパリン様グリコサミノグリカン分子」なる語はすべて、マスト細胞由来のヘパリンプロテオグリカンから得られ、分子量75±25kDaを有する天然のヘパリングリコサミノグリカン(HEP−GAG)分子を包含する。この用語はまた、例えば非分画または分画低分子量ヘパリンから得られる、末端−末端および/または末端−側鎖で連結した数個のグリコサミノグリカン単位を有する合成または半合成的に得られるヘパリンまたはヘパリン様グリコサミノグリカンを包含する。この「多重ヘパリンまたはヘパリン様グリコサミノグリカン分子」は、ヘパリン様化合物の定義において記載した特性を有する多重の直鎖または分岐鎖の分子を形成する。各ヘパリンまたはヘパリン様グリコサミノグリカン分子は、ヘパリン様化合物の定義に記載した特性を付与するに十分な分子量を有するものである。
【0044】
「多重ヘパリンまたはヘパリン様グリコサミノグリカン分子」または非分画または分画ヘパリンもしくはヘパリン様鎖は、天然の、合成または半合成コア分子、例えばタンパク質、好ましくは球状タンパク質と複合体を形成して、上で定義した特性を有するヘパリンプロテオグリカンを得ることができる。
【0045】
「多重ヘパリンまたはヘパリン様グリコサミノグリカン分子」なる語は、例えば少なくとも3〜4の末端−末端または末端−側鎖で連結した、それぞれ商業的に入手可能な非分画または分画低分子量ヘパリンに相当する分子量を有するヘパリンまたはヘパリン様グリコサミノグリカン単位を有する分子を包含する。それらの分子量は、一般に20kDa未満、主に15kDa未満であるが、12kDa未満の分子量を有するヘパリングリコサミノグリカンも使用することができる。そのような場合は、単に、ヘパリン様化合物に関して定義した特性を付与するに十分に高い分子量またはカップリング密度を有するHEP−GAG分子を得るためにそれら分子をさらに多く結合させねばならないというだけである。天然マスト細胞由来の自然の多重ヘパリングリコサミノグリカン(HEP−GAG)分子は、一般に、約75±25kDaの分子量を有する。そのような天然の「多重ヘパリングリコサミノグリカン分子」もまた末端−末端および/または末端−側鎖で連結させて、より大きな分子を得ることもでき、これもまた本発明の範囲に属する。このように、本発明の多重ヘパリングリコサミノグリカン(HEP−GAG)は、それらの任意の多重を含めて、少なくとも75±25kDaの分子量を有する。請求の範囲に定義したヘパリン様化合物の特徴を他に有していれば、ヘパリン様グリコサミノグリカンが定義された分子量を有していなければならないという必要性はない。高い分子量のほかに、十分なカップリング密度を得るための別の方法は、非分画または分画グリコサミノグリカン、例えばヘパリン、を球状のコア分子へ連結することである。所望の密度は、特に、より多くの所望のヘパリンまたはヘパリングリコサミノグリカン単位の結合を可能にする特異的なスペーサーまたはリンカー分子を用いることにより得られる。
【0046】
たとえ、天然のマスト細胞由来のHEP−GAG分子およびHEP−PG分子が血漿において実質的に低いアンチトロンビン結合活性を有することにより特徴づけられたとしても、本発明のヘパリン様化合物すべてがそうではない。しかしながら、血管または毛細血管の傷害および介入に伴う動脈血栓の原因であるコラーゲン誘発性の血小板凝集を実質的に完全に阻害する可能性は、本発明のすべてのヘパリン様化合物にあるものであるが、その化合物のうちのいくつかにおいては、その特性が強力なアンチトロンビンIII促進活性と結びつく。この組合せ効果はさらに有利な特性を、その製品、即ち本発明の化合物、調製物およびデバイスに付与する。
【0047】
このように、本発明における「ヘパリンまたはヘパリン様グリコサミノグリカン」および「ヘパリンまたはヘパリン様プロテオグリカン」なる語は、マスト細胞由来のヘパリンプロテオグリカン(HEP−PG)またはヘパリングリコサミノグリカン(HEP−GAG)だけでなく、合成、半合成のまたは組換えDNA技術を用いて製造されたヘパリン様グリサミノグリカンおよびヘパリン様プロテオグリカンも意味する。
【0048】
最も広い態様では、「ヘパリン様化合物」なる語は、直鎖状のまたは分岐したヘパリン様グリコサミノグリカン、即ちアミノ基を含み天然または合成または半合成のコア分子に連結または共有結合した、数百の単糖類からなる化合物を意味する。
【0049】
そのようなヘパリン様化合物は、上で記載した要件および必要条件を満たし、天然のマスト細胞由来のヘパリンプロテオグリカン(HEP−PG)およびヘパリングリコサミノグリカン(HEP−GAG)の特徴を有する分子を得るために、例えばコンドロイチン硫酸、ケラタン硫酸、デルマタン硫酸、へパラン硫酸および/またはヒアルロン酸など、天然に存在するグリコサミノグリカン分子種そのものまたは化学的または組換えDNA技術を含む生物工学的手段により修飾されたものから得られる。ヘパリン様グリコサミノグリカン分子は天然物から単離する必要はない。それら分子を合成することもでき、または天然に存在する分子種のフラグメントを互いに、特にヘパリンフラグメントを連結させて新たな改変体を得ることもでき、その特性は当業者に知られている方法によって容易に試験することができる。
【0050】
「マスト細胞」なる語は、哺乳類またはヒト由来の血管または漿膜のマスト細胞のような、結合組織に関連するマスト細胞を意味し、それぞれの組織から単離することができ、その細胞を培地中で、その細胞の増殖と、マスト細胞の溶解および/または活性化による本発明のヘパリンプロテオグリカン(HEP−PG)の分泌とを可能にする条件下で培養することができる。ヒトのマスト細胞を含め哺乳類のマスト細胞は、入手可能であり、文献に記載されている(Butterfield JH, Weiler D, Dewald G, Gleich GJ, Leuk Res 1988; 12: 345-55; Nilsson G, Blom T, Kusche-Gullberg M, Kjellen L, Butterfield JH, Sundstom G, Nilsson K, Hellman L. Scand J Immunol 1994; 39: 489-98)。マスト細胞は一般に、慣用の突然変異誘発または組換えDNA技術により修飾することができる。
【0051】
「カップリング密度」なる語は、負に帯電したヘパリンまたはヘパリン様グリコサミノグリカンが、本発明のヘパリン様化合物の特徴が得られるような方式で空間的に互いに集まることを意味する。これは、多重ヘパリンまたはヘパリン様グリコサミノグリカンを調製することにより、または短い分子をお互いに、負電荷の十分な密度と最適な提示を可能にするような空間的配置に集めることにより、達成される。
【0052】
「スペーサー/リンカー分子」なる語は、所望の化合物または分子の、コア分子への結合を可能にする多様な基を有する重合化合物を意味する。SPSDが一つの例であるが、例えばタンパク質化学およびコンビナトリアルケミストリー(combinatorial chemistry)の分野の当業者は、同等の有用性を有する多様な他のスペーサー/リンカー分子を見い出すことができる。
【0053】
「流動全血におけるコラーゲン上での血小板凝集を実質的に完全に阻害する能力」なる語は、Lassila R, Lindstedt K, Kovanen PT. Arteriosclerosis, Thrombosis, and Vascular Biology 1997; 17 (12):3578-3587に記載の方法によって測定したときに、血小板とコラーゲンとの間の相互作用を阻止することができるということを意味する。
【0054】
「局所的投与」または「局所的使用」なる語は、本発明のヘパリン様化合物を血管の傷害領域に、そのものとしてまたは in situ もしくはオン・プレイス(on place)の形態で、即ち局所的(locally)または局所的(topically)に適用可能な調製物もしくは組成物および/または手段もしくはデバイスとして投与することを意味する。局所的投与は、例えば、露出した血管組織を溶液でフラッシング(flushing)することによって行なう。本発明のヘパリン様化合物は、デバイスをコーティングするのに使用することができ、それを傷害した血管に接触させて設置することができる。このようなデバイスは、例えば“コーティングされたステント”、即ち血管を開いたまま維持するために血管内に設置する小さなデバイス、または弱くなった血管組織を置き換えるために使用する“血管移植片”である。コーティングすることができるデバイスのその他の例には、例えば体外循環系があり、その内壁を本発明のヘパリン様化合物でコーティングすることができる。
【0055】
「予防的処置」なる語は、局所的(local)または局所的(topically)適用、例えば本発明のヘパリン様化合物をそれ自体としてまたは適当な調製物としてまたは該ヘパリン様化合物でコーティングされたデバイスの形態で、露出した血管組織をフラッシングすることにより、血管または毛細血管の傷害および介入による血栓を阻止することを意味する。ヘパリン様化合物の局所的投与は、それ自体としてまたは慣用の調製物の全身的投与と組み合せて使用することができる。
【0056】
「動脈血栓」なる語は、アテローム血栓症およびその他脈管構造の止血状態、血管傷害および医原性の血管形成術およびその他の介入を含む、内因的な状態に関連する動脈内の血栓を意味する。
【0057】
「調製物」なる語は、患者に投与するための調製物、手段および/またはデバイス中の適合し得る薬学的に許容し得る添加物、担体と組み合せて使用する本発明のヘパリン様化合物を意味する。
【0058】
(発明の一般的記載)
本発明の第一の目的は、生体内での血小板−コラーゲン相互作用について、本発明のHEP−GAG分子またはHEP−PG分子の効果と、標準的なヘパリン(平均分子量15および5kDa)の効果とを比較することであった。標準的なヘパリンとは対照的に、マスト細胞由来のHEP−PGおよびHEP−GAG分子は、血小板豊富血漿におけるコラーゲン誘発性の血小板凝集とセロトニン放出を完全に阻害することが示された。本発明のマスト細胞由来のHEP−GAGおよび/またはHEP−PG分子によって引き起こされるこの阻害は、それらの巨大分子構造に依存していることが示された。流動血液では、マスト細胞由来のHEP−GAGおよびHEP−PG分子はまた、コラーゲンでコーティングされた表面上での血小板の沈着を、低いせん断速度および高いせん断速度(shear rate)の両方で阻害した。マスト細胞由来のHEP−GAGおよびHEP−PG分子は糖タンパク(GP)Ia/IIa介在の血小板粘着を阻害しなかったが、その後の血小板の活性化と凝集、並びにコラーゲン刺激後の血小板へのフィブリノーゲン結合を減弱化した。マスト細胞由来のHEP−GAGおよびHEP−PG分子は血小板に結合しなかったが、フォンビルブラント因子(vWf)に強固に結合し、コラーゲンへの結合を増強した。高いせん断速度での血小板粘着とリストセチン刺激後のGP Ibに対するvWf結合は、顕著に影響しなかったが、本発明のHEP−GAGおよびHEP−PG分子は、トロンビン誘発性の凝集とGP IIb/IIIaへのvWf結合を減少させた。これらの知見は、HEP−PGの分泌を確保することによる血管マスト細胞の活性化が、マトリックスコラーゲンの血栓形成性を、その血小板活性化能力を阻害することにより局所的に減弱化し得ることを暗示している。
【0059】
トロンビン活性を阻害するマスト細胞由来HEP−PGの能力を調べることが、この研究の最初の目的であった。具体的には、非常に高い分子量のヘパリン分子種の阻害効果を、標準的なヘパリンの、アンチトロンビンIII活性の増強に本質的によるところの、よく知られている抗凝固機能(Nader HB, Dietrich CP., in Lane DA and Lindahl U (eds): Heparin: Chemical and Biological Properties, Clinical Application. Erward Arnold, London. 1989, pp81-96)と比較した。トロンビンを阻害するHEP−PG、HMWH、およびLMWHの異なる能力に焦点を当てたこの分析(図1)は、血漿タンパク質の非存在下では、HEP−PGのほうがHMWHよりもアンチトロンビンIIIを直接増強する機能的な能力が優れているが、血漿の存在下ではHEP−PGはHMWHよりも効力が低かったことが示された。これらのデータから、HEP−PGが、HMWHと比較して、ヘパリンに対する結合についてアンチトロンビンIIIと拮抗すると考えられているvWfなどの血漿タンパク質とより効果的に結合するかどうかについて理解することができた。分子量が大きいヘパリンほど、血漿タンパク質に対する親和性が高いということは示されている(Baruch D, Ajzenberg N, Denis C, Legendre J-C, Lormeau J-C, Meyer D. Thromb Heamost 1994: 67:639-643)。総括すると、HMWHおよびLMWHと比較した、観察された血小板−コラーゲン相互作用に対するHEP−PGの阻害能力(以下実施例15〜16を参照)は、アンチトロンビンIIIに依存するトロンビン阻害によるものではないと結論づけられた。
【0060】
本研究の主な知見は、(i)コラーゲン誘発性の血小板凝集(図2)、(ii)それに続く密な顆粒の放出(セロトニン)、および(iii)低いおよび高いせん断速度条件下両方での、流動全血における固定化されたコラーゲン上の血小板沈着(図3)のHEP−PGによる全体的な阻害であった。以前に、HMWH(濃度>6μg/mL)は、脱陽イオン化PRPにおいて低用量コラーゲンにより誘発される血小板凝集を減少させることは示されていた(Fernandez F, N'guyen P, van Ryn J, Ofosu FA, Hirsh J, Buchanan MR. Thromb Res. 1986; 43: 491-495)。本研究では、マスト細胞由来のHEP−PGが、HMWHとは対照的に、コラーゲン誘発性血小板凝集およびセロトニン放出を、コラーゲン濃度に関係なく全体的に阻害することがわかった。興味深いことに、HEP−PG分子は、血小板豊富血漿(PRP)にコラーゲンの10秒後に加えた場合でさえ、血小板に対するコラーゲンの作用を阻害できることが示された。マスト細胞由来のHEP−PG分子は、PPACK−PRPよりもクエン酸塩PRPにおいて、コラーゲンによる血小板凝集を効果的に阻害することを示し、HEP−PG分子が、コラーゲン刺激に対する陽イオン依存の血小板機能をブロックするのに最も強力であることを示した(図2、3、4)。血小板GP Ia/IIaの異質性は、人によって様々な血小板応答をもたらしたが、このことは、恐らく、ゲルろ化された血小板の凝集に対するHEP−PGの阻害効果がアル程度変動していることに反映している。この結果は、ヘパリングリコサミノグリカン(HEP−GAG)分子の多重構造に関連することを示した。
【0061】
使用した条件下では、HEP−PG分子はコラーゲンまたは静止している血小板とは直接には結合しなかったようであることから、HEP−PG分子は他のメカニズムにより血小板−コラーゲン相互作用を妨害した。HEP−PGがMg2+−依存性の血小板粘着を阻害せずに、その後で血小板凝集を減少させた(図4および5)という知見は、GPIa/IIaからGPIIb/IIIaへの活性化シグナルの伝達の減弱を暗示した。このように、フィリノーゲン結合の検出された減少は、コラーゲン誘発性血小板活性化の妨害にとって二次的なものであった。HEP−PGがGP IIb/IIIaに直接作用しなかったという示唆は、HEP−PGの存在下での正常なADPおよびエピネフリン誘発性の凝集とフィブリノーゲン結合によってさらに裏付けられた。本発明のHEP−GAG分子についても同様の結果が得られた。
【0062】
この知見は、コラーゲン上での血小板粘着後の活性化の減少(図3、4、5)を暗示し、これは、低いせん断速度および高いせん断速度両方での流動血液における血小板動員の阻害を導くものである。HEP−PGによってMg2+依存の血小板粘着は減少しなかったので、根底にあるメカニズムとしてのGP Ia/IIaの直接の阻害は排除される。コラーゲン誘発性の凝集だけでなくトロンビン誘発性の凝集をも阻害する、強い負電荷を有する巨大分子であるHEP−PG分子は、アゴニストによる活性化の間の負に帯電した血小板膜リン脂質の外への移動を遮断した(Bevers EM, Comfurius P, Zwaal RFA. Blood Rev 1991; 5: 146-154)。GP Ia/IIa介在のコラーゲンに対する粘着の後の、血小板機能の低下は、GP IIb/IIIaに対するリガンド結合の減少によって媒介されたであろう。実際、HEP−PGはコラーゲンにより刺激された血小板へのフィブリノーゲン結合を減少し、HEP−GAGも同様に減少させることを示した。流動条件下では、コラーゲンへの血小板動員は、vWfと、血小板GP IbおよびIIb/IIIa並びにコラーゲンに対するその結合に大きく依存している。GP IIb/IIIaはトロンビンのvWfへの結合が引き金となり、ヒルジンを使用した条件下では、血小板を加えた60秒後にトロンビンのタンパク質加水分解作用を阻止した。HEP−PGはまた、vWfの血小板への結合を減少させた(以下の表IIを参照)。以上をまとめると、コラーゲンに対する血小板粘着の後、HEP−PGは血小板活性化をブロックし、同時にvWfに強固に結合することにより、GP IIb/IIIaに対するそのアベイラビリティーを減少させた。マスト細胞由来のHEP−GAG分子およびHEP−PG分子はvWfに結合することにより、vWfの、GP IIb/IIIaとの相互作用だけでなく、GP Ibとの相互作用の破壊をももたらした。したがって、リストセチン誘発性の血小板凝集がHEP−PGにより顕著に減少した(以下の表I参照)。
【0063】
100倍過剰のHMWHはvWf結合を阻害したが、使用したHEP−PGの濃度では、リストセチンにより刺激された血小板に対するvWfの結合(静止条件)は影響を受けなかった。HEP−PGが血小板−コラーゲン相互作用を阻害する高いせん断速度での流動血液においては、これらの巨大分子は、静止結合分析における効果と比較して、vWf−依存の血小板活性化に対する効果が確かに強かった。実際、試験管内および生体内の両方で、HMWHはvWf依存の血小板機能をかなり妨害することが既に報告されている(Sobel M, McNeill PM, Carlson PL, Kermode JC, Adelman B. Conroy R, Marques D: J Clin Invest 1991; 87: 1787-1793)。しかし、HEP−PGは、GP Ibおよびヘパリン結合領域が存在するA1ドメイン以外のvWf分子の他のドメインによっても媒介されるvWfのコラーゲンへの結合を阻害するどころかむしろ増強した。vWfのコラーゲンへの結合の増加は、コラーゲンの血小板活性化ドメインを封じると考えられる。
【0064】
本発明のヘパリン様分子の供給源の1つであるマスト細胞は、血管壁の外膜層および小静脈の血管周囲に多く存在する(Galli SJ. N Engl J Med 1993, 328: 257-265)。それらは、アテローム発生の部位である動脈内膜にも存在し、活性化されたマスト細胞は、最も一般的な破裂部位である、冠アテロームの炎症領域の肩の部分(inflammatory shoulder region)へ浸潤することが分かっている(Kovanen PT, Kaartinen M, Paavonen T. Circulation 1995; 92: 1084-1088)。活性化されると、炎症において起こるように、マスト細胞は脱顆粒し一連の血管作用因子をエキソサイトーシス (exocytosis) によって排出する。なかでも短命ロイコトリエンおよびプロスタグランジン、血小板活性化因子およびヒスタミンは血小板を刺激することが知られている。ヒスタミンは、内皮のフォンビルブラント因子(vWf)およびP−セレクチンを放出し、2つの因子は血小板および白血球に対する重要な粘着シグナルである(Wagner DD. Thromb Haemost 1993; 70: 105-110)。さらに、マスト細胞は、そこから臨床的に使用されるヘパリンが得られるグリコサミノグリカンを分泌するのに対し(Nader HB, Dietrich CP., in Line DA and Lindahl U (eds): Heparin: Chemical and Biological Properties, Clinical Application. Edward Arnold, London. 1989, pp 81-96 )、活性化された血小板は、血小板第4因子、ヘパリン中和因子、およびヘパリン開裂エンドグリコシダーゼであるヘパリチナーゼを分泌する。このように、これら2つのタイプの細胞間での相互作用が、それらが活性化された後に存在するようであるが、これまで十分に特徴付られてはこなかった。
【0065】
止血においてマスト細胞活性化が関与するかどうかを、マスト細胞が過剰に活性化された状態になる2つの臨床的状態である、アナフィラキシー状態の間および肥満細胞症において調べることができる。これらの状態でも、血管内皮における変化、つまりその非血栓形成特性のダウンレギュレーション、粘着分子の誘導、透過性の増加および内皮下構造の露出(Wagner DD. Thromb Haemost 1993; 70: 105-110)、を引き起こす血小板アゴニストや強力な炎症メディエーターの放出にもかかわらず、血栓はあまりみられなかった。
【0066】
したがって、活性化されたマスト細胞はそれ自身の血栓形成性を中和することが可能であった。以前、その抗凝固能力に加え、臨床的に有用な高分子量のヘパリングリコサミノグリカン(HMWH;平均分子量15kDa)が、低用量のコラーゲンによって誘発される血小板凝集を阻害することを示した(Fernandez F, N'guyen P, van Ryn J, Ofosu FA, Hirsh J, Buchanan MR. Thromb Res. 1986; 43: 491-495);興味深いことに、ヘパリンの阻害効果は使用したヘパリンの分子量に直接関係することが分かった。
【0067】
本発明を導いた研究では、HEP−GAGおよびHEP−PG分子は、マスト細胞顆粒からエキソサイトーシスの後に放出された。可溶性のHEP−PGの放出の後に顆粒の不溶性のマトリックスを形成する残ったプロテオグリカン(顆粒残遺物;直径0.5〜1.0μm)は、ヘパリングリコサミノグリカン鎖のみから構成されていた(Lindstedt K, Kokkonen JO, Kovanen PT. J Lipid Res 1992; 33: 65-74)。一方、顆粒から細胞外の液体に放出された可溶性のプロテオグリカンは、ヘパリンを含み、程度は低いがコンドロイチン硫酸グリコサミノグリカン鎖も含んでいた(Lindstedt K, Kokkonen JO, Kovanen PT. J Lipid Res 1992; 33: 65-74)。可溶性HEP−PGに対するヘパリナーゼおよびコンドロイチナーゼの異なる効果、つまり前者はその阻害活性を減少させるが後者はそうでないということから、血小板−コラーゲン相互作用に対する阻害効果がHEP−PGのヘパリングリコサミノグリカンコンポーネントに起因しているということが分かった。可溶性HEP−PGの構造的解析では、二糖単位の組成はヘパリンに典型的なものである(J-p. Li, P. Kovanen, U. Lindahl, unpublished results)。したがって、HEP−PGと市販のヘパリンとの間の観察された機能の違いは、グリコサミノグリカン鎖の組成以外の他の要因によるものであると結論できた。このように、血小板機能を阻害するインタクトなHEP−PG(分子量750kDa)の能力は、上に既に述べたようにHMWH(分子量15kDa)またはLMWH(分子量5kDa)(図2)よりも大きかった、HEP−PGから放出されるヘパリングリコサミノグリカン鎖(分子量75kDa)の能力よりも高かった。これらをまとめると、上記の知見は、本発明の高い分子量のヘパリンプロテオグリカン(HEP−PG)をもたらす、大きいサイズのヘパリン鎖と、そのコアタンパク質への結合の両方が、観察された阻害に寄与する最も重要な因子であることを示した。
【0068】
ヘパリナーゼでヘパリン鎖の部分を破壊すると阻害能力が減少するので、マスト細胞由来のHEP−PGの阻害能力は、ヘパリン鎖にのみ関連していた。HEP−PGを高塩濃度で処理し、イオン介在のプロテアーゼ、即ちグリコサミノグリカン鎖に結合したチマーゼ、トリプターゼ、およびカルボキシペプチダーゼA、の結合を切断した後でもコラーゲン誘発性の血小板凝集に対する記載した阻害能力が存在していた。
【0069】
等モル濃度で標準的なヘパリンの負の電荷を中和することが知られている硫酸プロタミンは、100倍モル過剰でHEP−PGの効果のみを阻害した。このことは、ヘパリンの天然のアントゴニストであり血小板凝集の間に放出される血小板由来の第4因子が、HEP−PGを中和するための非常に高い局所的濃度に必要であろうということを示した。分子量500,000を有するポリリジンの血小板凝集濃度においてさえ、HEP−PGは阻害能力を保持した。これらの証拠はすべて、ヘパリンの強い負電荷がHEP−PGの活性に決定的なものであることを示した。
【0070】
血管傷害によって露出したコラーゲンにより相互作用を受ける血小板は、止血とアテローム血栓症の両方において非常に重要な役割を果たしていると考えられている。血小板−血管壁相互作用における血管コラーゲンの重要性は、コラーゲンに対する糖タンパク質受容体の血小板の欠陥またはGP Ia/IIaに対するmabs、およびコラーゲン合成が最適化されたときに平滑筋細胞マトリックスの血栓形成性が増大することによる、コラーゲン合成の欠陥を有する出血障害の患者においては明らかである。マスト細胞由来のHEP−PGは、マスト細胞が存在し様々な刺激によって活性化され得る、内皮下および外膜へ局所的に分泌され得る(Kolodgie FD, Virmari R, Cornhill JF, Herderick EE, Smialek J. J Am Coll Cardiol 1991; 17: 1553-1560)。コラーゲンに対する血小板反応性に対するHEP−PGの有意の阻害能力は、血管壁における血栓を制限する新たなマスト細胞依存の生理学的メカニズムを暗示した。このメカニズムは、ヘパリングリコサミノグリカン(HEP−GAG)分子の多重構造に依存していると考えられた。この最初の知見は、後になって確認され、他のヘパリン様化合物においてもみられた。
【0071】
本研究の別の目的は、血小板−コラーゲン相互作用に対するマスト細胞由来のヘパリンプロテオグリカン(HEP−PG)の効果を調べることであった。モデルとしてラット漿膜マスト細胞を使用した。これらの細胞は、それぞれモノマーを含み、分子量75kDa(50〜100kDaの範囲)のヘパリングリコサミノグリカン鎖を平均で10個含む、分子量750kDa(750〜1000kDaの範囲)のHEP−PGからなる細胞質分泌性顆粒で満たされている。
【0072】
活性化されると、マスト細胞はそれら顆粒のうちのいくつかを、細胞外液に放出し、そこで顆粒HEP−PGのフラクションが可溶化する(Lindstedt K, Kokkonen JO, Kovanen PT. J Lipid Res 1992; 33: 65-74)。これらの可溶性HEP−PGは、コラーゲン誘発性の血小板凝集と固定されたコラーゲンとの血小板の相互作用を強力に阻害することが分かった。この知見は、多重ヘパリングリコサミノグリカン(HEP−GAG)またはHEP−GAG分子を含むヘパリンプロテオグリカン(HEP−PG)自体が血管の細胞外マトリックスに対する反応性を減弱し、それによりマスト細胞の他の潜在的な血栓形成効果を中和することを暗示している。HEP−GAG分子構造の多重の特徴は、所望の効果を達成するのに非常に重要であることが示され、本発明において、マスト細胞由来のHEP−GAG分子の活性は、他のヘパリン様化合物の活性と同様、負に帯電したヘパリンまたはヘパリン様グリコサミノグリカンの分子の複雑さおよび/または高いカップリング密度に基づいているということが示された。
【0073】
本発明のヘパリン様化合物、特にマスト細胞由来のHEP−GAGおよびHEP−PG分子によって得られた改良は、血小板豊富血漿においてコラーゲン誘発性の血小板凝集およびセロトニン放出を完全に阻害するという事実に基づいていることが示された。さらに、本発明のヘパリン様化合物は、流動している全血においてコラーゲンでコーティングされた表面における血小板沈着を、低いおよび高いせん断速度の両方で好ましく阻害する。マスト細胞由来のHEP−GAGおよびHEP−PG分子と同じように、本発明のヘパリン様化合物は、血小板の活性化および凝集、並びに血小板へのフィブリノーゲンの結合をコラーゲン刺激の後に、同時に、フォンビルブラント因子(vWf)を強固に結合し、そのコラーゲンへの結合を促進することにより、同様に、いくつかの決定的なコラーゲンの血小板活性化領域を遮蔽することにより、好ましく減弱化する。また、ヘパリン様化合物はトロンビン誘発性の凝集と、その後のフォンビルブラント因子の糖タンパク質GP IIb/IIIa複合体への結合を好ましく減少させる。流動している全血における血小板懸濁液中でのコラーゲン誘発性の血小板凝集および血小板と固定されたコラーゲンとの相互作用の阻害は、それらの最も傑出した特性である。
【0074】
アレルゲン誘発性のマスト細胞活性化が出血時間を有意に長引かせ、提供者の出血時の血液中でのトロンビン生成を減少させたという事実(Kauhanen P, Kovanen PT, Reunala T, Lassila R. Thromb Haemost, Thromb Haemost 1998; 79: 843-7)は、マスト細胞由来のヘパリンプロテオグリカン(HEP−PG)および多重ヘパリングリコサミノグリカン(HEP−GAG)の特性としての血管の細胞外マトリックスに対する血小板の反応性の減少により、皮膚のマスト細胞活性化で誘発された出血時間の延長を説明するものであると考えられる。
【0075】
マスト細胞由来のHEP−PGは、10分間続く急性モデルおよび72時間の追跡モデルにおいて、吻合の間のラットの大腿動脈における血栓形成を破壊することが示した。これは本発明のヘパリン様化合物の所望の特性である。HEP−GAG分子およびHEP−PG分子で得られた改善は、定義した技術的特徴を有する本発明の他のヘパリン様化合物によっても得られ、その結果として、血管または毛細血管の傷害または例えば血栓によって引き起こされた血管系における他の重篤な障害に関連する血小板凝集の阻害を含む改良が、本発明の他のヘパリン様化合物によって得ることができた。マスト細胞由来のHEP−GAGおよびHEP−PG分子を含め、本発明のヘパリン様化合物は、例えば手術後の治癒で望ましくないまたは過剰な血液凝固を生じる分画されていないヘパリンと比較すると、より効果的な障害の局所的予防的処置および阻害をもたらすことが示された。多重ヘパリングリコサミノグリカン(HEP−GAG)部分を含むマスト細胞由来のヘパリンプロテオグリカン(HEP−PG)と同様に、本発明のヘパリン様化合物は、血管細胞外マトリックスに対する血小板の反応性を減弱させる効果に関与することが示された。マスト細胞由来のHEP−PG分子のHEP−GAG部分の多重構造または負に帯電したグリコサミノグリカン単位の高いカップリング密度が、その化合物に独特の特性を付与する本発明のヘパリン様化合物をもたらすことを示した。このように、長球状、瓶ブラシ状の空間的提示または配置が、所望の効果を得るために特に重要であるということ、その結果、多重の末端−末端および/または末端−側鎖で連結したグリコサミノグリカン単位を有する合成または半合成で得られたHEP−GAG分子が、それ自身で特に有用であり、マスト細胞由来のHEP−GAGおよびHEP−PG分子と同じかまたは改良された特性によって特徴づけられることが示された。
【0076】
本発明の他のヘパリン様化合物は、グリコサミノグリカン単位、好ましくはヘパリングリコサミノグリカン単位を末端−末端または末端−側鎖で連結させて十分に大きなグリコサミノグリカン分子を形成することにより製造することができ、この多重の直鎖または分岐したグリコサミノグリカン分子は、それ自体で、または天然の、合成または半合成によって得られたコア分子、例えば球状タンパク質またはポリペプチド鎖など、好ましくは短いポリペプチド鎖との複合体として使用することができ、それらの特性は容易にスクリーニングおよび試験することができるものである。
【0077】
本発明のヘパリン様化合物は、活性であると分かれば、血管または毛細血管傷害や介入に伴う動脈血栓の予防的処置において使用することができる。
【0078】
本発明のヘパリン様化合物は、局所的使用のための調製物を製造するのに、およびステント、移植片および/または体外循環系などのデバイスをコーティングするのに有用である。この調製物、手段およびデバイスは、血管の傷害および介入に伴う動脈血栓の予防的処置および流動している全血のコラーゲンとの相互作用の阻害に順次に使用することができる。即ち、本発明のヘパリン様化合物は、改善された、即ち、改善された効力による、アテローム血栓症や血管の傷害および血管内皮のその他の変化を含む他の止血状態を含む血栓のより効果的な局所的処置のための、医薬調製物または医薬を製造するために使用することができる。
【0079】
上記のすべての本発明のヘパリン様化合物は、血管または毛細血管の傷害または介入に伴う動脈血栓の予防的処置に使用し、それ自身としてまたは適当な、適合する添加物、担体などと組み合せて、または本発明のヘパリン様化合物でコーティングされたステント、移植片などのデバイスとして、局所的に適用または投与する。
【0080】
様々な種類のデバイス、例えばステントは、その使用およびそのコーティングについて詳細に記載されており、例えばその内容が本明細書の一部を構成する以下の特許公報に記載されている:WO 98/22162、EP 832618、US 5,718,862、US 5,603,722、US 5,583,213、US 5,571,166、US 5,554,182、US 5,618,298、US 5,342,621、US 5,409,696。
【0081】
デバイスはまた、種々の適用に応じた、多くの種々の形態で商業的に入手可能である。そのような製品は、例えば、AVE(Arterial Vascular Engineering, Santa Rosa, CA 95403, USA)製のMicrostent II(商標)、SciMed Boston Scientific Corporation, France 製のNIR(商標)およびNIROYAL(商標)ステントである。デバイスは、剛体の、半剛体の、弾力性の、らせん形をした、一般にプラスティック、シリコン、金属、ハイドロキシアパタイトでできたものである。ステントの調製の材料として特に好ましいのは、ポリアクリル酸であるが、本発明のHEP−GAGおよび/またはHEP−PG分子でコーティング可能な、所望なフレキシブルな、弾力性のある、半剛体のまたは剛体の、堅さを有するその他のものは、本発明の範囲から何ら除外されることはない。
【0082】
本発明は、他の血管または毛細血管の手術を含む、血管形成術、ステントおよび/または移植片の適用などの血管の傷害に伴う血栓を含む血栓症の予防的処置および/または阻害において使用するための、薬学的または医学的活性を有する調製物に関する。
【0083】
本発明の、水溶性の、ヘパリン様化合物を得るために使用する方法および材料、並びにそれを含む調製物およびデバイスおよびそれらの使用を以下の実施例においてさらに詳細に記載する。
【0084】
実施例は、単なる説明であって発明の範囲の限定と解釈されるべきではない。当業者は、本発明を応用するためのさらなる可能性をすぐに認識するであろう。
【実施例】
【0085】
実施例1A
ヘパリンプロテオグリカン(HEP−PG)の製法
刺激されたマスト細胞によってエキソサイトーシスされたヘパリンプロテオグリカン(HEP−PG)
マスト細胞はラットの腹膜腔および胸膜腔から報告(Yurt・RW;Wesley・Leid,Jr.R;Austen・KF著、J.Biol.Chem.、1977年、252巻:518〜521頁)に従って分離した。標準的な検定においては、マスト細胞10〜13×10個を、HSA(Red・Cross・ Transfusion・Service社、ヘルシンキ、フィンランド)0.1mg/mLおよび5.6mMグルコースを含有するPBS緩衝液1mL中でインキュベーションした。プレインキュベーション(15分間、37℃)後、細胞を特異的マスト細胞アゴニストである化合物48/80(Sigma・Chemical社)(5μg/mL)とともに15分間インキュベーションして脱顆粒を誘導した。対照実験では、化合物48/80が血小板凝集を誘導しないことが示された。脱顆粒したマスト細胞を150×gで10分間遠心して沈降させ、上清液をさらに12000gで15分間遠心してエキソサイテーションした顆粒を沈降させ、顆粒不含上清液をアルシアンブルー(Flka社)反応性物質の量について分析した(Lindstedt・K;Kokkonen・JO;Kovanen・PT著、J.Lipid・Res.、1992年、33巻:65〜74頁)。血漿の非存在下で行った実験では、大豆トリプシン阻害剤(Sigma社)を加えてマスト細胞由来天然セリンプロテアーゼを不活化した。実験を通じ、HEP−PGは300倍濃度までの市販ブタ非分画高分子量ヘパリン(HMWH)(Leiras、フィンランド)(平均MW15kDa、1%<7.5kDa、1mg=100IU・USP)および分画低分子量ヘパリン(LMWH)(Fragmin,Kabi・Pharmacia社)(MW5kDa、25%>7.5kDa、1mg=152抗Xa単位)と比較した。HEP−PGは、緩衝液または血漿中のイオン化したカルシウムまたはマグンシウムの量を変化させなかった(Microlyte 6、Kone Instruments社、フィンランド)(Boink TBTJ;Buckely BM;Christiansen TF,Covington AK;Muller−Plathe D;Sachs Ch;Siggaard−Anderson O著、Eur.J.Clin.Chem.Clin.Biochem、1991年、29巻:767〜772頁)。マスト細胞を35S−硫酸ナトリウム(Amersham International)と報告(Lindstedt K;Kokkonen JO, Kovanen PT著, J.Lipid・Res., 1992年, 33巻:65〜74頁)のようにインキュベーションすることによってHEP−PGを放射能標識した。実験によっては、HEP−PGをコンドロイチナーゼABCおよびヘパリナーゼ(共に生化学工業社)で処理した。
【0086】
実施例1B
ヘパリンプロテオグリカン(HEP−PG)の製法
天然ヘパリンプロテオグリカン(HEP−PG)
結合組織型マスト細胞、例えば哺乳類起源の皮膚マスト細胞および漿膜マスト細胞などは、実施例1Aに記載した方法または若干の修正を加えた方法を用いて、ラットのみならず例えばウシ、ブタ、ヒツジ等の他の哺乳類種からも単離することができる。ウシまたはブタの屠殺の際に腹膜腔および胸膜腔をリン酸緩衝生理食塩水を用いて洗浄する。液を集め、100×gで5分間1回遠心し、沈降した細胞をPBSに再懸濁する。マスト細胞の単離をファイコル中で勾配遠心により行い、マスト細胞は30%および40%ファイコル層の中間層に濃縮される。可溶性プロテオグリカンを得るためにマスト細胞を塩基性ポリアミンである化合物48/80またはカルシウムイオノフォアA23187で刺激してマスト細胞顆粒のエキソサイトーシスを誘導する。
【0087】
エンドグリコシダーゼによって分解される常法通りに分離されたウシまたはブタ由来ヘパリングリコサミノグリカンとは対照的に、培養された精製マスト細胞は遊離の実質的に分解されていないポリサッカライド鎖を蓄積するが、これはエンドグリコシド分解を受けない(Nader HB; Dietrich CP, Lane DA and Lindahl U, "Heparin: Chemical and Biological Properties, Clinical Application", Edward Arnold, London, 1989, 81-96)。リンパ節由来マスト細胞は、ヒト細胞系統であるHMC−1と同様に培養できる。これらの培養された細胞は遺伝子操作により処理して、HEP−PGの産生を増大させることができる。マウス骨髄由来マスト細胞とフィブロブラストとの共培養によって、コンドロイチン硫酸に関連するヘパリンの生合成が増大することが報告されている。共培養の使用は後にHEP−PG分子を放出する細胞の増殖を改善するために推奨される。
【0088】
このようなヘパリンプロテオグリカン(HEP−PG)は、典型的にはタンパク質加水分解に対する抵抗性がより高いことが知られており、これはペプチドコアが炭水化物で高度に置換されてことによるものと考えられる。このことは、活性の持続に関する能力並びに安定性および保存性または保存期間の増大によって、HEP−PG分子の潜在的用途を拡大する。
【0089】
実施例1C
ヒトのマスト細胞からヒト由来天然ヘパリンプロテオグリカン(HEP−PG)を製造する方法
ヒト起源のたとえば皮膚マスト細胞および漿膜マスト細胞のような結合組織型マスト細胞は、実施例1Aに記載した方法または若干の修正を加えた方法を用いて、単離することができる。通常に行われる生検走査で患者から採取できる程度の少量の試料があればよいとみられる。その後、ヒト由来マスト細胞を通常の細胞培養培地でこのマスト細胞を好適に増殖させる条件下で培養する。マスト細胞はリン酸緩衝生理食塩水で収集し、実施例1Aおよび1Bに記載したように処理する。培養した細胞培養物は、それ自体を既知の方法によって貯蔵し保存することができ、さらなる細胞を産生するための無制限なソースを提供する。
【0090】
実施例1D
ヘパリンプロテオグリカン(HEP−PG)の製法
合成高分子量ヘパリン鎖およびHEP−PG
HEP−GAG分子およびHEP−PG分子の多重構造は血小板−コラーゲン相互作用に対する阻止作用に必須である。しかしながら、低分子量のものとは対照的に、75±25kDa以上の非常に長いグリコサミノグリカン(HEP−GAG)鎖は阻止性能を保持している。そこで、合成鎖は、分子量が少なくとも12kDa、好ましくは15〜20kDaのグリコサミノグリカン単位を少なくとも3個〜10個を含み、これが末端−末端または末端−側鎖で相互に結合して直線状または分枝状ヘパリングリコサミノグリカン鎖分子を形成する。さらに在来型に近い構築物を得るためには、これら個々の長鎖ヘパリン(HEP−GAG)鎖を米国特許第5529958号に記載されているようなポリマーリンカー分子に結合することもできる。有用なポリマーコア分子は、例えば反復Ser−Gly−配列を含む鎖状ペプチドまたはアルブミン(HSA)等の球状タンパク質であり、これを、SPDP、N−サクシニルイミジル−3−(2−ピリジルチオ)プロピオネートのようなリンカー分子を介してヘパリンに結合することができる。
【0091】
リンカー量に対して過剰量のヘパリンを使用する。しかし、その比率は、もちろん合成ヘパリン様化合物の所望の構造に応じて変動する。これら選択肢、即ち単鎖HEP−GAG分子と合成HEP−PG構築物、はいずれも、天然のヘパリンプロテオグリカン(HEP−PG)にあるタンパク質の潜在的な抗原性部分が存在しないために、抗原性の少ない改善された調製物を調製する可能性をもたらす。このほか、最適ヘパリン密度を持つ高分子量多重HEP−GAG分子は、ヘテロ二官能性カップリング試薬であるSPSDを用いて、標準的な非分画ヘパリン(12kDa)鎖をアルブミンのような球状コア分子に結合することによって得ることができる。
【0092】
実施例1E
ウシ血清アルブミン(BSA)に対するヘパリンの架橋結合
ヘパリン(Lovens、MW15kDa)2mgをPBSで希釈し、メタノール中でヘテロ二官能性カップリング試薬SPDP(N−サクシンイミジル−3−(2−ピリジルチオ)プロピオネート、Fluka Chemie AG、スイス)1mgとカップリングさせた。ヘパリンを結合させたこの試薬の溶液(200μL)をDTT(ジチオスレイトール、Sigma Chemicals)10mg/mL(800μL)によって活性化し、DTTの効果を343nmにて分光計でモニターした。試料1mLをPD−10カラム(Pharmacia Biotech, Pharmacia Biotech AB、ウプサラ、スウェーデン)を用いて溶離し、10フラクション(各1mL)を採取した。各フラクションの吸光度を分光計で343nmにて分析し、遊離DTTを含まない4フラクションをまとめてプールした。
【0093】
BSA 0.250mg(100μL)およびSPDP 0.5mg(50μL)を22℃で20分間撹拌し、塩化ナトリウム(0.9%)850μLを加えた。この試料をPD−10カラムを用いて溶離し、各1mLのフラクションを採取した。各フラクションから非結合SPDPを排除するために各フラクション100μLをDTT900μLで処理して吸光度を343nmで測定した。遊離SPDPを含まない5フラクションをプールした。ヘパリン−SPDPおよびBSA−SPDP双方のプールしたフラクションの塩化ナトリウム濃度を3Mまで上昇させ、これら2つのプール液を一緒に4℃で一夜インキュベーションしてカップリングを誘導した。ヘパリン−BSA結合サンプルを0.9%NaClでSephacryl S−300ゲル(Pharmacia Biotech)(カラム高30cm)またはPD−10から溶離した。それぞれ、第1〜第45フラクション、第1〜第25フラクション(各フラクション0.5mL)を回収し、BSA−含量即ち280nmの吸光度、に基づいて第24〜36フラクション、第16〜21フラクションをそれぞれ回収した。
【0094】
フラクションを濃縮し、VSWPO2500フィルム(Millipore、ブレッドフォード、MA)を用いて水に対して30分間透析するかまたは水に対して30分間微量透析(Spectrapor molecular porous membrane MWCO:12〜14.000,Spectrum・Medical・Industries社、ラグナヒルズ、CA)し、再度水に対して2時間行った。続いてフラクションをグリコサミノグリカン量について分析し(Blyscan, Biocolor Ltd、ベルファスト、北アイルランド)、血小板凝集計で検査した(図10参照)。一例としてPD−10で分離したフラクション#21(ヘパリン0.74μg/mL)の凝集曲線を示す。フラクション18〜21はいずれもコラーゲン誘導血小板凝集に対する阻止性能を示した(詳細については実施例22を参照)。
【0095】
実施例2
トロンビンの阻害
プールしたクエン酸化血漿におけるトロンビン時間によっておよびトロンビン基質(S-2238 Chromogenix, Kabi Pharmacia)(Larsen ML; Abildgaard U; Teien AN; Gjesdal K, Thromb. Res., 1978, Vol.13: 285-288)を用いるクロモゲン検定によってHEP−PG、HMWHおよびLMWHの相対的力価を測定した。後者の検定において、トロンビン(Dade, Baxter Healthcare, FL)1U/mL(110U/mg)は、用いたグリコサミノグリカン濃度の効果を滴定した後に選択した量であった。外因性トロンビン活性は、抗トロンビンIII(Kabi Pharmacia)単独および血漿希釈液(トリス−NaCl、HSA、pH8.2中、1:5および1:40)の存在下をコントロールとして、血漿タンパクに対するグリコサミノグリカンの競合的結合について評価した。血漿(1:40希釈)の不在下および存在下で、外因性抗トロンビンIIIを2段階の濃度、7.5および10MU/mLで使用した。試薬を氷上にて96ウェルマイクロタイタープレート(Falcon 3072, Becton Dickinson)に入れ、37℃で10分間インキュベーションした。S-2238を添加し、反応を20%酢酸で停止し、残留するトロンビン活性を分光光度計で評価した(405nm)(Labsystems Multiscan MCC, Labsystems, フィンランド)。
【0096】
実施例3
血小板調製
研究に用いた血液は医薬を投与されていない健康ボランティアによって提供された。9体積の自由流動血液を、PTFEカニューレ(Viggo, スフェーデン)を用いて、1体積のD−フェニアラニル−1−プロピル−1−アルギニンクロロメチルケトン(PPACK)(Calbiochem)(200〜400μM)または酸性クエン酸デキストロース抗凝固剤(ACD)[凝固にはpH4.9(pH7.3、PRP中)およびゲル濾過にはpH4.5]に採取した。血小板豊富血漿(PRP)を遠心分離(180×g、12分、22℃)により分離し、血小板凝集試験および接着検定に使用した。セロトニン陽性血小板の沈着と放出反応を検出するためにPRP中の血小板を14C−セロトニン(比放射能8μCi/mL、最終セロトニン濃度40nM)(Amersham)または3H−セロトニン(比放射能15μCi/mL、最終セロトニン濃度10nM)(Amersham)で37℃にて15分間標識した。血液潅流試験では、標識PRPを残留血液に加えた。セロトニン標識による血小板検出法は、沈着したプロテインの測定と電子顕微鏡術によって検証されている(Mustonen P; Lassila R, Thromb. Haemost., 1996, 75: 175-181)。
【0097】
ゲル濾過した血小板は、PRPからPGE1(25ng/mL)およびアピラー ゼ(1U/mL)(双方ともSigma)存在下で洗浄操作を1回行った後、血小板懸濁液をセファロースCL−2Bカラム(Pharmacia LKB)に通し、調製した。ゲル濾過の後、リストセチン(1.0mg/mL)(Sigma)は血小板反応を誘導せず、このことはvWfの不在を示しており、またこの細胞懸濁液は交差免疫電気泳動が証明するように抗トロンビンIII活性を示さなかった(Lane DA; Boisclair MD, Thompson JM, "Blood Coagulation and Haemostasis. A Practical Guide.", Churchill-Livingstone, 1991, 45-70)。ゲル濾過血小板は、凝集実験、コラーゲンへのMg2+依存血小板接着実験、および血小板−血小板相互作用を媒介するリガンド(フィブリノーゲンおよびvWf)結合の実験のために使用した。溶離緩衝液は、1mM Mg2+添加HEPESであった(Timmons S; Hawiger J, Hawiger J, "Platelets: Receptors, Adhesion, Secretion. Methods in Enzymology", Academic Press, San Diego, CA, 1989, 169: 11-22)。通常、2mM Ca2+をゲル濾過血小板懸濁液に添加したが、Mg依存の接着(2mM)の検定にはCa2+は省略した(Santoro SA, Cell, 1986, 46: 913-920)。流動する血漿因子不含再構成血液中で血小板−コラーゲン相互作用を試験する場合は、2mM Ca2+および1mM Mg2+添加HSA(4%)溶液を用いた(Sakariassen KJ; Muggli R; Baumgartner HR, Hawiger J, "Platelets: Receptors, Adhesion, Secretion. Methods in Enzymology", Academic Press, San Diego, CA, 1989, 169: 37-70)。遠心分離および再構成の後、検定の前に最終血小板懸濁液を30分間安定させた。
【0098】
実施例4
血小板凝集
PRP中およびゲル濾過血小板懸濁液中での凝集は、Payton血小板凝集計(Payton Ass., Canada)を用いて実験した。ペプシン抽出コラーゲン(Sigma, 血小板凝集キット)およびウシI型原繊維コラーゲン(Miller EJ; Rhodes RK, Methods in Enzymology, 1982, 82: 33-64)、コラーゲン試薬Horm(Nycomed, Hormon Chemie, Germany)、トロンビン、リストセチン、ADP(Sigma)およびエピネフリン(Bioanalytical Systems, IN)をアゴニストとして使用し、血小板懸濁液270μLに対して各々30μL容を添加した。HEP−PG、HMWHおよびLMWHの効果は、それらを1分間のプレインキュベーションの間にまたはアゴニスト(コラーゲン)と同時に添加することによって実験した。場合によってはHEP−PGをコラーゲンの10秒後または20秒後に添加した。応答は一次凝集(速度、1/分)の勾配および最大凝集率(%)として評価した。
【0099】
実施例5
分離原繊維コラーゲンの固定化
原繊維コラーゲンはウシアキレス腱から酢酸抽出およびペプシン不含塩沈殿によって抽出した(Miller EJ; Rhodes RK, Methods in Enzymology, 1982, 82: 33-64)。コラーゲン(0.36mg/mL濃度)は、0.5M−酢酸中に保存し、フィブリル形成は60mM−TES緩衝液(1:1)で中和し、35℃にて90分間湿潤雰囲気中でインキュベーションすることによって誘導した(Holmes DF; Capaldi MJ; Chapman JA, Int. J. Biol. Macromol., 1986, 8: 161-166; Williams BR; Gelman RA; Poppke DC; Piez KA, J. Biol. Chem., 1978, 253: 6578-6585)。接着実験には、この原繊維コラーゲン溶液をエタノール洗浄円形Thermanoxカバースリップ(直径1.5mm)上に5回スプレーした。コラーゲン懸濁液は液滴が乾燥する直前に継続的にスプレーした。走査電子顕微鏡術(JEOL・JSEM・820、日本)によって確認したとおり、コラーゲンは直径と間隔がいずれも50〜200μmの範囲の原繊維含有液滴の均一層として定着した。このカバースリップは、同日に使用する前に湿潤雰囲気に保存した。潅流実験には、コラーゲンを固定化し、天然型の原繊維を、TESを添加し、栓付のチューブを35℃にて90分間インキュベーションすることによってPTFEチューブ(Optinova、フィンランド)内でin situで形成させた。インキュベーションした後、チューブをPBSでリンスした。
【0100】
実施例6
PRP中またはMg2+−緩衝液中における血小板とコラーゲンとの相互作用
固定化コラーゲンへの血小板の接着を2mM−Mg2+を添加したHEPES中でPRP(PPACK)およびゲル濾過血小板の両方について試験した(Santoro SA, Cell, 1986, 46: 913-920)。コラーゲンを被覆したThermanoxカバースリップを24ウェルプレート(NUNC)(2%HSAでプレ被覆)の底に配置し、14C−セロトニン標識PRPまたはゲル濾過血小板(Thrombocounter C, Coulter Electronics)を、血小板数を100または300×10/m Lに調整して1mL添加した。検定前に、血小板懸濁液中の14C−シンチレーション放射能および血漿中へのセロトニンの放出を、氷上にてイミプラミン−ホルムアルデヒドを用いチューブ中で測定した(Holmsen H; Dangelmaier CA, "Measurement of secretion of serotonin", Hawiger J, "Platelets: Receptors, Adhesion, Secretion. Methods in Enzymology", Academic Press, San Diego, CA, 1989, 169: 205-210)。
【0101】
回転なしに22℃にて30分間(血小板100×10個/mLの接着を試験するため) または100rpmで回転しつつ37℃にて30分間(PRP由来血小板300×10個/ mLの接着後の凝集を試験するため)インキュベーションした後、カバースリップを取り、緩衝液で3回洗浄し、シンチレーション計数に付した。コラーゲンを被覆したカバースリップに沈着した血小板の数を添加した血小板の数と比放射能から算出した。血小板から血漿へのセロトニン放出は前記の通りに測定したが、常に5%以下であった。これら条件下でのGPIIb/GPIIIaの役割を評価するために、接着検定(Coller BS; Peerschke EI; Scudder LE; Sullivan CA, J. Clin. Invest., 1983, 72: 325-338)を行う前に、PRPをGPIIb/GPIIIaに対するmAb(m7E3、Barry Coller博士から恵与)とともにプレインキュベーションした。
【0102】
実施例7
流動全血中または再構成血液中における血小板とコラーゲンとの相互作用
プレインキュベーションした14C−セロトニン標識血小板を含有するPPACK−抗凝固血液(30mL)において血小板とコラーゲンとの相互作用を試験するため、血液を潅流ポンプ(Cole Parmer, IL)に連結したコラーゲン被覆チューブを通して5分間再循環した。流速10mL/分で様々なせん断速度(200、700および1700/秒)を誘導するために様々な直径(1.1、1.5および1.9mm)のチューブを使用した。血液を潅流する前に、コラーゲン表面を、PBSを潅流(37℃で15秒間)することによって安定化した。潅流後、接着しなかった血小板をPBSを30秒間潅流させることによって洗い流した。接着した血小板は2%SDS中で30分間2回インキュベーションすることによって脱着させ、溶解物をシンチレーション計数に付した。場合によっては、潅流後の表面の走査電子顕微鏡像を得た。接着検定の項に記載したように血小板数、血液のバックグラウンド放射能、およびセロトニン放出を測定した。血漿タンパク質非存在下での血小板−コラーゲン相互作用の試験のために、洗浄した赤血球、軟膜およびゲル濾過14C−セロトニン標識血小板をHSA溶液中に含む再構成血液を用いた(Sakariassen KL; Muggli R; Baumgartner HR, Hawiger J, "Platelets: Receptors, Adhesion, Secretion. Methods in Enzymology", Academic Press, San Diego, CA, 1989, 169: 37-70)。また、標準ヘパリン(10mg/mL)およびHEP−PG(10μg/mL)を原繊維コラーゲン(Horm)またはHEP−PGを溶液中で使用した前の潅流実験で記載した天然酢酸抽出I型コラーゲンからペプシンを用いて製造したモノマー単量体コラーゲンに固定化した。
【0103】
実施例8
血小板とHEP−PGとの間の相互作用
休止期の血小板へのHEP−PGの結合を35S−標識HEP−PGとPRPとともにまたはゲル濾過血小板とともに37℃にて15分間インキュベーションすることによって評価した。次いで、35S−シンチレーション活性を、沈降またはゲル濾過を用いて血漿フラクションおよび血小板中に回収した。さらに、30分間インキュベーションすることによってThermanoxカバースリップ上にHEP−PGを固定化した。結合したHEP−PG量は35S−結合から算出し、56±6ng/cm (平均値±標準偏差、n=4)の値を得た。次いで、血小板とHEP−PGとの相互作用を前記の血小板接着検定を用いて測定した。
【0104】
実施例9
活性化血小板へのvWfおよびフィブリノーゲンの結合
vWf(比活性200U/mg蛋白質)(CRTS、フランス)(Burnouf-Radosevich M; Burnouf T, Vox Sang, 1992, 62: 1-11)およびフィブリノーゲンをBoltonとHunterの方法(Bolton AE; Hunter WM, Biochem. J., 1973, 133: 529-539)によってI125(Amersham)を用いて放射性ヨード化した。vWfおよびフィブリノーゲンの構造的安定性は勾配(4〜21%)SDSゲル電気泳動を用いて分析することによって確認した。放射能標識vWfの機能は、ゲル濾過血小板のリストセチン誘導性凝集およびトロンビン誘導凝固による放射能標識フィブリノーゲンの凝集によって確認した。ゲル濾過血小板を、リストセチン(1mg/mL)またはトロンビン(0.1U/mL)で3分間刺激した。あるチューブはトロンビンを添加60秒後にヒルジン3U/mLで阻害した。次に125I−vWf(15μg/mL)を加え、血小板(1×10)を37℃で撹拌することなくインキュベーションした。血小板フリーの放射能と血小板が結合した放射能とを分離するため、血小板懸濁液を1.35%HSA添加0.3Mショ糖の上部に重層し、950×gで5分間遠心して血小板を沈降させた。上清液を集め、上端を取り除いて、フラクションの放射能を計数した。125I −フィブリノーゲン(100μg/mL)のADP−刺激およびコラーゲン刺激(撹拌)血小板への結合を同じようにして試験した。データをスカッチャード分析に付した。
【0105】
実施例10
コラーゲンおよびヘパリンプロテオグリカン(HEP−PG)へのvWfの結合
vWfのコラーゲンへの結合に及ぼすHEP−PG、HMWHおよびLMWHの影響をLawrie et al.(Lawrie AS; Harrison P; Armstrong AL; Wilbourn BR; Dalton RG; Savidge GF, Br. J. Haematol., 1989, 73: 100-104)に従って評価した。この目的のため、96ウェルのマイクロタイターウェル(Maxisorb、NUNC)をペプシン化I型コラーゲン(67mMリン酸、pH7.2に対して透析)(50μg/mL)で37℃にて2時間被覆した後、洗浄し、3%BSAでブロックした。次に、vWf(0.1μg/mL)をプレートに加え、様々な濃度のHEP−PG、HMWHおよびLMWHの存在下に2時間インキュベーションした。次いで、結合したvWfをペルオキシダーゼ−結合ポリクローナル抗体(Dako A/S)を使用して定量した。さらに、vWf(1μg)をHEP−PG(0.5μg)と共に22℃にて10分間インキュベーションし、酢酸セルロースプレート(Helena Lab., TX)にアプライした。このプレートを、2mM Ca2+および2mM Mg2+を含有する5mM HEPES(pH7.4)中、180Vで30分間電気泳動し、アルシアンブルーで染色してHEP−PGを可視化し、またはポンカウレッドで染色してvWfを可視化した。
【0106】
実施例11
統計学的分析
結果を平均値±標準偏差で示す。数値のセット間の差異の統計学的有意性は、示すとおりに、対になった数値についてのスチューデントのt−検定またはFactorial ANOVAによって算出した。
【0107】
実施例12
ラット大腿動脈の顕微手術における吻合および血栓症モデル2種
この研究で行った操作はすべて適切な学会の指針によって承認されたものであって、また動物実験に対する政府の指針に従ったものである。処置の前にラットを麻酔した(Hypnorm(商標)10mL、Dormicum(商標)3mL、水を加えて10mL、腹腔内)。吻合を行う前に大腿動脈を露出し、クランプ2個を設置し、血管を切断した後、生理食塩水、標準ヘパリン(MW15kDa、1mg/mL、100ATU/mL)またはHEP−PG(10μg/mL)のいずれか100μLでフラッシングした。操作の後(約15分)に血管を10−0顕微手術糸で8〜10ステッチ縫合して閉じた。10分後に循環を再開し、この後にラットに過剰用量の麻酔剤を投与して実験を終了した。それぞれの処置モードをラット5匹で試験した。
【0108】
吻合部位を切開して、走査型電子顕微鏡によって盲検の状態で評価を行った。各試料から75倍および500倍の異なる倍率2種を採用した。顕微鏡像を格付システム:0〜3で解析した。
【0109】
最初の血栓症モデル(Davidsson SF et al., Plast. Rec. Surg., 86: 579-582, 1990)では、血管を2分間ブルドッグクランプで押し潰し、次に血管を部分的に開いて内壁を針で10回掻いてから、生理食塩水、ヘパリンまたはHEP−PGのいずれかを流し、血管を閉じた。循環を10分間再開した。これ以外の実験操作は吻合モデルに記載する実験計画に従って行った。
【0110】
一方の血栓症モデル(Andersen DM et al., Microsurgery, 15: 413-420, 1994)では、血管を吻合モデルと同様に処理したが、縫合する際に血管を血流に向けて裏返して血管の全ての層、外膜、中膜および内膜が血流に露出するようにした。これ以外の実験操作は吻合モデルに記載する実験計画に従って行った。
【0111】
(結果を証明する実施例)
実施例13
トロンビンの阻害
血漿希釈1:3で実験した時には1.0μg/mLの濃度のマスト細胞由来の可溶性HEP−PGは有意にトロンビン時間を延長した(図1)。しかしながら、HEP−PGによるトロンビンの阻害効果は、HMWHまたはLMWHよりもトロンビンと比べて有意に低かった。また発色検定で測定すると、HEP−PGは1:5血漿希釈の存在下ではトロンビンの阻害効果がHMWHよりも低かった。この相違は使用した様々なトロンビン濃度で観察できた(0.5〜3U/mL)(データ未記載)。
【0112】
外因的なアンチトロンビンIIIまたはヘパリンコファクターIIの作用を増強するHEP−PGの能力に血漿蛋白質が影響を及ぼすかどうかを試験するため、血漿の存在または不在下で、残留トロンビン活性に対する様々な濃度のHEP−PGおよびHMWHの効果を測定した。血漿希釈(1:40)では、HEP−PGとHMWHとの相違はなかった(図2)。しかしながら血漿不在下ではHEP−PGはHMWHよりも強力にアンチトロンビンIII活性を強化した。従って、HEP−PGはアンチトロンビンIIIの作用を強化できるが、この性能は血漿蛋白質の存在によって妨害される。
【0113】
実施例14
血小板豊富な血漿中での血小板凝集およびセロトニン放出
マスト細胞誘導HEP−PGは試験した2種類のPRP中において強力にコラーゲン誘導血小板凝集を阻害した。クエン酸塩−抗凝固PRP中で実験した時には、HEP−PGは1.0μg/mLと低濃度で阻害を示した(図2)。この濃度でHMWHおよびLMWHは凝集を阻害せず、これらヘパリンは300倍過剰(300μg/mL)を用いても効果がなかった。次に我々は、HEP−PGをアルカリで処理して蛋白質成分を溶解することによって単離されたグリコサミノグリカン鎖を得た。平均MW75kDaのHEP−GAGのこのグリコサミノグリカン鎖の阻害作用は、天然のHEP−PGよりも有意に弱かったが、HMWHおよびLMWHよりも有意に強かった。HEP−PGとは対照的に、HMWHはコラーゲン誘導凝集をクエン酸添加PRP中で低いコラーゲン濃度(<2.0μg/mL)の場合でのみ阻害した。
【0114】
クエン酸添加−およびPPACK−抗凝固PRPにおけるコラーゲン誘導凝集に対するHEP−PGの用量依存的効果は、HEP−PGの阻害効果が150μg/mLまでのコラーゲン濃度で非依存的であること、およびカチオン枯渇血漿中ではPPACK−PRP中よりもさらに強力であり、この場合には全阻害効果は3μg/mLの濃度でさえ達成されることを示した。HEP−PGおよびコラーゲンを同時に添加するか、HEP−PGをコラーゲンの10秒後に添加するかに関係なく阻害は完全であった。HEP−PGは、試験した最高コラーゲン濃度(150μg/mL)でさえ、血小板セロトニン放出をPRP中では50%からバックグラウンドレベル(10%)まで低下させた。
【0115】
さらなる実験で、我々はHEP−PGをヘパリナーゼまたはコンドロイチナーゼABCで処理した。我々は、ヘパリナーゼを用いた処理が、コラーゲン誘導血小板凝集を阻害するHEP−PGの性能を完全に破壊するが、一方で、コンドロイチナーゼABCによる処理がHEP−PGの阻害能力を減少させないことを発見した(データ示さず)。顆粒レムナントを形成する巨大凝集HEP−PG複合体(すなわち、エキソサイトーシスした顆粒から可溶性プロテオグリカンの放出後に残る残留物)(Kovanen PT, Eur.Heart J., 14 (suppl K) 1992; 105-117; Lindstedt K,Kokkonen JO, Kovanen PT, J.Lipid Res., 1992;33: 65-74)は同量の可溶性HEP−PGと比較するとコラーゲン誘導血小板凝集に対して効果がなかった。しかしながら、顆粒レムナントを、2M−NaClで処理してHEP−PG単量体に分解した後に血小板に添加すると阻害作用は可溶性HEP−PGで観察されたものと等しかった。
【0116】
血小板のコラーゲン誘導応答を完全に失ったHEP−PGの濃度(3μg/mL)をコラーゲン以外のアゴニストが誘導する血小板凝集に対するHEP−PGの効果を試験するために選択した。表Iに示す通り、HEP−PGはリストセチンが誘導する血小板の凝集を阻害し、その阻害はリストセチン濃度0.60mg/mLで完全であった。また、阻害は2段階のリストセチン濃度0.75および1.0mg/mLでかなりの値に達した。HMWHおよびLMWHはリストセチン誘導の凝集をHEP−PGと同程度には阻害しなかった。さらに、HEP−PGは、ADPまたはエピネフリン(10μM)に応答する血小板凝集がを顕著に変更することはなかった(データ示さず)。
【0117】
実施例15
ゲル濾過血小板の凝集
HEP−PGをゲル濾過血小板の懸濁液に加える時、コラーゲン誘導血小板凝集は不完全にしか阻害されない。コラーゲン25μg/mLを用いるとHEP−PG3μg/mLの阻害効果は25%と60%との範囲である。我々はさらにゲル濾過血小板のトロンビン誘導(0.1および0.25IU/mL)凝集を試験した。再度、血小板凝集は、HMWHまたはLMWH(全て3.0μg/mL)によりもHEP−PGによって効果的に阻害された(データ示さず)。HMWHは100倍の濃度(300μg/mL)で用いた場合、使用した2種類のトロンビン濃度で完全な阻害をもたらした。
【0118】
実施例16
ゲル濾過血小板の凝集
以下のように、我々は、血小板と固定化コラーゲンの間の相互作用を評価した。血小板100×10個/mLを22℃で静置、Mg2+−依存的条件下で試験したとき、HEP−PG(3μg/mL)は接着血小板の単層形成に影響を与えなかった(図3)。対照的に、血小板300×10個/mLを37℃で回転させた場合には、HEP−PGは後に続く血小板−血小板相互作用を有意に阻害した。しかしながら、PPACK−PRP中ではHEP−PGはこの相互作用を有意に減少しなかった。対応する条件下では、GPIIb/IIIaに対するmAb(m7E3、10μg/mL)はコラーゲン誘導血小板沈着をそれぞれ20%、75%および80%阻害した。
【0119】
実施例17A
流動血液中での血小板とコラーゲンとの間の相互作用に及ぼす可溶性HEP−PGの効果
PPACKで抗凝固処理された全血を、コラーゲン被覆チューブに様々な剪断速度で潅流した時に、HEP−PG(3μg/mL)は血小板の沈着を有意に阻害したが、コラーゲンへの接着は阻害しなかった。阻害は低剪断速度(200 1/秒)および高剪断速度(700および1700 1/秒)の両方で明らかであった。血漿不含の再構成した血液を用いて同じ実験(700および1700 1/秒)を繰り返した場合には、血小板はHEP−PGの存否とは無関係に同程度がコラーゲンに接着した(データ示さず)。全血を1700 1/秒で潅流後に撮影したコラーゲン被覆表面を被う血小板の走査電子顕微鏡像は、HEP−PGの存在時に凝集物が全く存在しないことを証明した。この剪断速度では、血小板接着はHEP−PGの存在下で有意の減少を示さなかった。表面被覆率はHEP−PG不在では22±4%、HEP−PG存在では17±5%であった(n=3)。
【0120】
実施例17B
流動全血中での単量体コラーゲン被覆表面への血小板沈着阻害に及ぼす固定化HEP−PGの効果
コラーゲンとHMWHおよびHEP−PGの共固定化ではBlyscan検定(北アイルランド、ベルファスト)によって示されるコラーゲン接着は減少しなかった。HEP−PG10μg/mLをI型コラーゲン(ペプシン処理またはウシの腱からペプシンで分離したもの)に固定化し、緩衝液または非分画ヘパリンHMWH(分子量=15kDa、ヘパリン、レイラス、フィンランド)10μg/mLと比較した時に、HEP−PGは血小板動員を10分の1以下まで減少させ、一方、HMWHは4分の1まで減少させた。実施例7Aに示す通り溶液中で有効であるのに加えて、コラーゲン表面に固定化したHEP−PGは、流動する血液中での血小板−血小板相互作用を同様に非常に効果的な阻害を示した。結果を以下の図6に示す。
【0121】
実施例17C
流動全血中での原繊維コラーゲン被覆表面への血小板沈着を阻害する固定化HEP−PGの効果
コラーゲン(Horm試薬)と10g/mLとの共固定化を非分画ヘパリン10μg/mLと比較した。非分画ヘパリンとは対照的に、HEP−PGは有意に表面への血小板の沈着を50%減少させた。このように単量体コラーゲンに固定化したHEP−PGの効果はまたより天然型のコラーゲン繊維についても得られた。この結果を下記の図5に示す。
【0122】
実施例18
血小板へのフィブリノーゲンおよびvWfの結合
HEP−PGはフィブリノーゲンのコラーゲン刺激血小板への結合を減少させる傾向がある(2.4±1.2から1.5±0.7ピコモル/血小板10個(n=4、p=0.06)、バックグラウンドは0.8± 0.4ピコモル/血小板10個)が、ADP誘導の結合には影響を与えなかった(データ示さず)。しかしながら、HEP−PG(3μg/mL)はトロンビン刺激血小板へのvWfの結合を40%阻害した(234対349ng/血小板10個)(表II)。同じ濃度ではHMWHは有意の効果がなかったが 100倍過剰(300μg/mL)では血小板へのvWfの阻害を完全にブロックした。HEP−PGはリストセチン刺激血小板へのvWfの結合を阻害しなかった。同様な結果はHMWHでも得られた。再び100倍過剰(300μg/mL)のHMWHはリストセチン刺激血小板へのvWfの結合を明確に阻止した。
【0123】
実施例19
血小板とヘパリンプロテオグリカン(HEP−PG)との間の相互作用
コラーゲンの代わりにHEP−PGを固定化し、PPACK−PRP中の血小板を接触させた場合には、血小板沈着のレベルは血小板0.36±0.17×10 個/cm(n=4)であって、このレベルは固定化アルブミン、HSA(0. 50±0.31×10個/cm)(n=4)で得られる値と変わらなかった。血小板がHEP−PGに結合しないという知見は、35S−標識HEP−PG(3〜10μg/mL)をPRP中でインキュベーションしたのち血小板を沈降させて35S−シンチレーションの放射能を計数する実験によって確認した。沈降物には35S−シンチレーション放射能は存在せず、HEP−PGは血小板と共沈降しなかったことを示した。その上、洗浄した血小板を35S−HEP−PGとともにインキュベーションした後、ゲル濾過に付すと35S−HEP−PGは血小板集団の後から別れて溶出された。
【0124】
実施例20
ヘパリンプロテオグリカン(HEP−PG)へのおよびコラーゲンへのvWfの結合
vWfおよびHEP−PGを単独でまたは一緒に酢酸セルロース板上で電気泳動させ、プレートを両蛋白質およびグリコサミノグリカンについて染色して個々の成分を可視化した。HEP−PGへのvWfの添加は陽極から陰極への移動度を逆転し、vWfとHEP−PGとの間の会合を示唆した。HEP−PGは高剪断速度で血小板−コラーゲン相互作用を阻害し、また他のvWf−媒介血小板機能とも相互作用した(表I)ので、我々は、ELISA検定を用いて、HEP−PGがvWfのコラーゲンへの結合に影響を及ぼすか否かを試験した。コラーゲンへのvWf結合は阻止されず、反対に顕著に強化された。この結果はHMWHおよびLMWHについて得られた結果とは全く異なっていた。HEP−PGと比較すると、10倍過剰の濃度(30μg/mL)でさえHMWHは僅かにvWfのコラーゲンへの結合を僅かに増加し、LMWHはいかなる効果も示さなかった。
【0125】
実施例21
ヘパリンプロテオグリカン(HEP−PG)とコラーゲンとの間の相互作用
我々は、さらに、HEP−PGが血小板−コラーゲン相互作用を阻害する条件を模擬する条件(同様のHEP−PGおよびコラーゲンの濃度および同様のインキュベーション時間)でHEP−PGのコラーゲンへの結合も試験した。コラーゲン(ペプシン化または原繊維)を固定化した場合、HEP−PGとは相互作用しなかった。この結果は、35S−HEP−PGを用いるかまたはグリコサミノグリカンをアルシアンブルーで検出して得られた。さらに、コラーゲンとHEP−PGとをインキュベーションした後、ショ糖クッションを通して遠心分離して得られたペレットはアルシアンブルー活性を示さなかった。
【0126】
実施例22
コラーゲンは、ウシ血清アルブミン(BSA)と架橋結合した非分画化ヘパリンの存在下で血小板凝集を誘導した
実施例1Eに記載したようにウシ血清アルブミンと架橋結合させた非分画化ヘパリン(12kDa)を血小板凝集計で分析した(図10参照)。一例としてヘパリン0.74μg/mLを有するPD−10分離フラクション#21について凝集曲線を提供する。フラクション18〜21はいずれもコラーゲン誘導血小板凝集に対して阻害効果を示した。
そこで、図10Aは緩衝液30μLとプレインキュベーションしたクエン酸添加PRP中での血小板凝集を示す。示した反応は最終濃度25μg/mLでコラーゲン(Sigma aggregation kit collagen)30μLに対するものである。図10Bでは、PRPを3μg/mLの最終濃度で30μLのHEP−PGとともに1分間プレインキュベーションした。コラーゲン(25mg/mL)に対する反応は得られなかった。図10CではPRPを0.74μg/mL(Blyscan)の濃度で30μLのフラクション#21アルブミン結合ヘパリンとともに1分間プレインキュベーションした。コラーゲン(25mg/mL)に対する反応は得られなかった。
【0127】
実施例23
生体内動脈血栓症モデルおよび顕微吻合手術モデルで得られた結果
我々は、血管の表面層を針での掻き傷を与えるか与えずに、および動脈の深層、すなわち内膜、中膜および外膜の血液接触を形成する不適切な配置を有するかまたは有しないの大腿動脈吻合の際にHEP−PGを局所的に適用した場合のラットの生体内データを得た。これらの試験は、血栓症の併発によってしばしば中止される、血管手術および顕微手術の間に起きる動脈血栓症のモデルを提供する。
【0128】
目視的観察では、血栓症は対照実験(生理食塩水投与)の処置したほとんど全ての動物にみられ、開存度は14/22であり、10μg/mLのHEP−PGを容積100μLを吻合部を閉じている時間(約10分)に局所投与し、次に非抗凝固血液をその損傷部位に10分間流通させた後に屠殺したラットでは21/22血管が開存性であった。
【0129】
我々は、10分間血流を解放する際に「インジウム」標識ラット血小板(300〜500×10個/mL)0.5mLを点滴することによる吻合モデルを試験した。次いで、ラットを屠殺し、血液および吻合サンプルを採取した。ガンマ線カウンターで血液中の血小板および吻合部位の放射能を計数したところ、HEP−PGについて有意の効果がみられた(111−インジウム標識血小板:NaCl 14.2±7.2(n=7) 対 HEP−PG 7.5±2.9×10。平均値±SD(n=7)/吻合部位。p=0.025、ANOVA)。
【0130】
走査電子顕微鏡分析では、さらなる血栓誘発(掻き傷または不適正吻合)のない吻合モデルでのHEP−PG群では有意に少ない血栓症応答が検出できた。血栓症的反応は壁在性で主に血小板接着層からなり、凝集物は散在的または不在であった(図8)。走査電子顕微鏡像の比較(「盲検」分析)から次のスコアを得た(最小1最大4):NaCl 3.2(n=5);HMWH 2.8(n=5);HEP−PG 1.8(n=5);p=0.03。吻合モデルでのHEP−PG vs 生理食塩水;ANOVA、反復測定。吻合後72時間に分析した時にも同様な結果を得た。
【0131】
【表1】

【0132】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管または毛細血管の傷害および/または介入に伴うコラーゲン誘発性の血小板凝集を阻害するための医薬の製造のための、単離されたマスト細胞由来のヘパリンプロテオグリカンの使用であって、該ヘパリンプロテオグリカンが流動血液におけるコラーゲンに対する血小板の存続した接着によるコラーゲン誘発性の血小板凝集の阻害をもたらす、使用。
【請求項2】
前記ヘパリンプロテオグリカンが局所投与可能である、請求項1記載の使用。
【請求項3】
流動血液におけるコラーゲンに対する血小板の存続した接着によるコラーゲン誘発性の血小板凝集の阻害をもたらす、マスト細胞由来のヘパリンプロテオグリカンの製造方法であって、以下の工程
(a)単離および精製されたマスト細胞を細胞培養培地中で細胞増殖が可能な条件を用いて培養すること;
(b)要すれば活性化および/または溶解によってヘパリンプロテオグリカンを含有する顆粒を遊離させること;
(c)遊離された顆粒を周辺の培養培地に溶解させること;
(d)その培地から溶解したヘパリンプロテオグリカン(HEP−PG)を収集すること;
(e)要すればその溶解したヘパリンプロテオグリカンから多重HEP−PG(HEP−PG)分子を分離すること、
を含んでなる方法。
【請求項4】
工程(b)の活性化が、マスト細胞の脱顆粒化を誘導し、マスト細胞由来のヘパリンプロテオグリカンおよびHEP−PG分子を放出するマスト細胞アゴニストを用いて行う、請求項3記載の方法。
【請求項5】
アゴニストが塩基性ポリアミンおよびカルシウムイオノフォアからなる群から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
血管または毛細血管の傷害および/または介入に関連して局所投与するためのデバイスであって、流動血液におけるコラーゲンに対する血小板の存続した接着によるコラーゲン誘発性の血小板凝集の阻害をもたらす単離されたマスト細胞由来のヘパリンプロテオグリカンで該デバイスがコーティングされている、デバイス。
【請求項7】
該デバイスがステントを含んでなる、請求項6記載のデバイス。
【請求項8】
該デバイスが血管移植片を含んでなる、請求項6記載のデバイス。
【請求項9】
該デバイスが体外循環系を含んでなる、請求項6記載のデバイス。
【請求項10】
血管または毛細血管の傷害および/または介入に関連する局所投与のための調製物であって、流動血液におけるコラーゲンに対する血小板の存続した接着によるコラーゲン誘発性の血小板凝集の阻害をもたらす単離されたマスト細胞由来のヘパリンプロテオグリカンを、製薬的に許容し且つ適合し得る担体および/または添加剤と組み合わせて含んでなる調製物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−121955(P2011−121955A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−46(P2011−46)
【出願日】平成23年1月4日(2011.1.4)
【分割の表示】特願2000−522138(P2000−522138)の分割
【原出願日】平成10年11月25日(1998.11.25)
【出願人】(500240885)
【Fターム(参考)】